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特開2024-9775中空糸膜モジュール、その製造方法、および洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009775
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール、その製造方法、および洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20240116BHJP
   B01D 65/00 20060101ALI20240116BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D65/00
B01D65/02
B01D65/02 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110222
(22)【出願日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2022111426
(32)【優先日】2022-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(72)【発明者】
【氏名】中元 浩平
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA02
4D006HA18
4D006JA13C
4D006JA25C
4D006JA30A
4D006JA70C
4D006JB06
4D006KC02
4D006KC20
4D006KC21
4D006LA01
4D006MA01
4D006MA33
4D006MC11
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC34
4D006MC39
4D006MC47
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC59
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB02
4D006PB20
4D006PC02
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】膜のろ過性能を保ちつつ殺菌された状態にする。
【解決手段】中空糸膜モジュール1では中空糸膜束3がモジュールケース5に収容される。中空糸膜モジュール1では中空糸膜束3の両端部がポッティング材によりモジュールケース5に一体化される。中空糸膜束3の多孔部の90%以上に保存液が含まれている。モジュールケース5内の空間部は生菌が存在しない気体と保存液とによって満たされている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束がモジュールケースに収容され、
該中空糸膜束の両端部がポッティング材により前記モジュールケースに一体化された中空糸膜モジュールにおいて、
前記中空糸膜束の多孔部の90%以上に、生菌が存在しない水である保存液が含まれており、
前記モジュールケース内の空間部は生菌が存在しない気体と前記保存液とによって満たされている
ことを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記モジュールケースに存在する配管接続用の開口部が封止部材によって密閉されている時に、
前記モジュールケースに装着されるキャップ内表面、前記ポッティング材の端面、並びに前記中空糸膜の内表面及び両端における端面によって囲まれた第1の空間の体積をVfirst、
前記モジュールケースの内表面、前記ポッティング材の端面、及び前記中空糸膜の外表面によって囲まれた第2の空間の体積をVsecond、
前記中空糸膜の多孔部が形成する第3の空間の体積をVpore、
Vfirst、Vsecond、Vporeの合計体積をVall、
前記第1の空間に存在する前記保存液の体積をWfirst、
前記第2の空間に存在する前記保存液の体積をWsecond、
前記第3の空間に存在する前記保存液の体積の合計をWpore、
Wfirst、Wsecond、Wporeの合計体積をWallとする場合、以下の式(1)を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
0.35 ≦ Wall/Vall ≦ 0.95 ・・・(1)
【請求項3】
Vfirstに対するWfirstの割合が、Vsecondに対するWsecondの割合以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
Vsecondに対するWsecondの割合が0.8以上且つ1以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記モジュールケース内の前記中空糸膜束の両端部に、前記中空糸膜の外面同士及び当該外面と前記筒状ケースの内面との隙間を封止するポッティング材から成る一対の固定部と、前記一対の固定部よりも前記モジュールケースの長手方向の中心側に、前記中空糸膜束の両端部をそれぞれ囲むように存在する一対の整流筒と、を備え、
前記整流筒のうち、固定部側に位置する一端部と前記固定部との離間幅が1mm以上20mm以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記モジュールケース内に含まれる前記保存液のTOCが1ppm以上50ppm以内である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項7】
前記モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部が全て盲キャップによって封止され、
前記盲キャップに使用される素材の線膨張係数が、前記モジュールケースの線膨張係数に比べて0.95倍から1.05倍の間である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項8】
少なくとも一部分に気体透過性を有する第1の部分を有した包装フィルムによって包装されている
ことを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項9】
前記モジュールケースは筒状であり、該モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部の少なくとも一部は、該モジュールケースの長手方向に直行する方向に突き出ており、
前記包装フィルムにおける前記第1の部分より気体透過性の低い第2の部分が前記モジュールケースの軸の周方向において該開口部の突出方向から90°回転させた方向を中心に120°の範囲内、又は該突出方向の反対方向を中心に60°の範囲内に位置するように、前記包装フィルムによって包装されている
ことを特徴とする請求項8に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項10】
前記モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部に無菌コネクタが装着されており、
前記無菌コネクタには滅菌フィルタが含まれており、
前記滅菌フィルタの一端面が前記中空糸膜モジュール内部の空間と直接接している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項11】
複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束がモジュールケースに挿入され、
該中空糸膜束の両端部がポッティング材により前記モジュールケースに一体化された中空糸膜モジュールにおいて、
前記中空糸膜束の多孔部の90%以上が生菌の存在しない水である保存液で充填されており、
前記モジュールケース内の空間部は生菌の存在しない気体と前記保存液とによって満たされていることを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記モジュールケースに存在する配管接続部が盲キャップによって封止されている時に、前記モジュールケースに装着されるキャップ内表面、前記ポッティング材の端面、並びに前記中空糸膜の内表面及び両端における端面によって囲まれた第1の空間の体積をVfirst、前記モジュールケースのパイプ部内表面、前記ポッティング材の端面、及び前記中空糸膜の外表面によって囲まれた第2の空間の体積をVsecond、前記中空糸膜の多孔部が形成する第3の空間の体積をVpore、Vfirst、Vsecond、Vporeの合計体積をVall、前記第1の空間に存在する水の体積をWfirst、前記第2の空間に存在する水の体積をWsecond、第3の空間に存在する水の体積の合計をWpore、Wfirst、Wsecond、Wporeの合計体積をWallとする場合、0.35≦Wall/Vall≦0.95の関係となるように前記中空糸膜モジュール内部のWallを調節し、
配管接続用の開口部が封止された状態において、80℃以上125℃以下で加熱処理することによって、前記中空糸膜モジュール水と気体とを生菌が存在しない状態に遷移させる
ことを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項12】
前記純水と前記気体が封入された前記中空糸膜モジュールを加熱処理する工程において、前記モジュールケース内部の相対湿度が85%以上に維持される
ことを特徴とする請求項11に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項13】
前記水と前記気体が封入されたモジュールケースを加熱処理する工程において、前記中空糸膜モジュールの外部を乾燥空気によって加熱する
ことを特徴とする請求項11又は12に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項14】
前記モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部に無菌コネクタが装着されている前記中空糸膜モジュール・において、加熱処理の開始前におけるモジュールケース内部の圧力とモジュールケース外部の20℃における圧力差が0kPaであって、、
加熱処理中の前記無菌コネクタの滅菌フィルタによって隔てられるモジュールケース内部とモジュールケース外部の圧力差が20kPa以下である
ことを特徴とする請求項11又は12に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項15】
前記水と前記気体とが封入された前記モジュールケースを加熱処理する工程において、
前記モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部が盲キャップによって密閉された状態で加熱処理されている
ことを特徴とする請求項11又は12に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項16】
前記中空糸膜モジュールが、少なくとも一部分に気体透過性を有する第1の部分を有した包装フィルムによって包装された状態で加熱処理される
ことを特徴とする請求項11又は12に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項17】
前記モジュールケースは筒状であり、該モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部の少なくとも一部は、該モジュールケースの長手方向に直行する方向に突き出ており、
前記水と前記気体とが封入された前記中空糸膜モジュールを加熱処理する工程において、前記包装フィルムにおける前記第1の部分より気体透過性の低い第2の部分が前記モジュールケースの軸の周方向において該開口部の突出方向から90°回転させた方向を中心に120°の範囲内、又は該突出方向の反対方向を中心に60°の範囲内に位置するように、前記包装フィルムによって包装されている
ことを特徴とする請求項16に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項18】
請求項11又は12に記載の製造方法により製造した中空糸膜モジュール内部をろ過洗浄によって洗浄する際に、
前記中空糸膜の膜面積あたり20L/m以下の純水をろ過することによって、ろ水のTOCが500ppb以下となる
ことを特徴とする中空糸膜モジュールの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養液や発酵液のろ過プロセスにおいて、被処理水中の濁質成分を取り除く用途、又は目的物質の濃縮、精製用途、又は超純水製造用のフィルタとして好適な中空糸膜モジュール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸菌や酵母、動物細胞を活用してペプチド医薬品、タンパク医薬品、抗体医薬品等を製造する工程における中空糸膜の使用においては、培養の完了後に培養液中の不要成分をろ過により除去するバッチ式培養方式と、培養途中に随時目的物質を回収する連続培養方式が適宜採用されている。これらの製品には、予め殺菌され、最小限の洗浄のみでユーザがすぐに使用可能な状態で提供されることが望まれている。
【0003】
保存中においてろ過性能を保ちながら製品内での微生物の増殖を抑えるために、一般的な中空糸膜モジュールでは、グリセリン水溶液、アルコール水溶液、又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液が用いられてきたが、近年ではこれら保存液の排水処理の低減を目的として、殺菌された水を充填させた膜モジュールの例も存在する(たとえば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-089614号公報
【特許文献2】国際公開第2015/099015号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、膜モジュールの内部を純水で充填しているため、加熱処理中に発生する圧力上昇を緩和する機構を付与する必要がある。又、特許文献2でも、同じく膜モジュール内部を満水の状態としているため、加熱処理中の圧力上昇を防止する機構を付与する必要があるほか、膨張した水が接続した無菌接続用部材に直接接触することを防ぐために、閉止部材を配置する必要があった。
【0006】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、中空糸膜の乾きを防止しつつろ過性能を保持し、中空糸膜モジュール内部の無菌性を長期間にわたり保持できる中空糸膜モジュール及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の多様な要求項目を満足すべく鋭意研究を重ね、検証を行った。その結果、中空糸膜モジュールの内部に殺菌処理された状態の水及び気体をある割合で封入することですべての要求事項を満足することを確認し、本発明に想到した。即ち本発明は以下の通りである。
【0008】
[1]
複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束がモジュールケースに収容され、
該中空糸膜束の両端部がポッティング材により前記モジュールケースに一体化された中空糸膜モジュールにおいて、
前記中空糸膜束の多孔部の90%以上に、生菌が存在しない水である保存液が含まれており、
前記モジュールケース内の空間部は生菌が存在しない気体と前記保存液とによって満たされている
ことを特徴とする中空糸膜モジュール。
[2]
前記モジュールケースに存在する配管接続用の開口部が封止部材によって密閉されている時に、
前記モジュールケースに装着されるキャップ内表面、前記ポッティング材の端面、並びに前記中空糸膜の内表面及び両端における端面によって囲まれた第1の空間の体積をVfirst、
前記モジュールケースの内表面、前記ポッティング材の端面、及び前記中空糸膜の外表面によって囲まれた第2の空間の体積をVsecond、
前記中空糸膜の多孔部が形成する第3の空間の体積をVpore、
Vfirst、Vsecond、Vporeの合計体積をVall、
前記第1の空間に存在する前記保存液の体積をWfirst、
前記第2の空間に存在する前記保存液の体積をWsecond、
前記第3の空間に存在する前記保存液の体積の合計をWpore、
Wfirst、Wsecond、Wporeの合計体積をWallとする場合、以下の式(1)を満たす
ことを特徴とする[1]に記載の中空糸膜モジュール。
0.35 ≦ Wall/Vall ≦ 0.95 ・・・(1)
[3]
Vfirstに対するWfirstの割合が、Vsecondに対するWsecondの割合以下である
ことを特徴とする[1]又は[2]に記載の中空糸膜モジュール。
[4]
Vsecondに対するWsecondの割合が0.8以上且つ1以下である
ことを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
[5]
前記モジュールケース内の前記中空糸膜束の両端部に、前記中空糸膜の外面同士及び当該外面と前記筒状ケースの内面との隙間を封止するポッティング材から成る一対の固定部と、前記一対の固定部よりも前記モジュールケースの長手方向の中心側に、前記中空糸膜束の両端部をそれぞれ囲むように存在する一対の整流筒と、を備え、
前記整流筒のうち、固定部側に位置する一端部と前記固定部との離間幅が1mm以上20mm以下である
ことを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
[6]
前記モジュールケース内に含まれる前記保存液のTOCが1ppm以上50ppm以内である
ことを特徴とする[1]から[5]のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
[7]
前記モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部が全て盲キャップによって封止され、
前記盲キャップに使用される素材の線膨張係数が、前記モジュールケースの線膨張係数に比べて0.95倍から1.05倍の間である
ことを特徴とする[1]から[6]のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
[8]
少なくとも一部分に気体透過性を有する第1の部分を有した包装フィルムによって包装されている
ことを特徴とする[1]に記載の中空糸膜モジュール。
[9]
前記モジュールケースは筒状であり、該モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部の少なくとも一部は、該モジュールケースの長手方向に直行する方向に突き出ており、
前記包装フィルムにおける前記第1の部分より気体透過性の低い第2の部分が前記モジュールケースの軸の周方向において該開口部の突出方向から90°回転させた方向を中心に120°の範囲内、又は該突出方向の反対方向を中心に60°の範囲内に位置するように、前記包装フィルムによって包装されている
ことを特徴とする[8]に記載の中空糸膜モジュール。
[10]
前記モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部に無菌コネクタが装着されており、
前記無菌コネクタには滅菌フィルタが含まれており、
前記滅菌フィルタの一端面が前記中空糸膜モジュール内部の空間と直接接している
ことを特徴とする[1]から[9]のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
[11]
複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束がモジュールケースに挿入され、
該中空糸膜束の両端部がポッティング材により前記モジュールケースに一体化された中空糸膜モジュールにおいて、
前記中空糸膜束の多孔部の90%以上が生菌の存在しない水である保存液で充填されており、
前記モジュールケース内の空間部は生菌の存在しない気体と前記保存液とによって満たされていることを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記モジュールケースに存在する配管接続部が盲キャップによって封止されている時に、前記モジュールケースに装着されるキャップ内表面、前記ポッティング材の端面、並びに前記中空糸膜の内表面及び両端における端面によって囲まれた第1の空間の体積をVfirst、前記モジュールケースのパイプ部内表面、前記ポッティング材の端面、及び前記中空糸膜の外表面によって囲まれた第2の空間の体積をVsecond、前記中空糸膜の多孔部が形成する第3の空間の体積をVpore、Vfirst、Vsecond、Vporeの合計体積をVall、前記第1の空間に存在する水の体積をWfirst、前記第2の空間に存在する水の体積をWsecond、第3の空間に存在する水の体積の合計をWpore、Wfirst、Wsecond、Wporeの合計体積をWallとする場合、0.35≦Wall/Vall≦0.95の関係となるように前記中空糸膜モジュール内部のWallを調節し、
配管接続用の開口部が封止された状態において、80℃以上125℃以下で加熱処理することによって、前記中空糸膜モジュール水と気体とを生菌が存在しない状態に遷移させる
ことを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
[12]
前記純水と前記気体が封入された前記中空糸膜モジュールを加熱処理する工程において、前記モジュールケース内部の相対湿度が85%以上に維持される
ことを特徴とする[11]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[13]
前記水と前記気体が封入されたモジュールケースを加熱処理する工程において、前記中空糸膜モジュールの外部を乾燥空気によって加熱する
ことを特徴とする[11]又は[12]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[14]
前記モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部に無菌コネクタが装着されている前記中空糸膜モジュールにおいて、加熱処理の開始前におけるモジュールケース内部の圧力とモジュールケース外部の20℃における圧力差が0kPaであって、
加熱処理中の前記無菌コネクタの滅菌フィルタによって隔てられるモジュールケース内部とモジュールケース外部の圧力差が20kPa以下である
ことを特徴とする[11]から[13]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[15]
前記水と前記気体とが封入された前記モジュールケースを加熱処理する工程において、
前記モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部が盲キャップによって密閉された状態で加熱処理されている
ことを特徴とする[11]から[14]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[16]
前記中空糸膜モジュールが、少なくとも一部分に気体透過性を有する第1の部分を有した包装フィルムによって包装された状態で加熱処理される
ことを特徴とする[11]から[15]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[17]
前記モジュールケースは筒状であり、該モジュールケースに設けられた配管接続用の開口部の少なくとも一部は、該モジュールケースの長手方向に直行する方向に突き出ており、
前記水と前記気体とが封入された前記中空糸膜モジュールを加熱処理する工程において、前記包装フィルムにおける前記第1の部分より気体透過性の低い第2の部分が前記モジュールケースの軸の周方向において該開口部の突出方向から90°回転させた方向を中心に120°の範囲内、又は該突出方向の反対方向を中心に60°の範囲内に位置するように、前記包装フィルムによって包装されている
ことを特徴とする[16]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[18]
[11]から[17]のいずれかに記載の製造方法により製造した中空糸膜モジュール内部をろ過洗浄によって洗浄する際に、
前記中空糸膜の膜面積あたり20L/m以下の純水をろ過することによって、ろ水のTOCが500ppb以下となる
ことを特徴とする中空糸膜モジュールの洗浄方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のろ過膜モジュールによれば、ろ過性能を保持するためのろ過膜モジュールの保存液としての生菌が存在しない水と、生菌が存在しない気体とが適切な割合で含まれているため、膜のろ過性能を保ちつつ、殺菌された状態の中空糸膜モジュールを提供できる。
【0010】
当該中空糸膜モジュールの使用前の処理としてガンマ線滅菌や電子線照射滅菌を適宜選択することができるが、その場合においても、照射前の中空糸膜モジュール内の環境を一定の状態に保持できることが可能であるため、照射量を都度調整する必要がなく、最低限度の照射で滅菌性を付与できる。
【0011】
又、本発明のろ過モジュールは装置に取り付けた後、最低限のリンスの後にろ過運転を開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のろ過膜モジュールの一実施形態を用いた中空糸膜モジュールの構成を示す断面図である。
図2】中空糸膜モジュールの分解斜視図である。
図3】中空糸膜モジュール内部の一部の空間を説明するための断面図である。
図4】中空糸膜モジュール内部の別の一部の空間を説明するための断面図である。
図5】中空糸膜モジュール内部の更に別の一部の空間を説明するための断面図である。
図6】中空糸膜モジュールの配管接続用開口部を盲キャップで密閉した状態を示す断面図である。
図7】中空糸膜モジュールの配管接続用の開口部を無菌コネクタで密封した状態を示す断面図である。
図8】中空糸膜モジュールを収容させた包装フィルムにおける第2の部分の位置を示すための図である。
図9】中空糸膜モジュールを収容させた包装フィルムにおける第2の部分の別の位置を示すための図である。
図10図1に示す中空糸膜モジュールを用いた濾過装置の各部の詳細な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の中空糸膜モジュールの一実施形態を用いた中空糸膜モジュールについて、図面を参照しながら説明する。
【0014】
本実施形態の中空糸膜モジュールは、バイオ医薬品製造における培養後の細胞分離、及びバイオ医薬品の精製、濃縮に利用することができる。本実施形態の中空糸膜モジュールは、内圧式ろ過に利用することができる。中空糸膜モジュールには、設備のコンパクト化のために、高いろ過性能が要求されるが、本実施形態の中空糸膜モジュールは、単位容積あたりのろ過流量を大きくすることができる中空糸膜モジュールとすることができる。
【0015】
図1は、本実施形態の中空糸膜モジュール1の概略構成を示す断面図である。又、図2は、図1に示す中空糸膜モジュール1を分解した斜視図である。
【0016】
本実施形態の中空糸膜モジュール1は、図1に示されるように、複数の中空糸膜3aが束ねられた中空糸膜束3と、中空糸膜束3を収容する筒状のモジュールケース(以下、「ケース」と呼ぶこともある。)5とを備える。
【0017】
ケース5の両端開口には、配管が接続される管路10a,11aが形成された配管接続用のキャップ10,11が設けられる。配管接続用のキャップ10,11は、ナット13によってケース5に固定装着されている。ナット13は、ケース5の両端の側面に形成された雄ネジに螺合する。ナット13を締めることによって、キャップ10,11の溝に配置されたOリング12によりケース5両端とキャップ10,11の間がシールされる。
【0018】
又、ケース5の両端部には、流体が流れる上側ノズル5aと下側ノズル5bとがそれぞれ形成されている。上側ノズル5aと下側ノズル5bは、ケース5の長手方向に直交する方向に突き出すように設けられている。
【0019】
中空糸膜束3の両端面においては、各中空糸膜3aは開口されている。当該両端面において、各中空糸膜3a間がポッティング材によって接着されて固定部14が形成されている。中空糸膜束3の両端部がポッティング材により一体化されている。
【0020】
内圧ろ過方式においては、例えば、キャップ11から液体が流入され、その液体が開口された中空糸膜の中空部に流入し、その液体が両端部の固定部14の間の各中空糸膜3aの内表面から染み込み、各中空糸膜の外表面から透過した液体が、例えば上側ノズル5aから流出される。外圧式ろ過においては、たとえば下側ノズル5bから液体が流入され、その液体が両端部の固定部14の間の各中空糸膜3aの外表面から染み込み、各中空糸膜3aの中空部を通過した液体が、キャップ10,11の管路10a,11aから流出される。
【0021】
中空糸膜3aとしては、精密ろ過膜、限外ろ過膜等を用いることができる。中空糸膜の素材は特に限定されず、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、セルロース、酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられ、又、これらの複合素材も使用できる。
【0022】
中空糸膜3aの内径は50μm~3000μmであり、好ましくは500μm~2000μmである。内径が小さい場合、圧損が大きくなり、ろ過に悪影響を及ぼすため、中空糸膜3aの内径は50μm以上であることが好ましい。又、内径を大きくする構成では、紡糸時に膜の形状を保持することが困難になるため、3000μm以下であることが好ましい。
【0023】
ポッティング材としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、オレフィン系ポリマー、シリコーン樹脂、フッ素含有樹脂等の高分子材料が好ましく、これらの高分子材料のいずれかでもよいし、複数の高分子材料を組み合わせて用いられてもよい。
【0024】
なお、バイオ医薬品の製造プロセスや半導体用途向けの超純水の製造用途において、構成部材には洗浄時の熱水に対する耐熱性と、低い溶出性とが求められる。そのため、中空糸膜3aの素材としてはポリフッ化ビニリデンやポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルサルホン等の溶出の少ない素材であることが望ましい。又、ケース5の素材としては、ポリスルホン系のように溶出の少ない素材であることが好ましい。又、同様の理由からポッティング材にはエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0025】
又、本実施形態の中空糸膜モジュール1では、保存液として、生菌が存在しない水がケース内部の空間に対して適切な量が封入されている。特に、中空糸膜モジュール1における中空糸膜束3の多孔部の90%以上に保存液が含まれている。保存液とは、中空糸膜3aのろ過性能を保持するための液体である。生菌が存在しない水は、中空糸膜モジュール中からサンプリングされた水を、メルクミリポア社から提供されるトータルカウントサンプラーによって25-35℃の環境で48時間から72時間培養した際に、コロニーの発生がないことを目視ならびに倍率20倍程度の拡大顕微鏡で確認される水である。保存液によって占められる以外の内部の空間は、生菌が存在しない気体によって占められている。したがって中空糸膜モジュールを盲キャップで密閉した状態で、中空糸膜モジュールの長手方向の上下の10回天地返しを行い、サンプリングした水をメルクミリポア社から提供されるトータルカウントサンプラーによって25-35℃の環境で48時間から72時間培養した際に、コロニーの発生がないことを目視ならびに倍率20倍程度の拡大顕微鏡で確認される水及び気体は、生菌が存在しない水及び気体である。含有される気体はHEPAフィルタ等によって予め微粒子が取り除かれた気体を使用することが望ましい。気体の種類としては空気でもよいし、熱殺菌時において中空糸膜モジュールに使用する部材の酸化劣化をより抑制するために窒素雰囲気としてもよい。そして保存液と気体の充填後に加熱殺菌により水及び気体を殺菌してもよい。
【0026】
ここで中空糸膜モジュール内部に存在する空間について説明する。中空糸膜モジュール1内部の空間は、配管接続用の開口部が封止部材によって密閉されている状態で、以下の3つのエリアに分類される。配管接続用の開口部は、具体的には、上側ノズル5a、下側ノズル5b、及び管路10a,11aである。封止部材は、具体的には、後述する盲キャップである。図3に示すように、一つ目の第1の空間sp1は、キャップ10の内表面、キャップ11の内表面、キャップ10,11それぞれに装着された第1の盲キャップYY、固定部14と中空糸膜3aによって形成される中空糸膜3aの開口側の端面、及び中空糸膜3aの内表面によって画定される。第1の空間sp1の体積をVfirstとする。第1の盲キャップYYは、管路10a,11aの端面を塞ぐ仮想の平板である。図4に示すように、二つ目の第2空間sp2は、ケース5の内表面、固定部14における中空糸膜3aの開口側とは逆側の端面、上側ノズル5a、下側ノズル5bそれぞれに装着された第2の盲キャップZZ、及び中空糸膜3aの外表面によって画定される。第2の空間の体積をVsecondとする。第2の盲キャップZZは、ノズル部5a,5bの端面を塞ぐ仮想の平板である。図5に示すように、三つ目の第3の空間sp3は、中空糸膜3aに存在する多孔部が形成する空間である。第3の空間sp3が占める体積をVporeとする。Vfirst,Vsecond,Vporeの合計の体積をVallとする。又、第1の空間sp1に存在する保存液の体積をWfirst、第2の空間sp2に存在する保存液の体積をWsecond、第3の空間sp3に存在する保存液の体積をWporeとする。第1の空間sp1、第2の空間sp2、及び第3の空間sp3に存在する保存液の合計体積はWallである。
【0027】
ここでWall/Vallは0.35以上、0.95以下であることが望ましい。0.35よりも小さい場合、加熱殺菌時に中空糸膜3aの多孔部に含まれる保存液が揮発してしまい、本来のろ過性能が発揮されない可能性がある。又、0.35より小さい場合、ろ過運転前に実施するリーク検査において、気泡が発生してしまい、中空糸膜のリーク発生と混同してしまう可能性がある。Wall/Vallが0.95よりも大きい場合、加熱殺菌時のケース5の内部圧力が高くなり、製品の耐久性に影響を与える場合がある。
【0028】
又、中空糸膜3a多孔部の含水率をWpore/Vporeと定めた場合、Wpore/Vporeは加熱殺菌後も0.9以上であり、好ましくは0.98以上である。
【0029】
さらに、中空糸膜モジュール1次側の含水率をWfirst/Vfirst、2次側の含水率をWsecond/Vsecondとした場合、その含水率の関係はWfirst/Vfirst≦Wsecond/Vsecondであることが好ましい。Wfirst/Vfirst≦Wsecond/Vsecondであれば、加熱殺菌処理時に優先的に加熱される空間Vsecondにより多い割合で水が含まれるため、中空糸膜の乾きを抑制しつつ当該処理を行うことができる。一方、Wfirst/VfirstをWsecond/Vsecondよりも小さくしておくことで、熱殺菌処理によって膨張した水が、中空糸膜3aの多孔部を通して外表面側から内表面側へ移動し、ケース5の内圧上昇を緩和することができる。又、Wfirst/Vfirstを小さくすることで、保存液を充填後の中空糸膜モジュール1を軽量化することが可能となり、運搬の観点から有利となる。
【0030】
更に、第2の空間sp2の含水率Wsecond/Vsecondは0.8以上、1以下であることが望ましい。含水率Wsecond/Vsecondが0.8以上であれば、加熱殺菌処理工程の昇温時における一時的な第2の空間sp2の相対湿度の低下を抑制することができ、プロセスの時短化を達成できる。更に、熱殺菌処理前において、中空糸膜3aのケース5の内径に対する充填率にもよるが、含水率Wsecond/Vsecondが0.8以上であればケース5の軸方向が水平になるように載置した状態で外表面が生菌が存在しない水によって全て浸漬され得るので、加熱殺菌時の乾きの発生をより低減することができる。又、含水率Wsecond/Vsecondが0.8以上であれば、中空糸膜モジュール1の輸送時の振動に対しても気泡の揺れによる中空糸膜3aの揺れが抑制され、破損の可能性を低減することができる。
【0031】
中空糸膜モジュール1には、上側ノズル5a及び下側ノズル5bと中空糸膜3aとの間に整流筒19a,19bが配置されている。整流筒19a,19bは、ケース5の内周と同軸の円筒であってよい。整流筒19a,19bの一端と固定部14は離間していることが好ましい。バイオ医薬品製造用途で使用される中空糸膜モジュール1には一度限りの使用で廃棄するシングルユース方式と洗浄操作を経て繰り返し利用する方式がある。繰り返し使用する方式の場合、80℃以上の熱水や蒸気を利用した殺菌による熱サイクルの履歴が中空糸膜モジュール1に与えられるが、固定部14に整流筒19a,19bの一部が埋め込まれている構成では、固定部14のクラック発生の起点となる可能性がある。一方で、上記構成のように、整流筒19a,19bと固定部14とを離間しておくことで、より長期間にわたり健全な状態で使用することができる。又、ケース5の軸方向における離間幅としては、場所にもよるが1mm以上20mm以下であることが望ましい。離間幅が1mm以下の場合、接着剤の投入方法によっては一部分の領域において整流筒19a,19bと固定部14とが接触してしまう可能性がある。又、離間幅が20mm以上の構成では、離間している箇所からろ過液、もしくは洗浄時に使用される逆洗洗浄による洗浄液が流入し、局所的な流量が増加することで中空糸膜3aの根本、言換えると固定部14近傍の部分に負荷が発生する可能性がある。
【0032】
又、本実施形態の中空糸膜モジュール1においては、保存液中の有機物含有量が、TOC(Total Organic Carbon)として1ppm以上50ppm未満であることが好ましい。TOCが1ppm以上であれば、後述する水の加熱殺菌時に、水中の有機物が優先的に酸化されるため、加熱による中空糸膜3aの酸化劣化を抑制できる。なお、TOCは5ppm以上であることがさらに好ましい。
【0033】
又、50ppm未満であれば、中空糸膜モジュール1の使用開始時における保存液中の有機物濃度を速やかに低減することが可能であるとともに、運転開始前のリンスに要する時間、リンス液量を低減することが可能となる。
【0034】
さらに、本実施形態の中空糸膜モジュール1においては、保存液に含まれる金属イオンの濃度が10ppb以上100ppb未満であることが好ましい。バイオ医薬品プロセスでは、生産される医薬品に悪影響を与える金属イオンの混入は避けるべきであり、その含有量は少ない程良い。一方、殺菌について考えた場合、金属イオンは殺菌作用を示すことが知られており、医薬品製造に悪影響を与えない範囲で、又簡便にリンスを実施可能な範囲で金属イオンを含むことで加熱による殺菌作用を向上させることが可能となる。
【0035】
上述した本実施形態の中空糸膜モジュール1であれば、保存中に菌類が増殖することを抑制しつつ、バイオ医薬用途に用いられる際の要求を満たすろ過性能を発揮することが可能となる。なお、本実施形態の中空糸膜モジュール1であれば、半導体製造用途に用いられる超純水製造用のファイナルフィルターとしても、保存液中の有機物濃度を速やかに低減することを可能としつつ、ろ過性能を発揮することが可能となる。
【0036】
ケース5に設けられた配管接続用の開口部である上側ノズル5a、下側ノズル5b、管路10a,11aそれぞれには、図6に示す通り、全て盲キャップ15,16,17,18によって密閉されていることが好ましい。盲キャップ15,16,17,18の材質としてはケース5に使用されるプラスチック素材の線膨張係数の0.95倍から1.05倍の線膨張係数を持つ材質が好ましい。より好ましくは、ケース5に採用する部材と同種の素材であってもよい。又、盲キャップ15,16,17,18には取っ手が付いていてもよい。熱殺菌処理後の中空糸膜モジュール1は、開封時の環境温度によって中空糸膜モジュール1内部の圧力が外部に比べて陰圧となり密着する場合がある。そのような場合であっても、簡便に盲キャップ15,16,17,18を開封することが可能となる。取っ手の形状としては、L型やT型、コの字型等から適宜選択できる。
【0037】
ケース5のノズル部を封止する盲キャップとして、図7に示す通り無菌コネクタ20を使用してもよい。無菌コネクタ20とは、無菌ではない環境下において接続する配管の内部の無菌性を損なうことなく接続することが可能な部材であり、特にシングルユースの部材において好適に用いられることがある。無菌コネクタ20には、滅菌フィルタ21が含まれてよい。滅菌フィルタ20の一端面が中空糸膜モジュール1の内部の空間、言換えると、第1の空間sp1及び第2の空間sp2と直接接していてよい。
【0038】
中空糸膜モジュール1はプラスチック製の包装フィルムに包装して保管、輸送することにより、保管時の水分蒸発を防ぐことができる。包装フィルムのフィルム材質としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン等が好適に用いられる。又、予め中空糸膜モジュール1を包装した状態でオートクレーブを用いて加熱殺菌処理を実施する場合、包装フィルムは滅菌用バッグであってもよい。滅菌用バッグとはバッグ外部から内部への菌の混入は防ぎつつ、水蒸気は自由に透過できる多孔性の第1の部分を有するものである。第1の部分は気体透過性を有する。又、包装フィルムは、第1の部分を有するフィルムと、高密度ポリエチレンやポリプロピレン等の第2の部分を有するフィルムとの外縁を貼合わせて構成されてよい。第2の部分は、第1の部分より気体透過性が低い。
【0039】
本発明の中空糸膜モジュール1の保存液を含めた総重量は15kg以上であり得る。加えて中空糸膜モジュール1にはナット13の角部のような、中空糸膜モジュール1を長手方向に対して水平に静置した時に荷重が集中しやすい部分が存在する。静置時に、そのような部分と床面との間への包装フィルムの第1の部分の配置は、第1の部分の多孔部をつぶすことにより、包装フィルムの耐久性を損なう原因となりうる。そのため、中空糸膜モジュール1の荷重が集中しやすい箇所と接触する、包装フィルムの領域以外に第1の部分を設けることが好ましい。言換えると、中空糸膜モジュール1の荷重が集中しやすい箇所と接触する包装フィルムの領域に第2の部分を設けることが好ましい。
【0040】
図8に示すように、中空糸膜モジュール1は、モジュールケース5の軸の周方向において、上側ノズル5a及び下側ノズル5bの突出方向から90度回転させた方向を中心に少なくとも120°の範囲内に第2の部分22が位置するように、包装フィルム23によって包装される。又は、図9に示すように、中空糸膜モジュール1は、モジュールケース5の軸の周方向において、上側ノズル5a及び下側ノズル5bの突出方向の逆方向を中心に少なくとも60°の範囲内に第2の部分22が位置するように、包装フィルム23によって包装される。中空糸膜モジュール1を載置する際には、上側ノズル5a及び下側ノズル5bが水平方向側又は鉛直上方側を向くように、姿勢が調整されることが一般的である。又、中空糸膜モジュール1は、上側ノズル5a及び下側ノズル5bがモジュールケース1とともに水平面に接触するように載置されることもあり得る。それゆえ、上述のように包装フィルム23に包装されることにより、多孔性を有する第1の部分24がモジュールケース5の鉛直下方において、静置部24とモジュールケース5に多孔部22が挟まれる可能性が低減され得る。静置部24は、中空糸膜モジュール1が載置される床、台、容器の内底面等である。
【0041】
又は、包装フィルム23に包装された中空糸膜モジュール1の静置部24への静置時において、多孔部22に発生する圧縮強度が10kPa以下となるように配置されるのであれば、中空糸膜モジュール1と静置部24とに多孔部22が挟まれるように包装されてもよい。例えば、多孔部22に荷重が集中しないように、他の箇所に荷重を分散させるように載置することにより、多孔部22への圧縮強度が低減され得る。
【0042】
上述した本実施形態の中空糸膜モジュール1であれば、加熱殺菌処理時の中空糸膜3aの肉厚部の乾きを防ぐことが可能となり、保存中に菌類が増殖することを防ぎ、輸送中の振動による中空糸膜3aの破損を抑制しつつ、バイオ医薬分野で求められる水質要求を満たすことが可能となる。
【0043】
次に、本実施形態の中空糸膜モジュール1の製造方法について説明する。
【0044】
本実施形態の中空糸膜モジュール1の製造方法においては、まず、保存液が充填される前の状態の図1に示す中空糸膜モジュール1のケース5内に、ろ過によって除菌された水と気体とが封入される。封入される水は、純水であることが好ましい。
【0045】
ここで、本発明における純水とは、イオン成分を低減させ、水の電気導電度が1μS/cm以下で、更に逆浸透膜又は限外ろ過膜等でろ過された水のことを示す。純水に含まれる50nm以上の微粒子は、10個/L以上200個/L以下であることが好ましい。
【0046】
又、純水中の有機物含有量には、TOCとして1ppm以上50ppm未満の水が用いられることが好ましい。更に、純水に含まれる金属イオンの濃度は、10ppb以上100ppb未満であることが好ましく、純水に含まれる塩化物イオンの濃度は、25ppb以上250ppb未満であることが好ましい。
【0047】
そして、本実施形態の中空糸膜モジュール1の製造方法においては、ろ過によって除菌された水が封入された中空糸膜モジュール1(ケース5)を80℃以上125℃以下で加熱処理する。このように、ろ過で除菌された水を気体とともに、更に加熱殺菌することで中空糸膜モジュール1内部の水と気体とが生菌が存在しない状態に遷移させることが可能となる。
【0048】
なお、水の殺菌方法としては、薬品の添加等もあるが、バイオ医薬分野で使用される中空糸膜モジュールの場合、ろ過運転前の洗浄操作に時間と洗浄用の純水が必要となるほか、洗浄による排水も増加してしまうため、余計な成分を添加しない加熱による殺菌であることが好ましい。
【0049】
又、本実施形態のように水を加熱によって殺菌する場合、80℃未満であっても、多くの生菌は時間を掛けることで死滅するが、3ヶ月以上の長期間の保管を考えた場合、80℃以上に加熱し、十分に菌を死滅させておくのが良い。又、加熱温度を125℃以上とした場合、部材の熱膨張率の差で破損が生じる可能性がある。これらの観点から、加熱処理の温度としては、本実施形態のように、80℃以上125℃未満であることが好ましい。又、本実施形態の中空糸膜モジュール1は本加熱処理の後にさらにガンマ線による滅菌が施される場合においては、85℃以上95℃以下で予め熱殺菌処理を施すことで、中空糸膜モジュール1内部の状態を常に同じ状態とすることができ、最低限度のガンマ線照射で滅菌を達成することができる。
【0050】
ここで、上述したように中空糸膜モジュール1を加熱処理する際、ケース5内部の空間に水が満水状態、言換えるとVall=Wallである場合、水の熱膨張によってモジュール内部の圧力上昇が発生し、中空糸膜3aやケース5が破損する可能性がある。一方でこの圧力上昇を緩和する方法として、モジュール内部と外部を通じた状態とする方法があるが、この場合、加熱処理によって体積膨張した水が外部にあふれてしまい、さらに冷却される際の体積収縮によって外気を吸入してしまうため、その際に大気中から菌類がモジュール内に取り込まれてしまう可能性がある。又、冷却後、中空糸膜モジュール1の配管接続用の開口部は、最終的に保管、輸送を目的として盲キャップを付け替える必要があり、操作が煩雑となる課題がある。
【0051】
これらを回避するため、本実施形態の中空糸膜モジュール1の製造方法においては、保存液として封入する水が加熱によって膨張しても圧力上昇を緩和できるように、ある割合で中空糸膜モジュール1の第1の空間sp1、第2の空間sp2、及び第3の空間sp3の少なくともいずれかに気体を含ませておくことが好ましい。
【0052】
又、水と気体とを封入した中空糸膜モジュール1を加熱殺菌処理する工程においては、中空糸膜3aの乾きを防止するため、中空糸膜モジュール1内部の気体の相対湿度が常に85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。相対湿度が85%を下回る場合、下回った時間の合計時間にもよるが、中空糸膜3aが乾いてしまう可能性がある。特に、中空糸膜束3の最外周部に位置する中空糸膜3aに乾きが発生する可能性がある。相対湿度を一定以上に保つ製造方法としては、昇温を複数の段階に分割し、段階的に昇温してもよい。又、昇温時は中空糸膜モジュール1内部の第2の空間sp2から温度が上昇するため、第2の空間sp2に含まれる水の含有率を高くしておくと良い。又、中空糸膜3aについては、中空糸膜束3としてひとつのまとまりからやや離れた場所に配置された、最外周部に位置する中空糸膜3aがより乾きやすい傾向にある。そのように、一部の中空糸膜3aが他の中空糸膜3aまとまりから離れることを抑制するため、中空糸膜束3をネット状の規制部材で規制しておいてもよい。
【0053】
中空糸膜モジュール1を加熱する方式は適宜選択されるが、中空糸膜モジュール1の外部から乾燥空気、湿熱、加圧蒸気で加熱することができる。又、マイクロ波を用いてもよい。又、加熱中は中空糸膜モジュール1の長手方向を水平に静置してもよいし、地面に対して略垂直に立てかけてもよいし、中空糸膜モジュール1の長手方向を軸として回転させながら加熱処理を行ってもよい。
【0054】
又、中空糸膜モジュール1に設けられた配管接続用の開口部には、加熱処理、言換えると熱殺菌処理の開始前に盲キャップが装着されていることが好ましい。又、無菌コネクタ20が装着されていてもよい。無菌コネクタ20には菌の流入を防ぐ滅菌フィルタ21が張り付けられることによって接続口が封止されている。この滅菌フィルタ21が中空糸膜モジュール1の内圧上昇によって剥がれないようにするため、加熱処理開始前の中空糸膜モジュール1内部と外部との圧力差は外部温度が20℃の状態で0kPaであり、且つ加熱処理中の中空糸膜モジュール1内部と外部との圧力差は20kPa以内であることが好ましく、より好ましくは10kPa以内である。上述の加熱処理は、配管接続用の開口部が盲キャップによって密閉された状態で行われることが好ましい。
【0055】
次に、本実施形態の中空糸膜モジュール1をバイオ医薬品ろ過用のろ過装置100に設置した態様の一例について、図10を参照して説明し、さらに、本実施形態の中空糸膜モジュール1を用いたリンス方法およびろ過方法について説明する。なお、このバイオ医薬品ろ過用のろ過処理装置100において、内圧ろ過でのクロスフローろ過方式を想定している。
【0056】
図10に示されるように、ろ過装置100は、例えば、培養後の細胞と目的タンパク質を含む被処理水をろ過する用途で用いられる。ろ過装置100は、中空糸膜モジュール1、第1ろ過水集水管101、第2ろ過水集水管102、第1弁101a、第2弁102a、供給配管104、及び循環配管105を備える。中空糸膜モジュール1の上側ノズル5a及び下側ノズル5bには、それぞれ第1ろ過水集水管101及び第2ろ過水集水管102が接続されている。第1ろ過水集水管101には第1弁101aが設けられている。第2ろ過水集水管102には、第2弁102aが設けられている。中空糸膜モジュール1の管路11aには、供給配管104の一端が接続されている。供給配管104の多端は、被処理水タンク106に接続されている。供給配管104には、ポンプ107が設けられる。ポンプ107は、被処理水タンク106の下方から排出される被処理水を昇圧して、中空糸膜モジュール1に供給可能である。中空糸膜モジュール1の管路10aには、循環配管105の一端が接続されている。循環配管105の他端は、被処理水タンク106の上部に接続されている。ろ過装置100では、中空糸膜モジュール1は、ケース5の軸方向が鉛直方向に平行且つキャップ10がキャップ11より上方に位置するように配置されている。
【0057】
ろ過装置100では、被処理水タンク106から供給配管104及び下側の管路11aを通じて中空糸膜3aの内側である中空部に被処理水が供給される。供給される被処理水は中空糸膜3aの外表面側にろ過され、ケース5の下側ノズル5bが閉じられた状態で上側ノズル5aからろ過液が回収される。例えば、後述する、下側ノズル5bに第2ろ過水集水管102を介して接続される弁102aを閉じることにより、下側ノズル5bが閉じられる。又、供給された大部分の処理液は、中空糸膜束3の上側の管路10aから循環水として排出され、循環配管105を通じて被処理水タンク106に戻される。
【0058】
そして、上述したろ過装置100に対して中空糸膜モジュール1を設置する際には、まず、実施形態のひとつである中空糸膜モジュール1を密閉している盲キャップ15、16、17、18が取り外され、中空糸膜モジュール1内に封入した保存液が、水処理装置100の配管以外に廃棄される。そして、その後、中空膜モジュール1がろ過装置100の配管に取り付けられる。取り付ける際は中空糸膜モジュール1内の保存液を系外に廃棄した後に水処理装置100に取り付けてもよい。
【0059】
又、その他の実施形態である中空糸膜モジュール1を封止している無菌コネクタ20をろ過装置100の配管に取り付けられている無菌コネクタと接続し、滅菌フィルタ21を剥離させることで中空糸膜モジュール100の内部、およびろ過装置100配管内の無菌性を保ったまま接続することが可能となる。
【0060】
ここで、中空糸膜モジュール1のろ過運転使用前の洗浄方法について述べる。中空糸膜モジュール1をろ過装置100に取り付けた後、供給配管104から下側の管路11aを通じて所定の圧力で中空糸膜モジュール1の中空糸膜3aの中空部(1次側)に純水が導入される。中空部において、大半の純水が中空糸膜3aにおいてろ過され中空糸膜3aの外表面側(2次側)に移動する。その後、ろ過された純水が中空糸膜モジュール1の上側ノズル5aから排水される。又、排水(ろ過された純水)は中空糸膜モジュールの下側ノズル5bから排水されてもよい。又、中空糸膜モジュール1の膜面積あたり5L/m、もしくは10L/mをろ過した段階で一度中空糸膜モジュールの下側ノズル5bから中空糸外表面側(2次側)に存在する純水を全て排水し、再度下側のキャップ11aから純水を導入し、ろ過による洗浄を実施するとより効率的に中空糸膜モジュール1内部の洗浄を実施することができる。そして中空糸膜モジュール1の膜面積あたり20L/m以内の純水でろ過した後のろ過水側のTOCを500ppb以下に抑えることができる。
【実施例0061】
以下、本実施形態を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
以下の実施例および比較例においては、中空糸膜モジュールを使用した。その特性および測定方法を以下に示す。
【0063】
[中空糸膜について]
(使用例1)
材質:PVDF
孔径:0.1μm(精密ろ過膜)
内径/外径:1.4mm/2.2mm
(使用例2)
材質:ポリスルホン
分画分子量:6000Da
内径/外径:0.6mm/1.0mm
【0064】
[殺菌効果の確認方法]
中空糸膜モジュールに封入された水をサンプリングし、ミリポア社製HPCトータルカウントサンプラー(型式:MHPC10025)を用いて生菌の有無を判断した。
【0065】
[保存液のTOC分析]
保存液中のTOCの分析は、以下の機器を用いて行った。
TOC:島津製作所製 TOC5000A
【0066】
[モジュールケース、および盲キャップの線膨張係数]
モジュールケース、および盲キャップの線膨張係数はJISK7197-1991の熱機械分析法に基づき測定した。
【0067】
[中空糸膜モジュール内部の温度測定]
中空糸膜モジュール長手方向の中心部分に、温度センサを挿入した。温度センサは中空糸膜束の中心部分の温度を測定するように配置した。測定装置は、T&D社製のTR-7wbを使用し、温度センサ素子はステンレス保護管センサ(TR-1220)を使用した。
【0068】
[中空糸膜モジュール内部の相対湿度測定]
相対湿度はHIOKI社製温湿度計(LR8514)を使用した。センサ素子はノズルを塞ぐ盲キャップ、又は管路を塞ぐ盲キャップに予め配線を通すための穴を開けておき、配線のセッティング完了後、エポキシ樹脂を用いて封止しすることで中空糸膜モジュール内部の相対湿度の測定を実施した。
【0069】
[中空糸膜のリーク、及び中空糸膜の乾き有無判定方法]
殺菌処理を完了し、所定の期間保管した後、以下の手順でリークの有無及び乾きの有無の確認を実施した。まず、中空糸膜モジュール内部の水を排水した後、中空糸膜モジュールの1次側に位置する管路、及び中空糸膜モジュールの2次側に位置するノズルの1か所を盲キャップで密閉した。その後、2次側のもう一方のノズルから最大0.2MPaのエアを加圧し、固定部の端面における中空糸膜の開口からの気泡の発生有無を確認した。この時点で気泡の発生が無かったサンプルは、リーク、乾き共に発生なしと判断した。一方、気泡の発生が確認された場合、アルコールを用いて親水化処理を施した後に再度同様のリーク検査を実施した。この時に気泡の発生が無くなっていれば、乾きが発生していたと判断した。又、親水化処理後も引き続き気泡の発生が確認された場合は中空糸膜にリークが発生したと判断した。
【0070】
[中空糸膜モジュールの純水透水量測定方法]
中空糸膜モジュールの1次側である中空糸膜の内表面側から純水を導入し、2次側である中空糸膜の外表面から透過してくる純水量を測定し、25℃、0.1MPaにおける中空糸膜モジュールの透水量を算出した。熱殺菌前の中空糸膜モジュールと、後述する熱殺菌処理後3か月保管試験に従って保管した中空糸膜モジュールとの透水量の比からモジュール透水量の保持率を算出した。
【0071】
[中空糸膜の多孔部の含水量および含水率]
親水化した中空糸膜モジュール内の水を垂れ切った後の中空糸膜モジュールの重量を測定し、50℃環境で重量減少が無くなるまで乾燥し、再度重量を測定した。両者の差分から中空糸膜の多孔部の含水量、および含水率を算出した。
【0072】
[中空糸膜モジュール1次側、2次側の含水率]
親水化した中空糸膜モジュール内部を純水で満たした後、1次側、2次側に存在する水を排水することで、最大含水量を算出し、これをそれぞれの空間体積とした。各実施例で示した含水量は、定量した水を各空間に投入し、1次側、2次側空間の含水量と定めた。含水率はそれぞれの空間に投入した水に対する最大含水量の比率により算出した。ここで、中空糸膜モジュール1次側とは第1の空間であり、中空糸膜モジュールの2次側とは第2の空間を示す。また、予め中空糸膜モジュールの1次側および2次側に水が含まれている場合は、以下の手順でそれぞれの含水量を算出することができる。まず1次側に含まれる含水量を測定する場合、予め盲キャップで全ての開口部(上下ノズル、上下管路)を密封した後、中空糸膜モジュールを地面に対して長手方向が略垂直となるように配置した状態で1次側の管路下側と管路上側の盲キャップを開封し、5分間放置後に管路下側から排水された水を回収する。その際に排水された水の体積から1次側、言換えると第1の空間の含水量を求めることができる。また、2次側に存在する含水量を測定する場合、予め盲キャップで全ての開口部(上下ノズル、上下管路)を密封した後、中空糸膜モジュールを地面に対して長手方向が略垂直となるように配置した状態で上下ノズルの盲キャップを開封し、下側ノズルから排水される水を5分間採水する。その際に排水された水の体積から2次側空間の含水量を求めることができる。
【0073】
[中空糸膜の外径、内径]
多孔質中空糸膜を、長さ方向に直交する断面でカミソリを使って薄くスライスし、100倍拡大鏡にて、外径と内径を測定した。一つのサンプルについて、長さ方法に30mm間隔で60箇所の切断面で測定を行い、平均値を中空糸膜の外径と内径とした。
【0074】
[熱殺菌処理後3か月保管試験]
熱殺菌処理後の中空糸膜モジュールを、室温環境にて3か月間保管した。ここでいう室温とは18℃以上25℃以下を指す。その後、保管期間を満たした中空糸膜モジュールに、上述の中空糸膜のリーク判定方法及び乾き有無判定方法を適用して、リーク及び乾きの有無を判定した。また、保管期間を満たした中空糸膜モジュールに、上述の殺菌効果の確認方法を適用して、生菌の繁殖有無を判定した。
【0075】
[室温―50℃熱サイクル保管試験]
熱殺菌処理後の中空糸膜モジュールを、乾燥機内部に長手方向を水平に配置した。50℃設定で48時間加温した後に24時間大気開放し、室温(20-24℃)環境で静置した。この温度サイクルを必要回数繰り返した。当該温度サイクルを10,40,70サイクルそれぞれ施した中空糸膜モジュールに対して、上述の中空糸膜の乾き有無判定方法を適用して、膜の乾きの有無を判定した。
【0076】
[ランダム振動耐久性試験]
中空糸膜モジュールを梱包用の段ボール箱に梱包した状態で以下の試験を実施した。ま段ボール箱を試験台に設置し、段ボール箱上面に重量100kgの梱包箱を重ねた。その状態で1Hzから200Hzの周波数帯で振動を変更し、パワースペクトル密度(PSD)を0.000004g/Hzから0.02g/Hzまで適宜変更し、与えた振動負荷の合計が0.53 overall Grmsとなるような振動負荷を与えた。ここでPSDとはランダム振動における周波数ごとの波の強さを表す数値である。本ランダム振動試験では、ISTA 3Aのランダム振動試験手順(Over the Road Trailer Spectrum)に基づき中空糸膜モジュールに振動負荷を与えた。更に、中空糸膜モジュールを含む梱包箱の上部から荷重を付与しない方式の振動試験履歴を付与させた。1Hzから200Hzの周波数帯で振動を変更し、PSDレベルは0.00005g/Hzから0.035g/Hzの間で変化させた。ISTA 3Aランダム振動試験手順(Pick-up and Delivery Vehicle Spectrum)に則って実施し、PSDの合計が0.46 overall Grmsとなるような振動負荷を与えた。試験装置は全てShinken Co.Ltd社製(モデル:G9250-L)を使用した。試験は全て20-24℃の環境下で実施した。振動試験を施した中空糸膜モジュールに、上述の中空糸膜のリーク判定方法を適用して、リークの有無を判定した。
【0077】
[25℃―75℃熱サイクル耐久性試験]
熱殺菌処理後の中空糸膜モジュールを、装置に取り付けた後、冷水(最高25℃)と熱水(最高75℃)を30分毎に交互に通水した。目標サイクル数完了後、上述のリーク判定方法により、膜モジュールからのリークの有無を検査した。
【0078】
[リンス試験]
熱殺菌処理後の中空糸膜モジュールをろ過処理装置に取り付けた後、中空糸膜モジュールキャップ下側から純水を導入した。循環流量を1L/min、ろ過流量を10L/minと調整してリンス操作を実施した。リンス開始から5分間経過毎に、中空糸膜モジュールキャップ上側からと、ろ過水側の純水をサンプリングした。サンプリングした純水のTOCの分析を、保存液と同じ機器を用いて行った。TOCを測定することで中空糸膜モジュールからの溶出量を計測した。ろ過水質の目標値として、ろ過水側の純水のTOCが500ppb未満となる場合のろ過量を測定した
【0079】
[実施例1]
予め限外ろ過膜を用いてろ過した純水を、PVDF製の精密ろ過膜を使用した中空糸膜モジュールの1次側から2次側へ充填し、その後中空糸膜モジュールの長手方向を地面に対して垂直方向に5分間静置し、内部の水が垂れ切った後に、第1の空間及び第2の空間における含水率が表1に記載の含水率となるように、所定量の純水を中空糸膜モジュールの1次側、2次側それぞれに加水した。その後、全ての配管接続口をポリスルホン製の盲キャップを用いて、クランプによって密閉した。その後乾燥機に水平に配置し、90℃、24時間の加熱処理を実施し後、徐冷することで殺菌された水および気体が中空糸膜モジュール内部に密閉されている状態とした。殺菌処理が完了した中空糸膜モジュールを用いて種々の保管試験、並びに耐久性試験を実施した。結果は表1に記載の通りである。室温中で3か月保管した後に、リーク検査を実施し、リークおよび膜の乾きが発生していないことを確認した。モジュール透水量を測定したが、加熱殺菌前と比較した保持率は99%であり、健全性が保たれていた。中空糸膜モジュール内部の純水を採水し生菌の発生有無を調査したが、生菌は存在しないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり16L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについては、10サイクル完了後では中空糸膜の乾きの発生はなかったが、40サイクル完了後では中空糸膜の乾きが確認された。発生場所は中空糸膜束の最外周部であった。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、リーク発生は無く中空糸膜の破損は無いことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。なお、実施例1では固定部と整流筒が離間している仕様の中空糸膜モジュールを使用した。500サイクル完了後にリーク検査を実施したがリークは確認されなかった。
【0080】
[実施例2]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.05、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.81と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管した実施例2の中空糸膜モジュールには、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は101%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり15L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについても、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後いずれも中空糸膜の乾きが発生していないことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、リーク発生は無く中空糸膜の破損は無いことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。実施例2おいても接着固定部と整流筒が離間している仕様の中空糸膜モジュールを使用した。500サイクル完了後にリーク検査を実施したがリークは確認されなかった。
【0081】
[実施例3]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.07、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.9と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は100%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり15L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについても、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後いずれも中空糸膜の乾きが発生していないことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、リーク発生は無く中空糸膜の破損は無いことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。実施例3おいても固定部と整流筒が離間している仕様の中空糸膜モジュールを使用した。500サイクル完了後にリーク検査を実施したがリークは確認されなかった。
【0082】
[実施例4]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.28、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.98と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は103%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり15L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについても、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後いずれも中空糸膜の乾きが発生していないことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、リーク発生は無く中空糸膜の破損は無いことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。実施例4おいても固定部と整流筒が離間している仕様の中空糸膜モジュールを使用した。500サイクル完了後にリーク検査を実施したがリークは確認されなかった。
【0083】
[実施例5]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.65、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.96と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は99%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり14L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについても、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後いずれも中空糸膜の乾きが発生していないことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、リーク発生は無く中空糸膜の破損は無いことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。実施例5おいても固定部と整流筒が離間している仕様の中空糸膜モジュールを使用した。500サイクル完了後にリーク検査を実施したがリークは確認されなかった。
【0084】
[実施例6]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.92、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.95と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は99%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり14L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについても、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後いずれも中空糸膜の乾きが発生していないことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、リーク発生は無く中空糸膜の破損は無いことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。実施例6おいても固定部と整流筒が離間している仕様の中空糸膜モジュールを使用した。500サイクル完了後にリーク検査を実施したがリークは確認されなかった。
【0085】
[比較例1]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.07、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.08と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の1か所から気泡が発生したことを確認した。再度親水化処理を施した後にリーク検査を実施したところ、気泡の発生は無かったことから、中空糸膜の乾きが発生していたと判断した。又、モジュール透水保持率は98%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり18L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについて、10サイクル完了後にリーク検査を実施したところ、3か所の中空糸膜から気泡が発生していることを確認した。その後再度親水化処理を実施した後、改めてリーク検査を実施したところ、気泡の発生は無かったことから、中空糸膜の乾きが発生していたと判断した。
【0086】
[比較例2]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールに熱殺菌の履歴を与えずに3か月間の室温での保管試験を実施した点である。3か月間の室温での保管後にリーク検査を実施したところ、気泡の発生は無かった。又、モジュール透水保持率は99%であり問題ない結果であった。生菌の有無を検査したところ、菌の発生が確認された。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり18L/mのみの純水の使用で到達した。
【0087】
[比較例3]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=1.00、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=1.00と設定した部分である。配管接続口を盲キャップにて密閉し、設定温度90℃にて加熱処理したところ、中空糸膜モジュールの内圧は560kPaまで上昇し、ハウジングに比較的高い圧力履歴が付与される結果となった。
【0088】
[実施例7]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点として、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.47、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.53と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は97%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり16L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについても、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後いずれも中空糸膜の乾きが発生していないことを確認した。一方、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したところ、2か所のリーク発生を確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。実施例7おいても固定部と整流筒が離間している仕様の中空糸膜モジュールを使用した。500サイクル完了後にリーク検査を実施したがリークは確認されなかった。
【0089】
[実施例8]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点として、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.28、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.31と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は99%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり17L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについても、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後いずれも中空糸膜の乾きが発生していないことを確認した。熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、気泡の発生は無く、リーク発生が無いことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。実施例8おいても固定部と整流筒が離間している仕様の中空糸膜モジュールを使用した。500サイクル完了後にリーク検査を実施したがリークは確認されなかった。
【0090】
[実施例9]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点として、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.98、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.08と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は98%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり16L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについて、10サイクル完了後にリーク検査を実施したところ気泡の発生は確認されずリーク発生はなかったが、40サイクル、70サイクル完了後にリーク検査を実施したところ、中空糸膜に乾きが発生していることを確認した。熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、気泡の発生は無く、リーク発生が無いことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。実施例9おいても固定部と整流筒が離間している仕様の中空糸膜モジュールを使用した。500サイクル完了後にリーク検査を実施したがリークは確認されなかった。
【0091】
[実施例10]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点として、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.98、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.49と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は100%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり16L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについて、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後にリーク検査を実施したが、中空糸膜から気泡の発生は無く、リークの発生が無いことを確認した。一方、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したところ、1か所の中空糸膜から気泡の発生が確認され、リークが発生していることを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。実施例10おいても固定部と整流筒が離間している仕様の中空糸膜モジュールを使用した。500サイクル完了後にリーク検査を実施したがリークは確認されなかった。
【0092】
[実施例11]
予め限外ろ過膜を用いてろ過した純水を、ポリスルホン製の限外ろ過膜を使用した中空糸膜モジュールの1次側から2次側へ充填し、その後中空糸膜モジュールの長手方向を地面に対して垂直方向に5分間静置し、内部の水を垂れ切った後に、所定量の純水を中空糸膜モジュールの1次側、2次側それぞれに加水し、第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.07、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.99とした。その後、全ての配管接続口をポリスルホン製の盲キャップを用いて、クランプによって密閉した。その後乾燥機に水平に配置し、90℃、24時間の加熱処理を実施し後、徐冷することで殺菌された水および気体が中空糸膜モジュール内部に密閉されている状態とした。殺菌処理が完了した中空糸膜モジュールを用いて種々の保管試験、並びに耐久性試験を実施した。結果は表3に記載の通りである。室温中で3か月保管した後に、リーク検査を実施し、リークおよび膜の乾きが発生していないことを確認した。モジュール透水量を測定したが、加熱殺菌前と比較した保持率は102%であり、健全性が保たれていた。中空糸膜モジュール内部の純水を採水し生菌の発生有無を調査したが、生菌は存在しないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり15L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについては、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後全てにおいて中空糸膜の乾きの発生はなかった。又、熱殺菌完了後の膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、リーク発生は無く中空糸膜の破損は無いことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。500サイクル完了時点ではリーク発生等の不具合はなかったが、700サイクル完了後にリーク検査を実施したところ、1か所からリークが確認された。解体してリーク箇所を確認したところ、整流筒が固定部に埋まっている部分が起点だった。
【0093】
[実施例12]
膜モジュールは実施例11と同じ中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.53と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は101%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり14L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについても、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後いずれも中空糸膜の乾きが発生していないことを確認した。又、熱殺菌完了後の膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、リーク発生は無く中空糸膜の破損は無いことを確認した。
【0094】
[実施例13]
膜モジュールは実施例11と同じ中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.88、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.95と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は99%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり13L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについても、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後いずれも中空糸膜の乾きが発生していないことを確認した。又、熱殺菌完了後の膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、リーク発生は無く中空糸膜の破損は無いことを確認した。
【0095】
[実施例14]
膜モジュールは実施例11と同じ中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.97、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.07と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は97%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり17L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについて、10サイクル完了後にリーク検査を実施した時にはリーク発生は確認できなかったが、40サイクル、70サイクル完了後にリーク検査を実施したところ、いずれも中空糸膜の乾きが発生していることを確認した。又、熱殺菌完了後の膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、リーク発生は無く中空糸膜の破損は無いことを確認した。
【0096】
[比較例4]
膜モジュールは実施例11と同じ中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.07、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.06と設定した部分である。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したところ、中空糸膜の乾きが発生していることを確認した。又、モジュール透水保持率も90%であり、熱殺菌処理前に比べて10%低下していた。生菌の発生が確認された。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり18L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについて、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後にリーク検査を実施したところ、いずれも中空糸膜の乾きが発生していることを確認した。
【0097】
[比較例5]
膜モジュールは実施例11と同じ中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの保存液を純水から65wt%のグリセリン水溶液に変更した部分である。また中空糸膜モジュールの第1の空間におけるグリセリン水溶液の含有率をWfirst/Vfirst=0.05、第2の空間におけるグリセリン水溶液の含有率をWsecond/Vsecond=0.04とした。熱殺菌処理品を3か月間室温にて保管したがモジュール透水保持率も101%であり、問題ない範囲であった。生菌の発生は無いことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり200L/mの純水を必要とした。
【0098】
[実施例15]
試験には実施例1と同じ仕様の中空糸膜モジュールを使用した。異なる点としては、中空糸膜モジュールの第1の空間における純水含有率をWfirst/Vfirst=0.12、第2の空間における純水含有率をWsecond/Vsecond=0.18と設定した部分と、無菌コネクタを使用した点である。無菌コネクタはCPC社製の無菌コネクタ(AQS33012HT)を使用した。又、実施例15の中空糸膜モジュールについては、熱処理に前に滅菌バッグ(商品名:cleanpeak Easy-Tear Bag)にて梱包した。滅菌バッグの一面は水蒸気透過性に優れた不織布(Tybek1073b)を使用し、逆面には高密度ポリエチレンフィルムを使用した。熱処理装置に静置する際、中空糸膜モジュールと熱処理装置の床面に挟まれる部分には高密度ポリエチレンフィルムが配置されるように設置し、不織布面は中空糸膜モジュールの上部に配置されるように設置した。これは不織布面に過度な圧縮力が働き不織布中の多孔部がつぶれないようにするための対応である。その後125℃の蒸気滅菌処理を実施した。処理品を3か月間室温にて保管したが、中空糸膜の乾き、リークは発生していないことを確認した。又、モジュール透水保持率は98%であり問題ない結果であった。生菌も発生していないことを確認した。ろ過装置に取り付けてリンス試験を実施したところ、ろ過水側のTOCが500ppbを下回るまでに膜面積あたり17L/mのみの純水の使用で到達した。20℃―50℃の温度サイクルの環境中で保管した中空糸膜モジュールについても、10サイクル、40サイクル、70サイクル完了後いずれも中空糸膜の乾きが発生していないことを確認した。又、熱殺菌完了後の膜モジュールに振動を加えた後にリーク検査を実施したが、リーク発生は無く中空糸膜の破損は無いことを確認した。又、熱殺菌完了後の中空糸膜モジュールを用いて冷熱サイクル試験を実施した。実施例15おいても固定部と整流筒が離間している仕様の中空糸膜モジュールを使用した。500サイクル完了後にリーク検査を実施したがリークは確認されなかった。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【符号の説明】
【0103】
1 中空糸膜モジュール
3 中空糸膜束
3a 中空糸膜
5 モジュールケース
5a 上側ノズル
5b 下側ノズル
10,11 キャップ
10a,11a 管路
12 Oリング
13 ナット
14 固定部
15,16,17,18 盲キャップ
19a,19b 整流筒
20 無菌コネクタ
21 滅菌フィルタ
22 第2の部分
23 包装フィルム
24 第1の部分
25 静置部
100 ろ過装置
101 第1ろ過水集水管
102 第2ろ過水集水管
101a 第1弁
102a 第2弁
104 供給配管
105 循環配管
106 被処理水タンク
sp1 第1の空間
sp2 第2の空間
sp3 第3の空間
YY 第1の盲キャップ
ZZ 第2の盲キャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10