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特開2024-97696分析システム、分析装置、および分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097696
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】分析システム、分析装置、および分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
G01B11/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001349
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】市川 央
(72)【発明者】
【氏名】島田 敏宏
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA30
2F065BB05
2F065FF51
2F065GG23
2F065GG25
2F065LL22
2F065NN06
2F065QQ26
(57)【要約】
【課題】対象物の量を示す指標値を簡便に算出できるようにする。
【解決手段】分析システム(100)は、基板(M1)と基板(M1)上に塗布された塗布物(M2)を含む対象物から熱放射された電磁波の強度を測定する測定器(1)と、塗布物(M2)から放射された波長成分の強度に影響を与える素子(2)と、素子(2)を用いて設定した複数の異なる測定条件下で測定器(1)により測定された強度の比に基づき塗布物(M2)の量を算出する分析装置(3)と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と基板上に塗布された塗布物を含む対象物から熱放射された電磁波の強度を測定する測定器と、
前記電磁波に含まれる波長成分のうち前記塗布物から放射された波長成分の強度に影響を与える素子と、
前記素子を用いて設定した複数の異なる測定条件下で前記測定器により測定された強度の比に基づき、前記塗布物の量を示す指標値を算出する分析装置と、を含む分析システム。
【請求項2】
前記分析装置は、前記強度の比と前記塗布物の量との対応関係または前記強度の比と前記塗布物の堆積厚さとの対応関係を示す対応情報を用いて前記塗布物の量または堆積厚さを示す前記指標値を算出する、請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記素子は、特定波長を吸収するフィルタである、請求項1または2に記載の分析システム。
【請求項4】
前記素子を保持する保持部材を含み、
前記保持部材を動かし、前記対象物から放射される電磁波の伝播経路上に前記素子が配置される状態と、当該伝播経路上に前記素子が配置されない状態とを切り替えることにより前記測定条件を変更し、
前記測定器は、前記素子を通過した前記電磁波の強度と、前記素子を通過していない前記電磁波の強度とをそれぞれ測定する、請求項1または2に記載の分析システム。
【請求項5】
前記素子は、干渉計であり、
複数の前記測定条件では、前記干渉計において前記電磁波が通過する経路の長さがそれぞれ異なっている、請求項1または2に記載の分析システム。
【請求項6】
基板と基板上に塗布された塗布物を含む対象物から熱放射された電磁波の波長成分のうち前記塗布物から放射された波長成分の強度に影響を与える素子を用いて設定された複数の異なる測定条件下で測定された、前記電磁波の強度の測定値を取得するデータ取得部と、
前記データ取得部が取得する前記測定値の比に基づき、前記塗布物の量を示す指標値を算出する指標値算出部と、を備える分析装置。
【請求項7】
基板と基板上に塗布された塗布物を含む対象物から熱放射された電磁波の波長成分のうち前記塗布物から放射された波長成分の強度に影響を与える素子を用いて設定された複数の異なる測定条件下で前記電磁波の強度を測定器により測定する測定ステップと、
測定された前記強度の比に基づき、前記塗布物の量を示す指標値を分析装置により算出する分析ステップと、を含む分析方法。
【請求項8】
基板と基板上に塗布された塗布物を含む対象物から熱放射された電磁波の波長成分のうち前記対象物から放射された波長成分の強度に影響を与える素子を用いて設定された複数の異なる測定条件下で測定された、前記電磁波の強度の測定値を取得するデータ取得部と、
前記データ取得部が取得する前記測定値の比に基づき、前記塗布物の種類を判定する分類部と、を備える分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物から熱放射された電磁波を用いて当該対象物の量を示す指標値を算出する分析システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造、鍛造等では、塗布物を金型上に塗布して溶湯とワークの癒着を抑制している。塗布物が薄ければ焼き付きの原因になり、厚過ぎれば塗布物の堆積による外観不良や寸法精度の低下を招くため、塗布厚み・塗布条件の制御が必要である。
【0003】
条件制御の前提として、塗布物の塗布厚みの評価が必要であり、これまでに各種の手法が提案されている。例えば、下記の特許文献1には、潤滑剤が塗布された鍛造型からの黒体放射の放射率と温度の測定結果に基づいて潤滑剤の膜厚を求める技術が開示されている。また、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)を用いれば、塗布物あるいは潤滑剤に対応する吸収ピークを特定し、その吸収ピークの強度に基づいて塗布物あるいは潤滑剤の金型への付着量を求めることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-188994号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術には、簡易さという点で改善の余地がある。すなわち、特許文献1の技術では、潤滑剤の膜厚を算出するにあたって放射率を求めているが、温度による補正を行う場合であっても正確な放射率を求めることは容易ではない。このため、正確な放射率を求めるためにシステム全体の構成が複雑化してしまう。また、一般にFT-IR装置は大型であるため製造現場で使用することができず、測定条件も制限されるから、現実の金型上の塗布物の定量に適用することは難しい。
【0006】
また、塗布された物質が不明である場合に、FT-IRを用いればその物質を同定することができるが、物質の同定や分類を簡易に行う手法は従来知られていなかった。これらは、金型上の塗布物または潤滑剤に限られず、任意の対象物の量を評価する際あるいは対象物の分類を行う際に共通して生じる問題点である。
【0007】
本発明の一態様は、対象物の量を示す指標値を簡便に算出することを可能にすることを目的とする。また、本発明の他の態様は、簡便に対象物を分類することを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る分析システムは、基板と基板上に塗布された塗布物を含む対象物から熱放射された電磁波の強度を測定する測定器と、前記電磁波に含まれる波長成分のうち前記塗布物から放射された波長成分の強度に影響を与える素子と、前記素子を用いて設定した複数の異なる測定条件下で前記測定器により測定された強度の比に基づき、前記塗布物の量を示す指標値を算出する分析装置と、を含む。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る分析装置は、基板と基板上に塗布された塗布物を含む対象物から熱放射された電磁波の波長成分のうち前記塗布物から放射された波長成分の強度に影響を与える素子を用いて設定された複数の異なる測定条件下で測定された、前記電磁波の強度の測定値を取得するデータ取得部と、前記データ取得部が取得する前記測定値の比に基づき、前記塗布物の量を示す指標値を算出する指標値算出部と、を備える。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る分析方法は、基板と基板上に塗布された塗布物を含む対象物から熱放射された電磁波の波長成分のうち前記塗布物から放射された波長成分の強度に影響を与える素子を用いて設定された複数の異なる測定条件下で前記電磁波の強度を測定器により測定する測定ステップと、測定された前記強度の比に基づき、前記塗布物の量を示す指標値を分析装置により算出する分析ステップと、を含む。
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の他の態様に係る分析装置は、基板と基板上に塗布された塗布物を含む対象物から熱放射された電磁波の波長成分のうち前記対象物から放射された波長成分の強度に影響を与える素子を用いて設定された複数の異なる測定条件下で測定された、前記電磁波の強度の測定値を取得するデータ取得部と、前記データ取得部が取得する前記測定値の比に基づき、前記塗布物の種類を判定する分類部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、対象物の量を示す指標値を簡便に算出することが可能になる。また、本発明の他の態様によれば、簡便に対象物を分類することを可能にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1に係る分析システムの構成を示す図である。
図2】異なる測定条件で測定された電磁波の強度の比と塗布物の量との関係を説明する図である。
図3】本発明の実施形態1に係る分析システムにおける処理の一例を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態2に係る分析システムの概要を示す図である。
図5】本発明の実施形態2に係る分析システムによる測定の結果の一例を示す図である。
図6】本発明の実施形態2に係る分析システムにおける処理の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態3に係る分析システムの概要を示す図である。
図8】本発明の実施形態3に係る分析装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図9】干渉計における電磁波の伝播経路長と測定器により測定された電磁波の強度との関係を示す図である。
図10】本発明の実施形態3に係る分析システムにおける処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
(システム構成)
図1に基づいて本実施形態に係る分析システム100の構成を説明する。図1は、分析システム100の構成を示す図である。分析システム100は、熱放射により発生した電磁波を分析して基板に塗布された塗布物の量や種類を推定するシステムであり、測定器1と素子2と分析装置3とを含む。図1には、基板M1上に塗布された塗布物M2の量と種類を推定する分析装置3について、その要部構成を示すブロック図についても示している。
【0015】
基板M1は、例えば、ダイカスト等の鋳造や射出成形に用いられる金型の一部分であってもよい。また、塗布物M2は、例えば離型剤であってもよい。この場合、分析システム100により、金型の当該部分に塗布された離型剤の量や種類を推定することができる。なお、基板M1と塗布物M2は、加熱時に電磁波を放射するものであればよく、この例に限られない。図示していないが、基板M1は加熱されている。例えば、M1がダイカストの金型であれば、溶湯の熱により一般的に200~400℃の温度になる。
【0016】
測定器1は、基板M1と基板M1上に塗布された塗布物M2を含む対象物から熱放射された電磁波の強度を測定する。上記の電磁波の主成分は赤外線であるから、測定器1として赤外線センサを適用することができる。例えば、測定器1として焦電型等の熱型あるいは量子型の赤外線センサを適用してもよい。
【0017】
測定器1は、FT-IR装置のような各波長(あるいは波数)成分の強度を測定可能なものとする必要はなく、幅広い波長範囲における電磁波強度の積分値を測定するものであればよい。より詳細には、測定器1は、測定時の温度において、塗布物M2から放射される電磁波の波長範囲の少なくとも一部と、当該波長範囲外で基板M1から放射される電磁波の波長範囲の少なくとも一部とを含む波長範囲における電磁波強度を検知するものであればよい。例えば、塗布物M2から放射される電磁波の波長範囲が、基板M1から放射される電磁波の波長範囲に含まれるとする。この場合、基板M1から放射される電磁波の波長範囲(当該波長範囲の全体であってもよいし、一部が欠けていてもよい)における電磁波強度の積分値を測定する測定器1を用いればよい。測定器1は、幅広い波長範囲の電磁波強度を測定するため、塗布物M2から放射される電磁波の波長が変わっても、測定器1を変えることなく塗布物M2から放射される電磁波を測定することができる。
【0018】
素子2は、上記の電磁波に含まれる波長成分のうち、塗布物M2から放射された波長成分の強度に影響を与える素子である。なお、素子2は、波長成分の強度に影響を与える機器であってもよい。つまり、本明細書における「素子」の範疇には機器も含まれる。素子2の詳細は後記「素子と測定条件について」の項目で説明し、適用可能な機器については実施形態3で説明する。
【0019】
分析装置3は、素子2を用いて設定した複数の異なる測定条件下で測定器1により測定された強度の比に基づき、塗布物M2の量を示す指標値を算出する。また、分析装置3は、素子2を用いて設定した複数の異なる測定条件下で測定器1により測定された強度の比に基づき、塗布物M2の種類を判定する。
【0020】
以上のように、分析システム100は、基板M1と基板M1上に塗布された塗布物M2を含む対象物から熱放射された電磁波の強度を測定する測定器1と、前記の電磁波に含まれる波長成分のうち塗布物M2から放射された波長成分の強度に影響を与える素子2とを含む。また、分析システム100は、素子2を用いて設定した複数の異なる測定条件下で測定器1により測定された強度の比に基づき、塗布物M2の量を示す指標値を算出する分析装置3を含む。
【0021】
測定中に計測距離や温度等の測定条件に多少の変動があったとしても、塗布物M2の量が変わらなければ、各測定条件下で測定される電磁波の強度の比は変わらない。つまり、当該強度の比は、塗布物M2の量に応じた値になる。よって、上記の構成により算出される指標値は塗布物M2の量を示す妥当な値であるといえる。
【0022】
また、上記指標値の算出にあたって必要な処理は、各測定条件下で電磁波の強度を測定するという簡易なものであって、温度等の厳密な測定は不要であり、FT-IR装置のような大型装置を使用する必要もない。したがって、上記の構成によれば、塗布物M2の量を示す妥当な指標値を簡便に算出することができる。
【0023】
(分析装置の構成)
分析装置3の構成について、図1に示すブロック図に基づいて説明する。図示のように、分析装置3は、分析装置3の各部を統括して制御する制御部30と、分析装置3が使用する各種データを記憶する記憶部31を備えている。また、分析装置3は、分析装置3が他の装置と通信するための通信部32、分析装置3に対する各種データの入力を受け付ける入力部33、および分析装置3が各種データを出力するための出力部34を備えている。また、制御部30には、データ取得部301、指標値算出部302、および分類部303が含まれている。
【0024】
データ取得部301は、測定器1により測定された電磁波の強度の測定値を取得する。より詳細には、データ取得部301は、基板M1と基板M1上に塗布された塗布物M2を含む対象物から熱放射された電磁波の波長成分のうち塗布物M2から放射された波長成分の強度に影響を与える素子2を用いて設定された複数の異なる測定条件下で測定された電磁波の強度の測定値を取得する。例えば、データ取得部301は、通信部32を介した通信により測定器1から測定値を取得してもよいし、測定器1の測定値を知得したユーザが入力部33を介して入力する測定値を取得してもよい。
【0025】
指標値算出部302は、データ取得部301が取得する測定値の比に基づき、塗布物M2の量を示す指標値を算出する。指標値の算出方法の詳細は後記「指標値の算出方法」の項目で説明する。
【0026】
分類部303は、データ取得部301が取得する測定値の比に基づき、塗布物M2の種類を判定する。種類の判定方法の詳細は後記「種類の判定方法」の項目で説明する。
【0027】
以上のように、分析装置3は、基板M1と基板M1上に塗布された塗布物M2を含む対象物から熱放射された電磁波の波長成分のうち塗布物M2から放射された波長成分の強度に影響を与える素子2を用いて設定された複数の異なる測定条件下で測定された電磁波の強度の測定値を取得するデータ取得部301と、データ取得部301が取得する測定値の比に基づき、塗布物M2の量を示す指標値を算出する指標値算出部302とを備えている。よって、塗布物M2の量を示す妥当な指標値を簡便に算出することができる。
【0028】
また、以上のように、分析装置3は、基板M1と基板M1上に塗布された塗布物M2を含む対象物から熱放射された電磁波の波長成分のうち塗布物M2から放射された波長成分の強度に影響を与える素子2を用いて設定された複数の異なる測定条件下で測定された電磁波の強度の測定値を取得するデータ取得部301と、データ取得部301が取得する測定値の比に基づき、塗布物M2の種類を判定する分類部303とを備えている。これにより、塗布物M2を簡便に分類することができる。
【0029】
(指標値の算出方法)
指標値算出部302による指標値の算出方法について説明する。指標値は、塗布物M2の量を示すものであって、かつ、データ取得部301が取得する測定値の比に基づいて算出されるものであればよい。例えば、指標値算出部302は、上記測定値の比をそのまま指標値としてもよい。
【0030】
また、例えば、指標値算出部302は、上記測定値の比と塗布物M2の量との対応関係を示す対応情報を用いて塗布物M2の量を示す指標値を算出してもよい。これにより、塗布物M2の量という汎用的でユーザに分かりやすい指標値を算出することができる。なお、対応情報は、上述の複数の異なる測定条件下で電磁波の強度を測定する処理を、塗布物M2の量を変えながら行うことにより生成することができる。対応情報は検量線と言い換えることもできる。
【0031】
また、指標値算出部302は、上記測定値の比と基板M1の表面に塗布された塗布物M2の堆積厚さとの対応関係を示す対応情報を用いれば、塗布物M2の堆積厚さを示す指標値を算出することができる。これにより、塗布物M2の堆積厚さという汎用的でユーザに分かりやすい指標値を算出することができる。なお、塗布物M2が基板M1を膜状に覆うものである場合、堆積厚さは膜厚と言い換えることができる。対応情報は、予め取得され、記憶部31等に記憶されている。
【0032】
(素子と測定条件について)
素子2とこれを用いて設定される測定条件について図2に基づいて説明する。図2は、異なる測定条件で測定された電磁波の強度の比と塗布物M2の量との関係を説明する図である。
【0033】
図2に示すグラフG1は、加熱された基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波の波数を横軸とし、当該電磁波の強度を縦軸としてそれらの関係を模式的に示したものである。なお、横軸を波長とした場合も同様のグラフとなる。
【0034】
グラフG1においては、塗布物M2から熱放射される電磁波の成分をC、基板M1から熱放射される電磁波の成分をAおよびBで示している。電磁波の成分Bの波数(波長)は、成分Cの波数(波長)と重複している。グラフG1におけるCの部分の面積は、塗布物M2から熱放射される電磁波の総量を示しており、塗布物M2の量に比例する。なお、グラフG1におけるAおよびBの部分の面積は、塗布物M2の量には影響されない。
【0035】
FT-IR装置等に含まれるような分光器を用いれば、対象物に赤外線を照射し、固有の波数での透過率から塗布物M2を定量することが可能である。しかしながら、測定器1は、所定の波長範囲の電磁波の強度の積分値が測定できるだけであって特定の波長における強度を測定することはできない。例えば、成分AおよびBの全波長範囲における電磁波の強度の積分値を測定する測定器1を用いた場合、成分A~Cのピーク波長における電磁波の強度を測定することはできない。
【0036】
このような測定値から塗布物M2の量を示す指標値を算出するために、分析システム100では測定器1による測定を複数の測定条件下で行う。そして、それらの測定条件の設定に用いられるのが素子2である。
【0037】
すなわち、素子2を用いれば、基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波を素子2に入射させ、素子2を透過した電磁波、すなわち一部の成分の強度が素子2の影響を受けた電磁波の強度を測定器1で測定する、という測定条件を設定することができる。この測定条件を第1の測定条件と呼ぶ。また、基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波を、素子2を透過させずに測定器1に入射させ、当該電磁波の強度を測定器1で測定する、という測定条件を設定することもできる。この測定条件を第2の測定条件と呼ぶ。
【0038】
このように、素子2を用いることにより、素子2で電磁波の一部の波長成分の強度に影響を与えた上で当該電磁波の強度を測定する第1の測定条件と、素子2を用いずに電磁波の強度を測定する第1の測定条件とを設定することができる。
【0039】
(素子2としてフィルタを使用する場合)
素子2は、基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波の一部の波長成分の強度に影響を与えるものであればよい。例えば、素子2として、特定波長を吸収する光学フィルタ(以下、単にフィルタと呼ぶ)を用いてもよい。これにより、フィルタという簡易な素子により複数の測定条件を作成し、各測定条件で測定された強度の比を用いて上述の指標値を算出することができる。以下説明するように、上記特定波長は、塗布物M2から放射される電磁波の波長のうち、放射強度の高い波長範囲か、または基板M1から放射される電磁波よりも塗布物M2から放射される電磁波の放射強度が低い波長範囲に含まれる波長であってもよい。
【0040】
(例1:長波長カットフィルタを使用する場合)
例えば、素子2として、基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波のうち、塗布物M2から放射される電磁波の波長範囲内の成分を主に吸収するフィルタを適用してもよい。この場合、上述の特定波長は、塗布物M2から放射される電磁波の放射強度が高い波長範囲に含まれる波長である。素子2としてこのようなフィルタを用いた場合、グラフG1に示される基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波のうち、成分AとCの境界を通る破線の右側部分の成分(長波長成分)が素子2に吸収される。
【0041】
ここで仮に、素子2のグラフG1における破線の右側部分の成分の透過率が0%、左側部分の成分の透過率が100%であるとする。この場合、第1の測定条件においては、測定器1により測定される測定値は、グラフG1におけるAの部分の面積に相当する値となる。この測定値をAと表す。一方、第2の測定条件においては、測定器1により測定される測定値は、グラフG1におけるA、B、Cの全体の面積に相当する値となる。この測定値を(A+B+C)と表す。
【0042】
この場合、第1の測定条件で測定された測定値に対する、第2の測定条件で測定された測定値の比は{A/(A+B+C)}と表される。つまり、(測定値の比)={A/(A+B+C)}という関係になる。この関係をグラフで表すと図2のグラフa1のようになる。グラフa1から明らかなように、測定値の比は塗布物M2の量に反比例し、測定値の比が決まれば塗布物M2の量も一意に決まる。このように、測定値の比と塗布物M2の量との間には一定の関係性が存在するから、測定値の比に基づいて塗布物M2の量を示す指標値を算出することができる。
【0043】
同様に、第2の測定条件で測定された測定値に対する、第1の測定条件で測定された測定値の比に基づいて塗布物M2の量を示す指標値を算出することもできる。この場合、測定値の比は{(A+B+C)/A}={1+B/A+(1/A)×C)}と表される。したがって、当該測定値の比は、図2のグラフa2に示すように、塗布物M2の量に比例し、測定値の比が決まれば塗布物M2の量も一意に決まる。なお、グラフa2における縦軸および横軸はグラフa1と同じく、測定値の比および塗布物M2の量である。グラフb1以降についても同様である。なお、指標値の算出式は、上記以外の式であってもよい。
【0044】
無論、素子2として長波長カットフィルタを使用する場合であっても、その短波長成分の透過率が100%であり、長波長成分の透過率が0%である必要はない。例えば、グラフG1における破線の左側部分の成分の透過率がP、右側部分の成分の透過率がQである素子2を用いたとする。なお、P>Qである。
【0045】
この場合、第1の測定条件で測定された測定値に対する、第2の測定条件で測定された測定値の比は{(PA+QB+QC)/(A+B+C)}と表される。つまり、(測定値の比)={(PA+QB+QC)/(A+B+C)}={Q+(P-Q)×A/(A+B+C)}という関係となる。このように測定値の比は塗布物M2の量に反比例し、測定値の比が決まれば塗布物M2の量も一意に決まる。
【0046】
また、第2の測定条件で測定された測定値に対する、第1の測定条件で測定された測定値の比は{(A+B+C)/(PA+QB+QC)}と表される。つまり、(測定値の比)={(A+B+C)/(PA+QB+QC)}={(1-Q)-(A/Q)×(P-Q)/(PA+Q(B+C))}という関係となる。よって、測定値の比が決まれば塗布物M2の量も一意に決まる。
【0047】
(例2:短波長カットフィルタを使用する場合)
また、例えば、素子2として、基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波のうち、塗布物M2から放射される電磁波の波長範囲外の成分を主に吸収するフィルタを適用してもよい。つまり、上述の特定波長は、塗布物M2から放射される電磁波の放射強度が低い波長範囲に含まれる波長であってもよい。素子2としてこのようなフィルタを用いた場合、グラフG1に示される基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波のうち、破線の左側部分の成分(短波長成分)が素子2に吸収される。
【0048】
ここで仮に、グラフG1における破線の右側部分の成分の透過率が100%、左側部分の成分の透過率が0%である素子2を用いたとする。この場合、第1の測定条件においては、測定器1により測定される測定値は、グラフG1における(B+C)の部分の面積に相当する値となる。この測定値を(B+C)と表す。一方、第2の測定条件における測定器1の測定値は上述のように(A+B+C)と表される。
【0049】
よって、第1の測定条件で測定された測定値に対する、第2の測定条件で測定された測定値の比は{(B+C)/(A+B+C)}と表される。つまり、(測定値の比)={(B+C)/(A+B+C)}=[1-{A/(A+B+C)}]という関係となる。この関係をグラフで表すと図2のグラフb1のようになる。グラフb1から明らかなように、測定値の比が決まれば塗布物M2の量も一意に決まる。このように、素子2として短波長カットフィルタを使用する場合であっても、測定値の比に基づいて塗布物M2の量を示す指標値を算出することができる。
【0050】
同様に、第2の測定条件で測定された測定値に対する、第1の測定条件で測定された測定値の比に基づいて塗布物M2の量を示す指標値を算出することもできる。この場合、測定値の比は{(A+B+C)/(B+C)}={1+A/(B+C)}と表される。したがって、当該測定値の比は、図2のグラフb2に示すように、塗布物M2の量に反比例し、測定値の比が決まれば塗布物M2の量も一意に決まる。
【0051】
無論、素子2として短波長カットフィルタを使用する場合であっても、その短波長成分の透過率が0%であり、長波長成分の透過率が100%である必要はない。例えば、グラフG1における破線の左側部分の成分の透過率がQ、右側部分の成分の透過率がPである素子2を用いたとする。なお、P>Qである。
【0052】
この場合、第1の測定条件で測定された測定値に対する、第2の測定条件で測定された測定値の比は{(QA+PB+PC)/(A+B+C)}={P-(P-Q)×A/(A+B+C)}という関係となる。よって、測定値の比が決まれば塗布物M2の量も一意に決まる。
【0053】
また、同様に、第2の測定条件で測定された測定値に対する、第1の測定条件で測定された測定値の比を算出した場合も(測定値の比)={(A+B+C)/(QA+PB+PC)}={(1/P)+(A/P)×(P-Q)/(QA+P(B+C))}という関係となり、測定値の比が決まれば塗布物M2の量も一意に決まる。
【0054】
以上のように、素子2として、基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波のうち、塗布物M2から放射される電磁波の波長範囲内の成分を主に吸収するフィルタを適用してもよい。また逆に、素子2として、基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波のうち、塗布物M2から放射される電磁波の波長範囲外の成分を主に吸収するフィルタを適用してもよい。何れのフィルタを適用する場合であっても、フィルタという簡易な素子により複数の測定条件を設定し、各測定条件で測定された強度の比を用いて上述の指標値を算出することができる。
【0055】
なお、「塗布物M2から放射される電磁波の波長範囲内の成分を主に吸収する」とは、塗布物M2から放射される電磁波の波長範囲内の成分の吸収量が、当該波長範囲外の成分の吸収量よりも多いことを意味する。「塗布物M2から放射される電磁波の波長範囲外の成分を主に吸収する」についても同様である。
【0056】
また、塗布物M2から放射される波長範囲内の成分を主に吸収するフィルタを用いる測定条件と、他のフィルタ(例えば塗布物M2から放射される波長範囲外の成分を主に吸収するフィルタ)を用いる測定条件とを設定してもよい。同様に、塗布物M2から放射される波長範囲外の成分を主に吸収するフィルタを用いる測定条件と、他のフィルタ(例えば塗布物M2から放射される波長範囲内の成分を主に吸収するフィルタ)を用いる測定条件とを設定してもよい。
【0057】
なお、測定条件は少なくとも2つ設定すればよく、例えば3つ以上の測定条件を設定し、各測定条件で測定を行ってもよい。この場合、指標値算出部302は、測定値の比を複数通り算出し、それらの算出結果を用いて指標値を算出してもよい。例えば、3つの測定条件を設定し、X、Y、Zの3つの測定値が得られたとする。この場合、指標値算出部302は、X/Y、X/Z、およびY/Zの3通りの比を算出し、上述の対応情報を用いて各比から塗布物M2の量または堆積厚さを示す指標値を算出してもよい。そして、指標値算出部302は、算出した指標値の代表値(例えば平均値や中央値等)を算出してもよい。
【0058】
(種類の判定方法)
分類部303による塗布物M2の種類の判定方法について説明する。上述のように、測定器1により測定される電磁波の強度は、塗布物M2の量に応じたものとなる。そして、種類の異なる複数の塗布物をそれぞれ同量だけ塗布した場合、測定器1により測定される電磁波の強度は、塗布物の種類に応じた値となる。分類部303は、このことを利用して塗布物M2の種類を判定する。
【0059】
具体的には、塗布物M2の種類を判定するために、予め複数種類の塗布物のそれぞれについて、当該塗布物を基板M1に所定量だけ塗布したときの、データ取得部301が取得する測定値の比を算出し、記憶部31等に記憶させておく。そして、分類部303は、所定量の塗布物M2を基板M1に塗布した場合にデータ取得部301が取得する測定値の比と、記憶されている各種類の塗布物の測定値の比とを比較し、当該比の値が最も近い種類を、塗布物M2の種類と判定する。
【0060】
また、分類部303は、3つ以上の測定条件下で測定した電磁波の強度の比を用いて塗布物M2の種類を判定することもできる。例えば、フィルタAを適用した測定条件Aと、電磁波の吸収特性がフィルタAとは異なるフィルタBを適用した測定条件Bと、何れのフィルタも使用しない測定条件Cとで電磁波を測定し、各条件で測定された強度の値がそれぞれA~Cであったとする。この場合、分類部303は、強度比を2種類(例えばA/CとB/C)算出し、それらの値の差異に基づいて塗布物M2の種類を判定する。
【0061】
例えば、スペクトルの異なる2種類の塗布物X、Yが基板M1に塗布されているが、塗布物X、Yのそれぞれがどこに塗布されているかが不明であったとする。この場合、フィルタAとして塗布物Xから放射される電磁波の波長範囲内の成分を主に吸収するが塗布物Yから放射される電磁波の吸収が小さいものを用い、フィルタBとして塗布物XとYから放射される電磁波の各波長範囲内の成分を主に吸収するものを用いてもよい。
【0062】
上記のようなフィルタA、Bを用いた場合、AとCの比は塗布物Xの量に応じて変化する。一方、BとCの比は塗布物XまたはYの量に応じて変化する。このため、分類部303は、AとCの差分が小さいのに、BとCの差分が大きい場合には、塗布物Yが塗布されていると判定することができる。なお、分類を行うにあたり、後述するノイズ成分の除去を行ってもよい。この場合、測定条件をさらに1つ増やせばよい。
【0063】
(処理の流れ)
分析システム100における処理の流れ(分析方法)を図3に基づいて説明する。図3は、分析システム100における処理の一例を示すフローチャートである。なお、塗布物M2と基板M1から電磁波の熱放射が起きるように、基板M1は予め加熱しておく。
【0064】
S1(測定ステップ)では、測定器1が、第1の測定条件で、基板M1と基板M1上に塗布された塗布物M2を含む対象物から熱放射された電磁波の強度を測定する。上述のように、第1の測定条件では、基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波を素子2に入射させ、素子2を透過した電磁波の強度を測定器1で測定する。
【0065】
S2(測定ステップ)では、測定器1が、第2の測定条件で、基板M1と基板M1上に塗布された塗布物M2を含む対象物から熱放射された電磁波の強度を測定する。上述のように、第2の測定条件では、基板M1および塗布物M2から熱放射される電磁波を、素子2を透過させずに測定器1に入射させ、当該電磁波の強度を測定器1で測定する。
【0066】
なお、測定条件の切り替えは、手動で行ってもよいし自動で行ってもよい。自動で行う場合、分析システム100に、例えば、対象物と測定器1との間に素子2がある状態と、ない状態とを切り替える切替機構を含めておいてもよい。これにより、分析装置3または他の装置によって当該切替機構の動作を制御することにより測定条件を自動的に切り替えることができる。
【0067】
S3では、分析装置3のデータ取得部301が、S1およびS2のそれぞれで測定された測定値を取得する。なお、S1およびS2で測定された測定値はそれぞれ別のステップで取得してもよい。例えば、S1の後、S2の前にS1で測定された測定値を取得し、S2の後にS2で測定された測定値を取得するようにしてもよい。
【0068】
S4(分析ステップ)では、分析装置3の指標値算出部302が、S3で取得された測定値の比、すなわち測定された電磁波の強度の比に基づき、前述の対応関係を用いて塗布物M2の量を示す指標値を算出する。なお、指標値算出部302は、算出した指標値を出力部34に出力し、ユーザに通知してもよい。
【0069】
S5では、分析装置3の分類部303が、S3で取得された測定値の比、すなわち測定された電磁波の強度の比に基づき、塗布物M2の種類を判定する。S4と同様に、分類部303は、種類の判定結果をユーザに通知してもよい。これにより図3の処理は終了する。なお、必ずしもS4とS5の両方の処理を行う必要はなく、何れか一方のみを行うようにしてもよい。また、両方の処理を行う場合、各処理の実行順序は特に限定されず、S5を先に行ってもよいし、各処理を並行で行うようにしてもよい。
【0070】
以上のように、上述の分析方法は、基板M1と基板M1上に塗布された塗布物M2を含む対象物から放射された波長成分の強度に影響を与える素子2を用いて設定された複数の異なる測定条件下で電磁波の強度を測定器1により測定する測定ステップ(S1、S2)と、測定された強度の比に基づき、塗布物M2の量を示す指標値を分析装置3により算出する分析ステップ(S4)と、を含む。よって、塗布物M2の量を示す妥当な指標値を簡易な手法で算出することができる。
【0071】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。実施形態3以降においても同様である。
【0072】
(概要)
本実施形態に係る分析システム100Aの概要を図4に基づいて説明する。図4は、分析システム100Aの概要を示す図である。図示のように、分析システム100Aには、測定器1、素子2A、分析装置3A、保持部材4A、回転軸5A、およびモータ6Aが含まれている。なお、分析装置3Aの詳細は後記「分析装置の構成」の項目で説明する。保持部材4A、回転軸5A、およびモータ6Aは、基板M1と基板M1上に塗布された塗布物M2を含む対象物から放射される電磁波の伝播経路上に素子2Aがある状態とない状態とを切り替える切替機構の一例である。
【0073】
素子2Aは、実施形態1の素子2と同様に、塗布物M2から放射された波長成分の強度に影響を与えるものであればよい。例えば、素子2Aとして、上記実施形態1で説明したものと同様のフィルタを適用してもよい。フィルタであれば簡単な加工で保持部材4Aに固定することができる。なお、図示していないが、対象物と切替機構の間に導波部材(後述)を挿入してもよい。これにより、対象物の観測範囲を絞ることができる。
【0074】
例えば、ダイカスト用離型剤にシリコーンが主たる成分として含まれており、シリコーンから放射される電磁波の波長領域の透過率が低いふっ素樹脂製シールテープを素子2として用いた場合には、保持部材4Aに貼り付けるという極めて簡単な加工で固定することができる。
【0075】
図4には、保持部材4Aの側面図と正面図を示している。なお、図4においてより下側に示されている方が側面図である。側面図に示されるように、保持部材4Aは、回転軸5Aを介してモータ5Aに接続されている。また、側面図および正面図に示されるように、回転軸5Aは正面視で円形の保持部材4Aの中心に接続されており、モータ5Aの回転を保持部材4Aに伝達する。
【0076】
また、正面図に示されるように、保持部材4Aには、回転軸5Aを中心とする円周に沿って開口42Aおよび43Aが設けられている。同図では、回転軸5Aを中心とする円を破線で示している。この円の半径はrである。つまり、開口42Aおよび43Aは何れも回転軸5Aからrだけ離れた位置に設けられている。
【0077】
分析システム100Aにおいては、側面図に示されるように、塗布物M2および基板M1と測定器1の間、より詳細には対象物から放射される電磁波が測定器1まで伝播する伝播経路上に開口42Aおよび43Aを位置させることができる位置に、保持部材4Aが配置される。言い換えれば、塗布物M2および基板M1と測定器1は、上記伝播経路が回転軸5Aから水平方向にrだけ離れた位置となるように配置される。
【0078】
これにより、例えば図4の側面図に示されるように開口43Aが最も下方の位置となったときには、対象物から熱放射された電磁波は開口43Aを通って測定器1に入射する。同様に、開口42Aが最も下方の位置となったときには、開口42Aを通過した電磁波が測定器1に入射する。また、電磁波の伝播経路上に開口42Aおよび43Aの何れも位置しないときには、電磁波は保持部材4Aにより遮られて測定器1には到達しない。つまり、保持部材4Aは電磁波を透過しない例えば金属等の材料で構成される。例えば、保持部材4Aをアルミニウム製のものとしてもよい。
【0079】
素子2Aは、開口42Aおよび43Aの何れかに配置される。図4の例では、開口43Aに素子2Aが配されている。このため、モータ5を駆動して保持部材4Aを回転させると、電磁波の伝播経路上に、素子2Aが配された開口43Aと、配されていない開口42Aとが交互に現れる。したがって、測定器1は、保持部材4Aを回転させているときには、素子2Aが配された開口43Aを通過した電磁波の強度と、素子2Aが配されていない開口42Aを通過した電磁波の強度とをそれぞれ測定することになる。
【0080】
このように、分析システム100Aは、素子2Aを保持する保持部材4Aを含む。そして、分析システム100Aでは、保持部材4Aを動かして、対象物から放射される電磁波の伝播経路上に素子2Aが配置される状態と、当該伝播経路上に素子2Aが配置されない状態とを切り替えることにより測定条件を変更し、測定器1は、素子2Aを通過した電磁波の強度と、素子2Aを通過していない電磁波の強度とをそれぞれ測定する。これにより、素子2Aを通過させる測定条件と素子2Aを通過させない測定条件という2つの測定条件における測定を簡便に行うことができる。
【0081】
また、図4の例の保持部材4Aには、回転軸5Aを中心とする円周に沿って2つの開口(42Aと43A)が設けられている。なお、開口は3つ以上設けてもよい。そして、設けられた開口の一部である開口43Aには素子2Aが配置されている。この場合、回転軸を中心として保持部材4Aを回転させながら測定器1による測定を行うことにより、素子2Aを通過させる測定条件と素子2Aを通過させない測定条件という2つの測定条件における測定を連続して短時間で行うことができる。また、測定器1が焦電センサ等の光チョッパを必要とするセンサの場合、保持部材4Aと2つの開口42A・43Aを光チョッパとして利用することができるという利点もある。
【0082】
なお、素子2Aを保持する保持部材の構成、およびその動かし方は上述の例に限られない。例えば、対象物から放射される電磁波の伝播経路上の位置から、当該伝播経路外の位置までの間にレールを設け、素子2Aを保持する保持部材を当該レール上で移動させるようにしてもよい。
【0083】
測定に用いた塗布物M2は、株式会社MORESCO製のダイカスト用水溶性原液塗布型離型剤グラフェースMQ-100である。この塗布物M2の主成分はシリコーンであり、シリコーンから放射される電磁波成分は素子2Aに吸収される。
【0084】
測定は、250℃に加熱した基板M1(より詳細には金型等にも使用されるSKD61の鋼板。20mm角、厚み3mmのものを使用。)単体と、この基板M1に上述の塗布物M2を塗布したものとのそれぞれについて行った。
【0085】
図5は、分析システム100Aによる測定の結果の一例を示す図である。図5において、基板M1の単体について測定した結果がグラフg1に示され、塗布物M2を塗布した基板M1について測定した結果がグラフg2に示されている。グラフg1およびg2は概ね同様の周期的な波形を示している。より詳細には、大きいピークと小さいピークが交互に現れている。大きいピークは、素子2Aが配されていない開口42Aを電磁波が通過した期間に測定された電磁波の強度を示し、小さいピークは、素子2Aが配されている開口43Aを電磁波が通過した期間に測定された電磁波の強度を示している。なお、塗布物M2から放射される電磁波は素子2Aに吸収されるため、素子2Aが配されていない開口42Aを電磁波が通過した期間に測定された電磁波の強度は、素子2Aが配されている開口43Aを電磁波が通過した期間に測定された電磁波の強度よりも大きくなる。図5では、小さいピークの変化がわかるように、大きいピークで規格化している。
【0086】
分析装置3Aは、このような測定結果を示すデータを取得して、大きいピークのピーク値(図2のA+B+Cに相当)と、小さいピークのピーク値(図2のAに相当)とを特定し、それらの値の比に基づいて指標値を算出することができる。
【0087】
(分析装置の構成)
図4に戻り、分析装置3Aの構成について説明する。分析装置3Aは、分析装置3Aの各部を統括して制御する制御部30Aを備えている。そして、制御部30Aには、機器制御部303A、データ取得部301A、ノイズ除去部304A、および指標値算出部302Aが含まれている。
【0088】
機器制御部303Aは、所定の機器の動作を制御することにより保持部材4Aを動かして、対象物から放射される電磁波の伝播経路上に素子2Aが配置される状態と、当該伝播経路上に素子2Aが配置されない状態とを切り替える。具体的には、機器制御部303Aは、モータ5Aを制御することにより保持部材4Aを所定の速度で回転させる。なお、モータ5Aの制御は手動で行うようにしてもよく、この場合、機器制御部303Aは省略される。
【0089】
データ取得部301Aは、機器制御部303Aにより保持部材4Aが動かされているときに測定器1により測定された測定値を取得する。例えば、データ取得部301Aは、図5に示されるような時系列の測定値を取得する。
【0090】
ノイズ除去部304Aは、データ取得部301Aが取得する測定値からノイズ成分を除去する。具体的には、ノイズ除去部304Aは、まず、データ取得部301Aが取得する時系列の測定値から、電磁波が保持部材4Aに遮られているときの測定値を特定する。例えば、図5に示される時系列の測定値が取得された場合であれば、ノイズ除去部304Aは、ピークとピークとの間の谷の部分の測定値(極小値または最小値)を特定する。
【0091】
そして、ノイズ除去部304Aは、時系列の測定値のうち、素子2Aが配されている開口43Aを電磁波が通過した期間に測定された電磁波の強度のピーク値から、電磁波が保持部材4Aに遮られているときの測定値(谷の部分)を減算することによりノイズ成分を除去する。同様に、ノイズ除去部304Aは、時系列の測定値のうち、素子2Aが配されていない開口42Aを電磁波が通過した期間に測定された電磁波の強度のピーク値から、電磁波が保持部材4Aに遮られているときの測定値(谷の部分)を減算することによりノイズ成分を除去する。なお、図5は、ノイズ成分を除去した後の結果を示している。
【0092】
指標値算出部302Aは、ノイズ除去部304Aがノイズ成分を除去した測定値の比に基づいて塗布物M2の量を示す指標値を算出する。なお、制御部30Aにも実施形態1で説明した分類部303を設け、電磁波の強度の測定値(ノイズ成分が除去されたものであってもよい)の比に基づいて塗布物M2の種類を判定するようにしてもよい。また、分類部303を設ける場合、指標値算出部302Aを省略してもよい。
【0093】
(処理の流れ)
分析システム100Aにおける処理の流れ(分析方法)を図6に基づいて説明する。図6は、分析システム100Aにおける処理の一例を示すフローチャートである。なお、塗布物M2と基板M1から電磁波の熱放射が起きるように、基板M1は予め加熱しておく。
【0094】
S11では、機器制御部303Aは、モータ5Aを制御して、保持部材4Aの回転を開始させる。なお、機器制御部303Aは、回転を開始させた後、所定時間が経過した時点で自動的にモータ5Aの動作を停止させてもよい。
【0095】
S12(測定ステップ)では、測定器1が、保持部材4Aが回転している期間において、塗布物M2と基板M1から熱放射された電磁波の強度を測定する。保持部材4Aが回転していることにより、S12では、素子2Aを通過させる測定条件と素子2Aを通過させない測定条件という2つの測定条件における測定が行われる。
【0096】
S13では、データ取得部301Aが、S12で測定された測定値を取得する。上述のように取得される測定値は時系列の測定値である。
【0097】
S14では、ノイズ除去部304Aが、S13で取得された時系列の測定値からノイズ成分を除去する。具体的には、ノイズ除去部304Aは、S13で取得された時系列の測定値から、(1)電磁波の伝播経路上に素子2Aが配されていない開口42Aが位置している期間に測定された測定値のピーク値、(2)電磁波の伝播経路上に素子2Aが配されている開口43Aが位置している期間に測定された測定値のピーク値、および(3)ピークとピークとの間の谷の部分の測定値(極小値または最小値)を特定する。そして、ノイズ除去部304Aは、上記(1)の値から上記(3)の値を減算すると共に、上記(2)の値から上記(3)の値を減算する。これにより、上記(1)(2)の各値からノイズ成分が除去される。
【0098】
S15(分析ステップ)では、分析装置3Aの指標値算出部302Aが、S14でノイズ成分が除去された測定値の比すなわち上述の(1)の値から(3)の値を減算したものと(2)の値から(3)の値を減算したものとの比に基づき、塗布物M2の量を示す指標値を算出する。指標値算出部302Aは、算出した指標値を出力部34に出力させる等して分析システム100Aのユーザに通知してもよい。これにより図6の処理は終了する。
【0099】
なお、S13において、データ取得部301Aは、1つの測定条件について測定値を複数取得してもよい。この場合、S14において、ノイズ除去部304Aは、S13で取得された測定値の中から上記(3)の値を複数取得し、それらの平均値をノイズ成分の値とする。そして、ノイズ除去部304Aは、上記(1)の値の平均値と、上記(2)の各値の平均値から、ノイズ成分の値をそれぞれ減算する。これにより、S15では、複数の測定値の平均値に基づく妥当性の高い指標値を算出することができる。
【0100】
〔実施形態3〕
(概要)
図7に基づいて本実施形態に係る分析システム100Bの概要を説明する。図7は、分析システム100Bの概要を示す図である。図示のように、分析システム100Bには、測定器1、干渉計2B、分析装置3B、導波部材5B、および導波部材6Bが含まれている。なお、分析装置3Bの詳細は後記「分析装置の構成」の項目で説明する。
【0101】
干渉計2Bは、基板M1および塗布物M2から放射される電磁波に含まれる波長成分のうち塗布物M2から放射された波長成分の強度に影響を与える素子(機器と呼ぶこともできる)の一例である。図示のように、干渉計2Bは、互いに向かい合う平板状の光学素子21Bおよび22Bを含み、これらの光学素子により干渉を生じさせる干渉計である。このような干渉計は、ファブリ・ペロー干渉計と呼ばれる。干渉計2Bでは、光学素子21Bに対して、光学素子22Bは傾いて固定されており、このため、光学素子21Bと22Bの間隔は図7の上側ほど狭く、下側ほど広くなっている。
【0102】
同図には、光学素子21Bおよび22Bの部分拡大図についても示している。部分拡大図に示されるように、電磁波が伝播する部分における光学素子21Bと22Bの間隔はdである。光学素子22B側から入射した電磁波の一部は、光学素子21Bおよび22Bを透過して光学素子21B側から出射し、入射した電磁波の他の一部は光学素子21Bと22Bの間で多重反射した後、光学素子21B側から出射する。干渉計2Bにおいては、光学素子21B側から出射されるこれらの電磁波間で干渉が発生する。そして、干渉によって強度が強められる波長と弱められる波長は、電磁波が通過する経路の長さつまり間隔dによって決まる。
【0103】
したがって、例えば図7に白抜きの双方向矢印で示すように、電磁波の伝播方向に対して垂直な方向に干渉計2Bを移動させて、干渉計2B内を電磁波が伝播する経路の長さを変えることにより、強度が強められる波長と弱められる波長を変化させることができる。つまり、電磁波の測定条件を変化させることができる。なお、干渉計2Bを移動させる代わりに、干渉計2Bに対して電磁波を入射させる位置を変化させてもよいし、光学素子21Bと22Bの間隔を変化させてもよい。
【0104】
干渉計2B内を電磁波が伝播する経路の長さが変わることにより、透過光が強めあう波長および弱めあう波長がシフトする。塗布物M2から放射される電磁波の波長と干渉計を通過することによって強めあう波長領域が重なる場合には、測定器1で検出される電磁波の強度は大きくなる。一方、塗布物M2から放射される電磁波の波長と干渉計を通過することによって弱めあう波長領域が重なる場合には、測定器1で検出される電磁波の強度は小さくなる。
【0105】
本願発明者らは、以下の条件下で、塗布物M2の塗布量を異ならせて、測定器1により測定された測定値を用いて指標値を算出する実験を行った。この実験では、塗布物M2の塗布量の増加と、指標値の増加とがリンクすることが確認された。
【0106】
非ドープで片面を鏡面研磨した、525マイクロメートルの厚みのシリコンウェハを短冊状に切り出した2枚のシリコン板を、鏡面研磨面同士が向かい合うように固定し、シリコン板間の距離が両端で異なる楔形の配置とした干渉計2Bを用いて測定した。また、加熱温度は200℃であり、使用した基板M1および塗布物M2は実施形態2で説明したものと同じである。後述する図9のグラフに示される測定結果を得たときの条件も上記と同じである。
【0107】
導波部材5Bは、基板M1および塗布物M2から放射される電磁波を干渉計2Bに導く部材である。導波部材5Bを用いることにより、基板M1および塗布物M2の一部の領域から放射される電磁波を干渉計2Bに導き、当該領域における塗布物M2の量を示す指標値を算出することができる。導波部材5Bは、その内部を電磁波が伝播する構成となっていればよい。例えば、導波部材5Bとして金属管を用いてもよいし、光ファイバ等を用いてもよい。なお、導波部材5Bは、実施形態2の分析システム100Aに適用することもできる。この場合、導波部材5Bは、基板M1および塗布物M2と、保持部材4Aとの間に設置すればよい。
【0108】
干渉計2Bと測定器1の間に、導波部材6Bを挿入してもよい。導波部材6Bも導波部材5Bと同様に電磁波を導くための部材である。
【0109】
なお、干渉計2Bは、出力される電磁波(透過光あるいは反射光)が入力された電磁波の波長に応じて変化するものであればよく、ファブリ・ペロー干渉計に限られない。また、塗布物M2から放射された電磁波の波長成分の強度に影響を与える素子として、複数の干渉計を用いてもよい。特に、入出力される電磁波の波長についての特性が異なる複数の干渉計を組み合わせて使用することにより、塗布物M2から放射される電磁波の波長に対する選択性を更に高めることができ、好ましい。
【0110】
以上のように、分析システム100Bは、基板M1および塗布物M2から放射される電磁波に含まれる波長成分のうち塗布物M2から放射された波長成分の強度に影響を与える素子として干渉計2Bを含む。そして、干渉計2Bにおいて電磁波が通過する経路の長さがそれぞれ異なるという測定条件で測定を行う。これにより、複数の測定条件下での測定を簡便に行うことができる。
【0111】
また、実施形態1、2で説明したようなフィルタを用いる場合、塗布物M2から放射される電磁波の波長範囲をある程度事前に把握しておく必要がある。これに対し、電磁波が伝播する経路の長さを変化させることが可能な干渉計2Bを用いる場合には、そのような事前把握の必要がないという利点がある。
【0112】
なお、電磁波が伝播する経路の長さが一定である干渉計を複数用いてもよい。この場合、電磁波が干渉計内を伝播する経路の長さがそれぞれ異なる複数の干渉計を用い、電磁波の伝播経路上に配置する干渉計を切り替えることにより、電磁波の測定条件を変化させることができる。なお、この場合、フィルタを用いる場合と同様に、塗布物M2から放射された電磁波の波長範囲をある程度事前に把握しておく必要がある。ただし、干渉計では反射面間の距離やグレーティングのピッチに応じてどのような波長帯の電磁波に影響を与えるかが変わるため、フィルタを用いる場合と比べて条件の選択における自由度が高い。
【0113】
(分析装置の構成)
図8に基づいて分析装置3Bの構成について説明する。図8は、分析装置3Bの要部構成の一例を示すブロック図である。図示のように、分析装置3Bは、制御部30Bを備え、制御部30Bには、経路長制御部303B、データ取得部301B、データ選択部305B、ノイズ除去部304B、および指標値算出部302Bが含まれている。
【0114】
経路長制御部303Bは、干渉計2Bにおいて電磁波が通過する経路の長さを制御する。例えば、経路長制御部303Bは、電磁波の伝播方向に対して垂直な方向に干渉計2Bを移動させる移動機構(例えば、リニアスライダー)を制御することにより、経路長を制御してもよい。なお、経路長の制御は手動で行うようにしてもよく、この場合、経路長制御部303Bは省略される。
【0115】
データ取得部301Bは、干渉計2Bを用いて設定された複数の異なる測定条件下、すなわち干渉計2Bにおける電磁波の伝播経路長(図7における間隔d)が異なる複数の測定条件下で測定された電磁波の強度の測定値を取得する。
【0116】
データ選択部305Bは、データ取得部301Bが取得した測定値のうち、指標値の算出に用いるものを選択する。また、ノイズ除去部304Bは、データ選択部305Bが選択した測定値からノイズ成分を除去する。そして、指標値算出部302Bは、ノイズ除去部304Bがノイズ成分を除去した測定値の比に基づいて塗布物M2の量を示す指標値を算出する。これらの処理の詳細については後記「測定値の選択から指標値の算出までの詳細」の項目で説明する。
【0117】
なお、制御部30Bにも実施形態1で説明した分類部303を設け、測定値(ノイズ成分が除去されたものであってもよい)の比に基づいて塗布物M2の種類を判定するようにしてもよい。また、分類部303を設ける場合、指標値算出部302Bを省略してもよい。
【0118】
(測定値の選択から指標値の算出までの詳細)
測定値の選択から指標値の算出までの詳細について図9に基づいて説明する。図9は、干渉計2Bにおける電磁波の伝播経路長と測定器1により測定された電磁波の強度との関係を示す図である。なお、測定は、塗布物M2を塗布していない基板M1と、塗布物M2を塗布した基板M1のそれぞれについて行った。図9の「塗布物あり」のグラフが塗布物M2を塗布した基板M1について測定した結果を示し、「塗布物なし」のグラフが塗布物M2を塗布していない基板M1について測定した結果を示している。
【0119】
上述のように、干渉計2Bにおいては、電磁波が伝播する経路の長さに応じて、強度が強められる波長と弱められる波長が変化する。このため、図9に示す何れのグラフにおいても、測定された強度が経路長に応じて変化したことを示すものなっている。2つのグラフにおける波形と強度の値の差は、塗布物M2から放射された電磁波に起因している。
【0120】
このようなグラフは、経路長制御部303Bに干渉計2Bの経路長を連続的に変化させ、経路長が変化している期間に測定器1により測定された時系列の測定値を用いて作成することができる。
【0121】
なお、実際の測定時には、経路長を連続的に変化させる必要はない。例えば、経路長制御部303Bは、干渉計2Bの経路長を所定長(例えば5μm)ずつ変化させ、データ取得部301Bは、各経路長において測定器1により測定された測定値を取得してもよい。
【0122】
データ選択部305Bは、このようにしてデータ取得部301Bが取得した測定値のうち、以下に該当する経路長の電磁波強度を取得する。(1)塗布物の有無による電磁波強度の差が大きい、(2)塗布物の有無による電磁波強度の差が小さい、および(3)電磁波強度が最小。(3)の値は、ベースラインの値を示すものとしてノイズ成分の除去に用いられる。
【0123】
例えば、図9の例において、データ選択部305Bは、上記(1)の値として37μmのときの測定値を選択し、上記(2)の値として43μmのときの測定値を選択し、上記(3)の値として32μmのときの測定値を選択する。なお、(2)の値は、図9のグラフでの電磁波強度が2番目に小さいものを選択した。
【0124】
次に、ノイズ除去部304Bは、上記(1)の値から上記(3)の値を減算すると共に、上記(2)の値から上記(3)の値を減算する。これにより、上記(1)(2)の各値からノイズ成分が除去される。
【0125】
そして、指標値算出部302Bは、ノイズ除去部304Bがノイズ成分を除去した測定値の比に基づいて、塗布物M2の量を示す指標値を算出する。すなわち、指標値算出部302Bは、「(1)の値から(3)の値を減算した値」と、「(2)の値から(3)の値を減算した値」との比に基づいて、塗布物M2の量を示す指標値を算出する。
【0126】
なお、データ選択部305Bは、ベースラインの値を示す値(3)として最も小さい測定値を選択することが好ましい。これにより、ノイズ除去後の値が負の値にならないようにすることができる。一方、(1)は電磁波強度の差が最大のものを選択し、(2)は電磁波強度の差が2番目に小さいものを選択することは必須ではない。これは、異なる測定条件(この場合、具体的には経路長)で測定された測定値さえあれば、指標値算出部302Bは、それらの測定値から指標値を算出することが可能であるためである。ただし、データ選択部305Bが、値が最大の測定値と値が2番目に小さい測定値を選択することにより、それら測定値のコントラストが大きくなるから、算出される指標値の確度を高めることができる。
【0127】
(処理の流れ)
分析システム100Bにおける処理の流れ(分析方法)を図10に基づいて説明する。図10は、分析システム100Bにおける処理の一例を示すフローチャートである。なお、塗布物M2と基板M1から電磁波の熱放射が起きるように、基板M1は予め加熱しておく。また、経路長制御部303Bは、干渉計2Bにおいて電磁波が通過する経路の長さを所定の初期値にしておく。
【0128】
S21(測定ステップ)では、測定器1が、塗布物M2と基板M1から熱放射された電磁波のうち、干渉計2Bを透過したものの強度を測定する。
【0129】
S22では、分析装置3のデータ取得部301Bが、S21で測定された測定値を取得する。なお、各測定条件(すなわち経路長)で測定された測定値を任意の記憶装置に記憶させておき、全ての測定条件での測定が終了した後で、データ取得部301Bが各測定値をまとめて取得するようにしてもよい。
【0130】
S23では、経路長制御部303Bが、測定を終了するか否かを判定する。具体的には、経路長制御部303Bは、所定の複数の測定条件すなわち経路長での測定が何れも完了していれば測定を終了する(S23でYES)と判定し、測定完了していない測定条件があれば測定を継続する(S23でNO)と判定する。S23でYESと判定された場合にはS25に進み、S23でNOと判定された場合にはS24に進む。
【0131】
S24では、経路長制御部303Bは、干渉計2Bにおいて電磁波が通過する経路長を変更する。この後、処理はS21に戻り、変更後の経路長において電磁波の強度が測定される。つまり、S21からS24の処理は、S23でYESと判定されるまで、経路長を変更しながら繰り返される。
【0132】
S25では、データ選択部305Bが、S22で取得された測定値のうち、指標値の算出に用いるものを選択する。具体的には、データ選択部305Bは、ベースラインの値を示す測定値を選択すると共に、比の算出対象となる2つの測定値を選択する。データ選択部305Bは、ベースラインの値を示す測定値としては、取得された測定値のうち最小のものを選択することが好ましい。また、データ選択部305Bは、比の算出対象となる2つの測定値としては、ベースラインの値を示す測定値として選択したものを除いた中で、差が最も大きくなるものを選択することが好ましい。なお、予め何れの経路長のときの測定値を使用するか決めておいてもよく、この場合、S25の処理は省略される。
【0133】
S26では、ノイズ除去部304Bが、S25で選択された測定値からノイズ成分を除去する。具体的には、ノイズ除去部304Bは、S25で選択された、比の算出対象となる2つの測定値のそれぞれから、同じくS25で選択されたベースラインの値を示す測定値を減算することによりノイズ成分を除去する。
【0134】
S27(分析ステップ)では、指標値算出部302Bが、S26でノイズ成分が除去された測定値の比に基づき、塗布物M2の量を示す指標値を算出する。これにより図10の処理は終了する。なお、指標値算出部302Bは、算出した指標値を出力部34に出力させる等して分析システム100Bのユーザに通知してもよい。
【0135】
〔変形例〕
上述の各実施形態における分析システムの構成は一例に過ぎず、異なる装置構成で同様の機能を有する分析システムを構築することができる。例えば、図1に示す分析システム100において、分類部303の機能を他の情報処理装置に持たせてもよい。また、図3図6、および図10における分析装置3、3A、または3Bにより実行される処理は、複数の情報処理装置が分担で実行するようにしてもよい。
【0136】
〔ソフトウェアによる実現例〕
分析装置3、3A、および3B(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム(分析プログラム)であって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部30、30A、30Bに含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0137】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0138】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0139】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0140】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0141】
100、100A、100B 分析システム
1 測定器
2、2A、2B 素子
3、3A、3B 分析装置
301、301A、301B データ取得部
302、302A、302B 指標値算出部
303 分類部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10