(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097705
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】車両用コーティング剤、下塗剤、車両のコーティング方法及び車両の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20240711BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240711BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20240711BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20240711BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/00 D
B05D1/36 Z
B05D7/14 L
B05D7/24 302Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001367
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】397016828
【氏名又は名称】KeePer技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】谷 好通
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075CA02
4D075CA34
4D075DC12
4D075EA41
4D075EB43
4J038DL031
4J038DL052
4J038JC30
4J038JC32
4J038KA04
4J038MA09
4J038NA05
4J038NA11
4J038PA07
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】車両の外装の汚れの付着を抑制することができる車両用コーティング剤を提供すること。
【解決手段】車両用コーティング剤は、T単位シロキサンの硬質な三次元的に架橋するレジンとD単位シロキサンの柔軟な二次元的に架橋するレジンとで、可撓性を有する硬質な保護被膜30を形成する。また、分子の両末端にそれぞれシラノール基を有する変性シリコーンオイルを含有し、塗装された車両用コーティング剤が車両の外装1の表層で成膜して保護被膜30を形成する際に、シリコーンレジンに馴染まない変性シリコーンオイルの主鎖が、車両の外装1の表層から外側に向けてループ形状体31を形成する。このループ形状体31は、異物(汚れ)の密着を抑制する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシロキサン及び結合構造単位に式(R2
2SiO2/2)で示されるシロキサンを含有するシリコーンレジンと、分子の両末端にそれぞれシラノール基を有する変性シリコーンオイルと、を含有することを特徴とする車両用コーティング剤。
【請求項2】
前記変性シリコーンオイルは、シラノール基がアルキルオキシ変性されたものであることを特徴とする請求項1に記載の車両用コーティング剤。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用コーティング剤の下塗剤であって、結合構造単位に式(SiO4/2)で示されるシロキサンが5~20質量%、結合構造単位に式((R6O)3SiR7)で示されるアルキルアルコキシシランが5~20質量%、希釈剤が60~85質量%、を含有することを特徴とする下塗剤。
【請求項4】
車両の外装に、請求項3に記載の下塗剤を塗装して下塗被膜を形成させる下塗剤塗装工程と、該下塗被膜に、請求項1又は2に記載の車両用コーティング剤を塗装して保護被膜を形成させるコーティング剤塗装工程と、を有し、該下塗被膜と該保護被膜からなる複層保護層を形成させる、ことを特徴とする車両のコーティング方法。
【請求項5】
請求項4に記載の車両のコーティング方法で形成された複層保護層を備える車両が屋外環境下にあることを特徴とする車両の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、車両の外装の汚れの付着を抑制する、車両用コーティング剤、その下塗剤、車両のコーティング方法及び車両の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の外装は、材質の違いによって、塗装面、樹脂面、金属面またはガラス面がある。車両の外装には、様々な汚れが付着する。特許文献1には、車両の外装の塗装面の汚れの付着を抑制する車両用コーティング剤として、シリコーンレジンを被膜形成要素とする水エマルション系の表面改質剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された表面改質剤は、高硬度の表面改質被膜を形成して、汚れとしての水シミ(無機成分)の付着を抑制するものである。このため、車両の外装に対して、汚れの如何にかかわらず、汚れの付着を抑制させたいという要望が従来からあった。
【0005】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、上述の点に鑑みてなされたものであり、車両の外装の汚れの付着を抑制することができる車両用コーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の実施形態に係る車両用コーティング剤は、結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシロキサン及び結合構造単位に式(R2
2SiO2/2)で示されるシロキサンを含有するシリコーンレジンと、分子の両末端にそれぞれシラノール基を有する変性シリコーンオイルと、を含有することを特徴とする。
【0007】
本明細書の実施形態に係る車両用コーティング剤によれば、三次元的に架橋する結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシロキサン(以下、「T単位シロキサン」ということがある。)と、二次元的に架橋する結合構造単位に式(R2
2SiO2/2)で示されるシロキサン(以下、「D単位シロキサン」ということがある。)との混合物のシリコーンレジンが含有されている。このため、車両用コーティング剤から形成される保護被膜は、T単位シロキサンの硬質な三次元的に架橋するレジンとD単位シロキサンの柔軟な二次元的に架橋するレジンとで構成されているため、可撓性を有する硬質な保護被膜を形成する。また、車両用コーティング剤は、分子の両末端にそれぞれシラノール基を有する変性シリコーンオイルを含有しているため、塗装された車両用コーティング剤が車両の外装の表層で成膜して保護被膜を形成する際に、シリコーンレジンに馴染まない変性シリコーンオイルの主鎖が、車両の外装の表層から外側に向けてループ形状体を形成する。保護被膜は、ループ形状体が形成され、ループ形状体によって、異物(汚れ)の密着を抑制することができる。つまり、実施形態に係る車両用コーティング剤は、可撓性を有して硬質な保護被膜を形成し、その表面がループ形状体で被覆されているため、汚れの付着を抑制することができる。
【0008】
ここで、上記車両用コーティング剤において、前記変性シリコーンオイルは、シラノール基がアルキルオキシ変性されたものとすることができる。
【0009】
これによれば、シラノール基がアルキルオキシ変性されることによって、変性シリコーンオイルの反応性が弱められるため、車両用コーティング剤の貯蔵安定性を高めることができる。
【0010】
また、上記の車両用コーティング剤の下塗剤であって、結合構造単位に式(SiO4/2)で示されるシロキサンが5~20質量%、結合構造単位に式((R6O)3SiR7)で示されるアルキルアルコキシシランが5~20質量%、希釈剤が60~85質量%、を含有するものとすることができる。
【0011】
これによれば、下塗剤は、希釈剤によって希釈されているため、下地となる基材の表面の微細な凹凸形状に入り込むことができ、微細な凹凸形状に入り込んだ結合構造単位に式(SiO4/2)で示されるシロキサン(以下、「Q単位シロキサン」ということがある。)が、アンカー効果によって強固に下地に密着する。下塗剤から形成される下塗被膜は、結合構造単位に式((R6O)3SiR7)で示されるアルキルアルコキシシラン(以下、「T単位アルキルアルコキシシラン」ということがある。)を含有することによって、可撓性を有し、下地に強固かつ追従するように密着することができる。また、下塗剤から形成される下塗被膜に、車両用コーティング剤が塗装されることによって、車両用コーティング剤から形成される保護被膜は、車両用コーティング剤に含有されるT単位シロキサンとD単位シロキサンとが下塗被膜のQ単位シロキサンとT単位アルキルアルコキシシランとに架橋する。このため、車両用コーティング剤から形成される保護被膜は、強固かつ追従するように下塗被膜に密着することができる。
【0012】
ここで、実施形態に係る車両のコーティング方法は、
車両の外装に、上記の下塗剤を塗装して下塗被膜を形成させる下塗剤塗装工程と、該下塗被膜に、上記の車両用コーティング剤を塗装して保護被膜を形成させるコーティング剤塗装工程と、を有し、該下塗被膜と該保護被膜からなる複層保護層を形成させる、ことを特徴とする。
【0013】
これによれば、下塗剤が車両の外装に強固かつ追従するように密着する下塗被膜を形成し、車両用コーティング剤が下塗被膜に強固かつ追従するように密着する保護被膜を形成する。下塗被膜と保護被膜からなる複層保護層は、その表面がシロキサン主鎖のループ形状体で被覆され、汚れの付着を抑制することができる。
【0014】
また、複層保護層を備える車両の洗浄方法は、
上記の車両のコーティング方法で形成された複層保護層を備える車両が屋外環境下にあることを特徴とする。
【0015】
これによれば、複層保護層は、保護被膜の表面に形成されたループ形状体によって、異物(汚れ)の付着が抑制される。複層保護層を備える車両が屋外環境下にあるため、ループ形状体にくっついた汚れは、雨水などによって洗い流されるため、複層保護層を備える車両はきれいな状態を保つことができる。
【発明の効果】
【0016】
本明細書の実施形態に係る車両用コーティング剤によれば、可撓性を有して硬質な保護被膜を形成し、その表面がループ形状体で被覆され、汚れの付着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本明細書の実施形態に係る下塗剤から形成された下塗被膜と車両用コーティング剤から形成された保護被膜からなる複層保護層を備える車両の外装の拡大図付きのモデル断面図である。
【
図2】シリコーンレジンの結合構造単位を示す図である。
【
図3】実施形態に係る再コーティング方法のイメージ工程図であって、(A)は複層保護層を備える車両の外装にアルカリ洗浄剤を用いて洗浄する図、(B)はアルカリ洗浄剤によって保護被膜を剥離させる状態を示す図、(C)は保護被膜が剥離した下塗被膜に車両用コーティング剤を塗布する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本明細書の実施形態に係る車両用コーティング剤、下塗剤、車両のコーティング方法及び車両の洗浄方法について説明する。なお、本発明の範囲は、実施形態で開示される範囲に限定されるものではない。実施形態の車両用コーティング剤は、車両の外装1に塗装され、車両の外装1の汚れの付着を抑制する保護被膜30を形成するコーティング剤であり、保護被膜30とその下塗剤から形成される下塗被膜20とによって複層保護層10が形成される。本発明は、もちろん、車両として、自動車のみならず、オートバイ、鉄道車両又は航空機などに対しても適用することが可能なものである。なお、本明細書において、車両用コーティング剤の配合量や配合比を表す際は、特に断らない限り、質量単位であり、揮発分を含む塗料状態で表すものとする。また、配合単位を表す「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味するものとする。
【0019】
車両用コーティング剤が塗装される車両の外装1には、材質の違いにより、塗装面、樹脂面、金属面またはガラス面などがある。塗装面は、合成樹脂塗料が塗装された鋼板や樹脂材などの面である。樹脂面は、合成樹脂と必要によりフィラーとを成型した合成樹脂成型体からなる面、繊維強化プラスチックのFRPからなる面などである。金属面は、アルミニウム(アルマイト処理などの表面酸化処理が施されたものを含む)、銅などからなる面である。車両用コーティング剤が塗装される車両の外装1は、材質の違いによって、特に限定されるものではないが、その表面が合成樹脂で構成されている、塗装面、樹脂面に対して、特に適しているものである。
【0020】
実施形態の車両のコーティング方法によって車両の外装1に形成される複層保護層10は、外装1に塗装された下塗剤から形成される下塗被膜20と、下塗被膜20に塗装された車両用コーティング剤から形成される保護被膜30と、から構成される。
【0021】
下塗被膜20を形成する車両用コーティング剤の下塗剤は、結合構造単位に式(SiO4/2)で示されるシロキサン(Q単位シロキサン)を5~20質量%、結合構造単位に式((R6O)3SiR7)で示されるアルキルアルコキシシラン(T単位アルキルアルコキシシラン)を5~20質量%、希釈剤を60~85質量%、含有するものである。車両用コーティング剤の下塗剤は、下塗被膜20を形成する成分としてQ単位シロキサンとT単位アルキルアルコキシシランとから構成される。
【0022】
Q単位シロキサン(SiO4/2)は、ケイ素に4つのシロキサン結合の結合点を有することができるシラン化合物であり、単一の構造単位としては「(R5O)4Si」の構造であり、4つのアルコキシ基(R5O)が他のQ単位シロキサンやT単位アルキルアルコキシシランのアルコキシ基と加水分解と脱水縮合反応(重合)を起こすことにより、三次元網目構造の硬いシロキサン結合からなる被膜を形成する。Q単位シロキサンは、重合度の低いQ単位シロキサンが車両の外装1の表面の微細な凹凸形状に入り込み、アンカー効果によって強固に車両の外装1に密着することができる。Q単位シロキサンのアルコキシ基(R5O)は、加水分解と脱水縮合反応が早いメトキシ基、エトキシ基とすることができ、より早いメトキシ基とすることができる。
【0023】
Q単位シロキサンは、市販品を使用することもできる。市販品のQ単位シロキサンとして、MKCシリケートMS51、MS56、MS57、MS56S(三菱ケミカル株式会社製)、XIAMETER OFS-6697 Silane(ダウ・東レ株式会社製)などを使用することができる。
【0024】
T単位アルキルアルコキシシランは、ケイ素に3つのアルコキシ基と1つのアルキル基を有するシラン化合物であり、アルコキシ基(R6O)によって、シラン化合物(Q単位シロキサン)やシリコーンレジンと共重合(脱水縮合反応)が可能であり、単体としては「(R6O)3SiR7」の構造である。T単位アルキルアルコキシシランがQ単位シロキサンと共重合することにより、下塗剤から形成される下塗被膜20は、T単位アルキルアルコキシシランの有するアルキル基(R7)によって、可撓性を有し、車両の外装1の基材の変形に対して割れることなく追従することができる。T単位アルキルアルコキシシランのアルコキシ基(R6O)は、加水分解と脱水縮合反応が早いメトキシ基、エトキシ基とすることができ、より早いメトキシ基とすることができる。T単位アルキルアルコキシシランのアルキル基(R7)は、適度な可撓性を付与することができるC8~C12の中鎖アルキル基とすることができる。なお、T単位アルキルアルコキシシランのアルキル基(R7)がC7以下の短鎖アルキル基の場合には、下塗剤から形成される下塗被膜20が十分な可撓性を有さず車両の外装1の基材の振動などによる変形に対して追従できずに割れるおそれがある。一方、T単位アルキルアルコキシシランのアルキル基(R7)がC13以上の長鎖アルキル基の場合には、下塗剤から形成される下塗被膜20が過度な可撓性を有し、密着強度など下塗被膜20の強度が劣るおそれがある。
【0025】
T単位アルキルアルコキシシランは、市販品を使用することもできる。市販品のT単位アルキルアルコキシシランとして、DOWSIL Z-6341 Silane(n-C8H17Si(OC2H5)3)、DOWSIL Z-6210 Silane(n-C10H21Si(OCH3)3)(ダウ・東レ株式会社製)、KBE-3083(n-C8H17Si(OC2H5)3)、KBM-3103C(n-C10H21Si(OCH3)3)(信越化学工業株式会社製)などを使用することができる。
【0026】
下塗剤は、希釈剤を60~85質量%、含有するものである。希釈剤は、より詳しくは、揮発性シリコーンオイルとアルコールとから構成され、下塗剤の全体量に対して、揮発性シリコーンオイルが20~60質量%、アルコールが20~60質量%、含有するものである。下塗剤が希釈剤を含有することにより、重合度の低いQ単位シロキサンが希釈剤で希釈されて車両の外装1の表面の微細な凹凸形状に入り込み、アンカー効果によって強固に車両の外装1に密着することができる。
【0027】
下塗剤に含有させる揮発性シリコーンオイルとして、環状シロキサン、ジメチルポリシロキサンを使用することができる。別の実施形態として、揮発性に長ける環状シロキサンのデカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)を使用することができ、さらに別の実施形態として、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)を使用することができる。
【0028】
下塗剤に含有させるアルコールとして、C2~C12のアルコールの混合物を使用することができる。希釈剤の揮発性を適したものとすることができるためである。下塗剤に含有させるアルコールがC1のアルコール(メタノール)である場合には、希釈剤の揮発が早く、下塗剤の作業性が劣るおそれがある。一方、下塗剤に含有させるアルコールがC12のアルコール(ドデカノール)を超える分子量のアルコールである場合には、希釈剤の揮発が遅く、下塗剤の作業性が劣るおそれがある。
【0029】
下塗剤には、硬化を促進させるために、硬化触媒を添加させることができる。硬化触媒は、下塗剤の下塗被膜20を形成する成分であるQ単位シロキサンとT単位アルキルアルコキシシランの硬化反応を促進させることができるものであればよく、酸化物類、アミン類又は金属類を使用することができる。別の実施形態として、硬化触媒は、硬化特性に優れる金属類触媒を使用することができる。さらに別の実施形態として、金属類触媒の中でもチタン系触媒を使用することができ、チタン系触媒の中でもチタン有機金属化合物系触媒(テトラブチルチタネートなど)を使用することができる。
【0030】
硬化触媒は、下塗剤に対して、0.5~5質量%を添加させることができる。下塗剤の硬化性を好適に向上させることができるためである。下塗剤に対する硬化触媒の添加量が0.5質量%未満である場合には、下塗剤の硬化性を好適に向上させることができないおそれがある。一方、5質量%を超える場合には、過剰な添加量となり、不経済となるおそれがある。別の実施形態として、下塗剤に対する硬化触媒の含有量は、0.8~2質量%とすることができる。
【0031】
下塗剤は、硬化触媒を含有させる場合には、塗布直前に、硬化触媒を下塗剤に混合させることができる、2剤型の材料(主剤と硬化剤)とすることができる。2剤型の材料とすることで、下塗剤は、材料の保管時における硬化の促進を抑制することができる。この場合、主剤はQ単位シロキサンとアルキルアルコキシシランの混合物、硬化剤は硬化触媒と希釈剤の混合物とすることができる。
【0032】
保護被膜30を形成する車両用コーティング剤は、結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシロキサン(T単位シロキサン)と結合構造単位に式(R2
2SiO2/2)で示されるシロキサン(D単位シロキサン)とを含有するシリコーンレジンと、分子の両末端にそれぞれシラノール基を有する変性シリコーンオイルと、を含有する。
【0033】
シリコーンレジン(シロキサン)とは、シロキサン結合((-Si-O-)
n)を骨格とする樹脂であり、結合構造単位であるシロキサンのシラノール基同士が脱水縮合反応を起こすことにより形成されるものである。
図2に示すように、シリコーンレジンを形成する結合構造単位のシロキサンとして、M単位シロキサン(1官能)、D単位シロキサン(2官能)、T単位シロキサン(3官能)及びQ単位シロキサン(4官能)がある。
【0034】
T単位シロキサンとは、結合構造単位が式(R1SiO3/2)で示されるシロキサンであり、3官能のシロキサンである。T単位シロキサンを多く有するシリコーンレジンを含有する車両用コーティング剤が成膜した保護被膜30は、シリコーンレジンの結合構造単位となるシロキサンが3官能であるため、三次元的に結合した強固なコーティング被膜(保護被膜30)を形成する。T単位シロキサンを多く有するシリコーンレジンを含有する保護被膜30は、硬くて柔軟性にやや劣る層(膜)となる。また、T単位シロキサンは、3官能であるため、2官能分が主鎖を形成しても1官能分が余るため、変性シリコーンオイルのシラノール基又はアルキルオキシ基とも結合することが容易となる。なお、結合構造単位の式中のR1は、有機置換基であり、メチル基及び/又はフェニル基である。
【0035】
D単位シロキサンとは、結合構造単位が式(R2
2SiO2/2)で示されるシロキサンであり、2官能のシロキサンである。D単位シロキサンを多く有するシリコーンレジンを含有する車両用コーティング剤が成膜した保護被膜30は、シリコーンレジンの結合構造単位となるシロキサンが二次元的に結合した鎖状体の集合体からなるコーティング被膜(保護被膜30)を形成するため、D単位シロキサンを多く有するシリコーンレジンを含有する保護被膜30は、柔軟な層(膜)となる。
【0036】
車両用コーティング剤のシリコーンレジンは、T単位シロキサンを含有することにより、T単位シロキサンが、成膜して保護被膜30を形成するとともに、下塗剤から形成された下塗被膜20のQ単位シロキサンと結合して下塗被膜20に密着することができる。また、T単位シロキサンは、変性シリコーンオイルのシラノール基又はアルキルオキシ基とも結合することができ、変性シリコーンオイルから、ループ形状体31を形成させることができる。車両用コーティング剤のシリコーンレジンは、さらに、D単位シロキサンを含有することにより、車両用コーティング剤が成膜した保護被膜30が可撓性を有するものとなり、車両の外装1の基材の変形に対して割れることなく追従することができるものとなる。
【0037】
T単位シロキサンとD単位シロキサンのモル比率は、T単位シロキサン:D単位シロキサン=50:50~90:10とすることができる。車両用コーティング剤が成膜した保護被膜30が車両の外装1の基材の変形に対して割れることなく追従することができるためである。T単位シロキサンが上記より少ないと、結合することができる変性シリコーンオイルが少なくなり、車両用コーティング剤が成膜した保護被膜30の汚れの密着を抑制する効果が劣るおそれがある。また、相対的にD単位シロキサンが多くなり、車両用コーティング剤が成膜した保護被膜30が柔軟過ぎる被膜となり、汚れが付着するおそれがあるとともに、付着強度など保護被膜30の強度が劣るおそれがある。一方、T単位シロキサンが上記より多いと、相対的に、D単位シロキサンが少なくなり、車両用コーティング剤が成膜した保護被膜30の可撓性が劣り、外装1の基材の変形に対する追従性が劣るおそれがある。別の実施形態として、T単位シロキサンとD単位シロキサンのモル比率は、T単位シロキサン:D単位シロキサン=55:45~75:25とすることができ、さらに別の実施形態として、T単位シロキサン:D単位シロキサン=60:40~70:30とすることができる。なお、車両用コーティング剤から形成される保護被膜30の硬度としては、T単位シリコーンレジン:D単位シリコーンレジン=80:20~90:10はハード、70:30~80:20はミドル、60:40~70:30はソフトとなる。
【0038】
また、T単位シロキサンとD単位シロキサンの比率は、R/Si比によって表わすこともできる。R/Si比では、ケイ素原子1個あたり1個の有機基を持つT単位シロキサンは、R/Si比が1.0となる。ケイ素原子1個あたり2個の有機基を持つD単位シロキサンは、R/Si比が2.0となる。これによると、実施形態の車両用コーティング剤が成膜した保護被膜30が車両の外装1の基材の変形に対して割れることなく追従することができるR/Si比は、1.05~1.9とすることができる。別の実施形態として、R/Si比は、1.1~1.8とすることができ、さらに別の実施形態として、1.15~1.7とすることができる。
【0039】
シリコーンレジンは、T単位シロキサンとD単位シロキサンの混合物(以下、DT単位シリコーンレジンと表現することがある。)を使用することができ、DT単位シリコーンレジンとして市販品を使用することができる。市販品のDT単位シリコーンレジンとして、KR-300、KR-255、KR-500、X-40-9218、X-40-9246、X-40-9250、X-40-9227、X-40-9238、X-40-2667A、X-40-2756、X-41-1056、KR-112、KR-282、KR-242A、KR-9218(信越化学工業株式会社製)などを使用することができる。
【0040】
なお、車両用コーティング剤のシリコーンレジンは、その性能を損なわない限り、M単位シロキサン及び/又はQ単位シロキサンを含有しても良い。
【0041】
車両用コーティング剤は、下記一般式(1)で示される分子の両末端にそれぞれシラノール基又はアルキルオキシ基を有する変性シリコーンオイルを含有する。
【0042】
【0043】
分子の両末端にシラノール基を有する変性シリコーンオイルとは、ループ形状体31となるポリシロキサン主鎖の両末端にシラノール基を有するシリコーンオイルであり、上記一般式(1)では、R4はHとなる。分子の両末端にシラノール基を有する変性シリコーンオイルは、シラノール基がシリコーンレジンと結合(縮合反応)することができる。
【0044】
分子の両末端にシラノール基を有する変性シリコーンオイルは、結合構造単位のT単位シロキサンとD単位シロキサンのシラノール基と相溶性を有する2つのシラノール基と、T単位シロキサンとD単位シロキサンとの相溶性に劣るポリシロキサン主鎖とから構成されている。シリコーンレジンのT単位シロキサンとD単位シロキサンは、保護被膜30の形成前、シラノール基を多く含有しているため、変性シリコーンオイルの両末端のシラノール基とは相溶し、ポリシロキサン主鎖とは相溶し難く、車両用コーティング剤の成膜過程において、ポリシロキサン主鎖が、車両用コーティング剤が成膜して形成される保護被膜30の表面に現れる。保護被膜30の表面に現れたポリシロキサン主鎖の両端末の2つのシラノール基は、シリコーンレジンのT単位シロキサンと結合し、2つのシラノール基を結ぶポリシロキサン主鎖は、ループ形状体31を形成し、保護被膜30の表面を覆うものと推測される。ポリシロキサン主鎖からなるループ形状体31は、
図1に示すように、保護被膜30の外側に向けて弧を形成する。このループ形状体31は、異物(汚れ)が付着し難く、異物がくっついても、ループ形状体31の形状によって、質量を有する異物を保護被膜30から距離を隔てることになる。このため、ループ形状体31にくっついた異物は、保護被膜30との分子間力の影響が小さくなり、保護被膜30に密着しない状態が保たれる。これにより、ループ形状体31にくっついた異物(汚れ)は、雨水などによって簡単に洗い流されるため、複層保護層10を備える車両はきれいな状態を保つことができる。
【0045】
また、ループ形状体31を形成するポリシロキサン主鎖は、異物(汚れ)の密着を抑制することができるとともに、撥水性を備えるものである。車両用コーティング剤から形成された保護被膜30の表面のループ形状体31が撥水性を備えることによって、保護被膜30は、保護被膜30に水(雨水)がかかった際に、保護被膜30の表面に水を転動させて、保護被膜30にくっついた異物(汚れ)を洗い流すことができる。これにより、保護被膜30(複層保護層10)を備える車両は、定期的に必要とされていた車両の洗浄(洗車)の頻度を著しく少なくすることができ、洗車に対する節水や時間の節減はもとより、車両の維持負担の軽減を図ることができる。
【0046】
ループ形状体31を形成するポリシロキサン主鎖は、ポリジメチルシロキサン又はジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサン コポリマーとすることができる。ポリジメチルシロキサン又はジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサン コポリマーは、異物(汚れ)の密着を抑制することができるとともに、撥水性を備えるものである。ポリシロキサン主鎖がポリジメチルシロキサンである変性シリコーンオイルを下記構造式(2)に示し、ポリシロキサン主鎖がジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサン コポリマーである変性シリコーンオイルを下記構造式(3)に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
分子の両末端にシラノール基を有する変性シリコーンオイルは市販品も使用することができ、市販品として、反応性シリコーンオイルX-21-5841、反応性シリコーンオイルKF-9701(信越化学工業株式会社製)、DMS-S32、DMS-S33、DMS-S35、DMS-S42、DMS-S45、DMS-S51、PDS-0332(アヅマックス株式会社製)などを使用することができる。
【0050】
分子の両末端のシラノール基がアルキルオキシ変性されたアルキルオキシ基(アルコキシ基)を有する変性シリコーンオイルとは、ループ形状体31となるポリシロキサン主鎖の両末端のシラノール基がアルキルオキシ変性されたシリコーンオイルであり、上記一般式(1)では、R4はアルキル基となる。変性シリコーンオイルの分子の両末端のシラノール基がアルキルオキシ変性されることによって、変性シリコーンオイルは、反応性が弱められる。このため、アルキルオキシ基を有する変性シリコーンオイルを含有する車両用コーティング剤の貯蔵安定性を高めることができる。車両用コーティング剤が使用(塗装)された際には、分子の両末端にアルキルオキシ基を有する変性シリコーンオイルは、アルキルオキシ基が空気中の水分と加水分解することによってシラノール基となり、シラノール基によってシリコーンレジンと結合(縮合反応)することができる。
【0051】
また、分子の両末端にアルキルオキシ基を有する変性シリコーンオイルを含有する車両用コーティング剤は、分子の両末端にシラノール基を有する変性シリコーンオイルを含有する車両用コーティング剤と比して、塗装された保護被膜30の光沢が高められたものとなる。分子の両末端にアルキルオキシ基を有する変性シリコーンオイルの一部の分子同士が縮合反応を起こして二量体を形成し、二量体が保護被膜30の表面を平滑にしているためと推測される。
【0052】
変性シリコーンオイルの重量平均分子量(以下、単に「平均分子量」と略すことがある。)は、5,000~200,000であるものとすることができる。変性シリコーンオイルのポリシロキサン主鎖が異物(汚れ)の密着を抑制し、車両用コーティング剤から形成された複層保護層10が、異物の付着を好適に抑制することができるためである。変性シリコーンオイルの平均分子量が5,000未満の場合には、ループ形状体31となるポリシロキサン主鎖が短く、くっついた異物の保護被膜30からの距離を隔てることができずに、異物の密着を抑制することができないおそれがある。また、変性シリコーンオイルの分子に占める2つのシラノール基の割合が大きくなり、変性シリコーンオイルがシリコーンレジンに相溶し、保護被膜30は、その表面を覆うループ形状体31が少なくなり、異物の密着を好適に抑制することができないおそれがある。一方、ジシラノール化合物の平均分子量が200,000を超える場合には、ループ形状体31となるポリシロキサン主鎖が長いため、ループ形状体31が動く状態となり、保護被膜30の表面にべとつき感が生じ、油脂分など(汚れ)が付着してしまうおそれがある。別の実施形態として、変性シリコーンオイルの平均分子量は、10,000~150,000とすることができ、さらに別の実施形態として、20,000~120,000とすることができる。なお、ポリシロキサン主鎖がポリジメチルシロキサンである変性シリコーンオイルの最小となる分子量は、240である(上記構造式(2)において、m=1)。
【0053】
変性シリコーンオイルは、シラノール当量(変性シリコーンオイルにおけるシラノール基の質量含有率(%))によって、シリコーンレジンとの反応性が高い変性シリコーンオイルを使用することができる。シリコーンレジンとの反応性が高い変性シリコーンオイルとして、シラノール当量が0.01~10%とすることができる。シラノール当量が0.01%未満だと、反応性が劣るおそれがある。一方、10%を超えると、反応性は十分であるものの、ジシラノール化合物がシリコーンレジンと相溶するおそれがある。別の実施形態として、シラノール当量は、0.02~1.0%とすることができ、さらに別の実施形態として0.03~0.1%とすることができる。
【0054】
車両用コーティング剤は、希釈剤を1~30質量%、含有することができる。希釈剤は、車両用コーティング剤の粘度を調整する添加剤であり、希釈剤として、汎用のシリコーンオイルなどのシリコーン系希釈剤や、(イソ)パラフィン系やオレフィン系などの炭化水素系希釈剤を使用することができる。
【0055】
車両用コーティング剤には、硬化を促進させるために、硬化触媒を添加させることができる。硬化触媒は、シリコーンレジンの硬化反応を促進させることができるものであればよく、酸化物類、アミン類又は金属類を使用することができる。別の実施形態として、硬化触媒は、硬化特性に優れる金属類触媒を使用することができる。さらに別の実施形態として、金属類触媒の中でもチタン系触媒を使用することができ、チタン系触媒の中でもチタン有機金属化合物系触媒(テトラブチルチタネートなど)を使用することができる。
【0056】
硬化触媒は、車両用コーティング剤に対して、0.5~10質量%を添加させることができる。車両用コーティング剤の硬化性を好適に向上させることができるためである。車両用コーティング剤に対する硬化触媒の添加量が0.5質量%未満である場合には、車両用コーティング剤の硬化性を好適に向上させることができないおそれがある。一方、10質量%を超える場合には、過剰な添加量となり、不経済となるおそれがある。別の実施形態として、車両用コーティング剤に対する硬化触媒の含有量は、1~5質量%とすることができる。
【0057】
車両用コーティング剤は、硬化触媒を含有させる場合には、塗布直前に、硬化触媒を車両用コーティング剤に混合させることができる、2剤型の材料(主剤と硬化剤)とすることができる。2剤型の材料とすることで、車両用コーティング剤は、材料の保管時における硬化の促進を抑制することができる。この場合、主剤はシリコーンレジンと変性シリコーンオイルの混合物、硬化剤は硬化触媒と希釈剤の混合物とすることができる。
【0058】
車両用コーティング剤は、下塗剤から形成された下塗被膜20に塗装することによって、T単位及びD単位のシロキサンが、下塗被膜20に結合するとともに、T単位シロキサンの硬質な三次元的に架橋するシリコーンレジンとD単位シロキサンの柔軟な二次元的に架橋するシリコーンレジンとで、可撓性を有する硬質な保護被膜30を形成する。塗装された車両用コーティング剤が保護被膜30を形成する際に、シリコーンレジンに馴染まない変性シリコーンオイルの主鎖が、保護被膜30から外側に向けてループ形状体31を形成する。このループ形状体31は、異物(汚れ)が付着し難く、異物がくっついても、ループ形状体31の形状によって、質量を有する異物を保護被膜30からの距離を隔てる。このため、ループ形状体31にくっついた異物は、保護被膜30との分子間力の影響が小さくなり、保護被膜30に密着しない状態が保たれ、雨水などによって簡単に洗い流される。このため、複層保護層10を備える車両はきれいな状態を保つことができる。また、ループ形状体31は撥水性を備え、保護被膜30は、水(雨水)がかかった際に、保護被膜30の表面に水を転動させて、保護被膜30にくっついた異物(汚れ)を洗い流すことができる。これにより、保護被膜30(複層保護層10)を備える車両は、定期的に必要とされていた車両の洗浄(洗車)の頻度を著しく少なくすることができ、洗車に対する節水や時間の節減はもとより、車両の維持負担の軽減を図ることができる。
【0059】
次に、車両のコーティング方法について説明する。車両のコーティング方法は、脱脂工程、下塗剤塗装工程、コーティング剤塗装工程の順に行われる。
【0060】
脱脂工程は、被塗装面である車両の外装1について、油脂分などを取り除き、清掃する工程である。脱脂工程は、洗浄剤を用いて、ウエスやスポンジなどで油脂分などを拭き取ることによって行なう。洗浄剤は、汚れがほとんどない(指紋程度の汚れがある)納車後間もない車両である場合にはエタノール、汚れが少ない(油脂分などの汚れ成分の付着がある)場合には洗浄用シンナー(ラッカー薄め液)、汚れがある(およそ60日以上使用(走行)された車両であって、油脂、タンパク質、シリカなどの付着がある)場合には後に述べるアルカリ洗浄剤、を用いる。
【0061】
下塗剤塗装工程は、脱脂工程を経た車両の外装1に下塗剤を塗装する工程であり、車両の外装1に下塗剤を刷毛、ウエス又はスポンジなどで塗り広げる。車両の外装1に塗布された下塗剤は、下塗剤に含まれるQ単位シロキサンが車両の外装1の表面の微細な凹凸形状に入り込み、アンカー効果によって強固に密着する下塗被膜20が形成される。
【0062】
コーティング剤塗装工程は、下塗被膜20が形成された車両の外装1に車両用コーティング剤を塗装する工程であり、下塗被膜20が形成された車両の外装1に車両用コーティング剤を刷毛、ウエス又はスポンジなどで塗り広げる。車両用コーティング剤から形成される保護被膜30は、車両用コーティング剤に含有されるT単位シロキサンとD単位シロキサンとが下塗被膜20のQ単位シロキサンとアルキルアルコキシシランと架橋するため、強固かつ追従するように下塗被膜20に密着する。車両用コーティング剤から形成される保護被膜30は、保護被膜30から外側に向けてループ形状体31が形成され、ループ形状体31が異物(汚れ)の密着を抑制する。
【0063】
次に、車両の外装1の再コーティング方法について説明する。車両の外装1の再コーティング方法では、複層保護層10の保護被膜30を剥離するアルカリ洗浄剤を使用する。
【0064】
アルカリ洗浄剤は、複層保護層10をアルカリ洗浄剤によって洗浄することにより、下塗被膜20に結合した、保護被膜30のT単位及びD単位のシロキサンの結合を加水分解させて、保護被膜30を下塗被膜20から剥離するものである。アルカリ洗浄剤は、アルカリ(アルカリ性の化合物)、研磨剤、増粘剤及び水から構成される。
【0065】
アルカリ洗浄剤は、アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、12.8)、オルトケイ酸ナトリウム(Na4SiO4、12.6)、メタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3・5H2O、11.4)、炭酸ナトリウム(Na2CO3、11.2)、リン酸ナトリウム(Na3PO4・12H2O、11.2)などを使用することができる。なお、括弧内は、構造式と5質量%水溶液のpHを記載した。別の実施形態として、アルカリ洗浄剤のアルカリは、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムとすることができる。水酸化ナトリウムとオルトケイ酸ナトリウムは、5質量%水溶液のpHが高く、下塗被膜20のシロキサン結合まで加水分解させてしまうおそれがあるためである。
【0066】
アルカリ洗浄剤は、アルカリの2~10質量%水溶液として使用することができる。好適に保護被膜30を下塗被膜20から剥離することができるためである。アルカリの濃度が2質量%未満である場合には、保護被膜30のT単位及びD単位のアルコキシシランによる結合を加水分解することができないおそれがある。一方、アルカリの濃度が10質量%を超えると、下塗被膜20のシロキサン結合まで加水分解させてしまうおそれがある。別の実施形態として、アルカリ洗浄剤のアルカリの濃度は、3~5質量%とすることができる。
【0067】
研磨剤は、複層保護層10を洗浄する際に、保護被膜30を研磨して保護被膜30の剥離を促進するものである。研磨剤は、市販品を使用することができ、材質として、アルミナ、炭化ケイ素、セリウム、ダイヤモンドなどを使用することができる。研磨剤の平均粒子径(メジアン径d50)は、0.2~10μmとすることができ、別の実施形態として0.8~3μmとすることができる。また、研磨剤は、アルカリ洗浄剤に10~30質量%含有させることができ、別の実施形態として、アルカリ洗浄剤に20~25質量%含有させることができる。
【0068】
増粘剤は、アルカリ洗浄剤における研磨剤の沈降を防止するとともに、アルカリ洗浄剤の拭き取り作業性を改善する粘性を付与する添加剤である。増粘剤は、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの市販品を使用することができ、アルカリ洗浄剤に1~3質量%含有させることができる。別の実施形態として、増粘剤は、アルカリ洗浄剤に1~2質量%含有させることができる。
【0069】
実施形態の車両のコーティング方法で形成された複層保護層10を備える車両が屋外環境下にあることによって、車両はきれいな状態を保つことができる。複層保護層10は、保護被膜30の表面に形成されたループ形状体31によって、異物(汚れ)の付着が抑制される。ループ形状体31が撥水性を備えることによって、車両が屋外環境下にあり、降雨時に、雨水が車両にかかることによって、保護被膜30は、保護被膜30の表面に水(雨水)を転動させて、保護被膜30にくっついた異物(汚れ)を洗い流すことができる。これにより、保護被膜30(複層保護層10)を備える車両は、定期的に必要とされていた車両の洗浄(洗車)の頻度を著しく少なくすることができ、エコに貢献することができる。
【0070】
実施形態の複層保護層10を備える車両の外装1の再コーティング方法は、下塗被膜20と保護被膜30からなる複層保護層10を備える上記の車両の外装1に、アルカリ洗浄剤を用いて洗浄する洗浄工程と、洗浄工程の後に行われ、洗浄された複層保護層10に、車両用コーティング剤を塗装して、保護被膜30を再形成させるコーティング剤再塗装工程と、を有する。車両の外装1に形成された複層保護層10は、その表面から外側に向けてループ形状体31が形成され、ループ形状体31が異物(汚れ)の密着を抑制することができるものの、長期間の使用(走行)により、傷などから汚れが付着したり、摩耗したり、再塗装が必要となることがあるためである。
【0071】
洗浄工程は、
図3(A)に示すように、アルカリ洗浄剤を用いて、下塗被膜20に密着した保護被膜30を加水分解することによって、保護被膜30を剥離する工程である。洗浄工程は、アルカリ洗浄剤を用いて、ウエスやスポンジなどで複層保護層10を上から拭き取ることによって行なう。このとき、アルカリ洗浄剤に含まれる研磨剤が下塗被膜20に密着した保護被膜30を研磨して物理的に除去するとともに、アルカリが保護被膜30を加水分解し、下塗被膜20を残したまま、保護被膜30のみを剥離することができる(
図3(B))。下塗被膜20のQ単位シリコーンがアルカリに対して抵抗力を有しているため、下塗被膜20は剥離しないものと考えられる。洗浄工程では、複層保護層10にアルカリ洗浄剤が残らないように、水洗いを十分に行なう。
【0072】
コーティング剤再塗装工程は、
図3(C)に示すように、下塗被膜20が残存している車両の外装1に車両用コーティング剤を塗装する工程であり、下塗被膜20が残存している車両の外装1に車両用コーティング剤を刷毛、ウエス又はスポンジなどで塗り広げる。車両用コーティング剤から形成される保護被膜30は、車両用コーティング剤に含有されるT単位シロキサンとD単位シロキサンとが下塗被膜20のQ単位シロキサンとアルキルアルコキシシランと架橋するため、強固かつ追従するように下塗被膜20に密着する。車両用コーティング剤から形成される保護被膜30は、保護被膜30から外側に向けてループ形状体31が形成され、ループ形状体31が異物(汚れ)の密着を抑制する。
【実施例0073】
実施例では、試験体は、車両の外装1として塗装面に、下塗剤から形成される下塗被膜20を形成させ、下塗被膜20に種々の原材料を変更させた車両用コーティング剤から形成される保護被膜30を形成させ、複層保護層10を作成し、試験体とした。そして、種々の試験体に、光沢度試験、撥水性試験、汚れ付着性試験及び耐擦傷性試験を実施して、その評価を行った。各試験の評価方法は、以下の通りである。
【0074】
<光沢度試験>
光沢度試験は、試験体の光沢について、ブランク(未処理の塗装面)との相違を目視で判断した。そして、光沢がブランクより優れるものを◎、光沢がブランク同等であるものを○、光沢がブランクより僅かに劣るものを△、光沢がブランクより明らかに劣るものを×、として評価した。
【0075】
<撥水性試験>
撥水性試験は、スプレーを用いて試験体に水道水を散布し、撥水性について、ブランクとの相違を目視で判断した。そして、撥水性がブランクより優れるものを◎、撥水性がブランク同等であるものを○、撥水性がブランクより僅かに劣るものを△、撥水性がブランクより明らかに劣るものを×、として評価した。
【0076】
<汚れ付着性試験>
汚れ付着性試験は、試験体を屋外暴露試験に供して、試験体を水で洗浄したのちに、ティッシュペーパを用いて試験体の表面を拭き取り、ティッシュペーパに付着した汚れ(煤など)の有無を目視で確認した。屋外暴露試験は、愛知県大府市内の国道155号線から約50m離れた位置に、試験体を地表から30cm浮かせて水平に30日間設置することによって行なった。そして、汚れが残っていないものを○、汚れが残っているものを×、として評価した。
【0077】
<耐擦傷性試験>
耐擦傷性試験は、試験体である改質処理された表示画面に、連続荷重式引掻強度試験機を用いて試験を行い、試験箇所の変化をその周囲の非試験箇所との比較により評価した。そして、非試験箇所と比較して、光沢の低下がみられないものを○、光沢の低下が僅かに見られるものを△、光沢の低下が著しいものを×、として評価した。試験条件は、連続荷重式引掻強度試験機:新東科学株式会社製連続荷重式引掻強度試験機TYPE18、擦傷体:日本スチールウール株式会社製スチールウール#0000、荷重:250g、ストローク:25mm、回数:50往復である。
【0078】
実施例で使用する、下塗剤の配合を表1に、車両用コーティング剤に使用されるDT単位シリコーンレジンの詳細を表2に、車両用コーティング剤に使用される変性シリコーンオイルの詳細を表3に、車両用コーティング剤の配合を表4に、それぞれ記載した。また、表4には、各実施例について、上記の試験の評価結果を記載した。なお、表5には、試験例9で使用するアルカリ洗浄剤の配合を記載した。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
(実施例1)
実施例1は、車両の外装1として塗装面に、表1に記載の下塗剤Aを塗装して下塗被膜20を形成させ、下塗被膜20に、DT単位シリコーンレジンAと平均分子量35000シラノール両末端型の変性シリコーンオイルA(ジシラノール化合物)を含有する車両用コーティング剤を塗装して、保護被膜30を形成させ、複層保護層10としたものである。試験結果は、光沢度がブランク(未処理の塗装面)より優れ、撥水性がブランクより優れ、汚れ付着性試験では汚れが残らず、耐擦傷性試験は非試験箇所と比較して光沢の低下がみられなく、全てにおいて良好な結果であった。
【0085】
(実施例2)
実施例2は、実施例1から、車両用コーティング剤の変性シリコーンオイルを平均分子量110000シラノール両末端型の変性シリコーンオイルB(ジシラノール化合物)に変更して、複層保護層10を作成したものである。試験結果は、試験例1同様に、全てにおいて良好な結果であった。
【0086】
(実施例3)
実施例3は、実施例1から、車両用コーティング剤の変性シリコーンオイルを、平均分子量49000シラノールをアルコキシ変性させたアルコキシ両末端型の変性シリコーンオイルCに変更して、複層保護層10を作成したものである。試験結果は、試験例1同様に、全てにおいて良好な結果であった。なお、実施例3の車両用コーティング剤は、変性シリコーンオイルがアルキルオキシ両末端型の変性シリコーンオイルであるため、貯蔵安定性に優れるものであった。
【0087】
(実施例4)
実施例4は、実施例3から、車両用コーティング剤の変性シリコーンオイルを、平均分子量110000のアルコキシ両末端型の変性シリコーンオイルDに変更して、複層保護層10を作成したものである。試験結果は、試験例3同様に、全てにおいて良好な結果であった。なお、光沢度は、実施例1~4の中で最も優れるものであった。分子の両末端にアルキルオキシ基を有する変性シリコーンオイルの一部の分子同士が縮合反応を起こして二量体を形成し、二量体が保護被膜30の表面を平滑にしたためと推測する。
【0088】
(実施例5~8)
実施例5~8は、実施例1~4の車両用コーティング剤のDT単位シリコーンレジンAをDT単位シリコーンレジンBにそれぞれ変更して、複層保護層10を作成したものである。実施例5~8の試験結果は、それぞれ、実施例1~4の結果と同様であり、全てにおいて良好な結果であった。
【0089】
(比較例1)
比較例1は、ブランク(未処理の塗装面)について試験を行った。試験結果は、光沢度と撥水性がもちろんブランク同等であり、汚れ付着性試験では汚れが残り、耐擦傷性試験は非試験箇所と比較して光沢の低下が著しいものであった。
【0090】
(比較例2)
比較例2は、市販のポリシラザン系の車両用コーティング剤を車両の外装1としての塗装面に塗布して比較したものである。下塗剤は塗装していない。試験結果は、光沢度がブランク(未処理の塗装面)より優れ、撥水性がブランクより優れ、汚れ付着性試験では汚れが残り、耐擦傷性試験は非試験箇所と比較して光沢の低下は見られなかった。
【0091】
(実施例9)
実施例9は、車両の外装1として自動車の塗装面に、実施例4に則して下塗被膜20と保護被膜30を形成させ、複層保護層10を形成させた自動車を、60日間使用(走行)させたものについて、車両用コーティング剤を再塗装した。再塗装の施工手順は以下の通りである。
1 アルカリ洗浄剤(表5)による洗浄
2 実施例4の車両用コーティング剤の塗装
再塗装前の実施例4の車両用コーティング剤が施工された自動車の外装1は、高い光沢を有し、撥水性、汚れ付着防止性に優れるものであったが、60日間使用(走行)させたことにより、飛び石などによる擦り傷が生じていた。複層保護層10が形成された自動車の外装1にアルカリ洗浄剤を用いて洗浄することにより(
図3(A))、下塗被膜20に結合した、保護被膜30のT単位及びD単位のアルコキシシランの結合を加水分解させて、保護被膜30を下塗被膜20から剥離させた(
図3(B))。このとき、下地に強固かつ追従するように密着する下塗被膜20は、剥がれることなく、ステンレスの基材に残存していた。水洗いでアルカリ洗浄剤を落とした後に、再度、実施例4の車両用コーティング剤を施工することにより、高い光沢を有し、撥水性、汚れ付着防止性に優れる保護被膜30を形成することができた。
【0092】
実施形態の車両用コーティング剤によれば、三次元的に架橋する結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシロキサン(以下、「T単位シロキサン」ということがある。)と、二次元的に架橋する結合構造単位に式(R2
2SiO2/2)で示されるシロキサン(以下、「D単位シロキサン」ということがある。)との混合物のシリコーンレジンが含有されている。このため、車両用コーティング剤から形成される保護被膜30は、T単位シロキサンの硬質な三次元的に架橋するレジンとD単位シロキサンの柔軟な二次元的に架橋するレジンとで構成されているため、可撓性を有する硬質な保護被膜30を形成する。また、車両用コーティング剤は、分子の両末端にそれぞれシラノール基を有する変性シリコーンオイルを含有しているため、塗装された車両用コーティング剤が車両の外装1の表層で成膜して保護被膜30を形成する際に、シリコーンレジンに馴染まない変性シリコーンオイルの主鎖が、車両の外装1の表層から外側に向けてループ形状体31を形成する。このループ形状体31は、異物(汚れ)の密着を抑制することができる。つまり、実施形態に係る車両用コーティング剤は、可撓性を有して硬質な保護被膜30を形成し、ループ形状体31で被覆されているため、汚れの付着を抑制することができる。
【0093】
以上のように構成された実施形態の車両用コーティング剤から把握されるその他の技術的思想について、以下に記載する。
【0094】
車両用コーティング剤の塗装方法であって、上記下塗剤が硬化触媒を含有せず、上記車両用コーティング剤が硬化触媒を含有しているものとすることができる。
【0095】
これによれば、下塗剤の硬化時間を長くすることができ、下塗剤の硬化途中に車両用コーティング剤を塗装することによって、車両用コーティング剤に含有されるT単位シリコーンレジン及びD単位シリコーンレジン、を下塗剤のQ単位シロキサン及びT単位アルキルアルコキシシランと強固に架橋させることができる。
【0096】
また、複層保護層を備える車両の外装の再塗装方法は、上記の車両のコーティング方法によって形成された前記複層保護層の再塗装方法であって、
アルカリ洗浄剤を用いて洗浄する洗浄工程と、
該洗浄工程の後に行われ、洗浄された該複層保護層に、上記の車両用コーティング剤を塗装して、前記保護被膜を再形成させる保護剤再塗装工程と、
を有するものとすることができる。
【0097】
これによれば、アルカリ洗浄剤が、下塗被膜に密着した保護被膜を加水分解することによって、保護被膜を剥離することができる。洗浄されて保護被膜が剥離された複層保護層は、下塗被膜が残存し、下塗被膜に水回り保護剤を塗装することによって、保護被膜を再形成させることができる。