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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097725
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】OCT装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20240711BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
A61B3/10 100
G01N21/17 630
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001403
(22)【出願日】2023-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】柵木 誠二
(72)【発明者】
【氏名】余語 宏文
【テーマコード(参考)】
2G059
4C316
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB12
2G059EE02
2G059EE09
2G059FF02
2G059GG01
2G059GG09
2G059JJ13
2G059JJ17
2G059JJ22
2G059MM01
2G059MM09
2G059MM10
2G059MM14
4C316AA09
4C316AB04
4C316AB11
4C316AB16
4C316FB29
(57)【要約】
【課題】各領域において良好な画質のOCTデータが取得されるOCT装置を提供すること。
【解決手段】 OCT光源と、前記OCT光源から出射された光を測定光と参照光に分岐する分岐光学素子と、前記分岐光学素子によって分岐された前記測定光を被検眼の組織に照射する照射光学系と、前記組織によって反射された前記測定光と、前記分岐光学素子によって分岐された前記参照光と、のスペクトル干渉信号を検出する受光素子と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記スペクトル干渉信号を処理することで生成される、前記組織の深さ方向についてのOCTデータを、少なくとも1つのBスキャンライン上の各位置に対して取得すると共に、前記OCTデータの位相ずれ成分を、前記OCTデータが取得された画角領域と対応する補正情報に基づいて補正する分散補正処理を実行し、前記分散補正処理後の前記OCTデータに基づいて断層画像を生成する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OCT光源と、
前記OCT光源から出射された光を測定光と参照光に分岐する分岐光学素子と、
前記分岐光学素子によって分岐された前記測定光を被検眼の組織に照射する照射光学系と、
前記組織によって反射された前記測定光と、前記分岐光学素子によって分岐された前記参照光と、のスペクトル干渉信号を検出する受光素子と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記スペクトル干渉信号を処理することで生成される、前記組織の深さ方向についてのOCTデータを、少なくとも1つのBスキャンライン上の各位置に対して取得すると共に、前記OCTデータの位相ずれ成分を、前記OCTデータが取得された画角領域と対応する補正情報に基づいて補正する分散補正処理を実行し、前記分散補正処理後の前記OCTデータに基づいて断層画像を生成するOCT装置。
【請求項2】
画角領域毎に予め取得された分散曲線を、画角領域毎の補正情報として予め記憶部に記憶されている、請求項1記載のOCT装置。
【請求項3】
前記記憶部には、画角領域毎の補正情報として、すべてのAスキャンラインに対する分散曲線を示す分散曲線マップが予め記憶されている、請求項2記載のOCT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検眼の組織の断層画像を撮影するOCT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科分野において、被検眼の組織の断層画像を撮影する装置である、光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)が知られている。
【0003】
OCTでは、被検眼に対して照射される測定光と参照光とのスペクトル干渉信号に対して幾つかの所定の演算処理を行うことによって、組織の深さ方向の情報を有するOCTデータが生成される。
【0004】
例えば、スペクトル干渉信号からOCTデータを生成する演算処理の一部として、分散補正処理が行われる。これにより、測定光と参照光との分散(dispersion)のミスマッチが補正される(特許文献1参照)。
【0005】
また、OCTの技術分野では、OCTデータにおける深達性を改善する(つまり、深さ方向の撮影範囲を拡大する)種々の試みが行われている(特許文献2参照)。深達性が改善されることによって、眼底を広角に撮影することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-223264号公報
【特許文献2】特開2015-157182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来は、特許文献1に記載の通り、一律な補正情報(分散補正用のパラメータ)を利用して、分散補正処理が行われていた。その結果、撮影範囲が広角になるほど、断層画像における画角領域毎の画質に違いが生じることが、本発明者によって見いだされた。例えば、中心部が良好な画質であるのに対し、周辺部が中心部よりも低い画質となり得る。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、各領域において良好な画質のOCTデータが取得されるOCT装置を提供すること、を技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1態様に係るOCT装置は、
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、各領域において良好な画質のOCTデータが取得される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例に係るOCTシステムの概略構成を示した図である。
図2】実施例に係るOCT光学系を示す図である。
図3】スペクトル干渉信号からOCTデータを生成する演算処理の一例を示すフローチャートである。
図4】分散曲線を求めるために撮影されるキャリブレーション用の模型眼画像を示している。
図5】模型眼画像の画質を評価して最適化された、各領域A1,A2,A3に対応する2次から4次の項における係数値を示している。
図6】各領域A1,A2,A3に対応する分散曲線を示している。
図7】分散曲線マップを示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「概要」
本開示の実施形態を説明する。以下の<>にて分類された項目は、独立または関連して利用されうる。実施形態に係るOCT装置は、広域のOCTデータの取得に適している。
【0013】
本実施形態に係るOCT装置は、OCT光源と、分岐光学素子と、照射光学系と、受光素子と、制御部と、を少なくとも備える。OCT光源から出射された光は、分岐光学素子によって、測定光と参照光とに分岐される。照射光学系は、分岐光学素子によって分岐された測定光を被検眼の組織に照射する。組織によって反射された測定光と、分岐光学素子によって分岐された参照光と、のスペクトル干渉信号が、受光素子によって検出される。
【0014】
本実施形態において、制御部は、スペクトル干渉信号を処理することで生成される、組織の深さ方向についてのOCTデータを、少なくとも1つのBスキャンライン上の各位置に対して取得する。また、制御部は、OCTデータの位相ずれ成分を、OCTデータが取得された画角領域と対応する補正情報に基づいて補正する分散補正処理を実行する。更に、制御部は、分散補正処理後のOCTデータに基づいて断層画像を生成する。
【0015】
本実施形態では、分散補正処理によって、OCTデータの位相ずれ成分が、OCTデータが取得された画角領域と対応する補正情報に基づいて補正されるので、各領域において画質が良好な断層画像が生成される。本実施形態では、少なくとも、横断方向に関する撮影範囲の中心領域と、中心部に対する周辺領域と、の間において、互いに異なる補正情報が用いられる。眼底を撮影する場合であれば、一例として、中心領域は画角50°の内側であって、周辺領域は50°よりも外側の領域であってもよい。また、より複数の画角領域の間で、各々の画角領域と対応する補正情報が、互いに異なっていてもよい。
【0016】
各々の画角領域と対応する補正情報は、OCT装置において、予め記憶されていてもよい。補正情報は、位相ずれ量を波数kの関数として示す、分散曲線であり得る。よって、例えば、いわゆるキャリブレーションに基づいて、分散曲線を画角領域毎に求め、各々の画角領域と対応する分散曲線を、各々の画角領域と対応する補正情報として利用してもよい。すべてのAスキャンラインにおける分散曲線を各々示す分散曲線マップを、各々の画角領域と対応する補正情報として利用してもよい。分散曲線マップが補正情報として用意されていることで、より正確に分散補正が行われるので、より画質が良好な断層画像が生成され得る。
【0017】
本実施形態のOCT装置は、深達性の高い(換言すれば広域の)OCTデータの取得に適した波長掃引式OCT(SS-OCT)であってもよい。この場合、OCT光源として、波長掃引光源(波長走査型光源)を備える。波長掃引光源は、出射波長を時間的に高速で変化させる。例えば、VCSEL式波長掃引光源は、コヒーレンス長が長いことから、OCT光源として利用されることで、深さ方向に関して広域のOCTデータを撮影可能となり、眼底を広角に撮影しやすくなる。また、波長掃引式OCTの検出器では、波長掃引に伴って、スペクトル干渉信号がビート信号として検出される。
【0018】
また、実施形態に係るOCT装置は、測定光を被検眼の組織うえで走査するための走査部を有していてもよい。測定光は、被検眼の組織上であらかじめ定められた横断方向のスキャンラインに沿って走査される。走査に伴って、各スキャンラインについてのOCTデータが撮影される。スキャンラインは、検者からの指示に基づいて任意の位置に設定されてもよい。また、あらかじめ定められた複数のスキャンパターンのうちいずれかが選択されることで、スキャンパターンと対応するスキャンラインが設定されてもよい。スキャンパターンとしては、ライン、クロス、マルチ、マップ、ラジアル、サークル、等の種々のものが知られている。
【0019】
「実施例」
以下、実施例として、図1,2に示すOCTシステム(光コヒーレンストモグラフィーシステム)を説明する。
【0020】
図1に示すように、実施例に係るOCTシステムは、光学ユニット10と、本実施例のコンピュータに相当する制御ユニット50と、を少なくとも含む。本実施例において、光学ユニット10と、制御ユニット50と、は、OCT装置として、一体化されている。本実施例に係るOCTシステム(OCT装置)は、波長掃引式OCT(SS-OCT)を基本的構成としている。
【0021】
光学ユニット10は、導光光学系150を備える。更に、本実施例における光学ユニット10は、眼底観察光学系200、および、前眼部観察光学系300を備える。
【0022】
光学ユニット10は、XYZ移動部15によって3次元的に移動可能である。本実施例では、XYZ移動部15は、演算制御器70によって駆動制御される。本実施例では、XYZ移動部15が光学ユニット10を3次元的に移動させることによって、被検眼Eに対して光学ユニット10の3次元位置が調整される。これにより、被検眼Eに対して光学ユニット10の3次元位置がアライメントされる。また、被検者の顔は顔支持ユニット17によって支持される。顔支持ユニット17による顔の支持位置は、上下方向に移動可能である。
【0023】
制御ユニット50は、本実施例におけるコンピュータであり、OCTシステムの全体を制御する演算制御器(プロセッサ)70を少なくとも備える。演算制御器70は、例えば、CPUおよびメモリなどによって構成される。一例として、本実施例では、演算制御器70が、OCTシステムにおける画像処理器を兼用している。
【0024】
その他、OCTシステムには、記憶部(メモリ)72、入力インターフェース(操作部)75、モニタ80、等が設けられてもよい。各部は、演算制御器70に接続される。
【0025】
OCT装置の動作を制御するための各種プログラム、初期値等は、メモリ72に記憶されてもよい。例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、および、OCT装置に着脱可能に装着されるUSBメモリ等をメモリ72として使用することができる。また、メモリ72には、OCTデータから生成されるOCT画像の他、撮影に関する各種情報が記憶されてもよい。モニタ80は、OCTデータ(OCT画像)を表示してもよい。
【0026】
<OCT光学系>
次に、図2を参照し、本実施例におけるOCT光学系100を説明する。OCT光学系100は、導光光学系150によって測定光を被検眼Eに導く。OCT光学系100は、参照光学系110に参照光を導く。OCT光学系100は、被検眼Eによって反射された測定光と参照光との干渉、によって取得されるスペクトル干渉信号光を検出器(受光素子)120に受光させる。
【0027】
本実施例において、OCT光学系100には、SS-OCT方式が用いられる。この場合、OCT光学系100は、OCT光源102として、波長掃引光源を有する。また、OCT光学系100は、検出器120として、点検出器を有する。
【0028】
波長掃引光源は、出射波長が時間的に掃引される。OCT光源102は、VCSEL式波長掃引光源であってもよい。VCSEL式波長掃引光源は、レーザ発振を担うVCSELと、高速走査を実現するMEMSと、を含む。
【0029】
本実施例において検出器120は、複数(例えば、2つ)の検出器を用いて平衡検出を行う平衡検出器である。演算制御器70は、波長掃引光源による出射波長の変化に応じて参照光と測定光の戻り光の干渉信号をサンプリングし、サンプリングによって得られた各波長での干渉信号に基づいて被検眼のOCTデータを得る。
【0030】
カップラ(スプリッタ)104は、第1の光分割器として用いられ、光源102から出射された光を測定光路と参照光路に分割する。カップラ104は、例えば、光源102からの光を測定光路側の光ファイバー152に導光すると共に、参照光路側の参照光学系110に導光する。
【0031】
<導光光学系>
導光光学系150は、測定光を眼Eに導くために設けられる。導光光学系150には、例えば、光ファイバー152、コリメータレンズ153、フォーカシングレンズ155、光スキャナ156、及び、対物レンズ系158(本実施例における対物光学系)が順次設けられてもよい。この場合、測定光は、光ファイバー152の出射端から出射され、コリメータレンズ153によって平行ビームとなる。その後、フォーカシングレンズ155を介して、光スキャナ156に向かう。フォーカシングレンズ155は、図示なき駆動部によって光軸に沿って変位可能であり、集光状態を調整するために利用される。光スキャナ156を通過した光は、対物レンズ系158を介して、眼Eに照射される。本実施例では、(装置本体が備える)対物レンズ系158に関して光スキャナ156と共役な位置に、旋回点Pが形成される。
【0032】
光スキャナ156は、被検眼Eの組織上でXY方向(横断方向)に測定光を走査させてもよい。本実施例において、光スキャナ156は、例えば、2つのガルバノミラーであり、その反射角度が駆動機構によって任意に調整される。光源102から出射された光束は、その反射(進行)方向が変化され、被検眼Eの組織上で任意の方向に走査される。光スキャナ156としては、例えば、反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ)の他、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等が用いられてもよい。
【0033】
測定光による眼Eからの散乱光(反射光)は、投光時の経路を遡って、光ファイバー152へ入射され、カップラ104に達する。カップラ104は、光ファイバー152からの光を、検出器120に向かう光路へと導く。
【0034】
<参照光学系>
参照光学系110は、参照光を生成する。参照光は、測定光の被検眼Eからの反射光と合成される。参照光学系110を経由した参照光は、カップラ148にて測定光路からの光と合波されて干渉する。参照光学系110は、マイケルソンタイプであってもよいし、マッハツェンダタイプであってもよい。
【0035】
図2に示す参照光学系110は、一例として、透過光学系によって形成されている。この場合、参照光学系110は、カップラ104からの光を戻さず透過させることにより検出器120へと導く。これに限らず、参照光学系110は、例えば、反射光学系によって形成され、カップラ104からの光を反射光学系により反射することにより検出器120に導いてもよい。本実施例において、カップラ104から検出器120までの光路上には、光路長差調整部145、および、偏波調整部147、が配置されている。
【0036】
光路長差調整部145は、測定光と参照光との光路長差を調整するために利用される。OCTデータを取得する際には、撮影対象(被検眼Eの部位)の深さ位置に少なくとも応じて、測定光と参照光との光路長差を、事前に調整しておく必要がある。本実施例では、参照光路上に、直交した2つの面を持つミラー145aが設けられている。このミラー145aがアクチュエータ145bによって矢印方向に移動されることによって、参照光路の光路長を増減することができる。勿論、測定光と参照光との光路長差が調整する構成は、これに限られるものではない。例えば、導光光学系150において、コリメータレンズ153とカップラとが一体的に移動されることで、測定光の光路長が調整され、結果として、測定光と参照光との光路長差が調整されてもよい。
【0037】
本実施例において、偏波調整部147は、参照光の偏光を調整する。偏波調整部は測定光路上に配置されていてもよい。
【0038】
<OCT演算>
次に、図3を参照し、スペクトル干渉信号からOCTデータを生成する演算処理の一例を説明する。まず、演算制御器70は、検出器120によって検出されたスペクトル干渉信号を処理(フーリエ解析)し、被検眼のOCTデータ(OCT画像)を得る(S101)。
【0039】
ここで、本実施例では、検出器120では、波長掃引に基づいて時間に応じて強度が変化するビート信号として、スペクトル干渉信号が検出される。例えば、Aスキャン毎のスペクトル干渉信号に対し、DC-subtraction(直流成分の除去処理)(S102)、および、Zero Padding(ゼロ詰め処理)(S103)の後に、マッピング処理(S104)が、演算制御器70によって行われる。
【0040】
マッピング処理(S104)において、演算制御器70は、スペクトル干渉信号を、波数k(=2π/λ)に関して等間隔な関数I(k)に変換する。つまり、スペクトル干渉信号が波数空間にリサンプリングされる。より具体的な手法については、一例として、本出願人による特開2015-68775号公報等を参照されたい。次に、リサンプリング後のスペクトル干渉信号I(k)に対して、分散補正処理(S105)が演算制御器70によって実行される。その結果を、フーリエ変換(FFT)し(S106)、鏡像を削除等(S108)することによって、AスキャンOCTデータが得られる。このようにして得られるAスキャンOCTデータを、横断方向において複数取得し、これらを連続的に配置することでBスキャンOCTデータが構築される(S109)。
【0041】
<分散補正処理>
ここで、図4図7を参照して、本実施例における分散補正処理(S105)の詳細を説明する。まず、リサンプリング後のスペクトル干渉信号I(k)は、以下の式(1)で表現できる。
【0042】
【数1】
【0043】
なお、Δzは、ゼロディレイを基準としたサンプルの深さ位置であり、σは、光源由来の波長掃引の位相ノイズであり、φ(k)は、光学系の分散による位相のずれを示す。
【0044】
式(1)は、複素形式による次の式(2)で表現できる。
【0045】
【数2】
【0046】
式(2)の両辺に、expiφ(k)を乗じると、次のように書き表すことができる。式(2)において、右辺の第1項と第2項とは、ゼロディレイを挟んで対称な信号成分を表す。
【0047】
【数3】
【0048】
ここでは、式(3)における右辺の第1項がφ(k)を含まない形で記述される。よって、光学系の分散による位相のずれに関する成分(以下、「位相ずれ成分」と称する)であるφ(k)が、適切に設定されることによって、分散の影響が除去された信号成分(右辺の第1項の成分)を得ることができる。なお、右辺の第2項の成分は、第1項とは、ゼロディレイを挟んで鏡像の関係にあるため、後々の処理で容易に除去できる。
【0049】
ところで、画角が広角であると、画角領域毎の光学系の分散に有意な差が生じやすくなる。そこで、本実施例では、各々のスペクトル干渉信号が取得された画角領域に応じた補正情報に基づいて、各々のスペクトル干渉信号I(k)に対する分散補正が実行される。補正情報は、画角領域毎の位相ずれ成分φ(k)に基づいて、あらかじめ定められている。
【0050】
まず、位相ずれ成分φ(k)が、以下の式(4)の通り、テイラー展開可能であるものと仮定する。
【0051】
【数4】
【0052】
次に、φ(k)が画角ωに依存するものとして、以下のように記載できる。
【0053】
【数5】
【0054】
式(5)において、右辺における0次および1次の項による画質への影響は軽微である。そこで、本実施例では、右辺における2次から4次の項における係数を、画角毎に探索し、その結果として最適化した。例えば、2次から4次の各次の係数を変更すると共に、変更後の係数が適用されたフーリエ変換後の画像を評価することで、適切な係数を探索でき、各次の係数を最適化できる。
【0055】
本実施例では、一例として、図4に示すように、模型眼の断層画像である模型眼画像を用いて係数の最適化が行われる。横断方向の撮影範囲に対し、撮影範囲の中心から周辺へ順に、第1画角領域A1、第2画角領域A2、第3画角領域A3を設定し、それぞれの領域のフーリエ変換後の模型眼画像の画質を評価し、それぞれの領域に対応する2次から4次の項における係数を最適化した。最適化の結果として得られた係数値を図5に示すと共に、最適化された係数値による画角毎のφ(k)を図6に示す。また、本実施例では、式(5)のうち、
【0056】
【数6】
【0057】
を、画角ωの2次の多項式で近似できると仮定し、全Aスキャンラインにおける分散曲線を計算すると、図7に示す分散曲線マップが得られる。
【0058】
本実施例のOCT装置1は、このような分散曲線マップが、あらかじめ記憶部72に記憶されており、スペクトル干渉信号I(k)に対する分散補正処理が、分散曲線マップに基づいて実行される。その結果として、横断方向の撮影範囲全体にわたって適切に分散補正が行われる。
【0059】
以上、実施例に基づいて説明したが、既述の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想の範囲内において、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
70 制御ユニット
102 OCT光源
104 カップラー(光分岐光学素子)
150 導光光学系(照射光学系)
120 受光素子



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7