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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098214
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】内燃機関用コネクティングロッド
(51)【国際特許分類】
   F16C 7/00 20060101AFI20240716BHJP
   F16C 9/04 20060101ALI20240716BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20240716BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20240716BHJP
   F01P 3/12 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
F16C7/00
F16C9/04
F16C17/02 Z
F16C33/10 Z
F01P3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001534
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 健太郎
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011AA09
3J011BA02
3J011DA02
3J011MA03
3J011MA04
3J011MA12
3J011SB01
3J033AA04
3J033AA05
3J033AB03
3J033BA03
3J033BA12
3J033GA03
3J033GA04
(57)【要約】
【課題】よりシンプルな構造にて、小端部の表面から小端部の孔の内周面を経由してブッシュへ伝達される熱量をより低減し、ブッシュの硫化腐食やピストンピンの焼付きを防止する、内燃機関用コネクティングロッドを提供する。
【解決手段】小端部10と大端部20とを有して小端部の孔11に円筒状のブッシュ31が嵌められており、ブッシュ31の外周面は、大端部の側の面である大端部側外周面31bと、大端部とは反対側の面である反大端部側外周面31aとを有し、孔11の内周面は、大端部側内周面11bと反大端部側内周面11aとを有し、反大端部側外周面と大端部側外周面と反大端部側内周面と大端部側内周面のうち、反大端部側外周面と反大端部側内周面の一方のみまたは両方のみが、小端部の表面から孔の内周面を経由してブッシュに伝達される熱量を低減する伝達熱量低減構造を有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方端の側にはピストンに接続される小端部を有し、他方端の側にはクランクシャフトに接続される大端部を有し、前記小端部に形成された孔に円筒状のブッシュが嵌められており、前記ブッシュにピストンピンが嵌入されることによって前記ピストンと接続されている、内燃機関用コネクティングロッドであって、
前記ブッシュは、前記孔の中心軸線回りに回転しないように固定されており、
前記ブッシュの外周面は、前記大端部の側の面である大端部側外周面と、前記大端部とは反対側の面である反大端部側外周面と、を有しており、
前記孔の内周面は、前記大端部側外周面に対向する大端部側内周面と、前記反大端部側外周面に対向する反大端部側内周面と、を有しており、
前記反大端部側外周面と前記大端部側外周面と前記反大端部側内周面と前記大端部側内周面のうち、前記反大端部側外周面と前記反大端部側内周面の一方のみまたは両方のみが、前記小端部の表面から前記孔の内周面を経由して前記ブッシュに伝達される熱量を低減する伝達熱量低減構造を有している、
内燃機関用コネクティングロッド。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用コネクティングロッドであって、
前記反大端部側外周面と前記反大端部側内周面のうち少なくとも一方の表面粗さが、前記大端部側外周面と前記大端部側内周面の表面粗さよりも粗くされていることで、前記伝達熱量低減構造が構成されている、
内燃機関用コネクティングロッド。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関用コネクティングロッドであって、
前記反大端部側外周面と前記反大端部側内周面のうち少なくとも一方に、複数の溝部が形成されていることで、前記伝達熱量低減構造が構成されている、
内燃機関用コネクティングロッド。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関用コネクティングロッドであって、
複数の前記溝部のそれぞれは、前記中心軸線に対して平行に形成されている、
内燃機関用コネクティングロッド。
【請求項5】
請求項1に記載の内燃機関用コネクティングロッドであって、
前記反大端部側外周面と前記反大端部側内周面のうち少なくとも一方に、遮熱膜が形成されていることで、前記伝達熱量低減構造が構成されている、
内燃機関用コネクティングロッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用コネクティングロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用コネクティングロッド(以下、「コネクティングロッド」と記載する)は、一方端の側にはピストンが接続される小端部を有し、他方端の側にはクランクシャフトに接続される大端部を有する。小端部には、貫通「孔」が形成されており、当該「孔」に円筒状のブッシュが嵌められており、ブッシュにピストンピンが嵌入されることによって、ピストンピンにてピストンが小端部に接続されている。なお近年の内燃機関では、アルミ製のピストンからスチール製のピストンへ変更されているものがある。
【0003】
スチール製のピストンはアルミ製のピストンと比較して小型化が図られており、ピストンの頭部(いわゆるクラウン部)からコネクティングロッドの小端部までの距離が短い。従って、燃焼室にて発生した熱量であって、ピストンからコネクティングロッドの小端部へ、そして小端部からブッシュへと伝達される熱量は、小型化されたスチール製のピストンのほうが、アルミ製ピストンよりも増量している。この増量した熱量により、ブッシュが硫化腐食したりピストンピンが焼付いたりする可能性がある。このため、ブッシュの冷却、あるいは、ピストンからコネクティングロッドの小端部を経由してブッシュへ伝達される熱量の低減、が望まれている。
【0004】
例えば特許文献1では、ピストンの頭部(クラウン部)の裏側におけるコネクティングロッドに対向する位置に複数の突起を設け、当該突起から小端部へオイルを滴下させて小端部及びブッシュの冷却を促進している。
【0005】
また特許文献2では、ピストンの頭部(クラウン部)の裏面やコネクティングロッドの小端部の外周面に遮熱膜を形成して、ピストンからコネクティングロッドの小端部を経由してブッシュへ伝達される熱量を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-166568号公報
【特許文献2】特開2018-031287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
内燃機関が高回転・高負荷で運転されている場合は、燃焼室にて発生する熱量がより増量する。ブッシュを積極的にオイルで冷却する引用文献1に記載の発明では、ピストンを冷却後のオイルを小端部に滴下させて、小端部及びブッシュの冷却を促進している。しかし、内燃機関が高回転・高負荷で運転されている場合では、ピストンがより高温となり、ピストンを冷却後のオイルもより高温となっているので、当該オイルを滴下しても充分な冷却効果を得ることができない可能性がある。
【0008】
また特許文献2に記載の発明では、ピストンのクラウン部の裏側やコネクティングロッドの小端部の外周面に遮熱膜を形成している。このため、高回転・高負荷の運転にて非常に高温となったピストンの熱に直接的に遮熱膜が晒されるので、遮熱膜の材質や遮熱膜の接合方法の選択肢が少なく、低コストで信頼性を確保することが困難である。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、よりシンプルな構造にて、小端部の表面から小端部の孔の内周面を経由してブッシュへ伝達される熱量をより低減し、ブッシュの硫化腐食やピストンピンの焼付きを防止する、内燃機関用コネクティングロッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、第1の発明は、一方端の側にはピストンに接続される小端部を有し、他方端の側にはクランクシャフトに接続される大端部を有し、前記小端部に形成された孔に円筒状のブッシュが嵌められており、前記ブッシュにピストンピンが嵌入されることによって前記ピストンと接続されている、内燃機関用コネクティングロッドであって、前記ブッシュは、前記孔の中心軸線回りに回転しないように固定されている。前記ブッシュの外周面は、前記大端部の側の面である大端部側外周面と、前記大端部とは反対側の面である反大端部側外周面と、を有しており、前記孔の内周面は、前記大端部側外周面に対向する大端部側内周面と、前記反大端部側外周面に対向する反大端部側内周面と、を有している。そして、前記反大端部側外周面と前記大端部側外周面と前記反大端部側内周面と前記大端部側内周面のうち、前記反大端部側外周面と前記反大端部側内周面の一方のみまたは両方のみが、前記小端部の表面から前記孔の内周面を経由して前記ブッシュに伝達される熱量を低減する伝達熱量低減構造を有している、内燃機関用コネクティングロッドである。
【0011】
次に、第2の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関用コネクティングロッドであって、前記反大端部側外周面と前記反大端部側内周面のうち少なくとも一方の表面粗さが、前記大端部側外周面と前記大端部側内周面の表面粗さよりも粗くされていることで、前記伝達熱量低減構造が構成されている、内燃機関用コネクティングロッドである。
【0012】
次に、第3の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関用コネクティングロッドであって、前記反大端部側外周面と前記反大端部側内周面のうち少なくとも一方に、複数の溝部が形成されていることで、前記伝達熱量低減構造が構成されている、内燃機関用コネクティングロッドである。
【0013】
次に、第4の発明は、上記第3の発明に係る内燃機関用コネクティングロッドであって、複数の前記溝部のそれぞれは、前記中心軸線に対して平行に形成されている、内燃機関用コネクティングロッドである。
【0014】
次に、第5の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関用コネクティングロッドであって、前記反大端部側外周面と前記反大端部側内周面のうち少なくとも一方に、遮熱膜が形成されていることで、前記伝達熱量低減構造が構成されている、内燃機関用コネクティングロッドである。
【発明の効果】
【0015】
ピストンから小端部へ伝達される熱量は、ピストンのクラウン裏面に近くて大端部とは反対側の小端部ほうが、大端部の側の小端部よりも、はるかに多い。第1の発明によれば、伝達熱量低減構造を、孔の内周面の全体やブッシュの外周面の全体に形成するのでなく、必要な領域(反大端部側外周面と反大端部側内周面との一方または両方)にのみ形成するので無駄が無く、よりシンプルな構造とすることができる。また、孔の大端部側内周面と、ブッシュの大端部側外周面は、内燃機関の燃焼工程の際にピストンから押し付けられて最も大きな力を受けるが、これらの面には伝達熱量低減構造が設けられていないので、必要な剛性を確保しておくことができる。
【0016】
第2の発明によれば、反大端部側外周面と反大端部側内周面のうち少なくとも一方の表面粗さが、大端部側外周面と大端部側内周面の表面粗さよりも粗くされている。従って、対向している反大端部側外周面と反大端部側内周面との密着度及び接触面積のほうが、対向している大端部側外周面と大端部側内周面との密着度及び接触面積よりも小さく、伝達熱量が低減される。また、シンプルな構造で伝達熱量低減構造を実現することができる。
【0017】
第3の発明によれば、反大端部側外周面と反大端部側内周面のうち少なくとも一方に、複数の溝部が形成されている。従って、対向している反大端部側外周面と反大端部側内周面との接触面積のほうが、対向している大端部側外周面と大端部側内周面との接触面積よりも小さく、伝達熱量が低減される。また、シンプルな構造で伝達熱量低減構造を実現することができる。
【0018】
第4の発明によれば、反大端部側外周面と反大端部側内周面のうち少なくとも一方に形成する溝部を、比較的容易に形成することができる。
【0019】
第5の発明によれば、反大端部側外周面と反大端部側内周面のうち少なくとも一方に遮熱膜が形成されている。従って、反大端部側内周面から反大端部側外周面へと伝達される熱量が低減される。また、シンプルな構造で伝達熱量低減構造を実現することができる。また、内燃機関が高回転・高負荷で運転されている場合、ピストンのクラウン裏面の温度及びコネクティングロッドの小端部の外周面の温度と比較して、コネクティングロッドの小端部の孔の内周面及びブッシュの外周面の温度のほうが低いので、遮熱膜の材質や遮熱膜の接合方法の選択肢がより多くなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】小端部にピストンが接続された内燃機関用コネクティングロッドの外観を説明する図であり、ピストンを断面で示した図である。
図2】内燃機関用コネクティングロッドの構造を説明する斜視図である。
図3】内燃機関用コネクティングロッドの小端部の周囲の拡大図であり、ピストンから伝達される熱を説明する図である。
図4】第1の実施の形態において、円筒状に成形される前の平板状に展開されているブッシュを説明する図である。
図5】第1の実施の形態において、円筒状に成形されたブッシュの外観を説明する斜視図である。
図6】第1の実施の形態において、円筒状に成形されたブッシュの外観を説明する正面図である。
図7】第1の実施の形態において、小端部の孔に挿通されたブッシュへ伝達される熱量が低減される様子を説明する図である。
図8】第2の実施の形態において、円筒状に成形される前の平板状に展開されているブッシュを説明する図である。
図9】第2の実施の形態において、円筒状に成形されたブッシュの外観を説明する斜視図である。
図10】第2の実施の形態において、円筒状に成形されたブッシュの外観を説明する正面図である。
図11】第2の実施の形態において、小端部の孔に挿通されたブッシュへ伝達される熱量が低減される様子を説明する図である。
図12】第3の実施の形態において、円筒状に成形される前の平板状に展開されているブッシュを説明する図である。
図13】第3の実施の形態において、円筒状に成形されたブッシュの外観を説明する斜視図である。
図14】第3の実施の形態において、円筒状に成形されたブッシュの外観を説明する正面図である。
図15】第3の実施の形態において、小端部の孔に挿通されたブッシュへ伝達される熱量が低減される様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の内燃機関用コネクティングロッド(以下、「コネクティングロッド1」と記載する)の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、図中にX軸、Y軸、Z軸が記載されている場合、X軸とY軸とZ軸は互いに直交しており、Z軸方向はコネクティングロッド1の大端部から小端部へ向かう方向を示し、X軸方向は小端部の孔の中心軸線の延びる方向を示し、Y軸方向はZ軸方向とX軸方向の双方に直交する方向を示している。
【0022】
<コネクティングロッド1の外観と構造(図1図2)>
図1は、ピストン50が小端部10に接続されたコネクティングロッド1(内燃機関用コネクティングロッド)の外観を示しており、ピストン50、ピストンピン60、クランクシャフト70を断面にて示している。コネクティングロッド1は、一方端の側にはピストン50に接続される小端部10を有し、他方端の側にはクランクシャフト70に接続される大端部20を有している。本実施の形態にて説明するコネクティングロッド1は、図1に示す小端部10と、大端部20と、小端部10の孔11に嵌められたブッシュ31と、を有している。
【0023】
小端部10には、貫通孔である孔11が形成されており、孔11には円筒状のブッシュ31が嵌められており、ブッシュ31にピストンピン60が嵌入されることによってピストン50と接続されている。ブッシュの種類としては、削り出した一層構造のソリッドブッシュや、2枚の板材を巻き成形した二層構造の巻きブッシュ等があるが、本実施の形態の説明では巻きブッシュを例として説明する。
【0024】
図1及び図2に示すように、ブッシュ31は、円筒形状とされており、異なる材質の外ブッシュ31xと内ブッシュ31yの二層で構成されている。ブッシュ31は、孔11に、例えば締まりばめによる圧入にて嵌め込まれて、小端部10からの突出部が切削されており、孔11の中心軸線11x回りに回転しないように固定されている。またブッシュ31は、ピストンピン60を挿通するためのブッシュ孔38(図2参照)を有している。
【0025】
ピストン50は、燃焼室の側となるクラウン部51と、クラウン部51の外周部を燃焼室とは反対の側に延ばしたスカート部52とを有している。ピストン50は、ブッシュ31に挿通されたピストンピン60を介してコネクティングロッド1の小端部10に接続されている。
【0026】
図1及び図2に示すように、大端部20は、クランクシャフト70(図1参照)に接続されるクランク孔21が形成されており、半割状とされた大端半割部22を有している。クランク孔21の内周面には、半割状のメタル軸受23a、23bが嵌められてクランクシャフト70(図1参照)に接続され、締結部材24a、24bにて大端半割部22がコネクティングロッド1と一体化されている。
【0027】
<ピストン50から小端部10へ伝達される熱(図3)>
図3は、図1における小端部10の周囲の拡大図であり、ピストン50から小端部10へ伝達される熱Q1のイメージを示している。ピストン50は、クラウン部51とスカート部52を有し、クラウン部51は小端部10に対向するクラウン裏面51aを有し、スカート部52は小端部10に対向するスカート裏面52aを有している。
【0028】
ピストン50のクラウン部51は、内燃機関の燃焼室に対向して燃焼室の一部を有している。内燃機関の燃焼工程によって燃焼室内で発生した熱は、シリンダ壁やピストン50のクラウン部51等に伝達され、クラウン部51に伝達された熱はクラウン部51の裏面であるクラウン裏面51aへと伝達される。そしてクラウン裏面51aへ伝達された熱は、クラウン裏面51aから放射され、放射された熱Q1は小端部10へ伝達される。スチール製のピストンの場合、アルミ製のピストンと比較して小型化されており、クラウン裏面51aから小端部10までの距離がより近く、より多くの熱がクラウン裏面51aから小端部10へ伝達される。
【0029】
図3に示すように、小端部10を、大端部20(図1参照)の側の大端部側領域10bと、大端部20(図1参照)とは反対の側の反大端部側領域10aとに分けた場合、クラウン裏面51aから放射された熱Q1のほとんどが反大端部側領域10aに伝達される。従って、小端部10は、大端部側領域10bと比較して、反大端部側領域10aのほうが非常に高温となる。小端部10に伝達された熱がそのままブッシュ31やピストンピン60に伝達されると、ブッシュ31では硫化腐食が発生したり、ピストンピン60に焼付きが発生したりする可能性があるので好ましくない。
【0030】
なお図3に示すように、ブッシュ31の外周面は、大端部20(図1参照)の側の大端部側外周面31b(大端部側領域10bのブッシュ31の外周面)と、大端部20(図1参照)とは反対の側の反大端部側外周面31a(反大端部側領域10aのブッシュ31の外周面)とを有している。また小端部10の孔11の内周面は、大端部側外周面31bに対向している大端部側内周面11b(大端部側領域10bの孔11の内周面)と、反大端部側外周面31aに対向している反大端部側内周面11a(反大端部側領域10aの孔11の内周面)とを有している。
【0031】
本実施の形態のコネクティングロッド1は、小端部10の孔11からブッシュ31へ伝達される熱量を低減する伝達熱量低減構造を備えている。しかも、ブッシュ31の反大端部側外周面31aと大端部側外周面31bと、孔11の反大端部側内周面11aと大端部側内周面11bのうち、特に伝達される熱が多い反大端部側外周面31aと反大端部側内周面11aの一方のみ、または両方のみ、に伝達熱量低減構造を備えている。
【0032】
以下に説明する第1~第3の実施の形態にて、例としてブッシュ31~33の反大端部側外周面31a~33aのみに伝達熱量低減構造を備えた例について説明する。なお、孔11の反大端部側内周面11aに伝達熱量低減構造を備えた場合も同様であり、反大端部側内周面11aに伝達熱量低減構造を備えた例については説明を省略する。
【0033】
<第1の実施の形態の伝達熱量低減構造(図4図7)>
次に図4図7を用いて、第1の実施の形態のブッシュ31の反大端部側外周面31aに設けられた伝達熱量低減構造について説明する。図4は、ブッシュ31を構成する外ブッシュ31x、内ブッシュ31yを円筒状に巻き成形する前の平板状の展開状態を示している。また図4において紙面手前側が、外ブッシュ31xの外周面の側を示し、内ブッシュ31yの外周面の側を示している。
【0034】
内ブッシュ31yは図4に示す平板状の展開状態から巻き成形されて凸部31sが凹部31tに嵌め込まれて円筒状とされる(図5図7参照)。内ブッシュ31yにおける反大端部側領域10aのエリアは、巻き成形されて外ブッシュ31xとともに孔11(図2参照)に嵌め込まれた場合、外ブッシュ31xの反大端部側領域10aと接する部分となる(図5図7参照)。内ブッシュ31yにおける大端部側領域10bのエリアは、巻き成形されて外ブッシュ31xとともに孔11(図2参照)に嵌め込まれた場合、外ブッシュ31xの大端部側領域10bと接する部分となる(図5図7参照)。また内ブッシュ31yの反大端部側領域10aのエリアにはオイル孔31gが形成されており、当該オイル孔31gを通るように内ブッシュ31yの内周面にはオイル溝31mが形成されている。
【0035】
外ブッシュ31xは図4に示す平板状の展開状態から巻き成形されて凸部31vが凹部31wに嵌め込まれて円筒状とされる(図5図7参照)。外ブッシュ31xにおける反大端部側領域10aのエリアは巻き成形されて内ブッシュ31yとともに孔11(図2参照)に嵌め込まれた場合、外周面は反大端部側外周面31a(図2図3図5図7参照)となる。また外ブッシュ31xにおける大端部側領域10bのエリアは巻き成形されて内ブッシュ31yとともに孔11(図2参照)に嵌め込まれた場合、外周面は大端部側外周面31b(図2図3図5図7参照)となる。
【0036】
また外ブッシュ31xの反大端部側領域10aのエリアにはオイル孔31hが形成されている。図3に示すように、コネクティングロッド1の小端部10に形成されたオイル孔10hと、外ブッシュ31xに形成されたオイル孔31hと、内ブッシュ31yに形成されたオイル孔31gと、が重なるように、外ブッシュ31xと内ブッシュ31yが重ねられて孔11に嵌め込まれる。そしてピストン50のクラウン裏面51aから滴下されたオイルの一部が、オイル孔10h、オイル孔31h、オイル孔31gを通ってピストンピン60の外周面に導かれる。
【0037】
外ブッシュ31xの反大端部側外周面31a(反大端部側外周面31aと反大端部側内周面11a(図7参照)との少なくとも一方)の表面粗さは、外ブッシュ31xの大端部側外周面31bの表面粗さ及び孔11の大端部側内周面11bの表面粗さよりも粗くされている(図4図7参照)ことで、伝達熱量低減構造が構成されている。例えば、大端部側外周面31bの表面粗さ及び大端部側内周面11bの表面粗さは、凹凸の高低差が約2[μm]以下とされており、反大端部側外周面31aの表面粗さは、凹凸の高低差が約10~100[μm]程度とされている。つまり、反大端部側外周面31a、反大端部側内周面11a、大端部側外周面31b、大端部側内周面11bのうち、反大端部側外周面31aと反大端部側内周面11aの一方のみ、または両方のみ、に伝達熱量低減構造が構成されている。なお、表面処理加工は、円筒状に巻き成形する前の平板状の図4の状態で行ってもよいし、円筒状に巻き成形した後に行ってもよい。
【0038】
この伝達熱量低減構造によって、図7に示すように、孔11にブッシュ31が嵌め込まれた場合、反大端部側外周面31aと反大端部側内周面11aとの間の微細な凹凸により微細な隙間が所々に形成されて、反大端部側外周面31aと反大端部側内周面11aとの接触面積が低減される。これにより、図3に示すようにピストン50のクラウン裏面51aから放射されて小端部10の表面に伝達された熱Q1は、ブッシュ31に伝達される際、図7に示すように、反大端部側内周面11aと反大端部側外周面31aとの接触面積が低減されていることで、減量された熱Q2となって伝達される。
【0039】
<第2の実施の形態の伝達熱量低減構造(図8図11)>
次に図8図11を用いて、第2の実施の形態のブッシュ32(ブッシュ31の代わりとなるブッシュ32)の反大端部側外周面32aに設けられた伝達熱量低減構造について説明する。図8は、ブッシュ32を構成する外ブッシュ32x、内ブッシュ32yを円筒状に巻き成形する前の平板状の展開状態を示している。また図8において紙面手前側が、外ブッシュ32xの外周面の側を示し、内ブッシュ32yの外周面の側を示している。
【0040】
図8に示す内ブッシュ32yは、図4に示す内ブッシュ31yと同様であるので、内ブッシュ32yについては説明を省略する。
【0041】
外ブッシュ32xは図8に示す平板状の展開状態から巻き成形されて凸部32vが凹部32wに嵌め込まれて円筒状とされる(図9図11参照)。外ブッシュ32xにおける反大端部側領域10aのエリアは巻き成形されて内ブッシュ32yとともに孔11(図2参照)に嵌め込まれた場合、外周面は反大端部側外周面32a(図9図11参照)となる。また外ブッシュ32xにおける大端部側領域10bのエリアは巻き成形されて内ブッシュ32yとともに孔11(図2参照)に嵌め込まれた場合、外周面は大端部側外周面32b(図9図11参照)となる。
【0042】
また外ブッシュ32xの反大端部側領域10aのエリアにはオイル孔32hが形成されているが、第1の実施の形態のオイル孔31hと同様であるので、オイル孔32hの説明を省略する。
【0043】
外ブッシュ32xの反大端部側外周面32a(反大端部側外周面32aと反大端部側内周面11a(図11参照)との少なくとも一方)には、複数の溝部Mが形成されている(図8図11参照)ことで、伝達熱量低減構造が構成されている。例えば、それぞれの溝部Mの、溝幅W1は約2[mm]程度であり、溝深さは約10~200[μm]程度であり、隣り合う溝の間隔(溝間隔D1)は約2[mm]程度である。またそれぞれの溝部Mは、図9に示すように、孔11の中心軸線11xに対して平行に形成されているが、これに限定されるものではない。例えば、溝部Mが、反大端部側外周面32aに、周方向に沿って形成されていてもよいし、斜めに形成されていてもよいし、交差するように形成されていてもよい。なお、溝部Mを形成する加工は、円筒状に巻き成形する前の平板状の図8の状態で行ってもよいし、円筒状に巻き成形した後に行ってもよい。また溝部Mは、オイル溝としての機能も果たす。
【0044】
この伝達熱量低減構造によって、図11に示すように、孔11にブッシュ32が嵌め込まれた場合、反大端部側外周面32aと反大端部側内周面11aとの間の溝部Mにより隙間が所々に形成されて、反大端部側外周面32aと反大端部側内周面11aとの接触面積が低減される。これにより、図3に示すようにピストン50のクラウン裏面51aから放射されて小端部10の表面に伝達された熱Q1は、ブッシュ32に伝達される際、図11に示すように、反大端部側内周面11aと反大端部側外周面32aとの接触面積が低減されていることで、減量された熱Q2となって伝達される。
【0045】
<第3の実施の形態の伝達熱量低減構造(図12図15)>
次に図12図15を用いて、第3の実施の形態のブッシュ33(ブッシュ31の代わりとなるブッシュ33)の反大端部側外周面33aに設けられた伝達熱量低減構造について説明する。図12は、ブッシュ33を構成する外ブッシュ33x、内ブッシュ33yを円筒状に巻き成形する前の平板状の展開状態を示している。また図12において紙面手前側が、外ブッシュ33xの外周面の側を示し、内ブッシュ33yの外周面の側を示している。
【0046】
図12に示す内ブッシュ33yは、図4に示す内ブッシュ31yと同様であるので、内ブッシュ33yについては説明を省略する。
【0047】
外ブッシュ33xは図12に示す平板状の展開状態から巻き成形されて凸部33vが凹部33wに嵌め込まれて円筒状とされる(図13図15参照)。外ブッシュ33xにおける反大端部側領域10aのエリアは巻き成形されて内ブッシュ33yとともに孔11(図2参照)に嵌め込まれた場合、外周面は反大端部側外周面33a(図13図15参照)となる。また外ブッシュ33xにおける大端部側領域10bのエリアは巻き成形されて内ブッシュ33yとともに孔11(図2参照)に嵌め込まれた場合、外周面は大端部側外周面32b(図13図15参照)となる。
【0048】
また外ブッシュ33xの反大端部側領域10aのエリアにはオイル孔33hが形成されているが、第1の実施の形態のオイル孔31hと同様であるので、オイル孔33hの説明を省略する。
【0049】
外ブッシュ33xの反大端部側外周面33a(反大端部側外周面33aと反大端部側内周面11a(図15参照)との少なくとも一方)には、遮熱膜Sが形成されている(図12図15参照)ことで、伝達熱量低減構造が構成されている。例えば、遮熱膜Sは、接着剤にて接着、あるいは蒸着にて、反大端部側外周面33a(反大端部側外周面33aと反大端部側内周面11a(図15参照)との少なくとも一方)に貼り付けられている。なお、遮熱膜Sの形成は、円筒状に巻き成形する前の平板状の図12の状態で行ってもよいし、円筒状に巻き成形した後に行ってもよい。
【0050】
この伝達熱量低減構造によって、図15に示すように、孔11にブッシュ32が嵌め込まれた場合、反大端部側外周面33aと反大端部側内周面11aとの間に遮熱膜Sが存在する。この遮熱膜Sにより、図3に示すようにピストン50のクラウン裏面51aから放射されて小端部10の表面に伝達された熱Q1は、図15に示すように、反大端部側内周面11aから反大端部側外周面33aへ伝達される際に低減され、減量された熱Q2となって伝達される。
【0051】
<効果>
ピストン50からコネクティングロッド1の小端部10に伝達される熱のほとんどは、クラウン裏面51aから小端部10における大端部とは反対側に伝達される(図3参照)。第1~第3の実施の形態にて説明した伝達熱量低減構造は、非常にシンプルな構成にて、ピストン50のクラウン裏面51aからコネクティングロッド1の小端部10へ伝達される熱量のうち、孔11の反大端部側内周面11aからブッシュ31~33の反大端部側外周面31a~33aへ伝達される熱量を低減することができる。これにより、小端部10の表面から孔11の内周面を経由してブッシュ31~33へ伝達される熱量をより低減し、ブッシュ31~33の硫化腐食やピストンピン60の焼付きを防止することができる。
【0052】
内燃機関が高回転・高負荷で運転されている場合、クラウン裏面から滴下されるオイルは非常に高温となっているので、このオイルを冷却用として用いた場合、冷却どころか逆に加熱してしまう可能性がある。しかし、第1~第3の実施の形態にて説明した伝達熱量低減構造では、オイルを用いた冷却ではなく、伝達される熱量を低減する構造であるので、内燃機関が高回転・高負荷で運転されている場合であっても、小端部10の表面から孔11の内周面を経由してブッシュ31~33へ伝達される熱量を適切に低減することができる。
【0053】
さらに、上述した伝達熱量低減構造を、反大端部側外周面31a~33aと反大端部側内周面11aの一方のみ、または両方のみに備えており、大端部側外周面31b~33bと大端部側内周面11bには備えていないので、よりシンプルな構造であるとともに、大端部側外周面31b~33bと大端部側内周面11bとの密着性がよく、ブッシュの位置ズレが抑制され、より温度の低い大端部側からの放熱性もよい。また、大端部側内周面と大端部側外周面は、内燃機関の燃焼工程の際にピストンから押し付けられて最も大きな力を受けるが、これらの面には伝達熱量低減構造が設けられていないので、必要な剛性を確保しておくことができる。
【0054】
また、上述した伝達熱量低減構造は、現状の加工工程で比較的容易にできる加工で実現可能であり、かつ、比較的低コストで実現できる。
【0055】
また第3の実施の形態では、内燃機関が高回転・高負荷で運転されている場合、ピストンのクラウン裏面の温度及びコネクティングロッドの小端部の外周面の温度と比較して、コネクティングロッドの小端部の孔の内周面及びブッシュの外周面の温度のほうが低いので、遮熱膜の材質や遮熱膜の接合方法の選択肢がより多くなり、より低コストで、より容易に形成できる遮熱膜を選択できる。
【0056】
本発明のコネクティングロッド1(内燃機関用コネクティングロッド)は、本実施の形態で説明した構成、構造、形状、外観等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
【0057】
本実施の形態の説明では、ブッシュの反大端部側外周面のみに伝達熱量低減構造を備える例を説明したが、ブッシュの反大端部側外周面と大端部側外周面と、孔の反大端部側内周面と大端部側内周面のうち、反大端部側外周面と反大端部側内周面の一方のみ、または両方のみ、に伝達熱量低減構造を備えていればよい。
【0058】
本実施の形態の説明では、それぞれ異なる材質からなる外ブッシュと内ブッシュの二層構造の巻きブッシュを例として説明したが、削り出しの一層構造のソリッドブッシュに、伝達熱量低減構造を適用することも可能である。また、ブッシュの材質については特に限定しない。
【0059】
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0060】
1 コネクティングロッド(内燃機関用コネクティングロッド)
10 小端部
10a 反大端部側領域
10b 大端部側領域
10h オイル孔
11 孔
11a 反大端部側内周面
11b 大端部側内周面
11x 中心軸線
20 大端部
21 クランク孔
22 大端半割部
31、32、33 ブッシュ
31a、32a、33a 反大端部側外周面
31b、32b、33b 大端部側外周面
31g、32g、33g オイル孔
31h、32h、33h オイル孔
31x、32x、33x 外ブッシュ
31y、32y、33y 内ブッシュ
38 ブッシュ孔
50 ピストン
51 クラウン部
51a クラウン裏面
52 スカート部
52a スカート裏面
60 ピストンピン
70 クランクシャフト
D1 溝間隔
M 溝部
W1 溝幅
Q1、Q2 熱
S 遮熱膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15