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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098103
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】注射器本体
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/31 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
A61M5/31 534
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024083879
(22)【出願日】2024-05-23
(62)【分割の表示】P 2019186929の分割
【原出願日】2019-10-10
(31)【優先権主張番号】20 2018 105 835.5
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】323001797
【氏名又は名称】ショット ファーマ シュヴァイツ アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT Pharma Schweiz AG
【住所又は居所原語表記】St. Josefen-Strasse 20, 9000 St. Gallen, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ムスタファ キュチュク
(57)【要約】
【課題】製薬用の注射器(4)のための注射器本体(1)である。
【解決手段】注射器本体(1)は、円筒状の中空室(6)を有しており、中空室(6)は、円錐体(10)を有する第1の基底面(8)と、ピストン(2)を挿入するために開いた第2の基底面と、開いた基底面の周囲の領域に配置されたフィンガフランジ(16)と、を備えており、フィンガフランジ(16)は、円錐体(10)に面した側に、注射過程の際の指の滑り落ちを防ぐための滑り止め部材(18)を有しており、滑り止め部材(18)は、0.8μm~150μmの算術平均粗さ値を有する表面として形成されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製薬用の注射器(4)のための注射器本体(1)であって、
前記注射器本体(1)は、円筒状の中空室(6)を有しており、前記中空室(6)は、円錐体(10)を有する第1の基底面(8)と、ピストン(2)を挿入するために開いた第2の基底面と、前記開いた基底面の周囲の領域に配置されたフィンガフランジ(16)と、を備えており、
前記フィンガフランジ(16)は、前記円錐体(10)に面した側に、注射過程の際の指の滑り落ちを防ぐための滑り止め部材(18)を有しており、
前記滑り止め部材(18)は、0.8μm~150μmの算術平均粗さ値を有する表面として形成されている、
注射器本体(1)。
【請求項2】
前記滑り止め部材(18)は、5μm~100μm、好適には10μm~50μmの算術平均粗さ値を有する表面として形成されている、
請求項1記載の注射器本体(1)。
【請求項3】
前記フィンガフランジ(16)は、前記開いた基底面と共に1つの平面を形成している、
請求項1または2記載の注射器本体(1)。
【請求項4】
前記フィンガフランジ(16)は、前記円筒状の中空室(6)の軸線を含む面に対して、鏡像対称に形成されている、
請求項1から3までのいずれか1項記載の注射器本体(1)。
【請求項5】
前記フィンガフランジ(16)の、前記円錐体(10)とは反対の側には、文字表記面が配置されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の注射器本体(1)。
【請求項6】
前記滑り止め部材(18)は、前記フィンガフランジ(16)の面積の60%超、好適には80%超をカバーしている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の注射器本体(1)。
【請求項7】
前記表面は、規則的な幾何学的な構造または不規則な統計的な構造を有している、
請求項1から6までのいずれか1項記載の注射器本体(1)。
【請求項8】
前記滑り止め部材(18)は、前記円筒状の中空室(6)の周壁から隔てられている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の注射器本体(1)。
【請求項9】
前記注射器本体(1)は、一体に形成されている、
請求項1から8までのいずれか1項記載の注射器本体(1)。
【請求項10】
前記注射器本体(1)は、プラスチック、特にシクロオレフィンポリマまたはシクロオレフィンコポリマから成っている、
請求項1から9までのいずれか1項記載の注射器本体(1)。
【請求項11】
製薬用または美容用の注射器(4)であって、請求項1から10までのいずれか1項記載の注射器本体(1)と、前記円筒状の中空室(6)内に配置された可動のピストン(2)と、を有している、
注射器(4)。
【請求項12】
前記注射器は、
-口腔外科における医薬品の注入または投与、特に患者の口腔内への麻酔薬の注射および/または、
-特に患者の眼瞼反射を抑制するためまたは瞳孔を広げるための、眼科における医薬品の注入または投与および/または、
-特に流体動力学的なプロセスを追跡するためのマーカー物質を投与するための、腎臓病学における医薬品の注入または投与および/または、
-好適には腫瘍治療用の放射性同位元素を投与するための、核医学における医薬品の注入または投与および/または、
-例えばヒアルロン酸またはボトックスを基礎とした薬品等の美容薬品の注入または投与
を含む医療法または美容法において使用される、
請求項11記載の注射器。
【請求項13】
特に、保護手袋、特にDIN EN 455「1回限り使用するための医療用手袋」に相当する、1回限りの使用のための保護手袋を用いて投与される流体を注入または投与する、
請求項12記載の方法を用いるための、請求項11記載の注射器。
【請求項14】
流体が注入または投与され、前記流体は、
-遺伝子工学的に変化された物質を含む患者個別の薬品を含みかつ/または
-生物学的または微生物学的に製造または増殖させられた薬品を含みかつ/または
-患者個別の腫瘍固有のマーカー物質を含む、
特に請求項13記載の方法を用いるための、請求項11記載の注射器。
【請求項15】
保護手袋、特に電離放射線および放射能汚染に対する保護手袋、特にDIN EN 421に相当する保護手袋を用いて投与される流体が注入または投与される、
特に請求項12記載の方法を用いるための、請求項11記載の注射器。
【請求項16】
特に放射性の患者個別の腫瘍マーカー物質および/または放射性の患者個別の遺伝子配列を有する薬品を含む、電離放射線を発生させる流体が注入または投与される、
特に請求項15記載の方法を用いるための、請求項11記載の注射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製薬用または美容用の注射器のための注射器本体であって、円筒状の中空室を有しており、中空室は、円錐体を有する第1の基底面と、ピストンを挿入するために開いた第2の基底面と、開いた基底面の周囲の領域に配置されたフィンガフランジとを備えており、フィンガフランジは、円錐体に面した側に、注射過程の際の指の滑り落ちを防ぐための滑り止め部材を有している、注射器本体、ならびに薬品または化粧品を投与する方法に関する。本開示の枠内では全体的に略して流体とも言う、液体または流体の薬品または化粧品-いわゆる注射可能物質-を投与(注射)するために用いられる医療器具を、注射器と呼ぶ。注射器には通常、円筒状の中空室を備えた注射器本体と、注射器本体の内部を移動するピストンとが含まれる。この場合、円筒の一方の基底面には通常、場合によりねじ山をも備えた円錐体が配置されており、円錐体にはカニューレまたはホースが接続される。円筒の反対側、すなわち他方の基底面において円筒は開いており、こちら側にピストンが挿入され、ピストンでもって注射器を引き上げることもできる、すなわち、ピストンを引き出すことにより、流体の薬品または化粧品を、円錐体を介して吸い込むこともでき、薬品または化粧品を投与することもできる。
【0002】
択一的に、注射器には既に製造者側において、薬品または化粧品が特に無菌状態で既に充填されていることがあるため、投与前に薬品または化粧品を吸い上げる必要はない。
【0003】
さらに、本発明において開示する注射器本体およびこの注射器本体を含む注射器は、獣医学の分野でも、ヒトの医学の分野でも使用可能である。円筒状の中空体から流体の薬品または化粧品を投与するためにはピストンが押し込まれ、これにより内容物が円錐体を通って押し込まれる。この過程を片手で実施することができるようにするために、一般に開いた基底面の周囲の領域、すなわちピストンが挿入されている開口の周りには、フィンガフランジが配置されている。フィンガフランジは、ピストンに対する圧力に抗して注射器本体を支持するための把持手段である。一般に、注射器本体はフィンガフランジのところで人差し指と中指とにより支持され、親指により、ピストンが注射器本体内へ押圧される。
【0004】
この場合、注射過程に際する指の滑り落ちを防ぐために、特に約20ml以上の比較的大型の注射器の場合には、指の支持面、すなわちフィンガフランジの、円錐体に面した側に、滑り止め部材が配置されていることが多い。多くの場合、このためには、間隔をあけて接線方向に方向付けられた、隆起した複数の横材が設けられている。
【背景技術】
【0005】
刊行物である米国特許第4994012号明細書には、放射線遮蔽用のタングステンを有する、相応する注射器本体、ならびにこの注射器本体を有する注射器が記載されている。
【0006】
米国特許第6004299号明細書に開示された、ガラス製の注射器本体を備えた注射器は、側方指支持面を画定しており、側方指支持面は、縦リブを形成すると考えられる。
【0007】
米国特許第20120041388号明細書に記載の、注射器本体用の把持装置は、片手の親指を除いたほぼすべての指により包囲され得る。しかしながら、注射器本体が嵌め込まれている、前記原理による把持装置の大きさに基づき、各注射器本体をあまり良好に操作することはできない。それというのも、注射器を操作する各指の比較的繊細な動きは最早供与されず、手全体の動きのみが供与されるに過ぎないからである。さらに、後で注射器を使用することができるようにするために、把持装置をまず注射器本体に取り付けることが面倒であると考えられる。
【0008】
また、刊行物である米国特許第20130178737号明細書に記載された、注射器本体用の把持装置の場合も、後で注射器を使用することができるようにするために、把持装置をまず注射器本体に取り付けることは面倒であると考えられる。
【0009】
例えば縦リブを有する構造は、注射器本体の支持問題につながる恐れがある、ということが判った。すなわち、上述した原理で成形された注射器本体が、フランジ面でもって平らな基台に立てられると、注射器本体は傾く傾向にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって本発明の課題は、特に安定して支持され得る、冒頭で述べた形式の注射器本体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、この課題は、滑り止め部材が、0.8μm~150μmの算術平均粗さ値を有する表面として形成されていることにより、解決される。
【0012】
この場合、本発明は、フランジ面でもって立てたときの注射器本体の傾きを回避することにより、特に安定した支持が達成可能であろう、という考察を起点とする。この場合、傾きは、明らかにフランジの成形時に生じる、不規則な表面に起因し得るということに気がついた。特に、陥没の形式の凹所が生じ、凹所の広がりは、冒頭で述べた横材に相応する、ということに気がついた。つまり、把持性を高めるための隆起した構造は、反対側に凹所ひいては不規則な表面をもたらす。これらの凹所は横材の形状に基づき生じる局所的な材料集積により生ぜしめられる、という別の認識に基づき、このような材料集積は回避されることが望ましい。それにもかかわらず把持性および滑り抵抗を保つためには、局所的な材料集積を招かない、滑り止め部材の択一的な構成を設けることが望ましい。
【0013】
このためには、局所的な材料集積を回避する、均一に粗面化された表面を用いることが望ましい。ただし、把持性を保証するためには、表面の相応に高い粗さが保証されていることが望ましい。
【0014】
試験では、所望の滑り落ち安全性を保証するためには、0.8μm超の平均粗さ値が適当である、ということが判った。
【0015】
この場合、好適には、滑り止め部材は、5μm~100μm、さらに好適には10μm~50μmの算術平均粗さ値を有する表面として形成されている。
【0016】
有利な構成では、フィンガフランジは、開いた基底面と共に1つの平面を形成している、すなわち注射器のピストンを挿入するための開口は、平らなフィンガフランジ内に位置している。上述したように、まさにこのような注射器本体において、フランジの平面でもって立てたときに傾いてしまうという問題が生じているため、上述した滑り止め部材の構成は、特別な利点をもたらす。
【0017】
さらにフランジは、有利には円筒状の中空室の軸線を含む面に対して、鏡像対称に形成されている。つまりこのようなフランジは、ピストン用の開口の両側に、2つの対称な延在部を有しており、これにより、人差し指と中指とに適した支持面が供与されている。これに相応して、両支持面に、滑り止め部材が設けられている。
【0018】
別の有利な構成では、フィンガフランジの、円錐体とは反対の側に、文字表記面が配置されている。このような構成では、滑り止め部材の上述した構成が追加的な利点をもたらす。すなわち、通常、注射器本体は、透明な材料から製造されている。これにより、文字表記面の背面側の滑り止め部材が透けて見える。この場合、冒頭で述べた横材は、屈折作用および反射作用に基づき、文字の可読性を低下させる。これに対して-上述したような-粗い表面は、文字の可読性を大幅に改良する。
【0019】
さらに大幅に有利な構成では、滑り止め部材は、フィンガフランジの面積の60%超、好適には80%超をカバーしている。これにより、十分な~特に良好な滑り落ち安全性が保証されることになる。
【0020】
さらに表面は、有利には規則的な幾何学的な構造、すなわち反復パターンを有しているか、または不規則な統計的な構造、すなわち凹凸箇所の偶然的な分布を有している。
【0021】
さらに、滑り止め部材は、有利には円筒状の中空室の周壁から隔てられている。換言すると、滑り止め部材の粗い表面は、注射器本体の円筒部分まで延在しているのではなく、その直前(例えば1mmよりも前)で終わり、次いで円筒部分まで延在しかつこれに接続している平滑な表面に移行する。これにより、成形過程において巣が平滑な表面と接触することになり、粒子形成が回避される。
【0022】
有利には、注射器本体、すなわち中空室を取り囲む壁と、円錐体と、フィンガフランジとは一体に形成されている、すなわち例えば射出成形法で直接に製造されている。まさに、このように射出成形法で製造された注射器本体の場合には、冒頭で述べた凹所の問題が特に露見することになる。これに対してガラス射出の場合には、壁に被せ嵌められる、被せ嵌め可能な別個のフィンガフランジを用いることが有利であり得る。それというのも、非円筒対称のフィンガフランジをガラスから製造することは困難だからである。
【0023】
有利な構成では、注射器本体はプラスチック、特にシクロオレフィンポリマまたはシクロオレフィンコポリマから成っている。特にこのような注射器本体は、有利には一体に形成されている。
【0024】
製薬用注射器は、有利には前記注射器本体と、円筒状の中空室内に配置された可動のピストンとを有している。
【0025】
本発明により得られる利点は特に、注射器のフィンガフランジにおける滑り止め部材として0.8μm超の算術平均粗さ値を有する粗い表面を用いることにより、一方では特に良好な把持性が達成され、他方では、反対側においてフランジの特に平滑な表面が達成される、という点にあり、これにより、支持された場合の傾きが回避される。さらに、このような表面は、場合により存在する文字の可読性をも改良する。
【0026】
実験室医療または臨床の日常業務ではしばしば、相応する薬品を調合して投与する場合、特に注射する場合には、各ユーザおよび患者に対して高い汚染リスクを有する物質が使用される。これは例えば、投与しようとする薬品の、電離放射線を放出するかまたは生物学的に活性の物質であってよく、これらの物質は特に、例えば注射器本体が適切に取り扱われない場合には、医療従事者に対しても高い損傷リスクを有しており、このことは例えば、注射器本体の取り扱い中に注射器本体が正確に位置決めされないか、または例えば高粘度の流体を投与する際に注射器本体が高められた力の消費を必要とする場合に生じ得る。
【0027】
注射器を取り扱う際の前記の各場合において注射器本体が滑り落ちると、前記のような物質が流出し、患者と医療従事者の両方に不都合にも接触する恐れがある。
【0028】
また、例えば筋肉内デポ剤送出に際して、導管、例えば血液またはリンパを案内する導管に送出しようとする物質が供給されるときにあまり正しく位置決めされていない注射も、各患者に対して有害となる恐れがある。この状況は通常、例えば上述した取り扱い中に保護手袋が着用されると、さらに困難になる。
【0029】
ここで、本発明により開示された注射器およびその注射器本体が、特に役に立つということが判った。それというのも、本発明により開示された、0.8μm~150μmの算術平均粗さ値を有するように形成された表面を備えた滑り止め部材により、前記取り扱いが大幅に改良されるからである。
【0030】
一方では、滑り落ちの確率が大幅に低下させられ、かつ他方では、例えば実施しようとする注射の位置決めの際の、より正確な取り扱いが、大幅に改良される。
【0031】
これらの利点は特に、
-口腔外科における医薬品の注入または投与、特に患者の口腔内への麻酔薬の注射および/または
-特に患者の眼瞼反射を抑制するためまたは瞳孔を広げるための、眼科における医薬品の注入または投与および/または
-特に流体動力学的なプロセスを追跡するためのマーカー物質を投与するための、腎臓病学における医薬品の注入または投与および/または
-好適には腫瘍治療用の放射性同位元素を投与するための、核医学における医薬品の注入または投与および/または
-例えばヒアルロン酸またはボトックスを基礎とした薬品等の美容薬品の注入または投与
を含む医療法または美容法において、本発明により開示された注射器とその注射器本体とを使用した場合に現れる。
【0032】
前記利点は、例えば保護手袋、特にDIN EN 455「1回限り使用するための医療用手袋」に相当する、1回限りの使用のための保護手袋を用いて投与される流体が注入または投与される場合に、より顕著に表れる。
【0033】
この場合、注入または投与され得る流体には、
-遺伝子工学的に変化された物質を含む患者個別の薬品が含まれ
かつ/または
-生物学的または微生物学的に製造または増殖させられた薬品が含まれかつ/または
-患者個別の腫瘍固有のマーカー物質が含まれる。
【0034】
注射器とその注射器本体の1つの別の有利な使用は、保護手袋、特に電離放射線および放射能汚染に対する保護手袋、特にDIN EN 421に相当する保護手袋を用いて投与される流体を注入または投与する方法に存在する。
【0035】
この場合は例えば、電離放射線を発生させる流体が、安全性を大幅に高められて注入または投与され得、前記流体には特に、放射性の患者個別の腫瘍マーカー物質および/または放射性の患者個別の遺伝子配列を有する薬品が含まれる。
【0036】
商業的側面は、目標とする改良の前面には押し出されていないが、完全を期すために指摘しておくと、上述した薬品、特に患者個別の薬品は、その製造に極めて莫大な費用がかかる可能性があり、このことは特に、正しく行われなかった投与が少なくとも部分的な損失を招いた場合に露見することになる。このようなケースの頻度も、本発明により開示された方法により減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明の実施例を図面に基づき、より詳しく説明する。
図1】製薬用注射器を示す概略図である。
図2】注射器のフィンガフランジに設けられた滑り止め部材を示す立体図である。
図3】様々な粗い表面を備える改良された滑り止め部材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
すべての図面において、同一部材には同一符号が付されている。
【0039】
図1には、ピストン2を備えた注射器本体1が概略的に示されており、ピストン2と注射器本体1とは共に、製薬用の注射器4を形成する。注射器本体1は、透明なプラスチック、実施例ではシクロオレフィンポリマまたはシクロオレフィンコポリマから製造されており、円筒状の壁を備えた中空室6を有している。円筒状の壁は、第1の基底面8において実質的に閉鎖されているが、ただしそこでは円錐体10を通して、中空室6内の液体を押し出すことができるようになっている。このことは、ピストン2を押し込むことにより行われ、中空室6の壁に整合するように当接する円形のピストン底部12が、液体を加圧する。
【0040】
中空室6内にピストン2を挿入するために、中空室6の円筒の第2の基底面は開いている。ピストン2を押し込むために、ピストン2は、ピストン底部12とは反対の側に、典型的にはユーザの親指により操作される押圧面14を有している。支持用に、中空室6の円形の開口の周囲には、カラー状のフィンガフランジ16が一体成形されている。フィンガフランジ16は、開口の周りに平らな面を形成しており、この面の法線が、円筒状の中空室6の軸線である。
【0041】
本実施例では、中空室6の壁と、円錐体10と、フィンガフランジ16と、が一体に形成されている。このことは、本実施例では注射器本体1がプラスチックから製造されているため、例えば注射器本体1を射出成形法で製造したことにより実現されていてよい。ただし1つの択一的な構成では、壁および円錐体10は、ガラスから製造されていてもよい。この場合、フィンガフランジ16は、被せ嵌め可能な別個の構成部材として形成されている。
【0042】
次に、フィンガフランジ16の形態を、より詳しく説明する。図2には、注射器本体1の、従来技術に基づくフィンガフランジ16の領域を部分的に切り取った立体図が示されている。フィンガフランジ16は、円筒状の中空室6の軸線を通る1つの平面に対して鏡像対称に形成されており、対称な面にそれぞれ台形の外側輪郭を有しており、この場合、台形の長い方の基底面は、円筒の外径を僅かに上回っているだけに過ぎない。
【0043】
これにより、上述したように親指がピストン2を押し下げる間、一方はユーザの人差し指により把持され、他方は中指により把持され得る、フィンガフランジ16の2つの羽根が形成されることになる。この場合、人差し指と中指とからの滑り落ちを回避するために、フィンガフランジ16の各羽根には、円錐体10に面した側に、複数の滑り止め部材18が配置されている。これらの滑り止め部材18は、図2に示す従来技術では、大幅に隆起した各3つの横材として形成されており、これらの横材は、羽根の台形の基底面に対して平行に延在している。
【0044】
この場合、注射器本体1が、図1に示した位置、つまり注射器本体1がフィンガフランジ16に載置された位置では安定せず、傾いてしまう、という問題が生じる。原因は、フィンガフランジの、横材とは反対の側における陥没にある。さらに横材が、フィンガフランジ16の反対側に配置された文字の読取りを妨げている。
【0045】
この問題を解決するために、図3に示すような滑り止め部材18が形成され、図2との違いについてのみ説明する。図3には、図の左半分にフィンガフランジ16を上から見たところが示されている。滑り止め部材18の横材はなくなっている。
【0046】
その代わりに、フィンガフランジ16の80%超の、平行線を引いた領域において、表面が粗面化されて形成されている。この場合、好適な実施例では、10~50μmの算術平均粗さ値が想定されている。この測定値を求めるためには、表面の所定の測定区間を走査し、粗い表面のすべての高低差を記録する。測定区間におけるこの粗さの特性線の定積分を算出してから、最終的にこの結果を測定区間の長さで除算することにより、算術平均粗さ値が得られる。
【0047】
粗面化された表面は、成形型を相応に形成することにより生じる。図3の右半分には、例えば表面の無秩序で統計的な粗面化(左)または規則的な幾何学パターン(右)による、滑り止め部材の粗い表面の形成の例示的な可能性が示されている。さらに、図3では左半分の図面において、前記のように形成された滑り止め部材18の平行線を引いた面は、中空室6の外径には達しておらず、滑り止め部材18と中空室6の周壁との間には、平滑な移行領域が残されている、ということが認められる。
【符号の説明】
【0048】
1 注射器本体
2 ピストン
4 注射器
6 中空室
8 基底面
10 円錐体
12 ピストン底部
14 押圧面
16 フィンガフランジ
18 滑り止め部材
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-05-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製薬用の注射器(4)のための注射器本体(1)であって、
前記注射器本体(1)は、円筒状の中空室(6)を有しており、前記中空室(6)は、円錐体(10)を有する第1の基底面(8)と、ピストン(2)を挿入するために開いた第2の基底面と、前記開いた基底面の周囲の領域に配置されたフィンガフランジ(16)と、を備えており、
前記フィンガフランジ(16)は、前記円錐体(10)に面した側に、注射過程の際の指の滑り落ちを防ぐための滑り止め部材(18)を有しており、
前記滑り止め部材(18)は、0.8μm~150μmの算術平均粗さ値を有する表面として形成されている、
注射器本体(1)。
【外国語明細書】