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  • 特開-水素ガス製造方法及び装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098264
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】水素ガス製造方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/10 20060101AFI20240716BHJP
   C01B 3/06 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C01B3/10
C01B3/06
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001657
(22)【出願日】2023-01-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】523010199
【氏名又は名称】株式会社スチームテックホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】源平 浩己
(72)【発明者】
【氏名】西野 則幸
(72)【発明者】
【氏名】樋口 順一
(72)【発明者】
【氏名】中尾 公紀
(72)【発明者】
【氏名】福島 義勝
(57)【要約】
【課題】水素化マグネシウム、金属マグネシウム等の金属を水蒸気と接触させ、生成物として水素ガスと金属酸化物と熱を生成させる反応を制御して、水素の製造を間欠的又は連続的に実施できる技術を提供する。
【解決手段】金属を収容した反応容器内に水蒸気を導入することにより、金属を水蒸気と反応させて金属酸化物と水素を生成させる反応を生起させるとともに、反応容器から水素を含むガスを回収することを含む水素ガス製造方法であって、反応容器内に不活性ガスを導入して、反応を停止させるか、または、反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持する。さらに、水蒸気の酸素含有量を低減させることにより、前記酸素濃度を低く保持でき、反応容器内を冷却すれば、反応容器から回収されるガスの温度を所定温度に保持できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を収容した反応容器内に水蒸気を導入することにより、前記金属を前記水蒸気と反応させて金属酸化物と水素を生成させる反応を生起させるとともに、前記反応容器から水素を含むガスを回収することを含む水素ガス製造方法であって、前記反応容器内に不活性ガスを導入して、前記反応を停止させるか、または、前記反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持するようにしたことを特徴とする水素ガス製造方法。
【請求項2】
前記水蒸気の酸素含有量を低減させることにより、前記反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持するようにした、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応容器内を冷却して、前記反応容器から回収されるガスの温度を所定温度に保持するようにした、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応容器を複数用意し、これら複数の反応容器を切り替えて連続的又は間欠的に水素ガスを製造できるようにした、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記金属は、Mg、MgH、Al、AlH、Fe及びFeHからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記水蒸気は、純水由来の水蒸気である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応により生成した金属酸化物を前記金属に還元して、前記反応の原料又は他の用途にリサイクルすることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
金属を水蒸気と反応させて金属酸化物と水素を生成させる反応を利用した水素ガス製造装置であって、
前記金属を収容するための反応容器、
前記反応容器内に水蒸気を導入する水蒸気供給装置、
前記反応容器から水素を含むガスを回収する装置、及び
前記反応を停止させるか、または、前記反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持するために、前記反応容器内に不活性ガスを導入する不活性ガス供給装置、
を備えてなる水素ガス製造装置。
【請求項9】
前記反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持するために、前記水蒸気の酸素含有量を低下させる装置をさらに備えてなる、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記反応容器内を冷却して、前記反応容器から回収されるガスの温度を所定温度に保持する冷却装置をさらに備えてなる、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記反応容器を複数備え、これら複数の反応容器を切り替えて連続的又は間欠的に水素ガスを製造できるようにした、請求項8に記載の装置。
【請求項12】
前記金属は、Mg、MgH、Al、AlH、Fe及びFeHからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項8に記載の装置。
【請求項13】
前記水蒸気は、純水由来の水蒸気である、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記反応により生成した金属酸化物を前記金属に還元して、前記反応の原料又は他の用途にリサイクルすることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を水蒸気と反応させて金属酸化物と水素と熱を生成させる反応を制御することにより、水素の製造を間欠的又は連続的に実施できるようにする方法、及び該方法の実施に用いられる装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
水素の次世代エネルギーとしての利用が唱えられて久しいが、現在工業化できている水素ガス製造方法は「水蒸気改質法」、「電気分解法」及び「副生水素」の3種類である。このうち、「水蒸気改質法」は、得られる水素の持つエネルギーよりも大きなエネルギーの炭化水素ガスを必要とする。「電気分解法」も、より大きな電気エネルギーを必要とし、仮に再生可能エネルギーを水素ガスの状態でストレージし、不安定な再生可能エネルギーの平滑化を図るにしても、すべての物質の中で最も比重の軽い「水素ガス」による蓄エネルギー利用の適不適については疑問が残る。「副生水素」(工業的に副産物として発生した水素)については、他のガスとの混合生成である場合、圧力変動吸着(PSA)法などを用いて分離させなければならず、トータルのエネルギー収支を確認する必要がある。
【0003】
他方、工業原料として多岐に使用されている酸化マグネシウムは、低純度のものは、原石マグネシアから焼成し、軽焼マグネシアや重焼マグネシアとして生成されるが、高純度のものは、「気相法」を用いて生成される。具体的には、金属マグネシウムを加熱しマグネシウム蒸気とし、酸素ガスを加えることで生成している。金属マグネシウムを加熱することに多くの化石燃料を必要とすることから、非常に高価な工業原料となっている。
【0004】
特許第5764832号及び特許第5900992号において、水素化マグネシウム(MgH)と金属マグネシウム(Mg)を水蒸気と接触させ、生成物として水素ガスと酸化マグネシウム(MgO)を生成させる方法が開示されている。この方法は、上記した副生水素の一種であるが、水素以外の気体が発生しないため、PSA法などの高度な分離技術を用いる必要がなく、同時に化石燃料を使わずに高純度酸化マグネシウムが得られるという利点があるが、着火材として使用する水素化マグネシウムが現状では高価であるという問題点があった。
【0005】
上記問題点を解決する技術として、特許第6678194号において、十分な温度の過熱水蒸気と金属マグネシウム(Mg)を接触させて着火させることにより、水素化マグネシウムを使用せずに、簡単な方法で効率よく水素ガスと高純度酸化マグネシウを生成できるようにした方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5764832号公報
【特許文献2】特許第5900992号公報
【特許文献3】特許第6678194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の特許の技術は、着火時の技術に関するものであり、また、着火後は反応容器内の総ての金属マグネシウム(Mg)が反応し終えるまで反応を継続させる必要があったため、反応を間欠的又は連続的に行う技術が求められていた。
本発明は、水素化マグネシウム(MgH)等の水素吸蔵金属、金属マグネシウム(Mg)等の単体金属などに代表される金属を水蒸気と接触させ、生成物として水素ガスと酸化マグネシウム(MgO)の金属酸化物と熱を生成させる反応を制御して、水素の製造を間欠的又は連続的に実施できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、上記反応が進行する反応容器中に不活性ガスを導入して、上記反応を停止させるか、または、上記反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、一局面によれば、金属を収容した反応容器内に水蒸気を導入することにより、前記金属を前記水蒸気と反応させて金属酸化物と水素を生成させる反応を生起させるとともに、前記反応容器から水素を含むガスを回収することを含む水素ガス製造方法であって、前記反応容器内に不活性ガスを導入して、前記反応を停止させるか、または、前記反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持するようにしたことを特徴とする水素ガス製造方法を提供する。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記水蒸気の酸素含有量を低減させることにより、前記反応容器から回収されるガスの酸素濃度は、水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持される。
【0011】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、前記反応容器内を冷却して、前記反応容器から回収されるガスの温度は、所定温度に保持される。
【0012】
本発明のさらに他の好ましい実施形態によれば、前記反応容器を複数用意し、これら複数の反応容器を切り替えて連続的又は間欠的に水素ガスを製造できるようにされる。
【0013】
本発明は、他の局面によれば、金属を水蒸気と反応させて金属酸化物と水素を生成させる反応を利用した水素ガス製造装置であって、
前記金属を収容するための反応容器、
前記反応容器内に水蒸気を導入する水蒸気供給装置、
前記反応容器から水素を含むガスを回収する装置、及び
前記反応を停止させるか、または、前記反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持するために、前記反応容器内に不活性ガスを導入する不活性ガス供給装置、
を備えてなる水素ガス製造装置を提供する。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の装置は、前記反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持するために、前記水蒸気の酸素含有量を低下させる装置をさらに備えてなる。
【0015】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、本発明の装置は、前記反応容器内を冷却して、前記反応容器から回収されるガスの温度を所定温度に保持する冷却装置をさらに備えてなる。
【0016】
本発明のさらに他の好ましい実施形態によれば、本発明の装置は、前記反応容器を複数備え、これら複数の反応容器を切り替えて連続的又は間欠的に水素ガスを製造できるようされる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、反応容器内に不活性ガスを導入できるようにしたので、以下の技術的効果が得られる。第一に、反応容器への金属の収容時など反応容器を開放して反応容器内に空気が混入した場合、反応容器内に予め不活性ガスを導入してパージすることにより、反応容器内で金属が自然発火することを防止できるという利点が得られる。第二に、金属と水蒸気による水素生成反応が進行している反応容器に不活性ガスを導入してパージすることにより、反応容器内の水蒸気及びその他のガスを排除して、反応容器内の金属が総て消費される前でも水素発生反応を任意に停止させることができ、その後、反応容器内に再度水蒸気を導入することにより、水素発生反応を任意に再開することができるので、間欠的に水素ガスの製造を実施できるという利点が得られる。第三に、金属と水蒸気による水素生成反応が進行している反応容器に不活性ガスを導入して反応容器内の酸素濃度を希釈することにより、反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持することができ、安全性を確保しながら操業できるという利点が得られる。第四に、液体窒素などの低温液化ガスや低温不活性ガスを反応容器内に導入して不活性ガスを供給した場合は、反応容器内を冷却して、反応容器から回収されるガスの温度を所定温度に保持することもできる。
【0018】
また、本発明の好ましい実施形態に従い、反応容器内に導入される水蒸気の酸素含有量を低減させることとした場合は、反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持することができ、安全性を確保しながら操業できるという利点が得られる。
【0019】
また、本発明の他の好ましい実施形態に従い、反応容器内を冷却して、反応容器から回収されるガスの温度を所定温度に保持することとした場合は、安定した操業が可能となり、また、上記不活性ガスによる反応停止を補助できるという利点が得られる。
【0020】
また、本発明のさらに他の好ましい実施形態に従い、反応容器を複数用意し、これら複数の反応容器を切り替えて操業することとした場合は、一つの反応容器の反応が終了した場合でも、他の反応容器を稼働させることで、安定して連続的又は間欠的に水素ガスを製造できるといった利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の水素ガス製造方法の実施に用いるプラントの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明するが、本発明は当該実施形態のみに限定されるものではない。
図1に示されるプラントは、5基の同じ反応装置1a,1b,1c,1d,1eを切り替えて使用することで、連続的に水素ガス及び酸化マグネシウムを製造できるようにしたものである。各反応装置1a,1b,1c,1d,1eは、概略筒状の反応容器を備え、この反応容器は、耐熱性及び耐圧性の高い材料で作られたものであれば特に限定されず、金属製のタンクの他、耐火材打設により形成された炉であってもよい。上記反応容器の内部は、カーボンファイバー布製、金属スクリーン製などの通気性を有する材質でできた隔壁13で上室11と下室12に区切られている。図示のプラントは、一基の水蒸気発生装置2と導管21a,21bとからなる水蒸気供給装置を備え、導管21aから上室11に水蒸気が供給され、導管21bから下室12に水蒸気が供給される。下室12には不活性ガス供給装置3から不活性ガスを反応容器に導入する導管31が連通している。上記反応容器は、その外側に冷却用ジャケットを備え、この冷却用ジャケットには、冷却水を導入する導管41と排出する導管42が連通している。そして、上記反応容器の頂部には、上記反応容器にガスを連続的に導入した際に上記反応容器の内部からガスを連続的に排出するための導管14が連通している。
【0023】
本発明では、上記反応容器の内部に金属を収容し、導管21a及び21bから上記反応容器の内部に水蒸気を導入し、金属を水蒸気と接触させることにより、金属酸化物と水素と熱を生成させる反応を生起させる。この反応は、例えば、特許第5764832号公報、特許第5900992号公報、特許第6678194号公報などに記載の方法で実施できる。
【0024】
本発明において、金属は、水蒸気と反応して金属酸化物と水素と熱を生成できる金属であればよく、各種の単体金属及び水素吸蔵合金を使用できるが、入手の容易性、コストなどの観点から、MgH、AlH及びFeHからなる群より選ばれる水素吸蔵合金、又は、Mg、Al及びFeからなる群より選ばれる単体金属が好ましい。これらの水素吸蔵合金及び金属は、高純度のものを意味し、その純度は、好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上、さらに好ましくは99.9%以上、さらにより好ましくは99.95%以上、特に好ましくは99.99%以上である。
【0025】
MgHと水蒸気の酸化反応は、下記反応式(1)で示される。Mgと水蒸気の酸化反応は下記反応式(2)で示される。同様に、AlH、Al、FeH、Feと水蒸気の酸化反応は下記反応式(3)~(6)で示される。
【0026】
MgH+HO→MgO+2H+熱…(1)
Mg+HO→MgO+H+熱…(2)
2AlH+3HO→Al+6H+熱…(3)
2Al+3HO→Al+3H+熱…(4)
2FeH+3HO→Fe+6H+熱…(5)
2Fe+3HO→Fe+3H+熱…(6)
【0027】
上記式(1)及び(2)で示される反応は、反応生成物としてMgOが得られる温度、具体的には、マグネシウムの融点である650℃以上、好ましくは、800~1000℃の温度範囲で行われる。同様に、上記式(3)及び(4)で示される反応は、反応生成物としてAlが得られる温度、具体的には、アルミニウムの融点である660℃以上、好ましくは、800~1000℃の温度範囲で行われる。同様に、上記式(5)及び(6)で示される反応は、反応生成物としてFeが得られる温度、具体的には、鉄の融点である1535℃以上、好ましくは、1600~2000℃の温度範囲で行われる。なお、本発明において、上記式(1)~(6)の反応は、金属を融点以上に加熱すると直ちに進行し、金属は溶融と同時に水蒸気と反応して灰状の金属酸化物に変化する。したがって、本発明は、水蒸気との反応前に予め金属自体を溶融状態にして用意しておくことを要求するものではない。
【0028】
図1の上記反応容器では、通常、上室11に、金属と水蒸気との反応を開始させる着火剤として機能する金属が配置され、下室12に、着火後、容器が所定温度以上になった後に水素発生反応を継続させるための金属が配置される。例えば、特許第5764832号公報に記載されるように、上室11に粒状又は粉状のMgH、AlH又はFeH等の金属水素化物を収容し、下室12にタブレット状のMg、Al又はFe等の単体金属を配置し、水蒸気との反応性の高い上室11の金属水素化物により反応を開始させ、下室12の単体金属と水蒸気との反応を誘発させることができる。別法としては、特許第6678194号公報に記載されるように、上室11に比表面積の大きい粒状又はタブレット状の第一の形態の金属を配置し、下室12に第一の形態よりも比表面積の小さいインゴット状の金属を収容し、上室11に過熱水蒸気を導入して比表面積の大きい金属と過熱水蒸気との接触により反応を開始させた後、下室12の比表面積の小さい金属と飽和水蒸気との接触により反応を定常的に継続させることができ、この場合、水蒸気発生装置2は、過熱水蒸気及び飽和水蒸気を適宜切り替えて製造でき、過熱水蒸気を導管21aに導き、飽和水蒸気を導管21bに導くようにしたものであることが必要である。
【0029】
上記反応容器では、他の装置等を使った加熱も加圧も必要とすることなく、上室11の金属及び下室12の金属の反応熱すなわち発火熱だけで上記反応が進行する。しかしながら、反応温度を安定に維持するために他の熱源を用いて加熱してもよいことは言うまでもない。なお、本発明において、上記式(1)~(6)の反応は、生成物を金属酸化物の状態に維持し、金属水酸化物まで酸化されるのを阻止する必要があるので、通常、反応容器内の温度は、金属水酸化物の還元温度以上に維持することが必要である。反応容器から取り出された金属水酸化物は乾燥保温容器で保存することが好ましい。
【0030】
本発明において、上室11の金属と下室12の金属は、同一の金属でも異なった金属でも良いが、両者が同一の金属(単体金属およびその金属水素化物を含む)である方が、生成する金属酸化物が同じ金属酸化物になるので、生成物の純度が高まり、以後の取り扱いが容易になる点で好ましい。すなわち、(i)上室11で上記式(1)または(2)の反応を行い、下室12で上記式(2)の反応を行う態様、(ii)上室11で上記式(3)または(4)の反応を行い、下室12で上記式(4)の反応を行う態様、及び、(iii)上室11で上記式(5)または(6)の反応を行い、下室12で上記式(6)の反応を行う態様が好ましい。
【0031】
上室11及び下室12には、運転前に、金属を予め収容し、その後、不活性ガス供給装置3から導管31を介して不活性ガスを導入して内部をパージし、密閉しておくことが好ましい。これにより、上記反応容器中に安全に金属を収容しておくことができる。
【0032】
図示のプラントの運転を開始する際は、水蒸気発生装置2から導管21aを介して上記(1)~(6)の何れかの反応を開始させるに十分な温度の水蒸気(過熱水蒸気であっても飽和水蒸気であってもよい)を上室11に導入し、その反応を開始させる。そして、反応熱等により反応容器内の温度が十分に高くなった後、水蒸気発生装置2から導管21bを介して飽和水蒸気を下室12に導入して上室11の反応を下室12の金属に伝播させて、反応を定常状態で継続させる。この時、導管21aからの水蒸気の導入を停止してもよい。上記反応時、冷却塔44から上記冷却ジャケットに冷却水を連続的に導管41から導入するとともに導管42から排出することにより、反応容器内の温度を一定温度に維持し、導管14から排出される水素含有ガスの温度を一定温度に維持することができる。導管42から排出された冷却水は、温水タンク4へ回収され、冷却塔44に戻されて冷却された後、導管41に循環して冷却水としてリサイクルされる。別法として、反応容器内の温度は、導管31から低温の不活性ガスまたはその低温の液化ガスを反応容器内に導入することによっても冷却することができる。なお、上記運転中、反応容器は水蒸気を取り入れる導管21a,21bと水素含有ガスを排出する導管14口が開口して、気体が流通しているため、反応容器内は実質的に常圧すなわち大気圧に保たれる。
【0033】
上記反応は、上記反応容器内の金属が総て金属酸化物に酸化された時点で終了するので、その場合は、導管21a,21bからの水蒸気の導入を停止するとともに、上記と同様にして他の反応装置の運転を開始することにより、プラントを連続的に運転することができる。
また、上記反応は、上記反応容器内の金属が総て金属酸化物に酸化される前であっても、上記反応容器への水蒸気の導入を停止するとともに、導管31から不活性ガスを導入することによって、停止することができる。この場合、再度、導管21a,21bから水蒸気を上記反応容器内に導入することにより、上記反応容器に残存する金属を用いて上記反応を再開できるので、プラントを間欠的に運転することができる。
上記反応により生成した金属酸化物は、反応容器から回収して公知の方法で単体金属に還元し、前記反応の原料又は他の用途にリサイクルすることができる。その後、反応容器に金属を収容し、導管31から不活性ガスを導入してパージしておけば、当該反応容器を次の運転のためにスタンバイさせることができる。
【0034】
本発明では、安全性の点から、上記プラントの運転は、上記反応容器中の水素含有ガス及び上記導管14から排出される水素含有ガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持して行うことが必要である。水素の爆発限界酸素濃度は5%とされており、実際の操業においては、水素含有ガスの酸素濃度を2%以下に維持することが必要となる。そのため、上記運転は、導管14から排出される水素含有ガスの酸素濃度を酸素センサーで監視しつつ行う必要がある。
【0035】
本発明では、この酸素濃度を上記パージに用いた不活性ガスを用いて制御することができる。例えば、上記水素含有ガスの酸素濃度が高い場合は、不活性ガス供給装置3から導管31を介して不活性ガスを容器内に導入することで、酸素濃度を低くすることができる。
【0036】
本発明で使用できる不活性ガスとしては、特に限定されないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス等が挙げられる。このうち、取り扱い上などの観点から、窒素ガスが好ましい。不活性ガスは、上記反応容器に導入する際に気体となっていればよく、液体窒素ななどの液化ガスの形態で取り扱うこともできる。
【0037】
また、本発明では、上記水素含有ガスの酸素濃度は、上記反応に使用する水蒸気の酸素含有量を低下させることによっても低く保持することができる。図示の例では、例えば、純水製造装置22から純水タンク23を介して水蒸気発生装置2に導入される純水から予め空気や酸素を除去しておくことによって、水蒸気の酸素含有量を低下させることができる。純水からの空気や酸素の除去は、純水を水蒸気発生装置2に導入する直前に行うことが好ましく、例えば、図示のように、水蒸気発生装置2の前に脱気器24を設置することによって行うことができる。脱気器24としては、スプレー弁を利用したもの、脱泡・脱気ポンプを利用したものなどの公知の装置を使用できる。
【0038】
本発明においては、リサイクルされる金属酸化物の純度の観点から、上記反応に使用する水蒸気は純水由来の水蒸気であることが好ましい。上記純水は、純度99%以上のものが好ましく、99.9%以上のものがより好ましく、99.99%以上のものが特に好ましい。上記純水の25℃における電気抵抗率としては、0.1MΩ・cm以上が好ましく、1 MΩ・cm以上がより好ましく、10MΩ・cm以上のものが特に好ましい。
【0039】
かくして酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持された水素含有ガスは、導管14を介して回収された後、分離装置によって、未反応の水蒸気や不活性ガスなどの混入ガスと分離され、純度の高い水素として回収される。図示の例では、導管14から回収された水素含有ガスは、熱交換器である排ガス冷却器5に送られて、露点以下にならない温度まで冷却される。排ガス冷却器5には、冷却水が冷却塔44から導入されるとともに、温水タンク4へ排出されて冷却塔44に戻されて冷却された後、排ガス冷却器5に循環されている。
【0040】
そして、排ガス冷却器5から排出された水素含有ガスは排ガス冷却塔6に導入され、そこで露点以下に冷却することで水と水素ガスとに分離され、排ガス冷却塔6から排出された水素ガスは、ミストセパレータ7で更に水分を除去した後、水素ガスホルダー8内に貯蔵される。排ガス冷却塔6としては、例えば、スプレー水タンク61から水を導入して、水素含有ガスとスプレー水とを気液接触させる形態のものが使用できる。ミストセパレータ7及び水素ガスホルダー8としては、公知の装置を使用することができる。排ガス冷却塔6から排出するガスが水素ガスを含まない場合は、ミストセパレータ7に導入せずに、放散塔9から大気中に放出することができる。
【0041】
図示のプラントにおいて、導管の開閉は、公知のバルブやその制御装置を使用することにより行うことができる。導管14から回収された水素含有ガスの酸素濃度は、公知の酸素センサーを用いて測定することができ、また、測定位置は適宜選択することができ、例えば、導管14の反応容器との連結部、水素ガスホルダー8の入口などが挙げられる。そして、反応容器から回収されるガスの酸素濃度を水素の爆発限界酸素濃度よりも低く保持するために、測定された酸素濃度に応じて、不活性ガスの導管31からの導入量や、脱気器24での脱酸素量を調節してもよい。また、反応容器から回収されるガスの温度を所定温度に保持するために、反応容器内の温度を温度センサーで測定し、測定された温度に応じて、冷却水の温度や導管41及び42を介した導入量を調節したり、または、不活性ガスの温度や導管31を介した導入量を調節したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の水素ガス製造方法及び装置は、燃料電池の水素源、水素自動車の燃料源、火力発電所や焼却炉における混焼用燃料源、その他の各種の水素源用に水素ガスを供給するため利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1a,1b,1c,1d,1e 反応装置
11 上室
12 下室
13 隔壁
14 導管
2 水蒸気発生装置
20 導管
21a,21b 導管
22 純水製造装置
23 純水タンク
24 脱気器
3 不活性ガス発生装置
31 導管
4 温水タンク
41 導管
42 導管
44 冷却塔
5 排ガス冷却器
6 排ガス冷却塔
61 スプレー水タンク
7 ミストセパレータ
8 水素ガスホルダー
9 放散塔
図1