IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 木内 学の特許一覧

<>
  • 特開-多元作用力検出機能性締結金具 図1
  • 特開-多元作用力検出機能性締結金具 図2
  • 特開-多元作用力検出機能性締結金具 図3
  • 特開-多元作用力検出機能性締結金具 図4
  • 特開-多元作用力検出機能性締結金具 図5
  • 特開-多元作用力検出機能性締結金具 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097730
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】多元作用力検出機能性締結金具
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20240711BHJP
   G01B 7/16 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G01L5/00 103D
G01B7/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023009050
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】592040815
【氏名又は名称】木内 学
(72)【発明者】
【氏名】木内 学
【テーマコード(参考)】
2F051
2F063
【Fターム(参考)】
2F051AA06
2F051AB09
2F051BA07
2F063AA25
2F063BA01
2F063BC03
2F063DA02
2F063DA05
2F063EC22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】多様な機械構造の各部位に作用する力や負荷を検出することを可能とする作用力検出機能性締結金具とその使用方法を提供する。
【解決手段】多元作用力検出機能性締結金具の場合、機能性締結金具の頭部下面が機能性締結金具軸部に連接する部位に、機能性締結金具軸部の外周に沿って所要の幅と深さを有する環状の溝19が削り込まれており、該機能性締結金具軸部2のねじ込みに伴って被締結材外面から該機能性締結金具頭部1へ作用する反力が、該機能性締結金具頭部下面7の外周部位に優先的に作用する。機能性締結金具頭部の上表面に設けられた該歪検出面が、ねじ込み使用時に、被締結材から受ける反力により、反り返る方向に変形し、変形の検出および解析に必要十分な量の表面歪が発生する。かかる造形が、検出機能を高め、有効な使用を可能にする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数体の部材又は部品を相互に締結するための締結金具であって、該締結金具は、締結時に、所要の工具を用いて該締結金具を把持してねじ込みトルクを加えるために使用される該締結金具頭部と、被締結体の所要の位置に作り込まれたネジ孔に差し込み、ねじ込んで締結力を発生させるためのネジ山造形を一部部位に施した該締結金具軸部、とから構成されており、該締結金具頭部と該締結金具軸部は所要の形状と寸法を有しており、且つ、該締結金具軸部の中心軸が該締結金具頭部下面に対し垂直又は所要の角度を維持するように該締結金具軸部が該締結金具頭部下面に結合し一体化しており、加えて、該締結金具頭部の上面又は側面の所要の部位の表面に、所要の形状および寸法および平滑度を有する歪検出用平面部位又は歪検出用曲面部位が作り込まれてあり、該歪検出用平面部位又は該歪検出用曲面部位の表面に、所要の数の電気抵抗変化型歪検出素子、すなわち、所定の金属合金線の配線構造を内蔵し、その電気抵抗が、該歪検出素子に加わる変形又は歪と共に変化する機能を有する該電気抵抗変化型歪検出素子を、該締結金具の中心軸に対して所要の位置及び方向および姿勢を維持すべく所要の接着剤を用いて貼り付けてあり、該締結金具軸部を一方の当該被締結部材又は部品に設けた貫通孔に差し込んで該ネジ山造形部位を貫通させ、更に、該締結金具軸部の該ネジ山造形部位を他方の当該被締結部材又は部品に設けた所要のネジ孔に差し込み、該締結金具頭部に回転トルクを加えてねじ込みつつ該被締結部材又は部品を締め付けて相互に締結せしめる機能を有しており、かかる締結使用状態において、該歪検出素子が内蔵する該合金線配線構造を所要の外部電気回路に結線して電流を流し、該内蔵合金線配線構造に流れる電流を計測し、検出した該電流の電流値およびその変化量より、該歪検出素子の内蔵合金線配線構造部位に発生している歪の値とその変化量を検出し、該歪の発生挙動と変化挙動から、該歪検出素子を添付した該締結金具頭部の上面及び側面に設けた該歪検出用平面又曲面に発生している歪とその変化挙動を知り、更に、該歪検出用平面又は曲面より検出した歪の値及びその変化より、該締結金具に対して各方向から作用する該締結力およびその変化を知ることが可能であること、を特徴とする多元作用力検出機能性締結金具。
【請求項2】
請求項1に述べた該多元作用力検出機能性締結金具において、該機能性締結金具頭部の上表面部位および側表面部位に設けられた該歪検出面に貼付する該電気抵抗変化型歪検出素子に代えて、所要の特性を具備する磁性体又はアモルファス材の薄膜、又は、粉末溶解噴射吹付け法により所要の磁性体又はアモルファス材粉末を溶解して該締結金具頭部歪検出面上に吹付け積層凝固させて形成した薄膜を配設し、配設した該薄膜に対し、外部から所要の磁場を印加し、該締結金具頭部歪検出面の変形に伴って発生する該アモルファス薄膜又は該磁性体薄膜の変形によって誘起される該印加磁場の歪みを検出し、該磁場の歪みの計測値より、該締結金具頭部歪検出面の変形又は歪を知ることを可能としたことを特徴とする該多元作用力検出機能性締結金具。
【請求項3】
請求項1に述べた該多元作用力検出機能性締結金具において、組付け前の該機能性締結金具頭部上表面部位および側面部位に設けられた該歪検出面に、所要の寸法と精度を有する基準格子を焼き付け印画法又は直接描画法により描いておき、該機能性締結金具取付け後の締結力作用状態下で発生する該基準格子の歪みを測定し、該歪みの状態から該機能性締結金具頭部歪検出面の歪を知ることを可能としたことを特徴とする該多元作用力検出機能性締結金具。
【請求項4】
請求項1,2,3,に述べた該多元作用力検出機能性締結金具において、該機能性締結金具軸部に作用する該締結力およびその変化が、該機能性締結金具頭部表面部位に設けられた該歪検出面の変形あるいは歪となって表出し易くするため、該機能性締結金具頭部下面と該機能性締結金具軸部表面が連接接続する部位の該機能性締結金具軸部表面の外周に沿って、該機能性締結金具頭部下面を所要の幅と深さを以て削り込み、該機能性締結金具頭部下面に、該機能性締結金具軸部を取り巻く所要の形状と幅および深さを有する環状の溝を作り込み、該機能性締結金具軸部に作用する締結力の大小および変化が、該機能性締結金具頭部表面の歪検出面および該機能性締結金具頭部表層部・内層部の変形又は歪として表出し易くしたことを特徴とする該多元作用力検出機能性締結金具。
【請求項5】
請求項1,2,3,4に述べた該多元作用力検出機能性締結金具において、配設されてある該歪検出素子が検出した歪に関わるデータや情報が、該機能性締結金具に取り付けられた無線受発信電子回路素子を通して、外部の無線受発信電子回路機器に送信されることを特徴とする該多元作用力検出機能性締結金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械構造物や建築構造物を構築する際に、複数体の部材又は部品の締結に用いられる機能性の高い締結金具に関するものである。すなわち、本発明は、締結金具に対し、単に被締結体に締結力を加える機能を付与するばかりでなく、当該被締結体に作用する締結力の大きさやその経時変化を、当該締結金具の微細変形挙動を通して検出できる機能を付与し、かかる機能性締結金具の導入により、機械構造物や建築構造物など、多様な締結構造体の安全の確保、運用・維持の確実性の向上と管理の合理化を実現することを目指している。以下、本発明が考案した“多元作用力検出機能性締結金具”を説明する。
本発明が考案した該多元作用力検出機能性締結金具は、力学的使用条件や周囲の環境の変化あるいは時間経過に伴って起こり得る当該締結構造や当該締結体の変化又は劣化、すなわち、締結力の低下や変動等を、該機能性締結金具自体が、自らの変形や歪とその経時的変化として検出し、それら検出結果の解析を通して、当該締結構造を常態的に監視し把握することを可能とする。
【0002】
本発明に依る該多元作用力検出機能性締結金具の形態は簡素である。すなわち、該機能性締結金具は、締結作業に際して、作業用工具により把持してねじ込むために利用する該機能性締結金具頭部と、被締結部材又は部品に設けられた所要のネジ孔へねじ込んで締結力を発生させるために用いるネジ山造形加工部位を有する該機能性締結金具軸部から成る(図1参照)。
複数体の物体又は部品の締結に際しては、一方の被締結体に設けられた所要の貫通孔を通して該機能性締結金具軸部を貫通し、他方の被締結体に設けられた所要のネジ孔に該機能性締結金具軸部ネジ山造形部位を差し込み、該機能性締結金具頭部に回転トルクを加えることにより、該機能性締結金具軸部ネジ山部位を該被締結体ネジ孔にねじ込み、締め込み力を発生させ締結する。
【0003】
該多元作用力検出機能性締結金具の該軸部ネジ山造形部位の該被締結体へのねじ込みは、工具を用いて該機能性締結金具頭部に回転トルクを加えることによって行われるが、該工具から該機能性締結金具頭部への回転トルクの伝達を効率的に行うために、該機能性締結金具頭部の軸心に垂直な横断面は、六角形、矩形、又は必要に応じて多角形、楕円形などに作られる。
【0004】
一般に、構造体の締結作業に際しては、使用される締結金具により締め込み力が加えられることにより、被締結体には、圧縮の内部応力が発生し残留するが、対応して、使用された締結金具には引張りの内部応力が発生し、いわゆる締結残留応力として残存する。被締結体が静止状態にある場合には、締結金具の内部に発生している残留応力が大きい程、締結力が大であるが、その大きさは時間経過とともに変化する可能性があり、しかも、その変化は締結力が弱まる方向へ起こるのが普通であり、監視が必須である。他方、被締結体に変動する外力が作用する場合には、当然、使用締結金具内に発生し残存する張力も変動する。かかる場合には、発生する内部応力の最大値と変動作用回数を監視し管理する必要がある。本発明に依る該多元作用力検出機能性締結金具はそれらの要求に応え得る機能を有している。
【0005】
多くの場合、締結金具と被締結体に発生する内部残留応力とその常態的大きさ、および、それらの経時的変化を監視することは、該締結部を包含する当該機械構造や当該機械システムを運用し管理する上で極めて重要である。仮に、該被締結体や該締結金具に内在又は残留する応力あるいは負荷の挙動の常時的監視や管理が可能になれば、そのような監視システムや管理技術は、多様な分野・局面で、機構・構造・システムの安全且つ効率的な運用の確保に大きな役割を果たすこととなり、その結果もたらされる社会的・産業的・工業的効果は甚大である。
【0006】
本発明は、あらゆる社会・産業・工業を支える技術基盤中の根本技術である部材・部品の締結技術に関わるものであり、その高度化の中核的役割を果たし得る該多元作用力検出機能性締結金具を考案したものである。該機能性締結金具の開発導入により、多種多様な締結構造の安全性の確保や、安定的運用・運転のための常態的監視・管理が可能となり、それら締結体や締結構造が支える広範な社会システムや産業構造の安定性・安全性に大きく寄与することができる。
【背景技術】
【0007】
複雑な社会機構や産業システムを構築し機能させていく上で、広範な科学的・技術的成果の実機化・実システム化・実装化が不可欠であるが、それに伴って、多種多様な部材・部品の締結技術が不可避的に必要となる。すなわち、多様な形態と機能を持つ部材・部品の組合せと締結、および、それらの強度・耐久性の確保、更には、構築した締結構造の安定的な維持・管理が必須の課題となる。
【0008】
機械構造や機械設備あるいは各種構築物の強度・安定性を高める上で、その内部各所・各部位に作用する力あるいは加わる負荷に関する情報やデータを得ることは、死活的に重要である。多くの場合、様々な力や負荷が多様な形態や挙動を以て機械構造物や各種構築物の各所・各部位に作用し、それら構造物・構築物の機能や特性に影響を与え、作動の安定性を支配し、さらには、耐久性や寿命をも大きく左右する。
【0009】
しかしながら、通常みられる機械構造や機械設備の内部各所・各部位に作用している力や負荷、および、それらが誘起する変位・変形・歪あるいは振動・破損などの実態を把握することは容易ではない。多くの場合、従来技術の下では、各所・各部位に作用する力や変位・歪を検出する端子や触子あるいはプローブを設置することが非常に困難である。例えば、機械構造物の中で高速で運動を繰り返す部位、プレス加工を行う際に金型の中で被加工材各部位に作用する力や発生する歪等を知ることは、当該機械構造や加工機械の望ましい機能設計や構造構築を行う上で、あるいは、効率的な製造や加工のための適切な運用・操業条件を実現する上で、極めて重要な意味を持つが、現実に必要な情報やデータを検出することは容易ではない。
【0010】
多くの機械構造や機械設備の設計・製作・運用の場において、かかる課題と状況に直面するが、そのような問題・課題を打開する方法として、大きな可能性を有する考え方が、ハイブリッド計測法の開発と導入である。これは、目的とする部位に作用する力や負荷、あるいは、変位や歪を直接的に計測することが困難である場合に、唯単にそれらの直接計測を目指すのではなく、当該部位の作動挙動や変形挙動に連動する周辺部位であって、且つ、計測可能な部位を探索し、又は、作り出し、その計測可能部位に発生する力や変形・歪の測定結果から、目的部位に作用する力や変形を理論的に推定しようとする手法である。
【0011】
近年、かかる考え方、すなわち、実測可能部位における検出可能な物理量に関する計測データから、解明を要する目的部位の変形や発生応力等の物理量を推定する理論的手法および計算技術が発達し、実測と数値シミュレーションの融合技術、すなわち、ここで云うハイブリッドな計測法とそれを支援する諸技術が大きく進化し、複雑な機械構造や作動機構の解析手法として、新たな展開が見出されつつある。
【0012】
現状、いわゆる構造用締結ボルトが、汎用的な機構部品あるいは締結金具として、あらゆる機械構造や機械設備の隅々にまで入り込んで使用されている。この一般的なボルトに代えて、構造締結機能と併せて、当該締結部位に発生する変形や歪、あるいは、作用する力や負荷の検出機能を具備する締結金具を開発し、実機械構造や各種構築物の締結部位へ導入し、上記ハイブリッド計測技術と融合して利用・運用することが出来れば、実締結構造体あるいは実締結部位に対する先端的データ取得端子又はプローブとして活用することが可能になり、当該締結部位はもちろん周辺関連部位における変形や歪、ひいては、負荷力や内部応力の算出も可能になり、その用途は極めて広範なものとなる。
【0013】
本発明では、かかる考えに基づいて、該多元作用力検出機能性締結金具を考案し、該機能性締結金具に、締結機能だけでなく、締結時に該機能性締結金具自体に発生する変形や歪を感知する機能を付与し、該機能性締結金具を通して感知・検出した変形や歪に関する情報・データから、該被締結体および該締結部位、更には、該締結部位を包含する機械構造体や機械システムに加わる作用力や作用応力及びその変動・変化を検出可能とするシステムの構築を考案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第5805347号、登録日:2017.9.11.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
一般に、機械構造や機械設備の内部各部位に作用する力あるいは負荷を、当該機械構造や機械設備に計測用端子、触子、プローブ等を導入し取付け、歪・変形・力など所要の物理量及びその変化を直接的に計測することは、多くの場合非常に難しい。仮に可能であったとしても、煩雑な機器・器具や、多くの人力と機材,更に大きな費用が必要となる場合が多い。
【0016】
本発明では、そのような直接測定を指向せず、当該機械構造や機械設備あるいは機械システムについて、計測を必要とする部分・部位そのものの代わりに、目的とする計測に理論的に結びつけることが出来る部位・部材として、当該機械構造や機械設備の検討対象部分・部位の周辺に存在する各種締結部に着目し、当該する締結部位に組み込まれている従来型の構造用締結ボルトに代えて、締結機能と変形・歪あるいは応力・負荷力の検出機能を兼ね備えた多元作用力検出機能性締結金具を発案した。該機能性締結金具に発生する変位・歪を検出し、その結果から該機能性締結金具に作用する力又は負荷応力を算出し、更にその結果から、当該機械構造や機械設備の検討対象部分・部位に発生する変形・歪や作用する力又は応力を理論的に導出する手法を考案した(図1参照)。
【0017】
本発明においては、当該機械構造や当該機械システムについて、直接計測・直接検出の対象として、当該機械構造や該機械システムに包含される各種締結部および締結金具に着目し、該多元作用力検出機能性締結金具を考案して導入し、該機能性締結金具頭部表面又は表層に発生する歪を直接計測の対象とした。
その理由は、
1)一般に、従来技術で使用されてきた構造用締結ボルトは、およそあらゆる機械構造や機械設備の多様な部位に広く使用され、組み込まれており、汎用性の高い機構部品又は締結金具である。故に、それに代わり得る機能性の高い締結金具を開発し導入すれば、その利用範囲は極めて広く、影響・効果が大きい。
2)本発明による該多元作用力検出機能性締結金具は、必要な締結力の発現機能はもちろん、当該締結部位や構造体に加わる作用力や作用負荷の検出機能を有しており、加えて、簡易な構造である故に、およそあらゆる場合において、従来型の構造用締結ボルトに置き換わることが出来る機能・特性を有している。
3)該多元作用力検出機能性締結金具は、その本来の形状特性および締結機能の故に、組み込まれた機械構造や機械設備の強度特性や変形特性と強く相関する変形挙動を示し、該機能性締結金具に作用する力・応力、および、その結果としての変形・歪を解析することにより、該締結部は勿論、被締結体およびその周辺の構造・設備の変形挙動や負荷状態を知ることが出来る。
4)一般に、機械構造や機械設備には、いわゆる締結構造法が広く用いられており、故に、該多元作用力検出機能性締結金具を用いる作用力検出法や計測法は、多様な機械・設備・システムの中で広く利用できる汎用性を有している。
【0018】
本発明が解決を目指す課題は、複雑な機械構造や機械設備の所要の部分・部位に作用する力や負荷を計測する有効な手法と、該計測に必要な機材を創成し提案することにある。その解決策として本発明が提案したのが、該締結機能と該締結部位に発生する変形や歪を検出する機能を備えた多元作用力検出機能性締結金具であり、該機能性締結金具を用いての当該締結部位に加わる力や負荷、ひいては、それらを内包する機械構造や機械設備に加わる力や負荷を算出する方法である。
【0019】
本発明が提案した該多元作用力検出機能性締結金具は、締結使用時に、必要な強度剛性を持ち、必要十分な締結力を発生して被締結材の結合を維持するとともに、該機能性締結金具の頭部上面及び側面に設けてある歪検出面に、検出可能な歪を発生又は発現するよう形状寸法設計を施し、該機能性締結金具とその周辺、更には、当該機械構造や機械設備に作用する力又は負荷の計測用端子としての役割を果し得るように検出機能を高めてある。すなわち、該多元作用力検出機能性締結金具は、かかる締結力発現機能と歪検出機能を兼備しており、機能性および汎用性の高い締結金具として、設計・製作が可能である。
【0020】
該多元作用力検出機能性締結金具頭部上面及び側面の所要の部位には、該機能性締結金具に発生する変形・歪を検出するための該歪検出面を作り込み、該歪検出面に所要の電気抵抗変化型歪検出素子、あるいは、磁歪変化型歪検出薄膜素子などを貼付又は配設し、締結使用時には、所要の外部電気回路と結線し、又は、該機能性締結金具の所要部位又は該締結構造部周辺位置に配設した無線型受発信電子回路素子と結線し、更に外部に配設した所要の無線型受発信電子回路素子と無線で結び、有線又は無線の結合を通して、該歪検出素子に依る電流値計測や、外部からの所定の磁場の印加に伴う磁場の歪みの変化計測の結果を受け取る方法により、該歪検出面に現れる歪の計測を行う。すなわち、該機能性締結金具頭部に作り込まれた該歪検出面に貼付又は配設された該歪検出素子又は該磁歪検出薄膜素子を通して、組込み使用中に該機能性締結金具頭部に発生する変形又は歪を検出し、その結果から、当該機械構造や該機械設備に作用する力・負荷とその変動や経時変化を算出する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明による該多元作用力検出機能性締結金具は、複数体の被締結体としての部材又は部品を相互に締結した状態において、該締結金具の内部に発生又は残留している応力又は負荷力、それらの変動に対応して発生する変形又は歪、更に、それらの変動を、該機能性締結金具の頭部上面及び測面に設定された該歪検出面の表面歪として表出する機能をより効果的に発揮するように、該機能性締結金具頭部の形状・寸法を適宜設計し造形加工してある(図1,2参照)。
【0022】
なお,注意すべきは、被測定体すなわちここで云う該多元作用力検出機能性締結金具に作用する応力又は負荷力を、応力又は力の成分そのものとして、直接的に検出する方法は無く、物理的且つ直接的に検出できるのは、被測定体である該機能性締結金具に発生する変形あるいは歪である、と云う事実である。故に、本発明による該機能性締結金具から直接計測できるのは、該機能性締結金具に発生する変形又は歪であり、測定された該変形又は該歪の値から、目的とする作用応力又は作用力を算出することになる。
【0023】
本発明に依る該多元作用力検出機能性締結金具による締結・計測においても、締結力は重要な物理量である。締結力は該機能性締結金具軸部に作用する軸方向の張力であるが、本発明による該機能性締結金具を用いての計測においては、該張力を直接的にではなく、間接的に計測することを目指している。通常の使用形態では、該機能性締結金具軸部は当該被締結材の孔部位に挿入されていることから、直接測定は容易ではなく、ハイブリッド計測法により算出する。
【0024】
この課題に対応する対処法として、従来使用されてきた構造締結用ボルト軸部の内部を削除して中空軸状として、その中空内部にピエゾ素子を配設し、締結使用時に該締結ボルトに加わる引張応力とその変動に伴って該ピエゾ素子に加わる微小な弾性的伸縮を電気信号として検出し、その結果から作用する応力又は負荷力とその変動を算出する方式が提案されているが、この計測手法の考え方は、該締結金具の軸部に発生する歪を直接検出しようとするものであり、本発明が目指す計測手法あるいは計測目標とは基本的に異なる。
【0025】
本発明による該多元作用力検出機能性締結金具に作用する引張り力又は引張り応力とその変動の検出は、締結に伴って該機能性締結金具軸部に発生する軸方向の伸縮歪ではなく、該機能性締結金具に作用する負荷とその変動に伴って該機能性締結金具の頭部表面に発生する表面歪であり、検出した該表面歪の値から、該機能性締結金具に作用する軸方向の張力あるいは締結力とその変動を理論的に算出しようとする考え方および手法である。
【0026】
加えて、複数体の被締結材を結合締結させる締結金具の形態として、一般に広く用いられている構造用締結ボルトと同等の形態をそのまま用いると、締め付けに伴って発生する該締結ボルト頭部表面の表面歪は、該締結部と該締結金具の作用状況を検出し解析する上で必ずしも適切な歪量を検出できず、その変化挙動の解明が難しく、求める作用力検出機能を十分に体現出来ない結果となる。
【0027】
本発明による該多元作用力検出機能性締結金具頭部表面に、使用締結時に、該機能性締結金具の作用状況を監視するに十分な表面歪を発生せしめるためには、該機能性締結金具に適切な形状寸法特性、すなわち、現実に加わる作用力の変化に伴う変形あるいは歪の変化を感度良く表出する形状寸法特性を付与する必要がある。図2には、本発明に依る該多元作用力検出機能性締結金具が具備すべき望ましい形状の一例を示す(図2参照)。
【0028】
本発明による該多元作用力検出機能性締結金具の場合、被締結材の外面に接する該機能性締結金具頭部下面は、全面が単純に被締結材の外面に接しているのではなく、該機能性締結金具の頭部下面が該機能性締結金具軸部に連接する部位に、該機能性締結金具軸部の外周に沿って所要の幅と深さを有する環状の溝が削り込まれており、該機能性締結金具軸部のねじ込みに伴って被締結材外面から該機能性締結金具頭部へ作用する反力が、該機能性締結金具頭部下面の外周部位に優先的に作用するように設計され製作されている(図2参照)。
【0029】
上記説明したような該機能性締結金具頭部下面とその近傍部位の形状設計および製作が成されていることにより、該機能性締結金具頭部の上表面に設けられた該歪検出面が、該機能性締結金具軸部ネジ造形部位のねじ込み使用時に、被締結材から受ける反力による曲げモーメントにより、凹状又は鍋底状に反り返る方向に変形し、該機能性締結金具頭部の変形の検出およびその後の解析に必要十分な量の表面歪が発生する。該機能性締結金具頭部の形状寸法に関するかかる考案および造形加工が、本発明に依る該多元作用力検出機能性締結金具の検出機能を高め、広範な且つ有効な使用を可能にしている(図2参照)。
【0030】
本発明に依る該多元作用力検出機能性締結金具頭部表面に発生する歪の検出は、該機能性締結金具頭部表面に設定された該歪検出面に貼り付けた歪検出素子を用いて行う。該歪検出素子としては、市販の電気抵抗変化型の歪検出素子をも用いることが出来る。該電気抵抗変化型の歪検出素子には、所定の合金線配線構造が内蔵されており、該機能性締結金具頭部表面に発生する表面歪に伴い該歪検出素子に発生する歪が内蔵されている該合金線配線構造に伝わり、該歪に応じて該合金線配線構造の電気抵抗が変化するので、所要の電気回路を用いてこの電気抵抗の変化を検出することにより、該歪検出素子に発生する歪、ひいては、該機能性締結金具頭部表面に生じる表面歪を検出することが出来る。
【0031】
なお、本発明による該多元作用力検出機能性締結金具頭部表面に発生する該表面歪の検出には、1)該合金線配線構造の電気抵抗変化を利用する方法の他に、2)該機能性締結金具頭部上表面あるいは側表面に設けられた該歪検出面に所要の磁性体の薄膜を貼り付ける、又は、溶射法により所要の磁性体薄膜を溶射積層凝固法により形成し、上表面あるいは側表面に配設された該薄膜に外部から磁場を印加し、締結力変化に伴う該機能性締結金具頭部上表面又は側表面の周囲に誘起される磁場の変化を検出して、その結果より、該機能性締結金具頭部上表面・側表面に発生する該表面歪を知る、3)該機能性締結金具頭部上表面および側表面に基準となる格子模様を描き、締結使用時に発生する該格子の歪みとその変動を測定し、その結果から、目的とする該機能性締結金具頭部上表面および側表面に発生する歪およびその変動を算出する、4)該機能性締結金具頭部上表面および側表面に、所要のアモルファス合金材料を溶解噴射して該合金の薄膜を積層形成し、外部から所要の磁場を印加し、該機能性締結金具頭部上表面および側表面の変形と共に発生する該アモルファス膜の変形が誘起する磁場の歪みを検出し、その結果から、該機能性締結金具頭部上表面および側表面の歪を算出する、等の方法がある(図3,4参照)。
【発明の効果】
【0032】
本発明が提案した該多元作用力検出機能性締結金具の効果・効用は以下の通りである。
1)該機能性締結金具は、必要十分な締結機能と、自身へ加わる作用力検出機能を有しており、およそあらゆる機械構造や機械設備に内蔵される部材・部品の締結部への導入が可能であり、その用途は極めて広い。
2)該機能性締結金具を導入する締結部には、該歪検出素子への電気配線や、導入のための簡単な治具類の取付けを除けば、付加的な加工や部品あるいは部材等の取り付け処置が不要であり、通常の機械組み立ての一環として、該機能性締結金具の取付けを行うことが可能である。
3)該機能性締結金具の頭部は、使用の目的や周囲条件に応じての設計および造形加工が容易可能であり、該頭部表面に設定する該歪検出面に発生せしめる歪、又は、発生を許容する歪の最大値あるいは変化の許容幅に合わせて、該機能性締結金具頭部の形状・寸法を設計・製作することが出来る。
4)本発明による該多元作用力検出機能性締結金具は、明解な形態・構造・機能を有し、設計・製作・使用・操作が容易であり、また、堅牢な構造に作り込むこと、締結使用時に、密閉封入や保護蓋取付け等が可能であるため、耐故障性・耐損傷性・耐環境性に優れている(図5参照)。
5)該多元作用力検出機能性締結金具は、軸部直径が数mmから数100mmまでの範囲で製作および使用が可能であり、小型機械構造から大型機械設備の締結部まで幅広く導入し、その締結機能と作用力検出機能を利用出来る、
6)本発明による該多元作用力検出機能性締結金具の導入・利用により、広範多様な機械構造物や機械設備の安全・安定な運転・駆動が可能になり、省資源・省エネルギ-の推進や、社会・産業システムの安全化に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に依る多元作用力検出機能性締結金具の形態概要
図2】本発明に依る多元作用力検出機能性締結金具の頭部形状の基本形
図3】本発明に依る多元作用力検出機能性締結金具の頭部歪検出面への溶解吹付積層凝固法による歪検出素子材薄膜の形成形態
図4】本発明に依る多元作用力検出機能性締結金具の頭部上表面への基準格子の描画形態説明図
図5】本発明に依る多元作用力検出機能性締結金具頭部歪検出面の封入及び保護蓋取付け形態(例)
図6】本発明に依る多元作用力検出機能性締結金具のプレス加工用ダイセット内上下金型の位置および姿勢制御系への応用事例
【発明を実施するための形態】
【0034】
実施例 :高精度ダイセットの駆動監視システムの構築
本発明による多元作用力検出機能性締結金具の高精度ダイセットへの適用事例を図6に示す。ダイセットは、プレス加工において、使用される上下金型の位置(芯軸)を合わせるために用いられるが、その実量産での実現精度は、製品の芯ズレ量で20μm程度であり、長い間この誤差の壁が克服できず、限界打破が大きな課題となっている。上下金型の芯ズレを制御するためには、先ず、使用プレス及びダイセット上で発生している芯ズレを検出する方法が必要であるが、現実的に有効な方法が無いのが実情である。そこで、検討対象金型の芯ズレ検出を実現するために、下金型・上金型をそれぞれダイプレートとスライダーへ固定する際に用いる締結金具として、従来の構造締結ボルトに代えて、本発明に依る多元作用力検出機能締結金具を導入することにより、金型に加わる偏芯荷重を検出することが可能となり、偏芯荷重の値から、上下金型の芯ズレを把握することが出来るので、それらの計測データを用いて金型位置の微小変更制御を実施し、上下金型の芯ズレ誤差を改善できる(図6参照)。
【符号の説明】
【0035】
1 多元作用力検出機能性締結金具頭部
2 多元作用力検出機能性締結金具軸部
3 多元作用力検出機能性締結金具軸部位
4 多元作用力検出機能性締結金具ネジ山造形部位
5 多元作用力検出機能性締結金具頭部上面
6 多元作用力検出機能性締結金具頭部側面
7 多元作用力検出機能性締結金具頭部下面
8 多元作用力検出機能性締結金具頭部上面歪検出面
9 多元作用力検出機能性締結金具頭部側面歪検出面
10 歪検出素子
11 電気抵抗変化型歪検出素子内蔵合金線配線構造
12 被締結体(貫通孔付き)
13 被締結体(ネジ孔付き)
14 ネジ孔部位
15 接着剤
16 封止材
17 貫通孔部位
18 外部電気回路又は無線送信用電子回路素子への結線端子
19 多元作用力検出機能性締結金具頭部下面環状溝
20 磁性体薄膜又はアモルファス積層膜
21 歪検出用基準格子
22 基準格子用磁性体マーキング
23 無線送信用電子回路素子
24 多元作用力検出機能性締結金具頭部保護キャップ
25 上金型(パンチ)
26 下金型(ダイ)
27 被加工材(ワーク)
28 ダイベース
29 多元作用力検出機能性締結金具
図1
図2
図3
図4
図5
図6