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特開2024-97922最適化されたヒト凝固第IX因子遺伝子発現カセットおよびそれらの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097922
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】最適化されたヒト凝固第IX因子遺伝子発現カセットおよびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/57 20060101AFI20240711BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240711BHJP
   C12N 15/67 20060101ALI20240711BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240711BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240711BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240711BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240711BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240711BHJP
   A01K 67/0278 20240101ALI20240711BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 38/36 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240711BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240711BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C12N15/57
C12N15/864 100Z
C12N15/67 Z ZNA
C12N15/86 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A01K67/0278
A61K48/00
A61K38/36
A61K35/12
A61K35/76
A61P7/04
C12N15/67 Z
C12N15/57 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076788
(22)【出願日】2024-05-09
(62)【分割の表示】P 2022123665の分割
【原出願日】2018-05-31
(31)【優先権主張番号】62/512,833
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501345323
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA AT CHAPEL HILL
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シアオ,シアオ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジュアン
(57)【要約】
【課題】改善された出血性疾患の治療方法の提供。
【解決手段】ヒトにおける発現のためにコドンが最適化されているヒト第IX因子をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含むベクター、またはこれらを含む組成物。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおける発現のためにコドンが最適化されている、ヒト第IX因子をコードするポリヌクレオチドであって、配列番号14のヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
合成のイントロンをさらに含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記合成のイントロンは、配列番号5のヌクレオチド配列を含む、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
コドンが最適化された第IX因子コード配列および合成のイントロンが、配列番号6のヌクレオチド配列を含む、請求項3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
プロモーターをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記プロモーターは、配列番号1のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも90%同一の配列を含む合成の肝臓特異的プロモーターである、請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項8】
前記ベクターはウイルスベクターである、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
前記ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
前記AAVベクターはAAV8ベクターまたはAAV9ベクターである、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドおよび/または請求項7~10のいずれか1項に記載のベクターを含む、形質転換細胞。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項7~10のいずれか1項に記載のベクターおよび/または請求項11の形質転換細胞を含む、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項7~10のいずれか1項に記載のベクターおよび/または請求項11の形質転換細胞と、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物。
【請求項14】
対象の肝臓において第IX因子を産生させる方法における使用のための組成物であって、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項7~10のいずれか1項に記載のベクターおよび/または請求項11の形質転換細胞を含む、組成物。
【請求項15】
対象における血友病Bまたは後天性第IX因子欠損症を治療する方法における使用のための組成物であって、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項7~10のいずれか1項に記載のベクターおよび/または請求項11の形質転換細胞を含む、組成物。
【請求項16】
対象における第IX因子ポリペプチドの生物学的利用能を高める方法における使用のための組成物であって、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項7~10のいずれか1項に記載のベクターおよび/または請求項11の形質転換細胞を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年5月31日に出願された米国仮出願第62/512,833号の利益を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、対象の肝臓においてポリペプチドおよび機能性核酸を産生させるための合成の肝臓特異的プロモーターおよび発現構築物に関する。さらに本発明は、第IX因子タンパク質をコードする最適化されたポリヌクレオチド配列、これを含むベクターおよびこれらの組成物を使用して出血性疾患を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
第IX因子(FIX)は、第X因子を第Xa因子に変換するのを促進することによって凝固カスケードにおいて重要な役割を担う。FIX活性の欠損は、出血性疾患である血友病Bの原因となる。血友病Bの現在の治療は、血漿由来もしくは組換えFIXタンパク質の静脈内注入である。この治療は出血エピソードを制御するのに有効であるにも関わらず、FIXの短い半減期(8~12時間)が原因で頻繁な注入が要求されることにより、本質的に高価になる。遺伝子治療はこの疾患を最終的に治癒させるための魅力的な戦略として登場した。しかし最も有望なウイルスベクターのうちの1つ、すなわちアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いてFIX遺伝子を送達させる技術における進歩は不十分なレベルのFIXの発現により伸び悩んでいる。
【0004】
本発明は、AAVベクターに使用するのに適した短い合成の肝臓特異的プロモーターおよび発現構築物を提供することによって当該技術分野における欠点を克服する。さらに本発明は、超生理学的レベルのFIXを長期間にわたって産生させることができる最適化されたFIXコード配列および出血性疾患を治療する際のそれらの使用方法を提供する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は一つには、長さが200塩基対未満である合成の肝臓特異的プロモーターの開発に基づいている。本プロモーターは、(特に、厳密な長さ限界を有し且つ短いが強力なプロモーターの利用能の恩恵を受ける、AAVベクターを用いて)ポリペプチドおよび機能性核酸を肝臓特異的に産生させるために使用することができる。
【0006】
さらに本発明は一つには、長期間にわたって超生理学的レベルのFIXを産生させることができる最適化されたFIXコード配列の開発に基づいている。
【0007】
一態様では、本発明は、配列番号1のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも90%同一の配列を含む合成の肝臓特異的プロモーターを含む、ポリヌクレオチドに関する。
【0008】
さらなる態様では、本発明は、ヒトにおける発現のためにコドンが最適化されている、ヒト第IX因子をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0009】
別の態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む、ベクター、細胞および/またはトランスジェニック動物に関する。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、対象に本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞を送達し、それにより対象の肝臓においてポリペプチドまたは機能性核酸を産生させることを含む、対象の肝臓においてポリペプチドまたは機能性核酸を産生させる方法に関する。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、対象に治療的有効量の本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞を送達し、それにより対象における血友病Bを治療することを含む、対象における血友病Bを治療する方法に関する。
【0012】
別の態様では、本発明は、対象に有効量の本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞を送達し、それにより対象における第IX因子ポリペプチドの生物学的利用能を高めることを含む、対象における第IX因子ポリペプチドの生物学的利用能を高める方法に関する。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、対象の肝臓においてポリペプチドまたは機能性核酸を産生させる方法における本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞の使用に関する。
【0014】
さらなる態様では、本発明は、対象における血友病Bを治療する方法における本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞の使用に関する。
【0015】
別の態様では、本発明は、対象における第IX因子ポリペプチドの生物学的利用能を高める方法における本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞の使用に関する。
【0016】
さらなる態様では、本発明は、対象の肝臓においてポリペプチドまたは機能性核酸を産生させるための医薬の調製における本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞の使用に関する。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、対象における血友病Bを治療するための医薬の調製における本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞の使用に関する。
【0018】
別の態様では、本発明は、対象における第IX因子ポリペプチドの生物学的利用能を高めるための医薬の調製における本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞の使用に関する。
【0019】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下での本発明の説明においてより詳細に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、LXP2.1プロモーター(配列番号1)の構造および配列を示す。推定上の肝臓およびハウスキーピング転写因子結合部位(putative hepatic and house-keeping transcriptional factor binding sites)が下線で強調されている。
図2図2は、最適化された肝臓特異的ヒト第IX因子(FIX)遺伝子発現カセットの構築を示す。
図3図3は、プラスミドのトランスフェクションから48時間後のHuh7細胞の培地におけるFIX活性を示す。Huh7肝癌細胞を6ウェルプレートに播種し、2μgのFIX遺伝子発現構築物でトランスフェクトした。細胞培養培地を24時間後に交換し、血清非含有Opti-MEM培地でのトランスフェクションから48時間後に回収した。参照基準として精製した正常なFIXタンパク質を用いるAPTT試験によってFIX活性を測定した。Wt FIX遺伝子発現構築物はコドンの最適化を行っていない元のヒトFIX cDNAを含むが、R338L変異は含んでいなかった。Opti-FIX-1、2、3遺伝子発現構築物は全てR338L変異を含んでいたが、実施例1の本文に記載されている異なるヒトコドン最適化アルゴリズムが用いられた。
図4図4は、FIX遺伝子KOマウスモデルにおけるロバストかつ長期間の第IX因子発現およびAAV8-LXP2.1-opti-FIX-1ベクターの用量増加後の凝固活性アッセイを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の好ましい実施形態が示されている添付の図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。但し、本発明は異なる形態で具体化してもよく、本明細書に記載されている実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は本開示を徹底的かつ完全なものとし、かつ本発明の範囲を当業者に完全に伝えるために提供されている。
【0022】
文脈がそうでないことを示していない限り、本明細書に記載されている本発明の様々な特徴を任意の組み合わせで使用できることが特に意図されている。さらに、本発明は本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載されている任意の特徴または特徴の組み合わせを除外または省略できることも企図している。例示のために、複合体が成分A、BおよびCを含むことを本明細書が述べている場合、A、BまたはCのいずれかあるいはそれらの組み合わせを省略することができ、かつ単独または任意の組み合わせで除外できることが特に意図されている。
【0023】
他に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において本発明の説明で使用される用語は、単に特定の実施形態について記述するためのものであり、本発明を限定することは意図していない。
【0024】
ヌクレオチド配列は特にそうでないことが示されていない限り、5’から3’への方向、すなわち左から右への一本鎖のみによって本明細書に示されている。ヌクレオチドおよびアミノ酸は本明細書では、IUPAC-IUB生化学命名委員会によって推奨されている方法または(アミノ酸のための)1文字表記もしくは3文字表記のいずれかによって表されており、これらはどちらも37C.F.R.§1.822および確立されている用法に従っている。
【0025】
そうでないことが示されている場合を除き、遺伝子をクローニングし、核酸を増幅および検出するなどのために当業者に公知の標準的な方法を使用することができる。そのような技術は当業者に公知である。例えば、Sambrookら,分子クローニング:研究所マニュアル第2版(Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd Ed.)(Cold Spring Harbor,NY,1989);Ausubelら 分子生物学における現在のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)(Green Publishing Associates社およびJohn Wiley&Sons社,ニューヨーク)を参照されたい。
【0026】
定義
本発明の説明および添付の特許請求の範囲において使用されている単数形「1つの(a)」「1つの(an)」および「前記(その)(the)」は、文脈が明らかにそうでないことを示していない限り複数の形態も含むことが意図されている。
【0027】
また本明細書で使用される「および/または」は、関連する列挙項目の1つ以上のありとあらゆる可能な組み合わせ、ならびに二者択一(「または」)で解釈される場合は組み合わせの欠如を指し、かつ包含する。
【0028】
本明細書で使用される「約」という用語は、ポリペプチドの量、用量、時間、温度、酵素活性または他の生物学的活性などの測定可能な値を指す場合、指定の量の±10%、±5%、±1%、±0.5%またはさらには±0.1%の変動を包含することが意図されている。
【0029】
「本質的に~からなる」という移行句は、請求項の範囲がその請求項に記載されている指定の材料または工程ならびに特許請求されている発明の基本的および新規な特性に実質的に影響を与えないものを包含するように解釈されるべきであることを意味する。
【0030】
「本質的に~からなる」という用語(および文法的変形)は、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列に適用される場合、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの機能が実質的に変化しないように、記載されている配列(例えば配列番号)ならびに記載されている配列の5’および/または3’すなわちN末端および/またはC末端上の計10個以下(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個)のさらなるヌクレオチドまたはアミノ酸の両方からなるポリヌクレオチドまたはポリペプチドを意味する。その計10個以下のさらなるヌクレオチドまたはアミノ酸は、一緒に追加された両端上のさらなるヌクレオチドまたはアミノ酸の総数を含む。「実質的に変化する」という用語は、本発明のポリヌクレオチドに適用される場合、その記載されている配列からなるポリヌクレオチドの発現レベルと比較して、コードされたポリペプチドを発現する能力における少なくとも約50%以上の増加または減少を指す。「実質的に変化する」という用語は、本発明のポリペプチドに適用される場合、列挙されている配列からなるポリペプチドの活性と比較して、凝固刺激活性における少なくとも約50%以上の増加または減少を指す。
【0031】
本明細書で使用される「増強させる(高める)(enhance)」または「増加させる(高める)(increase)」という用語あるいはその文法的変形は、指定のパラメータにおける少なくとも約1.25倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、8倍、10倍、12倍またはさらには15倍の増加を指す。
【0032】
本明細書で使用される「阻害する」もしくは「減少させる」という用語またはその文法的変形は、少なくとも約15%、25%、35%、40%、50%、60%、75%、80%、90%、95%またはそれ以上の指定のレベルまたは活性における減少または縮小を指す。特定の実施形態では、阻害または減少により、僅かに検出可能であるか本質的に検出不可能な活性が生じる(多くとも非常に僅かな量であり、例えば約10%またはさらには5%未満である)。
【0033】
本明細書で使用される「有効な」量とは所望の効果を与える量である。
【0034】
本明細書で使用される「治療的に有効な」量とは、対象に若干の改善または利点を与える量である。別の言い方をすれば「治療的に有効な」量とは、対象における少なくとも1つの臨床的症状の若干の軽減、緩和または減少を与える量である。当業者であれば、治療効果はいくつかの利点が対象に与えられる限り完全であったり治癒的であったりする必要はないことを理解しているであろう。
【0035】
本明細書で使用される「予防的に有効な」量は、対象における疾患、障害および/または臨床的症状を予防する(本明細書に定義されている)のに十分な量である。当業者であれば、予防レベルはいくつかの利点が対象に与えられる限り完全である必要はないことを理解しているであろう。
【0036】
本発明の方法によって出血性疾患を治療する有効性は、当業者に周知であるように対象の症状および/または臨床的パラメータにおける変化によって示される臨床的改善を検出することによって決定することができる。
【0037】
「治療する」「治療すること」または「治療」という用語は、対象の病気の重症度を低下させるか少なくとも部分的に改善もしくは緩和すること、および少なくとも1つ臨床的症状における若干の軽減、緩和または減少が達成されることを意図している。
【0038】
「予防する」「予防すること」および「予防」という用語(およびその文法的変形)は、疾患、障害および/または臨床的症状の発症前に本発明の方法を実施しないで生じる場合に対する、発症後の疾患、障害および/または臨床的症状の程度または重症度における減少または遅れを指す。血友病Bに関して「予防すること」とは、予防的治療の非存在下で生じる出血エピソードの回数および/または重症度よりも少ない回数および/または低い重症度の出血エピソードの発生を指す。
【0039】
本明細書で使用される「核酸」「ヌクレオチド配列」および「ポリヌクレオチド」は同義で使用され、cDNA、ゲノムDNA、mRNA、合成の(例えば化学合成された)DNAまたはRNAならびにRNAおよびDNAのキメラを含むRNAおよびDNAの両方を包含する。ポリヌクレオチド、ヌクレオチド配列または核酸という用語は、鎖の長さに関わらずヌクレオチドの鎖を指す。核酸は二本鎖であっても単鎖であってもよい。単鎖の場合、核酸はセンス鎖またはアンチセンス鎖であってもよい。核酸はオリゴヌクレオチド類似体または誘導体(例えばイノシンまたはホスホロチオエートヌクレオチド)を用いて合成することができる。そのようなオリゴヌクレオチドを使用して、例えば変化した塩基対能力またはヌクレアーゼに対して増加した抵抗性を有する核酸を調製することができる。さらに本発明は、本発明の核酸、ヌクレオチド配列またはポリヌクレオチドの補体(完全補体であっても部分補体であってもよい)である核酸を提供する。
【0040】
「単離されたポリヌクレオチド」は、それが得られる生物の天然に生じるゲノムにおいてそれが直接隣接しているヌクレオチド配列(1つは5’末端上にあり、1つは3’末端上にある)に直接隣接していないヌクレオチド配列(例えば、DNAまたはRNA)である。従って一実施形態では、単離された核酸は、コード配列に直接隣接する5’非コード(例えばプロモーター)配列のうちのいくつかまたは全てを含む。従ってこの用語は、例えばベクターの中、自己複製プラスミドもしくはウイルスの中または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAの中に組み込まれているか、あるいは他の配列から独立している別個の分子(例えば、PCRまたは制限エンドヌクレアーゼ処理によって産生されるcDNAまたはゲノムDNA断片)として存在する組換えDNAを含む。それはさらなるポリペプチドもしくはペプチド配列をコードするハイブリッド核酸の一部である組換えDNAも含む。遺伝子を含む単離されたポリヌクレオチドは、そのような遺伝子を含む染色体の断片ではなく、その遺伝子に関連するコード領域および調節領域を含むものであるが、その染色体上に天然には存在しないさらなる遺伝子は含まない。
【0041】
「断片」という用語は、ポリヌクレオチドに適用される場合、参照核酸もしくはヌクレオチド配列に対して減少した長さのヌクレオチド配列であって、参照核酸もしくはヌクレオチド配列と同一もしくはほぼ同一の(例えば、90%、92%、95%、98%、99%同一の)連続するヌクレオチドのヌクレオチド配列を含み、本質的にそれからなり、かつ/またはそれからなるヌクレオチド配列を意味するように理解される。本発明に係るそのような核酸断片は必要に応じて、それがその成分となるより大きいポリヌクレオチドに含まれていてもよい。いくつかの実施形態では、そのような断片は本発明に係る核酸もしくはヌクレオチド配列の少なくとも約8、10、12、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100、150、200またはそれ以上の連続ヌクレオチド長を有するオリゴヌクレオチドを含んでいてもよく、本質的にそれからなっていてもよく、かつ/またはそれからなっていてもよい。
【0042】
「単離された」という用語は、細胞物質、ウイルス物質および/または培養培地(組換えDNA技術によって産生される場合)あるいは化学的前駆体または他の化学物質(化学合成される場合)を実質的に含まない核酸、ヌクレオチド配列またはポリペプチドを指すことができる。さらに「単離された断片」は、断片として天然に生じない核酸、ヌクレオチド配列またはポリペプチドの断片であり、天然の状態では存在しない。「単離された」とは、その調製は技術的に純粋(均質)であることを意味してはいないが、それを意図されている目的のために使用することができる形態のポリペプチドまたは核酸を提供するのに十分に純粋である。
【0043】
「断片」という用語は、ポリペプチドに適用される場合、参照ポリペプチドもしくはアミノ酸配列に対して減少した長さのアミノ酸配列であって、参照ポリペプチドもしくはアミノ酸配列と同一もしくはほぼ同一の(例えば、90%、92%、95%、98%、99%同一の)連続するアミノ酸のアミノ酸配列を含み、本質的にそれからなり、かつ/またはそれからなるアミノ酸配列を意味するように理解される。本発明に係るそのようなポリペプチド断片は必要に応じて、それがその成分となるより大きいポリペプチドに含まれていてもよい。いくつかの実施形態では、そのような断片は、本発明に係るポリペプチドもしくはアミノ酸配列の少なくとも約4、6、8、10、12、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100、150、200またはそれ以上の連続アミノ酸長を有するペプチドを含んでいてもよく、本質的にそれからなっていてもよく、かつ/またはそれからなっていてもよい。
【0044】
「ベクター」は、核酸を細胞内にクローニングおよび/または移動させるための任意の核酸分子である。ベクターは、結合されたヌクレオチド配列の複製を可能にするためにそこに別のヌクレオチド配列を結合させることができるレプリコンであってもよい。「レプリコン」は、インビボでの核酸複製の自律的単位として機能する、すなわちそれ自身の制御下で複製することができる任意の遺伝因子(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルスゲノム)であってもよい。「ベクター」という用語は、インビトロ、エクスビボおよび/またはインビボにおいて核酸を細胞の中に導入するためのウイルスおよび非ウイルス(例えばプラスミド)核酸分子の両方を含む。当該技術分野で知られている多数のベクターを使用して、核酸を操作し、かつ応答エレメントおよびプロモーターを遺伝子の中に組み込むなどしてもよい。例えば、応答エレメントおよびプロモーターに対応する核酸断片の好適なベクターへの挿入は、適当な核酸断片を相補的な付着末端を有する選択されたベクターの中に連結することによって達成することができる。あるいは、核酸分子の末端を酵素的に修飾してもよく、あるいはヌクレオチド配列(リンカー)を核酸末端に連結させることによってあらゆる部位を産生させてもよい。そのようなベクターは、ベクターを含み、かつ/または当該ベクターの核酸を細胞ゲノムの中に組み込む細胞の選択を与える選択可能なマーカーをコードする配列を含むように操作されていてもよい。そのようなマーカーにより、そのマーカーによってコードされるタンパク質を組み込んで発現する宿主細胞の識別および/または選択が可能になる。「組換え」ベクターは、1つ以上の異種ヌクレオチド配列(すなわち導入遺伝子)、例えば2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上の異種ヌクレオチド配列を含むウイルスもしくは非ウイルスベクターを指す。
【0045】
ウイルスベクターは、細胞ならびに生きている動物対象における多種多様な遺伝子送達用途で使用されている。使用することができるウイルスベクターとしては、限定されるものではないが、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、エプスタイン・バーウイルスおよびアデノウイルスベクターが挙げられる。非ウイルスベクターとしては、プラスミド、リポソーム、荷電脂質(サイトフェクチン(cytofectin))、核酸-タンパク質複合体、およびバイオポリマーが挙げられる。目的の核酸に加えて、ベクターは1つ以上の調節領域、および/または核酸の移動の結果(特定の組織への送達、発現の持続期間など)を選択、測定および監視するのに有用な選択可能なマーカーも含んでいてもよい。
【0046】
ベクターは当該技術分野で知られている方法、例えばトランスフェクション、電気穿孔法、マイクロインジェクション、形質導入、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション(リソソーム融合)、遺伝子銃の使用、または核酸ベクタートランスポーターによって所望の細胞の中に導入してもよい(例えば、Wuら,J.Biol.Chem.267:963(1992);Wuら,J.Biol.Chem.263:14621(1988);およびHartmutら,1990年3月15日に出願されたカナダ特許出願第2,012,311号を参照)。様々な実施形態では、インビボでの核酸の送達を容易にするために、カチオン性オリゴペプチド(例えば、国際公開第95/21931号)、核酸結合タンパク質由来のペプチド(例えば、国際公開第96/25508号)、および/またはカチオン性ポリマー(例えば、国際公開第95/21931号)などの他の分子を使用することができる。裸の核酸としてインビボでベクターを導入することも可能である(米国特許第5,693,622号、第5,589,466号および第5,580,859号を参照)。受容体によって媒介される核酸送達法も使用することができる(Curielら,Hum.Gene Ther.3:147(1992);Wuら,J.Biol.Chem.262:4429(1987))。
【0047】
本明細書で使用される「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は同義で使用されており、そうでないことが示されていない限りペプチドおよびタンパク質の両方を包含する。
【0048】
「融合タンパク質」は、本質的に一緒に融合された状態で存在しない2つ(またはそれ以上)の異なるポリペプチドをコードする2つの異種ヌクレオチド配列またはそれらの断片が正しい翻訳読み枠において一緒に融合されている場合に産生されるポリペプチドである。例示的な融合ポリペプチドは、本発明のポリペプチド(またはその断片)のグルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質またはレポータータンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、β-グルクロニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなど)、赤血球凝集素、c-myc、FLAGエピトープなどの全てまたは一部への融合を含む。
【0049】
本明細書で使用される「機能性」ポリペプチドまたは「機能性断片」は、通常そのポリペプチドに付随する少なくとも1種の生物学的活性(例えば、酵素活性、タンパク質結合、リガンドもしくは受容体結合)を実質的に保持しているものである。特定の実施形態では、「機能性」ポリペプチドまたは「機能性断片」は、未修飾ペプチドによって所有される活性の全てを実質的に保持している。生物学的活性を「実質的に保持している」とは、当該ポリペプチドがネイティブなポリペプチドの生物学的活性の少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、75%、85%、90%、95%、97%、98%、99%またはそれ以上を保持していること(およびネイティブなポリペプチドよりも高いレベルの活性を有することさえできること)を意味する。「非機能性」ポリペプチドは、通常そのポリペプチドに付随する検出可能な生物学的活性を僅かに示すか本質的に全く示さない(例えば、多くとも非常に僅かな量、例えば約10%またはさらには5%未満)ものである。タンパク質結合および酵素活性などの生物活性は、当該技術分野で周知であり、かつ本明細書に記載されているアッセイを用いて測定することができる。
【0050】
ポリヌクレオチドコード配列を「発現する」または「発現」という用語は、その配列が転写され、かつ任意に翻訳されていることを意味する。典型的には本発明によれば、本発明のコード配列の発現により本発明のポリペプチドの産生が生じる。全体が発現されたポリペプチドまたは断片は精製していないインタクトな細胞において機能することもできる。
【0051】
「アデノ随伴ウイルス」(AAV)という用語は本発明の文脈では、限定されるものではないが、AAV1型、AAV2型、AAV3型(3A型および3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、AAV12型、トリのAAV、ウシのAAV、イヌのAAV、ウマのAAVおよびヒツジのAAVならびに現在知られているか後に発見される任意の他のAAVを含む。例えば、BERNARD N.FIELDSら,VIROLOGY,第2巻,第69章(第4版,Lippincott-Raven Publishers)を参照されたい。多くのさらなるAAV血清型およびクレードが同定されており(例えば、Gaoら,(2004)J.Virol.78:6381-6388および表1を参照)、これも「AAV」という用語によって包含される。
【0052】
各種AAVおよび自律的パルボウイルスのゲノム配列ならびにITR、Repタンパク質およびキャプシドサブユニットの配列が当該技術分野で知られている。そのような配列は文献またはジェンバンク(登録商標)データベースなどの公開データベースで見つけることができる。例えば、ジェンバンク(登録商標)受入番号NC002077、NC001401、NC001729、NC001863、NC001829、NC001862、NC000883、NC001701、NC001510、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、NC001358、NC001540、AF513851、AF513852、AY530579、AY631965、AY631966を参照されたく、それらの開示内容全体が本明細書に組み込まれる。例えば、Srivistavaら,(1983)J.Virol.45:555;Chioriniら,(1998)J.Virol.71:6823;Chioriniら,(1999)J.Virol.73:1309;Bantel-Schaalら,(1999)J.Virol.73:939;Xiaoら,(1999)J.Virol.73:3994;Muramatsuら,(1996)Virology 221:208;Shadeら,(1986)J.Virol.58:921;Gaoら,(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854;国際特許出願の国際公開第00/28061号、国際公開第99/61601号、国際公開第98/11244号;米国特許第6,156,303号も参照されたく、それらの開示内容全体が本明細書に組み込まれる。表1も参照されたい。AAV1、AAV2およびAAV3末端反復配列の初期の説明は、Xiao,X.,(1996)、「アデノ随伴ウイルス(AAV)DNAの複製および組み込みの特性評価(Characterization of Adeno- associated virus(AAV) DNA replication and integration)」学術博士学位論文、ピッツバーグ大学、ペンシルベニア州ピッツバーグ(その内容全体が本明細書に組み込まれる)によって提供されている。
【0053】
「組換えAAVベクターゲノム」すなわち「rAAVゲノム」は、少なくとも1つの逆位末端反復(例えば、1つ、2つまたは3つの逆位末端反復)および1つ以上の異種ヌクレオチド配列を含むAAVゲノム(すなわちvDNA)である。rAAVベクターは一般にウイルスを産生させるためにシスで145個の塩基末端反復(TR)を保持しているが、部分的もしくは完全に合成の配列を含む修飾されたAAV TRおよび非AAV TRもこの目的を果たすことができる。全ての他のウイルス配列が必ずしも必要ではなく、トランスで供給されてもよい(Muzyczka,(1992)Curr.Topics Microbiol.Immunol.158:97)。rAAVベクターは任意に2つのTR(例えばAAV TR)を含み、これらは一般に異種ヌクレオチド配列の5’および3’末端にあるがそこに隣接している必要はない。これらのTRは同じであっても互いに異なっていてもよい。当該ベクターゲノムはその3’もしくは5’末端に単一のITRを含むこともできる。
【0054】
「末端反復」すなわち「TR」という用語は、任意のウイルス末端反復または、ヘアピン構造を形成し、かつ逆位末端反復として機能する(すなわち、複製、ウイルスパッケージング、組み込みおよび/またはプロウイルス救出などの所望の機能を媒介する)合成の配列を含む。TRはAAV TRまたは非AAV TRであってもよい。例えば、他のパルボウイルス(例えば、イヌのパルボウイルス(CPV)、マウスのパルボウイルス(MVM)、ヒトのパルボウイルスB-19)またはSV40複製起点として機能するSV40ヘアピンの非AAV TR配列などの非AAV TR配列をTRとして使用することができ、これらは切断、置換、欠失、挿入および/または付加によってさらに修飾することができる。さらにTRは、Samulskiらへの米国特許第5,478,745号に記載されている「二重D配列」などのように部分的もしくは完全に合成のものであってもよい。
【0055】
「AAV末端反復」すなわち「AAV TR」は、限定されるものではないが、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12あるいは現在知られているか後に発見される任意の他のAAVを含む任意のAAVからのものであってもよい(例えば表1を参照)。AAV末端反復は、末端反復が所望の機能、例えば、複製、ウイルスパッケージング、組み込みおよび/またはプロウイルス救出などを媒介する限り、ネイティブな末端反復配列を有している必要はない(例えば、ネイティブなAAV TR配列は挿入、欠失、切断および/またはミスセンス変異によって変化していてもよい)。
【0056】
さらに本発明のウイルスベクターは、国際特許出願の国際公開第00/28004号およびChaoら,(2000)Mol.Therapy 2:619に記載されている「標的化」ウイルスベクター(例えば、指向性を有する)および/または「ハイブリッド」パルボウイルス(すなわち、ここではウイルスITRおよびウイルスキャプシドは異なるパルボウイルスからのものである)であってもよい。
【0057】
さらにウイルスキャプシドまたはゲノムエレメントは、挿入、欠失および/または置換などの他の修飾を含んでいてもよい。
【0058】
本明細書で使用される「アミノ酸」という用語は、あらゆる天然に生じるアミノ酸、その修飾された形態および合成のアミノ酸を包含する。
【0059】
天然に生じる左旋性の(L-)アミノ酸が表2に示されている。
【表1】
【表2】
【0060】
あるいは、アミノ酸は修飾されたアミノ酸残基であってもよく(非限定的な例は表3に示されている)、あるいは翻訳後修飾(例えば、アセチル化、アミド化、ホルミル化、ヒドロキシル化、メチル化、リン酸化または硫酸化)によって修飾されたアミノ酸であってもよい。
【表3】
【0061】
さらに天然に生じないアミノ酸は、「Wangら,(2006)Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.35:225-49」によって記載されている「非天然」アミノ酸であってもよい。これらの非天然アミノ酸は有利には目的の分子をAAVキャプシドタンパク質に化学的に連結させるために使用することができる。
【0062】
「テンプレート」または「基質」という用語は、パルボウイルスウイルスDNAを産生させるために複製することができるポリヌクレオチド配列を指すように本明細書で使用される。ベクターの産生のためにテンプレートを典型的に、限定されるものではないが、プラスミド、裸のDNAベクター、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)またはウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、エプスタイン・バーウイルス、AAV、バキュロウイルス、レトロウイルスベクターなど)などのより大きいヌクレオチド配列または構築物内に組み込む。あるいは、テンプレートをパッケージング細胞の染色体の中に安定的に組み込んでもよい。
【0063】
本明細書で使用されるパルボウイルスもしくはAAV「Repコード配列」は、ウイルス複製および新しいウイルス粒子の産生を媒介するパルボウイルスもしくはAAV非構造タンパク質をコードする核酸配列を示す。パルボウイルスおよびAAV複製遺伝子およびタンパク質については、例えばFIELDSら,VIROLOGY,第2巻,第69&70章(第4版,Lippincott-Raven Publishers)に記載されている。
【0064】
「Repコード配列」はパルボウイルスもしくはAAV Repタンパク質の全てをコードする必要はない。例えばAAVに関しては、Repコード配列は4種類全てのAAV Repタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52およびRep40)をコードする必要ななく、実際にはAAV5のみがスプライスされたRep68およびRep40タンパク質を発現すると考えられている。代表的な実施形態では、Repコード配列は、少なくともウイルスゲノムの複製および新しいウイルス粒子内へのパッケージングのために必要な複製タンパク質をコードする。Repコード配列は一般に、少なくとも1つの大きいRepタンパク質(すなわち、Rep78/68)および1つの小さいRepタンパク質(すなわちRep52/40)をコードする。特定の実施形態では、Repコード配列は、AAV Rep78タンパク質およびAAV Rep52および/またはRep40タンパク質をコードする。他の実施形態では、Repコード配列はRep68およびRep52および/またはRep40タンパク質をコードする。なおさらなる実施形態では、Repコード配列は、Rep68およびRep52タンパク質、Rep68およびRep40タンパク質、Rep78およびRep52タンパク質あるいはRep78およびRep40タンパク質をコードする。
【0065】
本明細書で使用される「大きいRepタンパク質」という用語は、Rep68および/またはRep78を指す。特許請求されている発明の大きいRepタンパク質は野生型または合成のいずれであってもよい。野生型の大きいRepタンパク質は、限定されるものではないが血清型1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11または13あるいは現在知られているか後に発見される任意の他のAAV(例えば表1を参照)を含む任意のパルボウイルスまたはAAVからのものであってもよい。合成の大きいRepタンパク質は、挿入、欠失、切断および/またはミスセンス変異によって変化していてもよい。
【0066】
当業者であれば、複製タンパク質が同じポリヌクレオチドによってコードされる必要はないことをさらに理解しているであろう。例えばMVMでは、NS-1およびNS-2タンパク質(それらはスプライスバリアントである)を互いに独立して発現させてもよい。同様にAAVでは、p19プロモーターを非活性化させてもよく、大きいRepタンパク質を1種類のポリヌクレオチドから発現させ、かつ小さいRepタンパク質を異なるポリヌクレオチドから発現させてもよい。但し典型的には、複製タンパク質を単一の構築物から発現させるとより好都合である。いくつかの系では、ウイルスプロモーター(例えばAAVp 19プロモーター)は細胞によって認識させなくてもよく、従って別個の発現カセットから大きいRepタンパク質および小さいRepタンパク質を発現させることが必要である。他の例では、大きいRepおよび小さいRepタンパク質を別々に、すなわち別個の転写および/または翻訳制御エレメントの制御下で発現させることが望ましい場合がある。例えば、大きいRepタンパク質と小さいRepタンパク質との比を減少させるために大きいRepタンパク質の発現を制御することが望ましい場合がある。昆虫細胞の場合、大きいRepタンパク質(例えば、Rep78/68)の発現を下方制御して細胞への毒性を回避することが有利であり得る(例えば、Urabeら,(2002)Human Gene Therapy 13:1935を参照)。
【0067】
本明細書で使用されるパルボウイルスもしくはAAV「capコード配列」は、機能性パルボウイルスもしくはAAVキャプシドを形成する構造タンパク質をコードする(すなわち、DNAをパッケージングして標的細胞を感染させることができる)。典型的には、capコード配列はパルボウイルスもしくはAAVキャプシドサブユニットの全てをコードするが、機能性キャプシドが産生される限り、全てに満たないキャプシドサブユニットがコードされてもよい。必ずではないが典型的には、capコード配列は単一の核酸分子上に存在する。
【0068】
「rAAV粒子」および「rAAVウイルス粒子」という用語はここでは同義で使用される。「rAAV粒子」または「rAAVウイルス粒子」は、AAVキャプシド内にパッケージングされたrAAVベクターゲノムを含む。
【0069】
AAVキャプシド構造は、BERNARD N. FIELDSら,VIROLOGY,第2巻,第69&70章(第4版,Lippincott-Raven Publishers)においてより詳細に記載されている。
【0070】
「薬物動態学的特性」という用語は、その通常かつ通例の意味を有し、かつFIXタンパク質の吸収、分布、代謝および排泄を指す。
【0071】
「生物学的利用能」の通常かつ通例の意味は、全身の循環に到達する生物学的に活性な薬物の投与量の割合または量である。本発明の実施形態の文脈では、「生物学的利用能」という用語は通常かつ通例の意味を含むが、FIXタンパク質が生物活性である程度を含めるためにより広い意味を有するようにも解釈される。FIXの場合、例えば「生物学的利用能」の1つの測定項目は、注入後に循環において得られるFIXタンパク質の凝固促進活性である。
【0072】
「翻訳後修飾」はその通常かつ通例の意味を有し、限定されるものではないが、リーダー配列の除去、グルタミン酸残基のγ-カルボキシル化、アスパラギン酸残基のβ-ヒドロキシル化、アスパラギン残基のN結合型グリコシル化、セリンおよび/またはトレオニン残基のO結合型グリコシル化、チロシン残基の硫酸化、セリン残基のリン酸化およびそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0073】
本明細書で使用される「生物学的活性」は、例えばヒト血漿に由来するか組換えで産生された標準物質を参照して決定する。FIXの場合、標準物質はBeNEFIX(登録商標)(Pfizer社)またはMONONINE(登録商標)(CSL Behring社)であってもよい。標準物質の生物学的活性は100%であるとみなす。
【0074】
本明細書で使用される「第IX因子タンパク質」または「FIXタンパク質」という用語は、野生型FIXタンパク質ならびに天然に生じるまたは人工のタンパク質を含む。本発明のFIXタンパク質は文献において公知であるようなFIXの変異型(例えばPadua変異)をさらに含むことができる。本発明のFIXタンパク質は、現在知られているか後に同定される任意の他の天然に生じるヒトFIXタンパク質または人工のヒトFIXタンパク質および当該技術分野で知られているその誘導体および活性断片/活性ドメインをさらに含む。
【0075】
複数の哺乳類生物種からのFIXのアミノ酸配列はジェンバンクなどの配列データベースから入手可能である。FIX配列の例は以下の表に記載されている。
【表4】
【0076】
本発明のFIXタンパク質はFIXの薬理活性形態をさらに含み、これは、シグナルペプチドが除去されており且つ当該タンパク質がプロテアーゼの作用によって(または核酸レベルでそれを除去することで当該タンパク質からそれを除去するように操作することによって)切断されて、ジスルフィド架橋によって連結されている2つの連続していないポリペプチド鎖を生じている、分子である。
【0077】
ヒトFIXタンパク質のアミノ酸配列は当該技術分野で周知であり、例えばジェンバンク受入番号AAB59620.1において見つけることができる。ヒトFIXタンパク質は461アミノ酸長であり、シグナルペプチド(残基1~46)、Glaドメイン(残基28~92)、EGFドメイン(残基93~129)およびトリプシンドメイン(残基226~454)からなる。
【0078】
「半減期」という用語は、通常かつ通例の意味ならびにFIXについての科学文献に見られる通常かつ通例の意味を含む広い用語である。特に、注入時に測定された最初の値から最初の値の半分まで減少する注入後の時間を定めるFIXに関連づけられたパラメータの測定値がこの定義に含まれる。いくつかの実施形態では、FIXの半減期は、当該技術分野で周知であり、かつ本明細書に記載されている様々な免疫学的検定においてFIXへの抗体を用いて血液および/または血液成分中で測定することができる。あるいは半減期は、当該技術分野で周知であり、かつ本明細書に記載されている標準的な凝固アッセイを含む機能アッセイを用いてFIX活性における減少として測定してもよい。
【0079】
本明細書で使用される「回収」という用語は、限定されるものではないが、その注入、注射、送達またはそれ以外の投与後にFIXのレベルを測定するために、生体試料(例えば血液または血液製剤試料)を取り出す最も早い実際の時間でレシピエント動物またはヒト対象(例えば循環)において検出されるFIX抗原レベルまたはFIXプロテアーゼもしくは凝固活性レベルを含む、任意の許容される方法によって測定されるFIXの量を含む。現在の方法論を用いた場合、FIXの回収を測定するための最も早い生物学的試料採取時間は典型的に、FIXの注入、注射または送達/それ以外の投与後の最初の15分以内であるが、科学的および/または臨床的技術が向上するにつれてより素早い試料採取時間を期待するのが当然である。本質的にFIXの回収値は、レシピエント動物または患者への注入、注射またはそれ以外の送達後の最も早い可能な時点でレシピエント(例えば循環)において測定することができる注入、注射またはそれ以外の方法で送達/投与されたFIXの最大の割合を表すことが本明細書において意図されている。
【0080】
本明細書で使用される「形質転換された」細胞は、限定されるものではないが組換えDNA技術を用いて構築されたFIXタンパク質ベクターなどの本発明のFIXタンパク質をコードする核酸分子で形質転換、形質導入および/またはトランスフェクトされている細胞である。
【0081】
本明細書で使用される「出血性疾患」という用語は、出血によって現れる細胞由来、生理的由来または分子由来の先天性、後天性または誘導性のあらゆる欠陥を反映している。その例は、凝固因子の欠損(例えば、血友病AおよびBまたは凝固第XI、VII、VIIIもしくはIX因子の欠損)、凝固因子インヒビター、血小板機能不全、血小板減少症、フォンウィルブランド病、または外科手術もしくは外傷によって誘導される出血である。
【0082】
過剰な出血は、正常に機能している血液凝固カスケード(凝固因子欠損が存在しないか凝固因子のどれに対してもインヒビターが存在しない)を有する対象においても生じ、血小板機能不全、血小板減少症またはフォンウィルブランド病によって引き起こされる場合がある。そのような場合、止血系が血友病と同様に必須凝固「化合物」(血小板またはフォンウィルブランド因子タンパク質など)を欠いているかそれらが異常であり、それにより大量出血が引き起こされるという理由から、その出血は血友病によって引き起こされる出血にたとえられる場合がある。外科手術または外傷に関連する広範囲な組織損傷を経験している対象では、正常な止血機構が即座止血という要求に圧倒されることがあり、それらは正常な止血機構にも関わらず出血を生じさせることがある。十分な止血を達成させることは、出血が外科的止血の可能性が限られている脳、内耳領域および眼などの器官において生じる場合にも問題となる。同じ問題が様々な器官(肝臓、肺、腫瘍組織、胃腸管)から生検を行うプロセスならびに腹腔鏡下外科手術において生じ得る。全てのこれらの状況で共通していることは、外科技術(縫合糸、クリップなど)による止血を提供することが難しいことであり、出血が拡散した場合(出血性胃炎および大量の子宮出血)もそうである。急性および大量の出血は、抗凝固療法を受けている対象であって、不完全な止血が所与の治療法によって誘導されている対象においても生じる場合がある。そのような対象は、抗凝固効果に素早く対抗しなければならない場合には外科的介入を必要とする場合がある。根治的恥骨後式前立腺摘除術は限局性前立腺癌を有する対象のためによく行われている処置である。その手術は顕著かつ時には大量の失血によって複雑化することが非常に多い。前立腺切除術中のかなりの失血は主に、外科的止血のために容易にアクセス可能でない様々な高密度に血管がある部位を有し、かつ広い面積からびまん性出血を生じさせ得る複雑な解剖学的状況に関係している。また、脳内出血は脳卒中の治療可能性が最も低い形態であり、脳内出血後の最初の数時間において高い死亡率および血腫増大を伴う。不十分な止血の場合に問題を生じ得る別の状況は、正常な止血機構を有する対象に抗凝固療法を与えて血栓塞栓性疾患を予防する場合である。そのような治療法としては、ヘパリンすなわちプロテオグリカンの他の形態、ワルファリンすなわちビタミンK拮抗薬の他の形態ならびにアスピリンおよび他の血小板凝集阻害剤を挙げることができる。
【0083】
本発明の一実施形態では、出血は血友病に関連している。別の実施形態では、出血は後天性インヒビターを有する血友病に関連している。別の実施形態では、出血は血小板減少症に関連している。別の実施形態では、出血はフォンウィルブランド病に関連している。別の実施形態では、出血は深刻な組織損傷に関連している。別の実施形態では、出血は深刻な外傷に関連している。別の実施形態では、出血は外科手術に関連している。別の実施形態では、出血は腹腔鏡下外科手術に関連している。別の実施形態では、出血は出血性胃炎に関連している。別の実施形態では、出血は大量の子宮出血である。別の実施形態では、出血は機械的止血の可能性が限られている器官で生じる。別の実施形態では、出血は脳、内耳領域または眼において生じる。別の実施形態では、出血は生検を採取するプロセスに関連している。別の実施形態では、出血は抗凝固療法に関連している。
【0084】
本発明の「対象」は、対象へのFIXの投与によって治療、寛解または予防することができる出血の制御が必要および/または所望される出血性疾患または出血病(血友病Bおよび後天性FIX欠損(例えば、FIXに対する自己抗体または血液学的悪性腫瘍が原因)など)を有しているかそれらにかかりやすいあらゆる動物を含む。そのような対象は一般に、哺乳類対象(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、霊長類などの実験動物)、農場用もしくは商業用動物(例えば、ウシ、ウマ、ヤギ、ロバ、ヒツジなど)、または家庭用動物(例えば、ネコ、イヌ、フェレットなど)である。特定の実施形態では、対象は霊長類対象、非ヒト霊長類対象(例えば、チンパンジー、ヒヒ、サル、ゴリラなど)またはヒトである。本発明の対象は、制御が必要および/または所望される出血性疾患または出血病のリスクにあることが知られているかそのように考えられている対象であってもよい。あるいは、本発明に係る対象は、制御が必要または所望されている出血性疾患または出血病のリスクにあることが以前から知られていたり疑われていたりしない対象も含むことができる。さらなる選択肢として、対象は疾患の実験動物および/または動物モデルであってもよい。
【0085】
対象は、新生児、若年、成人および老年対象を含むあらゆる年齢の男性および/または女性を含む。ヒト対象に関して代表的な実施形態では、対象は乳児(例えば、約12ヶ月、10ヶ月、9ヶ月、8ヶ月、7ヶ月、6ヶ月未満またはそれ以下)、幼児(例えば、少なくとも約12、18または24ヶ月および/または約36、30または24ヶ月未満)、または小児(例えば、少なくとも約1、2、3、4または5歳および/または約14、12、10、8、7、6、5または4歳未満)であってもよい。本発明の実施形態では、対象は約0~3、4、5、6、9、12、15、18、24、30、36、48または60ヶ月齢、約3~6、9、12、15、18、24、30、36、48または60ヶ月齢、約6~9、12、15、18、24、30、36、48または60ヶ月齢、約9~12、15、18、24、30、36、48または60ヶ月齢、約12~18、24、36、48または60ヶ月齢、約18~24、30、36、48または60ヶ月齢あるいは約24~30、36、48または60ヶ月齢であるヒト対象である。
【0086】
プロモーターおよび発現カセット
本発明の一態様は、合成の肝臓特異的プロモーターを含むポリヌクレオチドに関し、本プロモーターは、配列番号1のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列を含むか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。いくつかの実施形態では当該ヌクレオチド配列は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一である。本プロモーターは、目的のポリヌクレオチドの肝臓特異的発現のために理想的な短く(200塩基対未満)、かつ強力な肝臓特異的プロモーターであり、かつその短い長さおよびAAVベクターの限られた容量によりAAVベクターに使用するのに特に適している。本プロモーターは、保存された基本プロモーターエレメントおよび転写開始部位を含むように設計した。基本プロモーターは、肝臓特異的発現のためにその5’末端において多くの肝臓特異的転写因子結合部位に連結させる(図1)。本プロモーターは、ルシフェラーゼレポーター遺伝子およびヒト肝癌細胞株Huh7におけるトランスフェクション実験を用いて最初にインビトロで同定し、次いでマウスにおいてインビボで確認した際に高い活性を示す。
【0087】
本プロモーターは目的のポリヌクレオチドに作動可能に連結させてもよい。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドはポリペプチドまたは機能性核酸をコードする。特定の実施形態では、目的のポリヌクレオチドは凝固因子、例えばFVIXをコードする。いくつかの実施形態では、FIXをコードするポリヌクレオチド配列はヒトにおける発現のためにコドンが最適化されている。特定の実施形態では、コドン最適化配列は、配列番号14~16のうちの1つと少なくとも90%同一の配列、例えば配列番号14~16のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。いくつかの実施形態では、FIXをコードするポリヌクレオチド配列は、当該技術分野で知られている変異または配列変化を含むFIX配列をコードする。一例では、第IX因子コード配列は、R338L変異(Padua変異)またはその部位における他の変異(ヒト第IX因子に関する番号付け)を生じさせるミスセンス変異を含む。
【0088】
いくつかの実施形態では、本ポリヌクレオチドは、本プロモーターと目的のポリヌクレオチドとの間に合成の5’非翻訳領域(5’UTR)をさらに含む。合成の5’UTRは、配列番号3のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列、例えば、配列番号3のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含んでいても、本質的にそれからなっていても、あるいはそれからなっていてもよい。いくつかの実施形態では、合成の5’UTRは合成のイントロンを含む。合成のイントロンは、配列番号13のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列、例えば、配列番号13のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含んでいても、本質的にそれからなっていても、あるいはそれからなっていてもよい。いくつかの実施形態では、合成の5’UTRおよび合成のイントロンは、配列番号4のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列、例えば、配列番号4のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。特定の実施形態では、本プロモーター、合成の5’UTRおよび合成のイントロンは、配列番号2のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列、例えば、配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。
【0089】
いくつかの実施形態では、本発明のプロモーターまたは任意のプロモーターに連結された目的のポリヌクレオチドは合成のイントロンを含む。いくつかの実施形態では、合成のイントロンは、配列番号5のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列、例えば、配列番号5のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。
【0090】
特定の実施形態では、目的のポリヌクレオチドはコドン最適化第IX因子コード配列であり、コドン最適化第IX因子コード配列および合成のイントロンは一緒に、配列番号6、7もしくは8のうちの1つのヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列、例えば、配列番号6、7もしくは8のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。
【0091】
特定の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドのいずれかをポリアデニル化部位、例えば双方向ポリアデニル化部位に作動可能に連結させてもよい。いくつかの実施形態では、ポリアデニル化部位は、配列番号9のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列、例えば、配列番号9のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。
【0092】
本発明の別の態様は、ヒトにおける発現のためにコドンが最適化されているヒト第IX因子をコードするポリヌクレオチドに関する。特定の実施形態では、コドン最適化配列は、配列番号14~16のうちの1つと少なくとも90%同一の配列、例えば、配列番号14~16のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。いくつかの実施形態では、コドン最適化配列は合成のイントロンを含む。いくつかの実施形態では、合成のイントロンは、配列番号5のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列、例えば、配列番号5のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。特定の実施形態では、コドン最適化第IX因子コード配列および合成のイントロンは一緒に、配列番号6、7もしくは8のうちの1つのヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列、例えば、配列番号6、7もしくは8のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。
【0093】
特定の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドのいずれかは、発現カセット、例えば任意の組み合わせおよび任意の順番でプロモーター、5’UTR、目的のポリヌクレオチド、1つ以上の合成のイントロンおよび/またはポリアデニル化部位を圧縮しているカセットの形態であってもよい。いくつかの実施形態では、発現カセットは、配列番号10、11もしくは12のうちの1つのヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列、例えば、配列番号10、11もしくは12のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。
【0094】
本発明の別の態様は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、例えば発現ベクターである。当該ベクターは限定されるものではないが、プラスミドベクターおよびウイルスベクターなどの当該技術分野で知られている任意の種類のベクターであってもよい。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターはレトロウイルスまたはレンチウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、限定されるものではないがAAV1型、AAV2型、AAV3型(3A型および3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、AAV12型、トリのAAV、ウシのAAV、イヌのAAV、ウマのAAVおよびヒツジのAAVならびに現在知られているか後に発見される任意の他のAAVを含む任意の公知のAAV血清型からのAAVベクターである。いくつかの実施形態では、AAVベクターはAAV8またはAAV9である。
【0095】
本発明のさらなる態様は、本発明のポリヌクレオチドおよび/またはベクターを含む細胞(例えば、単離された細胞、形質転換細胞、組換え細胞、インビトロもしくはエクスビボ細胞など)に関する。従って、本発明の様々な実施形態はベクター(例えば、発現カセット)を含む組換え宿主細胞に関する。そのような細胞は単離されたものであってよく、かつ/またはトランスジェニック動物中に存在していてもよい。細胞の形質転換については以下にさらに記載されている。
【0096】
本発明の別の態様は、本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞を含むトランスジェニック非ヒト動物に関する。トランスジェニック動物については以下にさらに記載されている。
【0097】
本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または細胞は医薬組成物中に含まれていてもよい。いくつかの実施形態は、本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または細胞および/または試薬および/または例えば本発明の方法を実施するためのキットを使用するための説明書を含むキットに関する。
【0098】
本発明の方法
本発明のさらなる態様は、ポリペプチドまたは機能性核酸を例えば肝臓特異的に産生させるための本発明のプロモーター、最適化された配列および発現カセットの使用に関する。従って一態様は、対象に本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞を送達し、それにより対象の肝臓においてポリペプチドまたは機能性核酸を産生させることを含む、対象の肝臓においてポリペプチドまたは機能性核酸を産生させる方法に関する。本ポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞を目的のポリヌクレオチドの発現が生じる条件下で送達してポリペプチドまたは機能性核酸を産生させる。そのような条件は当該技術分野で周知であり、以下にさらに記載されている。
【0099】
本発明の別の態様は、対象に治療的有効量の本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞を送達し、それにより対象における血友病Bまたは後天性第IX因子欠損症を治療することを含む、本発明のプロモーター、最適化された配列および発現カセットを用いて対象における血友病Bまたは後天性第IX因子欠損症を治療する方法に関する。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは上に記載されているFIXポリペプチドをコードする。
【0100】
本発明のさらなる態様は、対象に有効量の本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞を送達し、それにより対象におけるFIXポリペプチドの生物学的利用能を高めることを含む、本発明のプロモーター、最適化された配列および発現カセットを用いて対象におけるFIXポリペプチドの生物学的利用能を高める方法に関する。この態様では、目的のポリヌクレオチドは上に記載されているFIXポリペプチドをコードしてもよい。
【0101】
本発明の一態様は、対象に本発明のFIXポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞を送達し、それにより対象の肝臓においてFIXを産生させることを含む、対象の肝臓においてFIXを産生させる方法に関する。
【0102】
本発明のさらなる態様は、対象に有効量の本発明のFIXポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換細胞送達し、それにより対象におけるFIXポリペプチドの生物学的利用能を高めることを含む、対象におけるFIXポリペプチドの生物学的利用能を高める方法に関する。
【0103】
本発明の方法に従って治療することができる出血性疾患としては、血友病Bおよび後天性FIX欠損症などのFIXで治療することができるあらゆる疾患が挙げられる。本発明のFIXタンパク質をコードするポリヌクレオチドを対象(例えば、それを必要とする対象)に投与または送達するためのそのような治療プロトコルおよび投与計画は当該技術分野で周知である。
【0104】
本発明の実施形態では、本発明のFIXタンパク質をコードするベクター(例えば、ウイルスベクターまたは他の核酸ベクター)の投与量は、FIXタンパク質の治療的血漿中濃度が達成されるような量であってもよい。FIXタンパク質の治療濃度は、平均100%で測定される、従って1mLの正常なヒト血漿中1国際単位(IU)のFIXである、健康な個体の正常なレベルの1%を超えるものとみなす。当業者であれば、所与の対象および所与の条件のために至適用量を決定することができるであろう。
【0105】
計画的な介入に関連する治療のために、本発明のFIXタンパク質を典型的には介入を行う前の約24時間以内に投与し、かつその後に7日間と同程度以上にわたって投与する。血液凝固薬としての投与は本明細書に記載されている様々な経路によるものであってもよい。
【0106】
本医薬組成物は主に予防および/または治療処置のための非経口投与を目的としている。好ましくは、本医薬組成物は非経口、すなわち静脈内、皮下または筋肉内に投与するか、あるいは連続もしくは脈動注入によって投与してもよい。あるいは、本医薬組成物は、限定されるものではないが、経口、皮下、静脈内、脳内、鼻腔内、経皮、腹膜内、筋肉内、肺内、膣内、直腸内、眼内または任意の他の許容される方法などの様々な方法での投与のために製剤化してもよい。
【0107】
非経口投与のための組成物は、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体と組み合わせた(例えばそれに溶解した)本発明のFIXタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を含む。水、緩衝用水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシンなどの様々な水性担体を使用してもよい。また本発明のFIXタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、メチオニンおよびスクロースなどの安定性および貯蔵を引き延ばす組成物と共に製剤化してもよい。本発明のFIXタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、外傷部位に送達または標的化するためにリポソーム調製物の中に製剤化することもできる。リポソーム調製物は一般に、例えば米国特許第4,837,028号、第4,501,728号および第4,975,282号に記載されている。本組成物は従来の周知の滅菌技術によって滅菌してもよい。得られた水溶液を使用のために包装するか、無菌条件下で濾過し、かつ凍結乾燥してもよく、凍結乾燥した調製物を投与前に無菌水溶液と組み合わせる。本組成物は、pH調節剤、緩衝剤、等張化剤、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどの、生理的条件に近づけるために必要な薬学的に許容される補助物質を含有していてもよい。本組成物は防腐剤、等張化剤、非イオン性界面活性剤または界面活性剤、抗酸化剤および/または他の種々の添加剤も含有していてもよい。
【0108】
これらの製剤中のFIXタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞の濃度は大きく異なってもよく、すなわち約0.5重量%、通常は約1重量%または少なくとも約1重量%未満から約15または20重量%と同程度の値までの間で異なってもよく、選択された特定の投与様式に従って、主に流体体積や粘性などによって選択する。非経口で投与可能な組成物の実際の調製方法は当業者に公知であるか明らかであり、例えば「レミントンの製薬科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences),第21版,Mack Publishing Company,ペンシルベニア州イーストン(2005)」においてより詳細に記載されている。
【0109】
本発明のFIXタンパク質をコードする核酸分子、ベクターまたは細胞を含む組成物は、予防および/または治療処置のために投与することができる。治療用途では、組成物は上記のような疾患に既に罹患している対象に当該疾患およびその合併症を治癒させるか軽減するか部分的に停止させるのに十分な量で投与する。これを達成するのに適切な量を「治療的有効量」として定める。当業者によって理解されるように、この目的のために有効な量は、疾患または外傷の重症度ならびに対象の体重および健康状態によって決まる。
【0110】
予防用途では、本発明のFIXタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を含有する組成物は、疾患状態または外傷を生じやすいかそれ以外にそれらのリスクがある対象に投与して対象自身の凝固能力を高める。そのような量を「予防的に有効な用量」であると定める。予防用途での正確な量は、この場合も対象の健康状態および体重によって決まる。
【0111】
本組成物の単回もしくは複数回投与は、治療している医師によって選択される用量レベルおよびパターンで実施することができる。日常管理レベルを必要とする外来患者の場合、本FIXタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、例えば携帯可能なポンプシステムを用いて持続注入によって投与してもよい。
【0112】
また本発明のFIXタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、徐放または持続放出製剤として製剤化してもよい。徐放または持続放出組成物の製剤方法は当該技術分野で知られており、限定されるものではないが、本ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を含有する固体の疎水性粒子の半透性マトリックスが挙げられる。
【0113】
本発明のFIXタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞の例えば局所塗布などの局所送達は、例えば、スプレー、灌流、ダブルバルーンカテーテル、ステントを用いるか、人工血管もしくはステントに組み込むか、バルーンカテーテルを被覆するために使用されるヒドロゲルまたは他の十分に確立されている方法を用いて実施してもよい。いずれの場合も、本医薬組成物は対象を有効に治療するのに十分なFIXタンパク質の量を提供するものでなければならない。
【0114】
いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチド(例えばFIXタンパク質)はAAVベクターを用いて対象に送達する。従って本発明は、目的のポリヌクレオチドを含むAAVウイルス粒子(すなわちビリオン)も提供し、ここでは当該ウイルス粒子は、ベクターゲノム、任意にAAVベクターゲノムをパッケージングする(すなわち、キャプシド化する)。
【0115】
特定の実施形態では、当該ウイルス粒子は、例えば細胞への送達のために目的の異種ポリヌクレオチドを含む組換えベクターである。従って本発明は、インビトロ、エクスビボおよびインビボでポリヌクレオチドを細胞に送達するのに有用である。代表的な実施形態では、本発明の組換えベクターは有利には、ポリヌクレオチドを動物(例えば哺乳類)細胞に、例えば本発明の肝臓特異的プロモーターを用いる場合には肝細胞に送達または移動させるために用いることができる。
【0116】
あらゆる異種ヌクレオチド配列を本発明のウイルスベクターによって送達してもよい。目的のポリヌクレオチドとしては、ポリペプチド、任意に治療用(例えば医学的もしくは獣医学的使用のための)および/または免疫原性(例えばワクチンのための)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
【0117】
治療用ポリペプチドとしては、限定されるものではないが、嚢胞性線維症膜貫通調節因子(CFTR)タンパク質、ジストロフィン(ジストロフィンミニ遺伝子もしくはマイクロ遺伝子のタンパク質産物を含む、例えば、Vincentら,(1993)Nature Genetics 5:130;米国特許出願公開第2003017131号;Wangら,(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13714-9[ミニジストロフィン];Harperら,(2002)Nature Med.8:253-61[マイクロジストロフィン])、ミニアグリン、ラミニン-α2、サルコグリカン(α、β、γもしくはδ)、フクチン関連タンパク質、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、ドミナントネガティブなミオスタチン、血管新生因子(例えば、VEGF、アンジオポエチン-1もしくは2)、抗アポトーシス因子(例えば、ヘムオキシゲナーゼ-1、TGF-β、カスパーゼなどのアポトーシス促進性シグナル阻害因子、プロテアーゼ、キナーゼ、死受容体[例えば、CD-095]、チトクロームC放出調節因子、ミトコンドリアの孔の開口および膨張阻害因子)、アクチビンII型可溶性受容体、Ikappa B優性変異体などの抗炎症性ポリペプチド、サルコスパン、ユートロフィン、ミニユートロフィン、ミオスタチンもしくはミオスタチンプロペプチドに対する抗体もしくは抗体断片、細胞周期調節因子、修飾された細菌性C3細胞外酵素であるCethrinなどのRhoキナーゼ調節因子[BioAxone Therapeutics社(カナダケベック州サンローラン)から入手可能]、BCL-xL、BCL2、XIAP、FLICEc-s、ドミナントネガティブなカスパーゼ-8、ドミナントネガティブなカスパーゼ-9、SPI-6(例えば米国特許出願公開第20070026076号を参照)、転写因子PGC-α1、Pinch遺伝子、ILK遺伝子およびサイモシンβ4遺伝子)、凝固因子(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子など)、エリスロポエチン、アンジオスタチン、エンドスタチン、カタラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、細胞内および/または細胞外スーパーオキシドディスムターゼ、レプチン、LDL受容体、ネプリライシン、リポタンパク質リパーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、β-グロビン、α-グロビン、スペクトリン、α-アンチトリプシン、メチルシトシン結合タンパク質2、アデノシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼA、分岐鎖ケト酸脱水素酵素、RP65タンパク質、サイトカイン(例えば、α-インターフェロン、β-インターフェロン、インターフェロン-γ、インターロイキン1~14、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、リンフォトキシンなど)、ペプチド増殖因子、神経栄養因子およびホルモン(例えば、ソマトトロピン、インスリン、IGF-1およびIGF-2を含むインスリン様増殖因子、GLP-1、血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、神経栄養因子3および4、脳由来神経栄養因子、グリア由来増殖因子、形質転換増殖因子αおよびβなど)、骨形成タンパク質(RANKLおよびVEGFを含む)、リソソームタンパク質、グルタミン酸受容体、リンフォカイン、可溶性CD4、Fc受容体、T細胞受容体、ApoE、ApoC、プロテインホスファターゼ阻害剤1の阻害剤1(I-1)、ホスホランバン、serca2a、リソソーム酸α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼA、Barkct、β2-アドレナリン受容体、β2-アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、ホスホイノシチド-3キナーゼ(PI3キナーゼ)、カルサルチン(calsarcin)、受容体(例えば、腫瘍壊死増殖因子α可溶性受容体)、IRAPなどの抗炎症因子、Pim-1、PGC-1α、SOD-1、SOD-2、ECF-SOD、カリクレイン、サイモシン-β4、低酸素誘導転写因子[HIF]、血管新生因子、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、切断型構成的活性化型bARKctなどのGタンパク質共役受容体キナーゼ2型ノックダウンに影響を与える分子、ホスホランバンS16Eなどのホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブな分子、モノクローナル抗体(一本鎖モノクローナル抗体を含む)または自殺遺伝子産物(例えば、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素、およびTNF-αなどの腫瘍壊死因子)、ならびにそれを必要とする対象において治療効果を有する任意の他のポリペプチドが挙げられる。
【0118】
ポリペプチドをコードする異種ヌクレオチド配列としては、レポーターポリペプチド(例えば酵素)をコードする配列が挙げられる。レポーターポリペプチドは当該技術分野で知られており、限定されるものではないが、蛍光タンパク質(例えば、EGFP、GFP、RFP、BFP、YFPまたはdsRED2)、ルシフェラーゼ(例えば、ガウシア(Gaussia)、ウミシイタケ(Renilla)またはホタル(Photinus)由来)、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、アルカリホスファターゼ、およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子または直接検出することができるタンパク質などの検出可能な産物を産生する酵素が挙げられる。実質的にあらゆるタンパク質を例えば当該タンパク質に特異的な抗体を用いて直接検出することができる。真核細胞のポジティブもしくはネガティブ選択のいずれかに適したさらなるマーカー(および関連する抗生物質)がSambrookおよびRussell(2001),Molecular Cloning,第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,およびAusubelら(1992),分子生物学における現在のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology),John Wiley&Sons(定期的更新を含む)に開示されている。
【0119】
あるいは異種核酸は、機能性RNA、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載されているようなもの)、スプライソソーム媒介トランススプライシングに影響を与えるRNA(Puttarajuら,(1999)Nature Biotech.17:246;米国特許第6,013,487号;米国特許第6,083,702号を参照)、遺伝子サイレンシングを媒介する低分子干渉RNA(siRNA)を含む干渉RNA(RNAi)(Sharpら,(2000)Science 287:2431を参照)、ミクロRNA、または「ガイド」RNAなど他の非翻訳「機能性」RNA(Gormanら,(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:4929;Yuanらへの米国特許第5,869,248号)などをコードしてもよい。例示的な非翻訳RNAとしては、多剤耐性(MDR)遺伝子産物に対するRNAiまたはアンチセンスRNA(例えば、腫瘍を治療するため、および/または化学療法による損傷を予防するために心臓に投与するため)、ミオスタチンに対するRNAiまたはアンチセンスRNA(デュシェンヌ型もしくはベッカー型筋ジストロフィー)、VEGFまたは限定されるものではないが具体的に本明細書に記載されている腫瘍免疫原などの腫瘍免疫原に対するRNAiまたはアンチセンスRNA(腫瘍を治療するため)、変異型ジストロフィン(デュシェンヌ型もしくはベッカー型筋ジストロフィー)を標的にするRNAiまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド、B型肝炎表面抗原遺伝子に対するRNAiまたはアンチセンスRNA(B型肝炎感染を予防および/または治療するため)、HIV tatおよび/またはrev遺伝子に対するRNAiまたはアンチセンスRNA(HIVを予防および/または治療するため)および/または病原体からの任意の他の免疫原に対するRNAiまたはアンチセンスRNA(対象を病原体から保護するため)または欠陥遺伝子産物(疾患を予防または治療するため)が挙げられる。上記標的または任意の他の標的に対するRNAiまたはアンチセンスRNAは研究試薬として用いることもできる。
【0120】
当該技術分野で知られているように、アンチセンス核酸(例えば、DNAまたはRNA)および抑制性RNA(例えば、ミクロRNAおよびsiRNAまたはshRNAなどのRNAi)配列を使用して、ジストロフィン遺伝子の欠陥により生じる筋ジストロフィーを有する患者において「エクソンスキッピング」を誘導することができる。従って、異種核酸は、適当なエクソンスキッピングを誘導するアンチセンス核酸または抑制性RNAをコードすることができる。当業者であれば、エクソンスキッピングに対する特定の手法はジストロフィン遺伝子における根底にある欠陥の性質によって決まり、かつ数多くのそのような戦略が当該技術分野で知られていることを理解しているであろう。例示的なアンチセンス核酸および抑制性RNA配列は、ジストロフィンエクソンの1つ以上(例えば、エクソン19または23)の上流の分岐点および/または下流ドナースプライス部位および/または内部スプライシングエンハンサー配列を標的にする。例えば、特定の実施形態では、異種核酸は、ジストロフィン遺伝子のエクソン19または23の上流の分岐点および下流のスプライスドナー部位に対するアンチセンス核酸または抑制性RNAをコードする。そのような配列は、修飾されたU7 snRNAおよびアンチセンス核酸または抑制性RNAを送達するAAVベクターの中に組み込むことができる(例えば、Goyenvalleら,(2004)Science 306:1796-1799を参照)。別の戦略として、修飾されたU1 snRNAは、ジストロフィンエクソンの上流および下流スプライス部位(例えば、エクソン19または23)に相補的なsiRNA、ミクロRNAまたはアンチセンスRNAと共にAAVベクターの中に組み込むことができる(例えば、Dentiら,(2006)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:3758-3763を参照)。さらにアンチセンス核酸および抑制性RNAは、エクソン19、43、45または53内のスプライシングエンハンサー配列を標的にすることができる(例えば、米国特許第6,653,467号、米国特許第6,727,355号および米国特許第6,653,466号を参照)。
【0121】
リボザイムは部位特異的に核酸を切断するRNA-タンパク質複合体である。リボザイムはエンドヌクレアーゼ活性を有する特異的触媒ドメインを有する(Kimら,(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:8788;Gerlachら,(1987)Nature 328:802;ForsterおよびSymons,(1987)Cell 49:211)。例えば、多数のリボザイムが高い程度の特異性でリン酸エステル転移反応を促進し、多くの場合、オリゴヌクレオチド基質内のいくつかのリン酸エステルのうちの1つのみを切断する(MichelおよびWesthof,(1990)J.Mol.Biol.216:585;Reinhold-HurekおよびShub,(1992)Nature 357:173)。この特異性は、当該基質が特異的塩基対相互作用を介して化学反応前にリボザイムの内部ガイド配列(「IGS」)に結合するという要求に起因している。
【0122】
リボザイム触媒は主に、核酸に関わる配列特異的切断/連結反応の一部として観察されてきた(Joyce,(1989)Nature 338:217)。例えば、米国特許第5,354,855号は、特定のリボザイムが公知のリボヌクレアーゼの特異性よりも大きく、かつDNA制限酵素の特異性に近づく配列特異性を有するエンドヌクレアーゼとして機能することができることを報告している。従って、配列特異的リボザイムによって媒介される核酸発現の阻害は治療用途に特に適し得る(Scanlonら,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:10591;Sarverら,(1990)Science 247:1222;Sioudら,(1992)J.Mol.Biol.223:831)。
【0123】
ミクロRNA(mir)は、mRNAの安定性を制御することによって複数の遺伝子の発現を調節することができる天然の細胞のRNA分子である。特定のミクロRNAの過剰発現または減少を使用して機能不全を治療することができ、それが多くの疾患状態および疾患の動物モデルにおいて有効であることが分かった(例えば、Couzin,(2008)Science 319:1782-4を参照)。キメラAAVを使用して、遺伝性および後天性疾患を治療するためにミクロRNAを細胞、組織および対象の中に送達するか、特定の組織の機能性を高め、かつその増殖を促進することができる。例えば、mir-1、mir-133、mir-206および/またはmir-208を使用して心疾患および骨格筋疾患を治療することができる(例えば、Chenら,(2006)Genet.38:228-33;van Rooijら,(2008)Trends Genet.24:159-66)。ミクロRNAを使用して遺伝子送達後に免疫系を調節することもできる(Brownら,(2007)Blood 110:4144-52を参照)。
【0124】
本明細書で使用される「アンチセンスオリゴヌクレオチド」(「アンチセンスRNA」を含む)という用語は、指定のDNAもしくはRNA配列に相補的であり、かつそれらと特異的にハイブリダイズする核酸を指す。アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびそれをコードする核酸は従来の技術に従って調製することができる。例えば、Tullisへの米国特許第5,023,243号;Pedersonらへの米国特許第5,149,797号を参照されたい。
【0125】
当業者であれば、配列類似性の程度が、アンチセンスヌクレオチド配列がその標的(上に定義されている)に特異的にハイブリダイズし、かつタンパク質産物の産生を(例えば、少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%以上で)減少させるのに十分である限り、アンチセンスオリゴヌクレオチドが標的配列に完全に相補的であることを必要としないことを理解しているであろう。
【0126】
ハイブリダイゼーションの特異性を決定するために、そのようなオリゴヌクレオチドの標的配列へのハイブリダイゼーションは、低い厳密性、中程度の厳密性条件下またはさらには厳しい条件下で行うことができる。低い、中程度および厳しいハイブリダイゼーション条件を達成するのに適した条件は本明細書に記載されているとおりである。
【0127】
別の言い方をすれば、特定の実施形態では本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは標的配列の補体と少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%またはそれらよりも高い配列同一性を有し、かつタンパク質産物(上に定義されている)の産生を減少させる。いくつかの実施形態では、アンチセンス配列は標的配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のミスマッチを含む。
【0128】
核酸配列の同一性の割合を決定する方法は、本明細書のどこかにより詳細に記載されている。
【0129】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さは、それが意図されている標的に特異的にハイブリダイズし、かつタンパク質産物(上に定義されている)の産生を減少させ、かつ日常的な手順に従って決定することができる限り重要ではない。一般にアンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも約8、10または12または15のヌクレオチド長であり、かつ/または約20、30、40、50、60、70、80、100または150未満のヌクレオチド長である。
【0130】
RNA干渉(RNAi)は、タンパク質産物(例えばshRNAまたはsiRNA)の産生を減少させるための別の有用な手法である。RNAiは転写後遺伝子サイレンシングの機構であり、ここでは目的の標的配列に対応する二本鎖RNA(dsRNA)が細胞または生物に導入され、対応するmRNAの分解が生じる。RNAiが遺伝子サイレンシングを達成する機構は、Sharpら,(2001)Genes Dev 15:485-490およびHammondら,(2001)Nature Rev.Gen.2:110-119において再考されている。RNAi効果は、遺伝子発現を回復させる前に複数の細胞分裂のために持続する。従ってRNAiは、RNAレベルで標的化ノックアウトまたは「ノックダウン」を行うための強力な方法である。RNAiはヒト胎児腎臓およびHeLa細胞を含むヒト細胞において成功することが分かっている(例えば、Elbashirら,Nature(2001)411:494-8を参照)。
【0131】
哺乳類細胞にRNAiを使用する最初の試みにより、dsRNA分子に応答するPKRを含む抗ウイルス防御機構が生じた(例えば、Gilら,(2000)Apoptosis 5:107を参照)。それ以後、「短い干渉RNA」(siRNA)として知られている約21のヌクレオチドからなる短い合成のdsRNAは、抗ウイルス応答を誘発することなく哺乳類細胞においてサイレンシングを媒介できることが実証されている(例えば、Elbashirら,Nature(2001)411:494-8;Caplenら,(2001)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 98:9742を参照)。
【0132】
RNAi分子(siRNA分子を含む)は低分子ヘアピン型RNA(shRNA;Paddisonら,(2002),Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:1443-1448を参照)であってもよく、これは20~25merのsiRNA分子に分解する酵素ダイサーのようなリボヌクレアーゼIIIの作用によって細胞において処理されると考えられている。shRNAは一般に、ループアウトする短いスペーサ配列によって2つの逆方向反復配列が分離されているステムループ構造を有する。3~23の範囲のヌクレオチド長のループを有するshRNAが報告されている。ループ配列は一般に重要でない。例示的なループ配列としては、以下のモチーフ:AUG、CCC、UUCG、CCACC、CTCGAG、AAGCUU、CCACACCおよびUUCAAGAGAが挙げられる。
【0133】
RNAiは、センス領域とアンチセンス領域との間にdsRNAが形成されると「ダンベル」状の構造を形成するように、一方の側に2つのループ領域を有するセンスおよびアンチセンス領域を含む環状分子をさらに含むことができる。この分子はインビトロまたはインビボで処理されてdsRNAの一部、例えばsiRNAを放出することができる。
【0134】
国際特許出願の国際公開第01/77350号は、真核細胞において異種配列のセンスおよびアンチセンス転写物の両方を産生させるための双方向転写のためのベクターについて記載している。この技術を用いて本発明に係る使用のためにRNAiを産生させることができる。
【0135】
Shinagawaら,(2003)Genes Dev.17:1340は、CMVプロモーター(pol IIプロモーター)から長いdsRNAを発現させる方法を報告し、この方法は組織特異的pol IIプロモーターにも適用可能である。同様に、Xiaら,(2002)Nature Biotech.20:1006の手法は、ポリ(A)テーリング(poly(A) tailing)を回避し、かつ組織特異的プロモーターに関連して使用することができる。
【0136】
RNAiを産生させる方法としては、化学合成、インビトロ転写、ダイサーによる長いdsRNAの消化(インビトロまたはインビボ)、送達ベクターからのインビボでの発現、およびPCR由来RNAi発現カセットからのインビボでの発現(例えば、Ambion社(テキサス州オースティン)からのTechNotes 10(3)「siRNAを産生させるための5つの方法(Five Ways to Produce siRNAs)」を参照;www.ambion.comにおいて入手可能)が挙げられる。
【0137】
siRNA分子を設計するためのガイドラインは入手可能である(例えば、テキサス州オースティンのAmbion社からの文献を参照;www.ambion.comにおいて入手可能)。特定の実施形態では、siRNA配列は約30~50%のG/C含有量を有する。さらに、RNAポリメラーゼIIIを使用してRNAを転写する場合、4つのTまたはA残基よりも大きい長いストレッチは一般に回避される。オンラインsiRNAターゲットファインダーは、例えばAmbion社(www.ambion.com)から、Whitehead Institute of Biomedical Research(www.jura.wi.mit.edu)を通して、あるいはDharmacon Research社(www.dharmacon.com)から入手可能である。
【0138】
RNAi分子のアンチセンス領域は標的配列に完全に相補的であってもよいが、それが標的配列(上に定義されている)に特異的にハイブリダイズし、かつタンパク質産物の産生を(例えば、少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれ以上で)減少させる限り、そうである必要はない。いくつかの実施形態では、そのようなオリゴヌクレオチドの標的配列へのハイブリダイゼーションは、上に定義されている低い厳密性、中程度の厳密性条件下またはさらには厳しい条件下で行うことができる。
【0139】
他の実施形態では、RNAiのアンチセンス領域は、標的配列の補体と少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%またはそれよりも高い配列同一性を有し、かつタンパク質産物の産生を(例えば、少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれ以上で)減少させる。いくつかの実施形態では、アンチセンス領域は標的配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のミスマッチを含む。ミスマッチは一般にdsRNAの中心部分よりも末端においてより許容される。
【0140】
特定の実施形態では、RNAiは2つの別個のセンスおよびアンチセンス分子間で分子間複合体を形成することによって形成する。RNAiは、2つの別個の鎖間での分子内塩基対形成によって形成されるds領域を含む。他の実施形態では、RNAiは、典型的には逆方向反復としてセンスおよびアンチセンス領域の両方を含む単一の核酸分子(例えば、shRNAまたは他のステムループ構造または環状RNAi分子)内での分子内塩基対形成によって形成されるds領域を含む。RNAiは、センス領域とアンチセンス領域との間にスペーサ領域をさらに含むことができる。
【0141】
一般に、RNAi分子は非常に選択的である。所望であれば当業者は関連するデータベースを検索して、例えばBLAST(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTで入手可能である)を用いて他の公知の配列と大きな配列相同性を有しないRNAi配列を同定することによって、標的以外の核酸の発現を妨害する可能性があるRNAi候補を容易に除去することができる。
【0142】
RNAi産生のためのキットが、例えばNew England Biolabs社およびAmbion社から市販されている。
【0143】
また組換えウイルスベクターは、宿主染色体上の遺伝子座と相同性を共有し、かつそれと組み換える異種ヌクレオチド配列を含んでいてもよい。この手法を利用して宿主細胞における遺伝的欠陥を修正してもよい。
【0144】
本発明は、例えばワクチン接種のために免疫原性ポリペプチドを発現させる組換えウイルスベクターも提供する。異種核酸は、限定されるものではないが、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、gagタンパク質、腫瘍抗原、癌抗原、細菌性抗原、ウイルス抗原などからの免疫原を含む当該技術分野で知られているあらゆる目的の免疫原をコードしてもよい。あるいは、免疫原はウイルスキャプシドの中に入れて提供されても(例えば、そこに組み込まれていても)、ウイルスキャプシドに(例えば共有結合修飾によって)繋がれていてもよい。
【0145】
ワクチンとしてのパルボウイルスの使用が当該技術分野で知られている(例えば、Miyamuraら,(1994)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 91:8507;Youngらへの米国特許第5,916,563号、Mazzaraらへの第5,905,040号、米国特許第5,882,652号、Samulskiらへの米国特許第5,863,541号を参照;それらの開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)。抗原はウイルスキャプシドの中に入れて提供してもよい。あるいは、抗原は組換えベクターゲノムの中に導入された異種核酸から発現させてもよい。
【0146】
免疫原性ポリペプチドすなわち免疫原は対象を、限定されるものではないが微生物性、細菌性、原虫性、寄生虫性、真菌性およびウイルス性疾患などの疾患から保護するのに適した任意のポリペプチドであってもよい。例えば免疫原は、オルトミクソウイルス免疫原(例えば、インフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)表面タンパク質またはインフルエンザウイルス核タンパク質遺伝子またはウマインフルエンザウイルス免疫原などのインフルエンザウイルス免疫原)、あるいはレンチウイルス免疫原(例えば、ウマ伝染性貧血ウイルス免疫原、サル免疫不全ウイルス(SIV)免疫原またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)免疫原、例えば、HIVもしくはSIVエンベロープGP160タンパク質、HIVもしくはSIVマトリックス/キャプシドタンパク質およびHIVもしくはSIV gag、polおよびenv遺伝子産物)であってもよい。また免疫原は、アレナウイルス免疫原(例えば、ラッサ熱ウイルスヌクレオキャプシドタンパク質遺伝子およびラッサ熱エンベロープ糖タンパク質遺伝子などのラッサ熱ウイルス免疫原)、ポックスウイルス免疫原(例えば、ワクシニアL1もしくはL8遺伝子などのワクシニア)、フラビウイルス免疫原(例えば、黄熱病ウイルス免疫原または日本脳炎ウイルス免疫原)、フィロウイルス免疫原(例えば、NPおよびGP遺伝子などのエボラウイルス免疫原またはマールブルグウイルス免疫原)、ブニアウイルス免疫原(例えば、RVFV、CCHFおよびSFSウイルス)、またはコロナウイルス免疫原(例えば、ヒトコロナウイルスエンベロープ糖タンパク質遺伝子などの感染性ヒトコロナウイルス免疫原、またはブタ伝染性胃腸炎ウイルス免疫原、またはトリ伝染性気管支炎ウイルス免疫原、またはS[S1もしくはS2]、M、EもしくはNタンパク質またはその免疫原性断片などの重症急性呼吸器症候群(SARS)免疫原)であってもよい。さらに免疫原は、ポリオ免疫原、ヘルペス免疫原(例えば、CMV、EBV、HSV免疫原)、おたふく風邪免疫原、麻疹免疫原、風疹免疫原、ジフテリア毒素もしくは他のジフテリア免疫原、百日咳抗原、肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎もしくはC型肝炎)免疫原、あるいは当該技術分野で知られている任意の他のワクチン免疫原であってもよい。
【0147】
あるいは、免疫原は任意の腫瘍もしくは癌細胞抗原であってもよい。任意に、腫瘍もしくは癌抗原を癌細胞の表面で発現させる。例示的な癌および腫瘍細胞抗原は、S.A.Rosenberg,(1999)Immunity 10:281に記載されている。例示的な癌および腫瘍抗原としては、限定されるものではないが、BRCA1遺伝子産物、BRCA2遺伝子産物、gp100、チロシナーゼ、GAGE-1/2、BAGE、RAGE、NY-ESO-1、CDK-4、β-カテニン、MUM-1、カスパーゼ-8、KIAA0205、HPVE、SART-1、PRAME、p15、黒色腫腫瘍抗原(Kawakamiら,(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3515;Kawakamiら,(1994)J.Exp.Med.,180:347;Kawakamiら,(1994)Cancer Res.54:3124)、例えばMART-1(Coulieら.,(1991)J.Exp.Med.180:35)、gp100(Wickら,(1988)J.Cutan.Pathol.4:201)およびMAGE抗原(MAGE-1、MAGE-2およびMAGE-3)(Van der Bruggenら,(1991)Science,254:1643)、CEA、TRP-1、TRP-2、P-15およびチロシナーゼ(Brichardら,(1993)J.Exp.Med.178:489)、HER-2/neu遺伝子産物(米国特許第4,968,603号)、CA125、HE4、LK26、FB5(エンドシアリン(endosialin))、TAG 72、AFP、CA19-9、NSE、DU-PAN-2、CA50、Span-1、CA72-4、HCG、STN(シアリルTn抗原)、c-erbB-2タンパク質、PSA、L-CanAg、エストロゲン受容体、乳脂グロブリン(milk fat globulin)、p53腫瘍抑制タンパク質(Levine,(1993)Ann.Rev.Biochem.62:623)、ムチン抗原(国際特許出願の国際公開第90/05142号)、テロメラーゼ、核マトリックスタンパク質、前立腺性酸性ホスファターゼ、乳頭腫ウイルス抗原、ならびに以下の癌:黒色腫、腺癌、胸腺腫、肉腫、肺癌、肝癌、結腸直腸癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、子宮癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、脳癌、腎臓癌、胃癌、食道癌、頭頸部癌およびそれ以外(例えば、Rosenberg,(1996)Annu.Rev.Med.47:481-91を参照)に関連する抗原が挙げられる。
【0148】
あるいは、異種ヌクレオチド配列は望ましくはインビトロ、エクスビボまたはインビボで細胞において産生されるあらゆるポリペプチドをコードしてもよい。例えば、ウイルスベクターを培養された細胞およびそこから単離された発現されたタンパク質産物の中に導入してもよい。
【0149】
目的の異種ポリヌクレオチドを適当な制御配列に作動可能に関連づけてもよいことが当業者によって理解されるであろう。例えば異種核酸を、転写/翻訳制御シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム侵入部位(IRES)、プロモーター、エンハンサーなどの発現制御エレメントに作動可能に関連づけてもよい。
【0150】
当業者であれば、所望のレベルおよび組織特異的発現に応じて様々なプロモーター/エンハンサーエレメントを使用し得ることをさらに理解しているであろう。本プロモーター/エンハンサーは所望の発現パターンに応じて構成的または誘導性であってもよい。本プロモーター/エンハンサーは在来のものでも外来のものであってもよく、かつ天然もしくは合成の配列であってもよい。外来とは、転写開始領域が転写開始領域が導入されている野生型宿主に存在しないことを意図する。
【0151】
プロモーター/エンハンサーエレメントは標的細胞に在来のものであっても処理に供したものであってもよく、かつ/または異種核酸配列に在来のものであってもよい。本プロモーター/エンハンサーエレメントは一般にそれが目的の標的細胞において機能するように選択する。代表的な実施形態では、本プロモーター/エンハンサーエレメントは哺乳類のプロモーター/エンハンサーエレメントである。本プロモーター/エンハンサーエレメントは構成的または誘導性であってもよい。
【0152】
誘導性発現制御エレメントは一般に、異種核酸配列の発現に対して調節を与えることが望ましい用途で使用される。遺伝子送達のための誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは組織特異的もしくは組織好適プロモーター/エンハンサーエレメントであってもよく、かつ筋肉特異的もしくは好適(心筋、骨格筋および/または平滑筋を含む)、神経組織特異的もしくは好適(脳特異的を含む)、眼(網膜特異的および角膜特異的を含む)、肝臓特異的もしくは好適、骨髄特異的もしくは好適、膵臓特異的もしくは好適、脾臓特異的もしくは好適、および肺特異的もしくは好適プロモーター/エンハンサーエレメントが挙げられる。他の誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントとしてはホルモン誘導性および金属誘導性エレメントが挙げられる。例示的な誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントとしては、限定されるものではないが、Tetオン/オフエレメント、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーターおよびメタロチオネインプロモーターが挙げられる。
【0153】
異種核酸配列が転写され、かつ次いで標的細胞の中に翻訳される実施形態では、特異的開始シグナルは一般に、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のために用いられる。ATG開始コドンおよび隣接する配列を含んでいてもよいこれらの外来性翻訳制御配列は様々な由来のものであってもよく、天然および合成のどちらであってもよい。
【0154】
本発明は本発明のウイルスベクターを産生する方法をさらに提供する。代表的な実施形態では、本発明は、インビトロで細胞に(a)(i)目的のポリヌクレオチドと、(ii)AAVテンプレートをウイルス粒子の中にキャプシド化するのに十分なパッケージングシグナル配列(例えば、AAV末端反復などの1つ以上の(例えば2つの)末端反復)とを含むテンプレートと、(b)テンプレートの複製およびウイルス粒子の中にキャプシド化するのに十分なAAV配列(例えば、AAV RepおよびAAV cap配列)とを提供することを含む、組換えウイルスベクターを産生する方法を提供する。当該テンプレートおよびAAV複製およびキャプシド配列は、キャプシドの中にパッケージングされた当該テンプレートを含む組換えウイルス粒子が細胞において産生されるような条件下で提供する。本方法は、細胞からウイルス粒子を回収する工程をさらに含むことができる。ウイルス粒子は培地から回収してもよく、かつ/または細胞を溶解することによって回収してもよい。
【0155】
例示的な一実施形態では、本発明は、細胞にインビトロでAAVキャプシドをコードする核酸、AAV Repコード配列、目的のポリヌクレオチドを含むAAVベクターゲノム、および増殖性AAV感染を生じさせるためのヘルパー機能を提供する工程と、AAVキャプシドを含むAAV粒子の組み立てを可能にする工程と、AAVベクターゲノムをキャプシド化する工程とを含む、AAVキャプシドを含むrAAV粒子を産生する方法を提供する。
【0156】
当該細胞は典型的にはAAVウイルス複製に許容的な細胞である。哺乳類細胞などの当該技術分野で知られているあらゆる好適な細胞を用いてもよい。複製欠損ヘルパーウイルスから欠失した機能を提供するトランス相補性パッケージング細胞株、例えば293細胞または他のE1aトランス相補性細胞も好適である。
【0157】
AAV複製およびキャプシド配列は当該技術分野で知られている任意の方法によって提供してもよい。現在のプロトコルは典型的に単一のプラスミド上でAAV rep/cap遺伝子を発現させる。AAV複製およびパッケージング配列は一緒に提供する必要はないが、そうすることが好都合であり得る。AAV repおよび/またはcap配列は、任意のウイルスもしくは非ウイルスベクターによって提供してもよい。例えば、rep/cap配列は、ハイブリッドアデノウイルスまたはヘルペスウイルスベクター(例えば、欠失したアデノウイルスベクターのE1aもしくはE3領域の中に挿入されている)によって提供してもよい。またEBVベクターを用いてAAV capおよびrep遺伝子を発現させてもよい。この方法の1つの利点は、EBVベクターはエピソームでありながらも連続的細胞分裂の間に高いコピー数をなお維持する(すなわち、EBV系核エピソーム(nuclear episome)と表される染色体外エレメントとして細胞の中に安定的に組み込まれている)という点である。
【0158】
さらなる代替法として、rep/cap配列は細胞内に安定的に保持されていてもよい(エピソームであっても組み込まれていてもよい)。
【0159】
典型的には、AAV rep/cap配列は、これらの配列の救出および/またはパッケージングを防止するためにAAVパッケージング配列(例えばAAV ITR)に隣接していない。
【0160】
テンプレート(例えばrAAVベクターゲノム)は当該技術分野で知られている任意の方法を用いて細胞に提供することができる。例えばテンプレートは非ウイルス(例えばプラスミド)もしくはウイルスベクターによって供給してもよい。特定の実施形態では、テンプレートをヘルペスウイルスもしくはアデノウイルスベクターによって供給する(例えば、欠失したアデノウイルスのE1aもしくはE3領域の中に挿入する)。別の例示として、Palomboら,(1998)J.Virol.72:5025は、AAV ITRに隣接するレポーター遺伝子を保持するバキュロウイルスベクターについて記載している。また、rep/cap遺伝子に関して上に記載されているようにEBVベクターを用いてテンプレートを送達してもよい。
【0161】
別の代表的な実施形態では、テンプレートを複製rAAVウイルスによって提供する。さらに他の実施形態では、AAVプロウイルスを細胞の染色体の中に安定的に組み込む。
【0162】
最大のウイルス力価を得るために、増殖性AAV感染のために必須のヘルパーウイルス機能(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)を一般に細胞に提供する。AAV複製のために必要なヘルパーウイルス配列は当該技術分野で知られている。典型的には、これらの配列をヘルパーアデノウイルスもしくはヘルペスウイルスベクターによって提供する。あるいは、アデノウイルスもしくはヘルペスウイルス配列は、Ferrariら,(1997)Nature Med.3:1295ならびに米国特許第6,040,183号および第6,093,570号に記載されているように、例えば効率的なAAV産生のために必要なヘルパー遺伝子の全てを保持する非感染性アデノウイルスミニプラスミドとして別の非ウイルスベクターまたはウイルスベクターによって提供することができる。
【0163】
さらにヘルパーウイルス機能は、ヘルパー遺伝子が染色体に組み込まれているか安定な染色体外エレメントとして維持されている状態でパッケージング細胞によって提供してもよい。代表的な実施形態では、ヘルパーウイルス配列はAAVウイルス粒子にパッケージングすることができず、例えばAAV ITRに隣接していない。
【0164】
当業者であれば、単一のヘルパー構築物上にAAV複製およびキャプシド配列ならびにヘルパーウイルス配列(例えばアデノウイルス配列)を提供すると有利であり得ることを理解しているであろう。このヘルパー構築物は非ウイルス構築物またはウイルス構築物であってもよいが、AAV rep/cap遺伝子を含むハイブリッドアデノウイルスまたはハイブリッドヘルペスウイルスであってもよい。
【0165】
特定の一実施形態では、AAV rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列を単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給する。このベクターはrAAVテンプレートをさらに含む。AAV rep/cap配列および/またはrAAVテンプレートをアデノウイルスの欠失領域(例えばE1aもしくはE3領域)に挿入してもよい。
【0166】
さらなる実施形態では、AAV rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列を単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給する。rAAVテンプレートをプラスミドテンプレートとして提供する。
【0167】
別の例示的な実施形態では、AAV rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列を単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって提供し、かつrAAVテンプレートをプロウイルスとして細胞の中に組み込む。あるいは、rAAVテンプレートを染色体外エレメントとして細胞内に維持されているEBVベクターによって提供する(例えば、「EBV系核エピソーム」として、Margolski,(1992)Curr.Top.Microbiol.Immun.158:67)を参照)。
【0168】
さらなる例示的な実施形態では、AAV rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列を単一のアデノウイルスヘルパーによって提供する。rAAVテンプレートを別個の複製ウイルスベクターとして提供する。例えば、rAAVテンプレートをrAAV粒子または第2の組換えアデノウイルス粒子によって提供してもよい。
【0169】
上記方法によれば、ハイブリッドアデノウイルスベクターは典型的に、アデノウイルス複製およびパッケージングのために十分なアデノウイルス5’および3’シス配列(すなわち、アデノウイルス末端反復およびPAC配列)を含む。AAV rep/cap配列および存在すればrAAVテンプレートはアデノウイルス骨格の中に埋め込まれ、かつ5’および3’シス配列に隣接しているため、これらの配列はアデノウイルスキャプシドの中にパッケージングすることができる。上に記載されている代表的な実施形態では、アデノウイルスヘルパー配列およびAAV rep/cap配列は、これらの配列がAAVウイルス粒子の中にパッケージングされないようにAAVパッケージング配列(例えばAAV ITR)に隣接していない。
【0170】
ヘルペスウイルスは、AAVパッケージング方法においてヘルパーウイルスとして使用することもできる。AAV repタンパク質をコードするハイブリッドヘルペスウイルスは、有利にはよりスケーラブルなAAVベクター産生スキームを容易にすることができる。AAV-2 repおよびcap遺伝子を発現するハイブリッド単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)ベクターについて記載されている(Conwayら,(1999)Gene Therapy 6:986および国際公開第00/17377号、それらの開示内容全体が本明細書に組み込まれる)。
【0171】
さらなる代替法として、Urabeら,(2002)Human Gene Therapy 13:1935-43に記載されているように、本発明のウイルスベクターをバキュロウイルスベクターを用いて昆虫細胞において産生させて、rep/cap遺伝子およびrAAVテンプレートを送達することができる。
【0172】
AAVを産生させる他の方法は形質転換されたパッケージング細胞を安定的に使用する(例えば、米国特許第5,658,785号を参照)。
【0173】
ヘルパーウイルスを汚染しないAAVベクターストックは、当該技術分野で知られている任意の方法によって得ることができる。例えば、AAVおよびヘルパーウイルスはサイズに基づいて容易に識別することができる。AAVはヘパリン基質との親和性に基づいてヘルパーウイルスから離して分離することもできる(Zolotukhinら,(1999)Gene Therapy 6:973)。代表的な実施形態では、あらゆる汚染性ヘルパーウイルスが複製可能でないように、欠失した複製欠損ヘルパーウイルスを使用する。さらなる代替法として、アデノウイルス初期遺伝子発現のみがAAVウイルスのパッケージングを媒介するために必要とされるので、後期遺伝子発現を欠いているアデノウイルスヘルパーを用いることができる。後期遺伝子発現に欠陥のあるアデノウイルス変異体は当該技術分野で知られている(例えば、ts100Kおよびts149アデノウイルス変異体)。
【0174】
本発明のパッケージング方法を用いてウイルス粒子の高力価ストックを産生させてもよい。特定の実施形態では、当該ウイルスストックは、少なくとも約10形質導入単位(transducing unit)(tu)/ml、少なくとも約10tu/ml、少なくとも約10tu/ml、少なくとも約10tu/ml、少なくとも約10tu/mlまたは少なくとも約1010tu/mlの力価を有する。
【0175】
特定の実施形態では、本発明は、薬学的に許容される担体中に本発明のウイルスベクターおよび任意に他の薬剤、医薬品、安定化剤、緩衝液、担体、アジュバント、希釈液などを含む医薬組成物を提供する。注射用担体は典型的に液体であってもよい。他の投与方法のための担体は固体または液体のいずれであってもよい。吸入投与のための担体は吸入可能であり、好ましくは固体もしくは液体粒子形態である。
【0176】
「薬学的に許容される」とは、毒性でないかそれ以外で望ましくないものでない材料を意味し、すなわち、この材料はどんな望ましくない生物学的効果も引き起こさずに対象に投与することができることを意味する。
【0177】
本発明の一態様は、インビトロにおいて目的のポリヌクレオチドを細胞に移動させる方法である。ウイルスベクターは特定の標的細胞に適した標準的な形質導入方法に従って、適当な感染多重度で細胞に導入することができる。投与するためのウイルスベクターまたはキャプシドの力価は、標的細胞型および数、特定のウイルスベクターまたはキャプシドによって異なってもよく、過度の実験法を行わずに当業者によって決定することができる。特定の実施形態では、少なくとも約10の感染単位、より好ましくは少なくとも約10の感染単位を細胞に導入する。
【0178】
ウイルスベクターを導入することができる細胞は、限定されるものではないが、神経細胞(末梢および中枢神経系の細胞、特にニューロン、オリゴデンドロサイト、グリア細胞、アストロサイトなどの脳細胞を含む)、肺細胞、眼細胞(網膜細胞、網膜色素上皮および角膜細胞を含む)、上皮細胞(例えば腸および呼吸器の上皮細胞)、骨格筋細胞(筋芽細胞、筋管および筋線維を含む)、横隔膜筋肉細胞、樹状細胞、膵臓細胞(膵島細胞を含む)、肝細胞、胃腸管細胞(平滑筋細胞、上皮細胞を含む)、心臓細胞(心筋細胞を含む)、骨細胞(例えば骨髄幹細胞)、造血幹細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、関節細胞(例えば、軟骨、半月板、滑膜および骨髄を含む)、生殖細胞などを含む任意の種類のものであってもよい。あるいは、当該細胞は任意の前駆細胞であってもよい。さらなる選択肢として、当該細胞は幹細胞(例えば神経幹細胞、肝臓幹細胞)であってもよい。なおさらなる選択肢として、当該細胞は癌もしくは腫瘍細胞(癌および腫瘍は上に記載されている)であってもよい。さらに、当該細胞は上に示されている任意の生物種由来のものであってもよい。
【0179】
ウイルスベクターは、修飾された細胞を対象に投与するためにインビトロで細胞に導入してもよい。特定の実施形態では、当該細胞を対象から取り出し、ウイルスベクターをその中に導入し、次いで当該細胞を対象の中に戻す。エクスビボでの処置とその後の対象への導入のために細胞を対象から取り出す方法は当該技術分野で知られている(例えば米国特許第5,399,346号を参照)。あるいは、組換えウイルスベクターを別の対象からの細胞の中、培養された細胞の中または任意の他の好適な提供源からの細胞の中に導入し、かつ当該細胞をそれを必要とする対象に投与する。
【0180】
エクスビボでの遺伝子治療に適した細胞は上に記載されている。対象に投与するための当該細胞の投与量は、対象の年齢、状態および生物種、細胞の種類、当該細胞によって発現される核酸、投与様式などによって異なる。典型的には、薬学的に許容される担体中の用量につき少なくとも約10~約10または約10~約10個の細胞を投与する。特定の実施形態では、ウイルスベクターが形質導入された細胞を医薬担体と組み合わせた有効量で対象に投与する。
【0181】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターが形質導入された細胞を投与して、送達されるポリペプチドに対して免疫原性応答を誘発させてもよい(例えば導入遺伝子として、あるいはキャプシド内で発現させる)。典型的には、薬学的に許容される担体と組み合わせて有効量のポリペプチドを発現する量の細胞を投与する。任意に、この投与量は保護的免疫応答を生じさせるのに十分である(上に定義されている)。免疫原性ポリペプチドを投与する利点がそのあらゆる欠点に勝る限り、与えられる保護の程度は完全または永久的である必要はない。
【0182】
本発明のさらなる態様は、本発明のウイルスベクターを対象に投与する方法である。特定の実施形態では、本方法は目的のポリヌクレオチドを動物対象に送達する方法を含み、本方法は有効量の本発明に係るウイルスベクターを動物対象に投与することを含む。本発明のウイルスベクターのそれを必要とするヒト対象または動物への投与は、当該技術分野で知られている任意の手段によるものであってもよい。任意に、ウイルスベクターを薬学的に許容される担体に入れて有効な用量で送達する。
【0183】
さらに本発明のウイルスベクターは、対象に投与して免疫原性応答を誘発することができる(例えばワクチンとして)。典型的には、本発明のワクチンは薬学的に許容される担体と組み合わせた有効量のウイルスを含む。任意に、この投与量は保護的免疫応答を生じさせるのに十分である(上に定義されている)。免疫原性ポリペプチドを投与する利点がそのあらゆる欠点に勝る限り、与えられる保護の程度は完全または永久的である必要はない。対象および免疫原については上に記載されている。
【0184】
対象に投与されるウイルスベクターの投与量は、投与様式、治療される疾患または病気、個々の対象の状態、特定のウイルスベクターおよび送達される核酸によって決まり、日常的な方法で決定することができる。治療効果を達成するための例示的な用量は、少なくとも約10、10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016、1017、1018形質導入単位またはそれ以上、好ましくは約10または10、10、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016形質導入単位、さらにより好ましくは約1012~1014形質導入単位のウイルス力価である。
【0185】
特定の実施形態では、2回以上の投与(例えば、2回、3回、4回またはそれ以上の投与)を用いて、例えば1日1回、1週間に1回、1ヶ月に1回、1年に1回などの様々な間隔の期間にわたって所望のレベルの遺伝子発現を達成してもよい。
【0186】
例示的な投与様式としては、経口、直腸内、経粘膜、局所、鼻腔内、吸入(例えばエアロゾルによる)、口腔内(例えば舌下)、膣内、クモ膜下腔内、眼内、経皮、子宮内(もしくは卵内)、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋肉内[骨格、横隔膜および/または心筋への投与を含む]、皮内、胸膜内、脳内および関節内)、局所(例えば、皮膚および粘膜面(気道表面を含む)の両方への投与ならびに経皮投与)、リンパ管内投与など、ならびに直接的な組織もしくは器官注射(例えば、肝臓、骨格筋、心筋、横隔膜筋肉または脳への注射)が挙げられる。また投与は腫瘍(例えば、腫瘍またはリンパ節の中もしくは近く)に対するものであってもよい。あらゆる所与の症例における最も好適な経路は、治療されている病気の性質および重症度ならびに使用されている特定のベクターの性質によって決まる。
【0187】
これらの組織のいずれかへの送達は、これらの組織に埋め込むことができるウイルスベクターを含むデポー剤を送達することによって達成することもでき、あるいはこれらの組織をウイルスベクターを含むフィルムまたは他のマトリックスと接触させることができる。そのような埋め込み可能なマトリックスまたは基質などの例は、米国特許第7,201,898号に記載されている。
【0188】
本発明を使用して組織または器官の疾患を治療することができる。あるいは、本発明は核酸を組織または器官に送達するために実施することができ、血中を正常に循環しているタンパク質産物(例えば酵素)または非翻訳RNA(例えば、RNAi、ミクロRNA、アンチセンスRNA)の産生ため、あるいは他の組織への全身送達のためのプラットフォームとして使用して、疾患(例えば、糖尿病(例えばインスリン)などの代謝異常、血友病(例えば、第IX因子または第VIII因子)、またはリソソーム貯蔵障害(例えば、ゴーシェ病[グルコセレブロシダーゼ]、ポンペ病[リソソーム酸α-グルコシダーゼ]またはファブリー病[α-ガラクトシダーゼA])、またはグリコーゲン貯蔵障害(ポンペ病[リソソーム酸αグルコシダーゼ]など)を治療する。代謝異常を治療するための他の好適なタンパク質は上に記載されている。
【0189】
注射剤は従来の形態、液体溶液または懸濁液、注射の前に液体に溶解または懸濁させるのに適した固体の形態、あるいは乳濁液のいずれかとして調製することができる。あるいは、ウイルスベクターを例えばデポー剤または徐放製剤に入れて全身ではなく局所で投与してもよい。さらに、ウイルスベクターは乾燥状態で骨移植片代替物、縫合およびステントなどの外科的に埋め込み可能なマトリックスに送達することができる(例えば、米国特許第7,201,898号に記載されている)。
【0190】
経口投与に適した医薬組成物は、粉末または顆粒として、水性もしくは非水性液体中の溶液または懸濁液として、あるいは水中油型もしくは油中水型エマルションとして、それぞれが所定の量の本発明の組成物を含有するカプセル、カシェ剤、トローチ剤または錠剤などの個別単位で提供することができる。経口送達は、本発明のウイルスベクターを動物の腸内での消化酵素による分解に耐えることができる担体と共に複合体にすることによって行うことができる。そのような担体の例としては当該技術分野で知られているようなプラスチックカプセルまたは錠剤が挙げられる。そのような製剤は、本組成物および好適な担体(これは上述のように1種以上の副成分を含有していてもよい)を結合させる工程を含む任意の好適な調剤方法によって調製する。一般に、本発明の実施形態に係る医薬組成物は、本組成物を液体もしくは微粉固体担体または両方と均一かつ密に混合し、かつ次いで必要であれば得られた混合物を成形することによって調製する。例えば、錠剤は、任意に1種以上の副成分と共に本組成物を含有する粉末または顆粒を圧縮または成形することによって調製することができる。圧縮錠剤は任意に結合剤、滑沢剤、不活性希釈液および/または界面活性剤/分散剤と混合された粉末または顆粒などの自由流動形態である本組成物を好適な機械で圧縮することによって調製する。成形錠剤は、不活性液体結合剤で湿らせた粉末状化合物を好適な機械で成形することによって調製する。
【0191】
口腔内(舌下)投与に適した医薬組成物としては、風味付けした基剤、通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガント中に本発明の組成物を含むトローチ剤、ならびにゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシアなどの不活性基剤中に本組成物を含む香錠が挙げられる。
【0192】
非経口投与に適した医薬組成物は、本発明の組成物の無菌の水性および非水性注射溶液を含むことができ、その調製物は意図されているレシピエントの血液と等張性であってもよい。これらの調製物は抗酸化剤、緩衝液、静菌薬および、本組成物を意図されているレシピエントの血液と等張性にする溶質を含有していてもよい。水性および非水性の無菌懸濁液、溶液および乳濁液は懸濁化剤および増粘剤を含んでいてもよい。非水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性担体としては水、アルコール/水溶液、乳濁液または懸濁液(生理食塩水および緩衝された媒体を含む)が挙げられる。非経口媒体としては、塩化ナトリウム溶液、リンガーのデキストロース(Ringer’s dextrose)、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンガーまたは不揮発性油が挙げられる。静脈内媒体としては、流体および栄養補液、電解質補液(リンガーのデキストロースをベースとするものなど)などが挙げられる。例えば抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガスなどの、防腐剤および他の添加剤も存在してもよい。
【0193】
本組成物は、単位用量または多用量容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れて提供することができ、かつ使用直前に無菌の液体担体、例えば生理食塩水または注射用水の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)条件に貯蔵することができる。
【0194】
即席注射溶液および懸濁液は、先に記載した種類の無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。例えば密封容器に入れた単位剤形として本発明の注射可能な安定な無菌組成物を提供することができる。本組成物は凍結乾燥物の形態で提供することができ、これを好適な薬学的に許容される担体で再構成して対象への注射に適した液体組成物を形成することができる。単位剤形は約1μg~約10グラムの本発明の組成物であってもよい。本組成物が実質的に水不溶性である場合、生理学的に許容される十分な量の乳化剤を十分な量で含めて本組成物を水性担体中で乳化させることができる。そのような有用な乳化剤の1つはホスファチジルコリンである。
【0195】
直腸内投与に適した医薬組成物は単位用量坐薬として提供することができる。これらは、本組成物を例えばカカオ脂などの1種以上の従来の固体担体と混合し、次いで得られた混合物を成形することによって調製することができる。
【0196】
皮膚への局所塗布に適した本発明の医薬組成物は、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾルまたは油の形態をなしていてもよい。使用することができる担体としては、限定されるものではないが、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール、経皮改善剤(transdermal enhancer)、およびそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、例えば局所送達は、本発明の医薬組成物を皮膚に浸透させることができる親油性試薬(例えばDMSO)と混合することによって行うことができる。
【0197】
経皮投与に適した医薬組成物は、長期間にわたって対象の表皮と密に接触させたままにするように構成された個別パッチの形態であってもよい。経皮投与に適した組成物はイオン導入法によって送達することもでき(例えば、Pharm.Res.3:318(1986)を参照)、かつ典型的には本発明の組成物の任意に緩衝された水溶液の形態をなしていてもよい。好適な製剤は、クエン酸塩またはビス/トリス緩衝液(pH6)またはエタノール/水を含んでいてもよく、かつ0.1~0.2Mの有効成分を含有していてもよい。
【0198】
本明細書に開示されているウイルスベクターは、任意の好適な手段によって、例えば対象が吸入するウイルスベクターからなる吸入可能な粒子のエアロゾル懸濁液を投与することによって、対象の肺に投与してもよい。吸入可能な粒子は液体であっても固体であってもよい。ウイルスベクターを含む液体粒子のエアロゾルは、当業者に公知であるような圧力駆動のエアロゾルネブライザーまたは超音波ネブライザーなどの任意の好適な手段によって生成してもよい。例えば、米国特許第4,501,729号を参照されたい。ウイルスベクターを含む固体粒子のエアロゾルは同様に、製薬業界において公知の技術によって任意の固体の粒子状薬用エアロゾル発生器を用いて生成してもよい。
【0199】
本発明の第IX因子タンパク質の産生
多くの発現ベクターを使用して遺伝子操作された細胞を作り出すことができる。いくつかの発現ベクターを設計して、選択された高発現細胞に有利な様々な条件下でトランスフェクト細胞を増幅させた後に大量の組換えタンパク質を発現させる。いくつかの発現ベクターを設計して、選択圧力下での増幅を必要とすることなく大量の組換えタンパク質を発現させる。本発明は、当該技術分野において標準的な方法に従う遺伝子操作された細胞の産生を含み、かつどんな特異的発現ベクターまたは発現系の使用にも依存しない。
【0200】
遺伝子操作された細胞を作り出して大量のFIXタンパク質を産生させるために、当該タンパク質をコードするポリヌクレオチド(例えばcDNA)を含有する発現ベクターで細胞をトランスフェクトする。いくつかの実施形態では、所与の細胞系においてFIXタンパク質の適切な翻訳後修飾を生じさせる選択されてコトランスフェクトされた酵素を用いてFIXタンパク質を発現させる。
【0201】
当該細胞は様々な提供源から選択してもよいが、それ以外にFIXタンパク質をコードする核酸分子(例えばcDNA)を含有する発現ベクターでトランスフェクトすることができる細胞である。
【0202】
本発明の実施は、そうでないことが示されていない限り、当該技術分野の範囲内である分子生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の従来の技術を用いる。そのような技術は文献に完全に説明されている。例えば、Sambrookら,分子クローニング;研究室マニュアル(Molecular Cloning;A Laboratory Manual),第2版(1989);DNAのクローニング(DNA Cloning),第IおよびII巻(D.N Glover編,1985);オリゴヌクレオチド合成(Oligonucleotide Synthesis)(M.J.Gait編,1984);核酸のハイブリダイゼーション(Nucleic Acid Hybridization)(B.D.Hames&S.J.Higgins編,1984);転写および翻訳(Transcription and Translation)(B.D.Hames&S.J.Higgins編,1984);動物細胞の培養(Animal Cell Culture)(R.I.Freshney編,1986);固定化細胞および酵素(Immobilized Cells and Enzymes)(IRL Press,1986);B.Perbal,分子クローニングの解説書(A Practical Guide to Molecular Cloning)(1984);酵素学における方法シリーズ(the series,Methods in Enzymology)(Academic Press社),特に第154および155巻(それぞれWuおよびGrossmanならびにWu編);哺乳類細胞のための遺伝子導入ベクター(Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells)(J.H.MillerおよびM.P.Calos編,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);細胞および分子生物学における免疫化学的方法(Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology),MayerおよびWalker編(Academic Press,ロンドン,1987);Scopes,タンパク質の精製:原理および実践(Protein Purification:Principles and Practice),第2版.1987(Springer-Verlag,N.Y.);および実験免疫学のハンドブック(Handbook of Experimental Immunology)第I~IV巻(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編,1986)を参照されたい。本明細書で引用されている全ての特許、特許出願および刊行物はそれら全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0203】
遺伝子工学技術
遺伝子工学によってクローン化された遺伝子、組換えDNA、ベクター、形質転換された細胞、タンパク質およびタンパク質断片の産生は周知である。例えば、Bellらへの米国特許第4,761,371号の第6カラム3行目から第9カラム65行目、Clarkらへの米国特許第4,877,729号の第4カラム38行目から第7カラム6行目、Schillingへの米国特許第4,912,038号の第3カラム26行目から第14カラム12行目、およびWallnerへの米国特許第4,879,224号の第6カラム8行目から第8カラム59行目を参照されたい。
【0204】
ベクターは複製可能なDNA構築物である。ベクターは、FIXタンパク質をコードする核酸を増幅させるため、および/またはFIXタンパク質をコードする核酸を発現させるためにここで使用されている。発現ベクターは、FIXタンパク質をコードするヌクレオチド配列が当該ヌクレオチド配列の発現に影響を与えて好適な宿主細胞においてFIXタンパク質を産生させることができる好適な制御配列に作動可能に連結されている複製可能な核酸構築物である。そのような制御配列の必要性は選択される宿主細胞および選択される変換方法によって異なる。一般に制御配列としては、転写プロモーター、転写を制御するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列および転写および翻訳の終結を制御する配列が挙げられる。
【0205】
ベクターは、プラスミド、ウイルス(例えば、AAV、アデノウイルス、サイトメガロウイルス)、ファージ、および組み込み可能なDNA断片(すなわち、組み換えによって宿主細胞ゲノム内に組み込み可能な断片)を含む。ベクターは宿主細胞ゲノムとは独立して(例えば一過性の発現により)複製および機能することができるか、あるいは宿主細胞ゲノムそれ自体の中に組み込むことができる(例えば安定な組み込み)。発現ベクターは、発現させる核酸分子に作動可能に連結されるプロモーターおよびRNA結合部位を含むことができ、かつ宿主細胞および/または生物において作動可能である。
【0206】
DNA領域またはヌクレオチド配列は機能上互いに関係している場合には、作動可能に連結されているか作動可能に関連づけられている。例えば、プロモーターはそれが当該配列の転写を制御する場合にはコード配列に作動可能に連結されているか、あるいはリボソーム結合部位はそれが当該配列の翻訳を可能にするように配置されている場合にはコード配列に作動可能に連結されている。
【0207】
好適な宿主細胞としては、原核生物、酵母または哺乳類細胞および昆虫細胞などの高等真核細胞が挙げられる。多細胞生物に由来する細胞は組換えFIXタンパク質合成のための特に好適な宿主であり、哺乳類細胞が特に好ましい。細胞培養におけるそのような細胞の増殖は日常的な手順となっている(組織培養(Tissue Culture),Academic Press,KruseおよびPatterson編(1973))。有用な宿主細胞株の例は、VEROおよびHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、ならびにWI138、HEK293、BHK、COS-7、CVおよびMDCK細胞株である。そのような細胞のための発現ベクターは通常、(必要であれば)複製起点、リボソーム結合部位と共に、発現されるFIXタンパク質をコードするヌクレオチド配列の上流に位置し、かつそこに作動可能に関連づけられるプロモーター、RNAスプライス部位(イントロンを含むゲノムDNAが使用される場合)、ポリアデニル化部位、および転写終結配列を含む。一実施形態では、発現は米国特許第5,888,809号(その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)の発現系を用いてチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において行うことができる。
【0208】
脊椎動物細胞を形質転換する際に使用される発現ベクターにおける転写および翻訳制御配列は、ウイルス源によって提供されることが多い。非限定的な例としては、ポリオーマ、アデノウイルス2およびサルウイルス40(SV40)に由来するプロモーターが挙げられる。例えば、米国特許第4,599,308号を参照されたい。
【0209】
複製起点は、SV40もしくは他のウイルス(例えば、ポリオーマ、アデノウイルス、VSVまたはBPV)源に由来し得るような外来性起点を含めるためのベクターの構築によって提供されてもよく、あるいは宿主細胞染色体複製機構によって提供されてもよい。当該ベクターを宿主細胞染色体の中に組み込む場合、後者が十分である場合が多い。
【0210】
ウイルスの複製起点を含むベクターを用いるのではなく、選択可能なマーカーおよびFIXタンパク質をコードする核酸分子によるコトランスフェクション法によって哺乳類細胞を形質転換することができる。好適な選択可能なマーカーの非限定的な例はジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)またはチミジンキナーゼである。この方法については米国特許第4,399,216号にさらに記載されており、この内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0211】
組換え脊椎動物細胞の培養におけるFIXタンパク質の合成への適応に適した他の方法としては、Gethingら Nature 293:620(1981);Manteiら Nature 281:40;およびLevinsonら,EPO出願第117,060A号および第117,058A号に記載されているものが挙げられ、それらの各内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0212】
昆虫細胞(例えば培養されたヨトウガ細胞)などの宿主細胞、およびバキュロウイルス発現ベクター(例えば、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)MNPV、イラクサギンウワバ(トリコプルシア・ニ)(Trichoplusia ni)MNPV、ラキプルシア・オウ(Rachiplusia ou)MNPVまたはガレリア・オウ(Galleria ou)MNPVに由来するベクター)などの発現ベクターを、Smithらへの米国特許第4,745,051号および第4,879,236号に記載されているように本発明を実施する際に用いてもよい。一般にバキュロウイルス発現ベクターは、バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターの転写制御下で、ポリヘドリン転写開始シグナルからATG開始部位までの位置においてポリヘドリン遺伝子に挿入された発現されるヌクレオチド配列を含むバキュロウイルスゲノムを含む。
【0213】
原核生物宿主細胞としてはグラム陰性もしくはグラム陽性生物が挙げられ、例えばそれぞれ大腸菌(E.coli)または桿菌が挙げられる。高等真核細胞としては、本明細書に記載されているような哺乳類由来の樹立細胞株が挙げられる。例示的な細菌性宿主細胞は大腸菌W3110(ATCC 27,325)、大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC 31,537)および大腸菌294(ATCC 31,446)である。幅広い好適な原核生物および微生物のベクターが入手可能である。大腸菌は典型的にはpBR322を用いて形質転換される。組換え微生物発現ベクターにおいて最もよく使用されるプロモーターとしては、βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)およびラクトースプロモーター系(Changら Nature 275:615(1978);およびGoeddelら Nature 281:544(1979))、トリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddelら Nucleic Acids Res.8:4057(1980)およびEPO出願公開第36,776号)ならびにtacプロモーター(De Boerら Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:21(1983))が挙げられる。当該プロモーターおよびシャイン・ダルガノ配列(原核生物宿主発現のため)は、FIXタンパク質をコードする核酸に作動可能に連結されており、すなわちそれらはDNAからのFIXメッセンジャーRNAの転写を促進するように配置されている。
【0214】
また酵母培養物などの真核微生物を、タンパク質をコードするベクターで形質転換してもよい(例えば、米国特許第4,745,057号を参照)。出芽酵母は下等真核宿主微生物の中で最もよく使用されているが、多くの他の菌株が一般に入手可能である。酵母ベクターは2ミクロンの酵母プラスミドまたは自己複製配列(ARS)からの複製起点、プロモーター、FIXタンパク質をコードする核酸、ポリアデニル化および転写終結のための配列ならびに選択遺伝子を含んでいてもよい。例示的なプラスミドはYRp7である(Stinchcombら Nature 282:39(1979);Kingsmanら Gene 7:141(1979);Tschemperら Gene 10:157(1980))。酵母ベクターにおける好適なプロモーター配列としては、メタロチオネイン、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ(Hitzemanら J.Biol.Chem.255:2073(1980))または他の糖分解酵素のためのプロモーターが挙げられる(Hessら J.Adv.Enzyme Reg.7:149(1968);およびHollandら Biochemistry 17:4900(1978))。酵母発現に使用するのに適したベクターおよびプロモーターについては、R.Hitzemanら,EPO公開第73,657号にさらに記載されている。
【0215】
本発明のクローン化コード配列は、マウス、ラット、イヌ、フクロネズミ、ウサギ、ネコ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ウシ、モルモット、フクロネズミ、カモノハシおよびヒトなどのあらゆる生物種由来のFIXをコードしてもよいが、好ましくはヒト由来のFIXタンパク質をコードする。本明細書に開示されているタンパク質をコードする核酸とハイブリダイズ可能なFIXをコードする核酸も包含される。そのような配列のハイブリダイゼーションは、標準的なin situハイブリダイゼーションアッセイにおいて低い厳密性条件またはさらには厳しい条件(例えば、60℃またはさらには70℃での0.3MのNaCl、0.03Mのクエン酸ナトリウム、0.1%SDSの洗浄厳密性(wash stringency)によって代表されるような厳しい条件)下で、本明細書に開示されているFIXタンパク質をコードする核酸に対して行ってもよい。例えば、Sambrookら,分子クローニング,研究室マニュアル(Molecular Cloning,A Laboratory Manual)(第2版 1989)Cold Spring Harbor Laboratoryを参照されたい。
【0216】
本発明に従って産生されるFIXタンパク質は、公知の方法によってトランスジェニック動物において発現させてもよい。例えば米国特許第6,344,596号を参照されたく、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。簡単に言えば、トランスジェニック動物としては、限定されるものではないが、家畜(例えばブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマおよびウサギなど)、齧歯類(マウス、ラットおよびモルモットなど)ならびに家庭用のペット(例えばネコおよびイヌ)を挙げることができる。ブタ、ヒツジ、ヤギおよびウシなどの家畜動物はいくつかの実施形態において特に好ましい。
【0217】
本発明のトランスジェニック動物は、本ポリヌクレオチドが成熟した動物の生殖細胞系細胞のDNAの中に安定的に組み込まれ、かつ正常なメンデルの法則で受け継がれるように、単細胞胚の中に本発明のヒトFIXタンパク質をコードする適当なポリヌクレオチドを導入することによって作製する。本発明のトランスジェニック動物は体液および/または組織においてFIXタンパク質を産生するという表現型を有する。FIXタンパク質をこれらの流体および/または組織から取り出し、かつ例えば治療的使用のために処理する。(例えば、Clarkら“トランスジェニックヒツジの乳におけるヒトの抗血友病第IX因子の発現(Expression of human anti-hemophilic factor IX in the milk of transgenic sheep)”Bio/Technology 7:487-492(1989);Van Cottら“トランスジェニック家畜において産生される血友病因子:豊かさが他の治療法を世界中で可能にすることができる(Haemophilic factors produced by transgenic livestock:abundance can enable alternative therapies worldwide)”Haemophilia 10(4):70-77(2004)を参照されたく、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0218】
DNA分子は、限定されるものではないがマイクロインジェクション、リン酸カルシウム媒介沈殿、リポソーム融合または全能性もしくは多能性幹細胞のレトロウイルス感染を含む様々な手段によって胚の中に導入することができる。次いで形質転換された細胞を胚に導入し、かつそこに組み込んでトランスジェニック動物を作製することができる。トランスジェニック動物の作製方法は、例えば「トランスジェニック動物の作製および使用(Transgenic Animal Generation and Use)L.M.Houdebine著,Harwood Academic Press,1997」に記載されている。トランスジェニック動物は例えば、Campbellら,Nature 380:64-66(1996)およびWilmutら,Nature 385:810-813(1997)に記載されているように、胚もしくは成熟細胞株を用いる核移植またはクローニング方法を用いて作製することもできる。さらにDNAの細胞質内注射を利用する技術は、米国特許第5,523,222号に記載されているように使用することができる。
【0219】
FIX産生トランスジェニック動物は、FIXコード配列を含むキメラ構築物を導入することによって得ることができる。トランスジェニック動物を得るための方法は周知である。例えば、Hoganら,マウス胚の操作(MANIPULATING THE MOUSE EMBRYO),(Cold Spring Harbor Press 1986);Krimpenfortら,Bio/Technology 9:88(1991);Palmiterら,Cell 41:343(1985),Kraemerら,初期哺乳類胚の遺伝子操作(GENETIC MANIPULATION OF THE EARLY MAMMALIAN EMBRYO),(Cold Spring Harbor Laboratory Press 1985);Hammerら,Nature 315:680(1985);Wagnerら,米国特許第5,175,385号;Krimpenfortら,米国特許第5,175,384号;Janneら,Ann.Med.24:273(1992);Bremら,Chim.Oggi.11:21(1993);Clarkら,米国特許第5,476,995号を参照されたく、これらの開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0220】
いくつかの実施形態では、乳が合成される生理的条件下で本プロモーターが他の組織よりも乳房組織において活性であるという点で乳房組織において「活性」であるシス作用性調節領域を使用してもよい。そのようなプロモーターとしては、限定されるものではないが短いおよび長い乳清酸性タンパク質(WAP)、短いおよび長いα、βおよびκカゼイン、α-ラクトアルブミンおよびβ-ラクトグロブリン(「BLG」)プロモーターが挙げられる。発現されたタンパク質の分泌を他の体液、特に血液および尿内に導く本発明に係るシグナル配列も使用することができる。そのような配列の例としては、FIX、タンパク質Cおよび組織型プラスミノーゲン活性化因子のシグナルペプチドなどの分泌型凝固因子のシグナルペプチドが挙げられる。
【0221】
転写を調節する有用な配列の中には、上で考察したプロモーターに加えてエンハンサー、スプライスシグナル、転写終結シグナル、ポリアデニル化部位、緩衝配列(buffering sequence)、RNA処理配列および導入遺伝子の発現を調節する他の配列も含まれる。
【0222】
好ましくは、発現系または構築物は所望の組換えタンパク質をコードするヌクレオチド配列の下流に3’非翻訳領域を含む。この領域は導入遺伝子の発現を増加させることができる。この点に関して有用な3’非翻訳領域の中にはポリAシグナルを提供する配列が含まれる。
【0223】
好適な異種3’非翻訳配列は、例えばSV40小型t抗原、カゼイン3’非翻訳領域または当該技術分野で周知の他の3’非翻訳配列に由来していてもよい。リボソーム結合部位もFIXの発現の効率を高めるのに重要である。同様に、FIXの翻訳後修飾を調節する配列は本発明において有用である。
【0224】
本発明について説明してきたが、単に例示のために本明細書に含まれており、本発明を限定することが意図されていない以下の実施例においてさらに詳細に説明する。
【実施例0225】
実施例1:遺伝子発現カセットの構築
ヒト第IX因子遺伝子発現の効率および寿命を高めるために、本発明者らは、1)多くのデザイナープロモーターを合成することにより肝臓特異性および強力な活性を得る、2)このプロモーターの後に小さいイントロンを使用すること、および当該遺伝子のタンパク質コード領域に第2の小さいイントロンを新規挿入することにより導入遺伝子mRNAの処理効率を高める、3)減少した二次構造のために5’非翻訳配列を最適化することなどによって導入遺伝子産物のタンパク質合成のために翻訳効率を高める、4)ヒトコドン使用頻度を最適化し、かつCpGモチーフを減少させ、かつ長いGおよびCトラックを減少させる、5)効率的なポリA合成および残留するアンチセンスプロモーター活性のAAVの3’逆位末端反復(ITR)からの遮断のために双方向ポリアデニル化配列を使用する、という目標を達成するために多大な努力をした。
【0226】
本発明者らは、保存された基本プロモーターエレメントおよび転写開始部位を含む合成の多くの人工のプロモーターを設計して完全に合成した。基本プロモーターをその5’末端において肝臓特異的発現のために多くの肝臓特異的転写因子結合部位に連結する。その小さいサイズ(188bp)ならびに、最初にルシフェラーゼレポーター遺伝子およびヒト肝癌細胞株Huh7におけるトランスフェクション実験(表4)を用いてインビトロでスクリーニングした高い活性により、LXP2.1(図1)(配列番号1)と命名したプロモーターを選択した。本発明者らは、ガウシアルシフェラーゼ発現カセットをAAV8ウイルス粒子の中にパッケージングし、かつマウス尾静脈に注射した後に、インビボでユビキタスかつ強力なCMVプロモーターと共にLXP2.1プロモーターをさらに調べた。5×1010個のベクターゲノム(v.g.)/マウスのIV注射から2週間後にマウスから採取した血清を用いてルシフェラーゼ発現をアッセイした(表5)。LXP2.1プロモーターはCMVプロモーターの約4倍強力であった。
【表5】

【表6】
【0227】
インビボでの第IX因子遺伝子の発現を高めるために、本発明者らはその目標を達成するための2つの手法を採用した。最初に本発明者らは、より有効なコドン使用頻度を最大化するという目的で、GeneArt(Invitrogen社)のヒトコドン最適化プログラムを用いてヒト因子遺伝子のコード配列を完全に合成した。また本発明者らは、合成の第IX因子遺伝子内のCpG配列の全てを減少させるか除去することを試みた。当該遺伝子内のCpGアイランドまたはモチーフが生得的免疫応答を誘導することができ(例えば、トール様受容体9(TLR9)媒介性免疫応答(Bauerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98(16):9237(2001))、かつ遺伝子サイレンシングも潜在的に引き起こすことができることが実証されている。第IX因子遺伝子-1(配列番号6)および第IX因子遺伝子-2(配列番号7)では、CpGモチーフを完全に除去した。しかし第IX因子遺伝子-3(配列番号8)では、TCGおよびCGT配列のみを除去した。ヒト細胞において、保存されたCpGモチーフすなわちGTCGTTはTLR9応答を誘発する最も強力なモチーフであることが報告されている。TCGおよびCGTモチーフの除去はGTCGTTエレメントを有効に無効にした。
【0228】
イントロンはmRNA前駆体処理を容易にし、かつ遺伝子発現を増強することによってそれらの機能を発揮することが十分に実証されている。ヒト第IX因子遺伝子のネイティブなイントロンは比較的サイズが大きく、かつ本発明者らの遺伝子発現カセットに適していない。第IX因子遺伝子発現をさらに増加させることを試みる際に、本発明者らは小さいヒトのイントロンを合成した(配列番号4および5)。第1のイントロンをAAGとGとの間の人工の5’非翻訳領域(5’UTR)(配列番号4)に挿入した。第2のイントロン(配列番号5)をヌクレオチドCAGとGとの間の当該遺伝子の5’コード領域、すなわちコンセンサスエクソン/イントロン接合部位に挿入した。人工のイントロン(配列番号5)の挿入を有する上記3つの遺伝子の完全なDNA配列を配列番号6、7および8としてそれぞれリストに載せた。本発明者らは第IX因子遺伝子のコード配列内への人工のイントロン1の挿入および/または5’UTR内へのイントロン2の挿入を調べなかったが、本発明者らは同様の結果を得ることができると予測する。
【0229】
実施例2:遺伝子発現カセットのインビトロでの発現
デザイナーヒト第IX因子遺伝子発現カセットが細胞内で機能するか否かを調べるために、本発明者らは上述の発現カセットをHuh7細胞株の中にトランスフェクトした。Huh7は肝細胞において活性を示すプロモーターを調べるために使用されることが多い。Huh7細胞はどんな内因性凝固第IX因子も産生しないので、非トランスフェクト細胞を陰性対照として使用した。この実験の目的は、本発明者らの新規な第IX因子構築物がヒト細胞において当該細胞培養培地の中に細胞外で分泌される機能性因子タンパク質を産生できるか否かを確認することであった。トランスフェクションから24時間後に、当該細胞培養培地を血清非含有培地で置き換え、さらに24時間培養し続けた。その後に、当該細胞培養培地を回収し、かつインビトロでよく使用される凝固活性試験であるAPTT試験に供した。本発明者らの結果は、本発明者らの構築物の全てが高レベルの第IX因子タンパク質を発現し、かつ分泌したことを示した(図3)。本発明者らの遺伝子発現カセットの機能性の確認は、本発明者らに臨床的に関連する動物モデルである血友病Bマウスにおいてインビボでの遺伝子発現実験を行うように促した。
【0230】
実施例3:遺伝子発現カセットのインビボでの発現
インビトロ細胞培養トランスフェクション実験が、人工のイントロン-2(配列番号4)を含むコドン最適化ヒト第IX因子遺伝子-1を有する遺伝子発現カセットがより強力であることを示唆したので、本発明者らは、AAV逆位末端反復(ITR)に隣接し、かつ高レベル発現のためのマウスの肝臓におけるロバストな肝臓指向性AAVベクターであるAAV8血清型ベクターの中にパッケージングされたこの構築物を選択した。コドン最適化ヒト第IX因子遺伝子-1がAAVベクターの他の血清型において機能するか否かを調べるために、本発明者らは、それを操作されたキャプシド(AAVXL14)と共に新規なAAVベクターの中にパッケージングした。このベクターを二重CsCl密度勾配超遠心分離により精製し、生理食塩水で透析し、PAGEゲル分離後にDNAドットブロットおよびAAVキャプシドタンパク質銀染色法により力価を測定した。同時に、ここではF9-Zwuとして命名されている以前に報告されたヒト第IX因子遺伝子発現カセット(Wuら,Mol.Ther.16(2):280(2008))を陽性対照としてAAV8ベクターの中にパッケージングした。そのカセットは肝臓特異的TTRプロモーターおよび異なるコドン最適化ヒト第IX因子遺伝子を含んでいたが、同じアミノ酸R338L変異を有していた(the Padua mutation;Simioniら,N.Engl.J.Med361(17):1671(2009))。
【0231】
第IX因子発現カセットがどの程度効率的にインビボで機能するかを調べるために、本発明者らは6週齢の雄の第IX因子遺伝子ノックアウトマウス(よく使用される血友病B動物モデル)を使用することを選択した。上述のベクターを4種類の異なる用量、すなわち1×1010vg/kg(ベクターゲノム/キログラム体重)、4×1010vg/kg、1×1011vg/kgおよび4×1011vg/kgで尾静脈を介して第IX因子KOマウスに静脈内注射した(表4)。未処置の年齢および性別一致第IX因子KOマウスを陰性対照として使用した。標準的なプロトコルを用いて2週間ごとに眼窩後静脈から血漿を回収した。さらなる試験のために血漿試料を-80℃で凍結させた。ヒト第IX因子遺伝子発現を定量的に評価するために、血漿試料を、第IX因子活性のための標準的な曲線として、深刻な血友病B患者の血漿で連続希釈した精製した組換えヒト第IX因子を用いる日常的なAPTT試験に供した。
【0232】
本発明者らの結果から、全てのAAVベクターがKOマウスにおいてヒト第IX因子を発現することが分かった(表6)。但し、本発明者らのFIX遺伝子-1発現カセットは以前に報告された陽性対照ベクターF9-ZWuよりも有意により効率的であった(Wuら,Mol.Ther.16(2):280(2008))。例えば、1×1011vg/kgおよび4×1011vg/kgのベクター用量では、本発明者らのベクターは陽性対照ベクターと同程度に高い約25および34時間の発現レベルを達成した。1×1010vg/kg体重と同程度に低いベクター用量では、本発明者らのベクターはヒト因子活性の正常な生理的レベルの約140%を達成することができた。また、試験した全ての用量におけるヒト因子遺伝子発現は、インビボ実験の持続期間であった最大20週間にわたって安定であった(図4および表7)。従って本発明者らの結果は、当該遺伝子発現がロバストであるだけでなく長期にわたるものであることを実証した。FIX KOマウスにおけるFIX-1遺伝子産物の持続的な高レベル発現は、どんな識別できる有害作用も引き起こさなかった。
【表7】
ベクターの注射から2週間後に第IX因子活性を測定した(n=7)。
第IX因子活性を正常なヒトの血漿中濃度の割合として示した。

【表8】
第IX因子活性は正常なヒトの血漿中濃度割合として示した。
【0233】
本発明の趣旨から逸脱することなく数多くの様々な修飾を行うことができることが当業者によって理解されるであろう。従って、本発明の形態は単に例示であって、本発明の範囲を限定することは意図されていないということが明確に理解されるはずである。
【0234】
全ての刊行物、特許出願、特許、特許公開、ジェンバンク(登録商標)データベース受入番号によって同定される配列、および本明細書で引用されている他の参考文献は、参照がなされる文章および/またはパラグラフに関する教示のために、それら全体が参照により組み込まれる。
【0235】
上記は本発明の例示であって、それを限定するものとして解釈されるべきではない。本発明はその中に含まれる特許請求の範囲の均等物と共に以下の特許請求の範囲によって定められている。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2024097922000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-06-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおける発現のためにコドンが最適化されている、ヒト第IX因子をコードするポリヌクレオチドであって、
前記ポリヌクレオチドは、合成のイントロンを含み、
前記ポリヌクレオチドは、
配列番号のヌクレオチド配列もしくは配列番号6と少なくとも97%同一の配列;
配列番号7のヌクレオチド配列もしくは配列番号7と少なくとも97%同一の配列;または
配列番号8のヌクレオチド配列もしくは配列番号8と少なくとも97%同一の配列;
を含む、
ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記合成のイントロンは、配列番号5のヌクレオチド配列または配列番号5と少なくとも97%同一の配列を含む、請求項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
プロモーターをさらに含む、請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記プロモーターは、配列番号1のヌクレオチド配列または配列番号1と少なくとも97%同一の配列を含む合成の肝臓特異的プロモーターである、請求項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項6】
前記ベクターはウイルスベクターである、請求項に記載のベクター。
【請求項7】
前記ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項に記載のベクター。
【請求項8】
前記AAVベクターはAAV8ベクターまたはAAV9ベクターである、請求項に記載のベクター。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドおよび/または請求項5~8のいずれか1項に記載のベクターを含む、形質転換細胞。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項5~8のいずれか1項に記載のベクターおよび/または請求項の形質転換細胞を含む、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項5~8のいずれか1項に記載のベクターおよび/または請求項の形質転換細胞と、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物。
【請求項12】
対象の肝臓において第IX因子を産生させる方法における使用のための組成物であって、請求項1~のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項5~8のいずれか1項に記載のベクターおよび/または請求項の形質転換細胞を含む、組成物。
【請求項13】
対象における血友病Bまたは後天性第IX因子欠損症を治療する方法における使用のための組成物であって、請求項1~のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項5~8のいずれか1項に記載のベクターおよび/または請求項の形質転換細胞を含む、組成物。
【請求項14】
対象における第IX因子ポリペプチドの生物学的利用能を高める方法における使用のための組成物であって、請求項1~のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項5~8のいずれか1項に記載のベクターおよび/または請求項の形質転換細胞を含む、組成物。