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特開2024-98170繊維含有樹脂成形体および繊維含有樹脂成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098170
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】繊維含有樹脂成形体および繊維含有樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/14 20060101AFI20240716BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20240716BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20240716BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20240716BHJP
   B27N 5/00 20060101ALI20240716BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20240716BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240716BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20240716BHJP
【FI】
B29C43/14
B29C70/42
B29C43/34
B32B5/28 A
B27N5/00 Z
B29K101:12
B29K105:08
B29L9:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001447
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 英樹
【テーマコード(参考)】
2B260
4F100
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
2B260BA07
2B260BA15
2B260BA19
2B260CD09
2B260EA05
2B260EB02
2B260EB06
2B260EB42
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AT00D
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10B
4F100BA10D
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100DG01C
4F100DH02A
4F100DH02B
4F100DH02C
4F100EJ20
4F100EJ42
4F100GB33
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JB16C
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F204AA04
4F204AA11
4F204AA24
4F204AC03
4F204AD05
4F204AD08
4F204AD16
4F204AG03
4F204AG24
4F204AH17
4F204FA01
4F204FA18
4F204FB01
4F204FB13
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F205AA04
4F205AA11
4F205AA24
4F205AC03
4F205AD05
4F205AD08
4F205AD16
4F205AG03
4F205AG24
4F205AH17
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA34
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB13
4F205HC06
4F205HC12
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK16
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】繊維含有樹脂成形体の表面にフィルム層が設けられる場合でも、成形不良を抑制可能な繊維含有樹脂成形体および繊維含有樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】板状をなし、第1面11Uおよび第1面11Uと反対側の第2面11Dを有する繊維含有樹脂成形体11であって、繊維及び熱可塑性樹脂を含む基材11Kであって、第1面11U側に配される第1層11Aと、第2面11D側に配される第2層11Cと、第1層11Aおよび第2層11Cの間に配される中間層11Bと、が積層されてなる基材11Kと、基材11Kの第1層11A側に設けられて第1面11Uを構成するフィルム層18と、を備え、第1面11Uには、第2面11D側に向けて後退する形の後退部16が形成されている。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状をなし、第1面および前記第1面と反対側の第2面を有する繊維含有樹脂成形体であって、
繊維及び熱可塑性樹脂を含む基材であって、前記第1面側に配される第1層と、前記第2面側に配される第2層と、前記第1層および前記第2層の間に配される中間層と、が積層されてなる前記基材と、
前記基材の前記第1層側に設けられて前記第1面を構成するフィルム層と、を備え、
前記第1面には、前記第2面側に向けて後退する形の後退部が形成されている繊維含有樹脂成形体。
【請求項2】
前記中間層の厚さ寸法は、前記第1層および前記第2層の各厚さ寸法より大とされている請求項1に記載の繊維含有樹脂成形体。
【請求項3】
前記後退部は、当該繊維含有樹脂成形体の主体となる主面部の外側に前記主面部と段違いに形成されたフランジ部である請求項1または請求項2に記載の繊維含有樹脂成形体。
【請求項4】
第1面および前記第1面と反対側の第2面を有する板状をなす繊維含有樹脂成形体であって、繊維及び熱可塑性樹脂を含み複数層からなる基材と、前記基材の前記第1面側に設けられて前記第1面を構成するフィルム層とを備え、前記第1面に、前記第2面側に向けて後退する形の後退部が形成されている繊維含有樹脂成形体の製造方法であって、
前記繊維と、前記繊維とは異なる熱可塑性樹脂繊維とを混合した混合繊維を板状に広げた繊維マットを形成する繊維マット形成工程と、
少なくとも3枚の前記繊維マットを積層するとともに加熱プレスしてプレボードを形成するプレボード形成工程と、
前記プレボードの少なくとも一面側にフィルム層を形成するフィルム層形成工程と、
少なくとも一方の成形型の成形面に突出部を備えた一対の成形型の間に、前記プレボードを前記フィルム層が前記突出部に対向する向きに配置し、前記成形型を型閉じすることで前記フィルム層が形成された前記プレボードを前記一対の成形型で押圧し、前記突出部に相当する位置に前記後退部を備えた前記繊維含有樹脂成形体を加熱プレス成形する繊維含有樹脂成形体成形工程と、を順に実行する繊維含有樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は繊維含有樹脂成形体および繊維含有樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維を含む樹脂成形体の製造方法として、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1には、樹脂繊維と植物系繊維とを配合したものをマット状に成形し、プレス機により圧縮成形して熱成形用繊維板を作製し、その熱成形用繊維板を樹脂が溶ける温度に再加熱した後、プレス成形用上下型によりプレス成形することで、車両の内装用基材を製造する方法が記載されている。
【0003】
一方、特許文献2には、第1層および第2層を積層させてなる繊維ボードを加熱プレスすることにより、自動車用ドアトリムの形状に成形された繊維成形体を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-179716号公報
【特許文献2】特開2015-16589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような樹脂成形体の板面にフィルム層が設けられる場合がある。しかし、フィルム層が設けられたマット状の熱成形用繊維板をプレス成形する場合、フィルム層のうち他の部分と比較して先に成形型に接触する部分が成形型に貼り付いた状態となり、熱成形用繊維板のうち成形型に貼り付いたフィルム層に対応する部分が他の部分と比較して延び難くなる傾向がある。そして、熱成形用繊維板が2層構造とされる場合には、成形型に貼り付いたフィルム層側に配置されて延び難い状態とされた第1層と、フィルム層の反対側に配置されて延び易い状態の第2層との界面が応力により剥離してずれが生じ、その結果、製造された樹脂成形体に部分的にしわが生じたり、大きく延びた第2層に亀裂が生じたりする虞がある。
【0006】
本明細書に開示される技術は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、繊維含有樹脂成形体の表面にフィルム層が設けられる場合でも、成形不良を抑制可能な繊維含有樹脂成形体および繊維含有樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、板状をなし、第1面および前記第1面と反対側の第2面を有する繊維含有樹脂成形体であって、繊維及び熱可塑性樹脂を含む基材であって、前記第1面側に配される第1層と、前記第2面側に配される第2層と、前記第1層および前記第2層の間に配される中間層と、が積層されてなる前記基材と、前記基材の前記第1層側に設けられて前記第1面を構成するフィルム層と、を備え、前記第1面には、前記第2面側に向けて後退する形の後退部が形成されている。
【0008】
上記構成によれば、繊維含有樹脂成形体のうち後退部を有する第1面がフィルム層で構成される場合でも、後退部を形成すべく繊維含有樹脂成形体をプレス成形する際に生じる第1層および第2層の延び寸法の差を中間層により吸収することができるから、成形不良を抑制することができる。
【0009】
前記中間層の厚さ寸法は、前記第1層および前記第2層の各厚さ寸法より大とされていてもよい。上記構成によれば、各層間の界面にかかる応力をより効果的に小さくすることができる。
【0010】
前記後退部は、当該繊維含有樹脂成形体の主体となる主面部の外側に前記主面部と段違いに形成されたフランジ部であってもよい。
【0011】
繊維含有樹脂成形体の基となるプレボードをプレス成形する際に、後退部が外側に近い位置に設けられる程、厚み方向において板面に沿う方向の延び寸法の差が大きくなり、成形不良が発生し易くなる。上記構成は、後退部が繊維含有樹脂成形体の主面部の外側に設けられる際に特に有効である。
【0012】
また本明細書に開示される技術は、第1面および前記第1面と反対側の第2面を有する板状をなす繊維含有樹脂成形体であって、繊維及び熱可塑性樹脂を含み複数層からなる基材と、前記基材の前記第1面側に設けられて前記第1面を構成するフィルム層とを備え、前記第1面に、前記第2面側に向けて後退する形の後退部が形成されている繊維含有樹脂成形体の製造方法であって、前記繊維と、前記繊維とは異なる熱可塑性樹脂繊維とを混合した混合繊維を板状に広げた繊維マットを形成する繊維マット形成工程と、少なくとも3枚の前記繊維マットを積層するとともに加熱プレスしてプレボードを形成するプレボード形成工程と、前記プレボードの少なくとも一面側にフィルム層を形成するフィルム層形成工程と、少なくとも一方の成形型の成形面に突出部を備えた一対の成形型の間に、前記プレボードを前記フィルム層が前記突出部に対向する向きに配置し、前記成形型を型閉じすることで前記フィルム層が形成された前記プレボードを前記一対の成形型で押圧し、前記突出部に相当する位置に前記後退部を備えた前記繊維含有樹脂成形体を加熱プレス成形する繊維含有樹脂成形体成形工程と、を順に実行するものである。
【発明の効果】
【0013】
本明細書に開示される技術によれば、繊維含有樹脂成形体の表面にフィルム層が設けられる場合でも、成形不良を抑制可能な繊維含有樹脂成形体および繊維含有樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態のドアトリムを示す模式図
図2】繊維マット形成工程を示す繊維マット製造装置の模式図
図3】成形装置を示す模式図
図4】3枚の繊維マットの側面図
図5】プレボード形成工程を示す断面図
図6】着色層形成工程を示す断面図
図7】フィルム層形成工程を示す断面図
図8】着色層およびフィルム層が形成されたプレボードの断面図
図9】トリムボード成形工程を示す図であって、上型がプレボードに接触した状態を示す端部付近の一部拡大断面図
図10】トリムボード成形工程を示す図であって、プレボードが下型に接触した状態を示す端部付近の一部拡大断面図
図11】トリムボード成形工程を示す図であって、上型および下型によりプレボードがプレスされている状態を示す端部付近の一部拡大断面図
図12】プレボードの延び方を示す説明図
図13】トリムボードの端部付近の一部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
一実施形態を図1から図13によって説明する。本実施形態では、ドアトリム10について、その構成と製造方法について例示する。ドアトリム10は、自動車等の車両用ドアの車室内面を構成するものであって、図1に示すように、略平板状のトリムボード11(繊維含有樹脂成形体の一例)を主体として構成されている。
【0016】
トリムボード11は、繊維及び熱可塑性樹脂を含むものとされる。トリムボード11に含まれる繊維としては、例えば、ケナフ繊維が用いられるが、繊維の種類はこれに限定されない。トリムボード11に用いられる繊維として、木質繊維、熱可塑性樹脂繊維、ガラス繊維や炭素繊維などを用いてもよい。また、トリムボード11において、繊維は、バインダーとしての熱可塑性樹脂により結着されている。トリムボード11に用いられるバインダーとしての熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリエステル系樹脂を例示することができる。
【0017】
本実施形態のトリムボード11は、当該トリムボード11が有する表面の風合いを生かしたものとされ、車室内面側に後述する着色層17を備えるとともに、この着色層17の車室内面側に、防水性および防臭性を有するフィルム層18を備えている。また、トリムボード11の車室外面側にも、同様のフィルム層18を備えている(図13参照)。これらフィルム層18を構成するフィルム18Aとしては、例えば、ポリプロピレンーナイロンーポリプロピレンの三層フィルムを例示することができる。なお、トリムボード11のうち着色層17およびフィルム層18を省いた部分を、以下、基材11Kと称することとする。
【0018】
トリムボード11は、図13に示すように、クランク状に屈曲された屈曲部を有している。詳細には、このトリムボード11は、主としてドアトリム10の室内意匠面の主体となる中央部分を構成する略平坦な板状の主面部12と、主面部12の延在方向の外側(端部)において第1屈曲部13により車室外側に向けて屈曲され、主面部12の板面に対して車室外側に向けて傾斜して延びる傾斜部14と、傾斜部14の車室外側の端部において第2屈曲部15により屈曲され、主面部12と平行に延びるフランジ部(後退部の一例)16と、を備えている。フランジ部16は主面部12から車室外側に向けて段違いに後退した部分と言うこともできる。
【0019】
続いて、ドアトリム10を構成するトリムボード11を製造するための製造装置について説明する。本実施形態のトリムボード11は、植物系繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混合した混合繊維60をマット化させ、そのマットを3層積層させた状態で加熱プレスして1枚の板状のプレボード11Pを形成し、プレボード11Pの板面に着色層17とフィルム層18を形成した後、そのプレボード11Pを一対の成形型でプレス成形することにより製造される。
【0020】
まず、繊維マット製造装置20について説明する。繊維マット製造装置20は、植物系繊維および結着材としての熱可塑性樹脂繊維からなる混合繊維60から板状の繊維マット11Mを製造するものである。
【0021】
繊維マット製造装置20は、図2に示すように、繊維供給部21と、フィードコンベア22と、開繊シリンダ23と、ブロア部26と、コンベア27と、吸引装置28と、交絡装置29と、カッター30と、を備えて構成されている。
【0022】
繊維供給部21に投入され、混合状態とされた繊維(混合繊維60)は、フィードコンベア22によって開繊シリンダ23に供給される。開繊シリンダ23は、円筒状をなすシリンダ本体23Aの表面(外周面)に複数の突起部23Bを備えてなり、中心軸L1を中心として、図2中時計回りに回転する。回転する開繊シリンダ23は、フィードコンベア22から送られた混合繊維60を、突起部23Bで引っ掻くようにして開繊することが可能となっている。また、開繊シリンダ23が回転することで、混合繊維60は、開繊シリンダ23の表面(突起部23B)に引っ掛けられることで上方に搬送され、その後、開繊シリンダ23の回転による遠心力によって、空中に放出される。なお、図2において開繊シリンダ23の回転方向を矢線A1で示す。
【0023】
開繊シリンダ23の外周には、ストリッパーローラ24及びウォーカローラ25が設けられており、それらの各表面にも複数の突起部が形成されている。ウォーカローラ25は、開繊シリンダ23との間に混合繊維60を通過させることで、その混合繊維60に対して開繊処理を施す機能を有しており、ストリッパーローラ24は、ウォーカローラ25の表面に付着した混合繊維60を剥離する機能を有している。
【0024】
開繊シリンダ23の下流側にはブロア部26が配されており、開繊シリンダ23に向けて空気を吹き付けるようになっている。開繊された混合繊維60は、ブロア部26から吹き付けられた空気によって飛散し、コンベア27上に落下する。
【0025】
コンベア27は網目状をなすメッシュコンベアとされ、その上面27Aに混合繊維60を堆積させることが可能である。コンベア27の下方には吸引装置28が配されており、空気を吸引することで、混合繊維60をコンベア27の上面27Aに吸引可能とされている。コンベア27は、上面27Aに混合繊維60を堆積させつつ混合繊維60の層を図2の右側に搬送することで、繊維ウェブ11Wを形成する。なお、コンベア27による混合繊維60の搬送方向を矢線A2で示す。
【0026】
交絡装置29は、例えば、ニードルパンチ装置とされ、繊維ウェブ11Wに含まれる繊維同士を交絡させることで繊維ウェブ11Wを不織布状の繊維マット11Mとすることが可能な構成とされている。繊維マット11Mは、カッター30により裁断され、所定の寸法とされる。
【0027】
次に、プレボード製造装置31について説明する。プレボード製造装置31は、例えば熱板プレス装置や熱ベルトプレス装置等からなり、一対の平坦なプレス型32,33を備えている(図5参照)。一対のプレス型32,33は、図示しない駆動装置(例えば、電動モータ、エアシリンダ、油圧シリンダなど)によって、互いに型閉じ及び型開きが可能な構成となっている。一対のプレス型32,33は、例えば、通電によって発熱するヒータなどの発熱手段を備えている。これにより、一対のプレス型32,33は、所定の温度に加熱可能な構成となっており、繊維マット11Mを加熱プレスすることができる。
【0028】
本実施形態では、繊維マット製造装置20により製造された繊維マット11Mを3枚積層させた状態で加熱しつつ、又は、加熱の後に加圧して、一枚の平板状のプレボード11Pとする(図4および図5参照)。プレボード11Pは、繊維含有樹脂成形体の製品形状(ドアトリム10、トリムボード11)に成形される前の状態である。
【0029】
次に、成形装置40について説明する。成形装置40は、図3に示すように、一対の成形型(上型41及び下型51)を備えている。プレボード製造装置31により製造されたプレボード11Pは、その表面に後述する着色層17およびフィルム層18が形成された後、上型41及び下型51によって製品形状にプレス成形されることで、ドアトリム10のトリムボード11とされる。以下、着色層17およびフィルム層18が形成されたプレボード11Pを、フィルム層付きプレボード11Pfとして説明する。着色層17およびフィルム層18を含まないプレボード11Pは、トリムボード11の基材11Kとなる部分である。
【0030】
上型41は、図示しない駆動装置(例えば、電動モータ、エアシリンダ、油圧シリンダなど)によって、下型51(固定型)に対して移動が可能な可動型とされる。上型41を下型51に対して接近離間させることで上型41及び下型51の型閉じ及び型開きが可能な構成となっている。
【0031】
下型51は、全体として、上型41との対向面である成形面51Aが上型41に向かって突き出す形状をなしている。また、上型41は、下型51との対向面である成形面41Aが、下型51の形状に対応して凹む形状をなしている。上型41は、上型41及び下型51が型閉じされた閉状態では、下型51に対して、トリムボード11の板厚に等しい距離だけ離間して対向配置される。つまり、閉状態では上型41と下型51との間にはトリムボード11を成形するためのトリムボード成形空間S1が形成される(図11参照)。これにより、上型41及び下型51でフィルム層付きプレボード11Pfをプレスすると、フィルム層付きプレボード11Pfがトリムボード成形空間S1の形状に対応する形に圧縮され、トリムボード11が成形される構成となっている。なお、トリムボード11の板厚、すなわち、閉状態における上型41および下型51の離間距離は、フィルム層付きプレボード11Pfの板厚よりも小さいものとされる。
【0032】
次にドアトリム10を構成するトリムボード11の製造方法の一例について説明する。本実施形態のトリムボード11の製造方法は、植物系繊維と熱可塑性樹脂繊維とからなる繊維マット11Mを形成する繊維マット形成工程と、繊維マット11Mを積層させてプレボード11Pを形成するプレボード形成工程と、プレボード11Pの片面に着色層17を形成する着色層形成工程と、プレボード11Pの両面にフィルム層18を形成するフィルム層形成工程と、フィルム層付きプレボード11Pfを加熱するとともにプレス成形してトリムボード11を成形するトリムボード成形工程(繊維含有樹脂成形体成形工程の一例)と、を順に実行するものである。
【0033】
<繊維マット形成工程>
繊維マット形成工程では、植物系繊維および結着材としての熱可塑性樹脂繊維を所定の割合で繊維供給部21に投入し、混合する。混合状態とされた混合繊維60は、図2に示すように、繊維供給部21からフィードコンベア22によって開繊シリンダ23に供給され、回転する開繊シリンダ23によって開繊されると共に、開繊シリンダ23から空中に放出される。
【0034】
放出された混合繊維60は、ブロア部26から吹き付けられた空気によって飛散し、動作中のコンベア27の上面27Aに堆積する。この時、コンベア27の下方には吸引装置28が配されているから、混合繊維60は吸引装置28によりコンベア27の上面27Aに層の状態で吸引される。コンベア27の上面27Aに堆積された混合繊維60は、コンベア27の動作によって図2の右側に連続的に搬送され、これにより、混合繊維60が層状に堆積してなる繊維ウェブ11Wが作製される。繊維ウェブ11Wは、交絡装置29により交絡され、不織布状の繊維マット11Mが形成される。繊維マット11Mは、カッター30により適宜長さに切断される。
【0035】
<プレボード形成工程>
プレボード形成工程では、図4および図5に示すように、繊維マット形成工程により形成された繊維マット11Mを、一対の平坦なプレス型32,33によって加熱プレスする。本実施形態では、3枚の繊維マット11Mを積層させた状態で加熱プレスする。これにより、各繊維マット11Mが圧縮されると共に、各繊維マット11Mに含まれる熱可塑性樹脂が溶融することで互いの接触面において混ざり合う。
【0036】
なお、各繊維マット11Mは、その製法上、厚み方向において植物系繊維および熱可塑性樹脂繊維の各密度に分布を有している。具体的には、各繊維マット11Mは、一面側にかけて植物系繊維の密度が高く、他面側にかけて熱可塑性樹脂繊維の密度が高い傾向にある。本実施形態では、積層された際に表裏に配置される繊維マット11Mを、熱可塑性樹脂繊維の密度が積層体の表裏面で高くなる向きに積層させる。
【0037】
加熱プレスの後、繊維マット11Mに含まれる熱可塑性樹脂が冷却固化することで、3層構造のプレボード11Pが形成される。この3層構造のプレボード11Pは、トリムボード11のうち着色層17およびフィルム層18を含まない基材11Kとなる部分である。
【0038】
また本実施形態では、3枚の繊維マット11Mのうち中間に配置される繊維マット11M(後述する中間層11B)の厚さが、その表裏に配置される繊維マット11M(後述する上層11Aおよび下層11C)の厚さより大きいものを使用している。なお各繊維マット11Mの厚さは同等でもよく、全て異なる厚さとされてもよい。
【0039】
また本実施形態では、各繊維マット11Mにおける植物系繊維の割合および目付は同等とされているが、植物系繊維の割合や目付は各層により適宜変更可能である。
【0040】
<着色層およびフィルム層形成工程>
次に、プレボード11Pの一面側に着色層17を構成するスパンボンド不織布17Aを積層し、接着する(図6参照)。その後、さらに着色層17の表面(プレボード11Pと対向する面の反対面)に、防水性および防臭性を有するフィルム18Aを積層して接着し、フィルム層18を形成する。また、プレボード11Pのうち着色層17が積層された面の反対側の面にも、同様に、フィルム層18を接着する(図7および図8参照)。なお、フィルム18Aとしては、例えば、ポリプロピレン-ナイロン-ポリプロピレンの三層フィルムを使用することができる。これら着色層17およびフィルム層18の接着強度は、上述した3枚の繊維マット11M同士が熱可塑性樹脂により互いに溶着される強度と比較して、大きいものとされる。
【0041】
<トリムボード成形工程>
次に、トリムボード成形工程では、まず、着色層17およびフィルム層18が形成されたプレボード11P(フィルム層付きプレボード11Pf)を図示しないヒータによって加熱する。これにより、フィルム層付きプレボード11Pfが軟化状態となる。その後、図3に示すように、軟化状態とされたフィルム層付きプレボード11Pfを、上型41および下型51の間に配置する。この時、フィルム層付きプレボード11Pfを、上型41および下型51から離れた状態で、着色層17が形成された面が上型41に対向する向きに配置する。なお、図3においては着色層17およびフィルム層18の図示を省略している。
【0042】
以下、3枚の繊維マット11Mにより構成されたプレボード11Pの3つの層のうち上方に配される層を上層(第1層の一例)11A、下方に配される層を下層(第2層の一例)11C、上層11Aと下層11Cの間に配される層を中間層11Bと称することとする。
【0043】
フィルム層付きプレボード11Pfが上型41および下型51の間の正規の位置に配置されたら、続いて、上型41および下型51を型閉じすることで、フィルム層付きプレボード11Pfを上型41および下型51の各成形面41A,51Aによってプレス成形する。
【0044】
図9から図11はプレス成形中の成形型(上型41及び下型51)およびフィルム層付きプレボード11Pf(トリムボード11)の外側端部付近の一部拡大断面図である。上型41と下型51によるプレス成形時には、図9に示すように、まず、下型51に向けて下降する上型41の端部の下方に突出した部分(突出部の一例、以下上側突出部42とする)が、フィルム層付きプレボード11Pfの上面(第1面の一例)11Uに当接する。そして、フィルム層付きプレボード11Pfを下型51に向けて押圧する。フィルム層付きプレボード11Pfは平坦な状態を保ったまま下降し、図10に示すように、その下面(第2面の一例)11Dが下型51の中央部の上方に突出した部分(以下下側突出部53とする)に押し当てられる。
【0045】
さらに上型41が下型51に向けて下降すると、図11に示すように、フィルム層付きプレボード11Pfの上面11Uが上型の成形面41Aに倣う形状に成形されるとともに、フィルム層付きプレボード11Pfの下面11Dが下型51の成形面51Aに倣う形状に成形される。つまり、上述した屈曲部(第1屈曲部13および第2屈曲部15)が形成される。そして最終的には、全体としてフィルム層付きプレボード11Pfの板厚よりやや薄い板厚のトリムボード11が成形される(図13参照)。
【0046】
ところで、このフィルム層付きプレボード11Pfのプレス成形時、上述したように、フィルム層付きプレボード11Pfには、まず上型41の上側突出部42が他の部分に先立って押し当てられる(図9参照)。これにより、フィルム層付きプレボード11Pfの上面11Uを被覆するフィルム層18のうち上側突出部42が押し当てられた部分が、その後成形型が押し当てられる部分と比較して、より強い力で上型41と貼り付いた状態とされる。
【0047】
そしてこのような事情により、上型41および下型51によりプレスされ、若干横方向に押し広げられた状態とされるフィルム層付きプレボード11Pfのうち、上側突出部42に対応する部分は、他の部分と比較して、横方向に延び難い状態とされる。
【0048】
さらに詳細には、フィルム層付きプレボード11Pfのうち上側突出部42に対応する部分において、その厚み方向、すなわち、上層11Aと下層11Cとで横方向(板面に沿う方向)の延び寸法が異なった状態とされる。具体的には、上側突出部42に近い位置に配置される上層11Aは上型41の上側突出部42に貼り付いたフィルム層18により延び難い状態とされ、上側突出部42から相対的に遠い位置に配置される下層11Cは比較的に延び易い状態とされる。つまり、図12に示すように、フィルム層付きプレボード11Pfのうち上側突出部42に対応する部分において、プレス成形時に上層11Aが横方向に引き延ばされる寸法をL1、下層11Cが横方向に引き延ばされる寸法をL3とすると、L1<L3とされる。このように各層によって延び寸法が異なると、互いに溶着された状態の層の界面が応力により剥離する虞がある。
【0049】
特に本実施形態のように、トリムボード11の屈曲部が当該トリムボード11の端部に近い位置に設けられる場合には、層の界面にかかる応力が大きくなる傾向にある。すなわち、フィルム層付きプレボード11Pfをプレス成形する際には、フィルム層付きプレボード11Pfは中央部から端部に向けて押し広げられ易いことから、端部は中央部と比較して横方向への移動距離(延び寸法)が大きくなり、もって、端部ほど層の界面にかかる応力が大きくなる傾向にある。
【0050】
このような問題に対し、本実施形態のプレボード11Pは、上層11Aと下層11Cとの間に中間層11Bを設ける構成とされている。このような構成によれば、中間層11Bは、上側突出部42から近い位置に配置される上層11Aよりは延び易いが、下層11Cよりは延び難い状態とされるため、すなわち、中間層11Bがプレス成型時に横方向に引き延ばされる寸法をL2とすると、L1<L2<L3とされるため、各層の界面での延び寸法の差が小さくなり、もって、中間層11Bが設けられない構成と比較して、隣り合う層間の界面が応力により剥離することが抑制される。ひいては、成形不良が抑制される。
【0051】
次に、作用効果について説明する。本実施形態のトリムボード11は、植物系繊維及び熱可塑性樹脂を含む基材11Kであって、上面11U側に配される上層11Aと、下面11D側に配される下層11Cと、上層11Aおよび下層11Cの間に配される中間層11Bと、が積層されてなる基材11Kと、基材11Kの上層11A側に設けられて上面11Uを構成するフィルム層18と、を備え、上面11Uには、下面11D側に向けて後退する形のフランジ部16が形成されている。
【0052】
上記構成によれば、フランジ部16を有するトリムボード11の上面11Uがフィルム層18で構成される場合でも、フランジ部16を形成すべくフィルム層付きプレボード11Pfをプレス成形する際に生じる上層11Aおよび下層11Cの延び寸法の差を中間層11Bにより吸収することができるから、成形不良を抑制することができる。
【0053】
また、中間層11Bの厚さ寸法は、上層11Aおよび下層Cの各厚さ寸法より大とされている。このような構成によれば、各層間の界面にかかる応力をより効果的に小さくすることができる。
【0054】
また、フランジ部16は、トリムボード11の主体となる主面部12の外側(板の端部)に主面部12と段違いに形成されている。
【0055】
トリムボード11の基となるフィルム層付きプレボード11Pfをプレス成形する際に、外側(端部)に近い位置に上面11Uから後退する部分が設けられる程、厚み方向において板面に沿う方向の延び寸法の差が大きくなり、成形不良が発生し易くなる。上記構成は、後退する部分がトリムボード11の主面部12の外側に設けられるフランジ部16である際に特に有効である。
【0056】
また本実施形態は、上面11Uおよび上面11Uと反対側の下面11D有する板状をなすトリムボード11であって、植物系繊維及び熱可塑性樹脂を含み複数層からなる基材11Kと、基材11Kの上面側に設けられてトリムボード11の上面11Uを構成するフィルム層18とを備え、上面11Uに、下面11D側に向けて後退する形のフランジ部16が形成されているトリムボード11の製造方法であって、植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混合した混合繊維60を板状に広げた繊維マット11Mを形成する繊維マット形成工程と、3枚の繊維マット11Mを積層するとともに加熱プレスしてプレボード11Pを形成するプレボード形成工程と、プレボード11Pの両面にフィルム層18を形成するフィルム層形成工程と、上型41の成形面41Aに上側突出部42を備えた一対の成形型の間に、フィルム層付きプレボード11Pfをフィルム層18が上側突出部42に対向する向きに配置し、成形型を型閉じすることでフィルム層付きプレボード11Pfを一対の成形型で押圧し、上側突出部42に相当する位置にフランジ部16を備えたトリムボード11を加熱プレス成形するとトリムボード成形工程と、を順に実行する。
【0057】
<他の実施形態>
本明細書に開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も技術的範囲に含まれる。
【0058】
(1)上記実施形態では、3枚の繊維マット11Mを積層してプレボード11Pを形成し、上層11Aおよび下層11Cの間に中間層11Bを1層有するトリムボード11を成形する形態を示したが、中間層は1層に限るものでなく、複数層で構成してもよい。そのようにすることで、各層の間の延び寸法の差がますます小さくなり、層間で剥離が発生することをより抑制することが可能となる。
【0059】
(2)上記実施形態では、上層11Aとフィルム層18との間に着色層17を設ける形態を示したが、着色層17は省略してもよい。また、フィルム層18が上面側だけに設けられる形態も技術的範囲に含まれる。
【0060】
(3)上記実施形態では、フィルム層18を構成するフィルム18Aとして、ポリプロピレン-ナイロン-ポリプロピレンの三層フィルムを例示したが、フィルムの種類は上記実施形態に限るものでない。
【0061】
(4)上記実施形態では、第1面が第2面側に後退する部分が、主面部12の外側端部から車室外側に向けて後退するフランジ部16である形態を示したが、後退部はフランジ部に限るものでなく、繊維含有樹脂成形体の外側端部や中央部に設けられる凹状の部分であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
10:ドアトリム、11:トリムボード(繊維含有樹脂成形体)、11A:上層(第1層)、11B:中間層、11C:下層(第2層)、11D:下面(第2面)、11K:基材、11M:繊維マット、11P:プレボード、11Pf:フィルム層付きプレボード、11U:上面(第1面)、12:主面部、16:フランジ部(後退部)、17:着色層、18:フィルム層、20:繊維マット製造装置、31:プレボード製造装置、32,33:プレス型、40:成形装置、41:上型(成形型)、41A,51A:成形面、42:上側突出部(突出部)、51:下型(成形型)、60:混合繊維(繊維および熱可塑性樹脂繊維)
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13