(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097790
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】金属-グラフェン複合体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/04 20060101AFI20240711BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20240711BHJP
C01B 32/186 20170101ALI20240711BHJP
【FI】
B32B9/04
B32B15/04
C01B32/186
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024066886
(22)【出願日】2024-04-17
(62)【分割の表示】P 2022044015の分割
【原出願日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】10-2021-0062963
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Carbon, Volume 178(2021), Pages 497-505
(71)【出願人】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(71)【出願人】
【識別番号】519313150
【氏名又は名称】グラフェン・スクエア・インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521330552
【氏名又は名称】ダンクック・ユニバーシティ・チョナン・キャンパス・インダストリー・アカデミック・コオペレーション・ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ユン・スン・ウ
(72)【発明者】
【氏名】ビョン・ヒ・ホン
(72)【発明者】
【氏名】ドン・ジン・キム
(57)【要約】
【課題】機械的物性に優れた金属-グラフェン複合体を提供する。
【解決手段】金属層と、前記金属層の一面上に直接成長して備えられたグラフェン層と、を含み、前記グラフェン層は、2以上のグラフェン薄膜を含む金属-グラフェン複合体である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層と、
前記金属層の一面上に直接成長して備えられたグラフェン層と、を含み、
前記グラフェン層は、2以上のグラフェン薄膜を含み、
前記グラフェン層の厚さは、120nm以上280nm以下であり、
前記金属層と前記グラフェン層との厚さ比は、1:0.005~1:0.05である、金属-グラフェン複合体。
【請求項2】
ヤング率(Young’s modulus)が100GPa以上である、請求項1に記載の金属-グラフェン複合体。
【請求項3】
強度(Hardness)が2GPa以上である、請求項1に記載の金属-グラフェン複合体。
【請求項4】
剛性(Stiffness)が2.0×10-6N/m以上である、請求項1に記載の金属-グラフェン複合体。
【請求項5】
前記グラフェン薄膜は、直径が10μm以下の単結晶の黒鉛結晶粒を含む、請求項1に記載の金属-グラフェン複合体。
【請求項6】
前記グラフェン薄膜は、平面[0001]に沿って垂直方向に配向された結晶粒を含む、請求項1に記載の金属-グラフェン複合体。
【請求項7】
前記グラフェン層は、ラマンスペクトルにおいて1350cm-1のDピークが観測されない、請求項1に記載の金属-グラフェン複合体。
【請求項8】
厚さ方向に沿って、
前記金属層と前記金属層に隣接した前記グラフェン薄膜との間の距離は、前記グラフェン層に含まれた前記グラフェン薄膜間の距離より小さい、請求項1に記載の金属-グラフェン複合体。
【請求項9】
前記金属層は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、白金(Pt)、金(Au)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ロジウム(Rh)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、およびタンタル(Ta)の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の金属-グラフェン複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的物性に優れた金属-グラフェン複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンで強化された金属複合体は優れた機械的物性を示す。粉末焼結(powder sintering)方法により、金属にコーティングされたグラフェン層を含む複合体はその優れた機械的物性によって、マイクロ電子-機械システム(micro electro-mechanical systems)、フレキシブル電子装置(flexible electronics)などの多様な分野で高強度薄膜に適用されている。
【0003】
金属-グラフェン複合体の優れた機械的物性によって多様な分野でその需要が増加しており、より機械的物性が向上した金属-グラフェン複合体を開発する研究が進められている。
【0004】
そのため、ヤング率、強度、剛性などの機械的物性に優れた金属-グラフェン複合体に対する技術が必要なのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、機械的物性に優れた金属-グラフェン複合体を提供することである。
【0006】
ただし、本発明が解決しようとする課題は上記の課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は下記の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様は、金属層と、前記金属層の一面上に直接成長して備えられたグラフェン層と、を含み、前記グラフェン層は、2以上のグラフェン薄膜を含む金属-グラフェン複合体を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施態様に係る金属-グラフェン複合体は、機械的物性に優れることができる。
【0009】
本発明の効果は上述した効果に限定されるものではなく、言及されていない効果は本願明細書および添付した図面から当業者に明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施態様に係る金属層にグラフェン層が直接成長して備えられた金属-グラフェン複合体の断面と、金属層にグラフェン層を転写して製造した金属-グラフェン複合体の断面を示す図である。
【
図2】本発明の実施例1および実施例2の金属-グラフェン複合体を製造する過程を示す図である。
【
図3】本発明の実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のSEMイメージとEBSDマッピングイメージ、比較例1で用意された1,000℃でアニーリングされたニッケル箔のSEMイメージとEBSDマッピングイメージを示す図である。
【
図4】本発明の実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のSEMイメージと、比較例1で製造された金属-グラフェン複合体のSEMイメージを示す図である。
【
図5】実施例1で製造された金属-グラフェン複合体の多様な物性を測定して示す図である。
【
図6】実施例1および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体の断面を分析したイメージである。
【
図7】ニッケル箔、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体において、バーコビッチチップが残したインデント(indent)のSEMイメージを示す図である。
【
図8】ニッケル箔、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、実施例2で製造された金属-グラフェン複合体、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体に対するインデンテーション荷重-侵入深さ曲線(indentation load-penetration depth curves)を示す図である。
【
図9】ニッケル箔、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、実施例2で製造された金属-グラフェン複合体、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体に対して測定された強度(Hardness)とヤング率(Young’s modulus)を示す図である。
【
図10】本発明の実施例2で製造された金属-グラフェン複合体のAFMイメージとラマンスペクトルを示す図である。
【
図11】実施例1で製造されたグラフェン層と、実施例2で製造されたグラフェン層の荷重-侵入深さ曲線を示す図である。
【
図12】実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、実施例2で製造された金属-グラフェン複合体、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体に対して測定および計算されたヤング率と強度を示す図である。
【
図13】ナノインデンテーションを行った後の、実施例1および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体の断面TEMイメージを示す図である。
【
図14】分子力学(molecular dynamics)シミュレーションにおいてグラフェン層と金属層(Ni)の初期構成を示す図である。
【
図15】本発明の一実施態様に係る金属-グラフェン複合体に対する分子力学シミュレーションの結果を示す図である。
【
図16】ニッケル箔と実施例1で製造された金属-グラフェン複合体に対する荷重-侵入曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
【0012】
本明細書において、ある部材が他の部材の「上に」位置しているとする時、これは、ある部材が他の部材に接している場合のみならず、2つの部材の間にさらに他の部材が存在する場合も含む。
【0013】
本明細書において、用語「~するステップ」および「~のステップ」は、「~のためのステップ」を意味しない。
【0014】
本明細書において、「グラフェン層」という用語は、複数の炭素原子が互いに共有結合で連結されてポリサイクリック芳香族分子を形成するグラフェンが膜またはシート形態を形成したものであって、前記共有結合で連結された炭素原子は基本繰り返し単位として6員環を形成するが、5員環および/または7員環をさらに含むことも可能である。したがって、前記「グラフェン層」は、互いに共有結合した炭素原子(通常、sp2結合)の単一層として見える。前記「グラフェン層」は多様な構造を有することができ、このような構造はグラフェン内に含まれる5員環および/または7員環の含有量によって異なる。前記「グラフェン層」は、上述したようなグラフェンの単一層からなってもよいが、これらがいくつか互いに積層されて複数層を形成することも可能であり、最大100nmまでの厚さを形成することができる。
【0015】
以下、添付した図面を参照して、本発明を実施するための具体的な内容を詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施態様は、金属層と、前記金属層の一面上に直接成長して備えられたグラフェン層と、を含み、前記グラフェン層は、2以上のグラフェン薄膜を含む金属-グラフェン複合体を提供する。
【0017】
本発明の一実施態様に係る金属-グラフェン複合体は、機械的物性に優れることができる。具体的には、前記金属-グラフェン複合体は、前記金属層の一面で直接成長して形成されたグラフェン層を含むことにより、ヤング率(Young’s modulus)、強度(Hardness)および剛性(Stiffness)などの機械的物性に優れることができる。
【0018】
図1は、本発明の一実施態様に係る金属層にグラフェン層が直接成長して備えられた金属-グラフェン複合体の断面と、金属層にグラフェン層を転写して製造した金属-グラフェン複合体の断面を示す図である。具体的には、
図1(a)は、金属層(ML)の一面上にグラフェンを直接成長させて形成されたグラフェン層(GL)が備えられた金属-グラフェン複合体を概略的に示す図である。
図1(b)は、製造されたグラフェン層(GL’)を金属層(ML)上に転写する方法で製造された金属-グラフェン複合体を概略的に示す図である。
【0019】
本発明の一実施態様によれば、金属層上に2以上のグラフェン薄膜を含むグラフェン層を直接成長させて形成することにより、機械的物性が効果的に向上できる。具体的には、前記金属-グラフェン複合体は、金属層とグラフェン層との間の界面の結合力に優れ、グラフェン層が金属層の一面上に均一な厚さで優れた品質を維持して備えられる。これに対し、
図1(b)のように、触媒層にグラフェン層を形成し、触媒層をエッチングした後に、グラフェン層を金属層に転写(transfer)して、金属-グラフェン複合体を製造する場合、金属層とグラフェン層との間の結合が非常に劣り、グラフェン層は金属層の一面上に均一な厚さで備えられず、機械的物性に劣る問題がある。
【0020】
本発明の一実施態様によれば、前記金属-グラフェン複合体は、ヤング率(Young’s modulus)が100GPa以上であってもよい。具体的には、前記金属-グラフェン複合体のヤング率は、110GPa以上、120GPa以上、130GPa以上、140GPa以上、150GPa以上、160GPa以上、170GPa以上、180GPa以上、または185GPa以上であってもよい。また、前記金属-グラフェン複合体のヤング率は、250GPa以下、230GPa以下、200GPa以下、または190GPa以下であってもよい。この時、前記金属-グラフェン複合体のヤング率は、後述の方法により測定される。前述した範囲のヤング率を有する前記金属-グラフェン複合体は、機械的物性が非常に優れることができる。これにより、前記金属-グラフェン複合体は、多様な分野の補強材として容易に使用可能である。
【0021】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェン層自体のヤング率は、40GPa以上、45GPa以上、50GPa以上、55GPa以上、または60GPa以上であってもよい。また、前記グラフェン層自体のヤング率は、70GPa以下、68GPa以下、または66GPa以下であってもよい。前述した範囲のヤング率を有する前記グラフェン層を含む前記金属-グラフェン複合体は、機械的物性に優れることができる。
【0022】
本発明の一実施態様によれば、前記金属-グラフェン複合体は、強度(Hardness)が2GPa以上であってもよい。具体的には、前記金属-グラフェン複合体の強度は、2.3GPa以上、2.5GPa以上、2.7GPa以上、3GPa以上、3.1GPa以上、3.2GPa以上、3.3GPa以上、または3.4GPa以上であってもよい。また、前記金属-グラフェン複合体の強度は、4GPa以下、3.8GPa以下、3.6GPa以下、または3.5GPa以下であってもよい。この時、前記金属-グラフェン複合体の強度は、後述の方法により測定される。前述した範囲の強度を有する前記金属-グラフェン複合体は、機械的物性が非常に優れることができる。これにより、前記金属-グラフェン複合体は、多様な分野の補強材として容易に使用可能である。
【0023】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェン層自体の強度は、1.5GPa以上、2GPa以上、2.5GPa以上、3GPa以上、3.5GPa以上、4GPa以上、または4.2GPa以上であってもよい。また、前記グラフェン層自体の強度は、6GPa以下、5.5GPa以下、5GPa以下、4.5GPa以下、または4.3GPa以下であってもよい。前述した範囲の強度を有する前記グラフェン層を含む前記金属-グラフェン複合体は、機械的物性に優れることができる。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、前記金属-グラフェン複合体は、剛性(Stiffness)が2.0×10-6N/m以上であってもよい。具体的には、前記金属-グラフェン複合体の剛性は、2.2×10-6N/m以上、2.4×10-6N/m以上、2.6×10-6N/m以上、2.7×10-6N/m以上、2.9×10-6N/m以上、または3.0×10-6N/m以上であってもよい。また、前記金属-グラフェン複合体の剛性は、3.5×10-6N/m以下、3.3×10-6N/m以下、または3.1×10-6N/m以下であってもよい。この時、前記金属-グラフェン複合体の剛性は、後述の方法により測定される。前述した範囲の剛性を有する前記金属-グラフェン複合体は、機械的物性が非常に優れることができる。これにより、前記金属-グラフェン複合体は、多様な分野の補強材として容易に使用可能である。
【0025】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェン層の厚さは、100nm以上300nm以下であってもよい。具体的には、前記グラフェン層の厚さは、120nm以上280nm以下、140nm以上250nm以下、160nm以上220nm以下、100nm以上200nm以下、115nm以上185nm以下、130nm以上170nm以下、140nm以上160nm以下、150nm以上300nm以下、160nm以上280nm以下、160nm以上240nm以下、または180nm以上200nm以下であってもよい。前記グラフェン層の厚さが前述した範囲内の場合、前記金属-グラフェン複合体のヤング率、強度および剛性などの機械的物性を効果的に向上させることができる。特に、前記グラフェン層の厚さが前述した範囲内の場合、前記グラフェン層は、前記金属層と界面との間の優れた結合力を効果的に維持することができ、厚さ均一性および表面形態に優れることができる。
【0026】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェン層の厚さは、500nm以上であってもよい。具体的には、前記グラフェン層の厚さは、520nm以上、550nm以上、580nm以上、または600nm以上であってもよい。また、前記グラフェン層の厚さは、750nm以下、700nm以下、650nm以下、または600nm以下であってもよい。前述した範囲の厚さを有するグラフェン層を含む前記金属-グラフェン複合体は、ヤング率、強度および剛性などの機械的物性に優れることができる。
【0027】
本発明の一実施態様によれば、前記金属層は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、白金(Pt)、金(Au)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ロジウム(Rh)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、およびタンタル(Ta)の少なくとも1つを含むことができる。具体的には、前記金属層は、少なくとも銅およびニッケルの少なくとも1つを含むことができる。前述した種類の金属層を用いることにより、前記金属層上に前記グラフェン層を効果的に成長させることができ、前記金属-グラフェン複合体の機械的物性をより改善させることができる。
【0028】
本発明の一実施態様によれば、前記金属層の厚さは、10μm以上であってもよい。具体的には、前記金属層の厚さは、15μm以上、20μm以上、25μm以上、または30μm以上であってもよい。また、前記金属層の厚さは、50μm以下、45μm以下、40μm以下、35μm以下、または30μm以下であってもよい。前記金属層の厚さが前述した範囲内の場合、前記金属-グラフェン複合体のヤング率、強度および剛性を効果的に向上させることができ、前記金属層と前記グラフェン層との間の界面結合力が低下することを抑制することができる。
【0029】
本発明の一実施態様によれば、前記金属層と前記グラフェン層との厚さ比は、1:0.005~1:0.05であってもよい。具体的には、前記金属層と前記グラフェン層との厚さ比は、1:0.005~1:0.02であってもよい。また、前記金属層と前記グラフェン層との厚さ比は、1:0.025~1:0.035であってもよい。前記金属層と前記グラフェン層との厚さ比が前述した範囲内の場合、前記金属-グラフェン複合体のヤング率、強度および剛性を効果的に向上させることができ、前記金属層と前記グラフェン層との間の界面結合力を効果的に向上させることができる。
【0030】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェン層は、2以上のグラフェン薄膜を含むことができる。具体的には、前記グラフェン層は、前述した厚さ範囲を有するように複数のグラフェン薄膜を含むことができる。例えば、100nm以上300nm以下の厚さを有するグラフェン層は、300~1,000のグラフェン薄膜を含むことができ、500nm以上750nm以下の厚さを有するグラフェン層は、1,500~2,500のグラフェン薄膜を含むことができる。前記グラフェン層は、2~10、2~8、2~6、2~4、または2~3のグラフェン薄膜を含むことができる。前述した範囲のグラフェン薄膜を含む前記グラフェン層が金属層上に直接形成された前記金属-グラフェン複合体は、機械的物性に優れることができる。
【0031】
発明の一実施態様によれば、前記グラフェン薄膜は、直径が10μm以下の単結晶の黒鉛結晶粒を含むことができる。具体的には、前記グラフェン層に含まれる2以上のグラフェン薄膜それぞれは、直径が10μm以下の単結晶の黒鉛結晶粒を含むことができる。より具体的には、前記グラフェン薄膜に含まれた単結晶の黒鉛結晶粒の直径は、1μm以上10μm以下、1μm以上8μm以下、1μm以上6μm以下、1μm以上4μm以下、または1μm以上2μm以下であってもよい。前記グラフェン薄膜に含まれた単結晶の黒鉛結晶粒の直径が前述した範囲内の場合、前記グラフェン層は品質および表面形態に優れ、前記金属-グラフェン複合体の機械的物性が効果的に改善できる。
【0032】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェン薄膜は、平面[0001]に沿って垂直方向に配向された結晶粒を含むことができる。後述の
図5に示されるように、グラフェン薄膜が平面[0001]に沿って垂直方向に配向された結晶粒を含むことにより、前記グラフェン層の品質および結晶性に優れることができる。これにより、前記グラフェン層を含む前記金属-グラフェン複合体のヤング率、強度および剛性などの機械的物性を効果的に向上させることができる。
【0033】
本発明の一実施態様によれば、前記グラフェン層は、ラマンスペクトルにおいて1350cm
-1のDピークが観測されないものである。後述の
図5に示されるように、前記グラフェン層は結晶性が非常に優れ、ラマンスペクトルにおいて1350cm
-1のDピークが観測されない。結晶性が非常に優れた前記グラフェン層を含むことにより、前記金属-グラフェン複合体は、ヤング率、強度および剛性などの機械的物性に優れることができる。
【0034】
本発明の一実施態様によれば、厚さ方向に沿って、前記金属層と前記金属層に隣接した前記グラフェン薄膜との間の距離は、前記グラフェン層に含まれた前記グラフェン薄膜間の距離より小さい。例えば、前記金属-グラフェン複合体が金属層、金属層の一面上に成長した第1グラフェン薄膜、第1グラフェン薄膜上に成長した第2グラフェン薄膜、第2グラフェン薄膜上に成長した第3グラフェン薄膜を含む場合、金属層と第1グラフェン薄膜との間の距離は、第1グラフェン薄膜と第2グラフェン薄膜との間の距離、第2グラフェン薄膜と第3グラフェン薄膜との間の距離より小さい。すなわち、前記金属-グラフェン複合体において、前記金属層とこれに最も隣接したグラフェン薄膜との間の界面結合力が非常に優れることができる。前述のように、前記金属層とこれに最も隣接したグラフェン薄膜との間の界面結合力に優れることにより、前記金属-グラフェン複合体は、ヤング率、強度および剛性などの機械的物性が効果的に改善できる。
【0035】
本発明の一実施態様によれば、前記金属-グラフェン複合体は、前記金属層の一面に平行な平面方向に沿って、前記金属層と前記金属層に隣接した前記グラフェン薄膜とは連続的な結合を含むことができる。すなわち、前記金属層と前記金属層に隣接した前記グラフェン薄膜とが前記平面方向で連続的に結合することにより、前記金属層と前記グラフェン層との間の界面結合力が効果的に向上できる。
【0036】
本発明の一実施態様によれば、ロールツーロール(roll to roll)工程を用いて前記金属層上に前記グラフェン層を成長させて製造することができる。具体的には、化学気相蒸着法(CVD)を利用したロールツーロール工程を用いて、前記金属層上に前記グラフェン層を成長させることができる。前記金属層上にグラフェン層を形成する方法は、当業界にてグラフェンを合成する方法を制限なく採用して使用可能である。例えば、加熱された金属層上に水素ガスと炭化ソースを供給して、金属層上にグラフェンを合成させることができる。前記炭化ソースは、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、エタノール、アセチレン、プロパン、ブタン、ブタジエン、ペンタン、ペンテン、シクロペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、およびトルエンの少なくとも1つを含むことができるが、前記炭化ソースの種類を限定するものではない。
【0037】
本発明の一実施態様によれば、前記化学気相蒸着法は、700℃以上の温度で行われる。具体的には、前記化学気相蒸着法は、750℃以上の温度、800℃以上の温度、850℃以上の温度、900℃以上の温度、または1,000℃以上の温度で行われる。また、前記化学気相蒸着法は、2,000℃以下の温度、1,900℃以下の温度、1,800℃以下の温度、1,700℃以下の温度、1,600℃以下の温度、または1,500℃以下の温度で行われる。前記化学気相蒸着法が行われる温度は、前記金属層を形成する物質の種類によって設定可能である。具体的には、前記金属層を形成する物質の融点を考慮して設定可能である。例えば、銅を用いて金属層を形成する場合、前記化学気相蒸着法は、1,000℃以上1,085℃以下の温度で行われる。また、ニッケルを用いて金属層を形成する場合、前記化学気相蒸着法は、750℃以上1,100℃以下の温度で行われる。また、パラジウムを用いて金属層を形成する場合、前記化学気相蒸着法は、950℃以上1,050℃以下の温度で行われる。
【0038】
前記化学気相蒸着法が行われる温度が前述した範囲内の場合、前記金属層上に前記グラフェン層が安定的に形成され、合成されるグラフェンの結晶性に優れることができる。すなわち、金属層を形成するために使用される物質の融点を考慮して、前記化学気相蒸着法が行われる温度を設定することにより、前記金属層上に前記グラフェン層を安定的に形成することができ、合成されるグラフェンの結晶性をより向上させることができる。
【0039】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は種々の異なる形態に変形可能であり、本発明の範囲が以下に記述する実施例に限定されると解釈されない。本明細書の実施例は当業界における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0040】
実施例1
図2は、本発明の実施例1および実施例2の金属-グラフェン複合体を製造する過程を示す図である。
【0041】
金属層にグラフェンを形成するために、直径200mmおよび長さ800mmの石英チューブをベースとするロールツーロール(roll-to-roll)CVDシステム(グラフェンスクエア)を用いた。金属層として、前処理されていない厚さ20μm、純度99.9%のニッケル箔(Ulbrich Stainless Steels&Special Metals,Inc.)を用意した。
【0042】
CVDシステムを10-3Torrの基本圧力でポンピングした後、H2ガス(20sccm)を用いてCVDシステムをパージし、この時、ハロゲンランプを用いて195℃/minの加熱速度で1,000℃まで加熱した。1,000℃の温度に到達した後、H2ガス(6.25sccm)が供給される条件でニッケル箔を8分間アニーリングした。以後、1,000℃の温度を維持し、H2ガス(6.25sccm)とCH4ガス(500sccm)を同時にチャンバに投入して8分間1サイクルを行う方法で、計3サイクルを行った。これにより、約470層のグラフェン薄膜を含み、厚さが約160nmのグラフェン層がニッケル箔(金属層)の一面に直接成長して備えられた金属-グラフェン複合体を製造した。
【0043】
実施例2
前記実施例1において、第1サイクルを行う時にCH4ガスを400sccmで供給し、第2サイクルおよび第3サイクルを行う時にCH4ガスを800sccmで供給したことを除き、前記実施例1と同様の方法を行って、約1760層のグラフェン薄膜を含み、厚さが約600nmのグラフェン層がニッケル箔(金属層)の一面に直接成長して備えられた金属-グラフェン複合体を製造した。
【0044】
比較例1
前記実施例1と同様の方法により、厚さが約160nmのグラフェン層をニッケル箔(金属層)の一面に形成した。
【0045】
以後、常温で蒸留水で10%濃度に希釈したFeCl3溶液を用いて前記ニッケル箔をウェットエッチングし、蒸留水で1時間リンス工程を進行させた後、3時間乾燥してウェットエッチング工程を完了した。ウェットエッチング工程が完了した後、厚さが160nmのグラフェン層を1,000℃でアニーリングされた新しいニッケル箔の一面上に転写した。転写が完了した後、90℃に加熱されたホットプレート上に置き、約1時間乾燥してグラフェン層とニッケル箔との間の水分を除去して、金属-グラフェン複合体を製造した。
【0046】
図3は、本発明の実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のSEMイメージとEBSDマッピングイメージ、比較例1で用意された1,000℃でアニーリングされたニッケル箔のSEMイメージとEBSDマッピングイメージを示す図である。
【0047】
具体的には、
図3(a)は、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のSEM(Scanning electron microscope)イメージであり、
図3(b)は、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体においてニッケル箔の結晶方向(crystal orientation)のEBSD(electron backscatter diffraction)マッピングイメージである。
図3(c)および(d)はそれぞれ、比較例1で用意された1,000℃でアニーリングされたニッケル箔のSEMイメージとEBSDマッピングイメージである。
図3において、スケールバーの長さは10μmである。
【0048】
比較例1で製造された金属-グラフェン複合体におけるニッケルのマイクロ構造と、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体におけるニッケルのマイクロ構造と類似するように、比較例1でグラフェン層が転写されるニッケル箔を1,000℃でアニーリングした。
【0049】
実験例
下記の実験装置を用いて、製造された金属-グラフェン複合体の物性を観測および評価した。
【0050】
-SEM:JSM-7600F;JEOL社
-TEM/STEM:JEM-ARM200F;JEOL社
-XRD:室温でCu Kα放射線で実行;Smart Lab、Rigaku
-Raman:Micro-Raman spectroscopy measurement(inVia confocal Raman microscope、Renishaw)を用い、サンプルは514nmの波長で120mWの励起電力を有するAr+レーザ(1μmのスポットサイズ)で励起された。
-機械的物性の測定:金属-グラフェン複合体の機械的物性は、バーコビッチインデンター(Berkovich indenter)が備えられたナノインデンター(Nano AIS、Frontics)を用いた。最大荷重として10mNが適用され、ローディング(loading)およびアンローディング(unloading)速度は0.3mNs-1に設定した。最大負荷で1秒の静止時間が許容された。入れ込み(indentation)はサンプルに対して数十個の互いに異なる地点で行われ、サンプルのヤング率、強度は荷重-侵入深さ曲線(load-penetration depth curves)から得た。
-MDシミュレーション(molecular dynamics simulation):シミュレーションシステムは、単結晶(single-crystalline)のニッケルブロック(block)の表面に平行に配置されたグラフェン層からなるものに設定した。ニッケルブロックは、20×20nm2の大きさを有する(111)表面と10nmの深さを有している。
【0051】
ニッケル(Ni)原子間の相互作用は、内蔵された原子-方法相互作用ポテンシャル(embedded atom-method interaction potential)によって説明され、炭素(C)原子は、適応型分子間反応性経験的結合次数(adaptive intermolecular reactive empirical bond order;AIREBO)ポテンシャルによって決定される。最後に、炭素とニッケルとの間の相互作用は、深さ(ε=23.049mV)と長さ媒介変数(σ=2.852Å)のペアワイズレナード・ジョーンズポテンシャル(pairwise Lennard-Jones potential)により説明される。シミュレーションのために採用されたインデンター(indenter)の半径(R)は3nmであり、この半径は表面から垂直に5nmの最終深さで移動する。
【0052】
図4は、本発明の実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のSEMイメージと、比較例1で製造された金属-グラフェン複合体のSEMイメージを示す図である。具体的には、
図4(a)は、本発明の実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のSEMイメージであり、
図4(b)は、比較例1で製造された金属-グラフェン複合体のSEMイメージである。
図4において、スケールバーの長さは10μmであり、白い点線はグラフェン層の結晶境界(grain boundary)を示す。
【0053】
図4を参照すれば、実施例1および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体の表面形態(surface morphologies)を確認することができる。具体的には、実施例1および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体の表面には、数マイクロメートルサイズの黒鉛結晶粒(graphite grain)が存在することを確認した。
【0054】
図5は、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体の多様な物性を測定して示す図である。具体的には、
図5(a)は、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のEBSDマッピングイメージに基づいてグラフェン層の結晶サイズのヒストグラムを示す図である。
図5(b)は、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のXRD(X-ray diffraction)スペクトルを示す図である。
図5(c)は、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のラマンスペクトルを示す図である。
図5(d)は、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体においてニッケル箔をエッチングした後に、SiO
2にグラフェン層を転写し、原子間力顕微鏡(Atomic force microscope;AFM)を用いて観測したイメージである。
図5において、スケールバーの長さは10μmである。
【0055】
図3および
図5(a)を参照すれば、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体においてニッケル箔で成長したグラフェン層は、直径が約1μm~2μmの単結晶の黒鉛結晶粒からなり、ニッケル箔は、直径が10μmを超える結晶からなることを確認した。
【0056】
図3、
図5(a)および(b)により、グラフェン層が平面[0001]に沿って垂直方向に配向された結晶粒からなり、ニッケル箔は、平面[100]、平面[110]、平面[111]に沿って結晶粒が混合されたテクスチャ構造(textured structure)を有することを確認した。
【0057】
図5(c)を参照すれば、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のグラフェン層は、高強度(high-intensity)のGピーク(~1580cm
-1)と2Dピーク(~2700cm
-1)は観測されるが、Dピーク(1350cm
-1)が観測されておらず、これにより、グラフェン層は、非常に優れた結晶性(crystallinity)を有することを確認した。
【0058】
実施例1で製造された金属-グラフェン複合体においてニッケル箔をエッチングした後に、SiO
2にグラフェン層を転写し、AFMイメージを得た。
図5(d)を参照すれば、実施例1で製造されたグラフェン層は、均一な形態を有することを確認した。
【0059】
図6は、実施例1および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体の断面を分析したイメージである。具体的には、
図6(a)は、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体の金属層とグラフェン層との間の界面構造を示すTEMイメージであり、
図6(b)は、比較例1で製造された金属-グラフェン複合体の金属層とグラフェン層との間の界面構造を示すTEMイメージである。
図6(c)および(d)は、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のSTEMイメージである。
図6(c)には、ニッケルのSTEMイメージのFFT(fast fourier transform)パターンが挿入されている。
【0060】
図6(a)を参照すれば、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体(G-MLG/Ni)は、金属層(Ni)とグラフェン層(MLG)との界面間で原子が連続的に連結されていることを確認した。これに対し、
図6(b)を参照すれば、比較例1で製造された金属-グラフェン複合体(T-MLG/Ni)は、金属層(Ni)とグラフェン層(MLG)との界面間に約15nmのギャップがあることを確認した。
【0061】
図6(c)および(d)を参照すれば、よく整列されたニッケル原子と平行なグラフェン層の平面[0001]が明確に示されている。また、
図6(c)に挿入されたFFTパターンを参照すれば、グラフェン層[0001]に平行なニッケルの結晶面(crystal plane)方向が(111)に近いことを確認した。
【0062】
図6(d)を参照すれば、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体の場合、金属層(Ni)とこれに最も隣接するグラフェン薄膜との間の距離(黒い矢印で表示)は、グラフェン層に含まれたグラフェン薄膜間の距離より短いことを確認した。これは、金属層とこれに最も隣接したグラフェン薄膜との間に強い結合が存在することを意味する。これに対し、比較例1で製造された金属-グラフェン複合体の場合、金属層とこれに最も隣接したグラフェン薄膜との間に結合が存在しないことを確認した。
【0063】
3面ピラミッドダイヤモンドチップからなるバーコビッチ(Berkovich)チップを用いたナノインデンテーション(nano indentation)方法により、ニッケル箔、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体の機械的物性を測定した。
【0064】
図7は、ニッケル箔、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体において、バーコビッチチップが残したインデント(indent)のSEMイメージを示す図である。具体的には、
図7(a)は、実施例1で用意されたニッケル箔、(b)は実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、(c)は、比較例1で製造された金属-グラフェン複合体において、バーコビッチチップが残したインデントのSEMイメージを示す図である。
図7において、スケールバーの長さは2μmである。
【0065】
ナノインデンテーション(nano indentation)は、薄膜の機械的特性を研究し、ナノスケールで正確な測定のために使用できる周知の多目的技術である。
【0066】
図8は、ニッケル箔、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、実施例2で製造された金属-グラフェン複合体、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体に対するインデンテーション荷重-侵入深さ曲線(indentation load-penetration depth curves)を示す図である。具体的には、
図8(a)は、最大荷重(maximum load)10mNにおける、実施例1で用意されたニッケル箔(Ni)、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体に対するインデンテーション荷重-侵入深さ曲線を示す図であり、
図8(b)は、最大荷重1mNにおける、実施例1で用意されたニッケル箔(Ni)、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、および実施例2で製造された金属-グラフェン複合体に対するインデンテーション荷重-侵入深さ曲線を示す図である。
【0067】
機械的物性を測定するために、すべてのサンプルは、10mNの荷重で測定された。まず、サンプルの剛性(Stiffness)は、アンローディング(unloading)過程での荷重-侵入深さ曲線の傾きに基づいて決定され、その結果は下記表1に記載された。表1を参照すれば、実施例1および実施例2で製造された金属-グラフェン複合体は、ニッケル箔に比べて約3倍程度と優れた剛性を有していることを確認した。
【0068】
また、サンプルの強度(Hardness)とヤング率(Young’s modulus)は、荷重-侵入深さ曲線を用いてOliver Pharr方法により計算された。統計分析のために、サンプルあたり、互いに異なる位置に対して20個の荷重-侵入深さ曲線を収集した。
【0069】
図9は、ニッケル箔、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、実施例2で製造された金属-グラフェン複合体、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体に対して測定された強度(Hardness)とヤング率(Young’s modulus)を示す図である。具体的には、
図9には、測定された強度およびヤング率に対する平均値と分布が示されている。
【0070】
サンプルの測定された強度およびヤング率の比較を下記表1に示した。
図9および表1を参照すれば、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体は、ニッケル箔に比べて、約2倍の強度を有し、約5倍のヤング率を有することを確認した。
【0071】
【0072】
図10は、本発明の実施例2で製造された金属-グラフェン複合体のAFMイメージとラマンスペクトルを示す図である。具体的には、
図10(a)は、実施例2で製造された金属-グラフェン複合体においてニッケル箔をエッチングした後に、SiO
2にグラフェン層を転写し、原子間力顕微鏡(Atomic force microscope;AFM)を用いて観測したイメージであり、
図10(b)は、ラマンスペクトルを示す図である。
【0073】
図11は、実施例1で製造されたグラフェン層と、実施例2で製造されたグラフェン層の荷重-侵入深さ曲線を示す図である。具体的には、
図11は、実施例1で製造された厚さ160nmのグラフェン層自体に対する荷重-侵入深さ曲線と、実施例2で製造された厚さ600nmのグラフェン層自体に対する荷重-侵入深さ曲線を示す図である。
【0074】
下記表2には、
図11に示された荷重-侵入深さ曲線により導出された、実施例1で製造されたグラフェン層と、実施例2で製造されたグラフェン層のヤング率値と強度値を示した。
【0075】
【0076】
図8~
図11、表1および表2を参照すれば、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体は、実施例2で製造された金属-グラフェン複合体に比べて、剛性、ヤング率および強度の値がより大きいことを確認した。また、実施例1の160nmの厚さのグラフェン層が、実施例2の600nmの厚さのグラフェン層より相対的に優れた機械的物性を有していることを確認した。また、
図8(b)を参照すれば、矢印で表示された部分において実施例2のグラフェン層は、部分的な破壊(partial fracture)が発生したことを確認した。
【0077】
図12は、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体、実施例2で製造された金属-グラフェン複合体、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体に対して測定および計算されたヤング率と強度を示す図である。具体的には、
図12(a)は、実施例1、実施例2、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体に対してナノインデンテーション実験により測定されたヤング率と複合則(rule of mixture)によって計算されたヤング率を示す図である。
図12(b)は、実施例1、実施例2、および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体に対してナノインデンテーション実験により測定された強度と複合則(rule of mixture)によって計算された強度を示す図である。
【0078】
サンプルのヤング率は、下記数式1による複合則によって計算し、強度は下記数式1による複合則によって計算した。
【0079】
【0080】
【0081】
前記数式1中、EMLGは、測定されたグラフェン層のヤング率であり、ENiは、測定されたニッケルのヤング率である。前記数式2中、HMLGは、測定されたグラフェン層の強度であり、HNiは、測定されたニッケルの強度である。数式1および2中、VMLGは、グラフェン層(MLG)とニッケル(Ni)との2層構造においてグラフェン層の体積分率(volume fraction)を意味し、VNiは、グラフェン層(MLG)とニッケル(Ni)との2層構造においてニッケルの体積分率を意味する。
【0082】
前記表1および表2から、前記数式1および数式2のE
Niは40.35GPa、E
MLG(160nm)は62.05GPa、H
Niは1.76GPa、H
MLG(160nm)は4.22GPaに設定した。
図8(a)および(b)に示された侵入深さ曲線に基づいて、グラフェン層(MLG)とニッケル(Ni)の体積分率を計算した。実施例1の侵入深さ338nm、比較例1の侵入深さ440nmから、グラフェン層(MLG)と金属層(Ni)の総厚さとグラフェン層の厚さである160nmを考慮して、実施例1においてグラフェン層(MLG)の体積分率は44%、金属層(Ni)の体積分率は56%であり、比較例1においてグラフェン層(MLG)の体積分率は34%、金属層(Ni)の体積分率は66%であった。これにより、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体の計算されたヤング率は49.98GPaであり、強度は2.85GPaであった。また、比較例1で製造された金属-グラフェン複合体の計算されたヤング率は49.98GPaであり、強度は2.85GPaであった。
【0083】
図12を参照すれば、実施例1および実施例2の場合,測定されたヤング率と強度は、計算されたヤング率および強度より大きいことを確認した。これに対し、比較例1の場合には、測定されたヤング率が計算されたヤング率に似ており、測定された強度は計算された強度より小さいことを確認した。これにより、実施例1および実施例2の場合には、金属層とグラフェン層との間に強い界面結合が存在して機械的物性に優れているが、比較例1の場合には、金属層とグラフェン層との間に界面結合がほとんど存在しないことが分かる。
【0084】
図13は、ナノインデンテーションを行った後の、実施例1および比較例1で製造された金属-グラフェン複合体の断面TEMイメージを示す図である。
【0085】
具体的には、
図13(a)は、インデンテーション実行後のサンプルで変形された領域を示す断面TEMイメージであり、
図13(b)は、
図13(a)の白い点線ボックス領域に相当する、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のインデント付近の低倍率(Low-magnification)STEMイメージであり、
図13(b)は、
図13(a)の白い点線ボックス領域に相当する、比較例1で製造された金属-グラフェン複合体のインデント付近の低倍率STEMイメージである。この時、
図13(a)~(c)において、白い矢印方向は、荷重が印加される方向を意味する。
図13(d)~(f)は、比較例1の転位ネットワーク構造(dislocation network structure)を示し、
図13(g)~(i)は、実施例1の転位ネットワーク構造を示し、スケールバーの長さは100nmである。この時、
図13(d)と(g)は、高倍率(high-magnification)TEMイメージであり、
図13(e)と(h)は、STEMイメージであり、
図13(f)と(i)は、暗視野(Dark field)STEMイメージである。
【0086】
同一の変形でマイクロ構造の差を確認するために、500nmのインデンテーション深さの変位制御下でインデンテーションが行われた。
図13(a)を参照すれば、実施例1および比較例1の金属-グラフェン複合体において、インデンテーション付近の変形領域(deformed zone)をTEMを用いて観測した。
【0087】
図13(b)および(c)は、変形領域における転位ネットワーク(dislocation network)を示す低倍率STEMイメージである。比較例1の場合には、大部分の転位帯域(dislocation bands)は負荷方向と平行に下方へ向かうのに対し、実施例1の場合には、薄くて密度の高い転位帯域が全体に均一に分布していることを確認した。
【0088】
図13(d)および(e)を参照すれば、比較例1の場合には、赤い矢印で表示された下側方向に厚い転位帯域が形成されていることを確認することができる。一方、
図13(g)および(h)を参照すれば、実施例1の場合には、黄色い矢印で表示された垂直転位帯域以外に、サンプルの表面に平行な多数の薄い転位線(dislocation line)が確認された。
図13(f)および(i)を参照すれば、実施例1の場合により密で均一な転位線が示されることを確認した。
【0089】
実施例1で製造された金属-グラフェン複合体が、比較例1で製造された金属-グラフェン複合体よりヤング率と強度などの機械的物性に優れているのは、変形によって形成されたより多い転位による変形-強化効果(strain-hardening effect)に起因すると判断される。
【0090】
図14は、分子力学(molecular dynamics)シミュレーションにおいてグラフェン層と金属層(Ni)の初期構成を示す図である。
図14において、灰色の上層は、グラフェン層を示し、緑色の下層は、金属層(Ni)を示す。
【0091】
金属-グラフェン複合体の機械的物性が強化されるメカニズムを把握するために、転位-インターフェース相互作用(dislocation-interface interaction)を中心に、金属-グラフェン複合体のナノインデンテーションに対する分子力学シミュレーションを行った。
図14に示されるように、シミュレーションのシステムは、単結晶ニッケルブロックの表面(111)に平行に配置されたグラフェン層からなる。
【0092】
図15は、本発明の一実施態様に係る金属-グラフェン複合体に対する分子力学シミュレーション結果を示す図である。
図15(a)は、単一ニッケル(111)層とニッケル(111)にグラフェンが備えられたGP/Ni(111)に対する計算された荷重侵入深さを示す。
図15(a)の左側上端に挿入されたグラフは、5Åの侵入深さまでの拡大した曲線を示す。
図15(b)は、4.5Å、20Åおよび50Åの侵入深さにおける単一ニッケル層(Ni(111))とニッケルにグラフェンが備えられた二重層(Gp on Ni(111))の総転位長さ(total dislocation length)を示す。
【0093】
MDシミュレーションにおけるニッケル(111)に単層のグラフェンが備えられた2層構造(bilayer structure)は、多結晶のニッケル上に複数のグラフェン薄膜を含むグラフェン層が備えられた金属-グラフェン複合体と差異がある。ただし、MDシミュレーションにより得たニッケル(111)に単層グラフェンが備えられた構造の荷重-侵入曲線は、本発明の一実施態様に係る金属-複合体グラフェンの実験結果によく一致することを確認した。
【0094】
図15(a)から推論できるように、同一の侵入深さを達成するために、グラフェン/ニッケル(111)は、単一ニッケル(111)層より約2倍の荷重を必要とする。特に、単一ニッケル(111)層は、4.5Åの侵入深さまでグラフェン/ニッケル(111)の2層構造より多い負荷が必要であったが、このような傾向は侵入深さがより高くなり逆転された。
【0095】
図16は、ニッケル箔と実施例1で製造された金属-グラフェン複合体に対する荷重-侵入曲線を示す図である。具体的には、
図16は、実施例1で用意されたニッケル箔と実施例1で製造された金属-グラフェン複合体に対する荷重-侵入曲線を示す図である。
図16を参照すれば、約17nmの侵入深さにおいて、ニッケル単一層(ニッケル箔)と実施例1で製造された金属-グラフェン複合体の荷重伝達容量(load carrying capacity)が逆転されることを確認した。
【0096】
ニッケル(111)単一層とグラフェン/ニッケル(111)二重層の多様な荷重伝達容量を確認するために、Ovito visualizationツールを用いて転位(dislocation)の核化(nucleation)と進化(evolution)を分析した。
【0097】
Ovito visualizationツールを用いて、4.5Å、20Åおよび50Åの侵入深さにおける単一ニッケル層(Ni)とニッケルにグラフェンが備えられた二重層(GP/Ni)の転位分析を行い、その結果を下記表3に示した。
【0098】
【0099】
図15(b)および表3を参照すれば、侵入深さが増加するにつれて、ニッケル(111)単一層とグラフェン/ニッケル(111)二重層の総転位長さが増加することを確認した。ただし、荷重伝達容量の傾向と同じく、低い侵入深さにおいてはニッケル(111)単一層がグラフェン/ニッケル(111)二重層より多い転位が発生したが、侵入深さが増加するにつれて逆転されることを確認した。
【0100】
図15(c)~(h)には、インデンテーションの段階によるニッケル(111)単一層とグラフェン/ニッケル(111)二重層における転位分布(dislocation distribution)を示している。特に、
図15(c)と(f)を参照すれば、4.5Åの侵入深さにおいて、ニッケル(111)単一層の場合には、インデントから転位が核化し進化するのに対し、グラフェン/ニッケル(111)二重層の場合には、転位がほとんど発生しないことを確認した。侵入深さが5Å以上に増加するにつれてニッケル(111)単一層とグラフェン/ニッケル(111)二重層における転位密度(dislocation density)が増加して、転位分布の差が明確に現れることを確認した。
図15(d)と(g)を参照すれば、20Åの侵入深さにおいて、ニッケル(111)単一層の場合には、インデントの中央付近に転位が集中しているが、グラフェン/ニッケル(111)二重層の場合には、インデント付近に転位が分布していることを確認した。
図15(e)と(h)を参照すれば、50Åの侵入深さにおいて、ニッケル(111)単一層の場合には、インデントが深く形成されているが、グラフェン/ニッケル(111)二重層の場合には、インデントがインデンター付近に広い領域で分布して形成されることを確認した。
【0101】
このような現象はグラフェンの弾性に基づいて説明することができ、グラフェン/ニッケル(111)二重層の場合には、インデンター周辺領域が変形されてインデントが広く形成されるのである。
図15(b)により総転位長さが増加することを確認したように、グラフェンがコーティングされたニッケルは、グラフェンと平行な方向にインデンター周辺に多い転位を発生させて、グラフェン/ニッケル(111)二重層において変形-強化効果(strain-hardening effect)をもたらすことができる。MDシミュレーションにより得られたグラフェン/ニッケル(111)二重層の転位分布は、実施例1で製造された金属-グラフェン複合体のTEMイメージから得られたものと類似して、ニッケル表面に平行な方向に高密度の転位現象が現れることを確認した。MDシミュレーションとナノインデンテーション実験により得た結果に基づいて、本発明の一実施態様に係る金属-グラフェン複合体は、グラフェン層と金属層との間の強い結合が形成されて、インターフェース-誘導強化(interface-induced strengthening)によってニッケル単一層に比べて大きい荷重伝達容量を有することが分かる。
【外国語明細書】