(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098002
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
A01B69/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024079360
(22)【出願日】2024-05-15
(62)【分割の表示】P 2021186812の分割
【原出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 学
(72)【発明者】
【氏名】沖本 章
(57)【要約】
【課題】遠隔操作具のバッテリーの消費を抑えることができ、液晶付き遠隔操作具などに比べても使い勝手がよい作業車両を提供すること。
【解決手段】実施形態の一態様に係る作業車両は、自律走行可能であり、圃場(F)内において自律走行しながら圃場作業を行う作業機であって、所定の経路情報に基づいて、直進しながら対地作業する直進工程と、前記直進工程から次の前記直進工程へ移行するための旋回工程を実行させる制御部と、前記作業機を遠隔操作するための遠隔操作具(90)をさらに備え、前記遠隔操作具(90)は、近距離無線通信機能を有し、設置位置を変更可能であり前記圃場(F)の周辺に設置された中継アンテナ(150)を経由して、前記作業機と通信する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律走行可能であり、圃場内において自律走行しながら圃場作業を行う作業機であって、
所定の経路情報に基づいて、直進しながら対地作業する直進工程と、前記直進工程から次の前記直進工程へ移行するための旋回工程を実行させる制御部と、
前記作業機を遠隔操作するための遠隔操作具をさらに備え、
前記遠隔操作具は、
近距離無線通信機能を有し、
設置位置を変更可能であり前記圃場の周辺に設置された中継アンテナを経由して、前記作業機と通信する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記遠隔操作具は、
前記作業機との距離が所定以内の場合には、前記中継アンテナを経由しないで該作業機と直接通信する
ことを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記中継アンテナには、前記作業機の状態を表示の変化によって報知する報知灯が設けられる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記作業機の進路の調整操作を受け付けるトグルスイッチと
を備え、
前記制御部は、
対地作業実行中に、前記作業機の進路を左右方向に調整可能とし、
作業者によって前記トグルスイッチが傾倒された場合に傾倒に応じて前記作業機の進路を調整し、
前記トグルスイッチは、作業者による傾倒操作がされなくなった場合には前記作業機の進路を調整しない位置に戻り、前記作業機の前記進路の調整をリセットする
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗移植機等の作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の進路情報に基づいて自律走行しながら苗の植え付け作業を行う作業車両において、直進しながら苗を植え付ける直進工程と、直進工程から次の直進工程へ移行する旋回工程とを繰り返しながら作業を進めていくことが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような従来の作業車両では、たとえば、遠隔操作具は、バッテリーの消耗が激しい問題がある。電池容量を増やすと、大型化によって携帯性や操作性が低下してしまう。このように、従来の作業車両は、遠隔操作具のバッテリーの消費を抑える点について改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、遠隔操作具のバッテリーの消費を抑えることができ、液晶付き遠隔操作具などに比べても使い勝手がよい作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る作業車両は、自律走行可能であり、圃場(F)内において自律走行しながら圃場作業を行う作業機であって、所定の経路情報に基づいて、直進しながら対地作業する直進工程と、前記直進工程から次の前記直進工程へ移行するための旋回工程を実行させる制御部(100)と、前記作業機を遠隔操作するための遠隔操作具(90)をさらに備え、前記遠隔操作具(90)は、近距離無線通信機能を有し、設置位置を変更可能であり前記圃場(F)の周辺に設置された中継アンテナ(150)を経由して、前記作業機と通信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る作業車両によれば、中継アンテナを経由することで、バッテリーの消費を抑えることができ、使い勝手がよいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る苗移植機の一例を示す概略側面図である。
【
図2】
図2は、制御部を中心とする制御系の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、圃場内における自律走行の説明図である。
【
図4】
図4は、進路調整操作具の配置(その1)の説明図である。
【
図5】
図5は、進路調整操作具の操作説明図である。
【
図6】
図6は、進路調整操作具の操作による進路調整の説明図である。
【
図7】
図7は、進路調整操作具の配置(その2)の説明図である。
【
図8】
図8は、遠隔操作具による遠隔操作(その1)の説明図である。
【
図9】
図9は、遠隔操作具による遠隔操作(その2)の説明図である。
【
図11】
図11は、機体に搭乗している作業者の落下防止制御の処理(その1)を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、機体に搭乗している作業者の落下防止制御の処理(その2)を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、エンジンのダウンサイジング構造の説明図(その1)である。
【
図14】
図14は、エンジンのダウンサイジング構造の説明図(その2)である。
【
図15】
図15は、繰出装置における肥料詰まりの説明図である。
【
図16】
図16は、肥料詰まり解消制御の処理(その1)を示すフローチャートである。
【
図17】
図17は、肥料詰まり解消制御の処理(その2)を示すフローチャートである。
【
図18】
図18は、肥料詰まり解消制御の処理(その3)を示すフローチャートである。
【
図19】
図19は、フロントセンサカバーの説明図(その1)である。
【
図20】
図20は、フロントセンサカバーの説明図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本願の開示する苗移植機の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
<苗移植機の全体構成>
まず、
図1を参照して、実施形態に係る苗移植機1の全体構成について説明する。
図1は、実施形態に係る苗移植機1の一例を示す概略側面図である。
【0011】
なお、
図1には、鉛直上向き(上方)を正方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を示している。以下では、説明の便宜上、X軸の正方向を左方、X軸の負方向を右方、Y軸の正方向を前方、Y軸の負方向を後方と規定し、X軸方向を左右方向、Y軸方向を前後方向、Z軸方向を上下方向という。
【0012】
また、以下では、苗移植機1または後述する走行車体2を指して「機体」という場合がある。
【0013】
図1に示すように、苗移植機1は、圃場F(
図3参照)内を走行可能な走行車体2と、圃場Fの土壌面に苗を植え付ける苗植付部3とを備える。なお、苗移植機1は、操縦者(作業者ともいう)が搭乗して操縦する乗用型の苗移植機である一方、予め設定された予定走行経路R(
図3参照)に沿って自律走行しながら自動で苗の植え付け作業を行うことが可能な苗移植機である。
【0014】
走行車体2は、左右一対の前輪11と、左右一対の後輪12とを備える。走行車体2では、左右一対の前輪11を操舵輪とする。また、走行車体2では、左右一対の後輪12を駆動輪とする。なお、たとえば、後述する強制四駆モードの場合は、左右一対の前輪11および左右一対の後輪12を駆動輪とする。
【0015】
また、走行車体2の車体骨格を形成するメインフレーム13の前部には、後述する苗植付部3などへ駆動力を伝達するミッションケース14と、エンジンEから供給される駆動力、すなわち、エンジンEの回転をミッションケース14へ出力する油圧式の無段変速装置(図示せず)とが設けられる。
【0016】
無段変速装置は、HST(Hydro Static Transmission)と呼ばれる静油圧式の無段変速機である。以下では、無段変速装置を「HST」という。
【0017】
ミッションケース14内には、路上走行時や苗の植え付け時などにおける走行モードを切り替える副変速機構(図示せず)が設けられる。走行車体2では、ミッションケース14の左右側方に前輪ファイナルケース15が設けられ、左右の前輪ファイナルケース15の操向方向を変更可能な支持部からそれぞれ外向きに突出する左右の前車軸に、前輪11がそれぞれ取り付けられる。
【0018】
また、メインフレーム13の後部には、左右方向に延設された後部フレームの左右側方に後輪ギヤケース16が設けられ、後輪ギヤケース16からそれぞれ外向きに突出する左右の後車軸に、後輪12がそれぞれ取り付けられる。
【0019】
また、後部フレームの上部には、後述する昇降リンク17を支持する左右のリンク支持フレーム18が上方へ向けて延設される。左右のリンク支持フレーム18の間には、左右のアッパリンク19および左右のロワリンクアーム20が設けられる。左右のアッパリンク19および左右のロワリンクアーム20の左右方向の間には、油圧によって駆動される昇降シリンダ21が設けられる。
【0020】
左右のアッパリンク19および左右のロワリンクアーム20は、平行リンク機構である昇降リンク17を形成する。なお、左右のアッパリンク19、左右のロワリンクアーム20および昇降シリンダ21は、それぞれの一端が走行車体2側に連結され、それぞれの他端が苗植付部3側に連結される。
【0021】
また、メインフレーム13上には、エンジンEが搭載される。エンジンEの回転動力が、ベルト伝動装置(図示せず)およびHSTを介して、ミッションケース14へ伝達される。ミッションケース14へ伝達された回転動力は、ミッションケース14内の副変速機構によって変速された後、走行動力と外部取り出し動力とに分けられる。
【0022】
また、エンジンEの回転動力は、油圧ポンプ(図示せず)へ伝達される。油圧ポンプで発生した油圧は、HSTや、ステアリングハンドル22のパワステ機構23(
図2参照)や、昇降シリンダ21などへ供給される。
【0023】
ミッションケース14へ伝達された回転動力から取り出される外部取り出し動力は、走行車体2の後部に設けられた植付クラッチ24(
図2参照)へ伝達され、植付クラッチ24から植付伝動軸(図示せず)を介して苗植付部3へ伝達される。
【0024】
一方、ミッションケース14の後部には、左右のドライブシャフト(図示せず)が設けられる。エンジンEからの回転動力は、ミッションケース14およびドライブシャフトを介して、左右の後輪ギヤケース16へ伝動される。
【0025】
なお、左右のドライブシャフトよりも動力伝達上流側には、左右のドライブシャフトに対する動力伝達を入切するサイドクラッチ25(
図2参照)が配置される。
図1に示すように、たとえば、操縦席26の前方下部、かつ、左右側方には、左右のサイドクラッチ25を入切操作するサイドクラッチペダル(図示せず)が設けられる。
【0026】
左右のサイドクラッチペダルのうち、旋回内側のサイドクラッチペダルを踏み込んでサイドクラッチ25を切状態としてからステアリングハンドル22を操作して旋回走行すると、旋回内側の後輪12の駆動回転を完全に遮断することができる。
【0027】
走行車体2におけるフロアステップ27の前方には、エンジンEを収容するボンネット28が設けられる。ボンネット28の後部には、操縦パネル29が設けられる。操縦パネル29には、メータパネル、各種情報を表示する表示部、スイッチなどの各種操作具などが設けられる。また、ボンネット28の後部には、ステアリングハンドル22が設けられる。
【0028】
また、ボンネット28には、走行車体2を操舵するステアリングハンドル22、HSTや苗植付部3を操作する主変速レバー30、副変速機構を操作する副変速レバー31(
図2参照)などが設けられる。
【0029】
また、ボンネット28の前部には、開閉可能なフロントカバー28aが設けられる。フロントカバー28a内には、燃料タンクやバッテリ、ステアリングハンドル22の操舵に左右の前輪11および左右の前輪ファイナルケース15の下部側を回動させる連動機構が設けられる。
【0030】
操縦席26の後方であって、メインフレーム13の後部には、後述する施肥装置40が設けられる。施肥装置40の駆動力は、左右の後輪ギヤケース16の左右の一側方から施肥装置40へ臨むように設けられる、施肥伝動機構によって伝達される。
【0031】
ボンネット28の下部における左右側方には、上記したフロアステップ27が形成される。フロアステップ27は、略水平であるとともに一部格子状であり、フロアステップ27上を歩く操縦者(作業者)の靴などについた泥がフロアステップ27に落ちても、落ちた泥などが圃場Fへ落下するようになる。
【0032】
また、走行車体2の前部、かつ、左右側方には、苗枠支柱32に複数の予備苗載せ台33を上下方向に間隔をあけて配置する予備苗枠34が設けられる。予備苗枠34は、苗植付部3に補充される苗(苗マット)や肥料袋などの作業資材が載置可能である。
【0033】
また、昇降リンク17の後端部には、圃場に植え付ける苗(苗マット)を積載する苗タンク35が、左右方向に摺動させる摺動機構と共に連結される。苗タンク35には、苗タンク35の上面(苗マットの載置面)を左右方向において複数に仕切るためのフェンスが設けられる。苗タンク35の下方には、積載された苗マットから苗を掻き取って圃場Fへ植え付ける植付装置36が設けられる。
【0034】
植付装置36は、上記したフェンスによって仕切られた植付条数と同数の苗を同時に植え付けるものである。植付装置36は、植付伝動ケース37と、植込杆38と、植付ロータリ39とを備える。植付装置36では、植付伝動ケース37が苗タンク35の下方に間隔をあけて設けられ、植付伝動ケース37の左右側方において植込杆38を回転させる植付ロータリ39が設けられる。植付装置36では、植込杆38が、回転しながら苗を取り、取った苗を圃場Fへ植え付ける。
【0035】
施肥装置40は、施肥ホッパ41と、繰出装置42と、ダクト43と、施肥ホース(図示せず)と、ブロア(図示せず)とを備える。施肥ホッパ41は、肥料を貯留する。施肥ホッパ41は、苗植付部3の作業条数と同数に仕切られている。なお、施肥ホッパ41は、たとえば、左右方向に長いと肥料の投入や着脱の利便性が低下することがあるため、全条の半分ずつ(たとえば、8条の場合は4条ずつ)に仕切られたものを左右にそれぞれ並べる、いわゆるサイド施肥構造であってもよい。
【0036】
繰出装置42は、施肥ホッパ41の下部に1条ごとに設けられ、肥料を設定量ずつ供給する。ダクト43は、繰出装置42の下方に設けられ、肥料を移動させる搬送風を通過させる。施肥ホースは、繰出装置42の下方に設けられ、苗植付部3の苗植付位置の近傍へ肥料を案内する。ブロアは、ダクト43の一側端部に設けられ、ブロア用電動モータ(図示せず)の駆動力で搬送風を発生させる。
【0037】
苗植付部3の下方には、フロート44が設けられる。フロート44は、中央のセンターフロート44aと、左右のサイドフロート44bとを有する。センターフロート44aおよび左右のサイドフロート44bは、圃場Fの土壌面に接地して、走行車体2の進行(前進)に伴い土壌面上を滑走する。
【0038】
また、苗植付部3は、フロート44よりも前方に設けられ、土壌面の凹凸を整地する整地ロータ45を備える。なお、整地ロータ45は、センターフロート44aの前方および左右のサイドフロート44bの前方のそれぞれに設けられる。苗植付部3は、整地ロータ45で均した土壌面に苗を植え付ける。整地ロータ45には、ロータ伝動シャフト(図示せず)を介して駆動力が伝達される。
【0039】
また、苗植付部3の左右側方には、左右のいずれか一方が圃場Fの土壌面に接地して、次の作業条(次工程)における走行の目安とする溝(ガイド線)を形成する線引きマーカ(図示せず)がそれぞれ設けられる。左右の線引きマーカは、左右のいずれか一方が下降して接地すると他方が上昇する。また、左右の線引きマーカは、機体旋回時に苗植付部3を上昇させたときには左右共に上昇し、機体旋回後に苗植付部3が下降すると、左右のいずれか一方が上昇して他方が下降(接地)する。
【0040】
また、走行車体2の左右方向の中央であり、かつ、ボンネット28の前方には、センターマスコット46が上下方向に延びているように立設される。センターマスコット46を、左右の線引きマーカによって圃場Fの土壌面に形成されたガイド線に合わせることで、直前の作業条の作業位置にあわせた走行が可能となり、作業精度の向上や、非作業の発生防止を図ることができる。
【0041】
なお、圃場Fの土質によっては、左右の線引きマーカによって形成されたガイド線がすぐに埋もれてしまい、直進の目安が消えてしまうことがある。このような場合には、左右の線引きマーカよりも前方に設けられた左右のサイドマーカ(図示せず)を用いるとよい。すなわち、左右のサイドマーカを外側へ移動させ、植え付けられた苗の上方にサイドマーカを位置させることで、前の作業条の苗の植え付けに合わせた植付作業が可能となる。
【0042】
また、
図1に示すように、苗移植機1は、位置情報取得装置50を備える。位置情報取得装置50は、苗移植機1の現在の位置(または、方位)を取得する。位置情報取得装置50は、たとえば、GPS(Global Positioning System)やGNSS(Global Navigation Satellite System)などの衛生測位システムを利用して苗移植機1の現在の位置(または、方位)を取得する。なお、位置情報取得装置50は、複数の装置で構成されてもよい。
【0043】
位置情報取得装置50は、たとえば、衛生測位システムから測位情報を受け取り、受け取った測位情報に基づいて走行車体2の現在の位置情報(または、方位情報)を作成する。位置情報取得装置50は、たとえば、アンテナフレーム51に支持されるとともに、走行車体2の上方に配置される。
【0044】
また、位置情報取得装置50による位置情報に基づいて作成される、直進制御用プログラムと、旋回制御用プログラムとは、互いに別の場所に格納される。直進制御用プログラムは、たとえば、位置情報取得装置50内の直進制御用ECU(Electronic Control Unit)に格納され、旋回制御用プログラムは、たとえば、ボンネット28に収容された旋回制御用ECUに格納される。直進制御用ECUおよび旋回制御用ECUは、後述する制御部100(
図2参照)に含まれる。なお、直進制御用ECUおよび旋回制御用ECUは、同一のECUであってもよい。
【0045】
<苗移植機の制御系>
次に、
図2を参照して、苗移植機1(
図1参照)の制御系について説明する。
図2は、制御部100を中心とする制御系の一例を示すブロック図である。苗移植機1は、電子制御によって各部を制御することが可能なものであり、各部を制御する制御部100を備える。
【0046】
制御部100は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)などを有する処理部や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などの記憶部、さらには入出力部を有し、これらが互いに接続されて互いに信号の受け渡しが可能なものである。なお、記憶部には、苗移植機1を制御するコンピュータプログラムなどが格納される。制御部100は、記憶部などに格納されたコンピュータプログラムなどを読み出すことで、各機能を発揮させる。
【0047】
制御部100には、たとえば、アクチュエータ類として、スロットルモータ60、油圧制御弁61,62、植付クラッチ作動ソレノイド63、サイドクラッチ作動ソレノイド64、HSTモータ65、ステアリングモータ66、線引きマーカ昇降モータ67、デフロック切替モータ68などが接続される。
【0048】
スロットルモータ60は、エンジンEの吸気量を調節するスロットルを作動させることで、エンジンEの出力軸の回転数を増減させる。油圧制御弁61は、昇降シリンダ21の伸縮動作を制御する。油圧制御弁62は、パワステ機構23を制御する。植付クラッチ作動ソレノイド63は、植付クラッチ24を作動させる。
【0049】
サイドクラッチ作動ソレノイド64は、後輪12(
図1参照)への動力伝達状態を切り替えるサイドクラッチ25を作動させる。HSTモータ65は、HSTのトラニオンの回動角度を変更することで、HSTの斜板の傾斜角を変更する。ステアリングモータ66は、操舵輪である前輪11(
図1参照)を操舵駆動する。ステアリングモータ66は、自動旋回制御が行われる場合に、前輪11の操舵量(操舵角、または切れ角ともいう)を調整するステアリングハンドル22を駆動するモータである。線引きマーカ昇降モータ67は、線引きマーカを昇降させる。
【0050】
デフロック切替モータ68は、左右の走行輪(たとえば、前輪11)を同じ回転速度で回転させるデファレンシャルロック機構(以下、デフロック機構という)69の作動、および作動停止を切り替えるモータである。デフロック機構69が入状態になることで、強制的に四輪駆動(強制四駆モード)とすることができ、左右の走行輪が同じ回転速度で回転する。なお、デフロック機構69を操作するためのデフロックペダル(図示せず)には、ペダルのダレ防止や安定動作のための回動部が設けられる。
【0051】
また、制御部100には、回転数センサ70、操舵量センサ71、傾斜センサ72などが接続される。回転数センサ70は、左右の後輪12に対応して2つ設けられ、左右の後輪12の回転数をそれぞれ検出する。なお、回転数センサ70は、左右の前輪11の回転数を検出してもよい。
【0052】
操舵量センサ71は、ステアリングハンドル22の操舵量、すなわち、前輪11の操舵量(操舵角、切れ角)を検出する。操舵量センサ71は、たとえば、ピットマンアームに連結する軸上に設けられる。なお、操舵量は、ステアリングハンドル22が予め設定された直進位置になった場合の値を基準値として、左右方向それぞれに検出される。
【0053】
また、操舵量センサ71は、複数設けられてもよい。また、操舵量センサ71は、複数箇所に設けられてもよい。複数の操舵量センサ71によって前輪11の操舵量を検出することで、検出精度を高めることができる。傾斜センサ72は、苗移植機1の傾きである傾斜角を検出する。
【0054】
また、制御部100には、操作信号として、主変速レバー30、副変速レバー31、モード切替スイッチ73、苗植付部昇降スイッチ74、自動旋回切替スイッチ75、線引きマーカ自動昇降スイッチ76などから信号が入力される。モード切替スイッチ73は、自律走行を実行するか否かを切り替えるスイッチである。
【0055】
苗植付部昇降スイッチ74は、苗植付部3を昇降を切り替えるスイッチである。苗植付部昇降スイッチ74は、「上昇」および「下降」位置に変更可能である。苗植付部昇降スイッチ74が「上昇」位置にあるときは、苗植付部3は、所定の非作業位置まで上昇し、植付装置36(
図1参照)が停止する非作業状態(苗植付部3の切状態)となる。苗植付部昇降スイッチ74が「下降」位置にあるときは、苗植付部3は、所定の作業位置まで下降し、植付装置36が作動する作業状態(苗植付部3の入状態)となる。すなわち、苗植付部昇降スイッチ74は、苗植付部3の作業状態が検出可能なスイッチである。
【0056】
自動旋回切替スイッチ75は、たとえば、苗移植機1を手動操縦する場合において自動旋回の実行を可とするか不可とするかを切り替えるスイッチである。なお、自動旋回切替スイッチ75が「ON」のときは、自動旋回の実行を可とする。自動旋回切替スイッチ75が「OFF」のときは、自動旋回の実行を不可とする。
【0057】
線引きマーカ自動昇降スイッチ76は、ステアリングハンドル22の操舵量(すなわち、前輪11の操舵量)に連動して線引きマーカを自動的に昇降させるか否かを切り替えるスイッチである。線引きマーカ自動昇降スイッチ76が「ON」のときは、操舵量に連動して線引きマーカを自動的に昇降させる制御が実行される。一方、線引きマーカ自動昇降スイッチ76が「OFF」のときは、操舵量に連動して線引きマーカを自動的に昇降させる制御は実行されない。
【0058】
この他、制御部100には、方位センサ(図示せず)などが接続される。方位センサは、たとえば、苗移植機1の進行方向の絶対方位角(たとえば、「北」を0°(360°)、「東」を90°、「南」を180°、「西」を270°)を検出する。方位センサは、一定時間ごとに絶対方位角を検出し、検出した絶対方位角を制御部100へ送信する。
【0059】
ここで、制御部100は、予め設定された所定の進路情報に基づいて、後述する、直進工程、旋回工程および枕地工程を、苗移植機1(走行車体2および苗植付部3)に実行させる。また、制御部100は、苗移植機1による苗を植え付ける工程(たとえば、直進工程)の実行中に、苗移植機1に対する、進路TR(
図6参照)の左右方向の調整を行うことが可能なものである。この場合、制御部100には、操作信号として、後述する進路調整操作具80から信号が入力される。
【0060】
進路調整操作具80は、自律走行している苗移植機1の進路TRが左右方向にずれている場合など、現在の進路TRの進行方向に対して左右のいずれかへ所定の量だけ苗移植機1を移動させる場合に操作される。進路調整操作具80は、たとえば、操縦パネル29(
図1参照)や、操縦パネル29に設けられた操作具(たとえば、主変速レバー30)など、ステアリングハンドル22の周辺に設けられる。
【0061】
進路調整操作具80では、操縦者(作業者)が操縦席26(
図1参照)に着座した状態で苗移植機1が自律走行しているとき、苗移植機1の進路TRが左右方向にずれている場合に操縦者(作業者)に操作されることで、上記したように、現在の進路TRの進行方向に対して左右のいずれかへの苗移植機1の移動を可能とする。なお、進路調整操作具80については、
図4~7を用いて後述する。
【0062】
また、制御部100には、遠隔操作具90が相互通信可能に接続され、遠隔操作具90から各種信号や情報が入力される。なお、制御部100には、たとえば、走行車体2(
図1参照)に設けられた受信機(図示せず)を介して、遠隔操作具90から各種信号や情報が入力される。遠隔操作具90は、苗移植機1の遠隔操作を受け付ける遠隔操作モードの実行時に、作業者によって操作される。遠隔操作モードでは、作業者が遠隔操作具90を操作することで、苗移植機1の遠隔操作が可能となる。
【0063】
遠隔操作具90は、作業者の操作に応じた制御信号を、制御部100へ送信する。遠隔操作具90は、たとえば、Wi-fi(登録商標)や、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって、制御部100と通信可能に接続される。遠隔操作具90は、Bluetooth(登録商標)によって、制御部100と通信可能に接続されることが好ましい。なお、遠隔操作具90は、近距離無線通信に加えて(あるいは、近距離無線通信に代えて)通信ネットワークなどを介して通信可能に接続されてもよい。
【0064】
遠隔操作具90は、液晶画面などの表示部91を有する携帯端末装置である。遠隔操作具90は、スマートフォンなどのタブレット端末装置であることが好ましい。なお、遠隔操作具90は、リモコン装置であってもよい。なお、遠隔操作具90は、リモコン装置の場合も、液晶画面などの表示部91を有するリモコン装置(液晶付きリモコン)である。また、遠隔操作具90は、苗移植機1と直接通信してもよいし、中継アンテナ150を経由して苗移植機1と通信してもよい。なお、遠隔操作具90は、緊急停止スイッチのみが設けられた単機能リモコンで、苗移植機1の緊急停止の即時操作が可能なものでもよい。
【0065】
<自律走行>
次に、
図3を参照して、圃場F内における苗移植機1の自律走行について説明する。
図3は、圃場F内における自律走行の説明図である。なお、
図3には、圃場F内を自律走行する苗移植機1の様子を模式的に示している。
【0066】
制御部100(
図2参照)は、前輪11(
図1参照)の操舵量をフィードバックしながらステアリングハンドル22(
図1および2参照)を制御して苗移植機1を自律走行させる自律走行モードを有する。
【0067】
制御部100は、自律走行モードでは、上記したように、ステアリングハンドル22を制御して苗移植機1の進行方向を制御する。制御部100は、自律走行モードにおいては、エンジンE(
図1および2参照)の回転数を制御して機体走行速度(車速)を制御する。制御部100は、自律走行モードでは、ブレーキ操作を行うことで車速を制御する場合もある。
【0068】
図3に示すように、自律走行モードでは、苗移植機1は、進路情報として圃場F内に設定された予定走行経路Rに沿って、たとえば、直進および旋回を繰り返しながら苗の植え付け作業を自動で行う。なお、制御部100は、上記したように、機体上部に設けられた位置情報取得装置50(
図1参照)によって、苗移植機1の現在の位置情報(自己位置P)や旋回位置に関する情報を取得する。
【0069】
制御部100は、苗移植機1を自律走行させる場合、たとえば、苗植付部3(
図1参照)の作業幅や、圃場Fの形状や面積などが含まれる情報などに基づいて、適切な旋回位置などが規定された、進路情報としての予定走行経路R(R1,R2)を作成する。
【0070】
この場合、苗移植機1は、たとえば、圃場F内において設定された作業エリア内で作業を行うよう、予め設定された作業開始点PSから作業終了点PEまで、予定走行経路Rに沿って直進と旋回とを繰り返しながら苗の植え付け作業を行う。
【0071】
予定走行経路R1は、直進経路RSと、旋回経路RTとを有する。制御部100は、直進経路RSでは、苗移植機1が直進しながら苗を植え付ける直進工程を苗移植機1に実行させる。また、制御部100は、旋回経路RTでは、直進工程から次の直進工程(次工程)へ移行するために苗移植機1が180度旋回する旋回工程を苗移植機1に実行させる。
【0072】
予定走行経路R2は、たとえば、圃場Fの枕地領域(圃場Fの枕地を含む内周縁領域をいう)における直進経路と90度旋回する旋回経路とを組み合わせた経路(枕地経路という)である。制御部100は、枕地経路では、圃場Fの枕地領域において苗を植え付ける枕地工程を苗移植機1に実行させる。なお、
図3においては、予定走行経路R2における作業終了点PEの図示を省略している。
【0073】
<進路調整操作具>
次に、
図4~7を参照して、進路調整操作具80(80A,80B)について説明する。
図4は、進路調整操作具80(80A)の配置の説明図である。なお、
図4には、進路調整操作具80(80A)が操縦パネル29の上面に設けられる場合の進路調整操作具80Aの配置を示している。
図5は、進路調整操作具80Aの操作説明図である。
図6は、進路調整操作具80Aの操作による進路調整の説明図である。
【0074】
制御部100(
図2参照)は、上記したように、制御部100によって予め設定された所定の進路情報に基づいて、直進工程、旋回工程および枕地工程を苗移植機1に実行させる。ここで、たとえば、機体旋回後の苗移植機1の進路TR(
図6参照)が進路情報(予定走行経路Rのうち、直進経路RS)からずれる場合がある。この場合、苗移植機1の進路TRを修正するためには、自律走行モード(自動旋回)を一度「OFF」にしてから手動操縦で機体旋回をやり直すなどの必要がある。
【0075】
進路調整操作具80(80A,80B)は、操縦者(作業者)が操縦席26(
図1参照)に着座した状態で苗移植機1が自律走行しているときに、上記したように、機体の現在の進行方向に対して左右いずれかへ所定量だけ苗移植機1を移動させる場合に操縦者(作業者)に操作される。なお、進路調整操作具80(80A,80B)が操作された場合の苗移植機1の移動量は、制御部100によって予め設定されている。また、進路調整操作具80(80A,80B)の操作量や操作時間に応じて苗移植機1の移動量が変更されてもよい。
【0076】
このような進路調整操作具80(80A,80B)は、操縦者(作業者)が操作しやすいように、ステアリングハンドル22(
図1参照)の周辺に設けられる。
【0077】
図4に示すように、進路調整操作具80Aは、操縦パネル29の上面に設けられる。
図4に示すように、進路調整操作具80Aは、操縦者(作業者)から見て左側となる領域A1に配置されることが好ましい。このように、進路調整操作具80Aが操縦パネル29の上面の左側となる領域A1に配置されることで、たとえば、操縦者(作業者)が右手で主変速レバー30を操作しながらステアリングハンドル22(
図1参照)から操作しやすい配置となる。また、進路調整操作具80Aは、操縦者(作業者)から見て右側となる領域A2に配置されてもよい。
【0078】
また、進路調整操作具80Aは、ステアリングハンドル22を支持するステアリングコラム22aの後側において、操縦者(作業者)から見て左側となる領域A3に配置されてもよいし、操縦者(作業者)から見て右側となる領域A4に配置されてもよい。また、進路調整操作具80Aは、ステアリングコラム22aの後側において、操縦者(作業者)から見て正面(中央)となる領域A5に配置されてもよい。
【0079】
このように、進路調整操作具80Aが操縦パネル29の上面に配置されることで、操縦者(作業者)のタイミングで進路TRの調整を行うことができる。また、操縦者(作業者)にとって操作が容易となる位置に進路調整操作具80Aが設けられるため、操作性を向上させることができる。
【0080】
また、進路調整操作具80(80A)は、操縦パネル29の上面に設けられる場合、たとえば、トグルスイッチであることが好ましい。
図5に示すように、トグルスイッチの場合、進路調整操作具80Aには、「左」、「右」および「中央」の3つの位置がある。このうち、「左」位置は、苗移植機1を左方へ調整する位置であり、「右」位置は、苗移植機1を右方へ調整する位置である。また、「中央」位置は、苗移植機1の進路TRの調整が実行されない位置である。
【0081】
このように、進路調整操作具80(80A)がトグルスイッチの場合、トグルスイッチの傾倒方向が苗移植機1の移動(調整)方向と対応していることが好ましい。また、進路調整操作具80(80A)がトグルスイッチの場合、「左」位置または「右」位置へ傾倒されたトグルスイッチから操縦者(作業者)が手を離すことで自動的に「中央」位置へ戻ることが好ましい。
【0082】
図6に示すように、苗移植機1では、進路TRを左方へ調整する場合、進路調整操作具80(80A)が「左」位置へ傾倒されることで、実際の進路TRから左方の進路TRLへと進路を調整(補正)する。また、苗移植機1では、進路TRを右方へ調整する場合、進路調整操作具80(80A)が「右」位置へ傾倒されることで、実際の進路TRから右方の進路TRRへと進路TRを調整(補正)する。なお、制御部100は、進路調整操作具80(80A)の一定時間以上の傾倒が検出されないと進路TRの調整(補正)を実行させない。
【0083】
このように、制御部100(
図2参照)は、直進工程のような苗を植え付ける工程の実行中に、苗移植機1の進路TRを左右方向に調整可能とする。なお、制御部100は、直進工程と同じく苗を植え付ける工程である枕地工程(枕地工程における直進しながら苗を植え付ける工程)においても、苗移植機1の進路TRを左右方向に調整可能としてもよいこれにより、たとえば、直進工程において苗移植機1の進路TRが左右方向ずれている場合には進路TRを左右方向に調整できるため、苗移植機1が左右方向にずれることによる苗の植え付け条間が一定に保たれないというような事態の発生を抑制することができ、苗の植え付け性能を向上させることができる。
【0084】
また、制御部100は、直進工程において苗移植機1の進路TRの調整を行った場合には、次の直進工程において進路TRの調整を行った分を反映させた新たな進路情報として予定走行経路R(
図3参照)を作成する。このように、次工程(進路TRの左右方向の調整を行った直進工程の次の直進工程)において左右方向が調整(補正)されるため、苗の植え付け条間を一定に保つことができる。また、機体旋回後の条合わせの精度が向上して苗の植え付け開始位置が安定するため、苗の植え付け開始位置が重視される苗移植機1において有効なものとなる。
【0085】
制御部100は、苗移植機1が自律走行するための基準となる基準経路に対して苗移植機1の進路TRを調整する。これにより、基準経路に対して、自律走行している苗移植機1を左右方向に調整することができる。また、制御部100は、苗移植機1が自律走行する前に進路情報(予定走行経路R)を作成する。このため、制御部100は、基準経路に対して進路TRの調整を行う場合には、苗移植機1が自律走行を開始する前に、たとえば、位置情報取得装置50(
図2参照)から基準経路を取得して進路情報(予定走行経路R)を作成する。
【0086】
また、制御部100は、苗移植機1が自律走行するための基準となる基準方位に対して苗移植機1の進路TRを調整してもよい。これにより、基準方位に対して、自律走行している苗移植機1を左右方向に調整することができる。また、制御部100は、苗移植機1が自律走行する前に進路情報(予定走行経路R)を作成する。このため、制御部100は、基準方位に対して進路TRの調整を行う場合には、苗移植機1が自律走行を開始する前に、たとえば、位置情報取得装置50から基準方位を取得して進路情報(予定走行経路R)を作成する。
【0087】
また、制御部100は、苗移植機1が自律走行するための基準となる基準位置(機体の現在位置を示す座標)に対して苗移植機1の進路TRを調整してもよい。これにより、基準位置(座標)に対して、自律走行している苗移植機1を左右方向に調整することができる。また、制御部100は、苗移植機1が自律走行する前に進路情報(予定走行経路R)を作成する。このため、制御部100は、基準位置(座標)に対して進路TRの調整を行う場合には、苗移植機1が自律走行を開始する前に、たとえば、位置情報取得装置50から基準位置(座標)を取得して進路情報(予定走行経路R)を作成する。
【0088】
また、制御部100は、進路情報(予定走行経路R)の作成時には、前工程において進路TRが調整されている場合には、この進路TRの調整をリセットする。このように、苗移植機1が自律走行する前に進路TRの調整分をリセットするため、具体的には、予定走行経路Rのティーチング設定値に戻すため、たとえば、進路TRの調整を行った圃場Fの作業を終了して次の圃場Fの作業を開始する場合において、進路TR、すなわち、この後の進路TRとなる予定走行経路Rの誤設定を防止することができる。
【0089】
また、
図7は、進路調整操作具80(80B)の配置の説明図である。なお、
図7には、進路調整操作具80(80B)が主変速レバー30に設けられる場合の進路調整操作具80Bの配置を示している。
【0090】
図7に示すように、進路調整操作具80(80B)は、操縦者(作業者)が右手で操作する主変速レバー30に設けられてもよい。進路調整操作具80Bは、主変速レバーに設けられる場合、グリップ30aの外周面に設けられる。進路調整操作具80Bは、グリップ30aの外周面における上部前側の領域A6に配置されることが好ましい。また、進路調整操作具80Bは、グリップ30aの外周面における上部後側の領域A7に配置されてもよい。
【0091】
このように、進路調整操作具80Bが主変速レバー30のグリップ30aの外周面に配置されることで、操縦者(作業者)のタイミングで進路TR(
図6参照)の調整を行うことができる。また、操縦者(作業者)にとって操作が容易となる位置に進路調整操作具80Bが設けられるため、操作性を向上させることができる。
【0092】
なお、進路調整操作具80Bは、主変速レバー30に設けられる場合も、上記したトグルスイッチの構成と同様、「左」、「右」および「中央」の3つの位置があり、「左」位置で苗移植機1が左方へ調整され、「右」位置で苗移植機1が右方へ調整される。また、進路調整操作具80Bは、「中央」位置では苗移植機1の進路TRの調整が実行されない。
【0093】
また、進路調整操作具80Bは、「左」位置または「右」位置から操縦者(作業者)が手を離すことで自動的に「中央」位置へ戻ることが好ましい。また、進路調整操作具8080Bの場合も、進路調整操作具80Bの一定時間以上の操作(たとえば、押し操作)が検出されないと、進路の調整(補正)を実行させない。
【0094】
<遠隔操作>
次に、
図8および9を参照して、遠隔操作具90による苗移植機1の遠隔操作について説明する。
図8および9は、遠隔操作具90による遠隔操作の説明図である。
【0095】
図8に示すように、作業者Wがスマートフォンなどの遠隔操作具90から苗移植機1を遠隔操作する場合、遠隔操作具90は、作業を行う圃場Fの周辺に設置された中継アンテナ150を経由して苗移植機1と通信する。なお、遠隔操作具90では、スマートフォンアプリを用いて遠隔操作を行う。また、遠隔操作具90では、スマートフォンアプリにおいて、苗移植機1を自律走行させるためのティーチングで生成された予定走行経路R(
図3参照)を表示させる。
【0096】
遠隔操作具90は、上記したように、近距離無線通信機能を有し、近距離通信を行う。具体的には、遠隔操作具90は、Bluetooth(登録商標)によって近距離通信を行う。たとえば、遠隔操作具90は、中継アンテナ150との距離D1が10m以内の場合に、中継アンテナ150を経由して苗移植機1と通信する。なお、この場合、中継アンテナ150と苗移植機1との距離D2が300m以内で対応可能となる。
【0097】
このように、中継アンテナ150を経由して通信を行うことで、バッテリーの消費を抑えることができ、液晶付きリモコンなどに比べても使い勝手がよいものとなる。なお、たとえば、液晶付きリモコンの場合、バッテリーの消耗が激しく、頻繁に電池交換を行う必要がある一方、液晶付きリモコンの電池容量を増やすと、大型化によって携帯性や操作性が低下してしまう。ところが、中継アンテナ150を経由して通信を行う本実施形態では、電池容量を増やす必要がないため、携帯性や操作性が低下することもなく、使い勝手がよい。
【0098】
また、中継アンテナ150は、作業者Wによって持ち運びが可能なもので、設置位置を変更することができる。このため、圃場Fの周辺において作業者Wから離れすぎない位置に中継アンテナ150を設置することができる。
【0099】
一方、
図9に示すように、作業者Wがスマートフォンなどの遠隔操作具90から苗移植機1を遠隔操作する場合、遠隔操作具90は、苗移植機1との距離D3が所定以内(たとえば、10m以内)の場合には、中継アンテナ150を経由しないで苗移植機1と直接通信する。
【0100】
このように、遠隔操作具90と苗移植機1との距離D3が所定以内の場合に苗移植機1と直接通信することで、たとえば、畦際において畦との間隔などを確認しながら遠隔操作するような、苗移植機1と遠隔操作する作業者W(遠隔操作具90)との距離(距離D3)が近い場合には中継アンテナ150を経由する必要がない。このため、たとえば、中継アンテナ150を設置する作業などがなくなり、作業性を向上させることができる。
【0101】
なお、Bluetooth(登録商標)において電波強度の強い(通信距離の長い)通信方式(たとえば、「Bluetooth-Class1」)対応のスマートフォンを遠隔操作具90として用いることで、苗移植機1との距離を最大100mとすることができる。
【0102】
<中継アンテナ>
次に、
図10を参照して中継アンテナ150について説明する。
図10は、中継アンテナ150の説明図である。なお、
図10は、中継アンテナ150の模式的な斜視図である。
【0103】
図10に示すように、電波を送受信する中継アンテナ150は、三脚状の支持部151によって支持される。三脚状の支持部151としては、たとえば、カメラ用の三脚を用いることができる。このため、中継アンテナ150を支持するための支持部151の入手が容易となるとともに、中継アンテナ150の移動や設置も容易となる。
【0104】
また、中継アンテナ150には、報知灯140が設けられる。報知灯140は、たとえば、複数種類(たとえば、3種類)の色を用いて、作業者W(
図8参照)などに苗移植機1(
図1参照)の状態を表示(点灯させる色)の変化によって報知する。報知灯140は、機体異常や障害物検出の報知の他、現在実行中のモードの種類(自律走行モードや遠隔操作モードや手動操縦モードなど)を報知する。
【0105】
このように、中継アンテナ150に報知灯140が設けられるため、作業者Wは、苗移植機1が自身(作業者W)から見えにくい場合でも、中継アンテナ150を見れば苗移植機1の状態を把握することができるため、作業性を向上させることができる。なお、通常、報知灯140は、苗移植機1側に設けられる。この場合、報知灯140は、たとえば、走行車体2(
図1参照)の前方上部のような作業者Wから見えやすい位置に設けられる。
【0106】
<作業者の落下防止制御>
次に、
図11および12を参照して、苗移植機1に搭乗している操縦者(作業者)の落下防止制御について説明する。
図11および12は、機体(苗移植機1)に搭乗している作業者Wの落下防止制御の処理を示すフローチャートである。
【0107】
上記した苗移植機1(
図1参照)には、操縦者(作業者)が搭乗している場合に操縦者(作業者)の操縦席26(
図1参照)への着座を検出する着座センサ(図示せず)が設けられる。着座センサは、たとえば、圧力センサであり、操縦席26のシートベース部分やクッション部分に設けられる。なお、着座センサに代えて、操縦者(作業者)の機体搭乗を検出する他のセンサを用いてもよい。
【0108】
ここで、苗移植機では、たとえば、自律走行モードにおいて操縦者(作業者)が機体に搭乗しない無人状態を想定している場合、自律走行中の機体の振動などで操縦者(作業者)が振り落される可能性がある。このため、苗移植機1では、着座センサを利用して、操縦者(作業者)が苗移植機1に搭乗している場合のHSTの出力を抑えたり苗移植機1が動き出すタイミングを遅くしたりする制御を行うことで、操縦者(作業者)の落下防止を図る。
【0109】
図11に示すように、操縦者(作業者)の落下防止制御の第1の例では、制御部100(
図2参照)によって苗移植機1を自律走行させる場合には、着座センサ値およびHSTモータセンサ値が検出されると(ステップS101)、制御部100は、着座センサ値に基づいて、操縦者(作業者)が操縦席26に着座しているか否かを判定する(ステップS102)。
【0110】
制御部100は、ステップS102の処理において操縦者(作業者)が着座していると判定すると(ステップS102:Yes)、HSTの出力を抑える制御を行う(ステップS103)。この場合、たとえば、HSTの開度が上限80%となるように、HSTの出力を抑える。制御部100は、HSTの出力を抑える制御を行うと、処理を終了する。
【0111】
制御部100は、ステップS102の処理において操縦者(作業者)が着座していないと判定すると(ステップS102:No)、HSTの出力をデフォルト値のままとして(ステップS104)、処理を終了する。
【0112】
このように、操縦者(作業者)が苗移植機1に搭乗している場合のHSTの出力を抑えることで、操縦者(作業者)の落下防止を図ることができ、安全性を向上させることができる。
【0113】
図12に示すように、操縦者(作業者)の落下防止制御の第2の例では、制御部100によって苗移植機1を自律走行させる場合に、着座センサ値およびHST出力タイミングを検出すると(ステップS201)、制御部100は、着座センサ値に基づいて、操縦者(作業者)が操縦席26に着座しているか否かを判定する(ステップS202)。
【0114】
制御部100は、ステップS202の処理において操縦者(作業者)が着座していると判定すると(ステップS202:Yes)、苗移植機1が動き出すタイミングを遅くする制御を行う(ステップS203)。この場合、たとえば、苗移植機1の動き出すタイミングを1秒程度遅くする。制御部100は、苗移植機1が動き出すタイミングを遅くする制御を行うと、処理を終了する。
【0115】
制御部100は、ステップS202の処理において操縦者(作業者)が着座していないと判定すると(ステップS202:No)、苗移植機1が動き出すタイミングをデフォルト値のままとして(ステップS204)、処理を終了する。
【0116】
このように、操縦者(作業者)が苗移植機1に搭乗している場合の苗移植機1が動き出すタイミングを遅くすることで、操縦者(作業者)の落下防止を図ることができ、安全性を向上させることができる。
【0117】
<エンジンのダウンサイジング構造>
次に、
図13および14を参照して、苗移植機1のエンジンEのダウンサイジング構造について説明する。
図13および14は、エンジンEのダウンサイジング構造の説明図である。なお、
図13には、エンジンE、電動スーパーチャージャ160およびエアクリーナ170を分解した状態を示し、
図14には、電動スーパーチャージャ160のエア流路161,162を示している。
【0118】
図13および14に示すように、苗移植機1では、エンジンEの吸気口に電動スーパーチャージャ160が取り付けられることで、エンジンEの低速回転での吸気量のブーストを図る。なお、エンジンEの高速回転時において吸気圧がブースト圧を上回る場合には、電動スーパーチャージャ160がオフとなる。すなわち、
図14に示すように、エンジンEの高速回転時には、エア流路(バイパス流路)162をエアが流れるため、電動スーパーチャージャ160がオフ状態となる。
【0119】
また、
図13および14に示すように、苗移植機1では、電動スーパーチャージャ160がエンジンEとエアクリーナ170との間に設けられる構造(ダウンサイジング構造)によって、小型・軽量化(ダウンサイジング化)や環境性能の向上を図る。近年、苗移植機の大型化、高出力化が進んでいるが、これに伴う重量増加によって湿田走破性や旋回性が犠牲となる。苗移植機1では、上記したようなダウンサイジング構造によって、より小型クラスのエンジンを利用することができ、エンジンEの重量を軽減することができる。また、ターボエンジンと比べても安価となり、また、苗移植機では低速を多く利用することから電動スーパーチャージャ160の効果が出やすく、また、ダウンサイジング化した場合のヒートバランスも向上する。
【0120】
<肥料詰まり解消制御>
次に、
図15~18を参照して、肥料詰まり解消制御について説明する。
図15は、繰出装置42における肥料詰まりの説明図である。なお、
図15には、肥料Gの繰出装置42を模式的に示している。
図16~18は、肥料詰まり解消制御の処理を示すフローチャートである。
【0121】
図15に示すように、上記した施肥装置40(
図1参照)において施肥ホッパ41に貯留された肥料Gを所定量ずつ施肥ホース(図示せず)へ供給(言い換えると、施肥ホッパ41から所定量ずつ肥料Gを排出)する繰出装置42は、施肥ホッパ41から肥料Gを排出するために所定方向RDへ回転する繰出ロータ421を、ギヤを介して駆動する、いわゆるメカ駆動式である。メカ駆動式の繰出装置42では、繰出ロータ421を回転させる駆動力が足りない場合には、繰出ロータ421が回転せず、肥料Gが排出されない、いわゆる肥料詰まりが発生することがある。肥料詰まりが発生すると、肥料Gの無施肥領域ができてしまう。
【0122】
苗移植機1では、繰出ロータ421におけるメカ駆動をギヤ比の高いモータ駆動で補助するような制御(肥料詰まり解消制御)を行う。
【0123】
図16に示すように、肥料詰まり解消制御の第1の例では、繰出ロータ421の駆動回転数が検出されると(ステップS301)、制御部100(
図2参照)は、繰出ロータ421の駆動回転数に基づいて、繰出ロータ421が回転不良であるか否かを判定する(ステップS302)。
【0124】
制御部100は、ステップS302の処理において繰出ロータ421の回転不良であると判定すると(ステップS302:Yes)、定回転分のモータ駆動をメカ駆動に加える制御を行う(ステップS303)。制御部100は、定回転分のモータ駆動を加えると、モータを停止する制御を行う(ステップS304)。なお、モータが停止すると、繰出ロータ421がフリー状態となる。制御部100は、モータを停止する制御を行うと、処理を終了する。
【0125】
なお、制御部100は、ステップS302の処理において繰出ロータ421の回転不良でないと判定すると(ステップS302:No)、ステップS301の処理へ戻り、これにより、繰出ロータ421の駆動回転数が検出される。
【0126】
このように、繰出ロータ421が回転不良(肥料詰まり)の場合に定回転分のモータ駆動をメカ駆動に加えることで、肥料詰まりを解消して、肥料Gの無施肥領域ができるのを防止することができる。
【0127】
また、苗移植機1では、一方のギヤ比を高くした2系統のモータによって、通常時にはギヤ比の低いローギヤ側モータで繰出ロータ421を駆動し、ローギヤ側モータの出力の電流値が所定値以上となった場合にギヤ比の高いハイギヤ側モータで繰出ロータ421を駆動するような制御(肥料詰まり解消制御)を行う。
【0128】
図17に示すように、肥料詰まり解消制御の第2の例では、ローギヤ側モータ出力の電流値が検出されると(ステップS401)、制御部100(
図2参照)は、検出された電流値に基づいて、ローギヤ側モータ出力の電流値が大きいか否か(所定値以上か否か)を判定する(ステップS402)。
【0129】
制御部100は、ステップS402の処理において電流値が大きい(所定値以上)と判定すると(ステップS402:Yes)、ハイギヤ側モータで繰出ロータ421を定回転分駆動する制御を行う(ステップS403)。制御部100は、ハイギヤ側モータで繰出ロータ421を定回転分駆動すると、ローギヤ側モータへと戻す制御を行い(ステップS404)、ローギヤ側モータへと戻すと、処理を終了する。
【0130】
なお、制御部100は、ステップS402の処理において電流値が大きくない(所定値未満)と判定すると(ステップS402:No)、ステップS401の処理へ戻り、これにより、ローギヤ側モータ出力の電流値が検出される。
【0131】
このように、ローギヤ側モータ出力の電流値が大きい、すなわち、電流値が所定値以上(肥料詰まり)の場合にハイギヤ側モータで繰出ロータ421を定回転分駆動することで、肥料詰まりを解消して、肥料Gの無施肥領域ができるのを防止することができる。
【0132】
また、苗移植機1では、砕けた肥料Gが繰出ロータ421に詰まりモータ出力の負荷トルク(電流値)が所定値以上となった場合に、モータ出力を逆転して(正負を入れ替えて)、定回転で出力するような制御(肥料詰まり解消制御)を行う。
【0133】
図18に示すように、肥料詰まり解消制御の第3の例では、モータ出力の電流値が検出されると(ステップS501)、制御部100(
図2参照)は、検出された電流値に基づいて、モータ出力の電流値が大きいか否か(所定値以上か否か)を判定する(ステップS502)。
【0134】
制御部100は、ステップS502の処理において電流値が大きい(所定値以上)と判定すると(ステップS502:Yes)、モータ出力を逆転してから(正負を入れ替えてから)定回転で出力する制御を行う(ステップS503)。制御部100は、モータ出力を逆転してから定回転で出力すると、モータ出力を元(たとえば、正回転)に戻す制御を行う(ステップS504)、モータ出力を元に戻すと、処理を終了する。
【0135】
なお、制御部100は、ステップS502の処理において電流値が大きくない(所定値未満)と判定すると(ステップS502:No)、ステップS501の処理へ戻り、これにより、モータ出力の電流値が検出される。
【0136】
このように、モータ出力の電流値が大きい、すなわち、所定値以上(肥料詰まり)の場合にモータ出力を逆転してから定回転で出力することで、肥料詰まりを解消して、肥料Gの無施肥領域ができるのを防止することができる。
【0137】
<フロントセンサカバー>
次に、
図19および20を参照して、フロントセンサカバー180について説明する。
図19および20は、フロントセンサカバー180の説明図であり、フロントセンサカバー180の概略斜視図である。なお、
図19には、フロントセンサカバー180を立てた状態を示し、
図20には、フロントセンサカバー180を傾倒させた状態を示している。
【0138】
図19に示すように、苗移植機1(
図1参照)には、機体前方の障害物を検出するためのフロントセンサを収容するフロントセンサカバー180が設けられる。フロントセンサカバー180は、ボンネット28の前方に設けられる。なお、フロントセンサカバー180は、たとえば、樹脂製である。また、フロントセンサカバー180は、前後方向へ回動可能な支持フレーム181によって支持される。
【0139】
図20に示すように、フロントセンサカバー180は、たとえば、燃料補給時に傾倒させた状態とすることで、フロントセンサカバー180の裏面が燃料タンクなどの載置部182となる。
【0140】
このようなフロントセンサカバー180は、通常時にはフロントセンサのカバーとしての機能を有するとともに、機体のフロント部分のバンパーガードの機能を有する。また、フロントセンサカバー180によって、機体の顔として他の機種との差別化を図ることができる。
【0141】
<旋回アシスト>
次に、苗移植機1(
図1参照)における旋回アシストについて説明する。
【0142】
制御部100(
図2参照)による苗移植機1における旋回アシストの実行中、制御部100は、前輪11(
図1参照)の回転数と後輪12(
図1参照)の回転数の比からスリップ率を判別する。この場合、前輪11の回転数でスリップを検出し、後輪12の回転数でスリップの程度を検出する。また、この場合、対角の前輪11の回転数に対する後輪12の回転数の比を見るのがよく、前輪11の回転数に対する後輪12の回転数の比が所定値以上となった場合にスリップとして判定する。このような構成によって、旋回アシストの精度を向上させることができ、自律走行における機体旋回中のスリップが苗の植え付け条あわせの精度に影響するのを抑えることができる。
【0143】
また、旋回アシストの実行中、制御部100は、クラッチが切状態の後輪12の内輪側の回転数から推定する(外輪側の回転数と比較して、回転がない場合にはスリップとして検出する)ことで、スリップがどの程度発生しているかを検出することができる。
【0144】
また、旋回アシストの実行する場合、制御部100は、直進アシストのために記憶している平行線からのずれを考慮して、すなわち、自動旋回開始前の機体の向きが直進経路RS(
図3参照)からどの程度ずれているかを考慮して、直進経路RSからのずれの度合いに応じてステアリングハンドル22(
図1参照)を戻す時間を変更する。
【0145】
なお、苗移植機1では、位置情報取得装置50(たとえば、GNSS装置)で機体旋回のタイミングを規定しているが、たとえば、バックアップとして駆動回転数を記憶するように構成されてもよく、これにより、仮に衛星ロストの状態となった場合でもある程度の適切な旋回タイミングを得ることができる。また、苗移植機1では、矩形の圃場Fだけでなく台形などの異形の圃場Fに適応するために、たとえば、自律走行のためのティーチング時において第1経路と第2経路との距離の違いをとることで、次の経路(第3経路)の長さを、たとえば、微分計算で予測するように構成されてもよい。また、苗移植機1では、回転センサがトランスミッションに固定されるように構成されてもよく、これにより、GNSS装置などを用いない安価なシステムとなる。
【0146】
上述してきた実施形態により、以下の苗移植機1が実現される。
【0147】
(1)自律走行可能であり、圃場F内において自律走行しながら苗の植え付け作業を行う苗移植機1であって、所定の進路情報(予定走行経路R)に基づいて、直進しながら苗を植え付ける直進工程と、直進工程から次の直進工程へ移行するための旋回工程と、圃場Fの枕地領域において苗を植え付ける枕地工程とを苗移植機1に実行させる制御部100を備え、制御部100は、苗を植え付ける工程の実行中に、苗移植機1の進路TRを左右方向に調整可能とする、苗移植機1。
【0148】
このような苗移植機1によれば、たとえば、直進工程において苗移植機1の進路TRが左右方向ずれている場合には進路TRを左右方向に調整できるため、苗移植機1が左右方向にずれることによる苗の植え付け条間が一定に保たれないというような事態の発生を抑制することができ、苗の植え付け性能を向上させることができる。
【0149】
(2)上記(1)において、制御部100は、直進工程において進路TRの調整を行った場合には、次の直進工程において進路TRの調整を行った分を反映させた新たな進路情報(予定走行経路R)を作成する、苗移植機1。
【0150】
このような苗移植機1によれば、上記(1)の効果に加えて、次工程(進路TRの左右方向の調整を行った直進工程の次の直進工程)において調整した分を反映させた新たな進路情報(予定走行経路R)を作成するため、次工程において左右方向が調整(補正)される。これにより、苗の植え付け条間を一定に保つことができる。また、機体旋回後の条合わせの精度が向上して苗の植え付け開始位置が安定するため、苗の植え付け開始位置が重視される苗移植機1において有効なものとなる。
【0151】
(3)上記(1)または(2)において、制御部100は、苗移植機1が自律走行するための基準となる基準経路に対して進路TRを調整する、苗移植機1。
【0152】
このような苗移植機1によれば、上記(1)または(2)の効果に加えて、基準経路に対して、自律走行している苗移植機1を左右方向に調整することができる。
【0153】
(4)上記(1)または(2)において、制御部100は、苗移植機1が自律走行するための基準となる基準方位に対して進路TRを調整する、苗移植機1。
【0154】
このような苗移植機1によれば、上記(1)または(2)の効果に加えて、基準方位に対して、自律走行している苗移植機1を左右方向に調整することができる。
【0155】
(5)上記(1)または(2)において、制御部100は、苗移植機1が自律走行するための基準となる基準位置に対して進路TRを調整する、苗移植機1。
【0156】
このような苗移植機1によれば、上記(1)または(2)の効果に加えて、基準位置(座標)に対して、自律走行している苗移植機1を左右方向に調整することができる。
【0157】
(6)上記(3)~(5)のいずれか一つにおいて、制御部100は、苗移植機1が自律走行する前に、苗移植機1が自律走行するための基準となる基準経路に対して進路TRの調整を行う場合には基準経路を取得して進路情報(予定走行経路R)を作成し、または、苗移植機1が自律走行するための基準となる基準方位に対して進路TRの調整を行う場合には基準方位を取得して進路情報(予定走行経路R)を作成し、または、苗移植機が自律走行するための基準となる基準位置に対して進路TRの調整を行う場合には基準位置を取得して進路情報(予定走行経路R)を作成し、進路情報(予定走行経路R)の作成時に、前工程において進路TRが調整されている場合には、進路TRの調整をリセットする、苗移植機1。
【0158】
このような苗移植機1によれば、上記(3)~(5)のいずれか一つの効果に加えて、苗移植機1が自律走行する前に進路TRの調整分をリセットするため、たとえば、進路TRの調整を行った圃場Fの作業を終了して次の圃場Fの作業を開始する場合において、進路TR(この後の進路TRとなる予定走行経路R)の誤設定を防止することができる。
【0159】
(7)上記(1)~(6)のいずれか一つにおいて、苗移植機1の操舵のためのステアリングハンドル22と、苗移植機1の変速のための主変速レバー30と、ステアリングハンドル22の周辺に設けられ、制御部100によって進路TRの調整を実行させる場合に作業者Wによって操作される進路調整操作具80とを備え、進路調整操作具80(80B)は、主変速レバー30のグリップ30aの外周面に設けられる、苗移植機1。
【0160】
このような苗移植機1によれば、上記(1)~(6)のいずれか一つの効果に加えて、たとえば、作業者Wが苗移植機1に搭乗している場合、搭乗している作業者Wのタイミングで進路TRの調整を行うことができる。また、作業者Wにとって操作が容易となる位置に進路調整操作具80(80B)が設けられるため、操作性を向上させることができる。
【0161】
(8)上記(1)~(7)のいずれか一つにおいて、苗移植機1を遠隔操作するための遠隔操作具90をさらに備え、遠隔操作具90は、近距離無線通信機能を有し、設置位置を変更可能であり圃場Fの周辺に設置された中継アンテナ150を経由して、苗移植機1と通信する、苗移植機1。
【0162】
このような苗移植機1によれば、上記(1)~(7)のいずれか一つの効果に加えて、中継アンテナ150を経由することで、バッテリーの消費を抑えることができ、液晶付きリモコンなどに比べても使い勝手がよいものとなる。
【0163】
(9)上記(8)において、遠隔操作具90は、苗移植機1との距離D3が所定以内の場合には、中継アンテナ150を経由しないで苗移植機1と直接通信する、苗移植機1。
【0164】
このような苗移植機1によれば、上記(8)の効果に加えて、たとえば、畦際において畦との間隔などを確認しながら遠隔操作するような、苗移植機1と遠隔操作する作業者Wとの距離D3が所定以内(近距離無線通信可能な距離)である場合には中継アンテナ150を経由する必要がない。このため、たとえば、中継アンテナ150を設置する作業などがなくなり、作業性を向上させることができる。
【0165】
(10)上記(8)または(9)において、中継アンテナ150には、苗移植機1の状態を表示の変化によって報知する報知灯140が設けられる、苗移植機1。
【0166】
このような苗移植機1によれば、上記(8)または(9)の効果に加えて、中継アンテナ150に報知灯140が設けられるため、作業者Wは、苗移植機1が自身(作業者W)から見えにくい場合でも、中継アンテナ150を見れば苗移植機1の状態を把握することができる。これにより、作業性を向上させることができる。
【0167】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0168】
1 苗移植機
22 ステアリングハンドル
30 主変速レバー
30a グリップ
80 進路調整操作具
90 遠隔操作具
100 制御部
140 報知灯
150 中継アンテナ
D3 距離
F 圃場
R 進路情報(予定走行経路)
TR 進路
W 作業者