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特開2024-98209インクジェット捺染用インク組成物およびインクジェット捺染方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098209
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用インク組成物およびインクジェット捺染方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20240716BHJP
   C09D 11/328 20140101ALI20240716BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240716BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240716BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20240716BHJP
   C09B 1/28 20060101ALN20240716BHJP
   C09B 1/34 20060101ALN20240716BHJP
   C09B 1/54 20060101ALN20240716BHJP
【FI】
C09D11/38
C09D11/328
B41M5/00 120
B41M5/00 114
B41J2/01 501
D06P5/30
C09B1/28
C09B1/34
C09B1/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001525
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】石田 紘平
(72)【発明者】
【氏名】黄木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】有賀 友洋
(72)【発明者】
【氏名】岡田 夏実
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FB03
2C056FC02
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA17
2H186FB11
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB53
4H157AA02
4H157BA02
4H157BA23
4H157CA11
4H157CA12
4H157CA29
4H157CA33
4H157CB03
4H157CB04
4H157CB13
4H157CB14
4H157CB18
4H157CB19
4H157CB45
4H157CB46
4H157CC01
4H157DA01
4H157DA21
4H157DA22
4H157DA34
4H157GA06
4H157JA11
4H157JB03
4J039BC09
4J039BC10
4J039BC11
4J039BC13
4J039BC15
4J039BC34
4J039BC35
4J039BC36
4J039BC37
4J039BC50
4J039BE04
4J039BE10
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE32
4J039CA02
4J039EA41
4J039EA44
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れ、ノズル詰りを生じにくく、インクジェット法による吐出信頼性に優れ、堅牢性に優れた記録物の製造に用いることができるインクジェット捺染用インク組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、C.I.アシッドブルー112およびC.I.アシッドブルー140よりなる群から選択される少なくとも1種である特定酸性染料と、水溶性有機溶剤と、水とを含有し、前記水溶性有機溶剤として、グリコール系溶剤および環状アミド系溶剤を含有し、前記環状アミド系溶剤が、ε-カプロラクタムおよびN-ヒドロキシエチル-2-ピロリドンのうちの少なくとも一方を含有するものであり、前記グリコール系溶剤の含有量が、10.0質量%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.I.アシッドブルー112およびC.I.アシッドブルー140よりなる群から選択される少なくとも1種である特定酸性染料と、水溶性有機溶剤と、水とを含有し、
前記水溶性有機溶剤として、グリコール系溶剤および環状アミド系溶剤を含有し、
前記環状アミド系溶剤が、ε-カプロラクタムおよびN-ヒドロキシエチル-2-ピロリドンのうちの少なくとも一方を含有するものであり、
前記グリコール系溶剤の含有量が、10.0質量%以上である、インクジェット捺染用インク組成物。
【請求項2】
前記特定酸性染料がC.I.アシッドブルー112およびC.I.アシッドブルー140の両方を含有する、請求項1に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項3】
前記特定酸性染料の含有量が、12.0質量%以下である、請求項1または2に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項4】
前記グリコール系溶剤として、グリコール構造を有する化合物およびグリコールエーテル構造を有する化合物を含有している、請求項1または2に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項5】
前記グリコール系溶剤が、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノプロピルエーテルよりなる群から選択される1種以上である、請求項1または2に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項6】
前記グリコール系溶剤がトリエチレングリコールである、請求項5に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項7】
前記環状アミド系溶剤の含有量が、3.0質量%以上である、請求項1または2に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項8】
前記グリコール系溶剤の含有量と前記環状アミド系溶剤の含有量の和が、15.0質量%以上である、請求項1または2に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項9】
さらに、キレート剤を0.01質量%以上の含有量で含有する、請求項1または2に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項10】
さらに、C.I.アシッドバイオレット48を含有する、請求項1または2に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載のインクジェット捺染用インク組成物を、インクジェット法により布帛に付着させるインク付着工程を有する、インクジェット捺染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インク組成物およびインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリントの用途が拡大しており、オフィス、家庭用の印刷機としてのほか、商業印刷、テキスタイルプリント等へも適用されている。
【0003】
インクジェット用インクでは、所望のパターンを形成するために、インクジェット法による吐出信頼性に優れていることが求められる。
【0004】
そして、布帛に対して付与されるインクジェット用インクであるインクジェット捺染用インク組成物も用いられている。
【0005】
特に、布帛に対して付与されるインクジェット捺染用インク組成物においては、疎水性の高い酸性染料を用いることで、得られる記録物の堅牢性を良好とすることができるため、有利である(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特に、C.I.アシッドブルー112およびC.I.アシッドブルー140は、各種酸性染料の中でも、以下のような特長を有している。すなわち、青色系の色材を含むインク組成物を、他色のインク組成物と組み合わせることにより、色再現域を広げることができるが、各種青色系の色材の中でも、C.I.アシッドブルー112やC.I.アシッドブルー140を用いることにより、上記の色再現域をより広いものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-348504号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のインクジェット捺染用インク組成物においては、疎水性の高い酸性染料、特に、C.I.アシッドブルー112やC.I.アシッドブルー140を用いた場合、インクジェット捺染用インク組成物の保存安定性が低いものとなり、ノズル詰りを生じやすく、インクジェット法による吐出信頼性が劣るという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0010】
本発明の適用例に係るインクジェット捺染用インク組成物は、C.I.アシッドブルー112およびC.I.アシッドブルー140よりなる群から選択される少なくとも1種である特定酸性染料と、水溶性有機溶剤と、水とを含有し、
前記水溶性有機溶剤として、グリコール系溶剤および環状アミド系溶剤を含有し、
前記環状アミド系溶剤が、ε-カプロラクタムおよびN-ヒドロキシエチル-2-ピロリドンのうちの少なくとも一方を含有するものであり、
前記グリコール系溶剤の含有量が、10.0質量%以上である。
【0011】
また、本発明の適用例に係るインクジェット捺染方法は、本発明の適用例に係るインクジェット捺染用インク組成物を、インクジェット法により布帛に付着させるインク付着工程を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]インクジェット捺染用インク組成物
まず、本発明のインクジェット捺染用インク組成物について説明する。
【0013】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、C.I.アシッドブルー112およびC.I.アシッドブルー140よりなる群から選択される少なくとも1種である特定酸性染料と、水溶性有機溶剤と、水とを含有する。そして、前記水溶性有機溶剤として、グリコール系溶剤および環状アミド系溶剤を含有し、前記環状アミド系溶剤が、ε-カプロラクタムおよびN-ヒドロキシエチル-2-ピロリドンのうちの少なくとも一方を含有するものであり、前記グリコール系溶剤の含有量が、10.0質量%以上である。
【0014】
このように疎水性の高い酸性染料であるC.I.アシッドブルー112、C.I.アシッドブルー140を用いることにより、得られる記録物の堅牢性を優れたものとすることができる。また、各種酸性染料の中でも、C.I.アシッドブルー112、C.I.アシッドブルー140を用いることにより、以下のような効果が得られる。すなわち、青色系の色材を含むインク組成物を、他色のインク組成物と組み合わせることにより、色再現域を広げることができるが、各種青色系の色材の中でも、C.I.アシッドブルー112やC.I.アシッドブルー140を用いることにより、上記の色再現域をより広いものとすることができる。
【0015】
また、特定酸性染料と、所定の条件の有機溶剤とを併用することにより、インクジェット捺染用インク組成物における特定酸性染料の凝集を抑制し、インクジェット捺染用インク組成物の保存安定性を優れたものとすることができる。また、インクジェットノズルでの詰りが生じにくく、インクジェット捺染用インク組成物の固形分が析出した場合でも、当該固形分の再溶解性を良好とすることができる。以上のようなことから、インクジェット法による吐出信頼性を優れたものとすることができる。特に、インクジェット法による連続吐出信頼性を優れたものとすることができる。
【0016】
[1-1]特定酸性染料
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、色材として、C.I.アシッドブルー112およびC.I.アシッドブルー140よりなる群から選択される少なくとも1種である特定酸性染料を含んでいる。
【0017】
このように疎水性の高い酸性染料である特定酸性染料を用いることにより、得られる記録物の堅牢性を良好とすることができる。
【0018】
また、各種酸性染料の中でも、C.I.アシッドブルー112およびC.I.アシッドブルー140よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことにより、色再現域をより広いものとする。
【0019】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、特定酸性染料として、C.I.アシッドブルー112およびC.I.アシッドブルー140よりなる群から選択される少なくとも1種を含んでいればよいが、C.I.アシッドブルー112およびC.I.アシッドブルー140の両方を含んでいるのが好ましい。
【0020】
これにより、インクジェット捺染用インク組成物を用いて形成される記録部の発色をさらに改善することができ、色域を拡大することができる。
【0021】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物が、C.I.アシッドブルー112およびC.I.アシッドブルー140の両方を含む場合、本発明のインクジェット捺染用インク組成物中におけるC.I.アシッドブルー112の含有量をXAB112[質量%]、当該インクジェット捺染用インク組成物中におけるC.I.アシッドブルー140の含有量をXAB140[質量%]としたときに、0.15≦XAB112/XAB140≦1.80の関係を満たすのが好ましく、0.20≦XAB112/XAB140≦1.00の関係を満たすのがより好ましく、0.30≦XAB112/XAB140≦0.60の関係を満たすのがさらに好ましい。
これにより、色再現域をさらに広げることができる。
【0022】
インクジェット捺染用インク組成物中における特定酸性染料の含有量は、12.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上9.0質量%以下であるのがより好ましく、1.5質量%以上7.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0023】
これにより、インクジェット捺染用インク組成物を用いて形成される記録部において、十分な色濃度を確保しやすくなるとともに、インクジェット法によるインクジェット捺染用インク組成物の吐出信頼性をより優れたものとすることができる。
【0024】
[1-2]水
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、水を含んでいる。
【0025】
水は、例えば、インクジェット捺染用インク組成物において、色材を溶解する溶媒や分散する分散媒として機能する成分である。
【0026】
また、インクジェット捺染用インク組成物が水を含むことにより、インクジェット捺染用インク組成物中において、後に詳述するグリコール系溶剤や環状アミド系溶剤を均一に含ませることができ、これらの機能をより効果的に発揮させることができる。
【0027】
インクジェット捺染用インク組成物中における水の含有率は、40.0質量%以上80.0質量%以下であるのが好ましく、45.0質量%以上75.0質量%以下であるのがより好ましく、55.0質量%以上65.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0028】
これにより、インクジェット捺染用インク組成物の粘度をより確実に好適な値に調整することができ、インクジェット法による吐出信頼性をより向上させることができる。
【0029】
[1-3]水溶性有機溶剤
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、所定の条件を満たす水溶性有機溶剤を含んでいる。より具体的には、水溶性有機溶剤として、グリコール系溶剤および環状アミド系溶剤を含有し、前記環状アミド系溶剤が、ε-カプロラクタムおよびN-ヒドロキシエチル-2-ピロリドンのうちの少なくとも一方を含有するものであり、インクジェット捺染用インク組成物中におけるグリコール系溶剤の含有量が、10.0質量%以上である。
【0030】
このような条件を満たす水溶性有機溶剤を前述したような特定酸性染料と併用することにより、インクジェット捺染用インク組成物における特定酸性染料の凝集を抑制し、インクジェット捺染用インク組成物の保存安定性を優れたものとすることができる。また、インクジェットノズルでの詰りが生じにくく、インクジェット捺染用インク組成物の固形分が析出した場合でも、当該固形分の再溶解性を良好とすることができる。以上のようなことから、インクジェット法による吐出信頼性を優れたものとすることができる。特に、インクジェット法による連続吐出信頼性を優れたものとすることができる。
【0031】
[1-3-1]グリコール系溶剤
本発明のインクジェット捺染用インク組成物中に含まれる水溶性有機溶剤としてのグリコール系溶剤は、グリコール構造を有する化合物(すなわち、分子内に2つ以上の炭素を有する脂肪族炭化水素が持つ2つの炭素原子に結合した水素が1つずつ水酸基に置換した構造を持った化学構造を有する化合物)、または、複数個の前記化合物が縮合した構造の化合物(すなわち、分子内に少なくとも1つのエーテル酸素を有するとともに、炭化水素基に結合した水酸基を2つ有する化学構造の化合物。グリコールエーテル構造を有する化合物。)であって、インクジェット捺染用インク組成物中で水に溶解した状態で含まれるものである。
【0032】
グリコール構造を有する化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール等が挙げられ、グリコールエーテル構造を有する化合物としては、例えば、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、グリコール系溶剤は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノプロピルエーテルよりなる群から選択される1種以上であるのが好ましい。
これにより、前述した本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0034】
特に、グリコール系溶剤は、トリエチレングリコールであるのが好ましい。
これにより、例えば、インクジェット捺染用インク組成物を、長期間保存した場合や過酷な条件下で保存した場合であっても、異物の発生をより効果的に抑制することができ、インクジェット捺染用インク組成物の保存安定性等をより優れたものとすることができる。
【0035】
また、インクジェット捺染用インク組成物は、グリコール系溶剤として、グリコール構造を有する化合物およびグリコールエーテル構造を有する化合物を含有しているのが好ましい。
【0036】
これにより、インクジェット法によりインクジェット捺染用インク組成物を吐出した際の尾引をより好適に低減することができる。
【0037】
インクジェット捺染用インク組成物が、グリコール系溶剤として、グリコール構造を有する化合物およびグリコールエーテル構造を有する化合物を含有している場合、以下の条件を満たすのが好ましい。すなわち、グリコール構造を有する化合物:100質量部に対する、グリコールエーテル構造を有する化合物の含有量は、40質量部以上250質量部以下であるのが好ましく、50質量部以上200質量部以下であるのがより好ましく、55質量部以上180質量部以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0038】
インクジェット捺染用インク組成物中におけるグリコール系溶剤の含有量は、10.0質量%以上であればよいが、10.0質量%以上30.0質量%以下であるのが好ましく、10.0質量%以上25.0質量%以下であるのがより好ましく、10.0質量%以上20.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0039】
これにより、前記特定酸性染料の溶解性がより良好なものとなり、インクジェット法によりインクジェット捺染用インク組成物を吐出した際の尾引をより好適に低減することができる。
【0040】
[1-3-2]環状アミド系溶剤
本発明のインクジェット捺染用インク組成物中に含まれる水溶性有機溶剤としての環状アミド系溶剤は、分子内に環状アミドの化学構造を有する化合物であって、インクジェット捺染用インク組成物中で水に溶解した状態で含まれるものである。環状アミドの化学構造としては、例えば、ラクタム構造や環状ウレア構造等が挙げられる。
【0041】
特に、本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、環状アミド系溶剤として、ε-カプロラクタムおよびN-ヒドロキシエチル-2-ピロリドンのうちの少なくとも一方を含有している。
【0042】
インクジェット捺染用インク組成物中における環状アミド系溶剤の含有量は、3.0質量%以上であるのが好ましく、3.5質量%以上10.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以上9.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0043】
これにより、インクジェット法によりインクジェット捺染用インク組成物を吐出した際の尾引をより好適に低減することができる。
【0044】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、ε-カプロラクタムおよびN-ヒドロキシエチル-2-ピロリドンのうちの少なくとも一方に加えて、さらに、他の環状アミド系溶剤を含有していてもよい。
【0045】
前記他の環状アミド系溶剤としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、2-ピペリドン(δ-バレロラクタム)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0046】
ただし、インクジェット捺染用インク組成物中に含まれる環状アミド系溶剤全体における前記他の環状アミド系溶剤の含有量は、30質量%以下であるのが好ましく、25質量%以下であるのがより好ましい。なお、インクジェット捺染用インク組成物中に含まれる環状アミド系溶剤全体における前記他の環状アミド系溶剤の含有量の下限値は、0質量%である。
【0047】
インクジェット捺染用インク組成物中における、グリコール系溶剤の含有量と環状アミド系溶剤の含有量の和は、15.0質量%以上であるのが好ましく、16.0質量%以上40.0質量%以下であるのがより好ましく、17.0質量%以上34.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0048】
インクジェット捺染用インク組成物中における、グリコール系溶剤の含有量をXG[質量%]、環状アミド系溶剤の含有量をXL[質量%]としたとき、1.05≦XG/XL≦5.00の関係を満たすのが好ましく、1.10≦XG/XL≦4.00関係を満たすのがより好ましく、1.12≦XG/XL≦2.00の関係を満たすのがさらに好ましい。
これにより、前述した本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0049】
[1-3-3]その他の水溶性有機溶剤成分
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、上述したようなグリコール系溶剤および環状アミド系溶剤を含有するものであるが、これらに加えて、さらに、他の水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。
前記他の水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン等が挙げられる。
【0050】
インクジェット捺染用インク組成物がグリセリンを含むものである場合、当該インクジェット捺染用インク組成物中におけるグリセリンの含有量は、1.0質量%以上25.0質量%以下であるのが好ましく、3.0質量%以上20.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0051】
インクジェット捺染用インク組成物がグリセリン以外の前記他の水溶性有機溶剤を含むものである場合、インクジェット捺染用インク組成物中におけるグリセリン以外の前記他の水溶性有機溶剤の含有量は、10.0質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以下であるのがより好ましく、2.0質量%以下であるのがさらに好ましい。なお、インクジェット捺染用インク組成物中におけるグリセリン以外の前記他の水溶性有機溶剤の含有量の下限値は、0質量%である。
【0052】
[1-4]その他の色材
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、上述した成分に加えて、さらに、特定酸性染料以外の色材を含んでいてもよい。
【0053】
これにより、インクジェット捺染用インク組成物やインクジェット捺染用インク組成物を用いて製造される記録物の色調を好適に調製することができる。
以下、特定酸性染料以外の色材のことを「その他の色材」ともいう。
【0054】
その他の色材としては、例えば、特定酸性染料以外の酸性染料、酸性染料以外の染料、顔料等が挙げられる。
【0055】
特定酸性染料以外の酸性染料としては、例えば、C.I.アシッドレッド138、C.I.アシッドレッド407、C.I.アシッドバイオレット48、C.I.アシッドバイオレット54、C.I.アシッドバイオレット97等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、C.I.アシッドバイオレット48およびC.I.アシッドバイオレット97よりなる群から選択される1種以上であるのが好ましく、C.I.アシッドバイオレット48であるのがより好ましい。
【0056】
これにより、インクジェット捺染用インク組成物を用いて形成される記録部の発色をさらに改善することができ、色域をさらに拡大することができる。また、製造される記録部の堅牢性をより優れたものとすることができる。
【0057】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物がC.I.アシッドバイオレット48を含む場合、本発明のインクジェット捺染用インク組成物中におけるC.I.アシッドバイオレット48の含有量は、0.4質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.6質量%以上4.0質量%以下であるのがより好ましく、0.8質量%以上3.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0058】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物が、C.I.アシッドバイオレット48を含む場合、本発明のインクジェット捺染用インク組成物中における特定酸性染料の含有量をXIAD[質量%]、当該インクジェット捺染用インク組成物中におけるC.I.アシッドバイオレット48の含有量をXAV48[質量%]としたときに、0.10≦XAV48/XIAD≦0.80の関係を満たすのが好ましく、0.15≦XAV48/XIAD≦0.75の関係を満たすのがより好ましく、0.20≦XAV48/XIAD≦0.60の関係を満たすのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0059】
インクジェット捺染用インク組成物がその他の色材を含む場合、インクジェット捺染用インク組成物中におけるC.I.アシッドバイオレット48以外のその他の色材の含有量は、3.5質量%以下であるのが好ましく、2.0質量%以下であるのがより好ましく、1.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0060】
[1-5]キレート剤
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、キレート剤を含んでいてもよい。
これにより、色再現域をさらに広げることができる。
【0061】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、3-ヒドロキシ-2,2’-イミノ2コハク酸、アスパラギン酸2酢酸、N-2-ヒドロキシエチルイミノ2酢酸、メチルグリシン2酢酸、グルタミン2酢酸やこれらの塩等が挙げられるが、中でも、エチレンジアミン四酢酸塩が好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0062】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物がキレート剤を含む場合、本発明のインクジェット捺染用インク組成物中におけるキレート剤の含有量は、0.01質量%以上であるのが好ましく、0.02質量%以上1.0質量%以下であるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0063】
[1-6]界面活性剤
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、界面活性剤を含んでいてもよい。
【0064】
これにより、インクジェット捺染用インク組成物のインクジェット法による吐出信頼性をより優れたものとすることができる。
【0065】
界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の各種界面活性剤を用いることができる。
【0066】
界面活性剤の具体例としては、サーフィノールMD-20、サーフィノール82、サーフィノールDF110D(2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール)、その他オルフィン104シリーズやオルフィンE1010のEシリーズ(以上)、オルフィンEXP4300(炭素数12-エチレンオキサイド付加物)、サーフィノール61、サーフィノール465、サーフィノール104S、サーフィノール104PG50(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール)、サーフィノール420(商品名、エアープロダクツジャパン社製)、オルフィンE1030W、シルフェイスSAG503A(日信化学工業社製)等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
インクジェット捺染用インク組成物中における界面活性剤の含有量は、0.4質量%以上であるのが好ましく、0.45質量%以上1.5質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以上1.2質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0068】
これにより、インクジェット捺染用インク組成物のインクジェット法による吐出信頼性をさらに優れたものとすることができるとともに、インクジェット捺染用インク組成物を用いて形成される記録部の発色性をより優れたものとすることができ、裏抜けの問題をより効果的に防止することができる。
【0069】
[1-7]その他の成分
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、前述した成分以外の成分を含んでいてもよい。以下、このような成分を「その他の成分」ともいう。
【0070】
その他の成分としては、例えば、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素等の尿素類;防腐剤;防かび剤;防錆剤;防炎剤;各種分散剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;酸素吸収剤;溶解助剤;浸透剤等が挙げられる。
【0071】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンゾイソチアゾリン-3-オン等の分子内にイソチアゾリン環構造を有する化合物、4-クロロ-3-メチルフェノール等が挙げられる。また、防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0072】
その他の成分の含有率は、6.0質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以下であるのがより好ましく、2.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
なお、その他の成分の含有率の下限は、0質量%である。
【0073】
[1-8]その他
本発明のインクジェット捺染用インク組成物の20℃における表面張力は、特に限定されないが、20mN/m以上60mN/m以下であるのが好ましく、25mN/m以上50mN/m以下であるのがより好ましく、30mN/m以上40mN/m以下であるのがさらに好ましい。
【0074】
これにより、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり等がより生じにくくなり、インクジェット捺染用インク組成物の吐出信頼性がより向上する。また、ノズルの目詰まりを生じた場合でも、ノズルにキャップをすることによる回復性をより優れたものとすることができる。
【0075】
なお、表面張力としては、ウィルヘルミー法、もしくはリング法により測定した値を採用することができる。表面張力の測定は、表面張力計(例えば、協和界面科学社製、DY-300、DY-500、DY-700等)を用いることができる。
【0076】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物の20℃における粘度は、2mPa・s以上10mPa・s以下であるのが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であるのがより好ましい。
【0077】
これにより、インクジェット捺染用インク組成物のインクジェット法による吐出信頼性がより優れたものとなる。
【0078】
なお、粘度は、振動式粘度計、回転式粘度計、細管式粘度計、落球式粘度計により測定して求めることができる。例えば、振動式粘度計としては、JIS Z8809に準拠した測定により求めることができる。
【0079】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、インクジェット法による吐出に供されるものであればよく、インクジェット法としては、例えば、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式等のオンデマンド方式等が挙げられるが、本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、特に、ピエゾ振動子を用いたインクジェットヘッドより吐出されるものであるのが好ましい。
【0080】
これにより、インクジェットヘッド内での色材等の変性をより効果的に防止し、インクジェット法による吐出信頼性をより優れたものとすることができる。
【0081】
[2]インクジェット捺染用インク組成物セット
次に、本発明に係るインクジェット捺染用インク組成物セットについて説明する。
【0082】
本発明に係るインクジェット捺染用インク組成物セットは、複数のインクジェット捺染用インク組成物を備えている。そして、インクジェット捺染用インク組成物セットを構成する少なくとも1つのインクジェット捺染用インク組成物が、前述した本発明のインクジェット捺染用インク組成物である。
【0083】
本発明に係るインクジェット捺染用インク組成物セットを構成する複数のインクジェット捺染用インク組成物のうち、少なくとも1つが前述した本発明のインクジェット捺染用インク組成物であればよく、本発明に係るインクジェット捺染用インク組成物セットは、前述した本発明のインクジェット捺染用インク組成物ではないインクジェット捺染用インク組成物を備えていてもよい。
【0084】
本発明に係るインクジェット捺染用インク組成物セットは、色の三原色、すなわち、シアン、マゼンタおよびイエローに対応する3種のインクジェット捺染用インク組成物を備えているのが好ましい。なお、色の三原色については、その色濃度によって、さらに細分化されていてもよい。例えば、シアン、マゼンタおよびイエローに加え、ライトシアン、ライトマゼンタおよびライトイエローを備えていてもよい。
【0085】
また、本発明に係るインクジェット捺染用インク組成物セットは、無彩色のインク、より具体的には、黒色のインクを備えていてもよい。
【0086】
[3]インクジェット捺染方法
次に、本発明のインクジェット捺染方法について説明する。
【0087】
本発明のインクジェット捺染方法は、前述した本発明のインクジェット捺染用インク組成物を、インクジェット法により布帛に付着させるインク付着工程を有する。
【0088】
これにより、ノズル詰りを防止しつつ、インクジェット法による吐出を安定的に行うことができ、堅牢性、信頼性に優れた記録物を安定的に製造することができる。
【0089】
[3-1]インク付着工程
インク付着工程では、前述した本発明のインクジェット捺染用インク組成物を、インクジェット法により吐出して、記録媒体である布帛に付着させる。これにより、所望の像を形成する。像の形成には、複数種のインクジェット捺染用インク組成物を用いてもよい。
【0090】
インクジェット捺染用インク組成物を吐出するインクジェット法は、いずれの方式でもよく、例えば、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式等のオンデマンド方式等が挙げられる。
【0091】
[3-2]染着処理工程
本実施形態では、インク付着工程の後に、布帛に付着した色材を定着させる染着処理工程をさらに有している。
【0092】
これにより、製造される記録物の堅牢性、信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0093】
染着処理工程は、通常、高温加湿の条件で行う。
染着処理工程での処理温度は、特に限定されないが、90℃以上150℃以下であるのが好ましく、95℃以上130℃以下であるのがより好ましく、98℃以上120℃以下であるのがさらに好ましい。
【0094】
これにより、記録媒体である布帛やインクジェット捺染用インク組成物の構成成分等の不本意な変性、劣化等をより効果的に防止しつつ、より効率よく色材を定着させることができる。
【0095】
染着処理工程の処理時間は、特に限定されないが、1分間以上120分間以下であるのが好ましく、2分間以上90分間以下であるのがより好ましく、3分間以上60分間以下であるのがさらに好ましい。
【0096】
これにより、記録媒体である布帛に対する色材の染着性をより優れたものとしつつ、記録物の生産性をより優れたものとすることができる。
【0097】
染着処理工程での高温加湿処理には、各種のスチーマー、例えば、マチス社製、スチーマーDHe型等を用いることができる。
【0098】
本発明のインクジェット捺染方法では、必要に応じて、インク付着工程、染着処理工程以外の工程を有していてもよい。
【0099】
例えば、インク付着工程に先立って、記録媒体としての布帛に対して前処理を施す前処理工程を有していてもよい。
【0100】
前処理には、例えば、公知の前処理剤を用いることができるが、前処理剤は、一般に、糊剤、pH調整剤およびヒドロトロピー剤を含んでいる。
【0101】
糊剤としては、例えば、天然ガム類、澱粉類、海草類、植物皮類、繊維素誘導体、加工澱粉、加工天然ガム、アルギン酸ナトリウム、アルギン誘導体、合成糊、エマルジョン等を好適に用いることができる。
【0102】
天然ガム類としては、例えば、グア、ローカストビーン等が挙げられる。また、海草類としては、例えば、ふのり等が挙げられる。また、植物皮類としては、例えば、ペクチン酸等が挙げられる。また、繊維素誘導体としては、例えば、メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。また、加工澱粉としては、例えば、焙焼澱粉、アルファ澱粉、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉等が挙げられる。また、加工天然ガムとしては、例えば、シラツガム系、ローストビーンガム系等のものが挙げられる。また、合成糊としては、例えば、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸エステル等が挙げられる。
【0103】
また、pH調整剤としては、例えば、硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム等の酸アンモニウム塩等を好適に用いることができる。
【0104】
また、ヒドロトロピー剤としては、例えば、尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、モノメチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素等のアルキル尿素等の各種の尿素類を用いることができる。
なお、前処理剤は、例えば、さらに、シリカを含んでいてもよい。
【0105】
また、例えば、染着処理工程の後、必要に応じて、染料が定着された布帛に対する洗浄処理を行う洗浄工程を有していてもよい。
【0106】
洗浄工程は、例えば、染料が定着された布帛を水道水で揉み洗いした後に、40℃以上70℃以下の温水中に、ノニオン性ソーピング剤を添加した洗浄液中に、適宜撹拌しながら浸漬することにより行うことができる。洗浄液中への浸漬時間は、例えば、5分間以上60分間以下とすることができる。その後、洗浄液中に水道水を入れながら手揉み洗いをすることにより洗浄剤を除去することができる。
【0107】
[3-3]布帛
次に、インクジェット捺染用インク組成物が付与される記録媒体としての布帛について説明する。
【0108】
布帛としては、例えば、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織等の各種織物を用いることができる。
【0109】
また、布帛を構成する繊維の太さは、例えば、10d以上100d以下とすることができる。
【0110】
布帛を構成する繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維、セルロース繊維等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維、木綿、絹、羊毛等の天然繊維等が挙げられ、これらの混紡品を用いてもよい。
【0111】
[4]記録物
本発明に係る記録物は、布帛に対してインクジェット法により付与された本発明のインクジェット捺染用インク組成物による着色部を有するものであり、前述したインクジェット捺染方法を用いて製造することができる。
【0112】
これにより、インクジェット法による吐出不良等に起因する不良の発生が効果的に防止され、堅牢性、信頼性に優れた記録物を提供することができる。
【0113】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例0114】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[5]インクジェット捺染用インク組成物の調製
【0115】
(実施例1)
表1に示す各成分を所定の比率で所定の容器に入れて、スターラーで1時間混合および攪拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルター(メルクミリポア社製、オムニポアメンブレンフィルター:JAWP)で濾過することで、表1に示す組成のインクジェット捺染用インク組成物を得た。
【0116】
(実施例2~35)
インクジェット捺染用インク組成物の調製に用いる成分の種類、各成分の配合比率を変更し、表1~表5に示す組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット捺染用インク組成物を調製した。
【0117】
(比較例1~6)
インクジェット捺染用インク組成物の調製に用いる成分の種類、各成分の配合比率を変更し、表6に示す組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット捺染用インク組成物を調製した。
【0118】
[6]評価
前記各実施例および各比較例のインクジェット捺染用インク組成物について、以下のような評価を行った。
【0119】
[6-1]連続吐出信頼性
インクジェット捺染機 Monna Lisa Evo Tre 32-180(セイコーエプソン社製)に、前記各実施例および各比較例のインクジェット捺染用インク組成物をそれぞれ充填し、前処理を施した100%絹布(ツイル、50~60g/m、幅140cm)のロールをセットし、600×600D.P.I.2Passモードにて連続印字を行った。
【0120】
絹布の前処理は、アルギン酸ナトリウム1質量%と、グアーガム1質量%と、硫酸アンモニウム4質量%と、尿素10質量%と、水84質量%とを混合して作製した前処理液を布帛に塗布し、マングルにてピックアップ率20%で絞り、乾燥させて行った。
【0121】
絹布の送り量100m毎にノズルチェックを行い、抜け・曲がり等なく正常に印刷できているかを確認し、以下の基準に従い評価した。
【0122】
A:正常に印刷できた絹布の送り量が1000m以上である。
B:正常に印刷できた絹布の送り量が500m以上1000m未満である。
C:正常に印刷できた絹布の送り量が200m以上500m未満である。
D:正常に印刷できた絹布の送り量が200m未満である。
【0123】
[6-2]吐出回復性
前記各実施例および各比較例のインクジェット捺染用インク組成物を、それぞれインクジェットプリンターEW-M770T(セイコーエプソン社製)のCyan列に充填した。
【0124】
次いで、クリーニング動作を行い、その途中、より具体的には、インクジェットヘッドがCap部から離れて印字部に移動してきたときに、電源ケーブルを抜いて強制的に停止させた。
【0125】
この状態で20℃/25%RHの環境下で2週間放置した後、再び電源ケーブルを挿して電源を入れ、その後、正常に吐出するようになるまでに要したクリーニング回数を数え、以下の基準に従い評価した。
【0126】
A:4回以下のクリーニングで回復した。
B:5回以上7回以下のクリーニングで回復した。
C:8回以上10回以下のクリーニングで回復した。
D:クリーニングを10回行っても回復しなかった。
【0127】
[6-3]保存安定性
前記各実施例および各比較例のインクジェット捺染用インク組成物を、それぞれ、所定のインク収容容器に充填し、60℃の環境で5日間放置した。
【0128】
その後、上記[6-2]と同様にして、インクジェット装置に装着し、インクジェット捺染用インク組成物を吐出し、さらに、同様の基準に従い評価を行った。
【0129】
[6-4]発色
まず、ナイロン製の布帛(ナイロン6タフタ、色染社製)を用意した。
これらの布帛に、下記の前処理液を塗布し、マングルにてピックアップ率20%で絞り、乾燥させることにより、記録物製造用の布帛を得た。
【0130】
アルギン酸ナトリウム: 1.0質量%
グアーガム : 1.0質量%
硫酸アンモニウム : 4.0質量%
尿素 :10.0質量%
水 :84.0質量%
【0131】
セイコーエプソン社製のインクジェット捺染機“Monna-Lisa Evo Tre 16”に、前記各実施例および各比較例のインクジェット捺染用インク組成物を充填したインクカートリッジを装着して、“900×600D.P.I.、2パス”印刷モードにて、上記の記録物製造用の布帛に対し、単位面積当たりの塗布量が1.2mg/cmになるように均等にベタ印刷を実施した。
【0132】
印刷後、スチーマー(マチス社製;スチーマーDHe型)を用いて、100℃×30分間のスチーム処理を行い、その後、水洗して未固着の染料を除去した。
【0133】
さらに、ラッコールSTA(洗浄助剤;明成化学社製)を0.2質量%含む55℃のお湯を用いて10分洗浄し、これを乾燥させて、記録物としての印捺布を得た。
【0134】
上記のようにして得られた各印捺布に形成されたベタ画像について、分光濃度計(X-rite社製、「X-rite938」)を使用し、OD-Cyanを測色し、下記の基準に則りCyan画像濃度の判定を行った。
【0135】
A:画像濃度が1.5以上である。
B:画像濃度が1.2以上、1.5未満である。
C:画像濃度が0.7以上、1.2未満である。
D:画像濃度が0.7未満である。
【0136】
[6-5]堅牢性
まず、2種類の布帛、すなわち、<1>絹製の布帛(絹羽二重14匁、色染社製)、<2>ナイロン製の布帛(ナイロン6タフタ、色染社製)を用意した。
【0137】
これらの布帛に、下記の前処理液を塗布し、マングルにてピックアップ率20%で絞り、乾燥させることにより、記録物製造用の布帛を得た。
【0138】
アルギン酸ナトリウム: 1.0質量%
グアーガム : 1.0質量%
硫酸アンモニウム : 4.0質量%
尿素 :10.0質量%
水 :84.0質量%
【0139】
セイコーエプソン社製のインクジェット捺染機“Monna-Lisa Evo Tre 16”に、前記各実施例および各比較例のインクジェット捺染用インク組成物を充填したインクカートリッジを装着して、“900×600D.P.I.、2パス”印刷モードにて、上記の記録物製造用の布帛に対し、単位面積当たりの塗布量が1.2mg/cmになるように均等にベタ印刷を実施した。
【0140】
印刷後、スチーマー(マチス社製;スチーマーDHe型)を用いて、100℃×30分間のスチーム処理を行い、その後、水洗して未固着の染料を除去した。
【0141】
さらに、ラッコールSTA(洗浄助剤;明成化学社製)を0.2質量%含む55℃のお湯を用いて10分洗浄し、これを乾燥させて、記録物としての印捺布を得た。
【0142】
得られた印捺布について、JIS L 0844:2011 A-2法に従い、各堅牢度試験を実施し、以下の基準に従い評価した。なお添付白布は、JIS L 0803記載の絹(2-1号)を使用した。
【0143】
A:堅牢性の結果が4級以上である。
B:堅牢性の結果が3級以上、4級未満である。
C:堅牢性の結果が2級以上、3級未満である。
D:堅牢性の結果が2級未満である。
【0144】
これらの結果を、前記各実施例および各比較例のインクジェット捺染用インク組成物の組成とともに、表1~表6にまとめて示す。なお、表中、各成分の含有量の単位は質量%であり、特定酸性染料であるC.I.アシッドブルー140を「AB140」、特定酸性染料であるC.I.アシッドブルー112を「AB112」、酸性染料であるC.I.アシッドバイオレット48を「AV48」、グリコール構造を有する化合物であるトリエチレングリコールを「TEG」、グリコール構造を有する化合物であるジエチレングリコールを「DEG」、グリコール構造を有する化合物であるジプロピレングリコールを「DPG」、グリコール構造を有する化合物であるトリプロピレングリコールを「TPG」、グリコールエーテル構造を有する化合物であるトリエチレングリコールモノブチルエーテルを「BTG」、グリコールエーテル構造を有する化合物であるジエチレングリコールモノブチルエーテルを「BDG」、グリコールエーテル構造を有する化合物であるジプロピレングリコールモノブチルエーテルを「DPGmB」、グリコールエーテル構造を有する化合物であるジプロピレングリコールモノプロピルエーテルを「DPGmP」、環状アミド系溶剤である2-ピロリドンを「2PY」、環状アミド系溶剤であるN-メチル-2-ピロリドンを「NMP」、環状アミド系溶剤である1,3-ジメチルイミダゾリジノンを「DMI」、環状アミド系溶剤であるN-ヒドロキシエチル-2-ピロリドンを「HEP」、環状アミド系溶剤であるε-カプロラクタムを「εCL」、グリセリンを「Gly」、キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸塩を「EDTA」、アセチレングリコール系界面活性剤であるオルフィンE1010(日信化学工業社製)を「E1010」、トリエタノールアミンを「TEA」、Proxel XL-2(Lonza社製)を「XL2」、防錆剤であるベンゾトリアゾールを「BTA」と示した。また、表1~表6には、インクジェット捺染用インク組成物中における、C.I.アシッドブルー112の含有量をXAB112[質量%]、C.I.アシッドブルー140の含有量をXAB140[質量%]としたときのXAB112/XAB140の値、インクジェット捺染用インク組成物中における、グリコール系溶剤の含有量をXG[質量%]、環状アミド系溶剤の含有量をXL[質量%]としたときのXG/XLの値、XG+XLの値、インクジェット捺染用インク組成物中における、特定酸性染料の含有量をXIAD[質量%]、C.I.アシッドバイオレット48の含有量をXAV48[質量%]としたときのXAV48/XIADの値も併せて示した。また、前記各実施例のインクジェット捺染用インク組成物は、いずれも、20℃における表面張力が30mN/m以上40mN/m以下の範囲内の値であり、20℃における粘度が3mPa・s以上8mPa・s以下の範囲内の値であった。なお、表面張力は、表面張力計(協和界面科学社製、DY-300)を用いてウィルヘルミー法により測定し、粘度は、振動式粘度計(セニコック社製、VM-100)を用いたJIS Z8809に準拠した測定により求めた。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】
【0149】
【表5】
【0150】
【表6】
【0151】
表1~表6から明らかなように、本発明では優れた結果が得られたのに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。