(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098108
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】タウリン補足細胞培養培地およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240711BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240711BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C12N5/10
C12P21/02 C
C12P21/08
【審査請求】有
【請求項の数】32
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084163
(22)【出願日】2024-05-23
(62)【分割の表示】P 2022135752の分割
【原出願日】2016-08-03
(31)【優先権主張番号】62/200,689
(32)【優先日】2015-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】エイミー エス. ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】メーガン イー. ケイシー
(72)【発明者】
【氏名】シャディア オショディ
(72)【発明者】
【氏名】ショーン ローレンス
(57)【要約】
【課題】タウリン補足細胞培養培地およびその使用の提供。
【解決手段】本明細書は、目的のタンパク質の産生のために使用することができる改良された真核細胞の培養培地を含む組成物を記載する。タウリンを無血清培地または化学的に規定された培地に添加して、目的のタンパク質の産生を増大させることができる。本培地組成物を使用して高レベルでタンパク質を組換え発現する方法を含む。タウリンを含む種々の供給ストラテジーにより、産生されるタンパク質の力価が増大する。さらに、タウリンを添加しても培養成績や得られる抗体の品質に悪影響を及ぼさない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュピルマブの改良された生成のために組換え真核細胞を培養する方法であって、
(a)増殖期の間に、規定された細胞培養培地中で組換え真核細胞を増殖する工程であって、前記細胞培養培地が、グルタミンを有しない工程と、
(b)0.1mM~10mMのL-タウリンと、
0mM~11.2mMのアラニン、2.4mM~11.9mMのアルギニン、1.3mM~33.3mMのアスパラギン、1.5mM~93.9mMのアスパラギン酸、1.1mM~19.9mMのシステイン、1.4mM~47.6mMのグルタミン酸、0mM~16.7mMのグリシン、1mM~9.5mMのヒスチジン、1.5mM~22.9mMのイソロイシン、1.5mM~38.1mMのロイシン、2.7mM~24.6mMのリジン、1.3mM~13.4mMのメチオニン、1.2mM~18.2mMのフェニルアラニン、1.7mM~26.1mMのプロリン、1.9mM~57.1mMのセリン、1.7mM~33.6mMのトレオニン、0.5mM~14.7mMのトリプトファン、0.9mM~22.2mMのチロシン、及び1.7mM~34.1mMのバリンのうちの1つ又はそれより多くとで
前記規定された細胞培養培地を補足する工程と、
(c)産生期においてデュピルマブを発現させる工程と
を含み、
前記L-タウリンの添加は、0.1mM未満のL-タウリンを含有する細胞培養培地におけるデュピルマブを発現させる細胞と比較して、デュピルマブの力価を少なくとも3%増加させる、方法。
【請求項2】
前記細胞培養培地が、血清を有しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミン酸もしくはアミノ酸塩の総量が、少なくとも20mM~少なくとも115mMである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アミン酸もしくはアミノ酸塩の総量が、20mM~115mMである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
≦16g/Lの加水分解物で、前記細胞培養培地を補足する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
脂肪酸で、前記細胞培養培地を補足する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジン、及びヒポキサンチンのうちの1つ又はそれより多くを含むヌクレオシドで、前記細胞培養培地を補足する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
カルシウム塩、マグネシウム塩及びリン酸塩で、前記細胞培養培地を補足する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記タウリンの補足が、前記産生期において少なくとも3回追加的にさらに提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記タウリンの補足が、前記産生期の間に毎日提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記規定された細胞培養培地が、0.09mM~0.9mMのオルニチンで補足される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記真核細胞が、CHO細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞は、増殖期において35℃~38℃である第1の温度に維持され、産生期において29℃~37℃である第2の温度に維持されており、前記第1の温度が、前記第2の温度より高い、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
デュピルマブの改良された生成のために組換え真核細胞を培養する方法であって、
(a)増殖期の間に、規定された細胞培養培地中で細胞を増殖する工程と、
(b)産生期の間に、0.1mM~10mMのL-タウリンで、前記規定された細胞培養培地を補足し、前記デュピルマブを発現させる工程と、
を含み、
前記L-タウリンの添加は、0.1mM未満のL-タウリンを含有する細胞培養培地におけるデュピルマブを発現させる細胞と比較して、デュピルマブの力価を少なくとも7%増加させ、前記増殖期の間における前記細胞の増殖が、35℃~38℃の温度で行なわれ、前記産生期の間におけるデュピルマブの発現が、29℃~37℃の温度で行なわれ、前記増殖期の温度が、前記産生期の温度より高い、方法。
【請求項15】
前記L-タウリンが、前記産生期の間において、1~5倍補足される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記L-タウリンが、前記産生期の間において毎日補足される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記増殖期において、0.1mM~10mMのL-タウリンで、前記規定された細胞培養培地を補足する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記規定された細胞培養培地が、0.09mM~0.9mMのオルニチンで補足される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記真核細胞が、CHO細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
デュピルマブを産生する方法であって、
(a)0.1mM~10mMのL-タウリンを含む細胞培養培地において、デュピルマブを発現する細胞を培養する工程であって、前記L-タウリンの添加は、0.1mM未満のL-タウリンを含有する細胞培養培地においてデュピルマブを発現する細胞と比較して、デュピルマブの力価を少なくとも3%~7%増加させる、工程と、
(b)前記細胞においてデュピルマブを産生する工程であって、デュピルマブが、前記培地において分泌される、工程と
を含み、
前記細胞が、増殖期において35℃~38℃の温度で、産生期において29℃~37℃の温度で培養され、前記増殖期の温度が、前記産生期の温度より高い、方法。
【請求項21】
前記細胞は、0.1mM未満のL-タウリンを含有する細胞培養培地におけるデュピルマブを発現させる細胞と比較して、デュピルマブの力価を7%もしくはそれより多く増加させることができる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞が、CHO細胞である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
0.09mM~0.9mMのオルニチンで前記細胞培養培地を補足することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
デュピルマブを産生する方法であって、
少なくとも0.1mMのL-タウリンを含む細胞培養培地において組換え細胞株を培養する工程であって、前記組換え細胞株が、デュピルマブをコードする安定に組み込まれた核酸を含む、工程と、
前記細胞から、デュピルマブを産生する工程と
を含み、
前記細胞培養培地へのL-タウリンの添加は、0.1mM未満のL-タウリンを含む細胞培養培地において、前記組換え細胞株を培養することと比較して、デュピルマブの力価を少なくとも3%~7%増加させ、
前記組換え細胞株が、増殖期において35℃~38℃の温度で、産生期において29℃~37℃で培養され、前記増殖期の温度が、前記産生期の温度より高い、方法。
【請求項25】
前記産生方法は、0.1mM未満のL-タウリンを含有する細胞培養培地における類似の産生方法と比較して、デュピルマブの力価を、少なくとも0.1g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.2g/L、少なくとも1.4g/L、少なくとも1.6g/L、少なくとも1.8g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.2g/L、少なくとも2.4g/L、または少なくとも2.5g/L増加させることができる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記産生方法は、0.1mM未満のL-タウリンを含有する細胞培養培地における類似の産生方法と比較して、デュピルマブの力価を、7%もしくはそれより多く増加させることができる、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記組換え細胞株は、少なくとも6日間にわたりL-タウリン補足細胞培養培地において培養され、かつ、L-タウリンを有しない細胞培養培地において少なくとも6日間にわたり培養されたデュピルマブを発現させる組換え細胞株と比較して、より高い力価のデュピルマブを発現させる、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
0.09mM~0.9mMのオルニチンで、前記細胞培養培地を補足することをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
タウリン補足細胞培養培地においてデュピルマブを産生する方法であって、
(a)細胞培養培地において、デュピルマブを発現するCHO細胞を培養する工程と、
(b)0.1mM~10mMの量のL-タウリンで前記細胞培養培地を補足して、L-タウリン補足細胞培養培地を産生する工程と、
(c)少なくとも6日間にわたり、工程(b)のタウリン補足細胞培養培地においてデュピルマブを発現するCHO細胞を培養する工程であって、前記デュピルマブが前記培地に分泌され、前記L-タウリンの添加は、0.1mM未満のL-タウリンを含有する細胞培養培地においてデュピルマブを発現するCHO細胞と比較して、デュピルマブの力価を少なくとも3%~7%増加させる、工程と、
(d)デュピルマブを回収する工程と
を含み、
前記CHO細胞が、増殖期において35℃~38℃の温度で、産生期において29℃~37℃の温度で培養され、前記増殖期の温度が、前記産生期の温度より高い、方法。
【請求項30】
前記工程(a)のL-タウリン補足細胞培養培地において少なくとも6日間培養されたデュピルマブを発現する細胞に由来するデュピルマブの力価は、L-タウリンを有しない細胞培養培地において少なくとも6日間培養された細胞に由来するデュピルマブの力価よりも、少なくとも8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、もしくは少なくとも20%高い、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記産生方法は、0.1mM未満のL-タウリンを含有する細胞培養培地における類似の産生方法と比較して、デュピルマブの力価を、少なくとも0.1g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.2g/L、少なくとも1.4g/L、少なくとも1.6g/L、少なくとも1.8g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.2g/L、少なくとも2.4g/L、または少なくとも2.5g/L増加させることができる、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記タウリン補足細胞培養培地が、0.09mM~0.9mMのオルニチンでさらに補足される、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(分野)
本発明は、細胞培養のためおよび組換えタンパク質産生のための培地および方法に関する。本発明は、具体的には、タンパク質生物治療薬を産生するための組換え真核細胞の培養のためのタウリン補足培地およびその培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
しばしばβ-アミノ酸と呼ばれる有機酸タウリンは、ほとんどの組織内に高濃度で見出され、アミノ酸システインの誘導体である(Huxtable,RJ.,1992,Physiol Rev,72:101-163)。
【0003】
【0004】
タウリンは、ヒトおよび他の哺乳動物種の多数の組織(例えば、脳、網膜、心筋、骨格筋および平滑筋、血小板、および好中球)中に存在する。タウリンは、浸透圧調節、膜安定化、および抗炎症を補助することが認められており、また、電子輸送鎖活性の増強によってミトコンドリアタンパク質合成を制御してスーパーオキシド生成に対して保護する(Jongら,2010,Journal of Biomedical Science
17(Suppl 1):S25;Jongら,2012,Amino Acids 42:2223-2232sw)。初代神経細胞培養では、タウリンは、そのグルタミン酸塩誘導性毒性の抑制効果に起因して、細胞保護剤として特徴付けられている。胚培養用の種々のタウリン含有培地が開発されている。
【0005】
アミノ酸フィードを含む細胞培養技術は、培養細胞からの組換えタンパク質産生において長く利用されている。アミノ酸は、生合成前駆体、エネルギー源、およびオスモライトなどであり、産生培養においてアミノ酸を使用することは継続的な細胞成長および生産性と強く相関する。
【0006】
しかし、生産性および高収量のタンパク質発現に寄与する生理学的事象は無数にあり、代謝活動および輸送機構が競合するので供給ストラテジーのデザインが困難である。アミノ酸補足のタイプおよび添加のタイミングも培養によって産生されるタンパク質の品質に影響を及ぼし得る(Altamirano,ら,2006,Electron.J.Biotechnol.9:61-67)。副生成物の蓄積は、しばしば、産生細胞培養において問題となり、この蓄積は細胞培養において栄養素が不均衡になることの結果と考えられ、最終的には細胞成長を阻害する(Fan,Y.ら、Biotechnol Bioeng.2015 Mar;112(3):521-35)。ヒポタウリンまたはそのアナログもしくは前駆体は、細胞培養において組換え産生されたポリペプチドを含む組成物の色の強さを低下させるという望ましい結果を達成することが示唆されている(WO2014145098A1号、2014年9月18日公開)。未成熟網膜色素上皮細胞の成熟網膜色素上皮細胞への成熟を促進するタウリンを含む細胞培養培地も記載されている(WO2013184809A1号、2013年12月12日公開)。しかし、タウリン補足培地において組換えタンパク質の生産性が至適化されることは当該分野で認識されていない。アンモニアなどの潜在的に有毒な細胞代謝副生成物の産生を最小にしながら組換え産生タンパク質の生産性を増大させる細胞培養プロセスが非常に望ましい。生産性が一貫して増大すると、商業規模で生物治療製剤を有意により多く供給することができる。
したがって、哺乳動物細胞を培養するための培地および培養方法が当該分野で必要であり、ここで、培地は、健康且つ頑強な細胞の成長および維持、ならびに高力価の生物医薬品薬物物質の生産が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/145098号
【特許文献2】国際公開第2013/184809号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Altamirano,ら,2006,Electron.J.Biotechnol.9:61-67
【非特許文献2】Fan,Y.ら、Biotechnol Bioeng.2015 Mar;112(3):521-35)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(要旨)
本発明者らは、細胞培養培地中にタウリンを含めると細胞特異的生産性が増大し、且つそれらの細胞によるアンモニア副生成物の産生が低下するという驚くべき発見をした。タウリンを含む種々の供給ストラテジーにより、産生されるタンパク質の力価が増大する。さらに、タウリンを添加しても培養成績や得られる抗体の品質に悪影響を及ぼさない。
本発明は、高収量で治療タンパク質を産生する方法であって、タウリンを含む培地中で組換え細胞株を培養する工程を含み、前述の細胞株が治療タンパク質をコードする安定に組み込まれた核酸を含む、方法を提供する。
【0010】
本発明は、無血清であり、約0.1mM~約10mMのタウリンを含む細胞培養培地に関する。本発明は、無血清であり、約0.1mM~約1mMのタウリン、約0.2~約1mMのタウリン、約0.3~約1mMのタウリン、約0.4~約1mMタウリン、または約0.5~約1mMのタウリンを含む細胞培養培地に関する。本発明は、無血清であり、約1mM~約10mMのタウリンを含む細胞培養培地に関する。本発明は、無血清であり、約1mM~約5mMのタウリン、約1mM~約6mMのタウリン、約1mM~約7mMのタウリン、約1mM~約8mMのタウリン、または約1mM~約9mMのタウリンを含む細胞培養培地に関する。
【0011】
一部の実施形態では、培地は、アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、グリシン、プロリン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンからなる群から選択される追加のアミノ酸をさらに含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、培地は16g/L以下の加水分解物を含む。いくつかの実施形態では、培地はいかなる加水分解物も含まない。
【0013】
1つの実施形態では、培地は、化学的に規定された(カスタム処方など)基本培地または市販の基本培地など)を含む。1つの実施形態では、完全培地は、化学的に規定され、血清や加水分解物を含まない。
【0014】
いくつかの実施形態では、基本培地およびフィードを含む全てのプロセスは、総量が少なくとも115mMのアミノ酸またはアミノ酸塩の混合物を含む。一実施形態では、アミノ酸の混合物は、アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、グリシン、プロリン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸を表1から選択される量で含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、培地は、1つまたは複数の脂肪酸を含む。1つの特定の実施形態では、培地は、脂肪酸(または脂肪酸誘導体)とαトコフェロールとの混合物を含む。脂肪酸または脂肪酸誘導体は、リノール酸、リノレン酸、チオクト酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ラウリン酸、ベヘン酸、デカン酸、ドデカン酸、ヘキサン酸、リグノセリン酸、ミリスチン酸、およびオクタン酸からなる群から選択される。
【0016】
いくつかの実施形態では、培地は、ヌクレオシドの混合物を含む。1つの実施形態では、培地は、アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジン、およびヒポキサンチンを含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、培地は、塩の混合物を含む。塩には、2価のカチオン(カルシウムおよびマグネシウムなど)が含まれる。1つの実施形態では、培地は、塩化カルシウムおよび硫酸マグネシウムを含む。他の塩には、リン酸塩が含まれ得る。
【0018】
1つの実施形態では、培地は、(1)0.1±0.015mM、1±0.015mM、3±0.05mM、5±0.10mM、7±0.15mM、または10±0.2mMのタウリンを含み、(2)16g/L以下の加水分解物を含み、(3)無血清であり、(4)任意選択的にアミノ酸の混合物をさらに含み、(5)脂肪酸の混合物を含み、(6)ヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジン、およびヒポキサンチンが含まれる)の混合物を含み、(7)カルシウム塩、マグネシウム塩、およびリン酸塩を含む。
【0019】
本発明は、目的のタンパク質を高収量で産生する方法であって、少なくとも約0.1mM~約10mMのタウリンを含む細胞培養培地中で組換え細胞株を培養する工程を含み、細胞株がタンパク質をコードする安定に組み込まれた核酸を含む、方法を提供する。他の実施形態では、培地は、前述の本発明の態様のいずれかを具体化している。
【0020】
別の態様では、本発明は、改良された組換えタンパク質を産生するための真核細胞を培養する方法であって、(a)細胞を増殖期の間に特定細胞培養培地中で増殖または維持する工程、(b)基本細胞培養培地に約0.1mM~約10mMのL-タウリンを補足する工程であって、産生期の間に目的の組換えタンパク質を発現させる工程、および(c)タウリンの添加によって目的のタンパク質の力価を増加させる工程を含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、タウリンの補足を、産生期の間に少なくとも1回、産生期の間に2回、3回、4回、もしくは5回、または産生期の持続時間に毎日行う。他の実施形態では、本方法は、増殖期の間に、培養培地に約0.1mM~約10mMのL-タウリンを補足する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、本方法により、タウリン補足を欠くか、0.1mM未満のタウリンを補足し、そうでなければ同一の条件下の真核細胞と比較して、組換えタンパク質産生が改善される。
【0021】
別の態様では、本発明は、細胞培養培地(前述の態様に記載の培地の任意の実施形態など)中での細胞の培養方法を提供する。1つの実施形態では、本方法は、(1)少なくとも0.1mM±0.015mMの濃度のタウリンを含み、(2)16g/L以下の加水分解物を含むか、加水分解物を含まず、(3)無血清であり、(4)任意選択的に、表1から選択されるアミノ酸の混合物からなる群から選択されるアミノ酸を含む培地中で細胞を増殖または維持する工程を使用する。
【0022】
1つの実施形態では、任意選択的なアミノ酸補足物の混合物は、以下の表1中のアミノ酸からなる群から選択される:
【表1】
【0023】
いくつかの実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞、トリ細胞、昆虫細胞、酵母細胞、または細菌細胞である。1つの実施形態では、細胞は、組換えタンパク質産生で有用な哺乳動物細胞(CHO細胞または誘導CHO-K1など)である。いくつかの実施形態では、細胞は、目的のタンパク質(生物治療タンパク質など)を発現する。生物治療タンパク質は、抗原結合タンパク質であってよく、この抗原結合タンパク質はFcドメインを含み得る。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、Fc-融合タンパク質(ScFv分子など)またはtrap分子である。trap分子には、VEGFtrapおよびIL-1Trapタンパク質が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、抗体(ヒトモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、二重特異性抗体、または抗体フラグメントなど)である。
【0024】
種々の形態の無血清培地にタウリンを含めることによってタンパク質産生に正の影響が及ぼされることを考慮すると、本方法に従って培養した細胞は、平均タンパク質力価が増大する。1つの実施形態では、タウリンを補足しなかった培地のタンパク質力価と比較した場合、本方法のタウリン補足培地で成長させた細胞は、比較対照培養(すなわち、タウリンを補足していない培養)のタンパク質力価より少なくとも8%高いタンパク質力価を有するタンパク質を産生する。一実施形態では、タウリン補足培養で成長させた細胞は、タウリンを補足しなかった培地のタンパク質力価と比較した場合、比較対照培養の力価より、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも26%、少なくとも27%、少なくとも28%、または少なくとも29%高いタンパク質力価をもたらす。
【0025】
同様に、無血清培地中にタウリンのみを含めることによって、培養細胞は、タウリンを含めない培養細胞よりもアンモニア副生成物を減少させることが可能である。1つのタウリン補足培地の無血清且つ加水分解物のない実施形態では、細胞培養により、補足をしない(すなわち、0.1mM未満のタウリン補足またはタウリン補足なし)類似の細胞培養培地における類似の細胞培養よりも少なくとも4%低く、32%まで低くアンモニア副生成物レベル(mM NH3)を低下させることが可能である。
【0026】
別の実施形態では、本方法は、1つまたは複数のユースポイント(point-of-use)添加物を細胞培養培地に添加する工程を含む。いくつかの実施形態では、ユースポイント添加物は、NaHCO3、グルタミン、インスリン、グルコース、CuSO4、ZnSO4、FeCl3、NiSO4、Na4EDTA、およびクエン酸ナトリウムのうちの任意の1つまたは複数である。1つの実施形態では、本方法は、以下の各ユースポイント化学物質を細胞培養培地に添加する工程を使用する:NaHCO3、グルタミン、インスリン、グルコース、CuSO4、ZnSO4、FeCl3、NiSO4、Na4EDTA、およびクエン酸ナトリウム。いくつかの実施形態では、ユースポイント添加物を、培養開始時に培地に含めることができる。
【0027】
1つの特定の実施形態では、態様は、(1)濃度が少なくとも0.1mMのタウリンから本質的になり;(2)16g/L以下の加水分解物を含み、(3)無血清であり、(4)任意選択的に、総量が少なくとも約20mM、または少なくとも約25mM、または少なくとも約30mM、または少なくとも約40mM、または少なくとも約50mM、または少なくとも約60mM、または少なくとも約70mMのアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンからなる群から選択されるアミノ酸の混合物をさらに含む、無血清培地中で細胞を培養する方法を提供する。
【0028】
別の態様では、本発明は、(1)目的のタンパク質をコードする核酸配列を細胞に導入する工程;(2)目的のタンパク質を発現する細胞を選択する工程;(3)任意の前述の態様に記載の無血清細胞培養培地の1つの実施形態において、または本明細書中に記載の方法の任意の実施形態に従って、選択された細胞を培養する工程;および(4)細胞中で目的のタンパク質を発現させる工程であって、目的のタンパク質が培地中に分泌される工程を使用することによって目的のタンパク質を産生する方法を提供する。いくつかの実施形態では、タンパク質の産生で使用される細胞は、生物治療薬を産生することが可能な哺乳動物細胞(CHO細胞、293細胞、およびBHK細胞など)またはその任意の誘導体である。1つの実施形態では、細胞は、CHO細胞(CHO-K1細胞など)である。
【0029】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は抗原結合タンパク質である。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、Fcドメインを有するタンパク質である。いくつかの場合、2種の目的のタンパク質が重複していてもよい(例えば、受容体-Fc-融合タンパク質、抗体、およびScFvタンパク質の場合など)。したがって、いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、抗体(ヒト抗体またはヒト化抗体、抗体フラグメント(FabまたはF(ab’)2など)、二重特異性抗体、trap分子(VEGF-TrapまたはIL-1-Trapなど)、ScFv分子、または可溶性TCR-Fc融合タンパク質など)である。
【0030】
1つの実施形態では、目的のタンパク質を、0.1mM未満のタウリンを含むか、タウリンを補足していない無血清細胞培養培地中で類似する細胞によって産生される平均14、15、16、または17日目の力価より少なくとも8%高い平均14、15、16、または17日目の力価で産生することが可能である。1つの実施形態では、目的のタンパク質を、0.1mM未満のタウリンを含むか、タウリンを補足していない無血清細胞培養培地中で類似する細胞によって産生される平均6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、または17日目の力価より少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも26%、少なくとも27%、少なくとも28%、または少なくとも29%高い平均6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、または17日目の力価で産生することが可能である。
【0031】
別の実施形態では、目的のタンパク質を、(1)目的のタンパク質(抗体または他の抗原結合タンパク質など)をコードする核酸配列をCHO細胞に導入すること;(2)目的のタンパク質を安定に発現する細胞を選択すること;(3)約0.1mM~約10mMのタウリンを含む無血清細胞培養培地中で選択した細胞を培養することによって産生する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
改良された組換えタンパク質を産生するための組換え真核細胞を培養する方法であって、(a)細胞を増殖期の間に規定された細胞培養培地中で増殖または維持する工程、(b)前記基本の細胞培養培地に約0.1mM~約10mMのL-タウリンを補足する工程であって、産生期の間に目的の組換えタンパク質を発現させる工程、および(c)タウリンの添加によって前記目的のタンパク質の力価を増加させる工程を含む、方法。
(項目2)
前記(b)のタウリン補足を産生期の間に少なくとも1回行う、項目1に記載の方法。(項目3)
前記(b)のタウリン補足を産生期の間に少なくとも2回行う、項目1に記載の方法。(項目4)
前記(b)のタウリン補足を産生期の間に少なくとも3回行う、項目1に記載の方法。(項目5)
前記(b)のタウリン補足を産生期の間に少なくとも4回行う、項目1に記載の方法。(項目6)
前記(b)のタウリン補足を産生期の間に少なくとも5回行う、項目1に記載の方法。(項目7)
前記(b)のタウリン補足を産生期の持続時間の間に毎日行う、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記規定された細胞培養培地中の培養物に、増殖期の間に約0.1mM~約10mMのL-タウリンを補足する工程をさらに含む、項目1~7のいずれか1項に記載の方法。
(項目9)
前記真核細胞が、哺乳動物細胞、トリ細胞、昆虫細胞、および酵母細胞からなる群から選択される、項目1~8のいずれか1項に記載の方法。
(項目10)
前記細胞が、CHO(例えば、CHO K1、DXB-11CHO、Veggie-CHO)、COS(例えば、COS-7)、網膜細胞、Vero、CV1、腎臓(例えば、HEK293、293EBNA、MSR293、MDCK、HaK、BHK21)、HeLa、HepG2、WI38、MRC5、Colo25、HB8065、HL-60、リンパ球(例えば、Jurkat、Daudi)、A431(表皮性)、CV-1、U937、3T3、L細胞、C127細胞、SP2/0、NS-0、MMT細胞、PER.C6(登録商標)細胞、幹細胞、腫瘍細胞、および前記細胞に由来する細胞株からなる群から選択される、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記細胞がCHO細胞である、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記目的のタンパク質が抗原結合タンパク質である、項目1~11のいずれか1項に記載の方法。
(項目13)
前記目的のタンパク質がFcドメインを含む、項目1~12のいずれか1項に記載の方法。
(項目14)
前記目的のタンパク質が、Fc-融合タンパク質、受容体-Fc-融合タンパク質(TRAP)、抗体、抗体フラグメント、およびScFv-Fc融合タンパク質からなる群から選択される、項目12または13に記載の方法。
(項目15)
前記目的のタンパク質が、抗PD1抗体、抗PDL-1抗体、抗Dll4抗体、抗ANG2抗体、抗AngPtl3抗体、抗PDGFR抗体、抗Erb3抗体、抗PRLR抗体、抗TNF抗体、抗EGFR抗体、抗PCSK9抗体、抗GDF8抗体、抗GCGR抗体、抗VEGF抗体、抗IL1R抗体、抗IL4R抗体、抗IL6R抗体、抗IL1抗体、抗IL2抗体、抗IL3抗体、抗IL4抗体、抗IL5抗体、抗IL6抗体、抗IL7抗体、抗RSV抗体、抗NGF抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗CD19抗体、抗CD28抗体、抗CD48抗体、抗CD3/抗CD20二重特異性抗体、抗CD3/抗MUC16二重特異性抗体、および抗CD3/抗PSMA二重特異性抗体からなる群から選択される、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記目的のタンパク質が、アリロクマブ、サリルマブ、ファシヌマブ、ネスバクマブ、デュピルマブ、トレボグルマブ、エビナクマブ、およびリヌクマブからなる群から選択される、項目14に記載の方法。
(項目17)
目的の組換えタンパク質を産生する方法であって、
(a)目的のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を細胞に導入する工程;(b)前記目的のタンパク質を発現する前記細胞を選択する工程;(c)約0.1mM~約10mMのL-タウリンを含む細胞培養培地中で選択した前記細胞を培養する工程;および(d)前記細胞中で前記目的のタンパク質を産生させる工程であって、前記目的のタンパク質が前記培地中に分泌される工程を含む、方法。
(項目18)
前記目的のタンパク質の力価が、前記培地へのタウリンの添加によって増大した、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記工程(c)の細胞が、前記目的のタンパク質を高収量で産生することが可能である、項目17または18に記載の方法。
(項目20)
前記細胞が、0.1mM未満のL-タウリンを含む細胞培養培地中で前記目的のタンパク質を発現する細胞と比較して少なくとも3%より高いタンパク質収量が可能である、項目17~19のいずれか1項に記載の方法。
(項目21)
前記細胞が、0.1mM未満のL-タウリンを含む細胞培養培地中で前記目的のタンパク質を発現する細胞と比較して少なくとも8%より高いタンパク質収量が可能である、項目17~20のいずれか1項に記載の方法。
(項目22)
前記細胞が、CHO細胞、HEK293細胞、またはBHK細胞である、項目17~21のいずれか1項に記載の方法。
(項目23)
前記目的のタンパク質が抗原結合タンパク質である、項目17~22のいずれか1項に記載の方法。
(項目24)
前記目的のタンパク質がFcドメインを含む、項目17~22のいずれか1項に記載の方法。
(項目25)
前記目的のタンパク質が、Fc-融合タンパク質、受容体-Fc-融合タンパク質(TRAP)、抗体、および抗体フラグメントからなる群から選択される、項目17~24のいずれか1項に記載の方法。
(項目26)
前記目的のタンパク質が、抗PD1抗体、抗PDL-1抗体、抗Dll4抗体、抗ANG2抗体、抗AngPtl3抗体、抗PDGFR抗体、抗Erb3抗体、抗PRLR抗体、抗TNF抗体、抗EGFR抗体、抗PCSK9抗体、抗GDF8抗体、抗GCGR抗体、抗VEGF抗体、抗IL1R抗体、抗IL4R抗体、抗IL6R抗体、抗IL1抗体、抗IL2抗体、抗IL3抗体、抗IL4抗体、抗IL5抗体、抗IL6抗体、抗IL7抗体、抗RSV抗体、抗NGF抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗CD19抗体、抗CD28抗体、抗CD48抗体、抗CD3/抗CD20二重特異性抗体、抗CD3/抗MUC16二重特異性抗体、および抗CD3/抗PSMA二重特異性抗体からなる群から選択される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記目的のタンパク質が、アリロクマブ、サリルマブ、ファシヌマブ、ネスバクマブ、デュピルマブ、トレボグルマブ、エビナクマブ、およびリヌクマブからなる群から選択される、項目25に記載の方法。
(項目28)
タウリン補足培養培地中で目的のタンパク質を産生する方法であって、
(a)目的のタンパク質をコードする配列を含む核酸を細胞に導入する工程;
(b)前記目的のタンパク質を発現する細胞を選択する工程;
(c)細胞培養培地中で選択した前記細胞を培養する工程;
(d)前記細胞培養培地に約0.1mM~約10mMの量でタウリンを補足する工程;
(e)前記細胞培養物を工程(d)のタウリン補足条件下で少なくとも6日間維持する工程であって、非タウリン補足培養で培養した細胞と比較して前記細胞中で目的のタンパク質をより高い力価で発現させ、前記目的のタンパク質が前記培地中に分泌される工程;および
(f)前記目的のタンパク質を回収する工程
を含む、方法。
(項目29)
前記目的のタンパク質の力価が、タウリン補足によって増大した、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記回収したタンパク質のタンパク質力価が、比較対照培養の前記力価より少なくとも8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、または少なくとも20%より高く、前記比較対照培養培地が、工程(d)のタウリン補足条件に供されなかった、項目29に記載の方法。
(項目31)
目的の組換えタンパク質を高収量で産生する方法であって、少なくとも約0.1mMのL-タウリンを含む細胞培養培地中で組換え細胞株を培養する工程を含み、前記細胞株が、組換えタンパク質をコードする安定に組み込まれた核酸を含む、方法。
(項目32)
前記目的の組換えタンパク質の収量が、L-タウリンを含まない細胞培養培地中で培養した細胞株と比較して、前記細胞培養培地中にタウリンを含めることによって増大した、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記目的のタンパク質が抗原結合タンパク質である、項目31または32に記載の方法。
(項目34)
前記目的のタンパク質がFcドメインを含む、項目31~33のいずれかに記載の方法。
(項目35)
前記目的のタンパク質が、Fc-融合タンパク質、受容体-Fc-融合タンパク質(TRAP)、抗体、および抗体フラグメントからなる群から選択される、項目31~34のいずれか1項に記載の方法。
(項目36)
前記目的のタンパク質が、抗PD1抗体、抗PDL-1抗体、抗Dll4抗体、抗ANG2抗体、抗AngPtl3抗体、抗PDGFR抗体、抗Erb3抗体、抗PRLR抗体、抗TNF抗体、抗EGFR抗体、抗PCSK9抗体、抗GDF8抗体、抗GCGR抗体、抗VEGF抗体、抗IL1R抗体、抗IL4R抗体、抗IL6R抗体、抗IL1抗体、抗IL2抗体、抗IL3抗体、抗IL4抗体、抗IL5抗体、抗IL6抗体、抗IL7抗体、抗RSV抗体、抗NGF抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗CD19抗体、抗CD28抗体、抗CD48抗体、抗CD3/抗CD20二重特異性抗体、抗CD3/抗MUC16二重特異性抗体、および抗CD3/抗PSMA二重特異性抗体からなる群から選択される、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記目的のタンパク質が、アリロクマブ、サリルマブ、ファシヌマブ、ネスバクマブ、デュピルマブ、トレボグルマブ、エビナクマブ、およびリヌクマブからなる群から選択される、項目35に記載の方法。
(項目38)
前記産生方法により、0.1mM未満のタウリンを含む細胞培養培地における類似の産生方法と比較して、タンパク質収量を少なくとも0.1g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.2g/L、少なくとも1.4g/L、少なくとも1.6g/L、少なくとも1.8g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.2g/L、少なくとも2.4g/L、または少なくとも2.5g/L増加させることができる、項目31~37のいずれか1項に記載の方法。
(項目39)
前記産生方法により、0.1mM未満のタウリンを含む細胞培養培地における類似の産生方法と比較して、タンパク質収量を少なくとも3%増加させることができる、項目31~38のいずれか1項に記載の方法。
(項目40)
前記産生方法により、0.1mM未満のタウリンを含む細胞培養培地における類似の産生方法と比較して、アンモニア蓄積を少なくとも8%減少させることができる、項目31~39のいずれか1項に記載の方法。
(項目41)
1つまたは複数のユースポイント添加物を前記細胞培養培地に添加する工程をさらに含む、項目31~40のいずれか1項に記載の方法。
(項目42)
約0.1mM~約10mMのL-タウリンを含む抗体の高収量組換え産生のためのCHO細胞培養培地。
(項目43)
オルニチンをさらに含む、項目42に記載のCHO細胞培養培地。
(項目44)
プトレシンをさらに含む、項目43に記載のCHO細胞培養培地。
(項目45)
アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、グリシン、プロリン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸の混合物をさらに含む、項目42~44のいずれか1項に記載のCHO細胞培養培地。
(項目46)
前記培地が無血清である、項目42~45のいずれか1項に記載のCHO細胞培養培地。
(項目47)
前記培地が加水分解物を含まない、項目42~46のいずれか1項に記載のCHO細胞培養培地。
(項目48)
前記培地が化学的に規定されている、項目42~47のいずれか1項に記載のCHO細胞培養培地。
(項目49)
前記培地を0日目の産生バッチ培養物に提供する、項目42~48のいずれか1項に記載のCHO細胞培養培地。
(項目50)
フィードを、0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、および/または10日目の産生バッチ培養物に提供する、項目42~49のいずれか1項に記載のCHO細胞培養培地。
(項目51)
前記産生バッチ培養物に提供した培地およびフィードが、産生期の間に約5mM~約10mMの総L-タウリンを含む、項目50に記載のCHO細胞培養フィード。
(項目52)
1つまたは複数の脂肪酸をさらに含む、項目42~51のいずれか1項に記載のCHO細胞培養培地。
(項目53)
前記1つまたは複数の脂肪酸が、リノール酸、リノレン酸、チオクト酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ラウリン酸、ベヘン酸、デカン酸、ドデカン酸、ヘキサン酸、リグノセリン酸、ミリスチン酸、およびオクタン酸からなる群から選択される、項目52に記載のCHO細胞培養培地。
(項目54)
ビオチン、D-パントテン酸カルシウム、塩化コリン、葉酸、I-イノシトール、ニコチンアミド、塩酸ピリドキシン、リボフラビン、塩酸チアミン、およびビタミンB12からなる群から選択されるビタミンおよび補因子をさらに含む、項目42~53のいずれか1項に記載のCHO細胞培養培地。
(項目55)
ヌクレオシドの混合物をさらに含む、項目42~54のいずれか1項に記載のCHO細胞培養培地。
(項目56)
前記ヌクレオシドの混合物が、アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジン、およびヒポキサンチンの1つまたは複数を含む、項目55に記載のCHO細胞培養培地。
(項目57)
アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジン、およびヒポキサンチンをさらに含む、項目42~56のいずれか1項に記載のCHO細胞培養培地。
(項目58)
1つまたは複数の二価カチオンをさらに含む、項目42~57のいずれか1項に記載のCHO細胞培養培地。
(項目59)
前記二価カチオンが、マグネシウム、カルシウム、またはその両方である、項目58に記載のCHO細胞培養培地。
(項目60)
Ca2+およびMg2+を含む、項目59に記載のCHO細胞培養培地。
(項目61)
約0.1mM~約10mMの量でタウリンを含む、CHO細胞培養におけるタンパク質産生のための流加培養培地および/またはフィード。
(項目62)
オルニチンをさらに含む、項目61に記載の流加培養培地および/またはフィード。
(項目63)
プトレシンを含む、項目62に記載の流加培養培地および/またはフィード。
(項目64)
アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、グリシン、プロリン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸の混合物をさらに含む、項目61~63のいずれか1項に記載の流加培養培地および/またはフィード。
(項目65)
目的の組換えタンパク質の産生のために真核細胞を培養する方法であって、(a)項目42~64のいずれか1項に記載の細胞培養培地を提供する工程、および(b)前記細胞培養培地中で細胞を増殖または維持する工程であって、細胞培養物を形成し、、前記細胞が目的のタンパク質を発現する工程を含む、方法。
(項目66)
前記真核細胞が、哺乳動物細胞、トリ細胞、昆虫細胞、および酵母細胞からなる群から選択される、項目65に記載の方法。
(項目67)
前記細胞がCHO細胞である、項目65または66に記載の方法。
(項目68)
前記目的のタンパク質が、前記細胞によって前記培地に分泌される、項目65~67のいずれか1項に記載の方法。
(項目69)
前記目的のタンパク質が抗原結合タンパク質である、項目68に記載の方法。
(項目70)
前記目的のタンパク質がFcドメインを含む、項目68または69に記載の方法。
(項目71)
前記目的のタンパク質が、Fc-融合タンパク質、受容体-Fc-融合タンパク質(TRAP)、抗体、および抗体フラグメントからなる群から選択される、項目68~70のいずれか1項に記載の方法。
(項目72)
前記目的のタンパク質が、抗PD1抗体、抗PDL-1抗体、抗Dll4抗体、抗ANG2抗体、抗AngPtl3抗体、抗PDGFR抗体、抗Erb3抗体、抗PRLR抗体、抗TNF抗体、抗EGFR抗体、抗PCSK9抗体、抗GDF8抗体、抗GCGR抗体、抗VEGF抗体、抗IL1R抗体、抗IL4R抗体、抗IL6R抗体、抗IL1抗体、抗IL2抗体、抗IL3抗体、抗IL4抗体、抗IL5抗体、抗IL6抗体、抗IL7抗体、抗RSV抗体、抗NGF抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗CD19抗体、抗CD28抗体、抗CD48抗体、抗CD3/抗CD20二重特異性抗体、抗CD3/抗MUC16二重特異性抗体、および抗CD3/抗PSMA二重特異性抗体からなる群から選択される、項目71に記載の方法。
(項目73)
前記目的のタンパク質が、アリロクマブ、サリルマブ、ファシヌマブ、ネスバクマブ、デュピルマブ、トレボグルマブ、エビナクマブ、およびリヌクマブからなる群から選択される、項目71に記載の方法。
(項目74)
前記細胞培養が、0.1mM未満のタウリンを含む培地における類似の細胞培養と比較して少なくとも3%アンモニア蓄積を減少させることが可能である、項目65~73のいずれか1項に記載の方法。
(項目75)
前記細胞培養が、0.1mM未満のタウリンを含む培地における類似の細胞培養と比較して少なくとも8%アンモニア蓄積を減少させることが可能である、項目65~74のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、Ab3産生細胞培養において各産生培養日に回収したサンプル由来のタンパク質力価(収量)を示し、タウリン補足(黒塗りの四角が実線で繋げられている)を非タウリン補足(xが点線で繋げられている)と比較している。タンパク質収量に対するタウリン補足培養の利点は、産生培養の6日目という早期に認められる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(詳細な説明)
本発明が記載される特定の方法および実験条件に限定されないことは理解されるべきである。なぜならこのような方法および条件は変動し得るからである。同様に、本明細書で使用される用語法は、特定の実施形態を記載する目的に過ぎず、限定することを意図していないこともまた理解されるべきである。なぜなら本発明の範囲は、特許請求の範囲によって定義されるからである。
【0034】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a(1つの、ある)」、「an(1つの、ある)」および「the(上記、この、その)」は、文脈が格別そうでないことを規定しなければ、複数形への言及を含む。従って、例えば、「方法(a method)」への言及は、本明細書で記載される、および/もしくは本開示を読んで当業者に明らかになるタイプの、1またはそれより多くの方法および/または工程を含む。
【0035】
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で記載されるものに類似もしくは均等な任意の方法および材料が本発明の実施において使用され得るものの、特定の方法および材料がここでは記載される。本明細書で言及される全ての刊行物は、それらの全体において本明細書に参考として援用される。
【0036】
本出願人は、細胞培養培地へのタウリンの添加によって、非常に少量のタウリンを含むかタウリンを含まない細胞培養培地と比較して細胞培養における組換え細胞によるタンパク質産生が改善されるという驚くべき発見をした。
【0037】
本細胞培養物および方法を記載する前に、本発明が記載の特定の方法および実験条件に制限されず、したがって、方法および条件は変動し得ると理解すべきである。本明細書中で使用した用語は特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明を制限することを意図しないことも理解すべきである。
【0038】
本明細書中で使用した項目の見出しは整理することのみを目的とし、記載の主題を制限すると解釈すべきではない。別段の指示がない限り、本明細書中に記載の方法および技術を、一般に、当該分野で公知の従来の方法に従い、且つ種々の一般的な文献および本明細書を通して引用および考察しているより具体的な文献に記載のように行う。例えば、Sambrook et al.、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、3rd ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N. Y.
(2001)およびAusubel et al.、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates (1992)、Harlow and Lane Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y. (1990)、およびJulio E. Celis、Cell Biology: A Laboratory Handbook、2nd ed.、Academic Press、New York、N.Y. (1998)、and Dieffenbach and Dveksler、PCR Primer:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1995)を参照のこと。本開示を通して言及された全ての刊行物は、その全体が本明細書中で参考として組み込まれる。
【0039】
(定義)
「タウリン」は、2-アミノエタンスルホン酸(IUPAC命名法;CASレジストリ番号107-35-7)としても公知である。「タウリン」および「L-タウリン」を、同一の有機化合物を言及するために互換的に使用する。タウリンはアミノ基を含む有機酸であるが、アミノ酸というのはアミノ基およびカルボキシル基の両方を含むので、当業者に伝統的に公知なように、タウリンは「アミノ酸」と見なされない。システインの誘導体であるヒポタウリンが酸化によってタウリンに変換されるときにタウリンが生合成される。
【0040】
用語「補足(supplementation)」、「補足する(supplementing)」、および「~を補足した」などは、細胞の成長および/または分化を維持および/または促進するか、培養物または細胞の特質を総じて拡大または強化するか、欠損を補うために細胞培養培地中で使用することができる成分、構成成分、分子などを添加することをいう。この目的を達成するために、タウリン補足には、特定濃度のタウリン溶液の培養培地への添加が含まれる。
【0041】
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、「およびタンパク質」を、本明細書を通して互換的に使用し、これらの用語は、ペプチド結合によって相互連結した2つまたはそれを超えるアミノ酸残基を含む分子をいう。ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質はまた、グリコシル化、脂質付着、硫酸化、グルタミン酸残基のγ-カルボキシル化、アルキル化、ヒドロキシル化、およびADP-リボシル化などの修飾を含んでもよい。ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質は、科学的または商業的に有益であり得る(タンパク質系薬物が含まれる)。ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質には、特に、抗体およびキメラタンパク質もしくは融合タンパク質が含まれる。ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質は、細胞培養方法を使用して組換え動物細胞株によって産生される。
【0042】
用語「異種ポリヌクレオチド配列」は、本明細書中で使用する場合、生物医薬品薬物物質として産生されるキメラタンパク質(trap分子など)、抗体、または抗体の一部(例えば、VH、VL、CDR3)などの目的のタンパク質をコードする核酸ポリマーをいう。異種ポリヌクレオチド配列を、遺伝子工学技術によって製造し(例えば、キメラタンパク質をコードする配列、またはコドン最適化配列、無イントロン配列(intronless sequence)など)、細胞に導入することができ、細胞内でこの配列はエピソームとして存在することができるか、細胞ゲノムに組み込むことができる。異種ポリヌクレオチド配列は、産生細胞ゲノム内の異所に導入される天然に存在する配列であり得る。異種ポリペプチド配列は、別の生物由来の天然に存在する配列(ヒトオルソログをコードする配列など)であり得る。
【0043】
「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖である4本のポリペプチド鎖からなる免疫グロブリン分子を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVRまたはVH)および重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、3個のドメイン、CH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は、1個のドメイン(CL)を有する。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と命名されたより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と命名された超可変性の領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へと、次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4に配置された、3個のCDRおよび4個のFRで構成されている。用語「抗体」は、任意のアイソタイプまたはサブクラスのグリコシル化免疫グロブリンおよび非グリコシル化免疫グロブリンの両方をいう。用語「抗体」には、組換え手段によって調製、発現、作製、または単離された抗体分子(抗体を発現するようにトランスフェクトされた宿主細胞から単離した抗体など)が含まれる。抗体という用語には、二重特異性抗体も含まれ、二重特異性抗体には、1つを超える異なるエピトープに結合することができるヘテロ四量体免疫グロブリンが含まれる。二重特異性抗体は、一般に、米国特許出願公開第2010/0331527号(本出願に参考として組み込まれる)に記載されている。
【0044】
抗体の「抗原結合部分」(または「抗体フラグメント」)という用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数のフラグメントをいう。抗体の「抗原結合部分」という用語に含まれる結合フラグメントの例には、(i)Fabフラグメント(VL、VH、CL、およびCH1各ドメインからなる一価フラグメント);(ii)F(ab’)2フラグメント(ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結した2つのFabフラグメントからなる二価フラグメント);(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単一のアームのVLドメインおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Wardら(1989)Nature 241:544-546)、(vi)単離CDR、および(vii)Fvフラグメントの2つのドメイン(VLおよびVH)からなり、これらのフラグメントが合成リンカーによって連結されて単一のタンパク質鎖を形成し、この単一のタンパク質鎖においてVL領域およびVH領域が対になって一価の分子を形成しているscFvが含まれる。単鎖抗体の他の形態(ダイアボディなど)も用語「抗体」に含まれる(例えば、Holligerら(1993)PNAS USA 90:6444-6448;Poljakら(1994)Structure 2:1121-1123を参照のこと)。
【0045】
さらには、抗体またはその抗原結合部分は、抗体または抗体の一部の1つまたは複数の他のタンパク質またはペプチドとの共有結合性または非共有結合性の会合によって形成されたより大きな免疫接着分子の一部であり得る。かかる免疫接着分子の例には、四量体scFv分子を作製するためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanovら(1995)Human antibodies and Hybridomas 6:93-101)および二価のビオチン化scFv分子を作製するためのシステイン残基、マーカーペプチド、およびC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanovら(1994)Mol.Immunol.31:1047-1058)が含まれる。抗体の一部(FabフラグメントおよびF(ab’)2フラグメントなど)を、従来技術(全抗体のパパイン消化またはペプシン消化など)を使用して全抗体から調製することができる。さらに、抗体、抗体の一部、および免疫接着分子を、当該分野で一般的に知られている標準的な組換えDNA技術を使用して得ることができる(Sambrookら,1989を参照のこと)。
【0046】
用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する抗体を含むように企図されている。本発明のヒト抗体は、例えば、CDR、特にCDR3において、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列にコードされないアミノ酸残基を含むことができる(例えば、in vitroにおけるランダムもしくは部位特異的変異誘発またはin vivoにおける体細胞変異によって導入された変異)。しかし、用語「ヒト抗体」は、本明細書において、マウス等、別の哺乳動物種の生殖系列に由来するCDR配列が、ヒトフレームワーク配列に移植された抗体を含むようには企図されていない。
【0047】
用語「組換えヒト抗体」は、本明細書において、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子のトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylorら(1992年)Nucl. Acids Res.20巻:6287~6295頁を参照)、または他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングに関与する他のいずれかの手段によって調製、発現、作出もしくは単離された抗体等、組換え手段によって調製、発現、作出または単離されたあらゆるヒト抗体を含むよう企図されている。係る組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する。しかし、ある特定の実施形態では、係る組換えヒト抗体は、in vitro変異誘発(または、ヒトIg配列のトランスジェニックである動物が使用される場合は、in vivo体細胞変異誘発)に付され、これにより、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VHおよびVL配列に由来し、これに関係するが、in vivoにおけるヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在しなくてよい配列となる。
【0048】
「Fc融合タンパク質」は、2つまたはそれを超えるタンパク質の一部または全部を含み、これらのタンパク質のうちの1つが免疫グロブリン分子のFc部分であり、これらのタンパク質は自然界では一緒には見出されない。抗体誘導ポリペプチドの種々の部分(Fcドメインを含む)に融合した一定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製は、例えば、Ashkenaziら,Proc.Natl.Acad.ScL USA 88:10535,1991;Byrnら,Nature 344:677,1990;およびHollenbaughら,”Construction of Immunoglobulin Fusion Proteins”,in Current Protocols in Immunology,Suppl.4,pages 10.19.1 - 10.19.11,1992に記載されている。「受容体Fc融合タンパク質」は、いくつかの実施形態において免疫グロブリンのヒンジ領域ならびにその後に続くCH2ドメインおよびCH3ドメインを含むFc部分にカップリングした1つまたは複数の受容体の細胞外ドメインを含む。いくつかの実施形態では、Fc-融合タンパク質は、1つまたは複数のリガンドに結合する2つまたはそれを超える個別の受容体鎖を含む。例えば、Fc-融合タンパク質は、例えば、IL-1 trap(例えば、hIgG1のFcに融合したIL-1R1細胞外領域に融合したIL-1RAcPリガンド結合領域を含むリロナセプト;米国特許第6,927,004を参照のこと)またはVEGF trap(例えば、hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含むアフリベルセプト;米国特許第7,087,411号および同第7,279,159号を参照のこと)などのtrapである。
【0049】
(細胞培養)
用語「細胞培養培地」および「培養培地」は、典型的には、細胞の成長を増強するために必要な栄養素(炭水化物エネルギー源、必須アミノ酸(例えば、フェニルアラニン、バリン、トレオニン、トリプトファン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、リジン、およびヒスチジン)、および非必須アミノ酸(例えば、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン、およびチロシン)、微量元素、エネルギー源、脂質、ビタミンなど)を提供する哺乳動物細胞の成長のために使用される栄養液をいう。細胞培養培地は、抽出物(例えば、血清もしくはペプトン(水解物))を含み得、これらは、細胞増殖を支える原材料を供給する。培地は、動物由来抽出物の代わりに、酵母由来抽出物もしくはダイズ抽出物を含み得る。化学的に規定される培地とは、化学成分の全てが既知である(すなわち、既知の化学構造を有する)細胞培養培地をいう。化学的に規定される培地は、動物由来成分(例えば、血清由来もしくは動物由来のペプトン)を完全に含まない。一実施形態では、培地は、化学的に規定される培地である。
【0050】
本溶液はまた、最小の比率を超えて成長および/または生存を増強する構成成分(ホルモンおよび成長因子が含まれる)を含み得る。本溶液を、好ましくは、pHおよび塩濃度が細胞の生存および増殖に最適になるように調合する。
【0051】
「細胞株」は、細胞の連続継代または継代培養によって特定の系列から誘導された細胞をいう。用語「細胞」を、「細胞集団」と互換的に使用する。
【0052】
用語「細胞」とは、組換え核酸配列を発現するために適切な任意の細胞を含む。細胞は、真核生物の細胞(例えば、非ヒト動物細胞、哺乳動物細胞、ヒト細胞、トリ細胞、昆虫細胞、酵母細胞もしくは細胞融合物(例えば、ハイブリドーマもしくはクアドローマ))を含む。ある種の実施形態において、上記細胞は、ヒト、サル(monkey)、類人猿(ape)、ハムスター、ラットもしくはマウスの細胞である。他の実施形態において、上記細胞は、以下の細胞から選択される:CHO細胞(例えば、CHO K1、DXB-11 CHO、Veggie-CHO)、COS細胞(例えば、COS-7)、網膜細胞、Vero細胞、CV1細胞、腎臓細胞(例えば、HEK293、293 EBNA、MSR 293、MDCK、HaK、BHK21)、HeLa細胞、HepG2細胞、WI38細胞、MRC 5細胞、Colo25細胞、HB 8065細胞、HL-60細胞、リンパ球、例えば、Jurkat細胞(Tリンパ球)またはDaudi細胞(Bリンパ球)、A431細胞(表皮)、CV-1細胞、U937細胞、3T3細胞、L細胞、C127細胞、SP2/0細胞、NS-0細胞、MMT細胞、幹細胞、腫瘍細胞、および前述の細胞に由来する細胞株。いくつかの実施形態において、上記細胞は、1種またはそれより多くのウイルス遺伝子を含む(例えば、ウイルス遺伝子を発現する網膜細胞(例えば、PER.C6(登録商標)細胞))。いくつかの実施形態において、上記細胞は、CHO細胞である。他の実施形態において、上記細胞は、CHO K1細胞である。
【0053】
本発明の1つの態様は、産生培養においてタンパク質の産生および回収前に細胞集団を拡大させる種培養に関する。タウリンを、本明細書中に記載の発明に従って、種培養配合物中の基本培地に添加することができる。
【0054】
本発明の別の態様は、タンパク質を産生および回収する産生培養に関する。産生期に先立って、典型的には増殖期(シードトレイン(seed train)または種培養としても公知)が存在し、この増殖期に、細胞培養のための全ての構成成分を培養過程の開始時に培養容器に供給し、次いで、細胞集団を生産規模になるまで拡大させる。従って、培養容器に、開始させる細胞株に応じて初期細胞増殖期に適切な播種密度で細胞を接種する。いくつかの態様では、その後の産生期における細胞の生産性をさらに改善または増強するために、本明細書中に記載の発明に従って、種培養配合物中の基礎培養培地にタウリンを添加することができる。
【0055】
本発明の1つの態様は、特に、産生培養培地および/またはシードトレイン培養物にタウリンを添加することによって、組換え真核細胞による1つまたは複数の目的の組換えタンパク質の産生を改善し、かつ細胞生存を維持しながら組換え真核細胞の成長を増強するように細胞培養条件を改変する産生培養に関する。産生培養容器またはバイオリアクター中で、基礎培養培地および細胞を、種培養または増殖期の後に培養容器に供給する。特定の実施形態では、細胞上清または細胞ライセートを産生培養後に回収する。他の実施形態では、目的のポリペプチドまたはタンパク質を、当該分で周知の技術を使用して培養培地または細胞ライセート(いずれにせよ目的のタンパク質の位置に依存し得る)から回収する。
【0056】
培養容器としては、ウェルプレート、Tフラスコ、振盪フラスコ、撹拌容器、スピナーフラスコ、中空繊維、エアリフトバイオリアクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。適切な細胞培養容器は、バイオリアクターである。バイオリアクターとは、環境条件を扱うもしくは制御するように製造もしくは操作される任意の培養容器をいう。このような培養容器は、当該分野で周知である。
【0057】
バイオリアクタープロセスおよびシステムは、ガス交換を最適化し、十分な酸素を供給して細胞増殖および生産性を持続させ、CO2を除去するために開発されてきた。ガス交換の効率を維持することは、細胞培養およびタンパク質生産の成功裡のスケールアップを確実にするために重要な基準である。適切なシステムは、当業者に周知である。
【0058】
ポリペプチド生産期において、「流加細胞培養」もしくは「流加培養」とは、動物細胞および培養培地が、その培養容器に最初に供給され、さらなる培養栄養素が、連続してもしくは不連続増分で、培養の間に培養物にゆっくりと供給される(培養終了前に定期的な細胞および/もしくは生成物採取があってもなくてもよい)バッチ培養をいう。流加培養は、定期的に全培養物(これは、細胞および培地を含み得る)が取り出され、新鮮な培地で置換される「半連続流加培養」を含む。流加培養は、細胞培養のための全成分(動物細胞および全ての培養栄養素を含む)が、バッチ培養における培養プロセスの開始時に培養容器に供給されることから、単純な「バッチ培養」とは区別される。流加培養は、上清が上記プロセスの間に培養容器から取り出されない限りにおいて灌流培養とはさらに区別され得るのに対して、灌流培養において、上記細胞は、例えば、濾過によって培養物中に引きとめられ、その培養培地は、連続してもしくは断続して導入され、培養容器から除去される。しかし、流加細胞培養の間に試験目的でサンプルが取り出されることが企図される。上記流加プロセスは、最大作業体積および/もしくはタンパク質生産が達成されることが決定されるまで継続する。
【0059】
語句「連続細胞培養」とは、本明細書で使用される場合、細胞を継続して、通常は、特定の増殖期の中で増殖させるために使用される技術に関する。例えば、細胞の一定の供給が必要とされるか、または特定の目的のポリペプチドもしくはタンパク質の生産が必要とされる場合、上記細胞培養は、特定の増殖期での維持を必要とし得る。従って、その条件は、継続してモニターされなければならず、その特定の期に上記細胞を維持するためにそれに応じて調節されなければならない。
(培地)
本発明は、無血清で約0.1mM~10mMのタウリンを含む細胞培養培地を提供する。「無血清」は、動物血清(ウシ胎児血清など)を含まない細胞培養培地に適用する。無血清培地は、16g/L以下の加水分解物(ダイズ加水分解物など)を含み得る。本発明はまた、血清を含まないだけではなく加水分解物も含まない化学的に規定された培地を提供する。「加水分解物を含まない」は、動物または植物のタンパク質加水分解物(例えば、ペプトンおよびトリプトンなど)などの外因性のタンパク質加水分解物を含まない細胞培養培地に適用する。「基本培地」は、(シードトレイン中および/または細胞培養物産生の0日目に存在する)初期培地であり、細胞を増殖させ、必要な全ての栄養素(アミノ酸の基本混合物が含まれる)を含む。基本培地用の種々のレシピ(すなわち、配合物)を、商業的に利用可能なロットで製造または購入することができる。同様に、「基本フィード培地」は、産生培養の間に一般的に消費され、且つ供給ストラテジー(いわゆる「流加」培養用)で利用される補足栄養素の混合物を含む。多様な基本フィード培地が市販されている。「フィード」には、プロトコール(ケモスタットなどの連続フィード培養系(C.Altamiranoら,Biotechnol Prog.2001 Nov-Dec;17(6):1032-41を参照のこと)が含まれる)または流加プロセス(Y.M.Huangら,Biotechnol Prog.2010 Sep-Oct;26(5):1400-10)などに従った計画的添加または一定間隔での培地への添加が含まれる。例えば、培養物に、1日1回、1日おきに1回、3日毎に1回供給することができるか、モニタリングしている特定の培地構成成分の濃度が所望の範囲から外れた場合に供給することができる。
【0060】
ロット間の変動を縮小し、下流処理工程を強化しながら細胞培養培地から血清を排除し、加水分解物を減少させるか排除すると、不運なことに、細胞の成長、生存率、およびタンパク質発現が減少する。したがって、化学的に規定された無血清且つ加水分解物がないか、または加水分解物を含まない培地は、細胞成長およびタンパク質産生を改善するためのさらなる成分が必要である。
【0061】
したがって、本発明の細胞培養培地は、生細胞培養に必要な全ての栄養素を含む基本培地を含む。本明細書中に記載の発明に従って、タウリンを、種培養配合物中の基本培地に添加することができる。さらに、タウリンを、産生培養配合物中の基本培地に添加し、次いで、これに、培養されるべき細胞の要件または所望の細胞培養パラメータに応じて、ポリアミンなどのさらなる成分または増加した濃度のアミノ酸、塩、糖、ビタミン、ホルモン、成長因子、緩衝液、抗生物質、脂質、および微量元素などの構成成分を周期的に(いわゆる「流加」培養など)供給してもしなくてもよい。
【0062】
本発明において、タウリン補足細胞培養培地は、タンパク質産生培養を通じてアミノ酸が枯渇し得るか(さらなるアミノ酸補足を行わない場合)、タウリン補足細胞培養培地は、「非枯渇」であり得る(枯渇アミノ酸(下記)を補足する場合)。本発明者らは、産生期にタウリンを補足した培養物によって前述の種々の培養条件下での組換えタンパク質産生が改善されることを観察した。
【0063】
本発明は、少なくとも約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10mMの濃度(ミリモル/リットルで示す)のタウリンを含むタウリン補足培地を提供する。
【0064】
一実施形態では、培地は、追加的に、100μM±15μMオルニチン、または300μM±45μMのオルニチン、または600μM±90μMオルニチン、またはさらには900μM±135μMのオルニチンを含む。別の実施形態では、培地は、少なくとも約5mg/L±1mg/Lのオルニチン・HCl、または少なくとも約,10mg/L±2mg/Lのオルニチン・HCl、15mg/L±2.25mg/Lのオルニチン・HCl、または少なくとも約50mg/L±7.5mg/Lのオルニチン・HCl、または少なくとも約100mg/L±15mg/Lのオルニチン・HCl、または少なくとも約150mg/L±22.5mg/Lのオルニチン・HClを含む。
【0065】
プトレシンを、任意選択的に、補足培地に添加することができる。プトレシンは、いくつかの細胞培養培地配合物中の構成成分として、非常に低い濃度で含まれている;例えば、WO2005/028626号(0.02~0.08mg/Lプトレシンと記載);米国特許第5,426,699号(0.08mg/L);米国特許第RE30,985号(0.16mg/L);米国特許第5,811,299号(0.27mg/L);米国特許第5,122,469号(0.5635mg/L);米国特許第5,063,157号(1mg/L);WO2008/154014号(約100μM~約1000μM);米国特許出願公開第2007/0212770号(0.5~30mg/Lポリアミン;2mg/Lプトレシン;2mg/Lプトレシン+2mg/Lオルニチン;2mg/Lプトレシン+10mg/Lオルニチン)を参照のこと。
【0066】
いくつかの実施形態では、培地に、オルニチンとプトレシンとの組み合わせをさらに補足し、ここで、プトレシン濃度は少なくとも約150~720μMであり得る。いくつかの実施形態では、培地に約170~230μMのプトレシンをさらに補足する。1つの実施形態では、培地は、90μM±15μM以上のオルニチンに加えて、200μM±30μMのプトレシンを含む。1つの実施形態では、培地は、15mg/L±2.25mg/L以下のオルニチンに加えて、30mg/L±4.5mg/L以下のプトレシン・2HClを含む。別の実施形態では、培地は、15mg/L±2.25mg/L以上のオルニチン・HClに加えて、30mg/L±4.5mg/L以上のプトレシン・2HClを含む(2014年9月18日公開の国際公開番号WO2014/144198A1号(その全体が本明細書中で参考として組み込まれる)を参照のこと)。
【0067】
さらに他の実施形態では、オルニチンは、0.09±0.014mM~0.9±0.14mMの範囲の濃度(0.09±0.014mM、0.3±0.05mM、0.6±0.09mM、または0.9±0.14mMオルニチンなど)で培地中に存在する。いくつかの実施形態では、培地はまた、少なくとも0.20±0.03mMのプトレシンを含む。いくつかの実施形態では、さらなるプトレシン濃度は、0.20±0.03mM~0.714±0.11mMの範囲(0.20±0.03mM、0.35±0.06、または0.714±0.11mMプトレシンなど)である。
【0068】
種々の他の補足物を培養培地に添加することができ、さらに適切な条件を決定するためのその添加は、当業者の技術の範囲内である。いくつかの実施形態では、非枯渇とするか、補足栄養素を必要とする場合、培地に、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、リジン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、バリン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、チロシン、およびトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸の混合物を補足する。
【0069】
1つの実施形態では、培地に、約170μM~175μMのヌクレオシドをさらに補足する。1つの実施形態では、培地は、累積濃度が少なくとも40μM、少なくとも45μM、少なくとも50μM、少なくとも55μM、少なくとも60μM、少なくとも65μM、少なくとも70μM、少なくとも75μM、少なくとも80μM、少なくとも85μM、少なくとも90μM、少なくとも95μM、少なくとも100μM、または少なくとも105μMのプリン誘導体を含む。1つの実施形態では、培地は、約100μM~110μMのプリン誘導体を含む。プリン誘導体には、ヒポキサンチンならびにヌクレオシドであるアデノシンおよびグアノシンが含まれる。1つの実施形態では、培地は、累積濃度が少なくとも30μM、少なくとも35μM、少なくとも40μM、少なくとも45μM、少なくとも50μM、少なくとも55μM、少なくとも60μM、または少なくとも65μMのピリミジン誘導体を含む。1つの実施形態では、培地は、約65μM~75μMのピリミジン誘導体を含む。ピリミジン誘導体には、ヌクレオシドであるチミジン、ウリジン、およびシチジンが含まれる。1つの特定の実施形態では、培地は、アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジン、およびヒポキサンチンを含む。
【0070】
上記の任意の添加物の含有に加えて、1つの実施形態では、培地に、マイクロモル量の脂肪酸(または脂肪酸誘導体)およびトコフェロールをさらに補足する。一実施形態では、脂肪酸は、リノール酸、リノレン酸、チオクト酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ラウリン酸、ベヘン酸、デカン酸、ドデカン酸、ヘキサン酸、リグノセリン酸、ミリスチン酸、およびオクタン酸のうちのいずれか1つまたは複数を含む。1つの実施形態では、培地は、トコフェロール、リノール酸、およびチオクト酸を含む。
【0071】
1つの実施形態では、培地に、ビタミンの混合物(他の栄養素および必須栄養素を含む)を累積濃度が少なくとも約700μMまたは少なくとも約2mMでさらに補足することもできる。1つの実施形態では、ビタミンの混合物は、1つまたは複数のD-ビオチン、塩化コリン、葉酸、ミオ-イノシトール、ナイアシンアミド、塩酸ピリドキシン、D-パントテン酸(hemiCa)、リボフラビン、塩酸チアミン、およびビタミンB12などを含む。1つの実施形態では、ビタミンの混合物は、D-ビオチン、塩化コリン、葉酸、ミオ-イノシトール、ナイアシンアミド、塩酸ピリドキシン、D-パントテン酸(hemiCa)、リボフラビン、塩酸チアミン、およびビタミンB12の全てを含む。
【0072】
本発明の培地の種々の実施形態には、上記実施形態の任意の組み合わせ(表示の量のタウリン、さらに、とりわけ(a)アミノ酸;(b)任意選択的に、ヌクレオシド;(c)二価カチオンの塩;(d)脂肪酸およびトコフェロール;および(e)ビタミンを含む化学的に規定された加水分解物を含まない無血清培地が含まれる)が含まれる。いくつかの実施形態では、少量の全加水分解物をタウリン補足培地に添加することができる。
【0073】
出願人は、本発明の実施の際に、種々の基本培地の任意の1つまたは複数またはその組み合わせにタウリンを使用することができることを想定している。基本培地は、当該分野で一般的に知られており、とりわけ、イーグルMEME(最小必須培地)(Eagle,Science,1955,112(3168):501-504)、ハムF12(Ham,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,1965,53:288-293)、F-12 K培地、ダルベッコ培地、ダルベッコ改変イーグル培地(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,1952 August;38(8):747-752)、DMEM/ハムF12 1:1、トローウェルT8、A2培地(Holmes
and Wolf,Biophys.Biochem.Cytol.,1961,10:389-401)、ウェイマウス培地(Davidson and Waymouth,Biochem.J.,1945,39(2):188-199)、ウィリアムズE培地(William’sら,Exp.Cell Res.,1971,69:105 et seq.)、RPMI 1640(Mooreら,J.Amer. Med.Assoc.,1967,199:519-524)、MCDB 104/110培地(Bettgerら,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,1981,78(9):5588-5592)、Ventrex HL-1培地、アルブミン-グロブリン培地(Orrら,Appl.Microbiol.,1973,25(1):49-54)、RPMI-1640培地、RPMI-1641培地、イスコフ改変ダルベッコ培地、マッコイ5A培地、リーボビッツL-15培地、および無血清培地(EX-CELL(商標)300シリーズ(JRH Biosciences,Lenexa,Kansas)など)、プロタミン-亜鉛-インスリン培地(Weissら,1974,米国特許第4,072,565号)、ビオチン-葉酸培地(Cartaya,1978,米国再発行特許第30,985号)、トランスフェリン-脂肪酸培地(Baker,1982,米国特許第4,560,655号)、トランスフェリン-EGF培地(Hasegawa,1982,米国特許第4,615,977号;Chessebeuf,1984,米国特許第4,786,599号)、および他の培地の順列(Inlow,米国特許第6,048,728号;Drapeau,米国特許第7,294,484号;Mather,米国特許第5,122,469号;Furukawa,米国特許第5,976,833号;Chen,米国特許第6,180,401号;Chen,米国特許第5,856,179号;Etcheverry,米国特許第5,705,364号;Etcheverry,米国特許第7,666,416号;Ryll,米国特許第6,528,286号;Singh,米国特許第6,924,124号;およびLuan,米国特許第7,429,491号などを参照のこと)が含まれる。
【0074】
特定の実施形態では、培地は化学的に規定されており、タウリンに加えて以下を含む:本明細書中に定義のアミノ酸混合物、CaCl2 2H2O;HEPES緩衝液、KCl;MgSO4;NaCl;Na2HPO4または他のリン酸塩;ピルビン酸塩;D-ビオチン;塩化コリン;葉酸;ミオ-イノシトール;ナイアシンアミド;塩酸ピリドキシン;D-パントテン酸;リボフラビン;塩酸チアミン;ビタミンB12;ρ-アミノ安息香酸;エタノールアミンHCl;ポロクサマー188;DL-a-トコフェロールホスファート;リノール酸;Na2SeO3;チオクト酸;およびグルコース;ならびに、任意選択的に、アデノシン;グアノシン;シチジン;ウリジン;チミジン;およびヒポキサンチン2Na。
【0075】
1つの実施形態では、本発明の培地の開始容量オスモル濃度は、200~500、250~400、275~350、または約300mOsmである。本発明の培地中での細胞の成長中、特に、流加プロトコールにしたがった任意の供給後の培養物の容量オスモル濃度は、約350、400、450、500、または約550mOsmまで増加し得る。
【0076】
特定培地の容量オスモル濃度が約300未満であるいくつかの実施形態では、特定の過剰量の1つまたは複数の塩の添加によって、容量オスモル濃度は約300になる。1つの実施形態では、容量オスモル濃度を、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マグネシウム塩、カルシウム塩、アミノ酸塩、脂肪酸の塩、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、塩であるキレート剤、糖(例えば、ガラクトース、グルコース、スクロース、フルクトース、フコースなど)、およびその組み合わせから選択される1つまたは複数のオスモライトの添加によって所望のレベルまで増加させる。1つの実施形態では、オスモライトを、特定培地中に既に存在する構成成分中のオスモライト濃度を超える濃度で添加する(例えば、特定された糖構成成分の濃度を超える濃度で糖を添加する)。
【0077】
上記の培地のあらゆる実施形態をタウリン補足培地といい、少なくとも約0.1mMのタウリンを含む任意の他の無血清培地も同様にタウリン補足培地という。逆に、タウリンを含まない培地(すなわち、0.1mM未満のタウリンを含む培地)を、以後、非タウリン補足培地または非タウリン補足という。
【0078】
(流加培養)
細胞培養の供給ストラテジーは、多細胞生物外または組織外の細胞の最適な成長および増殖を確実にすることを目的とする。哺乳動物細胞に適切な培養条件は、当該分野で公知である。例えば、Animal cell culture:A Practical Approach,D.Rickwood,ed.,Oxford University Press,New York(1992)を参照のこと。哺乳動物細胞を、懸濁液中または固体基質に付着させながら培養することができる。流動床バイオリアクター、中空繊維バイオリアクター、回転瓶、振盪フラスコ、または撹拌槽型バイオリアクター(マイクロキャリアを使用するか使用しない)、およびバッチ、流加、連続、半連続、または灌流の各モードでの操作が哺乳動物細胞培養に利用可能である。細胞培養培地または濃縮フィード培地を、培養中に培養物に連続的にまたは間隔を置いて添加することができる。例えば、培養物に、1日1回、1日おきに1回、3日毎に1回供給することができるか、モニタリングしている特定の培地構成成分の濃度が所望の範囲から外れた場合に供給することができる。
【0079】
タウリンを含めることに加えて、1つの実施形態では、培地に、累積(合計)濃度が少なくとも20mMのアミノ酸をさらに補足することができる。1つの実施形態では、開始細胞培養培地中に含まれる初期アミノ酸濃度は、かかる累積(合計)補足アミノ酸濃度に含まれない。細胞培養培地の1つの実施形態、すなわち、細胞を培養する方法または目的のタンパク質を産生するための方法において、培地に、約20mM超、約25mM超、約30mM超、約40mM超 約50mM超、または約60mM超、約70mM超、約100mM超、約200mM超、約300mM超、約400mM超、または約500mM超の量で補足することができる。本明細書中の表1も参照のこと。1つの実施形態では、培地へのアミノ酸の添加量は、約30mM±10mMまたはそれを超える。
【0080】
当業者は、細胞成長を補助するか、細胞ストレスを最小にするか、産生期中に「非枯渇培地」を提供するために、補足物供給レジメンを最適にすることができる。
【0081】
「非枯渇培地」には、栄養素、特に、目的の組換えタンパク質の産生に必要なアミノ酸を有すると判断されている細胞培養培地が含まれる。アミノ酸フィードは、典型的には、細胞培養における組換えタンパク質産生のための構成要素として必要なアミノ酸を補足する。しかし、培養細胞によって産生される特定のタンパク質の要件に応じて、アミノ酸によっては他のアミノ酸より早く枯渇し得る。非枯渇培地では、必要なアミノ酸が消費された場合にこのアミノ酸が補充されるように供給レジメが特定されている。したがって、枯渇およびその後の至適消費率(pg/細胞-日)を、以下の工程によって決定することができる:細胞培養培地中で目的のタンパク質を発現する真核細胞を培養すること;各時点での培養培地中の各アミノ酸濃度を測定して枯渇レベルを確立すること;アミノ酸濃度が枯渇レベルを下回る枯渇時点を識別すること;各アミノ酸の消費率を計算すること;および枯渇時点の直前の時点での消費率として至適消費率を決定すること。次いで、培養培地を枯渇させないために、細胞培養物に、適切な濃度の特定のアミノ酸を補足して決定したかかる至適消費率を維持する。
【0082】
本発明が、非枯渇培養物と同様に、枯渇培養物におけるタンパク質力価を改善するタウリン補足細胞培養培地を提供すると理解される。
【0083】
本発明は、上記のタウリン補足培地中で目的のタンパク質を発現する細胞株を含む細胞培養物を提供する。タンパク質生物治療薬を産生するために日常的に使用される細胞株の例には、とりわけ、初代細胞、BSC細胞、HeLa細胞、HepG2細胞、LLC-MK細胞、CV-1細胞、COS細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、RK細胞、TCMK-1細胞、LLCPK細胞、PK15細胞、LLC-RK細胞、MDOK細胞、BHK細胞、BHK-21細胞、CHO細胞、CHO-K1細胞、NS-1細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、3T3細胞、293細胞、Per.C6細胞、およびニワトリ胚細胞が含まれる。1つの実施形態では、細胞株は、CHO細胞株または大規模タンパク質産生のために最適化されたいくつかの特定のCHO細胞バリアントのうちの1つまたは複数(例えば、CHO-K1)である。
【0084】
1つの実施形態では、タウリン補足細胞培養物は、ユースポイント成分として培地に添加することができるか、培地配合物中に含めることができるインスリンを含む。1つの実施形態では、細胞株は、生物治療タンパク質を産生することが可能な細胞を含む。
【0085】
1つの実施形態では、流加プロセスに従って細胞培養の間に間隔を置いて培地に補足する。流加培養は当該分野で一般的に知られており、タンパク質産生を最適にするために使用されている(Y.M.Huangら,Biotechnol Prog.2010 Sep-Oct;26(5):1400-10を参照のこと)。
【0086】
典型的には、培地を交換しない細胞増殖期または種培養(すなわち、第1の細胞培養)を行った後、ポリペプチド産生期として公知の別個の第2の培養を行う。流加プロセスを、典型的には、産生期の間に使用する。
【0087】
本発明は、産生細胞培養の開始時(0日目)に約0.1mM~約10mMのタウリンを含む細胞培養培地を提供する。あるいは、約0.1mM~約10mMのタウリンを含む細胞培養培地を、産生細胞培養の1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、および/または10日目に補足することができる。複数の日に産生培養物に添加される細胞培養培地には、総量が約0.1mM~約10mMのタウリンを含む。約0.1mM~約10mMの総タウリンを含む細胞培養培地を、任意の順序で添加することができる。
【0088】
タウリンを、シードトレイン拡大期に基礎培地に補足することもできる。
【0089】
上記のビタミン、アミノ酸、および他の栄養素などのさらなる栄養素を含めるために、産生培養の期間中毎日または2~3日毎の頻度で間隔を置いて補足物を供給することができる。2週間またはそれを超える産生培養の持続期間を通して、少なくとも2回、または少なくとも8回補足物を供給する(栄養素を含む補足培地を添加する)ことができる。別の実施形態では、培養の持続期間中毎日補足物を供給することができる。別の培養供給スケジュールも想定される。
【0090】
非枯渇培地を提供するためにさらなるアミノ酸補足も行うことができ、ここで、枯渇アミノ酸は、当該分野で公知であり、且つ本明細書中に記載の方法に従って決定される。このレジメを使用する場合、さらなるアミノ酸を、決定されたアミノ酸枯渇に応じて、産生培養持続期間中に一定の間隔、好ましくは、毎日、または2~3日毎の頻度で補足または添加する。1つの実施形態では、非枯渇細胞培養培地を維持するためのさらなるアミノ酸の混合物を、2週間またはそれを超える培養中の1日目前後、2日目前後、3日目前後、4日目前後、5日目前後、6日目前後、7日目前後、8日目前後、9日目前後、10日目前後、11日目前後、12日目前後、13日目前後、および14日目前後に培養物に添加する。別の培養供給スケジュールも想定される。
【0091】
動物細胞(CHO細胞など)を、小規模培養(約25mLの培地を有する125mlの容器、約50~100mLの培地を有する250mLの容器、約100~200mLの培地を有する500mLの容器など)で培養することができる。あるいは、培養は、大規模(例えば、約300~1000mLの培地を有する1000mLの容器、約500mL~3000mLの培地を有する3000mLの容器、約2000mL~8000mLの培地を有する8000mLの容器、および約4000mL~15000mLの培地を有する15000mLの容器など)であり得る。生産用培養物は、10,000Lまたはそれを超える培地を含むことができる。タンパク質治療薬の臨床製造用などの大規模細胞培養物は、典型的には、数日間、または数週間維持され、その間に細胞が所望のタンパク質を産生する。この間に、培養物に、培養中に消費された構成成分(栄養素およびアミノ酸など)を含む濃縮フィード培地を補足することができる。濃縮フィード培地は、任意の細胞培養培地配合物に基づき得る。かかる濃縮フィード培地は、細胞培養培地のほとんどの構成成分を、その通常の有用量の、例えば、約5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍、400倍、600倍、800倍、またはさらに約1000倍含むことができる。濃縮フィード培地を、しばしば、流加培養プロセスで使用する。
【0092】
いくつかの実施形態では、タウリンを含む細胞培養物に、細胞成長またはタンパク質産生中に「ユースポイント添加物」(添加物、ユースポイント成分、またはユースポイント化学物質としても公知)をさらに補足する。ユースポイント添加物には、成長因子または他のタンパク質、緩衝液、エネルギー源、塩、アミノ酸、金属、およびキレート剤のうちの任意の1つまたは複数が含まれる。他のタンパク質には、トランスフェリンおよびアルブミンが含まれる。成長因子(サイトカインおよびケモカインが含まれる)は当該分野で一般的に知られており、細胞成長、または、いくつかの場合、細胞分化を刺激することが公知である。成長因子は、通常、タンパク質(例えば、インスリン)、小ペプチド、またはステロイドホルモン(エストロゲン、DHEA、およびテストステロンなど)である。いくつかの場合、成長因子は、細胞増殖またはタンパク質産生を促進する非天然化学物質(例えば、テトラヒドロ葉酸(THF)およびメトトレキサートなど)であり得る。タンパク質およびペプチドの成長因子の非限定的な例には、アンギオポエチン、骨形成タンパク質(BMP)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、上皮成長因子(EGF)、エリスロポエチン(EPO)、線維芽細胞成長因子(FGF)、膠細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、増殖分化因子-9(GDF9)、肝細胞成長因子(HGF)、ヘパトーム由来成長因子(HDGF)、インスリン、インスリン様成長因子(IGF)、遊走刺激因子(migration-stimulating factor)、ミオスタチン(GDF-8)、神経成長因子(NGF)および他のニューロトロフィン、血小板由来成長因子(PDGF)、トロンボポエチン(TPO)、トランスフォーミング成長因子α(TGF-α)、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、血管内皮成長因子(VEGF)、wntシグナル伝達経路アゴニスト、胎盤成長因子(PlGF)、ウシ胎児ソマトトロピン(somatotrophin)(FBS)、インターロイキン-1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、およびIL-7などが含まれる。1つの実施形態では、細胞培養培地に、ユースポイント添加成長因子であるインスリンを補足する。1つの実施形態では、添加後の培地中のインスリン濃度(すなわち、細胞培養培地中のインスリン量)は、約0.1μM~10μMである。
【0093】
緩衝液は、当該分野で一般に知られている。本発明は、任意の特定の緩衝液に制限されず、任意の当業者は、特定のタンパク質を産生する特定の細胞株との使用に適切な緩衝液または緩衝系を選択することができる。1つの実施形態では、ユースポイント添加緩衝液はNaHCO3である。別の実施形態では、緩衝液はHEPESである。他の実施形態では、ユースポイント添加緩衝液は、NaHCO3およびHEPESの両方を含む。
【0094】
細胞培養におけるユースポイント添加物として用いるためのエネルギー源も当該分野で周知である。制限されないが、1つの実施形態では、ユースポイント添加エネルギー源はグルコースである。特定の細胞株および産生されるタンパク質の特定且つ具体的な要件を考慮すると、1つの実施形態では、グルコースを、約1~20mMの濃度まで培地に添加することができる。いくつかの場合、グルコースを、20g/Lまたはそれを超える高レベルで添加することができる。
【0095】
キレート剤も同様に、細胞培養およびタンパク質産生の分野で周知である。EDTAテトラナトリウム二水和物(dehydrate)およびクエン酸塩は、当該分野で使用される2つの一般的なキレート剤であるが、他のキレート剤を本発明の実施において使用することができる。1つの実施形態では、ユースポイント添加キレート剤はEDTAテトラナトリウム二水和物である。1つの実施形態では、ユースポイント添加キレート剤は、クエン酸塩(Na3C6H5O7など)である。
【0096】
1つの実施形態では、細胞培養培地に、エネルギー源として1つまたは複数のユースポイント添加アミノ酸(例えば、グルタミンなど)をさらに補足することができる。1つの実施形態では、細胞培養培地に、ユースポイント添加グルタミンを約1mM~13mMの最終濃度で補足する。
【0097】
他のユースポイント添加物には、1つまたは複数の種々の金属塩(鉄、ニッケル、亜鉛、および銅の塩など)が含まれる。1つの実施形態では、細胞培養培地に、硫酸銅、硫酸亜鉛、塩化第二鉄、および硫酸ニッケルのうちの任意の1つまたは複数を補足する。
【0098】
いくつかの実施形態では、タウリン補足培地中の細胞から得られるタンパク質力価は、非タウリン補足で培養した細胞由来のタンパク質力価(収量)より少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%高い、少なくとも23%高い、少なくとも24%高い、少なくとも25%高い、少なくとも26%高い、少なくとも27%高い、少なくとも28%高いまたは少なくとも29%高い。いくつかの実施形態では、タウリン補足培地中の細胞から得られるタンパク質力価は、非タウリン補足培地で培養した類似の細胞または同一の細胞由来のタンパク質力価(収量)より少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、または少なくとも5%高い。
【0099】
いくつかの実施形態では、細胞培養中のアンモニア蓄積は、非タウリン補足培地における細胞培養と比較して、タウリン補足培地において4%より大きく、5%より大きく、6%より大きく、7%より大きく、8%より大きく、9%より大きく、10%より大きく、15%、または20%より大きく低下する。
【0100】
(タンパク質産生)
タウリン補足培地およびタウリン補足培地での細胞の培養方法に加えて、本発明は、タウリン補足培地で培養した細胞におけるタンパク質(治療に有効な抗体または他の生物医薬品薬物物質など)の改良された産生方法を提供する。本発明は、治療タンパク質を高収量で産生する方法であって、タウリンを含む培地中で組換え細胞株を培養する工程を含み、細胞株が、治療タンパク質をコードする安定に組み込まれた核酸を含む、方法を提供する。
【0101】
いくつかの実施形態では、タウリンを含む培地(タウリン補足培地)で培養した哺乳動物細胞によるタンパク質の力価(収量)は、非タウリン補足培地で培養した同一の哺乳動物細胞によるタンパク質の力価より少なくとも100mg/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.2g/L、少なくとも1.4g/L、少なくとも1.6g/L、少なくとも1.8g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.5g/L高い。
【0102】
いくつかの実施形態では、タウリン補足培地で培養した細胞由来の、培養培地のリットルあたりのタンパク質産物のグラムで表すことができるタンパク質収量または力価は、少なくとも100mg/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.2g/L、少なくとも1.4g/L、少なくとも1.6g/L、少なくとも1.8g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.5g/L、少なくとも3g/L、少なくとも、3.5g/L、少なくとも4g/L、少なくとも4.5g/L、少なくとも5g/L、少なくとも5.5g/L、少なくとも6g/L、少なくとも6.5g/L、少なくとも7g/L、少なくとも7.5g/L、少なくとも8g/L、少なくとも8.5g/L、少なくとも9g/L、少なくとも9.5g/L、少なくとも10g/L、少なくとも15g/L、または少なくとも20g/Lである。
【0103】
いくつかの実施形態では、タウリン補足培地中の細胞から得られるタンパク質力価は、非タウリン補足培地で培養した類似の細胞または同一の細胞由来のタンパク質力価(収量)より少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%高い、少なくとも24%高い、少なくとも25%高い、少なくとも26%高い、少なくとも27%高い、少なくとも28%高いまたは少なくとも29%高い。
【0104】
いくつかの実施形態では、タンパク質産物(目的のタンパク質)は、抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、抗原結合抗体フラグメント、単鎖抗体、ダイアボディ、トリアボディまたはテトラボディ、FabフラグメントまたはF(ab’)2フラグメント、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、またはIgG4抗体である。一実施形態では、抗体はIgG1抗体である。一実施形態では、抗体はIgG2抗体.一実施形態では、抗体はIgG4抗体である。一実施形態では、抗体はキメラIgG2/IgG4抗体である。一実施形態では、抗体はキメラIgG2/IgG1抗体である。一実施形態では、抗体はキメラIgG2/IgG1/IgG4抗体である。
【0105】
いくつかの実施形態では、抗体は、抗プログラム細胞死1抗体(例えば、米国特許出願公開第2015/0203579A1号に記載の抗PD1抗体)、抗プログラム細胞死リガンド-1(例えば、米国特許出願公開第2015/0203580A1号に記載の抗PD-L1抗体)、抗Dll4抗体、抗アンジオポエチン(Angiopoetin)-2抗体(例えば、米国特許第9,402,898号に記載の抗ANG2抗体)、抗アンジオポエチン(Angiopoetin)様3抗体(例えば、米国特許第9,018,356号に記載の抗AngPtl3抗体)、抗血小板由来成長因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,265,827号に記載の抗PDGFR抗体)、抗Erb3抗体、抗プロラクチン受容体抗体(例えば、米国特許第9,302,015号に記載の抗PRLR抗体)、抗補体5抗体(例えば、米国特許出願公開第2015/0313194A1号に記載の抗C5抗体)、抗TNF抗体、抗上皮成長因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,132,192号に記載の抗EGFR抗体または米国特許出願公開第2015/0259423A1号に記載の抗EGFRvIII抗体)、抗プロタンパク質転換酵素サブチリシンケキシン-9抗体(例えば、米国特許第8,062,640号または米国特許出願公開第2014/0044730A1号に記載の抗PCSK9抗体)、抗成長分化因子-8抗体(例えば、抗ミオスタチン抗体としても公知であり、米国特許第8,871,209号または同第9,260,515号に記載の抗GDF8抗体)、抗グルカゴン受容体(例えば、米国特許出願公開第2015/0337045A1号または同第2016/0075778A1号に記載の抗GCGR抗体)、抗VEGF抗体、抗IL1R抗体、インターロイキン4受容体抗体(例えば、米国特許出願公開第2014/0271681A1号または米国特許第8,735,095号もしくは同第8,945,559号に記載の抗IL4R抗体)、抗インターロイキン6受容体抗体(例えば、米国特許第7,582,298号、同第8,043,617号、または同第9,173,880号に記載の抗IL6R抗体)、抗IL1抗体、抗IL2抗体、抗IL3抗体、抗IL4抗体、抗IL5抗体、抗IL6抗体、抗IL7抗体、抗インターロイキン33(例えば、米国特許出願公開第2014/0271658A1号または同第2014/0271642A1号に記載の抗IL33抗体)、抗呼吸器合胞体ウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第2014/0271653A1号に記載の抗RSV抗体)、抗分化抗原群3(例えば、米国特許出願公開第2014/0088295A1号および同第20150266966A1号ならびに米国特許出願第62/222,605号に記載の抗CD3抗体)、抗分化抗原群20(例えば、米国特許出願公開第2014/0088295A1号および同第20150266966A1号ならびに米国特許第7,879,984号に記載の抗CD20抗体)、抗CD19抗体、抗CD28抗体、抗分化抗原群-48(例えば、米国特許第9,228,014号に記載の抗CD48抗体)、抗Fel d1抗体(例えば、米国特許第9,079,948号に記載)、抗中東呼吸器症候群ウイルス(例えば、米国特許出願公開第2015/0337029A1号に記載の抗MERS抗体)、抗エボラウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第2016/0215040号に記載)、抗ジカウイルス抗体、抗リンパ球活性化遺伝子3抗体(例えば、抗LAG3抗体または抗CD223抗体)、抗神経成長因子抗体(例えば、米国特許出願公開第2016/0017029号ならびに米国特許第8,309,088号および同第9,353,176号に記載の抗NGF抗体)、および抗アクチビンA抗体からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、抗CD3×抗CD20二重特異性抗体(米国特許出願公開第2014/0088295A1号および同第20150266966A1号に記載)、抗CD3×抗ムチン16二重特異性抗体(例えば、抗CD3×抗Muc16二重特異性抗体)、および抗CD3×抗前立腺特異的膜抗原二重特異性抗体(例えば、抗CD3×抗PSMA二重特異性抗体)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、アリロクマブ、サリルマブ、ファシヌマブ(fasinumab)、ネスバクマブ(nesvacumab)、デュピルマブ、トレボグルマブ(trevogrumab)、エビナクマブ(evinacumab)、およびリヌクマブ(rinucumab)からなる群から選択される。本開示を通して言及した全ての刊行物は、その全体が本明細書中で参考として組み込まれる。
【0106】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、Fc部分および別のドメインを含む組換えタンパク質(例えば、Fc-融合タンパク質)である。いくつかの実施形態では、Fc-融合タンパク質は、Fc部分にカップリングした受容体の細胞外ドメインを1つまたは複数含む受容体Fc-融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、Fc部分は、IgGのヒンジ領域の後にCH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態では、受容体Fc-融合タンパク質は、単一のリガンドまたは複数のリガンドのいずれかに結合する2つまたはそれを超える個別の受容体鎖を含む。例えば、Fc-融合タンパク質は、TRAPタンパク質(例えば、IL-1 trap(例えば、リロナセプト(hIgG1のFcに融合したIl-1R1細胞外領域に融合したIL-1RAcPリガンド結合領域含む);米国特許第6,927,004号(その全体が本明細書中で参考として組み込まれる)を参照のこと)またはVEGF trap(例えば、アフリベルセプトまたはziv-アフリベルセプト(hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含む);米国特許第7,087,411号および同第7,279,159号を参照のこと)など)である。他の実施形態では、Fc-融合タンパク質は、ScFv-Fc-融合タンパク質であり、このタンパク質は、1つまたは複数の抗原結合ドメイン(Fc部分にカップリングした抗体の重鎖可変フラグメントおよび軽鎖可変フラグメントなど)のうちの1つまたは複数を含む。
【0107】
本発明は、タンパク質産生用細胞のいかなる特定の型にも制限されない。タンパク質産生に適切な細胞型の例には、哺乳動物細胞、昆虫細胞、トリ細胞、細菌細胞、および酵母細胞が含まれる。細胞は、幹細胞、組換え遺伝子発現用ベクターで形質転換された組換え細胞、またはウイルス産物産生用のウイルスでトランスフェクトされた細胞であり得る。細胞は、目的のタンパク質をコードする組換え異種ポリヌクレオチド構築物を含み得る。この構築物は、エピソームであり得るか、細胞のゲノムに物理的に組み込まれた要素であり得る。細胞はまた、目的のタンパク質が異種ポリペプチド構築物にコードされることなく目的のタンパク質を産生することができる。換言すれば、細胞は、目的のタンパク質を天然にコードすることができる(抗体を産生するB細胞など)。細胞はまた、初代細胞(ニワトリ胚細胞など)または初代細胞株であり得る。有用な細胞の例には、BSC細胞、LLC-MK細胞、CV-1細胞、COS細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、RK細胞、TCMK-1細胞、LLCPK細胞、PK15細胞、LLC-RK細胞、MDOK細胞、BHK-21細胞、ニワトリ胚細胞、NS-1細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、BHK細胞、293細胞、RK細胞、Per.C6細胞、およびCHO細胞が含まれる。種々の実施形態では、細胞株は、CHO細胞誘導体(CHO-K1、CHO DUX B-11、CHO DG-44、Veggie-CHO、GS-CHO、S-CHO、またはCHOlec変異株など)である。
【0108】
1つの実施形態では、CHO細胞である細胞は、タンパク質を異所性に発現する。1つの実施形態では、タンパク質は、免疫グロブリン重鎖領域(CH1領域、CH2領域、またはCH3領域など)を含む。1つの実施形態では、タンパク質は、ヒトまたはげっ歯類の免疫グロブリンCH2領域およびCH3領域を含む。1つの実施形態では、タンパク質は、ヒトまたはげっ歯類の免疫グロブリンCH1領域、CH2領域、およびCH3領域を含む。1つの実施形態では、タンパク質は、ヒンジ領域ならびにCH1領域、CH2領域、およびCH3領域を含む。1つの実施形態では、タンパク質は、免疫グロブリン重鎖可変ドメインを含む。1つの実施形態では、タンパク質は、免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを含む。1つの実施形態では、タンパク質は、免疫グロブリン重鎖可変ドメインおよび免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを含む。1つの実施形態では、タンパク質は、抗体(ヒト抗体、げっ歯類抗体、またはキメラヒト/げっ歯類抗体(例えば、ヒト/マウス、ヒト/ラット、またはヒトハムスター)など)である。
【0109】
産生期を、振盪フラスコまたはウェイブバッグ(wave bag)から1リットルのバイオリアクターおよび大規模産業用バイオリアクターまでの任意の規模の培養で実施することができる。同様に、シードトレイン拡大期を、振盪フラスコまたはウェイブバッグから1リットルまたはそれを超える規模のバイオリアクターまでの任意の規模の培養で行うことができる。大規模プロセスを、約100リットルから20,000リットルまたはそれを超える体積で行うことができる。幾つかの手段(温度変化または化学的誘導など)のうちの1つまたは複数を用いてタンパク質産生を制御することができる。増殖期は、産生期より高温で生じ得る。例えば、増殖期は約35℃~38℃の第1の温度で生じることができ、産生期は、約29℃~37℃、任意選択的に、約30℃~36℃または約30℃~34℃の第2の温度で生じ得る。さらに、タンパク質産生の化学誘導物質(カフェイン、酪酸塩、タモキシフェン、エストロゲン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、およびヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)など)を、温度変化と同時、前、または後に添加することができる。誘導物質を温度変化の後に添加する場合、誘導物質を温度変化の1時間後から5日後に添加することができる(温度変化の1~2日後など)。産生細胞培養を、ケモスタットなどの連続供給培養系(C.Altamiranoら,2001前出を参照のこと)としてか、流加プロセス(Huang、2010前出)に従って実施することができる。
【0110】
本発明は、細胞培養プロセスを介したタンパク質産生の改良に有用である。本発明で使用される細胞株を、商業的または科学的に興味深いポリペプチドを発現するように遺伝子操作することができる。細胞株の遺伝子操作は、組換えポリヌクレオチド分子を用いた細胞のトランスフェクション、形質転換、もしくは、導入、または宿主細胞に所望の組換えポリペプチドを発現させるための別の変化(例えば、相同組換えおよび遺伝子活性化または組換え細胞の非組換え細胞との融合による)を含む。目的のポリペプチドを発現するように細胞または細胞株を遺伝子操作するための方法およびベクターは、当業者に周知である;例えば、種々の技術が、Current Protocols in Molecular Biology.Ausubelら,eds.(Wiley & Sons,New York,1988および年4回のアップデート);Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Laboratory Press,1989);Kaufman,R.J.,Large Scale Mammalian Cell Culture,1990,pp.15-69に例示されている。培養における成長に適切な広範な種々の細胞株が、American Type Culture Collection(Manassas,Va.)および販売者から利用可能である。産業で一般的に使用される細胞株の例には、VERO、BHK、HeLa、CVl(Cosが含まれる)、MDCK、293、3T3、骨髄腫細胞株(例えば、NSO、NSl)、PC12、WI38細胞、およびチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が含まれる。CHO細胞は、複雑な組換えタンパク質(サイトカイン、凝固因子、および抗体など)の産生のために広く使用されている(Braselら(1996),Blood 88:2004-2012;Kaufmanら(1988),J.Biol Chem 263:6352-6362;McKinnonら(1991),J MoI Endocrinol 6:231-239;Woodら(1990),J Immunol.145:3011-3016)。ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)欠損変異細胞株(Urlaubら(1980),Proc Natl Acad Sci USA 77:4216-4220)、DXBl1、およびDG-44は、有効なDHFR選択性を示し、且つ増幅可能な遺伝子発現系によってこれらの細胞中で高レベルの組換えタンパク質発現が可能であるので、望ましいCHO宿主細胞株である(Kaufman RJ.(1990),Meth Enzymol 185:537-566)。さらに、これらの細胞は接着培養物または懸濁培養物として操作が容易であり、比較的良好な遺伝子安定性を示す。CHO細胞およびCHO細胞によって組換え発現されたタンパク質は広く特徴付けられており、規制当局によって臨床的製造および商業的製造での使用が承認されている。いくつかの実施形態では、CHO細胞株は、米国特許出願公開第2010/0304436A1号、同第2009/0162901A1号、および同第2009/0137416A1号、ならびに米国特許第7,455,988B2号、同第7,435,553B2号、および同第7,105,348B2号に記載の細胞株である。
【0111】
本発明は、本明細書中に記載の特定の実施形態の範囲に制限されず、これらの実施形態は、本発明の各々の態様または実施形態の例示であることを意図する。機能的に等価な方法および構成成分は、本発明の範囲内である。本明細書中に記載の発明に加えて、前述の説明および添付の図面から本発明の種々の修正形態が当業者に自明である。かかる修正形態は、本発明の範囲内である。
【実施例0112】
(実施例1:タウリン補足による抗体価の改善)
実施例1A-ハイスループット振盪フラスコ培養:250mL振盪フラスコに、CHO-K1由来のモノクローナル抗体(Ab1)産生細胞株の種培養物を接種した。接種した細胞を35.5℃で17日間成長させ、必要に応じてグルコースおよび他の補足栄養素を供給した。細胞を、化学的に規定された(加水分解物を含まず、かつ無血清)基本培地中で成長させた。
【0113】
各培養フラスコは、補足なし(フラスコ1a)、または0日目に1mMタウリンを補足した(フラスコ1b)。
【表2】
*力価増加(%)についてのベースラインコントロール;フラスコ1bを補足ない培地における力価(フラスコ1a)と比較した。
^補足なし培養物と補足培養物との間の最終力価の相違が統計学的に有意である(p<0.05)。
【0114】
力価値を17日目に回収したタンパク質から計算し、この力価は、ベースラインと比較して統計学的に有意である(p<0.05)。タウリン補足培養物は、補足なし培養物に対し最終タンパク質力価が全体で8%増加する。
【0115】
実施例1B-ベンチトップ規模のバイオリアクター:類似する例であるが、大規模産生において、2Lバイオリアクターに、CHO-K1由来のモノクローナル抗体(Ab2、Ab3、またはAb4)産生細胞株の種培養物を接種した。接種した培養物を、温度35.5℃、DO設定点40.4%、および空気注入22ccmで14日間成長させた。Ab2およびAb3プロセスのpH設定値は7.0±0.15であり、Ab4プロセスのpH設定値は7.13±0.27であった。必要に応じて、グルコース、消泡剤、および基礎フィードをバイオリアクターに供給した。培養物を、補足なし培地(バイオリアクター2a、3a、4a)で成長させるか、約1mMタウリン補足培地(Ab2およびAb3)または約3mMタウリン補足培地(Ab4)(産生0日目に添加(それぞれ、バイオリアクター2b、3b、および4b))中で成長させた。
【0116】
抗体収量(力価)は、Ab2産生細胞については6.4g/Lであったが、タウリンを用いて成長させた細胞は8g/Lタンパク質を産生した。タウリン補足せずに成長させた細胞と比較した24%の力価の増加は統計学的に有意である(p<0.05)。得られたAb3産生培養物およびAb4産生培養物の最終力価も、タウリン非補足培養物と比較して、14日後に有意に高い(p<0.05)(それぞれ、11%および20%)。表3を参照のこと。
【表3】
*補足なし培地は、力価増加%についてのベースラインコントロールであり、ここで、バイオリアクター2b、3b、または4bの力価増加%を補足なし培地(それぞれ、バイオリアクター2a、3a、または4a)における力価と比較する。
^補足培養物と補足なし培養物との間の最終力価の相違は統計学的に有意である(p<0.05)。
【0117】
Ab3産生細胞培養物についてのタンパク質力価に関する経時変化をプロットし、タウリン補足によるタンパク質力価の有意な改善が、6日目より各培養日で認められた。
【表4】
*同日に回収した補足なし培地と比較した近似増加(%)
^タウリン補足を用いた力価の増加は、補足なし培地と比較して統計学的に有意である(p<0.05)。
【0118】
力価の有意な改善は、産生培養物において6日目という早期に認められた(タウリンを補足しない同一の培養物と比較して12%増加)。
図1も参照のこと。この経時変化における最大の相違は9日目に認められ(3aと比較してバイオリアクター3bにおいて29%の有意な(p<0.05)増加)、培養最終日(14日目)に11%の有意な(p<0.05)力価の増加が認められた。
【0119】
タウリン補足のタンパク質産生における利点が、異なる規模(実施例1Aおよび1B)および異なる細胞株(実施例1B)にわたって観察される。
【0120】
(実施例2:ハイスループット振盪フラスコ培養でのタウリン濃度変動における生産性の一貫性)
産生0日目の培養物へのタウリンの添加量を変化させることによって、タンパク質力価の一貫性を試験した。250mL振盪フラスコに、CHO-K1由来のモノクローナル抗体(Ab1)産生細胞株の種培養物を接種した。接種した細胞を35.5℃で14日間成長させ、必要に応じてグルコースおよび他の補足栄養素を供給した。細胞を、化学的に規定された(加水分解物なし、かつ無血清)基本培地中で成長させた。
【0121】
各培養物は、タウリンを含まないか(補足なし)、0.1mM、0.3mM、0.5mM、0.7mM、1mM、3mM、5mM、7.5mM、または10mMの濃度でタウリンを含んでいた。
【表5】
*補足なし培地は力価増加%についてのベースラインコントロールである。
#補足なしコントロールと比較した最終力価の相違は統計学的に有意である(p<0.1)。
^補足なしコントロールと比較した最終力価の相違は統計学的に有意である(p<0.05).
【0122】
タウリンを少なくとも0.1mM~10mMの範囲で補足した場合、タウリンの補足量を変動させても一貫して高力価であることを示す。タウリン補足条件についての最終力価は、補足なし条件と統計学的に異なっていた。0.1mMタウリンではp<0.1であり、0.3mM~10mMタウリンではp<0.05であった。
【0123】
(実施例3:ハイスループット振盪フラスコ培養におけるタウリン供給変動スケジュールの試験)
実施例3A:シードトレイン拡大期の間のタウリン添加:
【0124】
拡大シードトレイン期の培養物へのタウリン添加の利点を、ハイスループット振盪フラスコモデルで評価した。フラスコ6a(表6)では、Ab1産生CHO細胞を、1mMタウリンを補足した化学的に規定された(加水分解物なし、かつ無血清)基本培地中で解凍した。基礎培地のタウリン濃度を、拡大期を通して1mMに維持した。産生の間、培養基礎培地に、0日目に1mM タウリンを補足した。グルコースおよび栄養基礎フィードを、17日間の産生の間に必要に応じて供給した。
【0125】
フラスコ6b細胞は、シードトレイン拡大期を通して、タウリンを含まない(補足なし)の化学的に規定された(加水分解物なし、かつ無血清)基礎培地中で成長した。産生0日目に、培養基礎培地に、1mMタウリンを補足した。17日の産生の間に、グルコースおよび栄養基礎フィードを必要に応じて供給した。
【表6】
最終力価(17日目)の相違は、統計学的に有意ではない(p>0.1)。
【0126】
両条件(産生期のみ、またはシードトレインと産生期との組み合わせにおけるタウリン補足)についての最終(17日目)力価値は類似している。得られた力価は統計学的に有意ではない(p>0.1)。シードトレイン拡大期におけるタウリン添加の利点は、産生期におけるタウリン補足に類似している。
【0127】
実施例3B:産生期の間のタウリン供給変動スケジュール:標準的なタウリン供給の変動スケジュールがタウリン補足培養物のタンパク質力価に任意の影響を及ぼしたかどうかを決定するために、Ab1産生CHO細胞を成長させる類似の振盪フラスコ培養においてさらなる実験を行った。細胞を、供給スケジュールが前述と同一であり、グルコース/栄養基礎フィードを必要に応じて添加する実施例2に類似の変動培養条件に供した。
【0128】
Ab1産生培養物に、総量5mMのタウリンを補足した。タウリン供給変動スケジュールにおいて類似の生産性(7.1g/L、6.8g/L、および7.0g/L)が観察される。本実験で比較した力価値は統計学的に異なっていない(p>0.1)(表7を参照のこと)。
【表7】
14日の力価値間の相違は統計学的に有意でない(p>0.1)。
【0129】
タウリン供給スケジュールは、いかなる負の影響も及ぼさず、タウリン補足が産物収量に有利であるという結果も変化させない。したがって、タウリン補足を、0日目に1回加えるか、その後の産生期に加えるか、産生期に複数の間隔を置いて加えることができる。
【0130】
(実施例4:高処理ハイスループット振盪フラスコ培養におけるアンモニア副生成物の測定)
アンモニア副生成物を、Ab1産生CHO細胞のタウリン補足培養物について実施例2に類似の様式で行った14日後の培養物で測定した。細胞を、グルコース/栄養基本フィードを必要に応じて添加する上記に類似の変動培養条件に供した。
【表8】
*アンモニア減少%についてのベースラインコントロール;タウリン補足条件を補足なし培地中のアンモニアと比較した。
^アンモニア濃度の減少は統計学的に有意である(p<0.1)。
【0131】
Ab1産生細胞では、培地中へのタウリン補足は健康で持続可能な培養を補助し、アンモニア副生成物が32%減少していた。タウリン補足由来のアンモニア濃度の減少は統計学的に有意である(p<0.1)。
【0132】
本発明は、他の特定の実施形態で具体化することができる。