(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097745
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】微細藻類増殖促進用微生物、微細藻類増殖促進剤、微細藻類の培養方法、微生物のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20240711BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240711BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C12N1/12 Z
C12N1/00 T ZNA
C12N1/12 A
C12N1/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023166726
(22)【出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2023000957
(32)【優先日】2023-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・日本農芸化学会2022年度京都大会(開催日:令和4年3月15日~令和4年3月18日) ・2022年度生物工学若手研究者の集い(若手会)オンラインセミナー2022(開催日:令和4年5月27日) ・第22回マリンバイオテクノロジー学会大会(開催日:令和4年5月28日~令和4年5月29日) ・令和4年度 日本農芸化学会北海道・東北支部合同支部会・合同若手の会(開催日:令和4年9月20日~令和4年9月22日) ・創立100周年記念第74回日本生物工学会大会(2022)(開催日:令和4年10月17日~令和4年10月20日) ・Young Asian Biological Engineers’Community2022(開催日:令和4年12月9日) ・超異分野学会東京大会2023(開催日:令和5年3月3日~令和5年3月4日)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、中小企業庁、戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】515021426
【氏名又は名称】環境大善株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 正朗
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勇太
(72)【発明者】
【氏名】草野 友美
(72)【発明者】
【氏名】タン ペイ ユ
(72)【発明者】
【氏名】窪之内 誠
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA10X
4B065AA15X
4B065AA45X
4B065AA83X
4B065BA25
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA44
4B065CA49
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】微細藻類の増殖を促進する。
【解決手段】ロドコッカス属、キサントバクター属、アンサイロバクター属、シェワネラ属、又は、アエロモナス属に属する微生物である。前記微生物が、ロドコッカス属のロドコッカス・セラスティ、キサントバクター属のキサントバクター・フラヴス、又は、アンサイロバクター属のアンサイロバクター・ルドゲンシスであってもよい。前記微生物が、藍藻、緑藻、灰色藻又はユーグレナ藻の増殖を促進するためのものであってもよい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロドコッカス属、キサントバクター属、アンサイロバクター属、シェワネラ属、バシラス属、又は、アエロモナス属に属する微生物であることを特徴とする微細藻類増殖促進用微生物。
【請求項2】
前記微生物が、ロドコッカス属のロドコッカス・セラスティ、キサントバクター属のキサントバクター・フラヴス、又は、アンサイロバクター属のアンサイロバクター・ルドゲンシスである、請求項1に記載の微細藻類増殖促進用微生物。
【請求項3】
前記微生物が、バシラス属のバシラス・リケニフォルミス、バシラス・プミリス、バシラス・ジャンジョウエンシス、バシラス・アウストラリマリス、バシラス・サフェンシス、ペリバシラス・アカンティ、ロドコッカス属のロドコッカス・セラスティ、アエロモナス属のアエロモナス・サルモニシダ又はアエロモナス・ピシコラである、請求項1に記載の微細藻類増殖促進用微生物。
【請求項4】
藍藻、緑藻、灰色藻又はユーグレナ藻の増殖を促進するための請求項1~3のいずれか一項に記載の微細藻類増殖促進用微生物。
【請求項5】
シアノバクテリア門又はユーグレナ植物門に属する生物の増殖を促進するための請求項1~3のいずれか一項に記載の微細藻類増殖促進用微生物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の微細藻類増殖促進用微生物を含有する微細藻類増殖促進剤。
【請求項7】
ロドコッカス属、キサントバクター属、アンサイロバクター属、シェワネラ属、バシラス属、又は、アエロモナス属に属する微生物のうちの一つ以上の微生物を、微細藻類とともに共培養することを特徴とする、微細藻類の培養方法。
【請求項8】
スクリーニング対象となる微生物を、微細藻類とともに共培養するステップと、
共培養後の培地に含まれるクロロフィルを定量するステップと、
を備える、微生物のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記クロロフィルを定量するステップにおいて、励起波長を488nm、蛍光波長を683~720nmとして、蛍光強度を測定するステップである請求項8に記載の微生物のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記クロロフィルを定量するステップが、
微細藻類がPCC7972の場合は励起波長488nm、蛍光波長683nmとし、微細藻類がNIES-2173の場合は励起波長488nm、蛍光波長685nmとし、微細藻類がNIES-48の場合は励起波長488nm、蛍光波長700nmとして蛍光強度を測定するステップである、
請求項8に記載の微生物のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類の増殖を促進する微細藻類増殖促進用微生物、微細藻類増殖促進剤、微細藻類増殖促進用微生物を用いた微細藻類の培養方法、及び、微細藻類の増殖を促進可能な微生物を分離するためのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細藻類は、例えば、天然物由来の赤色を呈するカロチノイド色素の一種であるアスタキサンチン等の有用物質の工業生産に利用されている。微細藻類から有用物質を抽出し、食品、医薬品、飼料、肥料等の原材料とすることが行われている。最近では、微細藻類が細胞内に蓄積する糖質や脂質を有用物質として利用して、石油やバイオエタノールを生産することが注目されている。また、微細藻類の一つであるユーグレナはそれ自体が食品原料として工業生産されている。微細藻類は、光合成能力により二酸化炭素を固定することが可能である。このため、温暖化対策として微細藻類を培養することも有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微細藻類の増殖速度は一般的な従属栄養微生物と比べ低い。例えば、特許文献1には、微細藻類を用いた有用物質等の生産の経済性を向上させるため、窒素及びリン等の栄養素のレベルを増大させることにより、微細藻類の増殖速度を上昇させることが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載された方法では、微細藻類の増殖速度を十分に高くすることができないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、微細藻類の増殖を促進することができる微細藻類増殖促進用微生物、微生物を含む微細藻類増殖促進剤、微細藻類の培養方法、並びに、微細藻類の増殖を促進可能な微生物を分離するためのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の微細藻類増殖促進用微生物は、ロドコッカス属、キサントバクター属、アンサイロバクター属、シェワネラ属、バシラス属、又は、アエロモナス属に属する微生物である。
【0007】
前記微生物が、ロドコッカス属のロドコッカス・セラスティ、キサントバクター属のキサントバクター・フラヴス、又は、アンサイロバクター属のアンサイロバクター・ルドゲンシスであってもよい。また、前記微生物が、バシラス属のバシラス・リケニフォルミス、バシラス・プミリス、バシラス・ジャンジョウエンシス、バシラス・アウストラリマリス、バシラス・サフェンシス、ペリバシラス・アカンティ、ロドコッカス属のロドコッカス・セラスティ、アエロモナス属のアエロモナス・サルモニシダ又はアエロモナス・ピシコラであってもよい。前記微生物が、藍藻、緑藻、灰色藻又はユーグレナ藻の増殖を促進するためのものであってもよい。前記微生物が、シアノバクテリア門又はユーグレナ植物門に属する生物の増殖を促進するためのものであってもよい。
【0008】
本発明の第2の態様の微細藻類増殖促進剤は、前記微細藻類増殖促進用微生物を含有する。
【0009】
本発明の第3の態様の微細藻類の培養方法は、ロドコッカス属、キサントバクター属、アンサイロバクター属、シェワネラ属、バシラス属、又は、アエロモナス属に属する微生物のうちの一つ以上の微生物を、微細藻類とともに共培養することを特徴とする。
【0010】
本発明の第4の態様の微生物のスクリーニング方法は、スクリーニング対象となる微生物を、微細藻類とともに共培養するステップと、共培養後の培地に含まれるクロロフィルを定量するステップと、を備える。前記クロロフィルを定量するステップが、励起波長488nm、蛍光波長680nm~720nmで蛍光強度を測定するステップであってもよく、微細藻類がPCC7972の場合は励起波長488nm、蛍光波長683nm、微細藻類がNIES-2173の場合は励起波長488nm、蛍光波長685nmとし、微細藻類がNIES-48の場合は励起波長488nm、蛍光波長700nmで蛍光強度を測定することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細藻類の増殖を促進するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】オーメロッド培地に添加したそれぞれの培地成分の濃度を示す。
【
図2】共培養培地のそれぞれの培地成分の濃度を示す。
【
図4】共培養6日目においてクロロフィル蛍光強度の倍率が1.0を超えた分離株を示す。
【
図5】共培養6日目においてクロロフィル蛍光強度の倍率が1.0を超えた分離株を示す。
【
図6】PCC7942の純粋培養及びAF2108株との共培養時のクロロフィルaの経時変化を示す。
【
図7】PCC7942の純粋培養及びAF2108株との共培養時の培養時間168時間目における細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
【
図8】PCC7942の純粋培養及びAF2108株とのフラスコによる共培養の様子を時系列順に示す。
【
図9】NIES-2173の純粋培養及びAF2108株との共培養時のクロロフィルa+bの経時変化を示す。
【
図10】NIES-2173の純粋培養及びAF2108株との共培養時の培養時間120時間目における細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
【
図11】Rhodococcus属の系統樹を示す。
【
図12】PCC7942の純粋培養及びAF2111株との共培養時のクロロフィルaの経時変化を示す。
【
図13】PCC7942の純粋培養及びAF2111株との共培養時の培養時間168時間目における細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
【
図14】PCC7942の純粋培養及びAF2111株とのフラスコによる共培養の様子を時系列順に示す。
【
図15】NIES-2173の純粋培養及びAF2111株との共培養時のクロロフィルa+bの経時変化を示す。
【
図16】NIES-2173の純粋培養及びAF2111との共培養時の培養120時間目における細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
【
図17】Xanthobacter属の系統樹を示す。
【
図18】PCC7942の純粋培養及びGA1226株との共培養時のクロロフィルaの経時変化を示す。
【
図19】PCC7942の純粋培養及びGA1226株との共培養時の培養168時間目における細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
【
図20】PCC7942の純粋培養及びGA1226株とのフラスコによる共培養の様子を時系列順に示す。
【
図21】NIES-2173の純粋培養及びGA1226株との共培養時のクロロフィルa+bの経時変化を示す。
【
図22】NIES-2173の純粋培養及びGA1226株との共培養時の培養120時間目における細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
【
図23】Ancylobacter属の系統樹を示す。
【
図24】PCC7942の純粋培養及びOR151株との共培養時のクロロフィルaの経時変化を示す。
【
図25】PCC7942の純粋培養及びOR121株との共培養時の培養168時間目での細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
【
図26】PCC7942の純粋培養及びOR151株とのフラスコによる共培養の様子を時系列順に示す。
【
図27】NIES-2173の純粋培養時及びOR151株との共培養時のクロロフィルa+b濃度の経時変化を示す。
【
図28】NIES-2173の純粋培養及びOR151株との共培養の培養120時間目における細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
【
図33】単独培養又は共培養時のクロロフィル量の経時変化を示す。
【
図35】JM311と近縁のBacillus属の系統樹を示す。
【
図36】単独培養又は共培養時のクロロフィル量の経時変化を示す。
【
図38】JM321と近縁のBacillus属の系統樹を示す。
【
図39】単独培養又は共培養時のクロロフィル量の経時変化を示す。
【
図41】AF2108と近縁のRhodococcus属の系統樹を示す。
【
図42】単独培養又は共培養時のクロロフィル量の経時変化を示す。
【
図44】JM202と近縁のAeromonas属の系統樹を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[微細藻類増殖促進用微生物]
本発明の微細藻類増殖促進用微生物は、ロドコッカス属(Rhodococcus属)、キサントバクター属(Xanthobacter属)、シェワネラ属(Shewanella属)、アンサイロバクター属(Ancylobacter属)、バシラス属(Bacillus属)、又は、アエロモナス属(Aeromonas属)に属する微生物である。これらの微生物は、牛の尿を微生物によって処理した牛尿発酵液(Fermented Cattle Urine, FCU)、FCUから製造される微細藻類増殖促進剤を使ったスクリーニングによって得られたものであるが、本発明の微細藻類増殖促進用微生物は、上記のいずれかの属に属する微生物で、微細藻類の増殖を促進する作用を有する微生物であれば、FCUから単離されたものに限定されない。好ましくは、微細藻類増殖促進用微生物は、ロドコッカス属のロドコッカス・セラスティ(Rhodococcus cerastii)、キサントバクター属のキサントバクター・フラヴス(Xanthobacter flavus)、アンサイロバクター属のアンサイロバクター・ルドゲンシス(Ancylobacter rudongensis)、又は、シェワネラ属(Shewanella sp.)である。
【0014】
また、好ましくは、微細藻類増殖促進用微生物は、バシラス属のバシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バシラス・プミリス(Bacillus pumilus)、バシラス・ジャンジョウエンシス(Bacillus zhangzhouensis)、ペリバシラス・アカンティ(Peribacillus acanthi)、バシラス・アウストラリマリス(Bacillus australimaris)、バシラス・サフェンシス(Bacillus Safensis)、ロドコッカス属のロドコッカス・セラスティ(Rhodococcus cerastii)又はアエロモナス属のアエロモナス・サルモニシダ(Aeromonas salmonicida)、アエロモナス・ピシコラ(Aeromonas piscicola)である。本発明の微細藻類増殖促進用微生物は、微細藻類と共培養する、あるいは、微細藻類増殖促進用微生物を培養する培地を微細藻類の培地に添加や混合をすることで、微細藻類の増殖を促進することができる。
【0015】
[微細藻類]
本発明の微細藻類増殖促進用微生物は、微細藻類の増殖を促進する。微細藻類は、光合成可能な生物のうち、個体の識別に顕微鏡を要するものである。
【0016】
微細藻類は、例えば、シアノバクテリア門(例えば、藍藻)、不等毛植物門、ユーグレナ植物門(例えば、ユーグレナ藻)、クリプト植物門、ハプト植物門、ケルコゾア門、灰色植物門(例えば、灰色藻)、紅色植物門、緑藻植物門(例えば、緑藻)又はストレプト植物門に属する生物種である。微細藻類としては、藍藻などのシアノバクテリア門又はユーグレナ藻などのユーグレナ植物門に属する生物が好ましい。
【0017】
微細藻類は、例えば、シアノバクテリア門のクロオコッカス目、ユレモ目、ネンジュモ目、スティゴネマ目に属する生物種が挙げられ、具体的には、クロオコッカス(Chroococ cus sp.)、ミクロキスチス(Microcystis aeruginosa)、ユレモ(Oscillataria sp.)、ミクロコレウス(Microcoleus sp.)、ネンジュモ(Nostoc sp.)、キリンドロスペルムム(Cylindrospermum)、スティゴネマ(Stigonema)又はシネココッカス・エロンゲイタス(Synecochoccus elongatus)が挙げられる。
【0018】
微細藻類は、例えば、不等毛植物門の黄金色藻綱のオクロモナス目又はマロモナス目に属する生物種であってもよく、具体的には、ニセクスダマヒゲムシ(Uroglenopsis americana)、ウログレナ(Uroglena volvox)、マロモナス(Mallomonas)又はシヌラ(Synura sp.)が挙げられる。微細藻類は、例えば、不等毛植物門の珪藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、コアミケイソウ(Coscinodiscus sp.)又はディアトマ(Diatoma)が挙げられる。
【0019】
微細藻類は、例えば、不等毛植物門の黄緑色綱に属する生物種であってもよく、具体的には、シュードスタウラスツルム(Pseudostaurastrum sp.)又はカラキオプシス(Characiopsis sp.)が挙げられる。微細藻類は、例えば、不等毛植物門のディクチオカ藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、ディクチオカ(Dictyocha sp.)が挙げられる。微細藻類は、例えば、不等毛植物門の渦鞭毛藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、ウズオビムシ(Peridinium sp.)又はマルスズオビムシ(Scripp siella trochoidea)が挙げられる。
【0020】
微細藻類は、例えば、ユーグレナ植物門のユーグレナ藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、ユーグレナ(Euglena sp.)又はウチワヒゲムシ(Phacus sp.)が挙げられる。微細藻類は、例えば、クリプト植物門のクリプト藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、クリプトモナス(Cryptomonas sp.)又はロドモナス(Rhodomonas sp.)が挙げられる。
【0021】
微細藻類は、例えば、ハプト植物門のハプト藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、コロノスファエラ(Coronosphaera sp.)又はゲフィロカプサ(Gephyrocapsa sp.)が挙げられる。微細藻類は、例えば、ケルコゾア門の有殻糸状根足虫綱に属する生物種であってもよく、具体的には、パウリネラ クロマトフォラ(Paulinella chromatophora)が挙げられる。微細藻類は、例えば、灰色植物門の灰色藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、グラウコキスチス(Glaucocystis sp.)が挙げられる。
【0022】
微細藻類は、例えば、紅色植物門の紅藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、イデユコゴメ(Cyanidium sp.)又はガルディエリア(Galdieria sp.)が挙げられる。微細藻類は、例えば、緑藻植物門の緑藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、フタヅノクンショウモ(Pediastrum duplex)、ボルボックス(Volvox sp.)、クラミドモナス(Chlamydomonas sp.)又はアステロコックス(Asterococcus sp.)又はクロレラが挙げられる。微細藻類は、例えば、緑藻植物門のトレボウキシア藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、クロレラ属に属する単細胞緑藻類であってもよい。クロレラ属に属する単細胞緑藻類は、例えば、クロレラ・ソロキニアナ(Chlorella sorokiniana)であってもよい。
【0023】
微細藻類は、例えば、ストレプト植物門のメソスティグマ藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、メソスティグマ(Mesostigma sp.)が挙げられる。微細藻類は、例えば、ストレプト植物門の接合藻綱に属する生物種であってもよく、具体的には、ホシミドロ(Zygnema sp.)が挙げられる。微細藻類は、一例としては、いわゆるラン藻の一種であるシアノバクテリア門のシネココッカス・エロンゲイタス(Synecochoccus elongatus)が挙げられる。
【0024】
[微細藻類増殖促進剤]
本発明の微細藻類増殖促進用微生物を含む微細藻類増殖促進剤は、剤型は限定されず、液体、固形又はスラリー等のいずれであってもよいが、液体であることが好ましい。また、本発明の微細藻類増殖促進剤は、剤型に応じた副成分、例えば、希釈剤、安定剤、増粘剤、造粒剤などを含んでいてもよい。微細藻類増殖促進剤は、例えば、微細藻類を培養するための培地に添加することで使用することができる。
【0025】
本発明の微細藻類増殖促進剤は、上述した微細藻類増殖促進用微生物を含有する。微細藻類増殖促進剤は、そのまま用いてもよいが、使用前に微生物を除去してもよい。微生物を除去する方法としては特に制限されず、例えば、フィルターによる除去、遠心分離による除去、オートクレーブによる滅菌、紫外線照射による滅菌が挙げられる。本発明の微細藻類増殖促進剤を添加することにより、微細藻類の増殖を促進することができる。
【0026】
本発明の微細藻類の培養方法は、上述の微細藻類促進用微生物を、微細藻類とともに共培養する。例えば、微細藻類促進用微生物を、FCU培地中において微細藻類とともに共培養する。このようにして、微細藻類の増殖を促進することができる。
【0027】
[スクリーニング方法]
本発明のスクリーニング方法は、微細藻類の増殖を促進することのできる微生物をスクリーニングする方法であり、以下の(1)及び(2)の工程を含む。
(1)スクリーニング対象となる微生物を、微細藻類とともに共培養するステップ。
(2)共培養後の培地に含まれるクロロフィルを定量するステップ。
【0028】
(1)のスクリーニング対象となる微生物を準備する方法は特に限定されないが、例えば、牛尿を曝気することにより発酵させた牛尿発酵液(Fermented Cattle Urine, FCU)のように、微細藻類の増殖を促進することのできる自然由来の液から、候補となる微生物を単離することが可能である。牛尿の代わりに、馬、豚等の別の家畜の尿を発酵させた家畜尿発酵液に含まれる微生物をスクリーニング対象としてもよい。FCUを使用する場合、このFCUを希釈した希釈液をオーメロッド培地に加えて培養する。
図1は、オーメロッド培地に添加したそれぞれの培地成分の濃度を示す。オーメロッド培地において形成されたコロニーを別のオーメロッド培地に分離して培養する操作を繰り返すことにより、複数の単一コロニーを得る。形成された複数の単一コロニーのそれぞれを、微細藻類を含む複数の培地で共培養する。
【0029】
また、スクリーニング対象となる微生物は、オーメロッド培地やJCM520培地の代わりに、FCU培地中において培養してもよい。この場合、FCUは、121℃、20分のオートクレーブ殺菌したものを用いてもよく、0.22μmフィルターを通すことにより滅菌したものを用いてもよい。FCUと滅菌水とを混合することにより、完成したFCU培地における濃度がFCUの濃度が20%又は10%となるようにFCUの分量を調整する。FCU培地には、完成したFCU培地における濃度が0.8%になるように調整したゲランガム、又は、完成したFCU培地における濃度が2%となるように調整した寒天を添加する。
【0030】
上述の(2)に示すように、スクリーニング対象の微生物と微細藻類との共培養後の微細藻類に含まれるクロロフィルを定量することにより、この微生物が微細藻類の増殖を促進する効果をどの程度発揮したかを評価することができる。クロロフィルを定量するステップでは、蛍光分光光度計を用いて、励起波長488nm、蛍光波長が683nm~720nmで蛍光強度を測定する。また、微細藻類の種類によって波長を変えることも可能であり、例えば、PCC7972の場合は励起波長488nm、蛍光波長683nm、NIES-2173の場合は励起波長488nm、蛍光波長685nm、NIES-48の場合は励起波長488nm、蛍光波長700nmで蛍光強度を測定することが好ましい。このようにして、クロロフィルの蛍光に対応する波長の光を測定することにより、微生物が微細藻類の増殖をどの程度促進したかを精度よく評価することができる。
【0031】
特定したコロニーの微生物ゲノムにおいて16SrRNA等に対応するDNA配列をシーケンスにより解読する。一例としては、このDNA配列と最も一致度が高いDNA配列を有する既知の微生物をこのコロニーに対応する微生物又はこのコロニーに対応する微生物の候補として同定する。また、特定したコロニーの微生物ゲノムにおいて16SrRNA等に対応するDNA配列との一致度が閾値以上のDNA配列を有する既知の微生物をこのコロニーに対応する微生物として同定してもよい。閾値は、例えば、97%から98%の範囲内の値である。
【実施例0032】
[微細藻類増殖促進微生物の分離と培養方法]
オーメロッド培地を用いて、微細藻類増殖促進効果を有する微生物を分離した。
図1に示した各培地成分に加えて2%寒天を添加し、121℃で20分オートクレーブを実施することにより、オーメロッド寒天培地を作製した。発酵済のFCUを分離源とし、分離源のFCUを10倍から10
5倍の範囲で希釈した液を作り、各シャーレに固まったオーメロッド培地に希釈したFCUを100μL播き、コンラージ棒で植菌し、ふたをし、好気条件、室温(24℃)、115-120μmol/m
2/s、24時間のうち12時間だけ光を照射する環境においてコロニー形成まで培養した。形成されたコロニーをディスポループで、ピックアップし、分離に使った培地と同様な培地に数回植え継ぎして、単独のコロニーを得た。
【0033】
[ハイスループットな共培養評価系による微細藻類増殖促進細菌のスクリーニングの概要]
(1)藍藻
藍藻のモデル生物であるSynechococcus elongatus PCC 7942(以下、単にPCC7942ともいう)を微細藻類増殖促進効果を評価するために用いた。PCC7942の単独培養の場合、前培養として、共培養培地を用いて7日間で30℃、120rpm、光量子束密度115-120μmol/m2/s、24時間連続光照射でフラスコ培養を行った。光量子束密度は、光の強さを表す。
【0034】
図2は、共培養培地のそれぞれの培地成分の濃度を示す。
図2中の微量元素は、100 mLの溶液中に0.25gのCuSO
4・5H
2O、0.37gの(NH
4)6Mo
7O
24・4H
2O、2.47gのH
3BO
3、0.29gのZnSO
4・7H
2O、1.58gのMnCl
2・4H
2Oをそれぞれ含む。PCC7942に分離株を混合することなく共培養培地に植菌し、30℃、120rpm、光量子束密度115-120μmol/m
2/s、24時間連続光照射で7日間本培養を行った。24時間ごとにクロロフィルa濃度(μg/mL)を測定した。
【0035】
FCUから分離された分離株とPCC7942とを共培養する場合、共培養のための前培養として、100mLフラスコを用いて、共培養培地40mLに500μLの菌株グリセロールストック液を植菌し、30℃、160rpm、で行った。本培養時、100mLのフラスコに共培養培地を40mL分注し、PCC7942の波長600nmの光の吸光度A600が分離株との混合後に0.05になるようにPC7942の分量を調整し、FCUから分離されたそれぞれの分離株の波長600nmの光の吸光度A600がPCC7942との混合後に0.01、0.05又は0.08等になるようにそれぞれの分離株の分量を調整する。
【0036】
PCC7942と分離株とを混合した後に共培養培地に植菌し、30℃、120rpm、光量子束密度115-120μmol/m2/s、24時間連続光照射で7日間本培養を行った。24時間ごとにクロロフィルa濃度(μg/mL)を定量した。それぞれの分離株について、PCC7942と同様なクロロフィル蛍光を持たないことを確認した。このことから、それぞれの分離株はPCC7942との共培養時に、PCC7942由来のクロロフィル蛍光強度の測定結果に影響を与えないことがわかる。
【0037】
<クロロフィル定量>
共培養後のサンプルを1mL回収し15,000×gで7分間遠心分離した。上澄み画分を除去し、沈殿として回収した細胞を1mLの冷やした100%(vol/vol)メタノールに再懸濁した。細胞から色素を抽出するために、サンプルを4.0℃で1時間光のない場所に入れ、インキュベートした。インキュベーション後、サンプルを15,000×gで10分間、4.0℃で遠心分離し、上清に含まれるクロロフィルaを分光光度法により定量した。ブランクとしてメタノールを使用して校正され、665nmおよび72 0nmでの吸光度が測定された。クロロフィルa濃度は、式(クロロフィルa濃度(μg/mL)=12.9447×(A665-A720))により求めた。
【0038】
<フローサイトメトリー分析>
フローサイトメータCube8を用いて細胞数及び細胞ごとのクロロフィル蛍光を測定した。1000倍希釈したそれぞれの培養液を1mLずつ調整し、測定用試料とした。前方散乱(FSC―H)、側方散乱(SSC―H)、クロロフィル蛍光(FL2-H)の電圧は、それぞれ、200.0V、275.0V、525.0V、675.0Vとした。
【0039】
(2)クロレラ
<培養方法>
微細藻類の別の例としてクロレラ・ソロキニアナ(Chlorella sorokiniana)NIES-2173(以下、単にNIES-2173ともいう)を用いて微細藻類増殖促進効果を評価した。グルコースを5g/L添加した改変BG11培地で前培養を3日間で30℃、125rpm、PPFD、133μmol/m2/s、明暗期24h/0hでフラスコ培養を行った。分離株の場合、前培養では、100mLフラスコを用いて、共培養培地40mLに1mLの菌株グリスト液を植菌し、30℃、168rpmで行った。
【0040】
本培養時、100mLのフラスコにグルコースを5g/L添加した改変BG11培地を40mL分注し、クロレラ・ソロキニアナNIES-2173がA750:0.025になり、各株がA600:0.005、A600:0.025、A600:0.04などになるように調整し、グルコースを5g/L添加した改変BG11培地に植菌し、30℃、125rpm、PPFD、133μmol/m2/s、明暗期24h/0h、で4日間本培養を行った。(n=3)。
【0041】
<クロロフィル定量>
1mLの培養液を1.5mLチューブに回収し、8,000rpm,10min.、4℃で遠心した。上清を除去した後1.5mLの純メタノールを添加し、4℃,暗所で24h静置して細胞塊をメタノールに浸漬した。24時間後、ボルテックスミキサーで攪拌して再度8,000rpm,10min、4℃で遠心した。上清をガラス製のキュベットに移し653nm、666nm及び750nmにおける吸光度を測定した。クロロフィルaの色素量を計算式(1)ChlA(mg/L)=15.65(Abs666-Abs750)-7.34(Abs653-Abs750)により算出した。計算式(1)中、ChlAは、クロロフィルaの略号である。Abs653、Abs666、Abs750は、順に波長653nm、666nm、750nmの吸光度である。クロロフィルbの色素量を計算式(2)ChlB(mg/L)=27.05(Abs653-Abs750)-11.21(Abs666-Abs750)(2)により算出した。計算式(2)中、ChlBは、クロロフィルbの略号である。
【0042】
<フローサイトメトリー分析>
フローサイトメータCube8を用いて細菌絶対数、細胞毎のクロロフィル蛍光を測定した。100倍希釈したそれぞれの培養液を1mLずつ調整し、測定用試料とした。前方散乱(FSC-H)、側方散乱(SSC-H)、クロロフィル蛍光(FL2-H)の電圧は、それぞれ、125.0V、180.0V、525.0V、400.0Vとした。
【0043】
[微細藻類増殖促進菌株のゲノム抽出]
各分離株を純粋培養し、ゲノム抽出に供した。菌体が入ったチューブを冷却遠心分離機により、10,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、細胞ペレット(沈殿物)を回収した。ピペッターを用いて、上清を廃液溜めに捨てた。細胞ペレットに560μLのTEバッファを入れ、よく攪拌して細胞を懸濁した。30μLの10%SDS並びに10μLのプロテイナーゼK溶液を添加し、よく混ぜた後、37℃で1時間保温した。100μLの5MNaClを添加し、よく混ぜた。80μLのCTAB/NaCl溶液を添加し、よく混ぜて、65℃で10分間保温した。0.7mLのクロロホルム/イソアミルアルコールを入れ、チューブのふたを閉めて、チューブを上下に5―6回反転させて、よく攪拌した後、冷却遠心分離機で15,000rpm、5分間、4℃で遠心分離した。
【0044】
0.5~0.6mLの上層の液を取り、新しい1.5mLマイクロチューブに移した。移した液量と等量のフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールを加え、よく攪拌した後、冷却遠心分離機で15,000rpm、5分間、4℃で遠心分離した。上清を0.5~0.6mL取り、新しい1.5mLマイクロチューブに移した。移した溶液の0.6倍体積のイソプロパノールを加え、DNAを沈殿させた後、冷却遠心分離機で15,000rpm、5分間、4℃で遠心分離した。ピペッティングで静かに上清を捨て、1mLの70%エタノールを加え、再度冷却遠心分離機で15,000rpm、5分間、4℃で遠心分離した。上清を捨て、チューブのふたを開けた状態で、10分程度、乾燥させた。沈殿を100μLのTEバッファに溶解させた。
【0045】
27Fプライマー、1492Rプライマー及びTaKaRa LA Taqポリメラーゼ等を含むPCR反応液を19μL、沈殿をTEバッファに溶解させたDNAサンプル1μLを添加した。
図3は、PCR反応に使用したプライマーを示す。
図3中には、PCR反応に使用したプライマーの配列番号、プライマー名及びオリゴヌクレオチド配列を示す。
図3の上から1行目に27Fプライマーのオリゴヌクレオチド配列を示し、
図3の上から2行目に1492Rプライマーのオリゴヌクレオチド配列を示す。簡易遠心分離機でチューブをスピンダウンし、サーマルサイクラーの恒温ブロックにチューブを挿し、30サイクルのサーマルサイクル反応を行わせた。
【0046】
[カラム精製]
DNAサンプルと等量のメンブレンバインディングソリューションを添加した。SVミニカラムを回収チューブに挿入した(カラムアセンブリともいう)。溶液を全量SVミニカラムに移し、室温で1分程度放置した。このカラムアセンブリを冷却遠心分離機にセットし、16,000×gで1分間、4℃で遠心分離した。SVミニカラムに500μLのメンブレンウォッシュソリューションを入れ、16,000×gで1分間、4℃で遠心分離した。
【0047】
回収チューブの液を廃液溜めに捨て、再びSVミニカラムを回収チューブに挿入した。 SVミニカラムに500μLのメンブレンウォッシュソリューションを入れ、16,000×gで5分間、4℃で遠心分離した。回収チューブの液を廃液溜めに捨て、再びSVミニカラムを回収チューブに挿入したカラムアセンブリを16,000×gで1分間、4℃で遠心分離した。SVミニカラムを新しい1.5mLマイクロチューブに挿入した。滅菌水50μLをSVミニカラムに入れ、1分程度、室温で放置した後、16,000×gで1分間、4℃で遠心分離し、DNAを溶出させた。
【0048】
[サイクルシーケンス]
27Fプライマー等を含むシーケンス反応液を作成し、これを8μLとサンプルを2μL混合し、サーマルサイクラー(初期変性:96℃1分間、[変性:96℃10秒、アニーリング:50℃5秒、伸長:60℃4秒]×29回、最終伸長:4℃で時間無制限)で反応させた。シーケンス反応液には、
図3中に示す配列番号1から配列番号8までのプライマーのいずれかを用いた。サーマルサイクラーの後に、125mMのEDTAを5μL、99.5%EtOHを60μL加え、転倒混合しアルミホイルで包んで15分間放置した。その後、3750×g、30分間にわたって遠心分離し、反転したまま、185×gで10秒間にわたって遠心分離した。
【0049】
70%EtOHを60μL加え、3750×gで5分間にわたって遠心分離し、さらに185×gで10秒間にわたって遠心分離した。HiDiホルムアミド15μLを加え、2分間ボルテックスして、95℃で2分間、4℃で2分間ヒートショックを与えて、キャピラリーシークエンスを実行した。DNAシーケンスした生データをGENETYXのATGCソフトウェアでATGCデータ解析し、解析されたデータはNCBIでBLAST解析を行った。それから、GENETYXソフトウェアで、NCBIのデータベースを用いて近縁株のFASTAデータを取得し、各分離株の系統樹を作成した。
【0050】
[共培養評価系による微細藻類増殖促進細菌の選抜]
図4及び
図5は、共培養6日目においてクロロフィル蛍光強度の倍率が1.0を超えた分離株を示す。
図4及び
図5の左から5列目には、PCC7942のみで培養した場合と比較したクロロフィル蛍光強度の倍率を示す。PCC7942のみで培養した場合のクロロフィル蛍光強度の平均、標準偏差、倍率及び標準偏差を
図5の下から2行目(
図5中のPCC7942A)及び1行目(
図5中のPCC7942B)に示す。
【0051】
図4及び
図5の右から1列目の倍率の比較基準において「a」を付したものは、ネガティブコントロールであることを示す。
図4及び
図5の右から1列目の倍率の比較基準において「b」を付したものでは、
図5中のPCC7942Aと比較したクロロフィル蛍光強度の倍率を
図4及び
図5中の左から5列目の倍率の欄において示す。
図4及び
図5の右から1列目の倍率の比較基準において「c」を付したものでは、
図5中のPCC7942Bと比較したクロロフィル蛍光強度の倍率を
図4及び
図5中の左から5列目の倍率の欄において示す。
【0052】
FCUからの分離株144株のうち、34株のクロロフィル蛍光強度が、1.0倍以上の倍率となった。
図4及び
図5には、この34株を倍率が高い順に示す。
図4の上から1行目の分離株「AF2108」は、7.5倍の最も高い倍率を示した。
【0053】
以下、クロロフィル蛍光強度の倍率が3.0を超えた分離株(AF2108株、GA1226株、AF2111株、OR151株)を選択し、フラスコによる共培養を用いて、PCC7942増殖促進効果及びNIES-2173増殖促進効果をそれぞれ確認した。
【0054】
[AF2108分離株]
図6(a)及び
図6(b)は、AF2108分離株とPCC7942と共培養後のクロロフィルaの測定結果を示す。
図6(a)の左から1列目及び2列目は、PCC7942の単独培養中のクロロフィルa濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示す。
図6の左から1列目及び2列目の例では、PCC7942の単独培養開始時の波長730nmの吸光度が0.05になるようにPCC7942の分量を調整した。
【0055】
図6の左から3列目及び4列目には、PCC7942及びAF2108分離株の共培養後のクロロフィルa濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示す。
図6の左から3列目及び4列目の例では、PCC7942とAF2108分離株とを混合した共培養培地において共培養開始時のPCC7942成分の波長730nmの吸光度が0.05となるようにPCC7942の分量を調整した。
【0056】
この共培養培地において共培養開始時のAF2108分離株成分の波長600nmの吸光度が 0.05になるようにAF2108分離株の分量を調整した。PCC7942の168時間の単独培養後にクロロフィルaが9.079μg/mLまで増加した。一方、PCC7942及びAF2108分離株の168時間の共培養後にクロロフィルaが64.249μg/mLまで増加した。
【0057】
図6(b)は、PCC7942及びAF2108分離株の共培養中のクロロフィルa濃度を、PCC7942単独培養中のクロロフィルa濃度で除した倍率を示す。
図6(b)の上から2行目に示すように、PCC7942及びAF2108分離株の共培養中のクロロフィルaの濃度をPCC7942の単独培養と比較した倍率は、48時間で最大の15.65±0.72倍となり、168時間で最小の7.08±4.90倍になった。
【0058】
図7は、PCC7942の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
図7の上から1行目にPCC7942の単独培養を168時間継続した時点でのPCC7942の細胞数等を示す。
図7の上から2行目にPCC7942とAF2108分離株との共培養を168時間継続した時点でのPCC7942の細胞数等を示す。細胞の大きさは、フローサイトメトリーの前方散乱(FSC-H)により測定した。PCC7942及びAF2108分離株の168時間の共培養後の細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度は、PCC7942単独での培養と比較して、それぞれ2.40±0.12倍及び3.53±0.41倍になった。
【0059】
図8(a)から
図8(g)は、PCC7942及びAF2108分離株のフラスコによる共培養の様子を時系列順に示す。PCC7942及びAF2108分離株の24時間以降の共培養中の試料(左から1番目から3番目)は、PCC7942の単独培養)中の試料(左から4番目から6番目よりはるかに緑色が濃いことが確認された。
【0060】
図9(a)及び
図9(b)は、AF2108分離株とNIES-2173との共培養中のクロロフィルa及びクロロフィルbの濃度の合計(以下、クロロフィルa+b濃度ともいう)の測定結果を示す。
図9(a)の左から1列目及び2列目は、クロレラNIES-2173の単独培養中のクロロフィルa+b濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示す。
図9の左から1列目及び2列目の例では、NIES-2173の単独培養開始時の波長750nmの吸光度が0.025になるようにNIES-2173の分量を調整した。
【0061】
図9の左から3列目及び4列目には、NIES-2173及びAF2108分離株の共培養中のクロロフィルa+b濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示す。
図9の左から3列目及び4列目の例では、NIES-2173とAF2108分離株とを混合した共培養培地において共培養開始時のAF2108成分の波長600nmの吸光度が0.04となるようにAF2108の分量を調整した。
【0062】
NIES-2173の120時間の単独培養後にクロロフィルa+b濃度が10.22μg/mLまで増加した。一方、NIES-2173及びAF2108分離株の120時間の共培養後にクロロフィルa+b濃度が17.60μg/mLまで増加した。
【0063】
図9(b)は、NIES-2173及びAF2108分離株の共培養中のクロロフィルa+b濃度を、NIES-2173単独培養中のクロロフィルa+b濃度で除した倍率を示す。
図9(b)に示すように、NIES-2173及びAF2108分離株の共培養中のクロロフィルa+bの濃度をNIES-2173の単独培養中のものと比較した倍率は、96時間で最大の2.09±0.08倍となり、24時間で最小の1.25±0.09倍になった。したがって、AF2108分離株がNIES-2173の増殖を促進することが確認された。
【0064】
図10は、NIES-2173の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
図10の上から1行目にNIES-2173の単独培養後のNIES-2173の細胞数等を示す。
図10の上から2行目にNIES-2173とAF2108分離株との共培養後のNIES-2173の細胞数等を示す。細胞の大きさは、フローサイトメトリーの前方散乱(FSC-H)により測定した。NIES-2173及びAF2108分離株の共培養後の細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度は、NIES-2173単独での培養と比較して、それぞれ0.8±0.1倍及び1.0±0.1倍になった。
【0065】
図11は、Rhodococcus属の系統樹を示す。Pseudonocardia dioxanivorans CP1190基準株を外群とした。
図11中の数値は、系統樹の形の信頼性を示すブートストラップ値である。ブートストラップ値は50以上の値のもののみを示す。スケールバーは、アミノ酸の置換数の尺度を示す。この系統樹からみると、AF2108株は、ロドコッカス・セラスティ(Rhodococcus cerastii)と最も近い。AF2108株は、ロドコッカス・セラスティと相同性1 00%で一致し、ロドコッカス・セラスティであると同定された(受託番号:NITE P-03678)。
【0066】
[AF2111分離株]
図12(a)及び
図12(b)は、PCC7942及びAF2111分離株の共培養中のクロロフィルaの測定結果を示す。
図12(a)の左から1列目及び2列目には、PCC7942の単独培養中のクロロフィルa濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示す。
図12中に示すPCC7942の単独培養の例では、PCC7942の単独培養開始時の波長730nmの吸光度が0.05になるようにPCC7942の分量を調整した。
【0067】
図12の左から3列目及び4列目は、PCC7942及びAF2111分離株の共培養中のクロロフィルa濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示す。
図12中のPCC7942及びAF2111分離株の共培養の例では、PCC7942とAF2111分離株とを混合した共培養培地において、PCC7942成分の共培養開始時の波長730nmの吸光度が0.05となるようにPCC7942の分量を調整し、PCC7942とAF2111分離株とを混合した共培養培地において、AF2108分離株成分の共培養開始時の波長600nmの吸光度が0.01になるようにAF2108分離株の分量を調整した。
【0068】
図12(a)の下から1行目に示すように、PCC7942の単独培養では、168時間の培養によりクロロフィルaが9.079μg/mLまで増加した。一方、PCC7942及びAF2111分離株の共培養では、168時間の培養によりクロロフィルaが33.699μg/m Lまで増加した。
【0069】
図12(b)は、PCC7942及びAF2111分離株の共培養中のクロロフィルa濃度を、PCC7942の単独培養中のクロロフィルa濃度で除した倍率を示す。この倍率は、24時間で最大の6.92±0.48倍となり、144時間で最小の3.24±0.99倍になった。
【0070】
図13は、PCC7942の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
図13の上から1行目にPCC7942の単独培養を168時間継続した時点でのPCC7942の細胞数等を示す。
図13の上から2行目にPCC794とAF2111分離株との共培養を168時間継続した時点でのPCC7942の細胞数等を示す。
図13の上から2行目に示すように、PCC7942及びAF2111分離株の共培養後の細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度は、PCC7942の単独培養後の細胞の大きさ等と比較して、それぞれ2.19±0.11倍及び1.98±0.18倍になった。
【0071】
図14(a)から
図14(g)は、PCC7942及びAF2111分離株のフラスコによる共培養の様子を時系列順に示す。PCC7942及びAF2111分離株の24時間以降の共培養中の試料(左から1番目から3番目)は、PCC7942の単独培養中の試料(左から4番目から6番目)よりはるかに緑色が濃いことが確認された。
【0072】
図15(a)及び
図15(b)は、AF2111分離株とNIES-2173との共培養中のクロロフィルa+b濃度の測定結果を示す。
図15(a)の左から1列目及び2列目は、クロレラ NIES-2173の単独培養中のクロロフィルa+b濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示し、84時間後のクロロフィルa+b濃度の平均値等も示した。
図15の左から1列目及び2列目の例では、NIES-2173の単独培養開始時の波長750nmの吸光度が0.025になるようにNIES-2173の分量を調整した。
【0073】
図15の左から3列目及び4列目には、NIES-2173及びAF2111分離株の共培養中のクロロフィルa+b濃度の平均値と標準偏差とを示した。
図15の左から3列目及び4列目の例では、NIES-2173とAF2111分離株とを混合した共培養培地において共培養開始時のAF2111成分の波長600nmの吸光度が0.005となるようにAF2111の分量を調整した。
【0074】
NIES-2173の96時間の単独培養後にクロロフィルa+b濃度が8.44μg/mLまで増加した。一方、NIES-2173及びAF2111分離株の96時間の共培養後にクロロフィルa+b濃度が8.77μg/mLまで増加した。
【0075】
図15(b)は、NIES-2173及びAF2111分離株の共培養中のクロロフィルa+b濃度を、NIES-2173単独培養中のクロロフィルa+b濃度で除した倍率を示す。
図15(b)に示すように、NIES-2173及びAF2111分離株の共培養中のクロロフィルa+bの濃度をNIES-2173の単独培養中のものと比較した倍率は、0時間の1.86±0.15倍を除外すると、96時間で最大の1.04±0.06倍となり、48時間で最小の0.88±0.10倍になった。
【0076】
図16は、NIES-2173の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
図16の上から1行目にNIES-2173の単独培養後のNIES-2173の細胞数等を示す。
図16の上から2行目にNIES-2173とAF2111分離株との共培養後のNIES-2173の細胞数等を示す。細胞の大きさは、フローサイトメトリーの前方散乱(FSC-H)により測定した。NIES-2173及びAF2111分離株の共培養後の細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度は、NIES-2173単独での培養と比較して、それぞれ0.9±0.0倍及び0.9±0.2倍になった。
【0077】
図17は、Xanthobarcter属の系統樹を示す。Blastochloris gulmargensis JA248基準株を外群とした。この系統樹からみると、AF2111株は、キサントバクター・フラバス(Xanthobacter flavus)と最も近い。AF2111株は、キサントバクター・フラバスと相同性100%で一致し、キサントバクター・フラバスであると同定された(受託番号:NITE P-03679)。したがって、キサントバクター・フラバスが微細藻類の増殖促進効果をもたらすことが示された。
【0078】
[GA1226分離株]
図18(a)及び
図18(b)は、PCC7942及びGA1226分離株の共培養中のクロロフィルaの測定結果を示す。
図18(a)の左から1列目及び2列目は、PCC7942の単独培養中のクロロフィルa濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示す。PCC7942の単独培養では、PCC7942の培養開始時の波長730nmの吸光度が0.05になるように調整した。
【0079】
図18の左から3列目及び4列目は、PCC7942及びGA1226分離株の共培養中のクロロフィルa濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示す。PCC7942及びGA1226分離株の共培養では、PCC7942とGA1226分離株との混合した共培養培地において、PCC7942成分の共培養開始時の波長730nmの吸光度が0.05となるようにPCC7942の分量を調整した。この共培養培地においてGA1226分離株成分の共培養開始時の波長600nmの吸光度が0.05になるようにGA1226分離株の分量を調整した。
図18(a)の下から1行目に示すように、PCC7942の単独培養では、168時間の培養後にクロロフィルaが9.079μg/mLまで増加した。一方、PCC7942及びGA1226分離株の共培養では、168時間の培養後にクロロフィルaが29.73μg/mLまで増加した。
【0080】
図18(b)は、PCC7942及びGA1226分離株の共培養後のクロロフィルa濃度を、PCC7942単独での培養後のクロロフィルa濃度で除した倍率を示す。この倍率は、最大で3.31±1.83倍(120時間)となり、最小でも1.56±0.06倍(24時間)になった。
【0081】
図19は、PCC7942の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
図19の上から1行目にPCC7942の単独培養を168時間継続した時点でのPCC7942の細胞数等を示す。
図19の上から2行目にPCC794とGA1226分離株との共培養を168時間継続した時点でのPCC7942の細胞数等を示す。PCC7942及びGA1226分離株の共培養後の細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度は、PCC7942単独培養後の細胞の大きさ等と比較して、それぞれ1.25±0.16倍及び1.49±0倍になった。
【0082】
図20(a)から
図20(g)は、PCC7942及びGA1226分離株のフラスコによる共培養の様子を時系列順に示す。PCC7942及びGA1226分離株の48時間以降の共培養中の試料(左から1番目から3番目)は、PCC7942の単独培養中の試料(左から4番目から6番目)よりはるかに緑色が濃いことが確認された。
【0083】
図21(a)及び
図21(b)は、GA1226分離株とNIES-2173との共培養中のクロロフィルa+b濃度の測定結果を示す。
図21(a)の左から1列目及び2列目は、クロレラNIES-2173の単独培養中のクロロフィルa+b濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示し、84時間後のクロロフィルa+b濃度の平均値等も示した。
図21の左から1列目及び2列目の例では、NIES-2173の単独培養開始時の波長750nmの吸光度が0.025になるようにNIES-2173の分量を調整した。
【0084】
図21の左から3列目及び4列目には、NIES-2173及びGA1226分離株の共培養中のクロロフィルa+b濃度の平均値と標準偏差とを示した。
図21の左から3列目及び4列目の例では、NIES-2173とGA1226分離株とを混合した共培養培地において共培養開始時のGA1226成分の波長600nmの吸光度が0.025となるようにGA1226の分量を調整した。NIES-2173の96時間の単独培養後にクロロフィルa+b濃度が8.44μg/mLまで増加した。一方、NIES-2173及びGA1226分離株の96時間の共培養後にクロロフィルa+b濃度が8.05μg/mLまで増加した。
【0085】
図21(b)は、NIES-2173及びGA1226分離株の共培養中のクロロフィルa+b濃度を、NIES-2173単独培養中のクロロフィルa+b濃度で除した倍率を示す。
図21(b)に示すように、NIES-2173及びGA1226分離株の共培養中のクロロフィルa+bの濃度をNIES-2173の単独培養中のものと比較した倍率は、0時間の1.60±0.28倍を除外すると、84時間で最大の0.97±0.00倍となり、72時間で最小の0.94±0.11倍になった。
【0086】
図22は、NIES-2173の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
図22の上から1行目にNIES-2173の単独培養後のNIES-2173の細胞数等を示す。
図21の上から2行目にNIES-2173とGA1226分離株との共培養後のNIES-2173の細胞数等を示す。細胞の大きさは、フローサイトメトリーの前方散乱(FSC-H)により測定した。NIES-2173及びGA1226分離株の共培養後の細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度は、NIES-2173単独での培養と比較して、それぞれ0.9±0.0倍及び0.7±0.0倍になった。
【0087】
図23は、Ancylobacter属の系統樹を示す。Blastochloris gulmargensis JA248T基準株を外群とした。この系統樹からみると、GA1226分離株は、アンサイロバクター・ルドゲンシス(Ancylobacter rudongensis)に最も近い。GA1226分離株は、アンサイロバクター・ルドゲンシスと相同性99.42%で一致し、アンサイロバクター・ルドゲンシスであると同定された(受託番号:NITE P-03779)。したがって、アンサイロバクター・ルドゲンシスが微細藻類の増殖を促進する効果をもたらすことが示された。
【0088】
[OR151分離株]
図24(a)及び
図24(b)は、PCC7942及びOR151分離株の共培養中のクロロフィルaの測定結果を示す。
図24(a)の左から1列目及び2列目は、PCC7942の単独培養中のクロロフィルa濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示す。PCC7942の単独培養では、PCC7942の培養開始時の波長730nmの吸光度が0.05になるようにPCC7942の分量を調整した。
【0089】
図24の左から1列目及び2列目は、PCC7942及びOR151分離株の共培養中のクロロフィルa濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示す。PCC7942及びOR151分離株の共培養では、PCC7942とOR151分離株との混合した共培養培地において、PCC7942成分の培養開始時の波長730nmの吸光度が0.05となるようにPCC7942の分量を調整した。この共培養培地において、OR151分離株成分の培養開始時の波長600nmの吸光度が0.05になるようにOR151分離株の分量を調整した。
図24(a)の下から1行目に示すように、PCC7942単独培養では、168時間の培養後にクロロフィルaが7.21μg/mLまで増加したのに対し、PCC7942及びOR151分離株の共培養では、168時間の培養後にクロロフィルaが8.958μg/mLまで増加した。
【0090】
図24(b)は、PCC7942及びOR151分離株の共培養中のクロロフィルaの濃度を、PCC7942の単独培養中のクロロフィルaの濃度で除した倍率を示す。この倍率は、最大で2.36±0.14倍(48時間)、2.36±0.08倍(72時間)、となり、最小で1.24±0.02倍(168時間)になった。
【0091】
図25は、PCC7942の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
図25の上から1行目にPCC7942の単独培養を168時間継続した時点でのPCC7942の細胞数等を示す。
図25の上から2行目にPCC794とOR151分離株との共培養を168時間継続した時点でのPCC7942の細胞数等を示す。PCC7942及びOR151分離株の168時間の共培養後の細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度は、PCC 7942の単独培養後の細胞の大きさ等と比較して、それぞれ2.04±0.09倍及び2.44±0倍になった。
【0092】
図26(a)から
図26(g)は、PCC7942及びOR151分離株のフラスコによる共培養の様子を時系列順に示す。PCC7942及びOR151分離株の24時間以降の共培養中の試料(左から1番目から3番目)は、PCC7942の単独培養中の試料(左から4番目から6番目)よりはるかに緑色が濃いことが確認された。
【0093】
図27(a)及び
図27(b)はOR151分離株とNIES-2173との共培養中のクロロフィル a+b濃度の測定結果を示す。
図27(a)の左から1列目及び2列目は、クロレラNIES-2173の単独培養中のクロロフィルa+b濃度の平均値と標準偏差とを24時間ごとに示し、84時間後のクロロフィルa+b濃度の平均値等も示した。
図27の左から1列目及び2列目の例では、NIES-2173の単独培養開始時の波長750nmの吸光度が0.025になるようにNIES-2173の分量を調整した。
【0094】
図27左から3列目及び4列目には、NIES-2173及び、OR151分離株の共培養中のクロロフィルa+b濃度の平均値と標準偏差とを示した。
図21の左から3列目及び4列目の例では、NIES-2173とOR151分離株とを混合した共培養培地において共培養開始時のOR151成分の波長600nmの吸光度が0.04となるようにOR151の分量を調整した。NIES-2173の96時間の単独培養後にクロロフィルa+b濃度が8.44μg/mLまで増加した。一方、NIES-2173及びOR151分離株の96時間の共培養後にクロロフィルa+b濃度が13.06μg/mLまで増加した。
【0095】
図27(b)は、NIES-2173及びOR151分離株の共培養中のクロロフィルa+b濃度を、 NIES-2173単独培養中のクロロフィルa+b濃度で除した倍率を示す。
図27(b)に示すように、NIES-2173及びOR151分離株の共培養中のクロロフィルa+bの濃度をNIES-2173の単独培養と比較した倍率は、96時間で最大の1.55±0.07倍となり、0時間の1.31±0.31倍を除くと、48時間で最小の1.10±0.06倍になった。したがって、OR151分離株がNIES-2173の増殖促進効果をもたらすことが分かった。
【0096】
図28は、NIES-2173の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。
図28の上から1行目にNIES-2173の単独培養後のNIES-2173の細胞数等を示す。
図28の上から2行目にNIES-2173とOR151分離株との共培養後のNIES-2173の細胞数等を示す。細胞の大きさは、フローサイトメトリーの前方散乱(FSC-H)により測定した。NIES-2173及びOR151分離株の共培養後の細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度は、NIES-2173単独での培養と比較して、それぞれ1.0±0.1倍及び0.8±0.1倍になった。
【0097】
図29は、Shewanella属の系統樹を示す。Psychromonas antarctica star-1基準株を外群とした。この系統樹からみると、OR151分離株は、シェワネラ・オニデンシス(Shewanella oneidensis)という種と比較的近い。しかしながら、OR151分離株とシェワネラ・オニデンシスとの相同性は、OR151分離株とシェワネラ・プトレファシエンス(Shewanella putrefaciens)との相同性、又は、OR151分離株とシェワネラ・プロファンダ(Shewanella profunda)との相同性より低い。OR151分離株は、シェワネラ属に分類される微生物であることがわかっているが、その種名は特定されていない(受託番号:NITE P-03682)。 OR151分離株は、したがって、シェワネラ属の微生物が微細藻類の増殖を促進する効果をもたらすことが示された。
【0098】
[微細藻類増殖促進微生物の分離と培養方法]
JCM520培地を用いて、微細藻類増殖促進効果を有する微生物を分離した。JCM520培地の成分を
図30に示す。
図30に示した各培地成分に加えて2%になるように寒天を添加し、121℃で20分オートクレーブを実施することにより、JCM520寒天培地を作製した。発酵済のFCUを分離源とし、分離源のFCUを10倍から10
5倍の範囲で希釈した液を作り、各シャーレに固まったJCM520培地に希釈したFCUを100μL播き、コンラージ棒で植菌し、ふたをし、好気条件、室温(24℃)、115-120μmol/m
2/s、24時間のうち12時間だけ光を照射する環境においてコロニー形成まで培養した。形成されたコロニーをディスポループで、ピックアップし、分離に使った培地と同様な培地に数回植え継ぎして、単独のコロニーを得た。
【0099】
[ハイスループットな共培養評価系による微細藻類増殖促進細菌のスクリーニングの概要]
(1)ユーグレナ藻
ユーグレナ藻のモデル生物であるEuglena gracilis NIES-48(以下、単に「NIES-48」ともいう)を微細藻類増殖促進効果を評価するために用いた。NIES-48の単独培養の場合、前培養として、改変CM培地を用いて7日間で25℃、100rpm、光量子束密度150μmol/m2/s、24時間連続光照射でフラスコ培養を行った。光量子束密度は、光の強さを表す。
【0100】
NIES-48に分離株を混合することなく改変CM培地(組成は
図31)に植菌した。改変CM培地の組成を
図31に示す。NIES-48を改変CM培地に植菌した後、25℃、100rpm、光量子束密度150μmol/m
2/s、24時間連続光照射で7日間本培養を行った。24時間ごとにクロロフィルa濃度(μg/mL)とクロロフィルb濃度(μg/mL)を測定した。
【0101】
FCUから分離された分離株とNIES-48とを共培養する場合、共培養のための前培養として、100mLフラスコを用いて、改変CM培地40mLに2mLの菌株グリセロールストック液を植菌し、30℃、168rpm、で2日間培養した。本培養時、100mLのフラスコに共培養培地を40mL分注し、NIES-48の波長730nmの光の吸光度A730が分離株との混合後に0.05になるようにNIES-48の分量を調整し、FCUから分離されたそれぞれの分離株の波長600nmの光の吸光度A600がNIES-48との混合後に0.01又は0.05等になるようにそれぞれの分離株の分量を調整した。
【0102】
NIES-48と分離株とを混合した後に改変CM培地に植菌し、25℃、100rpm、光量子束密度150μmol/m2/s、24時間連続光照射で7日間本培養を行った。24時間ごとにクロロフィルa濃度(mg/L)とクロロフィルb濃度(mg/L)を定量した。それぞれの分離株について、NIES-48と同様なクロロフィル蛍光を持たないことを確認した。このことから、それぞれの分離株はNIES-48との共培養時に、NIES-48由来のクロロフィル蛍光強度の測定結果に影響を与えないことがわかる。
【0103】
<クロロフィル定量>
共培養後のサンプルを1mL回収し4℃、6,000×gで10分間遠心分離した。上澄み画分を除去し、沈殿として回収した細胞を80%(vol/vol)アセトン水溶液に再懸濁した。4℃で1時間静置したのち、4℃、6,000×gで10分間遠心し、上製を1.5mLチューブに回収して色素抽出物とした。キュベット表面での結露を防止するために、抽出物を室温に戻したのち、ガラス製キュベットに移し、646nm、663nm、750nmにおける吸光度を測定した。なお、濁りや有色化合物の影響を補正するため、分光光度計において750nmをゼロ点とした。
【0104】
各色素量は以下の計算式に基づいて算出した。ChlAはクロロフィルAであり、ChlBはクロロフィルBである。
ChlA(mg/L)=12.21(Abs663-Abs750)-2.81(Abs646-Abs750)
ChlB(mg/L)=20.13(Abs646-Abs750)-5.03(Abs663-Abs750)
各波長の吸光度を測定する際には、80%(v/v)アセトン水溶液でブランクを測定してから、測定を行った。
【0105】
<フローサイトメトリー分析>
フローサイトメータCube8を用いて細胞数及び細胞ごとのクロロフィル蛍光を測定した。20倍希釈したそれぞれの培養液を1mLずつ調製し、測定用試料とした。前方散乱(FSC―H)、側方散乱(SSC―H)、クロロフィル蛍光(FL2-H)の電圧は、それぞれ、125.0V、180.0V、525.0V、350.0Vとした。
【0106】
[微細藻類増殖促進菌株のゲノム抽出]
各分離株を純粋培養し、ゲノム抽出に供した。菌体が入ったチューブを冷却遠心分離機により、10,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、細胞ペレット(沈殿物)を回収した。ピペッターを用いて、上清を廃液溜めに捨てた。細胞ペレットに560μLのTEバッファを入れ、よく攪拌して細胞を懸濁した。30μLの10%SDS並びに10μLのプロテイナーゼK溶液を添加し、よく混ぜた後、37℃で1時間保温した。100μLの5MNaClを添加し、よく混ぜた。80μLのCTAB/NaCl溶液を添加し、よく混ぜて、65℃で10分間保温した。0.7mLのクロロホルム/イソアミルアルコールを入れ、チューブのふたを閉めて、チューブを上下に5―6回反転させて、よく攪拌した後、冷却遠心分離機で15,000rpm、5分間、4℃で遠心分離した。
【0107】
0.5~0.6mLの上層の液を取り、新しい1.5mLマイクロチューブに移した。移した液量と等量のフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールを加え、よく攪拌した後、冷却遠心分離機で15,000rpm、5分間、4℃で遠心分離した。上清を0.5~0.6mL取り、新しい1.5mLマイクロチューブに移した。移した溶液の0.6倍体積のイソプロパノールを加え、DNAを沈殿させた後、冷却遠心分離機で15,000rpm、5分間、4℃で遠心分離した。ピペッティングで静かに上清を捨て、1mLの70%エタノールを加え、再度冷却遠心分離機で15,000rpm、5分間、4℃で遠心分離した。上清を捨て、チューブのふたを開けた状態で、10分程度、乾燥させた。沈殿を100μLのTEバッファに溶解させた。
【0108】
27Fプライマー、1492Rプライマー及びTaKaRa LA Taqポリメラーゼ等を含むPCR反応液を19μL、沈殿をTEバッファに溶解させたDNAサンプル1μLを添加した。
図3は、PCR反応に使用したプライマーを示す。
図3中には、PCR反応に使用したプライマーの配列番号、プライマー名及びオリゴヌクレオチド配列を示す。
図3の上から1行目に27Fプライマー(配列番号1)のオリゴヌクレオチド配列を示し、
図3の上から2行目に1492Rプライマー(配列番号2)のオリゴヌクレオチド配列を示す。簡易遠心分離機でチューブをスピンダウンし、サーマルサイクラーの恒温ブロックにチューブを挿し、30サイクルのサーマルサイクル反応を行わせた。
【0109】
[カラム精製]
DNAサンプルと等量のメンブレンバインディングソリューションを添加した。SVミニカラムを回収チューブに挿入した(カラムアセンブリともいう)。溶液を全量SVミニカラムに移し、室温で1分程度放置した。このカラムアセンブリを冷却遠心分離機にセットし、16,000×gで1分間、4℃で遠心分離した。SVミニカラムに500μLのメンブレンウォッシュソリューションを入れ、16,000×gで1分間、4℃で遠心分離した。
【0110】
回収チューブの液を廃液溜めに捨て、再びSVミニカラムを回収チューブに挿入した。SVミニカラムに500μLのメンブレンウォッシュソリューションを入れ、16,000×gで5分間、4℃で遠心分離した。回収チューブの液を廃液溜めに捨て、再びSVミニカラムを回収チューブに挿入したカラムアセンブリを16,000×gで1分間、4℃で遠心分離した。SVミニカラムを新しい1.5mLマイクロチューブに挿入した。滅菌水50μLをSVミニカラムに入れ、1分程度、室温で放置した後、16,000×gで1分間、4℃で遠心分離し、DNAを溶出させた。
【0111】
[サイクルシーケンス]
27Fプライマー等を含むシーケンス反応液を作成し、これを8μLとサンプルを2μL混合し、サーマルサイクラー(初期変性:96℃1分間、[変性:96℃10秒、アニーリング:50℃5秒、伸長:60℃4秒]×29回、最終伸長:4℃で時間無制限)で反応させた。シーケンス反応液には、
図3中に示す配列番号1~配列番号8までのプライマーのいずれかを用いた。サーマルサイクラーの後に、125mMのEDTAを5μL、99.5%EtOHを60μL加え、転倒混合しアルミホイルで包んで15分間放置した。その後、3750×g、30分間にわたって遠心分離し、反転したまま、185×gで10秒間にわたって遠心分離した。
【0112】
70%EtOHを60μL加え、3750×gで5分間にわたって遠心分離し、さらに185×gで10秒間にわたって遠心分離した。HiDiホルムアミド15μLを加え、2分間ボルテックスして、95℃で2分間、4℃で2分間ヒートショックを与えて、キャピラリーシークエンスを実行した。DNAシーケンスした生データをGENETYXのATGCソフトウェアでATGCデータ解析し、解析されたデータはNCBIでBLAST解析を行った。それから、GENETYXソフトウェアで、NCBIのデータベースを用いて近縁株のFASTAデータを取得し、各分離株の系統樹を作成した。
【0113】
[共培養評価系による微細藻類増殖促進細菌の選抜]
図32は、共培養168時間目においてクロロフィル蛍光強度の倍率が1.0を超えた分離株のうち、5.6倍以上となったものを、増加倍率が高いものから順にしたものを示す。分離株名は、本発明者等が便宜的に付したものである。
図32の「倍率」は、NIES-48のみで培養した場合と比較したクロロフィル蛍光強度の倍率を示す。
【0114】
図32中に示すクロロフィル蛍光強度は、複数回のクロロフィル蛍光強度の測定結果の平均値を示す。比較対象の欄に「a」を付したものは、
図32中の下から3番目に示すNIES-48(1)と比較した倍率を示す。比較対象の欄に「b」を付したものは、
図32中の下から2番目に示すNIES-48(2)と比較した倍率を示す。比較対象の欄に「c」を付したものは、
図32中の下から1番目に示すNIES-48(3)と比較した倍率を示す。
【0115】
FCUからの分離株144株のうち、21株のクロロフィル蛍光強度が、5.6倍以上の倍率となった。
【0116】
以下、クロロフィル蛍光強度の倍率が5.6を超えた分離株のうち、JM311株、JM321株、AF2108株、JM202株を選択し、フラスコによる共培養を用いて、NIES-48増殖促進効果を確認した。
【0117】
[JM311分離株]
図33は、JM311分離株とNIES-48の共培養後のクロロフィルa+bの測定結果を示すものである。
図33において*印は、NIES-48の単独培養と有意に差があることを示す(p<0.05)。NIES-48とJM311株とを共培養することで培養168時間目にはクロロフィル量が30.47mg/Lとなり単独培養時の9.52mg/Lに比べて3.20倍に増加した。
【0118】
図34は、NIES-48単独培養時又はJM311との共培養時のNIES-48の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。細胞の大きさは、フローサイトメトリーの前方散乱(FSC-H)により測定した。
図34において*印は、NIES-48の単独培養と有意に差があることを示す(p<0.05)。NIES-48及びJM311分離株の168時間の共培養後の細胞数は、NIES-48単独での培養と比較して、3.74倍に増加した。細胞ごとのクロロフィル蛍光強度0.78倍と変化がなかった。前方光散乱については0.88倍とわずかに減少した。このことから、NIES-48とJM311を共培養することで増殖が促進され、細胞数が増加することが明らかとなった。
【0119】
シークエンスによってJM311株のほぼ完全な16SrRNA配列を決定した(1383bp)。Brast nによる配列解析の結果、相同性の高い上位5株は、Bacillus pumilus ATCC7061、Bacillus pumilus NBRC12092、Bacillus zhangzhouensis MCCC1A08372、Peribacillus acanthi L28、Bacillus australimaris MCCC1A05787であり、それぞれ、99.86%、99.86%、99.78%、99.78%、99.71%であった。JM311と近縁のBacillus属の系統樹を
図35に示す。
図35に示す系統樹は、JM311の16SrRNA配列に基づいて作成した。ブーストラップ値50以上を示す。Outgroupには、Streptococcus intermedius 1877基準株を用いた。JM311は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号:NITE P-03919)。
【0120】
[JM321分離株]
図36は、JM321分離株とNIES-48の共培養後のクロロフィルa+bの測定結果を示すものである。
図36において*印は、NIES-48の単独培養と有意に差があることを示す(p<0.05)。NIES-48とJM321株とを共培養することで培養168時間目にはクロロフィル量が34.22mg/Lとなり単独培養時の9.06mg/Lに比べて3.78倍に増加した。
【0121】
図37は、NIES-48単独培養時又はJM321との共培養時のNIES-48の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。細胞の大きさは、フローサイトメトリーの前方散乱(FSC-H)により測定した。
図37において*印は、NIES-48の単独培養と有意に差があることを示す(p<0.05)。NIES-48及びJM321分離株の168時間の共培養後の細胞数及びクロロフィル蛍光強度は、NIES-48単独での培養と比較して、それぞれ3.48倍及び1.16倍になった。前方光散乱については0.95倍になった。このことから、NIES-48とJM321を共培養することで細胞ごとのクロロフィル量が僅かに増加し、増殖が促進され、細胞数が増加することが明らかとなった。
【0122】
シークエンスによってJM321株のほぼ完全な16SrRNA配列を決定した(1483bp)。Brast nによる配列解析の結果、相同性の高い上位5株は、Bacillus licheniformis DSM13、Bacillus licheniformis BCRC11702、Bacillus paralicheniformis KJ-16、Bacillus licheniformis NRRL B-41327、Bacillus licheniformis ATCC14580であり、それぞれ、99.85%、99.85%、99.76%、99.69%、99.691%であった。JM321と近縁のBacillus属の系統樹を
図38に示す。
図38に示す系統樹は、JM321の16SrRNA遺伝子配列に基づいて作成された。ブーストラップ値50以上を示す。Outgoupには、Streptococcus intermedius 1877基準株を用いた。JM321はBacillus licheniformisと同定された。JM321は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号:NITE P-03920)。
【0123】
[AF2108分離株]
図39は、AF2108分離株とNIES-48の共培養後のクロロフィルa+bの測定結果を示すものである。
図39において*印は、NIES-48の単独培養と有意に差があることを示す(p<0.05)。NIES-48とAF2108株とを共培養することで培養168時間目にはクロロフィル量が32.66mg/Lとなり単独培養時の9.32mg/Lに比べて3.36倍に増加した。
【0124】
図40は、NIES-48単独培養時又はAF2108との共培養時のNIES-48の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。細胞の大きさは、フローサイトメトリーの前方散乱(FSC-H)により測定した。
図40において*印は、NIES-48の単独培養と有意に差があることを示す(p<0.05)。NIES-48及びAF2108分離株の168時間の共培養後の細胞数は、NIES-48単独での培養と比較して、2.93倍に増加した。クロロフィル蛍光強度は1.12倍と変化がなかった。前方光散乱については0.92倍と減少していた。このことから、NIES-48とAF2108を共培養することで増殖が促進され、細胞数が増加することが明らかとなった。
【0125】
シークエンスによってAF2018株のほぼ完全な16SrRNA配列を決定した(1394bp)。Brast nによる配列解析の結果、相同性の高い上位5株は、Rhodococcus cerastii C5、Rhodococcus cercidiphylli YIM65003、Rhodococcus yunnanensis YIM 70056,Rhodococcus fascians ATCC 12974,Rhodococcus fascians CF17であり、それぞれ、100.00%、99.58%、99.31%、99.16%、99.15%であった。AF2108と近縁のRhodococcus属の系統樹を
図41に示す。
図41に示す系統樹は、AE2108の16SrRNA遺伝子配列に基づいて作成された。ブーストラップ値50以上を示す。Outgroupには、Pseudonocardia dioxanivorans CB1190基準株を用いた。AF2108はRhodococcus cerastiiと同定された。
【0126】
[JM202分離株]
図42は、JM202分離株とNIES-48の共培養後のクロロフィルa+bの測定結果を示すものである。
図42において*印は、NIES-48の単独培養と有意に差があることを示す(p<0.05)。NIES-48とJM202株とを共培養することで培養168時間目にはクロロフィル量が26.38mg/Lとなり単独培養時の9.06mg/Lに比べて2.91倍に増加した。
【0127】
図43は、NIES-48単独培養時又はJM202との共培養時のNIES-48の細胞数、細胞の大きさ及びクロロフィル蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した結果を示す。細胞の大きさは、フローサイトメトリーの前方散乱(FSC-H)により測定した。
図43において*印は、NIES-48の単独培養と有意に差があることを示す(p<0.05)。NIES-48及びJM202分離株の168時間の共培養後の細胞数及びクロロフィル蛍光強度は、NIES-48単独での培養と比較して、それぞれ3.17倍及び0.88倍になった。前方光散乱については1.01倍と変化がなかった。このことから、NIES-48とJM202を共培養することで、僅かに細胞ごとにクロロフィル量が減少するものの、増殖が促進され、細胞数が増加することが明らかとなった。
【0128】
シークエンスによってJM202株のほぼ完全な16SrRNA配列を決定した(1458bp)。Brast nによる配列解析の結果、相同性の高い上位5株は、Aeromonas salmonicida CECT 894,Aeromonas salmonicida ATCC 33658,Aeromonas salmonicida NCIMB 1102,Aeromonas salmonicida ATCC 33658,Aeromonas salmonicida subsp. masoucida NBRC 13784でであり、それぞれ、99.86%、99.84%、99.79%、99.79%、99.79%であった。JM202と近縁のAeromonas属の系統樹を
図44に示す。
図44に示す系統樹は、JM202の16SrRNA遺伝子配列に基づいて作成された。ブーストラップ値50以上を示す。Outgroupには、Succinatimonas hippei YIT 12066基準株を用いた。JM202は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号:NITE P-03835)。
【0129】
[本発明による効果]
本発明のロドコッカス属、キサントバクター属、アンサイロバクター属、シェワネラ属、バシラス属、又は、アエロモナス属に属する微細藻類増殖促進用微生物は、微細藻類の増殖を促進することができる。
【0130】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
ロドコッカス属、キサントバクター属、アンサイロバクター属、シェワネラ属、バシラス属、又は、アエロモナス属に属する微生物であることを特徴とする微細藻類増殖促進用微生物。
前記微生物が、ロドコッカス属のロドコッカス・セラスティ、キサントバクター属のキサントバクター・フラヴス、又は、アンサイロバクター属のアンサイロバクター・ルドゲンシスである、請求項1に記載の微細藻類増殖促進用微生物。
前記微生物が、バシラス属のバシラス・リケニフォルミス、バシラス・プミリス、バシラス・ジャンジョウエンシス、バシラス・アウストラリマリス、バシラス・サフェンシス、ペリバシラス・アカンティ、ロドコッカス属のロドコッカス・セラスティ、アエロモナス属のアエロモナス・サルモニシダ又はアエロモナス・ピシコラである、請求項1に記載の微細藻類増殖促進用微生物。
ロドコッカス属、キサントバクター属、アンサイロバクター属、シェワネラ属、バシラス属、又は、アエロモナス属に属する微生物のうちの一つ以上の微生物を、微細藻類とともに共培養することを特徴とする、微細藻類の培養方法。
上述の(2)に示すように、スクリーニング対象の微生物と微細藻類との共培養後の微細藻類に含まれるクロロフィルを定量することにより、この微生物が微細藻類の増殖を促進する効果をどの程度発揮したかを評価することができる。クロロフィルを定量するステップでは、蛍光分光光度計を用いて、励起波長488nm、蛍光波長が680nm~720nmで蛍光強度を測定する。また、微細藻類の種類によって波長を変えることも可能であり、例えば、PCC7972の場合は励起波長488nm、蛍光波長683nm、NIES-2173の場合は励起波長488nm、蛍光波長685nm、NIES-48の場合は励起波長488nm、蛍光波長700nmで蛍光強度を測定することが好ましい。このようにして、クロロフィルの蛍光に対応する波長の光を測定することにより、微生物が微細藻類の増殖をどの程度促進したかを精度よく評価することができる。