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特開2024-97941軟磁性材料、成形品、当該成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097941
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】軟磁性材料、成形品、当該成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20240711BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240711BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240711BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240711BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240711BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
H01F1/26
C08L101/00
C08L63/00 C
H01F1/147 166
H01F27/255
H01F41/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024077407
(22)【出願日】2024-05-10
(62)【分割の表示】P 2023550111の分割
【原出願日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2022053862
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鵜木 君光
(57)【要約】
【課題】流動性および成形性に優れるとともに、高透磁率および高飽和磁性密度に優れた成形品が得られる、トランスファー成形または圧縮成形に用いられる軟磁性材料を提供する。
【解決手段】軟磁性粒子(A)を含む、トランスファー成形または圧縮成形に用いられる軟磁性材料であって、前記軟磁性粒子(A)のFe量が94質量%以上であり、メジアン径が20μm以上である、軟磁性材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粒子(A)を含む、トランスファー成形または圧縮成形に用いられる軟磁性材料であって、
前記軟磁性粒子(A)のFe量が94質量%以上であり、メジアン径が20μm以上である、軟磁性材料。
【請求項2】
さらに硬化触媒(E)を含み、
硬化触媒(E)は、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の軟磁性材料。
【請求項3】
175℃におけるゲルタイムが、60秒以上300秒以下である、請求項2に記載の軟磁性材料。
【請求項4】
前記軟磁性粒子(A)がガス水アトマイズ粉末である、請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性材料。
【請求項5】
前記軟磁性粒子(A)が結晶粒子である、請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性材料。
【請求項6】
前記軟磁性粒子(A)のSi量が5.5質量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性材料。
【請求項7】
さらに、メジアン径が20μm未満の結晶粒子である軟磁性粒子(B)を含む、請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性材料。
【請求項8】
軟磁性粒子(B)はSi元素を含む、請求項7に記載の軟磁性材料。
【請求項9】
さらに、エポキシ樹脂(C)を含む、請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性材料。
【請求項10】
さらに、フェノール系硬化剤(D)を含む、請求項9に記載の軟磁性材料。
【請求項11】
23℃でタブレット状または顆粒状である、請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性材料。
【請求項12】
請求項1~3いずれかに記載の軟磁性材料を硬化してなる成形品。
【請求項13】
透磁率が32以上である、請求項12に記載の成形品。
【請求項14】
飽和磁束密度が1.40T以上である、請求項12に記載の成形品。
【請求項15】
トランスファー成形装置を用いて、請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性材料の溶融物を金型に注入する工程と、
前記溶融物を硬化する工程と、
を含む、成形品の製造方法。
【請求項16】
請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性材料を圧縮成形する工程を含む、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性材料、成形品、当該成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の電気・電子製品の部品として、磁性コア/外装部材を備えるコイル(応用分野によっては「リアクトル」「インダクタ」などとも呼ばれる)が盛んに検討されている。また、そのようなコイルの磁性コアや外装部材を作製するための、成形性のある磁性材料も盛んに検討されている。
【0003】
特許文献1には、磁性粉と、熱硬化性樹脂及びウレア系硬化促進剤を含む樹脂組成物とを含有するコンパウンドおよびその成形体が開示されている。当該文献には、平均粒径24μmのアモルファス鉄粉を用いた例が記載されている。
【0004】
特許文献2には、断面において、Heywood径が5μm以上25μm以下の軟磁性粒子として観察される大粒子と、Heywood径が0.5μm以上3μm以下の軟磁性粒子として観察される小粒子と、を含み、前記大粒子の平均アスペクト比と、前記小粒子の平均アスペクト比が所定の関係にある磁気コアが開示されている。
また、当該文献には圧粉成形により磁気コアを得たことが記載されている。
【0005】
特許文献3には、樹脂(A)と、メジアン径が7.5~100μmの磁性粉(B)と、メジアン径が0.2~5μmの粒子(C)とを含む、トランスファー成形に用いられる樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-172685号公報
【特許文献2】特開2021-153175号公報
【特許文献3】国際公開2021/066089号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の技術においては、透磁率および飽和磁性密度の磁性特性に改善の余地があった。
特許文献2に記載の従来の技術においては、透磁率および飽和磁性密度の磁性特性に改善の余地があった。また、圧粉成形により磁気コアを製造しており、大掛かりな製造設備が必要であり、さらにロット間において成形圧力にバラツキが生じやすく製品信頼性に改善の余地があった。さらに、プロセスによっては磁気コアの一部に応力が残留することがあり製品の歩留まりに改善の余地があった。
また、特許文献3の従来の技術においては、透磁率および飽和磁性密度の磁性特性に改善の余地があり、さらにゲルタイムが短く成形性等に改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、所定の軟磁性粒子を含むことにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0009】
(1) 軟磁性粒子(A)を含む、トランスファー成形または圧縮成形に用いられる軟磁性材料であって、
前記軟磁性粒子(A)のFe量が94質量%以上であり、メジアン径が20μm以上である、軟磁性材料。
(2) さらに硬化触媒(E)を含み、
硬化触媒(E)は、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物から選択される少なくとも1種である、(1)に記載の軟磁性材料。
(3) 175℃におけるゲルタイムが、60秒以上300秒以下である、(2)に記載の軟磁性材料。
(4) 前記軟磁性粒子(A)がガス水アトマイズ粉末である、(1)~(3)のいずれかに記載の軟磁性材料。
(5) 前記軟磁性粒子(A)が結晶粒子である、(1)~(4)のいずれかに記載の軟磁性材料。
(6) 前記軟磁性粒子(A)のSi量が5.5質量%以下である、(1)~(5)のいずれかに記載の軟磁性材料。
(7) さらに、メジアン径が20μm未満の結晶粒子である軟磁性粒子(B)を含む、(1)~(6)のいずれかに記載の軟磁性材料。
(8) 軟磁性粒子(B)はSi元素を含む、(7)に記載の軟磁性材料。
(9) さらに、エポキシ樹脂(C)を含む、(1)~(8)のいずれかに記載の軟磁性材料。
(10) さらに、フェノール系硬化剤(D)を含む、(9)に記載の軟磁性材料。
(11) 23℃でタブレット状または顆粒状である、(1)~(10)のいずれかに記載の軟磁性材料。
(12) (1)~(11)のいずれかに記載の軟磁性材料を硬化してなる成形品。
(13) 透磁率が32以上である、(12)に記載の成形品。
(14) 飽和磁束密度が1.40T以上である、(12)または(13)に記載の成形品。
(15) トランスファー成形装置を用いて、(1)~(11)のいずれかに記載の軟磁性材料の溶融物を金型に注入する工程と、
前記溶融物を硬化する工程と、
を含む、成形品の製造方法。
(16) (1)~(11)のいずれかに記載の軟磁性材料を圧縮成形する工程を含む、成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流動性および成形性に優れるとともに、高透磁率および高飽和磁性密度に優れた成形品が得られる、トランスファー成形または圧縮成形に用いられる軟磁性材料を提供することができる。
言い換えれば、これらの特性のバランスに優れる軟磁性材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る構造体の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、例えば「1~10」は特に断りがなければ「1以上」から「10以下」を表す。
【0013】
本実施形態のトランスファー成形または圧縮成形に用いられる軟磁性材料は、軟磁性粒子(A)を含む。
【0014】
[軟磁性粒子(A)]
軟磁性とは、保磁力が小さい強磁性のことを指し、一般的には、保磁力が800A/m以下である強磁性のことを軟磁性という。
軟磁性粒子(A)は、鉄原子を主成分とする(化学組成において鉄原子の含有質量が一番多い)鉄基粒子であり、より具体的には化学組成において鉄原子の含有質量が一番多い鉄合金である。
【0015】
鉄基粒子は、鉄基結晶粒子を含むものであればよく、鉄基結晶粒子のみで構成されてもよいが、鉄基アモルファス粒子および鉄基結晶粒子を含んでもよい。また、鉄基粒子としては、1種の化学組成からなるものを用いてもよいし、異なる化学組成のものを2種以上併用してもよい。
【0016】
軟磁性粒子(A)は、構成元素として鉄以外の元素を含んでいてもよい。鉄以外の元素としては、例えば、B、C、N、O、Al、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。本実施形態においては、Fe、Ni、Si及びCoから選ばれる1種類以上の元素を主要元素として含むことができる。
【0017】
軟磁性粒子(A)は、Fe量が94質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは96質量%以上の鉄基粒子である。上限値は特に限定されないが100質量%以下、好ましくは99質量%以下である。このように構成元素としての鉄の含有率が高い金属材料は、透磁率や磁束密度等の磁気特性が比較的良好な軟磁性を示す。このため、例えば磁性コア等に成形されたとき、良好な磁気特性を示し得る樹脂成形材料が得られる。
【0018】
さらに、軟磁性粒子(A)のメジアン径は、20μm以上、好ましくは30μm以上、より好ましくは40μm以上、さらに好ましくは50μm以上である。上限値は特に限定されないが200μm以下である。
【0019】
本実施形態の軟磁性材料は、上記のようなFe量およびメジアン径を満たす軟磁性粒子(A)を含むことにより、流動性および成形性に優れるとともに、高透磁率および高飽和磁性密度に優れた成形品を得ることができる。
【0020】
なお、メジアン径は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により得ることができる。具体的には、HORIBA社製の粒子径分布測定装置「LA-950」により、軟磁性粒子(A)を乾式で測定することで粒子径分布曲線を得、この分布曲線を解析することでD50を求めることができる。
【0021】
前記軟磁性粒子(A)のSi量は、好ましくは5.5質量%以下、より好ましくは4.5質量%以下、さらに好ましくは3.5質量%以下である。
軟磁性粒子(A)のSi量が上記の範囲であると、得られる硬化物は高透磁率により優れる。
【0022】
軟磁性粒子(A)は、本発明の効果の観点から結晶粒子であることが好ましい。
軟磁性粒子(A)の具体例としては、例えば、純鉄、ケイ素鋼、カルボニル鉄、鉄-コバルト合金、鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金、鉄-アルミニウム合金、ステンレス鋼、またはこれらのうちの1種もしくは2種以上を含む複合材料等が挙げられる。入手性などの観点からケイ素鋼、カルボニル鉄を好ましく用いることができ、ケイ素鋼がより好ましい。
【0023】
前記軟磁性粒子(A)は、ガス水アトマイズ粉末であることが好ましい。ガス水アトマイズ粉末は、圧力流体として水とガスとの混合物を用いたアトマイズ法により調製することができる。ガス水アトマイズ粉末は非球形状のアトマイズ粉末であり、球形状のアトマイズ粉や不規則な形状の水アトマイズ粉とは異なるものである。
ガス水アトマイズ粉末は、ガスアトマイズ粉の高球形度の特徴と、水アトマイズ粉の圧粉体高強度の特徴を有しており、軟磁性粒子(A)としてガス水アトマイズ粉末を含む軟磁性材料は流動性および成形性に優れ、さらに機械強度に優れた硬化物(成形品)を得ることができる。
【0024】
本実施形態の軟磁性材料は、軟磁性粒子(A)を好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上の量で含む。上限値は特に限定されないが90質量%以下、好ましくは80質量%以下とすることができる。
【0025】
[軟磁性粒子(B)]
本実施形態の軟磁性材料は、さらに、軟磁性粒子(A)とは異なるメジアン径を有する軟磁性粒子(B)含むことができる。軟磁性粒子(B)のメジアン径は20μm未満とすることができる。
【0026】
軟磁性粒子(B)は、鉄基粒子であり、より具体的には化学組成において鉄原子の含有質量が一番多い鉄合金である。軟磁性粒子(B)は、軟磁性粒子(A)と同様に構成元素として鉄以外の元素を含んでいてもよい。本実施形態においては、鉄以外の元素として、Ni、Si及びCoから選ばれる1種類以上の元素を主要元素として含むことができ、Si元素を含むことが高透磁率の観点から好ましい。
【0027】
軟磁性粒子(B)は、鉄基結晶粒子を含むものであればよく、鉄基結晶粒子のみで構成されてもよいが、鉄基アモルファス粒子および鉄基結晶粒子を含んでもよい。また、鉄基粒子としては、1種の化学組成からなるものを用いてもよいし、異なる化学組成のものを2種以上併用してもよい。
【0028】
軟磁性粒子(B)は、メジアン径が20μm未満の結晶粒子であることが好ましい。これにより、軟磁性材料の流動性や成形性がさらに向上する。
軟磁性粒子(B)のメジアン径は、好ましくは18μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは12μm以下とすることができる。下限値は、特に限定されないが、0.5μm以上、好ましくは1μm以上とすることができる。
軟磁性粒子(B)は、メジアン径が異なる2種以上の軟磁性粒子を組み合わせて含むこともでき、これにより軟磁性材料の流動性や成形性がさらに向上する。
【0029】
軟磁性粒子(B)の具体例としては、例えば、純鉄、ケイ素鋼、カルボニル鉄、鉄-コバルト合金、鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金、鉄-アルミニウム合金、ステンレス鋼、またはこれらのうちの1種もしくは2種以上を含む複合材料等が挙げられる。入手性などの観点からケイ素鋼、カルボニル鉄を好ましく用いることができ、ケイ素鋼がより好ましい。
【0030】
本実施形態の軟磁性材料は、軟磁性粒子(B)を好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上の量で含む。上限値は特に限定されないが50質量以下、好ましくは40質量%以下とすることができる。
【0031】
[エポキシ樹脂(C)]
本実施形態の軟磁性材料は、さらに、エポキシ樹脂(C)を含むことができる。
エポキシ樹脂(C)としては、本発明の効果を奏する範囲で、公知のエポキシ樹脂を用いることができる。
【0032】
エポキシ樹脂(C)として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、ザイロック型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0033】
本実施形態の軟磁性材料は、エポキシ樹脂を1種のみ含んでもよいし、2種類以上含んでもよい。また、同種のエポキシ樹脂であっても異なる分子量のものを併用してもよい。
【0034】
本実施形態のエポキシ樹脂(C)は、本発明の効果の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ザイロック型エポキシ樹脂、およびビフェニル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましく、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂がさらに好ましい。
【0035】
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂とは、具体的には、メタン(CH)の4つの水素原子のうちの3つがベンゼン環で置換された部分構造を含むエポキシ樹脂である。ベンゼン環は、無置換であっても置換基で置換されていてもよい。置換基としては、ヒドロキシ基やグリシジルオキシ基などを挙げることができる。
【0036】
具体的には、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂は、以下一般式(a1)で表される構造単位を含む。この構造単位が2つ以上連なることで、トリフェニルメタン骨格が構成される。
【0037】
【化1】
【0038】
一般式(a1)において、
11は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基またはシアノ基であり、
12は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基またはシアノ基であり、
iは、0~3の整数であり、
jは、0~4の整数である。
【0039】
11およびR12の1価の有機基の例としては、後述の一般式(BP)におけるRおよびRの1価の有機基として列挙されているものを挙げることができる。
iおよびjは、それぞれ独立に、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。
【0040】
一態様として、iおよびjはともに0である。つまり、一態様として、一般式(a1)中のベンゼン環の全ては、1価の置換基としては、明示されたグリシジルオキシ基以外の置換基を有しない。
【0041】
ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂とは、具体的には、2つのベンゼン環が単結合で連結している構造を含むエポキシ樹脂のことである。ここでのベンゼン環は、置換基を有していてもいなくてもよい。
具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP)で表される部分構造を有する。
【0042】
【化2】
【0043】
一般式(BP)において、
およびRは、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
rおよびsは、それぞれ独立に、0~4であり、
*は、他の原子団と連結していることを表す。
【0044】
およびRの1価の有機基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシル基などを挙げることができる。
【0045】
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、例えばアリル基、ペンテニル基、ビニル基などが挙げられる。
アルキニル基としては、例えばエチニル基などが挙げられる。
アルキリデン基としては、例えばメチリデン基、エチリデン基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばトリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アルカリル基としては、例えばトリル基、キシリル基などが挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
【0046】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
ヘテロ環基としては、例えばエポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。
【0047】
およびRの1価の有機基の総炭素数は、それぞれ、例えば1~30、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、特に好ましくは1~6である。
rおよびsは、それぞれ独立に、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。一態様として、rおよびsはともに0である。
【0048】
より具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP1)で表される構造単位を有するビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0049】
【化3】
【0050】
一般式(BP1)において、
RaおよびRの定義および具体的態様は、一般式(BP)と同様であり、
rおよびsの定義および好ましい範囲は、一般式(BP)と同様であり、
は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
tは、0~3の整数である。
の1価の有機基の具体例としては、RおよびRの具体例として挙げたものと同様のものを挙げることができる。
tは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。
【0051】
本実施形態の軟磁性材料中のエポキシ樹脂の量は、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%である。
【0052】
[フェノール系硬化剤(D)]
本実施形態の軟磁性材料は、さらに、フェノール系硬化剤(D)を含むことができる。
フェノール系硬化剤(D)としては、本発明の効果を奏する範囲で、公知のフェノール系硬化剤を用いることができる。
【0053】
フェノール系硬化剤(D)は、好ましくは、ノボラック骨格およびビフェニル骨格からなる群より選ばれるいずれかの骨格を含む。フェノール系硬化剤がこれらの骨格のいずれかを含むことで、特に成形体の耐久性を高めることができる。
「ビフェニル骨格」とは、具体的には、前述のエポキシ樹脂の説明における一般式(BP)のように、2つのベンゼン環が単結合で連結している構造である。
【0054】
ビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤として具体的には、前述のエポキシ樹脂の説明における一般式(BP1)において、グリシジル基を水素原子に置き換えたビフェニルアラルキル型のものなどを挙げることができる。
ノボラック骨格を有するフェノール系硬化剤として、具体的には以下一般式(N)で表される構造単位を有するものを挙げることができる。
【0055】
【化4】
【0056】
一般式(N)において、
は、1価の置換基を表し、
uは、0~3の整数である。
の1価の置換基の具体例としては、一般式(BP)におけるRおよびRの1価の置換基として説明したものと同様のものを挙げることができる。
uは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1であり、更に好ましくは0である。
【0057】
本実施形態においては、フェノール系硬化剤(D)は、ノボラック型フェノール樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂およびザイロック型フェノール樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂であることがより好ましい。
【0058】
フェノール系硬化剤(D)が高分子またはオリゴマーである場合、フェノール系硬化剤の数平均分子量(GPC測定による標準ポリスチレン換算値)は、例えば200~800程度である。
【0059】
軟磁性材料中のフェノール系硬化剤(D)の含有量は、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%である。
【0060】
フェノール系硬化剤(D)の量を適切に調整することにより、流動性を一層向上させることができ、得られる硬化物の機械特性や磁気特性を向上させることができる。
【0061】
本実施形態においては、本発明の効果の観点、特に金型内への充填性の観点から、エポキシ樹脂(C)およびフェノール系硬化剤(D)の少なくとも一方がビフェニルアラルキル構造を有し、好ましくは何れもビフェニルアラルキル構造を有する。
本実施形態の樹軟磁性材料は、エポキシ樹脂(C)およびフェノール系硬化剤(D)の少なくとも一方がビフェニルアラルキル構造を含むことから、低温での成形プロセスにおいて反応性を低下させることができ、軟磁性材料の溶融粘度をさらに安定して低下させることができる。すなわち、このような樹軟磁性材料は、金型等への充填性により優れており成形性に優れる。
【0062】
[硬化触媒(E)]
本実施形態の軟磁性材料は、さらに、硬化触媒(E)を含むことができる。
硬化触媒(E)は、硬化促進剤などと呼ばれる場合もある。硬化触媒(E)は、エポキシ樹脂(C)の硬化反応を早めるものである限り特に限定されず、公知の硬化触媒を用いることができる。
【0063】
具体的には、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類(イミダゾール系硬化促進剤);1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物などを挙げることができ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0064】
これらの中でも、所定のゲルタイムを確保して成形性を向上させ、曲げ強度などの機械強度に優れた磁性材料を得る観点からはリン原子含有化合物を含むことが好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が特に好ましい。
潜伏性を有する硬化触媒を用いることにより、成形性により優れた磁性材料を得ることができる。
【0065】
有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
【0066】
テトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(6)で表される化合物等が挙げられる。
【0067】
【化5】
【0068】
一般式(6)において、
Pはリン原子を表す。
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、芳香族基またはアルキル基を表す。
Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表す。
AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表す。
x、yは1~3、zは0~3であり、かつx=yである。
【0069】
一般式(6)で表される化合物は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで水を加えると、一般式(6)で表される化合物を沈殿させることができる。一般式(6)で表される化合物において、リン原子に結合するR、R、RおよびRがフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール類であり、かつAは該フェノール類のアニオンであるのが好ましい。上記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどの単環式フェノール類、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、アントラキノールなどの縮合多環式フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類、フェニルフェノール、ビフェノールなどの多環式フェノール類などが例示される。
【0070】
ホスホベタイン化合物としては、例えば、下記一般式(7)で表される化合物等が挙げられる。
【0071】
【化6】
【0072】
一般式(7)において、
Pはリン原子を表す。
は炭素数1~3のアルキル基、Rはヒドロキシル基を表す。
fは0~5であり、gは0~3である。
【0073】
一般式(7)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。
まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。
【0074】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば、下記一般式(8)で表される化合物等が挙げられる。
【0075】
【化7】
【0076】
一般式(8)において、
Pはリン原子を表す。
10、R11およびR12は、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
13、R14およびR15は水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R14とR15が結合して環状構造となっていてもよい。
【0077】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換またはアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1~6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0078】
また、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でもp-ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
【0079】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
【0080】
一般式(8)で表される化合物において、リン原子に結合するR10、R11およびR12がフェニル基であり、かつR13、R14およびR15が水素原子である化合物、すなわち1,4-ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物が軟磁性材料の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
【0081】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(9)で表される化合物等が挙げられる。
【0082】
【化8】
【0083】
一般式(9)において、
Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。
16、R17、R18およびR19は、それぞれ、芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
20は、基YおよびYと結合する有機基である。
21は、基YおよびYと結合する有機基である。
およびYは、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
およびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
20、およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y、Y、YおよびYは互いに同一であっても異なっていてもよい。
Z1は芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。
【0084】
一般式(9)において、R16、R17、R18およびR19としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-オクチル基およびシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等のアルキル基、アルコキシ基、水酸基などの置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0085】
一般式(9)において、R20は、YおよびYと結合する有機基である。同様に、R21は、基YおよびYと結合する有機基である。YおよびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にYおよびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基R20およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y、Y、Y、およびYは互いに同一であっても異なっていてもよい。このような一般式(9)中の-Y-R20-Y-、およびY-R21-Y-で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、分子内にカルボキシル基、または水酸基を少なくとも2個有する有機酸が好ましく、さらには芳香環を構成する隣接する炭素にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物が好ましく、芳香環を構成する隣接する炭素に水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物がより好ましく、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,2'-ビフェノール、1,1'-ビ-2-ナフトール、サリチル酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2-ヒドロキシベンジルアルコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,2-プロパンジオールおよびグリセリン等が挙げられるが、これらの中でも、カテコール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0086】
一般式(9)中のZは、芳香環または複素環を有する有機基または脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基およびビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基等のグリシジルオキシ基、メルカプト基、アミノ基を有するアルキル基およびビニル基等の反応性置換基等が挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
【0087】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法は、例えば以下である。
メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3-ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド-メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。
【0088】
硬化触媒(E)を用いる場合、その含有量は、軟磁性材料全体に対して、好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.02~0.8質量%である。このような数値範囲とすることにより、他の性能を過度に悪くすることなく、十分に硬化促進効果が得られるとともに、所定のゲルタイムを確保して成形性にさらに優れる。
【0089】
[シランカップリング剤(F)]
本実施形態の軟磁性材料は、さらに、シランカップリング剤(F)を含むことができる。シランカップリング剤(F)を含むことにより、軟磁性材料の硬化物(成形品)の機械強度を改善することができる。
【0090】
シランカップリング剤(F)は、本発明の効果を発揮し得る範囲で公知の化合物を用いることができるが、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0091】
【化9】
【0092】
一般式(1)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルコキシ基または炭素数1~3のアルキル基を示し、少なくとも2つのRは炭素数1~3のアルコキシ基である。Rの全てが、炭素数1~3のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1~2のアルコキシ基であることがより好ましい。
【0093】
Lは、炭素数1~17の直鎖状または分岐状アルキレン基を示す。Lは、炭素数2~15の直鎖状または分岐状アルキレン基であることが好ましく、炭素数2~12の直鎖状または分岐状アルキレン基であることがより好ましい。
Lが長鎖のアルキレン基であることにより、軟磁性粒子の表面に対する樹脂の濡れ性が改善され、成形性や流動性が向上すると推察される。
【0094】
Xは、ビニル基、エポキシ基、グリシジルエーテル基、オキセタニル基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、メチル基、アニリノ基を示す。Xは、本発明の効果の観点から、ビニル基、エポキシ基、グリシジルエーテル基、メチル基、アニリノ基が好ましく、エポキシ基、グリシジルエーテル基、メチル基、アニリノ基がより好ましい。樹脂成形材料の溶融時の流動性をより向上させる観点から、Xは、エポキシ基、グリシジルエーテル基、アニリノ基が好ましい。
【0095】
シランカップリング剤(F)としては、KBM-1083(オクテニルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)、KBM-3103C(デシルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)、KBM-4803(グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)、KBM-5803(メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)、CF-4083(N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、東レ・ダウコーニング社製)等を挙げることができる。
【0096】
本実施形態の軟磁性材料は、シランカップリング剤(F)を0.05質量%以上1重量%以下、好ましくは0.1~0.8質量%の量で含むことができる。これにより、軟磁性材料の硬化物(成形品)の機械強度により優れる。
【0097】
[離型剤(G)]
本実施形態の軟磁性材料は、さらに、離型剤(G)を含むことができる。
離型剤(G)としては、例えば、カルナバワックス、ステアリン酸、モンタン酸、ステアリン酸金属塩、酸化ポリエチレン、またはアルケンおよびマレイン酸無水物の縮合物とステアリルアルコールとの反応物等を挙げることができ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて含むことができる。
【0098】
本実施形態においては、離型剤(G)がステアリン酸およびカルバナワックスから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0099】
離型剤(G)の配合量は、軟磁性材料100質量%中に、好ましくは0.01質量%以上、2質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上、1質量%以下の範囲とすることができる。離型剤(G)の添加量が上記範囲であると、軟磁性材料の離型性により優れる。
【0100】
[密着助剤(H)]
本実施形態の軟磁性材料は、さらに、密着助剤(H)含むことができる。密着助剤(H)としては、本発明の効果を奏する範囲で公知の有機基を用いることができるが、一般式(2)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0101】
【化10】
【0102】
一般式(2)中、Rは、ニトロ基、メルカプト基、カルボキシル基、水酸基、スルホニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキルエステル基、炭素数1~5のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数1~5のアルコキシカルボニルアミノ基、置換または未置換のフェニルエステル基、置換または未置換のフェニルカルボニルアミノ基を示す。
本発明の効果の観点から、Rは、ニトロ基、メルカプト基、カルボキシル基、置換または未置換のフェニルカルボニルアミノ基、アルキルエステル基、置換または未置換のフェニルエステル基が好ましく、置換または未置換のフェニルカルボニルアミノ基がより好ましい。
置換フェニルカルボニルアミノ基または置換フェニルカルボニルアミノ基は、ハロゲン原子、ニトロ基、メルカプト基、カルボキシル基、水酸基、スルホニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基等から選択される少なくとも1つの置換基をフェニル基に有していてもよく、本発明の効果の観点から水酸基であることが好ましい。
【0103】
~Xは窒素原子または炭素原子を示し、X~Xの少なくとも1つは窒素原子であり、残りは炭素原子である。X~Xが炭素原子である場合、当該炭素原子は水素原子で置換され、X~Xが窒素原子である場合、当該窒素原子は無置換であるか水素原子で置換される。
~Xは、本発明の効果の観点から、X、XおよびXが窒素原子でありXが炭素原子であるか、またはX、XおよびXが窒素原子でありXが炭素原子であることが好ましい。
【0104】
本実施形態において、一般式(2)で表される化合物を含む軟磁性材料から得られる磁性部材(磁性コアまたはまたは外装部材)と巻線(コイル)との密着性を改善することができ、さらに金型からの離型性に優れた磁性部材を得ることができる。
【0105】
本実施形態の軟磁性材料は、密着助剤(H)を0.01~0.5質量%、好ましくは0.02~0.2質量%の量で含むことができる。これにより、磁性コアまたは外装部材と巻線(コイル)との密着性をより改善することができ、さらに金型からの離型性により優れた磁性部材を得ることができる。
【0106】
[分散剤(I)]
本実施形態の樹脂成形材料は、さらに、分散剤(I)を含むことができる。分散剤(I)を含むことにより、軟磁性材料の流動性をより改善することができる。
【0107】
分散剤(I)としては、本発明の効果を発揮することができれば特に限定されることなく従来公知の化合物を用いることができる。本実施形態においては、分散剤(I)として、下記一般式(3)で表されるカルボン酸系分散剤を少なくとも1種含むことが好ましい。
【0108】
【化11】
【0109】
一般式(3)中、Rは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~5のアルキルカルボキシル基、炭素数1~5のアルコキシカルボキシル基、炭素数1~5のアルキルアルコール基、炭素数1~5のアルコキシアルコール基を示し、複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。
【0110】
Rは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~5のアルキルカルボキシル基であることが好ましい。
【0111】
Xは、酸素原子、炭素数1~30のアルキレン基、二重結合を1以上有する炭素数1~30の2価の鎖状炭化水素基、三重結合を1以上有する炭素数1~30の2価の鎖状炭化水素基を示し、複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。2価の鎖状炭化水素基としては、アルキレン基等が挙げられる。
【0112】
Xは、酸素原子、炭素数1~20のアルキレン基、二重結合を1以上有する炭素数1~20の2価の鎖状炭化水素基であることが好ましく、酸素原子、炭素数1~20のアルキレン基、二重結合を1つ有する炭素数1~20のアルキレン基であることが好まし。
nは0~20の整数、mは1~5の整数を示す。
【0113】
一般式(3)で表される化合物は、以下の一般式(3a)または一般式(3b)で表される化合物であることが好ましい。カルボン酸系分散剤は、これらから選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0114】
【化12】
【0115】
一般式(3a)中、R、m、nは一般式(3)と同義である。
【0116】
【化13】
【0117】
一般式(3b)中、Qは炭素数1~5のアルキレン基を示し、炭素数1~3のアルキレン基であることが好ましい。Xは一般式(3)と同義である。
【0118】
カルボン酸系分散剤の酸価は、5~500mgKOH/g、好ましくは10~350mgKOH/g、より好ましくは15~100mgKOH/gである。酸価が上記範囲であると、高飽和磁束密度を有する磁性材料が得られるとともに、流動性に優れており成形性に優れる。
カルボン酸系分散剤は、固体状もしくはろう状であることが好ましい。
【0119】
カルボン酸系分散剤としては、CRODA社製の、Hypermer KD-4(質量平均分子量:1700、酸価:33mgKOH/g)、Hypermer KD-9(質量平均分子量:760、酸価:74mgKOH/g)、Hypermer KD-12(質量平均分子量:490、酸価:111mgKOH/g)、Hypermer KD-16(質量平均分子量:370、酸価:299mgKOH/g)等を挙げることができる。
【0120】
分散剤(I)の含有量は、軟磁性材料100質量%に対して、0.01質量%以上2質量%以下、好ましくは0.05質量%以上1質量%以下である。分散剤(I)の添加量が上記範囲であると、軟磁性材料の成形性により優れる。
【0121】
[その他の成分]
本実施形態の軟磁性材料は、上述した成分以外の成分を含んでいてもよい。例えば、低応力剤、着色剤、酸化防止剤、耐食剤、染料、顔料、難燃剤等のうち1または2以上を含んでもよい。
低応力剤としては、ポリブタジエン化合物、アクリロニトリルブタジエン共重合化合物、シリコーンオイル、シリコーンゴム等のシリコーン化合物が挙げられる。低応力剤を用いる場合、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
本実施形態の軟磁性材料は、低応力剤を0.01~0.5質量%、好ましくは0.02~0.3質量%の量で含むことができる。
【0122】
(軟磁性材料の形態、物性)
本実施形態の軟磁性材料は、23℃で、好ましくはタブレット状または顆粒状であり、より好ましくはタブレット状である。軟磁性材料がタブレット状または顆粒状であることにより、軟磁性材料の流通や保管がしやすく、また、トランスファー成形や圧縮成形(コンプレッション成形)に適用しやすい。
【0123】
本実施形態の軟磁性材料は、以下の条件で測定された175℃におけるゲルタイムが、好ましくは60秒以上300秒以下、より好ましくは65秒以上250秒以下、さらに好ましくは70秒以上230秒以下とすることができる。
軟磁性材料のゲルタイムが上記範囲であることにより、硬化までの時間を確保できることから、成形性にさらに優れるとともに、ハンドリング性や充填性にも優れる。
(測定条件)
175℃に制御された熱板上に軟磁性材料を載せ、スパチュラで約1回/秒のストロークで練る。軟磁性材料が熱により溶解してから硬化するまでの時間を測定し、ゲルタイムとする。
【0124】
本実施形態の軟磁性材料は、以下の条件で測定された175℃におけるスパイラルフロー(流動長)が、好ましくは20cm以上、より好ましくは25cm以上、さらに好ましくは30cm以上、特に好ましくは40cm以上とすることができる。上限値は特に限定されないが、好ましくは90cm以下、より好ましくは80cm以下、さらに好ましくは70cm以下とすることができる。
スパイラルフローが上記範囲であることにより、軟磁性材料は流動性にさらに優れ、成形性がより改善される。
(測定条件)
低圧トランスファー成形機を用いて、ANSI/ASTM D 3123-72に準じたスパイラルフロー測定用金型に、軟磁性材料を注入し、流動長を測定する。このとき、金型温度は175℃、注入圧力は6.9MPa、保圧時間は120秒の条件とする。
【0125】
(軟磁性材料の製造方法)
本実施形態の軟磁性材料は、工業的には、例えば、まず(1)ミキサーを用いて各成分を混合し、(2)その後、ロールを用いて、90℃前後で5分以上、好ましくは10分程度混練することにより混練物を得、(3)そして得られた混練物を冷却し、(4)さらにその後、粉砕することにより製造することができる。以上により、粉末状の軟磁性材料を得ることができる。
【0126】
粉末状の軟磁性材料を打錠し、23℃において顆粒状やタブレット状にしてもよい。これにより、特にトランスファー成形法や圧縮成形法(コンプレッション成形法)に用いることに適した軟磁性材料が得られる。
【0127】
<成形品>
本実施形態の成形品は、上述の軟磁性材料を硬化して得ることができる。
本実施形態の成形品は上述のように飽和磁束密度が高い複合材料から構成されているため、高飽和磁束密度を実現することができ、以下の方法で測定される飽和磁束密度が1.40T以上、好ましくは1.42T以上、より好ましくは1.45T以上とすることができる。
(測定条件)
軟磁性材料を、低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間120秒間で注入成形し、直径16mmΦ、高さ32mmの円柱状成形体を得る。次いで、得られた成形体を175℃、4時間で後硬化して、比透磁率評価用試験片を作製する。得られた円柱状成形体に対して、室温(25℃)にて、直流交流磁化特性試験装置を用いて、上記成形体に、外部磁場100kA/mを印加する。これにより室温での飽和磁束密度を測定する
【0128】
また、本実施形態の成形品は高透磁率であり、以下の方法で測定される透磁率が32以上、好ましくは35以上、さらに好ましくは40以上とすることができる。
(測定条件)
軟磁性材料を、低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間120秒間で注入成形し、直径50mmΦ、厚み3mmの円板状成形物を得る。次いで、得られた成形品を175℃、4時間で後硬化する。その後ルーター加工機により、外形27mmΦ、内径15mmΦのトロイダル形状に加工し、比透磁率評価用試験片を作製する。得られたトロイダル形状成形品に42巻きの1次コイルと42巻きの2次コイルを巻き、直流交流磁化特性試験装置を用いて、交流測定を行う。周波数50kHz、磁束密度50mTでの値を比透磁率とする。
【0129】
<成形品の製造方法>
成形品の製造方法は、特に限定されないが、トランスファー成形法または圧縮成形法等を挙げることができる。成形品の製造方法としては、圧粉成形法は含まない。
【0130】
(トランスファー成形法)
トランスファー成形法による成形品の製造方法は、トランスファー成形装置を用いて、上述の軟磁性材料の溶融物を金型に注入する工程と、その溶融物を硬化させる工程とを含む。
【0131】
トランスファー成形については、公知のトランスファー成形装置を適宜用いるなどして行うことができる。具体的には、まず、予熱した軟磁性材料を、トランスファー室とも言われる加熱室に入れて溶融し、溶融物を得る。その後、その溶融物をプランジャーで金型に注入し、そのまま保持して溶融物を硬化させる。これにより、所望の成形物を得ることができる。
トランスファー成形は、成形品の寸法の制御性や、形状自由度の向上などの点で好ましい。
【0132】
トランスファー成形における各種条件は、任意に設定することができるが、本実施形態の軟磁性材料は低温での成形プロセス(100~200℃程度)に成形性に優れていることから、例えば、予熱の温度は60~100℃、溶融の際の加熱温度は100~200℃、金型温度は100℃~200℃、金型に軟磁性材料の溶融物を注入する際の圧力は1~20MPaの間で適宜調整することができる。
金型温度を高くしすぎないことで、成形物の収縮を抑えることができる。
【0133】
(圧縮成形法)
圧縮成形法(コンプレッション成形法)による成形品の製造方法は、前記軟磁性材料を圧縮成形する工程を含む。
【0134】
圧縮成形については、公知の圧縮成形装置を適宜用いて行うことができる。具体的には、上方に開口した凹形状の固定金型の凹部内に前記軟磁性材料を載置する。軟磁性材料は予め加熱しておくことができる。これにより、成形品を均一に硬化させることができ、成形圧力を低くすることができる。
【0135】
次いで、上方から、凸形状の金型を凹形状の固定金型に移動して、凸部および凹部によって形成されたキャビティ内において軟磁性材料を圧縮する。初めは低圧で軟磁性材料を十分に軟化流動させ、次いで、金型を閉じて、再度加圧して所定時間硬化させる。
【0136】
圧縮成形における各種条件は、任意に設定することができるが、本実施形態の軟磁性材料は低温での成形プロセス(100~200℃程度)に成形性に優れていることから、例えば、予熱の温度は60~100℃、溶融の際の加熱温度は100~200℃、金型温度は100~200℃、金型で軟磁性材料を圧縮する際の圧力は1~20MPa、硬化時間60~300秒の間で適宜調整することができる。
金型温度を高くしすぎないことで、成形物の収縮を抑えることができる。
【0137】
本実施形態の軟磁性材料は、高透磁率を有する磁性材料が得られることから、当該軟磁性材料を硬化して得られる成形体は、インダクタ中の磁性コアや、磁性コアおよびコイルを封止する外装部材に使用することができる。
【0138】
本実施形態の軟磁性材料の硬化物で構成された外装部材を備える構造体(一体型インダクタ)の概要について図1を用いて説明する。
図1(a)は、構造体100の上面からみた構造体の概要を示す。図1(b)は、図1(a)におけるA-A’断面視における断面図を示す。
【0139】
本実施形態の構造体100は、図1に示すように、コイル10および磁性コア20を備えることができる。磁性コア20は、空芯コイルであるコイル10の内部に充填されている。コイル10および磁性コア20は、外装部材30(封止部材)で封止されている。磁性コア20および外装部材30は、本実施形態の軟磁性材料の硬化物で構成することができる。磁性コア20および外装部材30は、シームレスの一体部材として形成されていてもよい。
【0140】
本実施形態の構造体100の製造方法としては、例えば、コイル10を金型に配置し、本実施形態の軟磁性材料を用いて、トランスファー成形等の金型成形することにより、当該軟磁性材料を硬化させて、コイル10中に充填された磁性コア20およびこれらの周囲に外装部材30を一体化形成することができる。このときコイル10は、巻線の端部を外装部材30の外部に引き出した不図示の引き出し部を有してもよい。
【0141】
コイル10は、通常、金属線の表面に絶縁被覆を施した巻線を巻回した構造により構成される。金属線は、導電性の高いものが好ましく、銅、銅合金が好適に利用できる。また、絶縁被覆は、エナメルなどの被覆が利用できる。巻線の断面形状は、円形や矩形、六角形などが挙げられる。
【0142】
一方、磁性コア20の断面形状は、特に限定されないが、例えば、断面視において、円形形状や、四角形や六角形などの多角形状とすることができる。磁性コア20は、本実施形態の軟磁性材料のトランスファー成形品で構成されるため、所望の形状を有することが可能である。
【0143】
本実施形態の軟磁性材料の硬化物によれば、成形性および高透磁率などの磁気特性に優れた磁性コア20および外装部材30を実現できるため、これらを有する構造体100(一体型インダクタ)においては、低磁気損失が期待される。また、機械的特性に優れた外装部材30を実現できるため、構造体100の耐久性や信頼性、製造安定性を高めることが可能である。このため、本実施形態の構造体100は、昇圧回路用や大電流用のインダクタに用いることができる。
【0144】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例0145】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0146】
<実施例1~5、比較例1~3>
まず、表1に記載の各成分を、記載の比率で準備し、まず軟磁性粒子を混合しながら、そこにその他の成分を添加し均一に混合して混合物を得た。
次いで、得られた混合物を、100℃、10分の条件で混練した。混練終了後、得られた混練物を室温まで冷却して固形状とし、そして粉砕、打錠成形した。以上により、タブレット状の樹脂成形材料(軟磁性材料)を得た。
表1に記載された原料成分を以下に示す。表1における軟磁性材料および成形品の評価結果を示す。
【0147】
(軟磁性粒子(鉄基粒子))
・磁性粉1:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス社製、KUAMET6B2 053C03、メジアン径23μm、Fe量87.6質量%、Si量6.8質量%)
・磁性粉2:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス社製、KUAMET9A4、メジアン径24μm、Fe量93.2質量%、Si量3.3質量%)
・磁性粉3:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス社製、AW2-08_PF-3F、メジアン径3μm、Fe量87.4質量%、Si量6.8質量%)
・磁性粉4:結晶磁性粉(大同特殊鋼社製、DAPMS7-200、ガス水アトマイズ粉末、メジアン径45μm、Fe量93.3質量%、Si量6.5質量%)
・磁性粉5:結晶磁性粉(大同特殊鋼社製、DAPMS3-100、ガス水アトマイズ粉末、メジアン径75μm、Fe量96.7質量%、Si量3.0質量%)
・磁性粉6:結晶磁性粉(エプソンアトミックス社製、Fe-3.5Si-4.5Cr_PF-20F、メジアン径10μm、Fe量91.9質量%、Si量3.5質量%)
・磁性粉7:結晶磁性粉(新東工業社製、FSC-2、メジアン径2μm、Fe91.1質量%、Si量3.5質量%)
・磁性粉8:カルボニル鉄粉(江蘇天一超細金属粉末社製、YX5-5、メジアン径2μm、Fe量97.8質量%、Si量0質量%)
・磁性粉9:カルボニル鉄粉(BASF社製、CIP-HQ、メジアン径D50:1.8μm、Fe量99.1質量%)
・磁性粉10:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス株式会社製、KUAMET6B2 150C01、メジアン径D50:40μm、Fe量87.6質量%)
【0148】
(カップリング剤)
・カップリング剤1:CF-4083(フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、東レ・ダウコーニング社製)
【0149】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:エポキシ樹脂(日本化薬社製、CER-3000-L)
・エポキシ樹脂2:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製、NC-3000L、室温25℃で固形、前掲の一般式(BP1)で表される構造単位含有)
・エポキシ樹脂3:トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、E1032H60、室温25℃で固形)
・エポキシ樹脂4:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、YL6810、室温25℃で固形)
【0150】
(フェノール樹脂)
・フェノール樹脂1:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型樹脂(明和化成社製、MEH-7851SS)
・フェノール樹脂2:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製、PR-HF-3、室温25℃で固形)
【0151】
(密着助剤)
・密着助剤:CDA-1M:ADEKA社製の下記化学式で表されるベンゾトリアゾール系化合物
【0152】
【化14】
【0153】
(離型剤)
・ワックス1:カルナバワックス(東亜化成社製、TOWAX-132)
・ワックス2:ステアリン酸(日本油脂社製、SR-サクラ)
・ワックス3:エステルワックス(クラリアントケミカルズ社製、WE-4)
【0154】
(低応力剤)
シリコーンオイル:下記化学式で示されるシリコーンオイル(FZ-3730、東レ・ダウコーニング社製)
【化15】
【0155】
(硬化触媒)
・硬化触媒1:テトラフェニルホスホニウム・4,4'-スルフォニルジフェノラート(住友ベークライト社製)
・硬化触媒2:テトラフェニルホスホニウム・ビス(ナフタレン-2,3-ジオキシ)フェニルシリケート(住友ベークライト社製)
・硬化触媒3:イミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業社製、キュアゾール2PZ-PW)
【0156】
(分散剤)
・カルボン酸系分散剤:Hypermer KD-9(質量平均分子量:760、酸価:74mgKOH/g、CRODA社製)
【0157】
(シリカフィラー)
・シリカフィラー:溶融シリカ(メジアン径0.5μm)
【0158】
(スパイラルフロー)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機社製、KTS-30)を用いて、ANSI/ASTM D 3123-72に準じたスパイラルフロー測定用金型に、軟磁性材料を注入し、流動長を測定した。このとき、金型温度は175℃、注入圧力は6.9MPa、保圧時間は120秒の条件とした。
スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が、流動性が良好である。単位はcmである。
【0159】
(ゲルタイム)
175℃に制御された熱板上に軟磁性材料を載せ、スパチュラで約1回/秒のストロークで練った。軟磁性材料が熱により溶解してから硬化するまでの時間を測定し、ゲルタイムとした。ゲルタイムは、数値が小さい方が、硬化が速いことを示す。
【0160】
(比重)
軟磁性材料を低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間120秒間で注入成形し、直径50mmΦ、厚み3mmの円板状成形物を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間で後硬化した。硬化物の質量および体積から比重を算出した。
【0161】
(比透磁率)
軟磁性材料を低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間120秒間で注入成形し、直径50mmΦ、厚み3mmの円板状成形物を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間で後硬化した。その後ルーター加工機により、外形27mmΦ、内径15mmΦのトロイダル形状に加工し、比透磁率評価用試験片を作製した。得られたトロイダル形状成形品に42巻きの1次コイルと42巻きの2次コイルを巻き、直流交流磁化特性試験装置(メトロン技研株式会社製「MTR-1488」)を用いて、交流測定を行った。周波数50kHz、磁束密度50mTでの値を比透磁率とした。
【0162】
(鉄損(50mT,50kHz))
軟磁性材料を低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間120秒間で注入成形し、外径27mmΦ、内径15mmΦ、厚み3mmのリング状成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間で後硬化して、リング状試験片を作製した。得られたリング状試験片に対してBHカーブトレーサを用いて、励起磁束密度Bm:50mT、測定周波数:50kHzにおけるヒステリシス損Wh(kW/m)及び渦電流損We(kW/m)を測定し、ヒステリシス損Wh+渦電流損Weを鉄損(kW/m)として算出した。
【0163】
(飽和磁束密度)
軟磁性材料を低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間120秒間で注入成形し、直径16mmΦ、高さ32mmの円柱状成形体を得た。次いで、得られた成形体を175℃、4時間で後硬化して、比透磁率評価用試験片を作製した。得られた円柱状成形体に対して、室温(25℃)にて、直流交流磁化特性試験装置(メトロン技研(株)製「MTR-3368」)を用いて、上記成形体に、外部磁場100kA/mを印加した。これにより室温での飽和磁束密度を測定した。
【0164】
【表1】
【0165】
比較例1~3は、Fe量が94質量%以上であり、かつメジアン径が20μm以上の軟磁性粒子を用いておらず、ゲルタイムが短く成形性が低く、さらに、透磁率および飽和磁性密度が低かった。比較例4,5は順に特許文献3(国際公開2021/066089号)の実施例1,10である。従来の技術水準では、ゲルタイムが短く成形性に改善の余地があり、さらに、高透磁率および高飽和磁性密度に改善の余地があった。
これに対し、本発明に係る実施例の軟磁性材料によれば、ゲルタイムが所定の範囲にあり流動性および成形性に優れるとともに、高透磁率および高飽和磁性密度に優れた成形品が得られること、言い換えれば、これらの特性のバランスに優れた成形品が得られることが明らかとなった。
なお、ゲルタイムが所定の長さであることにより、高透磁率および高飽和磁性密度により優れた成形品が得られると考えられる。その理由は明らかでないが、ゲルタイムが所定の長さであることにより、硬化までの時間が確保されるため成形が穏やかに進行し、成形品内部の応力分布が均一となり、透磁率および飽和磁性密度が改善される要因となっていると推察される。
【0166】
この出願は、2022年3月29日に出願された日本出願特願2022-053862号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0167】
100 構造体
10 コイル
20 磁性コア
30 外装部材
図1