(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097726
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】SLO装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
A61B3/10 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001404
(22)【出願日】2023-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】中西 淳
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AB07
4C316AB12
4C316FY08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被検眼の眼底画像を良好に撮影できるSLO装置を提供すること。
【解決手段】SLO装置は、半導体レーザー111,112,113,114を含み、レーザー光を出射するレーザー光源11と、前記レーザー光源からの前記レーザー光を、被検眼の眼底上においてスポット状に集光する対物光学系と、眼底上においてスポット状に集光されたレーザー光を、眼底上において2次元的にスキャンする2次元光スキャナと、前記レーザー光の眼底反射光の受光光路上において眼底と共役な位置に配置されており、前記眼底反射光を通過させると共に有害光を除去するアパーチャと、前記アパーチャを通過した眼底反射光を受光する受光素子と、を含むコンフォーカルな撮影光学系と、前記半導体レーザーの駆動電流に高周波を重畳する高周波重畳回路と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザーを含み、レーザー光を出射するレーザー光源と、
前記レーザー光源からの前記レーザー光を、被検眼の眼底上においてスポット状に集光する対物光学系と、
眼底上においてスポット状に集光されたレーザー光を、眼底上において2次元的にスキャンする2次元光スキャナと、
前記レーザー光の眼底反射光の受光光路上において眼底と共役な位置に配置されており、前記眼底反射光を通過させると共に有害光を除去するアパーチャと、
前記アパーチャを通過した眼底反射光を受光する受光素子と、を含むコンフォーカルな撮影光学系と、
前記半導体レーザーの駆動電流に高周波を重畳する高周波重畳回路と、を備える、SLO装置。
【請求項2】
前記撮影光学系を介して40°以上の画角で眼底画像を撮影する請求項1記載のSLO装置。
【請求項3】
前記アパーチャは、0.5mm以上3.0mm以下の範囲で開口が形成されている、請求項2記載のSLO装置。
【請求項4】
前記レーザー光源は、複数の色のレーザー光を出射するものであって、色毎に前記半導体レーザーおよび前記高周波重畳回路を有する、請求項1から3のいずれかに記載のSLO装置。
【請求項5】
前記高周波重畳回路による高周波重畳駆動に基づいて出射されるレーザー光を励起光として、蛍光眼底画像を撮影する、請求項1から4のいずれかに記載のSLO装置。
【請求項6】
波面補償光学系を備えない、請求項1から5のいずれかに記載のSLO装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検眼の眼底画像を撮影するSLO装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼底撮影装置の1種として、SLO装置(SLO:Scanning Laser Ophthalmoscope,走査型レーザー検眼鏡)が知られている。SLO装置は、コンフォーカル(共焦点)な光学系を有しているので、鮮明に組織が描写された眼底画像を撮影できる。レーザー光を眼底上で2次元的にスキャンすることで眼底の正面画像が、眼底画像として撮影される(例えば、特許文献1参照)。SLO装置では、レーザーによる単色光(波長範囲の狭い光)が、撮影に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、SLO装置において、レーザー光の出力が時間的に不安定であることは、画像ノイズの原因となり得る。すなわち、スキャン中にレーザー光の光量が変化してしまうと、光量の強弱に基づく明暗がノイズとして眼底画像上に描写され得る。
【0005】
また、SLO装置において、レーザー光が楕円偏光していると、眼底組織の質感(テクスチャ)を描写することが困難になる。例えば、眼底は線維構造を有しているところ、直線偏光されたレーザー光を用いて撮影されれば線維構造が適切に描写され、病変の発見・観察・診断等に有用であるのに対し、レーザー光が楕円偏光していると、線維構造が描写されにくくなってしまう。
【0006】
本開示は、従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、被検眼の眼底画像を良好に撮影できるSLO装置を提供すること、を技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1態様に係るSLO装置は、半導体レーザーを含み、レーザー光を出射するレーザー光源と、前記レーザー光源からの前記レーザー光を、被検眼の眼底上においてスポット状に集光する対物光学系と、眼底上においてスポット状に集光されたレーザー光を、眼底上において2次元的にスキャンする2次元光スキャナと、前記レーザー光の眼底反射光の受光光路上において眼底と共役な位置に配置されており、前記眼底反射光を通過させると共に有害光を除去するアパーチャと、前記アパーチャを通過した眼底反射光を受光する受光素子と、を含むコンフォーカルな撮影光学系と、前記半導体レーザーの駆動電流に高周波を重畳する高周波重畳回路と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、被検眼の眼底画像を良好に撮影できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例に係るSLO装置の概略構成を示す図である。
【
図2】実施例に係るSLO装置の光学系を示す図である。
【
図3】実施例に係るレーザー光源の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「概要」
以下、本開示を、実施形態に基づいて説明する。実施形態に係るSLO装置(SLO:Scanning Laser Ophthalmoscope,走査型レーザー検眼鏡)は、被検眼における眼底の正面画像(以下、眼底画像と称する)を撮影する眼底撮影装置の1種である。実施形態に係るSLO装置は、共焦点眼底撮影装置である。すなわち、レーザー光源からのレーザー光を被検眼の眼底上においてスポット状に照射し、更に、2次元的にスキャンすると共に、眼底と共役な位置に配置されたアパーチャ(共焦点アパーチャ)を介して眼底反射光を受光することによって、被検眼における眼底画像を撮影する。撮影光学系の光学素子、および、眼底とは異なる被検眼の部位で、レーザー光が反射・散乱されることで、有害光(迷光)が生じるが、眼底と共役な位置に配置されたアパーチャによって有害光は取り除かれるので、被検眼における眼底画像が良好に撮影される。なお、本開示において「共役」とは、必ずしも完全な共役関係に限定されるものではない。眼底画像の利用目的(例えば、観察、解析等)との関係で許容される範囲で、完全な共役関係からの誤差が許容され得る。
【0011】
特に断りが無い限り、実施形態に係るSLO装置は、一般的な眼底カメラと同様、あるいは、それ以上の画角で眼底画像を撮影するものとして説明する。画角は、例えば、40°以上の任意の値であり得る。例えば、SLO装置は、90°以上の画角で眼底画像を撮影するものであってもよい。なお、画角の数値(deg)は、被検眼の瞳中心で表している。
【0012】
実施形態に係るSLO装置は、レーザー光源と、撮影光学系と、高周波重畳回路と、を少なくとも有する。
【0013】
<レーザー光源>
SLO装置は、少なくとも1つのレーザー光源を有する。レーザー光源は、赤外域、または、可視域において、単色のレーザー光を発する。SLO装置は、カラー画像を撮影するために中心波長が互いに異なる複数のレーザー光源を有していてもよい。
【0014】
本実施形態において、レーザー光源は、少なくとも半導体レーザー(レーザーダイオード,LD)を含む。レーザー光源は、所望の波長の光をLDが直接発振する構成であってもよく、自己相関による自励起発振型レーザーであってもよい。また、レーザー光源は、LDを励起光源とし、LDとは別体のレーザー媒質を介して所望の波長の光を発振してもよい。後者の具体例として、ファイバレーザー、固体レーザー、および、ディスクレーザー等が挙げられる。また、レーザー光源は、LDを励起光源とし、波長変換素子を介して所望の波長の光を出力する構成であってもよい。
【0015】
<撮影光学系>
撮影光学系は、コンフォーカルな光学系である。撮影光学系は、対物光学系と、2次元光スキャナと、アパーチャと、受光素子と、を少なくとも有していてもよい。
【0016】
対物光学系は、レーザー光源からのレーザー光を、被検眼の眼底上においてスポット状に集光する。つまり、レーザー光の光束が眼底上で焦点を結ぶ。対物光学系は、屈折系(レンズ系)であってもよいし、反射系(ミラー系)であってもよいし、両者の組み合わせであってもよい。
【0017】
2次元光スキャナは、眼底上においてスポット状に集光されたレーザー光を、眼底上において2次元的にスキャンする。例えば、2次元光スキャナによって、眼底上でレーザー光がラスタースキャン方式で走査されてもよい。2次元光スキャナは、撮影光学系に形成されるレーザー光の投光光路と受光光路との共通光路上に配置されていてもよい。共通光路上に配置された2次元光スキャナは、レーザー光の眼底反射光をデスキャンする。これによって、眼底反射光は静止した光束としてアパーチャおよび受光素子へ導かれる。2次元光スキャナは、主走査用の光スキャナと、副走査用の光スキャナと、の2つのデバイスを含んでいてもい。また、2次元光スキャナは、主走査方向と副走査方向との2方向に関して自由度を有する1つのデバイスであってもよい。
【0018】
アパーチャは、眼底反射光を受光素子へ導く受光光路上において、眼底と共役な位置に配置されている。本実施形態において、アパーチャは、ピンホールアパーチャであってもよく、撮影光学系は、眼底反射光の焦点を、ピンホールの位置に形成してもよい。アパーチャは、眼底反射光を通過させると共に、有害光を除去する。有害光は、撮影光学系の光学素子、および、撮影部位とは異なる被検眼の部位で、レーザー光が反射・散乱されることによって生じ得る。
【0019】
受光素子は、アパーチャを通過した眼底反射光を受光する。その結果、受光素子から出力される信号に基づいて、眼底画像が生成される。本実施形態のSLO装置では、眼底に対してレーザー光が2次元的にスキャンされる毎に(例えば、ラスタースキャン毎に)、1枚の眼底画像が、受光素子から出力される受光信号に基づいて取得される。なお、撮影光学系は、2つ以上の受光素子を有していてもよい。この場合、受光素子の数は、レーザー光源から出射されるレーザー光の色の数に応じて設定されていてもよい。
【0020】
なお、被検眼の視度にかかわらず眼底とアパーチャとの共焦点関係を実現するために、撮影光学系は、追加的に、視度補正部を有していてもよい。視度補正部は、視度補正を行うものであり、例えば、フォーカスレンズ等の種々の構成があり得る。
【0021】
<高周波重畳回路>
前述の通り、本実施形態におけるSLO装置は、高周波重畳回路を、更に有している。高周波重畳回路は、レーザー光源の駆動電流(LDの駆動電流)に高周波を重畳する。つまり、本実施形態では、レーザー光源において、高周波重畳駆動が実施される。これにより、レーザー光源の出力が時間的に安定するので、眼底画像においてノイズが低減される。また、レーザー光が楕円偏光しにくくなるので(正確な直線偏光になるので)、組織の構造を鮮明に描写しやすくなる。つまり、直線偏光を実現するために、投光光路上に偏光フィルタ等を配置しなくてもよい。以上により、SLO装置の特徴を活かした眼底画像を良好に撮影できる。
【0022】
なお、駆動電流に重畳される高周波の周期は、レーザー媒質の蛍光寿命に対して短時間となる範囲で、あらかじめ設定されていてもよい。この場合において、高周波の1周期は、1ピクセルの露光時間の数10分の1以下であることが好ましく、100分の1以下であることが更に好ましい。高周波の波形は、LDのバイアス電流(又は電圧)すなわち、LDの発振閾値電流(又は電圧)を下限とし、検眼に必要な所定の光量が得られる電流(又は電圧)を上限とする。SLO装置がレーザー光源を複数有している場合、各々のレーザー光源の駆動電流に重畳される高周波の波形は互いに異なっていてもよい。
【0023】
ところで、眼底撮影用のSLO装置は、コンフォーカルな光学系を有しているので、一般的な眼底カメラと比較して眼底の各層の様子が詳細に画像において描写されるという特徴がある。ここで、高周波重畳駆動が行われると、高周波を重畳しない場合と比べて、レーザー光の波長範囲(スペクトル半値幅)が拡がってしまうので、眼底においてレーザー光が深達する範囲が増大し、その結果、コンフォーカルな光学系の利点である深さ方向の高い分解能が損なわれてしまうことが懸念される。
【0024】
しかしながら、瞳を通して眼球に光を入射したときに瞳を通って戻って来る眼底反射光の強度は、入射光の0.1%以下であるといわれており、アパーチャの開口径が小さいと、反射光の光量を十分に確保することが困難になる。また、眼底の表面および層境界は、完全に滑らかではなく血管走行等に基づいて凹凸が存在する。これらの問題に対し、本実施形態の眼底撮影用のSLO装置では、アパーチャの位置での眼底反射光のビームスポットに対し、十分に大きな開口を持つアパーチャが採用され得る。このため、高周波重畳駆動の結果としてレーザー光の波長範囲が拡がったとしても、眼底撮影用のSLO装置では眼底共役位置に配置されるアパーチャの開口径が比較的大きいことから、深さ方向の分解能に対して実質的な影響を受けない。従って、共焦点の原理で撮影が行われるにもかかわらず、眼底撮影用のSLO装置に対しては、レーザー光源の高周波重畳駆動を好適に適用できる。一般的な眼底カメラと同様、あるいは、それ以上の画角(本実施形態では40°以上)の場合、アパーチャの開口径は、φ0.5mm以上φ3.0mm以下の範囲であることが望ましく、φ0.7mm以上φ2.0mm以下の範囲であることがより望ましい。なお、φ3.0mmの開口であれば、戻り光の強度がより微弱な蛍光撮影であっても、良好に撮影できる。
【0025】
また、高周波重畳駆動に基づいて出射されるレーザー光を、眼底の蛍光物質(例えば、造影剤、および、自発蛍光物質)に対する励起光として、蛍光眼底画像を撮影してもよい。高周波重畳駆動によって波長幅が広がることによって、例えば蛍光造影の際に、造影剤の励起効率が向上する可能性がある。
【0026】
但し、眼底撮影用のSLO装置の中でも、細胞レベルで眼底を撮影するために波面補償光学系(Adaptive Optics)を備えた装置(AO-SLO)では、細胞レベルでの観察・撮影を実現するために、アパーチャの開口径が十分に小さい必要があると考えられる。このため、高周波重畳駆動の場合は、レーザー光の波長範囲が拡がることにより、深さ方向の分解能が低下するおそれがある。なお、ここでいう波面補償光学系は、被検眼の高次収差を測定して補償する光学系である。詳細は、例えば、本出願人による特開2016―067764号公報などを参照されたい。
【0027】
また、LDは、温度に応じて出力が変化することが知られているが、高周波重畳駆動を行う場合、温度によらず出力は一定であるので、LDの出力の安定化を目的とした温度制御が必要ない。よって、本実施形態において、各々のLDに対する温度制御機構を有していなくてもよい。但し、温度制御機構を行うことで、高周波重畳駆動に伴うLDの寿命低下を抑制できるため、温度制御機構を設置してもよい。
【0028】
「実施例」
以下、本開示の一実施例である、SLO装置1を、
図1~
図3を参照して説明する。
図1に、SLO装置1の概略構成を示す。SLO装置1は、眼底画像(眼底正面画像)の撮影に利用される、共焦点眼底撮影装置である。SLO装置1は、光干渉断層計(OCT:Optical Coherence Tomography)、視野計などの他のモダリティと一体化された装置であって、SLOによる眼底正面画像は、他のモダリティにおける観察画像、あるいは、位置合わせ用の画像として利用されてもよい。
【0029】
SLO装置1は、眼底上でレーザー光(本実施例における撮影光)を走査し、レーザー光の眼底反射光を受光することによって眼底の正面画像を取得する。本実施例において、SLO装置1は、観察面上でスポット上に集光されるレーザー光を、走査部(光スキャナ)の動作に基づいて2次元的に走査することで眼底画像を取得する。
【0030】
図1に示すように、SLO装置1は、撮影部1Aと、演算制御部1B(以下、単に「制御部」と称する)と、を含む。
図1に示すように、撮影部1Aは、SLO装置1の光学系を含む。
【0031】
図2を参照して、SLO装置1の光学系を説明する。SLO装置1は、撮影光学系10,20を有する。撮影光学系10,20は、コンフォーカルな光学系である。SLO装置1は、撮影光学系10,20を介して、眼底画像を撮影する。本実施例において、撮影光学系10,20は、照射光学系10と、受光光学系20と、に大別される。照射光学系10は、レーザー光を被検眼Eに照射するために利用される。受光光学系20は、レーザー光の眼底照射光を受光素子に導くために利用される。後述するように、照射光学系10と受光光学系20とは、一部の部材が共用されている。
【0032】
本実施例において、照射光学系10は、少なくとも走査部16と、対物レンズ系17と、を含む。追加的に、本実施例における照射光学系10は、更に、レーザー光源11、コリメーティングレンズ12、穴開きミラー13、レンズ14(本実施例において、視度調節部40の一部)、および、レンズ15を有する。
【0033】
レーザー光源11は、照射光学系10の光源である。本実施例では、レーザー光源11からのレーザー光が、眼底撮影用の照明光として利用される。レーザー光源11の詳細については、
図3を参照して説明する。
図3に示すように、本実施例において、レーザー光源11は、LD(半導体レーザー)111,112,113,114、レンズ115,116,117,118、ダイクロイックミラー119,120,121,122、集光レンズ125、ファイバ130、ビームスプリッター141,142,143,144、PD(フォトダイオード)センサ145,146,147,148、および、コントロールボックス150を有する。
【0034】
レーザー光源11は、光の波長毎に4つのLD111,112,113,114を有する。一例として、本実施例では、それぞれのLD111,112,113,114の直接発振によって、所期する中心波長のレーザー光が出射される。但し、発振方式は、必ずしもこれに限定されるものではない。一例として、LD111は赤外光(中心波長790nm)を出射し、LD112は赤色光(中心波長670nm)を出射し、LD113は緑色光(中心波長532nm)を出射し、LD114は青色光(中心波長488nm)を出射する。本実施例において、赤外光は、少なくとも、眼底の観察画像を取得するために利用される。赤,緑,青の3色は、少なくともカラー眼底画像を撮影するために利用される。また、レッドフリー撮影や、各種蛍光撮影(例えば、FA,IA,FAF)のために、適宜、対応する波長域の光が利用されてもよい。
【0035】
図3に示すように、各々のLD111,112,113,114から出射されるレーザー光は、レンズ115,116,117,118によってそれぞれコリメートされた後、ダイクロイックミラー119,120,121,122によって同軸にされ、更に、その後、集光レンズ125を介してファイバ130の入射端に入射される。入射端と反対側にある出射端から出射されるレーザー光が、照射光学系10を介して被検眼Eに照射される。
【0036】
コントロールボックス150は、各々のLD111,112,113,114に対して駆動電流を供給する。本実施例において、コントロールボックス150は、少なくとも電源(直流電源)と、高周波重畳回路と、を含む。駆動電流のオン/オフが制御されることによって、LD111,112,113,114は、それぞれ単独で、または、任意の組み合わせで同時に点灯する。直流電源から供給される駆動電流には、高周波重畳回路によって高周波が重畳されている。つまり、高周波で変調された状態の駆動電流が、各々のLD111,112,113,114に対して供給される。
【0037】
本実施例のコントロールボックス150において、それぞれのLD111,112,113,114に対して個別に高周波重畳回路が設けられている。それぞれのLD111,112,113,114におけるレーザー媒質の蛍光寿命、および、出力特性に応じた波形の高周波によって、それぞれに対する駆動電流が変調される。高周波の周期は、それぞれのLD111,112,113,114のレーザー媒質の蛍光寿命に対して短時間となる範囲で、あらかじめ設定されていてもよい。高周波の1周期は、1ピクセルの露光時間の100分の1程度であることが好ましい。例えば、1ピクセルあたりの露光時間が10―6秒であるとすれば、100MHzオーダーの高周波が重畳される。高周波の電流(又は電圧)の波形は、LDのバイアス電流(又は電圧)を下限とし、検眼に必要な所定の光量が得られる電流(又は電圧)を上限とする。但し、レーザー光の光量については、減光フィルタ(例えば、NDフィルタ)をLD111,112,113,114からダイクロイックミラー119,120,121,122の間に配置することによって、調整してもよい。
【0038】
このように、本実施例では、各々のLD111,112,113,114が高周波重畳駆動されるので、モードホッピングノイズ、および、戻り光ノイズ、等が低減され、結果として、レーザー光の出力が時間的に安定する。また、レーザー光が楕円偏光しにくくなる。よって、本実施例では、SLO装置1が眼底の線維構造が良好に描写された画像を撮影するために、レーザー光源11を含む照射光学系10において偏光フィルタを配置する必要が無い。
【0039】
高周波重畳駆動を行うとLDが熱によるひずみが生じやすくLDの機械寿命が短くなってしまうと考えられる。しかしながら、高周波重畳駆動に伴う寿命低下が生じたとしても眼底撮影装置の一般的な耐用時間である数千時間に対して十分長い時間動作できるので支障が出る可能性は低い。特に、SLO装置1において、可視光を出力する時間は、比較的短時間であるから、少なくとも可視光を出射するLDに対しては、高周波重畳駆動に伴う寿命低下の問題は、なおさらのこと生じない。
【0040】
なお、本実施例において、ビームスプリッター141,142,143,144、および、PDセンサ145,146,147,148は、各々のLD111,112,113,114から出力されるレーザー光の強度をモニターするために利用される。各々のビームスプリッター141,142,143,144は、各々のLD111,112,113,114から出射されるレーザー光を分岐し、各々のLD111,112,113,114と対応するPDセンサ145,146,147,148へ導く。PDセンサ145,146,147,148の検出信号は、コントロールボックス150に入力される。いずれかのPDセンサ145,146,147,148によって検出されたレーザー光の強度が閾値を超えた場合に、コントロールボックス150は、レーザー光の出射を停止させる。これにより、被検眼Eに対し不適切な強度のレーザーが照射されることが抑制される。
【0041】
図2に戻って光学系の説明を続ける。本実施例において、レーザー光は、
図2に示した光線の経路にて眼底Erに導かれる。つまり、レーザー光源11からのレーザー光は、コリメーティングレンズ12を経て穴開きミラー13に形成された開口部を通り、レンズ14およびレンズ15を介した後、走査部16に向かう。走査部16によって反射されたレーザー光は、対物レンズ系17を通過した後、被検眼Eの眼底Erに照射される。レーザー光は、眼底Erで反射・散乱される。これらの光(つまり、反射・散乱光)が、戻り光として、瞳孔から出射される。
【0042】
走査部16は、光源(レーザー光源11)から発せられたレーザー光を、眼底上で2次元的に走査する2次元光スキャナである。本実施例において、走査部16は、主走査用(例えば、X方向への走査用)の光スキャナ16aと、副走査用(例えば、Y方向への走査用)の光スキャナ16bと、を含む。一例として、主走査用の光スキャナ16aはレゾナントスキャナであり、副走査用の光スキャナ16bはガルバノミラーであってもよい。但し、各光スキャナ16a,16bには、他の光スキャナが適用されてもよい。例えば、各光スキャナ16a,16bに対し、他の反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ、および、MEMS等)の他、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等が適用されてもよい。
【0043】
対物レンズ系17は、SLO装置1の対物光学系である。対物レンズ系17は、走査部16によって走査されるレーザー光を、眼底Erに導くために利用される。対物レンズ系17は、被検眼の瞳孔において、レーザー光の旋回点Pを形成する。詳細には、旋回点Pの位置は、照射光学系10の光軸L1上であって、対物レンズ系17に関して走査部16と光学的に共役な位置となる。旋回点Pでは、走査部16を経たレーザー光が旋回される。
【0044】
走査部16を経たレーザー光は、対物レンズ系17を通過することによって、旋回点Pを経て、眼底Erに照射される。レーザー光が旋回点Pを中心に旋回されることで、眼底Er上でレーザー光が2次元的に走査される。対物レンズ17によって、レーザー光は、眼底上に集光される(眼底上で光束が焦点を結ぶ)。眼底Erに照射されたレーザー光は、網膜で反射される。
【0045】
次に、受光光学系20について説明する。本実施例における受光光学系20は、対物レンズ系17から穴開きミラー13までに配置された各部材を、照射光学系10と共用する。この場合、眼底からの光は、照射時の光路を遡って、穴開きミラー13まで導かれる。穴開きミラー13は、被検眼の角膜,および,装置内部の光学系(例えば対物レンズ系のレンズ面等)での反射によるノイズ光の少なくとも一部を取り除きつつ、眼底反射光を、受光光学系20の独立光路へ導く。なお、照射光学系10と受光光学系20とを分岐させる光路分岐部材は、穴開きミラー13に限られるものではなく、その他のビームスプリッターが利用されてもよい。
【0046】
本実施例の受光光学系20は、穴開きミラー13の反射光路に、レンズ21、ピンホールアパーチャ23、および、光分離部(光分離ユニット)30を有する。また、光分離部30と各受光素子25,27,29との間に、レンズ24,26,28が設けられている。
【0047】
アパーチャ23は、ピンホールアパーチャ23は、眼底共役面に配置されており、SLO装置1における共焦点絞りとして機能する。
図2に示すように、ピンホールアパーチャ23は、受光素子に導かれる戻り光が通過する領域(以下、通過領域と称する)を規制する。すなわち、視度が適正に補正される場合において、レンズ21を通過した眼底Erからの光は、ピンホールアパーチャ23の開口において焦点を結ぶ。ピンホールアパーチャ23によって、眼底Erの集光点(あるいは、焦点面)以外の位置からの光が取り除かれ、残り(集光点からの光)が受光素子29へ導かれる。なお、本実施例において、ピンホールアパーチャ23には、ミリメートルオーダー(例えば、例えば、φ0.7mmからφ2.0mm程度のサイズ)の開口が形成されている。開口の大きさは、眼底反射光の光量の十分な確保と、眼底の凹凸に影響されにくさ、とから実験的に求められたものである。開口は、ピンホールアパーチャ23における眼底反射光のスポットサイズに対して十分に大きいので、上記の程度の開口の大きさが確保されていれば、深さ方向の分解能は、レーザー光源11において高周波重畳駆動を行ってレーザー光の波長範囲が拡がっても、ほとんど低下しない。
【0048】
眼底反射光のうちアパーチャ23の開口を通過した一部が受光素子25,27,29へ導かれ、それ以外が遮光される。
【0049】
光分離部30は、眼底Erからの光を分離させる。本実施例では、光分離部30によって、眼底Erからの光が波長選択的に光分離される。また、光分離部30は、受光光学系20の光路を分岐させる光分岐部を兼用していてもよい。例えば、
図2に示すように、光分離部30は、光分離特性(波長分離特性)が互いに異なる2つのダイクロイックミラー(ダイクロイックフィルター)31,32を含んでいてもよい。受光光学系20の光路は、2つのダイクロイックミラー31,32によって、3つに分岐される。また、それぞれの分岐光路の先には、受光素子25,27,29の1つがそれぞれ配置される。
【0050】
例えば、光分離部30は、眼底Erからの光の波長を分離させ、3つの受光素子25,27,29に、互いに異なる波長域の光を受光させる。例えば、青,緑,赤の3色の光を、受光素子25,27,29に1色ずつ受光させてもよい。この場合、各受光素子25,27,29の受光結果から、カラー画像を取得してもよい。また、光分離部30は、赤外域の眼底反射光を、いずれかの受光素子に受光させる。この受光素子からの信号に基づいて、赤外画像が取得される。
【0051】
なお、蛍光撮影においては、励起光による眼底反射光と、眼底からの蛍光とを分離する必要がある。これに対し、本実施例では、光分離部30が、蛍光撮影時における眼底反射光と蛍光と、を分離するために利用される。なお、SLO装置1は、波長選択的なフィルタを追加的に有していてもよい。
【0052】
SLO装置1は、制御部1Bによって、各部の制御が行われる。制御部1Bは、SLO装置1の各部の制御処理と、演算処理とを行う電子回路を有する処理装置(プロセッサ)を含む。制御部1Bは、CPU、ROM、RAM等によって実現される。制御部1Bには、撮影した画像を記憶するための不揮発性の記憶媒体(例えば、ハードディスク,フラッシュメモリ等)や、入力インターフェース75(例えば、マウス、キーボード、タッチパネル等)、撮影された画像を表示するためのモニタ80等が接続される。
【0053】
本実施例において、制御部1Bは、画像処理部として、例えば、受光素子29から出力される受光信号に基づいて眼底画像を形成する。例えば、制御部70は、1回のラスタースキャン毎に、1フレームの眼底画像を形成してもよい。
【0054】
制御部70は、レーザー光源11から赤外光を出射させると共に、赤外光に基づく眼底画像を、観察画像として随時取得し、リアルタイムにモニタ80へ表示させる。また、所定の撮影トリガに基づいて、レーザー光源11から可視光(本実施例では、赤、緑、青の3色)を出射させると共に、可視光に基づくカラー眼底画像を撮影画像として取得(キャプチャ)する。撮影画像は記憶媒体に記憶される。
【0055】
<まとめ>
以上の通り、本実施例では、レーザー光源11において、高周波重畳駆動が実施される。これにより、レーザー光源11の出力が時間的に安定し、スキャン中の光量が一定に保たれるので、眼底画像においてノイズが低減される。また、レーザー光が楕円偏光しにくくなるので(正確な直線偏光になるので)、眼底組織の線維構造が鮮明に描写された眼底画像を得ることができる。以上により、SLO装置の特徴を活かした眼底画像を良好に撮影できる。
【0056】
以上、実施形態および実施例に基づいて説明を行ったが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0057】
例えば、上記の実施例ではSLO装置1は、LD111,112,113,114の温度を調整する構成を持たないが、必ずしもこれに限定されるものではなく、温度を調整する構成を有していてもよい。例えば、高周波重畳駆動に伴うLDの寿命低下を抑制したい場合、例えば、それぞれのLD111,112,113,114に近接させて、図示なき温調ブロックを配置してもよい。温調ブロックは、LD111,112,113,114の温度変化を抑制するためのデバイスである。温調ブロックは、例えば、ペルチェ素子と温度センサとを含み、温度を一定に保つように制御される。これにより、高周波重畳駆動に伴うLDの寿命低下が抑制される。但し、温度を調整する構成は、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0058】
また、例えば、SLO装置1において、可視光を出力する時間は、赤外光(観察光)を出力する時間に対して短いから、機会寿命が縮まる高周波重畳駆動は、可視光を出力するLDに対して行い、赤外光を出力するLDに対しては行わない構成であってもよい。
【0059】
また、例えば、SLO装置1において、可視光を出力する時間は、赤外光(観察光)を出力する時間に対して短いから、赤外光を出力するLDに対しては温調ブロックを設置して機会寿命の低下を抑制すると共に、可視光を出力するLDに対しては温調ブロックを設置しない構成であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 SLO装置
10,20 撮影光学系
11 レーザー光源
111~114 半導体レーザー(LD)
17 対物レンズ系
23 アパーチャ
25,27,29 受光素子
150 コンロトロールボックス(電源および高周波重畳回路)