(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098266
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】シラン化合物、および金属酸化物微粒子
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20240716BHJP
G02B 1/10 20150101ALI20240716BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C07F7/18 Q CSP
G02B1/10
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001660
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】金谷 慎吾
【テーマコード(参考)】
2K009
4F100
4H049
【Fターム(参考)】
2K009CC42
4F100AA17A
4F100AA21A
4F100AH06A
4F100AK01A
4F100AK25A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100CA02A
4F100DE01A
4F100EJ08
4F100JB12A
4F100JN18
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ49
4H049VR21
4H049VR43
4H049VS48
4H049VU31
(57)【要約】
【課題】高屈折率の金属酸化物微粒子の製造に有用なシラン化合物を提供する。
【解決手段】ポリアルキレングリコール基、アルコキシシリル基、および下記一般式(1)で表される構造を有する、シラン化合物。-S-CH(R1)-COO-(1)(一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレングリコール基、アルコキシシリル基、および下記一般式(1)で表される構造を有する、シラン化合物。
-S-CH(R1)-COO- (1)
(一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項2】
(a1)ポリアルキレングリコール基を有するアクリル酸エステルと(a2)チオール基を有するアルコキシシラン、または、
(b1)ポリアルキレングリコール基を有するチオールと(b2)アルコキシシリル基を有するアクリル酸エステルの、
エンチオール反応物である、請求項1に記載のシラン化合物。
【請求項3】
下記一般式(2)で表される、請求項1または2に記載のシラン化合物。
【化1】
(一般式(2)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。R
3はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、またはエチル基を表す。mは1~10の整数を表す。nは1~10の整数を表す。)
【請求項4】
請求項1または2に記載のシラン化合物により表面処理された金属酸化物微粒子。
【請求項5】
請求項1または2に記載のシラン化合物、金属酸化物微粒子、および溶媒を含む分散液。
【請求項6】
請求項5に記載の分散液、および硬化性樹脂を含む樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂組成物を硬化してなる硬化膜。
【請求項8】
基材と、請求項7に記載の硬化膜とを有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン化合物、および金属酸化物微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
AR(拡張現実、Augmented Reality)グラス、半導体チップ、自動車用3Dセンサーなどの次世代デバイスでは、高屈折率のガラス材料が使用されている。これらの高屈折率ガラスとともに用いられるナノインプリント用樹脂やコーティング用樹脂にも、高い屈折率が求められる。高屈折率の樹脂材料として、樹脂中に酸化チタンやジルコニアなどの金属酸化物微粒子を分散した分散材料が用いられている。
【0003】
金属酸化物微粒子の小粒子化と分散安定化のために、金属酸化物微粒子の表面をポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸やシランカップリング剤などの表面処理剤で処理することが知られているが、高屈折率の維持と、金属酸化物微粒子の分散安定化との両立が課題であった。特許文献1は、表面処理剤で被覆された、屈折率が1.8以上である被覆ナノ粒子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高屈折率の金属酸化物微粒子の製造に有用なシラン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討したところ、特定のシラン化合物により表面処理された金属酸化物微粒子が、高い屈折率を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、ポリアルキレングリコール基、アルコキシシリル基、および下記一般式(1)で表される構造を有する、シラン化合物に関する。
-S-CH(R1)-COO- (1)
(一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表す。)
【0008】
シラン化合物は、(a1)ポリアルキレングリコール基を有するアクリル酸エステルと(a2)チオール基を有するアルコキシシラン、または、(b1)ポリアルキレングリコール基を有するチオールと(b2)アルコキシシリル基を有するアクリル酸エステルの、エンチオール反応物であることが好ましい。
【0009】
シラン化合物は、下記一般式(2)で表されるものであることが好ましい。
【化1】
(一般式(2)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。R
3はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、またはエチル基を表す。mは1~6の整数を表す。nは1~10の整数を表す。)
【0010】
また、本発明は、前記シラン化合物により表面処理された金属酸化物微粒子に関する。
【0011】
また、本発明は、前記シラン化合物、金属酸化物微粒子、および溶媒を含む分散液に関する。
【0012】
また、本発明は、前記分散液、および硬化性樹脂を含む樹脂組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、前記樹脂組成物を硬化してなる硬化膜に関する。
【0014】
また、本発明は、基材と、前記硬化膜とを有する積層体に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシラン化合物は、高屈折率の金属酸化物微粒子の製造に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<<シラン化合物>>
本発明のシラン化合物は、ポリアルキレングリコール基、アルコキシシリル基、および下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする。
-S-CH(R1)-COO- (1)
(一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表す。)
【0017】
本発明のシラン化合物において、ポリアルキレングリコール基は、硬化性樹脂との相溶性を高める機能を有する。ポリアルキレングリコール基としては、ポリエチレングリコール基、ポリプロピレングリコール基、ポリテトラメチレングリコール基などのポリ(C1-4アルキレングリコール)基が挙げられ、ポリエチレングリコール基が好ましい。ポリアルキレングリコール基におけるオキシアルキレン基の繰り返し数は、1~10が好ましく、2~5がより好ましい。シラン化合物中のポリアルキレングリコール基の数は1~5が好ましく、1~2がより好ましい。
【0018】
アルコキシシリル基は、シラン化合物に金属酸化物微粒子との反応性を付与する。アルコキシシリル基に含まれるアルコキシ基の数は1~3であり、2~3がより好ましい。アルコキシシリル基におけるアルコキシ基の炭素数はC1~6が好ましく、C1~4がより好ましい。アルコキシシリル基の具体例として、メトキシシリル基、ジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、ブトキシシリル基、プロポキシシリル基が挙げられ、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基がより好ましい。シラン化合物中のアルコキシシリル基の数は1~3が好ましく、1~2がより好ましい。
【0019】
下記一般式(1):
-S-CH(R1)-COO- (1)
で表される構造は、表面処理後の金属酸化物微粒子の屈折率を高める。一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、メチル基が好ましい。
【0020】
シラン化合物において、(a)ポリアルキレングリコール基、(b)アルコキシシリル基、および(c)一般式(1)で表される構造の順序は特に限定されず、例えば(a)-(b)-(c)、(b)-(a)-(c)、(b)-(c)-(a)が挙げられる。これらの中でも、金属酸化物微粒子との反応性を高めるために(b)アルコキシシリル基が末端に存在することが好ましく、(b)-(a)-(c)の順序がより好ましい。
【0021】
シラン化合物の具体例として、下記一般式(2):
【化2】
で表される化合物が挙げられる。一般式(2)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。R
3はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、またはエチル基を表す。mは1~10の整数を表し、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。nは1~10の整数を表し、2~5が好ましい。
【0022】
シラン化合物は、金属酸化物微粒子の表面処理に好適に使用され、金属酸化物微粒子の屈折率を高める。シラン化合物の波長589nmにおける屈折率(nD)は1.45以上が好ましく、1.50以上がより好ましい。シラン化合物の屈折率の上限は特に限定されないが、一般的には1.60以下である。
【0023】
シラン化合物の製造方法は特に限定されず、前述の構造を有する原料から定法により製造できるが、エンチオール反応により製造することが好ましい。エンチオール反応は、チオールとアルケンとを結合する反応である。本発明では、(a1)ポリアルキレングリコール基を有するアクリル酸エステルと(a2)チオール基を有するアルコキシシランとのエンチオール反応、または、(b1)ポリアルキレングリコール基を有するチオールと(b2)アルコキシシリル基を有するアクリル酸エステルとのエンチオール反応により、シラン化合物を得ることができる。
【0024】
(a1)ポリアルキレングリコール基を有するアクリル酸エステルにおいて、ポリアルキレングリコール基としては、ポリエチレングリコール基、ポリプロピレングリコール基、ポリテトラメチレングリコール基などのポリ(C1-4アルキレングリコール)基が挙げられ、ポリエチレングリコール基が好ましい。ポリアルキレングリコール基におけるオキシアルキレン基の繰り返し数は、1~10が好ましく、2~5がより好ましい。(a1)ポリアルキレングリコール基を有するアクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸とポリアルキレングルリコール基を有するアルコールとのエステルが挙げられる。(a1)ポリアルキレングリコール基を有するアクリル酸エステルの具体例としては、メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、ブトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートが挙げられ、メトキシトリエチレングリコールアクリレートが好ましい。
【0025】
(a2)チオール基を有するアルコキシシランにおいて、アルコキシシランの炭素数はC1~6が好ましく、C1~4がより好ましい。アルコキシシランの具体例として、メトキシシラン、エトキシシラン、ブトキシシラン、プロポキシシランが挙げられ、メトキシシラン、エトキシシランが好ましい。(a2)チオール基を有するアルコキシシランの具体例としては、メルカプトメチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランが挙げられ、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0026】
(b1)ポリアルキレングリコール基を有するチオールにおいて、ポリアルキレングリコール基としては、(a1)について述べた構造が挙げられる。(b1)ポリアルキレングリコール基を有するチオールの具体例としては、ポリエチレングリコールチオール、ポリプロピレングリコールチオールが挙げられる。
【0027】
(b2)アルコキシシリル基を有するアクリル酸エステルにおいて、アルコキシシランとしては、(a2)について述べた構造が挙げられる。(b2)アルコキシシリル基を有するアクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸とアルコキシシリル基を有するアルコールとのエステルが挙げられ、具体例としては、3-トリメトキシシリルプロピルアクリレート、3-トリエトキシシリルプロピルアクリレート、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートが挙げられる。
【0028】
エンチオール反応では、(a1)ポリアルキレングリコール基を有するアクリル酸エステル1モルに対する(a2)チオール基を有するアルコキシシランの使用量は0.8~1.2モルが好ましく、0.9~1.1モルがより好ましい。また、(b1)ポリアルキレングリコール基を有するチオール1モルに対する(b2)アルコキシシリル基を有するアクリル酸エステルの使用量は0.8~1.2モルが好ましく、0.9~1.1モルがより好ましい。
【0029】
エンチオール反応の温度条件は60~120℃が好ましく、70~100℃がより好ましい。時間条件は1~24時間が好ましく、2~12時間がより好ましい。
【0030】
エンチオール反応では、触媒を用いてもよい。触媒としては、トリエチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルアミノピリジンなどのアミン系化合物、トリフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、トリプロピルホスフィンなどのホスフィン系化合物などを用いることができる。これらの中でも、アミン系化合物が好ましく、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミンがより好ましい。触媒の使用量は、(a1)ポリアルキレングリコール基を有するアクリル酸エステル100重量部、または(b1)ポリアルキレングリコール基を有するチオール100重量部に対し、0.05~5重量部が好ましく、0.1~3重量部がより好ましい。
【0031】
<<シラン化合物による金属酸化物微粒子の表面処理>>
上記シラン化合物は、金属酸化物微粒子の表面処理に好適に使用できる。シラン化合物により表面処理された金属酸化物微粒子は、高屈折率を有し、同時に硬化性樹脂を含む樹脂組成物中で高い分散安定性を有する。
【0032】
金属酸化物微粒子としては、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3、FeO、Fe3O4)、酸化銅(CuO、Cu2O)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化モリブデン(MoO3)、酸化インジウム(In2O3、In2O)、酸化スズ(SnO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化タングステン(WO3、W2O5)、酸化鉛(PbO、PbO2)、酸化ビスマス(Bi2O3)、酸化セリウム(CeO2、Ce2O3)、酸化アンチモン(Sb2O5、Sb2O5)、酸化ゲルマニウム(GeO2、GeO)等が挙げられる。また、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン/ケイ素複合酸化物、イットリウム安定化ジルコニアなど、2種以上の金属元素から構成される複合酸化物なども使用できる。これらのうち、入手の容易さと、高屈折率を実現しやすい点から、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、チタン酸バリウム(BaTiO3)が好ましい。これらの金属酸化物微粒子は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
原料として使用する金属酸化物微粒子の一次粒子径は、1~100nmが好ましく、5~50nmがより好ましい。1nm未満であると、微粒子の比表面積が大きく、凝集エネルギーが高いため、分散安定性を保つことが困難となることがある。一方、100nmを超えると、硬化物中の金属酸化物微粒子による光の散乱が激しくなり、透明性が低下することがある。一次粒子径は、SEM,TEM等の電子顕微鏡や、比表面積からの換算で測定することができる。
【0034】
金属酸化物微粒子の表面処理は、金属酸化物微粒子、シラン化合物、および溶媒を混合し、湿式粉砕することにより、行うことができる。金属酸化物微粒子、シラン化合物、および溶媒の混合順は特に限定されず、溶媒に対し金属酸化物微粒子、シラン化合物を任意の順番で添加してもよい。
【0035】
溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。
【0036】
金属酸化物微粒子、シラン化合物、および溶媒の混合物中、金属酸化物微粒子の配合量は5~90重量%が好ましく、10~80重量%がより好ましい。シラン化合物の配合量は、金属酸化物微粒子100重量部に対し、0.1~5重量部が好ましく、1~3重量部がより好ましい。
【0037】
金属酸化物微粒子、シラン化合物、および溶媒の混合物は、さらに、分散剤を含んでいてもよい。また、湿式粉砕工程では、後述する硬化性樹脂を共存させてもよい。
【0038】
分散剤としては、ポリアクリル酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、シリコン系分散剤が挙げられる。分散剤を用いる場合、その添加量は、金属酸化物微粒子100重量部に対して、0.1~10重量部が好ましい。
【0039】
湿式粉砕工程では、金属酸化物微粒子、シラン化合物、および溶媒の混合物を粉砕する。湿式粉砕により、金属酸化物微粒子の粉砕、該粉砕物の分散、およびシラン化合物による金属酸化物微粒子の表面処理を、同時に行うことができる。湿式粉砕工程で用いる湿式粉砕機としては、ボールミル、ビーズミルが挙げられる。湿式粉砕機としてビーズミルを用いる場合、ビーズ径は30~100μmが好ましく、分散時間は10~15時間が好ましい。湿式粉砕時のpH条件はpH5~9が好ましく、pH6~8がより好ましい。
【0040】
シラン化合物により表面処理された金属酸化物微粒子では、シラン化合物のアルコキシシリル基が加水分解されて生じた水酸基と、金属酸化物微粒子の表面に存在する水酸基との間で、脱水縮合反応が進行している。シラン化合物により表面処理された金属酸化物微粒子の、分散状態での平均粒子径は10~70nmが好ましく、10~50nmがより好ましい。分散後の粒子径は動的光散乱法、レーザー回折法等の装置で測定することができる。
【0041】
湿式粉砕工程を経た混合物は、溶媒中に表面処理された金属酸化物微粒子が分散された分散液であり、一部、未反応のシラン化合物や、表面処理されていない金属酸化物微粒子が残存していてもよい。分散液の固形分濃度は、10~90重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましい。分散液の固形分濃度は、溶媒量により調節できる。
【0042】
<<樹脂組成物>>
本発明の樹脂組成物は、表面処理された金属酸化物微粒子を含む分散液、および硬化性樹脂を含む。硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリシロキサン樹脂、メラミンが挙げられる。
【0043】
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂等が挙げられる。これらのアクリル樹脂は、例えばカルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基、リン酸基などの酸基を有する重合性単量体を構成モノマーとして含む重合体であればよく、例えば、酸基を有する重合性単量体の単独又は共重合体、酸基を有する重合性単量体と共重合性単量体との共重合体等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル系樹脂とは、アクリル系樹脂またはメタクリル系樹脂を指すものとする。
【0044】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系単量体を主たる構成モノマー(例えば、50モル%以上)として含んでいれば共重合性単量体と重合していてもよく、この場合、(メタ)アクリル系単量体及び共重合性単量体のうち、少なくとも一方が酸基を有していればよい。
【0045】
(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、酸基を有する(メタ)アクリル系単量体[(メタ)アクリル酸、スルホアルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド等]又はその共重合体、酸基を有していてもよい(メタ)アクリル系単量体と、酸基を有する他の重合性単量体[他の重合性カルボン酸、重合性多価カルボン酸又は無水物、ビニル芳香族スルホン酸等]及び/又は共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、芳香族ビニル単量体等]との共重合体、酸基を有する他の重合体単量体と(メタ)アクリル系共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル等]との共重合体、酸基を有していない(メタ)アクリル系単量体[アルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート(フルオレン系(メタ)アクリレート等]又はその共重合体、ロジン変性ウレタンアクリレート、特殊変性アクリル樹脂、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートエマルジョン等が挙げられる。
【0046】
これらの(メタ)アクリル系樹脂の中で、酸基を有していない(メタ)アクリル系単量体が好ましく、フルオレン系(メタ)アクリレートがより好ましく、ビスフェノキシエタノールフルオレン(メタ)アクリレート、ビスフェノールフルオレンアクリレート、ビスクレゾールフルオレン(メタ)アクリレート、ビスフェニルフェノールフルオレン(メタ)アクリレート、ビスナフトールフルオレン(メタ)アクリレート等のフルオレン系(メタ)アクリレートがさらに好ましく、ビスフェノキシエタノールフルオレン(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0047】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、ベンゼン環を多数有した多官能型であるテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型又はトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型、ビフェニル型、トリフェノールメタン型、ナフタレン型、オルソノボラック型、ジシクロペンタジエン型、アミノフェノール型、脂環式等のエポキシ樹脂、シリコーンエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0048】
ポリシロキサン樹脂としては、例えば、下記式(3)により表されるアルコキシシランのモノマー同士が縮合したアルコキシシランであって、シロキサン結合(Si-O-Si)を1分子内に1個以上有するオリゴマー等が挙げられる。
SiR4
4 (3)
(式中、R4は、水素、水酸基、炭素数1~4のアルコキシ基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いフェニル基である。但し、4つのR4のうち少なくとも1個は炭素数1~4のアルコキシ基又は水酸基である)
ポリシロキサン樹脂は、式(3)により表されるアルコキシシランが2分子以上縮合したものであることが好ましい。
【0049】
ポリシロキサン樹脂の構造は特に限定されず、直鎖状であっても良く、分岐状でも良い。また、ポリシロキサン樹脂は、式(3)により表される化合物を単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
【0050】
上記ポリシロキサン樹脂として、 シリコンアルコキシドアクリル系樹脂、シリコンアルコキシドエポキシ系樹脂、シリコンアルコキシドビニル系樹脂、シリコンアルコキシドメタクリル系樹脂、シリコンアルコキシドチオール系樹脂、シリコンアルコキシドアミノ系樹脂、シリコンアルコキシドイソシアネート系樹脂、シリコンアルコキシドアルキル系樹脂、及びシリコンアルコキシド基以外の官能基を有しないシリコンアルコキシド系樹脂などのシリコンアルコキシド系樹脂を挙げることができる。
【0051】
上記ポリシロキサン樹脂の具体的な構成成分としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルフェノキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン又はテトラフェノキシシラン、メチルシリケートオリゴマー、エチルシリケートオリゴマーなどのアルコキシシリケートオリゴマー等を挙げることができる。これらの中でもテトラアルコキシシラン、テトラフェノキシシラン、アルコキシシリケートオリゴマーが好ましい。
【0052】
ポリシロキサン樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、1000~5000以下が好ましく、1300~3700以下であることがより好ましい。
【0053】
硬化性樹脂の含有量は、金属酸化物微粒子100重量部に対して5~100重量部であることが好ましく、10~80重量部であることがより好ましく、10~50重量部であることがさらに好ましい。上記範囲内であると、製膜時にクラックが発生せず、均一な膜が形成できる上に、光学特性に優れる。
【0054】
樹脂組成物は、さらに、光重合開始剤、ラジカル開始剤、導電性高分子、炭素材料などの任意成分を含んでいてもよい。
【0055】
光重合開始剤としては、例えばベンジルジメチルケタール化合物、α-ヒドロキシアルキルフェノン化合物、α-アミノアルキルフェノン化合物などのアルキルフェノン化合物や、アシルホスフィン化合物、ベンゾフェノン化合物、チオキサントン化合物などが挙げられる。これらの化合物は、その1種を単独で使用してもよく、また、2種以上を組み合わせて使用することもできる。光重合開始剤の配合量は、硬化性樹脂100重量部に対して、0.05~5重量部が好ましく、0.1~3重量部がより好ましい。
【0056】
ラジカル開始剤としては、ケトンパーオキサイド系化合物、ジアシルパーオキサイド系化合物、ハイドロパーオキサイド系化合物、ジアルキルパーオキサイド系化合物、パーオキシケタール系化合物、アルキルパーエステル系化合物、パーカーボネート系化合物、アゾビス系化合物などが挙げられる。これらの化合物は、その1種を単独で使用してもよく、また、2種以上を組み合わせて使用することもできる。ラジカル開始剤の配合量は、硬化性樹脂100重量部に対して、0.05~10重量部が好ましく、0.1~5重量部がより好ましい。
【0057】
導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、これらの誘導体、及び、これらとドーパントとの複合体等が挙げられる。導電性高分子の配合量は、硬化性樹脂100重量部に対して、0.05~10重量部が好ましい。
【0058】
炭素材料としては、例えば、カーボンナノ材料、グラフェン、フラーレン等が挙げられる。
炭素材料の配合量は、硬化性樹脂100重量部に対して、0.05~10重量部が好ましい。
【0059】
樹脂組成物の固形分濃度は、10~90重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましい。樹脂組成物の固形分濃度は、溶媒量により調節できる。溶媒としては、分散体について述べた溶媒を用いることができる。
【0060】
<<硬化膜>>
本発明の硬化膜は、基材表面に、樹脂組成物からなる塗膜を形成し、その塗膜を硬化することにより得られる。
【0061】
樹脂組成物の基材表面への塗布方法としては、例えば、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ノズルコート法、グラビアコート法、リバースロールコート法、ダイコート法、エアドクターコート法、ブレードコート法、ロッドコート法、カーテンコート法、ナイフコート法、トランスファロールコート法、スクイズコート法、含浸コート法、キスコート法、カレンダコート法、押出コート法等が挙げられる。
【0062】
樹脂組成物からなる塗膜の硬化条件は特に限定されないが、樹脂組成物を露光により硬化する場合、100~2000mJ/cm2の光照射量が挙げられる。加熱により硬化する場合、加熱温度は80~300℃であることが好ましく、90~120℃であることがより好ましい。また、加熱時間は、5~300秒間であることが好ましく、20~120秒間であることがより好ましい。
【0063】
硬化後の塗膜の厚みは特に限定されないが、0.1~30μmであることが好ましく、0.3~20μmであることがより好ましく、0.3~5μmであることがさらに好ましい。厚みが0.1μm未満であると、塗膜の平滑性が不十分となることがあり、30μmを超えると、内部応力の増加により基材への密着性が不十分となることがある。
【0064】
本発明の硬化膜は、前記シラン化合物により表面処理された金属酸化物微粒子を含むため、高い屈折率を有する。硬化膜の波長589nmにおける屈折率(nD)は1.80以上が好ましく、1.90以上がより好ましい。屈折率の上限は特に限定されないが、一般的には2.0以下である。
【0065】
硬化膜は、光学コーティング塗膜、光学部材などの形で、高屈折率が求められる光学デバイスに好適に用いることができる。光学デバイスの具体例としては、例えば、AR(拡張現実、Augmented Reality)グラス、半導体チップ、自動車用3Dセンサー、有機EL照明、有機ELディスプレイ、タッチパネル、液晶ディスプレイ等が挙げられる。
【0066】
<<積層体>>
本発明の積層体は、基材と、前記硬化膜とを有することを特徴とする。基材の材質は、特に限定されないが、樹脂、無機材料、紙、シリコーン等の半導体作製基板が挙げられる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、シクロオレフィン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、PMMA、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、ABS樹脂等が挙げられる。無機材料としては、ガラス、石英、セラミック、Ni、Cu、Cr、Feなどの金属基板、ITO等の導電基材等が挙げられる。
【0067】
積層体は、基材と硬化膜の他に、粘着層、導電層、反射防止層等を有していてもよい。
【実施例0068】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。
【0069】
(1)以下に、実施例及び比較例で使用した各種薬品を示す。
(1-1)シラン化合物の合成に用いた原料
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(大阪有機化学工業社、ビスコート#MTG)
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(共栄社化学社、MTG-A)
メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート(新中村化学工業社、AM-90G)
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社、KBM-803)
シクロヘキシルアミン
(1-2)金属酸化物微粒子の表面処理に用いた原料
・金属酸化物微粒子
酸化チタン(昭和電工社、F-6A、1次粒子径15nm)
・硬化性樹脂
ビスフェノキシエタノールフルオレンアクリレート(大阪ガスケミカル社、BPEFA)
・硬化剤
光重合開始剤(BASF社、Omirad907)
・比較例で用いたシラン化合物
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社、KBM-503)
リン酸エステル系分散剤(東邦化学工業社、RS-710)
・溶媒
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)
【0070】
(2)シラン化合物の合成
ポリアルキレングリコール基を有するアクリル酸エステルと、チオール基を有するアルコキシシランとのモル比が1.0となるように、表1に記載の重量比で各成分を混合し、80℃で3時間反応させることにより、シラン化合物を得た。
【0071】
【0072】
(3)シラン化合物による金属酸化物微粒子の表面処理
表2に記載の重量比で各成分を混合し、ビーズミル(シンマルエンタープライゼス社製、0.05mmジルコニアボール)で12時間分散し、樹脂組成物を得た。Siウェハ基材上に樹脂組成物をスピンコート法で塗布し、80℃で5分間前乾燥した後、メタルハライドランプ(ウシオ電機社製、ユニキュア)で1000mJ/cm2露光して硬化させ、厚さ1μmの硬化膜を得た。
【0073】
【0074】
(4)評価方法
(4-1)平均粒子径
動的光散乱粒度径測定装置(マルバーン社製、ゼータサイザーナ ノZSP)を用いて、シラン化合物による表面処理後の金属酸化物微粒子の平均粒子径を測定した。
【0075】
(4-2)屈折率
エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム社製、M-2000U)を用いて、硬化膜の波長589nmにおける屈折率を測定した。
【0076】
表2に示すように、比較例1~2では表面処理後も、金属酸化物微粒子の分散が不十分であり平均粒子径が低減できていなかった。また、硬化膜の屈折率は不十分であった。実施例1~3のシラン化合物を用いた実施例4~6では、金属酸化物微粒子が十分に分散され、平均粒子径が小さく、硬化膜は高屈折率を示した。
【0077】
本開示(1)はポリアルキレングリコール基、アルコキシシリル基、および下記一般式(1)で表される構造を有する、シラン化合物である。
-S-CH(R1)-COO- (1)
(一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表すである。)
【0078】
本開示(2)は(a1)ポリアルキレングリコール基を有するアクリル酸エステルと(a2)チオール基を有するアルコキシシラン、または、
(b1)ポリアルキレングリコール基を有するチオールと(b2)アルコキシシリル基を有するアクリル酸エステルの、
エンチオール反応物である、本開示(1)に記載のシラン化合物である。
【0079】
本開示(3)は下記一般式(2)で表される、本開示(1)または(2)に記載のシラン化合物である。
【化3】
(一般式(2)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表すである。R
3はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、またはエチル基を表すである。mは1~10の整数を表すである。nは1~10の整数を表すである。)
【0080】
本開示(4)は本開示(1)~(3)のいずれかに記載のシラン化合物により表面処理された金属酸化物微粒子である。
【0081】
本開示(5)は本開示(1)~(4)のいずれかに記載のシラン化合物、金属酸化物微粒子、および溶媒を含む分散液である。
【0082】
本開示(6)は本開示(5)に記載の分散液、および硬化性樹脂を含む樹脂組成物である。
【0083】
本開示(7)は本開示(6)に記載の樹脂組成物を硬化してなる硬化膜である。
【0084】
本開示(8)は基材と、本開示(7)に記載の硬化膜とを有する積層体である。