(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009813
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】防災用窓および防災用フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240116BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240116BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20240116BHJP
E06B 5/10 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B32B27/00 D
C09J7/38
B32B17/10
E06B5/10
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023155543
(22)【出願日】2023-09-21
(62)【分割の表示】P 2019237166の分割
【原出願日】2019-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2018245852
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 和彦
(57)【要約】
【課題】防災用窓を構成するために用いられる新規な防災用のフィルムを提供する。
【解決手段】本発明は、一態様において、ガラスに貼付されて防災用窓を構成するために用いられる防災用のフィルムであって、この防災用フィルムが、加撃体による衝撃を吸収するように、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ブチラール樹脂、軟質ポリビニルクロライド樹脂、アクリル系樹脂及び粘着剤からなる群から選択される少なくとも1種から形成された中間層、ならびにこの中間層の両面に配された樹脂製フィルムを含む防災用フィルムに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスに貼付されて防災用窓を構成するために用いられる防災用のフィルムであって、
この防災用フィルムが、加撃体による衝撃を吸収するように、
シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ブチラール樹脂、軟質ポリビニルクロライド樹脂、アクリル系樹脂及び粘着剤からなる群から選択される少なくとも1種から形成された中間層、ならびに
この中間層の両面に配された樹脂製フィルムを含む、
防災用フィルム。
【請求項2】
ガラスに貼付されて防災用窓を構成するために用いられる防災用のフィルムであって、
この防災用フィルムが、加撃体による衝撃を吸収するように、
シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ブチラール樹脂、軟質ポリビニルクロライド樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種から形成された層、ならびに
この層の少なくとも片面に配された樹脂製フィルムを含む、
防災用フィルム。
【請求項3】
中間層が粘着剤から形成されており、
複数の中間層の各々の両面に樹脂製フィルムが配されている、
請求項1に記載の防災用フィルム。
【請求項4】
防災用フィルムが厚み5mmのフロートガラスの少なくとも一方の面上の少なくとも一部分に貼付されたときに、防災用フィルムが貼付された任意選択の位置への運動エネルギー120Jの加撃体による垂直方向の複数回の衝突に対して、貫通が生じないか、または直径76mmの球が通る孔を生じず、かつ、上記加撃体による垂直方向の複数回の衝突に続いて平均風速が41m/s以上48m/s以下の垂直方向からの強風の圧力下に10分間連続で曝されたときに、直径76mmの球が通る孔を生じない、
請求項1~3のいずれか1項に記載の防災用フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の防災用フィルムを窓ガラスの少なくとも一方の面上の少なくとも一部に貼付してなる防災用窓、ならびに、
この防災用窓の窓枠の少なくとも一部と、窓ガラスの防災用フィルムが貼付されていない表面の少なくとも一部および/または窓ガラスの防災用フィルムが貼付された表面の少なくとも一部とを覆う補助施工用の樹脂製シート
を含む、防災用窓。
【請求項6】
防災用フィルムが、窓ガラスの端縁に設けられた窓枠から垂直方向に一定幅2mmの余白部を有して貼付されている場合に、補助施工用の樹脂製シートがこの余白部の全てを覆っている、請求項5に記載の防災用窓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物(例えば建築物や車両)に使用される防災用の窓(ウインドウ)、および、ガラスに貼付されて防災用窓を構成するために用いられる防災用のフィルムに関する。特に、本発明は、強風に起因した飛来物の加撃によってもガラスの貫通または孔形成を生じない程度に強化された防災用の窓、またはそのような防災用窓を構成するために用いられる防災用のフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
強風で生じた小石等の飛来物により窓ガラスが割れることを防止する飛散防止フィルムや、外力を加えても割れないように窓ガラスに貼る防犯フィルム等の窓ガラス用フィルムが開発されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
しかし、これら従来の飛散防止フィルムや防犯フィルムでは、台風等の災害時に木片や金属製の物体が飛んできて窓ガラスにぶつかるときの衝撃にまで耐えられる性能はない。つまり、従来の飛散防止フィルムや防犯フィルムでは、そのような大きな衝撃によって飛来物が窓ガラスにぶつかった場合、そのままガラスを貫通して飛来物が侵入し、建物内や車内に被害が及ぶことを防げるものではなかった。
また、例えば台風の影響により、飛来物が衝突して建物外装に孔などが生じると、平均秒速40~48mという強風が屋内に侵入して屋内気圧の急激な変化が起きるため、屋根が吹き飛び、あるいはシャッターカーテンが変形するといった建物の重大な損傷が起きることもあり、さらには家屋が倒壊する危険が増すこともある。
そのため、台風等の災害時に飛来物によって窓ガラスに開口(孔)が生じることを防ぐ必要がある。特に、窓(ウインドウ)は、建物外装で最も強度が小さいガラス素材であるため、台風災害時、飛来物によって開口を生じるリスクが高いという現状がある。
【0004】
一般的な防犯フィルムと防災フィルムとの間の要求貫通性能の違いは、後者では、加撃体による耐衝突エネルギー量がより大きいこと、及び窓ガラスのコーナー部分への衝撃でも貫通しないことが必要とされることである。すなわち、防犯フィルムに比べると、防災フィルムはかなり耐衝撃性能が高い必要がある。
とりわけ、窓ガラスにフィルムをいわゆる部分貼り(後述)している場合は、台風等の災害時の木片や金属製物体の加撃により、特にフィルムが貼られていない窓枠付近のガラスがむき出しになっているコーナー箇所(およそ2mmの幅の部分)から割れて、ガラスがめくれて貫通してしまう(すなわち開口部が大きく拡がる)という不都合がある。
【0005】
そこで、上記不都合を解消し、台風等の災害時に飛来物による強い衝撃があっても、致命的な開口(孔)が生じず、屋内の気密性を保つことができる性能を有する防災用窓または防災用窓を構成する防災用フィルムの開発が強く望まれている。そのような性能を満たす防災用窓または防災用窓を構成する防災用フィルムは、未だ開発・市販されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-180019号公報
【特許文献2】特開2004-155092号公報
【特許文献3】特開2018-65320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第一の課題は、従来技術にない、新規な防災用窓、または防災用窓を構成するために用いられる新規な防災用のフィルムを提供することである。
本発明の更なる課題は、台風等の災害時に飛来物による強い衝撃があっても、致命的な開口(孔)が生じず、屋内の気密性を保つことができる性能を有する防災用窓、またはそのような防災用窓を構成するために用いられる防災用のフィルムを提供することである。
本発明によって解決されることが望まれる別の課題は、好ましくは、JIS R3109(2018)の規格に合格するか、または、たとえ当該規格に及ばないとしても、それを僅かに下回る程度の良好な性能を有する防災用窓、またはそのような防災用窓を構成するために用いられる防災用のフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の諸態様は、以下のとおりである。
・第1の態様
[1].
構造物に使用される防災用の窓であって、
金属製の網がガラス内部に挿入された網入板ガラスの少なくとも一方の面上の少なくとも一部分に、JIS A5759:2008に規定されたガラス貫通防止性能を備えた樹脂製の防犯フィルムが貼付されている、
防災用窓。
[2].
防犯フィルムが、網入板ガラスの端縁に設けられた窓枠から垂直方向に一定幅2mmの余白部を有し、または当該余白部を有さずに、全体的に貼付されている、上記[1]項に記載の防災用窓。
[3].(第1の態様について望まれる特性)
防犯フィルムが貼付された任意選択の位置への運動エネルギー120Jの加撃体による垂直方向の複数回の衝突に対して、貫通が生じないか、または直径76mmの球が通る孔を生じず、かつ、上記加撃体による垂直方向の複数回の衝突に続いて平均風速が41m/s以上48m/s以下の垂直方向からの強風の圧力下に10分間連続で曝されたときに、直径76mmの球が通る孔を生じない、
上記[1]または[2]項に記載の防災用窓。
・第2の態様
[4].
ガラスに貼付されて防災用窓を構成するために用いられる防災用のフィルムであって、
この防災用フィルムが、加撃体による衝撃を吸収するように、
シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ブチラール樹脂、軟質ポリビニルクロライド樹脂、アクリル系樹脂及び粘着剤からなる群から選択される少なくとも1種から形成された中間層、ならびに
この中間層の両面に配された樹脂製フィルムを含む、
防災用フィルム。
[4-2]
ガラスに貼付されて防災用窓を構成するために用いられる防災用のフィルムであって、
この防災用フィルムが、加撃体による衝撃を吸収するように、
シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ブチラール樹脂、軟質ポリビニルクロライド樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種から形成された層、ならびに
この層の少なくとも片面に配された樹脂製フィルムを含む、
防災用フィルム。
[5].
中間層が粘着剤から形成されており、
複数の中間層の各々の両面に樹脂製フィルムが配されている、
上記[4]項に記載の防災用フィルム。
・第3の態様
[6].
ガラスに貼付されて用いられる、防災用のフィルムであって、
このフィルムが、複数の樹脂製フィルムの積層体であり、
この積層体が、加撃体による衝撃を分散させるように
(i)熱可塑性樹脂から形成された複数の一軸延伸フィルムの積層フィルムであり、隣接する一軸延伸フィルムの配向方向が互いに交差しているか、または
(ii)少なくとも1層が、複数の溝条または凹凸が形成された少なくとも1面を有する積層体である、
防災用フィルム。
[7].
ガラスに貼付されて用いられる、防災用のフィルムであって、
この防災用フィルムが、ポリカーボネート樹脂から形成されており、それによって加撃体による衝撃を分散させる、
防災用フィルム。
[8].
ガラスに貼付されて用いられる、防災用のフィルムであって、
この防災用フィルムが、加撃体による衝撃のガラスへの伝播を抑制するように、
金網、樹脂網、撚糸網、または、金属製、樹脂製もしくは撚糸製のフィラメントからなる群から選択される少なくとも1種から形成された中間層、ならびに
この中間層の両面に配された樹脂製フィルムを含む、
防災用フィルム。
[9].
ガラスに貼付されて用いられる、防災用のフィルムであって、
この防災用フィルムが、蜘蛛の糸または蓑虫の糸であるフィラメントから形成された複数層の積層体であり、それによって加撃体による衝撃のガラスへの伝播を抑制する、
防災用フィルム。
[9-2].
ガラスに貼付されて用いられる、防災用のフィルムであって、
この防災用フィルムが、加撃体による衝撃のガラスへの伝播を抑制するように、
金網、樹脂網、撚糸網、または、金属製、樹脂製もしくは撚糸製のフィラメントからなる群から選択される少なくとも1種から形成された層、ならびに
この層の少なくとも片面に配された樹脂製フィルムを含む、
防災用フィルム。
[10].(第2、第3の態様について望まれる特性)
防災用フィルムが厚み5mmのフロートガラスの少なくとも一方の面上の少なくとも一部分に貼付されたときに、防災用フィルムが貼付された任意選択の位置への運動エネルギー120Jの加撃体による垂直方向の複数回の衝突に対して、貫通が生じないか、または直径76mmの球が通る孔を生じず、かつ、上記加撃体による垂直方向の複数回の衝突に続いて平均風速が41m/s以上48m/s以下の垂直方向からの強風の圧力下に10分間連続で曝されたときに、直径76mmの球が通る孔を生じない、
上記[4]~[9-2]項のいずれか1項に記載の防災用フィルム。
・補助施工シートに係る実施態様
[11].
上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の防災用窓、ならびに、
この防災用窓の窓枠の少なくとも一部と、網入板ガラスの防犯フィルムが貼付されていない表面の少なくとも一部および/または網入板ガラスの防犯フィルムが貼付された表面の少なくとも一部とを覆う補助施工用の樹脂製シート
を含む、防災用窓。
[12].
防犯フィルムが、網入板ガラスの端縁に設けられた窓枠から垂直方向に一定幅2mmの余白部を有して貼付されている場合に、補助施工用の樹脂製シートがこの余白部の全てを覆っている、上記[11]項に記載の防災用窓。
[13].
上記[4]~[10]のいずれか1項に記載の防災用フィルムを窓ガラスの少なくとも一方の面上の少なくとも一部に貼付してなる防災用窓、ならびに、
この防災用窓の窓枠の少なくとも一部と、窓ガラスの防災用フィルムが貼付されていない表面の少なくとも一部および/または窓ガラスの防災用フィルムが貼付された表面の少なくとも一部とを覆う補助施工用の樹脂製シート
を含む、防災用窓。
[14].
防災用フィルムが、窓ガラスの端縁に設けられた窓枠から垂直方向に一定幅2mmの余白部を有して貼付されている場合に、補助施工用の樹脂製シートがこの余白部の全てを覆っている、上記[13]項に記載の防災用窓。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る好ましい態様の防災用窓によれば、台風等の災害時に飛来物による強い衝撃があっても、致命的な開口(孔)が生じず、屋内の気密性を保つことができる。
また、本発明に係る好ましい態様の防災用フィルムによれば、このフィルムを窓ガラスに貼付することによって、やはり台風等の災害時に飛来物による強い衝撃があっても、致命的な開口(孔)が生じず、屋内の気密性を保つことができる。
さらに、本発明に係る好ましい態様の防災用窓または防災フィルムが貼付された窓ガラスによれば、好ましくは、JIS R3109(2018)の規格に合格するか、または、たとえ当該規格に及ばないとしても、それを僅かに下回る程度の良好な性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第1の態様による防災窓の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2の態様による防災窓の一例を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の第3の態様による防災窓の一例を示す断面模式図である。
【
図4】
図4(a)は、本発明の一態様による防犯フィルムまたは防災用フィルムの前施工の一例を示す断面模式図である。
図4(b)は、本発明の一態様による防犯フィルムまたは防災用フィルムの後施工の一例を示す断面模式図である。
図4(c)は、本発明の一態様による防犯フィルムまたは防災用フィルムの後施工に対して補助施工シートを付設した構造の一例を示す断面模式図である。
【
図5】
図5(a)は、本発明の一態様による防犯フィルムまたは防災用フィルムの後施工に対して補助施工シートを付設した構造の一例を示す平面図である。
図5(b)は、その斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の諸態様について、図面も参照しながら詳細に説明する。
しかし、本発明は、以下の具体的な実施形態に限定されるものではなく、その範囲は添付の特許請求の範囲によって定められることに留意されたい。
【0012】
1.本発明の第1の態様(網入板ガラスと防犯フィルムとの組み合わせ)
本発明の第1の態様は、構造物に使用される防災用の窓であって、金属製の網がガラス内部に挿入された網入板ガラスの少なくとも一方の面上の少なくとも一部分に、JIS A5759:2008に規定されたガラス貫通防止性能を備えた樹脂製の防犯フィルムが貼付されている防災用窓である。
本発明者らは、過去のガラスとフィルムに関する物性試験結果を検討し、網入ガラスは「ガラスに加撃体が衝突しても割れがガラス全体に伝播しない」という特性を有し、これに防犯フィルムの「運動エネルギー120J程度の加撃体に対する耐久性がありガラスを割れにくくする」という性能を併せることで、驚くべきことに、台風等の災害時に飛来物による強い衝撃があっても、致命的な開口(孔)が生じず(すなわち開口が生じたとしても、開口部が大きく拡張するに至らず)、屋内の気密性を保つことができる強靭な防災用窓が得られることを見出した。
本態様による防災窓の一例の断面模式図を、
図1に示す。図中、1は防災窓、2は金属製の網(2a)がガラス内部に挿入された網入板ガラス、3は樹脂製の防犯フィルムを示す。(図中、2の網入板ガラスと3の防犯フィルムとの間に粘着剤(層)が配されることがあるが、図示していない。)
【0013】
ここでの網入板ガラス2は、金属製の網2aがガラス内部に挿入されたものであり、JIS R3204:2014「網入板ガラス及び線入板ガラス」の3.1および3.3~3.6項に規定された「網入板ガラス」、「網入磨き板ガラス」、「網入型板ガラス」(表面に凹凸装飾を施したもの)、「かく(角)網入板ガラス」、「ひし(菱)網入板ガラス」のいずれかを指す。
例えば、JIS R3204:2014の3.1項には、「線径0.4mm以上のJIS G0203に規定される金属製の網が、ガラス内部に挿入されている板ガラス。金属製の網は品質向上のため、めっきを施す場合もある。主たる機能に防火性があり、箇条8の防火性をもつもの。」と規定されている。
網入板ガラスの厚みは、特に限定されないが、6.8mmと10mmの2種類が一般的である。このうち、より典型的には、6.8mmの厚みを有する網入板ガラスが用いられる。
網入ガラスに用いられる金属製の網は、通常、ステンレス鋼製であってよく、また、亜鉛メッキ、その他錆止め等の公知の表面改質が施されていてよい。
【0014】
網入板ガラスを構成するガラス材は、上記規格を満たす限り、特に限定されないが、通常珪酸塩ガラスが用いられる。その他、グリーンガラス、無機ガラス板、無着色透明ガラス板と称される材料を用いることもできる。
ガラス板は、所望の厚みを達する限りは、単層であっても複層であってもよい。
また、網入板ガラスは、金属製の網がガラス内部に挿入されている以外に、その表面に金属製の透明の導電層が設けられてもよい。
【0015】
防犯フィルム3は、JIS A5759:2008の項目5-11に規定されたガラス貫通防止性能を備えた樹脂製のものである。
JIS A5759:2008の項目5-11には、
「ガラス貫通防止フィルムは,次のいずれかを満たさなければならない。
a)鋼球落下試験Aによる性能
ガラス貫通防止性能は、6.11によって試験したとき、鋼球がガラスを貫通しなかった落下高さが3000mm±50mmとする。
b)鋼球落下試験Bによる性能
ガラス貫通防止性能は、6.11によって試験したとき、鋼球がガラスを貫通しなかった落下高さが1500mm±50mmとする。」
と説明されている。
【0016】
窓ガラスを構成する網入板ガラス上への防犯フィルムの貼付方法は、ガラスの少なくとも一方の面上の少なくとも一部分である限り、特に限定されない。
防犯フィルムは、網入板ガラスの片面のみに貼付されても、両面に貼付されてもよい。施工作業性、意匠性や経済性の点からは、片面に貼付するのが好ましく、また、安全性の更なる改善の点からは、両面に貼付するのが好ましい。
一般的には、窓ガラスを構成する網入板ガラス上への防犯フィルムの貼付位置は、全てのガラス露出箇所への貼付、または、網入板ガラスの端縁に設けられた窓枠から垂直方向に一定幅2mmの余白部を有した貼付であるいわゆる部分貼り(当業界における技術用語)のいずれかであってよい。なお、ここでの窓枠は、窓ガラスの枠体であって、公知のいかなるものであってもよい(本明細書において以下同様)。
【0017】
防犯フィルム(単層または複数層)の厚みは、安全性、貫通防止性等の観点からより厚いほうが好ましいが、例えば、通常30μm以上であり、典型的には50μm以上であり、好ましくは100μm以上であってよい。
一方、防犯フィルムの厚みは、施工作業性の観点から、および、数10μm以上の厚みの複数のフィルムを積層して防犯フィルムを形成する場合の製造性を考慮し、例えば、通常2500μm以下、典型的には2000μm以下、好ましくは1500μm以下であってよい。
【0018】
防犯フィルムを構成する樹脂の種類は、JIS A5759:2008の項目5-11に規定されたガラス貫通防止性能を備える限りは、特に限定されない。
防犯フィルムを構成する樹脂としては、可撓性、柔軟性、弾性及び高強度などの特性を有することが望ましい。その例としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂を主成分とする合成樹脂や、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリビニルプチラール(PVB)、ポリカーボネートなどの樹脂を主成分とする合成樹脂が挙げられる。
防犯フィルムは、複数層のこれらの樹脂フィルムの積層体であってもよい。厚みが異なる複数の樹脂フィルムの積層体であってもよい。
また、防犯フィルムは、本発明の目的を阻害しない限り、ここで言及した樹脂フィルム以外の付加的な層を有してもよい。
【0019】
防犯フィルムの表面(窓ガラスへの適用面とは反対側の面)には、意匠性の点から、耐擦傷性を増大させるため、例えばUV(紫外線)硬化型樹脂から形成されたハードコートを設けてもよい。このようなUV硬化型樹脂の例としては、エチレン性二重結合を複数有するウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマー又はエポキシオリゴマー等のオリゴマー、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPEHA)等の一官能又は多官能オリゴマー、或いはベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル又はジベンジル等のオリゴマーが挙げられる。UV硬化型樹脂は、反応性稀釈剤または光重合開始剤を含んでよい。
【0020】
防犯フィルムは、通常、粘着剤(圧着剤)または接着剤を用いて網入板ガラス上へ貼付される。防犯フィルムのいわゆる全面貼りの場合は、粘着剤を使用した貼付の替わりに、防犯フィルムの形成時に防犯フィルムと網入ガラスとを一体的に成形・製造してもよい。部分貼りまたは全面貼りのいずれにおいても、施工容易性やメンテナンス又は廃棄作業性の点からは、粘着剤を使用した貼付がより好ましい。また、窓ガラスを構成する網入板ガラス上へ貼付して用いるものであることから、透明粘着剤を用いることがより好ましい。ここでいう透明性とは、通常、粘着剤の可視光線透過率が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上であることを指す。
【0021】
防犯フィルムを形成するこのような透明粘着剤としては、特に限定されないが、アクリル系粘着剤が好ましい。シリコーン系粘着剤もまた好ましい。上記アクリル系粘着剤は、アクリル系重合体と、所望に応じて用いる任意成分とを含む粘着剤組成物である。
上記アクリル系重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、及び(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸エステルモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びβ-カルボキシエチル(メタ)アクリレートなどのカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーなどの1種又は2種以上の混合物をモノマーとする重合体又は共重合体を挙げることができる。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸の意味である。(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの意味である。上記アクリル系重合体としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
上記任意成分としては、例えば、シランカップリング剤、1分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物、光重合開始剤、反応触媒、有機多価金属化合物、帯電防止剤、界面活性剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、汚染防止剤、印刷性改良剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、顔料、及びフィラーなどを挙げることができる。上記任意成分の配合量は、上記アクリル系重合体を100質量部として、0.01~20質量部程度であってよい。
【0022】
上記シリコーン系粘着剤としては、付加反応型シリコーン系粘着剤及び過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤の何れも用いることができる。上記付加反応型シリコーン系粘着剤は、ビニル基などの付加反応の可能な有機基を含むシリコーン系重合体;塩化白金酸等の白金化合物、ロジウム錯体、及びルテニウム錯体などの付加反応触媒;及び所望に応じて用いる任意成分を含む粘着剤組成物である。上記過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤は、シリコーン系重合体、過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物、及び所望に応じて用いる任意成分を含む粘着剤組成物である。
これらの粘着剤組成物に用いられる任意成分としては、例えば、帯電防止剤、界面活性剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、汚染防止剤、印刷性改良剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、顔料、及びフィラーなどを挙げることができる。上記任意成分の配合量は、上記シリコーン系重合体を100質量部として、0.01~20質量部程度であってよい。
【0023】
粘着剤は、防犯フィルムと網入ガラスとの接合面の一方または両方に、公知の方法を用いて適用されうる。一般的には、防犯フィルムの一面に予め粘着剤層を形成し、その上に離型紙を適用したものを用意する。
粘着剤の塗工方法としては、特に限定されないが、例えば、スプレー吹き付け法、フローコーティング法、ロールコート法、刷毛塗り法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、及びフレキソ印刷法等が挙げられる。
【0024】
本発明の第1の態様による防災用窓は、好ましくは、防犯フィルムが貼付された任意選択の位置への運動エネルギー約1.6J(直径8mm、2g±0.1gの鋼球が衝突速度39.7m/sを有するときに相当、JIS R3109の「A」相当)、好ましくは運動エネルギー約120J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、1kg±0.1kgの木材が衝突速度15.3m/sを有するときに相当、JIS R3109の「B」相当)、より好ましくは運動エネルギー約150J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、2.05kg±0.1kgの木材が衝突速度12.2m/sを有するときに相当、JIS R3109の「C」相当)、更により好ましくは運動エネルギー約350J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、3.0kg±0.1kgの木材が衝突速度15.3m/sを有するときに相当、JIS R3109の「JD」相当)、更により好ましくは運動エネルギー約480J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、4.1kg±0.1kgの木材が衝突速度15.3m/sを有するときに相当、JIS R3109の「D」相当)、最も好ましくは運動エネルギー約1220J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、4.1kg±0.1kgの木材が衝突速度24.4m/sを有するときに相当、JIS R3109の「E」相当)の加撃体による垂直方向の単数回または複数回(好ましくは、木材加撃体の使用時は1回、鋼球加撃体の使用時は計30回)の衝突に対して、貫通が生じないか、または直径76mmの球が通る孔を生じず、かつ、上記加撃体による垂直方向の単数回または複数回の衝突に続いて平均風速が41m/s以上48m/s以下の垂直方向からの強風の圧力下に10分間連続で曝されたときに、直径76mmの球が通る孔を生じないものであってよい。
この試験方法は、JIS R3109:2018「建築用ガラスの暴風時における飛来物衝突試験方法」に準じる。加撃体の衝突位置(ガラスの種類ごとに定められる)は、上記規格に説明されている。そこに規定されている所定の衝突位置にて上記試験に合格することは、任意選択の衝突位置においても上記試験に合格することが高い確率で推定され得ることを意味するものと、当業者であれば理解することができる。
本発明の第1の態様による防災用窓は、JIS R3109:2018の表3に規定された防護レベル2(住宅、商工業用建築物などに必要とされる防護レベル)を満たすことが好ましく、防護レベル3(大規模オフィスビル、学校、ショッピングセンター、ホテルなどの1ヶ所に大勢の人が集まる建築物や構造物に必要とされる防護レベル)を満たすことがさらに好ましい。
【0025】
防災性能評価のための上記加撃体の衝突方法の代替手段(JIS R3108に基づく試験)として、運動エネルギー約120J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ3000±50mmから落下させるときに相当)、より好ましくは運動エネルギー約240J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ6000±50mmから落下させるときに相当)、さらに好ましくは運動エネルギー約360J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ9000±50mmから落下させるときに相当)、最も好ましくは運動エネルギー約480J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ12000±50mmから落下させるときに相当)の加撃体を用い、防災用窓上の防犯フィルム貼付箇所の中心において、1辺130±20mmの正三角形の各頂点に1回ずつ計3回加撃体を落下(衝突)させてもよい。
更なる代替手段として、落球高さ9mから、試験ガラス板の中央から半径5cmの円内に1回落球させること以外は、JIS R3108に基づき、落球試験を行うことができる。この際、JIS R3109に基づいて、次の評価を行うことができる。
A:試験後のガラスでは、直径76mmの球が通る孔(開口)が生じず、かつ、長さが125mmを超える裂け目が生じない。
B:試験後のガラスでは、直径76mmの球が通る孔(開口)が生じる、または、長さが125mmを超える裂け目が生じる。
なお、この衝撃試験(落球高さ9m)における衝撃は、JIS R3109の「JD」相当のエネルギー量(運動エネルギー350J)を有する。
あるいは、更なる代替手段として、所定の運動エネルギーを有する加撃体による衝撃を用いてもよい。
【0026】
2.本発明の第2の態様(中間層におけるクッション性素材の使用)
本発明の第2の態様は、ガラスに貼付されて防災用窓を構成するために用いられる防災用のフィルムであって、この防災用フィルムが、加撃体による衝撃を吸収するように、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ブチラール樹脂、軟質ポリビニルクロライド樹脂(いわゆる塩化ビニル樹脂(塩ビ樹脂))、アクリル系樹脂及び粘着剤からなる群から選択される少なくとも1種から形成された中間層(衝撃吸収層)、ならびにこの中間層の両面に配された樹脂製フィルムを含む防災用フィルムである。
また、これを以下のように変形した態様とすることもできる:
ガラスに貼付されて防災用窓を構成するために用いられる防災用のフィルムであって、この防災用フィルムが、加撃体による衝撃を吸収するように、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ブチラール樹脂、軟質ポリビニルクロライド樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種から形成された層(衝撃吸収層)、ならびにこの層の片面に配された樹脂製フィルムを含む、防災用フィルム。(なお、以降では、理解の単純化のため、上記した「中間層」を含む態様について主に説明するが、後述のとおり、「中間層」を含む態様についての個々の説明事項は、特に言及しない場合でもこの変形態様にも同様に適用され得る。)
本発明者らは、所定の成分群から選択されるクッション性を有する素材から形成された中間層と、その両面(上記変形形態では片面)に配された樹脂製フィルムとから防災用フィルムを構成し、これを窓ガラスに貼付することによって、驚くべきことに、台風等の災害時に飛来物による強い衝撃があっても、上記構成によって衝撃を吸収し、致命的な開口(孔)が生じず、屋内の気密性を保つことができることを見出した。
本態様による防災用フィルムとフロートガラスとを組み合わせた構造の一例の断面模式図を
図2に示す。図中、4は防災用フィルム、5は中間層、6は樹脂製フィルム、7はフロートガラス(防災用フィルムの貼付対象物)を示す。(図中、各層の間に第1の態様と同様の粘着剤(層)が配されることがあるが、図示していない。)
【0027】
本態様において、中間層(衝撃吸収層)5は、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ブチラール樹脂、軟質ポリビニルクロライド樹脂、アクリル系樹脂及び粘着剤からなる群から選択される少なくとも1種から形成される。これらの樹脂から中間層を形成することによって、防災用フィルム4にクッション性が付与され、加撃体による衝撃を吸収することが可能になる。
これらの樹脂の中でも好ましい例として、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ブチラール樹脂および軟質ポリビニルクロライド樹脂(塩化ビニル樹脂)が挙げられる。すなわち、好ましい中間層(衝撃吸収層)の例として、シリコーン樹脂層、ウレタン樹脂層、軟質ポリビニルクロライド樹脂層(塩化ビニル樹脂層)、ブチラール樹脂層等が挙げられるが、これらに限定されない。
中間層がいずれの化合物で形成されている場合でも、中間層は単層であってもよく、複数層であってもよい。中間層5が複数層の際に、各層の中間層と樹脂製フィルム6とが交互に配される構成としてもよい。
【0028】
本態様の中間層に用いられるシリコーン樹脂は、クッション性を有するシリコーンゲルである。シリコーンゲルは、特に限定されず、公知のいかなる方法によって製造されたものであってもよい。
例えば、シリコーンゲルは、特開2003-261776号公報、特開2005-161780号公報、特開2008-291232号公報等に記載された方法によって製造することができる。
ここでのシリコーン樹脂には、シリコーンゴムと称される化合物群も含まれる。また、シリコーン樹脂は、多孔性のものであってもよい。
シリコーン樹脂から形成された中間層(衝撃吸収層)の典型例としては、株式会社タイカ製のシリコーン性シート「アルファゲル」(αGEL)が挙げられる。
【0029】
ウレタン樹脂は、クッション性、伸縮性(伸び)を有するため、本態様の中間層を形成するために好ましく用いられる。本態様の中間層に用いられるウレタン樹脂は、クッション性、伸縮性(伸び)を有する限り特に限定されないが、ポリウレタンフォームまたは熱可塑性ポリウレタンであってよい。このようなウレタン樹脂は、公知のいかなる方法によって製造されたものであってもよい。
ポリウレタンフォームは、通常、有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールとを、触媒、発泡剤、整泡剤の存在下、さらには必要に応じて架橋剤および他の任意選択の添加剤を用いて反応させることによって、製造することができる。
熱可塑性ポリウレタンは、透明性を有するものが好ましい。このような透明性を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂は、特に限定されないが、代表例としては、ディアイシーコベストロポリマー株式会社から市販されている「PANDEX」シリーズ、「Desmopan」シリーズ、「Texin」シリーズ、日本マタイ株式会社から市販されている「エスマーURS」、「エスマーMLS」が挙げられる。ポリウレタンフィルムの他の例としては、(株)武田産業製ポリウレタンフィルム「Tough Grace Film TG88-I」(商品名)が挙げられる。
【0030】
ポリウレタンフォームを形成するためのポリオ-ルとしては、特に限定されないが、反応性水酸基を2個以上持つポリエーテルポリオール、ポリマーポリオール及びポリエステルポリオールなどが挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、例えばグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、シュークロースなどの多価アルコール、アンモニア、エチレンアミンなどの脂肪族アミン化合物、トルエンジアミン、ジフェニルメタン-4,4’-ジアミンなどの芳香族アミン化合物及び/又はこれらの混合物にエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加して得られるポリエーテルポリオールなどが挙げられる。ポリマーポリオールとしては、該ポリエーテルポリオールとエチレン性不飽和単量体、例えばブタジエン、アクリロニトリル、スチレンなどをラジカル重合触媒の存在下に反応させたものが挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、二塩基酸と多価アルコールより製造されるもの、例えばポリエチレンアジペートやポリエチレンテレフタレート系などが挙げられる。
ポリウレタンフォームを形成するためのポリイソシアネートとしては、公知の有機ポリイソシアネートであれば良く、例えばトルエンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、それらの重合イソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート;またはそれらをポリオールと反応させたトルエンジイソシアネートプレポリマー、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートプレポリマーなどのイソシアネート末端プレポリマー;カーボジイミド変性などの変性イソシアネート;それらの混合ポリイソシアネートが挙げられる。
ポリウレタンフォームを形成するための発泡剤としては、低沸点のハロゲン化炭化水素及び/又は水が挙げられる。ハロゲン化炭化水素としては、公知のハロゲン化メタン、ハロゲン化エタン類が使用できる。
ポリウレタンフォームを形成するための整泡剤としては、例えばオルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレン共重合体、シリコーン-グリコール共重合体等の非イオン系界面活性剤、またはこれらの混合物などが挙げられる。
ポリウレタンフォームを形成するための触媒としては、トリエチルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチレンジアミン、テトラメチルヘキサメチレンジアミンなどのアミン触媒が挙げられる。他の触媒としては、分子内に反応性の一級アミノ基、二級アミノ基を有するアミン触媒、分子内に反応性の一級のヒドロキシル基を有するアミン触媒、分子内に二級のヒドロキシル基を有するアミン触媒とトリエチレンジアミンとの併用などが挙げられる。
【0031】
本態様の中間層に用いられるエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA樹脂)は、クッション性を有するものである限り、特に限定されず、公知のいかなるものでも用いることができる。
例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は、特開昭62-32129号公報、特表2003-504439号公報、特開2012-71502号公報等に記載された方法によって製造することができる。
【0032】
本態様の中間層に用いられるブチラール樹脂は、クッション性を有するポリビニルブチラール(PVB)である。
ポリビニルブチラールは、ポリビニルアルコールとアルデヒドのアセタール化反応(分子内環化反応)によって生成される化合物であり、公知のいかなるものを用いてもよい。
反応の理論としては、例えば、高分子論文集(Kobunshi Ronbunshu),Vo1.50,No.1,pp.49-56(Jan.,1993)、「高アセタール化ポリビニルブチラール:高アセタール化ポリビニルブチラールの概念と合成」(前田裕子他)において説明されている。
ポリビニルブチラール(PVB)の典型例としては、株式会社クラレから商品名「モビタール」として市販されているものが挙げられる。また、ポリビニルブチラール(PVB)シートの他の例としては、積水化学(株)製「S-LEC Film」(商品名)が挙げられる。
【0033】
本態様の中間層に用いられる軟質ポリビニルクロライド(塩化ポリビニル:PVC)樹脂は、クッション性を有する限り限定されず、公知のものを用いることができる。
軟質ポリビニルクロライド樹脂を構成する塩化ビニルポリマーは、特に限定されず、例えば塩化ビニル単独重合体、塩素化塩化ビニル重合体、塩化ビニル単量体およびこれと共重合し得るすべての単量体のうち1種若しくは2種以上によるランダム共重合、グラフト共重合若しくはブロック共重合で得られる塩化ビニル共重合体等が挙げられる。上記重合体の1種または2種以上の混合物が使用されうる。
【0034】
塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体としては、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体であればいかなるものも使用されうる。その例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン-1、ブタジエン、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、シアン化ビニリデン、メチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、メトキシスチレン等のアリールエーテル類、ジメチルマレイン酸等のジアルキルマレイン酸類、フマル酸ジメチルエステル等のフマル酸エステル類、N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルシラン類、アクリル酸ブチルエステル等のアクリル酸アルキルエステル類又はメタクリル酸メチルエステル等のメタクリル酸アルキルエステル類等を挙げることができる。
PVCの重合度は、特に制限されることはないが、成形時の加工性に優れるために400以上10000以下のものが好ましい。
【0035】
塩化ビニルポリマーにはイソシアネート基3個以上を有する化合物(1種または複数種)を混合してよい。このようなイソシアネート基3個以上を有する化合物の例としては、ジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート若しくは4-イソシアネートメチル-1,8-オクタメチルジイソシアネート等のトリイソシアネート類又はジイソシアネートのビュレット変性体、アロファネート変性体、アダクト体若しくはポリフェニルメタンポリイソシアネート等の多官能イソシアネート類等が挙げられる。また、ジイソシアネートとしては、例えば2,4-若しくは2,6-トリレンジイソシアネート、m-若しくはp-フェニレンジイソシアネート、1-クロロフェニレン-2,4-ジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、メチレンビスフェニレン-4,4’-ジイソアネート、m-若しくはp-キシレンジイソアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、4,4’-メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート又はトリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0036】
さらに、塩化ビニルポリマーにはポリマーポリオール(1種または複数種)を混合してよい。このようなポリマーポリオールの例としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ひまし油系ポリオール、エチレン-酢ビ共重合体等が挙げられる。
上述のポリマーポリオールとイソシアネート基3個以上を有する化合物におけるイソシアネート基/水酸基のモル比は、得られる組成物の圧縮永久歪性能および加工性の観点から、例えば0.2~2の範囲であってよい。また、ポリマーポリオールとイソシアネート基3個以上を有する化合物の合計量は、得られる組成物の圧縮永久歪および加工性の観点から、例えば、塩化ビニルポリマー100重量部に対して30重量部以上900重量部以下であってよい。
【0037】
さらに、塩化ビニルポリマーには可塑剤(1種または複数種)を混合してよい。このような可塑剤の例としては、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ブチルベンジル又はイソフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等のフタル酸系可塑剤;アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジ-n-デシル、アジピン酸ジイソデシル、セバシン酸ジブチル又はセバシン酸ジ-2-エチルヘキシルなどの脂肪族エステル系可塑剤;トリメリット酸トリオクチル又はトリメリット酸トリデシル等のトリメリット酸系可塑剤;リン酸トリブチル、リン酸トリ-2-エチルヘキシル、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル又はリン酸トリクレジル等のリン酸エステル系可塑剤;エポキシ系大豆油などのエポキシ系可塑剤;ポリエステル系高分子可塑剤等が挙げられる。
【0038】
これらの原料の反応触媒として、一般的なウレタン化反応触媒を用いることができる。ウレタン化反応触媒の例としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン若しくはN-メチルモルホリン等のアミン系触媒又はテトラメチル錫、テトラオクチル錫、ジメチルジオクチル錫、トリエチル錫塩化物、ジブチル錫ジアセテート若しくはジブチル錫ジラウレート等の錫系触媒等が挙げられる。
【0039】
軟質ポリビニルクロライド樹脂は、上記成分に加えて、安定剤等の他の任意の添加剤を含んでよい。安定剤の例としては、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸カドミウム等の金属石鹸系安定剤;エポキシ化大豆油又はエポキシ化アマニ油等のエポキシ系安定剤;ハイドロタルサイト系化合物;他のホスファイト系安定剤等が挙げられる。その他の任意成分としては、滑剤、着色剤、炭酸カルシウム若しくはタルク等に代表される無機充填材又は紫外線吸収剤などの耐光性安定剤等が挙げられる。
【0040】
軟質ポリビニルクロライド樹脂は、例えば、上述の成分をせん断応力下、加熱溶融混練することにより得られる。
【0041】
本態様の中間層に用いられるアクリル系樹脂は、クッション性を有する限り特に限定されず、公知のものであってよい。
このアクリル系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を含む共重合体、及びこれらの変性体などを挙げることができる。
【0042】
上記(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル・(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸エチル・(メタ)アクリル酸ブチル共重合体などを挙げることができる。
【0043】
上記(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を含む共重合体としては、例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、ビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、無水マレイン酸・(メタ)アクリル酸メチル共重合、及びN-置換マレイミド・(メタ)アクリル酸メチル共重合体などを挙げることができる。
【0044】
上記変性体としては、例えば、分子内環化反応によりラクトン環構造が導入された重合体;分子内環化反応によりグルタル酸無水物が導入された重合体;及び、イミド化剤(例えば、メチルアミン、シクロヘキシルアミン、及びアンモニアなど)と反応させることによりイミド構造が導入された重合体(ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂)などを挙げることができる。
【0045】
本態様の中間層に用いられる粘着剤としては、上記第1の態様にて説明したものと同様のものを用いることができる。
すなわち、この粘着剤としては、特に限定されないが、上で例示したアクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤である透明粘着剤と、所望に応じて用いる任意成分とを含む粘着剤組成物を使用可能である。
【0046】
上記アクリル系粘着剤は、アクリル系重合体と、所望に応じて用いる任意成分とを含む粘着剤組成物である。
上記アクリル系重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、及び(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸エステルモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びβ-カルボキシエチル(メタ)アクリレートなどのカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーなどの1種又は2種以上の混合物をモノマーとする重合体又は共重合体を挙げることができる。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸の意味である。(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの意味である。上記アクリル系重合体としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
上記任意成分としては、例えば、シランカップリング剤、1分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物、光重合開始剤、反応触媒、有機多価金属化合物、帯電防止剤、界面活性剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、汚染防止剤、印刷性改良剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、顔料、及びフィラーなどを挙げることができる。上記任意成分の配合量は、上記アクリル系重合体を100質量部として、0.01~20質量部程度であってよい。
【0047】
上記シリコーン系粘着剤としては、付加反応型シリコーン系粘着剤及び過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤の何れも用いることができる。上記付加反応型シリコーン系粘着剤は、ビニル基などの付加反応の可能な有機基を含むシリコーン系重合体;塩化白金酸等の白金化合物、ロジウム錯体、及びルテニウム錯体などの付加反応触媒;及び所望に応じて用いる任意成分を含む粘着剤組成物である。上記過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤は、シリコーン系重合体、過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物、及び所望に応じて用いる任意成分を含む粘着剤組成物である。
これらの粘着剤組成物に用いられる任意成分としては、例えば、帯電防止剤、界面活性剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、汚染防止剤、印刷性改良剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、顔料、及びフィラーなどを挙げることができる。上記任意成分の配合量は、上記シリコーン系重合体を100質量部として、0.01~20質量部程度であってよい。
【0048】
本態様において、中間層が粘着剤から形成されている場合において、複数個(2個以上)の中間層を配し、それらの中間層の各々の両面に樹脂製フィルムを配する構成をとってよい。この場合、中間層は少なくとも3個以上形成するのがより好ましく、4層以上形成することが更に好ましい。より多くの粘着剤中間層を有することにより、加撃体による衝撃の吸収がより容易になる。
例えば、粘着剤から形成された中間層の両面にポリエチレンテレフタレート(PET)製の樹脂製フィルムが配されるときには、PET層/粘着層/PET層/粘着層・・・という構成(すなわち、割れにくい層/割れやすい加工をした層/割れにくい層/割れやすい加工した層・・・)になる。このような構成によって、加撃体の衝撃をより効率的に吸収することが可能になる。
【0049】
中間層の厚み(複数層の場合はそれらの合計厚み)は、特に限定されないが、例えば、3μm~6000μmであってよく、好ましくは5μm~4000μmであってよい。
【0050】
本態様の中間層の両面に配された樹脂製フィルムを形成する樹脂は、特に限定されないが、透明性を有するフィルムを形成可能な樹脂が好ましい。ここでの透明性は、上記と同じく、通常、樹脂製フィルムの可視光線透過率が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更により好ましくは85%以上、なお一層好ましくは90%以上であることを指す。
このような透明性を有する樹脂製フィルムの例としては、トリアセチルセルロース等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;エチレンノルボルネン共重合体等の環状炭化水素系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、及びビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のアクリル系樹脂;芳香族ポリカーボネート系樹脂;ポリプロピレン、及び4-メチル-ペンテン-1等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリマー型ウレタンアクリレート系樹脂;及びポリイミド系樹脂などのフィルムを挙げることができる。これらのフィルムは、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。また、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層フィルムを用いてもよい。
【0051】
本態様の中間層の両面に配された樹脂製フィルムの厚み(複数層の場合はそれらの合計厚み)は、特に限定されないが、例えば30μm~600μmであってよく、好ましくは40μm~400μmであってよい。
【0052】
本態様の防災用フィルムは、本発明の目的を阻害しない限り、ここで言及した中間層、樹脂製フィルム、またはそれを接合するために用いられる粘着剤以外に、付加的な層を有してもよい。
【0053】
このような付加的な層の例としては、上記樹脂製フィルムの耐擦傷性増大の観点から、例えばUV(紫外線)硬化型樹脂から形成されたハードコートが挙げられる。このようなUV硬化型樹脂の例としては、エチレン性二重結合を複数有するウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマー又はエポキシオリゴマー等のオリゴマー、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPEHA)等の一官能又は多官能オリゴマー、或いはベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル又はジベンジル等のオリゴマーが挙げられる。UV硬化型樹脂は、反応性稀釈剤または光重合開始剤を含んでよい。
【0054】
本態様の防災用フィルムの全厚(単層または複数層の中間層、樹脂製フィルム、それを接合するための粘着剤、その他の任意の付加的な層を含めた合計厚)は、安全性、貫通防止性等の観点からより厚いほうが好ましいが、例えば、通常50μm以上であり、好ましくは80μm以上であり、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは120μm以上であってよい。
一方、本態様の防災用フィルムの全厚は、施工作業性の観点から、および、数10μm以上の厚みの複数の中間層を積層する場合の製造性を考慮し、例えば7000μm以下、典型的には3500μm以下、好ましくは2000μm以下であってよい。
【0055】
本態様の防災用フィルムは、各層を片面側から(粘着剤を用い/または用いず)順次形成してもよいし、あるいは、いったん各層を形成しておいて、続いてそれらの層の片面あるいは両面に粘着剤を適用して一体化させてもよい。
各層の原料組成物または粘着剤の塗工方法としては、特に限定されないが、上記同様、スプレー吹き付け法、フローコーティング法、ロールコート法、刷毛塗り法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、及びフレキソ印刷法等が挙げられる。
【0056】
なお、本態様の防災用フィルムにおいて、中間層が、粘着剤以外のシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ブチラール樹脂、軟質ポリビニルクロライド樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種から形成された場合には、中間層の両面に配された樹脂製フィルムの一方を粘着剤で代替してもよい。
この実施形態での粘着剤は、中間層を保護・被覆する樹脂製フィルムの代用としての役割と、この防災用フィルムと組み合わせるガラスへの接合の役割とを兼ねることになる。従って、この場合の粘着剤の種類としては、上記したものが使用され得る。
この実施形態での粘着剤が形成する層の厚みは、例えば20μm~500μmであってよい。また、この実施形態の防災用フィルムの全厚は、上記した範囲内であってよい。
【0057】
本態様による防災用フィルムと組み合わせるガラスは、特に限定されないが、網入板ガラスではない汎用のフロート板ガラス(金属製の網が内部に挿入されていない)が主に想定される。
ここでのフロート板ガラスは、JIS R3202:2011「フロート板ガラス及び磨き板ガラス」に規定されたフロート板ガラスを指す。
このようなフロート板ガラスは、通常珪酸塩ガラスで形成されている。
フロート板ガラスの厚みは、通常、2ミリ、2.5ミリ、3ミリ、4ミリ、5ミリ、6ミリ、6.5ミリ、8ミリ、10ミリ、12ミリ、13ミリ、15ミリ、19ミリ、22ミリ、25ミリのいずれかであってよい。典型的には、フロート板ガラスの厚みは、5mmまたは6mmであってよい。
【0058】
本発明の第2の態様による防災用フィルムは、厚み5mmのフロートガラスの少なくとも一方の面上の少なくとも一部分に貼付されたときに、好ましくは、防災用フィルムが貼付された任意選択の位置への運動エネルギー約1.6J(直径8mm、2g±0.1gの鋼球が衝突速度39.7m/sを有するときに相当、JIS R3109の「A」相当)、好ましくは運動エネルギー約120J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、1kg±0.1kgの木材が衝突速度15.3m/sを有するときに相当、JIS R3109の「B」相当)、より好ましくは運動エネルギー約150J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、2.05kg±0.1kgの木材が衝突速度12.2m/sを有するときに相当、JIS R3109の「C」相当)、更により好ましくは運動エネルギー約350J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、3.0kg±0.1kgの木材が衝突速度15.3m/sを有するときに相当、JIS R3109の「JD」相当)、更により好ましくは運動エネルギー約480J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、4.1kg±0.1kgの木材が衝突速度15.3m/sを有するときに相当、JIS R3109の「D」相当)、最も好ましくは運動エネルギー約1220J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、4.1kg±0.1kgの木材が衝突速度24.4m/sを有するときに相当、JIS R3109の「E」相当)の加撃体による垂直方向の単数回または複数回(好ましくは、木材加撃体の使用時は1回、鋼球加撃体の使用時は計30回)の衝突に対して、貫通が生じないか、または直径76mmの球が通る孔を生じず、かつ、上記加撃体による垂直方向の単数回または複数回の衝突に続いて平均風速が41m/s以上48m/s以下の垂直方向からの強風の圧力下に10分間連続で曝されたときに、直径76mmの球が通る孔を生じないものであってよい。
この試験方法は、JIS R3109:2018「建築用ガラスの暴風時における飛来物衝突試験方法」に準じる。加撃体の衝突位置(ガラスの種類ごとに定められる)は、上記規格に説明されている。そこに規定されている所定の衝突位置にて上記試験に合格することは、任意選択の衝突位置においても上記試験に合格することが高い確率で推定され得ることを意味するものと、当業者であれば理解することができる。
本発明の第2の態様による防災用フィルムは、厚み5mmのフロートガラスの少なくとも一方の面上の少なくとも一部分に貼付されたときに、JIS R3109:2018の表3に規定された防護レベル2(住宅、商工業用建築物などに必要とされる防護レベル)を満たすことが好ましく、防護レベル3(大規模オフィスビル、学校、ショッピングセンター、ホテルなどの1ヶ所に大勢の人が集まる建築物や構造物に必要とされる防護レベル)を満たすことがさらに好ましい。
【0059】
上記の第1の態様と同様、防災性能評価のための上記加撃体の衝突方法の代替手段(JIS R3108に基づく試験)として、運動エネルギー約120J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ3000±50mmから落下させるときに相当)、より好ましくは運動エネルギー約240J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ6000±50mmから落下させるときに相当)、さらに好ましくは運動エネルギー約360J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ9000±50mmから落下させるときに相当)、最も好ましくは運動エネルギー約480J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ12000±50mmから落下させるときに相当)の加撃体を用い、防災用フィルム貼付箇所の中心において、1辺130±20mmの正三角形の各頂点に1回ずつ計3回加撃体を落下(衝突)させてもよい。
更なる代替手段として、落球高さ9mから、試験ガラス板の中央から半径5cmの円内に1回落球させること以外は、JIS R3108に基づき、落球試験を行うことができる。この際、JIS R3109に基づいて、次の評価を行うことができる。
A:試験後のガラスでは、直径76mmの球が通る孔(開口)が生じず、かつ、長さが125mmを超える裂け目が生じない。
B:試験後のガラスでは、直径76mmの球が通る孔(開口)が生じる、または、長さが125mmを超える裂け目が生じる。
なお、この衝撃試験(落球高さ9m)における衝撃は、JIS R3109の「JD」相当のエネルギー量(運動エネルギー350J)を有する。
あるいは、更なる代替手段として、所定の運動エネルギーを有する加撃体による衝撃を用いてもよい。
【0060】
3.本発明の第3の態様(衝撃分散性層またはガラスへの衝撃伝播抑制層の使用)
本発明の第3(1)の態様は、ガラスに貼付されて用いられる、防災用のフィルムであって、このフィルムが、複数の樹脂製フィルムの積層体であり、この積層体が、加撃体による衝撃を分散させるように(i)熱可塑性樹脂から形成された複数の一軸延伸フィルムの積層フィルムであり、隣接する一軸延伸フィルムの配向方向が互いに交差しているか、または(ii)少なくとも1層が、複数の溝条または凹凸が形成された少なくとも1面を有する積層体である防災用フィルムである。
本発明の第3(2)の態様は、ガラスに貼付されて用いられる、防災用のフィルムであって、この防災用フィルムが、ポリカーボネート樹脂から形成されており、それによって加撃体による衝撃を分散させる防災用フィルムである。
本発明の第3(3)の態様は、ガラスに貼付されて用いられる、防災用のフィルムであって、この防災用フィルムが、加撃体による衝撃のガラスへの伝播を抑制するように、金網、樹脂網、撚糸網、または、金属製、樹脂製もしくは撚糸製のフィラメントからなる群から選択される少なくとも1種から形成された中間層、ならびにこの中間層の両面に配された樹脂製フィルムを含む防災用フィルムである。
本発明の第3(4)の態様は、ガラスに貼付されて用いられる、防災用のフィルムであって、この防災用フィルムが、蜘蛛の糸または蓑虫の糸であるフィラメントから形成された複数層の積層体であり、それによって加撃体による衝撃のガラスへの伝播を抑制する、防災用フィルムである。
上記第3(1)~3(4)の態様について、いずれも、衝撃分散機能を有する層またはガラスへの衝撃伝播抑制機能を有する層を含んだ防災用フィルムを構成し、これを窓ガラスに貼付することによって、驚くべきことに、台風等の災害時に飛来物による強い衝撃があっても、上記構成によって衝撃を吸収し、致命的な開口(孔)が生じず、屋内の気密性を保つことができることが見出された。
【0061】
第3(1)の態様
この態様では、ガラスに貼付されて用いられる防災用のフィルムである複数の樹脂製フィルムの積層体が、加撃体による衝撃を分散させるように(i)熱可塑性樹脂から形成された複数の一軸延伸フィルムの積層フィルムであり、隣接する一軸延伸フィルムの配向方向が互いに交差しているか、または(ii)少なくとも1層が、複数の溝条または凹凸が形成された少なくとも1面を有する積層体である。
【0062】
・第3(1)(i)の態様
この態様において、一軸延伸フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムを一軸延伸したものである。
この熱可塑性樹脂フィルムを形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレンやポリプロピレ等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、スチレン樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)樹脂、AS(アクリロニトリル-スチレン共重合体)樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、セルロース樹脂などが挙げられる。
【0063】
熱可塑性樹脂フィルムは、このような熱可塑性樹脂を原料とし、溶融押出成形法、溶液流延法、カレンダー法などにより成形することができる。この成形方法に限定されず、使用する熱可塑性樹脂の種類、積層体の厚みや幅などの寸法に応じて適宜好適な成形方法を選択することができる。
一軸延伸フィルムでの延伸方向は、溶融押出成形の場合、押出流れ方向に対して、直交方向、平行方向、斜め方向のいずれでも構わないが、中でも、直交方向であることが好ましい。これは、押出方向でのフィルムの反りを抑制し、押出工程内で冷却ロールやガイドロール、引取ロールなどへの巻き付きを防止するためである。
【0064】
一軸延伸フィルムの各層の厚みは、特に限定されないが、溶融押出成形時に、延伸フィルムの強度を保ちつつ連続的に巻き出しながら第1冷却ロールおよび第2冷却ロール間に供給するという観点から、通常5~500μm程度であり、好ましくは10~300μmであってよい。
【0065】
本態様に用いられる一軸延伸フィルムの典型例として、積水化学株式会社から市販されている一軸延伸PETフィルムであるデュオラ「DUORA」(厚み0.200mm)が挙げられる。
【0066】
積層フィルムを構成する一軸延伸フィルムの枚数は、特に限定されないが、加撃体による衝撃の分散性能を高める観点から、3枚以上の積層が好ましく、4枚以上の積層がさらに好ましい。
また、隣接する一軸延伸フィルムの配向方向の交差方向は、交差が生じている限りは特に限定されないが、加撃体による衝撃の分散性能を最大限にするため、通常、それらが略直角方向に交差するように配置されうる。
隣接する一軸延伸フィルムの配向方向の交差方向は、好ましくは90°±10°の範囲内、より好ましくは90°±5°の範囲内に調整してよい。
【0067】
・第3(1)(ii)の態様
この態様において積層体を構成する樹脂は、特に限定されないが、可撓性、柔軟性、弾性及び高強度などの特性の観点から、上記防犯フィルム(上記第1の態様)を構成する樹脂と同様のものが挙げられる。
そのような樹脂の例としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂を主成分とする合成樹脂や、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリビニルプチラール(PVB)、ポリカーボネートなどの樹脂を主成分とする合成樹脂が挙げられる。
【0068】
積層体を構成する複数の樹脂製フィルムの少なくとも1層の少なくとも1面上に形成される複数の溝条または凹凸は、特に限定されず、任意の方法で任意の形状に形成することができる。
溝条または凹凸の形成方法の例としては、メッシュを入れたチルロールを用いてエンボス化する等の機械的方法や、チルロールまたはインフレーション法のピンチロール等を加熱しておき、熱的及び機械的にエンボス化する方法や、ブラシ等による研磨等の方法などが挙げられる。
メッシュによるエンボス化の場合、例えば30~300メッシュ程度の凹凸を設けることができる。
凹凸の高さは、特に限定されないが、例えば0.5~50μm程度、好ましくは1~30μm程度とすることができる。
【0069】
溝条または凹凸の形成数(連続した溝条の形成数または凹部/凸部の形成数)は、特に限定されないが、加撃体による衝撃の分散性能を付与する観点からより多いほうが好ましい。溝条または凹凸の形成数は、例えば、少なくとも3個、5個以上、10個以上、20個以上、50個以上または100個以上であってよい。
【0070】
片面または両面上に複数の溝条または凹凸が形成された樹脂製フィルムは、積層体の中間層であってもよいし、端層であってもよい。
加撃体による衝撃を積層体の内部で確実に分散させる観点からは、片面または両面上に複数の溝条または凹凸が形成された樹脂製フィルムを中間層に用いることが好ましい。一方、積層体の形成後に複数の溝条または凹凸を形成することが可能であるという施工容易性の観点からは、片面または両面上に複数の溝条または凹凸が形成された樹脂製フィルムを端層に用いることが好ましい。
【0071】
また、第3(1)の態様の複数の樹脂製フィルムの積層体は、本発明の目的を阻害しない限り、当該積層体以外に、付加的な層を有してもよい。
このような付加的な層の例としては、上記フィルムの耐擦傷性増大の観点から、例えばUV(紫外線)硬化型樹脂から形成されたハードコートが挙げられる。このようなUV硬化型樹脂の例としては、エチレン性二重結合を複数有するウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマー又はエポキシオリゴマー等のオリゴマー、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPEHA)等の一官能又は多官能オリゴマー、或いはベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル又はジベンジル等のオリゴマーが挙げられる。UV硬化型樹脂は、反応性稀釈剤または光重合開始剤を含んでよい。
【0072】
第3(1)の態様における積層体を構成する複数の樹脂製フィルム(及び任意の付加的層)の接合、および積層体のガラスへの接合のために、粘着剤を用いてもよい。
この粘着剤としては、特に限定されないが、上で例示したアクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤である透明粘着剤と、所望に応じて用いる任意成分とを含む粘着剤組成物を使用可能である。
【0073】
上記アクリル系粘着剤は、アクリル系重合体と、所望に応じて用いる任意成分とを含む粘着剤組成物である。
上記アクリル系重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、及び(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸エステルモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びβ-カルボキシエチル(メタ)アクリレートなどのカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーなどの1種又は2種以上の混合物をモノマーとする重合体又は共重合体を挙げることができる。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸の意味である。(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの意味である。上記アクリル系重合体としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
上記任意成分としては、例えば、シランカップリング剤、1分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物、光重合開始剤、反応触媒、有機多価金属化合物、帯電防止剤、界面活性剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、汚染防止剤、印刷性改良剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、顔料、及びフィラーなどを挙げることができる。上記任意成分の配合量は、上記アクリル系重合体を100質量部として、0.01~20質量部程度であってよい。
【0074】
上記シリコーン系粘着剤としては、付加反応型シリコーン系粘着剤及び過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤の何れも用いることができる。上記付加反応型シリコーン系粘着剤は、ビニル基などの付加反応の可能な有機基を含むシリコーン系重合体;塩化白金酸等の白金化合物、ロジウム錯体、及びルテニウム錯体などの付加反応触媒;及び所望に応じて用いる任意成分を含む粘着剤組成物である。上記過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤は、シリコーン系重合体、過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物、及び所望に応じて用いる任意成分を含む粘着剤組成物である。
これらの粘着剤組成物に用いられる任意成分としては、例えば、帯電防止剤、界面活性剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、汚染防止剤、印刷性改良剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、顔料、及びフィラーなどを挙げることができる。上記任意成分の配合量は、上記シリコーン系重合体を100質量部として、0.01~20質量部程度であってよい。
【0075】
粘着剤の塗工方法としては、特に限定されないが、上記同様、スプレー吹き付け法、フローコーティング法、ロールコート法、刷毛塗り法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、及びフレキソ印刷法等が挙げられる。
なお、ここで挙げた粘着剤およびその塗工方法は、引き続き説明する第3(2)~3(4)の態様の他の実施形態においても、同様に用いられ得る。
【0076】
第3(1)(i)または(ii)の態様における樹脂製フィルムの積層体の厚み(複数の樹脂製フィルムおよび粘着剤を含めた合計厚み)は、加撃体による衝撃の分散性能、安全性の観点からより厚いほうが好ましいが、例えば、通常50μm以上であり、好ましくは80μm以上であり、より好ましくは100μm以上であってよい。
一方、第3(1)(i)または(ii)の態様における樹脂製フィルムの積層体の厚みは、施工作業性の観点から、および、数10μm以上の厚みの複数の樹脂製フィルムを積層する製造性を考慮し、例えば、通常3500μm以下、典型的には2500μm以下、好ましくは2000μm以下であってよい。
【0077】
第3(1)の態様による防災用フィルムと組み合わせるガラスは、特に限定されないが、上記同様に、網入板ガラスではない汎用のフロート板ガラス(金属製の網が内部に挿入されていない)が主に想定される。
ここでのフロート板ガラスは、JIS R3202:2011「フロート板ガラス及び磨き板ガラス」に規定されたフロート板ガラスを指す。
このようなフロート板ガラスは、通常珪酸塩ガラスで形成されている。
フロート板ガラスの厚みは、通常、2ミリ、2.5ミリ、3ミリ、4ミリ、5ミリ、6ミリ、6.5ミリ、8ミリ、10ミリ、12ミリ、15ミリ、19ミリ、22ミリ、25ミリのいずれかであってよい。典型的には、フロート板ガラスの厚みは、5mmまたは6mmであってよい。
【0078】
第3(2)の態様
本発明の第3(2)の態様は、ガラスに貼付される防災用フィルムとして、ポリカーボネート樹脂から形成されたフィルムを用い、それによって加撃体による衝撃を分散させることができる。
ここでの「ポリカーボネート樹脂から形成された」は、「ポリカーボネート樹脂を含んで形成された」と同義であり、ポリカーボネート以外の成分の使用を妨げるものではないことに留意されたい。
【0079】
ここで使用されるポリカーボネート樹脂は、下記一般式で表される、炭酸結合を有する基本構造の重合体である。
-(-O-X1-O-C(=O)-)m-
(式中、X1は、炭化水素鎖であり、ヘテロ原子、ヘテロ結合を含んでもよい。)
【0080】
また、ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂または脂肪族ポリカーボネート樹脂のいずれであってもよい。なかでも、耐熱性、機械的物性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0081】
ポリカーボネート樹脂の種類に制限はないが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート重合体が挙げられる。ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させてもよい。ポリカーボネート重合体は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。さらに、ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体でもよい。この共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等のいずれの共重合形態であってもよい。通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性樹脂である。
【0082】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となる芳香族ジヒドロキシ化合物の例としては、以下のものを挙げることができる:
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、
1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,4-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-プロピル-5-メチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類。
芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種単独であっても、任意の2種以上の混合物であってもよい。
【0083】
脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例としては、以下のものを挙げることができる:
エタン-1,2-ジオール、プロパン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、2-メチル-2-プロピルプロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、デカン-1,10-ジオール等のアルカンジオール類;
シクロペンタン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4-(2-ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4-テトラメチル-シクロブタン-1,3-ジオール等のシクロアルカンジオール類;
エチレングリコール、2,2’-オキシジエタノール(ジエチレングリコール)、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
1,2-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジエタノール、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3-ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6-ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4’-ビフェニルジメタノール、4,4’-ビフェニルジエタノール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
1,2-エポキシエタン(エチレンオキシド)、1,2-エポキシプロパン(プロピレンオキシド)、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,4-エポキシシクロヘキサン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、2,3-エポキシノルボルナン、1,3-エポキシプロパン等の環状エーテル類。
これらのモノマー化合物は、1種単独であっても、任意の2種以上の混合物であってもよい。
【0084】
ポリカーボネート樹脂の原料となるカーボネート前駆体の例としては、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が挙げられる。
これらのカーボネート前駆体は、1種単独であっても、任意の2種以上の混合物であってもよい。
【0085】
カルボニルハライドの例としては、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0086】
カーボネートエステルの例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0087】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の公知の方法を採用できる。
例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0088】
界面重合法(ホスゲンを用いる場合はホスゲン法と称される)では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させてもよい。
【0089】
溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行うことによって、ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。中でも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは、1種単独でもよいし、2種以上の混合物でもよい。
【0090】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は、特に限定されないが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、1.01モル以上用いることがより好ましい。上限は、通常1.30モル以下である。このような範囲に設定することで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0091】
ポリカーボネート樹脂は、その末端水酸基量が熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。末端水酸基量は、公知の任意の方法によって必要に応じて調整することができる。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率;エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0092】
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は、特に限定されないが、通常1000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下であってよく、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上であってよい。ここでの末端水酸基濃度は、ポリカーボネート樹脂の質量に対する末端水酸基の質量をppmで表示したものであり、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)によって測定することができる。
【0093】
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
他の調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤の例としては、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。
【0094】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、特に限定されないが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]は、機械的強度および成形加工性の観点から、通常10000以上、好ましくは16000以上、より好ましくは17000以上であってよく、通常40000以下、好ましくは30000以下、より好ましくは24000以下であってよい。粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい(混合物の粘度平均分子量が上記範囲内になるように調整すればよい)。ここでの粘度平均分子量[Mv]は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4Mv0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]から所定式で算出した値である。
【0095】
ポリカーボネート樹脂としては、単独種であってもよいし、複数種の混合物であってもよい。
また、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)とを組み合わせて用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
ポリカーボネート樹脂は、その他の任意成分(1種または複数種)を、例えば10質量%以下の量で含んでいてよい。その他の成分の例としては、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、各種樹脂添加剤などが挙げられるが、これに限定されない。
【0096】
ポリカーボネート樹脂からフィルムを形成する方法は、特に限定されず、任意の公知の方法を採用することができる。
ペレタイズしたペレットに対し各種の成形法でフィルム状に成形してもよいし、ぺレットを経由せずに押出機で溶融混練された樹脂を直接フィルム状に成形してもよい。
【0097】
本態様によるポリカーボネート樹脂から形成されたフィルムは、単一層であっても複数層から形成されていてもよい。
【0098】
本態様によるポリカーボネート樹脂から形成されたフィルムは、更に、他の高硬度フィルムと組み合わせてもよい。
このような高硬度フィルムを形成する樹脂としては、特に限定されないが、ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂が挙げられる。ポリ(メタ)アクリルイミドの市販例としては、エボニック社の「ACRYMID TT70(商品名)」などを挙げることができる。
ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂のフィルムは、例えば、WO/2015/005049に記載されているものを用いることができる。
また、ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂のフィルムとして、特許第6436640号に開示されているような、以下の構造の透明多層フィルムを用いてもよい:
(1)第一ポリ(メタ)アクリルイミド樹脂層(α1)および芳香族ポリカーボネート樹脂層(β)が、この順に直接積層された透明多層フィルム;または、
(2)第一ポリ(メタ)アクリルイミド樹脂層(α1)、芳香族ポリカーボネート樹脂層(β)、および第二ポリ(メタ)アクリルイミド樹脂層(α2)が、この順に直接積層された透明多層フィルム。
【0099】
また、本態様のポリカーボネート樹脂から形成されたフィルムは、本発明の目的を阻害しない限り、当該フィルムおよび粘着剤以外に、付加的な層を有してもよい。
このような付加的な層の例としては、上記フィルムの耐擦傷性増大の観点から、例えばUV(紫外線)硬化型樹脂から形成されたハードコートが挙げられる。このようなUV硬化型樹脂の例としては、エチレン性二重結合を複数有するウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマー又はエポキシオリゴマー等のオリゴマー、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPEHA)等の一官能又は多官能オリゴマー、或いはベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル又はジベンジル等のオリゴマーが挙げられる。UV硬化型樹脂は、反応性稀釈剤または光重合開始剤を含んでよい。
【0100】
この態様におけるポリカーボネート樹脂から形成されたフィルムの厚みは、加撃体による衝撃の分散性能、安全性の観点からより厚いほうが好ましいが、例えば、通常50μm以上であり、好ましくは80μm以上であり、より好ましくは100μm以上であってよい。
一方、本態様におけるポリカーボネート樹脂から形成されたフィルムの厚みは、施工作業性の観点から、および、数10μm以上の複数のフィルムを積層する場合の製造性を考慮し、例えば、通常4000μm以下、典型的には3000μm以下、好ましくは2500μm以下、さらに好ましくは2000μm以下であってよい。
また、この態様におけるポリカーボネート樹脂から形成されたフィルムを、他の高硬度フィルムと組み合わせる場合の合計厚みについても、上記範囲内になるように調整することが好ましい。
【0101】
この第3(2)の態様による防災用フィルムと組み合わせるガラスは、特に限定されないが、上記同様に、網入板ガラスではない汎用のフロート板ガラス(金属製の網が内部に挿入されていない)が主に想定される。
ここでのフロート板ガラスは、JIS R3202:2011「フロート板ガラス及び磨き板ガラス」に規定されたフロート板ガラスを指す。
このようなフロート板ガラスは、通常珪酸塩ガラスで形成されている。
フロート板ガラスの厚みは、通常、2ミリ、2.5ミリ、3ミリ、4ミリ、5ミリ、6ミリ、6.5ミリ、8ミリ、10ミリ、12ミリ、15ミリ、19ミリ、22ミリ、25ミリのいずれかであってよい。典型的には、フロート板ガラスの厚みは、5mmまたは6mmであってよい。
【0102】
第3(3)の態様
この態様では、ガラスに貼付される防災用フィルムとして、金網、樹脂網、撚糸網、または、金属製、樹脂製もしくは撚糸製のフィラメントからなる群から選択される少なくとも1種から形成された中間層、ならびにこの中間層の両面に配された樹脂製フィルムを用い、それによって加撃体による衝撃のガラスへの伝播を抑制することができる。
【0103】
本態様に使用される中間層の金網は、特に限定なれないが、任意の市販製品を用いることができる。
市販の金網の例としては、平織金網、綾織金網、平畳織金網、綾畳織金網等が挙げられる。材質としては、鉄、ステンレス、銅、ニッケル等が挙げられる。金網の表面は、亜鉛メッキ、その他錆止め等の公知の表面改質が施されていてよい。
通常、金網のメッシュ数は、100メッシュ、200メッシュ、300メッシュ、400メッシュ、500メッシュ、または635メッシュであってよい。
複数の金網の積層体を用いることもできる。
【0104】
本態様に使用される中間層の樹脂網は、特に限定されないが、典型的には、熱可塑性樹脂から形成された樹脂網状体であってよい。
樹脂網の例としては、特に限定されないが、複数本の第1のフラットヤーンからなる第1のフラットヤーン列およびそれと交差する(好ましく略直交する)方向に延びる複数本の第2のフラットヤーンからなる第2のフラットヤーン列とが積層されて網状体や、原糸を予めロープにしてこのロープで結節を作りながら編み合わせて網目を構成した有結節網などが挙げられる。前者の場合、上記フラットヤーンは、熱可塑性樹脂の延伸フィルムから形成されたものであることが好ましい。
樹脂網における樹脂の面密度やヤーン断面形状等の諸パラメータは、所望の衝撃伝播抑制性能が得られるように適宜調整可能である。
【0105】
上記樹脂網状体を形成する熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレンやポリプロピレ等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、スチレン樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)樹脂、AS(アクリロニトリル-スチレン共重合体)樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、セルロース樹脂などが挙げられる。
【0106】
本態様に使用される中間層の撚糸網は、特に限定されないが、典型的には、丸断面および/または異形断面の合成繊維製原糸を撚ることで得られた撚糸から形成された網を用いることができる。
この異形断面の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば十字形、-形、菱形、星形、T字形、Y字形、W字形、三角形、四角形以上の多角形等が挙げられる。
【0107】
撚糸の原糸の合成繊維を形成するポリマーとしては、特に限定されないが、ポリエステル、ポリアミドなど公知のものを用いることができる。典型例は、ポリエステルである。
ポリエステルの例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン-2,6-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸あるいはアジピン酸、セバチン酸等の脂肪族ジカルボン酸を酸成分とし、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1・4-ブタジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール等をジオール成分とするホモポリエステル重合体あるいは共重合体が挙げられる。
これらのポリエステルには、パラオキシ安息香酸、5-ソジウムスルホイソフタール酸、ポリアルキレングリコール、ペンタエリスススリトール等が添加あるいは共重合されていてもよい。さらには、生分解性を有するポリエステルでもよい。その具体例としては、ポリ-D-乳酸、ポリ-L-乳酸、ポリ-D/L-乳酸共重合体やポリ乳酸ステレオコンプレックス等のポリ乳酸系重合体、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ(ε-カプロラクトン)や他の生分解性ポリエステル系重合体を共重合させたものであってもよい。
【0108】
ポリアミドとしては、ポリイミノ-1-オキソテトラメチレン(ナイロン4)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66),ポリウンデカナミド(ナイロン11)、ポリラウロラクタミド(ナイロン12)、ポリメタキシレンアジパミド、またはこれらのモノマーを構成単位とするポリアミド系共重合体が挙げられる。
【0109】
合成繊維を形成するポリマーとして複数種を併用してもよい。また、合成繊維には、必要に応じて各種の添加剤、例えば艶消し剤、顔料、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤等が本発明の目的を阻害しない範囲内で含まれていてもよい。
撚糸網の例としては、特に限定されないが、上記樹脂網と同様に、複数本の第1のフラットヤーンからなる第1のフラットヤーン列およびそれと交差する(好ましく略直交する)方向に延びる複数本の第2のフラットヤーンからなる第2のフラットヤーン列とが積層されて網状体や、撚糸を予めロープにしてこのロープで結節を作りながら編み合わせて網目を構成した有結節網などが挙げられる。
また、撚糸網における撚糸の面密度や合成繊維の繊度等の諸パラメータは、所望の衝撃伝播抑制性能が得られるように適宜調整可能である。
【0110】
本態様に使用される中間層の金属製、樹脂製もしくは撚糸製のフィラメントを構成する金属、樹脂もしくは撚糸の材質としては、金網、樹脂網、撚糸網について上述した金属、樹脂もしくは撚糸と同様のものを用いることができる。
【0111】
金属製、樹脂製もしくは撚糸製のフィラメントの直径(それぞれの断面積から円の直径に換算した数値)は、特に限定されないが、衝撃伝播抑制性および取扱や施工容易性の観点から、例えば0.1mm~10mmであってよく、好ましくは0.3mm~5mmであってよい。
【0112】
これらのフィラメントの配列方法は、特に限定されるものではないが、例えば、同一または異なる長さを有するフィラメント群を、縦に一方向かつ横に一列に、隣接フィラメントを密着させて引き揃えてよい。また、そのように配列させた一方向性層を複層重ねてもよい。このような配列方法によって、防災用フィルムに対する加撃体による衝撃の伝播をより確実に抑制することが可能になる。
代替的には、同一または異なる長さを有するフィラメント群を、縦に一方向かつ横に一列に、隣接フィラメントについて所定の間隔(一定またはランダム間隔)を空けて配置してもよい。
また代替的には、同一または異なる長さを有するフィラメント群をランダムに配列してもよい。
【0113】
本態様の中間層の両面に配された樹脂製フィルムを形成する樹脂は、特に限定されないが、上記第2の態様と同様に、透明性を有するフィルムを形成可能な樹脂が好ましい。ここでの透明性は、上記と同じく、通常、樹脂製フィルムの可視光線透過率が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更により好ましくは85%以上、なお一層好ましくは90%以上であることを指す。
このような透明性を有する樹脂製フィルムの例としては、トリアセチルセルロース等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;エチレンノルボルネン共重合体等の環状炭化水素系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、及びビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のアクリル系樹脂;芳香族ポリカーボネート系樹脂;ポリプロピレン、及び4-メチル-ペンテン-1等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリマー型ウレタンアクリレート系樹脂;及びポリイミド系樹脂などのフィルムを挙げることができる。これらのフィルムは、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。また、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層フィルムを用いてもよい。
【0114】
本態様の中間層の両面に配された樹脂製フィルムの厚みは、特に限定されないが、例えば30μm~600μmであってよく、好ましくは40μm~400μmであってよい。
【0115】
本態様の防災用フィルムは、本発明の目的を阻害しない限り、ここで言及した中間層、樹脂製フィルム、またはそれを接合するために用いられる粘着剤以外に、付加的な層を有してもよい。
【0116】
このような付加的な層の例としては、上記樹脂製フィルムの耐擦傷性増大の観点から、例えばUV(紫外線)硬化型樹脂から形成されたハードコートが挙げられる。このようなUV硬化型樹脂の例としては、エチレン性二重結合を複数有するウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマー又はエポキシオリゴマー等のオリゴマー、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPEHA)等の一官能又は多官能オリゴマー、或いはベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル又はジベンジル等のオリゴマーが挙げられる。UV硬化型樹脂は、反応性稀釈剤または光重合開始剤を含んでよい。
【0117】
本態様の防災用フィルムの全厚(単層または複数層の中間層、樹脂製フィルム、それらを接合する粘着剤およびその他の任意の付加的層の合計厚み)は、加撃体による衝撃の分散性能、安全性の観点からより厚いほうが好ましいが、例えば、通常80μm以上であり、好ましくは100μm以上であってよい。
一方、本態様の防災用フィルムの全厚は、施工作業性の観点から、および、数10μm以上の厚みの複数の中間層を積層する場合の製造性の観点から、例えば、通常2500μm以下、典型的には2000μm以下、より好ましくは1500μm以下、さらに好ましくは1000μm以下であってよい。
【0118】
本態様の防災用フィルムは、各層を片面側から(粘着剤を用い/または用いず)順次形成してもよいし、あるいは、いったん各層を形成しておいて、続いてそれらの層の片面あるいは両面に粘着剤を適用して一体化させてもよい。
【0119】
なお、本態様の防災用フィルムにおいて、中間層の両面に配された樹脂製フィルムの一方を粘着剤で代替してもよい。
この実施形態での粘着剤は、中間層を保護・被覆する樹脂製フィルムの代用としての役割と、この防災用フィルムと組み合わせるガラスへの接合の役割とを兼ねることになる。従って、この場合の粘着剤の種類としては、上記したものが使用され得る。
この実施形態での粘着剤が形成する層の厚みは、例えば20μm~500μmであってよい。また、この実施形態の防災用フィルムの全厚は、上記した範囲内であってよい。
【0120】
この第3(3)の態様による防災用フィルムと組み合わせるガラスは、特に限定されないが、上記同様に、網入板ガラスではない汎用のフロート板ガラス(金属製の網が内部に挿入されていない)が主に想定される。
ここでのフロート板ガラスは、JIS R3202:2011「フロート板ガラス及び磨き板ガラス」に規定されたフロート板ガラスを指す。
このようなフロート板ガラスは、通常珪酸塩ガラスで形成されている。
フロート板ガラスの厚みは、通常、2ミリ、2.5ミリ、3ミリ、4ミリ、5ミリ、6ミリ、6.5ミリ、8ミリ、10ミリ、12ミリ、15ミリ、19ミリ、22ミリ、25ミリのいずれかであってよい。典型的には、フロート板ガラスの厚みは、5mmまたは6mmであってよい。
【0121】
上記第3(3)の態様(撚糸製フィラメントを用いる態様)による防災用フィルムとフロートガラスとを組み合わせた構造の一例の断面模式図を
図3に示す。
図中、8は防災用フィルム、9は撚糸製のフィラメント、10は樹脂製フィルム、11はフロートガラスを示す。(図中、各層の間に第1、第2の態様と同様の粘着剤(層)が配されることがあるが、図示していない。)
【0122】
第3(4)の態様
この態様では、ガラスに貼付される防災用フィルムとして、蜘蛛の糸または蓑虫の糸であるフィラメントから形成された複数層の積層体を用い、それによって加撃体による衝撃のガラスへの伝播を抑制することができる。
【0123】
蜘蛛の糸または蓑虫の糸であるフィラメントは、特に限定されず、天然または人工的に製造されたものであってよいが、生産性の観点から人工的に製造されたものを用いることができる。
人工の蜘蛛の糸は、Spiber株式会社から商品名「QMONOS」として市販されている。
人工の蓑虫の糸は、興和株式会社と農業・食品産業技術総合研究機構により共同開発されたことがプレスリリースされた。
【0124】
蜘蛛の糸または蓑虫の糸であるフィラメントは、必要に応じて撚糸状に加工されたものを用いることができる。
蜘蛛の糸または蓑虫の糸(必要に応じて撚糸状に加工されたもの)のフィラメントの直径(それぞれ断面積から円の直径に換算した数値)は、特に限定されないが、衝撃伝播抑制性および取扱や施工容易性の観点から、例えば0.05mm~10mmであってよく、好ましくは0.1mm~5mmであってよい。
【0125】
蜘蛛の糸または蓑虫の糸(必要に応じて撚糸状に加工されたもの)のフィラメントは、さらに第3(3)の態様にて説明したように網状に加工してもよい。つまり、複数本の第1のフラットヤーンからなる第1のフラットヤーン列およびそれと交差する(好ましく略直交する)方向に延びる複数本の第2のフラットヤーンからなる第2のフラットヤーン列とが積層されて網状体や、撚糸を予めロープにしてこのロープで結節を作りながら編み合わせて網目を構成した有結節網などが挙げられる。
また、蜘蛛の糸または蓑虫の糸であるフィラメントの層は、少なくとも2層、好ましくは3層以上、より好ましくは4層以上を用いて積層体を構成することができる。
【0126】
本態様の防災用フィルムは、本発明の目的を阻害しない限り、ここで言及した積層体またはそれを接合するために用いられる粘着剤以外に、付加的な層を有してもよい。
【0127】
このような付加的な層の例としては、上記積層体の表面保護の観点から、例えばUV(紫外線)硬化型樹脂から形成されたハードコートが挙げられる。このようなUV硬化型樹脂の例としては、エチレン性二重結合を複数有するウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマー又はエポキシオリゴマー等のオリゴマー、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPEHA)等の一官能又は多官能オリゴマー、或いはベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル又はジベンジル等のオリゴマーが挙げられる。UV硬化型樹脂は、反応性稀釈剤または光重合開始剤を含んでよい。
【0128】
本態様の防災用フィルムの全厚(積層体の各層を接合するための粘着剤、および任意の付加的な層を有する場合はそれも含めた全厚)は、加撃体による衝撃の分散性能、安全性の観点からより厚いほうが好ましいが、例えば、通常80μm以上であり、好ましくは100μm以上であってよい。
一方、本態様の防災用フィルムの全厚は、施工作業性の観点から、および、数10μm以上の厚みの複数層を積層してフィルムを作成する製造性を考慮し、例えば、通常2500μm以下、典型的には2000μm以下、より好ましくは1500μm以下、さらに好ましくは1000μm以下であってよい。
【0129】
この第3(4)の態様による防災用フィルムと組み合わせるガラスは、特に限定されないが、上記同様に、網入板ガラスではない汎用のフロート板ガラス(金属製の網が内部に挿入されていない)が主に想定される。
ここでのフロート板ガラスは、JIS R3202:2011「フロート板ガラス及び磨き板ガラス」に規定されたフロート板ガラスを指す。
このようなフロート板ガラスは、通常珪酸塩ガラスで形成されている。
フロート板ガラスの厚みは、通常、2ミリ、2.5ミリ、3ミリ、4ミリ、5ミリ、6ミリ、6.5ミリ、8ミリ、10ミリ、12ミリ、15ミリ、19ミリ、22ミリ、25ミリのいずれかであってよい。典型的には、フロート板ガラスの厚みは、5mmまたは6mmであってよい。
【0130】
本発明の第3(1)~(4)の態様による防災用フィルムは、厚み5mmのフロートガラスの少なくとも一方の面上の少なくとも一部分に貼付されたときに、好ましくは、防災用フィルムが貼付された任意選択の位置への運動エネルギー約1.6J(直径8mm、2g±0.1gの鋼球が衝突速度39.7m/sを有するときに相当、JIS R3109の「A」相当)、好ましくは運動エネルギー約120J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、1kg±0.1kgの木材が衝突速度15.3m/sを有するときに相当、JIS R3109の「B」相当)、より好ましくは運動エネルギー約150J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、2.05kg±0.1kgの木材が衝突速度12.2m/sを有するときに相当、JIS R3109の「C」相当)、更により好ましくは運動エネルギー約350J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、3.0kg±0.1kgの木材が衝突速度15.3m/sを有するときに相当、JIS R3109の「JD」相当)、更により好ましくは運動エネルギー約480J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、4.1kg±0.1kgの木材が衝突速度15.3m/sを有するときに相当、JIS R3109の「D」相当)、最も好ましくは運動エネルギー約1220J(断面寸法(38±1.5)mm×(89±1.5mm)mm、4.1kg±0.1kgの木材が衝突速度24.4m/sを有するときに相当、JIS R3109の「E」相当)の加撃体による垂直方向の単数回または複数回(好ましくは、木材加撃体の使用時は1回、鋼球加撃体の使用時は計30回)の衝突に対して、貫通が生じないか、または直径76mmの球が通る孔を生じず、かつ、上記加撃体による垂直方向の単数回または複数回の衝突に続いて平均風速が41m/s以上48m/s以下の垂直方向からの強風の圧力下に10分間連続で曝されたときに、直径76mmの球が通る孔を生じないものであってよい。
この試験方法は、JIS R3109:2018「建築用ガラスの暴風時における飛来物衝突試験方法」に準じる。加撃体の衝突位置(ガラスの種類ごとに定められる)は、上記規格に説明されている。そこに規定されている所定の衝突位置にて上記試験に合格することは、任意選択の衝突位置においても上記試験に合格することが高い確率で推定され得ることを意味するものと、当業者であれば理解することができる。
本発明の第3の態様による防災用フィルムは、厚み5mmのフロートガラスの少なくとも一方の面上の少なくとも一部分に貼付されたときに、JIS R3109:2018の表3に規定された防護レベル2(住宅、商工業用建築物などに必要とされる防護レベル)を満たすことが好ましく、防護レベル3(大規模オフィスビル、学校、ショッピングセンター、ホテルなどの1ヶ所に大勢の人が集まる建築物や構造物に必要とされる防護レベル)を満たすことがさらに好ましい。
【0131】
上記第1、第2の態様と同様、防災性能評価のための上記加撃体の衝突方法の代替手段(JIS R3108に基づく試験)として、運動エネルギー約120J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ3000±50mmから落下させるときに相当)、より好ましくは運動エネルギー約240J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ6000±50mmから落下させるときに相当)、さらに好ましくは運動エネルギー約360J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ9000±50mmから落下させるときに相当)、最も好ましくは運動エネルギー約480J(直径100±0.2mm、質量4.11±0.06kgの鋼球を高さ12000±50mmから落下させるときに相当)の加撃体を用い、防災用フィルム貼付箇所の中心において、1辺130±20mmの正三角形の各頂点に1回ずつ計3回加撃体を落下(衝突)させてもよい。
更なる代替手段として、落球高さ9mから、試験ガラス板の中央から半径5cmの円内に1回落球させること以外は、JIS R3108に基づき、落球試験を行うことができる。この際、JIS R3109に基づいて、次の評価を行うことができる。
A:試験後のガラスでは、直径76mmの球が通る孔(開口)が生じず、かつ、長さが125mmを超える裂け目が生じない。
B:試験後のガラスでは、直径76mmの球が通る孔(開口)が生じる、または、長さが125mmを超える裂け目が生じる。
なお、この衝撃試験(落球高さ9m)における衝撃は、JIS R3109の「JD」相当のエネルギー量(運動エネルギー350J)を有する。
あるいは、更なる代替手段として、所定の運動エネルギーを有する加撃体による衝撃を用いてもよい。
【0132】
・補助施工シートに係る実施態様
上記第1の態様に係る防災用窓を利用し、この防災用窓の窓枠の少なくとも一部と、網入板ガラスの防犯フィルムが貼付されていない表面の少なくとも一部および/または網入板ガラスの防犯フィルムが貼付された表面の少なくとも一部とを覆う補助施工用の樹脂製シートを含む形で、さらに防災機能が強化された防災用窓を構成することができる。
ここで、防犯フィルムが網入板ガラスの端縁に設けられた窓枠から垂直方向に一定幅2mmの余白部を有して貼付されている場合には、補助施工用の樹脂製シートがこの余白部の全てを覆っていることが好ましい。
また、上記第2、3の態様に係る防災用フィルムを窓ガラス(例えば上記フロートガラス)の少なくとも一方の面上の少なくとも一部に貼付してなる防災用窓を利用し、この防災用窓の窓枠の少なくとも一部と、窓ガラスの防災用フィルムが貼付されていない表面の少なくとも一部および/または窓ガラスの防災用フィルムが貼付された表面の少なくとも一部とを覆う補助施工用の樹脂製シートを含む形で、さらに防災機能が強化された防災用窓を構成することができる。
ここで、防災用フィルムが窓ガラスの端縁に設けられた窓枠から垂直方向に一定幅2mmの余白部を有して貼付されている場合には、補助施工用の樹脂製シートがこの余白部の全てを覆っていることが好ましい。
【0133】
上述のように、一般的には、窓ガラス上へのフィルムの貼付位置は、全てのガラス露出箇所への貼付、または、板ガラスの端縁に設けられた窓枠から垂直方向に一定幅2mmの余白部を有した貼付であるいわゆる部分貼りのいずれかであってよい。このいわゆる部分貼りの場合は、フィルムが貼付されていない幅2mmの余白部が災害時の加撃体による衝撃に弱くなり、加撃体が窓ガラスの窓枠付近に衝突した際に、開口の形成・拡大を防止するのが困難になる。このため、樹脂製シートを窓枠付近に補助的に施工することにより、衝撃に弱い窓枠付近の保護を強化することができる。
【0134】
この態様の樹脂製のシートは、特に限定されないが、例えば、第1の態様における防犯フィルムまたは第2、3の態様における樹脂製フィルムを、必要に応じて適当な形状に成形したものを用いることができる。
上記樹脂製のシートは、窓枠を含めた窓全体に施工してもよいし、ガラス面(フィルムが貼付されていない表面部分)またはフィルムが貼付されたガラス面の窓枠付近の四辺箇所と、その窓枠を覆うように適当な幅のシートを施工してもよい。窓枠付近の四辺箇所と窓枠を覆うようなシートの幅は、50mm程度であってよく、好ましくは30mm以下、より好ましくは25mm以下の幅である。
【0135】
窓枠に窓ガラス(網入板ガラスまたはフロートガラス等)を嵌めるプロセスを実施する前に、あらかじめ防犯フィルムまたは防災用フィルムを窓ガラスの表面に施工し、ガラスに貼り合わせたフィルムごと窓枠に組み込む「前施工」が好ましい(
図4(a)参照)。
図4(a)において、12は窓ガラス、13は防犯フィルムまたは防災用フィルム、14は窓枠を示す。この「前施工」では、窓ガラス表面の全面または実質的に全面に対して防犯フィルムまたは防災用フィルムを施工する(「全面貼り」と称される)のが一般的である。代替的には、窓ガラス表面の窓枠から中心方向の全面がフィルムで覆われている限りは、窓ガラス表面の端部(窓枠に収められる部分の端部)にある程度のフィルム余白部が存在していてもよい。
代替的な実施態様として、窓枠に窓ガラス(網入板ガラスまたはフロートガラス等)を嵌めるプロセスを実施した後に、防犯フィルムまたは防災用フィルムを窓ガラスの表面に施工する「後施工」を行ってもよい(
図4(b)参照)。
図4(b)において、12は窓ガラス、13’は防犯フィルムまたは防災用フィルム、14は窓枠を示す。図中の防犯フィルムまたは防災用フィルム13’は、窓ガラスの端部に、窓枠から垂直方向に一定幅約2mmの余白部を有した貼付であるいわゆる部分貼りである。
このような後施工にて、窓ガラスの端部に、窓枠から垂直方向に一定幅約2mmの余白部を有して防災用フィルムが貼付される場合には、補助施工シートがこの余白部分を(望ましくは実質的に完全に)覆っていることが好ましい(
図4(c)および
図5(a)、(b)参照)。
図4(c)において、12は窓ガラス、13’は防犯フィルムまたは防災用フィルム、14は窓枠、15は補助施工シートを示す。
図4(c)の補助施工シートは、窓ガラスの防犯フィルムまたは防災用フィルム貼付箇所と窓枠との間の余白部の面上において、典型的に、窓ガラスに完全に密着した貼付態様として描かれている。しかし、補助施工シートの貼付態様は、この典型例に限定されるものではない。すなわち、
図4(c)の補助施工シートの貼付態様の代替例としては、窓ガラスの防犯フィルムまたは防災用フィルム貼付箇所と窓枠との間の余白部の面上において、部分的にのみ窓ガラス面に密着されていてもよい(その他の部分は窓ガラス面に付かずに浮いた状態であってもよい)し、あるいは全体的に窓ガラス面に付かずに浮いた状態であってもよい。
図5(a)、(b)において、16は窓枠、17は窓ガラスにおける防犯フィルムまたは防災用フィルムの貼付面、18は窓枠の縦枠に施工された補助施工シート、19は窓枠の横枠に施工された補助施工シートを示す。
図5(a)、(b)の補助施工シートは、窓枠の長辺側と短辺側の交点にあたる4隅において補助施工シートが重なる部分はシワが出ないように重ねて貼付する施工態様として描かれている。しかし、補助施工シートの施工態様は、この典型例に限定されるものではない。すなわち、
図5(a)、(b)の補助施工シートの施工態様の代替例としては、窓枠の長辺側と短辺側の交点にあたる4隅において、長辺側と短辺側の補助施工シートが重ならないように、重なる部分をカットして貼付してもよい。
【0136】
なお、他の代替態様として、特に限定されない樹脂、典型的には、上述された何れかの種類の樹脂(例えば、中間層を形成する樹脂として例示されたシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ブチラール樹脂、軟質ポリビニルクロライド樹脂、アクリル系樹脂及び粘着剤からなる群から選択される少なくとも1種)を、シーリング材(コーキング材)として、窓枠と窓ガラスとの隙間に適用し(埋め込み)、硬化させることによって、窓ガラスの強度を高め、ひいては防犯・防災性能を向上させることも可能である。
【実施例0137】
以降では、実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0138】
[製造例1~28]
以下の表1~2に示された層構成を有する防災用窓(網入ガラスを用いたもの)、またはフロート板ガラスと防災用フィルムとの組み合わせ体を作製した。
また、表3~4は、製造例1~19の構成を別解したものである。
これらの諸例のうち、本発明に従う防災用窓およびフロート板ガラスと防災用フィルムとの組み合わせ体について、本願にて所望される程度の良好な性能を有するものと合理的に予測される。
【0139】
以下の各表に示された用語・略語の意味、市販元は、以下のとおりである。
・PET100:二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、東洋紡(株)製「コスモシャインA4300」(商品名)、厚み0.100mm。
・PET50:二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、東洋紡(株)製「コスモシャインA4300」(商品名)、厚み0.050mm。
・粘着層付きPET50:上記PET50に下記アクリル系粘着剤1の粘着層を付与したものである。粘着層付きPET50の製造方法は下記段落に記載の通りである。
・PET200:上記PET100の片面に下記アクリル系粘着剤1をロールコーターで塗工し、90℃2分乾燥硬化させ、厚みが20μmの粘着剤層を形成し、別のPET100を貼り合わせて二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの積層体とした。
・PET350:上記PET100を3層と上記PET50を1層積層した積層体である。PET350および粘着層付きPET350の製造方法は下記段落に記載の通りである。このPET350は、以降にて「防犯フィルム350」と称することもある(したがって、粘着層付きPET350は「粘着層付き防犯フィルム350」と称されることになる)。
・ウレタン-PETフィルム:(株)武田産業製ポリウレタンフィルム「Tough Grace Film TG88-I」(商品名):厚み0.170mm(TPU100μm、PE70μm)を3枚準備した。このフィルムは、100μmの熱可塑性ウレタン樹脂層と70μmのポリエチレン層との積層体であり、このうちポリエチレン層を剥がし、熱可塑性ウレタン樹脂層を3枚、160℃の熱をかけてラミネートし、300μmの熱可塑性ウレタン樹脂層を形成した。次いで、粘着層付きPET350の離型紙1を剥がして粘着層面と貼り合わせ、熱可塑性ウレタン樹脂層とPET350との積層体を形成した。次いで、熱可塑性ウレタン樹脂層のPET350と貼り合わせた面とは反対側の面に、上記粘着層付きPET50の離型紙1を剥がした粘着層面を貼り合わせた。
・ブチラール層1:ポリビニルブチラールシート、積水化学(株)製「S-LEC Film」(商品名)、厚み0.38mm。
・ブチラール層2:0.38mm厚の上記ブチラール層1を2層積層し、熱圧着したフィルム。
・ブチラール層3:0.38mm厚の上記ブチラール層1を3層積層し、熱圧着したフィルム。
・軟質PVC層1:重合度1050の塩化ビニル樹脂100質量部に対し、フタル酸系可塑剤を20質量部、エポキシ系可塑剤を5質量部、及び安定剤(Ba-Zn系の液状安定剤)を2.5質量部配合し、ミキサー混錬機を使用し、排出時樹脂温度140℃の条件で溶融混錬し、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得た。次に、日本ロール製(株)の逆L4本カレンダーロール圧延機と引巻取装置を備える装置を使用し、0.300mm厚の軟質塩化ビニル樹脂(以下「PVC」)フィルムを得た。
・軟質PVC層2:上記0.300mm厚の軟質PVCフィルムを2層積層し、ロールの表面温度160度にて熱圧着したフィルムを軟質PVC層2とした。
・αゲル層1=(株)タイカ製のシリコーン性シート製品名「αゲル」。
・補助施工シート1:上記粘着層付きPET350を準備し、25mm幅に帯状に切り取った。
・補助施工シート2:上記粘着層付きPET350の離型紙1を剥がしその粘着層面に3M製「VHB両面テープY4825K-12(商品名)」(厚み1.2mm、幅25mm)の粘着面を貼り合わせた積層体を、25mmのテープ幅に合わせて帯状に切り取った。
・補助施工シート3:上記粘着層付きPET350の片面(粘着層側)に、タイカ製「αゲルテープGT-2」(商品名):幅20mmのテープとは反対側の面を貼り合わせ、そのテープ面に上記3M製「VHB両面テープY4825K-12」(商品名):厚み1.2mm、幅25mmの粘着面の片面を貼り合わせた積層体を、αゲルテープの20mmのテープ幅に合わせて帯状に切り取った。
・離型紙1:東レフィルム加工(株)製のポリエステルフィルム「セラピールWZ」(商品名):厚み38μm。
・ガラス片:縦1100mm横900mmサイズの5mm厚みフロートガラス。
【0140】
【0141】
【0142】
なお、製造例28において、準備する「窓枠つきの窓ガラス(網入ガラス6.8mm厚み)」には、製造例1に倣って防犯フィルム100をアクリル系粘着剤で予め部分貼り(窓枠から垂直方向に一定幅2mmの余白部を有して貼付)しておくものとする。上記テープの貼付は、この余白部と窓枠の実質的な部分を覆うように行う。
また、上記「防犯フィルム350+アクリル粘着剤のシート」の代わりに、下記製品を補強テープとして用いることができる。
・株式会社タイカ製の「アルファゲル」(αGEL)
・日東電工株式会社製の「HYPERJOINT H7000」シリーズ、「HYPERJOINT H8000」シリーズ、「HYPERJOINT H9000」シリーズ
・3M社の「VHB」アクリルフォーム構造用接合テープ
【0143】
【0144】
【0145】
以降では、本発明の好ましい態様に係る防災用フィルムの製造およびそれらのフィルムを窓ガラスに適用した際の物性評価の例を示す。
【0146】
アクリル系粘着剤1の調製
下記材料を攪拌し、アクリル系粘着剤1とした。
・アクリル系粘着剤:トーヨーケム(株)製「BPS5896」(商品名)100質量部
・ヘキサメチレンジイソシアネート:旭化成ケミカルズ(株)製「デュラネート21S-75E」(商品名)0.25質量部
・ベンゾフェノン系紫外線吸収剤:シプロ化成(株)製「シーソーブ106(商品名)」1質量部
・酢酸エチル(溶剤)20質量部
【0147】
粘着層付きPET350の製造
上記PET100(第一のPET層)の片面に上記アクリル系粘着剤1をロールコーターで塗工し、90℃2分の条件で乾燥させ、厚み20μmの粘着層を得た。次いでこの第一のPET層の粘着層側に、第二のPET層とすべく別の上記PET100を貼り合わせ、さらにその第二のPET層のPETフィルム側に上記同様の粘着層を形成した。次いで、第三のPET層とすべく、別の上記PET100を第二のPET層の粘着層側に貼り合わせ、さらに第三のPET層のPETフィルム側に上記同様の粘着層を形成した。次いで、その粘着層側に第四のPET層を形成すべく上記PET50を貼り合わせ4層のPETフィルム積層体であるPET350を得た。
【0148】
さらに、上記4層のPETフィルム積層体であるPET350の第一のPET層のPETフィルム側に、上記アクリル系粘着剤1をロールコーターで塗工し、90℃2分の条件で乾燥させ、厚みが35μmの粘着層を形成し、その表面を離型紙1にて保護し、粘着層付きPET350とした。
【0149】
粘着層付きPET50の製造
上記PET50の片面に、上記アクリル系粘着剤塗料1をロールコーターで塗工し、90℃2分の条件で乾燥させ、厚み20μmの粘着層を形成し、その表面を離型紙1にて保護し、粘着層付きPET50とした。
【0150】
例1(防犯フィルム350)
上記粘着層付きPET350(粘着層付き防犯フィルム350)を試験サンプル1とした。
【0151】
例2(防犯フィルム350の2層重ね)
上記粘着層付きPET350(粘着層付き防犯フィルム350)を2つ準備し、片方の粘着層付きPET350の離型紙1を剥がし、粘着層と、もう一方の粘着層付きPET350のPET側の面とを貼り合わせ、試験サンプル2とした。
【0152】
例3(防犯フィルム350の3層重ね)
例2の試験サンプル2の離型紙を剥がし、粘着層を、別途準備した上記粘着層付きPET350のPET面側に貼り合わせて、試験サンプル3とした。
【0153】
PVC-PETフィルムの製造
上記軟質PVC層1の片面に、上記アクリル系粘着剤1をグラビアコーターで塗工し、90℃2分の条件で乾燥させ、厚み20μmの粘着層を得た。この粘着層面に、上記PET50を貼り合わせ、PVC-PETフィルムとした。
【0154】
例4(PVC-PETフィルムと防犯フィルム350との積層体)
上記粘着層付きPET350の離型紙1を剥がし、粘着層面に、上記PVC-PETフィルムのPVC面側を貼り合わせ、PET350とPVC-PETフィルムの積層体とした。
次に、上記積層体のPVC-PETフィルムのPET50面側に、上記アクリル系粘着剤1をロールコーターで塗工し、90℃2分の条件で乾燥させ、厚みが35μmの粘着層を形成し、その表面を離型紙1にて保護し、試験サンプル4とした。
【0155】
例5(PVB-PETフィルムと防犯フィルム350との積層体)
上記ブチラール層1を2枚準備し、160℃の温度でラミネートし2層の積層体(ブチラール層2)を得、この片面に、上記アクリル系粘着剤塗料1をロールコーターで塗工し、90℃2分の条件で乾燥させ、厚み20μmの粘着層を得た。この粘着層面に、上記PET50を貼り合わせ、PVB-PETフィルムとした。
次に、上記粘着層付きPET350の離型紙1を剥がし、粘着層と、上記PVB-PETフィルムのブチラール樹脂面側を貼り合わせ積層体とした。次に、該積層体のPVB-PETフィルムのPET面側に、上記アクリル系粘着剤1をロールコーターで塗工し、90℃2分の条件で乾燥させ、厚みが35μmの粘着層を形成し、その表面を離型紙1にて保護し、試験サンプル5とした。
【0156】
例6(ウレタン-PETフィルムと防犯フィルム350との含む積層体)
上記ウレタン-PETフィルムの粘着層付きPET50のPET側の面に、上記アクリル系粘着剤1を、ロールコーターで塗工し、90℃2分の条件で乾燥させ、厚みが35μmの粘着層を形成し、その表面を離型紙1にて保護し、試験サンプル6とした。
【0157】
補助施工シートの例
例7~9
上記補助施工シート1を、試験サンプル7とした。
上記補助施工シート2を、試験サンプル8とした。
上記補助施工シート3を、試験サンプル9とした。
【0158】
試験片作成
上記試験サンプル1~6をJIS A5759に基づいて25mm幅のサイズに切りとり、それぞれ試験片1~6とした。
【0159】
引張強度試験
上記試験片1~6について、JIS A5759に基づいて引張強度を測定した。
測定結果を表5に示す。
【0160】
粘着力試験
上記試験サンプル7~9について、JIS A5759に基づいて粘着力を測定した。 測定結果を表5に示す。(被着体ガラスに対して30N以上あるものが好ましい。)
【0161】
例10~15
試験板作成
試験サンプル1~6の離型紙1を剥がし、上記ガラス片に、JIS R3108に基づいて各サンプルのフィルムを施工してから、フィルム施工済みガラス片を枠(窓枠)に嵌めこみ、試験板10~15とした。これは、当業界にて「前施工」と呼ばれるフィルム施工の工法である。
【0162】
補助施工シートの実施態様
例16
上記ガラス片を枠(窓枠)に嵌めて、枠付きガラス板とした。該枠付きガラス板に、上記例2に用いた試験サンプル2のフィルムを、枠の際から垂直方向に2mmの隙間を開けて施工し、枠付き後施工試験板とした。これは、当業界にて「後施工」と呼ばれるフィルム施工の工法である。
【0163】
上記補助施工シート1の離型紙1を剥がし、粘着面を、上記枠付き後施工試験板のフィルムを施工している面において、長辺側の枠の際から垂直方向に1cmの幅でガラスとフィルム面の上に貼り付け、残りを枠の上に沿わせるように、
図5(a)、(b)に示されるように貼りつけた。また、該枠付き後施工試験板の同面において、短辺側に、長辺側と同様にして、上記補助施工シート1を貼りつけた。長辺側と短辺側の交点にあたる4隅において、上記補助施工シート1が重なる部分はシワが出ないように重ねて貼付した(
図5(a)、(b)に示されているとおり)。これを試験板16とした。
【0164】
例17~18
上記例16において、補助施工シート1の代わりに、それぞれ補助施工シート2~3を用いたこと以外は例16と同様にして、それぞれ試験板17~18を作成した。
【0165】
試験(衝撃試験)
上で作成した試験板10~18に対して、下記衝撃試験1及び2を行った。
評価結果を表6に示す。
衝撃試験1
落球高さ9mから、試験ガラス板の中央から半径5cmの円内に1回落球させること以外は、JIS R3108に基づき、落球試験を行った。
JIS R3109に基づいて、次の評価を行った。
A:試験後のガラスでは、直径76mmの球が通る孔(開口)が生じず、かつ、長さが125mmを超える裂け目が生じない。
B:試験後のガラスでは、直径76mmの球が通る孔(開口)が生じる、または、長さが125mmを超える裂け目が生じる。
なお、衝撃試験1(落球高さ9m)における衝撃は、JIS R3109の「JD」相当のエネルギー量を有する。
【0166】
衝撃試験2
落球高さを12mにしたこと以外は上記衝撃試験1と同様に試験及び評価を行った。
なお、衝撃試験2(落球高さ12m)における衝撃は、JIS R3109の「D」相当のエネルギー量を有する。
【0167】
【0168】
【0169】
また、試験板10~18は、本発明の第2、3の態様について望まれる特性として上述された「防災用フィルムが貼付された任意選択の位置への運動エネルギー120Jの加撃体による垂直方向の単数回または複数回の衝突に対して、貫通が生じないか、または直径76mmの球が通る孔を生じず、かつ、上記加撃体による垂直方向の単数回または複数回の衝突に続いて平均風速が41m/s以上48m/s以下の垂直方向からの強風の圧力下に10分間連続で曝されたときに、直径76mmの球が通る孔を生じない」という基準を満たすことが確認された。
本発明による諸態様の防災用窓、または防災用窓を構成するために用いられる防災用フィルムは、台風等の災害時に飛来物による強い衝撃があっても、致命的な開口(孔)が生じず、屋内の気密性を保つことができるので、建築物や車両用の窓に好適に用いられ、特に、住宅や商工業用建築物用の窓、さらには、大規模オフィスビル、学校、ショッピングセンター、ホテルなどの1ヶ所に大勢の人が集まる建築物や構造物用の窓に好適に用いられる。