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特開2024-98229既設構造物劣化部の補修工法及び補修モルタル組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098229
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】既設構造物劣化部の補修工法及び補修モルタル組成物
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240716BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240716BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20240716BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240716BHJP
   C04B 24/24 20060101ALI20240716BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20240716BHJP
   E21D 11/00 20060101ALI20240716BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20240716BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20240716BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
E04G23/02 B
C04B28/02
C04B20/00 A
C04B22/08 Z
C04B24/24 A
E04G21/02 103B
E21D11/00 Z
E21D11/10 Z
E01D19/12
E01D22/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001556
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】小瀬 喜巳
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐介
(72)【発明者】
【氏名】松田 芳範
(72)【発明者】
【氏名】岡田(山崎) 由紀
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】山岸 隆典
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】水野 博貴
【テーマコード(参考)】
2D059
2D155
2E172
2E176
4G112
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG39
2D155LA16
2E172AA06
2E172AA17
2E172DB13
2E172DC01
2E172HA03
2E176AA01
2E176BB15
2E176BB36
4G112MC00
4G112PA04
4G112PA15
4G112PA24
4G112PB05
4G112PB26
4G112PC03
4G112PC06
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造物である既設構造物における劣化部を除去した箇所へ、特定の材料を含有し、特定の方法で測定される付着強度、厚塗り性試験、凝結時間試験、及び、塩化物イオン浸透深さの結果を満たす補修モルタル組成物を吹き付けることで、コンクリートとセメントモルタルとの界面を強化し、長期の耐久性を有する既設構造物劣化部の補修工法を提供する。
【解決手段】既設構造物における劣化部を除去する工程と、劣化部を除去した箇所へ補修モルタル組成物を吹き付ける工程とを含み、補修モルタル組成物は、セメント、細骨材、CaO・2Alを主成分とする塩分固定材、減水剤、繊維、セメント混和用ポリマー、急硬材、及び水を含有し、補修モルタル組成物は、付着試験、厚塗り性試験、凝結時間試験、及び、塩化物イオン浸透深さ試験の結果を満たす、既設構造物劣化部の補修工法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造物におけるコンクリート劣化部を除去する工程と、前記劣化部を除去した箇所へ補修モルタル組成物を吹き付ける工程とを含み、
前記補修モルタル組成物は、セメント、CaO・2Alを主成分とする塩分固定材、細骨材、減水剤、繊維、セメント混和用ポリマー、急硬材、及び水を含有し、
前記補修モルタル組成物は、以下の付着試験、厚塗り性試験、凝結時間試験、及び、塩化物イオン浸透深さ試験の結果を満たす、既設構造物劣化部の補修工法。
〔付着試験〕
下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが60mmの直方体のコンクリートの上面に前記補修モルタル組成物を高さが60mmになるまで吹付けて、下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが120mmの直方体の仮試験体を作製し、材齢28日の付着強度が1.3N/mm以上である。
〔厚塗り性試験〕
下面及び上面が70mm×70mmの正方形で高さが20mmの直方体のモルタル板の上面に直径60mmの開口部を設けた木枠を設置し、前記補修モルタル組成物を高さが60mmになるまで吹付けて試験体を作製し、材齢24時間の付着強度が1.0N/mm以上である。
〔凝結時間試験〕
前記補修モルタル組成物を吹付けて、100mm×100mm×100mmの試験体を作製し、貫入抵抗値が3.5N/mmに達した時間が10分以上1時間以内である。
〔塩化物イオン浸透深さ試験〕
下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが60mmの直方体のコンクリートの上面に前記補修モルタル組成物を高さが60mmになるまで吹付けて、下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが120mmの直方体の仮試験体を作製し、作製した前記仮試験体を前記コンクリートと前記補修モルタル組成物からなる部位が高さ方向に同体積となるように、縦120mm×横120mm×高さ120mmに切り出して立方体の試験体を作製し、作製した前記立方体の試験体を塩分濃度3.5%の海水に浸漬し、28日後の前記立方体の試験体の前記補修モルタル組成物からなる部位の塩化物イオン浸透深さが、前記立方体の試験体の前記コンクリートからなる部位の塩化物イオン浸透深さと比較して35%以下である。
【請求項2】
前記補修モルタル組成物は、以下の透水係数試験により得られる透水係数が200×10-10cm/sec以下である、請求項1に記載の既設構造物劣化部の補修工法。
〔透水係数試験〕
下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが60mmの直方体のコンクリートの上面に前記補修モルタル組成物を高さが60mmになるまで吹付けて、下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが120mmの直方体の仮試験体を作製し、作製した前記仮試験体を前記コンクリートと前記補修モルタル組成物からなる部位が下面及び上面の直径で2分割され、高さ方向に同体積となるように、下面及び上面の直径100mm×高さ150mmに切り出して円柱の試験体を作製し、作製した前記円柱の試験体の透水係数を測定する。
【請求項3】
前記補修モルタル組成物を吹き付ける工程において、前記補修モルタル組成物の吹付速度が5~25L/minである、請求項1又は2に記載の既設構造物劣化部の補修工法。
【請求項4】
前記補修モルタル組成物を吹き付ける工程において、前記補修モルタル組成物を圧送する圧送ポンプの圧力が2MPa以下である、請求項1又は2に記載の既設構造物劣化部の補修工法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の既設構造物劣化部の補修工法に用いる補修モルタル組成物であって、
セメント100質量部に対して、CaO・2Alを主成分とする塩分固定材4~10質量部、細骨材160~190質量部、減水剤0.01~1.00質量部、繊維1.4~1.8質量部、セメント混和用ポリマー4~12質量部、及び、急硬材6~12質量部である補修モルタル材料と、前記補修モルタル材料100質量部に対して、水11~17質量部とを含有する、補修モルタル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物である既設構造物の劣化部の補修工法及び補修モルタル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルや橋梁等のコンクリート構造物は、塩害、中性化、凍結融解、及び化学的腐食等の作用による劣化で、表面にひび割れや浮きなどが発生する恐れがある。その対策として、例えば、劣化した部分を打撃検査等で確認して除去した後に、補修材料を充填し、補修する断面修復工法が広く実施されている。
このような断面修復工法では、修復断面積が大きくなると機械化されたシステムを用い、流動性に優れる材料を充填する工法やセメントモルタルを吹付ける工法を採用するケースが多い。
【0003】
従来、コンクリート構造物の表面仕上げ及び断面修復には、主にセメントモルタルが使用されている。セメントモルタルは、通常、モルタルミキサなどで、セメント、骨材、及び水を攪拌して混合することで製造される。セメントモルタルの施工方法としては、補修モルタル組成物をコテで塗りつけて仕上げを行うことが多いが、熟練が必要な上、天井面では10mm以上の厚塗が困難で、多大な労力がかかるという課題があった。そのため、補修モルタル組成物をポンプで圧送して吹付ける方法が提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09-012379号公報
【特許文献2】特開平09-296453号公報
【特許文献3】特開平10-216628号公報
【特許文献4】特許第4785359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コンクリート構造物であるトンネルや橋梁等には地下水や降雨等による水掛かりや漏水が存在し、その水は脆弱部であるコンクリートとセメントモルタルとの界面に影響を及ぼし、コンクリートとセメントモルタルとの付着性能が低下する危険性がある。
さらに、水が塩分を含む場合は、鉄筋腐食によってセメントモルタルがひび割れを発生する危険性もある。そこで、コンクリートとセメントモルタルとの界面を強化し、長期の耐久性を有するために耐塩性を向上させる課題がある。また、長期耐久性を得る観点から、さらに遮水性をも有することが好ましいといえる。長期の耐久性を有するために遮水性及び耐塩性を向上させる課題がある。
【0006】
本発明は、コンクリート構造物である既設構造物における劣化部を除去した箇所へ、特定の材料を含有し、特定の方法で測定される付着強度、厚塗り性試験、凝結時間試験、及び、塩化物イオン浸透深さの結果を満たす補修モルタル組成物を吹き付けることで、コンクリートとセメントモルタルとの界面を強化し、長期の耐久性を有する既設構造物劣化部の補修工法及び補修モルタル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の補修モルタル組成物を既設構造物における劣化部を除去した箇所に吹き付けることで、コンクリートとセメントモルタルとの界面を強化し、長期の耐久性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]既設構造物におけるコンクリート劣化部を除去する工程と、前記劣化部を除去した箇所へ補修モルタル組成物を吹き付ける工程とを含み、
前記補修モルタル組成物は、セメント、CaO・2Alを主成分とする塩分固定材、細骨材、減水剤、繊維、セメント混和用ポリマー、急硬材、及び水を含有し、
前記補修モルタル組成物は、以下の付着試験、厚塗り性試験、凝結時間試験、及び、塩化物イオン浸透深さ試験の結果を満たす、既設構造物劣化部の補修工法。
〔付着試験〕
下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが60mmの直方体のコンクリートの上面に前記補修モルタル組成物を高さが60mmになるまで吹付けて、下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが120mmの直方体の仮試験体を作製し、材齢28日の付着強度が1.3N/mm以上である。
〔厚塗り性試験〕
下面及び上面が70mm×70mmの正方形で高さが20mmの直方体のモルタル板の上面に直径60mmの開口部を設けた木枠を設置し、前記補修モルタル組成物を高さが60mmになるまで吹付けて試験体を作製し、材齢24時間の付着強度が1.0N/mm以上である。
〔凝結時間試験〕
前記補修モルタル組成物を吹付けて、100mm×100mm×100mmの試験体を作製し、貫入抵抗値が3.5N/mmに達した時間が10分以上1時間以内である。
〔塩化物イオン浸透深さ試験〕
下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが60mmの直方体のコンクリートの上面に前記補修モルタル組成物を高さが60mmになるまで吹付けて、下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが120mmの直方体の仮試験体を作製し、作製した前記仮試験体を前記コンクリートと前記補修モルタル組成物からなる部位が高さ方向に同体積となるように、縦120mm×横120mm×高さ120mmに切り出して立方体の試験体を作製し、作製した前記立方体の試験体を塩分濃度3.5%の海水に浸漬し、28日後の前記立方体の試験体の前記補修モルタル組成物からなる部位の塩化物イオン浸透深さが、前記立方体の試験体の前記コンクリートからなる部位の塩化物イオン浸透深さと比較して35%以下である。
[2]前記補修モルタル組成物は、以下の透水係数試験により得られる透水係数が200×10-10cm/sec以下である、[1]に記載の既設構造物劣化部の補修工法。
〔透水係数試験〕
下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが60mmの直方体のコンクリートの上面に前記補修モルタル組成物を高さが60mmになるまで吹付けて、下面及び上面が300mm×300mmの正方形で高さが120mmの直方体の仮試験体を作製し、作製した前記仮試験体を前記コンクリートと前記補修モルタル組成物からなる部位が下面及び上面の直径で2分割され、高さ方向に同体積となるように、下面及び上面の直径100mm×高さ150mmに切り出して円柱の試験体を作製し、作製した前記円柱の試験体の透水係数を測定する。
[3]前記補修モルタル組成物を吹き付ける工程において、前記補修モルタル組成物の吹付速度が5~25L/minである、[1]又は[2]に記載の既設構造物劣化部の補修工法。
[4]前記補修モルタル組成物を吹き付ける工程において、前記補修モルタル組成物を圧送する圧送ポンプにかかる圧力が2MPa以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の既設構造物劣化部の補修工法。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の既設構造物劣化部の補修工法に用いる補修モルタル組成物であって、セメント100質量部に対して、CaO・2Alを主成分とする塩分固定材4~10質量部、細骨材160~190質量部、減水剤0.01~1.00質量部、繊維1.4~1.8質量部、セメント混和用ポリマー4~12質量部、及び、急硬材6~12質量部である補修モルタル材料と、前記補修モルタル材料100質量部に対して、水11~17質量部とを含有する、補修モルタル組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンクリート構造物である既設構造物における劣化部を除去した箇所へ、特定の材料を含有し、特定の方法で測定される凝結時間試験、付着強度、厚塗り性試験、及び、塩化物イオン浸透深さの結果を満たす補修モルタル組成物を吹き付けることで、コンクリートとセメントモルタルとの界面を強化し、長期の耐久性を有する既設構造物劣化部の補修工法及び補修モルタル組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】塩化物イオン浸透深さ試験及び透水係数試験の試験体を得るために作製する仮試験体の作製を示す模式的斜視図である。
図2】塩化物イオン浸透深さ試験の試験体の作製を示す模式的斜視図である。
図3】厚塗り性試験の試験体の作製を示す模式的斜視図及び模式的断面図である。
図4】透水係数試験の試験体の作製を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は、特に断らない限り質量規準で示す。
【0011】
本発明の実施の形態に係る既設構造物劣化部の補修工法は、既設構造物における劣化部を除去する工程と、劣化部を除去した箇所へ補修モルタル組成物を吹き付ける工程とを含む。
【0012】
既設構造物における劣化部を除去する工程は、既設構造物劣化部として、例えば、塩害、中性化、凍結融解、及び化学的腐食等の作用による劣化や経年による劣化で、表面にひび割れや浮きなどが発生した箇所を除去する。劣化部を除去する手段としては、例えば、劣化した部分を打撃検査等で確認し、電動ピック、エアピック、ジェットタガネ、及びウォータージェットなどにより除去する。
【0013】
補修工法における補修モルタル組成物を吹き付ける工程は、調製した補修モルタル組成物を、圧送ポンプを用いてモルタル圧送管を介して混合管まで圧送し、混合管において圧縮空気と混合し、ノズルから吹き付けるものである。
【0014】
補修モルタル組成物を吹き付ける工程において、補修モルタル組成物の吹付速度は、5~25L/minであることが好ましく、10~20L/minであることがより好ましい。補修モルタル組成物の吹付速度は、上記下限値未満であると、施工時間が長く、作業効率が悪い上に、不均一な補修となる。また、補修モルタル組成物の吹付速度は、上記上限値を超えると、瞬時に圧力がかかり、不均一な補修となる。
【0015】
補修モルタル組成物を吹き付ける工程において、補修モルタル組成物を圧送する圧送ポンプの圧力が2MPa以下であることが好ましく、1.5MPa以下であることがより好ましい。また、補修モルタル組成物を圧送する圧送ポンプの圧力が0.1MPa以上であることが好ましく、0.3MPa以上であることがより好ましい。圧送ポンプの圧力が上記上限値を以下、又は、上記下限値以上であることで、補修モルタル組成物を均一に吹き付けることができ、均一な補修となる。
【0016】
補修モルタル組成物を圧送するモルタル圧送管としては、ケミカルホース、耐圧性の金属メッシュ入りの耐圧ホース、及び金属製の配管が使用可能である。通常は、ケミカルホースや耐圧ホースが使用され、その前後は金属管を使用することが好ましい。
モルタル圧送管の長さは、特に限定されるものではなく、施工状況により、使用される長さは変わってくるが、通常、5~30mのものが使用される。
モルタル圧送管の直径は、圧送性や、耐圧ホースの取り扱いなどの作業性の点から、1~2インチのものが通常使用される。
【0017】
補修モルタル組成物を圧送する圧送ポンプは、特に限定されるものではないが、プランジャーポンプ、スクイズポンプ、及びスネークポンプなどの、一定の圧力により水溶液を圧送して、戻りがないケミカルポンプが使用できる。
【0018】
モルタル圧送管とノズルの間を連結する混合管は、練混ぜモルタルと、圧縮空気を混合するもので、シャワリング管が通常使用される。
【0019】
本発明で使用するノズルとしては、モルタル圧送管の先端の混合管に連結されるもので、連続的に縮径しているものや、縮径後に急結性の補修モルタル組成物を整流する直管をつけたものなどが使用可能である。
ノズルの長さは、付着性、粉じん低減性、及び圧送性の点から、15~145cm程度が好ましく、25~75cmがより好ましい。
ノズルは、金属製のものやセラミックス製のものが使用可能であり、ゴム素材でできたノズルの配管内面にセラミックスや金属でライニングされたものやこれらのチップ状のものを埋め込んだものが使用可能である。
【0020】
本発明の補修モルタル組成物は、セメント、CaO・2Alを主成分とする塩分固定材、細骨材、減水剤、繊維、セメント混和用ポリマー、急硬材、及び水を含有してなるものである。
【0021】
本発明で使用するセメントとは、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種セメント、これらのセメントに、高炉スラグやフライアッシュやシリカフュームなどを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)、市販されている微粒子セメントなどが挙げられ、各種セメントや各種混合セメントを微粉末化して使用することも可能である。また、通常セメントに使用されている成分(例えば石膏等)量を増減して調整されたものも使用可能である。
本発明では、高い流動性、中性化抵抗性や付着強度、防錆の観点から、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントを選定することが好ましい。
【0022】
本発明で使用するセメントは、製造コストや強度発現性の観点から、セメントのブレーン比表面積値(以下、ブレーン値ともいう)は、2,500cm/g以上7,000cm/g以下であることが好ましく、2,750cm/g以上6,000cm/g以下であることがより好ましく、3,000cm/g以上4,500cm/g以下であることがさらに好ましい。
ブレーン比表面積値は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠して求められる。
【0023】
本発明で使用する塩分固定化材とは、CaO・2Alを主成分とするカルシウムアルミネート化合物(以下、CA化合物ということができる。)であって、カルシアを含む原料と、アルミナを含む原料等を混合して、キルンでの焼成や電気炉での溶融等の熱処理をして得られる。本発明は、その組成が、CaO/Alモル比で、0.15~0.7の範囲にあるものである。CA化合物に、例えば、SiOやRO(Rはアルカリ金属)が含有していても、本発明の目的を損なわない限り使用可能である。CA化合物のCaO/Alモル比は0.15~0.7であり、0.4~0.6が好ましい。CA化合物のCaO/Alモル比が上記下限値以上であることで、塩化物イオンの遮蔽効果が充分に得ることができる。また、CA化合物のCaO/Alモル比が上記上限値以下であることで、適切な可使時間を確保することが可能となる。
【0024】
CaO・2Alを主成分とする塩分固定化材としてのカルシウムアルミネート化合物を得る方法としては、CaO原料とAl原料等をロータリーキルンや電気炉等によって熱処理して得る方法が挙げられる。
CaO・2Al2O3を主成分とする塩分固定化材としてのカルシウムアルミネート化合物を製造する際のCaO原料としては、例えば、石灰石や貝殻等の炭酸カルシウム、消石灰等の水酸化カルシウム、あるいは、生石灰等の酸化カルシウムを挙げることができる。
また、Al原料としては、例えば、ボーキサイトやアルミ残灰と呼ばれる産業副産物等が挙げられる。
【0025】
カルシウムアルミネート化合物を工業的に得る場合、不純物が含まれることがある。その具体例としては、例えば、SiO、Fe、MgO、TiO、MnO、NaO、KO、LiO、S、P、及びFなどが挙げられるが、これらの不純物の存在は本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならない。具体的には、これらの不純物の合計が10%以下の範囲では特に問題とはならない。
【0026】
本発明のCaO・2Alを主成分とする塩分固定化材としてのカルシウムアルミネート化合物の粒度は特に限定されるものではないが、通常、ブレーン値で2,000~7,000cm/gが好ましく、3,000~6,000cm/gがより好ましい。CaO・2Alを主成分とする塩分固定化材としてのカルシウムアルミネート化合物の粒度が上記範囲内であることで、充分な塩化物イオンの遮蔽効果を得ることが可能であり、適切な可使時間を確保することが可能となる。
【0027】
CaO・2Alを主成分とする塩分固定材の配合割合は、セメント100質量部に対して、1~35質量部が好ましく、2~20質量部がより好ましく、4~10質量部がさらに好ましい。CaO・2Alを主成分とする塩分固定材の配合割合が1質量部未満では遮塩性が十分に発揮できない。また、CaO・2Alを主成分とする塩分固定材の配合割合が35質量部を超えては流動性を損なう。CaO・2Alを主成分とする塩分固定材の配合割合が1~35質量部であることで、耐塩性に優れる補修モルタル組成物が得られる。
【0028】
本発明に用いる細骨材とは、乾燥収縮の低減や耐久性を改善するものである。
細骨材の種類としては、特に限定されるものではないが、例えば、ケイ砂系、石灰石系、高炉水砕スラグ系、再生骨材系等に分類される。プレミックス製品として使用する際にはそれらの乾燥砂が好ましい。なかでも、石灰石系が好ましい。
【0029】
細骨材の含有割合は、セメント100質量部に対して、40~300質量部であることが好ましく、75~250質量部であることがより好ましく、100~200質量部であることがさらに好ましく、160~190質量部であることがよりさらに好ましい。
【0030】
本発明で使用する減水剤は、流動性保持を改善するものである。
減水剤の種類としては、特に限定されるものではないが、例えば、ナフタレン系減水剤、リグニン系減水剤、メラミン系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤が挙げられる。
【0031】
減水剤の含有割合は、セメント100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.2~3質量部がより好ましく、0.01~1.00質量部がさらに好ましい。減水剤の含有割合が上記範囲内であることで、遮水性、耐塩性に優れる補修モルタル組成物が得られる。
【0032】
本発明で使用する繊維は、厚塗り性、ひび割れ抵抗性を改善するものである。
繊維の種類としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビニロン繊維、プロピレン繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維等の高分子繊維類や、鋼繊維、ガラス繊維、炭素繊維、及び玄武岩等の岩石を溶融紡糸した繊維等の無機繊維類が挙げられる。
【0033】
繊維の含有割合は、セメントモルタル100質量部に対して、0.02~1.5質量部が好ましく、0.05~1.0質量部がより好ましく、1.4~1.8質量部がさらに好ましい。繊維の含有割合が上記下限値以上であることで、ダレ性を改善する効果を十分に発揮することができる。また、繊維の含有割合が上記上限値以下であることで、練り混ぜ抵抗性を良好とすることができる。
繊維の長さは、厚塗り性、ひび割れ抵抗性を改善する観点から、3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましい。また、繊維の長さは、コテ仕上げ面の美観の観点から、15mm以下であることが好ましく、12mm以下であることがより好ましい。
【0034】
本発明で使用するセメント混和用ポリマーは、特に限定されるものではないが、例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム等のゴムラテックスや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、スチレン・アクリル酸エステル共重合体やアクリロニトリル・アクリル酸エステルに代表されるアクリル酸エステル系共重合体、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体等の樹脂エマルジョン等が挙げられる。
セメント混和用ポリマーの形態としては、再乳化型粉末タイプや液体タイプがあり、下地部分との付着性改善、さらに、モルタルの耐久性向上のために使用される。
【0035】
セメント混和用ポリマーの含有割合は、セメント100質量部に対して、固形分量で1~20質量部が好ましく、3~15質量部がより好ましく、4~12質量部がさらに好ましい。セメント混和用ポリマーの含有割合が上記範囲内であることで、練り混ぜ抵抗性を低減し、中性化抵抗性及び付着強度を向上させることができる。
【0036】
本発明で使用する急硬材は、カルシウムアルミネート化合物及び石膏の混合物である。
本発明で使用する急硬材としてのカルシウムアルミネート化合物のCaO/Alモル比は、0.75~3の範囲であることが好ましく、1~2の範囲であることがより好ましい。CaO/Alモル比が0.75以上であることで、充分な初期強度発現性が得られる。また、CaO/Alモル比が3以下であることで、充分な流動性や可使時間が得られる。
また、急硬材としてのカルシウムアルミネート化合物は、非晶質が好ましく、結晶質では充分な強度発現が得られなくなるおそれがある。
【0037】
本発明の急硬材としてのカルシウムアルミネート化合物の粒度は特に限定されるものではないが、通常、ブレーン値で3,000~9,000cm/gが好ましく、4,000~8,000cm/gがより好ましい。急硬材としてのカルシウムアルミネート化合物のブレーン値が3,000cm/g以上であることで、初期強度発現性を充分に発現することができる。また、急硬材としてのカルシウムアルミネート化合物のブレーン値が9,000cm/g以下であることで、流動性や可使時間の確保が容易となる。
【0038】
本発明で使用する急硬材としての石膏は、無水、半水、又は二水の各石膏を総称するものであり特に限定されるものではないが、強度発現性の観点から、無水石膏又は半水石膏の使用が好ましく、無水石膏の使用がより好ましい。
【0039】
石膏の粒度は特に限定されるものではないが、通常、ブレーン値で3,000~9,000cm/gが好ましく、4,000~8,000cm/gがより好ましい。石膏のブレーン値が3,000cm/g以上であることで、寸法安定性が良好となる。また、石膏のブレーン値が9,000cm/g以下であることで、流動性の確保が容易となる。
【0040】
セメント、急硬材としてのカルシウムアルミネート化合物、及び石膏からなる結合材100質量部中の各々の配合割合は、セメント50~98質量部、急硬材としてのカルシウムアルミネート化合物1~25質量部、及び石膏1~25質量部が好ましい。各材料の配合割合が上記範囲内であることで、本発明の効果を満たす補修モルタル組成物、即ち、遮水性、遮塩性に優れる急硬補修モルタル材料を得ることができる。
【0041】
ここで、急硬材としてのカルシウムアルミネート化合物と石膏の配合割合は、カルシウムアルミネート化合物と石膏からなる急硬材100質量部中、カルシウムアルミネート化合物30~70質量部で、石膏70~30質量部が好ましく、カルシウムアルミネート化合物40~60質量部で、石膏60~40質量部がより好ましい。カルシウムアルミネート化合物が30質量部以上であり、石膏が70質量部以下であると初期強度の発現性が充分となり、寸法安定性が良好となる。また、カルシウムアルミネート化合物が70質量部以下であり、石膏が30質量部以上では可使時間の確保が容易となる。
【0042】
急硬材の配合割合は、セメント100質量部に対して、2~50質量部が好ましく、4~25質量部がより好ましく、6~12質量部がさらに好ましい。急硬材の配合割合が上記範囲内であることで、初期強度発現性を良好に発揮し、適度な可使時間の確保が容易となり、かつ、材料分離抵抗性が良好であり、遮水性、耐塩性に優れる補修モルタル組成物が得られる。
【0043】
本発明で使用する水は、特に限定されるものではないが、例えば、地下水、水道水が挙げられる。不純物が少ないものが好ましい。
【0044】
水の含有割合は、使用する目的・用途や各材料の含有割合によって変化するため特に限定されるものではないが、セメント、塩分固定材、細骨材、カルシウムアルミネート化合物、石膏、減水剤、繊維、凝結遅延剤、セメント混和用ポリマーなどの粉体成分である急硬補修モルタル材料100質量部に対して、8~70質量部であることが好ましく、10~65質量部以下であることがより好ましく、12~60質量部であることがさらに好ましく、11~17質量部であることがよりさらに好ましい。水の含有割合が上記下限値以上であることで、流動性の低下を抑制し、発熱量が極めて大きくなることを抑制することができる。また、水の含有割合が上記上限値以下であることで、強度発現性を確保することができる。
【0045】
本発明では、性能に悪影響を与えない範囲で、ガス発泡物質、膨張材、凝結調整剤、急結剤、AE剤、防錆剤、撥水剤、抗菌剤、着色剤、防凍剤、消泡剤、石灰石微粉末、シリカ質微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、及びパルプスラッジ焼却灰等の混和材料、及び収縮低減剤、ベントナイト、セピオライトなどの粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0046】
補修モルタル組成物における各材料の混合方法は、特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合してもよいし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
粉体成分を事前に混合する場合の混合装置としては、既存のいかなる装置、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサなどの使用が可能である。
粉体成分と水の練混ぜ方法は、ペール缶等の容器に材料を投入しハンドミキサで練り混ぜる方法や、底部が球状曲面形状を持つボールを有するモルタルミキサ、オムニミキサ、パン型ミキサ、パン型で自転する羽根を有するダマカットミキサ、及びコンクリートの練混ぜで使用する二軸ミキサ等を用いて練り混ぜる方法であればよい。
練混ぜ時間は90秒以上が好ましく、120秒以上がより好ましい。90秒以上とすることで均一な補修となる。
【0047】
本発明の補修モルタル組成物は、以下の付着試験の結果を満たす。
〔付着試験〕
図1(a)に示すように、下面1B及び上面1Aが300mm×300mmの正方形で高さが60mmの直方体のコンクリート1の上面1Aに補修モルタル組成物2’を吹付ける。なお、コンクリート1の組成は、セメント100質量部に対して、細骨材が290質量部、粗骨材が330質量部、混和材が1質量部及び水が55質量部とする。セメントとしては、普通セメントを使用し、細骨材としては、珪砂を使用し、粗骨材としては、川砂利を使用し、混和材としては、減水剤を使用する。そして、図1(b)に示すように、補修モルタル組成物2’の高さが60mmになるまで吹付けて、下面1B及び上面1Aが300mm×300mmの正方形で高さが120mmの直方体の仮試験体10を作製する。作製した仮試験体10の付着強度を以下の付着強度測定方法により測定する。
〔付着強度測定方法〕
付着強度の測定方法は、はじめに内径φ55mmのコンクリート用コアドリルで補修モルタル組成物の打設面からコンクリート側に70mm切込みを入れる。切込みを入れた面にφ55mmの鋼製付着治具を張り付け、建研式接着力試験器を用いて最大荷重を測定し、付着強度を計算する。
材齢28日の付着強度が1.3N/mm未満となると、界面が脆弱で、長期的な耐久性を有する補修モルタル組成物といえない。そこで、耐塩性があり、長期的な耐久性を有する補修モルタル組成物であるために、補修モルタル組成物の付着強度が、1.3N/mm以上であることが好ましく、1.4N/mm以上であることがより好ましく、1.5N/mm以上であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明の補修モルタル組成物は、以下の厚塗り性の結果を満たす。
〔厚塗り性試験〕
図3(a)に示すように、下面及び上面が70mm×70mmの正方形で高さが20mmの直方体のモルタル板40、直径60mmの開口部を設けた木枠41、及びモルタル板40を木枠41に固定する鋼製付着治具42を用意する。なお、モルタル板の組成は、セメント100質量部に対して、細骨材が300質量部、水が50質量部とする。セメントとしては、普通セメントを使用し、細骨材としては、標準砂を使用する。そして、図3(b)に示すように、木枠41の開口部を塞ぐようにモルタル板40を設置し、モルタル板40の上面に鋼製付着治具42を配置する。そして、図3(c)に示すように、補修モルタル組成物を吹付け、補修モルタル組成物からなる部位43の高さが60mmになるまで吹付けて、作製した試験体の厚塗り性を以下の厚塗り性測定方法により測定する。
〔厚塗り性測定方法〕
厚塗り性の測定方法は、モルタル板の背面に鋼製付着治具を張り付け、建研式接着力試験器を用いて最大荷重を測定し、付着強度を計算する。
材齢24時間の付着強度が1.0N/mm未満となると、界面が脆弱で、長期的な耐久性を有する補修モルタル組成物といえない。そこで、耐塩性があり、長期的な耐久性を有する補修モルタル組成物であるために、補修モルタル組成物の付着強度が、1.0N/mm以上であることが好ましく、1.1N/mm以上であることがより好ましく、1.2N/mm以上であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明の補修モルタル組成物は、以下の凝結時間の結果を満たす。
〔凝結時間試験〕
100mm×100mm×100mmの型枠に前記補修モルタル組成物を高さが100mmになるまで吹付けて100mm×100mm×100mmの試験体を作製する。作製した試験体の貫入抵抗値を以下の凝結時間測定方法により測定する。
〔凝結時間測定方法〕
凝結時間の測定方法は、プロクター貫入抵抗試験機を使用して、貫入抵抗値が3.5N/mmに達した時間を測定する。
10分以上1時間以内である。
貫入抵抗値が3.5N/mmに達した時間が10分未満となると、吹き付け後のコテ仕上げを十分に取れなくなる。また、1時間を超えると、界面が脆弱で、長期的な耐久性を有する補修モルタル組成物といえない。そこで、耐塩性があり、長期的な耐久性を有する補修モルタル組成物であるために、補修モルタル組成物の凝結時間が、10分以上1時間以内であることが好ましく、15分以上50分以内であることがより好ましい。
【0050】
本発明の補修モルタル組成物は、以下の塩化物イオン浸透深さ試験の結果を満たす。
〔塩化物イオン浸透深さ試験〕
図1(a)に示すように、下面1B及び上面1Aが300mm×300mmの正方形で高さが60mmの直方体のコンクリート1の上面1Aに補修モルタル組成物2’を吹付ける。なお、コンクリート1の組成は、セメント100質量部に対して、細骨材が290質量部、粗骨材が330質量部、混和材が1質量部及び水が55質量部とする。セメントとしては、普通セメントを使用し、細骨材としては、珪砂を使用し、粗骨材としては、川砂利を使用し、混和材としては、減水剤を使用する。そして、図1(b)に示すように、補修モルタル組成物2’の高さが60mmになるまで吹付けて、下面1B及び上面1Aが300mm×300mmの正方形で高さが120mmの直方体の仮試験体10を作製する。図2(a)に示すように、作製した仮試験体10をコンクリート1と補修モルタル組成物からなる部位2が高さ方向に同体積となるように切り出し、図2(b)に示すように、縦120mm×横120mm×高さ120mmに切り出して立方体の試験体を作製する。作製した立方体の試験体20を塩分濃度3.5%の海水に浸漬し、28日後の立方体の試験体20の補修モルタル組成物からなる部位2の塩化物イオン浸透深さ、及び、立方体の試験体20のコンクリートからなる部位1の塩化物イオン浸透深さを以下の塩化物イオン浸透深さ測定方法により測定する。そして、28日後の立方体の試験体20の補修モルタル組成物からなる部位2の塩化物イオン浸透深さと、立方体の試験体20のコンクリートからなる部位1の塩化物イオン浸透深さとを比較する。
〔塩化物イオン浸透深さ測定方法〕
塩化物イオン浸透深さの測定方法は、はじめに塩分濃度3.5%の海水に28日間浸漬した立方体の試験体20について、図2(b)に示すように、コンクリート1と補修モルタル組成物からなる部位2の界面の垂直方向に割裂して二分割する。割裂した断面に0.1%フルオレセインナトリウム水溶液及び0.1mol/L硝酸銀溶液を噴霧して、蛍光を発する部分を塩化物イオン浸透域とする。コンクリート1及び補修モルタル組成物からなる部位2について、それぞれ、図2(c)に示すように、20mm等間隔で9カ所(a~i,j~r)ずつ、試験体表面から蛍光を発しない部分までの深さをノギスで測定する。測定した9カ所の平均値(a~i,j~r)を塩化物イオン浸透深さとする。
補修モルタル組成物からなる部位2の塩化物イオン浸透深さが、コンクリート1の塩化物イオン浸透深さと比較して35%超となると、耐塩性がなく、長期的な耐久性を有する補修モルタル組成物といえない。そこで、耐塩性があり、長期的な耐久性を有する補修モルタル組成物であるために、補修モルタル組成物の塩化物イオン浸透深さが、コンクリートの塩化物イオン浸透深さと比較して33%以下であることが好ましく、31%以下であることがより好ましく、29%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
本発明の補修モルタル組成物は、以下の透水係数試験により得られる透水係数が200×10-10cm/sec以下であることが好ましく、175×10-10cm/sec以下であることがより好ましく、150×10-10cm/sec以下であることがさらに好ましい。補修モルタル組成物の透水係数が上記上限値以下であることで、塩分を含有する水を遮水し、耐塩性に優れる。
〔透水係数試験〕
図1(a)に示すように、下面1B及び上面1Aが300mm×300mmの正方形で高さが60mmの直方体のコンクリート1の上面1Aに補修モルタル組成物2’を吹付ける。なお、コンクリート1の組成は、セメント100質量部に対して、細骨材が290質量部、粗骨材が330質量部、混和材が1質量部及び水が55質量部とする。セメントとしては、普通セメントを使用し、細骨材としては、珪砂を使用し、粗骨材としては、川砂利を使用し、混和材としては、減水剤を使用する。そして、図1(b)に示すように、補修モルタル組成物2’の高さが60mmになるまで吹付けて、下面1B及び上面1Aが300mm×300mmの正方形で高さが120mmの直方体の仮試験体10を作製する。そして、図4(a)に示すように、作製した仮試験体10をコンクリート1と補修モルタル組成物からなる部位2が下面及び上面の直径で2分割され、高さ方向に同体積となるように切り出し、図4(b)に示すように、下面及び上面の直径100mm×高さ300mmに切り出して円柱の試験体30を得る。得られた円柱の試験体30の下面側及び上面側をそれぞれ切断して、図4(c)に示すように、下面及び上面の直径100mm×高さ150mmに切り出して円柱の試験体31を作製する。作製した円柱の試験体31の透水係数を以下の透水係数測定方法により測定する。
〔透水係数測定方法〕
透水係数の測定方法は、はじめに円柱の試験体31を試験容器(図示せず)に入れ、円柱の試験体31の側面と試験容器との間をグラウト材などで充填し、水密を保つ。円柱の試験体31の上面から水を、水圧1MPaで48時間加圧する。48時間加圧後、円柱の試験体の下面からの排水の質量を測定し、透水量Q(mL/sec)を求め、下記の式1より透水係数Kを計算した。ρは水の単位重量(g/cm)、Pは水圧(kg/cm)、Aは円柱の試験体の断面積(cm)、hは円柱の試験体の高さ(cm)である。
K=ρhQ/PA・・・(式1)
【実施例0052】
以下、本発明の実験例に基づいて、本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
〔実験例1〕
セメント100質量部に対して、細骨材190質量部、減水剤0.05質量部、繊維1.6質量部、急硬材10質量部を含有し、セメント混和用ポリマー及び塩分固定材をセメント100質量部に対して表1に示す質量部を含有するように調製し、補修モルタル材料を調製した。
得られた補修モルタル材料100質量部に対して、水14質量部で混練し補修モルタル組成物を調製した。
調製した補修モルタル組成物の付着強度、厚塗り性、凝結時間、塩化物イオン浸透深さ、透水係数を測定した。結果を表1に併記する。
【0054】
<使用材料>
・セメント:普通ポルトランドセメント(デンカ社製)、ブレーン値3,300cm/g
・細骨材:石灰砂、0.6mm下を50%、0.6~1.2mmを50%混合したものを使用した。
・CaO・2Alを主成分とする塩分固定材:カルシウムアルミネート化合物CaO/Alモル比0.5、ブレーン値3,500cm/g
・減水剤:ナフタレン系減水剤、市販品(第一工業製薬社製「セルフロ-110P」)
・繊維:ビニロン繊維、繊維長6mm、繊度6.6dtex、乾強度1,850N/mm、乾伸度6.0%
・セメント混和用ポリマー:ポリアクリル酸エステル再乳化樹脂、市販品、水分率0.8%、密度0.5g/mL
・水:水道水
・急硬材:カルシウムアルミネート化合物CaO/Alモル比1.70、強熱減量1.0%、結晶質、主成分CaO・Alと12CaO・7Al、ブレーン値5,000cm/g
【0055】
<測定項目>
・付着強度:材齢28日の試験体について、内径φ55mmのコンクリート用コアドリルで補修モルタル組成物の打設面からコンクリート側に70mm切込みを入れる。切込みを入れた面にφ55mmの鋼製付着治具を張り付け、建研式接着力試験器を用いて最大荷重を測定し、付着強度を計算した。
・厚塗り性:下面及び上面が70mm×70mmの正方形で高さが20mmの直方体のモルタル板の上面に直径60mmの開口部を設けた木枠を設置し、補修モルタル組成物を高さが60mmになるまで吹付けて試験体を作製し、材齢24時間の付着強度を測定した。
・凝結時間:補修モルタル組成物を吹付けて、100mm×100mm×100mmの試験体を作製し、貫入抵抗値が3.5N/mmに達した時間を測定した。
・塩化物イオン浸透深さ:塩分濃度3.5%の海水に28日間、56日間、91日間浸漬した立方体の試験体について、コンクリートと補修モルタル組成物からなる部位の界面の垂直方向に割裂して二分割する。割裂した断面に0.1%フルオレセインナトリウム水溶液及び0.1mol/L硝酸銀溶液を噴霧して、蛍光を発する部分を塩化物イオン浸透域とする。コンクリート及び補修モルタル組成物からなる部位について、それぞれ、等間隔で9カ所ずつ、試験体表面から蛍光を発しない部分までの深さをノギスで測定する。測定した9カ所の平均値を塩化物イオン浸透深さとした。
・透水係数:円柱の試験体を試験容器に入れ、円柱の試験体の側面と試験容器との間をグラウト材(デンカ社、ハイプレタスコンT-1S)で充填し、水密を保つ。円柱の試験体の上面から水を、水圧1MPaで48時間加圧する。48時間加圧後、円柱の試験体の下面からの排水の質量を測定し、透水量Q(mL/sec)を求め、下記の式1より透水係数Kを計算した。ρは水の単位重量(g/cm)、Pは水圧(kg/cm)、Aは円柱の試験体の断面積(cm)、hは円柱の試験体の高さ(cm)である。
K=ρhQ/PA・・・(式1)
【0056】
【表1】
【0057】
表1の結果より、特定の材料を含有し、特定の方法で測定される付着強度、厚塗り性試験、凝結時間試験、及び、塩化物イオン浸透深さの結果を満たす補修モルタル組成物を用いることで、長期的に耐塩性が優れた効果を発揮できることを確認した。また、特定の方法で測定される透水係数を有する補修モルタル組成物を用いることで、長期的な耐塩性をより高めることができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、既設構造物内の劣化部を除いた箇所へ、特定の材料を含有し、特定の方法で測定される付着強度、厚塗り性試験、凝結時間試験、及び、塩化物イオン浸透深さの結果を満たす補修モルタル組成物を吹き付けることで、コンクリートと補修モルタル組成物との界面を強化し、長期の耐塩性をより高めることともに、補修モルタル組成物を安定的、かつ、均一に吹き付けることができる補修工法を提供することが可能となる。そのため、鉄道、道路などで使用されるコンクリート構造物である既設構造物の補修工法に広く適用できる。
【符号の説明】
【0059】
1:コンクリート
2’:補修モルタル組成物
2:補修モルタル組成物からなる部位
10:仮試験体
20:立方体の試験体
30,31:円柱の試験体
40:モルタル板
41:木枠
42:鋼製付着治具
43:補修モルタル組成物からなる部位
図1
図2
図3
図4