(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097674
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240711BHJP
G02B 21/26 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
G02B21/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001305
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】505457994
【氏名又は名称】学校法人東京医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000145611
【氏名又は名称】株式会社コガネイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】横山 詩子
(72)【発明者】
【氏名】井上 華
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 定義
(72)【発明者】
【氏名】酒井 啓
【テーマコード(参考)】
2H052
4B029
【Fターム(参考)】
2H052AD13
2H052AD25
2H052AE13
4B029AA01
4B029AA07
4B029AA27
4B029BB11
4B029DF01
4B029DF07
4B029FA15
(57)【要約】
【課題】本発明は、生体内圧力(例えば、生体内拍動に応じた圧力)を再現することができる密閉容器を備えた顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、観察対象を収容 し得る、かつ圧力印加部との連結口を有する密閉容器と、密閉容器内の圧力をリアルタイムに計測できる圧力センサと、を備え、観察対象は生体試料であり、密閉容器の天井面および底面は、光学的に透明平滑な部材で構成され、圧力センサは外部に圧力センサ信号を出力する、顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象を収容し得る、かつ圧力印加部との連結口を有する密閉容器と、
密閉容器内の圧力をリアルタイムに計測できる圧力センサと、を備え、
前記観察対象は生体試料であり、
前記密閉容器の天井面および底面は、光学的に透明平滑な部材で構成され、
前記圧力センサは外部に圧力センサ信号を出力する、顕微鏡観察ステージ。
【請求項2】
前記密閉容器内には、前記連結口から延びる対角線と密閉容器内壁の交点を含む領域に少なくとも1つの凹部が設けられている、請求項1に記載の顕微鏡観察ステージ。
【請求項3】
前記密閉容器内には、前記連結口から延びる対角線と密閉容器内壁の交点を含む領域に2つの凹部が設けられており、前記2つの凹部が対向している、請求項2に記載の顕微鏡観察ステージ。
【請求項4】
前記連結口は、導排管接続部であり、
前記導排管は、前記圧力印加部からガスを供給し、かつガスを回収する管である、請求項1に記載の顕微鏡観察ステージ。
【請求項5】
温度調節機構をさらに備える、請求項1に記載の顕微鏡観察ステージ。
【請求項6】
前記生体試料が細胞である、請求項1に記載の顕微鏡観察ステージ。
【請求項7】
前記凹部のうち1つは、貫通孔をさらに備え、当該貫通孔には安全弁が設けられる、請求項2に記載の顕微鏡観察ステージ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の顕微鏡観察ステージと、前記密閉容器に連結された圧力印加部を備える顕微鏡装置であって、
前記圧力印加部は、前記密閉容器の圧力を変動させることで前記生体試料に物理的刺激を与える、顕微鏡装置。
【請求項9】
前記圧力印加部は、前記顕微鏡観察ステージから前記圧力センサ信号を受信し、前記密閉容器内の調圧を行う、請求項8に記載の顕微鏡装置。
【請求項10】
前記圧力印加部は、前記密閉容器内の調圧を行う第1の調圧機構と第2の調圧機構とを有し、前記第1の調圧機構と前記第2の調圧機構を交互に作動させることで前記密閉容器内に生体内拍動圧様の圧力を発生させる、請求項8に記載の顕微鏡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置に関する。具体的に、本発明は、生体内圧力が再現された密閉容器内において細胞等の生体試料を観察するための顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内における臓器や細胞は、様々な機械的ストレス(張力、ずり応力、静水圧等)に曝されている。中でも、心臓や血管などの循環器系臓器は心臓からの拍出に応じてこれら機械的ストレスを感知している。機械的ストレスは細胞の分化や増殖、遊走に関与していることが知られているが、例えば静水圧に対する細胞応答は未解明な点が多い。
【0003】
従来、細胞培養器具や細胞培養機能を備えた顕微鏡が開発されている。このような器具としては、細胞培養を目的としてCO2濃度を上昇させるなど、ガスを導入する手段を備えたものも知られている。例えば、特許文献1には、ディッシュなどの試料容器を着脱自在に収める容器収容部と水槽ユニットと、試料容器及び水槽ユニットを加温するヒーターと、水槽ユニットと蓋とで画成される培養空間に所定のガスを供給するためのガス供給手段とを備えた顕微鏡観察用培養器が開示されている。
【0004】
特許文献2には、培養容器を着脱自在に収容する培養容器収容部を有する本体と、蓋体とを備え、培養容器に、本体外部からの液体を供給するための第一のノズルと、培養容器から液体を、本体外部に排出するための第二のノズルと、本体外部から、培養容器収容部へ気体を送り込む給気口と、培養容器収容部の気体を、培養容器収容部の外部に排気する排気口と、有する細胞培養器具が開示されており、当該細胞培養器具を顕微鏡装置に用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-141143号公報
【特許文献2】特開2009-65892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、細胞培養空間を有する顕微鏡装置が知られているが、従来の顕微鏡装置においては、細胞培養空間において機械的ストレスに関する生体内環境(生理的状態)が再現されておらず、生体内環境下における細胞や組織の状態をin vitroで観察することは困難であった。特に、心臓からの拍出に応じて周期的な機械的ストレスを受けている細胞等を経時的に観察することは困難であった。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、周期変動圧力(例えば、生体内拍動に応じた圧力)が再現された密閉容器内において細胞等の生体試料を観察するための顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置を開発すべく検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、顕微鏡観察ステージに圧力印加部との連結口を有する密閉容器と、密閉容器内の圧力をリアルタイムに計測でき、外部に圧力センサ信号を出力し得る圧力センサを設けることにより、周期変動圧力が再現された状態で細胞等の生体試料を観察が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] 観察対象を収容し得る、かつ圧力印加部との連結口を有する密閉容器と、
密閉容器内の圧力をリアルタイムに計測できる圧力センサと、を備え、
観察対象は生体試料であり、
密閉容器の天井面および底面は、光学的に透明平滑な部材で構成され、
圧力センサは外部に圧力センサ信号を出力する、顕微鏡観察ステージ。
[2] 密閉容器内には、連結口から延びる対角線と密閉容器内壁の交点を含む領域に少なくとも1つの凹部が設けられている、[1]に記載の顕微鏡観察ステージ。
[3] 密閉容器内には、連結口から延びる対角線と密閉容器内壁の交点を含む領域に2つの凹部が設けられており、2つの凹部が対向している、[1]又は[2]に記載の顕微鏡観察ステージ。
[4] 連結口は、導排管接続部であり、
導排管は、圧力印加部からガスを供給し、かつガスを回収する管である、[1]~[3]のいずれかに記載の顕微鏡観察ステージ。
[5] 温度調節機構をさらに備える、[1]~[4]のいずれかに記載の顕微鏡観察ステージ。
[6] 生体試料が細胞である、[1]~[5]のいずれかに記載の顕微鏡観察ステージ。
[7] 凹部のうち1つは、貫通孔をさらに備え、当該貫通孔には安全弁が設けられる、[1]~[6]のいずれかに記載の顕微鏡観察ステージ。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の顕微鏡観察ステージと、密閉容器に連結された圧力印加部を備える顕微鏡装置であって、
圧力印加部は、密閉容器の圧力を変動させることで生体試料に物理的刺激を与える、顕微鏡装置。
[9] 圧力印加部は、顕微鏡観察ステージから圧力センサ信号を受信し、密閉容器内の調圧を行う、[8]に記載の顕微鏡装置。
[10] 圧力印加部は、密閉容器内の調圧を行う第1の調圧機構と第2の調圧機構とを有し、第1の調圧機構と第2の調圧機構を交互に作動させることで密閉容器内に生体内拍動圧様の圧力を発生させる、[8]又は[9]に記載の顕微鏡装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体内圧力(例えば、生体内拍動に応じた圧力)を再現することができる密閉容器を備えた顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置を提供することができる。本発明の顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置を用いることで、生体内圧力に対する細胞応答の研究が飛躍的に進むことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態の顕微鏡観察ステージの構成を説明する概略図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の顕微鏡観察ステージの構成を説明する平面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の顕微鏡観察ステージにおける密閉容器の構成を説明する断面斜視図及び断面平面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の顕微鏡装置の機構を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本実施形態の顕微鏡装置の機構を示す模式図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の顕微鏡装置を用いて密閉容器内に圧力変動を生じさせた際の圧力波形を示す図である。
【
図7】
図7は、ヒト大動脈平滑筋細胞に周期加圧を行った際の圧力変動のグラフと細胞の観察画像である。
【
図8】
図8は、蛍光ラベルしたヒト大動脈平滑筋細胞に周期加圧を行った際の圧力変動のグラフと細胞の観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(顕微鏡観察ステージ)
本発明は、観察対象を収容し得る、かつ圧力印加部との連結口を有する密閉容器と、密閉容器内の圧力をリアルタイムに計測できる圧力センサと、を備える顕微鏡観察ステージに関する。本発明の顕微鏡観察ステージにおける観察対象は生体試料であり、密閉容器の天井面および底面は、光学的に透明平滑な部材で構成される。また、上記圧力センサは外部に圧力センサ信号を出力するものである。
【0014】
本発明の顕微鏡観察ステージは、圧力印加部との連結口を有する密閉容器と、密閉容器内の圧力をリアルタイムに計測でき、かつ外部に圧力センサ信号を出力する圧力センサとを備えるため、顕微鏡観察ステージに設けられた密閉容器内において生体内圧力(例えば、生体内拍動に応じた圧力)を発生させることができる。例えば、密閉容器内に培地などの液体が収容されている場合には、液体(静水)に生体内拍動圧様の圧力を印加することもできる。
【0015】
図1は、本実施形態の顕微鏡観察ステージの構成を説明する概略図である。本実施形態の顕微鏡観察ステージ100は、観察対象として生体試料を収容し得る密閉容器を含む。
図1に示されるように、密閉容器は、密閉容器本体10を有し、この密閉容器本体10には、密閉容器の天井面を構成する透明部材11と、底面を構成する透明部材12が具設される。また、密閉容器本体10と各透明部材11、12の間には、密閉容器内の密閉性を高めるためにOリング15がそれぞれ設けられていてもよい。Oリング15の構成材料としては、例えば、シリコン、フッ素樹脂、ニトリル樹脂、スチロール樹脂等が挙げられる。さらに、密閉容器本体10と各透明部材11、12の係合性を高めるために、密閉容器本体10には、上蓋13や内蓋14が係止されていてもよく、これら部材はねじ等の部材によって螺合されていることが好ましい。上蓋13や内蓋14は、中央部領域がくり抜かれているか、もしくは透明部材からなるものである。なお、密閉容器は、例えば、密閉容器本体10と、密閉容器の天井面を構成する透明部材11と、底面を構成する透明部材12とから構成される部材であってもよく、この場合、各透明部材11、12は、密閉された収容部が形成されるように密閉容器本体10に係止されてもよい。また、密閉容器は、密閉容器本体10と、密閉容器の天井面と底面が一体となった容器であってもよい。
【0016】
密閉容器本体10や上蓋13、内蓋14は、金属や合金、セラミックス等の非金属無機材料、樹脂等から構成されるものであることが好ましい。密閉容器本体10の大きさは顕微鏡観察ステージ100のベースに収まる大きさであれば、特に限定されるものではない。透明部材11と透明部材12は、光学的に透明平滑な部材である。すなわち、密閉容器の天井面および底面は、光学的に透明平滑な部材で構成されている。透明部材11と透明部材12は、密閉容器本体10に係止され、密閉された空間を形成する。透明部材11と透明部材12は、並列する位置に設けられ、密閉容器の光透過性領域を形成する。透明部材11と透明部材12の構成材料としては、例えば、ガラス、PMMA樹脂、PC樹脂、COP樹脂、COC樹脂、PAR樹脂等が挙げられる。
【0017】
密閉容器(密閉容器本体10)は、圧力印加部との連結口20(圧力印加部連結口20)を備える。密閉容器(密閉容器本体10)が圧力印加部との連結口20(圧力印加部連結口20)を備えることで、密閉容器内に圧力印加部から送られてきたガスを供給することができ、密閉容器内に圧力を印加することができる。
【0018】
顕微鏡観察ステージ100は、密閉容器内の圧力をリアルタイムに計測できる圧力センサ30を備える。圧力センサ30は外部に圧力センサ信号を出力する。圧力センサ信号は圧力印加部(顕微鏡装置)に出力されてもよく、圧力印加部やその他装置に設けられた表示器またはコントローラに出力されてもよい。
【0019】
本実施形態において圧力センサ30はゲージ圧センサであることが好ましい。圧力センサ30は、密閉容器内もしくは密閉容器外に設けられ、密閉容器内に負荷される圧力をリアルタイムに計測する。そして、圧力センサで検知した圧力値に応じて、密閉容器内の圧力が所望の圧力値となるように外部に圧力センサ信号を出力する。
【0020】
本実施形態においては、例えば、密閉容器内に周期圧力を発生させることもでき、生体内拍動圧様の圧力を印加することもできる。本明細書において、「生体内拍動圧」とは、心臓の拍動による生体内の血流に伴って変動する圧力のことをいい、生理的圧力や生理的拍動の圧力ともいう。「生体内拍動圧様の圧力」とは、このような心臓の拍動による生体内の血流に伴って周期的に変動する圧力を模倣して変動させた圧力のことをいう。生体内の各所において測定される生体内拍動の圧力値は様々であるが、例えば、「生体内拍動圧様の圧力」が生じるとは、1~200kPa(ゲージ圧)の範囲内で低圧と高圧が交互に繰り返される(数十kPaという微小差圧が生じるように繰り返される)ことを指す。本発明においては、例えば、数十kPa程度の高圧と数kPa~十数kPa程度の低圧を交互に発生させる(圧力値の変動幅を小さく抑える)ことができ、生体内拍動をより忠実に再現できている点において有用である。また、「生体内拍動圧様の圧力」が生じた場合、その圧力変化の周期は10~300回/分であり、好ましくは25~150回/分である。
【0021】
本実施形態において、密閉容器内には観察対象として生体試料が収容されることが好ましい。この場合、密閉容器内に直接生体試料が載置されてもよいが、密閉容器内には、生体試料収容器が収容されることが好ましく、生体試料収容器内において生体試料が培養されることが好ましい。生体試料収容器としては、例えば、細胞培養プレートや細胞培養槽等を挙げることができる。生体試料収容器には細胞培養用の培地等が充填されていることが好ましい。この場合、生体試料を含む培地(液体)に直接圧力を加えるのではなく、密閉容器内の圧力を変動させることで間接的に液体に圧力を伝搬することができるため、より忠実な生理的条件が再現できる。
【0022】
生体試料としては、例えば、細胞、組織、血液、体液、DNA、RNA、タンパク質等が挙げられる。中でも、生体試料は細胞であることが好ましい。なお、組織は細胞の集合体であると言える。細胞には、生体を構成するすべての細胞が包含されるが、単細胞生物(アメーバ、ミドリムシ、ケイソウなど)や多細胞生物(ミジンコ、アオミドロなど)、多細胞性三次元構造体(オルガノイド、スフェロイドなど)も含まれる。
【0023】
密閉容器内には生体試料を収容した培地が収容されることが好ましい。密閉容器内に、生体内圧力(例えば、生体内拍動に応じた圧力)が負荷されることにより、培地(静水)に加圧を行うことができ、その結果、生体試料にメカニカルストレスを与えることができる。このため、より生体内の環境に近い条件下で生体試料を培養することができ、メカニカルストレスに対する細胞応答の研究に応答することもできる。
【0024】
顕微鏡観察ステージ100は、密閉容器内もしくは密閉容器外に温湿度調節機構をさらに備えるものであってもよい。温湿度調節機構としては、例えば、ヒーター、加湿器等が挙げられる。例えばヒーターは、密閉容器の下方に設けられることが好ましい。これにより、密閉容器内もしくは生体試料収容器内の培地等を加温することができ、例えば、細胞培養に適した温度帯(例えば、25~45℃程度)に保温することができる。
【0025】
密閉容器内には、連結口20から延びる対角線と密閉容器内壁の交点を含む領域に少なくとも1つの凹部が設けられていることが好ましい。
図3は、顕微鏡観察ステージ100における密閉容器10の高さ方向の中点で、水平面に対して平行に切り出した際の線断面図である。
図3(a)は断面図の斜視図であり、
図3(b)は上面図である。
図3では、連結口20から延びる対角線は点線で示されている。当該対角線は、連結口20に接続する導排管25の軸線の延長線である。本実施形態においては、連結口20から延びる対角線と密閉容器内壁の交点を含む領域に少なくとも1つの凹部50が設けられていることが好ましく、連結口から延びる対角線と密閉容器内壁の交点を含む領域に2つの凹部50が設けられていることがより好ましい。凹部50が1つのみ設けられる場合には、連結口20に対向する位置(反対側の円周上)に凹部50が設けられることが好ましい。また、凹部50が2つ設けられる場合には、2つの凹部50は対向していることが好ましい。すなわち、2つの凹部50のうち、一方は連結口20に対向する位置に設けられており、他方は連結口20が存在する側の位置に設けられることが好ましい。なお、凹部50は、密閉容器本体10の内壁から外側に突出するように設けられることが好ましい。
【0026】
凹部50の形状は、半長円形状であることが好ましい。また凹部の体積は、密閉容器内壁に囲まれた体積(本体体積)の10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。なお、凹部が2つ設けられる場合、2つの凹部の合計体積が上記範囲内であることが好ましい。
【0027】
密閉容器が凹部50を有することにより、密閉容器内の衝突圧を緩和しやすくなり、早期圧力安定化が可能となる。例えば、密閉容器内に30kPaの圧力を印加しようとした場合、凹部50を有さない密閉容器の場合には、30kPaよりも数kPa~十数Pa程度大きな圧力がかかる傾向がある(オーバーシュート)。とりわけ、密閉容器内の容積が小さい場合、容積に対して供給されるガス流量が大きくなりオーバーシュートの影響を受けやすい傾向にある。そして、オーバーシュートが生じた場合、その反動で膨張-再度圧縮を繰り返しながら圧力が安定することになり、圧力安定化までに時間を要する。一方、凹部50を有する密閉容器の場合には、30kPa程度の圧力がかかる傾向が見られ、設定圧力と密閉容器内の圧力の乖離が小さくなる。すなわち、密閉容器が凹部50を有することにより、より設定圧力に近い圧力で印加することが可能となり、圧力制御が容易になる。また、凹部50を有する密閉容器の場合には、オーバーシュートが抑制されるため、圧力安定化までの時間を短縮することが可能となる。
【0028】
図3に示されるように、連結口20と連結口20側に設けられる凹部の間には流路55が設けられることが好ましい。この場合、流路55の断面の直径(オリフィス径)は6mm以下であることが好ましく、1mm以下であることが特に好ましい。また、流路55の断面の直径(オリフィス径)は0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましい。このように、連結口20と連結口20側に設けられる凹部の間に流路55を設け、流路55の断面の直径(オリフィス径)を上記範囲内とすることにより、密閉容器内の圧力安定化に要する時間をより効果的に短縮することができる。
【0029】
密閉容器内壁に設けられた凹部は貫通孔を備え、当該貫通孔のうち1つには安全弁が設けられることが好ましい。特に、貫通孔は、連結口20に対向する位置に配される凹部に設けられることが好ましい。
図1や
図3に示されるように、密閉容器本体10は、密閉容器本体10の内周縁から外側に突出するように凹部50を有しており、凹部50の先端部には貫通孔が形成されており、この貫通孔には安全弁60が設けられていることが好ましい。安全弁60を開くことで、密閉容器内の圧力が異常値を示した場合などに密閉容器内から急速に排気を行うことで、密閉容器を減圧することができる。
【0030】
(顕微鏡装置)
本発明は、上述した顕微鏡観察ステージと、密閉容器に連結された圧力印加部を備える顕微鏡装置に関するものでもある。本発明の顕微鏡装置において、圧力印加部は、密閉容器の圧力を変動させることで生体試料に物理的刺激(圧力刺激)を与える。
【0031】
本実施形態の顕微鏡装置において、圧力印加部は、顕微鏡観察ステージに設けられる圧力センサから出力される圧力センサ信号を受信し、密閉容器内の調圧を行うことが好ましい。顕微鏡観察ステージに設けられる圧力センサは、密閉容器内の圧力をリアルタイムに計測する。そして、圧力センサで検知した信号を圧力印加部が受信することで、圧力印加部は加圧及び/又は減圧の作動をコントロールする。
【0032】
圧力印加部は、密閉容器内の調圧を行う第1の調圧機構と密閉容器内の調圧を行う第2の調圧機構とを有することが好ましい。この場合、圧力センサで検知した圧力センサ信号は、圧力印加部に出力され、第1の調圧機構及び第2の調圧機構の作動がそれぞれ制御される。例えば、第1の調圧機構による加圧が行われ、圧力センサにて所望の最大圧力に達したことが検知されれば、第1の調圧機構による加圧に代えて、第2の調圧機構による減圧が行われるように、第1の調圧機構と第2の調圧機構の作動がそれぞれ制御される。次いで、第2の調圧機構による減圧が行われ、圧力センサにて所望の最小圧力に達したことを検知されれば、第2の調圧機構による減圧に代えて、第1の調圧機構による加圧が行われるように、第1の調圧機構と第2の調圧機構の作動がそれぞれ制御される。なお、最大圧力に達した状態、最低圧力に達した状態を所定時間維持する事も可能である。
【0033】
本実施形態において、第1の調圧機構と第2の調圧機構は直列または並列に接続される。中でも、第1の調圧機構と第2の調圧機構は並列に接続されることが好ましい。
図4は、本実施形態において、第1の調圧機構と第2の調圧機構は並列に接続される場合の顕微鏡装置200の機構を示す模式図である。
図4に示されるように、本実施形態の顕微鏡装置200は、顕微鏡観察ステージ100と、第1の調圧機構110と、第2の調圧機構120を備える。第1の調圧機構と第2の調圧機構が並列に接続される場合、顕微鏡装置200は、第1の流路111と第2の流路121を有しており、第1の調圧機構110は第1の流路111に設けられ、第2の調圧機構120は、第2の流路121に設けられている。そして、顕微鏡装置200では、第1の調圧機構110と第2の調圧機構120が交互に作動することで、密閉容器内に周期変動圧力(例えば、生体内拍動圧様の圧力)を発生させている。本実施形態の顕微鏡装置200は、第1の調圧機構110と第2の調圧機構120のように、複数の調圧機構を備え、かつこれら調圧機構を別々の流路に設けることにより、密閉容器内に周期変動圧力を発生させることができる。密閉容器内に培地などの液体が収容されている場合には、液体(静水)に生体内圧力を印加することができ、生体内圧力が再現された密閉容器内において細胞等の生体試料を観察することができる。
【0034】
本明細書において「調圧」とは、顕微鏡観察ステージ100の密閉容器内を加圧及び/又は減圧することをいう。なお、密閉容器内の圧力が所望の圧力値である場合には、加圧及び減圧をせずに、密閉容器内の圧力を維持することも「調圧」に含まれる。但し、第1の調圧機構110は、密閉容器内を加圧及び/又は減圧する機構であることが好ましく、第2の調圧機構120は、密閉容器内を加圧及び/又は減圧する機構であることが好ましい。特に好ましい本実施形態では、第1の調圧機構110は密閉容器内の加圧を行う機構(高圧印加機構)であることが好ましく、第2の調圧機構120は、密閉容器内の減圧を行う機構(低圧印加機構)であることが好ましい。
【0035】
第1の調圧機構110は、顕微鏡観察ステージ100の密閉容器内に200kPa未満の圧力(ゲージ圧)が印加されるように密閉容器内を調圧(加圧)する機構であることが好ましい。第1の調圧機構110により印加される圧力は、180kPa以下であることがより好ましく、160kPa以下であることがさらに好ましく、140kPa以下であることが一層好ましく、120kPa以下であることがより一層好ましく、100kPa以下であることが特に好ましい。また、第1の調圧機構110により印加される圧力は、1kPa以上であることが好ましく、5kPa以上であることがより好ましく、10kPa以上であることがさらに好ましい。
【0036】
第2の調圧機構120は、第1の調圧機構110により印加された圧力から1kPa以上減圧されるように密閉容器内を調圧(減圧)する機構であることが好ましく、1kPa以上50kPa以下減圧されるように密閉容器内を調圧(減圧)する機構であることがより好ましい。このように、密閉容器内に印加される圧力の変動幅(最大圧力―最小圧力)は1~50kPaであることが好ましい。
【0037】
第1の調圧機構110が密閉容器内を調圧した際の密閉容器内の最大圧力(絶対圧)をPとし、第2の調圧機構120が密閉容器内を調圧した際の密閉容器内の最小圧力(絶対圧)をQとした場合、P/Qの値は、1.000以上であることが好ましく、1.001以上であることがより好ましく、1.010以上であることがさらに好ましい。また、P/Qの値は、3以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.35以下であることがさらに好ましく、1.2以下であることが一層好ましく、1.15以下であることが特に好ましく、1.1以下であることが最も好ましい。
【0038】
顕微鏡装置200は、供給源150に接続される。供給源150は、気流供給源であり、第1の調圧機構110及び/又は第2の調圧機構120に気流を供給する構成部材である。中でも、供給源150は、圧縮ガス供給源であることが好ましく、第1の調圧機構110に圧縮ガスを供給することが特に好ましい。供給源150としては、例えば、エアコンプレッサやガスボンベといった圧縮ガスを供給する機構が挙げられる。圧縮ガスとしては、通常の大気を圧縮したガスを用いることができるが、炭酸ガスや不活性ガス、さらにはこれらの混合ガスなど任意のガスを用いることができる。本実施形態では、圧力を付加する際に圧縮ガスを導入するため、生体試料を有する培地内のpHや二酸化炭素濃度、窒素ガス濃度などの変化を抑制することが可能となる。供給源50の吐出圧力は、空気圧機器が作動する1000kPa(ゲージ圧)未満であることが好ましい。なお、供給源50の吐出圧力は、密閉容器内に印加する最大圧力よりも上回る必要がある。
【0039】
本実施形態において、第1の調圧機構110と第2の調圧機構120が並列に接続される場合、第1の流路111は、第1の調圧機構110を有し、第1の調圧機構110の下流には密閉容器10が接続され、上流には供給源150が接続される。このように、第1の流路111は、上流の供給源150から下流の密閉容器10へ接続する流路である。また、第2の流路121は、第2の調圧機構120を有し、第2の調圧機構120の下流に密閉容器10が接続され、上流には供給源150もしくは排気機構(図示せず)が接続される。このように、第2の流路121は、第2の調圧機構120を有し、下流の密閉容器へ接続する流路である。第2の調圧機構120の上流には、供給源150が接続されていてもよいし、排気ができるような排気機構を有していてもよい。
【0040】
第1の流路111は、主に供給源150から供給された圧縮ガスを密閉容器へ導入する流路であり、第2の流路121は、主に密閉容器からガスを回収する流路である。第2の流路121において、第2の調圧機構120の上流に供給源150が接続されている場合には、回収したガスは第2の調圧機構120を介して排気されることが好ましい。なお、密閉容器内において、昇圧した圧力値が、所望の圧力値よりも高圧な場合には、第1の流路111も密閉容器からガスを回収する流路となり得る。この場合、回収したガスは第1の調圧機構110を介して排気される。一方、密閉容器内において、降圧した圧力値が所望の圧力値よりも低圧な場合には、第2の流路121も供給源150から供給された圧縮ガスを密閉容器へ導入する流路となり得る。
【0041】
なお、密閉容器には、上述したような安全弁が設けられてもよい。密閉容器に設けられた安全弁から急速に排気を行うことで、密閉容器を減圧してもよい。また、密閉容器に設けられた安全弁を介した排気と第2の調圧機構120を介した排気の両方を同時に行うこともできる。
【0042】
本実施形態における顕微鏡装置200は、第1の共通流路130を有していてもよい。この場合、
図4に示されるように、第1の流路111と第2の流路121はその上流において合流し、第1の共通流路130が形成される。第1の共通流路130は、供給源150に接続されていることが好ましい。また、顕微鏡装置200は、第2の共通流路140を有していてもよい。この場合、
図2に示されるように、第1の流路111と第2の流路121はその下流において合流し、第2の共通流路140が形成される。第2の共通流路140は、密閉容器に接続されていることが好ましい。
【0043】
第1の共通流路130及び第2の共通流路140は、それぞれ第1の流路111と第2の流路121に分岐する箇所に制御弁を有していることが好ましい。この制御弁は、例えば、いずれか一方の流路への気流を遮断することができ、これにより、いずれか一方の流路(主に第1の流路)にのみ圧縮ガスを供給したり、回収したガスをいずれか一方の流路(主に第2の流路)にのみ排出することができる。
【0044】
なお、顕微鏡装置200は、第2の共通流路140を有さず、第1の流路111と第2の流路121がそれぞれ密閉容器に接続されていてもよい。また、顕微鏡装置200は、第1の共通流路130を有さず、第1の流路111と第2の流路121がそれぞれ別個の供給源に接続されていてもよいし、一方を供給源に接続し、他方を供給源に接続せず、排気ができるような排気機構を有しても良い。
【0045】
図5は、本実施形態の顕微鏡装置200について他の態様を説明する模式図である。
図5に示されるように本実施形態では、第1の調圧機構110は、第1のレギュレータ112と第1の制御弁114とを備え、第2の調圧機構120は、第2のレギュレータ122と第2の制御弁124とを備えていてもよい。
【0046】
本実施形態で用いられる制御弁は、流路に対しガスの導通又は遮断を行う機能を有するものであれば特に限定されるものではない。制御弁としては、例えば、電磁弁や比例制御弁、空気作動弁、手動弁、機械作動弁等を挙げることができる。中でも、制御弁は電磁弁であることが好ましく、電磁弁を用いることで、より規則的な周期加圧が達成されやすくなる。
【0047】
本実施形態では、第1の制御弁114及び第2の制御弁124はそれぞれ2ポート弁であることが好ましい。本実施形態では、第1のレギュレータ112と第2のレギュレータ122は並列に接続されており、第1の流路において、第1のレギュレータ112は第1の制御弁114より上流に配置される。また、第2の流路において、第2のレギュレータ122は第2の制御弁124より上流に配置される。
【0048】
第1のレギュレータ112と第2のレギュレータ122はそれぞれ、その内部に弁を備えていてもよい。そして、その弁が開く(作動する)圧力(レギュレータの一次側の圧縮ガスが二次側へ供給され始める圧力)を任意に調整することで、レギュレータの上流(一次側)から下流(二次側)へ導入される圧縮ガスの設定圧力が決定される。レギュレータの二次側圧力が設定圧力より低い場合、レギュレータは、設定圧力になるまで二次側圧力を昇圧させる。また、レギュレータの二次側圧力が設定圧力より高い場合、レギュレータのリリーフ機構を介して、余剰圧力を大気へ開放することで、二次側圧力が減圧される。このように、レギュレータは、設定圧力を基準として、二次側圧力を昇圧、減圧する。なお、レギュレータの弁が開く圧力、すなわち設定圧力を調整する手段は、手動であってもよく、自動であってもよい。
【0049】
第1の制御弁114と第2の制御弁124は、各流路を開閉する2ポート弁(開閉弁)である。そして、第1の制御弁は第1のレギュレータ112の下流に設けれ、第2の制御弁124は第2のレギュレータ122の下流に設けられる。第1の制御弁114および第2の制御弁124は、第1のレギュレータ112の作動と第2のレギュレータ122の作動とを切換える、下流切換用の制御弁である。すなわち、第1の制御弁114と第2の制御弁124は、密閉容器と第1のレギュレータ112との接続と、密閉容器と第2のレギュレータ122との接続を切り換える働きを担う。
【0050】
例えば、本実施形態において顕微鏡装置200の圧力印加部が作動している際には、第1のレギュレータ112及び第2のレギュレータ122は、作動状態にあり、所定圧力に達するように印加及び/又は減圧できる状態にある。そして、密閉容器内に圧力を印加する場合には、第1の制御弁114が所定時間開く。ここで、所定時間とは、
図6に示されるような昇圧時間のことであり、例えば0.5秒である。この所定時間で、密閉容器内が所定圧力値(最大圧力値)に達するように、第1のレギュレータ112の設定圧力が手動または自動で調整される。昇圧時間が0.5秒といった短い時間に設定される場合、設定圧力値と最大圧力値を同一(設定圧力値=最大圧力値)とすると、所定時間で最大圧力値に達しないことがある。そのため、第1のレギュレータ112の設定圧力値は密閉容器の最大圧力値よりも高めに設定することが好ましい(最大圧力値<設定圧力値)。なお、「最大圧力値<設定圧力値」とすると、所定時間よりも早く密閉容器内が最大圧力値に達することがある。この場合は、第1のレギュレータ112の設定圧力を下げることにより、所定時間に密閉容器へ供給される圧縮ガスの量を減少させてもよい。このように、密閉容器内が所定時間で最大圧力値に達するように、第1のレギュレータ112が調整されることが好ましい。
【0051】
第1の制御弁114が開き、かつ第1のレギュレータ112が作動することで第1のレギュレータ112の二次側から圧縮ガスが導出され、密閉容器内が加圧される。密閉容器内の所定圧力が設定圧力より高くなった場合、第1のレギュレータ112のリリーフ機構から余剰圧力を排気してもよい。
【0052】
次いで、第1の制御弁114が閉じると同時に、第2の制御弁124が所定時間開き、かつ第2のレギュレータ122が作動することで、所定圧力値(最小圧力値)に到達することになる。所定時間とは、
図6に示されるような降圧時間のことであり、例えば0.5秒である。この所定時間で、密閉容器内が最小圧力値に達するように、第2のレギュレータ122の設定圧力が手動または自動で調整される。降圧時間が0.5秒といった短い時間に設定される場合、設定圧力値と最小圧力値を同一(設定圧力値=最小圧力値)とすると、所定時間で最小圧力値に達しないことがある。そのため、第2のレギュレータ122の設定圧力値は密閉容器の最小圧力値よりも低めに設定される(最小圧力値>設定圧力値)。また、「最小圧力値>設定圧力値」とすると、所定時間よりも早く密閉容器内が最小圧力値に達することがある。この場合は、第2のレギュレータ122の設定圧力を上げることにより、所定時間に密閉容器から排気される圧縮ガスの量を減少させる。このように、密閉容器内が所定時間で最小圧力値に達するように、第2のレギュレータ122が調整される。
【0053】
密閉容器内を減圧する場合、通常は第2のレギュレータ122は密閉容器内からガスを回収し、第2のレギュレータ122のリリーフ機構からガスを放出する。第2の制御弁124が開くと、密閉容器から第2のレギュレータ122まで内部容積が拡大し、密閉容器内に充填されていたガスが膨張する。すると、密閉容器内の圧力が急激に降下する(
図6のt)。その後直ぐに、第2のレギュレータ122のリリーフ機構を介して緩やかに圧縮ガスは排気される(
図6のm)。降圧時の波形は
図6に示されるように拍動圧様に2段階となってもよい。なお、内部容積を確保するため、第2の制御弁124と第2のレギュレータ122との間にタンクを適宜設けたり、第2の制御弁124と第2のレギュレータ122との間の流路を長くしたりしてもよい。また、第2のレギュレータ122のリリーフ機構から排気されるガスは、圧力印加部内に排気されてもよいが、ガスは大気組成とは異なる成分であるため、人体に影響を与えうる。その場合、圧力印加部の第2の流路に排気口を設け、第2のレギュレータ22と排気口との間に配管が設けることにより、圧力印加部の外部へガスが排気されるようにしてもよい。
【0054】
上述したように、第1の調圧機構110(第1のレギュレータ112と第1の制御弁114)による調圧後に第2の調圧機構120(第2のレギュレータ122と第2の制御弁124)による調圧が行われる工程を1サイクルとした場合、第1の調圧機構110及び第2の調圧機構120は、1分あたり10~300サイクルが繰り返されるように作動する。すなわち、圧力印加方法において、工程(a)の後に、工程(b)が行われることを1サイクルとした場合、1分あたり10~300サイクルが繰り返される。サイクル数は1分あたり、20サイクル以上であることが好ましく、25サイクル以上であることがより好ましく、30サイクル以上であることがさらに好ましい。また、サイクル数は1分あたり、250サイクル以下であることが好ましく、200サイクル以下であることがより好ましく、180サイクル以下であることがさらに好ましく、150サイクル以下であることが特に好ましい。このように本実施形態においては、密閉容器内に周期的な圧力変動を生じさせることができる。さらに、本実施形態においては、密閉空間に、生体内拍動を模して、約数十kPaという微小差圧を拍動と同等の周期で生じさせることができるため、密閉空間内に、周期変動圧力を印加することができる。
【0055】
顕微鏡装置200は、第1のレギュレータ112の下流に、さらにタンク116を備えていてもよい。タンク116は、第1のレギュレータ112と第1の制御弁114の間に設けられることが好ましい。供給源150からの供給圧力の不足または密閉容器の容積によっては、第1のレギュレータ112は、密閉容器内を所定時間に所定圧力に昇圧させることが困難な場合もあり、そのような場合、タンク116を適宜設置することで、圧縮ガスの供給量の不足が補填される。
【0056】
顕微鏡装置200は、さらにコントローラ160を備えることが好ましい。コントローラ160は、圧力印加周期、最大圧力値、最小圧力値、2段階の降圧が行われる時間や圧力値を設定することができる。圧力センサ30で検知した経時的な圧力値情報はコントローラ160に提供され、コントローラ160は、圧力センサ30で検知した圧力値及びコントローラ160で設定した圧力および周期に応じて、第1の調圧機構110(第1のレギュレータ112と第1の制御弁114)と第2の調圧機構120(第2のレギュレータ122と第2の制御弁124)をフィードバック制御する。コントローラ160は目標値(設定値)に一致させるように、演算部で演算を行い、各機構に調整された信号を出力することで、フィードバック制御を行う。
【0057】
例えば、第1の調圧機構110(第1のレギュレータ112及び/又は第1の制御弁114)による加圧が行われ、圧力センサ30からの出力値がコントローラ160に設定された昇圧時間(圧力印加周期)に所定圧力値に達していない場合、コントローラ160から第1の調圧機構110への出力値が制御され、所定圧力値と一致するように第1の調圧機構110が調整される。もしくは、圧力センサ30からの出力値が最大圧力値となった時の昇圧時間(圧力印加周期)がコントローラ160の設定時間と一致しない場合、コントローラ160から第1の調圧機構110への出力値が制御され、設定時間と一致するように第1の調圧機構110が調整される。
【0058】
第2の調圧機構120(第2のレギュレータ122及び/又は第2の制御弁124)による減圧が行われ、圧力センサ30からの出力値がコントローラ160に設定された降圧時間(圧力印加周期)に所定圧力値に達していない場合、コントローラ160から第2の調圧機構120への出力値が制御され、所定圧力値と一致するように第2の調圧機構120が調整される。もしくは、圧力センサ30からの出力値が最小圧力値となった時の降圧時(圧力印加周期)がコントローラ160の設定時間と一致しない場合、コントローラ160への出力値が制御され、設定時間と一致するように第2の調圧機構120が調整される。例えば第1の制御弁114と第2の制御弁124は、コントローラ160に設定される圧力印加周期に従ってコントローラから各制御弁へ出力され、制御される。
【0059】
顕微鏡装置200は、さらに入出力端子40を備えることが好ましい。顕微鏡装置200内部の各機構への入出力信号については、
図5の点線矢印で示している。観察ステージ100は、上述の圧力センサ30の他、温度センサ、湿度センサ、ガスセンサなどを備えることができる。また、観察ステージ100は、ヒーター、加湿器など、培養環境維持のための装置を備えることができる。各種センサでリアルタイムに取得された信号を出力する配線、及びヒーターや加湿器などの稼働指令を入力するための配線は入出力端子40に集約されることが好ましい。出力信号は主にアナログ信号としてコントローラ160または外部表示器に出力される。観察ステージからの圧力、周期、温度、湿度、ガス組成などの出力信号がコントローラ160入力された場合、コントローラ160は、これらの値があらかじめインプットされた目標値に達するよう、調整した信号を出力し、観察ステージはヒーター、加湿器などの稼働指令(の入力)を受ける。コントローラ160はこれらの経時的な入出力信号のデータを蓄積することもできる。
【0060】
顕微鏡装置200は、レンズや撮影装置を備えており、タイムラプス観察が可能な倒立顕微鏡装置であることが好ましい。
【0061】
(用途)
本発明の顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置により、顕微鏡観察ステージにおいて生体内圧力(例えば、生体内拍動に応じた圧力)を再現することができ、生体環境条件に近い状態で細胞や組織の状態を観察することができる。これにより、例えば、メカニカルストレスに曝された細胞をリアルタイムで観察することができるため、メカニカルストレスに対する細胞応答の研究への応用が期待される。
【0062】
一般的な血圧の圧力波形では、低圧から高圧に昇圧した後、二段階で降圧する波形が観察される。本発明の顕微鏡装置においては、このような二段階で降圧する圧力波形を再現することもできる。具体的には、本発明の顕微鏡装置を用いることで、密閉容器内の圧力を低圧から高圧に一気に昇圧させた後、二段階で降圧させることができる。例えば、
図6は、本実施形態の圧力印加部を有する顕微鏡装置を用いて密閉容器内に圧力変動を生じさせた際の圧力波形の一例を示すグラフである。
図6に示される一例では、圧力変動における最小圧力(低圧側圧力)は17kPaであり、最大圧力(高圧側圧力)は27kPaであり、昇圧時間は0.5秒であり、降圧時間は0.5秒であり、1サイクル(1周期)に要する時間は1秒である。また、
図6に示される圧力波形は、低圧から高圧に昇圧した後、二段階で降圧する波形となっている。このように、本実施形態では、顕微鏡観察ステージの密閉容器内に生体内拍動圧様の圧力を発生させることができる。
【0063】
また、本発明の顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置を用いることにより、低血圧や高血圧状態となった環境を人為的に作りだすことができ、血圧低下や血圧上昇環境化に置かれた細胞や組織の状態をリアルタイムで観察することができる。血圧低下や血圧上昇環境化に置かれた細胞や組織の状態をリアルタイムで観察することで、血圧低下や血圧上昇に伴ってもたらされる細胞応答について研究を行ったり、血圧降下薬等の薬剤の薬効についての評価を行うことも可能となる。
【0064】
さらに、本発明の顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置を用いることにより、周期的に圧力がかかる組織(咀嚼筋、関節など)について、研究を行うことも可能となる。例えば、周期的に圧力がかかる細胞や組織に高圧力を負荷することで、異常環境への適応機序の研究にも用いることもできる。
【0065】
さらに、本発明の顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置を用いることにより、循環器系以外でも、周期的に圧力がかかる組織(咀嚼筋、関節、など)の圧力への組織や細胞の応答についても研究を行うことができる。高圧力がかかるような異常環境への適応機序の研究にも用いることが可能である。
【実施例0066】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0067】
(実施例1)
(生体試料の調製)
市販のヒト大動脈平滑筋細胞を10%ウシ血清含有Dulbecco’s Modified Eagle Medium (以下、DMEM)培地に懸濁した後、直径35mmのディッシュに播種し、10分間室温で静置した。
【0068】
(顕微鏡観察)
37℃に加温した
図1の構成を有する顕微鏡観察ステージの密閉容器内に、細胞を播種した直径35mmディッシュを入れ、倒立顕微鏡(IX83、Olympus)のステージにセットした。なお、
図1に示された顕微鏡観察ステージの後方側側壁には加温装置装着部が設けられており、観察ステージの温度調節が可能となっている。画像取得ソフト(cellSens、Olympus)にて細胞の位相差像のタイムラプスイメージング(1 image/5秒)と同時に、顕微鏡観察ステージに設けられた圧力センサからの信号を外部機器(PowerLab、BRC)によって取り込んだ(0.5Hz)。
【0069】
密閉容器内の圧力が17kPaから100kPaとなるように、本実施形態の顕微鏡装置(
図4)の圧力印加部における第1の調圧機構と第2の調圧機構の設定圧力をそれぞれ設定し、17kPa/100kPaを1サイクルとして0.002Hzで周期加圧を1時間15分行った。
図7は、各時間経過時における圧力変動のグラフと各時間経過時点における細胞の観察画像である。
【0070】
(実施例2)
(生体試料の調製)
市販のヒト大動脈平滑筋細胞を10%ウシ血清含有DMEM培地に懸濁した後、直径35mmのディッシュに3×104個/dishとなるように播種し、24時間培養した(37℃、5%CO2)。その後、細胞質を均一に染めるCalcein-AM(5μM)を細胞に添加(10分、37℃)し、細胞外液(125mM NaCl、2.5mM KCl、2mM CaCl2、2mM MgCl2、26mM NaHCO3、1.25 NaH2PO4、11mM glucose)にて洗浄を行った。
【0071】
(顕微鏡観察)
37℃に加温した
図1の構成を有する顕微鏡観察ステージの密閉容器内に細胞を播種した直径35mmディッシュを入れ、倒立顕微鏡(IX83、Olympus)のステージにセットした。画像取得ソフト(cellSens、Olympus)にて細胞の蛍光像(励起波長470-495nm、蛍光波長510―550nm)のタイムラプスイメージング(露光400ミリ秒、1 image/5秒)と同時に、顕微鏡観察ステージに設けられた圧力センサからの信号を外部機器(PowerLab、BRC)によって取り込んだ(0.5Hz)。
【0072】
密閉容器内の圧力が14kPaから73kPaとなるように、本実施形態の顕微鏡装置(
図4)の圧力印加部における第1の調圧機構と第2の調圧機構の設定圧力をそれぞれ設定し、14kPa/73kPaを1サイクルとして0.002Hzで周期加圧を33分行った。Calcein-AMは、細胞内でエステラーゼの作用によりCalceinを生じ、緑色の蛍光を発する(励起490nm、蛍光510nm)。
図8は、緑色の蛍光を発する細胞の観察画像である。
【0073】
以上のように、本実施形態の顕微鏡観察ステージ及び顕微鏡装置を用いて、細胞を収容した密閉容器内の周期加圧を行いながら、リアルタイムで細胞の観察を行うことができた。本実施形態では、密閉容器内の圧力変動と細胞挙動を同時に記録することができた。また、本実施例では倒立顕微鏡を用いたが、光学的に生体試料を観察しうる顕微鏡であれば、他の顕微鏡を用いてもよい。