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特開2024-98237防水施工用プライマー組成物、防水施工方法および防水構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098237
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】防水施工用プライマー組成物、防水施工方法および防水構造
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20240716BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240716BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D5/00 D
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001604
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000230397
【氏名又は名称】株式会社イーテック
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】清水 学
(72)【発明者】
【氏名】安藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】藤田 侑樹
(72)【発明者】
【氏名】永戸 賢吾
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG032
4J038CG141
4J038MA10
4J038MA13
4J038MA14
4J038PA07
4J038PB05
4J038PC02
4J038PC04
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】施工作業性に優れ、かつ幅広い下地材に対して適用可能な防水施工用プライマー組成物造を提供する。
【解決手段】脂環式炭化水素基を含む不飽和カルボン酸エステルに由来する第1繰り返し単位を有する重合体を含む粒子と、液状媒体とを含有する防水施工用プライマー組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式炭化水素基を含む不飽和カルボン酸エステルに由来する第1繰り返し単位を有する重合体を含む粒子と、
液状媒体と
を含有する防水施工用プライマー組成物。
【請求項2】
上記粒子の平均粒子径が30nm以上100nm以下である請求項1に記載の防水施工用プライマー組成物。
【請求項3】
上記脂環式炭化水素基が炭素数3~10のシクロアルキル基である請求項1に記載の防水施工用プライマー組成物。
【請求項4】
上記重合体を構成する全繰り返し単位に対する上記第1繰り返し単位の含有割合が30質量%以上50質量%以下である請求項1に記載の防水施工用プライマー組成物。
【請求項5】
上記重合体が鎖状炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する第2繰り返し単位をさらに有する請求項1に記載の防水施工用プライマー組成物。
【請求項6】
上記鎖状炭化水素基が炭素数2~10のアルキル基である請求項5に記載の防水施工用プライマー組成物。
【請求項7】
上記重合体を構成する全繰り返し単位に対する上記第2繰り返し単位の含有割合が48質量%以上69.5質量%以下である請求項5に記載の防水施工用プライマー組成物。
【請求項8】
上記重合体が不飽和カルボン酸に由来する第3繰り返し単位をさらに有する請求項1に記載の防水施工用プライマー組成物。
【請求項9】
上記不飽和カルボン酸が(メタ)アクリル酸である請求項8に記載の防水施工用プライマー組成物。
【請求項10】
上記重合体を構成する全繰り返し単位に対する上記第3繰り返し単位の含有割合が0.5質量%以上2質量%以下である請求項8に記載の防水施工用プライマー組成物。
【請求項11】
上記重合体のガラス転移温度が-40℃以上0℃以下である請求項1に記載の防水施工用プライマー組成物。
【請求項12】
改質アスファルトを主成分とする防水材層を形成する防水施工に用いられる請求項1に記載の防水施工用プライマー組成物。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の防水施工用プライマー組成物を用いて下地材上にプライマー層を形成する工程と、
上記プライマー層上に防水材層を形成する工程と
を備える防水施工方法。
【請求項14】
下地材と、上記下地材上に積層されるプライマー層と、上記プライマー層上に積層される防水材層とを備え、
上記プライマー層が請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の防水施工用プライマー組成物により形成されている防水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水施工用プライマー組成物、防水施工方法および防水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ゲル分が50質量%以下のアクリル系重合体を含有するアクリル系エマルジョンと、シラン化合物とを含有し、上記アクリル系重合体100質量部に対して上記シラン化合物を0.4~20質量部含むプライマー組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-254610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、施工作業性に優れ、かつ幅広い下地材に対して適用可能な防水施工用プライマー組成物、防水施工方法および防水構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた発明は、脂環式炭化水素基を含む不飽和カルボン酸エステルに由来する第1繰り返し単位を有する重合体を含む粒子と、液状媒体とを含有する防水施工用プライマー組成物である。
【0006】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、上述の当該防水施工用プライマー組成物を用いて下地材上にプライマー層を形成する工程と、上記プライマー層上に防水材層を形成する工程とを備える防水施工方法である。
【0007】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、下地材と、上記下地材上に積層されるプライマー層と、上記プライマー層上に積層される防水材層とを備え、上記プライマー層が上述の当該防水施工用プライマー組成物により形成されている防水構造である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防水施工用プライマー組成物は、施工作業性に優れ、かつ幅広い下地材に対して適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の防水施工用プライマー組成物、防水施工方法および防水構造について説明する。
【0010】
本明細書において、数値範囲の上限および下限に関する記載は特に断りのない限り、上限は「以下」であっても「未満」であってもよく、下限は「以上」であっても「超」であってもよい。また、数値範囲を記号「~」を用いて示す場合、上限および下限の数値を含む数値範囲であることを意味する。例えば「炭素数3~10」とは「炭素数3以上10以下」であることを意味する。
【0011】
<防水施工用プライマー組成物>
当該防水施工用プライマー組成物(以下、単に「プライマー組成物」ともいう)は、脂環式炭化水素基を含む不飽和カルボン酸エステルに由来する第1繰り返し単位を有する重合体を含む粒子(以下、「[A]粒子」ともいう)と、液状媒体(以下、「[B]液状媒体」ともいう)とを含有する。
【0012】
当該コーティング組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、[A]粒子および[B]液状媒体以外のその他の成分(以下、「その他の成分」ともいう)を含有していてもよい。
【0013】
当該プライマー組成物は、施工作業性に優れ、かつ幅広い下地材に対して適用可能である。本明細書において「施工作業性に優れる」とは、指触タック性およびたれ抵抗性に優れることを意味する。また、本明細書において「幅広い下地材に対して適用可能である」とは、非吸収系下地材および吸収系下地材に対する接着性にともに優れることを意味する。非吸収系下地材および吸収系下地材については後述する。
【0014】
当該プライマー組成物が上記効果を奏する理由としては必ずしも明確ではないが、[A]粒子が脂環式炭化水素基を含む不飽和カルボン酸エステルに由来する第1繰り返し単位を有する重合体を含むことで、プライマー層の親水性と疎水性のバランスを図ることができる結果、幅広い下地材に対して適用可能であると考えられる。また、上記第1繰り返し単位が脂環式炭化水素基を含むことで、重合体のガラス転移温度を適度に調節することができる結果、施工作業性に優れると考えられる。
【0015】
限定的な解釈を望むものではないが、当該プライマー組成物は、第1繰り返し単位が脂環式炭化水素基を含むことにより、プライマー層の親水性および疎水性を適切に調節することで化学的な結合により接着性を高めるだけでなく、ガラス転移温度を適切に調節することでプライマー層の表面の粘着性を高めることで、適用可能な下地材の範囲を広げることができると考えられる。
【0016】
本明細書において、「粘着」は一時的な接着現象の意味として用いられ、「接着」は実質的に永久的な接着現象の意味として用いられる。
【0017】
当該プライマー組成物は、(メタ)アクリル系プライマーに分類されるものである。
【0018】
当該プライマー組成物は、防水施工において用いられる。具体的には、建造物の防水を目的として行われる防水施工において、下地材と防水材層との接着性等を確保するためにプライマー処理が行われる。当該プライマー組成物は、このプライマー処理において用いられる組成物である。
【0019】
当該プライマー組成物は、特に、改質アスファルトを主成分とする防水材層を形成する防水施工において好適に用いられる。当該プライマー組成物は、改質アスファルトとの接着性に優れるためである。この場合、当該プライマー組成物は、下地材との接着性だけでなく、防水材層との接着性にも優れる。
【0020】
以下、当該プライマー組成物が含有する各成分について説明する。
【0021】
<[A]粒子>
[A]粒子は、脂環式炭化水素基を含む不飽和カルボン酸エステルに由来する第1繰り返し単位を有する重合体(以下、「重合体(P)」ともいう)を含む。[A]粒子は、通常、[B]液状媒体を分散媒として[B]液状媒体中に分散しているラテックス状の粒子である。当該プライマー組成物は、1種または2種以上の[A]粒子を含有することができる。
【0022】
[A]粒子は、重合体(P)以外のその他の重合体を含んでいてもよいが、その他の重合体を含まないことが好ましい。
【0023】
[重合体(P)]
重合体(P)は、脂環式炭化水素基を含む不飽和カルボン酸エステルに由来する第1繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(Ma)」ともいう)を有する。
【0024】
重合体(P)は、鎖状炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する第2繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(Mb)」ともいう)をさらに有することが好ましい。重合体(P)は、不飽和カルボン酸に由来する第3繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(Mc)」ともいう)をさらに有することが好ましい。また、重合体(P)は、本発明の効果を損なわない範囲において、繰り返し単位(Ma)、繰り返し単位(Mb)および繰り返し単位(Mc)以外のその他の繰り返し単位(以下、単に「その他の繰り返し単位」ともいう)を有していてもよい。[A]粒子は、1種または2種以上の重合体(P)を含むことができる。
【0025】
(繰り返し単位(Ma))
繰り返し単位(Ma)は、脂環式炭化水素基を含む不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位である。重合体(P)は1種または2種以上の繰り返し単位(Ma)を有することができる。
【0026】
上記脂環式炭化水素基の炭素数としては、3以上であればよく、3~10が好ましく、4~7がより好ましい。上記脂環式炭化水素基としては、飽和脂環式炭化水素基および不飽和脂環式炭化水素基が挙げられ、飽和脂環式炭化水素基が好ましい。飽和脂環式炭化水素基としては、例えばシクロヘキシル基などの単環の飽和脂環式炭化水素基(シクロアルキル基)、ノルボルニル基などの多環の飽和脂環式炭化水素基が挙げられる。上記脂環式炭化水素基としては、炭素数3~10のシクロアルキル基が好ましく、シクロヘキシル基がより好ましい。シクロヘキシル基は安定性の高い6員環構造をとるため、他の脂環式炭化水素基と比べ、重合体(P)のガラス転移温度を高めることができる。
【0027】
上記不飽和カルボン酸エステルを構成する不飽和カルボン酸としては、エチレン性不飽和カルボン酸が好ましい。上記エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、アクリル酸またはメタクリル酸がより好ましい。本明細書において、「アクリル酸」および「メタクリル酸」の両方を包含する概念として「(メタ)アクリル酸」と記載する場合がある。
【0028】
繰り返し単位(Ma)を与える上記不飽和カルボン酸エステルとしては、炭素数3~10のシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルがより好ましい。
【0029】
重合体(P)を構成する全繰り返し単位に対する繰り返し単位(Ma)の含有割合としては本発明の効果を奏する範囲内であれば特に制限されないが、例えば20質量%以上60質量%とすることができる。上記含有割合の下限としては、25質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記含有割合の上限としては、55質量%が好ましく、50質量%がより好ましい。上記含有割合が30質量%以上50質量%以下である場合には、各種下地材に対する接着性がより向上するため好ましい。
【0030】
(繰り返し単位(Mb))
繰り返し単位(Mb)は、鎖状炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位である。重合体(P)が繰り返し単位(Mb)を有することにより、重合体(P)の粘着性を向上させることができる。重合体(P)は1種または2種以上の繰り返し単位(Mb)を有することができる。
【0031】
上記鎖状炭化水素基の炭素数としては、1以上であればよく、2~10が好ましく、4~8がより好ましい。炭素数が2以上である場合には、粘着性を向上できるため好ましい。上記鎖状炭化水素基としては、飽和鎖状炭化水素基および不飽和鎖状炭化水素基が挙げられ、飽和鎖状炭化水素基が好ましい。飽和鎖状炭化水素基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。上記飽和鎖状炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、2-エチルヘキシル基などのアルキル基が挙げられる。上記鎖状炭化水素基としては、炭素数2~10のアルキル基が好ましく、n-ブチル基または2-エチルヘキシル基がより好ましい。
【0032】
上記鎖状炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステルを構成する不飽和カルボン酸としては、上記脂環式炭化水素基を含む不飽和カルボン酸エステルを構成する不飽和カルボン酸として説明したものと同様である。
【0033】
繰り返し単位(Mb)を与える上記不飽和カルボン酸エステルとしては、炭素数2~10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸ブチルまたは(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルがより好ましい。
【0034】
重合体(P)を構成する全繰り返し単位に対する繰り返し単位(Mb)の含有割合としては本発明の効果を奏する範囲内であれば特に制限されないが、例えば40質量%以上80質量%とすることができる。上記含有割合の下限としては、45質量%が好ましく、48質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。49.5質量%が好ましい場合もある。上記含有割合の上限としては、75質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、69.5質量%がさらに好ましい。74.5質量%が好ましい場合もある。上記含有割合が48質量%以上69.5質量%以下であると、各種下地材に対する接着性がより向上するため好ましい。
【0035】
(繰り返し単位(Mc))
繰り返し単位(Mc)は、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位である。重合体(P)が繰り返し単位(Mc)を有することにより、[A]粒子の凝集を抑制できる(以下、[A]粒子の凝集の起こりにくさを「[A]粒子の安定性」と表現する)。重合体(P)は1種または2種以上の繰り返し単位(Mc)を有することができる。
【0036】
上記不飽和カルボン酸としては、上記(繰り返し単位(Ma))の項において説明したものと同様である。
【0037】
繰り返し単位(Mc)を与える上記不飽和カルボン酸としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、アクリル酸またはメタクリル酸がより好ましい。
【0038】
重合体(P)を構成する全繰り返し単位に対する繰り返し単位(Mc)の含有割合としては本発明の効果を奏する範囲内であれば特に制限されないが、例えば0.1質量%以上5質量%とすることができる。上記含有割合の下限としては、0.2質量%が好ましく、0.3質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましい。上記含有割合の上限としては、4質量%が好ましく、3質量%がより好ましく、2質量%がさらに好ましい。上記含有割合が0.5質量%以上2質量%以下であると、[A]粒子の安定性がより向上し、塗布した際に塗布面が均一になりやすく、また施工作業性がより向上する。さらに、プライマー層の耐水性を向上させることができる。
【0039】
(その他の繰り返し単位)
その他の繰り返し単位としては、例えば芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位、繰り返し単位(Ma)または繰り返し単位(Mb)を与える不飽和カルボン酸エステル以外の不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位などが挙げられる。
【0040】
芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、p-ヒドロキシスチレン、スチレン-4-スルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
繰り返し単位(Ma)または繰り返し単位(Mb)を与える不飽和カルボン酸エステル以外の不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルなどが挙げられる。
【0042】
重合体(P)を構成する全繰り返し単位に対するその他の繰り返し単位の含有割合としては、本発明の効果を損なわない範囲において、採用する繰り返し単位の種類や目的等に応じて適宜決定することができる。
【0043】
重合体(P)は、その他の繰り返し単位を有しないことが好ましい。この場合、重合体(P)は、繰り返し単位(Ma)、繰り返し単位(Mb)および繰り返し単位(Mc)の3種から構成される。この場合の各繰り返し単位の含有割合としては、上述した好ましい含有割合の範囲内において、100質量%を超えないよう、適宜調整することができる。
【0044】
(重合体(P)の物性)
重合体(P)のガラス転移温度としては、-40℃以上0℃以下が好ましい。この場合、粘着性および強度に優れるプライマー層を形成することができる。重合体(P)のガラス転移温度は、JIS K7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠して測定した値である。重合体(P)のガラス転移温度は、重合体(P)のモノマー組成(種類、配合量等)により調整することができる。例えば繰り返し単位(Ma)は、ガラス転移温度を高める方向に作用し、繰り返し単位(Mb)はガラス転移温度を下げる方向に作用する。
【0045】
[[A]粒子の物性]
(平均粒子径)
[A]粒子の平均粒子径の下限としては、10nmが好ましく、20nmがより好ましく、30nmがさらに好ましい。上記平均粒子径の上限としては、180nmが好ましく、150nmがより好ましく、100nmがさらに好ましい。[A]粒子の平均粒子径が30nm以上100nm以下である場合、下地材との接着性がより向上するため好ましい。[A]粒子の平均粒子径は、例えば[A]粒子を合成する際の乳化剤の添加量により調整することができる。乳化剤の添加量を増加すると[A]粒子の平均粒子径を小さくすることができるが、乳化剤の添加量の増加に伴ってプライマー層の耐水性が低下する傾向がある。したがって、下地材との接着性および耐水性のバランスを図る観点からは、[A]粒子の平均粒子径は30nm以上であることが好ましい。
【0046】
本明細書において[A]粒子の平均粒子径は、光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、小さい粒子から粒子を累積したときの粒子数の累積度数が50%となる粒子径(D50)の値である。このような粒度分布測定装置としては、例えば大塚電子(株)の「FPAR-1000」が挙げられる。粒度分布測定装置は、[A]粒子の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とすることができる。したがって、これらの粒度分布測定装置によって測定された粒度分布は、当該プライマー組成物中に含まれる[A]粒子の分散状態の指標とすることができる。
【0047】
[[A]粒子の合成方法]
[A]粒子は、例えば所定の単量体を、公知の方法に従って乳化重合し、重合体(P)を形成することにより製造することができる。[A]粒子は、重合体(P)の繰り返し単位が上述のような構成を有するものである限り、その合成方法は特に限定されず、例えば公知の乳化重合工程またはこれを適宜に組み合わせることによって合成することができる。具体的な合成方法としては、例えば国際公開第2014/112252号に記載の方法が挙げられる。
【0048】
<[B]液状媒体>
[B]液状媒体としては、水を含有する水系媒体が好ましい。この水系媒体には、水以外の非水系媒体を含有させることができる。当該プライマー組成物の塗布性を改善する観点から、60℃以上350℃以下の標準沸点を有する非水系媒体を含有することができる。このような非水系媒体の具体例としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド;トルエン、キシレン、n-ドデカン、テトラリン等の炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル;o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン等のアミン;γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、スルホラン等のスルホン化合物などが挙げられる。
【0049】
[B]液状媒体が水および水以外の非水系媒体を含有する場合、[B]液状媒体における水の含有量の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。当該プライマー組成物は、[B]液状媒体として水系媒体を使用することにより、環境に対して悪影響を及ぼす程度が低くなり、防水施工作業時の安全性も高くなる。
【0050】
<その他の成分>
当該プライマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、[A]粒子および[B]液状媒体以外のその他の成分を含有することができる。その他の成分としては、例えば架橋剤、増量剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤などが挙げられる。
【0051】
<プライマー組成物の調製方法>
当該プライマー組成物は、例えば[A]粒子を含有する[B]液状媒体の分散体を調製し、必要に応じてその他の成分等を混合することで調製することができる。当該プライマー組成物の固形分濃度の下限としては、10質量%が好ましく、20質量%がより好ましく、30質量%がさらに好ましい。上記固形分濃度の上限としては、70質量%が好ましく、60質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。「固形分濃度」とは、当該プライマー組成物の全質量に対する[B]液状媒体以外の全成分の合計質量の割合を意味する。
【0052】
<防水施工方法>
当該防水施工方法は、上述の当該防水施工用プライマー組成物を用いて下地材上にプライマー層を形成する工程(以下、「プライマー層形成工程」ともいう)と、上記プライマー層上に防水材層を形成する工程(以下、「防水材層形成工程」ともいう)とを備える。当該防水施工方法により、後述の防水構造が製造される。換言すると、当該防水施工方法は、後述の防水構造を製造する方法である。
【0053】
当該防水施工方法では、上述の当該防水施工用プライマー組成物を用いるため、施工作業性に優れる。また、幅広い下地材に対して防水施工を行うことができる。
【0054】
[プライマー層形成工程]
本工程では、上述の当該防水施工用プライマー組成物を用いて下地材上にプライマー層を形成する。本工程により、下地材上にプライマー層が形成される。
【0055】
下地材としては、一般に防水施工が施される下地材であれば特に制限されず、例えばステンレス鋼、鉄鋼、アルミニウム、鉛、銅、鋳鉄などの極性系下地材、硬質塩化ビニル、改質アスファルトなどの低極性系下地材等の非吸収系下地材、コンクリート、スレート等の吸収系下地材などが挙げられる。上述の当該防水施工用プライマー組成物は、非吸収系下地材および吸収系下地材を問わず、幅広い下地材に対して適用可能である。さらに、非吸収系下地材の中でも極性系下地材および低極性系下地材を問わず適用可能である。
【0056】
下地材上へのプライマー層の形成方法としては、特に制限されず、例えば下地材上にプライマー組成物をローラー等で塗布し2時間乾燥させることにより形成することができる。また、本工程では、下地材上に直接プライマー層を形成することが好ましい。
【0057】
[防水材層形成工程]
本工程では、上記プライマー層形成工程により形成されたプライマー層上に防水材層を形成する。本工程により、プライマー層上に防水材層が形成される。
【0058】
防水材層は、例えば改質アスファルトを主成分とする層であることが好ましい。このような防水材層は、改質アスファルト形成材料を用いて形成することができる。改質アスファルト形成材料としては、例えばゴムアスファルトエマルジョンとポリイソシアネートとを混合した材料などが挙げられる。
【0059】
プライマー層上への防水材層の形成方法としては、特に制限されず、例えばプライマー層上に防水材層形成材料を刷毛等で塗布し7日間養生させることにより形成することができる。また、本工程では、プライマー層上に直接防水材層を形成することが好ましい。
【0060】
<防水構造>
当該防水構造は、下地材と、上記下地材上に積層されるプライマー層と、上記プライマー層上に積層される防水材層とを備える。当該防水構造は、上記プライマー層が上述の当該防水施工用プライマー組成物により形成されている。当該防水構造は、下地材と、プライマー層と、防水材層とがこの順で積層されている積層体である。
【実施例0061】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
<プライマー組成物の調製>
用いたモノマーの略称を以下に示す。
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
CHA:アクリル酸シクロヘキシル
EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
AA:アクリル酸
ST:スチレン
【0063】
[実施例1]
反応容器に、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)30質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル(EHA)69.5質量部、アクリル酸(AA)0.5質量部、乳化剤としての「アデカリアソープSR1025」((株)ADEKA)1質量部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1質量部、ならびに水96.2質量部を混合し、十分に撹拌して単量体乳化液を調製した。その後、セパラブルフラスコに重合体粒子の平均粒子径を調整する目的でドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム9.3質量部および水61.3質量部を入れ、水浴にて昇温を開始した。セパラブルフラスコの内温が76℃に到達した時点で重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.3質量部を加えた。重合開始剤の添加により低下したセパラブルフラスコの内温が76℃に再度到達した時点で、上記調製した単量体乳化液の添加を開始し、セパラブルフラスコの内温を76℃に維持したまま単量体乳化液を3時間かけてゆっくりと添加した。その後、過硫酸アンモニウム0.05質量部を加え、セパラブルフラスコの内温を85℃まで昇温し、この温度を2時間維持して重合反応を行い、重合体粒子を合成した。その後、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5.3質量部添加し、セパラブルフラスコを冷却して反応を停止させ、水酸化ナトリウム水を加えてpHを5.5に調整し、固形分濃度34.5質量%のプライマー組成物を得た。プライマー組成物は、重合体粒子の水分散体であった。
【0064】
[実施例2~9および比較例1~3]
下記表1に示す種類および使用量の各成分を用い、乳化剤の使用量を調整したこと以外は実施例1と同様にして、プライマー組成物を調製した。
【0065】
<重合体粒子の物性>
上記調製したプライマー組成物に含まれる重合体粒子について、以下の方法により、平均粒子径およびガラス転移温度を測定した。結果を下記表1に合わせて示す。
【0066】
[平均粒子径]
上記調製したプライマー組成物について、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子(株)の「FPAR-1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から平均粒子径(D50)を求めた。
【0067】
[ガラス転移温度]
ガラス転移温度は、JIS K7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠して測定した。具体的には、以下の操作を行った。上記調製したプライマー組成物5gをガラス板に薄く引き伸ばし、40℃で15時間乾燥させることによって、乾燥フィルムを得た。得られた乾燥フィルムについて、示差走査熱量分析計(ティー・エイ・インスツルメント社の「DSC2910型」)を使用し、5~10mgの試料を用い、窒素雰囲気下、昇温速度:10℃/分とし、温度範囲:-90℃~50℃で測定を行った。測定によって得られた示差走査熱量分析の微分曲線の変曲の開始点と終点との中間点の温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0068】
<プライマー組成物の評価>
上記調製したプライマー組成物について、下記の方法に従い、施工作業性、各種下地材に対する接着性および耐水性を評価した。施工作業性は、指触タック性およびたれ抵抗性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0069】
[指触タック性]
下地材としてA4サイズのステンレス鋼を用いた。上記下地材に上記調製したプライマー組成物をローラーを使用して0.2kg/m塗布し、23℃で2時間乾燥させた。乾燥後、プライマー層を指で触れ、タックの有無および指にプライマー組成物が付着するか否かを目視で確認した。なお、「タック」とは、表面のべたつきを示す。タックがある場合、プライマー層は粘着性があると判断できる。
【0070】
上記指触タック性試験の評価基準は以下の通りである。「A」評価を指触タック性に優れると評価した。
A:タックがあり、かつプライマー組成物が指に付着しなかった。
B:タックがあり、かつプライマー組成物が指に付着した。
【0071】
[たれ抵抗性]
下地材としてA4サイズのステンレス鋼を用いた。上記下地材を長手方向の上部から15cmの位置に短手方向に対して水平に線を引き、上記下地材を上記線と地面とが平行になるように立て、上記下地材の線より上側部分へ上記調製したプライマー組成物を0.1kg/m塗布し、線より下側へのプライマー組成物のたれの有無を目視で確認した。
【0072】
上記たれ抵抗性試験の評価基準は以下の通りである。「A」評価をたれ抵抗性に優れると評価した。
A:線より下側にプライマー組成物がたれなかった。
B:線より下側にプライマー組成物がたれた。
【0073】
施工作業性は、指触タック性およびたれ抵抗性が共に「A」評価であったものを施工作業性に優れると評価した。
【0074】
[各種下地材に対する接着性]
下地材として、ステンレス鋼、硬質塩化ビニルおよび改質アスファルトを用いた。なお、本試験では、極性系下地材の代表例としてステンレス鋼を用い、低極性系下地材の代表例として硬質塩化ビニルおよび改質アスファルトを用いた。接着性の試験は特開2007-254610号公報(特許文献1)の段落0069~0071および図1に記載の単軸引張り試験に準拠して行った。具体的には、各下地材上に上記調製したプライマー組成物0.2kg/m塗布し、プライマー層を形成し、次いで、プライマー層上に改質アスファルト形成材料1.5kg/m塗布し、防水材層を形成することにより、試験体を作製した。改質アスファルト形成材料として、ゴムアスファルトエマルジョン((株)イーテックの「ハルeコート」)とポリイソシアネート((株)イーテックの「ハル硬化剤B」)とを混合した材料を用いた。上記作製した試験体を23℃で7日間養生した。上記養生した試験体の防水材層上に、40mm×40mmの単軸引張り試験用アタッチメントを接着させ、オートグラフ((株)島津製作所の「AG-500」)を用い、引張り速度:2mm/分の条件で試験体が剥離するまで単軸引張り試験を行い、試験体が剥離した際の接着強度を測定した。さらに、目視により、試験体の剥離状態を観察した。
【0075】
上記単軸引張り試験による評価基準は以下の通りであり、「B」評価以上を該当する下地材との接着性に優れると評価した。
A:接着強度が0.3N/mm以上であり、かつ試験体の剥離状態が防水材層の凝集破壊または下地材の凝集破壊である。
B:接着強度が0.3N/mm以上であるか、または試験体の剥離状態が防水材層の凝集破壊もしくは下地材の凝集破壊である。
C:接着強度が0.3N/mm以下であり、かつ試験体の剥離状態が下地材層-プライマー層間またはプライマー層-防水材層間での界面破壊である。
【0076】
各種下地材に対する接着性は、試験に用いた3種の下地材全てにおいて「B」評価以上であったものを各種下地材に対する接着性に優れると評価した。
【0077】
[耐水性]
下地材としてステンレス鋼を用い、上記[各種下地材に対する接着性]の試験と同様にして試験体を作製した。次いで、上記作製した試験体を23℃で7日間養生した後、さらに23℃の水中で7日間養生したこと以外は上記[各種下地材に対する接着性]の試験と同様にして、試験体が剥離するまで単軸引張り試験を行った。
【0078】
上記[各種下地材に対する接着性]の試験と同様の評価基準により水中で養生した場合におけるステンレス鋼との接着性の評価を行った。「C」評価以上であり、かつ上記[各種下地材に対する接着性]の試験の評価結果と同評価であるものを耐水性に優れると評価した。
【0079】
下記表1中、「-」は該当する成分を使用しなかったことを示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1の結果から、実施例1~9のプライマー組成物は、比較例1~9のプライマー組成物と比較して、施工作業性および各種下地材に対する接着性に優れることが明らかとなった。なお、実施例のプライマー組成物は、極性系下地材および低極性系下地材を問わず良好な接着性を示したことから、幅広い下地材に対して適用可能であることが明らかとなった。
【0082】
また、実施例のプライマー組成物は、改質アスファルトとの接着性に優れることから、改質アスファルトを防水材層とするプライマー層を形成するために好適に用いることができると考えられる。