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特開2024-9778電動パワーステアリング用ギャップ補正付き減速機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009778
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング用ギャップ補正付き減速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/16 20060101AFI20240116BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240116BHJP
   F16H 55/24 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
F16H1/16 Z
B62D5/04
F16H55/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023111137
(22)【出願日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】2207095
(32)【優先日】2022-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ショーヴラ フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】デュリヨン アルノー
(72)【発明者】
【氏名】モネ ロッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ムラス ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】シゾン フィリップ
【テーマコード(参考)】
3D333
3J009
3J030
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB13
3D333CB15
3D333CB21
3D333CB31
3D333CB46
3D333CC14
3D333CD05
3D333CD13
3D333CD14
3D333CD16
3D333CD17
3D333CD46
3D333CE04
3D333CE06
3D333CE09
3D333CE10
3D333CE12
3D333CE16
3J009DA05
3J009DA11
3J009EA19
3J009FA04
3J030AA13
3J030AB06
3J030BA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ステアリングを反転操作するときに発生する衝撃音及びガタつき音タイプの騒音や振動(バックラッシノイズ/ガタつきノイズ)を低減できるウォーム減速機を提供する。
【解決手段】本発明は、ケース(17a)と、ケースの収容部(17b)内に配置されるとともに入力軸に連結された基端部を有するウォームと、出力軸に連結されるとともにウォームによって回転駆動されるように構成されたウォームホイールと、ウォームの基端部を収容部内に保持する基端側軸受と、ウォームの先端部を保持する先端側軸受であって収容部の円筒状の先端部に配置された先端側軸受と、先端側軸受の周りの収容部の先端部に固定されたばね(30)であってケースに当接して先端側軸受に力をウォームホイールに向かう方向へ加えるように配置され且つ形成された少なくとも1つの弾性ブレード(32、33)を有するばねと、を有する。
【選択図】図9B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機であって、
ケース(17a)と、
前記ケースの収容部(17b)内に配置されるとともに入力軸に連結された基端部を有するウォーム(18)と、
出力軸(3、7、7c)に連結されるとともに前記ウォームによって回転駆動されるように構成されたウォームホイール(19)と、
前記ウォームの基端部を前記収容部内に保持する基端側軸受(22)と、
前記ウォームの先端部を保持する先端側軸受(23)であって、前記収容部(17b)の円筒状の先端部(17c)に配置される先端側軸受と、
前記先端側軸受の周りの前記収容部の先端部に固定されたばね(30)であって、前記ケースに当接して前記先端側軸受に力を前記ウォームホイールに向かう方向(X1)へ加えるように配置され且つ形成された少なくとも1つの弾性ブレード(32、33)を有するばねと、
を有する減速機。
【請求項2】
請求項1に記載の減速機において、
前記ばね(30)が前記収容部内で回転するのを阻止するために、前記ばね(30)は、前記収容部(17b)の先端部(17c)に形成された凹部(36)に係合するように構成された突出部(35a)を有する減速機。
【請求項3】
請求項2に記載の減速機において、
前記突出部(35a)は、前記ばね(30)の径方向外側へ延びるU字形状部を有する減速機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の減速機において、
前記ばね(30)は、前記ウォームホイール(19)に向かう方向(X1)及び反対方向へ前記先端側軸受(23)をガイドし、前記ばねと前記先端側軸受との間の側部ギャップを排除するように配置され且つ形成された平坦な側部(35)を有する減速機。
【請求項5】
請求項4に記載の減速機において、
前記平坦な側部(35)は、前記先端側軸受と協働するタブ(34)がばねの径方向内側へ延び、前記ばね(30)を軸方向の先端側へロックする減速機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の減速機において、
各弾性ブレードは、湾曲部を有するとともにその固定端と自由端との間で幅が変化し、前記ばねにおける前記先端側軸受の位置の関数として前記先端側軸受(23)に前記ブレードによって加えられる力の変動曲線に従うように調整される減速機。
【請求項7】
請求項6に記載の減速機において、
前記ばね(30)における前記先端側軸受の位置の関数として、各弾性ブレード(32,33)によって前記先端側軸受(23)に加えられる力の変動曲線は、比較的小さな勾配で直線的に変化した後に、前記ウォームホイール(19)に向かう方向(X1)における前記先端側軸受のストロークの終わりの近傍においてより急激に大きくなる減速機。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の減速機において、
前記ばね(30)は、240°と300°との間で構成される角度領域にわたって延びる環状部を有し、各弾性ブレード(32,33)は、自由端と、前記環状部に固定された固定端とを有する減速機。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の減速機において、
前記ばね(30)は、前記ばね(30)の高さよりも幅が小さく且つ前記ウォーム(18)と前記ウォームホイール(19)との接触領域と径方向に対向する領域において交差するように構成された2つの弾性ブレード(32,33)を有する減速機。
【請求項10】
自動車のステアリングシステム(1a、1b、1c)のアシストモータ(M)と回転部材(3、7、8)との間に連結される減速機(17)を有する自動車のパワーステアリングであって、
前記減速機が、請求項1から9のいずれか1項に記載された減速機である自動車のパワーステアリング。
【請求項11】
請求項10に記載のパワーステアリングにおいて、
前記減速機(17)の前記ウォームホイール(19)が、前記ステアリングシステム(1a)のステアリングコラム(3)に固定されているパワーステアリング。
【請求項12】
請求項10に記載のパワーステアリングにおいて、
前記減速機(17)の前記ウォームホイール(19)が、前記ステアリングシステム(1c)のラック(8)ピニオン(7a)に連結されたピニオンシャフト(7)に固定されているパワーステアリング。
【請求項13】
請求項10に記載のパワーステアリングにおいて、
前記減速機(17)の前記ウォームホイール(19)が、ステアリングシステム(1b)の追加のラック(8)ピニオン(7b)に連結されたピニオンシャフト(7c)に固定されているパワーステアリング。
【請求項14】
請求項10に記載のパワーステアリングにおいて、
前記減速機(17)前記のウォームホイール(19)が、自動車のステアリングホイール(2)と操舵車輪との間に機械的リンクがないステアリングシステム(1e)のフォースフィードバックステアリングコラム(3)に固定されているパワーステアリング。
【請求項15】
請求項10に記載のパワーステアリングにおいて、
前記ウォームと前記ウォームホイールを備えた他の減速機を備え、前記減速機のウォームホイール(19)と前記他の減速機のウォームホイール(19)が、前記ステアリングシステム(1d,1e)のラック(8)ピニオン(7a,7b)にそれぞれ連結されているパワーステアリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の電動パワーステアリングの分野に関し、より詳細には、電動アシストモータによって生成されたトルクを、自動車のステアリングホイールを操舵車輪と連結する機械的なステアリングリンクに伝達することが可能な減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の電動パワーステアリング装置は、一般に、ステアリングコラムに回転可能に連結されたステアリングホイールを含む機械部品を有し、そのステアリングホイールから離れたステアリングコラムの端部が、ステアリングケースに摺動可能に取り付けられたラックと係合するステアリングピニオンを支持している。ラックの対向する2つの端部は、それぞれ、ロッドを介して車両の左右のステアリングホイールに連結される。車両の運転者がステアリングホイールに手で加える力を補助するために、このステアリングシステムは、2方向へ回転する電動アシストモータを備えており、その出力軸は、ステアリングコラムを補助するためのモータトルク(場合によっては抵抗トルクも)を伝達するように、車両のステアリングコラムと操舵車輪との間の機械的なステアリングリンクに減速機を介して連結されている。電動アシストモータは、車載電子コンピュータによって制御され、この電子コンピュータは、特に車両の運転手によってステアリングコラムに加えられるトルクのセンサを含むセンサから種々の信号を受信して処理する。
【0003】
特にウォームとウォームホイールを備えた種々の減速装置が知られている。特許文献1には、弾性ブレード(弾性舌片)を含むギャップ補正ばね(バックラッシ低減ばね)を有するウォーム減速機が記載されている。このばねは、減速機を収容するケース内に機械加工された縦長の収容部内でモータと反対側に位置するウォームの軸受を挟み付けて、その軸受と一緒に動くように形成されている。収容部は防水のプラグで閉じられている。弾性ブレードは、ウォームをウォームホイールに対して保持するように構成され、ウォームとウォームホイールの間のギャップを補正する。このギャップは、特に、機械部品の製造に固有の幾何学的なばらつき、温度の変動、そして通常の運転による摩耗に起因している。ケースがばねを収容する部分は、弾性ブレードを収容するためのキャビティを有する複雑な縦長の形状である。この複雑な形状は、ケース内に減速機の収容部を形成するのに必要な他の機械加工に比べ、複雑で長い時間がかかり、形状と位置決めに非常に高い精度が要求される機械加工を追加して行うことによってのみ得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-117049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、平坦でない地面(石畳、凹凸のある道路、道路の継ぎ目など)を走行するとき、またはステアリングを反転操作するときに発生する衝撃音及びガタつき音タイプの騒音や振動(「バックラッシノイズ/ガタつきノイズ」)を低減できるウォーム減速機が提供されることが望まれる。また、このような減速機においては、部品点数、機械加工の複雑さ、及びサイズの低減を可能にしつつ、長寿命化することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態は減速機に関し、この減速機は、ケースと、ケースの収容部内に配置されるとともに入力軸に連結される基端部を有するウォームと、出力軸に連結されるとともにウォームによって回転駆動されるように構成されたウォームホイールと、ウォームの基端部を収容部内に保持する基端側軸受と、ウォームの先端部を保持する先端側軸受であって収容部の円筒状の先端部に配置される先端側軸受と、先端側軸受の周りの収容部の先端部に固定されるばねであってケースに当接して先端側軸受に力をウォームホイールに向かう方向へ加えるように配置され且つ形成された少なくとも1つの弾性ブレードを含むばねと、を有する。
【0007】
この構成により、ばねはケースに固定され、先端側軸受はそのばねの中で動く。そのため、一般的にアルミニウムで形成される収容部内のばねまたは軸受の移動に起因する収容部の摩擦及び摩耗が減少する。摩擦は一般に鋼で形成されるばね及び先端側軸受の間で主に発生し、2つの鋼部品間の摩擦係数は、アルミニウム部品と鋼部品との摩擦係数よりも小さい。さらに、ばねの形状や弾力性を変更することにより、ばねと先端側軸受との間のサイドギャップを排除することができる。
【0008】
また、収容部のばね側の先端部が円筒形状であるため、製造が容易である。その結果、収容部の先端部の機械加工は、モータ側の基端側軸受の収容部の機械加工と同じ工程で行うことができ、ひいてはこの機械加工を行うために収容部の先端部を開放する必要がなくなる。そのため、2つの軸受が完全に同軸になることが保証される。このような貫通しない機械加工により、プラグや考え得る継手、及びその組立作業を省くことができる。
【0009】
ばねとケースの間のスペースが小さい場合、2つのブレードは弾性限界を超えることなくわずかに変形するだけである。
【0010】
減速機または入力軸及び出力軸が衝撃を受け得る場合、このような構成により、平坦でない地面の走行時またはステアリングの反転操作時に減速機に発生する衝撃の騒音または振動、及びガタつき音を低減することが可能になる。
【0011】
一実施形態によれば、ばねが収容部内で回転するのを阻止するために、ばねは、収容部の先端部に形成された凹部に係合するように設けられた突出部を有する。
【0012】
このようにして、複雑な機械加工を必要とせずに、ケース内でのばねの回転を簡単に阻止できる。
【0013】
一実施形態によれば、突出部は、ばねの径方向外側へ延びるU字形状部を有する。
【0014】
したがって、ばねの突出部の位置を変えるだけで、ブレードの作用の方向を簡単に変えることができる。実際、この方向の変更は、交差角度、螺旋角度、圧力角度のような幾何学的な減速機の特性に減速機を適合させるのに有用である。
【0015】
一実施形態によれば、ばねは、ウォームホイールに向かう方向及び反対方向へ先端側軸受をガイドし、ばねと先端側軸受との間の側部ギャップを排除するように配置され且つ形成された平坦な側部を有する。
【0016】
このようにすることで、ウォームをウォームホイールの中央の面で正確に保持できるため、噛み合いの質を損なうおそれのある交差角度の誤差を防止することができる。さらに、このようなギャップを排除することにより、減速機及び入出力軸に衝撃が加わった場合に発生しやすい騒音を低減できる。
【0017】
一実施形態によれば、平坦な側部は、先端側軸受と協働するタブがばねの径方向内側へ延び、ばねを軸方向の先端方向にロックする。
【0018】
したがって、先端側軸受においてばねを軸方向に保持するタブは、ばねの環状部の平坦部を延長する突出部の折り曲げによって、ばねの主要部分の円筒形状に影響を与えずに形成できる。また、平坦部を延長するタブが存在することにより、これらの平坦部を強化することもできる。
【0019】
一実施形態によれば、各弾性ブレードは、湾曲部を有するとともにその固定端と自由端との間で幅が変化し、ばねにおける先端側軸受の位置の関数として先端側軸受にブレードによって加えられる力の変動曲線に従うように調整される。
【0020】
このように、各弾性ブレードの形状及び湾曲を調整することにより衝撃音を低減することができる。
【0021】
一実施形態によれば、ばねにおける先端側軸受の位置の関数として、各弾性ブレードによって先端側軸受に加えられる力の変動曲線は、比較的小さな勾配で直線的に変化した後に、ウォームホイールに向かう方向における先端側軸受のストロークの終わりの近傍においてより急激に大きくなる。
【0022】
一実施形態によれば、ばねは、240°と300°との間に含まれる角度領域にわたって延びる環状部を有し、各弾性ブレードは、自由端と、環状部に固定された固定端とを有する。
【0023】
一実施形態によれば、ばねは、ばねの高さよりも幅が小さく且つウォームとウォームホイールとの接触領域と径方向に対向する領域において交差するように構成された2つの弾性ブレードを有する。
【0024】
このようにすることで、ばねによって先端側軸受に加えられる(2つの)接触力がバランスしてウォームホイールの方向に向かう。
【0025】
また、実施形態は、自動車のステアリングシステムのアシストモータと回転部材との間に連結される減速機を有する自動車のパワーステアリングであって、減速機が前述の減速機である自動車のパワーステアリングに関する。
【0026】
一実施形態によれば、減速機のウォームホイールは、ステアリングシステムのステアリングコラムに固定される。
【0027】
一実施形態によれば、減速機のウォームホイールは、ステアリングシステムのラックピニオンに連結されたピニオンシャフトに固定される。
【0028】
一実施形態によれば、減速機のウォームホイールは、ステアリングシステムの追加のラックピニオンに連結されたピニオンシャフトに固定される。
【0029】
一実施形態によれば、減速機のウォームホイールは、自動車のステアリングホイールと操舵車輪との間に機械的リンクがないステアリングシステムのフォースフィードバックステアリングコラムに固定される。
【0030】
一実施形態によれば、パワーステアリングは、ウォームホイールを備えた他の減速機を備え、減速機のウォームホイールと他の減速機のウォームホイールが、ステアリングシステムのラックピニオンにそれぞれ連結される。
【0031】
本発明は、同一の参照符号が構造的及び/または機能的に同一または類似の要素に対応している添付図面を参照して行う以下の説明により、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、電動アシストを備えた従来の自動車用ステアリングシステムの概略図である。
図2図2は、電動アシストを備えた従来の他の自動車用ステアリングシステムの概略図である。
図3図3は、電動アシストを備えた従来の他の自動車用ステアリングシステムの概略図である。
図4図4は、電動アシストを備えた他の自動車用ステアリングシステムの概略図である。
図5図5は、電動アシストを備えた他の自動車用ステアリングシステムの概略斜視図である。
図6図6は、従来のウォーム減速機の概略断面図である。
図7図7は、図6の減速機に用いられる先行技術に係るギャップ補正ばねの断面図である。
図8図8は、一実施形態に係るウォーム減速機の概略縦断面図である。
図9A図9Aは、一実施形態に係るウォーム減速機の概略断面図であり、ウォームがない状態でギャップ補正ばねを示す。
図9B図9Bは、一実施形態に係るウォーム減速機の概略断面図であり、ウォームがある状態でギャップ補正ばねを示す。
図10図10は、一実施形態に係るギャップ補正ばねの概略側面図である。
図11図11は、一実施形態に係るギャップ補正ばねの概略斜視図である。
図12図12は、一実施形態に係るギャップ補正ばねの概略斜視図である。
図13図13は、一実施形態に係るギャップ補正ばねの一部の概略斜視図である。
図14図14は、一実施形態に係るギャップ補正ばねの一部の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1図2及び図3は、電動アシスト装置を備えた先行技術に係る自動車のステアリング装置1a、1b、1cを示す。
【0034】
図1は、C-EPSタイプのコラムパワーステアリング1a(「コラムタイプ-電動パワーステアリング(EPS)」)を示す。図2は、デュアルピニオンのDP-EPSタイプのパワーステアリング(「デュアルピニオン-EPS」)を表す。図3は、P-EPSタイプのパワーステアリング(「ピニオンタイプ-EPS」)を示す。各装置1a、1b、1cは、ステアリングホイール2に連結されたステアリングコラム3と、ダイヤルジョイント4によってステアリングシャフト3に連結された中間軸5とを有する。中間軸5は、ダイヤルジョイント6とピニオンシャフト7によってステアリングピニオン7aに連結されている。ステアリングピニオン7aは、ステアリングケース9に摺動可能に取り付けられたラックバー8と噛み合う。ラックバー8の対向する2つの端部は、それぞれロッド10によって左右のステアリングホイール11に連結されている。ステアリングホイールを回転操作するとステアリングコラムが回転駆動される。この回転は、車輪11の向きを変えるラックバー8によって並進運動に変換される。
【0035】
車両の運転者がステアリングホイール2に手で加える力を補助するために、各パワーステアリング装置1a、1b、1cは、2方向に回転する電動アシストモータMと減速機17とを有するモータシステムSMを有する。モータMの出力軸は、モータトルクを(場合によっては抵抗トルクも)ステアリングに伝達するように、減速機17によって車両のパワーステアリングに連結されている。また、モータシステムSMは、センサ、特にトルクセンサ13から種々の信号を受信して処理し、エンジンMの制御回路DCに制御信号を供給する制御ユニット(車載電子コンピュータ)ECUを有する。減速機17は、車両のパワーステアリングに固定されるウォームシャフト18とウォームホイール19とによって形成される、ウォームを有するタイプにすることができる。トルクセンサ13は、例えば、車両のステアリングシャフトの上側部分と下側部分とを相互接続するトーションバー12を有する。トーションバー12に連結される動作検知器13は、トーションバー12の両側におけるステアリングシャフトの上側部分と下側部分との間の相対的な回転動作を測定する。
【0036】
C-EPSタイプのパワーステアリング装置(図1)では、減速機17のウォームホイール19がステアリングコラム3に固定され、トーションバー12がコラム3の上側部分と下側部分との間に介装される。
【0037】
DP-EPSタイプのパワーステアリング装置(図2)では、減速機17のウォームホイール19は他のピニオン7bによりラックバー8に連結されたシャフト7cに固定される。トーションバー12は、ピニオンシャフト7の上側部分と下側部分との間に介装される。
【0038】
P-EPSタイプのパワーステアリング装置(図3)では、減速機17のウォームホイール19はピニオンシャフト7に固定され、トーションバー12はピニオンシャフト7の上側部分と下側部分との間に介装される。
【0039】
図4及び図5は、SBW(ステアバイワイヤ)タイプの電動アシスト装置を備えた他の自動車用ステアリング装置1d,1eを示している。これらの2つの装置では、ステアリングホイール2は、もはやラックバー8に機械的には連結されず、前述したモータシステムSMと同じものにすることができる2つのモータシステムSM1,SM2を介して接続されている。モータシステムSM1,SM2は、それぞれ、シャフト7c,7d及びピニオン7a,7bによってラックバー8に機械的に連結されている。トルクセンサ13はステアリングコラム3に付随し、システムSM1,SM2の制御ユニットECUはいずれもセンサ13から信号を受信する。
【0040】
装置1e(図5)は、ステアリングホイール2に抵抗トルクまたはモータトルクを供給するために、ステアリングコラム3に連結された第3のモータシステムSM3を有する。このシステムSM3の制御ユニットECUは、システムSM1,SM2の制御ユニットECUに接続され、システムSM1,SM2によって生成される制御信号にしたがってステアリングホイール2にフォースフィードバックを供給する。
【0041】
図6は、ウォームホイール19及びウォーム18を備えた従来技術に係るウォーム減速機117をより詳細に示している。減速機は、ステアリングコラム3(図1)、追加のピニオン7b(図2図4図5)、またはピニオンシャフト7(図3)に取り付けることができる。ウォームシャフト18は、電動モータMの出力軸20に対して同軸上に配置され、モータから供給される機械動力がシャフト18に伝達されてシャフト18をその軸心周りで回転させるように、電動モータMの出力軸20に連結されている。モータMに連結されたシャフト18は、基端部18aと、中央部18cにより繋がった先端部18bとを有する。中央部18cには、ステアリングコラム3に固定された同軸上のホイール19の外周に設けられた相補形状の歯と噛み合うように構成された歯(図示せず)が設けられている。シャフト18の端部18a,18bは、例えば玉軸受タイプまたはころ軸受タイプの基端側軸受22及び先端側軸受23によって減速機117のケース117a内に保持されている。軸受22,23は、それぞれ、シャフト18の端部18a,18bの一方に接触する内輪24,25と、外輪26,27とを有する。基端側軸受22のリング(外輪)26はケース内に固定され、先端側軸受23のリング(外輪)27はケース117a内で直線的に動いてウォーム18の動きに追従することができる。先端側軸受23は、ケース117aの収容部内でギャップ補正ばね130によって保持されている。ばね130は、先端側軸受23の外輪27を収容する収容部の周縁部に形成されたキャビティ136に収容される、湾曲した弾性ブレード133を有する。したがって、弾性ブレード133は、先端側軸受23をホイール19の方向X1(図6及び図7に示す)に押し付ける。
【0042】
図7はばね130を示す。ばね130は、先端側軸受23の外輪27の大部分を包囲する環状部131と、ばねブレード133とを有する。ばね130の環状部の基端部及び先端部から径方向に延びるタブ134により、先端側軸受23の外輪27にばね130を保持することが可能である。弾性ブレード133は、それぞれ、自由端と、隣接部132によって環状部131の各側縁部に接続された端部とを有する。弾性ブレード133及び隣接部132は、減速機117のケース117a内に形成されたキャビティ136に収容されている。ばね130は、例えば曲げ加工及び/またはスタンピング加工によってばねブレードに形成される。隣接部132は、ケース117a内でばね130が回転するのを阻止するためにキャビティ136の内壁と協働するように形成されている。弾性ブレード133は、その自由端がキャビティ136の底部に当接して軸受23をウォームホイール19に向かって押し付けるように形成されている。弾性ブレード133は、キャビティ136の底部において、それぞれの自由端の近傍で交差するように構成されている。弾性ブレード133は、このように、ウォームホイール19とウォーム18を備えた減速機117の噛み合いギャップを補正する機構を形成している。このギャップ補正により、減速機117を構成する部品の製造に固有の幾何学的なばらつき、温度変化、及び通常運転時の摩耗等を吸収することが可能になる。
【0043】
しかしながら、方向X1によって定まる軸に沿った縦長形状で且つキャビティ136を有するケース117a内の減速機の収容部は、追加で行われる長時間の作業(輪郭加工)で機械加工され、その機械加工には、ケース117aの他のタイプの機械加工と比較して、形状及び位置決めに関して非常に高い精度が求められる。
【0044】
ケース17a内の減速機の収容部は、特にP-EPSシステム及びDP-EPSシステムのようにカバーの下に組み込むことが必要なシステムでは、組立後に、密閉状態で塞ぐ必要がある。
【0045】
図8は、ウォーム18とウォームホイール19を備えた一実施形態に係る減速機17を示している。減速機17は、ばね130がばね30に置き換えられている点と、ケース117aがケース17aに置き換えられている点で、減速機117とは異なっている。図8は、ケース17aの収容部に組み込まれたウォーム18とウォームホイール19を示す。ウォームホイール19は、ステアリングコラム3に固定されてステアリングコラム3と同軸に取り付けられている。ウォーム18は、基端側軸受22と先端側軸受23によってケース17a内に保持され、継手部材42によってモータMのシャフトに連結されている。先端側軸受23は、ウォーム18の先端部をホイール19に向かってX1方向へ押し付けるために、先端側軸受23に力を作用させるように形成されたばね30によってケース17a内でガイドされる。ケース17aは、ウォーム18と軸受22、23が配置された収容部17bを有する。収容部17bは、先端側軸受23を包囲するばね30を収容するために実質的に円筒状の先端部17cを有する。軸受22、23は例えば玉軸受タイプのものである。
【0046】
図9A図9Bはケース17a内のばね30を示し、図9Bは軸受23とウォーム18も示している。図10図12は一実施形態に係るばねを単体で示している。図9図12において、ばね30は、概ね円筒形で且つその円筒形状の2つの母線の間が開放されたカラー(環状部品)の形状であり、開放された環状部31、すなわち360°より小さくて例えば240°と300°の間に含まれる、例えば270°(プラスマイナス10%)の環状領域にわたって延びる環状部31を有する。
【0047】
環状部31は、環状の基端側縁部38、環状の先端側縁部39及び互いに対向する側端部37を有する。各側端部37は、その一部が弾性の湾曲ブレード32、33によって延長されている。ブレード32、33は、ばね30の高さの半分よりも小さな幅を有するとともに長手方向の縁部37の間の距離よりも短い長さで延びていて、円筒形状が閉じられて例えば長手方向の縁部37の間の中間距離のところで交差するようになっている。したがって、ばね30は、ウォーム8の長手方向軸Zを通ってホイール19の回転軸に直角の平面XZに対して対称の形状である。
【0048】
ばね30の先端側縁部39では、環状部31の径方向内側へ延びるタブ34、34aが延びている。タブ34は、ばね30を先端側軸受23に軸方向の基端方向へロックするために設けられている。ばね30は、先端方向には、収容部17bの底部またはその近傍に形成された肩部によってロックされる。また、軸受23は、ウォーム18の先端部に設けられた環状の肩部18aによって軸方向の基端方向に保持することができる。さらに、軸受23は、ウォーム18に圧入されることにより、軸方向の先端方向へロックされる。ブレード32,33は、ケース17aの内部で支持されることにより、先端側軸受23に、ウォームホイール19に向かう方向X1への力を加えるように配置され且つ形成されている。
【0049】
タブ34,34aは、それぞれ、環状部31の平坦部35,35aを延ばした部分である。側部の平坦部35は、軸受23とウォーム18のあらゆる側部のギャップを排除するためにケース17a内でばね30を側方へロックするように、そして方向X1及び反対方向への軸受23の動きをガイドするように配置され且つ形成されている。環状部31は、ケース17a内でのばね30の(Z軸周りの)回転を阻止するために、ケース17aに形成された凹部36に係合することを目的とする突出部を有している。
【0050】
一実施形態によれば、この突出部は、環状部31を形成するストリップをU字状に折り曲げて、平坦部35aを環状部の径方向外側へ移動させることで形成される(図9A、9B)。ケース17aの凹部36は、ばね30を軸方向の先端方向へロックすることもできる。
【0051】
このようにして、ばね30はケース17aに対して固定される。平坦部35aは、例えば、ブレード32,33の交差部分と径方向に対向する位置に配置されている。また、平坦部35aは、ケース17aに対して、ブレード32、33によって軸受23に加えられる力の方向を定めることができるようにする指標となる。ブレード32、33によって加えられる力の方向は、ばね30の環状部31のこの形状35aを、方向X1に対して位置調整することによって微調整が可能であり、この形状は、例えば、ばねブレードのスタンピング加工及び/または曲げ加工によって形成することができる。平坦部35aがケースと接触せず、平坦部35aをばねの他の部分に接続する側部だけがZ軸周りのばね30の角度位置を定めることに留意されたい。
【0052】
一実施形態によれば、平坦部35は、折り曲げ部分が形成されることで強化される。しかしながら、折り曲げられたタブにより平坦部35、35aを延ばしていることがこれらの部分の強化に寄与していることに留意されたい。
【0053】
弾性ブレード32、33は、補助トルクを受けて、ウォーム18がホイール19と反対方向に動くときにケース17aに押し付けられることによって、広がって後退する。この広がりにより、弾性ブレード32、33の局所的な変形は非常に小さく、ひいては弾性ブレードの塑性変形や疲労破壊のおそれが最小限になる。
【0054】
軸受23の方へ向かう弾性ブレード32、33の湾曲と、ブレードに沿って断面が変化するその形状は、ストロークに応じて決まる強さの力が生じるように定められる。一実施形態によれば、ブレード32、33の曲率と形状は、生じる力の値がストロークに応じて変化するように定められ、最初はわずかな勾配で直線的に変化し、ストロークの終わりにはより急激に増大する。したがって、ケース17a内における軸受23の停止位置に近づくと、ブレードの広がり(レバーアームの短縮)により、生じる力の値が急激に大きくなる。そのため、軸受23がケース17aに対してストロークエンドで激しく接触することに起因して生じる可能性のある衝撃音が抑えられる。
【0055】
当接時は、軸受23の外面の曲率半径、広がった(のびた)ブレード32,33の曲率半径、及びケース17aの収容部の曲率半径が近似する。この結果、圧力が十分に分散された状態で接触することになり、ばね30、特にブレード32、33の寿命に悪影響を及ぼす可能性のある、局所的すぎる圧力応力集中が回避される。
【0056】
図13に示す実施形態では、ばね30の平坦部35は、同じに機能する直線的なリブ35’に置き換えられており、これらのリブは環状部を内側へスタンピング加工することによって製造することができる。
【0057】
図14に示す実施形態では、ばね30のタブ35aが、ケースにおけるばねの取り付けを容易にすることができるようにするヘラ状部分40に置き換えられている。ばね30を取り付けると、ホイール19の収容部内にガイドが一時的に配置される。このガイドにより、収容部17bの入り口に位置する通路及び位置付け切り欠きと、及び収容部17bの先端部36に位置する切り欠きとの間の連通が確保される。これら2つの切り欠きの間にあるのは、ウォーム18を有する穴とホイール19を有するチャンバとの間の窓/交差部(噛み合い領域)である。このヘラ形状40により、進入/ガイド、そしてガイド/先端部36の通過が容易になる。
【0058】
本発明が種々の実施形態及び種々の用途の対象となることは当業者には明らかであろう。特に、本発明は、先に説明したばね30の形状に限定されるものではない。実際、ばね30は、先端側軸受23に力をウォームホイール19の方向へ加えるように構成された1つの弾性ブレードのみを有するものにしてもよい。
【0059】
さらに、ばねは、ケースの凹部に係合する突出部以外の手段によってケースに保持してもよい。したがって、例えばばねに凹部を形成し、ケースに突出部を形成してもよい。
【0060】
また、減速機を自動車のパワーステアリング装置以外の他の機械装置に用いてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
【外国語明細書】