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特開2024-98132ポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098132
(43)【公開日】2024-07-22
(54)【発明の名称】ポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
   G16C 60/00 20190101AFI20240712BHJP
【FI】
G16C60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001413
(22)【出願日】2023-01-09
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山岡 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 直樹
(72)【発明者】
【氏名】矢島 高志
(57)【要約】
【課題】ポリマー複合材料の導電特性を高精度に得ることができるポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置を提供すること。
【解決手段】導電特性シミュレーション装置1は、ポリマーモデルPまたはフィラーモデルFにより構成されたシミュレーションモデルM1を取得するモデル取得部2と、フィラーモデルFの位置要素のそれぞれを、導電率の異なるフィラー中央部モデルAとフィラー表層部モデルBとにより定義するフィラーモデル定義部3と、それぞれ異なる導電率となるように予め設定されたポリマーモデルPの導電率、フィラー中央部モデルAの導電率およびフィラー表層部モデルBの導電率に基づいて、隣接する位置要素間における導電率を設定する導電率設定部5と、導電率設定部5により設定された導電率を用いて、シミュレーションモデルM4の導電特性を解析する解析部6とを備える。
【選択図】図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーに導電性のフィラーが分散されたポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置であって、
モデル定義領域における位置要素ごとに、前記ポリマーに対応するポリマーモデルまたは前記フィラーに対応するフィラーモデルにより構成されたシミュレーションモデルを取得するモデル取得部と、
前記シミュレーションモデルにおける前記フィラーモデルの位置要素のそれぞれを、導電率の異なるフィラー中央部モデルとフィラー表層部モデルとにより定義するフィラーモデル定義部と、
それぞれ異なる導電率となるように予め設定された前記ポリマーモデルの導電率、前記フィラー中央部モデルの導電率および前記フィラー表層部モデルの導電率に基づいて、隣接する位置要素間における導電率を設定する導電率設定部と、
前記導電率設定部により設定された導電率を用いて、前記シミュレーションモデルの導電特性を解析する解析部と、
を備える、ポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置。
【請求項2】
前記フィラーモデル定義部は、
前記フィラーモデルの位置要素のうち、隣接要素のすべてが前記フィラーモデルとなる位置要素の少なくとも一部を前記フィラー中央部モデルと定義し、
前記フィラーモデルの位置要素のうち、隣接要素のうち少なくとも1つが前記ポリマーモデルとなる位置要素を前記フィラー表層部モデルと定義する、請求項1に記載のポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置。
【請求項3】
さらに、
前記シミュレーションモデルにおける前記ポリマーモデルの位置要素のそれぞれを、ポリマー母相モデルと、前記フィラーモデルに接続するポリマー界面相モデルとにより定義するポリマーモデル定義部、を備え、
前記導電率設定部は、それぞれ異なる導電率となるように予め設定された前記ポリマー母相モデルの導電率、前記ポリマー界面相モデルの導電率、前記フィラー中央部モデルの導電率および前記フィラー表層部モデルの導電率に基づいて、隣接する位置要素間における導電率を設定する、請求項1または2に記載のポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置。
【請求項4】
前記ポリマーモデル定義部は、
前記ポリマーモデルの位置要素のうち、隣接要素のすべてが前記ポリマーモデルとなる位置要素の少なくとも一部を前記ポリマー母相モデルと定義し、
前記ポリマーモデルの位置要素のうち、隣接要素のうち少なくとも1つが前記フィラーモデルとなる位置要素を前記ポリマー界面相モデルと定義する、請求項3に記載のポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置。
【請求項5】
前記解析部は、前記シミュレーションモデルの位置要素の一部を所定の正極電位である正極要素に定義し、他の一部を所定の負極電位である負極要素に定義した場合に、前記シミュレーションモデルにおける前記正極要素と前記負極要素との間の電気抵抗値を解析する、請求項1または2に記載のポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置。
【請求項6】
前記解析部は、前記シミュレーションモデルの位置要素の一部を所定の正極電位である正極要素に定義し、他の一部を所定の負極電位である負極要素に定義した場合に、前記シミュレーションモデルの位置要素ごとの電流値を解析する、請求項1または2に記載のポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置。
【請求項7】
前記解析部は、前記シミュレーションモデルの位置要素の一部を所定の正極電位である正極要素に定義し、他の一部を所定の負極電位である負極要素に定義した場合に、前記シミュレーションモデルにおいて導電経路を解析する、請求項1または2に記載のポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置。
【請求項8】
前記シミュレーションモデルは、三次元モデルであり、
前記解析部は、前記シミュレーションモデルにおいて三次元の前記導電経路を解析する、請求項7に記載のポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置。
【請求項9】
前記モデル取得部は、前記ポリマー複合材料の実画像に基づいて、前記モデル定義領域における位置要素ごとに、前記ポリマーモデルの位置要素および前記フィラーモデルの位置要素を定義する、請求項1または2に記載のポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーに導電性のフィラーが分散されたポリマー複合材料の導電特性を把握したいという要望がある。
【0003】
非特許文献1には、グラファイトを充填した高導電性材料の電気抵抗に関するシミュレーションについて記載されている。シミュレーション対象全体を微小部分に分割した格子モデルを用いており、各格子を、グラファイトとプラスチックとのそれぞれに定義する。グラファイトの電気抵抗を1kΩとし、プラスチックの電気抵抗を100kΩとして、網目状にある等価回路に置き換えてシミュレートする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】北岡猛志、“グラファイトを充填した高導電性材料の電気抵抗に関するシミュレーション”、炭素、1991巻146号、p.2-7、炭素材料学会、1991年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術を適用した場合に、解析により得られる導電特性と、実験により得られる導電特性とにずれが生じることが分かった。従って、解析により得られる導電特性が、実験により得られる導電特性に一致するように、より高精度化が求められている。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、ポリマー複合材料の導電特性を高精度に得ることができるポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ポリマーに導電性のフィラーが分散されたポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置であって、
モデル定義領域における位置要素ごとに、前記ポリマーに対応するポリマーモデルまたは前記フィラーに対応するフィラーモデルにより構成されたシミュレーションモデルを取得するモデル取得部と、
前記シミュレーションモデルにおける前記フィラーモデルの位置要素のそれぞれを、導電率の異なるフィラー中央部モデルとフィラー表層部モデルとにより定義するフィラーモデル定義部と、
それぞれ異なる導電率となるように予め設定された前記ポリマーモデルの導電率、前記フィラー中央部モデルの導電率および前記フィラー表層部モデルの導電率に基づいて、隣接する位置要素間における導電率を設定する導電率設定部と、
前記導電率設定部により設定された導電率を用いて、前記シミュレーションモデルの導電特性を解析する解析部と、
を備える、ポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、フィラーモデル定義部において、フィラーモデルの位置要素のそれぞれを、フィラー中央部モデルとフィラー表層部モデルとにより定義している。フィラー中央部モデルとフィラー表層部モデルとは、導電率が異なるように定義されている。このように、フィラーモデルの領域を、中央部と表層部とに分けて、導電率が異なるように設定している。
【0009】
そして、フィラーモデルを上記のように定義することにより、フィラーモデルを1種類の導電率として定義した場合に比べて、解析により得られる導電特性と実験により得られる導電特性との一致度が高くなる。その結果、ポリマー複合材料の導電特性を高精度に得ることができる。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、ポリマー複合材料の導電特性を高精度に得ることができるポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態における、ポリマー複合材料の導電特性シミュレーション装置の機能構成図。
図2】導電特性シミュレーション装置を構成するモデル取得部の処理を示すフローチャート。
図3】モデル取得部にて取得された対象構造画像Imを示す図。
図4】モデル取得部にて生成されたシミュレーションモデルM1を示す図。
図5図4に示すシミュレーションモデルM1の拡大図であって、位置要素ごとにおいて、フィラーモデルFおよびポリマーモデルPを示す図。
図6】導電特性シミュレーション装置を構成するフィラーモデル定義部により定義された定義後フィラーモデルF2であって、フィラー中央部モデルAおよびフィラー表層部モデルBを示す図。
図7】導電特性シミュレーション装置を構成するフィラーモデル定義部により定義された他の態様としての定義後フィラーモデルF2aであって、フィラー中央部モデルAおよびフィラー表層部モデルBを示す図。
図8】導電特性シミュレーション装置を構成するポリマーモデル定義部により定義された定義後ポリマーモデルP2であって、ポリマー母相モデルCおよびポリマー界面相モデルDを示す図。
図9】導電特性シミュレーション装置を構成する導電率設定部の処理を示すフローチャート。
図10】定義後フィラーモデルF2と定義後ポリマーモデルP2とを合成したシミュレーションモデルM2であって、フィラー中央部モデルA、フィラー表層部モデルB、ポリマー母相モデルC、ポリマー界面相モデルDを示す図。図10において、白線は、フィラーモデルFとポリマーモデルPとの境界線。
図11】導電率設定部により設定されたシミュレーションモデルM3を示す斜視図。
図12】シミュレーションモデルM3において位置要素ごとのモデルを示す拡大図。
図13】位置要素間の導電率を設定したシミュレーションモデルM4を示す拡大図。
図14】導電特性シミュレーション装置を構成する解析部の処理を示すフローチャート。
図15】解析部の解析結果としてのシミュレーションモデルM4の導電経路を示す図。
図16】解析部の解析結果としてのシミュレーションモデルM4の三次元導電経路を示す図。
図17】変形態様におけるシミュレーションモデルM2aであって、フィラー中央部モデルA、フィラー表層部モデルB、ポリマーモデルPを示す図。
図18】実験例および比較例における、実験結果と解析結果における体積抵抗値を示す図。
図19】実験結果と解析結果における、フィラー率と体積抵抗値との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
1.導電特性シミュレーション装置の概要
本形態の導電特性シミュレーション装置は、ポリマー複合材料を対象として、ポリマー複合材料のシミュレーションモデルの導電特性を取得する。対象のポリマー複合材料は、ポリマーに導電性のフィラーが分散されたものである。
【0013】
ポリマーの種類は、特段制限されるものではない。また、導電性のフィラーについても、導電性を有するものであれば、特段制限されるものではない。さらに、フィラーの大きさについても、同様である。
【0014】
本形態においては、ポリマーおよび導電性のフィラーのみにより構成されたポリマー複合材料を対象とするが、導電性を有しないフィラーや、他の添加材を含むポリマー複合材料を対象とすることもできる。導電性を有しないフィラーとしては、例えば、補強を目的としたフィラー、熱伝導性を目的としたフィラーなどである。さらに、ポリマー複合材料は、金具や樹脂などの取付部材を含むようにしても良い。
【0015】
導電特性シミュレーション装置により得られる導電特性は、ポリマー複合材料のシミュレーションモデルにおける正極要素および負極要素との間の電気抵抗値、当該シミュレーションモデルの位置要素ごとの導電率、当該シミュレーションモデルの位置要素ごとの電流値、当該シミュレーションモデルにおける導電経路などを含む。
【0016】
2.導電特性シミュレーション装置1の構成
導電特性シミュレーション装置1の構成について、図1を参照して説明する。図1に示すように、導電特性シミュレーション装置1は、モデル取得部2、フィラーモデル定義部3、ポリマーモデル定義部4、導電率設定部5、解析部6、表示部7を備えて構成される。以下に、各部の詳細を説明する。
【0017】
3.モデル取得部2
モデル取得部2について、図2図5を参照して説明する。モデル取得部2は、シミュレーションの対象としてのポリマー複合材料のモデル(以下、「シミュレーションモデル」と称する)を取得する。上述したように、ポリマー複合材料は、少なくとも、ポリマーと、ポリマーに分散された導電性のフィラーとを含む。
【0018】
図2に示すように、モデル取得部2は、まず、対象構造画像Imを取得する(S1)。本形態においては、対象構造画像Imは、対象構造物であるポリマー複合材料の実画像であって、図3に示すように、例えば、三次元画像とする。対象構造画像Imは、二次元画像とすることも可能であるが、導電経路は三次元的であるため、三次元画像を用いるのが好ましい。対象構造画像Imは、例えば、三次元SEM、三次元STEM、三次元CTなどにより取得することができる。
【0019】
図2に示すように、続いて、モデル取得部2は、取得した対象構造画像Im1に対して、画像処理を施す(S2)。画像処理としては、例えば、ノイズ除去処理および二値化処理などである。画像処理後の二値化画像が、図4および図5に示すシミュレーションモデルM1となる。つまり、モデル取得部2は、対象構造画像Im1に基づいて、シミュレーションモデルM1を生成する。生成されたシミュレーションモデルM1は、三次元モデルとなる。
【0020】
図4および図5において、シミュレーションモデルM1は、白部分がポリマーモデルPを示し、黒部分がフィラーモデルFを示す。本形態においては、シミュレーションモデルM1は、モデル定義領域における各位置要素を立方体とする。このように、シミュレーションモデルM1は、モデル定義領域における位置要素ごとに、ポリマーに対応するポリマーモデルPまたはフィラーに対応するフィラーモデルFにより構成されている。特に、本形態においては、モデル取得部2は、対象構造物であるポリマー複合材料の実画像に基づいて、モデル定義領域における位置要素ごとに、ポリマーモデルPの位置要素およびフィラーモデルFの位置要素を定義する。
【0021】
ここで、図5は、2つのフィラー粒子が接合した部位を示し、接合したフィラーモデルFの一部と、フィラーモデルFの表面付近に位置するポリマーモデルPの一部を示す。なお、シミュレーションモデルM1の各位置要素は、立方体の他に、直方体や、他の立体形状としても良い。
【0022】
4.フィラーモデル定義部3
フィラーモデル定義部3について、図6を参照して説明する。図6に示すように、フィラーモデル定義部3は、図5に示すシミュレーションモデルM1におけるフィラーモデルFに基づいて、定義後フィラーモデルF2を生成する。詳細には、フィラーモデル定義部3は、シミュレーションモデルM1におけるフィラーモデルFの位置要素のそれぞれを、導電率の異なるフィラー中央部モデルAとフィラー表層部モデルBとにより定義して、定義後フィラーモデルF2を生成する。フィラー中央部モデルAは、フィラーモデルFのうち中央寄りに位置し、フィラー表層部モデルBは、フィラーモデルFのうち表層寄りに位置する。
【0023】
より具体的には、フィラーモデル定義部3は、フィラーモデルFの位置要素のうち、隣接要素のすべてがフィラーモデルFとなる位置要素をフィラー中央部モデルAと定義する。フィラーモデル定義部3は、フィラーモデルFの位置要素のうち、隣接要素のうち少なくとも1つがポリマーモデルPとなる位置要素をフィラー表層部モデルBと定義する。
【0024】
生成された定義後フィラーモデルF2は、フィラー中央部モデルAおよびフィラー表層部モデルBを定義するため、フィラー表層部モデルBの厚みが、1つの位置要素分となる。
【0025】
これに置換して、図7に示すように、フィラーモデル定義部3は、フィラー表層部モデルBの厚みを設定した定義後フィラーモデルF2aを生成することもできる。つまり、フィラーモデル定義部3は、設定されたフィラー表層部モデルBの厚みに基づいて、隣接要素のすべてがフィラーモデルFとなる位置要素のうち、ポリマーモデルP寄りの位置要素を、フィラー表層部モデルBと定義する。
【0026】
具体的には、フィラーモデル定義部3は、フィラーモデルFの位置要素のうち、隣接要素のうち少なくとも1つがポリマーモデルPとなる位置要素をフィラー表層部モデルBとして一次定義する。加えて、フィラーモデルFの位置要素のうち、一次定義されたフィラー表層部モデルBの位置要素から、設定されたフィラー表層部モデルBの厚みに対応する位置要素を、フィラー表層部モデルBとして二次定義する。二次定義されたフィラー表層部モデルBは、隣接要素のすべてがフィラーモデルFとなる位置要素であるが、ポリマーモデルP寄りの位置要素となる。
【0027】
このように、フィラー表層部モデルBは、一次定義された位置要素と、二次定義された位置要素とを合わせた位置要素となる。そして、フィラーモデル定義部3は、フィラーモデルFの位置要素のうちの残りの位置要素を、フィラー中央部モデルAと定義する。フィラー中央部モデルAは、当然に、隣接要素のすべてがフィラーモデルFとなる位置要素である。
【0028】
生成された定義後フィラーモデルF2aは、フィラー中央部モデルAと、設定された厚みを有するフィラー表層部モデルBとにより定義される。従って、フィラー表層部モデルBの厚みが、設定された位置要素の数分となる。図7においては、フィラー表層部モデルBの厚みは、2つの位置要素分としているが、3つ以上とすることもできる。
【0029】
5.ポリマーモデル定義部4
ポリマーモデル定義部4について、図8を参照して説明する。図8に示すように、ポリマーモデル定義部4は、図5に示すシミュレーションモデルM1におけるポリマーモデルPに基づいて、定義後ポリマーモデルP2を生成する。詳細には、ポリマーモデル定義部4は、シミュレーションモデルM1におけるポリマーモデルPの位置要素のそれぞれを、ポリマー母相モデルCと、フィラーモデルFに接続するポリマー界面相モデルDとにより定義して、定義後ポリマーモデルP2を生成する。ポリマー母相モデルCは、フィラーモデルFから離れた位置に位置し、ポリマー界面相モデルDは、フィラーモデル寄りに位置する。
【0030】
より具体的には、ポリマーモデル定義部4は、ポリマーモデルPの位置要素のうち、隣接要素のすべてがポリマーモデルPとなる位置要素をポリマー母相モデルCと定義し、ポリマーモデルPの位置要素のうち、隣接要素のうち少なくとも1つがフィラーモデルFとなる位置要素をポリマー界面相モデルDと定義する。
【0031】
ただし、ポリマー界面相モデルDは、厚みを設定することができる。従って、本形態においては、図8に示すように、ポリマーモデル定義部4は、ポリマー界面相モデルDの厚みを設定した定義後ポリマーモデルP2を生成する。つまり、ポリマーモデル定義部4は、設定されたポリマー界面相モデルDの厚みに基づいて、隣接要素のすべてがポリマーモデルPとなる位置要素のうち、フィラーモデルF寄りの位置要素を、ポリマー界面相モデルDと定義する。
【0032】
具体的には、ポリマーモデル定義部4は、ポリマーモデルPの位置要素のうち、隣接要素のうち少なくとも1つがフィラーモデルFとなる位置要素をポリマー界面相モデルDとして一次定義する。加えて、ポリマーモデルPの位置要素のうち、一次定義されたポリマー界面相モデルDの位置要素から、設定されたポリマー界面相モデルDの厚みに対応する位置要素を、ポリマー界面相モデルDとして二次定義する。二次定義されたポリマー界面相モデルDは、隣接要素のすべてがポリマーモデルPとなる位置要素であるが、フィラーモデルF寄りの位置要素となる。
【0033】
このように、ポリマー界面相モデルDは、一次定義された位置要素と、二次定義された位置要素とを合わせた位置要素となる。そして、ポリマーモデル定義部4は、ポリマーモデルPの位置要素のうちの残りの位置要素を、ポリマー母相モデルCと定義する。ポリマー母相モデルCは、当然に、隣接要素のすべてがポリマーモデルPとなる位置要素である。
【0034】
生成された定義後ポリマーモデルP2は、ポリマー母相モデルCと、設定された厚みを有するポリマー界面相モデルDとにより定義される。従って、ポリマー界面相モデルDの厚みが、設定された位置要素の数分となる。図8においては、ポリマー界面相モデルDの厚みは、3つの位置要素分としているが、4つ以上としても良いし、1つ、または、2つとしても良い。
【0035】
6.導電率設定部5
導電率設定部5について、図9図13を参照して説明する。導電率設定部5は、図9に示すように、まず、対象のシミュレーションモデルM2を取得する(S11)。対象のシミュレーションモデルM2は、フィラーモデル定義部3により定義された定義後フィラーモデルF2、および、ポリマーモデル定義部4により定義された定義後ポリマーモデルP2を合成したモデルである。
【0036】
図10に示すように、対象のシミュレーションモデルM2は、モデル定義領域における位置要素ごとに、フィラー中央部モデルA、フィラー表層部モデルB、ポリマー母相モデルC、または、ポリマー界面相モデルDにより構成されている。図10において、白線は、フィラーモデルA,Bと、ポリマーモデルC,Dとの境界を示す。
【0037】
続いて、図9に示すように、導電率設定部5は、対象のシミュレーションモデルM2において、各位置要素のモデルA,B,C,Dに対応する導電率を設定する(S12)。フィラーモデルA,Bの導電率は、ポリマーモデルC,Dの導電率よりも大きく設定されている。さらに、フィラー表層部モデルBの導電率は、フィラー中央部モデルAの導電率よりも小さく設定されている。また、ポリマー界面相モデルDの導電率は、ポリマー母相モデルCの導電率よりも小さく設定されている。
【0038】
なお、本形態においては、導電率設定部5は、対象のシミュレーションモデルM2を生成した後に、各位置要素のモデルA,B,C,Dに対応する導電率の設定を行うこととした。これに限らず、フィラーモデル定義部3およびポリマーモデル定義部4において、モデルA,B,C,Dに対応する導電率の情報を、対応するモデルA,B,C,Dに関連付けて設定しても良い。つまり、フィラーモデル定義部3にて、フィラー中央部モデルAおよびフィラー表層部モデルBが定義されれば、自動的に、対応する導電率が設定される。また、ポリマーモデル定義部4にて、ポリマー母相モデルCおよびポリマー界面相モデルDが定義されれば、自動的に、対応する導電率が設定される。
【0039】
続いて、図9に示すように、導電率設定部5は、対象のシミュレーションモデルM2に、電極要素としての正極要素Me1および負極要素Me2を追加する(S13)。正極要素Me1および負極要素Me2は、導電率の高い電極に対応するモデルである。正極要素Me1は、対象のシミュレーションモデルM2において、所定方向(図11の左右方向)の一端に位置する。一方、負極要素Me2は、対象のシミュレーションモデルM2において、所定方向の他端に位置する。本形態においては、正極要素Me1は、図11に示すように、対象のシミュレーションモデルM2の右端に位置し、負極要素Me2は、左端に位置する。
【0040】
そして、正極要素Me1には、所定の正極電位が設定される。負極要素Me2には、所定の負極電位、例えば、接地電位が設定される。このように、電極付加後のシミュレーションモデルM3は、位置要素の一部を所定の正極電位である正極要素Me1に定義され、他の一部を所定の負極電位である負極要素Me2に定義される。
【0041】
正極要素Me1および負極要素Me2は、高い導電率が設定されている。例えば、正極要素Me1および負極要素Me2は、銅などの導電率に相当する導電率が設定されている。このようにして、電極付加後のシミュレーションモデルM3が生成される。
【0042】
ここで、電極付加後のシミュレーションモデルM3は、位置要素ごとに導電率が設定されているが、接続されていないため、電気回路を構成していない。そこで、図9に示すように、位置要素間の導電率の設定を行うことで、導電解析用のシミュレーションモデルM4を生成する(S14)。
【0043】
図12には、図9のS13にて生成された電極付加後のシミュレーションモデルM3の一部を示す。図12に示すように、電極付加後のシミュレーションモデルM3は、位置要素ごとに導電率が設定されているにすぎない。なお、図12において、正極要素Me1および負極要素Me2を含む領域ではないため、正極要素Me1および負極要素Me2が示されていない。
【0044】
そこで、導電率設定部5は、図13に示すように、隣接する位置要素間における導電率を設定して、導電解析用のシミュレーションモデルM4を生成する。具体的には、導電率設定部5は、予め設定された、フィラー中央部モデルAの導電率、フィラー表層部モデルBの導電率、ポリマー母相モデルCの導電率、ポリマー界面相モデルDの導電率、正極要素Me1の導電率、負極要素Me2の導電率に基づいて、隣接する位置要素間における導電率を設定する。隣接する位置要素間の導電率は、それぞれ、隣接する位置要素の種類に応じて異なる導電率に設定される。
【0045】
図13においては、隣接する位置要素間の導電率に替えて、隣接する位置要素間の電気抵抗値として、Ra,Rb,Rc,Rd,Rab,Rbd,Rcdを示している。電気抵抗値は、導電率の逆数である。
【0046】
隣接する位置要素の両者がフィラー中央部モデルAである場合には、隣接する位置要素間の電気抵抗値は、Raとなる。隣接する位置要素の両者がフィラー表層部モデルBである場合には、隣接する位置要素間の電気抵抗値は、Rbとなる。隣接する位置要素の両者がポリマー母相モデルCである場合には、隣接する位置要素間の電気抵抗値は、Rcとなる。隣接する位置要素の両者がポリマー界面相モデルDである場合には、隣接する位置要素間の電気抵抗値は、Rdとなる。
【0047】
電気抵抗値Raは、フィラー中央部モデルAの導電率の逆数に相当する。電気抵抗値Rbは、フィラー表層部モデルBの導電率の逆数に相当する。電気抵抗値Rcは、ポリマー母相モデルCの導電率の逆数に相当する。電気抵抗値Rdは、ポリマー界面相モデルDの導電率の逆数に相当する。
【0048】
隣接する位置要素の一方がフィラー中央部モデルAであり、他方がフィラー表層部モデルBである場合には、隣接する位置要素間の電気抵抗値は、Rabとなる。隣接する位置要素の一方がフィラー表層部モデルBであり、他方がポリマー界面相モデルDである場合には、隣接する位置要素間の電気抵抗値は、Rbdとなる。隣接する位置要素の一方がポリマー母相モデルCであり、他方がポリマー界面相モデルDである場合には、隣接する位置要素間の電気抵抗値は、Rcdとなる。
【0049】
電気抵抗値Rab,Rbd,Rcdは、例えば、隣接する位置要素の電気抵抗値の平均値とする。平均値は、算術平均(相加平均)、幾何平均(相乗平均)、調和平均、対数平均などを用いることができる。例えば、電気抵抗値Rabは、フィラー中央部モデルAの電気抵抗値とフィラー表層部モデルBの電気抵抗値との平均値である。電気抵抗値Rbd,Rcdも同様である。
【0050】
なお、図示しないが、正極要素Me1と、各モデルA,B,C,Dとが隣接する場合には、それぞれ対応する電気抵抗値が設定される。負極要素Me2についても同様である。
【0051】
7.解析部6
解析部6について、図14図17を参照して説明する。図14に示すように、解析部6は、導電率設定部5により生成された導電解析用のシミュレーションモデルM4を取得する(S21)。
【0052】
続いて、解析部6は、導電率設定部5により設定された導電率(電気抵抗値)を用いて、シミュレーションモデルM4の導電特性を解析する(S22)。詳細には、解析部6は、入力条件として、正極要素Me1に所定の正極電位を付与し、負極要素Me2に所定の負極電位を付与した状態とする。解析部6は、この状態において、シミュレーションモデルM4における正極要素Me1と負極要素Me2との間の電気抵抗値を解析する。この電気抵抗値は、シミュレーションモデルM4を構成するポリマー複合材料に対応する部分全体の電気抵抗値となる。この電気抵抗値は、図11において、対象のシミュレーションモデルM2に対応する部位全体の電気抵抗値である。
【0053】
解析部6は、さらに、上記入力条件において、シミュレーションモデルM4の位置要素ごとの電流値を解析する。解析部6は、位置要素ごとの電流値に基づいて、シミュレーションモデルM4において導電経路を解析することができる。本形態においては、シミュレーションモデルM4が三次元モデルであることから、解析部6は、三次元の導電経路を解析することができる。
【0054】
図15には、解析部6により解析されたシミュレーションモデルM4の一部領域における導電経路を示す。図15において、黒色が、導電経路を示し、薄墨色が、導電経路を構成しないフィラーモデルFを示し、白色が、ポリマーモデルPを示す。図15には、導電経路を分かりやすくするために、シミュレーションモデルM4を二次元で示したが、実際には三次元である。三次元シミュレーションモデルM4における三次元導電経路は、図16に示すようになる。
【0055】
続いて、解析部6は、シミュレーションモデルM4における正極要素Me1と負極要素Me2との間の電気抵抗値を出力する(S23)。また、解析部6は、シミュレーションモデルM4における位置要素ごとの電流値を出力する(S24)。また、解析部6は、シミュレーションモデルM4における導電経路を出力する(S25)。
【0056】
8.表示部7
表示部7は、解析部6による解析結果、すなわち解析部6による出力情報を表示する。つまり、表示部7は、シミュレーションモデルM4における正極要素Me1と負極要素Me2との間の電気抵抗値を表示することができる。また、表示部7は、シミュレーションモデルM4における位置要素ごとの電流値を表示することができる。また、表示部7は、シミュレーションモデルM4における導電経路を表示することができる。
【0057】
9.変形態様
上記実施形態において、シミュレーションモデルM4は、図10に示すように、フィラーモデルFが、フィラー中央部モデルAおよびフィラー表層部モデルBにより構成され、ポリマーモデルPが、ポリマー母相モデルCおよびポリマー界面相モデルDにより構成されることとした。つまり、シミュレーションモデルM4は、4層構成とした。
【0058】
この他に、図17に示すように、ポリマーモデルPは、1種の導電率とすることもできる。例えば、ポリマーモデルPは、ポリマー母相モデルCに相当するモデルのみにより構成される。この場合、シミュレーションモデルM4は、フィラー中央部モデルA、フィラー表層部モデルB、および、ポリマーモデルPの3層構成となる。
【0059】
10.シミュレーションの評価
上述した導電特性シミュレーション装置1によるシミュレーション結果の評価について、以下に示すように、比較例と対比して説明する。
【0060】
本解析例におけるシミュレーションモデルM4は、図17に示すように、フィラー中央部モデルA、フィラー表層部モデルB、および、ポリマーモデルPの3層構成とする。一方、比較例におけるシミュレーションモデルは、図5に示すように、フィラーモデルFおよびポリマーモデルPの2層構成とする。つまり、以下の評価は、特に、フィラーモデルFを、フィラー中央部モデルAとフィラー表層部モデルBにより構成することについての評価となる。
【0061】
条件X,Y,Zにより生成した3種類のポリマー複合材料を準備する。これら3種類のポリマー複合材料は、ポリマーとしての樹脂、フィラーとしての黒鉛、添加剤としての滑剤を配合させる。配合割合は、同一である。ただし、条件X,Y,Zとして、練り工程における温度、回転数、時間を変化させて、3種類のポリマー複合材料を準備した。
【0062】
準備した3種類のポリマー複合材料の体積抵抗値を計測した。体積抵抗値は、単位体積当たりの電気抵抗値である。
【0063】
また、準備した3種類のポリマー複合材料を用いて、本解析例のシミュレーションモデルと比較例のシミュレーションモデルを生成した。それぞれのシミュレーションモデルを用いて、導電解析を行い、体積抵抗値を取得した。
【0064】
図18には、横軸に、実験結果として実際のポリマー複合材料の体積抵抗値を示し、縦軸に、解析結果として、シミュレーションモデルの体積抵抗値を示す。黒丸が、本解析例を示し、黒丸付近の直線は、近似直線である。白丸が、比較例を示し、白丸付近の直線が近似直線である。
【0065】
比較例においては、実験結果としての実際のポリマー複合材料の体積抵抗値が、条件X,Y,Zで異なる値を示しているのに対して、比較例の解析結果は、ほぼ一定値を示している。つまり、比較例は、実験結果と相関がないことが分かる。
【0066】
一方、本解析例においては、条件X,Y,Zにおける実験結果としての実際のポリマー複合材料の体積抵抗値の関係と、条件X,Y,Zにおける解析結果としての体積抵抗値の関係とが、一致する。つまり、両者は一次の相関を有することが分かる。このように、フィラーモデルFを、フィラー中央部モデルAとフィラー表層部モデルBとにより構成することで、実際のポリマー複合材料の導電特性に一致させることができる。
【0067】
次に、ポリマー複合材料におけるフィラーの含有率を変化させた場合に、実際のポリマー複合材料の体積抵抗値と、本解析例における体積抵抗値との関係について評価した。図19に、フィラー率と体積抵抗値との関係を示す。黒丸が実験結果を示し、白丸が本解析例の解析結果を示す。
【0068】
フィラー率が20%以上において、本解析例の解析結果は、実験結果に一致している。ただし、フィラー率が10%以下においては、両者にずれが生じている。
【0069】
11.作用効果
上述したように、導電特性シミュレーション装置1は、ポリマーに導電性のフィラーが分散されたポリマー複合材料を対象とする。導電特性シミュレーション装置1は、モデル定義領域における位置要素ごとに、ポリマーに対応するポリマーモデルPまたはフィラーに対応するフィラーモデルFにより構成されたシミュレーションモデルM1を取得するモデル取得部2を備える。
【0070】
さらに、導電特性シミュレーション装置1は、シミュレーションモデルM1におけるフィラーモデルFの位置要素のそれぞれを、導電率の異なるフィラー中央部モデルAとフィラー表層部モデルBとにより定義するフィラーモデル定義部3を備える。また、導電特性シミュレーション装置1は、それぞれ異なる導電率となるように予め設定されたポリマーモデルPの導電率、フィラー中央部モデルAの導電率およびフィラー表層部モデルBの導電率に基づいて、隣接する位置要素間における導電率を設定する導電率設定部5を備える。そして、導電特性シミュレーション装置1は、導電率設定部5により設定された導電率を用いて、シミュレーションモデルM4の導電特性を解析する解析部6を備える。
【0071】
フィラーモデル定義部3において、フィラーモデルFの位置要素のそれぞれを、フィラー中央部モデルAとフィラー表層部モデルBとにより定義している。フィラー中央部モデルAとフィラー表層部モデルBとは、導電率が異なるように定義されている。このように、フィラーモデルFの領域を、中央部と表層部とに分けて、導電率が異なるように設定している。
【0072】
そして、フィラーモデルFを上記のように定義することにより、フィラーモデルFを1種類の導電率として定義した場合に比べて、解析により得られる導電特性と実験により得られる導電特性との一致度が高くなる。その結果、ポリマー複合材料の導電特性を高精度に得ることができる。
【0073】
また、フィラーモデル定義部3は、フィラーモデルFの位置要素のうち、隣接要素のすべてがフィラーモデルFとなる位置要素の少なくとも一部をフィラー中央部モデルAと定義し、フィラーモデルFの位置要素のうち、隣接要素のうち少なくとも1つがポリマーモデルPとなる位置要素をフィラー表層部モデルBと定義する。これにより、フィラー中央部モデルAとフィラー表層部モデルBとを明確に定義することができる。
【0074】
また、導電特性シミュレーション装置1は、さらに、シミュレーションモデルM1におけるポリマーモデルPの位置要素のそれぞれを、ポリマー母相モデルCと、フィラーモデルFに接続するポリマー界面相モデルDとにより定義するポリマーモデル定義部4を備える。この場合、導電率設定部5は、それぞれ異なる導電率となるように予め設定されたポリマー母相モデルCの導電率、ポリマー界面相モデルDの導電率、フィラー中央部モデルAの導電率およびフィラー表層部モデルBの導電率に基づいて、隣接する位置要素間における導電率を設定する。
【0075】
ポリマーの領域において、フィラー寄りの位置と、フィラーから遠い位置とにおいて、導電率が異なるように設定できる。従って、ポリマー複合材料の導電特性をより高精度に得ることができる。
【0076】
また、ポリマーモデル定義部4は、ポリマーモデルPの位置要素のうち、隣接要素のすべてがポリマーモデルPとなる位置要素の少なくとも一部をポリマー母相モデルCと定義し、ポリマーモデルPの位置要素のうち、隣接要素のうち少なくとも1つがフィラーモデルFとなる位置要素をポリマー界面相モデルDと定義する。これにより、ポリマー母相モデルCとポリマー界面相モデルDとを明確に定義することができる。
【0077】
また、解析部6は、シミュレーションモデルM4の位置要素の一部を所定の正極電位である正極要素Me1に定義し、他の一部を所定の負極電位である負極要素Me2に定義した場合に、シミュレーションモデルM4における正極要素Me1と負極要素Me2との間の電気抵抗値を解析する。この結果、ポリマー複合材料の体積抵抗値を得ることができる。
【0078】
また、解析部6は、シミュレーションモデルM4の位置要素の一部を所定の正極電位である正極要素Me1に定義し、他の一部を所定の負極電位である負極要素Me2に定義した場合に、シミュレーションモデルM4の位置要素ごとの電流値を解析する。これにより、ポリマー複合材料において、どのように電流が流れるのか、どのような部位に大きな電流が流れ、どのような部位に電流が流れにくいのかなどを、把握することができる。
【0079】
また、解析部6は、シミュレーションモデルM4の位置要素の一部を所定の正極電位である正極要素Me1に定義し、他の一部を所定の負極電位である負極要素Me2に定義した場合に、シミュレーションモデルM4において導電経路を解析する。導電経路が分かることにより、ポリマー複合材料の導電特性をより詳細に把握することができる。
【0080】
また、シミュレーションモデルM4は、三次元モデルであり、解析部6は、シミュレーションモデルM4において三次元の導電経路を解析する。フィラーは三次元的に分散しているため、二次元では導電経路を高精度に表現できない場合がある。三次元モデルを用いて、三次元の導電経路を解析することにより、実際のポリマー複合材料に一致した解析を行うことができる。
【0081】
また、モデル取得部2は、ポリマー複合材料の実画像に基づいて、モデル定義領域における位置要素ごとに、ポリマーモデルPの位置要素およびフィラーモデルFの位置要素を定義する。このように、ポリマー複合材料の実画像を用いることにより、実際のポリマー複合材料の導電特性を把握することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 導電特性シミュレーション装置
2 モデル取得部
3 フィラーモデル定義部
4 ポリマーモデル定義部
5 導電率設定部
6 解析部
F フィラーモデル
P ポリマーモデル
A フィラー中央部モデル
B フィラー表層部モデル
C ポリマー母相モデル
D ポリマー界面相モデル
M1,M2,M2a,M3,M4 シミュレーションモデル
Me1 正極要素
Me2 負極要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19