(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097684
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 1/34 20060101AFI20240711BHJP
B63B 1/06 20060101ALI20240711BHJP
B63B 1/08 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B63B1/34
B63B1/06 Z
B63B1/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001323
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】518144045
【氏名又は名称】三井E&S造船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000144049
【氏名又は名称】株式会社三井造船昭島研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】高野 浩太朗
(72)【発明者】
【氏名】岡 沙織
(72)【発明者】
【氏名】幡野 貴大
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智
(72)【発明者】
【氏名】山本 虎卓
(72)【発明者】
【氏名】南 有祐
(72)【発明者】
【氏名】北野 雄資
(57)【要約】
【課題】摩擦抵抗低減に対して最適化された船舶を提供する。
【解決手段】船舶10は、満載時の浸水表面積S、水線長L、満載時の排水容積∇に対してS/√(L∇)≦2.7となる船首部12、船体中央部14、船尾部16で構成される。また、船舶10の柱形係数Cpは0.7以上に設定され、中央断面積係数Cmは0.98以下に設定される。また、船舶10の航海フルード数は0.12以下とされる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
満載時の浸水表面積S、水線長L、満載時の排水容積∇に対して、S/√(L∇)≦2.7となる船体形状を有することを特徴とする船舶。
【請求項2】
柱形係数Cp≧0.7、中央断面積係数Cm≦0.98であることを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
船体最大横断面積をAm、ビルジ半径をRとしたときにR/√Amで定義される相対ビルジが0.3以上であることを特徴とする請求項2に記載の船舶。
【請求項4】
船体の最大幅B、満載喫水dに対して、B/d≦2.2であることを特徴とする請求項2に記載の船舶。
【請求項5】
船首部の計画満載喫水線下の各断面において、ガース長/√横断面積≦2.65であることを特徴とする請求項2に記載の船舶。
【請求項6】
船首部の長手方向断面線が、計画満載喫水線近傍を除き、近似流線形であることを特徴とする請求項4に記載の船舶。
【請求項7】
船尾部の計画満載喫水線下の各断面において、ガース長/√横断面積≦2.65であることを特徴とする請求項2に記載の船舶。
【請求項8】
船尾部の長手方向断面線が、計画満載喫水線近傍を除き、近似流線形であることを特徴とする請求項7に記載の船舶。
【請求項9】
船体中央部の計画満載喫水線下の各断面において、ガース長/√横断面積≦2.65であることを特徴とする請求項2に記載の船舶。
【請求項10】
船体中央部のビルジ半径Rは、船体の最大幅B、満載喫水dに対して、R/B≧0.2、またはR/d≧0.4であることを特徴とする請求項9に記載の船舶。
【請求項11】
複数のポッド推進器を備えることを特徴とする請求項1~10に記載の船舶。
【請求項12】
前記ポッド推進器が船尾部におけるビルジ部の外側に配置されることを特徴とする請求項11に記載の船舶。
【請求項13】
船尾部にトランサムを備え、船体の最大幅B、満載喫水d、前記トランサムの計画満載喫水線DLWL上の幅Bt、計画満載喫水線下の高さHtに対して、0.25≦Bt/B≦0.5、0.25≦Ht/d≦0.5であることを特徴とする請求項1~10に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貨物輸送に係る船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では環境負荷の低減を目的として貨物輸送におけるトンマイル当たりの燃費の向上が求められている。トンマイル当たりの燃費の向上には、大型船を低速で運航することが好ましい。船体抵抗は、大きく摩擦抵抗、粘性圧力抵抗、造波抵抗から構成され、低速域では摩擦抵抗による影響が大きい。そのため船首尾のフレームラインを満載喫水線以下で半楕円形状として摩擦抵抗を低減した船舶が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の貨物船においては、航海フルード数として0.12以上が想定されているため造波抵抗を考慮する必要があり、船首部の形状は摩擦抵抗低減に対して必ずしも最適化されているとは言えない。例えば、特許文献1の船舶では球状船首が採用されており、喫水線近傍において、船首部の水平線図は楔型とされている。また、船尾部の形状もプロペラや舵の取り付けのために摩擦抵抗低減に対して最適化されていない。
【0005】
輸送効率の観点から船体は大型化の傾向にある。また、同様に港湾や運河の拡張、荷役システムの変化といったインフラ面の改善も進んでいる。こういった背景により、要目制限の緩和や、大型化に伴う造波抵抗による影響が低減され、船型の自由度が増大している。
【0006】
本発明は、摩擦抵抗低減に対して最適化された船舶を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の船舶は、満載時の浸水表面積S、水線長L、満載時の排水容積∇に対して、S/√(L∇)≦2.7となる船体形状を有することを特徴としている。
【0008】
例えば、柱形係数Cp≧0.7、中央断面積係数Cm≦0.98であり、船体最大横断面積をAm、ビルジ半径をRとしたときにR/√Amで定義される相対ビルジが0.3以上であることが好ましく、船体の最大幅B、満載喫水dに対して、B/d≦2.2であることが好ましい。
【0009】
船首部の計画満載喫水線下の各断面において、ガース長/√横断面積≦2.65であることが好ましく、船首部の長手方向断面線は、計画満載喫水線近傍を除き、近似流線形であることが好ましい。
【0010】
船尾部の計画満載喫水線下の各断面において、ガース長/√横断面積≦2.65であることが好ましく、船尾部の長手方向断面線は、計画満載喫水線近傍を除き、近似流線形であることが好ましい。
【0011】
船体中央部の計画満載喫水線下の各断面において、ガース長/√横断面積≦2.65であることが好ましく、船体中央部のビルジ半径Rは、船体の最大幅B、満載喫水dに対して、R/B≧0.2、またはR/d≧0.4であることが好ましい。
【0012】
船舶は、複数のポッド推進器を備えることが好ましい。ポッド推進器が船尾部におけるビルジ部の外側に配置されていても良い。
【0013】
船尾部にトランサムを備えてもよく、トランサムの計画満載喫水線DLWL上の幅Bt、計画満載喫水線下の高さHtとするときに、0.25≦Bt/B≦0.5、0.25≦Ht/d≦0.5であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、摩擦抵抗低減に対して最適化された船舶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態である船舶の船体形状を示す正面線図である。
【
図2】
図1の船舶の側面線図および半幅線図である。
【
図3】船尾に取り付けられる推進器の配置を中央断面形状とともに示す船尾正面配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態である船舶の船体形状を示す正面線図(左側:船尾部、右側:船首部)であり、
図2は、側面線図および半幅線図である。また、
図3は、船尾に取り付けられる推進器の配置を中央断面形状とともに示す船尾正面配置図である。
【0017】
本実施形態の船舶10の船体は、船首部12と、長手方向に一定のフレームラインを有する船体中央部14と、船尾部16とを備える。船首部12と船体中央部14、および船尾部16と船体中央部14は、それぞれサイドフラットエンドラインLsおよびボトムフラットエンドラインLbの近傍で滑らかに接続される。
【0018】
本実施形態の船体は、以下の基本設計思想の下に建造される。まず、造波抵抗の考慮を排除するために航海フルード数が約0.12以下(より効果的には0.1以下)となるように航海速力および水線長Lが決定され、満載時の排水容積∇を確保しつつも摩擦抵抗を低減するために、満載時の浸水表面積Sに対してS/√(L∇)≦2.7となるように建造される。同様の目的から柱形係数Cp≧0.7、中央断面積係数Cm≦0.98、船体最大横断面積をAm、ビルジ半径をRとしたときにR/√Amで定義される相対ビルジを0.3以上とすることが好ましく、船首部12、船体中央部14、船尾部16それぞれの計画満載喫水線DLWL下の各断面においてはガース長/√横断面積≦2.65となり、摩擦抵抗低減のためには各々より√(2π)に近いことが好ましい。また、満載時の摩擦抵抗低減に加え軽荷航海時の抵抗を低減する目的で、B/d≦2.2とする。ここでBは船体の最大幅、dは満載喫水である。上記構成により、船首部12、船尾部16のフレームラインは、略円弧に沿う形状とされる。
【0019】
更に、粘性形状抵抗(摩擦抵抗および剥離、造渦抵抗による抵抗)の低減を目的として、船首部12の長手方向断面線は、計画満載喫水線DLWL近傍を除き、近似流線形であることが好ましく、船尾部16の長手方向断面線は、計画満載喫水線DLWL近傍を除き、近似流線形であることが好ましい。なお、本明細書において長手方向断面線とは、計画満載喫水面と船体左右中心面の交線を通る平面と船体表面(船尾トランサムを除く)の交線をいう。また、本明細書において近似流線形とは、平面上の曲線であって、基準流線形からのずれが船体の幅の5%未満である船体外側に凸で滑らかな曲線(直線部を含む)をいう。ここで基準流線形とは、船体の最前端位置かつ船体左右中心面上の位置に始点があり、かつ船体の最後端位置に終点がある曲線(直線部を含む)であって、始点から順に、船体外側に凸で滑らかな曲線と、船体前後方向に平行な直線と、船体外側に凸で滑らかな曲線であってその長さが次に記す船尾側直線の0.2倍以上であるものと、船体後方ほど船体中心面に近付く向きに25度以下の角度で傾斜した船尾側直線とを接線連続でつないだ線のことである。
【0020】
船首部12の計画満載喫水線DLWL下の船体形状は、変曲点のない滑らかな凸形状を呈し、各断面のフレームラインは、計画満載喫水線DLWLと船体中心線CLの交点Oを中心とするときに、船体中心線CLからの所定の角度αの位置を中心に、
図1において(α-Δα1)から(α+Δα2)の区間において中心Oからの半径に略対応している。また、両舷のフレームラインは、中心Oに対して凸形状の滑らかな曲線によって左右対称に接続され、(α+Δα2)よりも上のフレームラインは、計画満載喫水線DLWLよりも上の垂直な側面に滑らかに接続される。
【0021】
船尾部16の計画満載喫水線DLWL下の船体形状は、変曲点のない滑らかな凸形状を呈し、各断面のフレームラインは、船体中心線CLからの所定の角度βの位置を中心に、
図1において(β-Δβ1)から(β+Δβ2)の区間において中心Oからの半径に略対応している。また、両舷のフレームラインは、中心Oに対して凸形状の滑らかな曲線によって左右対称に接続され、β+Δβ2よりも上のフレームラインは、計画満載喫水線DLWLよりも上の垂直な側面に滑らかに接続される。
【0022】
船体中央部の計画満載喫水線DLWL下の船体形状は、変曲点のない滑らかな凸形状を呈し、フレームラインは船体長手方向に略一定であり、ビルジ部の(α+Δα2)および(β+Δβ2)より上方では、垂直な側壁に滑らかに接続される。ビルジ半径Rは、従来の船舶よりも大きく設定され、R/B≧0.2、またはR/d≧0.4とすることが好ましい。なお船底部は水平とされる。
【0023】
また、本実施形態の船舶10は、プロペラ荷重度を低減し軽荷航海時の抵抗を低減するために多軸推進を採用することが好ましく、操縦性を確保しつつ舵抵抗を低減する目的ではポッド推進器20を採用することが好ましい。このとき船体吸引作用の排除(推力減少率の改善)、境界層制御による粘性形状抵抗の低減を図る目的でポッド推進器20を船体平行部または平行部近傍の船尾におけるビルジ部の外側に配置しても良い。本実施形態の船舶ではビルジ半径Rが大きく設定されているため、ポッド推進器20を船底や舷側から突出させずに容易に配置できる。なお、本実施形態では2軸推進を採用しているが、2軸以上の構成を採用することもできる。
【0024】
船尾部16にトランサム18を設ける場合、その寸法は排水容積を十分に確保しつつも粘性形状抵抗の増大を抑制するため、計画満載喫水線DLWL上のトランサム18の幅Bt、計画満載喫水線DLWLからトランサム18底までの高さHtとするときに、0.25≦Bt/B≦0.5、0.25≦Ht/d≦0.5とすることが好ましい。
【0025】
以上のように、本実施形態の船体によれば、摩擦抵抗低減に対して最適化された船舶を提供することができる。また、本実施形態の船体によれば、排水容積を確保し、トンマイル当たりの燃費が大幅に改善された船舶を提供することができる。また、船首尾における粘性形状抵抗の低減も図ることができる。更に、本実施形態では、複数のポッド推進器を、船尾におけるビルジ部の外側に配置したことで、プロペラ荷重度を低減し軽荷航海時の抵抗を低減するとともに操縦性を確保しつつ舵抵抗も低減でき、船体吸引作用を排除(推力減少率の改善)し、境界層制御による粘性形状抵抗の低減も図ることができる。
【0026】
なお、本実施形態は、水線長Lが300m以上の大型船舶に適用することを想定しているが、極めて低速での運航が許容されるのであれば、航海フルード数<0.12(または0.1)の下、中型や小型の船舶にも適用することも可能である。
【符号の説明】
【0027】
10 船舶
12 船首部
14 船体中央部
16 船尾部
B 船体の最大幅
d 満載喫水
DLWL 計画満載喫水線
L 水線長
Ls サイドフラットエンドライン
Lb ボトムフラットエンドライン
S 満載時の浸水表面積
∇ 満載時の排水容積