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特開2024-98216眼科装置、眼科装置の制御方法、眼科撮影方法、プログラム、及び記録媒体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098216
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】眼科装置、眼科装置の制御方法、眼科撮影方法、プログラム、及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/14 20060101AFI20240716BHJP
   A61B 3/12 20060101ALI20240716BHJP
   G03B 17/48 20210101ALI20240716BHJP
   G02B 7/28 20210101ALI20240716BHJP
【FI】
A61B3/14
A61B3/12
G03B17/48
G02B7/28 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001537
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】山部 将
(72)【発明者】
【氏名】藤井 宏太
(72)【発明者】
【氏名】松井 拓也
【テーマコード(参考)】
2H104
2H151
4C316
【Fターム(参考)】
2H104AA05
2H151EB04
4C316AA09
4C316AA13
4C316AB11
4C316AB12
4C316AB16
4C316FA08
4C316FB05
4C316FY01
4C316FY02
4C316FY04
4C316FY08
4C316FY09
4C316FZ01
(57)【要約】
【課題】スリットスキャン型の眼科装置によって取得される画像の輝度ムラを解消する。
【解決手段】実施形態の眼科装置は、記憶部と撮影部とプロセッサとを含む。記憶部には、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報が記憶される。撮影部は、撮影ユニットとフォーカス調整ユニットとを含む。撮影ユニットは、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う(スリットスキャン)。フォーカス調整ユニットは、撮影ユニットのフォーカス調整を行う。プロセッサは、フォーカス調整によって取得された被検眼の視度データと補正情報とに基づいて撮影部の制御を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を予め記憶する記憶部と、
被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う撮影ユニットと、前記撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含む撮影部と、
前記フォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影部の制御を実行するプロセッサと
を含む、眼科装置。
【請求項2】
前記撮影ユニットは、前記被検眼の前記眼底における複数の領域を順次に撮影し、
前記プロセッサは、前記複数の領域に対する前記スリット光の投射強度が等しくなるように前記撮影部の制御を実行する、
請求項1の眼科装置。
【請求項3】
前記撮影ユニットは、光源を含み、
前記プロセッサは、前記光源の制御を実行する、
請求項2の眼科装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記フォーカス調整ユニットの制御を実行する、
請求項2又は3の眼科装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記視度データと前記補正情報とに基づいて撮影条件を決定する条件決定部と、
前記撮影条件に基づいて前記撮影部の制御を実行する撮影制御部と
を含む、
請求項1の眼科装置。
【請求項6】
前記撮影ユニットは、前記被検眼の前記眼底における複数の領域を順次に撮影し、
前記条件決定部は、前記複数の領域に対する前記スリット光の投射強度が等しくなるように前記撮影条件を決定する、
請求項5の眼科装置。
【請求項7】
前記条件決定部は、前記視度データと前記複数の領域のそれぞれとの組み合わせに対応する前記視度値と前記眼底位置との組み合わせを前記補正情報から特定することによって前記複数の補正値から補正値群を選択し、
前記撮影条件は、前記補正値群を含む、
請求項6の眼科装置。
【請求項8】
前記撮影ユニットは、光源を含み、
前記条件決定部は、前記撮影条件として光源制御条件を決定し、
前記撮影制御部は、前記複数の領域の順次的な撮影のための前記撮影ユニットの制御と並行して前記光源制御条件に基づく前記光源の制御を実行する、
請求項6の眼科装置。
【請求項9】
前記条件決定部は、前記光源制御条件として発光強度制御条件を決定し、
前記撮影制御部は、前記複数の領域の順次的な撮影のための前記撮影ユニットの制御と並行して前記発光強度制御条件に基づき前記光源の発光強度を変更する、
請求項8の眼科装置。
【請求項10】
前記補正情報に記録された前記複数の補正値は、前記光源の発光強度に関する複数の発光強度補正値を含み、
前記条件決定部は、前記視度データと前記複数の領域のそれぞれとの組み合わせに対応する前記視度値と前記眼底位置との組み合わせを前記補正情報から特定することによって前記複数の発光強度補正値から第1の補正値群を選択し、
前記発光強度制御条件は、前記第1の補正値群を含む、
請求項9の眼科装置。
【請求項11】
前記条件決定部は、前記撮影条件としてフォーカス制御条件を決定し、
前記撮影制御部は、前記複数の領域の順次的な撮影のための前記撮影ユニットの制御と並行して前記フォーカス制御条件に基づく前記フォーカス調整ユニットの制御を実行する、
請求項6の眼科装置。
【請求項12】
前記撮影ユニットは、
前記被検眼の前記眼底に前記スリット光を投射する第1の光学系と、
撮像装置と、
前記第1の光学系により前記被検眼の前記眼底に投射された前記スリット光の戻り光を前記撮像装置に導く第2の光学系と
を含み、
前記フォーカス調整ユニットは、
前記第1の光学系の焦点位置を調整するための第1のフォーカス調整ユニットと、
前記第2の光学系の焦点位置を調整するための第2のフォーカス調整ユニットと
を含み、
前記条件決定部は、前記フォーカス制御条件として焦点位置制御条件を決定し、
前記撮影制御部は、前記複数の領域の順次的な撮影のための前記撮影ユニットの制御と並行して、前記第1の光学系の焦点位置を移動するための前記第1のフォーカス調整ユニットの制御と前記第2の光学系の焦点位置を移動するための前記第2のフォーカス調整ユニットの制御とを前記焦点位置制御条件に基づき実行する、
請求項11の眼科装置。
【請求項13】
前記補正情報に記録された前記複数の補正値は、前記第1の光学系の焦点位置及び前記第2の光学系の焦点位置に関する複数の焦点位置補正値を含み、
前記条件決定部は、前記視度データと前記複数の領域のそれぞれとの組み合わせに対応する前記視度値と前記眼底位置との組み合わせを前記補正情報から特定することによって前記複数の焦点位置補正値から第2の補正値群を選択し、
前記焦点位置制御条件は、前記第2の補正値群を含む、
請求項12の眼科装置。
【請求項14】
前記撮影ユニットは、光源を含み、
前記条件決定部は、前記撮影条件として光源制御条件及びフォーカス制御条件の双方を決定し、
前記撮影制御部は、前記複数の領域の順次的な撮影のための前記撮影ユニットの制御と並行して、前記光源制御条件に基づく前記光源の制御と前記フォーカス制御条件に基づく前記フォーカス調整ユニットの制御との双方を実行する、
請求項6の眼科装置。
【請求項15】
被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う撮影ユニットと前記撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含む撮影部と、プロセッサと、メモリとを含む眼科装置を制御する方法であって、
前記プロセッサに、
視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を前記メモリに記憶するステップと、
前記撮影ユニットのフォーカス調整を実行するように前記フォーカス調整ユニットを制御するステップと、
前記フォーカス調整ユニットにより実行された前記フォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影部を制御するステップと
を実行させる、
方法。
【請求項16】
被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う方法であって、
視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を準備し、
前記被検眼の前記眼底に対するフォーカス調整を実行し、
前記フォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影を行う、
方法。
【請求項17】
被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う撮影ユニットと前記撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含む撮影部と、プロセッサと、メモリとを含む眼科装置に実行させるためのプログラムであって、
前記プログラムは、前記プロセッサに、
視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を前記メモリに記憶するステップと、
前記撮影ユニットのフォーカス調整を実行するように前記フォーカス調整ユニットを制御するステップと、
前記フォーカス調整ユニットにより実行された前記フォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影部を制御するステップと
を実行させる、
プログラム。
【請求項18】
被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う撮影ユニットと前記撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含む撮影部を備えた眼科装置を制御するために、プロセッサとメモリとを含むコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記プログラムは、前記プロセッサに、
視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を前記メモリに記憶するステップと、
前記フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて、前記撮影部を制御するための命令を生成するステップと、
生成された前記命令を前記眼科装置に送るための制御を行うステップと
を実行させる、
プログラム。
【請求項19】
被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行うための処理を、プロセッサとメモリとを含むコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記プログラムは、前記プロセッサに、
視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を前記メモリに記憶するステップと、
前記被検眼の前記眼底に対するフォーカス調整を行うための制御を行うステップと、
前記フォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影のための制御を行うステップと
を実行させる、
プログラム。
【請求項20】
請求項17~19のいずれかのプログラムが記録された、コンピュータ可読な非一時的記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科装置、眼科装置の制御方法、眼科撮影方法、プログラム、及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の眼底を撮影するための眼科装置としては、眼底カメラや走査型レーザー検眼鏡(SLO)が知られている。特許文献1には、スリット光を用いて眼底を照明し、その戻り光をローリングシャッター型の撮像装置(CMOS)で検出することによって眼底画像を生成するように構成された眼科装置が開示されている。この眼科装置は、眼底に対するスリット光の投射位置の移動と、撮像装置による戻り光の検出(撮影)とを同期的に繰り返し実行して収集された複数の画像を合成することによって、簡素な構成で眼底画像を取得することが可能である。このような撮影手法(モダリティ)はスリットスキャンなどと呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7831106号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
公知のスリットスキャン型の眼科装置が有する問題の1つとして次のものがある。
【0005】
一般的に、眼底の内壁の形状は凹球面状(椀状)である。そのため、被検眼が正視眼でない限り、光学系のピントを眼底の中心部に合わせても周辺部ではピントズレが生じ、逆に周辺部にピントを合わせても中心部ではピントズレが生じてしまう。
【0006】
公知のスリットスキャン型の眼科装置においては、眼底の中心部にピントを合わせて撮影を行う場合、眼底の中心部には十分に収束したスリット光が投射される一方で、周辺部には十分に収束していないスリット光が投射されるため、中心部の画像は相対的に明るく描写され、周辺部の画像は相対的に暗く描写される。これらを合成して得られる画像は明るさが不均一なものになってしまう。すなわち、公知のスリットスキャン型の眼科装置では、輝度ムラのある画像が取得されてしまう。
【0007】
逆に、眼底の周辺部にピントを合わせて撮影を行う場合には、眼底の周辺部には十分に収束したスリット光が投射される一方で、中心部には十分に収束していないスリット光が投射されるため、周辺部の画像は相対的に明るく描写され、中心部の画像は相対的に暗く描写される。これらを合成して得られる画像もやはり輝度ムラを有するものになってしまう。
【0008】
このような輝度ムラの問題は、強度近視眼のように眼軸長の長い眼を撮影する場合に特に顕著に現れる。
【0009】
本開示の1つの目的は、スリットスキャン型の眼科装置によって取得される画像の輝度ムラの問題を解消するための新規な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る実施形態の1つの態様は、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を予め記憶する記憶部と、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う撮影ユニットと、前記撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含む撮影部と、前記フォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影部の制御を実行するプロセッサとを含む、眼科装置である。
【0011】
本開示に係る実施形態の別の態様は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う撮影ユニットと前記撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含む撮影部と、プロセッサと、メモリとを含む眼科装置を制御する方法であって、前記プロセッサに、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を前記メモリに記憶するステップと、前記フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影部を制御するステップとを実行させる方法である。
【0012】
本開示に係る実施形態の更に別の態様は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う方法であって、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を準備し、前記被検眼の前記眼底に対するフォーカス調整を実行し、前記フォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影を行う、方法である。
【0013】
本開示に係る実施形態の更に別の態様は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う撮影ユニットと前記撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含む撮影部と、プロセッサと、メモリとを含む眼科装置に実行させるためのプログラムであって、前記プログラムは、前記プロセッサに、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を前記メモリに記憶するステップと、前記フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影部を制御するステップとを実行させる、プログラムである。
【0014】
本開示に係る実施形態の更に別の態様は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う撮影ユニットと前記撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含む撮影部を備えた眼科装置を制御するために、プロセッサとメモリとを含むコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記プログラムは、前記プロセッサに、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を前記メモリに記憶するステップと、前記フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて、前記撮影部を制御するための命令を生成するステップと、生成された前記命令を前記眼科装置に送るための制御を行うステップとを実行させる、プログラムである。
【0015】
本開示に係る実施形態の更に別の態様は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行うための処理を、プロセッサとメモリとを含むコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記プログラムは、前記プロセッサに、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を前記メモリに記憶するステップと、前記被検眼の前記眼底に対するフォーカス調整を行うための制御を行うステップと、前記フォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影のための制御を行うステップとを実行させる、プログラムである。
【0016】
本開示に係る実施形態の更に別の態様は、プログラムが記録されたコンピュータ可読な非一時的記録媒体であって、前記プログラムは、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う撮影ユニットと前記撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含む撮影部と、プロセッサと、メモリとを含む眼科装置に実行させるためのプログラムであり、前記プロセッサに、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を前記メモリに記憶するステップと、前記フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影部を制御するステップとを実行させる。
【0017】
本開示に係る実施形態の更に別の態様は、プログラムが記録されたコンピュータ可読な非一時的記録媒体であって、前記プログラムは、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行う撮影ユニットと前記撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含む撮影部を備えた眼科装置を制御するために、プロセッサとメモリとを含むコンピュータに実行させるためのプログラムであり、前記プロセッサに、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を前記メモリに記憶するステップと、前記フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて、前記撮影部を制御するための命令を生成するステップと、生成された前記命令を前記眼科装置に送るための制御を行うステップとを実行させる。
【0018】
本開示に係る実施形態の更に別の態様は、プログラムが記録されたコンピュータ可読な非一時的記録媒体であって、前記プログラムは、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影を行うための処理を、プロセッサとメモリとを含むコンピュータに実行させるためのプログラムであり、前記プロセッサに、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を前記メモリに記憶するステップと、前記被検眼の前記眼底に対するフォーカス調整を行うための制御を行うステップと、前記フォーカス調整によって取得された前記被検眼の視度データと前記補正情報とに基づいて前記撮影のための制御を行うステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0019】
本開示に係る実施形態のいくつかの態様によれば、スリットスキャン型の眼科装置によって取得される画像の輝度ムラの問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る眼科装置の構成の非限定的な例について説明するための概略図である。
図2】実施形態に係る眼科装置の構成の非限定的な例について説明するための概略図である。
図3】実施形態に係る眼科装置の構成の非限定的な例について説明するための概略図である。
図4】実施形態に係る眼科装置の構成の非限定的な例について説明するための概略図である。
図5】実施形態に係る眼科装置の動作の非限定的な例について説明するための概略図である。
図6】実施形態に係る眼科装置の構成の非限定的な例について説明するための概略図である。
図7】実施形態に係る眼科装置が形成する光路の非限定的な例について説明するための概略図である。
図8】実施形態に係る眼科装置が実行するフォーカス調整の非限定的な例について説明するための概略図である。
図9】実施形態に係る眼科装置が実行するフォーカス調整の非限定的な例について説明するための概略図である。
図10】実施形態に係る眼科装置が実行するフォーカス調整の非限定的な例について説明するための概略図である。
図11】実施形態に係る眼科装置が実行するフォーカス調整の非限定的な例について説明するための概略図である。
図12A】実施形態に係る眼科装置が実行するフォーカス調整の非限定的な例について説明するための概略図である。
図12B】実施形態に係る眼科装置が実行するフォーカス調整の非限定的な例について説明するための概略図である。
図12C】実施形態に係る眼科装置が実行するフォーカス調整の非限定的な例について説明するための概略図である。
図12D】実施形態に係る眼科装置が実行するフォーカス調整の非限定的な例について説明するための概略図である。
図13A】実施形態に係る眼科装置が実行するフォーカス調整の非限定的な例について説明するための概略図である。
図13B】実施形態に係る眼科装置が実行するフォーカス調整の非限定的な例について説明するための概略図である。
図14A】実施形態に係る眼科装置が実行する撮影制御の非限定的な例について説明するための概略図である。
図14B】実施形態に係る眼科装置が実行する撮影制御の非限定的な例について説明するための概略図である。
図15】実施形態に係る眼科装置が予め記憶する補正情報の非限定的な例について説明するための概略図である。
図16】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するためのフローチャートである。
図17】実施形態に係る眼科装置の構成の非限定的な例について説明するための概略図である。
図18】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するためのフローチャートである。
図19】実施形態に係る眼科装置の構成の非限定的な例について説明するための概略図である。
図20】実施形態に係る眼科装置が予め記憶する補正情報の非限定的な例について説明するための概略図である。
図21】実施形態に係る眼科装置が予め記憶する補正情報を作成する方法の非限定的な例について説明するための概略図である。
図22】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するためのフローチャートである。
図23】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するための概略図である。
図24】実施形態に係る眼科装置の構成の非限定的な例について説明するための概略図である。
図25】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するためのフローチャートである。
図26】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するためのフローチャートである。
図27】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するための概略図である。
図28】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するための概略図である。
図29】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するための概略図である。
図30】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するためのフローチャートである。
図31】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するための概略図である。
図32】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の非限定的な例について説明するためのフローチャートである。
図33】実施形態に係る眼科装置の構成の非限定的な例について説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示に係る実施形態のいくつかの非限定的な態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
本開示に係るいずれかの態様に任意の公知技術を組み合わせることができる。例えば、本明細書で引用する文献に開示されている任意の事項を、本開示に係るいずれかの態様に組み合わせることができる。また、本開示に関連する技術分野における任意の公知技術を、本開示に係るいずれかの態様に組み合わせることができる。例えば、本開示に関連する技術又は当該技術に応用可能な技術について本願の出願人により開示された任意の技術事項(特許出願、論文などにおいて開示された事項)を、本開示に係るいずれかの態様に組み合わせることができる。
【0023】
本開示に記載された様々な態様のうちのいずれか2つ以上の態様を、少なくとも部分的に組み合わせることが可能である。
【0024】
本開示において説明される要素の機能の少なくとも一部は、回路構成(circuitry)又は処理回路構成(processing circuitry)を用いて実装される。回路構成又は処理回路構成は、開示された機能の少なくとも一部を実行するように構成及び/又はプログラムされた、汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、従来の回路構成、及びそれらの任意の組み合わせのいずれかを含む。プロセッサは、トランジスタ及び/又は他の回路構成を含む、処理回路構成又は回路構成とみなされる。本開示において、回路構成、ユニット、手段、又はこれらに類する用語は、開示された機能の少なくとも一部を実行するハードウェア、又は、開示された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されたハードウェアであってよく、或いは、記載された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラム及び/又は構成された既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが或るタイプの回路構成とみなされ得るプロセッサである場合、回路構成、ユニット、手段、又はこれらに類する用語は、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであり、このソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサを構成するために使用される。
【0025】
実施形態に係る眼科装置は、記憶部と、撮影部と、プロセッサとを含む。
【0026】
記憶部には、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報が予め格納される。記憶部は、例えば、眼科装置本体に内蔵された記憶装置、眼科装置本体の周辺機器である記憶装置、ネットワークを介して眼科装置本体がアクセス可能な記憶装置、並びに、別の態様及び/又は別の配置の記憶装置のうちのいずれかを含んでいてよい。
【0027】
視度は、被検眼の屈折度数に応じたフォーカス調整量である。補正情報に記録されている視度値は、視度の値(ディオプター値)であってもよいし、視度と等価な任意のパラメータの値であってもよい。後者の非限定的な例として、撮影部のフォーカス調整のためのパラメータがある。このパラメータは、後述のフォーカス調整ユニットに関するパラメータであってよく、その非限定的な例として、フォーカス調整ユニットに含まれる光学素子(例えば、フォーカスレンズ)の位置を示すパラメータ、この光学素子を駆動するためのパラメータ(例えば、フォーカスレンズを移動するための制御パラメータ、フォーカスレンズの屈折力を変化させるための制御パラメータ)などがある。
【0028】
なお、2つのパラメータが等価であるとは、少なくとも第1のパラメータの値から第2のパラメータの値を導出することができることを意味するものであり、より狭義には第1のパラメータから第2のパラメータの値を一意的に導出することができることを、更に狭義には2つのパラメータの間に単射が定義されることを、更に狭義には2つのパラメータの間に全単射が定義されることを意味する。
【0029】
補正情報に記録されている眼底位置は、眼底における位置を示している。眼底位置を表現する方法は任意であってよい。眼底位置の非限定的な例として、所定方向(例えば、眼軸に沿う方向)を基準とした角度による位置表現、寸法(距離)を規格化した座標系による位置表現、眼底の所定のランドマーク(例えば、視神経乳頭、黄斑)を基準とした座標系による位置表現などがある。
【0030】
補正情報に記録されている補正値は、被検眼に投射されるスリット光の強度に影響を与える任意の撮影条件(撮影パラメータ)に関する補正値であってよい。つまり、補正情報に記録されている補正値は、スリットスキャンのための任意の撮影条件に関する補正値であってよい。補正情報に記録されている補正値の非限定的な例として、光源の制御を行うためのパラメータ(例えば、発光強度の制御パラメータ)、フォーカス調整ユニットに含まれる光学素子(例えば、フォーカスレンズ)の位置を制御するためのパラメータ、この光学素子を駆動する機構を制御するためのパラメータ(例えば、フォーカスレンズを移動するための制御パラメータ、フォーカスレンズの屈折力を変化させるための制御パラメータ)などがある。
【0031】
複数の補正値が記録されている補正情報の種類(態様、形態、様式)は任意であってよく、例えば、離散的に表現された任意の情報、連続的に表現された任意の情報、又は、別の方法で表現された任意の情報であってよい。離散的情報の非限定的な例として、視度値と眼底位置との複数の組み合わせにそれぞれ対応付けられた複数の補正値が記録されたテーブル(表)がある。連続的情報の非限定的な例として、視度値を示す座標軸と眼底位置を示す座標軸と補正値を示す座標軸とにより張られた座標系において定義されたグラフがある。別の情報の非限定的な例として、視度値及び眼底位置を独立変数とし、補正値を従属変数とした関数(数式)がある。
【0032】
撮影部は、撮影ユニットと、フォーカス調整ユニットとを含む。
【0033】
撮影ユニットは、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影(スリットスキャン)を行うように構成されている。撮影ユニットは、例えば、ローリングシャッター型の撮像装置、又は、ローリングシャッター型の撮像装置と同様の機能を有する撮像装置を含んでいる。後者の例として、グローバルシャッター型のイメージセンサーと、機械的なスリット絞りとを組み合わせた撮像装置がある。別の実施形態に係る撮像装置についても同様である。
【0034】
フォーカス調整ユニットは、撮影ユニットのフォーカス調整を行うように構成されている。
【0035】
プロセッサは、フォーカス調整ユニットにより実行されるフォーカス調整によって取得された被検眼の視度データと、視度値と眼底位置との対応関係を表す補正情報とに基づいて、撮影部の制御を実行するように構成されている。
【0036】
フォーカス調整ユニットにより実行されるフォーカス調整では、被検眼の屈折度数の推定値に対応するフォーカス補正量が求められる。このフォーカス補正量は、所定のフォーカスパラメータについて予め設定された基準値に対するパラメータ値のズレ量(偏位量、補正量、視度値)を示すものであり、被検眼の視度データに相当する。非限定的な例において、フォーカス補正量は、正視(0ディオプター)を基準として定義され、被検眼の屈折度数の推定値に等しい。フォーカス補正量はこれに限定されず、例えば別の基準値に基づき定義されてよい。視度データは、フォーカス調整ユニットにより実行されるフォーカス調整で得られた視度値であってもよく、或いは、視度と等価な任意のパラメータの値であってもよい。後者の非限定的な例として、撮影部のフォーカス調整のためのパラメータがある。このパラメータは、フォーカス調整ユニットに関するパラメータであってよく、その非限定的な例として、フォーカス調整ユニットに含まれる光学素子(例えば、フォーカスレンズ)の位置を示すパラメータ、この光学素子を駆動するためのパラメータ(例えば、フォーカスレンズを移動するための制御パラメータ、フォーカスレンズの屈折力を変化させるための制御パラメータ)などがある。フォーカス調整ユニットにより実行されるフォーカス調整によって取得される被検眼の視度データの種類は、補正情報に記録されている視度値の種類と同じでもよいし、補正情報に記録されている視度値と等価な種類であってもよい。
【0037】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、撮影ユニットは、被検眼の眼底における複数の領域を順次に撮影するように構成されていてよい。更に、プロセッサは、これら複数の領域に対するスリット光の投射強度が等しくなるように撮影部の制御を実行するように構成されていてよい。
【0038】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、撮影ユニットは光源を含んでいてよい。更に、プロセッサは、撮影ユニットにより被検眼の眼底に適用されるスリットスキャンにおいて眼底の複数の領域に対するスリット光の投射強度を等しくするための撮影部の制御として、撮影ユニットの光源の制御を実行するように構成されていてよい。この光源の制御の非限定的な例として発光強度の制御がある。
【0039】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、プロセッサは、撮影ユニットにより被検眼の眼底に適用されるスリットスキャンにおいて眼底の複数の領域に対するスリット光の投射強度を等しくするための撮影部の制御として、フォーカス調整ユニットの制御を実行するように構成されていてよい。このフォーカス調整ユニットの制御の非限定的な例として、フォーカス調整ユニットに含まれる光学素子(例えば、フォーカスレンズ)を移動するための制御、及び、フォーカスレンズの屈折力を変化させるための制御がある。
【0040】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、プロセッサは、条件決定部と、撮影制御部とを含んでいてよい。
【0041】
条件決定部は、フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された被検眼の視度データと記憶部に記憶されている補正情報とに基づいて撮影条件を決定する処理を実行するように構成されている。撮影条件は、被検眼に投射されるスリット光の強度に影響を与える任意の条件(パラメータ)であってよい。条件決定部により求められる撮影条件の種類は、補正情報に記録されている補正値の種類と同じであってもよいし、補正情報に記録されている補正値と等価な種類であってもよい。
【0042】
撮影制御部は、条件決定部により決定された撮影条件に基づいて撮影部の制御を実行するように構成されている。この撮影部の制御は、撮影ユニットの制御、フォーカス調整ユニットの制御、及び、撮影ユニットの制御とフォーカス調整ユニットの制御との組み合わせであってよい。
【0043】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、撮影ユニットは、被検眼の眼底における複数の領域を順次に撮影するように構成されていてよい。更に、条件決定部は、これら複数の領域に対するスリット光の投射強度が等しくなるように撮影条件を決定するように構成されていてよい。本態様の撮影制御部は、このようにして条件決定部により生成された撮影条件に基づいて撮影ユニットの制御を実行する。この制御を受けて動作する撮影ユニットは、被検眼の眼底における複数の領域に対するスリット光の投射強度が等しくなるようにスリットスキャンを実行する。
【0044】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、条件決定部は、補正情報に記録されている視度値と眼底位置との複数の組み合わせのうちから、フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整により取得された被検眼の視度データと被検眼の眼底における複数の領域のそれぞれとの組み合わせに対応する視度値と眼底位置との組み合わせを特定することによって、補正情報に記録されている複数の補正値のうちから補正値群を選択するように構成されていてよい。この補正値群に含まれる要素(補正値)の個数は、複数の領域の個数に等しくてもよいし、等しくなくてもよい。非限定的な例において、条件決定部は、次の一連の処理を実行する:補正情報に記録されている複数の視度値のうちから、フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整で取得された被検眼の視度データに対応する視度値を選択する処理(第1の処理);補正情報に記録されている複数の眼底位置のうちから、撮影ユニットによりスリットスキャンが適用される被検眼の眼底の複数の領域のそれぞれに対応する眼底位置を選択する処理(第2の処理);補正情報に記録されている複数の補正値のうちから、第1の処理で選択された視度値と第2の処理で選択された各眼底位置とに対応する補正値を特定する処理(第3の処理)。本態様で決定される撮影条件は、補正情報から選択された補正値群(例えば、第3の処理により特定された補正値群)を含む。撮影条件は、補正情報から選択された補正値群のみを含んでいてもよいし、補正値群以外の情報を含んでいてもよい。補正値群以外の情報の非限定的な例として、補正値群に基づく補間情報(内挿値、外挿値など)がある。本態様の撮影制御部は、このようにして条件決定部により生成された撮影条件に基づいて撮影ユニットの制御を実行する。この制御を受けて動作する撮影ユニットは、被検眼の眼底における複数の領域に対するスリット光の投射強度が等しくなるようにスリットスキャン(眼底における複数の領域の順次的な撮影)を実行する。
【0045】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、撮影ユニットは光源を含んでいてよい。更に、条件決定部は、撮影条件として、光源を制御するための条件(光源制御条件)を決定するように構成されていてよい。加えて、撮影制御部は、被検眼の眼底にスリットスキャンを適用するための撮影ユニットの制御と並行して、光源制御条件に基づく光源の制御を実行するように構成されてよい。
【0046】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、条件決定部は、光源制御条件として、光源が発する光の強度を制御するための条件(発光強度制御条件)を決定するように構成されていてよい。更に、撮影制御部は、被検眼の眼底にスリットスキャンを適用するための撮影ユニットの制御と並行して、発光強度制御条件に基づく光源の制御(発光強度を変更するための制御)を実行するように構成されてよい。
【0047】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、補正情報に記録されている複数の補正値は、撮影ユニットにおける光源の発光強度に関する複数の発光強度補正値を含んでいてよい。つまり、本態様の補正情報には、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の発光強度補正値が記録されていてよい。更に、条件決定部は、補正情報に記録されている視度値と眼底位置との複数の組み合わせのうちから、フォーカス調整によって取得された被検眼の視度データと被検眼の眼底における複数の領域のそれぞれとの組み合わせに対応する視度値と眼底位置との組み合わせを特定することによって、複数の発光強度補正値から補正値群(第1の補正値群)を選択する。本態様の発光強度制御条件は、このようにして選択された第1の補正値群を含む。撮影制御部は、被検眼の眼底にスリットスキャンを適用するための撮影ユニットの制御と並行して、第1の補正値群を含む発光強度制御条件に基づく光源の制御(発光強度を変更するための制御)を実行するように構成されてよい。
【0048】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、撮影制御部は、光源の制御の代わりに、又は、光源の制御に加えて、光源と被検眼との間の光路(スリット光を生成して被検眼の眼底に投射するための光路)に設けられた要素を制御するように構成されていてよい。この制御は、例えば、この光路に配置されている任意の光強度変更要素の制御を含む。光強度変更要素の非限定的な例として、減光フィルタ、透過光量可変デバイス(例えば、液晶駆動デバイス)がある。
【0049】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、条件決定部は、撮影条件として、撮影ユニットのフォーカス状態を制御するための条件(フォーカス制御条件)を決定するように構成されてよい。更に、撮影制御部は、被検眼の眼底にスリットスキャンを適用するための撮影ユニットの制御と並行して、フォーカス制御条件に基づくフォーカス調整ユニットの制御を実行するように構成されてよい。
【0050】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、撮影ユニットは、撮像装置と、第1の光学系と、第2の光学系とを含んでいてよい。第1の光学系は、被検眼の眼底にスリット光を投射するように構成されている。第2の光学系は、第1の光学系により被検眼の眼底に投射されたスリット光の戻り光を撮像装置に導くように構成されている。また、フォーカス調整ユニットは、第1のフォーカス調整ユニットと、第2のフォーカス調整ユニットとを含んでいてよい。第1のフォーカス調整ユニットは、撮影ユニットの第1の光学系の焦点位置を調整するように構成されている。第2のフォーカス調整ユニットは、撮影ユニットの第2の光学系の焦点位置を調整するように構成されている。更に、条件決定部は、フォーカス制御条件として、焦点位置を制御するための条件(焦点位置制御条件)を決定するように構成されてよい。加えて、撮影制御部は、被検眼の眼底にスリットスキャンを適用するための撮影ユニットの制御と並行して、第1の光学系の焦点位置を移動するための第1のフォーカス調整ユニットの制御と第2の光学系の焦点位置を移動するための第2のフォーカス調整ユニットの制御とを焦点位置制御条件に基づいて実行するように構成されてよい。
【0051】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、補正情報に記録されている複数の補正値は、撮影ユニットにおける第1の光学系の焦点位置及び第2の光学系の焦点位置に関する複数の焦点位置補正値を含んでいてよい。更に、条件決定部は、補正情報に記録されている視度値と眼底位置との複数の組み合わせのうちから、フォーカス調整によって取得された被検眼の視度データと被検眼の眼底における複数の領域のそれぞれとの組み合わせに対応する視度値と眼底位置との組み合わせを特定することによって、補正情報に記録されている複数の焦点位置補正値から補正値群(第2の補正値群)を選択する。本態様の焦点位置制御条件は、このようにして選択された第2の補正値群を含む。撮影制御部は、被検眼の眼底にスリットスキャンを適用するための撮影ユニットの制御と並行して、第2の補正値群を含む焦点位置制御条件に基づく第1のフォーカス調整ユニットの制御及び第2のフォーカス調整ユニットの制御を実行するように構成されてよい。
【0052】
実施形態に係る眼科装置のいくつかの態様において、撮影ユニットは光源を含んでいてよい。更に、条件決定部は、スリットスキャンのための撮影条件として、光源制御条件及びフォーカス制御条件の双方を決定するように構成されてよい。加えて、撮影制御部は、被検眼の眼底にスリットスキャンを適用するための撮影ユニットの制御と並行して、光源制御条件に基づく光源の制御とフォーカス制御条件に基づくフォーカス調整ユニットの制御との双方を実行するように構成されてよい。
【0053】
実施形態に係る方法は、眼科装置を制御する方法である。この眼科装置は、撮影部と、プロセッサと、メモリとを含んでいる。撮影部は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影(スリットスキャン)を行う撮影ユニットと、撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含む。本実施形態に係る方法は、少なくとも以下のステップをプロセッサに実行させるように構成されている:視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報をメモリに記憶するステップ;撮影ユニットのフォーカス調整を実行するようにフォーカス調整ユニットを制御するステップ;フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された被検眼の視度データとメモリに記憶された補正情報とに基づいて撮影部を制御するステップ(つまり、視度データと補正情報とに基づいてスリットスキャンを行うように撮影部を制御するステップ)。眼科装置に関する任意の事項を本実施形態に係る方法に組み合わせることが可能である。
【0054】
実施形態に係る方法は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影(スリットスキャン)を行う方法である。本実施形態に係る方法は、少なくとも以下のステップを含む:視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を準備するステップ;被検眼の眼底に対するフォーカス調整を実行するステップ;フォーカス調整によって取得された被検眼の視度データと補正情報とに基づいて撮影(スリットスキャン)を行うステップ。眼科装置に関する任意の事項を本実施形態に係る方法に組み合わせることが可能である。
【0055】
実施形態に係るプログラムは、眼科装置に実行させるためのプログラムである。この眼科装置は、撮影部と、プロセッサと、メモリとを含む。撮影部は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影(スリットスキャン)を行う撮影ユニットと、撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含んでいる。本実施形態に係るプログラムは、眼科装置のプロセッサに少なくとも以下のステップを実行させるように構成されている:視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報を眼科装置のメモリに記憶するステップ;撮影ユニットのフォーカス調整を実行するようにフォーカス調整ユニットを制御するステップ;フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された被検眼の視度データとメモリに記憶された補正情報とに基づいて撮影部を制御するステップ(つまり、視度データと補正情報とに基づいてスリットスキャンを行うように撮影部を制御するステップ)。眼科装置に関する任意の事項を本実施形態に係るプログラムに組み合わせることが可能である。
【0056】
実施形態に係るプログラムは、眼科装置を制御するコンピュータに実行させるためのプログラムである。この眼科装置は撮影部を含む。この撮影部は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影(スリットスキャン)を行う撮影ユニットと、撮影ユニットのフォーカス調整を行うためのフォーカス調整ユニットとを含んでいる。また、このコンピュータは、プロセッサとメモリとを含んでいる。本実施形態に係るプログラムは、コンピュータのプロセッサに少なくとも以下のステップを実行させるように構成されている:視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報をコンピュータのメモリに記憶するステップ;眼科装置のフォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された被検眼の視度データとメモリに記憶された補正情報とに基づいて、眼科装置の撮影部を制御するための命令を生成するステップ;生成された命令を眼科装置に送るための制御を行うステップ。フォーカス調整は、本実施形態に係るプログラムに基づいて実行されてもよいし、眼科装置のみによって実行されてもよいし、ユーザーによって実行されてもよい。眼科装置に関する任意の事項を本実施形態に係るプログラムに組み合わせることが可能である。
【0057】
実施形態に係るプログラムは、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影(スリットスキャン)を行うための処理をコンピュータに実行させるためのプログラムである。このコンピュータは、プロセッサとメモリとを含んでいる。本実施形態に係るプログラムは、コンピュータのプロセッサに少なくとも以下のステップを実行させるように構成されている:視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報をコンピュータのメモリに記憶するステップ;被検眼の眼底に対するフォーカス調整を行うための制御を行うステップ;フォーカス調整によって取得された被検眼の視度データとメモリに記憶された補正情報とに基づいて撮影(スリットスキャン)のための制御を行うステップ。眼科装置に関する任意の事項を本実施形態に係るプログラムに組み合わせることが可能である。
【0058】
実施形態に係る記録媒体は、いずれかの実施形態に係るプログラムが記録された、コンピュータ可読な非一時的記録媒体である。
【0059】
いくつかの非限定的な実施形態及びそのいくつかの非限定的な態様について以上に説明したが、それらのうちの2つ以上を少なくとも部分的に組み合わせることが可能である。また、本開示に記載又は示唆されている任意の事項をいずれかの態様に組み合わせることが可能である。
【0060】
<第1の実施形態>
第1の実施形態に係る眼科装置の構成の非限定的な例を図1に示す。本例の眼科装置1は、スリットスキャン方式のモダリティを用いて生体眼の眼底を画像化する眼科イメージング機能を有する。眼科装置1は、撮影ユニット2、フォーカス調整ユニット3、プロセッサ4、メモリ5、及びユーザーインターフェイス6を含む。眼科装置1に含まれるハードウェア要素は、特に言及しない限り、既存のスリットスキャン型の眼科イメージング装置のハードウェア要素と同様であってよい。
【0061】
撮影ユニット2は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつローリングシャッター型のイメージセンサー(撮像装置)で撮影を行うことによってスリットスキャンを実行可能に構成されている。換言すると、撮影ユニット2は、スリット状の照明光(スリット光)の照射位置(照射範囲)を移動させながら被検眼の眼底を照明し、1次元的に又は2次元的に受光素子が配列されたイメージセンサーを用いて眼底からの戻り光を受光するように構成されている。プロセッサ4の制御の下に、戻り光の受光結果は、スリット光の照射位置の移動タイミングに同期して、スリット光の照射位置に対応した戻り光の受光位置にある受光素子から信号(データ)が読み出される。イメージセンサーからの信号読み出しはローリングシャッター方式で行われる。撮影ユニット2の具体的な構成については、その非限定的な例を後述する。
【0062】
前述したように、ローリングシャッター型のイメージセンサーの代わりに、グローバルシャッター型のイメージセンサーとスリット絞りとを組み合わせた撮像ユニット(撮像装置)を用いることによって、ローリングシャッター型のイメージセンサーと同様の撮影動作を行うことができる。
【0063】
フォーカス調整ユニット3は、撮影ユニット2のフォーカス調整(ピント合わせ)を行うための構成を含んでいる。第1の実施形態のフォーカス調整は、既存のフォーカス調整技術を用いて実行されてよい。例えば、被写体(被検眼の眼底)とイメージセンサーとの間に配置されているレンズの焦点距離(焦点の位置)を変化させることによって、及び/又は、レンズとイメージセンサーとの間の距離を変化させることよって、フォーカス調整を行うことができる。
【0064】
プロセッサ4は、メモリ5及び/又は他の記憶装置に記憶されているプログラムにしたがって処理を実行することにより第1の実施形態に係る機能を実現する。
【0065】
メモリ5は、各種のコンピュータプログラムや各種のデータを記憶している。例えば、メモリ5には、眼科装置1に所定の動作を実行させるための制御プログラム及び/又は制御データや、眼科装置1に所定の演算処理を実行させるための演算プログラム及び/又は演算データが格納されている。また、メモリ5には、後述の補正情報が格納されている。メモリ5に格納されるプログラムやデータはこれらに限定されない。また、メモリ5には、眼科装置1により取得されたデータが保存される。例えば、眼科装置1により生成されたデータや、眼科装置1が外部から取得したデータがメモリ5に保存される。典型的な実施形態において、メモリ5は、不揮発性メモリと揮発性メモリとを含んでいる。
【0066】
ユーザーインターフェイス6は、眼科装置1とそのユーザーとの間で情報をやりとりするための要素(ハードウェア要素、ソフトウェア要素、プロトコル)である。ユーザーインターフェイス6は、例えば、ユーザーから眼科装置1に情報を提供するための手段である入力部(操作部)と、眼科装置1からユーザーに情報を提供するための手段である出力部とを含んでいる。入力部のハードウェア要素の非限定的な例として、操作パネル、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ダイアル、スキャナー、光学文字認識(OCR)デバイス、マイクロフォン、カメラ(ビデオカメラ)などがある。出力部のハードウェア要素の非限定的な例として、ディスプレイ、プリンタ、スピーカーなどがある。ユーザーインターフェイス6は、タッチスクリーンのように入力機能と出力機能とが一体化されたデバイスを含んでいてもよい。
【0067】
図示は省略するが、眼科装置1は、既存の同種の眼科装置と同様に、被検眼Eに対する撮影ユニット2のアライメント(位置合わせ)を行うための要素を備えている。眼科装置1により実行されるアライメントの方法は任意であってよく、例えば、特開2013-248376号公報に記載された2つ以上の前眼部カメラを用いて被検眼Eの位置を求めるステレオアライメントであってよいし、被検眼Eの正面画像(例えば前眼部Eaの観察画像)を解析して被検眼Eの位置を求める方法でもよいし、前眼部Ea(角膜)にアライメント指標を投影して被検眼Eの位置を求める方法でもよい。眼科装置1は、アライメントの手法に応じたハードウェア要素及びソフトウェア要素を備えている。図示は省略するが、眼科装置1は、既存の同種の眼科装置と同様に、撮影ユニット2を3次元的に移動するための移動機構を備えている。
【0068】
撮影ユニット2の構成の非限定的な例を図2に示す。図2は側面図である。図2において、光学系の光軸(対物レンズ46の光軸)に沿った方向をZ方向(前後方向、作動距離方向)とし、Z方向に直交する1つの方向(本例では左右方向、水平方向)をX方向とし、Z方向及びY方向の双方に垂直な方向(本例では上下方向、鉛直方向)をY方向とする。
【0069】
本例の撮影ユニット2は、光源10、照明光学系20、光スキャナー30、撮影光学系40、及び撮像装置50を含んでいる。照明光学系20は、光源10から発せられた光からスリット光を生成して被検眼Eの眼底Efに投射する。光源10を照明光学系20の要素とみなしてもよい。光スキャナー30は、照明光学系20により眼底Efに投射されるスリット光の位置(投射位置)を移動する。光スキャナー30を照明光学系20の要素とみなしてもよい。撮影光学系40は、照明光学系20により眼底Efに投射されたスリット光の戻り光を撮像装置50に導く。撮像装置50を撮影光学系40の要素とみなしてもよい。
【0070】
光源10は、可視領域の光を発生する可視光源(例えば、白色光を発生する白色光源)を含んでいてよい。光源10は、赤外領域(近赤外領域)の光を発生する赤外光源(近赤外光源)を含んでいてもよい。光源10は、異なる波長帯の光を切り替えて出力することが可能であってもよい。光源10は、任意の種類の光源を含んでいてよく、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)、ハロゲンランプ、及びキセノンランプのうちの1つ以上を含んでいてよい。被検眼Eに対する撮影ユニット2のアライメントが適切な状態において、光源10は、眼底Ef及び虹彩のそれぞれに対して光学的に非共役な位置に配置される。いくつかの態様では、プロセッサ4の制御の下に、光源10は、スリットスキャンのために可視光を出力し、フォーカス調整のために近赤外光又は可視光を出力する。
【0071】
照明光学系20は、光源10により発せられた光からスリット状の照明光(スリット光)を生成して被検眼Eの眼底Efに投射する。本例において、照明光学系20は、虹彩絞り21、スリット開口絞り(スリット)22、リレーレンズ23、光スキャナー30、リレーレンズ31、ホールミラー45、及び対物レンズ46を含む。リレーレンズ23は1つ以上のレンズを含み、リレーレンズ31は1つ以上のレンズを含み、対物レンズ46は1つ以上のレンズを含む。
【0072】
撮影光学系40は、照明光学系20(及び光スキャナー30)により被検眼Eの眼底Efに投射された照明光(スリット光)の戻り光を撮像装置50に導く。本例において、撮影光学系40は、対物レンズ46、ホールミラー45、フォーカスレンズ47、及び結像レンズ48を含む。フォーカスレンズ47は1つ以上のレンズを含み、結像レンズ48は1つ以上のレンズを含む。
【0073】
光源10から出力された光(具体的には、この光の一部)は、虹彩絞り21に形成された開口部、スリット開口絞り22に形成された開口部、及びリレーレンズ23を通過して光スキャナー30に導かれる。
【0074】
被検眼Eに対する撮影ユニット2のアライメントが適切な状態において、虹彩絞り21(具体的には、虹彩絞り21に形成された開口部)は、被検眼Eの虹彩(瞳孔)に対して光学的に略共役な位置に配置される。
【0075】
虹彩絞り21には、照明光学系20の光軸から離隔した位置に1つ以上の開口部が形成されている。例えば、図3に示す非限定的な例に係る虹彩絞り21には、照明光学系20の光軸Oを中心とした円周方向に沿って所定の寸法(所定の長さ及び所定の幅)を有する2つの開口部21A及び21Bが形成されている。
【0076】
虹彩絞り21の開口部は、被検眼Eの瞳孔における照明光の入射状態(入射位置、入射形状)を規定する。例えば、開口部21A及び21Bが形成された虹彩絞り21が用いられる場合には、被検眼Eの瞳孔中心に略一致するように照明光学系20の光軸O(対物レンズ46の光軸)が配置された状態において(つまり、アライメントが適切な状態において)、瞳孔中心から偏心した位置(具体的には、瞳孔中心に対して点対称に配置された2つの位置)を通じて照明光(スリット光)を眼底Efに導くことができる。
【0077】
いくつかの態様では、光源10からの光を偏向する光学素子を光源10と虹彩絞り21との間に設けることによって、虹彩絞り21の開口部とスリット開口絞り22の開口部(スリット)とを結ぶ方向における光量分布を最適化してもよい。また、光源10と虹彩絞り21の開口部との間の相対位置を変更可能に構成することによって、虹彩絞り21の開口部を通過する光の光量分布を可変にしてもよい。
【0078】
被検眼Eに対する撮影ユニット2のアライメントが適切な状態において、スリット開口絞り22(具体的には、スリット開口絞り22に形成された開口部(スリット))は、被検眼Eの眼底Efと光学的に略共役な位置に配置される。
【0079】
スリット開口絞り22には、後述するイメージセンサー51からローリングシャッター方式で信号読み出しが行われるライン方向(ロウ(row)方向)に対応した方向を長手方向とする開口部(スリット)が形成されている。例えば、図4に示す非限定的な例に係るスリット開口絞り22には、照明光学系20の光軸Oを含む領域に所定の寸法(所定の長さ及び所定の幅)を有する開口部(スリット)22Aが形成されている。
【0080】
スリット開口絞り22に形成された開口部(スリット)は、被検眼Eの眼底Efにおけるスリット光の投射像の形状を規定する。スリット開口絞り22に形成されたスリットの長手方向をスリット長方向と呼ぶことがある。また、スリット開口絞り22に形成されたスリットの短手方向をスリット幅方向と呼ぶことがある。
【0081】
スリット開口絞り22は、移動機構22Mにより、照明光学系20の光軸に沿う方向に移動可能である(図2を参照)。移動機構22Mは、プロセッサ4の制御の下に動作する。プロセッサ4は、被検眼Eの状態(例えば、屈折力(屈折度数、視度)、眼底形状など)に応じて移動機構22Mを制御するように構成されてよい。
【0082】
虹彩絞り21の開口部を通過した光は、スリット開口絞り22の開口部を通過することによってスリット状の照明光(スリット光)に変換される。スリット光は、リレーレンズ23を介して光スキャナー30に導かれ、光スキャナー30により偏向され、リレーレンズ31を介してホールミラー45に導かれる。
【0083】
ホールミラー45は、既存の眼底カメラなどに用いられる光学部材であり、照明光学系20の光路と撮影光学系40の光路とを結合する光路結合部材として機能する。ホールミラー45の中心位置には開口部(又は、光透過部)が形成されている。例えば、この開口部の外縁は円形である。照明光学系20の光軸と撮影光学系40の光軸とは、ホールミラー45の開口部において交差している。ホールミラー45の開口部の周囲には反射部(ミラー部)が形成されている。
【0084】
リレーレンズ31を介してホールミラー45に導かれたスリット光は、反射部により反射され、対物レンズ46により屈折されて被検眼Eに入射する。被検眼Eに入射したスリット光は、眼底Efに投射される。
【0085】
いくつかの態様において、眼底Efにおけるスリット光の投射像(投射領域)の形状は略スリット形状であり、このスリット形状の投射像の長手方向はX方向に略一致している。この場合、光スキャナー30は、眼底Efにおけるスリット光の投射像をY方向に移動させるように、虹彩絞り21及びスリット開口絞り22によって生成されたスリット光を偏向する。なお、眼底Erにおけるスリット光の投射像の長手方向の向きはX方向に限定されず、光スキャナー30による投射像の移動方向はY方向に限定されない。
【0086】
被検眼Eに対する撮影ユニット2のアライメントが適切な状態において、光スキャナー30は、被検眼Eの虹彩と光学的に略共役な位置に配置される。これにより、被検眼Eの瞳孔内の位置(又は瞳孔の近傍位置)をピボット(スキャン軸、偏向中心軸)としてスリット光をY方向に偏向することができ、眼底Efの所定のスキャン範囲を仮想的に分割して形成される複数のスリット状の部分領域に対して逐次にスリット光を投射することが可能になる。つまり、眼底Efのスリットスキャンを行うことが可能になる。
【0087】
眼底Efに投射されたスリット光の反射光は、被検眼Efの瞳孔を介して被検眼Eから出射し、撮影ユニット2に入射する。被検眼Eから撮影ユニット2に入射した光(戻り光)は、対物レンズ46を介してホールミラー45に導かれる。この戻り光は、ホールミラー45の開口部を通過し(又は、光透過部を透過し)、フォーカスレンズ47及び結像レンズ48を介して撮像装置50に導かれて検出される。
【0088】
光スキャナー30は、例えば、スリット光を1次元的又は2次元的に偏向することが可能である。1次元偏向用の光スキャナー30は、所定の方向を基準とした所定の偏向角度範囲においてスリット光を偏向する。この偏向角度範囲は、眼底Efにおけるスリット光の移動方向(例えば、Y方向)に対応した方向において定義されている。2次元偏向用の光スキャナー30は、例えば、互いに異なる偏向方向を提供する2つの光スキャナーを組み合わせたものである。光スキャナー30に使用される光偏向デバイスの種類は任意であってよく、例えばガルバノスキャナーであってよい。
【0089】
フォーカスレンズ47は、移動機構47Mにより、撮影光学系40の光軸に沿う方向に移動可能である(図2を参照)。移動機構47Mは、プロセッサ4の制御の下に動作する。プロセッサ4は、被検眼Eの状態(例えば、屈折力、眼底形状など)に応じて移動機構47Mを制御するように構成されてよい。
【0090】
撮像装置50は、撮影光学系40によって導かれてきた戻り光を検出するイメージセンサー51を含んでいる。撮像装置50は、プロセッサ4の制御の下に、戻り光を検出したイメージセンサー51から信号読み出しを行うことができる。
【0091】
イメージセンサー51は、ピクセル化された受光器としての機能を実現する。被検眼Eに対する撮影ユニット2のアライメントが適切な状態において、イメージセンサー51の受光面(検出面、撮像面)は、被検眼Eの眼底Efに対して光学的に略共役な位置に配置される。イメージセンサー51が光電変換により生成した信号は、プロセッサ4の制御の下に、ローリングシャッター方式で読み出される。
【0092】
いくつかの態様において、イメージセンサー51はCMOSイメージセンサーを含む。この場合、イメージセンサー51においては、ロウ(row)方向に配列されたピクセル群が複数個設けられており、これら複数のピクセル群がカラム(column)方向に配列されている。より具体的には、イメージセンサー51は、2次元的に配列された複数のピクセルと、複数の垂直信号線と、水平信号線とを含む。各ピクセルは、フォトダイオードと、キャパシタとを含む。垂直信号線は、ロウ方向(水平方向)に直交するカラム方向(垂直方向)に配列されたピクセル群ごとに設けられている。各垂直信号線は、戻り光の検出結果に対応した電荷が蓄積されたピクセル群に対して選択的に電気的に接続される。水平信号線は、複数の垂直信号線に対して選択的に電気的に接続される。各ピクセルは、戻り光の検出結果に対応した電荷を蓄積し、蓄積された電荷は、例えばロウ方向のピクセル群ごとに順次に読み出される。例えば、ロウ方向のラインごとに、各ピクセルに蓄積された電荷に対応した電圧が垂直信号線に供給される。複数の垂直信号線は、選択的に水平信号線に対して電気的に接続される。上記したロウ方向のラインごとの読み出し動作を垂直方向に順次に行うことで、2次元的に配列された複数のピクセルから検出結果を読み出すことができる。
【0093】
このようなイメージセンサー51からの検出結果の読み出しをローリングシャッター方式で行うことにより、ロウ方向に延びる所望の仮想的な開口形状に対応した受光像が取得される。この制御は公知であり、例えば米国特許第7831106号明細書などに開示されている。
【0094】
眼科装置1により実行されるスリットスキャンについて説明する。図5は、眼底Efにおけるスリット光の投射像の位置(投射範囲)IPと、イメージセンサー51の受光面SRにおける仮想的な開口範囲OPとを模式的に表す。
【0095】
眼科装置1は、光スキャナー30を用いてスリット光を偏向することにより、眼底Efにおけるスリット光の投射範囲IPをスリット長方向(例えば、X方向、ロウ方向、水平方向)に対して垂直な方向(例えば、Y方向、カラム方向、垂直方向)に移動させる。
【0096】
プロセッサ4によるイメージセンサー51からの信号読み出しにおいては、信号読み出しの対象となるピクセル群をライン単位で逐次に切り替えることによって、仮想的な開口範囲OPが逐次に設定される。開口範囲OPは、例えば、スリット光の戻り光が受光面SRに投射される範囲IP´と一致するように、又は、この範囲IP´よりも広い範囲になるように設定される。プロセッサ4は、スリット光の投射範囲IPを移動するための制御と、開口範囲OPを移動するための制御とを並行的に実行する。例えば、プロセッサ4は、これらの制御を同期的に実行する。このようなスリットスキャンによれば、不要な散乱光の影響を受けることなく、簡素な構成によって、高いコントラストを有する高品質の眼底画像を取得することが可能である。
【0097】
いくつかの実施形態では、光スキャナー30とホールミラー45との間に、有害反射光を除去するための黒点を設けることができる。黒点は、対物レンズ46によるスリット光の反射に起因する中心ゴーストの位置に対して光学的に略共役な位置に配置される。
【0098】
既存の同種の眼科装置では、眼底Efに投射されるフォーカス調整用指標(スプリット指標)を生成するフォーカス指標投影光学系が光スキャナーとホールミラーとの間に設けられ、更に、フォーカス指標投影光学系を移動するための機構が設けられている。既存の同種の眼科装置は、フォーカス指標光学系から出力された光(フォーカス指標光)を眼底Efに投射し、その眼底反射光を撮影光学系及び撮像装置によって検出し、取得された画像におけるスプリット指標の位置をシャイネルの原理にしたがって特定し、特定されたスプリット指標の位置に基づきフォーカス指標投影光学系と撮影光学系のフォーカスレンズとをそれぞれの光軸に沿う方向に移動することによってフォーカス調整を実行する。このように、フォーカス指標投影光学系及びこの移動機構は、既存の同種の眼科装置に設けられている、フォーカス調整のための専用のハードウェア要素である。
【0099】
これに対し、本例に係る眼科装置1は、フォーカス専用ハードウェア要素として既存の同種の眼科装置に設けられているフォーカス指標投影光学系及びそれを移動する機構を備えていない。代わりに、眼科装置1は、後述する新規な技術でフォーカス調整を実行する。この新規な技術は、既存の同種の眼科装置にも設けられているハードウェア要素を新規な方法で利用するものである。いくつかの態様に係る新規な技術ではフォーカス専用ハードウェア要素は不要であり、別のいくつかの態様ではフォーカス指標投影光学系及びその移動機構のような複雑且つ大規模なフォーカス専用ハードウェア要素は不要である。
【0100】
プロセッサ4は、様々な制御処理や様々な演算処理を実行するように構成されている。例えば、プロセッサ4は、少なくとも、撮影部(撮影ユニット2、フォーカス調整ユニット)の制御(撮影制御)を実行するように構成されている。また、本例の眼科装置1は、新規なフォーカス調整を実行するために、スリット光投射制御、条件決定処理、及びフォーカス調整制御を含む一連の処理を実行するように構成されていてよい。眼科装置1は、この一連の処理を実行することによって(すなわち、新規なソフトウェア要素を備えた構成を採用することによって)、フォーカス専用ハードウェア要素を用いずに、又は、複雑且つ大規模なフォーカス専用ハードウェア要素を用いずに、フォーカス調整を実行することが可能である。
【0101】
プロセッサ4の構成の非限定的な例を図6に示す。本例のプロセッサ4は、撮影制御部410と、フォーカス処理部420とを含む。
【0102】
撮影制御部410は、被検眼Eの眼底Efにスリットスキャンを適用するために撮影ユニット2の制御及び/又はフォーカス調整ユニット3の制御を実行する。詳細は後述するが、撮影制御部410は、フォーカス処理部420により実行されたフォーカス調整によって取得された被検眼Eの視度データと、メモリ5に記憶されている補正情報とに基づいて撮影ユニット2の制御及び/又はフォーカス調整ユニット3の制御を実行する。
【0103】
フォーカス処理部420は、フォーカス専用ハードウェア要素を用いることなく又は複雑且つ大規模なフォーカス専用ハードウェア要素を用いることなく実行される新規なフォーカス調整のための処理を実行する。非限定的な例に係るフォーカス処理部420は、スリット光投射制御を実行するように構成された投射制御部421と、条件決定処理を実行するように構成されたフォーカス条件決定部422と、フォーカス調整制御を実行するように構成されたフォーカス調整制御部423を含む。
【0104】
投射制御部421によって実行されるスリット光投射制御は、フォーカス調整のためのスリット光を被検眼Eの眼底Efに投射するために実行される撮影ユニット2の制御処理である。スリット光投射制御の態様は任意であってよく、そのいくつかの非限定的な例を後に説明する。
【0105】
フォーカス条件決定部422によって実行される条件決定処理は、スリット光投射制御により眼底Efに投射されたスリット光の戻り光を検出した撮像装置50からの出力に基づいてフォーカス調整条件を決定するために実行される演算処理である。条件決定処理の態様は任意であってよく、そのいくつかの非限定的な例を後に説明する。
【0106】
条件決定処理により生成されたフォーカス調整条件は、被検眼Eの視度データ又はそれと等価な情報を含んでいる。本例とは別のフォーカス調整方法が用いられる場合においても同様に、そのフォーカス調整処理において生成される情報は、被検眼Eの視度データ又はそれと等価な情報を含んでいる。
【0107】
フォーカス調整制御は、条件決定処理により決定されたフォーカス調整条件に基づいて撮影ユニット2のフォーカス状態を調整するために実行されるフォーカス調整ユニット3の制御処理であり、フォーカス調整制御部423によって実行される。フォーカス調整制御の態様は任意であってよく、そのいくつかの非限定的な例を後に説明する。
【0108】
図2に示す例においては、フォーカス調整ユニット3は、撮影ユニット2の要素のうち、スリット開口絞り22を移動する移動機構22Mと、フォーカスレンズ47を移動する移動機構47Mとを含む。
【0109】
この場合、条件決定処理は、照明光学系20のフォーカス調整を行うための(つまり、照明光学系20の焦点位置を調整するための)移動機構22Mの制御条件と、撮影光学系40のフォーカス調整を行うための(つまり、撮影光学系40の焦点位置を調整するための)移動機構47Mの制御条件とを決定するように実行される。移動機構22Mの制御条件は、スリット開口絞り22を移動する方向及び量(距離)を示す情報を含む。移動機構47Mの制御条件は、フォーカスレンズ47を移動する方向及び量(距離)を示す情報を含む。これらの制御条件は、対象要素の移動方向及び移動量に対応した別の情報を含んでいてもよく、例えば、移動機構22M(移動機構47M)に送信される制御信号の内容(例えば、制御パルスの個数)を示す情報を含んでいてよい。
【0110】
更に、フォーカス調整制御は、条件決定処理により決定された移動機構22Mの制御条件に基づき移動機構22Mを制御し、且つ、移動機構47Mの制御条件に基づき移動機構47Mを制御するように実行される。
【0111】
いくつかの態様では、ここに説明したようにフォーカスレンズ47を移動することによって撮影光学系40のフォーカス調整を行っているが、別のいくつかの態様では撮像装置50(イメージセンサー51)を移動することによって撮影光学系40のフォーカス調整を行ってもよい。後者の態様では、撮像装置50(イメージセンサー51)を移動するための移動機構が設けられ、条件決定処理はこの移動機構の制御条件を決定し、フォーカス調整制御はこの制御条件に基づき当該移動機構を制御することによって撮像装置50(イメージセンサー51)を移動する。
【0112】
いくつかの態様では、投射制御部421は、まず、光スキャナー30によるスリット光の偏向方向を所定の方向に固定する。つまり、投射制御部421は、光スキャナー30の反射面(ミラー面)の向きを所定の向きに固定する。
【0113】
このように光スキャナー30の動作(ミラー面の向きを変える動作)を停止した状態で、投射制御部421は、スリット光を眼底Efに投射するように撮影ユニット2を制御する。撮影ユニット2は、撮影光学系40及び撮像装置50により、光スキャナー30の動作を停止した状態で眼底Efに投射されたスリット光を検出する。これにより得られた画像はフォーカス条件決定部422に入力される。
【0114】
フォーカス条件決定部422は、この画像を解析することによってフォーカス調整条件を決定する。より具体的には、フォーカス条件決定部422は、光スキャナー30の動作を停止した状態で取得された画像を解析することにより、光スキャナー30の動作を停止した状態で眼底Efに投射されたスリット光の像(つまり、このスリット光に対応するスリット光像)の位置を特定する処理と、特定されたスリット光像の位置に基づいてフォーカス調整条件を決定する処理とを実行する。フォーカス条件決定部422が実行するこれらの処理については、その非限定的な例を後述する。
【0115】
いくつかの態様では、投射制御部421は、被検眼Eの眼底Efに投射される位置が異なる少なくとも2つのスリット光を出力するように撮影ユニット2を制御する。ここでは2つのスリット光(第1のスリット光及び第2のスリット光)を用いる場合について説明するが、3つ以上のスリット光を用いる場合についても同様の要領で実行できることは、当業者であれば理解することができるであろう。第1のスリット光及び第2のスリット光は、例えば、順次に又は同時に出力される。
【0116】
被検眼Eの眼底Efにおける投射位置が異なる第1のスリット光及び第2のスリット光を生成する方法は任意である。いくつかの態様では、図3に示す2つの開口部21A及び21B(第1の開口部21A及び第2の開口部21Bと呼ぶ)を有する虹彩絞り21を利用することができる。なお、これらの態様は、例えば、光スキャナー30によるスリット光の偏向方向が所定の方向に固定された状態(つまり、光スキャナー30のミラー面の向きが所定の向きに固定された状態)で実行されてよい。
【0117】
例えば、第1の開口部21Aを通過した光に基づき生成されるスリット光を第1のスリット光として使用し、第2の開口部21Bを通過した光に基づき生成されるスリット光を第2のスリット光として使用することによって、被検眼Eの眼底Efにおける投射位置が異なる第1のスリット光及び第2のスリット光を生成することができる。
【0118】
そのために採用可能な1つの構成例では、第1の開口部21Aを遮閉及び開放するための第1のシャッターと、第2の開口部21Bを遮閉及び開放するための第2のシャッターとが設けられており、投射制御部421の制御の下に第1の開口部21A及び第2の開口部21Bを交互に遮閉/開放することによって、被検眼Eの眼底Efにおける投射位置が異なる第1のスリット光と第2のスリット光とを逐次に生成することができる。例えば、第1の開口部21Aを開状態とし且つ第2の開口部21Bを閉状態とすることによって第1のスリット光を選択的に生成することができ、第1の開口部21Aを閉状態とし且つ第2の開口部21Bを開状態とすることによって第2のスリット光を選択的に生成することができる。また、双方の開口部21A及び21Bを開放することによって第1のスリット光と第2のスリット光とを同時に生成することができる。
【0119】
本態様で使用される第1のシャッター及び第2のシャッターは、既存の同種の眼科装置に設けられているフォーカス専用ハードウェア要素(フォーカス指標投影光学系及びその移動機構)と比較して、極めてシンプルで小規模なデバイスである。
【0120】
別の構成例では、光源10が、第1の開口部21Aのみを通過する光を発する第1の光源と、第2の開口部21Bのみを通過する光を発する第2の光源とを含んでおり、投射制御部421の制御の下に第1の光源と第2の光源とを交互に点灯させることによって、被検眼Eの眼底Efにおける投射位置が異なる第1のスリット光と第2のスリット光とを逐次に生成することができる。例えば、第1の光源を点灯状態とし且つ第2の光源を消灯状態とすることによって第1のスリット光を選択的に生成することができ、第1の光源を消灯状態とし且つ第2の光源を点灯状態とすることによって第2のスリット光を選択的に生成することができる。また、第1の光源及び第2の光源の双方を点灯することによって第1のスリット光と第2のスリット光とを同時に生成することができる。
【0121】
本態様で使用される第1の光源及び第2の光源は、既存の同種の眼科装置に設けられているフォーカス専用ハードウェア要素(フォーカス指標投影光学系及びその移動機構)と比較して、極めてシンプルで小規模なデバイスである。
【0122】
第1のスリット光及び第2のスリット光を生成するための別のいくつかの態様では、光スキャナー30を利用することができる。本態様では、投射制御部421は、光スキャナー30のミラー面を第1の向きに配置することによって第1のスリット光を生成し、第2の向きに配置することによって第2のスリット光を生成することによって、被検眼Eの眼底Efにおける投射位置が異なる第1のスリット光及び第2のスリット光を生成することができる。本態様では、ハードウェア要素の追加を行うことなく第1のスリット光及び第2のスリット光を生成することができる。
【0123】
以上に説明したいずれかの方法又は別の方法により、投射制御部421は、被検眼Eの眼底Efに投射される位置が異なる第1のスリット光及び第2のスリット光を撮影ユニット2に出力させる。
【0124】
撮影ユニット2は、撮影光学系40及び撮像装置50により、被検眼Eの眼底Efにおける第1のスリット光の投影像(第1のスリット光像)が描出されている第1の画像と、被検眼Eの眼底Efにおける第2のスリット光の投影像(第2のスリット光像)が描出されている第2の画像とを取得する。第1のスリット光及び第2のスリット光が逐次に生成された場合、つまり、被検眼Eの眼底Efに対する第1のスリット光の投射と第2のスリット光の投射とが別々に行われた場合、第1の画像と第2の画像とは別々の画像である。また、第1のスリット光及び第2のスリット光が同時に生成された場合、つまり、被検眼Eの眼底Efに対する第1のスリット光の投射と第2のスリット光の投射とが同時に行われた場合には、第1の画像と第2の画像とは同じ画像である。
【0125】
フォーカス条件決定部422は、第1の画像から第1のスリット光像を検出し、第1の画像における第1のスリット光像の位置を示す第1の位置情報を求める。同様に、フォーカス条件決定部422は、第2の画像から第2のスリット光像を検出し、第2の画像における第2のスリット光像の位置を示す第2の位置情報を求める。例えば、第1の位置情報は、第1の画像に定義されている座標系(例えば、ピクセル位置を表現する座標系)で表される1つ以上の座標であり、第2の位置情報は、第2の画像に定義されている座標系(例えば、ピクセル位置を表現する座標系)で表される1つ以上の座標である。
【0126】
フォーカス条件決定部422は、第1のスリット光像と第2のスリット光像との相対位置に基づいてフォーカス調整条件を決定する。より具体的には、フォーカス条件決定部422は、第1の位置情報に示された第1のスリット光像の座標(第1の座標)と、第2の位置情報に示された第2のスリット光像の座標(第2の座標)との差を求め、この座標の差に基づいてフォーカス調整条件を決定することができる。
【0127】
次に、本例に係るフォーカス調整の原理及びいくつかの非限定的な具体例について説明する。
【0128】
そのために、まず、フォーカス調整で使用されるスリット光を被検眼Eの眼底Efに投射する照明光学系20の光路について説明する。図7は、図2図4に示す光学系によって形成される光路の非限定的な例を表す。図7の上段は平面図であり、下段は側面図である。また、図7の各光路は、虹彩絞り21の2つの開口部21A及び21Bを物点位置とした場合の光路である。
【0129】
光源10により出力された光は、虹彩絞り21を照明する。虹彩絞り21の第1の開口部21Aを通過した光(第1の光)の一部がスリット開口絞り22のスリット22Aを通過することによって第1のスリット光が生成される。同様に、虹彩絞り21の第2の開口部21Bを通過した光(第2の光)の一部がスリット開口絞り22のスリット22Aを通過することによって第2のスリット光が生成される。
【0130】
ここで、第1の開口部21Aを通過する第1の光は、例えば、前述した第1のシャッターが開状態であるときに第1の開口部21Aを通過した光、又は、前述した第1の光源から発せられて第1の開口部21Aを通過した光であってよい。同様に、第2の開口部21Bを通過する第2の光は、例えば、前述した第2のシャッターが開状態であるときに第2の開口部21Bを通過した光、又は、前述した第2の光源から発せられて第2の開口部21Bを通過した光であってよい。
【0131】
照明光学系20において、虹彩絞り21(第1の開口部21A及び第2の開口部21B)と、光スキャナー30と、ホールミラー45とは、互いに光学的に略共役な位置関係で配置されている。アライメントが適切な状態において、照明光学系20のこれらの要素は、前眼部Ea(例えば、瞳孔)に対して光学的に略共役な位置に配置される。
【0132】
虹彩絞り21及びスリット開口絞り22により生成された第1のスリット光は、リレーレンズ23によりリレーされて光スキャナー30のミラー面において結像するとともに、このミラー面によって偏向される。光スキャナー30により偏向された第1のスリット光は、リレーレンズ31によりリレーされてホールミラー45の反射部(ミラー部)において結像するとともに、この反射部によって偏向される。ホールミラー45により偏向された第1のスリット光は、対物レンズ46により収束光に変換されて被検眼Eに入射し、前眼部Ea(例えば、瞳孔)において一旦結像し、眼底Efに投射される。第1のスリット光が眼底Efに投射されている状態において撮影光学系40及び撮像装置50を用いた撮影を行うことにより、第1のスリット光に対応する第1のスリット光像が描出されている画像(前述した第1の画像)が得られる。
【0133】
同様に、虹彩絞り21及びスリット開口絞り22により生成された第2のスリット光が眼底Efに投射されている状態において撮影光学系40及び撮像装置50を用いた撮影を行うことにより、第2のスリット光に対応する第2のスリット光像が描出されている画像(前述した第2の画像)が得られる。
【0134】
照明光学系20のピントが眼底Efに合っている場合、図8に示すように、第1のスリット光L1及び第2のスリット光L2は、眼底Efの略同じ位置に投射される。換言すると、照明光学系20のピントが眼底Efに合っている場合、第1のスリット光L1と第2のスリット光L2との交差位置Cは眼底Ef上に配置される。
【0135】
一方、照明光学系20のピントが眼底Efに合っていない場合には、図9に示すように、第1のスリット光L1が投射される眼底Ef上の位置と、第2のスリット光L2が投射される眼底Ef上の位置とが異なる。換言すると、照明光学系20のピントが眼底Efに合っていない場合、第1のスリット光L1と第2のスリット光L2との交差位置Cは、眼底Efから離隔した位置に配置される。
【0136】
なお、図9の上段の図は、第1のスリット光L1と第2のスリット光L2との交差位置Cが眼底Efよりも前側(前眼部Ea側)に配置されている状態、つまり、眼底Efに対していわゆる「前ピン」の状態を表している。下段の図は、第1のスリット光L1と第2のスリット光L2との交差位置Cが眼底Efよりも後側に配置されている状態、つまり、眼底Efに対していわゆる「後ピン」の状態を表している。
【0137】
図8に示すように照明光学系20のピントが眼底Efに合っている場合、第1のスリット光L1と第2のスリット光L2とが眼底Efの略同じ位置に投射される。その場合に取得される眼底画像の例を図10に示す。図10の眼底画像には、第1のスリット光L1の眼底投影像である第1のスリット光像G1と、第2のスリット光L2の眼底投影像である第2のスリット光像G2とが、略同じ位置に描出されている。
【0138】
一方、図9に示すように照明光学系20のピントが眼底Efに合っていない場合、第1のスリット光L1と第2のスリット光L2とが眼底Efの互いに異なる位置に投射される。その場合に取得される眼底画像の例を図11に示す。
【0139】
図11の左側の眼底画像は、図9の上段の場合のような「前ピン」の場合に得られる画像である。この眼底画像には、第1のスリット光L1の眼底投影像である第1のスリット光像G1と、第2のスリット光L2の眼底投影像である第2のスリット光像G2とが互いに異なる位置に描出されている。より具体的には、この眼底画像のフレームの上下方向における中心位置よりも下側に第1のスリット光像G1が描出されており、且つ、上側に第2のスリット光像G2が描出されている。
【0140】
また、図11の右側の眼底画像は、図9の下段の場合のような「後ピン」の場合に得られる画像である。この眼底画像には、第1のスリット光L1の眼底投影像である第1のスリット光像G1と、第2のスリット光L2の眼底投影像である第2のスリット光像G2とが互いに異なる位置に描出されている。より具体的には、この眼底画像のフレームの上下方向における中心位置よりも上側に第1のスリット光像G1が描出されており、且つ、下側に第2のスリット光像G2が描出されている。
【0141】
このように、本例に係るフォーカス調整(オートフォーカス)は、既存のスリットスキャン方式の眼底撮影モダリティが備えているハードウェア要素を利用して実行されるため、既存の同種の眼科装置のような(複雑且つ大規模な)フォーカス専用ハードウェア要素を用いる必要がない。更に、本例に係るフォーカス調整によれば、眼底Efに対する撮影ユニット2のピントがずれている方向を特定することが可能である(つまり、フォーカス状態が前ピンであるか後ピンであるかを判別することが可能である)。加えて、詳細については後述するが、本例に係るフォーカス調整によれば、眼底Efに対して撮影ユニット2のピントがずれている量を求めることも可能である。
【0142】
詳細については後述するが、いくつかの態様では、第1のスリット光L1と第2のスリット光とを別々に眼底Efに投射することによって第1のスリット光像G1が描出された第1の画像と第2のスリット光像G2が描出された第2の画像とを取得し、これら2つの画像を比較することによってフォーカス状態に関するパラメータ(例えば、ピントのズレ方向及び/又はズレ量)を特定することができる。
【0143】
別のいくつかの態様では、特性(例えば、波長、強度(光量))が異なる第1のスリット光L1と第2のスリット光L2とを同時に眼底Efに投射することによって1つの画像を取得し、この画像における第1のスリット光像G1と第2のスリット光像G2との相対位置に基づいてフォーカス状態に関するパラメータ(例えば、ピントのズレ方向及び/又はズレ量)を特定することができる。なお、第1のスリット光L1と第2のスリット光とを別々に眼底Efに投射する場合において、特性が異なる第1のスリット光L1と第2のスリット光L2とを眼底Efに投射してもよい。
【0144】
フォーカス条件決定部422は、図8図11を参照して説明した上記原理に基づいてフォーカス調整条件(被検眼Eの視度データ)を決定する。フォーカス条件決定部422は、スリット光投射制御により被検眼Eの眼底Efに投射されたスリット光(例えば、第1のスリット光L1、第2のスリット光L2)の戻り光を検出した撮像装置50からの出力(例えば、第1の画像、第2の画像)に基づいてフォーカス調整条件を決定するように構成される。
【0145】
いくつかの態様では、フォーカス条件決定部422は、スリット光投射制御により被検眼Eの眼底Efに投射されたスリット光(例えば、第1のスリット光L1、第2のスリット光L2)の戻り光を検出した撮像装置50により生成された画像(例えば、第1の画像、第2の画像)中のスリット光像(例えば、第1のスリット光像G1、第2のスリット光像G2)の位置に基づいてフォーカス調整条件を決定するように構成されてよい。
【0146】
眼底画像中のスリット光像の位置を求める方法は任意である。いくつかの態様のフォーカス条件決定部422は、撮影ユニット2によるスリット光の投射位置の移動方向に対応する第1の方向に沿ったスリット光像の少なくとも一部の画像領域の輝度プロファイルに基づいてスリット光像の位置を決定する。
【0147】
いくつかの態様において、スリット開口絞り22のスリット22Aのスリット長方向はX方向に対応しており、スリット光の投射位置の移動方向(スキャン方向)はY方向である。撮影ユニット2により取得される眼底画像においてX方向に対応する方向を同じくX方向と呼び、Y方向に対応する方向も同じくY方向と呼ぶことにする。眼底画像に描出されるスリット光像の長手方向はX方向である。
【0148】
フォーカス条件決定部422は、まず、スリット光像の輝度プロファイルを生成する。この輝度プロファイルは、スリット光像の全体に対して定義されてもよいし、スリット光像の一部の画像領域に対して定義されてもよい。また、フォーカス条件決定部422は、輝度プロファイルを生成するための準備として、眼底画像の少なくとも一部にセグメンテーションを適用して眼底画像中のスリット光像を特定することによって、輝度プロファイル生成処理を適用する範囲を決定してもよい。フォーカス条件決定部422により生成される輝度プロファイルは、スキャン方向(実空間におけるY方向)に対応した第1の方向(眼底画像におけるY方向)における輝度の分布を表す。
【0149】
図12Aに示す眼底画像からに描出されているスリット光像Gの輝度プロファイルを生成する場合について説明する。図12Aにおいて、X方向(+X方向)は右方向であり、Y方向(+Y方向)は下方向であるとする。
【0150】
フォーカス条件決定部422は、まず、輝度プロファイルを生成するための解析領域Hを眼底画像に対して設定する(図12Bを参照)。前述したように、セグメンテーションを利用して解析領域Hを設定してもよいし、既定の位置に解析領域Hを設定してもよい。
【0151】
例示的な解析領域Hには、複数のピクセルがX方向及びY方向に(つまり、2次元的に)配列されている。換言すると、解析領域Hには、Y方向に沿ったピクセル列が複数個含まれており、これら複数のピクセル列がX方向に配列されている。フォーカス条件決定部422は、解析領域Hに2次元的に配列されている複数のピクセルの輝度値をX方向に加算することによって、Y方向に沿った輝度プロファイルを生成することができる。
【0152】
別のいくつかの態様では、Y方向に沿った線状の解析領域(1次元的な解析領域)を設定し、この1次元的な解析領域の輝度プロファイルを生成してもよい。この方法は簡便であるというメリットはあるものの、1次元的な解析領域にノイズが混入している場合にはその影響が輝度プロファイルにそのまま反映されるというデメリットがある。したがって、2次元的な解析領域(H)を用いる方法には、ノイズの影響を小さくすることができるという利点がある。また、2次元的な解析領域(H)を用いる方法によれば、スリット光像Gの輝度と他の画像領域の輝度との違い(一般的に、前者は大きく、後者は小さい)を強調することができるため、輝度プロファイルの品質(例えば、精度、確度、再現性)の向上を図ることが可能になる。
【0153】
スリット光像Gの輝度プロファイルの例を図12Cに示す。いくつかの態様において、フォーカス条件決定部422は、輝度プロファイルPの最大値(MAX)と最小値(MIN)とを求め、それらの中間(真ん中)の値THを求める:TH=(MAX-MIN)/2。フォーカス条件決定部422は、輝度プロファイルPと直線「輝度=TH」との交点を求める。このような交点は2つ存在する。2つの交点のY座標をY1及びY2とする。フォーカス条件決定部422は、特定された2つの交点のY座標Y1及びY2の中間(真ん中)の値Y(G)を求める:Y(G)=abs(Y1-Y2)/2。ここで、abs(α)は値αの絶対値を表す。本態様では、このようにして得られた値Y(G)が、スリット光像Gの位置(代表位置、重心位置)として採用される(図12Dを参照)。
【0154】
スリット光像の位置を求める方法は上記方法に限定されない。例えば、上記方法では、輝度プロファイルの最大値(MAX)と最小値(MIN)との中間の値TH(TH=(MAX-MIN)/2)を求めているが、より一般に、演算式「TH=(MAX-MIN)/R」を用いることができる。ここで、Rは、予め設定された実数、又は、輝度プロファイル(又はそれと同等の情報)に基づき設定された実数であってよい。
【0155】
また、いくつかの態様では、輝度プロファイルの曲線下面積(AUC)を考慮することによってスリット光像の位置を求めてもよい。例えば、輝度プロファイル全体の曲線下面積をAとしたとき、曲線下面積Aを所定の比率に分割するY座標を求め、このY座標をスリット光像の位置(代表位置、重心位置)として採用することができる。具体例として、輝度プロファイル全体の曲線下面積Aを1:1に分割するY座標をスリット光像として求めることができる。
【0156】
別のいくつかの態様では、値THは固定値であってもよい。この固定値THを決定する方法は任意である。例えば、固定値THは、臨床的に収集された多数のデータに統計演算を適用することによって求められてもよいし、模型眼を利用した測定で得られたデータに基づき求められてもよいし、レイトレーシングなどのコンピュータシミュレーションを利用して求められてもよいし、これらの任意の組み合わせによって求められてもよいし、別の手法を用いて求められてもよい。
【0157】
フォーカス条件決定部422は、このようにして取得されたスリット光像の位置情報に基づいてフォーカス調整条件を決定する。
【0158】
まず、スリット光像の位置(Y座標)からフォーカス調整条件(スリット開口絞り22の位置の調整量、フォーカスレンズ47の位置の調整量)を決定するために実行される処理の原理について、図13A及び図13Bを更に参照しつつ説明する。
【0159】
図13Aは、照明光学系により被検眼Eの眼底Efに投射される光の経路を表している。符号100は被検眼Eの光軸E0上にある所定のターゲット100を示す。符号110はターゲット100と被検眼Eとの間にある光学系を示し、この光学系110の焦点距離をFとする。被検眼Eの眼軸長をLとし、屈折力をDとする。
【0160】
ターゲット100から照射された光(平行光)120が光学系110を経由して被検眼Eに投射される場合を考える。被検眼Eに入射する光120の高さ(光軸E0からの距離)をhとする。被検眼Eに入射した光120は、眼球光学系(角膜、水晶体など)により屈折され、眼底Efの位置130に投射される。
【0161】
ここで、図2図4に示す光学系において、光120の高さhは、被検眼Eの瞳孔に対して光学的に略共役に配置される虹彩絞り21の2つの開口部21A及び21Bの間の距離の半分の値となる。
【0162】
被検眼Eが正視(0ディオプター)である場合、眼底Efにおける光120の投射位置130は眼底Efの中心(つまり、光軸E0上)に配置される。これに対し、被検眼Eが正視でない場合、眼底Efにおける光120の投射位置130は、光軸E0から距離Δだけ偏位した位置となる(偏位量Δ>0)。
【0163】
被検眼Eの屈折力Dに相当する眼底Efに対する共役点を符号140で示す。被検眼Eからこの共役点140までの距離をL´で示す。ここで、L´=1000/Dである。そうすると、図13Aから分かるようにΔ/L=h/L´であるから、Δ=L×h/L´となる。前述したように光120の高さhは虹彩絞り21により決定される固定値であるから、眼底Efにおける光120の投射位置130の被検眼Eの光軸E0に対する偏位量Δは、被検眼Eの屈折力D(つまり、被検眼Eと共役点140との間の距離L´)、及び、被検眼Eの眼軸長Lに依存して変化する。なお、ターゲット100の形状がリング状や弧状である場合においても同様に、眼底Efにおける光120の投射位置130が被検眼Eの光軸E0に対して偏位する量はΔで表される。
【0164】
図13Bは、被検眼Eの光軸E0に対してΔだけ偏位した眼底Ef上の位置に投影されたターゲット像(ターゲット100の投影像)を光軸E0と同軸に配置された撮影光学系で撮影する場合における光の経路を表している。符号160は撮像面(撮像装置50の撮像面)を示し、符号150は被検眼Eと撮像面160との間にある光学系を示す。この光学系150の焦点距離は、図13Aの光学系110のそれと同じくFとする。
【0165】
被検眼Eが正視である場合、眼底Efの投射位置130から出射した光170は、光学系150を経由し、撮像面160と光軸E0とが交差する位置において結像する。これに対し、被検眼Eが正視でない場合には、撮像面160における光170の結像位置は、光軸E0から距離Δ´だけ偏位した位置となる(偏位量Δ´>0)。このとき、光軸E0に沿った方向(Z方向)における結像位置も偏位する。
【0166】
図13Bから分かるようにΔ/L=Δ´/Fであるから、Δ´=F×Δ/Lとなる。上記のようにΔ=L×h/L´であるから、Δ´=F×h/L´となる。更に、L´=1000/Dであるから、Δ´=F×h×D/1000となる。
【0167】
したがって、特定の経線における被検眼Eの屈折力Dは次式により表される:D=(1000×Δ´)/(F×h)。ここで、Fは撮影光学系の焦点距離であり、hは虹彩絞り21の2つの開口部21A及び21Bの間の距離の半分の値であり、ともに既知である。よって、撮像面160における光170の偏位量Δ´を取得することで、特定の経線における被検眼Eの屈折力Dが得られる。
【0168】
本例に係る眼科装置1と同種の既存の眼科装置は、被検眼の屈折力と、フォーカス調整用光学素子(前述したフォーカス指標投影光学系、及びフォーカスレンズ)の調整量(移動距離)との間の関係を表す情報を予め有しており、この情報を参照することによって被検眼の屈折力に応じたフォーカス調整を行っている。
【0169】
同様に、いくつかの態様の眼科装置1は、被検眼の屈折力と、フォーカス調整用光学素子(図2図4に示す光学系においてはスリット開口絞り22及びフォーカスレンズ47)の調整量(移動距離)との間の関係を表す情報を予め有している。眼科装置1は、この情報を参照することによって、撮像装置50により生成された画像中のスリット光像の位置に基づいてフォーカス調整条件を決定することができる。このフォーカス調整条件は、スリット開口絞り22の移動方向及び移動量(又は、これらに対応する情報)と、フォーカスレンズ47の移動方向及び移動量(又は、これらに対応する情報)とを含んでいる。
【0170】
別のいくつかの態様の眼科装置1は、2つのスリット光像の相対位置(Y方向における間隔)と、フォーカス調整用光学素子の調整量との間の関係を表す情報を予め有している。この場合、眼科装置1は、この情報を参照することによって、撮像装置50により生成された画像中のスリット光像の位置に基づいてフォーカス調整条件を決定することができる。
【0171】
より一般に、本例に係る眼科装置1は、スリット光が投射されている眼底Efを撮影して生成された情報(典型的には、画像)から取得可能な任意の情報に基づいてフォーカス調整条件を決定するように構成されていてよい。
【0172】
フォーカス調整制御部423は、例えば上記のいずれかの要領でフォーカス条件決定部422により決定されたフォーカス調整条件に基づいてフォーカス調整ユニット3の制御(フォーカス調整制御)を実行する。本例のフォーカス調整制御は、フォーカス調整条件に含まれるスリット開口絞り22の移動方向及び移動量(又は、これらに対応する情報)に基づいて移動機構22Mを制御する処理と、フォーカス調整条件に含まれるフォーカスレンズ47の移動方向及び移動量(又は、これらに対応する情報)に基づいて移動機構47Mを制御する処理とを含んでいる。
【0173】
いくつかの態様では、スリット開口絞り22とフォーカスレンズ47とを単一の移動機構で駆動するように構成されていてよい。この場合、フォーカス条件決定部422は、1つのフォーカス調整条件を決定するように構成されていてよく、且つ、フォーカス調整制御部423は、この1つのフォーカス調整条件に基づいてこの単一の移動機構を制御するように構成されていてよい。
【0174】
上記の例示的な態様では、眼科装置1は、スリット光投射制御において、被検眼Eの眼底Efに投射されるスリット光を撮影ユニット2の光軸(アライメントが適切な状態では、撮影ユニット2の光軸Oは被検眼Eの光軸E0に略一致される)に対して所定距離(高さh)だけ離隔した位置(虹彩絞り21の開口部21A又は21B)から発するように撮影ユニット2の制御を行う。
【0175】
更に、眼科装置1は、条件決定処理において、この所定距離(高さh)と、撮影ユニット2の撮像装置50により生成された画像におけるスリット光像の位置(偏位量Δ´)と、撮影ユニット2の焦点距離(F)とに基づいてフォーカス調整条件(スリット開口絞り22の移動方向及び移動量又はこれらに対応する情報、並びに、フォーカス調整条件に含まれるフォーカスレンズ47の移動方向及び移動量又はこれらに対応する情報)を決定する。
【0176】
そして、眼科装置1は、条件決定処理により得られたフォーカス調整条件に基づいてフォーカス調整ユニット3(移動機構22M及び移動機構47M)の制御を行う。
【0177】
なお、本実施形態に係る眼科装置1の1つの特徴は、フォーカス調整ユニット3により実行された撮影ユニット2のフォーカス調整によって取得された被検眼Eの視度データと、メモリ5に補正情報とに基づいて、撮影ユニット2及び/又はフォーカス調整ユニット3の制御を実行することであり、すなわち、フォーカス調整で得られた情報(被検眼の屈折度数、被検眼の視度データ)の利用に関するものであって、フォーカス調整技術そのものの内容に関するものではない。したがって、別のいくつかの実施形態に係る眼科装置は、前述した新規なフォーカス調整方法を実行するための構成の代わりに、又は、当該構成に加えて、既存のフォーカス専用ハードウェア要素(及び、それを制御するためのソフトウェア要素)、及び/又は、別のフォーカス専用ハードウェア要素(及び、それを制御するためのソフトウェア要素)を備えていてもよい。
【0178】
次に、被検眼Eの視度データと補正情報とに基づく撮影ユニット2及び/又はフォーカス調整ユニット3の制御(撮影制御)の背景及び概要を説明する。
【0179】
図14Aの上段の図は被検眼Eが正視眼E1である場合における光の経路を表し、下段の図は被検眼Eが強度近視眼E2である場合における光の経路の場合を表す。破線で示す光L1は前述の第1のスリット光であり、点線で示す光L2は前述の第2のスリット光である。
【0180】
本例においては、眼軸を基準とした角度によって眼底位置が表現されているが、前述したように眼底位置の表現方法はこれに限定されない。また、本例では、眼底位置の範囲(スリットスキャンが適用される範囲。スリットスキャン範囲と呼ぶ。)がマイナス25度からプラス25度の範囲に設定されているが、スリットスキャン範囲はこれに限定されず任意であってよい。なお、スリットスキャンの範囲が広いほど眼底周辺部におけるスリット光の投射位置ズレも大きくなるは、当業者であれば理解することができるであろう。
【0181】
正視眼E1の眼球形状は略球形であるため、図14Aの上段の図に示すように、スリットスキャン範囲の全体にわたって第1のスリット光L1の投射位置と第2のスリット光L2の投射位置とは略一致する。したがって、正視眼E1にスリットスキャンを適用する場合には、図14Bの上段の図に示すように、スリットスキャン範囲の全体を略均一な明るさ(強度)のスリット光でスキャンすることができ、全体にわたって輝度ムラのない画像H1が得られる。符号J1は、画像H1における輝度分布(スリットスキャン範囲におけるスリット光の強度分布)を表しており、特に、眼底位置0度近傍における輝度値、眼底位置マイナス25度近傍における輝度値、及び、眼底位置プラス25度近傍における輝度値を示している。
【0182】
これに対し、強度近視眼E2においては、眼球形状が略楕円形状(典型的には、眼軸方向を長軸とする楕円形状)であるため、図14Aの下段の図に示すように、眼底位置0度及びその近傍では第1のスリット光L1の投射位置と第2のスリット光L2の投射位置とが略一致するものの、眼底位置0度から離れた位置(眼底周辺部)では第1のスリット光L1の投射位置と第2のスリット光L2の投射位置との間にズレが生じる。したがって、強度近視眼E2にスリットスキャンを適用する場合には、図14Bの下段の図に示すように、スリットスキャン範囲の全体を略均一な明るさ(強度)のスリット光でスキャンすることができず、輝度ムラのある画像H2が得られることとなる。符号J2は、画像H2における輝度分布(スリットスキャン範囲におけるスリット光の強度分布)を表しており、特に、眼底位置0度近傍における輝度値、眼底位置マイナス25度近傍における輝度値、及び、眼底位置プラス25度近傍における輝度値を示している。眼底位置マイナス25度近傍及び眼底位置プラス25度近傍においては、正視眼E1の画像H1と比較して、輝度が低下していることが分かる。なお、図14A及び図14Bにおいては、眼底中心部におけるスリット光の投射強度と眼底周辺部におけるスリット光の投射強度とを比較するために、眼底位置0度近傍、眼底位置マイナス25度近傍、及び眼底位置プラス25度近傍における状態のみが表されている。
【0183】
このような輝度ムラを解決するために、本実施形態に係る眼科装置1は、被検眼Eの視度データと補正情報とに基づく撮影ユニット2及び/又はフォーカス調整ユニット3の制御(撮影制御)を実行する。
【0184】
補正情報の非限定的な例を図15に示す。本例の補正情報5aはメモリ5に記憶されている。補正情報5aはテーブル形式の情報であるが、前述したように補正情報の態様はテーブルに限定されない。補正情報5aには、視度(Dm;m=1、2、3、・・・、M)と眼底位置(Pn;n=1、2、3、・・・、N)とのペアに対応する補正値(Cmn)が記録されている。すなわち、補正情報5aには、視度値Dmと眼底位置Pnとの複数の組み合わせ(Dm、Pn)に対応する複数の補正値Cmnが記録されている。
【0185】
補正情報5aは、スリットスキャン範囲の各眼底位置に投射されるスリット光の明るさが均一になるように設計され作成される。より詳しく説明すると、前述したように撮影ユニット2は被検眼Eの眼底Efにおける複数の領域を順次に撮影することによってスリットスキャンを実行するものであるが、これら複数の領域に対するスリット光の投射強度が略等しくなるように撮影ユニット2及び/又はフォーカス調整ユニット3の制御を実行するために補正情報5aは設計され構成される。
【0186】
補正情報5aの作成方法は任意であってよく、例えば、眼科装置を用いた実際の測定を行うことによって又はコンピュータを用いたシミュレーションを行うことによって補正情報が生成される。補正情報の作成方法については、後述の実施形態においていくつかの具体例を説明する。
【0187】
補正情報5aに記録されている補正値Cmnの種類(つまり、補正されるパラメータの種類)は、被検眼Eの眼底Efに投射されるスリット光の明るさに影響を与える任意のパラメータであってよく、例えば、光源10に関するパラメータ、フォーカス調整ユニット3に関するパラメータなどであってよい。後述の実施形態において補正値Cmnのいくつかの具体例を説明する。
【0188】
第1の実施形態に係る眼科装置1が実行する動作について説明する。眼科装置1の動作の非限定的な例を図16に示す。
【0189】
事前処理として、眼科装置1のメモリ5に補正情報(例えば、補正情報5a)が格納される(S1)。眼科装置1は、被検眼Eの眼底Efの撮影準備を開始する(S2)。本動作例で実行される撮影準備は、眼底Efに対する撮影ユニット2のアライメント(S3)と、眼底Efに対するフォーカス調整(S4)とを含む。
【0190】
ステップS3のアライメントによって、眼底Efを撮影するための適切な位置に撮影ユニット2の光学系が配置される。ステップS3で達成された適切なアライメント状態を維持するためにトラッキングを行ってもよい。トラッキングとは、被検眼Eの動きに合わせて装置光学系を移動することによって、被検眼Eと撮影ユニット2との間の適切な位置関係(適切なアライメント状態)を維持する動作である。
【0191】
前述したように、ステップS4で実行されるフォーカス調整の方法は任意であってよい。ステップS4のフォーカス調整によって被検眼Eの視度データが得られる。例えば、前述したように、ステップS4のフォーカス調整によってフォーカス調整条件が決定され、このフォーカス調整条件に基づき被検眼Eの視度データが得られる。ステップS4で得られた被検眼Eの視度データは、例えば、メモリ5に記録される。
【0192】
撮影準備が完了したら、眼底Efの撮影を開始するための指示が行われる(S5)。この撮影開始指示は、例えば、ユーザーがユーザーインターフェイス6を操作することによって行われ(手動指示)、又は、撮影準備の完了を検知したプロセッサ4によって行われる(オートシュート)。
【0193】
撮影開始の指示を受けたプロセッサ4(撮影制御部410)は、ステップS4のフォーカス調整で取得された被検眼Eの視度データと、ステップS1でメモリ5に記憶された補正情報とに基づいて、撮影ユニット2(及びフォーカス調整ユニット3)を制御する。これにより、眼科装置1は、眼底Efにスリットスキャンを適用する。つまり、眼科装置1は、眼底Efのスリットスキャン範囲における複数の領域を順次に撮影し、これら複数の領域にそれぞれ対応する複数の画像を収集する(S6)。
【0194】
いくつかの態様では、ステップS6において、プロセッサ4は、補正情報に記録されている複数の補正値のうちから、ステップS4のフォーカス調整で取得された被検眼Eの視度データに対応する補正値群を選択する。例えば、図15の補正情報5aが使用され、且つ、ステップS4のフォーカス調整において視度値D2に相当する視度データが得られた場合、プロセッサ4は、補正情報5aに記録されている複数の補正値のうちから、補正値群C2n(C21、C22、C23、・・・、C2N)を選択する。
【0195】
なお、ステップS6で実行されるスリットスキャンの範囲(スリットスキャン範囲)と、補正情報に記録されている眼底位置の範囲とが一致しない場合がある。例えば、スリットスキャン範囲が可変である場合や、補正情報として標準的な情報(汎用的な情報)が使用される場合などにおいて、そのような場合が想定される。
【0196】
そのような場合において、プロセッサ4は、例えば、補正情報に記録されている複数の補正値のうちから、ステップS4のフォーカス調整で取得された被検眼Eの視度データとステップS6で適用されるスリットスキャン範囲との双方に対応する補正値群を選択するように構成されてよい。例えば、図15の補正情報5aが使用され、ステップS4のフォーカス調整において視度値D2に相当する視度データが得られ、且つ、ステップS6で適用されるスリットスキャン範囲が眼底位置P2~P(N-1)に相当する場合、プロセッサ4は、補正情報5aに記録されている複数の補正値のうちから、N-2個の補正値C22~C2(N-1)を選択する。
【0197】
逆に、ステップS6で適用されるスリットスキャン範囲が補正情報に記録されている眼底位置の範囲よりも広い場合も想定される。その場合、プロセッサ4は、例えば、補正情報に記録されている複数の補正値に基づく外挿処理を行うことによって、このスリットスキャン範囲の全体にわたる補正値を取得することができる。例えば、プロセッサ4は、補正情報5aに記録されている複数の補正値C21~C2Nに基づく外挿処理を実行することによって、眼底位置の範囲P1~PNの外部の眼底位置に対応する補正値を求めることができる。
【0198】
また、補正情報に記録されている複数の眼底位置の間隔よりも密な間隔で補正を行う場合も想定される。その場合、プロセッサ4は、例えば、補正情報に記録されている複数の補正値に基づく内挿処理を行うことによって、補正情報に記録されている2つの隣接する眼底位置の間の眼底位置に対応する補正値を取得することができる。例えば、プロセッサ4は、補正情報5aに記録されている複数の補正値C21~C2Nに基づく内挿処理を実行することによって、眼底位置Pnと眼底位置P(n+1)との間の眼底位置(例えば、これら2つの眼底位置の中間の位置)に対応する補正値を求めることができる。
【0199】
プロセッサ4は、ステップS6のスリットスキャンにより収集された複数の画像に基づいて、スリットスキャン範囲に相当する眼底Efの領域の画像を構築する(S7)。このようにして生成された眼底Efの画像は、スリットスキャン範囲の全体にわたって略均一な明るさのスリット光を投射するようにして収集された複数の画像を合成したものであるから、輝度ムラを有しない画像(少なくとも、本動作例を適用せずに取得された画像との比較において輝度ムラが低減されている画像)である。以上で、本動作例は終了となる(エンド)。
【0200】
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係る眼科装置について説明する。第1の実施形態に係る眼科装置1と同様に、第2の実施形態に係る眼科装置は、スリットスキャン方式のモダリティを用いて生体眼の眼底を画像化する眼科イメージング機能を有し、撮影ユニット2、フォーカス調整ユニット3、プロセッサ4、メモリ5、及びユーザーインターフェイス6を含んでいる。第1の実施形態に係る任意の事項を第2の実施形態に係る眼科装置に適用することができる。以下、第1の実施形態に係る事項を適宜に参照しつつ第2の実施形態について説明を行う。
【0201】
第2の実施形態では、フォーカス調整によって取得された被検眼Eの視度データと予め作成された補正情報とに基づく撮影部(撮影ユニット及び/又はフォーカス調整ユニット)の制御について、第1の実施形態よりも詳細に説明する。なお、第2の実施形態で説明される事項は非限定的な例である。
【0202】
第2の実施形態に係る眼科装置は、図6のプロセッサ4の代わりに、図17に示すプロセッサ4Aを備えている。プロセッサ4Aは非限定的な例である。プロセッサ4Aは、図6のプロセッサ4と同様に構成された撮影制御部410及びフォーカス処理部420に加えて、撮影条件決定部430を含んでいる。本実施形態のメモリ5には、図15の補正情報5aが記憶されている。補正情報5aは非限定的な例である。
【0203】
撮影条件決定部430は、フォーカス調整においてフォーカス条件決定部422により生成された被検眼Eの視度データと、メモリ5に記憶されている補正情報5aとに基づいて、被検眼Eの眼底Efのスリットスキャンのために撮影ユニット2及び/又はフォーカス調整ユニット3を制御するための条件(撮影条件)を決定するように構成されている。撮影条件は、被検眼Eに投射されるスリット光の強度に影響を与える任意の条件、換言すると、スリットスキャンで得られる画像の明るさ(輝度、特に輝度分布)に影響を与える任意の条件である。撮影条件決定部430により実行される処理については、後述する別の実施形態において、そのいくつかの非限定的な例を説明する。
【0204】
撮影条件決定部430により決定された撮影条件は撮影制御部410に入力される。撮影制御部410は、入力された撮影条件に基づいて撮影ユニット2の制御及び/又はフォーカス調整ユニット3の制御を実行する。撮影制御部410によって制御される要素(撮影ユニット2のみ、フォーカス調整ユニット3のみ、又は、撮影ユニット2及びフォーカス調整ユニット3の双方)は、固定されていてもよいし、ユーザー又はプロセッサ4によって選択されてもよい。撮影制御部410により実行される処理については、後述する別の実施形態において、撮影条件決定部430により実行される処理とともに、いくつかの非限定的な例を説明する。
【0205】
撮影ユニット2により実行されるスリットスキャンは、被検眼Eの眼底Efにおける複数の領域(つまり、スリットスキャン範囲の複数の部分領域)を順次に撮影することによって実行される。本実施形態の撮影条件決定部430は、これら複数の領域に対するスリット光の投射強度が等しくなるように撮影条件を決定するように構成されている。撮影制御部410は、このようにして決定された撮影条件に基づいて撮影ユニット2の制御及び/又はフォーカス調整ユニット3の制御を実行することができる。これにより、眼底Efのスリットスキャン範囲の全体を略均一な明るさ(強度)のスリット光でスキャンすることができ、全体にわたって輝度ムラのない画像を生成することが可能になる。このような効果を奏するための構成のいくつかの非限定的な例を、後述する別の実施形態において説明する。
【0206】
第1の実施形態で説明したように、補正情報5aには、視度値と眼底位置との複数の組み合わせにそれぞれ対応する複数の補正値が記録されている。いくつかの態様において、撮影条件決定部430は、補正情報5aにおける視度値と眼底位置との複数の組み合わせのうちから、フォーカス調整においてフォーカス条件決定部422により生成された被検眼Eの視度データとスリットスキャンにおける撮影が順次に適用される複数の領域のそれぞれとの組み合わせに対応する、視度値と眼底位置との組み合わせを特定する。
【0207】
更に、撮影条件決定部430は、補正情報5aに記録されている複数の補正値のうちから、特定された視度値と眼底位置との組み合わせに対応する補正値を選択する。選択される補正値の個数は2つ以上である。より具体的には、このようにして補正情報5aから選択される補正値群は、被検眼Eの視度データに相当する1つの視度値と、スリットスキャンにおける撮影が順次に適用される複数の領域に相当する複数の眼底位置との双方に対応する複数の補正値である。
【0208】
撮影条件決定部430により生成される撮影条件は、このようにして得られた補正値群を含んでいてよく、別の補正値を更に含んでいてもよい。この別の補正値の非限定的な例として、第1の実施形態で説明した内挿処理により取得された補正値、外挿処理により取得された補正値などがある。
【0209】
第2の実施形態に係る眼科装置が実行する動作について説明する。本実施形態に係る眼科装置の動作の非限定的な例を図18に示す。
【0210】
第1の実施形態の動作例のステップS1~S4と同様に、事前処理として眼科装置のメモリ5に補正情報5aが格納され(S11)、撮影準備として被検眼Eの眼底Efに対する撮影ユニット2のアライメントと眼底Efに対するフォーカス調整とが眼科装置により実行される(S12~S14)。
【0211】
ステップS14のフォーカス調整においては、フォーカス条件決定部422により被検眼Eの視度データが取得される(S15)。撮影条件決定部430は、ステップS15で取得された被検眼Eの視度データと、ステップS11でメモリ5に記憶された補正情報5aとに基づいて、眼底Efにスリットスキャンを適用するための撮影条件を決定する(S16)。
【0212】
いくつかの態様では、ステップS16において、撮影条件決定部430は、補正情報5aに記録されている複数の補正値のうちから、ステップS14のフォーカス調整で取得された被検眼Eの視度データに対応する補正値群を選択する。例えば、図15の補正情報5aが使用され、且つ、ステップS14のフォーカス調整において視度値D2に相当する視度データが得られた場合、プロセッサ4は、補正情報5aに記録されている複数の補正値のうちから、補正値群C2n(C21、C22、C23、・・・、C2N)を選択し、選択された補正値群C2nを含む撮影条件を生成する。
【0213】
なお、第1の実施形態の動作例のステップS16において説明した任意的な処理(被検眼Eの視度データとスリットスキャン範囲との双方に対応する補正値群を選択する処理、外挿処理、内挿処理)を実行してもよい。
【0214】
撮影条件が決定された後、眼底Efに対するスリットスキャンの適用を開始するための指示が行われる(S17)。この撮影開始指示は、第1の実施形態の動作例のステップS5と同じ要領で行われてよい。
【0215】
撮影開始の指示を受けた撮影制御部410は、ステップS16で決定された撮影条件に基づいて撮影ユニット2(及びフォーカス調整ユニット3)を制御することにより、眼底Efにスリットスキャンを適用する(S18)。つまり、撮影ユニット2は、眼底Efのスリットスキャン範囲における複数の領域を順次に撮影し、これら複数の領域にそれぞれ対応する複数の画像を収集する。
【0216】
プロセッサ4は、ステップS18のスリットスキャンにより収集された複数の画像に基づいて、スリットスキャン範囲に相当する眼底Efの領域の画像を構築する(S19)。このようにして生成された眼底Efの画像は、スリットスキャン範囲の全体にわたって略均一な明るさのスリット光を投射するようにして収集された複数の画像を合成したものであるから、輝度ムラを有しない画像(少なくとも、本動作例を適用せずに取得された画像との比較において輝度ムラが低減されている画像)である。以上で、本動作例は終了となる(エンド)。
【0217】
<第3の実施形態>
第3の実施形態に係る眼科装置について説明する。第1の実施形態に係る眼科装置1と同様に、第3の実施形態に係る眼科装置は、スリットスキャン方式のモダリティを用いて生体眼の眼底を画像化する眼科イメージング機能を有し、撮影ユニット2、フォーカス調整ユニット3、プロセッサ4、メモリ5、及びユーザーインターフェイス6を含んでいる。第1の実施形態に係る任意の事項及び第2の実施形態に係る任意の事項を第3の実施形態に係る眼科装置に適用することができる。以下、第1の実施形態に係る事項及び第2の実施形態に係る事項を適宜に参照しつつ第3の実施形態について説明を行う。
【0218】
第3の実施形態では、被検眼Eの眼底Efに対するスリットスキャンにおいて撮影制御部410により制御される要素は撮影ユニット2のみである。なお、被検眼Eの眼底Efに対するスリットスキャンにおいてフォーカス調整ユニット3の制御も実行する場合については、後述する別の実施形態において、そのいくつかの非限定的な例を説明する。
【0219】
本実施形態では、撮影ユニット2の光源10を制御する場合について説明するが、前述したように光強度変更要素(例えば、減光フィルタ、透過光量可変デバイス)を制御する場合においても本実施形態と同様の処理を実行することができる。
【0220】
第3の実施形態に係る眼科装置は、図17のプロセッサ4Aの代わりに、図19に示すプロセッサ4Bを備えている。プロセッサ4Bは非限定的な例である。プロセッサ4Bは、図17のプロセッサ4Aと同様に構成された撮影制御部410、フォーカス処理部420、及び撮影条件決定部430を含んでいる。
【0221】
本実施形態の撮影条件決定部430は、スリットスキャンのための撮影条件として、光源10を制御するための条件(光源制御条件)を決定する。光源制御条件は、例えば、光源10により出力される光の強度(明るさ)を制御するための条件(発光強度制御条件)を含む。いくつかの態様において、撮影条件は、光源制御条件に加えて別の条件を含んでいてもよい。撮影条件決定部430により生成された光源制御条件は、撮影制御部410に入力される。
【0222】
本実施形態の撮影制御部410は、被検眼Eの眼底Efの複数の領域(スリットスキャン範囲における複数の部分領域)の順次的な撮影のための撮影ユニット2の制御と並行して、撮影条件決定部430により生成された光源制御条件に基づく光源10の制御を実行する。換言すると、本実施形態の撮影制御部410は、撮影条件決定部430により生成された光源制御条件に基づく光源10の制御を実行しつつ、眼底Efのスリットスキャンのための制御を実行する。
【0223】
いくつかの態様では、撮影制御部410は、被検眼Eの眼底Efの複数の領域(スリットスキャン範囲における複数の部分領域)の順次的な撮影のための撮影ユニット2の制御と並行して、撮影条件決定部430により生成された発光強度制御条件に基づき光源10の発光強度の制御を実行する。換言すると、本態様の撮影制御部410は、撮影条件決定部430により生成された発光強度制御条件に基づき光源10を制御することで出力光の強度変調を実行しつつ、眼底Efのスリットスキャンのための制御を実行する。
【0224】
本実施形態のメモリ5には、図15の補正情報5aの非限定的な例である補正情報5bが記憶されている。補正情報5bの非限定的な例を図20に示す。補正情報5bに記録されている視度値、眼底位置、及び補正値は、本実施形態の説明のために選択された例示的な値に過ぎない。
【0225】
本例の補正情報5bでは、視度値として、0ディオプター、マイナス1ディオプター、マイナス2ディオプター、・・・が定義されており、眼底位置として、マイナス25度位置、マイナス20度位置、マイナス10度位置、0度位置、プラス10度位置、プラス20度位置、及びプラス25度位置が定義されている。補正情報5bに定義されている視度値は近視眼を意図したものである。遠視眼については、近視眼と同様に補正値を定義してもよいし、正視眼(0ディオプター)と同じ補正値を定義してもよい。
【0226】
補正情報5bに定義されている眼底位置は、眼軸に沿う方向を基準とした角度によって表現されている。なお、前述したように、眼底位置の表現方法は任意であってよい。
【0227】
補正情報5bに定義されている補正値は、光源10により出力される光の強度の既定の値に対する倍率(補正倍率)として表現されている。例えば、眼底位置が0度位置の場合には、視度値にかかわらず補正倍率は1である(つまり、既定の光強度値が適用される)。これに対し、眼底位置がマイナス25度位置の場合、正視眼(0ディオプター)の場合には補正倍率1が適用され、マイナス1ディオプターの近視眼の場合には補正倍率1.2が適用され、マイナス2ディオプターの近視眼の場合には補正倍率1.4が適用される。
【0228】
補正情報5bは、次の2つの知見を考慮して設計されたものである:(1)0度位置以外の眼底位置においては、近視の程度が大きくなるほどピントのズレが大きくなり、その眼底位置に投射されるスリット光の幅が拡大してスリット光の強度が低下する;(2)眼底位置が眼軸から離れるほど(眼軸を基準とした角度が大きくなるほど)ピントのズレが大きくなり、その眼底位置に投射されるスリット光の幅が拡大してスリット光の強度が低下する。
【0229】
このような補正情報5bを用いて光源10の制御を行うことにより、スリットスキャンによる撮影が順次に適用される眼底Efの複数の領域のうちスリット光の投射強度が低くなる領域を撮影する際には、光源10からの出力光の強度を高めることができる。これにより、スリットスキャン範囲におけるスリット光の投射強度の均一化を図ることが可能になり、画像の明るさの不均一化の問題を解消することが可能になる。
【0230】
このような補正情報5bを作成する方法について、いくつかの非限定的な例を説明する。
【0231】
補正情報5bの第1の作成方法は、眼科装置で実際に撮影を行うものである。まず、眼科装置によって様々な屈折度数の模型眼にスリットスキャンを適用する。例えば、0ディオプターの模型眼、マイナス1ディオプターの模型眼、マイナス2ディオプターの模型眼などに対してスリットスキャンをそれぞれ適用する。これらのスリットスキャンにおける光源10の発光強度は等しく設定される。これにより、同じ強度のスリット光を用いたスリットスキャンが異なる度数の複数の模型眼に適用され、複数の画像が得られる。
【0232】
次に、コンピュータを用いて各模型眼の画像を解析することにより、Y方向(スリットスキャンにおいてスリット光が移動する方向)に沿った輝度プロファイルを生成する。更に、この輝度プロファイルの近似式(例えば、近似多項式)をコンピュータによって求める。
【0233】
コンピュータにより得られる輝度プロファイル及び近似多項式の非限定的な例を図21に示す。点線で示す曲線及びそれを表す数式が、本例における輝度プロファイルの近似多項式である。
【0234】
次に、コンピュータを用いて、0ディオプターの模型眼から得られた近似多項式を基準として、別の各模型眼から得られた近似多項式の差分を求める。つまり、0ディオプターの近似多項式に対する別の近似多項式の差分を求める。このようにして得られた近似多項式間の差分に基づいて補正情報5bを作成することができる。
【0235】
補正情報5bの第2の作成方法は、コンピュータシミュレーションを利用したものである。このシミュレーションは、例えば、様々な屈折度数の眼底面上の様々な位置(眼底位置)における光線の広がりをレイトレーシングによって求める処理を含む。これにより得られる光線の広がりの大きさは、ピントズレの程度に応じて変化するスリット光の広がり(幅)の大きさに相当する。このようにして得られた光線の広がりに基づいて補正情報5bを作成することができる。
【0236】
補正情報の作成方法は上記の例に限定されない。例えば、被検眼Eの眼底Efの形状測定を実行し、眼底Efの形状に基づいて上記した第2の作成方法と同様のコンピュータシミュレーションを実行することで、被検眼Eについての補正情報を生成することが可能である。
【0237】
撮影条件決定部430は、フォーカス調整においてフォーカス条件決定部422により生成された被検眼Eの視度データと、メモリ5に記憶されている補正情報5bとに基づいて、被検眼Eの眼底Efのスリットスキャンのために撮影ユニット2の光源10を制御するための条件(撮影条件)を決定する。本実施形態の撮影条件は、光源制御条件であり、より詳しくは発光強度制御条件である。
【0238】
撮影条件決定部430により決定された発光強度制御条件は撮影制御部410に入力される。撮影制御部410は、入力された発光強度制御条件に基づく撮影ユニット2の光源10の制御を実行しつつ、被検眼Eの眼底Efに対するスリットスキャンを実行する。本実施形態のスリットスキャンは、被検眼Eの眼底Efにおける複数の領域(つまり、スリットスキャン範囲の複数の部分領域)を、発光強度制御条件に基づきスリット光の強度を変調しながら順次に撮影することによって実行される。
【0239】
撮影制御部410によって光源10の発光強度を制御するための構成は任意であってよい。非限定的な例において、撮影制御部410は、発光強度制御条件に基づきD/A変換回路を制御することによって光源10(例えば、発光ダイオード)への印加電圧を調整するように構成されていてよい。
【0240】
このように、本実施形態においては、補正情報5bは、スリットスキャンの順次的撮影が適用される複数の領域に対するスリット光の投射強度が等しくなるように設計されており、撮影条件決定部430は、これら複数の領域に対するスリット光の投射強度が等しくなるように発光強度制御条件を決定するように構成されており、撮影制御部410は、この発光強度制御条件に基づいて撮影ユニット2の光源10の発光強度を制御するように構成されている。したがって、眼底Efのスリットスキャン範囲の全体を略均一な明るさ(強度)のスリット光でスキャンすることができ、全体にわたって輝度ムラのない画像を生成することが可能になる。
【0241】
第3の実施形態に係る眼科装置が実行する動作について説明する。本実施形態に係る眼科装置の動作の非限定的な例を図22に示す。
【0242】
第2の実施形態の動作例のステップS11~S15と同様に、事前処理として眼科装置のメモリ5に補正情報5bが格納され(S21)、撮影準備として被検眼Eの眼底Efに対する撮影ユニット2のアライメントと眼底Efに対するフォーカス調整とが眼科装置により実行され(S22~S24)、フォーカス条件決定部422により被検眼Eの視度データが取得される(S25)。
【0243】
撮影条件決定部430は、ステップS25で取得された被検眼Eの視度データと、ステップS21でメモリ5に記憶された補正情報5bとに基づいて、眼底Efにスリットスキャンを適用するための発光強度制御条件を決定する(S26)。
【0244】
ステップS26の処理は、第2の実施形態の動作例のステップS16の処理と同じ要領で実行される。すなわち、撮影条件決定部430は、補正情報5bに記録されている視度値と眼底位置との複数の組み合わせのうちから、ステップS25で取得された被検眼Eの視度データと、眼底Efの複数の領域(スリットスキャン範囲の複数の部分領域)のそれぞれとの組み合わせに対応する視度値と眼底位置との組み合わせを特定し、この特定された組み合わせに対応する補正値(発光強度補正値の群)を補正情報5bから選択する。発光強度制御条件は、選択された発光強度補正値の群を含んでいる。
【0245】
発光強度制御条件が決定された後、眼底Efに対するスリットスキャンの適用を開始するための指示が行われる(S27)。この撮影開始指示は、第1の実施形態の動作例のステップS5と同じ要領で行われてよい。
【0246】
撮影開始の指示を受けた撮影制御部410は、ステップS26で決定された発光強度制御条件に基づき撮影ユニット2の光源10を制御することによりスリット光の投射強度を変調しながら、撮影ユニット2を制御することにより眼底Efにスリットスキャンを適用する(S28)。つまり、撮影ユニット2は、眼底Efのスリットスキャン範囲における複数の領域を各領域に対応する強度のスリット光を用いて順次に撮影し、これら複数の領域にそれぞれ対応する複数の画像を収集する。
【0247】
プロセッサ4は、ステップS28のスリットスキャンにより収集された複数の画像に基づいて、スリットスキャン範囲に相当する眼底Efの領域の画像を構築する(S29)。このようにして生成された眼底Efの画像は、スリットスキャン範囲の全体にわたって略均一な明るさのスリット光を投射するようにして収集された複数の画像を合成したものであるから、輝度ムラを有しない画像(少なくとも、本動作例を適用せずに取得された画像との比較において輝度ムラが低減されている画像)である。以上で、本動作例は終了となる(エンド)。
【0248】
本動作例の効果について図23を更に参照して説明する。なお、図23においては、図14A及び図14Bと同様に、眼底中心部におけるスリット光の投射強度と眼底周辺部におけるスリット光の投射強度とを比較するために、眼底位置0度近傍、眼底位置マイナス25度近傍、及び眼底位置プラス25度近傍における状態のみが表されている。
【0249】
被検眼Eが正視眼E1である場合、本実施形態によれば、図23の上段の図に示すように、光源10の発光強度を一定の値K1に保ちつつスリットスキャンを実行することによって、スリットスキャン範囲の全体を略均一な明るさのスリット光でスキャンすることができ、全体にわたって輝度ムラのない画像H1が得られる。
【0250】
これに対し、被検眼Eが強度近視眼E2である場合において本動作例を用いない場合、図23の下段の図に示すように、光源10の発光強度を一定の値K1に保ちつつスリットスキャンを実行すると、スリットスキャン範囲の全体を略均一な明るさのスリット光でスキャンすることができずに輝度ムラのある画像H2が得られてしまう。一方、本動作例を用いる場合には、眼底中心部に対応する発光強度が相対的に低くなり、且つ、眼底周辺部に対応する発光強度が相対的に高くなるように光源10を制御しながらスリットスキャンが実行されるため、符号J2で示す不均一な輝度分布(スリットスキャン範囲におけるスリット光の強度分布の不均一性)が解消され、符号J3で示すようにスリットスキャン範囲の全体を略均一な明るさのスリット光でスキャンすることが可能となり、全体にわたって輝度ムラのない画像を取得することが可能になる。
【0251】
本実施形態では、光源10の発光強度を変調することによって眼底Efに投射されるスリット光の強度を変調しているが、画像の明るさの均一化を図るための光源制御はこれに限定されない。
【0252】
例えば、光源10の発光時間(光源10がパルス発光する時間)を変調することによって、眼底Efの複数の領域(スリットスキャン範囲の複数の部分領域)に投射されるスリット光の光量を変調しながら、眼底Efのスリットスキャンを行ってもよい。この変形例に係る補正情報、撮影条件(光源制御条件、発光時間制御条件)、撮影条件の決定方法、撮影条件に基づく光源10の制御方法などについては、当業者であれば本開示から理解することができるであろう。
【0253】
また、いくつかの非限定的な例において、光源10の発光強度の制御と発光時間の制御とを組み合わせることも可能である。
【0254】
<第4の実施形態>
第4の実施形態に係る眼科装置について説明する。第1の実施形態に係る眼科装置1と同様に、第4の実施形態に係る眼科装置は、スリットスキャン方式のモダリティを用いて生体眼の眼底を画像化する眼科イメージング機能を有し、撮影ユニット2、フォーカス調整ユニット3、プロセッサ4、メモリ5、及びユーザーインターフェイス6を含んでいる。第1の実施形態に係る任意の事項、第2の実施形態に係る任意の事項、及び第3の実施形態に係る任意の事項を、第4の実施形態に係る眼科装置に適用することができる。以下、第1の実施形態に係る事項、第2の実施形態に係る事項、及び第3の実施形態に係る事項を適宜に参照しつつ第4の実施形態について説明を行う。
【0255】
第4の実施形態では、被検眼Eの眼底Efに対するスリットスキャンにおいて撮影制御部410により制御される要素は撮影ユニット2及びフォーカス調整ユニット3の双方である。
【0256】
本実施形態では、撮影ユニット2の制御と並行してフォーカス調整ユニット3の2つの移動機構22M及び47Mを制御する場合について説明するが、フォーカス調整ユニット3の制御はこれに限定されない。例えば、光源10、虹彩絞り21、レンズ24、及びスリット開口絞り22を含む可動ユニットを照明光学系20の光軸に沿う方向に移動するように構成されたユニット移動機構が設けられている場合、撮影ユニット2の制御と並行してユニット移動機構の制御及び移動機構47Mの制御を実行するように構成されていてよい。なお、ユニット移動機構を含む眼科装置は、移動機構22Mを含まなくてもよいし、移動機構22M及びユニット移動機構の双方を含んでもよい。
【0257】
第4の実施形態に係る眼科装置は、図17のプロセッサ4Aの代わりに、図24に示すプロセッサ4Cを備えている。プロセッサ4Cは非限定的な例である。プロセッサ4Cは、図17のプロセッサ4Aと同様に構成された撮影制御部410、フォーカス処理部420、及び撮影条件決定部430を含んでいる。
【0258】
本実施形態の撮影条件決定部430は、スリットスキャンのための撮影条件として、移動機構22M及び47Mを制御するための条件(フォーカス制御条件)を決定する。フォーカス制御条件は、例えば、照明光学系20の焦点位置及び撮影光学系40の焦点位置を制御するための条件(焦点位置制御条件)を含む。いくつかの態様において、撮影条件は、フォーカス制御条件に加えて別の条件を含んでいてもよい。撮影条件決定部430により生成されたフォーカス制御条件は、撮影制御部410に入力される。
【0259】
本実施形態の撮影制御部410は、被検眼Eの眼底Efの複数の領域(スリットスキャン範囲における複数の部分領域)の順次的な撮影のための撮影ユニット2の制御と並行して、撮影条件決定部430により生成されたフォーカス制御条件に基づく移動機構22M及び47Mの制御を実行する。換言すると、本実施形態の撮影制御部410は、撮影条件決定部430により生成されたフォーカス制御条件に基づく移動機構22M及び47Mの制御を実行しつつ、眼底Efのスリットスキャンのための撮影ユニット2の制御を実行する。
【0260】
いくつかの態様では、撮影制御部410は、被検眼Eの眼底Efの複数の領域(スリットスキャン範囲における複数の部分領域)の順次的な撮影のための撮影ユニット2の制御と並行して、撮影条件決定部430により生成された焦点位置制御条件に基づき照明光学系20の焦点位置の制御及び撮影光学系40の焦点位置の制御を実行する。換言すると、本態様の撮影制御部410は、撮影条件決定部430により生成された焦点位置制御条件に基づき移動機構22M及び47Mを制御することで照明光学系20の焦点位置の調整及び撮影光学系40の焦点位置の調整を実行しつつ、眼底Efのスリットスキャンのための撮影ユニット2の制御を実行する。
【0261】
本実施形態のメモリ5には、図15の補正情報5aの非限定的な例である補正情報5cが記憶されている。本例の補正情報5cに記録されている補正値は、照明光学系20の焦点位置及び撮影光学系40の焦点位置に関する補正値(焦点位置補正値)である。すなわち、本例の補正情報5cには、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の焦点位置補正値が記録されている。補正情報5bの態様や作成方法は、第3の実施形態の補正情報5bと同様であってよい。
【0262】
第4の実施形態に係る眼科装置が実行する動作について説明する。本実施形態に係る眼科装置の動作の非限定的な例を図25に示す。
【0263】
第2の実施形態の動作例のステップS11~S15と同様に、事前処理として眼科装置のメモリ5に補正情報5bが格納され(S31)、撮影準備として被検眼Eの眼底Efに対する撮影ユニット2のアライメントと眼底Efに対するフォーカス調整とが眼科装置により実行され(S32~S34)、フォーカス条件決定部422により被検眼Eの視度データが取得される(S35)。
【0264】
撮影条件決定部430は、ステップS35で取得された被検眼Eの視度データと、ステップS21でメモリ5に記憶された補正情報5cとに基づいて、眼底Efにスリットスキャンを適用するための焦点位置制御条件を決定する(S36)。
【0265】
ステップS36の処理は、第2の実施形態の動作例のステップS16の処理と同じ要領で実行される。すなわち、撮影条件決定部430は、補正情報5cに記録されている視度値と眼底位置との複数の組み合わせのうちから、ステップS35で取得された被検眼Eの視度データと、眼底Efの複数の領域(スリットスキャン範囲の複数の部分領域)のそれぞれとの組み合わせに対応する視度値と眼底位置との組み合わせを特定し、この特定された組み合わせに対応する補正値(焦点位置補正値の群)を補正情報5cから選択する。焦点位置制御条件は、選択された焦点位置補正値の群を含んでいる。
【0266】
焦点位置制御条件が決定された後、眼底Efに対するスリットスキャンの適用を開始するための指示が行われる(S37)。この撮影開始指示は、第1の実施形態の動作例のステップS5と同じ要領で行われてよい。
【0267】
撮影開始の指示を受けた撮影制御部410は、ステップS36で決定された焦点位置制御条件に基づきフォーカス調整ユニット3の移動機構22M及び47Mを制御することにより照明光学系20の焦点位置及び撮影光学系40の焦点位置を調整しながら、撮影ユニット2を制御することにより眼底Efにスリットスキャンを適用する(S38)。つまり、撮影ユニット2は、眼底Efのスリットスキャン範囲における複数の領域を各領域にピントが合ったスリット光(したがって、各領域に対応する強度のスリット光)を用いて順次に撮影し、これら複数の領域にそれぞれ対応する複数の画像を収集する。
【0268】
プロセッサ4は、ステップS38のスリットスキャンにより収集された複数の画像に基づいて、スリットスキャン範囲に相当する眼底Efの領域の画像を構築する(S39)。このようにして生成された眼底Efの画像は、スリットスキャン範囲の全体にわたって略均一な明るさのスリット光を投射するようにして収集された複数の画像を合成したものであるから、輝度ムラを有しない画像(少なくとも、本動作例を適用せずに取得された画像との比較において輝度ムラが低減されている画像)である。以上で、本動作例は終了となる(エンド)。
【0269】
<第5の実施形態>
第3の実施形態に係る眼科装置と第4の実施形態に係る眼科装置とを組み合わせることができる。
【0270】
本実施形態の補正情報に記録されている補正値は、例えば、第3の実施形態の発光強度補正値、及び、第4の実施形態の焦点位置補正値の双方である。すなわち、本実施形態の補正情報には、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の発光強度補正値と、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の焦点位置補正値との双方が記録されている。このような補正情報の態様や作成方法については、当業者であれば第3の実施形態及び第4の実施形態から理解することができるであろう。なお、本実施形態の補正情報は、例えば、第3の実施形態の補正情報5bと第4の実施形態の補正情報5cとのペアであってもよいし、第3の実施形態の補正情報5bと第4の実施形態の補正情報5cとを組み合わせた単一のテーブルであってもよい。
【0271】
本実施形態の撮影条件決定部430は、スリットスキャンのための撮影条件として、第3の実施形態と同様の光源制御条件(例えば、発光強度制御条件)と、第4の実施形態と同様のフォーカス制御条件(例えば、焦点位置制御条件)との双方を決定するように構成される。更に、本実施形態の撮影制御部410は、スリットスキャンにおける眼底Efの複数の領域の順次的な撮影のための撮影ユニット2の制御と並行して、光源制御条件に基づく光源10の制御とフォーカス制御条件に基づくフォーカス調整ユニット3の制御との双方を実行するように構成される。
【0272】
このような本実施形態により取得される眼底Efの画像は、スリットスキャン範囲の全体にわたって略均一な明るさのスリット光を投射するようにして収集された複数の画像を合成したものであるから、輝度ムラを有しない画像(少なくとも、本動作例を適用せずに取得された画像との比較において輝度ムラが低減されている画像)である。
【0273】
<フォーカス調整の方法>
前述したように、実施形態に係る眼科装置により実行されるフォーカス調整の方法は任意に選択されてよい。実施形態において採用可能なフォーカス方法のいくつかの非限定的な例を以下に説明する。
【0274】
実施形態に係る眼科装置が実行可能なオートフォーカスのための動作の1つの例を図26に示す。
【0275】
オートフォーカス動作の前に、眼科装置は、被検眼Eの眼底Efに対する撮影ユニット2のアライメントを実行する(S41)。アライメントの完了後、眼科装置は、オートフォーカスを開始する(S42)。なお、ステップS41で達成された適切なアライメント状態を維持するためにトラッキングを行ってもよい。
【0276】
本動作例のオートフォーカスでは、まず、投射制御部421が、光スキャナー30のミラー面を所定のニュートラル位置(0度位置)に配置する(S43)。0度位置は、例えば、光スキャナー30のミラー面の可動範囲の中心位置である。本動作例のオートフォーカスは、光スキャナー30のミラー面の向きを固定した状態で、つまり、光スキャナー30の動作を停止した状態で、実行される。
【0277】
次に、投射制御部421は、虹彩絞り21の2つの開口部21A及び21Bのうちの一方(例えば、第1の開口部21A)のみから照明光を出力するように光源10及び/又は照明光学系20を制御する。第1の開口部21Aから出射された照明光の一部は、スリット開口絞り22のスリット22Aを通過してスリット光(第1のスリット光)に変換される。第1のスリット光は、リレーレンズ23によりリレーされ、停止状態の光スキャナー30により偏向され、リレーレンズ31によりリレーされ、ホールミラー45のミラー部により偏向され、対物レンズ46により屈折されて被検眼Eに入射し、眼底Efに投射される。撮影光学系40及び撮像装置50は、第1のスリット光が投射されている状態の眼底Efを撮影して画像を生成する(第1の撮影:S44)。
【0278】
ステップS44の第1の撮影で得られた画像を第1の画像と呼ぶ。第1の画像の2つの例を図27に示す。図27の左側の眼底画像200Aは、フォーカス状態が前ピンであるときに得られる画像の例であり、眼底画像200AのY方向の中心位置よりも下方の位置にスリット光像G1(第1のスリット光像G1)が描出されている。また、図27の右側の眼底画像200Bは、フォーカス状態が後ピンであるときに得られる画像の例であり、眼底画像200BのY方向の中心位置よりも上方の位置にスリット光像G1(第1のスリット光像G1)が描出されている。
【0279】
次に、投射制御部421は、虹彩絞り21の2つの開口部21A及び21Bのうちの他方(例えば、第2の開口部21B)のみから照明光を出力するように光源10及び/又は照明光学系20を制御する。第2の開口部21Bから出射された照明光の一部は、スリット開口絞り22のスリット22Aを通過してスリット光(第2のスリット光)に変換される。第2のスリット光は、第1のスリット光と同じ経路を通じて眼底Efに投射される。撮影光学系40及び撮像装置50は、第2のスリット光が投射されている状態の眼底Efを撮影して画像を生成する(第2の撮影:S45)。
【0280】
ステップS45の第2の撮影で得られた画像を第2の画像と呼ぶ。第2の画像の2つの例を図28に示す。図28の左側の眼底画像210Aは、フォーカス状態が前ピンであるときに得られる画像の例であり、眼底画像210AのY方向の中心位置よりも上方の位置にスリット光像G2(第2のスリット光像G2)が描出されている。また、図28の右側の眼底画像210Bは、フォーカス状態が後ピンであるときに得られる画像の例であり、眼底画像210BのY方向の中心位置よりも下方の位置にスリット光像G2(第2のスリット光像G2)が描出されている。
【0281】
本動作例では第1の撮影の後に第2の撮影を実行しているが、別の動作例では第2の撮影の後に第1の撮影を実行してもよい。また、オートフォーカスのために実行される撮影の回数は2回(第1の撮影及び第2の撮影)に限定されず、3回以上であってもよい。3回以上の撮影を行う場合においても本動作例と同様の処理によってオートフォーカスを実行できることは、当業者であれば理解することができるであろう。また、後述のように、オートフォーカスのために実行される撮影の回数は1回のみであってもよい。
【0282】
ステップS44で取得された第1の画像及びステップS45で取得された第2の画像は、フォーカス条件決定部422に入力される。
【0283】
フォーカス条件決定部422は、随意的な処理として、第1の画像と第2の画像との間のレジストレーション(位置合わせ)を実行してもよい。このレジストレーションは、例えば、第1の画像中の特徴点を検出する処理と、第2の画像中の特徴点を検出する処理と、第1の画像中の特徴点と第2の画像中の特徴点とを基準として第1の画像と第2の画像との間の位置ズレ量を求める処理と、この位置ズレ量を打ち消すように第1の画像と第2の画像との間の相対位置を調整する処理とを含む。レジストレーションの基準として用いられる特徴点は、予め決定された眼底Efのランドマークであり、例えば、視神経乳頭、黄斑、血管などの組織であってもよいし、病変部、治療痕などであってもよい。このようなレジストレーションが施された第1の画像及び第2の画像に対して条件決定処理を適用することができる。なお、第1の画像と第2の画像との間の位置ズレ量を求める処理までを実行し、この位置ズレ量を条件決定処理に反映させるようにしてもよい。
【0284】
以下、フォーカス条件決定部422が実行する処理の具体例として、フォーカス状態が前ピンである場合について説明する。フォーカス状態が後ピンである場合においても同様の処理を実行することができる。
【0285】
図29を更に参照する。図29の左側の眼底画像200Aは、フォーカス状態が前ピンである場合にステップS44の第1の撮影で取得された画像の例であり、左側の眼底画像210Aは、フォーカス状態が前ピンである場合にステップS45の第2の撮影で取得された画像の例である。
【0286】
フォーカス条件決定部422は、ステップS44の第1の撮影で取得された眼底画像200Aを解析して第1のスリット光像G1を検出し、検出された第1のスリット光像G1の位置(Y(G1))を求める(S46)。同様に、フォーカス条件決定部422は、ステップS45の第2の撮影で取得された眼底画像210Aを解析して第2のスリット光像G2を検出し、検出された第2のスリット光像G2の位置(Y(G2))を求める(S47)。
【0287】
次に、フォーカス条件決定部422は、ステップS46で求められた第1のスリット光像G1の位置と、ステップS47で求められた第2のスリット光像G2の位置との間の相対位置に基づいて、被検眼Eの屈折力を推定する(S48)。
【0288】
次に、フォーカス条件決定部422は、ステップS48で求められた被検眼Eの屈折力の推定値に基づいて、スリット開口絞り22の移動条件(移動方向及び移動量)と、フォーカスレンズ47の移動条件(移動方向及び移動量)とを決定する(S49)。
【0289】
ステップS49で決定される移動条件に含まれる移動方向は、第1のスリット光像G1と第2のスリット光像G2との位置関係に基づき決定される。本例では、第1のスリット光像G1が第2のスリット光像G2よりも下方に位置しているから、眼底Efよりも前側(前眼部Ea側)に焦点が位置している(つまり、前ピンである)と判定される。一方、第1のスリット光像G1が第2のスリット光像G2よりも上方に位置している場合には、眼底Efよりも後側に焦点が位置している(つまり、後ピンである)と判定される。なお、前述したように、2つのスリット光像の位置関係と焦点のズレ方向との間の関係は、撮影ユニット2の光学系の構成により決定される既知の情報である。
【0290】
また、ステップS49で決定される移動条件に含まれる移動量は、眼屈折力(視度)とフォーカス調整用光学素子(本動作例ではスリット開口絞り22及びフォーカスレンズ47)の移動量との間の関係が記録された情報に基づき決定される。この情報は、予め作成され、例えばメモリ5に格納されている。
【0291】
フォーカス条件決定部422により決定されたフォーカス調整条件(本動作例では、ステップS49で決定されたスリット開口絞り22の移動条件及びフォーカスレンズ47の移動条件)は、フォーカス調整制御部423に送られる。
【0292】
フォーカス調整制御部423は、ステップS49で決定されたフォーカス調整条件に基づいてフォーカス調整ユニット3の制御を行う(S50)。本動作例では、フォーカス調整制御部423は、ステップS49で決定されたスリット開口絞り22の移動条件に基づき移動機構22Mを制御することによって、この移動条件に示された移動方向にこの移動条件に示された移動量だけスリット開口絞り22を移動するとともに、フォーカスレンズ47の移動条件に基づき移動機構47Mを制御することによって、この移動条件に示された移動方向にこの移動条件に示された移動量だけフォーカスレンズ47を移動する。
【0293】
以上に説明した工程により、被検眼Eの屈折力に対応した撮影ユニット2(照明光学系20及び撮影光学系40)の自動的なフォーカス調整が達成される。すなわち、照明光学系20の焦点及び撮影光学系40の焦点の双方が、被検眼Eの眼底Ef(又は、その近傍)に自動で配置される。このオートフォーカスが完了したら(S51)、眼科装置は、眼底Efの撮影(スリットスキャン)を行うことができる。
【0294】
実施形態に係る眼科装置が実行可能なオートフォーカスのための動作の別の例を図30に示す。
【0295】
図26の動作例では2つのスリット光像の相対位置からフォーカス調整条件を決定しているが、2つのスリット光像の一方を検出できない場合が想定される。例えば、被検眼Eが小瞳孔眼である場合、第1のスリット光及び第2のスリット光の一方が虹彩にケラレてスリット光像が形成されないことが考えられる。また、被検眼Eが白内障眼である場合、第1のスリット光及び第2のスリット光の一方が水晶体混濁部により遮断されてスリット光像が形成されないことや、水晶体混濁部により減弱(減衰)されてスリット光像が不明瞭になることがある。本動作例は、このような問題が生じた場合に適用可能なオートフォーカスを提供するものである。
【0296】
ステップS61~S67は、それぞれ、図26のステップS41~S47と同様の要領で実行される。なお、本動作例のステップS66及びS67では、スリット光像の位置が検出される場合だけでなく、スリット光像が検出されない場合も想定されている。
【0297】
ステップS66において第1のスリット光像の位置が検出されなかった場合、又は、ステップS67において第2のスリット光像の位置が検出されなかった場合(S68:No)、処理はステップS69に移行する。つまり、ステップS66において第1のスリット像の位置の検出に失敗したが、ステップS67において第2のスリット光像の位置の検出に成功した場合、処理はステップS69に移行する。また、ステップS66において第1のスリット像の位置の検出に成功したが、ステップS67において第2のスリット光像の位置の検出に失敗した場合、処理はステップS69に移行する。
【0298】
これに対し、ステップS66において第1のスリット光像の位置の検出に成功し、且つ、ステップS67においても第2のスリット光像の位置の検出に成功した場合(S68:Yes)、処理はステップS70に移行する。
【0299】
なお、図示は省略されているが、ステップS66において第1のスリット光像の位置の検出に失敗し、且つ、ステップS67においても第2のスリット光像の位置の検出に失敗した場合、例えば、眼科装置はユーザーインターフェイス6によってエラー情報又は警告情報を出力することができる。この場合、眼科装置は、フォーカス調整(及び、その前工程であるアライメント)を最初からやり直すことができる(つまり、処理をステップS61又はS63に戻すことができる)。或いは、眼科装置は、オートフォーカスモードからマニュアルフォーカスモードに切り替えることができる。マニュアルフォーカスモードでは、ユーザーは、ユーザーインターフェイス6を用いて、眼底Efの観察画像を参照しながら手動でフォーカス調整を実行する。
【0300】
第1のスリット光像の位置検出及び第2のスリット光像の位置検出の一方のみ成功した場合(S68:No)、フォーカス条件決定部422は、検出された一方のスリット光像の位置と、所定の基準位置との間の相対位置に基づいて、被検眼Eの屈折力を推定する(S69)。
【0301】
ステップS69で参照される基準位置を決定する方法は任意である。例えば、この基準位置は、模型眼を利用した測定で得られたデータに基づき求められてもよいし、レイトレーシングなどのシミュレーションを利用して求められてもよいし、健常眼(小瞳孔眼や白内障眼のように本実施形態のオートフォーカスを阻害する可能性のある事情を有しない眼)の測定で得られたデータに基づき求められてもよいし、これらの任意の組み合わせによって求められてもよいし、別の手法を用いて求められてもよい。模型眼を利用する方法では、例えば、ステップS63~S67を実施することによって双方のスリット光像が一致する位置を求め、この位置を基準位置とすることができる。別の方法についても同様の要領で基準位置を決定することが可能である。
【0302】
例えば、図27の左側の眼底画像200Aのスリット光像G1が検出された場合、フォーカス条件決定部422は、図31に示すように、このスリット光像G1の位置(Y(G1))を求め、求められたスリット光像G1の位置(Y(G1))の基準位置(Y0)に対する相対位置(ΔY)に基づいて被検眼Eの屈折力を推定する。
【0303】
第1のスリット光像の位置検出及び第2のスリット光像の位置検出の双方が成功した場合(S68:No)、フォーカス条件決定部422は、図26のステップS48と同様の要領で、被検眼Eの屈折力を推定する(S70)。
【0304】
次に、フォーカス条件決定部422は、ステップS69又はS70で求められた被検眼Eの屈折力の推定値に基づいて、スリット開口絞り22の移動条件(移動方向及び移動量)と、フォーカスレンズ47の移動条件(移動方向及び移動量)とを決定する(S71)。ここで、移動方向はスリット光像と基準位置との位置関係に基づき決定される。移動量の決定方法は図26のステップS49と同様であってよい。
【0305】
次に、フォーカス調整制御部423は、ステップS71で決定されたフォーカス調整条件に基づいてフォーカス調整ユニット3の制御を行う(S72)。この処理は、図26のステップS50と同様の要領で実行される。本動作例のオートフォーカスは以上で完了となる(S73)。
【0306】
図26の動作例及び図30の動作例では、オートフォーカスのために2回の撮影(第1の撮影及び第2の撮影)を実行しているが、図30の動作例の変形では、1回の撮影でオートフォーカスを行うことが可能である。本変形において、眼科装置は、例えば、虹彩絞り21の2つの開口部21A及び21Bの一方のみから照明光を出力して撮影を行い、この撮影で取得された眼底画像に描出されているスリット光像の位置を求め、このスリット光像の位置と所定の基準位置との相対位置に基づき被検眼の屈折力の推定値を求め、この推定値からフォーカス調整条件を決定し、このフォーカス調整条件に基づきフォーカス調整ユニット3を制御する。本変形で用いられる基準位置は、図30の動作例における基準位置と同様であってよい。
【0307】
実施形態に係る眼科装置が実行可能なオートフォーカスのための動作の更に別の例を図32に示す。
【0308】
図26の動作例及び図30の動作例では、被検眼Eの眼底Efの所定位置(眼底中心、画像フレームの中心)に焦点が合うようにフォーカス調整を実行している。これに対し、本動作例では、眼底Efの任意の位置に焦点が合うようにフォーカス調整を行うことが可能である。それにより、眼底Efの注目部位が明瞭に描出された画像を取得することが可能になる。注目部位は、例えば、視神経乳頭、黄斑、血管などの組織であってもよいし、病変部、治療痕などであってもよい。
【0309】
本動作例において、眼科装置は、まず、被検眼Eの観察画像(ライブ動画像、ライブ映像、時系列画像)の生成及び表示を開始する(S81)。観察画像の生成は、任意の方法で実行されてよく、例えば、アライメントのための手段(例えば、ステレオアライメントのための2つの前眼部カメラ、正面画像を生成するためのカメラ)により、又は反復的なスリットスキャンにより実行される。観察画像の表示は、ユーザーインターフェイス6(ディスプレイ)を用いて実行される。眼科装置は、ステップS81で取得される観察画像に基づいてアライメントを実行する(S82)。
【0310】
いくつかの態様において、ユーザーは、ステップS82のアライメントの完了後に、表示されている観察画像における所望の位置(注目部位の位置、注目位置)をユーザーインターフェイス6(入力部)を用いて指定する(S83)。例えば、ユーザーは、タッチスクリーンに表示されている観察画像における所望の位置にタッチする。或いは、ユーザーは、ディスプレイに表示されている観察画像における所望の位置をポインティングデバイスを用いて指定する。
【0311】
別のいくつかの態様では、プロセッサ4が観察画像を解析して注目位置を決定してもよい。更に別のいくつかの態様では、ユーザー又はプロセッサ4が過去に取得された眼底Efの画像に対して注目位置を指定し、プロセッサ4が当該画像と観察画像との間のレジストレーションを実行して当該注目位置に対応する観察画像中の位置を特定してもよい。この場合、観察画像における当該特定位置がステップS83の注目位置として用いられる。更に別の態様では、アライメントの前に生成された観察画像に対してユーザー又はプロセッサ4が注目位置を指定し、指定された注目位置を基準としたアライメントをプロセッサ4が実行してもよい。
【0312】
眼科装置は、ステップS83で指定された眼底Efの注目位置に対するオートフォーカスを開始する(S84)。
【0313】
本動作例のオートフォーカスでは、まず、投射制御部421が、ステップS83で指定された眼底Efの注目位置に対応する向きにミラー面を向けるように光スキャナー30を制御する(S85)。光スキャナー30のミラー面の向きは当該向きに固定される。スリットスキャンのための動作(図5など)から分かるように、撮影ユニット2により取得される画像における位置(Y座標)と光スキャナー30のミラー面の向きとの間には既知の関係がある。ステップS85の処理は、この関係を参照して実行される。
【0314】
ステップS83で指定された眼底Efの注目位置に対応する向きに光スキャナー30のミラー面の向きが固定された状態で、投射制御部421は、第1の撮影及び第2の撮影を実行するように撮影ユニット2を制御する(S86、S87)。
【0315】
本動作例のステップS88~S93の処理は、それぞれ、図26の動作例のステップS46~S51の処理と同様の要領で実行される。なお、いくつかの態様では、ステップS88~S93の処理の代わりに、図30の動作例のステップS66~S73の処理を実行してもよい。
【0316】
実施形態に係る眼科装置が実行可能なオートフォーカスのための動作の更に別の例について説明する。本例に係る動作を実行するための構成の非限定的な例を図33に示す。
【0317】
本例に係る眼科装置は、図2に示す撮影ユニット2の代わりに、図33に示す撮影ユニット2Aを備えている。撮影ユニット2Aは非限定的な例である。撮影ユニット2Aは、被検眼Eの眼底Efに対するスリット光の投射位置を移動しつつローリングシャッター型のイメージセンサー(撮像装置)で撮影を行うことによってスリットスキャンを実行可能に構成されている。なお、ローリングシャッター型のイメージセンサーの代わりに、グローバルシャッター型のイメージセンサーとスリット絞りとを組み合わせた撮像ユニット(撮像装置)を採用してもよい。
【0318】
本例の撮影ユニット2Aは、光源10、照明光学系20A、光スキャナー30、撮影光学系40、及び撮像装置50を含んでいる。光源10、光スキャナー30、撮影光学系40、及び撮像装置50は、それぞれ、図2の撮影ユニット2の対応要素と同一であってよい。光源10及び/又は光スキャナー30を照明光学系20Aの要素とみなしてもよく、撮像装置50を撮影光学系40の要素とみなしてもよい。
【0319】
本例の照明光学系20Aは、図2の照明光学系20の代わりに設けられる。図33に示す例において、照明光学系20Aは、第1の実施形態と同様の虹彩絞り21、スリット開口絞り22、及びリレーレンズ23に加えて、虹彩絞り21とスリット開口絞り22との間に配置されたレンズ24を含んでいる。
【0320】
更に、本例の撮影ユニット2Aは、移動機構25Mを含む。移動機構25Mは、光源10、虹彩絞り21、レンズ24、及びスリット開口絞り22を含む可動ユニット25を、照明光学系20の光軸に沿う方向に移動する。移動機構25Mは、プロセッサ4の制御の下に動作する。プロセッサ4は、被検眼Eの状態(例えば、屈折力(屈折度、視度)、眼底形状など)に応じて移動機構25Mを制御するように構成されてよい。
【0321】
本例のプロセッサ4は、前述したプロセッサ4(4A、4B、4C)と同様に、投射制御部421、フォーカス条件決定部422、及びフォーカス調整制御部423を含んでいる(図6図17図19図24を参照)。本例のフォーカス条件決定部422は、前述した実施形態と同様の条件決定処理を実行する。すなわち、フォーカス条件決定部422は、投射制御部421により実行されるスリット光投射制御により眼底Efに投射されたスリット光の戻り光を検出した撮像装置50からの出力に基づいてフォーカス調整条件を決定するための演算処理を実行する。本例の条件決定処理は、前述した実施形態と同様の要領で実行されてよい。
【0322】
本例において、照明光学系20A(第1の光学系)は、光源10(光源)と、被検眼Eの虹彩に対して光学的に略共役な位置に配置され、光源10により発せられた光を通過させる開口部が形成された虹彩絞り21(虹彩絞り)と、虹彩絞り21の開口部を通過した光を屈折するレンズ24(レンズ)と、レンズ24により屈折された光からスリット光を生成するためのスリット開口絞り22(スリット絞り)とを含んでおり、スリット開口絞り22により生成されたスリット光を被検眼Eの眼底Efに投射するように構成されている。更に、撮影光学系40(第2の光学系)は、フォーカスレンズ47(フォーカスレンズ)を含んでいる。加えて、照明光学系20Aの焦点位置を調整するための第1のフォーカス調整ユニットは、照明光学系20Aの光軸に沿う方向に可動ユニット25を移動するための移動機構25M(第3の移動機構)を含む。つまり、第1のフォーカス調整ユニットは、照明光学系20Aの光軸に沿う方向に光源10、虹彩絞り21、レンズ24、及びスリット開口絞り22を一体的に移動するための移動機構25Mを含む。また、撮影光学系40の焦点位置を調整するための第2のフォーカス調整ユニットは、撮影光学系40の光軸に沿う方向にフォーカスレンズ47を移動するための移動機構47M(第4の移動機構)を含む。そして、フォーカス条件決定部422は、移動機構25Mを制御するための条件(第3の移動制御条件、第1のフォーカス調整条件)を決定し、移動機構47Mを制御するための条件(第4の移動制御条件、第2のフォーカス調整条件)を決定する。
【0323】
以上、実施形態において採用可能なフォーカス方法のいくつかの非限定的な例を説明した。これらの例によれば、スリットスキャンを実行する撮影ユニットを用いて被検眼の眼底にスリット光を投射し、このスリット光が投射されている眼底を撮影して得られた情報を利用してフォーカス条件を設定してオートフォーカスを行うことが可能であるから、スリットスキャンを実行可能な既存の眼科装置が有するようなフォーカス専用ハードウェア要素を設けることなくフォーカス調整を行うことが可能である。少なくとも、これらの例によれば、スリットスキャンを実行可能な既存の眼科装置が有するような複雑且つ大規模なフォーカス専用ハードウェア要素を設けることなくフォーカス調整を行うことができる。これにより、眼科装置の小型化、眼科装置の構成の簡略化、眼科装置の製造コストの低減などを図ることが可能になる。
【0324】
本実施形態で説明した例示的なフォーカス方法は、以下のいずれかの特徴を有していてよい。
【0325】
本実施形態のいくつかの態様において、撮影ユニットは、撮像装置を含んでいてよく、プロセッサは、被検眼の眼底にスリット光を投射するために撮影ユニットを制御するスリット光投射制御と、スリット光投射制御により投射されたスリット光の戻り光を検出した撮像装置からの出力に基づいてフォーカス調整条件を決定する条件決定処理と、条件決定処理により決定されたフォーカス調整条件に基づいてフォーカス調整ユニットを制御するフォーカス調整制御とを更に実行するように構成されていてよい。
【0326】
本実施形態のいくつかの態様において、プロセッサは、条件決定処理を実行する条件決定部を含んでいてよい。条件決定部は、撮影ユニットの撮像装置により生成された画像中のスリット光像の位置に基づいてフォーカス調整条件を決定するように構成されていてよい。
【0327】
本実施形態のいくつかの態様において、条件決定部は、撮影ユニットの撮像装置により生成された画像中のスリット光像の少なくとも一部の画像領域の輝度プロファイルであって、撮影ユニットによるスリット光の投射位置の移動方向に対応する第1の方向に沿った輝度プロファイルに基づいて、スリット光像の位置を決定するように構成されていてよい。
【0328】
本実施形態のいくつかの態様において、条件決定部は、撮影ユニットの撮像装置により生成された画像中のスリット光像の少なくとも一部の画像領域を構成するピクセル群の輝度を、撮影ユニットによるスリット光の投射位置の移動方向に対応する第1の方向に直交する第2の方向に加算することによって、輝度プロファイルを生成するように構成されていてよい。
【0329】
本実施形態のいくつかの態様において、撮影ユニットは、被検眼の眼底にスリット光を投射する第1の光学系と、被検眼の眼底からのスリット光の戻り光を撮像装置に導く第2の光学系とを含んでいてよい。また、フォーカス調整ユニットは、第1の光学系の焦点位置を調整するための第1のフォーカス調整ユニットと、第2の光学系の焦点位置を調整するための第2のフォーカス調整ユニットとを含んでいてよい。更に、条件決定部は、第1のフォーカス調整ユニットを制御するための第1のフォーカス調整条件と第2のフォーカス調整ユニットを制御するための第2のフォーカス調整条件とをフォーカス調整条件として決定するように構成されていてよい。
【0330】
本実施形態のいくつかの態様において、第1の光学系は、光源と、光源により発せられた光からスリット光を生成するためのスリット絞りとを含んでいてよく、スリット絞りにより生成されたスリット光を被検眼の眼底に投射するように構成されていてよい。また、第2の光学系は、フォーカスレンズを含んでいてよい。更に、第1のフォーカス調整ユニットは、第1の光学系の光軸に沿う方向にスリット絞りを移動するための第1の移動機構を含んでいてよく、且つ、第2のフォーカス調整ユニットは、第2の光学系の光軸に沿う方向にフォーカスレンズを移動するための第2の移動機構を含んでいてよい。加えて、条件決定部は、第1の移動機構を制御するための第1の移動制御条件を第1のフォーカス調整条件として決定し、且つ、第2の移動機構を制御するための第2の移動制御条件を第2のフォーカス調整条件として決定するように構成されていてよい。
【0331】
本実施形態のいくつかの態様において、第1の移動機構を制御するための第1の移動制御条件は、スリット絞りの移動方向及び移動距離を示す情報を含んでいてよく、且つ、第2の移動機構を制御するための第2の移動制御条件は、フォーカスレンズの移動方向及び移動距離を示す情報を含んでいてよい。
【0332】
本実施形態のいくつかの態様において、第1の光学系は、光源と、被検眼の虹彩に対して光学的に略共役な位置に配置され、光源により発せられた光を通過させる開口部が形成された虹彩絞りと、虹彩絞りの開口部を通過した光を屈折するレンズと、レンズにより屈折された光からスリット光を生成するためのスリット絞りとを含んでいてよく、スリット絞りにより生成されたスリット光を被検眼の眼底に投射するように構成されていてよい。また、第2の光学系は、フォーカスレンズを含んでいてよい。更に、第1のフォーカス調整ユニットは、第1の光学系の光軸に沿う方向に光源、虹彩絞り、レンズ、及びスリット絞りを一体的に移動するための第3の移動機構を含んでいてよく、且つ、第2のフォーカス調整ユニットは、第2の光学系の光軸に沿う方向にフォーカスレンズを移動するための第4の移動機構を含んでいてよい。加えて、条件決定部は、第3の移動機構を制御するための第3の移動制御条件を第1のフォーカス調整条件として決定し、且つ、第4の移動機構を制御するための第4の移動制御条件を第2のフォーカス調整条件として決定するように構成されていてよい。
【0333】
本実施形態のいくつかの態様において、第3の移動機構を制御するための第3の移動制御条件は、光源、虹彩絞り、レンズ、及びスリット絞りの移動方向及び移動距離を示す情報を含んでいてよい。また、第4の移動機構を制御するための第4の移動制御条件は、フォーカスレンズの移動方向及び移動距離を示す情報を含んでいてよい。
【0334】
本実施形態のいくつかの態様において、プロセッサは、スリット光投射制御において、被検眼の眼底に投射されるスリット光を撮影ユニットの光軸に対して所定距離だけ離隔した位置から発するように撮影ユニットを制御するように構成されていてよい。更に、条件決定部は、撮影ユニットの撮像装置により生成された画像中のスリット光像の位置と、撮影ユニットの焦点距離と、当該所定距離とに基づいてフォーカス調整条件を決定するように構成されていてよい。
【0335】
本実施形態のいくつかの態様において、撮影ユニットは、被検眼に導かれるスリット光を偏向することによって眼底に対するスリット光の投射位置を移動する光スキャナーを含んでいてよい。また、プロセッサは、スリット光投射制御を実行する投射制御部を含んでいてよい。投射制御部は、光スキャナーによるスリット光の偏向方向が固定された状態で被検眼の眼底にスリット光を投射するように撮影ユニットを制御するように構成されていてよい。更に、条件決定部は、光スキャナーによるスリット光の偏向方向が固定された状態で被検眼の眼底に投射されたスリット光に対応する、撮影ユニットの撮像装置により生成された画像中のスリット光像の位置に基づいて、フォーカス調整条件を決定するように構成されていてよい。
【0336】
本実施形態のいくつかの態様において、プロセッサは、スリット光投射制御を実行する投射制御部を含んでいてよい。投射制御部は、被検眼の眼底における投射位置が異なる第1のスリット光及び第2のスリット光を出力するように撮影ユニットを制御するように構成されていてよい。更に、条件決定部は、第1のスリット光に対応する第1のスリット光像と第2のスリット光に対応する第2のスリット光像との相対位置に基づいてフォーカス調整条件を決定するように構成されていてよい。
【0337】
<他の実施形態>
実施形態に係る眼科装置のいくつかの非限定的な態様について以上に説明したが、本開示に係る実施形態のカテゴリーは眼科装置に限定されない。眼科装置以外の実施形態のカテゴリーとして、眼科装置を制御する方法、眼底を撮影する方法、プログラム、記録媒体などがある。これらのカテゴリーの実施形態が前述した眼科装置の実施形態によって為し得るものであることは、当業者であれば理解することができるであろう。
【0338】
これらのカテゴリーの実施形態によっても、眼科装置の実施形態と同様に、高い品質の眼底画像(輝度ムラを有しない画像、輝度ムラが低減された画像など)を取得することができるという効果を奏することが可能になる。
【0339】
以下、これらのカテゴリーのいくつかの非限定的な実施形態について説明する。これらのカテゴリーのいずれかの実施形態に対して、本開示において眼科装置に関して説明した任意の事項や、任意の公知技術を組み合わせることが可能である。
【0340】
いくつかの実施形態に係る、眼科装置を制御する方法は、撮影部とプロセッサとメモリとを含む眼科装置を制御する新規な方法を提供する。ここで、撮影部は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影(スリットスキャン)を行うように構成された撮影ユニットと、この撮影ユニットのフォーカス調整を行うように構成されたフォーカス調整ユニットとを含んでいる。本実施形態に係る方法は、プロセッサに、記憶ステップと、フォーカス制御ステップと、撮影制御ステップとを実行させる。記憶ステップでは、プロセッサは、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報をメモリに記憶する。フォーカス制御ステップでは、プロセッサは、撮影ユニットのフォーカス調整を実行するようにフォーカス調整ユニットの制御を実行する。撮影制御ステップでは、プロセッサは、フォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された被検眼の視度データと、記憶ステップでメモリに記憶された補正情報とに基づいて、被検眼の眼底に対してスリットスキャンを適用するように撮影部の制御を実行する。
【0341】
いくつかの実施形態に係る、眼底を撮影する方法は、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影(スリットスキャン)を行う新規な方法を提供する。本方法は、準備ステップと、フォーカス調整ステップと、撮影ステップとを含んでいる。準備ステップでは、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報の準備を実行する。フォーカス調整ステップでは、被検眼の眼底に対するフォーカス調整を実行する。撮影ステップでは、フォーカス調整によって取得された被検眼の視度データと準備ステップで準備された補正情報とに基づいて、被検眼の眼底に対してスリットスキャンを適用する。
【0342】
いくつかの実施形態に係るプログラムは、眼科装置に実行させるための新規なプログラムである。この眼科装置は、撮影ユニット及びフォーカス調整ユニットを含む撮影部と、プロセッサと、メモリとを含んでいる。撮影ユニットは、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影(スリットスキャン)を行うように構成されている。フォーカス調整ユニットは、撮影ユニットのフォーカス調整を行うように構成されている。本実施形態に係るプログラムは、眼科装置のプロセッサに、記憶ステップと、フォーカス制御ステップと、撮影制御ステップとを実行させる。記憶ステップでは、プロセッサは、プログラムにしたがって、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報をメモリに記憶する。フォーカス制御ステップでは、プロセッサは、プログラムにしたがって、撮影ユニットのフォーカス調整を実行するようにフォーカス調整ユニットの制御を実行する。撮影制御ステップでは、プロセッサは、プログラムにしたがって、フォーカス制御ステップにおいてフォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された被検眼の視度データと、記憶ステップにおいてメモリに記憶された補正情報とに基づいて、被検眼の眼底に対してスリットスキャンを適用するように撮影部の制御を実行する。
【0343】
別のいくつかの実施形態に係るプログラムは、眼科装置を制御するためのコンピュータに実行させるための新規なプログラムである。この眼科装置は、撮影ユニット及びフォーカス調整ユニットを含む撮影部を含んでいる。撮影ユニットは、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影(スリットスキャン)を行うように構成されている。フォーカス調整ユニットは、撮影ユニットのフォーカス調整を行うように構成されている。また、このコンピュータは、プロセッサと、メモリとを含んでいる。本実施形態に係るプログラムは、本実施形態に係るプログラムは、コンピュータのプロセッサに、記憶ステップと、命令生成ステップと、送信制御ステップとを実行させる。記憶ステップでは、コンピュータのプロセッサは、プログラムにしたがって、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報をコンピュータのメモリに記憶する。命令生成ステップでは、コンピュータのプロセッサは、プログラムにしたがって、眼科装置のフォーカス調整ユニットにより実行されたフォーカス調整によって取得された被検眼の視度データと、記憶ステップでメモリに記憶された補正情報とに基づいて、被検眼の眼底に対してスリットスキャンを適用するように眼科装置の撮影部を制御するための命令を生成する。送信制御ステップでは、コンピュータのプロセッサは、プログラムにしたがって、命令生成ステップで生成された命令を眼科装置に送るための制御を実行する。なお、本実施形態に係るプログラムは、コンピュータのプログラムに、更に、撮影ユニットのフォーカス調整を実行するように眼科装置のフォーカス調整ユニットを制御するための命令を生成するステップと、この命令を眼科装置に送るための制御を実行するステップと、この命令にしたがって実行されたフォーカス調整の結果データ(被検眼の視度データ、又は、被検眼の視度データを求めるために使用されるデータ)を取得するステップとを実行させるように構成されていてもよい。
【0344】
更に別のいくつかの実施形態に係るプログラムは、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつ撮影(スリットスキャン)を行うための処理を、プロセッサとメモリとを含むコンピュータに実行させるための新規なプログラムである。本実施形態に係るプログラムは、コンピュータのプロセッサに、記憶ステップと、フォーカス制御ステップと、撮影制御ステップとを実行させる。記憶ステップでは、プロセッサは、視度値と眼底位置との複数の組み合わせに対応する複数の補正値が記録された補正情報をメモリに記憶する。フォーカス制御ステップでは、プロセッサは、被検眼の眼底に対するフォーカス調整を行うための制御を実行する。撮影制御ステップでは、プロセッサは、被検眼の眼底に対するフォーカス調整によって取得された被検眼の視度データと、メモリに記憶された補正情報とに基づいて、被検眼の眼底に対してスリットスキャンを適用するための制御を実行する。
【0345】
いくつかの実施形態に係る記録媒体は、いずれかの実施形態に係るプログラムが記録された、コンピュータ可読な非一時的記録媒体である。実施形態に係る記録媒体として使用可能な、コンピュータ可読な非一時的記録媒体は、任意の形態の記録媒体であってよく、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、及び半導体メモリのいずれかであってよい。
【0346】
本開示は、いくつかの実施形態及びそのいくつかの態様を提示するものである。これらの実施形態及び態様は、本発明の例示に過ぎない。したがって、本発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加など)を、本開示において提示された実施形態や態様に施すことが可能である。
【符号の説明】
【0347】
1 眼科装置
2 撮影ユニット
3 フォーカス調整ユニット
4、4A、4B、4C プロセッサ
5 メモリ
5a、5b、5c 補正情報
6 ユーザーインターフェイス
10 光源
22 スリット開口絞り
22M 移動機構
47 フォーカスレンズ
47M 移動機構
50 撮像装置
410 撮影制御部
421 投射制御部
422 フォーカス条件決定部
423 フォーカス調整制御部
430 撮影条件決定部
図1
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