(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097722
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】カーテンフレーム装置および熱処理設備
(51)【国際特許分類】
F23Q 7/22 20060101AFI20240711BHJP
F23N 5/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
F23Q7/22 620A
F23Q7/22 E
F23Q7/22 620B
F23N5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001397
(22)【出願日】2023-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】306039120
【氏名又は名称】DOWAサーモテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】畠中 北斗
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一良
(72)【発明者】
【氏名】日高 巧智
【テーマコード(参考)】
3K003
【Fターム(参考)】
3K003EA08
3K003GA03
3K003HA04
(57)【要約】
【課題】パイロットバーナを使用せずにカーテンバーナの点火を行う。
【解決手段】熱処理設備の処理室の開口部を覆うカーテンフレームを形成するためのカーテンフレーム装置20において、カーテンフレームを形成するカーテンバーナ30と、発熱体41を有する電気ヒータ40と、を設け、カーテンバーナ30は、内部に可燃ガスが流れるガス管31と、ガス管31に形成された可燃ガスを吐出する複数のガス吐出口32と、を有し、発熱体41をガス吐出口32の上方に配置する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理設備の処理室の開口部を覆うカーテンフレームを形成するためのカーテンフレーム装置であって、
前記カーテンフレームを形成するカーテンバーナと、
発熱体を有する電気ヒータと、を備え、
前記カーテンバーナは、
内部に可燃ガスが流れるガス管と、
前記ガス管に形成され、前記可燃ガスを吐出する複数のガス吐出口と、を有し、
前記発熱体は、前記ガス吐出口の上方に配置されていることを特徴とする、カーテンフレーム装置。
【請求項2】
前記電気ヒータは、前記発熱体の上面を覆うヒータカバーを有し、
前記ヒータカバーは、前記発熱体のリード線側端部から先端側端部に向かう方向に延びていて、
前記ヒータカバーの延伸方向に対して垂直な断面において、前記ヒータカバーの下面には、上方に向かって凹む凹部が設けられ、
前記ガス吐出口は、前記凹部の下方に位置していることを特徴とする、請求項1に記載のカーテンフレーム装置。
【請求項3】
前記凹部は、前記ヒータカバーの延伸方向に沿って連続して形成されていることを特徴とする、請求項2に記載のカーテンフレーム装置。
【請求項4】
前記凹部の下方に位置する前記ガス吐出口が複数存在することを特徴とする、請求項2または3に記載のカーテンフレーム装置。
【請求項5】
前記ヒータカバーの延伸方向に垂直な断面において、前記凹部の内面形状は、円弧状であることを特徴とする、請求項2または3に記載のカーテンフレーム装置。
【請求項6】
前記ヒータカバーは、該ヒータカバーの延伸方向に垂直な断面の形状が円弧状の部材であることを特徴とする、請求項2または3に記載のカーテンフレーム装置。
【請求項7】
鉛直方向から見たときの前記発熱体の延伸方向は、前記ガス管の管軸方向に対して垂直な方向であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のカーテンフレーム装置。
【請求項8】
被処理品の熱処理を行う熱処理設備であって、
前記被処理品が通過する開口部を有した処理室と、
前記開口部の近傍に設けられた、請求項1~3のいずれか一項に記載のカーテンフレーム装置と、を備えていることを特徴とする、熱処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーテンフレーム装置および熱処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や他の機械部品等の表面硬化処理方法として、例えばガス浸炭処理が知られている。ガス浸炭処理は、浸炭室や焼入れ室等の処理室を備えたガス浸炭設備で行われ、被処理品は、所定の雰囲気で満たされた処理室内で加熱や浸炭、焼入れといった所定の熱処理が施される。例えば浸炭室においては、カーボンポテンシャルが所定の数値範囲内となるように制御された雰囲気下で被処理品の浸炭処理が行われる。
【0003】
ガス浸炭設備は、被処理品の熱処理中に処理室内が所定の雰囲気で保持されるように処理室の内部空間と外部空間とを隔てるための扉を備えている。この扉は、熱処理が完了した被処理品が処理室から搬出される際、または、次に熱処理が施される被処理品が処理室に搬入される際に開放される。
【0004】
ところで、上記の扉が開放された際には処理室への外気の流入や処理室内の雰囲気の流出が生じるが、ここで処理室内の雰囲気が大きく変化すると、被処理品の浸炭品質に影響を与える。例えば浸炭室内に外気が流入すると、外気中の酸素ガスが浸炭室内の浸炭性ガスと反応することによってカーボンポテンシャルが低下し、所望の浸炭品質を担保できない場合もある。このような問題は、ガス浸炭設備に限らず、処理室内を所定の雰囲気で満たして被処理品の熱処理を行う他の熱処理設備においても同様に生じ得る。
【0005】
このため、従来の熱処理設備においては、被処理品の搬出口または搬入口となる処理室の開口部付近にカーテンフレーム装置が設けられることが一般的である。カーテンフレーム装置は、帯状の炎(いわゆるカーテンフレーム)を発生させる装置であり、カーテンフレームで処理室の開口部を覆うことによって処理室への外気の流入や処理室内の雰囲気の流出を抑制することができる。例えば処理室内に流入し得る外気中の酸素ガスは、カーテンフレームによる燃焼反応によって消費されるため、処理室内の雰囲気変化を抑制することができる。
【0006】
カーテンフレーム装置に関する技術として、特許文献1には、雰囲気熱処理炉の出入口近傍に設けられたカーテンバーナと、そのカーテンバーナに点火するためのパイロットバーナ装置が開示されている。特許文献1に記載のパイロットバーナ装置は、一端に燃焼ガスとエアーの導入口を有し、かつ他端にパイロット炎の吹出し口を有する管状部材と、その管状部材内に設けた発熱部で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されたカーテンバーナの点火構造においては、カーテンバーナとパイロットバーナの各々に可燃ガスを供給する必要がある。すなわち、カーテンフレームを形成するカーテンバーナの点火を行うためにのみ使用されるパイロットバーナにも可燃ガスを供給する必要があるため、CO2排出量の削減の観点では改善の余地がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、パイロットバーナを使用せずにカーテンバーナの点火を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の態様を以下に例示する。
[1]熱処理設備の処理室の開口部を覆うカーテンフレームを形成するためのカーテンフレーム装置であって、
前記カーテンフレームを形成するカーテンバーナと、
発熱体を有する電気ヒータと、を備え、
前記カーテンバーナは、
内部に可燃ガスが流れるガス管と、
前記ガス管に形成され、前記可燃ガスを吐出する複数のガス吐出口と、を有し、
前記発熱体は、前記ガス吐出口の上方に配置されていることを特徴とする、カーテンフレーム装置。
[2]前記電気ヒータは、前記発熱体の上面を覆うヒータカバーを有し、
前記ヒータカバーは、前記発熱体のリード線側端部から先端側端部に向かう方向に延びていて、
前記ヒータカバーの延伸方向に対して垂直な断面において、前記ヒータカバーの下面には、上方に向かって凹む凹部が設けられ、
前記ガス吐出口は、前記凹部の下方に位置していることを特徴とする、[1]に記載のカーテンフレーム装置。
[3]前記凹部は、前記ヒータカバーの延伸方向に沿って連続して形成されていることを特徴とする、[2]に記載のカーテンフレーム装置。
[4]前記凹部の下方に位置する前記ガス吐出口が複数存在することを特徴とする、[2]または[3]に記載のカーテンフレーム装置。
[5]前記ヒータカバーの延伸方向に垂直な断面において、前記凹部の内面形状は、円弧状であることを特徴とする、[2]~[4]のいずれかに記載のカーテンフレーム装置。
[6]前記ヒータカバーは、該ヒータカバーの延伸方向に垂直な断面の形状が円弧状の部材であることを特徴とする、[2]~[5]のいずれかに記載のカーテンフレーム装置。
[7]鉛直方向から見たときの前記発熱体の延伸方向は、前記ガス管の管軸方向に対して垂直な方向であることを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載のカーテンフレーム装置。
[8]被処理品の熱処理を行う熱処理設備であって、
前記被処理品が通過する開口部を有した処理室と、
前記開口部の近傍に設けられた、[1]~[7]のいずれかに記載のカーテンフレーム装置と、を備えていることを特徴とする、熱処理設備。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パイロットバーナを使用せずにカーテンバーナの点火を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るガス浸炭設備の一部構成を示す説明図である。
【
図2】ガス浸炭設備が備える油槽を外側(被処理品の出側)から見た図である。
【
図3】カーテンフレーム装置の概略構成を示す斜視図である。
【
図4】カーテンバーナを鉛直方向上方から見た図である。
【
図7】カーテンフレーム装置をガス管の管軸方向から見た図である。
【
図8】電気ヒータにヒータカバーを設けた形態を示す説明図である。
【
図9】
図8のA-A断面を模式的に示した図である。
【
図10】ヒータカバーを設けた場合の可燃ガスの流れを模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、図面中のX方向、Y方向およびZ方向は互いに垂直な方向である。
【0014】
(ガス浸炭設備)
図1は、本実施形態に係るガス浸炭設備1の一部構成を示す説明図である。
図1においては、ガス浸炭設備1が備える処理室の一例である浸炭室10と、別の処理室の一例である油槽11の周辺のみが図示されている。
図2は、ガス浸炭設備1が備える油槽11を外側(被処理品Wの出側)から見た図である。
【0015】
ガス浸炭設備1は、いわゆる連続処理式の浸炭設備であり、順次装入される熱処理対象の被処理品Wに対して連続的に浸炭焼入れ処理を行う。
図1に示す例では、
図1の左方から右方に向かって被処理品Wが搬送される。なお、ガス浸炭設備1は熱処理設備の一例であり、熱処理設備の種類は、処理室内を所定の雰囲気とした状態で熱処理を行う設備であれば特に限定されない。
【0016】
浸炭室10は、側壁に被処理品Wが通過する開口部(以下“搬送口10a”)を有している。浸炭室10の外側には搬送口10aを覆う昇降式の扉12が設けられており、扉12の開放時には、浸炭室10の搬送口10aを介して被処理品Wが浸炭室10から油槽11に搬送される。
【0017】
油槽11は、浸炭室10側とは反対側(X方向正側)の側壁に被処理品Wが通過する開口部(以下“搬出口11a”)を有している。油槽11の外側には搬出口11aを覆う昇降式の扉13が設けられており、扉13の開放時には、搬出口11aを介して被処理品Wが油槽11から搬出される。
【0018】
ガス浸炭設備1で被処理品Wの浸炭処理を行う際には、扉12および扉13が閉じられ、各処理室内が所定の雰囲気で満たされる。例えば浸炭室10内は、カーボンポテンシャルが所定の数値範囲内となるような浸炭雰囲気で満たされる。また、例えば油槽11内は、被処理品Wが酸化しないように低酸素雰囲気で満たされる。
【0019】
なお、本実施形態においては、浸炭室10と油槽11が隣接して配置されているが、ガス浸炭設備1の構成は、本実施形態で説明する構成に限定されず、例えば浸炭室10と油槽11とが隣接しない構成であってもよい。この場合、浸炭室10で浸炭処理が施された被処理品Wは、浸炭室10から一度搬出され、浸炭室10に対して間隔を空けて配置された油槽11まで搬送されて、焼入れ処理が施される。
【0020】
ガス浸炭設備1は、油槽11の出側にカーテンフレーム装置20を備えている。カーテンフレーム装置20の詳細な説明については後述するが、カーテンフレーム装置20は、カーテンフレームを形成するカーテンバーナ30を備えている。
【0021】
そのカーテンバーナ30は、搬出口11aよりも下方に配置され、
図2に示すように搬出口11aに正対する方向から見て、搬出口11aの幅方向(Y方向)に延びた形状を有している。本実施形態に係るカーテンフレーム装置20においては、カーテンバーナ30から上方に向けて吐出された可燃ガスに対して、後述する電気ヒータで点火することによってカーテンフレームが形成される。
【0022】
なお、カーテンバーナ30は、被処理品Wが通過する処理室の開口部を介した雰囲気の流入または流出を抑制するために設けられる。したがって、処理室内の雰囲気変化を抑制する観点では、カーテンバーナ30は、油槽11の搬出口11a以外の他の開口部の近傍に設置されてもよい。例えばカーテンバーナ30は、浸炭室10の入側の開口部(図示せず)の近傍に設置されてもよい。
【0023】
(カーテンフレーム装置)
次に、
図3~
図5を参照しながら、本実施形態に係るカーテンフレーム装置20について更に詳細に説明する。
図3は、カーテンフレーム装置20の概略構成を示す斜視図である。
図4は、カーテンバーナ30を鉛直方向上方から見た図である。
図5は、
図4の拡大図である。
【0024】
カーテンフレーム装置20は、前述したカーテンフレームを形成するカーテンバーナ30と、カーテンバーナ30から吐出される可燃ガスに点火するための電気ヒータ40を備えている。
【0025】
カーテンバーナ30は、内部に可燃ガスが流れるガス管31を有している。ガス管31は、一方向に延びた直線状に形成され、ガス管31には、可燃ガスを吐出する複数のガス吐出口32が形成されている。ガス管31は、延伸方向(換言すれば管軸方向)が油槽の搬出口の幅方向(Y方向)に向いた状態、かつ、上記のガス吐出口32が鉛直方向(Z方向)の上方に向いた状態で固定されている。
【0026】
複数のガス吐出口32は、ガス管31の管軸方向(Y方向)に平行な列をなすように直線上に並んで配置され、ガス吐出口32の列は、2列形成されている。各々の列は、ガス管31を上方から見た際にガス管31の管軸C(
図4)を間に挟んで配置され、管軸Cから各ガス吐出口32までの距離はそれぞれ等しい。
【0027】
また、1つの列内で隣り合うガス吐出口32の間隔は等間隔であるが、2列のうちの一方の列をなす各ガス吐出口32は、他方の列をなす各ガス吐出口32の配置に対して、各ガス吐出口32の間隔の半ピッチ分、Y方向にずれて配置されている。すなわち、複数のガス吐出口32の配置は千鳥配置となっている。
【0028】
Y方向において隣り合うガス吐出口32の間隔DYは、例えば5~15mmである。また、X方向において隣り合うガス吐出口32の列の間隔DXは、例えば5~20mmである。
【0029】
なお、ガス吐出口32の配置は、カーテンフレームの形成が可能であれば特に限定されず、千鳥配置でなくてもよい。また例えば、ガス吐出口32は、1列または3列以上配置されてもよいし、列状に配置されなくてもよい。
【0030】
ガス吐出口32は、吐出する可燃ガスの流量に応じて適切な大きさが異なるため、ガス吐出口32の大きさは、予め設定される所望のガス流量によって適宜設定されるが、例えば直径1~10mm、好ましくは直径2~5mmである。また、油槽の扉の開放時などのカーテンフレームを形成するタイミングにおいて、可燃ガスの吐出開始から吐出停止までのガスの総量は、例えば0.05~0.5m3である。
【0031】
上述したガス吐出口32が形成されたガス管31は、例えば可燃ガスを供給するガスボンベなどのガス供給源33(
図4)に接続され、ガス供給源33から供給された可燃ガスは、ガス管31のガス吐出口32から吐出される。カーテンフレームの形成が可能であれば、可燃ガスの種類は特に限定されないが、例えば都市ガスやプロパンガス等の炭化水素系ガスが使用される。また、可燃ガスの温度は、例えば常温(20~40℃)である。
【0032】
次に、
図3~
図5に加えて
図6及び
図7を参照しながら、カーテンバーナ30から吐出される可燃ガスへの点火を行うための電気ヒータ40について説明する。
図6は、電気ヒータ40の概略構成を示す説明図である。
図7は、カーテンフレーム装置20をガス管31の管軸方向から見た図である。
【0033】
電気ヒータ40は、発熱体41と、発熱体41を支持する支持部42と、発熱体41に繋がるリード線43を有している。
【0034】
発熱体41は、例えば窒化ケイ素やアルミナなどのセラミックで形成され、通電によって少なくとも一部が赤熱する。本明細書においては、通電によって赤熱する部分を「発熱部41a」と称す。発熱部41aの温度は、可燃ガスの着火温度以上であればよく、例えば1000℃以上、好ましくは1100℃以上、より好ましくは1150℃以上である。なお、本実施形態における発熱体41は、一方向に沿って直線状に延びた形状を有しているが、発熱体41の形状は特に限定されない。
【0035】
支持部42は、例えばアルミナからなる筒状部材である。発熱体41は、支持部42の一端部で支持され、発熱体41に繋がるリード線43は、支持部42の内方を通り当該支持部42の他端から引き出されている。また、
図3に示すように、支持部42には、リード線43の周囲を囲う防護カバー44が取り付けられている。防護カバー44は、例えばSUSなどの耐熱素材からなり、カーテンフレームの熱からリード線43を保護する機能を有する。
【0036】
以上で説明した電気ヒータ40においては、発熱体41がガス吐出口32の上方に配置されている。このため、
図4に示すように、ガス管31を鉛直方向(Z方向)の上方から発熱体41を見た際には、発熱体41の少なくとも一部とカーテンフレームの形成領域R(二点鎖線に囲まれる領域)とが重なっている。カーテンフレームの形成領域Rとは、ガス管31を鉛直方向の上方から見た際の複数のガス吐出口32を全て囲む方形の領域であって、かつ、方形を構成する4辺の各々の辺に少なくとも1つのガス吐出口32が接する領域である。
【0037】
ガス吐出口32の上方に発熱体41が配置されていることによって、ガス吐出口32から上方に向けて吐出された可燃ガスが発熱体41の発熱部41aに接触する。換言すると、発熱体41は、ガス吐出口32の上方において、そのガス吐出口32から吐出される可燃ガスに接触する位置に配置されている。そして、ガス吐出口32から吐出された可燃ガスは、発熱体41に接触することによって加熱される。
【0038】
なお、発熱体41は、複数のガス吐出口32のうちの全てのガス吐出口32の上方に位置していなくてもよく、
図4に示したように複数のガス吐出口32のうちの一部のガス吐出口32の上方に位置していればよい。
図4のようなガス管31の上面視において、発熱体41に覆われるガス吐出口32の数が少ないほど、カーテンフレームの形成が阻害され難くなり、油槽11内の雰囲気遮断効果が高まる。
【0039】
本実施形態における発熱体41は、
図5に示すように発熱部41aがいずれのガス吐出口32に対しても重ならないように発熱体41が配置されている。なお、ガス管31を鉛直方向上方から見た際に、発熱体41の発熱部41aの中心P(
図5)は、ガス管31の管軸C上に位置していることが好ましい。これにより、ガス吐出口32から吐出される可燃ガスが発熱部41aに接触し易くなる。
【0040】
発熱体41は、
図4に示したカーテンフレームの形成領域Rの中央部に配置されてもよいが、領域Rの端部(すなわちガス管31の先端側の端部またはガス供給源33側の端部)の近傍に配置されることが好ましい。これによって、油槽11から搬出される被処理品Wから落下する焼入れ用の油が発熱体41に付着し難くなり、発熱体41の汚損を抑制できる。
【0041】
さらに、ガス管31を鉛直方向上方から見た際に、発熱体41の延伸方向(すなわち発熱体41のリード線43側から先端側に向かう方向)は、ガス管31の管軸方向(Y方向)に対して垂直な方向であることが好ましい。これにより、発熱体41の延伸方向とガス管31の管軸方向とが平行である場合と比較して、発熱体41がカーテンフレームの炎に炙られる面積が小さくなり、発熱体41の寿命低下を抑制できる。
【0042】
図7に示すように、ガス吐出口32から発熱体41までの高さHは、5mm以上であることが好ましい。ガス吐出口32から吐出する可燃ガスは、ガス吐出口32から放射状に拡散するため、ガス吐出口32から5mm以上間隔を空けて発熱体41を配置することによって、ガス吐出口32から吐出される可燃ガスが発熱体41の発熱部41aに接触し易くなる。なお、高さHの上限は、可燃ガスが接触可能な高さであれば特に限定されないが、例えば60mm以下に設定される。
【0043】
以上、本実施形態に係るカーテンフレーム装置20の概略構成について説明した。このカーテンフレーム装置20は、油槽11(
図2)から被処理品Wが搬出される際に例えば以下のように動作する。
【0044】
まず、油槽11の扉13が開くタイミングの所定の時間前(例えば10秒前)に、電気ヒータ40がONとなり、発熱体41が通電する。これにより発熱体41の発熱部41aが所定の温度(例えば1000℃)まで加熱される。
【0045】
なお、通電中の電気ヒータ40の電流値は常時監視されており、電流値の情報は図示しない制御部に送信される。そして、電気ヒータ40の通電開始から所定の時間(例えば10秒)が経過した後の電流値が設定電流値の±15%の範囲外の状態が数秒間(例えば3秒間)維持された場合には、制御部において電気ヒータ40の異常が発生したと判定され、警告信号が出力される。
【0046】
発熱体41への通電によって発熱部41aが加熱された後、
図7に示したガス管31に可燃ガスが供給され、ガス管31のガス吐出口32から上方に向けて可燃ガスが吐出される。ここで吐出された可燃ガスは、発熱部41aに接触することで着火し、これによってカーテンフレームが形成される。
【0047】
その後、油槽11の扉13(
図2)が開き、被処理品Wが油槽11から搬出される。なお、扉13が開いている間は、電気ヒータ40は常時ON状態にある。被処理品Wが油槽11から搬出された後、扉13が閉じ、カーテンバーナ30への可燃ガスの供給が停止される。これによってカーテンフレームが消失する。そして、可燃ガスの供給停止から所定の時間(例えば30秒)が経過した後、電気ヒータ40がOFFとなり、発熱体41への通電が停止する。
【0048】
以上で説明した本実施形態に係るカーテンフレーム装置20においては、可燃ガスを吐出するガス吐出口32の上方に電気ヒータ40の発熱体41が位置しているため、電気ヒータ40でカーテンバーナ30に点火することができる。すなわち、カーテンフレーム装置20においては、カーテンバーナ30に点火するためのパイロットバーナを使用せずにカーテンフレームを形成できる。これにより、パイロットバーナの使用によって発生するCO2の排出量を抑制することができる。
【0049】
また、カーテンバーナ30に点火するためのパイロットバーナの設置が不要となることで、パイロットバーナに可燃ガスを供給する配管などの部品が不要となり、ガス浸炭設備1の構造を簡素化することも可能となる。
【0050】
(ヒータカバー)
次に、上述したカーテンフレーム装置20のより好ましい形態について説明する。
図8は、電気ヒータ40にヒータカバー45を設けた形態を示す説明図である。
図9は、
図8のA-A断面を模式的に示した図である。これらの図に示すように、電気ヒータ40にはヒータカバー45を設けることが好ましい。
【0051】
ヒータカバー45は、発熱体41の上面を覆う部材であって、ガス吐出口32から吐出される可燃ガスを発熱体41の上方で一時的に受け止める機能を有する。このヒータカバー45は、発熱体41の延伸方向、すなわち発熱体41のリード線43側の端部から先端側の端部に向かう方向に沿って延びた板材である。ヒータカバー45は、例えばSUSなどの材料で形成される。
【0052】
図9に示すように、ヒータカバー45の延伸方向(X方向)に垂直な断面の形状は円弧状であり、ヒータカバー45は、円弧状の凹部46が発熱体41側に向くように配置されている。換言すると、ヒータカバー45の下面には、上方に向かって凹む凹部46が設けられている。
【0053】
凹部46は、ヒータカバー45の延伸方向(X方向)に沿って連続して形成されており、本実施形態においては、凹部46はヒータカバー45の全長に亘って延びている。前述のガス吐出口32は、この凹部46の下方に位置しており、カーテンフレーム装置20を鉛直方向上方から見た際に、ヒータカバー45は、発熱体41と少なくとも1つのガス吐出口32の上に重なっている。なお、発熱体41からのヒータカバー45の高さは、後述するヒータカバー45の機能を担保できる範囲で適宜変更される。
【0054】
上記のようなヒータカバー45を有するカーテンフレーム装置20において、ガス吐出口32から可燃ガスが吐出された際には、吐出された可燃ガスは
図10の矢印で例示する流れを形成する。具体的には、ガス吐出口32から上方に向けて吐出された可燃ガスは、発熱体41とヒータカバー45との間隙を通過して凹部46の内面46aに沿って流れ、その後、下方に向かって流れる。一方で、ガス吐出口32から吐出される後続の可燃ガスは、発熱体41とヒータカバー45との間隙から上向きに流入し続ける。
【0055】
その結果、発熱体41の上方とヒータカバー45との間の空間で可燃ガスの循環と滞留が発生する。ここで循環と滞留が生じた可燃ガスは、発熱体41の発熱部41aによって加熱され易くなる。これに加え、ヒータカバー45自体も発熱部41aによって加熱されるため、ヒータカバー45内で滞留する可燃ガスは、昇温したヒータカバー45によって冷却され難くなる。これによって、ヒータカバー45を設けない場合と比較して可燃ガスが着火温度まで上昇し易くなる。すなわち、ヒータカバー45を有するカーテンフレーム装置20によれば、カーテンバーナ30への点火が容易となる。
【0056】
この効果を高める観点では、ヒータカバー45で複数のガス吐出口32を覆い、複数のガス吐出口32が凹部46の下方に位置することが好ましい。これにより、発熱体41とヒータカバー45との間の空間に流入する可燃ガスの流量が増加し、可燃ガスの循環と滞留が生じ易くなる。これによって可燃ガスを着火させ易くすることができる。
【0057】
なお、可燃ガスの循環と滞留を発生させる効果を得る観点では、凹部46がヒータカバー45の延伸方向に沿って連続してなくてもよい。例えばヒータカバー45の下面の1点に凹部46として窪みが形成されている場合であっても、その凹部46が発熱体41の発熱部41aの上方に位置するように電気ヒータ40を設置すれば、凹部46内における可燃ガスの循環と滞留を生じさせることができる。
【0058】
ただし、カーテンフレーム装置20においては、凹部46がヒータカバー45の延伸方向(X方向)に延びた形状であることが好ましい。これにより、電気ヒータ40を設置する際に、ガス吐出口32に対する凹部46の位置調節を厳格に行わなくても、ガス吐出口32からの可燃ガスを凹部46で受け止めることができる。この効果を高める観点においては、凹部46は、ヒータカバー45の全長、すなわちリード線43側の端部から先端側の端部に亘って延びていることが好ましい。
【0059】
また、下方が開口した凹部46がヒータカバー45の延伸方向に連続して形成されていることによって、凹部46で反射した発熱部41aの赤色光をカーテンバーナ30のガス管31に投射することができる。このため、発熱部41aの反射光がガス管31の表面に映し出されるか否かを確認することによって、電気ヒータ40の異常を検知することが可能となる。
【0060】
なお、凹部46の内面46aの形状は、円弧状でなくてもよいが、ヒータカバー45で受け止める可燃ガスに不規則な流れが発生し難くするためには、角部のない円弧状であることが好ましい。
【0061】
凹部46の内面46aの形状が円弧状である場合、凹部46内に可燃ガスが流入して可燃ガスの循環と滞留が発生する限りは、円弧の中心角は特に限定されない。ただし、可燃ガスの循環と滞留を発生し易くする観点では、円弧の中心角は例えば170~190度に設定される。
【0062】
また、上述したヒータカバー45は、被処理品Wから落下する焼入れ用油が発熱体41に付着することを抑制するという効果も奏する。この効果を高める観点では、ヒータカバー45の延伸方向(X方向)の長さは、発熱体41の延伸方向長さよりも長いことが好ましい。
【0063】
また、被処理品Wから落下した油がヒータカバー45の上面に滞留しないようにする観点では、ヒータカバー45の上面形状は、円弧状であることが好ましいが、円弧状に限定されない。
【0064】
したがって、ヒータカバー45の形状は、本実施形態で説明した形状に限定されない。ただし、上述した可燃ガスの循環と滞留を促進する効果と、ヒータカバー上面への油の滞留を抑制する効果を高める観点では、ヒータカバー45の断面形状が円弧状であることが好ましい。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0066】
例えば、上記実施形態の構成要件は任意に組み合わせることができる。当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0067】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【実施例0068】
図8および
図9に示したカーテンフレーム装置を用い、
図1に示したガス浸炭設備にて点火試験を実施した。カーテンフレーム装置が備えるカーテンバーナ及び電気ヒータの仕様は以下の通りである。
(1)カーテンバーナ
ガス吐出口の数:195個
ガス吐出口の大きさ:直径3.2mm
ガス吐出口の配置:千鳥配置
間隔D
X:12mm
間隔D
Y:10mm
可燃ガスの種類:都市ガスと空気の混合ガス
可燃ガスの温度:常温
可燃ガスの供給流量:0.007m
3/s
(2)電気ヒータ
発熱体:京セラ株式会社製 窒化珪素ヒータ(品番:SN362)
ヒータカバーの材料:SUS
ヒータカバーの断面形状:円弧状
【0069】
点火試験は、以下の工程(a)~(f)で実施された。
(a)油槽の扉を開けるタイミングの10秒前から電気ヒータをONとし、発熱体に通電させる。
(b)カーテンバーナのガス管に可燃ガスを供給し、可燃ガスが着火するか確認する。
(c)可燃ガスが着火し、カーテンフレームの形成が確認できた後、油槽の扉を開く。
(d)油槽の扉を開いてから10秒後に油槽の扉を閉じる。
(e)油槽の扉を閉じたら可燃ガスの供給を停止する。
(f)可燃ガスの供給を停止してから30秒後に電気ヒータをOFFとする。
【0070】
以上の点火試験を20回以上繰り返した結果、全ての試験でカーテンフレームが形成された。すなわち、本実施例に係るカーテンフレーム装置においては、電気ヒータを用いたカーテンバーナの間欠点火が可能となり、従前のパイロットバーナを用いた点火構造と比較してCO2排出量を削減することができる。