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  • 特開-海洋重力式基礎 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098128
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】海洋重力式基礎
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/32 20060101AFI20240711BHJP
   E02D 27/52 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
E02D27/32 A
E02D27/32 Z
E02D27/52 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024085756
(22)【出願日】2024-05-27
(62)【分割の表示】P 2020101322の分割
【原出願日】2020-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 宏紹
(72)【発明者】
【氏名】中村 直志
(57)【要約】
【課題】全方位からの水平力に対する抵抗性能を高められる海洋重力式基礎を提供する。
【解決手段】海洋重力式基礎11は、底部12が海底13に載置され、底部12の下面には凹状または凸状の錐体面14が形成され、錐体面14と海底とが密接されている。海洋重力式基礎11の自重W、底部12にかかる水平力P、水平力を分担する係数rとして、水平力Pに応じて海底13と底部12との摩擦により生じる抗力RはR=r×Wとなる。この係数rは摩擦方向が傾斜することで勾配角度θに応じて増加し、従って抗力Rを増大させることができる。錐体面14の勾配角度θは1度以上で10度以下である。底部12の周囲には下向きに拡がる錐台状の洗掘防止体18が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部が海底に載置され、直接基礎である海洋重力式基礎であって、
前記底部の下面に凹状または凸状の錐体面が形成され、前記錐体面と前記海底とが密接されていることを特徴とする海洋重力式基礎。
【請求項2】
底部が海底に載置され、直接基礎である海洋重力式基礎であって、
前記底部の下面に凹状または凸状の錐体面が形成され、前記錐体面と前記海底とが密接され、
前記錐体面の勾配角度は1度以上で10度以下であることを特徴とする海洋重力式基礎。
【請求項3】
底部が海底に載置され、直接基礎である海洋重力式基礎であって、
前記底部の下面に凹状または凸状の錐体面が形成され、前記錐体面と前記海底とが密接され、
前記底部の周囲には下向きに拡がる錐台状の洗掘防止体が設けられ、
前記洗掘防止体は、内側となる上縁が前記底部の周面に接続され、外側となる下縁が前記海底に接続されていることを特徴とする海洋重力式基礎。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載した海洋重力式基礎において、
前記底部には前記錐体面が複数設けられていることを特徴とする海洋重力式基礎。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海洋重力式基礎に関する。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電設備などの海洋構造物の固定式基礎として、杭打ちにより海底に固定される杭式基礎や、重量の大きな基礎ブロックを海底に載置して構造物を支持する重力式基礎などが用いられている(特許文献1,2参照)。
地盤が強固な場合、杭式基礎等は海上施工が煩雑になり工費・工期が増大するため、重力式基礎が用いられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-206474号公報
【特許文献2】特開2006-322400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の重力式基礎では、海底または海底に敷いた砕石などに基礎の底部を載置し、基礎に固定したタワーやブレード等の上部構造を支持している。これにより、上部構造および基礎自体の重量は、基礎から海底へと鉛直下向きに作用する。
また、基礎には風荷重や波力・潮流力・地震力などにより、360度の全方位から水平力および転倒モーメントが作用するが、これらも基礎の底部から海底に負担させている。
地盤が良好な場合、重力式基礎は鉛直下向きに作用する荷重に対して比較的容易に抵抗できる。転倒モーメントに対しては、基礎の底部を大きくすることで抵抗モーメントを増大させることができる。しかしながら、水平力対しては基礎の重量に比例する摩擦力で抵抗するため、抵抗力を増大させるには基礎を大きく重くする必要がある。基礎が大きくなると波力や地震力などの外力も増大するため、基礎がさらに大きくなり、施工性の悪化や建設コストの増大につながるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、全方位からの水平力に対する抵抗性能を高められる海洋重力式基礎を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の海洋重力式基礎は、底部が海底に載置される海洋重力式基礎であって、前記底部の下面に凹状または凸状の錐体面が形成され、前記錐体面と前記海底とが密接されていることを特徴とする。
本発明において、錐体面は、円錐面または多角錐面であり、多角錐面は三角錐面、四角錐面ないしそれ以上の面数の角錐面を含む。本発明の錐体面は、偏平な錐体形状つまり底面径に対して高さが十分小さく、後述するように勾配角度が緩やかな形状が好ましい。
このような本発明では、凹状の錐体面に密接する海底は凸状となり、凸状の錐体面に密接する海底は凹状となる。このような底部に対し、任意の方向から水平力が加えられた場合、底部と接触する海底に水平力に応じた抗力が生じるとともに、この抗力は前述した錐体面(円錐形状もしくは多角錐形状)の勾配によって増大される。
【0007】
図1(A)において、海洋重力式基礎1の底部2と海底3とが凹状の錐体面4で接する際には、海洋重力式基礎1の自重W、底部2にかかる水平力P、水平力を分担する係数rとして、水平力Pに応じて海底3と底部2との摩擦により生じる抗力RはR=r×Wとなる。この係数rは、錐体面4の勾配角度θ(母線の傾斜角度)、勾配がない状態での本来の摩擦係数μとして、r=(sinθ+μcosθ)/(cosθ-μsinθ)で与えられる。つまり、係数rは摩擦方向が傾斜することで勾配角度θに応じて増加し、従って抗力Rを増大させることができる。
【0008】
r=(sinθ+μcosθ)/(cosθ-μsinθ)は下記の通り導かれる。
自重Wの斜面直交成分Wcosθ、水平力Pの斜面直交成分Psinθ、として斜面直交荷重Wb=Wcosθ+Psinθとなり、斜面に沿った摩擦力はμ・Wb=μ(Wcosθ+Psinθ)となる。
一方、自重Wの斜面平行成分Wsinθ、水平力Pの斜面平行成分Pcosθ、として斜面平行荷重Pb=Wsinθ-Pcosθとなる。
海洋重力式基礎1が水平力Pでも動かないためには斜面平行荷重Pb<摩擦力(μ・Wb)が必要であり、言い換えると安全率SF=μ・Wb/PbとしてSF>1が必要である。
【0009】
図1(B)において、海洋重力式基礎1の底部2と海底3とが凸状の円錐面4Aで接する際でも同様であり、係数rは摩擦方向が傾斜することで勾配角度θに応じて増加し、従って抗力Rを増大させることができる。
【0010】
このような勾配を有する接触面による抗力の増大作用は、底部と海底とが錐体面で接触するため、水平力が360度のどの方向から作用しても、同じように得ることができる。
なお、錐体面は、頂点が尖った円錐形状もしくは多角錐形状であってもよく、頂点が平らな円錐台もしくは多角錐台などの錐台状であってもよい。また、底部の錐体面の周囲には平坦部があってもよいが、底部を有効利用するため、なるべく底部に対する錐体面の面積比率を高めることが望ましい。
【0011】
本発明の海洋重力式基礎において、前記錐体面の勾配角度は1度以上で10度以下であることが好ましい。
前述の通り、本発明では、錐体面の勾配角度を増すことで、底部とこれに密接する海底との間の摩擦力を増加させ、水平力に対する抗力を増すことができる。しかし、勾配角度が10度を超えると、海洋重力式基礎が滑り出す前に海底面が自己崩壊を起こす可能性がある。これに対し、本発明においては、勾配角度を10度以下とすることで、前述した抗力を確保しつつ安定した抵抗性能を高める効果を得ることができる。
【0012】
本発明の海洋重力式基礎において、前記底部には前記錐体面が複数設けられていることが好ましい。
このような本発明では、特定方向の水平力に対して、複数箇所で十分な抗力を生じさせることができる。また、底部に複数の錐体面を配置することで、底部に対する錐体面の面積比率を高めることができる。
なお、複数の錐体面の配置は、全方位の水平力に対応できるように、底部に対して点対称に配置するのがよい。また、径寸法(円錐面では底面の直径、多角錐面では底面の外接円または内接円の直径)が異なる複数の錐体面を組み合わせてもよい。
【0013】
本発明の海洋重力式基礎において、前記底部の周囲には下向きに拡がる錐台状の洗掘防止体が設けられていることが好ましい。
このような本発明では、海底に沿った潮流による洗掘防止が図れる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、全方位からの水平力に対する抵抗性能を高められる海洋重力式基礎を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の原理を示す模式図。
図2】本発明の第1実施形態の海洋重力式基礎を示す側面図。
図3】前記第1実施形態の設置状態を示す側面図。
図4】本発明の第2実施形態を示す側面図。
図5】本発明の第3実施形態を示す底面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図2において、洋上風力発電装置10は、風力発電設備19を洋上に支持する海洋重力式基礎11を備えている。
海洋重力式基礎11は、重量のあるコンクリート構造体あるいは鉄骨構造体で構成され、底部12が海底13に載置され、自重により固定されている。
【0017】
底部12の下面には凹状の錐体面14が形成されている。
海底13には、凹状の錐体面14と同形状の凸部15が形成され、この凸部15が錐体面14に収まることで錐体面14と海底13とが密接した状態とされている。
【0018】
錐体面14は円錐面とされ、その勾配角度(母線の傾斜角度)は1度以上で10度以下とされている。なお、錐体面14は多角錐面であってもよい。
底部12の周囲には、洗掘防止体18が設けられている。
洗掘防止体18は、底部12の周面途中から下向きに拡がる錐台状(円錐台状または角錐面台状)の鋼板製の部材であり、外側となる下縁が海底13に接続した状態で設置されている。
【0019】
図3において、海洋重力式基礎11を海底13に設置する際には、海底13に大まかな形状で凸部15を形成しておく。そして、凸部15の上方から底部12を被せることで、凸部15が錐体面14の内部に導入され、互いに密接される。
海洋重力式基礎11を海底13に設置したのち、その上に風力発電設備19を設置するとともに、底部12の周囲に洗掘防止体18を設置することで、洋上風力発電装置10を構築することができる。
【0020】
本実施形態においては、図3のように、海洋重力式基礎11の底部12に対し、任意の方向から水平力Pが加えられた場合、海底13に水平力Pに応じた抗力Rが生じる。この際、抗力Rは錐体面14および凸部15の錐体面状の勾配によって増大される。
【0021】
底部12の凹状の錐体面14と、海底13の凸部15とが接する際には、海洋重力式基礎11の自重W、底部12にかかる水平力P、水平力を分担する係数rとして、水平力Pに応じて海底13と底部12との摩擦により生じる抗力RはR=r×Wとなる。この係数rは、錐体面14の勾配角度θ(母線の傾斜角度)、勾配がない状態での摩擦係数μとして、r=(sinθ+μcosθ)/(cosθ-μsinθ)で与えられる。つまり、係数rは摩擦方向が傾斜することで勾配角度θに応じて増加し、従って抗力Rを増大させることができる。
その結果、本実施形態によれば、海洋重力式基礎11において、全方位からの水平力Pに対する抵抗性能を高めることができる。
【0022】
本実施形態では、錐体面14の勾配角度θを1度以上で10度以下の任意の角度としたため、抗力Rを確保しつつ安定した抵抗性能を高める効果を得ることができる。
すなわち、錐体面14の勾配角度θを増すことで、底部12の錐体面14とこれに密接する海底13の凸部15との間の摩擦力を増加させ、水平力Pに対する抗力Rを増すことができる。しかし、勾配角度が10度を超えると、海洋重力式基礎11が滑り出す前に海底13が自己崩壊を起こす可能性がある。これに対し、勾配角度を10度以下とすることで、抗力Rを確保しつつ安定した抵抗性能を高める効果を得ることができる。
【0023】
本実施形態では、底部12の周囲に下向きに拡がる錐台状の洗掘防止体18を設けたため、海底13に沿った潮流による洗掘を防止することができる。このことにより、海底13の凹凸形状を洗堀されることが無いため、抵抗性能を維持ないし高めることができる。
【0024】
〔第2実施形態〕
前述した第1実施形態では、洋上風力発電装置10の海洋重力式基礎11において、底部12の下面に凹状の錐体面14を形成し、海底13に形成した凸部15を錐体面14に密着させていた。
図4に示すように、本実施形態では、洋上風力発電装置10Aの海洋重力式基礎11Aにおいて、底部12の下面に凸状の錐体面14Aを形成し、海底13に形成した凹部15Aを錐体面14Aに密着させている。
なお、洋上風力発電装置10Aのその他の構成は、前述した洋上風力発電装置10と同様であり、重複する説明は省略する。
【0025】
このような本実施形態においても、凸状の錐体面14Aと凹部15Aとが接する際に、水平力Pに応じて海底13と底部12Aとの摩擦により抗力RはR=r×Wが生じる。この係数rは、第1実施形態と同様に、錐体面14Aの勾配角度θ(母線の傾斜角度)、勾配がない状態での本来の摩擦係数μとして、r=(sinθ+μcosθ)/(cosθ-μsinθ)で与えられる。つまり、係数rは摩擦方向が傾斜することで勾配角度θに応じて増加し、従って抗力Rを増大させることができる。
その結果、本実施形態によっても、海洋重力式基礎11Aにおいて、全方位からの水平力Pに対する抵抗性能を高めることができる。
【0026】
〔第3実施形態〕
前述した第1実施形態および第2実施形態では、底部12,12Aの下面に、凹状または凸状の錐体面14,14Aを1つ形成していた。ただし、このような錐体面14,14Aは複数形成してもよい。
図5において、本実施形態において、洋上風力発電装置10Bの海洋重力式基礎11Bは、底部12Bの下面には4つの錐体面14Bおよび5つの錐体面14Cが形成されている。図5に示す本実施形態の錐体面14B,14Cは円錐面であるが、多角錐面であってもよい。
【0027】
4つの錐体面14Bは、それぞれ錐体面14Cよりも大径とされている。5つの錐体面14Cは、それぞれ錐体面14Bの間に配置され、そのうち1つは底部12Bの下面の中心に配置されている。
本実施形態においては、複数の錐体面14B,14Cの大小異なる寸法とすることで、底部12Bの下面に大小の錐体面14B,14Cをなるべく隙間無く配置することができ、従って底部12Bの下面における錐体面14B,14Cの面積比率を高めることができる。
【0028】
〔変形例〕
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
第3実施形態において、錐体面14B,14Cは全て同じ径寸法としてもよく、3種類以上の径寸法としてもよい。また、錐体面14B,14Cは全て凹状としてもよく、または全て凸状としてもよく、あるいは一部が凸状で他が凹状としてもよい。
【0029】
第1実施形態および第2実施形態において、錐体面14,14Aは底部12,12Aの全面に形成してもよいが、錐体面14,14Aをやや小径に形成し、錐体面14,14Aの周辺に底部12,12Aの下面が残されていてもよい。錐体面14,14Aとしては、円錐面または多角錐面のいずれも用いてもよく、多角錐面としては三角錐面、四角錐面、あるいはそれ以上の面数であってもよく、これらの異なる種類の錐体面を混合して用いてもよい。
前記各実施形態において、底部12,12A,12Bは円柱状に限らず、角柱状その他の形状であってもよく、その下面の形状も円形や矩形に限らず他の形状であってもよい。
前記各実施形態において、海洋重力式基礎11,11A,11Bは、洋上風力発電装置10,10A,10Bの基礎に限らず、風力発電設備19とは異なる設備を洋上に支持するものであってもよい。
前記実施形態では、底部12の周囲に下向きに拡がる錐台状の洗掘防止体18を設けたが、これは省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は海洋重力式基礎に利用できる。
【符号の説明】
【0031】
10,10A,10B…洋上風力発電装置、11,11A,11B…海洋重力式基礎、12,12A,12B…底部、13…海底、14,14A,14B,14C…錐体面、15…凸部、15A…凹部、18…洗掘防止体、19…風力発電設備、θ…勾配角度。
図1
図2
図3
図4
図5