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特開2024-97669フォージャサイト型ゼオライト、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097669
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】フォージャサイト型ゼオライト、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/20 20060101AFI20240711BHJP
   C01B 39/24 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C01B39/20
C01B39/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001289
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 健夫
(72)【発明者】
【氏名】稲木 千津
(72)【発明者】
【氏名】三津井 知宏
(72)【発明者】
【氏名】香川 智靖
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA69
4G073BA75
4G073BA76
4G073BD13
4G073CZ03
4G073CZ05
4G073FE01
4G073FE03
4G073FE05
4G073GA01
4G073GA02
4G073GA05
4G073GA12
4G073GA13
4G073GB03
4G073UA04
4G073UA06
(57)【要約】
【課題】メソ孔領域の比表面積が大きいものでありながら、結晶性を高く保持したフォージャサイト型ゼオライトを提供する。
【解決手段】(a)SiO/Alのモル比が10以上かつ200以下、(b)細孔直径が7~50nmの領域にある細孔の比表面積7-50nmが40m/g以上かつ120m/g以下、(c)細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積7-50nmの割合が25%以上、(d)結晶化度が0.65以上、である、フォージャサイト型ゼオライト
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)SiO/Alのモル比が10以上かつ200以下、
(b)細孔直径が7~50nmの領域にある細孔の比表面積7-50nmが40m/g以上かつ120m/g以下、
(c)細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積7-50nmの割合が25%以上、
(d)結晶化度が0.65以上、
である、フォージャサイト型ゼオライト。
【請求項2】
Naを、NaO換算で、10質量%以上含むフォージャサイト型ゼオライト、アンモニウム塩および水を含む懸濁液を調製する懸濁液調製工程、
前記懸濁液の温度を10℃以上かつ60℃以下、前記懸濁液のpHを3.0以上かつ5.0以下、に調整してスチーム処理前駆体を調製する前処理工程、
前記スチーム処理前駆体をスチーム処理してスチーム処理ゼオライトを調製するスチーム処理工程、
前記スチーム処理ゼオライトを、アンモニウム塩を含む水溶液で処理してアンモニウム置換ゼオライトを調製するイオン交換工程、
前記アンモニウム置換ゼオライトをスチーム処理して酸処理用ゼオライトを調製する再スチーム処理工程、
前記酸処理用ゼオライトを酸処理する酸処理工程、を含む
フォージャサイト型ゼオライトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソ孔領域、特に細孔直径が7~50nmの大きいメソ孔領域の比表面積およびその割合が大きいものでありながら、結晶崩壊を抑制することで、結晶性を高く保持したフォージャサイト型ゼオライトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトという物質名は、結晶性の多孔質アルミノシリケートの総称である。ゼオライトの中でも、強い固体酸を有する多孔性材料であるフォージャサイト型ゼオライトが古くから使用されてきた。また、フォージャサイト型ゼオライトは、石油精製や石油化学分野に用いる触媒の構成成分としてや吸着剤としても、古くから使用されている。フォージャサイト型ゼオライトの特性は、SiとAlとの比率によって大きく影響を受けることが知られている。この比率は、一般的にケイバン比(SAR)とも呼ばれ、SiO/Alのモル比で表される。
【0003】
フォージャサイト型ゼオライトを触媒の構成成分や吸着剤として用いる際には、反応や吸着の対象となる分子の大きさに対して適切な細孔径の比表面積が大きいことが望ましい。すなわち、標的分子よりも小さい細孔に対して、分子は、小さい細孔に侵入することが出来ない。反対に、標的分子よりも大きい細孔に対して、分子は、大きい細孔を通過してしまうため、吸着あるいは反応することが困難である上、意図しない分子が反応する可能性が生じる。
【0004】
フォージャサイト型ゼオライトの細孔分布を変化させる手段としては、1)フォージャサイトを鉱酸やアンモニウム塩などで処理する方法、2)水蒸気による熱処理により脱アルミニウム処理する方法、または3)このような処理を2つ以上組み合わせる方法が報告されている(特許文献1~11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4484689号公報
【特許文献2】特許第4394787号公報
【特許文献3】特開2006-150183号公報
【特許文献4】特許第7145343号公報
【特許文献5】特開昭60-46916号公報
【特許文献6】特開2012-140287号公報
【特許文献7】特開2012-140286号公報
【特許文献8】特表平9-502416号公報
【特許文献9】米国特許第5601798号明細書
【特許文献10】米国特許第5013699号明細書
【特許文献11】米国特許第3383169号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような製造方法を用いて、フォージャサイト型ゼオライトの細孔分布を変化させることが可能であるが、当該ゼオライトの結晶性を過度に低下させることなく、細孔直径が7~50nmの領域にある細孔の比表面積を選択的に増加する技術は報告されていなかった。
【0007】
このような状況を踏まえ、本発明は、結晶性が高く、細孔直径が7~50nmの領域にある細孔の比表面積7-50nmが大きく、かつ細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積7-50nmの割合が多いフォージャサイト型ゼオライトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、結晶性が高く、細孔直径が7~50nmの領域にある細孔の比表面積7-50nmが大きく、かつ細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積7-50nmの割合が多いフォージャサイト型ゼオライトが得られることを見出した。
【0009】
上記課題を有利に解決する本発明に係るフォージャサイト型ゼオライトは、
[1](a)SiO/Alのモル比が10以上かつ200以下、
(b)細孔直径が7~50nmの領域にある細孔の比表面積7-50nmが40m/g以上かつ120m/g以下、
(c)細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積7-50nmの割合が25%以上、
(d)結晶化度が0.65以上、である。
【0010】
さらに、上記課題を有利に解決する本発明に係るフォージャサイト型ゼオライトの製造方法は、
[2]Naを、NaO換算で、10質量%以上含むフォージャサイト型ゼオライト、アンモニウム塩および水を含む懸濁液を調製する懸濁液調製工程、前記懸濁液の温度を10℃以上かつ60℃以下、前記懸濁液のpHを3.0以上かつ5.0以下、に調整してスチーム処理前駆体を調製する前処理工程、前記スチーム処理前駆体をスチーム処理してスチーム処理ゼオライトを調製するスチーム処理工程、前記スチーム処理ゼオライトを、アンモニウム塩を含む水溶液で処理してアンモニウム置換ゼオライトを調製するイオン交換工程、前記アンモニウム置換ゼオライトをスチーム処理して酸処理用ゼオライトを調製する再スチーム処理工程、前記酸処理用ゼオライトを酸処理する酸処理工程、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、結晶性が高く、メソ孔領域(細孔直径2nm~50nm)の細孔の中でも特に細孔直径が7~50nmの領域にある大きい細孔の比表面積7-50nmが大きいフォージャサイト型ゼオライトが得られる。また、このフォージャサイト型ゼオライトは、細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積7-50nmの割合が多い。従って、本発明に係るフォージャサイト型ゼオライトは、細孔直径が7~50nmの領域にある大きい細孔に侵入できる重質な炭化水素と選択的に吸着したり反応したりするための素材としても好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るフォージャサイト型ゼオライト(以下、単に「本発明のゼオライト」ともいう。)について、詳述する。
【0013】
[本発明のゼオライト]
本発明のゼオライトは、(a)SiO/Alのモル比が10以上かつ200以下であることを特徴の一つとする。このケイバン比は、10以上かつ180以下であることが好ましく、10以上かつ150以下であることが特に好ましい。ケイバン比が前述の範囲にあると、本発明のゼオライトの固体酸量がより高くなりやすい。なお、このケイバン比は、本発明のゼオライトの組成比から算出したものである。
【0014】
本発明のゼオライトは、(b)細孔直径が7~50nmの領域にある細孔の比表面積7-50nmが40m/g以上かつ120m/g以下であることを特徴の一つとする。この細孔領域は、一般的にメソ孔と呼ばれる細孔領域(細孔直径が2~50nm)の中でも、大きい領域の細孔であって、本明細書においては大メソ孔ともいう。この比表面積7-50nmは、40m/g以上かつ100m/g以下であることが好ましく、40m/g以上かつ80m/g以下であることがより好ましい。この比表面積7-50nmが前述の範囲にあると、本発明のゼオライトの結晶性がより高くなりやすい。
なお、メソ孔領域の比表面積は、吸着質である窒素がメソ孔から脱離するときの相対圧と窒素の吸着量との関係を示す窒素吸着等温線を使って、例えば、JISZ 8831-2:2010に規定されるBJH法により解析・算出することができる。
【0015】
本発明のゼオライトは、(c)細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積7-50nmの割合が25%以上であることを特徴の一つとする。すなわち、本発明のゼオライトは、細孔直径が2~7nmの領域および細孔直径が50~200nmの領域にある細孔の比表面積が小さい、という特徴的な細孔構造を有している。本発明のゼオライトは、このような特徴的な細孔構造を有することで、分子をより選択的に吸着したり、反応したりすることができる。また、分子に対する選択性の観点から、この割合は30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましい。
なお、細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積7-50nmの割合は、分子に対する選択性の観点から高ければ高いほど好ましい。本発明において、その上限は、100%以下であってもよく、75%以下であってもよく、50%以下であってもよい。
【0016】
本発明のゼオライトは、(d)結晶化度が0.65以上であることを特徴の一つとする。すなわち、本発明のゼオライトは、結晶性が高い。本発明においては、ゼオライトの結晶性を表す指標として、X線回折測定により得られるフォージャサイト構造に由来する回折ピークの強度を用いた(JIS K0131 X線回折分析通則)。具体的には、特定の方法で得られたフォージャサイト型ゼオライトを基準物質とし、X線回折測定により得られるフォージャサイト構造に由来するピークの強度比を結晶化度と定義し、これを結晶性の指標とした。この結晶化度は、0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましい。本発明のゼオライトにおいて、結晶化度は、高ければ高いほど好ましいが、その上限は1.50以下であってもよく、1.25以下であってもよく、1.05以下であってもよい。その理由は、ゼオライトの結晶性は、ゼオライトの耐久性や固体酸性質に良い影響を与えるからである。
【0017】
本発明のゼオライトは、格子定数が、2.420nm以上かつ2.440nm以下であることが好ましく、2.425nm以上かつ2.440nm以下であることがより好ましく、2.425nm以上かつ2.435nm以下であることが特に好ましい。本発明において、格子定数は、ゼオライト骨格のケイバン比を示す指標である。ゼオライト骨格内のアルミニウムが増える(ゼオライト骨格のケイバン比が小さくなる)と格子定数は大きくなる。一方、ゼオライト骨格内のアルミニウムが減る(ゼオライト骨格のケイバン比が大きくなる)と格子定数は小さくなる。この格子定数が前述の範囲にあると、ゼオライト骨格の水熱安定性が高く、かつ固体酸量も多くなる。
【0018】
本発明のゼオライトは、比表面積が、650m/g以上であることが好ましく、700m/g以上であることがより好ましい。この比表面積は、高ければ高いほど好ましいが、その上限は、850m/g以下であってもよい。ゼオライトは、一般的に、その骨格に由来する細孔構造によって極めて広い比表面積を有する。この比表面積が前述の範囲にあると、ゼオライト骨格が発達し、より結晶性が高いゼオライトが得られやすい。
【0019】
本発明のゼオライトは、Naの含有量がNaO換算で0.50質量%以下であることが好ましく、0.20質量%以下であることがより好ましく、0.10質量%以下であることが特に好ましい。Naはゼオライトの固体酸点を被覆する効果がある。このNa含有量が前述の範囲にあると、固体酸量が多くなるので好ましい。
【0020】
本発明のゼオライトは、例えば、石油精製や石油化学分野に用いる触媒の構成成分として、また吸着剤としても用いることができる。
【0021】
以下、本発明に係るフォージャサイト型ゼオライトの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう。)について、詳述する。
【0022】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、Naを、NaO換算で、10質量%以上含むフォージャサイト型ゼオライト、アンモニウム塩および水を含む懸濁液を調製する懸濁液調製工程を含む。
【0023】
<懸濁液調製工程>
この工程では、原料ゼオライト、アンモニウム塩および水を含む懸濁液を調製する。この工程では、Naを、NaO換算で、10質量%以上含むフォージャサイト型ゼオライト(以下、単に「原料ゼオライト」ともいう。)を原料として用いる。原料ゼオライトは、Naを、NaO換算で、12質量%以上、かつ14質量%以下含むことが好ましく、13質量%以上、かつ14質量%以下含むことがより好ましい。このような原料ゼオライトを用いると、後述のスチーム処理において、メソ孔領域の中でも直径が小さい細孔(以下、単に「小メソ孔」ともいう。)が生成しやすくなる。そして、この小メソ孔が、後述の再スチーム工程において大きくなり、大メソ孔に成長することで、本発明のゼオライトが得られる。
【0024】
この工程では、原料ゼオライトとして、市販されているものを購入したものを用いてもよく、また従来公知の方法で合成したものを用いてもよい。例えば、Si原料、Al原料を加え、さらにNa原料および水を加えた後、80℃以上かつ120℃以下の温度で水熱処理する方法で、原料ゼオライトを調製することもできる。この工程で用いる原料ゼオライトは、NaY型ゼオライトであることが好ましい。ここで、NaY型ゼオライトは、Naでイオン交換され、ケイバン比が4以上のフォージャサイト型ゼオライトを指す。また、そのケイバン比は、4以上かつ7以下であることがより好ましく、4.5以上かつ5.5以下であることが特に好ましい。ケイバン比がこの範囲にあるNaY型ゼオライトは、結晶性が高く、工業的にも量産しやすい。また、原料ゼオライトの格子定数は、2.465nm以上かつ2.475nm以下であることが好ましく、2.468nm以上かつ2.473nm以下であることがより好ましい。さらに、原料ゼオライトの比表面積は、700m/g以上であることが好ましい。このような原料ゼオライトを用いると、最終的に得られる本発明のゼオライトの結晶性がより高くなりやすく、大メソ孔の比表面積も大きくなりやすい。
【0025】
この工程では、アンモニウム塩を原料として用いる。アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどが挙げられる。この工程では、原料ゼオライト中に含まれるアルミニウム原子(Al)のモル数に対するアンモニウム塩に含まれるアンモニウムイオン(NH )のモル数の比率(NH /Al)が1以上かつ10以下となるように懸濁液を調製することが好ましい。さらに、この比率が1以上かつ5以下となるように懸濁液を調製することがより好ましい。この比率が前述の範囲にあると、原料ゼオライト中のナトリウムイオンがアンモニウムイオンに効率的にイオン交換される。この比率が高すぎると、排水中のアンモニウム塩の濃度が高くなり、環境負荷も高くなるので、工業的に好ましくない。また、前記懸濁液の温度は10℃以上かつ60℃以下であることが好ましく、10℃以上、50℃以下であることがより好ましく、10℃以上、40℃以下であることが特に好ましい。なお、この工程には、水にアンモニウム塩が溶解した水溶液の温度を前述の範囲に調整し、これに原料ゼオライトを混合する工程も包含される。
【0026】
この工程では、水を原料として用いる。水は、水道水、蒸留水、イオン交換水などが挙げられる。この工程では、イオン交換水を用いることが好ましい。イオン交換水を用いると、原料ゼオライト中のナトリウムイオンがアンモニウムイオンに効率的にイオン交換される。
【0027】
<前処理工程>
本発明の製造方法は、前記懸濁液の温度を10℃以上かつ60℃以下、前記懸濁液のpHを3.0以上かつ5.0以下に調整してスチーム処理前駆体を調製する前処理工程を含む。この工程では、原料ゼオライトに含まれるナトリウムイオンをアンモニウムイオンに交換することで、後述のスチーム処理工程においてゼオライト骨格からの脱アルミニウムおよびメソ孔領域の細孔生成が促進されやすいスチーム処理前駆体が得られる。また、原料ゼオライトのゼオライト骨格からアルミニウムの一部が溶出(脱アルミニウム)することで、後述のスチーム処理において小メソ孔が生成しやすくなる。小メソ孔であるこの細孔が後述の再スチーム工程において、さらに大きくなり、大メソ孔領域の細孔が生成する。
【0028】
この工程では、前記懸濁液のpHを3.0以上かつ5.0以下に調整する。このpHを前述の範囲に調整することで、原料ゼオライトのゼオライト骨格からアルミニウムが一部溶出(脱アルミニウム)したスチーム処理前駆体が調製される。このスチーム処理前駆体を後述のスチーム処理工程においてスチーム処理すると、小メソ孔が生成する。このpHが5.0以下である場合は、ゼオライト骨格からのアルミニウムの溶出が十分となり、小メソ孔が生成し易くなるため好ましい。また、このpHが3.0以上である場合は、最終的に得られるフォージャサイト型ゼオライトの結晶性が低下しにくくなるため、好ましい。
【0029】
この工程では、前記懸濁液のpHを調整するために、pH調整剤として従来公知の酸を用いることができる。例えば、硫酸、硝酸、塩酸などの無機酸を用いることができる。
【0030】
この工程では、前記懸濁液の温度を、10℃以上かつ60℃以下に調整する。この工程では、この温度を10℃以上かつ50℃以下に調整することが好ましく、10℃以上かつ40℃以下に調整することがより好ましい。この温度を前述の範囲に調整することで、効率よく原料ゼオライトに含まれるナトリウムイオンをアンモニウムイオンに交換するとともに、ゼオライト骨格のアルミニウムを溶出させることができる。懸濁液を60℃以下の温度で処理した場合、ゼオライト骨格から溶出したアルミニウムが再度ゼオライト骨格に再挿入する現象が発生しにくくなるため、好ましい。また、懸濁液の温度が低いほどゼオライト骨格からのアルミニウムの溶出効率が高くなるが、懸濁液を10℃以上とする場合、水の一部が凍結し、懸濁液の攪拌が不十分になるという問題が生じることがないため好ましい。
【0031】
この工程では、前記懸濁液の温度およびpHを前述の範囲に維持する時間(処理時間)が、5分以上かつ240分以下であることが好ましく、5分以上かつ120分以下であることがより好ましい。この処理時間が前述の範囲にあると、原料ゼオライトからの脱アルミニウムが適切に進み、かつ本発明のゼオライトの生産性という観点でもより好ましい。
【0032】
この工程で得られるスチーム処理前駆体は、NHY型ゼオライトであることが好ましい。ここで、NHY型ゼオライトは、原料ゼオライトに含まれるNaがNH でイオン交換され、ケイバン比が4以上のフォージャサイト型ゼオライトを指す。スチーム処理前駆体のNa含有量は、NaO換算で、1質量%以上かつ5.5質量%以下であることが好ましく、2質量%以上かつ5.5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上かつ5質量%以下であることが特に好ましい。このNa含有量が前述の範囲にあると、最終的に得られるフォージャサイト型ゼオライトの結晶性がより高くなりやすい。また、本発明のゼオライトの生産性という点でもより好ましい。
【0033】
<スチーム処理工程>
本発明の製造方法は、前記スチーム処理前駆体をスチーム処理するスチーム処理工程を含む。スチーム処理工程は、前記スチーム処理前駆体をスチーム処理することにより、スチーム処理ゼオライトを調製する工程である。この工程では、前述の工程で得られたスチーム処理前駆体をスチーム処理して、ゼオライト骨格からアルミニウムを引き抜く。このとき、引き抜かれたアルミニウムは、ゼオライト結晶内部もしくは表面にアルミニウム化合物として残留する。これはゼオライト骨格外アルミニウムとも呼ばれる。また、ゼオライト骨格からアルミニウムが脱離する際に、ゼオライトの一部が崩壊してメソ孔領域の細孔が生じる。
【0034】
この工程では、前記スチーム処理前駆体を500℃以上かつ700℃以下の温度でスチーム処理することが好ましく、550℃以上かつ650℃以下の温度でスチーム処理することがより好ましい。この温度領域でスチーム処理を行うと、ゼオライト骨格の崩壊を抑制しつつ、効率よくゼオライト骨格からアルミニウムを引き抜くことができるため好ましい。
【0035】
この工程では、スチーム処理の処理時間が、1時間以上かつ24時間以下であることが好ましく、1時間以上かつ12時間以下であることがより好ましく、1時間以上かつ6時間以下であることが特に好ましい。前述のスチーム処理温度にもよるが、前述の範囲でスチーム処理すると、効率よくゼオライト骨格からアルミニウムを引き抜くことができ、かつ本発明のゼオライトの生産性という観点でもより好ましい。
【0036】
この工程におけるスチーム濃度は、50%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。また、この工程におけるスチーム濃度は、本発明のゼオライトの生産性という観点から100%であってもよい。スチーム濃度が前述の範囲にある場合、ゼオライト骨格からアルミニウムが引き抜かれやすくなり、かつゼオライトの骨格もより壊れにくくなる。
【0037】
<イオン交換工程>
本発明の製造方法は、前記スチーム処理ゼオライトを、アンモニウム塩を含む水溶液で処理してアンモニウム置換ゼオライトを調製するイオン交換工程を含む。この工程では、前記スチーム処理ゼオライトに含まれるナトリウムイオンをアンモニウムイオンに交換することで、その後の再スチーム処理工程において、ゼオライトの結晶性の低下を抑制する。
【0038】
この工程では、アンモニウム塩を原料として用いる。アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどが挙げられる。この工程では、前記スチーム処理ゼオライト中に含まれるアルミニウム原子(Al)のモル数に対するアンモニウムイオン(NH )のモル数の比率(NH /Al)が1以上かつ10以下となるように懸濁液を調製し、スチーム処理ゼオライトを処理することが好ましい。この比率が前述の範囲にあると、スチーム処理ゼオライト中のナトリウムイオンがアンモニウムイオンに効率的にイオン交換され、スチーム処理ゼオライトからアンモニウム置換ゼオライトを効率よく調製することができるため好ましい。この比率が高すぎると、排水中のアンモニウム塩の濃度が高くなり環境負荷が高くなるので、工業的に好ましくない。
【0039】
この工程では、前記アンモニウム塩を含む水溶液の温度を60℃以上かつ95℃以下に調整することが好ましい。この温度範囲で前記スチーム処理ゼオライトを処理することで、スチーム処理ゼオライト中のナトリウムイオンがアンモニウムイオンに効率的にイオン交換される。
【0040】
この工程では、前記スチーム処理ゼオライトを処理する時間(処理時間)が、5分以上かつ240分以下であることが好ましく、5分以上かつ120分以下であることがより好ましい。この処理時間が前述の範囲にあると、スチーム処理ゼオライト中のナトリウムイオンがアンモニウムイオンに効率的にイオン交換され、かつ本発明のゼオライトの生産性という観点でもより好ましい。
【0041】
この工程により得られるアンモニウム置換ゼオライトのNa含有量は、NaO換算で1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることが特に好ましい。Na含有量が前述の範囲内であれば、後述の再スチーム処理工程において、結晶性が低下しにくくなるので好ましい。なお、この工程により得られるアンモニウム置換ゼオライトのNa含有量は、NaO換算で0.1質量%以上であることが好ましい。
【0042】
<再スチーム処理工程>
本発明の製造方法は、前記アンモニウム置換ゼオライトをスチーム処理して酸処理用ゼオライトを調製する再スチーム処理工程を含む。この工程では、前述のイオン交換工程で得られたアンモニウム置換ゼオライトをスチーム処理して酸処理用ゼオライトを調製するとともに、ゼオライト骨格からアルミニウムを引き抜く。この工程において前記スチーム処理工程で生成した小メソ孔が大きくなり、大メソ孔が生成する。
【0043】
この工程では、前記アンモニウム置換ゼオライトを500℃以上かつ800℃以下の温度で再スチーム処理することが好ましく、550℃以上かつ700℃以下の温度で再スチーム処理することがより好ましい。この温度領域で再スチーム処理を行うと、ゼオライト骨格の崩壊を抑制しつつ、大メソ孔がより生成しやすくなるので好ましい。
【0044】
この工程では、再スチーム処理の処理時間が、1時間以上かつ24時間以下であることが好ましく、1時間以上かつ3時間以下であることが好ましい。前述の再スチーム処理温度にもよるが、前述の範囲でスチーム処理すると、効率よく大メソ孔が生成し、かつ本発明のゼオライトの生産性という観点でもより好ましい。
【0045】
この工程におけるスチーム濃度は、50%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。スチーム濃度を前述の範囲に設定すれば、ゼオライトの骨格は壊れにくくなる傾向にあるため好ましい。また、この工程におけるスチーム濃度は、本発明のゼオライトの生産性という観点から100%であることが好ましい。
【0046】
<酸処理工程>
本発明の製造方法は、前記酸処理用ゼオライトを酸処理する酸処理工程を含む。この工程では、酸を用いて前記酸処理用ゼオライトに含まれるゼオライト骨格外アルミニウムを除去する。特に、ゼオライト結晶内部に残留しているゼオライト骨格外アルミニウムを除去することで、大メソ孔の比表面積が増加する。
【0047】
この工程では、酸として、従来公知の酸を用いることができる。例えば酸としては、硫酸、硝酸、塩酸などの無機酸を用いることができる。酸の使用量は、前記酸処理用ゼオライトに含まれるアルミニウム原子(Al)のモル数に対する酸のモル数(酸/Al)として、0.1以上かつ10以下となる量であることが好ましく、0.5以上かつ5.0以下となる量であることがより好ましい。酸の使用量が前述の範囲にあると、ゼオライトの結晶性を維持しつつ、ゼオライト骨格外アルミニウムが効率的に除去される。
【0048】
この工程における酸処理の温度は、30℃以上かつ98℃以下であることが好ましく、30℃以上かつ80℃以下であることがより好ましい。この温度が前述の範囲にあると、ゼオライト結晶内部に残留しているゼオライト骨格外アルミニウムが効率的に除去されやすい。
【0049】
この工程における酸処理の時間は、酸処理の温度、または酸の量にもよるが、0.5時間以上かつ24時間以下であることが好ましく、0.5時間以上かつ12時間以下であることがより好ましく、0.5時間以上かつ6時間以下であることが特に好ましい。酸処理の時間がこの範囲内であれば、酸処理工程の目的を十分に達成することができる。酸処理の時間は長くても問題ないが、本発明のゼオライトの生産性の観点からいえば、好ましくない。
【0050】
本発明の製造方法は、前述の各工程の前後に、最終的に得られる本発明のゼオライトの特徴を損なわない範囲で、さまざまな工程を含むことができる。例えば、イオン交換工程、ろ過工程、洗浄工程、乾燥工程、焼成工程、酸処理工程等を含んでもよい。
【実施例0051】
以下、本発明のゼオライトおよびその製造方法について、実施例を示し、本例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、本発明の実施例において製造したゼオライトの物性値の測定およびその評価は次の方法で行った。
【0052】
<組成分析>
ゼオライトの組成分析には、蛍光X線測定装置(リガク社製、製品名「RIX-3000」)を使用した。SiおよびAl含有量は、それぞれSiO、Alに換算して、ケイバン比(SiO/Alモル比)を算出した。
【0053】
<Na含有量測定>
Na含有量の測定には、原子吸光光度測定装置(日立製作所製、製品名「Z-5300」)を使用した。サンプルを白金るつぼに採取して、硫酸およびフッ化水素酸を加えた後、加熱処理し蒸発乾固させた。次いで、塩酸と水を加えた後に加熱し、溶解させた後、イオン交換水を加えて希釈し、この希釈液のNa濃度を前述の原子吸光測定装置を用いて測定し、その結果からサンプルのNa含有量をNaO換算で算出した。
【0054】
<結晶構造解析および結晶化度測定>
ゼオライトの結晶構造測定には、X線回折装置(リガク社製、製品名「RINT-2100」、線源:CuKα)を使用した。2θ=5~50°におけるX線回折パターンから、フォージャサイト型ゼオライトの回折面に帰属されるピークが確認できたものは、フォージャサイト型ゼオライトであると判断した。具体的には、(331)、(511)、(440)、(533)、(642)、および(555)面に帰属されるピークの有無を確認した。これらの回折面に帰属されるピークの位置は、技術文献(M. M. J. Treacy, J. B. Higgins, COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDERPATTERNS FOR ZEOLITES, Fifth Revised Edition, Elsevier)から確認することができる。
なお、ピークの位置は測定条件などによって多少変動することがあるので、上記文献に記載されたピーク位置から±0.5°の範囲にあれば、フォージャサイト型ゼオライトに由来するピークを有しているものとみなせる。
このようにして得られたX線回折パターンから、フォージャサイト型ゼオライトの(331)、(511)、(440)、(533)、(642)、および(555)面に帰属されるピークの強度を合計した。
同様にして測定した触媒学会参照触媒のフォージャサイト型ゼオライト(JRC-Z-Y5.3)のピークの強度を合計した。
かかるピークの強度の合計に対する実施例で得られたフォージャサイト型ゼオライトに係るピークの強度の割合を算出することによりX線回折強度比を算出し、これを実施例で得られたゼオライトの結晶化度とした。
【0055】
<格子定数測定>
ゼオライトの格子定数測定には、X線回折装置(リガク社製、製品名「RINT-2100」)を使用した。ゼオライト粉末と内部標準としてTiOアナターゼ型の粉末(関東化学株式会社製、酸化チタン(IV)(アナターゼ型))とを2:1(重量比)で乳鉢にて混合したものを測定試料とした。CuKα線を用いて、2θ=23~33°におけるX線回折パターンを測定し、TiOアナターゼ型、フォージャサイト型ゼオライトの(533)面、(642)面のそれぞれのピーク半値幅の中心を示す2θを用いて、以下の数式(1)~(3)から格子定数を算出した。
【0056】
【数1】
A:(533)面を示すピーク半価幅の中心(2θ)[°]
B:(642)面を示すピーク半価幅の中心(2θ)[°]
C:TiOアナターゼ型が示すピーク半価幅の中心(2θ)[°]
【0057】
<比表面積測定>
ゼオライトの比表面積測定には、日本ベル社製、製品名「MR-6」を使用した。不活性ガス雰囲気下にて500℃で1時間の前処理を実施したゼオライト粉末について、測定用試料セル内で-196℃雰囲気下にて窒素ガス濃度30vol%、ヘリウムガス濃度70vol%の混合ガスを充分流通させて、ゼオライト粉末に窒素を吸着させた。その後、雰囲気温度を25℃に上昇し、ゼオライト粉末に吸着した窒素を脱離させて、その脱離量をTCD(熱伝導度)検出器にて検出した。検出された窒素の脱離量を窒素分子の断面積を用いて比表面積に換算することによって、ゼオライト粉末1g当たりの比表面積を求めた。
【0058】
<細孔比表面積測定>
ゼオライトの細孔比表面積測定には、マイクロトラック・ベル社製、製品名「BEL SORP-miniII」を用いた。不活性ガス雰囲気下にて500℃で1時間の前処理を実施したゼオライト粉末について、相対圧範囲0~1.0で窒素吸着法による細孔分布測定を行った。得られた窒素吸着等温線からBJH法で細孔直径7~50nmおよび2~200nmの範囲における細孔群の細孔比表面積を算出した。
【0059】
<pH測定>
懸濁液のpHの測定には、pH1.68、6.86および9.18の標準液で更正が完了した株式会社堀場製作所製のpHメータ、製品名「D-74」およびガラス電極、製品名「9625-10D」を用いた。このガラス電極を各測定対象に接触させ、pHを測定した。また、前処理工程においては、測定対象が充填された反応槽に前述のガラス電極をセットし、pHを測定した。
【0060】
[実施例1]
(懸濁液調製工程)
SiO/Al(モル比)が5.1、格子定数が2.470nm、比表面積が750m/g、Naの含有量がNaO換算で13.1質量%のNaY型ゼオライトを原料ゼオライトとして用いた。このNaY型ゼオライト20kgをイオン交換水200Lに加え、さらに硫酸アンモニウム8kgを加えて懸濁液を得た。
【0061】
(前処理工程)
この懸濁液を30℃に昇温し、硫酸を添加してpHを3.3に調整した。この懸濁液を30℃で20分攪拌した後、濾過し固形分を分離した。濾過により得られた固形分を60℃の温水で洗浄した。次いで、この固形分を、60℃の温水200Lに硫酸アンモニウム8kgを溶解した硫酸アンモニウム溶液で洗浄し、さらに、60℃のイオン交換水200Lで洗浄し、洗浄ケーキを得た。得られた洗浄ケーキを110℃で24時間乾燥し、NaY型ゼオライトに含まれるNaの約73質量%がアンモニウムイオン(NH )でイオン交換されたY型ゼオライト(NHY型ゼオライト)を得た。これをスチーム処理前駆体とした。
【0062】
(スチーム処理工程)
このスチーム処理前駆体10kgを、スチーム濃度100%の雰囲気中にて600℃で1時間スチーム処理し、スチーム処理ゼオライトを得た。
【0063】
(イオン交換工程)
このスチーム処理ゼオライト10kgを、60℃のイオン交換水100Lに加え、さらに硫酸アンモニウム16kgを加え、懸濁液を得た。この懸濁液を90℃に昇温し、90℃で1時間攪拌した後、濾過し固形分を分離した。次いで、この固形分を60℃のイオン交換水200Lで洗浄し、洗浄ケーキを得た。得られた洗浄ケーキを110℃で24時間乾燥し、アンモニウム置換ゼオライトを得た。
【0064】
(再スチーム処理工程)
このアンモニウム置換ゼオライト5kgを、スチーム濃度100%の雰囲気中にて620℃で2時間スチーム処理し、酸処理用ゼオライトを得た。
【0065】
(酸処理工程)
酸処理用ゼオライト2.0kgを室温のイオン交換水16Lに懸濁し、75℃に昇温した。次いで、25質量%硫酸4.6kgを徐々に加え、4時間撹拌した後、濾過して固形分を分離した。この固形分を60℃のイオン交換水20Lで洗浄し、洗浄ケーキを得た。得られた洗浄ケーキを110℃で24時間乾燥し、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1-1に示す。
【0066】
[実施例2]
前処理工程において、pHを3.1に、温度を35℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1-1に示す。
【0067】
[実施例3]
前処理工程において、pHを3.6に、温度を60℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1-1に示す。
【0068】
[実施例4]
前処理工程において、pHを3.8に、温度を55℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1-1に示す。
【0069】
[実施例5]
前処理工程において、pHを3.9に、温度を60℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1-1に示す。
【0070】
[実施例6]
前処理工程において、pHを4.5に、温度を10℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1-1に示す。
【0071】
[実施例7]
前処理工程において、pHを3.1に、温度を10℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1-1に示す。
【0072】
[実施例8]
酸処理工程において、25質量%硫酸の量を2.9kgとしたこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1-2に示す。
【0073】
[実施例9]
酸処理工程において、25質量%硫酸の量を6.6kgとしたこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1-2に示す。
【0074】
[実施例10]
酸処理工程において、25質量%硫酸の量を8.5kgとしたこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1-2に示す。
【0075】
[実施例11]
酸処理工程において、25質量%硫酸の量を10.8kgとしたこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1-2に示す。
【0076】
[比較例1]
前処理工程において、懸濁液のpHを3.1に、温度を90℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表2-1に示す。
【0077】
[比較例2]
前処理工程において、懸濁液のpHを5.6に、温度を30℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表2-1に示す。
【0078】
[比較例3]
前処理工程において、懸濁液のpHを2.7に、温度を30℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表2-1に示す。
【0079】
[比較例4]
前処理工程において、懸濁液のpHを6.5に、温度を60℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表2-1に示す。
【0080】
[比較例5]
スチーム処理工程以降の工程を実施しないこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表2-2に示す。
【0081】
[比較例6]
イオン交換工程以降の工程を実施しないこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表2-2に示す。
【0082】
[比較例7]
再スチーム処理工程以降の工程を実施しないこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表2-2に示す。
【0083】
[比較例8]
酸処理工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライトを得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表2-2に示す。
【0084】
【表1-1】
【0085】
【表1-2】
【0086】
【表2-1】
【0087】
【表2-2】
【0088】
表1~2によれば、実施例1~11のゼオライトは、細孔直径が7~50nmの領域にある細孔の比表面積7-50nmが大きく、かつ結晶化度が高いことが明らかとなった。これに対し、前処理工程における懸濁液の温度60℃を超える場合(比較例1)や、前処理工程における懸濁液のpHが5.0を超える場合(比較例2、4)、酸処理ゼオライト調製工程を実施しない場合(比較例5~7)には、ゼオライトの比表面積7-50nmが低くなることも明らかとなった。また、前処理工程における懸濁液のpHが3.0未満の場合(比較例3)、ゼオライトの比表面積7-50nmが増加するものの、結晶化度が低くなることも明らかとなった。
【0089】
これらの結果から、10℃~60℃の温度範囲かつ3.0~5.0のpH範囲にて懸濁液を前処理した後、スチーム処理することで、Naを、NaO換算で、10質量%以上含むフォージャサイト型ゼオライト、アンモニウム塩および水を含む懸濁液を調製する懸濁液調製工程、前記懸濁液の温度を10℃以上かつ60℃以下、前記懸濁液のpHを3.0以上かつ5.0以下、に調整してスチーム処理前駆体を調製する前処理工程、前記スチーム処理前駆体をスチーム処理することによりスチーム処理ゼオライトを調製するスチーム処理工程、前記スチーム処理ゼオライトを、アンモニウム塩を含む水溶液で処理することによりアンモニウム置換ゼオライトを調製するイオン交換工程、前記アンモニウム置換ゼオライトをスチーム処理することにより酸処理用ゼオライトを調製する再スチーム処理工程、前記酸処理用ゼオライトを酸処理する酸処理工程、を含む方法を用いることで、結晶性が高く、細孔直径が7~10nmの領域にある細孔の比表面積7-50nmが大きく、2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積7-50nmの割合が多いフォージャサイト型ゼオライトが得られることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上説明したように、本発明に係るフォージャサイト型ゼオライトは、細孔直径が7~50nmの領域にある細孔の比表面積7-50nmが大きく、細孔直径が2~7nmの領域にある細孔の比表面積および細孔直径が50~200nmの領域にある細孔の比表面積が小さいため、分子をより選択的に吸着したり反応したりするための素材としても好適に用いることができる。このため、本発明に係るフォージャサイト型ゼオライトは、流動床触媒、固定床触媒および吸着剤等の材料として使用することができ、産業上有用である。