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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098135
(43)【公開日】2024-07-22
(54)【発明の名称】細胞シートおよびその作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240712BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/02
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023038167
(22)【出願日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】112100873
(32)【優先日】2023-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】523090607
【氏名又は名称】日生細胞生技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Up Cell Biomedical Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】林 泓佑
(72)【発明者】
【氏名】謝 凱如
(72)【発明者】
【氏名】林 佳慧
(72)【発明者】
【氏名】陳 宗基
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BD14
4B065BD50
4B065CA60
(57)【要約】
【目的】全体的な製造コストおよび時間コストを有効に下げ、バックエンド治療における即時応用の問題および製造過程の煩雑さという欠点を改善することのできる細胞シートおよびその作製方法を提供する。
【解決手段】作製方法は、以下のステップを含む。細胞培養皿で細胞を培養し、細胞シートを形成する。その後、細胞培養皿中の培養液上清液を除去し、生理食塩水を加えて細胞シートを覆った後、細胞培養皿を超音波発振子に置いて物理的振動を与えることにより、細胞シートと細胞培養皿を分離する。次に、細胞粘着紙を使用して、またはリンスを行って、細胞シートを取得する。
【選択図】なし





【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養皿で細胞を培養し、細胞シートを形成するステップと、
前記細胞培養皿から培養液上清液を除去し、生理食塩水を加えて前記細胞シートを覆った後、前記細胞培養皿を超音波発振子に置いて物理的振動を与えることにより、前記細胞シートと前記細胞培養皿を分離するステップと、
細胞粘着紙を使用して、またはリンスを行って、前記細胞シートを取得するステップと、
を含む細胞シートの作製方法。
【請求項2】
前記細胞シートを20℃~37℃の温度で前記細胞培養皿から分離する請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
前記細胞培養皿で前記細胞を培養する時間が、2日~5日である請求項1に記載の作製方法。
【請求項4】
前記細胞培養皿を前記超音波発振子に置いて前記物理的振動を与える出力が、10ワット~50ワットであり、発振時間が、30秒~5分である請求項1に記載の作製方法。
【請求項5】
前記細胞シートの大きさが直径1cmより大きい時、前記細胞粘着紙を使用して前記細胞シートを取得し、前記細胞粘着紙が、前記細胞培養皿から前記細胞シートを粘着して支持するために使用され、前記細胞粘着紙が、グラシン紙、クッキングシート、パーチメント紙、クラフト紙、スケール紙、裏打ち紙、真珠光沢紙、または耐油紙を含む請求項1に記載の作製方法。
【請求項6】
前記細胞シートの大きさが直径1cmより小さい時、リンスを行って前記細胞シートを取得する請求項1に記載の作製方法。
【請求項7】
請求項1~6にいずれか1項に記載の作製方法を使用して作製された細胞シート。
【請求項8】
前記細胞シートの運送条件が、4℃~20℃の冷蔵温度である請求項7に記載の細胞シート。
【請求項9】
前記細胞シートの厚さが、0.1μm~70μmである請求項7に記載の細胞シート。
【請求項10】
前記細胞シートが、0.01cm2~30cm2の表面積を有する請求項7に記載の細胞シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞シートおよびその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医用工学の進歩に伴い、人体損傷の治療が大幅に変化した。新しい組織工学として、いかなるサポートも追加せずに細胞全体で作られる「細胞シート」が開発された。
【0003】
既存の市場技術では、ペトリ皿上の特殊な塗料を利用して、温度変化により塗料の構造を変化させるため、その上に培養された細胞シートは、温度変化によりプレートから自然に剥離することができる。しかしながら、温度および時間条件に制限され、温度応答性プレートは、20℃の環境で20分~30分間待つ必要がある。細胞の種類によって、プレートを取り外す時間が異なり、20分~60分、あるいはそれ以上長く待つ可能性があり、差が非常に大きいため、バックエンド治療においてすぐに使用することができない。培養過程の間、温度制御に特別な注意を払わなければならない。全過程の間、温度応答性培養皿は、温度制御された機械に置いて操作する必要があるため、製造過程の面で煩雑になる。また、特殊な温度応答性プレートは、コストが比較的高く、在庫不足等の問題が生じる可能性もある。
【0004】
以上に基づき、全体的な製造コストおよび時間コストを有効に下げ、バックエンド治療における即時応用の問題および製造過程の煩雑さという欠点を改善することのできる細胞シートおよびその作製方法を開発することが、現在研究すべき重要な課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、全体的な製造コストおよび時間コストを有効に下げ、バックエンド治療における即時応用の問題および製造過程の煩雑さという欠点を改善することのできる細胞シートおよびその作製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の作製方法は、以下のステップを含む。細胞培養皿で細胞を培養し、細胞シートを形成する。その後、細胞培養皿中の培養液上清液を除去し、生理食塩水を加えて細胞シートを覆った後、細胞培養皿を超音波発振子に置いて物理的振動を与えることにより、細胞シートと細胞培養皿を分離する。次に、細胞粘着紙を使用して、またはリンスを行って、細胞シートを取得する。
【0007】
本発明の1つの実施形態において、細胞シートを20℃~37℃の温度で細胞培養皿から分離する。
【0008】
本発明の1つの実施形態において、細胞培養皿で細胞を培養する時間は、2日~5日である。
【0009】
本発明の1つの実施形態において、細胞培養皿を超音波発振子に置いて物理的振動を与える出力は、10ワット~50ワットであり、発振時間は、30秒~5分である。
【0010】
本発明の1つの実施形態において、細胞シートの大きさが直径1cmより大きい時、細胞粘着紙を使用して細胞シートを取得し、細胞粘着紙は、細胞培養皿から細胞シートを粘着して支持するために使用され、細胞粘着紙は、グラシン紙、クッキングシート、パーチメント紙、クラフト紙、スケール紙、裏打ち紙、真珠光沢紙、または耐油紙を含む。
【0011】
本発明の1つの実施形態において、細胞シートの大きさが直径1cmより小さい時、リンスを行って細胞シートを取得する。
【0012】
本発明の細胞シートは、上述した作製方法を使用して作製される。
【0013】
本発明の1つの実施形態において、細胞シートの運送条件は、4℃~20℃の冷蔵温度である。
【0014】
本発明の1つの実施形態において、細胞シートの厚さは、0.1μm~70μmである。
【0015】
本発明の1つの実施形態において、細胞シートは、0.01cm2~30cm2の表面積を有する。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明は、先行技術の温度応答性皿を使用せずに、物理的振動(超音波振動)を利用して細胞シートの細胞培養皿からの剥離を加速し、細胞生存率が影響を受けない細胞シートおよびその作製方法を提供する。このようにして、非常に短時間で完全な細胞シートを取得することができ、いかなるペトリ皿にも使用することができ、いかなる大きさの細胞シートにも適している。本発明の細胞シートおよびその作製方法により、患者からの一次細胞を異なる大きさの細胞シートに培養して、患者の幹部に移植し、組織再生および修復を促進することができ、それにより、患者の生活の質(quality of life, QOL)を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。しかしながら、これらの実施形態は、単なる例示であり、本発明を限定するものではない。
【0018】
ここで、「ある数値から別の数値」で表示した範囲は、明細書において当該範囲内の全ての数値を1つ1つ挙げることを回避するための概要的表示方法である。したがって、ある特定数値範囲についての描写は、当該数値範囲内の任意の数値および当該数値範囲内の任意の数値により限定される比較的小さな数値範囲を含み、明細書において当該任意の数値および当該比較的小さな数値範囲が明記されていることと同じである。
【0019】
本発明の作製方法は、以下のステップを含む。細胞培養皿で細胞を培養し、細胞シートを形成する。その後、細胞培養皿の培養液上清液を除去し、生理食塩水を加えて細胞シートを覆った後、細胞培養皿を超音波発振子に置いて物理的振動を与えることにより、細胞シートと細胞培養皿を分離する。次に、細胞粘着紙を使用して、またはリンスを行って、細胞シートを取得する。
【0020】
本実施形態において、細胞培養皿で細胞を培養する時間は、約2日~5日である。先行文献の温度応答性皿を必要としないため、いかなるペトリ皿でも細胞を培養することができる。そのため、先行技術の温度応答性皿の長い培養時間(14日)を短縮することができ、コストを下げることができ、温度応答性プレートが在庫不足になる問題を回避することができる。細胞培養皿は、超音波発振子に置き、例えば、10ワット~50ワットの出力および30秒~5分の振動時間で物理的振動を与える。細胞培養皿を超音波発振子に置いて物理的振動を与えることによって、例えば、20℃~37℃の温度で細胞シートと細胞培養皿を分離する。つまり、細胞シートと細胞培養皿は、室温で分離することができる。このようにして、20℃の環境で20分~30分の待ち時間を要する先行文献とは異なり、本発明は、温度または時間条件に制限されない。
【0021】
本実施形態において、細胞シートの大きさが直径1cmより大きい時、細胞粘着紙を使用して細胞シートを取得し、細胞シートの大きさが直径1cmより小さい時、リンスを行って細胞シートを取得する。このようにして、全体の収穫過程をたった5~10分で完了させることができる。既存の市場技術と比較して、本発明は、細胞シートの生成時間および加工費を大幅に低減することができ、工程を簡易化してより便利にすることができる。さらに詳しく説明すると、細胞粘着紙は、細胞培養皿から細胞シートを粘着して支持することのできる任意の材料であってもよく、グラシン紙、クッキングシート、パーチメント紙、クラフト紙、スケール紙、裏打ち紙、真珠光沢紙、または耐油紙等を含むが、本発明はこれに限定されない。
【0022】
本発明は、上述した作製方法を使用して作製された細胞シートも提案する。本実施形態において、細胞シートの厚さは、例えば、0.1μm~70μmであり、細胞シートの表面積は、例えば、0.01cm2~30cm2である。既存の市場技術と比較して、本発明の細胞シートの作製方法により、異なる細胞培養源からより多くの細胞を有する比較的厚い細胞シートを取得することができる。現在臨床的に使用されている細胞シートは薄いため、それを考慮すると、いくつかの細胞シートを積み重ねることによって治療を容易にする必要がある。本発明の細胞シートを臨床治療に応用した場合、必要な細胞シートの数を減らすことが期待され、積み重ねずに直接使用することも可能である。その結果、バックエンド医療応用の問題を改善し、最初の細胞療法効果を維持することができる。また、本発明の細胞シートは、比較的厚いため、本発明の細胞シートは、先行技術の薄い細胞シートと比較して、損傷しにくい。一方、本発明の細胞シートの作製方法により、実際の必要に応じて、いかなる大きさの細胞シート(例えば、注射型のシート)も製造することができる。
【0023】
本発明の細胞シートの運送条件は、例えば、4℃~20℃の冷蔵温度である。そのため、37℃の温度で運送しなければならない既存の市場技術の細胞シートと比較して、本発明の細胞シートは、冷蔵温度で搬送することにより適切な保存を行うことができる。また、本発明の細胞シートは、作製が完了した後に直接使用することができる。使用前に20分待ってから細胞シートを分離しなければならない既存の市場技術の細胞シートと比較して、本発明の細胞シートは、時間コストを有効に減らし、医療応用におけるバックエンド問題を改善することができ、実用的な利用可能性も有する。
【0024】
以上のように、本発明は、主に、細胞培養皿を超音波発振子に置いて物理的振動を与えることにより、細胞シートを細胞培養皿から分離する細胞シートおよびその作製方法を提供する。既存の市場技術の温度応答性プレートを使用する必要がないため、温度および時間条件に制限されず、全体的な製造コストおよび時間コストを有効に減らして、製造過程の煩雑さという欠点を改善し、且つ起こりうる在庫不足の問題を回避することができ、バックエンド治療における実時間利用に適している。本発明は、異なる細胞培養源からより多くの細胞を有する比較的厚い細胞シートを取得することができる。臨床応用の面では、必要な細胞シートの数を減らすことが期待され、積み重ねずに直接使用することもできるため、バックエンド医療応用の問題を改善し、実質的な利用可能性を有する最初の細胞療法効果を維持することができる。本発明の細胞シートは、脳卒中治療、口腔治療、食道修復、脊椎損傷治療、関節修復、皮膚損傷修復、しわ矯正、他の臓器の修復等に応用することができる。しかしながら、本発明はこれらに限定されず、上述した臨床応用は、単なる例示であり、実際の必要に応じて、他の疾患治療または臨床応用にも応用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の細胞シートおよびその作製方法は、脳卒中治療、口腔治療、食道修復、脊椎損傷治療、関節修復、皮膚損傷修復、しわ矯正、他の臓器の修復等に応用することができる。
【外国語明細書】