(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097731
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】電気抵抗溶接用電極
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
B23K11/30 311
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023009719
(22)【出願日】2023-01-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】512035918
【氏名又は名称】青山 省司
(72)【発明者】
【氏名】青山 好高
(72)【発明者】
【氏名】青山 省司
(57)【要約】
【課題】進退部材が容易に傾斜しないようにするとともに、ガイドピンとロボット装置のチャック機構の間の鋼板に弾性変形をおこさせること。
【解決手段】ガイドピン20が、主円筒部8のガイド孔15に挿入された摺動部材22と一体化されて、進退部材23が構成され、鋼板部品2の端部をロボット装置44のチャック機構45で強固に保持するように構成され、ガイドピン20に傾斜部21が形成され、キャップ部9に配置された合成樹脂材料製の支持板16に、ガイドピン20が貫通する通孔17が設けられ、ガイドピン20は、その外周面が通孔17の内周面を擦りながら進退できるように、ガイドピン20の外径寸法と通孔17の内径寸法が設定されていることによって、進退部材23が、電極の中心軸線O-Oに対して実質的に傾斜変位をしないように構成し、ガイドピン20とチャック機構45間の鋼板部品2に曲げ方向または伸び方向の弾性変形を発生させるように構成した。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板部品が載置される電極本体が、少なくとも主円筒部とそれに一体化されているキャップ部によって構成され、
前記キャップ部は、前記主円筒部に一体化される断面円形の筒状部と、前記電極本体の蓋部材としての機能を果たすとともに前記鋼板部品が載置される端部材によって構成され、
前記端部材から突き出ている断面円形のガイドピンが、前記主円筒部に形成したガイド孔に摺動可能な状態で挿入された摺動部材と一体化されて、進退部材が構成され、
前記鋼板部品の端部をロボット装置のチャック機構で強固に保持するように構成され、
前記鋼板部品が電極本体に載置されるときに、前記ガイドピンが相対的に貫通する下孔が前記鋼板部品に形成されており、
前記ガイドピンの先端部にガイドピンの先端に向かってその直径が徐々に小さくなる傾斜部が形成され、
前記キャップ部の奥部に配置されているとともに合成樹脂材料製とされた支持板に、前記ガイドピンが貫通する断面円形の通孔が設けられ、
前記ガイドピンは、その外周面が前記通孔の内周面を擦りながら進退できるように、前記ガイドピンの外径寸法と前記通孔の内径寸法が設定されていることによって、前記進退部材が、電極の中心軸線に対して実質的に傾斜変位をしないように構成し、
ロボット装置の動作で前記鋼板部品の下孔内周部が前記傾斜部に接触した後、前記鋼板部品の自重で前記下孔内周部が前記傾斜部を擦りながら鋼板部品が前記端部材上に載置されるとき、前記ガイドピンは実質的に傾斜変位をすることなく、前記ガイドピンと前記チャック機構間の鋼板部品に曲げ方向または伸び方向の弾性変形を発生させて、前記ガイドピンが相対的に前記下孔を貫通して前記鋼板部品が前記端部材上に載置されるように構成したことを特徴とする電気抵抗溶接用電極。
【請求項2】
前記ガイド孔に冷却空気を送り込む通気口が前記主円筒部に設けられ、前記摺動部材に空気通路が形成され、前記ガイドピンの外周面が前記通孔の内周面を擦りながら進退する状態における通気空隙が存置され、
前記支持板は円盤型の形状とされ、その外径寸法は、前記キャップ部の筒状部の内径寸法よりも小さく設定されていることによって、前記支持板の一部が前記キャップ部内の空間に突き出た状態で露出している請求項1記載の電気抵抗溶接用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電極本体から突き出ているガイドピンと、電極本体内を摺動する摺動部材によって進退部材が形成され、この進退部材の位置状態を改善して、鋼板部品に所要の弾性変形を起こさせる電気抵抗溶接用電極に関している。
【背景技術】
【0002】
特開平10-118775号公報には、プロジェクションナットを鋼板部品に溶接する電気抵抗溶接用電極が記載され、ガイドピンと摺動部材が一体化された進退部材が、電気抵抗溶接用電極の電極本体内に収容され、しかも、ガイドピンの一部が電極本体から突き出ていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような電極においては通常、ロボット装置に保持された自動車のフロアパネルのような鋼板部品を電極本体の上面に載置するのであるが、鋼板部品に開けた下孔の中心軸線と電極ガイドピンの中心軸線が合致した状態で鋼板部品を電極本体側へ移動して、ガイドピンが相対的に下孔を貫通することが求められ、これが実現することによって、プロジェクションナットが下孔と同心状態またはそれと同等の状態で鋼板部品に溶接される。
【0005】
しかしながら、
図5に示すように、フロアパネル50に開けた例えば直径5mm程度の下孔51をガイドピン52と同軸状態にすることは、ロボット装置53の動作制御の面から精度的に困難である。このように困難にしている要因は、フロアパネル50のような大型の鋼板部品であると、自重により撓み変形が発生してガイドピン52に対する下孔51の位置にずれが発生するものと考えられる。下孔51とガイドピン52が偏心している状態で鋼板部品50を電極端面側に移動させると、下孔51の内周面がガイドピン52に強く擦りつけられて、ガイドピン52を傾斜させたまま鋼板部品50が電極本体の載置面54に置かれることとなる(
図5(A)参照)。特許文献1記載の構造においては、ガイドピン52と摺動部材からなる進退部材は、摺動部材の部分だけが電極のガイド孔を摺動する構造であるため、ガイドピン52に上述のような外力が作用したときに、ガイドピン52が傾斜してしまう、という問題がある。
【0006】
プロジェクションナットを鋼板部品に溶接する場合であれば、上記のように下孔に対してガイドピンが傾斜して偏心していると、
図5(B)に示すように、プロジェクションナットのねじ孔が下孔51からずれた偏心位置に溶接されることとなる。以下、本明細書において、プロジェクションナットを単にナットと表現する場合がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するために提供されたもので、ガイドピンと摺動部材からなる進退部材が収容された電気抵抗溶接用電極において、ガイドピンに鋼板部品の一部が接触しても、進退部材が容易に傾斜しないようにするとともに、ガイドピンとロボット装置のチャック機構の間の鋼板に弾性変形をおこさせることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、
鋼板部品が載置される電極本体が、少なくとも主円筒部とそれに一体化されているキャップ部によって構成され、
前記キャップ部は、前記主円筒部に一体化される断面円形の筒状部と、前記電極本体の蓋部材としての機能を果たすとともに前記鋼板部品が載置される端部材によって構成され、
前記端部材から突き出ている断面円形のガイドピンが、前記主円筒部に形成したガイド孔に摺動可能な状態で挿入された摺動部材と一体化されて、進退部材が構成され、
前記鋼板部品の端部をロボット装置のチャック機構で強固に保持するように構成され、
前記鋼板部品が電極本体に載置されるときに、前記ガイドピンが相対的に貫通する下孔が前記鋼板部品に形成されており、
前記ガイドピンの先端部にガイドピンの先端に向かってその直径が徐々に小さくなる傾斜部が形成され、
前記キャップ部の奥部に配置されているとともに合成樹脂材料製とされた支持板に、前記ガイドピンが貫通する断面円形の通孔が設けられ、
前記ガイドピンは、その外周面が前記通孔の内周面を擦りながら進退できるように、前記ガイドピンの外径寸法と前記通孔の内径寸法が設定されていることによって、前記進退部材が、電極の中心軸線に対して実質的に傾斜変位をしないように構成し、
ロボット装置の動作で前記鋼板部品の下孔内周部が前記傾斜部に接触した後、前記鋼板部品の自重で前記下孔内周部が前記傾斜部を擦りながら鋼板部品が前記端部材上に載置されるとき、前記ガイドピンは実質的に傾斜変位をすることなく、前記ガイドピンと前記チャック機構間の鋼板部品に曲げ方向または伸び方向の弾性変形を発生させて、前記ガイドピンが相対的に前記下孔を貫通して前記鋼板部品が前記端部材上に載置されるように構成したことを特徴とする電気抵抗溶接用電極である。
【0009】
請求項2記載の発明は、
前記ガイド孔に冷却空気を送り込む通気口が前記主円筒部に設けられ、前記摺動部材に空気通路が形成され、前記ガイドピンの外周面が前記通孔の内周面を擦りながら進退する状態における通気空隙が存置され、
前記支持板は円盤型の形状とされ、その外径寸法は、前記キャップ部の筒状部の内径寸法よりも小さく設定されていることによって、前記支持板の一部が前記キャップ部内の空間に突き出た状態で露出している請求項1記載の電気抵抗溶接用電極である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明においては、
進退部材が、キャップ部の端部材から突き出ている断面円形のガイドピンと、主円筒部に形成したガイド孔に摺動可能な状態で挿入された摺動部材が一体化されて構成され、ガイドピンは、その外周面がキャップ部内の支持板に開けられた通孔の内周面を擦りながら進退できるように、ガイドピンの外径寸法と通孔の内径寸法が設定されていることによって、進退部材が、電極の中心軸線に対して実質的に傾斜変位をしないように構成されている。ガイドピンの外径寸法と通孔の内径寸法の差は、ガイドピンを直径方向にがたつかせても、カタカタといった隙間感覚を感じないレベルまで詰められている。つまり、ガイドピンの外周面と通孔の内周面との間には、実質的に隙間がなくて摺動できる状態とされている。
【0011】
ガイドピンと摺動部材が一体化された進退部材は、摺動部材がガイド孔と摺動している箇所と、ガイドピンの外周面が通孔の内周面に擦りつけられている箇所の2箇所において支持されている。鋼板部品をガイドピンにはめ合わせるときに、ガイドピンの中心軸線と鋼板部品の下孔の中心軸線がずれた偏心状態になっていると、鋼板部品の下孔内周部がガイドピンの傾斜部に擦りつけられるような現象が発生して、ガイドピンを倒そうとする力が作用する。このような力が作用しても、上記2箇所支持によって進退部材の中心軸線は容易に傾くことがない。
【0012】
一方、鋼板部品はロボット装置のチャック機構によって強固に保持されているので、鋼板部品がチャック機構から抜け出るような位置ずれは発生しない。
【0013】
このようにガイドピンは容易に傾斜しない状態であり、鋼板部品はチャック機構から容易に抜け出ない状態になっているので、下孔内周部が傾斜部を滑動するときには、ガイドピンとチャック機構の間の鋼板に弾性変形が発生する。このような弾性変形の後、鋼板部品が端部材に載置されると、鋼板部品の下孔がガイドピンと実質的に同心状態になったり、実害のないレベルの偏心量になったりする。
【0014】
上記の鋼板部品側の弾性変形は、鋼板部品に発生する曲げ変形や、伸び変形などの弾性変形によってなされている。鋼板部品の端部がロボット装置のチャック機構で強固に保持されているので、鋼板部品の下孔がガイドピンからずれていると、チャック機構の箇所においては鋼板部品の滑りなどの位置ずれが発生しないとともに、ガイドピンが容易に傾斜しないので、鋼板部品の側に曲げ変形や伸び変形を起こさせている。
【0015】
通常、例えば、ナットを溶接する場合のガイドピンの先端部分は、先端に向かって徐々に直径が小さくなる傾斜部形状、例えばテーパ型形状とされているので、鋼板部品がその自重によって電極の端部材側へ移動すると、下孔内周部が電極の中心軸線方向に移動させられてテーパ形状部分に擦り付けられる。このときに、ガイドピンに対してガイドピンの直径方向の力、すなわちガイドピンを倒そうとする力が作用するが、上記2箇所支持によって、ガイドピンの傾斜移動が実質的に発生しない状態になっているとともに、チャック機構の箇所においては鋼板部品の滑りなどの位置ずれがないので、鋼板部品の側にガイドピンの直径方向の弾性的変位が生じて、ガイドピンの中心軸線と下孔の中心軸線との上記偏心状態が、実質的に問題とならないレベルに減少する。つまり、傾斜変位が実質的に問題とならない強固なガイドピンに対して、チャック機構で強固に保持された鋼板部品の下孔内周部が擦り付けられるので、鋼板部品側の方に弾性変形を起こさせることができるのである。
【0016】
上記のような鋼板部品側におけるガイドピン直径方向の弾性的変位は、鋼板部品に曲げ方向変形や伸び方向変形を発生させていることによって確保されている。本願発明においては、例えば、前記のフロアパネルやドアパネルのような板厚が薄くて、下孔サイズよりも遥かに大きな鋼板部品の弾性変形を意図的に活用している。換言すると、下孔の中心軸線とガイドピンの中心軸線の偏心量を、鋼板部品の弾性変形で吸収するものである。この弾性変形の態様としては、ガイドピンとチャック機構との間の距離が短くなろうとするときには、ガイドピンとチャック機構の間の鋼板に曲げ変形が生じる。また、ガイドピンとチャック機構との間の距離が長くなろうとするときには、ガイドピンとチャック機構の間の鋼板に伸び変形が生じる。
【0017】
前述のロボット装置で鋼板部品を保持するときには、ロボット装置のチャック機構で鋼板部品をくわえるようにしたり、あるいは鋼板部品の搬送治具に設けたチャック機構でくわえるようにしたりするのであるが、ガイドピンと下孔の位置ずれが鋼板部品の弾性変形で吸収されるので、ロボット装置や搬送治具などの採用が行いやすくなる。換言すると、ガイドピンは容易に傾斜しない状態であるとともに、チャック機構が強固に鋼板部品を保持しているので、鋼板部品側において弾性変形を起こさせることができるのである。
【0018】
請求項2記載の発明においては、
流入口から電極本体内に流入した冷却空気が摺動部材の空気通路やガイドピン部の通気空隙を通過することと、支持板の一部をキャップ部内の空間に突き出た状態で露出させてあることによって、合成樹脂材料製の支持板を効果的に冷却することができ、支持板の耐久性向上にとって有効である。とくに、支持板はキャップ部の奥部、すなわち溶接熱の発生個所に近い位置に配置されているので、上記のような冷却作用が重要である。
【0019】
さらに、支持板の一部をキャップ部内の空間に突き出た状態で露出さてあるので、溶接熱によって支持板が膨張すると。上記露出部分がキャップ部内の空間へ膨出する。このような空間へ向けた膨張変形によって、通孔の内周面とガイドピンの外周面との異常に強い接触が緩和され、このため通孔内面の摩耗進行をゼロにするか、または実質的に実害のない摩耗レベルにすることができ、支持板の耐久性向上にとって有効である。このような現象は、熱膨張によって生じる支持板内の内部応力が空間に向かう分散的膨張によって小さくなるものと、考えられる。
【0020】
本発明は、電気抵抗溶接用電極をガイドピンの傾斜変位の面で改善し、ロボット装置のチャック機構で強固に保持されたフロアパネルやドアパネルの溶接に活用できる。そして、前記パネルのように板厚が薄くて、下孔サイズよりも遥かに大きな鋼板部品の弾性変形を意図的に活用した溶接方法として存在させることができる。換言すると、下孔の中心軸線とガイドピンの中心軸線の偏心量を、鋼板部品の弾性変形で吸収するという考え方の溶接方法として存在させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】電極全体の断面図と部分箇所の断面図である。
【
図3】鋼板部品がガイドピンの右側にずれている場合の断面図である。
【
図4】鋼板部品がガイドピンの左側にずれている場合の断面図である。
【
図5】ガイドピンが異常に傾いた場合を誇張して示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の電気抵抗溶接用電極を実施するための形態を説明する。
【実施例0023】
【0024】
最初に、溶接される部品について説明する。
【0025】
溶接対象部品としては、鋼板製の部品に、ナットやワッシャなどの孔あき部品を溶接する場合が多いのであるが、ここでは、自動車のフロアパネルやドアパネルのような大型の鋼板部品2にプロジェクションナット3を溶接する場合である。
【0026】
ナット3は、四角いナット本体4の中央部に、ねじ孔5が開けられたもので、下側の四隅に溶着用突起6が設けてある。鋼板部品2には下孔7が開けられ、ここを後述するガイドピンが相対的に貫通するようになっている。
【0027】
つぎに、電極本体について説明する。
【0028】
円筒型の電極本体1は、少なくとも主円筒部8とそれに一体化されているキャップ部9によって構成されている。主円筒部8は、クロム銅のような銅合金製とされ、キャップ部9は、より優れた耐熱性、耐摩耗性を有するベリリュム銅のような銅合金製とするのが望ましい。
【0029】
キャップ部9は、主円筒部8にねじ部10を介して一体化される断面円形の筒状部11と、電極本体1の蓋部材としての機能を果たすとともに鋼板部品2が載置される端部材13によって構成されている。主円筒部8は、円筒状の部材で構成され、断面円形のガイド孔15が形成されている。
【0030】
本実施例における電極本体1などの電極は、固定電極であり、機枠などの静止部材42に固定してある。固定電極に対応する進退式の可動電極41が中心軸線O-O上に配置してある。
【0031】
つぎに、支持板について説明する。
【0032】
円盤型の形状とされた支持板16の直径は、筒状部11の内径よりも小さくしてあり、中央に通孔17が設けてある。端部材13にキャップ部9の内側から挿入孔18が形成され、そこに支持板16が圧入してある。この圧入は、支持板16の厚さの途中までとされており、こうすることによって支持板16の一部がキャップ部9内の空間31に突き出た状態で露出している。
図1(C)に示すように、筒状部11の内径寸法から支持板16の直径寸法を引いた寸法が符号D1で示され、キャップ部9内の天井面から支持板16の角部分19が突き出ている寸法がL1で示されている。支持板16は、ポリアミド樹脂などの合成樹脂材料製とされ、ここでは耐熱性や耐摩耗性に優れたポリテトラフルオロエチレン(商品名=テフロン・登録商標)が使用されている。
【0033】
つぎに、進退部材について説明する。
【0034】
セラミック材料やステンレス鋼で作られたガイドピン20は、断面円形の棒状部材で構成され、その先端部に先端側に向かってその直径が徐々に小さくなる傾斜部21が形成されている。傾斜部21の反対側は、ねじ構造部とされている。ガイド孔15内に摺動可能な状態で挿入された摺動部材22は、ポリテトラフルオロエチレン(商品名=テフロン・登録商標)のような合成樹脂材料製とされている。したがって、ガイドピン20と、摺動部材22が一体化されて進退部材23が構成されている(
図1(C)参照)。
【0035】
ガイドピン20と摺動部材22を一体化する構造としては、摺動部材22のインジェクション成型時にガイドピン20の端部を鋳ぐるむようにする方法などが考えられるが、ここではねじ構造が採用されている。
【0036】
ガイドピン20の端部にボルト25が形成され、このボルト25が摺動部材22の底部材26を貫通し、ワッシャ27をはめ込んでナット28で締め付けてある。
【0037】
ガイドピン20は、端部材13から突き出ており、ナット3のねじ孔5の開口角部が傾斜部21に合致して、ガイドピン20にナット3が保持されている。また、鋼板部品2の下孔7はガイドピン20と同心になっている。
【0038】
図2は、ガイドピン20の変形例を示している。同図(A)は、傾斜部21の外形が曲線的になっている場合であり、
図1に示した実施例はこのタイプである。他に、同図(B)は、傾斜部21の外形が直線的になっている場合である。また、同図(C)は、傾斜部21が中間部に配置されている場合である。
図2においては、鋼板部品2が2点鎖線で図示され、各下孔7は右側にずれた状態を示し、下孔7の片側の内周部が傾斜部21にひっかかっている。
【0039】
つぎに、通気構造について説明する。
【0040】
通気構造は、主円筒部8に設けた流入口29と、ガイド孔15と、摺動部材22に設けた空気通路30と、筒状部11内の空間31と、支持板16の通孔17とガイドピン20の間のわずかな空隙32(
図1(C)参照)と、端部材13の直径方向に開けた排気通路33と、通気孔24および鋼板部品2の下孔7によって構成されている。ガイドピン20が通孔17を貫通している箇所は、通気に必要な流路面積としては不足を来す場合がある。その対策としては、
図1(D)に示すように、通孔17の内周面に通気溝35を設けることが望ましい。
【0041】
摺動部材22とガイド孔15の間に空気通路30が設けてあるが、その構造は、摺動部材22の外周面に、電極の中心軸線O-Oと同方向の凹溝を設けたり、摺動部材22の外周面を削り取ったりする方法など、種々なものが採用できる。ここでは、後者の削り取りのタイプである。すなわち、摺動部材22の外周面に中心軸線O-O方向の平面部36が4か所に形成され、平面部36とガイド孔15の円弧内面によって空気通路30が形成されている。
【0042】
流入口29から送り込まれた冷却空気の断続は、支持板16の静止内端面37に、摺動部材22の上面に設けた可動端面38が密着すると、空気流は遮断され、静止内端面37から可動端面38がはなれると、空気流が開始される。静止内端面37と可動端面38は、中心軸線O-Oが垂直になっている仮想平面上に存在している。可動端面38を静止内端面37に押し付ける力は、ガイド孔15内に配置した圧縮コイルスプリング39の張力によってえられている。圧縮コイルスプリング39の一端はワッシャ27に押し付けられ、他端はガイド孔15の内底面にはめ込んだ絶縁シート34に押し付けられている。
【0043】
支持板16を挿入孔18に圧入してから、電極直径方向の排気通路33が孔開け加工で形成されている。したがって、
図1(E)に示すように、排気通路33の一部をなす円弧型断面の凹溝40ができている。
【0044】
つぎに、ロボット装置で鋼板部品を搬入することについて説明する。
【0045】
ロボット装置44は、部分的な図示であるが通常の6軸タイプの装置である。鋼板部品2の端部を強固に保持するチャック機構45としては、種々なタイプが採用されている。ここでは、簡略的な図示であるが、一対の開閉式の挟み付け片が耐摩耗性に優れた金属材料で構成され、挟み付け片はエアシリンダによって開閉するようになっている。したがって、挟み付け片が鋼板部品2をエアシリンダによって強く挟み付けると、鋼板部品2にチャック機構45から抜け出そうとする力が作用しても、容易に抜けることがない。
【0046】
図3に示した場合は、ガイドピン20の中心軸線O-Oに対して、下孔7が右側にずれた状態であり、下孔7の左側の内周部は傾斜部21の途中にひっかかっている。この状態から鋼板部品2の自重により下孔7の左側の内周部が傾斜部21を擦りながら、鋼板部品2が下降し端部材13の上面に着座する。鋼板部品2がこのように下降するときには、ガイドピン20はほとんど傾斜しないので、ガイドピン20とチャック機構45の間の鋼板に弾性的な伸びが発生して、下降が許容される。弾性的な伸びは矢線46で示されている。
【0047】
したがって、
図3(C)に示すように、ナット3のねじ孔5と鋼板部品2の下孔7とは、わずかな偏心量となり、可動電極41の進出によって圧縮コイルスプリング39を圧縮しながら溶着用突起6が鋼板部品2に加圧され、ついで溶接電流が通電されて溶接が完了する。可動電極41の進出によってガイドピン20、すなわち進退部材23が下降すると、可動端面38が静止内端面37から離れていわゆる開弁作用がなされる。
【0048】
これによって主円筒部8に設けた流入口29と、ガイド孔15と、摺動部材22に設けた空気通路30と、筒状部11内の空間31と、支持板16の通孔17とガイドピン20の間のわずかな空隙32(
図1(C)参照)と、蓋部材13の直径方向に開けた排気通路33と、通気孔24および鋼板部品2の下孔7によって構成された前述の通気構造に、冷却空気の流通がなされる。また、溶融部から飛散するスパッタは、下孔7通気孔24を経て排気通路33から外部へ排出される。
【0049】
したがって、
図3(C)に示すように、ナット3のねじ孔5と鋼板部品2の下孔7とはわずかな実害のない偏心量となり、可動電極41の進出によって圧縮コイルスプリング39を圧縮しながら溶着用突起6が鋼板部品2に加圧され、ついで溶接電流が通電されて溶接が完了する。可動電極41の進出によってガイドピン20、すなわち進退部材23が下降すると、可動端面38が静止内端面37から離れていわゆる開弁作用がなされる。
【0050】
図4に示した場合は、ガイドピン20の中心軸線O-Oに対して、下孔7が左側にずれた状態であり、下孔7の右側の内周部は傾斜部21の途中にひっかかっている。この状態から鋼板部品2の自重により下孔7の右側の内周部が傾斜部21を擦りながら、鋼板部品2が下降し端部材13の上面に着座する。鋼板部品2がこのように下降するときには、ガイドピン20はほとんど傾斜しないので、ガイドピン20とチャック機構45の間の鋼板に弾性的な膨らみ方向の曲げ変形が発生して、下降が許容される。膨らみ方向の曲げ変形は、
図4の2点鎖線47で示したイメージ変形のように、矢線48の方向に弾性変形をする。
【0051】
図4(C)に示すように、ねじ孔5と鋼板部品2の下孔7の偏心量は、実害のないわずかな値となる。通気構造における冷却空気の流通作用やスパッタの排出は、
図3の場合と同様にして行われる。
【0052】
図5は、従来技術の問題点を示す断面図であるが、上記実施例で用いた符号を
図5に記載して理解しやすくしている。
【0053】
以上に説明した実施例の作用効果は、つぎのとおりである。
【0054】
進退部材23が、キャップ部9の端部材13から突き出ている断面円形のガイドピン20と、主円筒部8に形成したガイド孔15に摺動可能な状態で挿入された摺動部材22が一体化されて構成され、ガイドピン20は、その外周面がキャップ部9内の支持板16に開けられた通孔17の内周面を擦りながら進退できるように、ガイドピン20の外径寸法と通孔17の内径寸法が設定されていることによって、進退部材23が、電極の中心軸線O-Oに対して実質的に傾斜変位をしないように構成されている。ガイドピン20の外径寸法と通孔17の内径寸法の差は、ガイドピン20を直径方向にがたつかせても、カタカタといった隙間感覚を感じないレベルまで詰められている。つまり、ガイドピン20の外周面と通孔17の内周面との間には、実質的に隙間がなくて摺動できる状態とされている。
【0055】
ガイドピン20と摺動部材22が一体化された進退部材23は、摺動部材22がガイド孔15と摺動している箇所と、ガイドピン20の外周面が通孔17の内周面に擦りつけられている箇所の2箇所において支持されている。鋼板部品2をガイドピン20にはめ合わせるときに、ガイドピン20の中心軸線O-Oと鋼板部品2の下孔7の中心軸線がずれた偏心状態になっていると、鋼板部品2の下孔内周部がガイドピン20の傾斜部21に擦りつけられるような現象が発生して、ガイドピン20を倒そうとする力が作用する。このような力が作用しても、上記2箇所支持によって進退部材23の中心軸線O-Oは容易に傾くことがない。
【0056】
一方、鋼板部品2はロボット装置44のチャック機構45によって強固に保持されているので、鋼板部品2がチャック機構45から抜け出るような位置ずれは発生しない。
【0057】
このようにガイドピン20は容易に傾斜しない状態であり、鋼板部品2はチャック機構45から容易に抜け出ない状態になっているので、下孔7の内周部が傾斜部21を滑動するときには、ガイドピン20とチャック機構45の間の鋼板に弾性変形が発生する。このような弾性変形の後、鋼板部品2が端部材13に載置されると、鋼板部品2の下孔7がガイドピン20と実質的に同心状態になったり、実害のないレベルの偏心量になったりする。
図3の(A)と(B)を比較すると、下孔7の空間隙間に大きな差が認められ、(B)が実害のないレベルの偏心量である。
図4においても、同様である。
【0058】
上記の鋼板部品2側の弾性変形は、鋼板部品2に発生する曲げ変形や、伸び変形などの弾性変形によってなされている。鋼板部品2の端部がロボット装置44のチャック機構45で強固に保持されているので、鋼板部品2の下孔7がガイドピン20からずれていると、チャック機構45の箇所においては鋼板部品20の滑りなどの位置ずれが発生しないとともに、ガイドピン20が容易に傾斜しないので、鋼板部品2の側に曲げ変形や伸び変形を起こさせている。
【0059】
通常、例えば、ナット3を溶接する場合のガイドピン20の先端部分は、先端に向かって徐々に直径が小さくなる傾斜部形状、例えばテーパ型形状とされているので、鋼板部品2がその自重によって電極の端部材13側へ移動すると、下孔内周部が電極の中心軸線O-O方向に移動させられてテーパ形状部分に擦り付けられる。このときに、ガイドピン20に対してガイドピン20の直径方向の力、すなわちガイドピン20を倒そうとする力が作用するが、上記2箇所支持によって、ガイドピン20の傾斜移動が実質的に発生しない状態になっているとともに、チャック機構45の箇所においては鋼板部品2の滑りなどの位置ずれがないので、鋼板部品2の側にガイドピン20の直径方向の弾性的変位が生じて、ガイドピン20の中心軸線O-Oと下孔7の中心軸線O1-O1との上記偏心状態が、実質的に問題とならないレベルに減少する。つまり、傾斜変位が実質的に問題とならない強固なガイドピン20に対して、チャック機構45で強固に保持された鋼板部品2の下孔7内周部が擦り付けられるので、鋼板部品2側の方に弾性変形を起こさせることができるのである。
【0060】
上記のような鋼板部品2側におけるガイドピン直径方向の弾性的変位は、鋼板部品2に曲げ方向変形や伸び方向変形を発生させていることによって確保されている。本実施例においては、例えば、前記のフロアパネルやドアパネルのような板厚が薄くて、下孔サイズよりも遥かに大きな鋼板部品2の弾性変形を意図的に活用している。換言すると、下孔7の中心軸線O1-O1とガイドピン20の中心軸線O-Oの偏心量を、鋼板部品2の弾性変形で吸収するものである。この弾性変形の態様としては、ガイドピン20とチャック機構45との間の距離が短くなろうとするときには、ガイドピン20とチャック機構45の間の鋼板に曲げ変形が生じる。また、ガイドピン20とチャック機構45との間の距離が長くなろうとするときには、ガイドピン20とチャック機構45の間の鋼板に伸び変形が生じる。
【0061】
前述のロボット装置44で鋼板部品2を保持するときには、ロボット装置44のチャック機構45で鋼板部品2をくわえるようにしたり、あるいは鋼板部品2の搬送治具に設けたチャック機構45でくわえるようにしたりするのであるが、ガイドピン20と下孔7の位置ずれが鋼板部品2の弾性変形で吸収されるので、ロボット装置44や搬送治具などの採用が行いやすくなる。換言すると、ガイドピン20は容易に傾斜しない状態であるとともに、チャック機構45が強固に鋼板部品2を保持しているので、鋼板部品2側において弾性変形を起こさせることができるのである。
【0062】
流入口29から電極本体1内に流入した冷却空気が摺動部材22の空気通路30やガイドピン部の通気空隙32を通過することと、支持板16の一部をキャップ部9内の空間31に突き出た状態で露出させてあることによって、合成樹脂材料製の支持板16を効果的に冷却することができ、支持板16の耐久性向上にとって有効である。とくに、支持板16はキャップ部9の奥部、すなわち溶接熱の発生個所に近い位置に配置されているので、上記のような冷却作用が重要である。
【0063】
さらに、支持板16の一部をキャップ部9内の空間31に突き出た状態で露出さてあるので、溶接熱によって支持板16が膨張すると。上記露出部分がキャップ部9内の空間31内へ2点鎖線図示のように膨出する。このような空間31へ向けた膨張変形によって、通孔17の内周面とガイドピン20の外周面との異常に強い接触が緩和され、このため通孔内面の摩耗進行をゼロにするか、または実質的に実害のない摩耗レベルにすることができ、支持板16の耐久性向上にとって有効である。このような現象は、熱膨張によって生じる支持板16内の内部応力が空間に向かう分散的膨張によって小さくなるものと、考えられる。
上述のように、本発明の電極によれば、ガイドピンと摺動部材からなる進退部材が収容された電気抵抗溶接用電極において、ガイドピンに鋼板部品の一部が接触しても、進退部材が容易に傾斜しないようにするとともに、ガイドピンとロボット装置のチャック機構の間の鋼板に弾性変形をおこさせるものである。したがって、自動車の車体溶接工程や、家庭電化製品の板金溶接工程などの広い産業分野で利用できる。