(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098213
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】フィルム、及びこれを用いる固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0273 20160101AFI20240716BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240716BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240716BHJP
C08L 23/20 20060101ALI20240716BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240716BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240716BHJP
【FI】
H01M8/0273
B32B27/32 103
C08J5/18 CES
C08L23/20
C08L101/00
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001533
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山松 淳
(72)【発明者】
【氏名】渡部 誉之
(72)【発明者】
【氏名】小林 恭平
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
5H126
【Fターム(参考)】
4F071AA14X
4F071AA21
4F071AA21X
4F071AA51
4F071AA69X
4F071AF45
4F071AF57Y
4F071AH04
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4F071BB06
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4F100AB01
4F100AB01A
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4F100GB41
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4J002AA00X
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4J002GQ00
5H126AA15
5H126BB06
5H126GG18
5H126JJ05
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】 高温機械特性や高温耐加水分解性に優れるだけでなく、厚みの均一性や打ち抜き加工性が良好なフィルム、及びこれを用いる固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材を提供する。
【解決手段】 4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位を全単位に対して90モル%以上含み融点が240℃以上である重合体A1と、ガラス転移温度が170℃以上である樹脂A2を、その合計量として90質量%以上含むA層を少なくとも1層有するフィルムであって、前記重合体A1と前記樹脂A2の質量比A1/A2が95/5~50/50の範囲であることを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位を全単位に対して90モル%以上含み融点が240℃以上である重合体A1と、ガラス転移温度が170℃以上である樹脂A2を、その合計量として90質量%以上含むA層を少なくとも1層有するフィルムであって、
前記重合体A1と前記樹脂A2の質量比A1/A2が95/5~50/50の範囲であるフィルム。
【請求項2】
前記A層を120℃100%RH下で保持した前後において、引張試験によって測定する最大応力の初期値に対する保持率が60%となる時間が、フィルム面内方向の少なくとも1方向について2000時間以上である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記樹脂A2が環状オレフィン系樹脂である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
前記質量比A1/A2が95/5~87/13の範囲である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
更に、熱融着性層を少なくとも1層有する、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
固体高分子形燃料電池の電解質膜の外周縁部を補強するための固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材に使用される、請求項1に記載のフィルム。
【請求項7】
固体高分子形燃料電池の電解質膜の外周縁部を補強するための固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材であって、請求項1~6いずれかに記載のフィルムを含む、固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメチルペンテン系樹脂のブレンド体を含むフィルム、及びこれを用いる固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は電解質膜の両面に電極が配置され、水素と酸素の電気化学反応により発電する電池である。発電時に発生するのは水のみであるため、クリーンエネルギーシステムとして注目されている。その中でも固体高分子形燃料電池は作動温度が比較的低く、起動時間が短いという利点があるため、自動車、船舶等の移動体用の電池としての普及が期待されている。しかしながら、電極に高価な白金系触媒が必要なこともあってまだまだ高価であり、製造コストの低下が望まれている。
【0003】
燃料電池は作動温度を高めることにより、出力密度が高くなり、小型化できるため、価格を下げる方策のひとつとして、作動最大温度を高くすることが検討されている。固体高分子形燃料電池の一般的な作動最大温度は90~95℃であるが、今後は120℃程度となり、燃料電池に使用される樹脂部材には、水存在下での高温長期耐久性(高温耐加水分解性)の向上が求められる(2022年公開NEDO技術開発ロードマップ(HDEV用燃料電池)https://www.nedo.go.jp/library/battery_hydrogen.html参照)。
【0004】
固体高分子形燃料電池は、樹脂製の補強枠によって補強された固体高分子からなる電解質膜と電極との接合体、ガス拡散層等が2枚の金属等からなるセパレーターで狭持されたセルが発電単位となる。補強枠とセパレーターはホットメルト接着剤で接着される構成が一般的である。ホットメルト接着剤の融点は、燃料電池の作動温度より十分に高くないと、作動中に接着剤が融けて水素、酸素が漏れてしまう可能性がある。従って、作動温度が120℃程度となる場合は、ホットメルト接着剤の融点は最低でも150℃以上、その接着加工温度は接着剤を十分に融かすためにさらに高く170~180℃とする必要がある。このため補強枠には170~180℃近傍での高温機械特性の向上も求められる。
【0005】
このような補強枠に用いるフィルムとしては、例えば、特許文献1には、燃料電池セルの周縁部に電解質膜を機械的に補強する補強枠を備えること、補強枠としてポリエチレンナフタレンジカルボキシレート(PEN)の2軸延伸フィルムを用いることが開示されている。しかしながら、121℃100%RHでの高温長期耐久時間は高々200時間程度であり、上記のような要求に対して十分ではなかった。
【0006】
一方、ポリメチルペンテン系樹脂は、高温長期耐久性に優れる物質であり、且つポリオレフィン系樹脂のなかでは耐熱性が良好なため、比較的高温を想定した種々の用途に使用されている。
【0007】
例えば特許文献2には、離型フィルムの離型層として、ポリメチルペンテン系樹脂を使用することが提案されている。また、この文献には、175℃での離型層の貯蔵弾性率E’が30MPa以上80MPa以下であることが開示されている。しかし、貯蔵弾性率がこの範囲であると、上記のような高温での接着加工が行なわれる用途に対しては、高温機械特性が十分とは言えなかった。
【0008】
特許文献3には、合成皮革製造用離型シートの離型層として、ガラス転移温度が150℃以上の環状オレフィン系樹脂とポリメチルペンテン系樹脂とを含む環状オレフィン系樹脂組成物を主成分とする離型層が提案されている。また、この文献には、環状オレフィン系樹脂組成物の150℃における貯蔵弾性率E’が100MPa以上であることが開示されている。
【0009】
更に、特許文献4には、第1の表面層/第1の中間層/基材層/第2の中間層/第2の表面層からなる積層体の基材層として、ポリエチレンナフタレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、メチルペンテンポリマー、からなる群より選択される1種以上を用いるのが好ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4944419号公報
【特許文献2】特開2021-194871号公報
【特許文献3】特開2009-279838号公報
【特許文献4】特開2018-135467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献3の発明のように、融点が十分高くない(例えば融点が240℃未満)ポリメチルペンテン系樹脂と、ガラス転移温度が150℃以上の環状オレフィン系樹脂とをブレンドしてフィルムを形成すると、溶融時の混和性、相溶性等の理由により、フィルムの厚みムラが生じ易くなることが判明した。このようなフィルムの厚みムラは、特に、多数の発電単位が積層される固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材として使用する場合、接着不良等を生じさせ易いという問題がある。
【0012】
また、本発明者らの検討によると、特許文献4の実施例として記載されているように、ガラス転移温度が150℃以上のシクロオレフィンコポリマーを単独で使用してフィルムを形成すると、フィルムの打ち抜き加工性(特にバリの発生)が悪化し易くなることが判明した。このようなフィルムの打ち抜き加工性の悪化は、特に電解質膜用補強部材を枠状に加工する際に、生産性等を低下させるという問題を引き起こし易い。
【0013】
そこで、本発明の目的は、高温機械特性や高温耐加水分解性に優れるだけでなく、厚みの均一性や打ち抜き加工性が良好なフィルム、及びこれを用いる固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定のポリメチルペンテン系樹脂とガラス転移温度が170℃以上の樹脂とを特定の質量比で含有するブレンド体を用いてフィルムを形成することで、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明には以下の内容が含まれる。
【0016】
[1]4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位を全単位に対して90モル%以上含み融点が240℃以上である重合体A1と、ガラス転移温度が170℃以上である樹脂A2を、その合計量として90質量%以上含むA層を少なくとも1層有するフィルムであって、
前記重合体A1と前記樹脂A2の質量比A1/A2が95/5~50/50の範囲であるフィルム。
【0017】
[2] 前記A層を120℃100%RH下で保持した前後において、引張試験によって測定する最大応力の初期値に対する保持率が60%となる時間が、フィルム面内方向の少なくとも1方向について2000時間以上である、[1]に記載のフィルム。
【0018】
[3] 前記樹脂A2が環状オレフィン系樹脂である、[1]又は[2]に記載のフィルム。
【0019】
[4] 前記質量比A1/A2が95/5~87/13の範囲である、[1]~[3]いずれかに記載のフィルム。
【0020】
[5] 更に、熱融着性層を少なくとも1層有する、[1]~[4]いずれかに記載のフィルム。
【0021】
[6] 固体高分子形燃料電池の電解質膜の外周縁部を補強するための固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材に使用される、[1]~[5]いずれかに記載のフィルム。
【0022】
[7] 固体高分子形燃料電池の電解質膜の外周縁部を補強するための固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材であって、[1]~[6]いずれかに記載のフィルムを含む、固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高温機械特性や高温耐加水分解性に優れるだけでなく、厚みの均一性や打ち抜き加工性が良好なフィルム、及びこれを用いる固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材を提供することができる。
【0024】
特定のポリメチルペンテン系樹脂とガラス転移温度170℃以上の樹脂とを特定の質量比で含有することで、特に厚みの均一性や打ち抜き加工性が良好になる理由の詳細は不明であるが、次ぎのように考えられる。
【0025】
即ち、4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位を90モル%以上含み融点が240℃以上である重合体A1を用いることで、共重合成分がより多い場合と比較して、ガラス転移温度170℃以上の樹脂A2に対し、分散性等が改善されるため、厚みの均一性が良好になり易いと考えられる。また、重合体A1は離型性にも優れており、これを一定以上の質量比で用いることで、打ち抜き加工性がより良好になると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】本発明に用いることができる垂直落下タイプのフィルム製膜機の一例のダイ~冷却ロール付近を示す模式図である。
【
図1B】本発明に用いることができる斜め落下タイプのフィルム製膜機の一例のダイ~冷却ロール付近を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、説明の便宜上、フィルムの製膜方向を、機械軸方向、縦方向、長手方向、MD方向と称することがあり、製膜方向と厚み方向とに直交する方向を、幅方向、横方向、TD方向と称することがある。また、本明細書中に記載された各種の物性値等は、具体的には実施例に記載された方法で測定されるものである。
【0028】
[フィルム]
本発明のフィルムは、重合体A1と樹脂A2を、その合計量として90質量%以上含むA層を少なくとも1層有しており、A層を2層以上有するものでもよい。また、フィルムとしては、B層、A層、及びB層をこの順で含み、A層を基材層とし、B層を熱融着性層とするものでもよい。更に、中間層(易接着層など)であるC層を含み、B層、C層、A層、C層、及びB層をこの順で含むものでもよい。
【0029】
A層、B層、C層は、少なくとも2層が共押出により積層されたものでもよく、全層が共押出により積層されたものでもよい。
【0030】
また、本発明のフィルムは、無延伸フィルム、又は一軸もしくは二軸に延伸された延伸フィルムの何れでもよいが、製造が容易で製造設備も安価である等の観点から、無延伸フィルムが好ましい。ここで、「無延伸」とは、ロール間延伸、テンターによる延伸などの延伸工程により、何れの方向にも1.2倍以上に延伸されていない状態を指し、好ましくは何れの方向にも1.1倍以上に延伸されていない状態である。
【0031】
延伸フィルムの場合、少なくとも延伸方向において、175℃にて引張りモードで測定した貯蔵弾性率を、無延伸フィルムより高い値にすることができる。なお、一軸延伸を行なう場合の延伸倍率としては、1.2倍以上5.0倍以下が挙げられ、二軸延伸を行なう場合の延伸倍率としては、MD方向に1.2倍以上5.0倍以下、TD方向に1.2倍以上5.0倍以下が挙げられる。
【0032】
更に、本発明のフィルムは、他の層を含んでいてもよく、例えば、B層の表面側に、保護フィルム、離型フィルム、カバーフィルム等を設けてもよい。更に、B層とC層との間に、C層とは異なる組成の中間層、易接着層等を含んでいてもよい。また、B層、C層、A層、C層、A層、C層、及びB層を含む積層フィルムのように、C層とA層とを繰り返して含む層構成とすることも可能である。以下、各層の構成について説明する。
【0033】
[A層]
A層を構成する樹脂組成物に含有される樹脂は、過酷な湿熱環境で耐久性を具備するために、水分子の反応点になるような官能基を有していないこと、また、貼り合わせ時の熱や環境による熱に耐えるための融点が高い、またはガラス転移温度が高いことが好ましい。
【0034】
本発明では、かかる観点から、A層を構成する樹脂組成物の主成分として、4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位を90モル%以上含み融点が240℃以上である重合体A1を使用すると共に、170~180℃での高温機械特性を高めるために、ガラス転移温度が170℃以上である樹脂A2を併用している。
【0035】
重合体A1と樹脂A2は、A層中にその合計量として90質量%以上含有していればよいが、高温耐加水分解性と170~180℃での高温機械特性を高める観点から、A層中に100質量%以下95質量%以上含有することが好ましく、100質量%以下98質量%以上含有することがより好ましく、100質量%含有することが最も好ましい。そして、このような含有量の範囲内であると、4-メチル-1-ペンテン系重合体による耐熱性の向上効果が得られ易く、かつ、更に、170~180℃での高温機械特性を向上させたフィルムが得られやすい。
【0036】
重合体A1と樹脂A2の質量比A1/A2は95/5~50/50の範囲であればよいが、95/5~80/20の範囲であることが好ましく、95/5~87/13の範囲であることが最も好ましい。そして、このような含有量の範囲内であると、4-メチル-1-ペンテン系重合体による耐熱性の向上効果が得られ易く、かつ、打ち抜き加工性が良好なフィルムが得られやすい。
【0037】
A層中には他の樹脂A3を10質量%未満含有していてもよいが、同様の理由から、樹脂A3をA層中に0質量%以上5質量%未満含有することが好ましく、0質量%以上2質量%未満含有することがより好ましく、他の樹脂A3を含有しないことが最も好ましい。
【0038】
[重合体A1]
重合体A1は、4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位を全構成単位に対して90モル%以上100モル%以下有するものであるが、好ましくは92モル%以上100モル%以下、より好ましくは95モル%以上100モル%以下、最も好ましくは100モル%有する。
【0039】
重合体A1としては、更に、4-メチル-1-ペンテン以外のα―オレフィンに由来する構成単位を全構成単位に対して0モル%以上10モル%未満有していてもよく、好ましくは0モル%以上8モル%未満、より好ましくは0モル%以上5モル%未満有する。
【0040】
つまり、重合体A1としては、4-メチル-1-ペンテンをモノマーとして重合したホモポリマーの他、4-メチル-1-ペンテンをモノマーとして90モル%以上と、4-メチル-1-ペンテン以外のα―オレフィンをモノマーとして10モル%未満含むものを共重合した共重合体が挙げられる。
【0041】
重合体A1が共重合体である場合、共重合されるモノマーとしては、炭素数2以上20以下のα-オレフィンが好ましい。共重合されるα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-オクタデセン等の1種以上が挙げられる。
【0042】
重合体A1の融点TmA1は、240℃以上であり、241℃以上250℃以下であることが好ましく、242℃以上245℃以下であることがより好ましい。重合体A1の融点TmA1は、立体規則性の制御や、共重合されるモノマーの種類や含有量により制御することができる。
【0043】
[樹脂A2]
樹脂A2は重合体A1との適度な相溶性、分散性を有しており、ガラス転移温度が170℃以上であれば、特に限定されるものではない。例えば、環状オレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)、ポリフェニルスルフォン系樹脂(PPSU)、ポリスルフォン系樹脂(PSU)、ポリエーテルスルフォン系樹脂(PESU)、ポリエーテルイミド系樹脂(PEI)などが挙げられる。
【0044】
これらの中では、重合体A1とブレンドし共通の温度で溶融混練、押出しする際の安定性の観点から環状オレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂が好ましく、環状オレフィン系樹脂が最も好ましい。溶融混練、押出しする際の安定性が十分でないと、フィルムの厚み斑が悪化したり、樹脂の黒色劣化異物が発生し、フィルムに混入したりする傾向がある。
【0045】
ガラス転移温度が170℃以上の環状オレフィン系樹脂としては、ノルボルネン類とエチレン等のα-オレフィンとを共重合したシクロオレフィンコポリマー(COC)、ノルボルネン類の単独付加重合体等が挙げられる。
【0046】
シクロオレフィンコポリマー(COC)としては、ポリプラスチックス社製のTОPAS6017S(ガラス転移温度178℃)などが市販されており、ノルボルネンホモポリマーとしては、住友ベークライト社製のポリノルボルネン(ガラス転移温度≧250℃)などが市販されており、いずれも樹脂A2として使用することができる。
【0047】
ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)としては、三菱エンジニアリングプラスチック社製のPX100F(ガラス転移温度204℃)などが市販されており、樹脂A2として使用することができる。
【0048】
ポリフェニルスルフォン系樹脂(PPSU)としては、BASFジャパン社製のウルトラゾーンP(ガラス転移温度220℃)などが市販されており、ポリスルフォン系樹脂(PSU)としては、BASFジャパン社製のウルトラゾーンS(ガラス転移温度187℃)などが市販されており、ポリエーテルスルフォン系樹脂(PESU)としては、BASFジャパン社製のウルトラゾーンE(ガラス転移温度225℃)などが市販されており、いずれも樹脂A2として使用することができる。
【0049】
ポリエーテルイミド系樹脂(PEI)としては、クレハエクストロン社製のULTEM(ガラス転移温度215℃)などが市販されており、樹脂A2として使用することができる。
【0050】
[その他の樹脂A3]
A層には、重合体A1、樹脂A2以外の他の樹脂A3を含有することができる。他の樹脂A3としては、重合体A1、樹脂A2との適度な相溶性、分散性を有していればよく、例えば4-メチル-1-ペンテンとα―オレフィンの共重合体などの4-メチル-1-ペンテン系共重合体、ポリオレフィン(変性ポリオレフィンを含む)等が挙げられるが、4-メチル-1-ペンテンとα―オレフィンの共重合体が好ましい。4-メチル-1-ペンテンとα―オレフィンの共重合体は、水分子の反応点になるような官能基を有していない点で優れており、また、4-メチル-1-ペンテンとα―オレフィンの共重合体を用いることで重合体A1への分散性が向上する。4-メチル-1-ペンテンとα―オレフィンの共重合体としては、重合体A1と同様の共重合組成を有し、融点TmA3が240℃未満のものが挙げられる。
【0051】
ポリオレフィン樹脂としては、以下のポリオレフィン樹脂、または変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。本明細書において「変性」とは、同一分子内にポリオレフィン等の構成単位とは異なる構成単位を含むものをいう。
【0052】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)等のポリオレフィン系樹脂を挙げることが出来る。また、これらのポリオレフィン系樹脂のブレンド体、又はこれらを構成成分とする共重合体が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂の中で特に好ましいのはポリプロピレンである。
【0053】
特に溶融混錬により4-メチル-1-ペンテン系重合体(重合体A1)と混合する場合、同様のポリオレフィン樹脂、または変性ポリオレフィン樹脂を用いることができるが、相溶性等の観点から、4-メチル-1-ペンテンを共重合したポリプロピレン樹脂や、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。なお、変性方法としては、グラフト変性や共重合化を用いることができる。
【0054】
具体的な変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル-g-無水マレイン酸共重合体(ここで「-g-」はグラフトを表わす(以下同じ))、エチレン/メタクリル酸メチル-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン-1-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/1,4-ヘキサジエン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/2,5-ノルボルナジエン-g-無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/ブタジエン/スチレン-g-無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/イソプレン/スチレン-g-無水マレイン酸共重合体などを挙げることができる。なかでも、マレイン酸変性したポリプロピレン、又はエチレン-プロピレン共重合体等が特に好ましい。
【0055】
[A層の他の任意成分]
A層には、優れた高温機械特性を実現するために、結晶化を促進する結晶核剤を含有させてもよい。
【0056】
結晶核剤は、適度な結晶化の促進効果を得る観点から、A層中に0.001質量%以上0.8質量%以下含有することが好ましく、0.002質量%以上0.5質量%以下含有することがより好ましく、0.05質量%以上0.3質量%以下含有することが更に好ましい。
【0057】
更にA層には、本発明の目的を損なわない限りにおいて、滑り性を向上させる等の目的で必要に応じて適当なフィラーを含有させることができる。このフィラーとしては、従来からフィルムやシートの滑り性付与剤として知られているものを用いることができるが、例えば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭化珪素、酸化錫、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコン樹脂粒子等を挙げることができる。さらにA層には、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑材、触媒等をも適宜添加することができる。特に、湿熱環境での使用を考慮した場合、溶出性の少ない添加材が好ましく用いることができる。
【0058】
また、その他の任意成分としては、4-メチル-1-ペンテン系重合体等に従来から使用されている各種添加剤が挙げられる。このような添加剤としては安定剤、衝撃改良剤、難燃剤、離型剤、摺動改良剤、着色剤、可塑剤などが挙げられる。
【0059】
[A層の特性]
A層の動的粘弾性測定機により175℃にて引張りモードで測定した貯蔵弾性率は、フィルム面内方向の少なくとも1方向について80MPaより大きいことが好ましい。貯蔵弾性率は、少なくとも1方向が80MPaより大きければよいが、貯蔵弾性率が最大となる方向に垂直な方向についても、貯蔵弾性率がこの範囲を満たすことが好ましい。
【0060】
このような貯蔵弾性率は、少なくとも1方向について、高温機械特性と高温耐加水分解性とを向上させる観点から、好ましくは90MPa以上であり、より好ましくは100MPa以上であり、更に好ましくは120MPa以上であり、特に好ましくは140MPa以上である。175℃における貯蔵弾性率は大きな値程好ましいが、工業的に実施可能な最大値としては500MPa程度が例示できる。
【0061】
貯蔵弾性率を調整する方法としては、樹脂A2の種類を変更したり、樹脂A2の含有量を変更したり、また、後述する製造方法において、エアーギャップ距離を変更したり、エアーギャップを通過する時間を変更したりする方法が挙げられる。特に樹脂A2の種類の選択と、樹脂A2の含有量の増加が有効である。
【0062】
また、A層を120℃100%RH下で保持した前後において、引張試験によって測定する最大応力の初期値に対する保持率が60%となる時間(耐久時間)が、フィルム面内方向の少なくとも1方向について2000時間以上であることが好ましい。A層の耐久時間は、フィルム面内方向の少なくとも1方向が2000時間以上であればよいが、耐久時間が最大となる方向に垂直な方向についても、この範囲を満たすことが好ましい。
【0063】
このA層の耐久時間の範囲は、換言すると、A層を120℃100%RH下で2000時間保持した前後において、引張試験によって測定する最大応力の初期値に対する保持率がフィルム面内方向の少なくとも1方向について60%以上であることに相当する。
【0064】
このようなA層の保持率については、高温耐加水分解性を更に向上させる観点から、好ましくは保持率が80%以上であり、より好ましくは保持率が90%以上であり、更に好ましくは保持率が93%以上である。A層の上記保持率は、通常100%以下であり、好ましくは99%以下である。このようなA層の上記保持率や保持率が60%となる時間(耐久時間)は、重合体A1の分子構造(共重合比率)、立体規則性、融点、分子量、樹脂A2の種類、含有量などにより調整することができる。
【0065】
A層の厚みは、必要な高温機械特性を得る観点から、20μm以上であってもよく、25μm以上であることが好ましく、より好ましくは35μm以上、さらに好ましくは45μm以上であり、また、燃料電池セルの厚みを抑制する観点から、300μm以下であることが好ましく、より好ましくは270μm以下、さらに好ましくは250μm以下であり、他には、150μm以下や130μm以下であってもよい。
【0066】
[B層(熱融着性層)]
フィルムは、熱融着性層等であるB層を有していてもよい。熱融着性層としてのB層は、熱融着性ポリオレフィンB1を100~70質量%含有するものであり、湿熱耐久性や被着体への接着力の観点から、熱融着性ポリオレフィンB1を100~75質量%含有することが好ましく、100~80質量%含有することがより好ましく、100~90質量%含有することが更に好ましく、100質量%含有することが最も好ましい。なお、本明細書において「熱融着性」とは、被着体に対して加熱により融着可能な性質をいい、好ましくは金属であるSUS316に対して加熱により融着可能な性質をいう。
【0067】
B層がA層の両面に設けられる場合、B層は、相互に同一の組成でも異なる組成でも良いが、例えば同じ材料からなる被着体同士を熱接着する場合には、相互に同一の組成の熱融着性層を両面に設けることが好ましい。また、熱融着性層の厚みは、相互に同一でも異なっていてもよいが、上記のような場合には、同一の厚みの熱融着性層を両最表面に設けることが好ましい。
【0068】
B層の厚みは、補強部材としての高温耐加水分解性などの観点から、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは90μm以下、更に好ましくは80μm以下である。また、薄すぎても熱融着性層として、厚み方向の力学的緩和機能が弱まるため、例えば10μm以上であることが好ましく、より好ましくは15μm以上、特に好ましくは20μm以上である。
【0069】
[熱融着性ポリオレフィンB1]
熱融着性ポリオレフィンB1としては、未変性のポリオレフィン系樹脂を使用することも可能であるが、変性ポリオレフィンが好ましく、特にポリプロピレンを含む変性ポリオレフィンが好ましい。
【0070】
未変性のポリオレフィン系樹脂としては、例えば、炭素数2~8のオレフィンの単独重合体や共重合体、炭素数2~8のオレフィンと他のモノマーとの共重合体を挙げることができる。具体的には、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン樹脂などのポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ(1-ブテン)、ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(α-メチルスチレン)、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・ブテン・プロピレン三元共重合体、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレン・へキセン共重合体などのα-オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・酢酸ビニル・メチルメタクリレート共重合体、ポリブタジエン・スチレン共重合体、ポリブタジエン・無水マレイン酸共重合体、アイオノマー樹脂などを挙げることができる。更に、これらポリオレフィンを塩素化した塩素化ポリオレフィンも使用することができる。
【0071】
熱融着性ポリオレフィンB1は、上記のとおり、種々のタイプが使用可能であるが、特に、ポリオレフィン樹脂に種々の官能基(例えば、カルボキシル基、水酸基等)の種々の官能基を導入した変性ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。
【0072】
更に、これらの変性ポリオレフィン樹脂のうち、金属層との密着性がより向上し、耐電解質性に優れすることから、1~200mgKOH/gの酸価を有する変性ポリオレフィン樹脂(酸変性ポリオレフィン樹脂ともいう。)および/または1~200mgKOH/gの水酸基価を有する変性ポリオレフィン樹脂(水酸基変性ポリオレフィン樹脂ともいう。)を用いることができる。
【0073】
酸変性ポリオレフィン樹脂とは、分子中にカルボキシル基や無水カルボン酸基を有するポリオレフィン樹脂であり、ポリオレフィンを不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性し、合成される。この変性方法としては、グラフト変性や共重合化を用いることができる。
【0074】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体を、変性前のポリオレフィン樹脂にグラフト変性あるいは共重合化したグラフト変性ポリオレフィンである。
【0075】
変性前のポリオレフィン樹脂としては上述のポリオレフィン樹脂が挙げられるが、その中でもプロピレンの単独重合体、プロピレンとα-オレフィンとの共重合体、エチレンの単独重合体、およびエチレンとα-オレフィンとの共重合体等が好ましい。これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0076】
酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体、またはエチレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体が挙げられる。具体的には、三菱化学(株)製「モディック」、三井化学(株)製「アドマー」、「ユニストール」、東洋紡(株)製「ハードレン」、三洋化成(株)製「ユーメックス」、日本ポリエチレン(株)製「レクスパールEAA」「レクスパールET」、ダウ・ケミカル(株)製「プリマコール」、三井・デュポンポリケミカル製「ニュクレル」、アルケマ製「ボンダイン」として市販されている。
【0077】
水酸基変性ポリオレフィン樹脂は、分子中に水酸基を有するポリオレフィン樹脂であり、ポリオレフィンを後述する水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル、あるいは、水酸基含有ビニルエーテルでグラフト変性あるいは共重合化して合成する。前記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキエチル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリセロール;ラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール等が挙げられ、前記水酸基含有ビニルエーテルとしては、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0078】
特に好ましい熱融着性のポリオレフィン樹脂としては、前記熱融着性ポリオレフィンB1が、酸無水物を用いて変性した変性物を含み、酸無水物含有量が0.1~3質量%であり、アセトンによる数平均分子量が1000以下の低分子量成分抽出量が1質量%未満であるポリオレフィンである。
【0079】
無水物含有量が0.1質量%以上であると、金属との密着性が十分得られやすく、3質量%以下であると、十分な剛性・強度等の機械特性が得られやすい。低分子量成分抽出量が1質量%未満であると、低分子量成分が熱融着性層表面にブリードアウトしにくく、密着性が阻害されにくいものとなる。
【0080】
[その他の樹脂B2]
B層には、熱融着性ポリオレフィンB1以外のその他の樹脂B2を0~30質量%含有していてもよい。つまり、熱融着性層は、熱融着性ポリオレフィンB1に対して適度な相溶性又は分散性を有する他の樹脂B2を、本発明の目的を損なわない限りにおいて、含有させることが可能である。
【0081】
しかし、他の樹脂B2が多すぎると、本来の金属貼り合わせ時の密着力を低下せしめる可能性があり、易接着層であるC層を設けることで、B層内の他の樹脂成分の添加量を低減できる効果を有する。かかる観点から、熱融着性層に含有する樹脂B2の上限は、30質量%であり、好ましくは25質量%であり、さらに好ましくは20質量%であり、特に好ましくは10質量%である。下限の規定は特にないが、使用目的に応じた密着力が確保できうる限りにおいては、0質量%でも差し支えない。
【0082】
樹脂B2としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、4-メチル-1-ペンテン系重合体(重合体A1)、後述する共重合体C1(4-メチル-1-ペンテンとα-オレフィンの共重合体)、重合体A1及び共重合体C1以外のポリオレフィン、エチレンプロピレンジエンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0083】
B層は、樹脂のみで構成することも可能であるが、粘着性付与剤、帯電防止剤、酸化防止剤、金属不活性剤、脱水剤、制酸吸着剤などの安定剤、または架橋剤、連鎖移動剤、核剤、滑剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない範囲内で添加してもよい。
【0084】
[C層(易接着層)]
フィルムは、易接着層等であるC層を有していてもよい。易接着層としてのC層は、例えば4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位を60モル%以上99モル%以下、及び4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2以上20以下のα-オレフィンに由来する構成単位を1モル%以上40モル%以下有する共重合体C1を含有するものである。
【0085】
共重合体C1は、C層中に100~50質量%含有していればよいが、A層及びB層に対する密着力を高める観点から、共重合体C1をC層中に100~80質量%含有することが好ましく、100~90質量%含有することがより好ましく、100質量%含有することが最も好ましい。
【0086】
C層中には他の樹脂C2を0~50質量%含有していてもよいが、A層及びB層に対する密着力を高める観点から、樹脂C2をC層中に0~20質量%含有することが好ましく、0~10質量%含有することがより好ましく、他の樹脂C2を含有しないことが最も好ましい。
【0087】
C層には、樹脂成分以外の成分を含まないことが好ましいが、C層による効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、金属不活性剤、核剤等を含有していてもよい。
【0088】
A層の両面にC層が設けられる場合、C層は、相互に同一の組成でも異なる組成でも良いが、例えば同じ材料と厚みの熱融着性層を両表面に設ける場合には、相互に同一の組成のC層を両面に設けることが好ましい。また、C層の厚みは、相互に同一でも異なっていてもよいが、上記のような場合には、同一の厚みのC層を両面に設けることが好ましい。
【0089】
C層の厚みは、B層に対して適切な厚みの比率を得るために、0.01μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.03μm以上であり、また、10μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。
【0090】
[共重合体C1]
共重合体C1は、重合体A1と同一でも異なっていてもよいが、A層及びB層に対する密着力を高める観点から、重合体A1と比較して、共重合体C1を構成する4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位のモル%が、より低いものが好ましく、10モル%以上低いものがより好ましく、20モル%以上低いものが更に好ましい。
【0091】
共重合体C1の構成成分である炭素数2以上20以下のα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-オクタデセン等を挙げることができる。前記α-オレフィンとして、好ましくはエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンであり、より好ましくは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンであり、さらに好ましくは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセンである。前記α-オレフィンは、1種で用いてもよいし、これらの2つ以上の組み合わせで用いてもよい。
【0092】
共重合体C1において、4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位は60モル%以上99モル%以下であり、好ましくは63モル%以上98モル%以下であり、より好ましくは65モル%以上95モル%以下であり、さらに好ましくは65モル%以上90モル%以下であり、特に好ましくは65モル%以上87モル%以下である。4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数2以上20以下のα-オレフィンに由来する構成単位は、1モル%以上40モル%以下であり、好ましくは2モル%以上37モル%以下であり、より好ましくは5モル%以上35モル%以下であり、さらに好ましくは10モル%以上35モル%以下であり、特に好ましくは13モル%以上35モル%以下である。前記構成単位の量が前記の範囲内にあるとき、C層はA層及びB層に対する密着力がより優れたものとなる。
【0093】
共重合体C1は、融点を持たない非晶質の共重合体でもよいが、示差走査熱量計(DSC)により測定される融解ピーク温度である融点TmC1が、199℃以下であることが好ましく、100~160℃であることがより好ましく、110~150℃であることが更に好ましい。
【0094】
共重合体C1としては、特に、三井化学(株)製アブソートマーEP1013、EP1001等を用いることが好ましい。
【0095】
[その他の樹脂C2]
共重合体C1のその他の樹脂C2としては、重合体A1、熱融着性ポリオレフィンB1の他、4-メチル-1-ペンテン系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられる。
【0096】
[フィルムとしての特性]
本発明のフィルムは、積層フィルムとして形成された場合でも、A層のみの場合と同様の特性を有することが好ましい。
【0097】
例えば、積層フィルムとしては、積層フィルムを120℃100%RH下で保持した前後において、引張試験によって測定する最大応力の初期値に対する保持率が60%となる時間が、フィルム面内方向の少なくとも1方向について2000時間以上であることが好ましい。換言すると、積層フィルムを120℃100%RH下で2000時間保持した前後において、引張試験によって測定する最大応力の初期値に対する保持率がフィルム面内方向の少なくとも1方向について60%以上であり、高温耐加水分解性を更に向上させる観点から、好ましくは保持率が80%以上であり、より好ましくは保持率が90%以上であり、更に好ましくは保持率が93%以上である。積層フィルムの上記保持率は、通常100%以下であり、好ましくは99%以下である。このような積層フィルムの上記保持率や耐久時間は、主にA層の特性に依存するため、A層の特性を調整すること等により調整することができる。
【0098】
また、本発明のフィルムが、B層、C層、A層、C層、及びB層をこの順で含む場合、A層の膜厚をtA、B層の膜厚をtB、C層の膜厚をtCとしたときに、各層の厚みの比率として、下記式(1)および下記式(2)を満たすことが好ましい。
2≦tA/tB≦5 (1)
10≦tB/tC≦5000 (2)
tA/tBが5以下であると、総厚みが大きくなり過ぎず、後述する共押出製膜時にシートを冷却し易く、ロール状に巻き取ることが容易になる。また、tA/tBが2以上であると、熱融着性層を融解して他の部材に貼り合わせる際に、基材層に熱が到達し難く、貼り合わせ時の影響を受け難い。かかる観点から、tA/tBの上限は、好ましくは4.5以下、さらに好ましくは、4.0以下、特に好ましくは、3.5以下である。またtA/tBの下限は、好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.4以上、特に好ましくは2.5以上である。
【0099】
また、tB/tCが5000以下であると、すなわち、易接着層の厚みが、熱融着性層に比べて極端に薄くならず易接着層としての膜の連続性を確保し易くなる。また、tB/tCが10以上であると、易接着層を不必要に厚くする必要がなくなる。かかる観点から、tB/tCの上限は、好ましくは、4000以下、さらに好ましくは3000以下、特に好ましくは2000以下である。tB/tCの下限は、好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上、特に好ましくは25以上である。
【0100】
[フィルムの製造方法]
本発明のフィルムは、例えば、A層を構成する材料の混練、混練物の押出、フィルムの成形、必要に応じてその熱処理等を行なうことにより製造することができる。積層フィルムの場合、各層を構成する材料の混練、混練物の共押出、積層フィルムの成形、必要に応じてその熱処理等を行なうことにより製造することができる。以下、フィルムがA層のみで構成される場合について説明する。
【0101】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(重合体A1)と樹脂A2、他のポリオレフィンからなる樹脂(他の樹脂A3)、さらにその他の任意成分とを混合して混練する方法は特に制限はされないが、例えば、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダ、バンバリーミキサ等を使用できる。これらの中でも特に二軸押出機が好ましく用いられる。二軸押出機の運転条件等は、樹脂の種類、各含有成分の種類や量など種々の要因により異なり一義的に決められないが、例えば、運転温度は、融点に対して、+40℃前後で設定すればよい。押出機のスクリュー構成は、練りの優れるニーディングディスクを数箇所組み込むことが好ましい。
【0102】
A層を構成する樹脂組成物は、ダイからシート状に溶融押出し、冷却ロール(キャスティングドラム)等で冷却固化させてフィルムを得ることができる。溶融押出の際、ダイからシート状の溶融物を垂直に落下させる垂直落下タイプ、又は、ダイからシート状の溶融物を斜めに落下させる斜め落下タイプの何れを用いることも可能であるが、エアーギャップ距離を長くできる観点から、垂直落下タイプのフィルム製膜機を用いることが好ましい。
【0103】
エアーギャップ距離は、重合体A1が溶融状態でも結晶核を効率よく生成させて、十分な高温機械特性を発現させる観点から、好ましくは50mm以上であり、より好ましくは60mm以上であり、更に好ましくは70mm以上である。また、冷却ロールに接触する前の溶融状態の樹脂組成物が揺れることによる厚み斑を抑制する観点から、エアーギャップ距離は、好ましくは200mm以下であり、より好ましくは150mm以下である。
【0104】
冷却温度としては、十分固化する程度の温度であればよいが、冷やしすぎると、シート状の樹脂の浮き等が発生し、効率的な冷却が困難となる観点から20~120℃が好ましく、30~100℃がより好ましい。
【0105】
必要に応じて、冷却固化後に、重合体A1の融点TmA1に対して、TmA1-100℃~TmA1-5℃で1~60秒間熱処理を行うことにより、フィルムの面内変形率を所定の範囲に制御することが容易となる。熱処理の方式としては、ロール搬送型でも良いし、フローティング型でも良いが、面内方向の緩和ができること、また両面の熱融着性層の貼りつきを予防する観点から、フローティング型が好ましい。
【0106】
フィルムが積層フィルムである場合、少なくとも易接着層が基材層とともに共押出で形成されていることが好ましく、より好ましくは易接着層及び熱融着性層を基材層とともに共押出で形成されている。
【0107】
接着性層を後に積層する場合、ラミネート法としてはドライラミネート法とウェットラミネート法など、コーティング法としては押出樹脂コーティング法、溶融樹脂コーティング法、塗液コーティング法などが挙げられる。
【0108】
本発明においては、熱融着性層を設けるために共押出で樹脂を押し出す場合、基材層の粘性に合わせて適宜溶融温度を調整して、溶融押出することが好ましい。また、熱融着性層の溶融粘度が適切になるように、熱融着性ポリオレフィンB1の種類や分子量、その他の樹脂B2を選択することが好ましい。
【0109】
また、易接着層を設けるために共押出で樹脂を押し出す際にも、基材層の粘性に合わせて適宜溶融温度を調整して、溶融押出することが好ましい。また、易接着層の溶融粘度が適切になるように、共重合体C1の種類や分子量、その他の樹脂C2を選択することが好ましい。
【0110】
熱融着性層の押出機の運転温度(溶融温度)としては、熱融着性ポリオレフィンB1の融点TmB1に対して、TmB1+20℃~TmB1+120℃が好ましく、TmB1+50℃~TmB1+100℃がより好ましい。
【0111】
また、易接着層の押出機の運転温度(溶融温度)としては、共重合体C1の融点TmC1に対して、TmC1+20℃~TmC1+120℃が好ましく、TmC1+50℃~TmC1+100℃がより好ましい。
【0112】
押出機からの熱融着性層及び易接着層の溶融物の吐出量は、基材層に対する厚み比率、積層体の厚み、ライン速度などに応じて適宜決定される。
以上のようなフィルムは、長手方向に巻回されたロールとして製造することができる。フィルムは、適当な形状に裁断、打ち抜き等されて、各種用途に使用することができる。
【0113】
本発明のフィルムは、高温機械特性や高温耐加水分解性に優れるだけでなく、厚みの均一性や打ち抜き加工性が良好であるため、各種の用途に好適に使用でき、特に固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材に、より好適に使用することができる。
【0114】
本発明のフィルムは、電解質膜用補強部材以外の用途として、耐熱性や湿熱耐久性等が要求される用途に用いるのが有効であるが、このような用途としては、例えば、各種工程用のキャリヤフィルム、各種工程用の離型フィルム、耐熱性包装材用フィルム、耐熱性容器用フィルムなどが挙げられる。勿論、その他の汎用のフィルムとしても使用することも可能である。
【0115】
[固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材]
本発明の固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材は、固体高分子電解質膜の外周縁部を補強するための固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材であって、以上において説明した本発明のフィルムを含むことを特徴とする。
【0116】
固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材は、少なくとも固体高分子形燃料電池の電解質膜を補強するものであればよく、固体高分子形燃料電池の電解質膜のみを補強する場合の他、電解質膜電極接合体、更にガス拡散層を含む積層体などを補強する場合に使用される補強部材でもよい。当該補強部材は、支持部材、ガスケット部材などと称される場合があり、少なくとも固体高分子形燃料電池の電解質膜を支持して強度を高める効果があるものは、全て「補強部材」に含まれる。
【0117】
補強部材の形状としては、固体高分子形燃料電池の電解質膜の少なくとも一辺を補強する形状であればよく、枠状、L字状、コの字状、I字状などが挙げられる。但し、補強部材の形状としては、気密性や補強効果を高める観点から、1つ以上の開口部を有する枠状であることが好ましい。
【0118】
固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材は、固体高分子形燃料電池の電解質膜の外周縁部に対して、接着剤、ホットメルト接着剤等を用いて固着することができる。その際、本発明のフィルムが熱融着性層(B層)を有する場合、固体高分子形燃料電池の電解質膜の外周縁部に対して、熱融着(ホットメルト)により固着することができる。本発明のフィルムは、170~180℃での高温機械特性に優れるため、熱融着の温度を150℃以上とすることができる。
【実施例0119】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、物性等を測定し、又は評価した。以下、特に断りのない限り、「部」とあるのは「質量部」を、「%」とあるのは「質量%」を意味する。
【0120】
(1)平均厚み、厚み斑
ロール状に巻き取ったフィルムロールの幅方向中央から、幅2cm×流れ方向長さ10mのサンプルを切り出した。サンプルの厚みを流れ方向に10cm間隔で合計100点、マイクロメーターを用いて測定した。平均厚み、厚み斑は下式を用いて算出した。
【0121】
平均厚み=100点の厚み平均値(μm)
厚み斑=(100点の厚み最大値-100点の厚み最小値)÷平均厚み×100(%)
この厚み斑が5%を超えると、各種用途で問題となり易く、特に電解質膜用補強部材に用いる場合、3%以下であることが好ましい。
【0122】
(2)融点、ガラス転移温度
樹脂試料約10mgを封入したアルミパンを、DSC装置(NETZSCH社製、DSC214Polyma)にセットし、昇温速度5℃/分で300℃まで昇温し熱流を測定した。得られたチャートから、ベースラインシフトの変曲点をガラス転移温度、吸熱ピークのピークトップを融点として読み取った。
【0123】
(3)175℃における貯蔵弾性率
長手方向がそれぞれMD、及びTDとなるように幅4mm、長さ50mmの短冊状にサンプルを切り出し、動的粘弾性測定装置(株式会社ユービーエム製、Rheogel―E4000)を用い以下の条件で測定した。MD、TDの175℃における貯蔵弾性率のうち、大きな方の値を175℃における貯蔵弾性率とした。
【0124】
測定モード 引張
サンプル幅 4mm
チャック間距離 20mm
測定温度範囲 室温~200℃
昇温速度 2℃/分
周波数 1Hz
振幅 10μm
静荷重 100g
この貯蔵弾性率が80MPa以下であると、特に電解質膜用補強部材に用いる場合に高温機械特性が不十分となり易く、貯蔵弾性率が90MPa以上であることがより好ましい。
【0125】
(4)120℃100%RH耐久時間、2000時間後最大応力保持率
長手方向がMDとなるように幅15mm、長さ120mmの短冊状にサンプルを切り出し、槽内を加圧可能なPCT試験機(Pressure Cooker Test)中にサンプルを吊るし、温度120℃、相対湿度100%RHで150、200、300、500、1000、1500、2000時間保持した。
【0126】
初期(PCT未処理)と保持後のサンプルについて、以下の条件で引張試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAGS-X)を用いて引張試験を行い、破断までに得られる最大応力を求めた。最大応力、最大応力保持率は下式を用いて算出した。初期値に対する最大応力保持率が60%となる時間は、横軸保持時間、縦軸最大応力保持率のグラフプロットを3次関数多項式でフィッテングし、フィッテングカーブの最大応力保持率60%との交点から求めた。
【0127】
サンプル幅 15mm
チャック間距離 20mm
引張速度 200mm/分
最大応力=最大荷重÷引張試験前サンプル幅÷引張試験前サンプル厚み
最大応力保持率(%)=PCT試験後引張最大応力÷初期(PCT未処理)引張最大応力×100
この最大応力保持率が60%未満であると、特に電解質膜用補強部材に用いる場合に高温耐加水分解性が不十分となり易く、最大応力保持率が80%以上であることがより好ましい。
【0128】
(5)打ち抜き加工性(バリ高さ)
穴あけ治具(CARL社製、CP-5)を用いて、フィルムにΦ6.0mmの穴を10回空け、穴の端部について光学顕微鏡(ハイロックス社製、RH―2000)を用いて観察し、倍率35倍にて打ち抜き時に発生したバリの高さを測定した。10点の最大高さを打ち抜きバリ高さ(μm)とした。このバリの高さが300μmを超えると、打ち抜き加工を伴う用途で問題となり易く、150μm以下であると特に好ましい。
【0129】
(6)黒色異物頻度
ロール状に巻き取ったフィルムロールの全幅について、流れ方向長さ10mを目視観察した。観察は透過光下で行い、目視で判別できる長辺100μm以上の黒色異物数をカウントした。カウントした黒色異物数は単位面積当たりの数に換算し、黒色異物頻度(個/m2)とした。この黒色異物頻度が20個/m2を超えると、各種用途で問題となり易く、5個/m2以下であると特に好ましい。
【0130】
[製造例1](PMP1)
特開2022-171595号公報の製造例1、実施例4に準じて、次ぎのようにして、4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位100モル%、融点243℃の樹脂(PMP1)を製造した。
【0131】
<触媒の調製>
(遷移金属化合物(A)の製造)
国際公開第2014/050817号の合成例4に従い、(8-オクタメチルフルオレン-12'-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライド(遷移金属化合物(A))を合成した。
【0132】
(固体触媒成分の調製)
30℃下、充分に窒素置換した100mLの攪拌機を付けた三つ口フラスコ中に、窒素気流下で精製デカン32mL及び固体状ポリメチルアルミノキサン(東ソーファインケム社製)をアルミニウム原子換算で14.65mmol装入し、懸濁液とした。その懸濁液に、先に合成した遷移金属化合物(A)50mg(ジルコニウム原子換算で0.059mmol)を4.6mmol/Lのトルエン溶液とし、この溶液12.75mLを撹拌しながら加えた。1.5時間後攪拌を止め、得られた触媒成分をデカンテーション法によりデカン50mLで3回洗浄し、デカンに懸濁させてスラリー液(B)50mLを得た。この触媒成分においてZr担持率は100%であった。
【0133】
(予備重合触媒成分の調製)
上記で調製したスラリー液(B)に、窒素気流下、ジイソブチルアルミニウムハイドライドのデカン溶液(アルミニウム原子換算で2.0mmol/mL)を2.0mL、さらに4-メチル-1-ペンテンを7.5mL(5.0g)装入した。1.5時間後攪拌を止め、得られた予備重合触媒成分をデカンテーション法によりデカン50mLで3回洗浄した。この予備重合触媒成分をデカンに懸濁させて、デカンスラリー(C)50mLを得た。デカンスラリー(C)における予備重合触媒成分の濃度は20g/L、1.05mmol-Zr/Lであり、Zr回収率は90%であった。
【0134】
(重合体PMP1の製造)
室温、窒素気流下で、内容積1Lの攪拌機を付けたSUS製重合器に、精製デカンを425mL、ジイソブチルアルミニウムハイドライドのデカン溶液(アルミニウム原子換算で2.0mmol/mL)を0.5mL(1mol)装入した。次いで、先に調製した予備重合触媒成分のデカンスラリー溶液(C)をジルコニウム原子換算で0.0005mmol加え、水素を48NmL装入した。次いで、4-メチル-1-ペンテン250mLを2時間かけて重合器内へ連続的に一定の速度で装入した。この装入開始時点を重合開始とし、重合開始から30分かけて45℃へ昇温した後、45℃で4時間保持した。重合開始から1時間後、2時間後に水素をそれぞれ48NmL装入した。重合開始から4.5時間経過後、室温まで降温し、脱圧した後、ただちに白色固体を含む重合液を濾過して固体状物質を得た。この固体状物質を減圧下、80℃で8時間乾燥し、重合体PMP1を得た。収量は131gであった。
【0135】
[実施例1]
原料としてPMP1を95質量%と、環状オレフィン系樹脂COC1(ポリプラスチックス社製、TОPAS6017S、ガラス転移温度178℃)を5質量%とをブレンドしたのちに押出機に投入し、溶融温度280℃で溶融混錬した。フィルム製膜機のダイ~冷却ロール付近の配置が
図1Aに示す垂直落下タイプの製膜機を用い、ダイリップから溶融樹脂をスリット状に押出し、表面温度60℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させて未延伸フィルムを作製した。ダイリップ開度は1.0mm、
図1Aに示すエアーギャップ距離は80mm、冷却ロールの回転速度は5.6m/分とした。このフィルムをロール状に巻き取ることで、フィルムロールを得た。得られたフィルムの特性を表1にまとめた。
【0136】
[実施例2~9]
実施例1において、原料配合比、製膜条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1にまとめた。なお、表1において、ポリフェニレンエーテル系樹脂PPEは三菱エンジニアリングプラスチック社製、PX100F(ガラス転移温度204℃)である。
【0137】
[比較例1~10]
実施例1において、原料配合比を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2にまとめた。なお、表2において、ポリメチルペンテン系樹脂PMP2は三井化学社製、DX820(4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位97モル%、炭素数10のα-オレフィン3モル%、融点232℃)であり、環状オレフィン系樹脂COC2はポリプラスチックス社製、TОPAS6015S(ガラス転移温度158℃)である。
【0138】
[比較例11]
特許文献1の実施例1と同様に、ポリエチレン-2、6-ナフタレンジカルボキシレート単独重合体(PEN、融点271℃)を原料として用いた2軸延伸フィルム(東洋紡製、Q5100、厚み75μm)を用いた。フィルム製膜機のダイ~冷却ロール付近の配置は
図1Bに示す斜め落下タイプであり、ダイリップ開度、エアーギャップ距離、冷却ロール回転速度、冷却ロール温度は表1の通りであった。2軸延伸工程でのフィルム流れ方向の第1段目の延伸倍率は3.7倍、フィルム幅方向の第2段目の延伸倍率は3.8倍、2軸延伸工程後の熱固定温度は230℃であった。得られたフィルムの特性を表2にまとめた。
【0139】
【0140】
【0141】
表1から明らかなように、実施例1~9では、特定のポリメチルペンテン系樹脂とガラス転移温度が170℃以上の樹脂とを特定の質量比で使用するため、高温機械特性や高温耐加水分解性に優れるだけでなく、厚みの均一性や打ち抜き加工性が良好なフィルムが得られた。また、ポリフェニレンエーテル系樹脂PPEを単独で使用する場合と比較して、黒色異物頻度が大きく改善した。
【0142】
これに対して、表2に示すように、ポリメチルペンテン系樹脂の含有量が多すぎる比較例1~2では、175℃における貯蔵弾性率が不十分であった。ポリメチルペンテン系樹脂の含有量が少なすぎる比較例3では、高温耐加水分解性が不十分であった。
【0143】
また、融点が240℃未満のポリメチルペンテン系樹脂と、ガラス転移温度が170℃以上の環状オレフィン系樹脂とをブレンドした比較例4~6では、厚み斑の問題が生じた。ガラス転移温度が170℃未満の環状オレフィン系樹脂をブレンドした比較例7でも、同様に厚み斑が大きく、更に175℃における貯蔵弾性率が不十分であった。
【0144】
ガラス転移温度が170℃以上の環状オレフィン系樹脂を単独で用いた比較例8では、高温耐加水分解性が不十分であり、打ち抜き加工性も悪化した。また、ガラス転移温度が170℃以上のポリフェニレンエーテル系樹脂を単独で用いた比較例9では、黒色異物頻度が顕著に悪化した。
【0145】
一方、融点が240℃以上のポリメチルペンテン系樹脂と、ガラス転移温度が170℃未満の環状オレフィン系樹脂とをブレンドした比較例10では、175℃における貯蔵弾性率が不十分であった。また、2軸延伸PENフィルムを用いた比較例11では、120℃100%RH保持後の最大応力保持率が60%となる時間が短く、2000時間保持後にはフィルムが割れてしまい引張試験が出来なかった。
本発明のフィルムは、高温機械特性や高温耐加水分解性に優れるだけでなく、厚みの均一性や打ち抜き加工性が良好である。このため、各種の用途に好適に使用でき、特に固体高分子形燃料電池の電解質膜用補強部材に好適に使用することができる。従って、その産業上の利用可能性は高い。