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  • 特開-焼成鉛筆芯及びこれを用いた鉛筆 図1
  • 特開-焼成鉛筆芯及びこれを用いた鉛筆 図2
  • 特開-焼成鉛筆芯及びこれを用いた鉛筆 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098194
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】焼成鉛筆芯及びこれを用いた鉛筆
(51)【国際特許分類】
   C09D 13/00 20060101AFI20240716BHJP
   B43K 19/02 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C09D13/00
B43K19/02 J
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001497
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】509150916
【氏名又は名称】株式会社ミヤモリ
(71)【出願人】
【識別番号】523009883
【氏名又は名称】株式会社アースプラス
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】宮森 穂
(72)【発明者】
【氏名】松下 康平
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB05
4J039BA02
4J039BA03
4J039BA23
4J039BD02
4J039EA19
4J039EA42
4J039GA30
(57)【要約】
【課題】紙面に筆記した時にテカリが少なく黒度が強い描線が得られ、製造が容易で環境にも優しい焼成鉛筆芯及びこれを用いた鉛筆を提供する。
【解決手段】焼成鉛筆芯10は、繊維廃材の炭化処理物である繊維炭、黒鉛、粘土及び鉱物油を主材としたものである。繊維炭及び黒鉛の中の繊維炭の比率は、10~50質量%の範囲である。繊維炭粒子は、最大粒径が200μm以下であって、その平均粒径(レーザー回折・錯乱法によって測定された粒径分布における積算率50%での粒径)は、4~15μmの範囲である。鉛筆12は、焼成鉛筆芯10を軸体に内挿したものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維廃材の炭化処理物である繊維炭、黒鉛、粘土及び鉱物油を主材とすることを特徴とする焼成鉛筆芯。
【請求項2】
着色材である前記繊維炭及び前記黒鉛の中の前記繊維炭の比率は、10~50質量%の範囲である請求項1記載の焼成鉛筆芯。
【請求項3】
前記繊維炭粒子は、最大粒径が200μm以下であって、その平均粒径(レーザー回折・錯乱法によって測定された粒径分布における積算率50%での粒径)は、4~15μmの範囲である請求1記載の焼成鉛筆芯。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の焼成鉛筆芯が軸体に内挿されていることを特徴とする鉛筆。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色の着色材としての黒鉛を含有する焼成鉛筆芯及びこれを用いた鉛筆に関する。
【背景技術】
【0002】
木軸鉛筆用の鉛筆芯は、通常、黒鉛及び粘土に添加剤や水などを加えて混錬し、棒状に成形して高温で焼成処理を行った後、焼結体に鉱物油等の油脂を含浸し乾燥させることによって製造される。
【0003】
黒色の色調を決めるのは黒鉛であるが、筆記等の際、鉛筆芯の摩耗粉が紙面に擦り付けられて鱗状黒鉛の結晶が水平に並ぶため、この結晶の平坦面で光が反射して描線にテカリが発生しやすい。また、黒鉛は黒度がそれほど強くないので、描線がやや薄い黒色(黒灰色)になるという特徴がある。したがって、従来から、描線のテカリが少なく、黒度をより強くすることが検討されている。
【0004】
従来、例えば特許文献1に開示されているように、超微粒子(金属、ホウ化物等)でコーティングした黒鉛及び窒化硼素を含有させた焼成鉛筆芯があった。この焼成鉛筆芯によれば、光の反射(テカリ)が抑えられ、色調的に黒味のある描線が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-256091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された焼成鉛筆芯の技術を実施する場合、黒鉛を超微粒子でコーティングするという複雑な処理を行うため、特別な製造設備を導入しなければならないので、構造工数及びコストの面で実用的ではなかった。
【0007】
近年、廃棄物のリサイクルを促進して循環型社会を実現することや、地球温暖化対策の1つとして二酸化炭素の排出量を削減することが大きな課題になっている。そこで、発明者は、衣服やカーテン等を製造する工場等で発生する大量の裁断屑や、一般家庭等で廃棄される古着等の繊維廃材に着目し、繊維廃材を炭化処理して繊維炭を生成して再利用することを考えた。現状、繊維廃材の多くは焼却処理されるので、焼却時に大量の二酸化炭素が排出されているが、繊維廃材を炭化処理すれば二酸化炭素の発生量を大幅に削減できる。しかも、繊維廃材から生成された繊維炭は独特な特質があり、焼成鉛筆芯の用途に適用できる可能性がある。
【0008】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、紙面に筆記した時にテカリが少なく黒度が強い描線が得られ、製造が容易で環境にも優しい焼成鉛筆芯及びこれを用いた鉛筆を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、繊維廃材の炭化処理物である繊維炭、黒鉛、粘土及び鉱物油を主材とする焼成鉛筆芯である。着色材である前記繊維炭及び前記黒鉛の中の前記繊維炭の比率は、10~50質量%の範囲であることが好ましい。前記繊維炭粒子は、最大粒径が200μm以下であって、その平均粒径(レーザー回折・錯乱法によって測定された粒径分布における積算率50%での粒径)は、4~15μmの範囲であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、上記焼成鉛筆芯が軸体に内挿されている鉛筆である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の焼成鉛筆芯及びこれを用いた鉛筆によれば、紙面に筆記した時、光の反射によるテカリが少なく、黒度が強い描線が得られる。また、この焼成鉛筆芯を製造する時、新規な材料である繊維炭を加えることになるが、製造工程や製造設備は大きく変更する必要がない。また、繊維炭は、一般的な炭化処理装置を使用して比較的容易に生成することができ、繊維廃材のリサイクルの促進と二酸化炭素の排出量の削減に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の焼成鉛筆芯及びこれを用いた鉛筆の一実施形態の、概略の製造方法を示すフローチャートである。
図2】第二の工程に投入される繊維炭の結晶構造を示す写真(a)、黒鉛の結晶構造を示す写真(b)である。
図3】従来の鉛筆芯を備えた汎用鉛筆で描かれたベタ画と、この実施形態の焼成鉛筆芯を備えた鉛筆の試作品で描かれたベタ画とを比較した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の焼成鉛筆芯及びこれを用いた鉛筆の一実施形態について、図面に基づいて説明する。この実施形態の焼成鉛筆芯10は、繊維廃材の炭化処理物である繊維炭を含有した鉛筆芯であり、この実施形態の鉛筆12は、焼成鉛筆芯10を軸体(例えば木軸)に内挿した鉛筆である。以下、焼成鉛筆芯10及び鉛筆12について、図1に示す製造方法のフローチャートに沿って説明する。
【0014】
繊維炭の原料となる繊維廃材は、衣類、カーテン、絨毯、部屋の内装材等を製造する工場等で発生した裁断屑、一般家庭等で廃棄された古着等であり、特に種類は限定されない。例えば、織物や編物等の布屑でもよいし、紐屑や糸屑等でもよい。また、素材は、化学繊維でもよいし天然繊維でもよい。
【0015】
第一の工程K1では、繊維廃材を炭化処理装置に投入して炭化させ、さらに粉砕する等の処理を行って、粒状の繊維炭を生成する。炭化処理装置の加熱方式は間接加熱方式であることが好ましく、これによって有害なダイオキシン類が発生するのを抑えることができる。図2(a)は、次の第二の工程K2に投入される繊維炭の結晶構造を示している。繊維炭粒子は、最大粒径が200μm以下であって、平均粒径(レーザー回折・錯乱法によって測定された粒径分布における積算率50%での粒径)は、4~15μmの範囲とすることが好ましく、特に最大粒径が50μm以下であって、平均粒径が8~12μm程度がより好ましい。
【0016】
次に、第二の工程K2で、上記繊維炭、黒鉛及び粘土に添加剤等を加えて混錬し、棒状に成形した後、さらに高温で焼成処理を行って焼結体を形成する。図2(b)は、第二の工程K2に投入される黒鉛の結晶構造の例を示しており、魚の鱗のように平坦面を有した鱗状黒鉛に特有の構造が見られる。
【0017】
着色材である繊維炭及び黒鉛の中の繊維炭の比率は、10~50質量%の範囲にすることが好ましく、20%以上混合することにより良好な黒色を得ることができる。また、着色材の総量に対する粘土の比率は、50~70質量%程度にすることが好ましい。
【0018】
次に、第三の工程K3で、焼結体に鉱物油を含浸させ、さらに乾燥させる等の処理を行って、焼成鉛筆芯10を生成する。含浸させる鉱物油の量は、焼成鉛筆芯10の仕上がり状態で、鉱物油の配合比が10~14%程度になるように設定することが好ましい。
【0019】
最後に、第四の工程K4で、木等を素材とする軸体材料を用意し、焼成鉛筆芯10を軸体材料に内挿し、軸体材料を軸体の単位に加工した後、さらに軸体の外面に塗装を施す等の仕上げ作業を行って鉛筆12を形成する。
【0020】
焼成鉛筆芯10は、鉛筆芯単体(軸体が無い状態)で筆記具として使用される場合がある。その場合、第二の工程K2で焼結体がハンドリング可能な太さに形成され、第三の工程K3で鉱物油含浸から仕上げまでの作業が行われ、第四の工程K4は省略されることになる。
【0021】
発明者は、焼成鉛筆芯10及び鉛筆12の試作を行った。この試作では、焼成鉛筆芯10の、着色材である繊維炭及び黒鉛の中の繊維炭の比率を約30質量%とし、着色材の総量に対する粘土の比率を約60質量%とした。そして、焼成鉛筆芯10[主材が繊維炭、黒鉛、粘土及び鉱物油]を備えた鉛筆12の試作品と、従来の鉛筆芯[主材が黒鉛、粘土及び油脂]を備えた市販の汎用鉛筆とを用意し、ある有名な鉛筆画家に依頼して、ほぼ同じタッチで紙面にベタ画を描いてもらった。
【0022】
図3の写真に示すように、従来の鉛筆芯で描かれたベタ画は、テカリが顕著に発生している。これは、先に述べたように、筆記の際、鉛筆芯の摩耗粉が紙面に擦り付けられて鱗状黒鉛の結晶が水平に並び、この結晶の平坦面で光が反射してテカリが顕著になっていると考えられる。また、ベタ画全体が、やや薄い黒色(黒灰色)になっている。これは、黒鉛の黒度がそれほど強くないためである。ちなみに、図2(b)の結晶構造を持つ黒鉛粉末の、L*a*b*色空間における明度L*[L*=0で純黒色、L*=100で白色]を測定したところ、L*=32.78であった。
【0023】
一方、焼成鉛筆芯10で描かれたベタ画は、テカリが大幅に抑えられている。これは、図2(a)に示すように繊維炭の結晶構造が概ねランダムな形状なので、この繊維炭が存在することによって鱗状黒鉛の平坦面の光の反射が抑えられたためと考えられる。また、ベタ画全体の黒度がかなり強くなっている。これは、黒鉛による光の反射が抑えられるとともに、繊維炭による光の吸収が多く反射が少ないためと考えられる。ちなみに、図2(a)の結晶構造を持つ繊維炭の、L*a*b*色空間における明度L*を測定したところ、L*=18.90であった。
【0024】
その後、様々な焼成鉛筆芯10を試作したところ、繊維炭の平均粒径を4~15μmの範囲とし、着色材(繊維炭及び黒鉛)の中の繊維炭の比率を10~50質量%の範囲とし、粘土及び鉱物油の配合比を微調整することによって、上記と同様の性能と良好な書き味を有した焼成鉛筆芯10を得ることができ、製造も容易であることが確認された。
【0025】
以上説明したように、焼成鉛筆芯10及びこれを用いた鉛筆12によれば、紙面に筆記した時、光の反射によるテカリが少なく、黒度が強い描線が得られる。また、焼成鉛筆芯10を製造する時、新規な材料である繊維炭を加えることになるが、製造工程や製造設備は大きく変更する必要がない。また、繊維炭は、一般的な炭化処理装置を使用して比較的容易に生成することができ、繊維廃材のリサイクルの促進と二酸化炭素の排出量の削減に大きく貢献することができる。
【符号の説明】
【0026】
10 焼成鉛筆芯
12 鉛筆
図1
図2
図3