(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097964
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】電動作業車
(51)【国際特許分類】
B60L 7/24 20060101AFI20240711BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20240711BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B60L7/24 Z
B60T7/12 A
B60T8/17 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024077995
(22)【出願日】2024-05-13
(62)【分割の表示】P 2021083296の分割
【原出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 一人
(72)【発明者】
【氏名】河端 真一
(72)【発明者】
【氏名】島田 宏
(57)【要約】
【課題】ブレーキ作動時に生じる摩擦に伴う発熱と摩耗の低減、停車状態の維持の容易化、車両を停止させるブレーキ用の電動アクチュエータの数の削減を実現することができる電動作業車を提供すること。
【解決手段】電動作業車は、電動モータと、電動モータにより駆動される車輪と、電動モータと車輪との動力伝達経路の少なくとも一部を構成し、電動モータの回転動力を車輪に伝達する動力伝達機構と、運転者により操作される操作部と、電動モータの回転を停止させる電磁ブレーキと、操作部からの情報に基づいて電動モータの回転数の制御値を0にする処理を実行する制御部とを備え、制御部は、車速が0に近い所定値以下になったときに電動モータの回転数の制御値を0に維持して電磁ブレーキを作動させ、電磁ブレーキは、電動モータの出力軸に設けられており、回転部位と、回転部位に対向する固定部位とを有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、
前記電動モータにより駆動される車輪と、
前記電動モータと前記車輪との動力伝達経路の少なくとも一部を構成し、前記電動モータの回転動力を前記車輪に伝達する動力伝達機構と、
運転者により操作される操作部と、
前記電動モータの回転を停止させる電磁ブレーキと、
前記操作部からの情報に基づいて、前記電動モータの回転数の制御値を0にする処理を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部は、車速が0に近い所定値以下になったときに前記電動モータの回転数の制御値を0に維持して前記電磁ブレーキを作動させ、
前記電磁ブレーキは、前記電動モータの出力軸に設けられており、回転部位と、前記回転部位に対向する固定部位とを有している電動作業車。
【請求項2】
前記電磁ブレーキは、コイルを有し、前記コイルに通電することにより、前記固定部位を前記回転部位に当接させる請求項1に記載の電動作業車。
【請求項3】
前記電磁ブレーキは、前記電動モータと前記動力伝達機構との動力伝達経路上に設けられている請求項1に記載の電動作業車。
【請求項4】
前記電動モータの回転動力を前記車輪以外の動作部に伝達する伝達軸を備えている請求項1又は2に記載の電動作業車。
【請求項5】
前記電動モータの出力軸と前記伝達軸との間には、前記回転動力の伝達を許容又は遮断するクラッチが設けられている請求項4に記載の電動作業車。
【請求項6】
前記制御部は、前記動作部の動作を停止するときに、前記制御値を0に維持して前記電磁ブレーキを作動させるとともに、前記クラッチにより前記回転動力の伝達を遮断する請求項5に記載の電動作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータにより駆動する電動車両(電動作業車)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータにより駆動する電動車両として、例えば、特許文献1に開示された電動車両が知られている。この電動車両は、電動モータと、電動モータにより駆動される車輪と、車輪を制動することが可能なブレーキとを備えている。ブレーキは、摩擦ブレーキから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したような電動車両の場合、走行状態にある車両を停止するためにブレーキを作動させると、摩擦に伴う発熱とブレーキパッドの摩耗が生じる。また、停車状態を維持するためには、ブレーキペダルを踏み続けるか、手動でパーキングブレーキを作動させる必要がある。また、電動アクチュエータによりブレーキディスクを加圧して車輪を制動する4輪車両の場合、2個以上の電動アクチュエータが必要となる。
【0005】
本発明は、これらの問題点に鑑みて、ブレーキ作動時に生じる摩擦に伴う発熱と摩耗の低減、停車状態の維持の容易化、車両を停止させるブレーキ用の電動アクチュエータの数の削減を実現することができる電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が上記課題を解決するために講じた技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
【0007】
電動車両(電動作業車)は、電動モータと、前記電動モータにより駆動される車輪と、前記電動モータと前記車輪との動力伝達経路の少なくとも一部を構成し、前記電動モータの回転動力を前記車輪に伝達する動力伝達機構と、運転者により操作される操作部と、前記電動モータの回転を停止させる電磁ブレーキと、前記操作部からの情報に基づいて、前記電動モータの回転数の制御値を0にする処理を実行する制御部と、を備え、前記制御部は、車速が0に近い所定値以下になったときに前記電動モータの回転数の制御値を0に維持して前記電磁ブレーキを作動させ、前記電磁ブレーキは、前記電動モータの出力軸に設けられており、回転部位と、前記回転部位に対向する固定部位とを有している。
【0008】
前記電磁ブレーキは、コイルを有し、前記コイルに通電することにより、前記固定部位を前記回転部位に当接させるものでもよい。
【0009】
前記電磁ブレーキは、前記電動モータと前記動力伝達機構との動力伝達経路上に設けられていてもよい。
【0010】
前記電動モータの回転動力を前記車輪以外の動作部に伝達する伝達軸を備えていてもよい。
【0011】
前記電動モータの出力軸と前記伝達軸との間には、前記回転動力の伝達を許容又は遮断するクラッチが設けられていてもよい。
【0012】
前記制御部は、前記動作部の動作を停止するときに、前記制御値を0に維持して前記電磁ブレーキを作動させるとともに、前記クラッチにより前記回転動力の伝達を遮断するものでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電動車両(電動作業車)によれば、車速が0に近い所定値以下になったときに電動モータの回転数の制御値を0に維持して電磁ブレーキを作動させることにより、車両を停止して停止状態を維持することができる。そのため、ブレーキ(電磁ブレーキ)の摩擦による減速を最低限に抑制することができ、ブレーキ作動時に生じる摩擦に伴う発熱と摩耗を低減することが可能となる。また、ブレーキペダルを踏み続けたり、手動でパーキングブレーキを作動させたりせずとも、停車状態を維持することができる。また、電動アクチュエータ(電磁ブレーキ)をブレーキディスクの加圧ではなく電動モータの回転の停止に使用するため、ブレーキ用の電動アクチュエータの数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る電動車両の一実施形態を示す側面図である。
【
図3】電動車両を走行状態から停止させるときの動作フローの一例(第1例)を示す図である。
【
図4】電動車両を走行状態から停止させるときの動作フローの別の例(第2例)を示す図である。
【
図5】電動車両を走行状態から停止させるときの動作フローのさらに別の例(第3例)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電動車両(電動作業車)の好適な実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る電動車両1の一実施形態を示す側面図である。
【0017】
図1では、電動車両1として作業車両が示されている。
図1に示された作業車両はトラクタである。但し、本発明に係る電動車両1は、トラクタには限定されず、例えば、バックホー、ローダ作業機(ホイールローダ、コンパクトトラックローダ、スキッドステアローダ等)、ユーティリティビークル(多目的作業車)、貨物自動車等の作業車両であってもよいし、作業車両以外の車両であってもよい。
【0018】
電動車両1は、車体2と、車体2を走行可能に支持する走行装置3とを備えている。
【0019】
車体2には、運転者が着座する座席4が設けられている。走行装置3は、車輪5を備えている。車輪5は、車体2の前部に設けられた前輪5Fと、車体2の後部に設けられた後輪5Rとを含む。前輪5Fと後輪5Rは、車体2の左側と右側にそれぞれ設けられている。
【0020】
車体2には、走行装置3の車輪を駆動する電動モータ6が搭載されている。本実施形態の電動車両1は、後輪5Rが電動モータ6により駆動される後輪駆動型の電動車両である。但し、電動車両1は、前輪5Fが電動モータ6により駆動される前輪駆動型であってもよいし、前輪5Fと後輪5Rが電動モータ6により駆動される4輪駆動型であってもよい。
【0021】
【0022】
図2に示すように、電動車両1は、駆動系の構成として、動力伝達機構7、車輪ブレーキ8、電磁ブレーキ9、制御部10を備えている。
【0023】
動力伝達機構7は、電動モータ6の回転動力を駆動輪となる車輪5(本実施形態の場合、後輪5R)に伝達する機構である。動力伝達機構7は、電動モータ6と車輪5との動力伝達経路の少なくとも一部を構成している。
図2に示した例では、電動モータ6と車輪5との動力伝達経路は、動力伝達機構7と電磁ブレーキ9とから構成されている。
【0024】
動力伝達機構7は、減速装置7Aとデフ装置(差動装置)7Bとを有している。電動モータ6の回転動力は、減速装置7Aに入力されてデフ装置7Bを介して車輪5に伝達される。減速装置7Aは、複数の歯車70の噛み合いによって電動モータ6の回転数を減少させてデフ装置7Bへと伝達する。デフ装置7Bは、車輪5の車軸15に接続されており、減速装置7Aから伝達された回転動力を左側と右側の車輪5に伝達する。
【0025】
車輪ブレーキ8は、車輪5に設けられている。車輪ブレーキ8は、前輪5Fと後輪5Rのうち、少なくとも駆動輪となる車輪に設けることが好ましい。本実施形態の場合、車輪ブレーキ8は、後輪5Rに設けられている。但し、車輪ブレーキ8は、前輪5Fに設けてもよいし、前輪5Fと後輪5Rの両方に設けてもよい。車輪ブレーキ8は、車輪5の回転を摩擦制動力によって停止させるブレーキである。車輪ブレーキ8は、例えば、車輪5と共に回転するブレーキディスクと、油圧シリンダ等の駆動によりブレーキディスクに押し付けられるブレーキパッドとを有している。車輪ブレーキ8は、電動車両1に設けられたブレーキペダルを踏み込む操作を行うことにより作動する。
【0026】
電磁ブレーキ9は、電動モータ6の回転を停止させる。電磁ブレーキ9は、電動モータ6と車輪5との動力伝達経路上(電動モータ6から車輪5に動力を伝達する経路の途中)に設けられている。
【0027】
本実施形態の場合、電磁ブレーキ9は、電動モータ6と動力伝達機構7との動力伝達経路上(電動モータ6から動力伝達機構7に動力を伝達する経路の途中)に設けられている。具体的には、電磁ブレーキ9は、電動モータ6と減速装置7Aとの動力伝達経路上(電動モータ6から減速装置7Aに動力を伝達する経路の途中)に設けられている。
【0028】
電磁ブレーキ9は、電動モータ6の出力軸6a(電動モータ6の回転動力を動力伝達機構7に伝達する軸)の回転を停止させる。本実施形態の場合、電磁ブレーキ9は、電動モータ6の出力軸6aに取り付けられている。但し、電磁ブレーキ9は、電動モータ6の出力軸6aと連動して回転する他の軸6bに取り付けてもよい。
図2では、他の軸6bとして、電動モータ6の出力軸6aと反対側に突出する軸が示されている。
【0029】
電磁ブレーキ9は、電動モータ6の出力軸6a(又は他の軸6b)に取り付けられる回転部位9aと、回転部位9aと対向する固定部位9bとを有している。電磁ブレーキ9は、コイルに通電することにより発生する電磁力を利用して回転部位9aと固定部位9bとを当接させることで、摩擦と磁力による制動力(回転部位9a及び出力軸6aの回転を停止させる力)を発揮することができる。
【0030】
電磁ブレーキ9は、制御部10による制御に基づいて作動する。制御部10は、CPU、電気電子回路、記憶部等から構成されている。記憶部は、RAMやROM等から構成されている。記憶部には、所定の制御プログラムが記憶されている。CPUは、制御プログラムに基づいて電動モータ6及び電磁ブレーキ9の動作の制御を実行する。
【0031】
図3は、電動車両1を走行状態から停止させるときの動作フローの一例(第1例)を示している。
【0032】
電動車両1を走行状態から停止させる場合、先ず、制御部10により電動モータ6の回転数の制御値を0とする(S1)。「電動モータ6の回転数の制御値を0とする」とは、電動モータ6の回転数が0となるように電動モータ6に供給する電流値を制御することを意味する。電動車両1が停止していない状態にあるときに電動モータ6の回転数の制御値を0とすると、電動モータ6には回転数を0とするための電流(回転している方向と逆方向に回転させようとする電流)が供給される。電動モータ6は、回転数が0となるまで(電動車両1が停止するまで)は、車輪5の回転に伴って強制的に回転される状態となる。これにより、電動モータ6は発電機として機能する回生状態となり、回生ブレーキが作動する(S2)。これにより、電動車両1は減速を開始する。
【0033】
制御部10により電動モータ6の回転数の制御値を0とする動作は、電動車両1に設けられたアクセルペダルの踏み込みを止める操作により、或いは、アクセルペダルの踏み込みを止めるとともにブレーキペダルを踏み込むことにより開始される。
【0034】
回生ブレーキを作動させた後、ブレーキペダルを踏み込むことにより車輪ブレーキ8を作動させる(S3)。回生ブレーキが作動することによって電動車両1は減速しているため、車輪ブレーキ8は回生ブレーキの作動により減速した状態で作動される。
【0035】
回生ブレーキに加えて車輪ブレーキ8が作動することによって、電動車両1は更に減速する。電動車両1の車速が0に近い所定値になったとき(S4:Yes)、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持し(S5)、当該制御値を0に維持した状態で電磁ブレーキ9を作動させる(S6)。これにより、電動車両1は走行を停止する(S7)。電動車両1の車速が0に近い所定値になっていないとき(S4:No)、制御部10は、車速が0に近い所定値になるまで電磁ブレーキ9を作動させない。
【0036】
上記した「0に近い所定値」は、例えば「5km/h」であるが、この値には限定されず、この値よりも大きい値(例えば「10km/h」)であってもよいし、小さい値(例えば「3km/h」)であってもよい。
【0037】
制御部10は、電動車両1が走行を停止(S7)した後も、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持し、電磁ブレーキ9の作動状態を維持することにより、電動車両1の停止状態を維持することができる。
【0038】
制御部10は、停止状態を解除するための操作部16(
図2参照)が操作されたとき、電動車両1の停止状態を解除する。操作部16は、座席4に着座した運転者により操作可能であり、例えばアクセルペダルや操作ボタン等である。制御部10は、操作部16による解除操作(アクセルペダルの踏み込み、操作ボタンの押圧等)が行われたとき、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持することを停止し、電磁ブレーキ9の作動を停止する。これにより、電動車両1は、停止状態が解除されて走行することが可能となる。
【0039】
以上説明したように、制御部10は、電動車両1の車速が0に近い所定値以下になったときに電動モータ6の回転数の制御値を0に維持して電磁ブレーキ9を作動させる。
【0040】
詳しくは、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0として電動モータ6の回生ブレーキを作動させた後、電動車両1の車速が0に近い所定値以下になったときに電動モータ6の回転数の制御値を0に維持して電磁ブレーキ9を作動させる。
【0041】
より詳しくは、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0として電動モータ6の回生ブレーキを作動させるとともに、車輪ブレーキ8が作動した後、電動車両1の車速が0に近い所定値以下になったときに電動モータ6の回転数の制御値を0に維持して電磁ブレーキ9を作動させる。
【0042】
上記したように、本発明に係る電動車両1では、車速が0に近い所定値以下になったときに電動モータ6の回転数の制御値を0に維持して電磁ブレーキ9を作動させることにより電動車両1を停止するため、電磁ブレーキ9の摩擦による減速を最低限に抑制することができる。そのため、電磁ブレーキ9の作動時に生じる摩擦に伴う発熱と摩耗を低減することが可能となる。
【0043】
また、電動車両1が走行を停止した後、制御部10によって、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持し、電磁ブレーキ9の作動状態を維持することにより、電動車両1の停止状態を維持することができる。そのため、従来の電動車両のように、ブレーキペダルを踏み続けたり、手動でパーキングブレーキを作動させたりせずとも、停車状態を維持することができる。
【0044】
図4は、電動車両1を走行状態から停止させるときの動作フローの別の例(第2例)を示している。S1~S5は、第1例の動作フローと同じである。
【0045】
電動車両1を走行状態から停止させる場合、先ず、制御部10により電動モータ6の回転数の制御値を0とする(S1)。走行状態において電動モータ6の回転数の制御値を0とすると、電動モータ6は車輪5の回転に伴って強制的に回転される状態となる。これにより、電動モータ6は発電機として機能し、回生ブレーキが作動する(S2)。
【0046】
回生ブレーキを作動させた後、ブレーキペダルを踏み込むことにより車輪ブレーキ8を作動させる(S3)。回生ブレーキが作動することによって電動車両1は減速するため、車輪ブレーキ8は回生ブレーキが作動する前よりも減速した状態で作動される。
【0047】
回生ブレーキに加えて車輪ブレーキ8が作動することによって、電動車両1は更に減速する。電動車両1の車速が0に近い所定値になったとき(S4:Yes)、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持し(S5)、維持した状態で電磁ブレーキ9を作動させる(S7)。これにより、電動車両1は走行を停止する(S8)。電動車両1の車速が0に近い所定値になっていないとき(S4:No)、制御部10は、車速が0に近い所定値になるまで電磁ブレーキ9を作動させない。
【0048】
第2例の動作フローの場合、電磁ブレーキ9を作動させる条件として、電動モータ6又は電動モータ6と電気的に接続される電気機器の温度が考慮される。電動モータ6と電気的に接続される電気機器は、電動モータ6と直接的又は間接的に電気的に接続される電気機器であり、例えば、電動モータ6に供給される電力を貯蔵するバッテリや、当該バッテリと電動モータ6との間に介装されるインバータ等である。これらバッテリやインバータは、電動車両1に搭載される。以下、「電動モータ6又は電動モータ6と電気的に接続される電気機器」を「電動モータ6等」という。
【0049】
図4に示すように、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態で電動モータ6等の温度が所定温度以上となったとき(S6:Yes)、電磁ブレーキ9を作動させる。一方、制御部10は、電動モータ6等の温度が所定温度未満のとき(S6:No)は、電磁ブレーキ9を作動させない。
【0050】
電動車両1が停止していない状態で電動モータ6の回転数の制御値を0に維持すると、電動モータ6が強制的に回転している状態で回転数を0とするための電流が電動モータ6に供給され続ける。そのため、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態で時間が経過すると、電流が供給され続けることで電動モータ6等の温度が上昇する。
【0051】
この対策として、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態で電動モータ6等の温度が所定温度以上となったときに電磁ブレーキ9を作動させることによって、電動モータ6の回転数を0とするために供給される電流量を減少させることができ、電動モータ6等の過熱を防ぐことが可能となる。
【0052】
上述した所定温度は、例えば100℃に設定することができる。但し、所定温度は100℃には限定されず、100℃未満(例えば80℃)であってもよいし、100℃を超える温度(例えば120℃)であってもよい。
【0053】
所定温度は、電磁ブレーキ9を作動させる条件として考慮される電動モータ6等の種類に応じて変更することができる。電動モータ6等が電動モータ6である場合、所定温度は、例えば100℃に設定される。電動モータ6等がバッテリである場合、所定温度は、例えば60℃に設定される。電動モータ6等がインバータである場合、所定温度は、例えば80℃に設定される。但し、所定温度は、これらの温度に限定はされない。
【0054】
電動モータ6等の温度は、電動車両1に備えられる温度センサ等の測温装置により検出することができる。制御部10は、測温装置から電動モータ6等の温度に関する情報を受信し、当該情報に基づいて電動モータ6等の温度が所定温度以上となったか否かを判断する。
【0055】
図5は、電動車両1を走行状態から停止させるときの動作フローのさらに別の例(第3例)を示している。S1~S5は、第1例の動作フローと同じである。
【0056】
電動車両1を走行状態から停止させる場合、先ず、制御部10により電動モータ6の回転数の制御値を0とする(S1)。走行状態において電動モータ6の回転数の制御値を0とすると、電動モータ6は車輪5の回転に伴って強制的に回転される状態となる。これにより、電動モータ6は発電機として機能し、回生ブレーキが作動する(S2)。
【0057】
回生ブレーキを作動させた後、ブレーキペダルを踏み込むことにより車輪ブレーキ8を作動させる(S3)。回生ブレーキが作動することによって電動車両1は減速するため、車輪ブレーキ8は回生ブレーキが作動する前よりも減速した状態で作動される。
【0058】
回生ブレーキに加えて車輪ブレーキ8が作動することによって、電動車両1は更に減速する。電動車両1の車速が0に近い所定値になったとき(S4:Yes)、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持し(S5)、維持した状態で電磁ブレーキ9を作動させる(S7)。これにより、電動車両1は走行を停止する(S8)。電動車両1の車速が0に近い所定値になっていないとき(S4:No)、制御部10は、車速が0に近い所定値になるまで電磁ブレーキ9を作動させない。
【0059】
第3例の動作フローの場合、電磁ブレーキ9を作動させる条件として、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態の時間が考慮される。
【0060】
詳しくは、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態で所定時間が経過したとき(S6:Yes)、電磁ブレーキ9を作動させる。一方、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態で所定時間が経過していないとき(S6:No)は、電磁ブレーキ9を作動させない。
【0061】
上述したように、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態で時間が経過すると、電流が供給され続けることで電動モータ6の温度が上昇する。
【0062】
そのため、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態で所定時間が経過したときに電磁ブレーキ9を作動させることによって、電動モータ6の回転数を0とするために供給される電流量を減少させることができ、電動モータ6の過熱を防ぐことができる。
【0063】
上述した所定時間は、例えば30秒に設定することができる。但し、所定温度は30秒には限定されず、30秒未満(例えば20秒)であってもよいし、30秒を超える時間(例えば60秒)であってもよい。
【0064】
電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態の時間は、電動車両1に備えられるタイマー等の計時装置により測定することができる。制御部10は、計時装置から電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態の時間に関する情報を受信し、当該情報に基づいて電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態で所定時間が経過したか否かを判断する。
【0065】
上述した第1例~第3例において、ブレーキペダルを踏み込むことにより車輪ブレーキ8を作動させると説明したが、ブレーキペダルを踏み込む操作に代えて、ブレーキペダルとは異なるブレーキ操作部(例えば、電動車両1に設けられたブレーキボタン等)を操作することによって車輪ブレーキ8を作動させるようにしてもよい。また、制御部10が車輪ブレーキ8を作動させるように構成してもよい。
【0066】
図6は、電動車両1の駆動系の別の例の構成図である。
【0067】
以下、
図6に示す駆動系の構成が
図2に示した駆動系の構成と異なる点について説明し、同じ構成については説明を省略する。
【0068】
図6に示す駆動系は、電動モータ6の回転動力を車輪5以外の動作部13に伝達する伝達軸11を備えている。伝達軸11は、例えば、PTO(Power Take-Off)軸である。この場合、動作部13は、PTO軸から伝達される動力によって駆動する作業装置である。電動車両1がトラクタである場合、動作部13は、圃場に対して作業を行う作業装置である。具体的には、作業装置は、例えば圃場を耕耘する耕耘装置、圃場に肥料や薬剤を散布する散布装置、圃場に種を撒く播種装置等である。
【0069】
電動モータ6の出力軸6aには、出力軸6aの回転動力を分岐して伝達軸11に伝達する動力分岐部14が設けられている。動力分岐部14は、例えば、歯車機構やベルト伝動機構等から構成される。
【0070】
電動モータ6の出力軸6aと伝達軸11との間には、電動モータ6から伝達軸11への回転動力の伝達を許容又は遮断するクラッチ12が設けられている。クラッチ12は、出力軸6aから伝達軸11への動力伝達経路の中途部に設けられている。クラッチ12は、例えば、電動クラッチである。伝達軸11がPTO軸の場合、クラッチ12として、一方向クラッチが好適に使用される。
【0071】
制御部10は、動作部13の動作を停止するときに、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持して電磁ブレーキ9を作動させるとともに、クラッチ12により電動モータ6から伝達軸11への回転動力の伝達を遮断する。これにより、制御部10により車輪5と動作部13の両方を停止することができる。また、車輪5が停止するより前に、クラッチ12によって動作部13の動作を停止することができる。そのため、動作部13を迅速に且つ確実に停止することができる。
【0072】
尚、クラッチ12は、制御部10により作動されるものには限定されない。クラッチ12は、制御部10により作動されるものではなく、操作ボタン等の操作具の操作によって作動(電動モータ6から伝達軸11への回転動力の伝達を遮断する動作の実行)が可能なものであってもよい。この場合、操作具の操作によって、車輪5の動作とは独立して動作部13の動作を停止することが可能となる。つまり、車輪5を停止せずとも、操作具の操作によって動作部13を停止することが可能となる。
【0073】
上記実施形態に係る電動車両1によれば、以下の効果を奏する。
【0074】
電動車両1は、電動モータ6と、電動モータ6により駆動される車輪5と、電動モータ6と車輪5との動力伝達経路の少なくとも一部を構成し、電動モータ6の回転動力を車輪5に伝達する動力伝達機構7と、車輪5に設けられた車輪ブレーキ8と、電動モータ6の回転を停止させる電磁ブレーキ9と、車速が0に近い所定値以下になったときに電動モータ6の回転数の制御値を0に維持して電磁ブレーキ9を作動させる制御部10と、を備えている。
【0075】
この構成によれば、電動車両1の車速が0に近い所定値以下になったときに電動モータ6の回転数の制御値を0に維持して電磁ブレーキ9を作動させることにより、電動車両1を停止して停止状態を維持することができる。そのため、ブレーキ(電磁ブレーキ9)の摩擦による減速を最低限に抑制することができ、ブレーキ作動時に生じる摩擦に伴う発熱と摩耗を低減することが可能となる。また、従来の電動車両のように、ブレーキペダルを踏み続けたり、手動でパーキングブレーキを作動させたりせずとも、停車状態を維持することができる。また、電動アクチュエータ(電磁ブレーキ9)をブレーキディスクの加圧ではなく電動モータ6の回転の停止に使用するため、ブレーキ用の電動アクチュエータの数を削減することができる。
【0076】
また、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0として電動モータ6の回生ブレーキを作動させた後、車速が0に近い所定値以下になったときに制御値を0に維持して電磁ブレーキ9を作動させる。
【0077】
この構成によれば、車輪ブレーキ8の作動の有無に関わらず、電動モータ6の回生ブレーキによって電動車両1の車速を減少させて0に近い所定値とした後、電磁ブレーキ9を作動させることができる。
【0078】
また、制御部10は、車輪ブレーキ8及び回生ブレーキの作動後、車速が0に近い所定値以下になったときに電動モータ6の回転数の制御値を0に維持して電磁ブレーキ9を作動させる。
【0079】
この構成によれば、車輪ブレーキ8及び回生ブレーキの作動によって、電動車両1の車速を迅速に減少させて0に近い所定値とした後、電磁ブレーキ9を作動させることができる。
【0080】
また、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態で電動モータ6の温度が所定温度以上となったとき、電磁ブレーキ9を作動させる。
【0081】
この構成によれば、電動モータ6が回転している状態で電動モータ6の回転数の制御値を0に維持し続ける(回転数を0とするための電流を流し続ける)ことによって電動モータ6が過熱することを防ぐことができる。
【0082】
また、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態で電動モータ6と電気的に接続される電気機器の温度が所定温度以上となったとき、電磁ブレーキ9を作動させる。
【0083】
この構成によれば、電動モータ6が回転している状態で電動モータ6の回転数の制御値を0に維持し続ける(回転数を0とするための電流を流し続ける)ことによって電動モータ6と電気的に接続される電気機器(例えば、バッテリ、インバータ等)が過熱することを防ぐことができる。
【0084】
また、制御部10は、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持した状態で所定時間が経過したとき、電磁ブレーキ9を作動させる。
【0085】
この構成によれば、電動モータ6が回転している状態で電動モータ6の回転数の制御値を0に維持し続ける(回転数を0とするための電流を流し続ける)時間を減らして、電動モータ6が過熱することを防ぐことができる。
【0086】
また、電磁ブレーキ9は、電動モータ6と車輪5との動力伝達経路上に設けられている。
【0087】
この構成によれば、電動モータ6から車輪5に動力を伝達する経路の途中において、電磁ブレーキ9によって電動モータ6の回転を停止させることができる。
【0088】
また、電磁ブレーキ9は、電動モータ6と動力伝達機構7との動力伝達経路上に設けられている。
【0089】
この構成によれば、電動モータ6から動力伝達機構7に動力を伝達する経路の途中において、電磁ブレーキ9によって電動モータ6の回転を停止させることができる。そのため、電磁ブレーキ9を車輪5から離れた位置に設けることができる。
【0090】
また、電動モータ6の回転動力を車輪5以外の動作部13に伝達する伝達軸11を備え、電動モータ6の出力軸と伝達軸11との間には、電動モータ6の回転動力の伝達を許容又は遮断するクラッチ12が設けられており、制御部10は、動作部13の動作を停止するときに、電動モータ6の回転数の制御値を0に維持して電磁ブレーキ9を作動させるとともに、クラッチ12により回転動力の伝達を遮断する。
【0091】
この構成によれば、制御部10により車輪5と動作部13の両方を停止することができる。また、車輪5が停止するより前に、クラッチ12によって動作部13の動作を停止することができる。そのため、動作部13を迅速に且つ確実に停止することができる。
【0092】
また、電動車両1は、運転者により操作される操作部16を備え、制御部10は、操作部16が操作されたとき、電磁ブレーキ9の作動を停止する。
【0093】
この構成によれば、運転者が操作部16を操作することによって、電動車両1の停止状態を解除して走行させることが可能となる。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0095】
1 電動車両(電動作業車)
5 車輪
6 電動モータ
7 動力伝達機構
8 車輪ブレーキ
9 電磁ブレーキ
9a 回転部位
9b 固定部位
10 制御部
11 伝達軸
12 クラッチ
16 操作部