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特開2024-98275締付け固定用リング、及びこのリングを備えた軸受ユニット
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  • 特開-締付け固定用リング、及びこのリングを備えた軸受ユニット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098275
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】締付け固定用リング、及びこのリングを備えた軸受ユニット
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/07 20060101AFI20240716BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240716BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240716BHJP
   F16B 2/08 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
F16C35/07
F16C19/06
F16C33/58
F16B2/08 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001675
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】吉川 光彦
【テーマコード(参考)】
3J022
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J022EA42
3J022EB12
3J022EC22
3J022FA02
3J022FB07
3J022FB12
3J022GA03
3J022GA12
3J022GB43
3J022GB53
3J117AA02
3J117DA01
3J117DA02
3J117DB01
3J701AA02
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA56
3J701FA01
3J701FA44
(57)【要約】
【課題】ボルト締めにより縮径するセットカラーの重心の偏りを改善することで、このカラーにより軸受の内輪を固定した軸の振れ回りを抑制可能とする。
【解決手段】締付け固定用リング6は、円周方向の一部に切れ目13が設けられ、切れ目13を挟んで向かい合う一対の円周方向端部14a,14bを有するリング本体10と、一対の円周方向端部14a,14bに跨って設けられたボルト穴11a,11bとを備える。この締付け固定用リング6は、リング本体10の内周面10aの中心C1に対するリング本体6の重心CGの偏心を解消するための偏心解消部16をさらに備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮径動作により軸受の内輪の一部をその外周から締め付けることで前記内輪の一部をシャフト部に固定するための締付け固定用リングであって、
円周方向の一部に切れ目が設けられ、前記切れ目を挟んで向かい合う一対の円周方向端部を有するリング本体と、前記一対の円周方向端部に跨って設けられたボルト穴とを備え、前記ボルト穴にボルトを通して締めることで、前記リング本体を縮径可能とする締付け固定用リングにおいて、
前記リング本体の内周面の中心に対する前記リング本体の重心の偏心を解消するための偏心解消部をさらに備えることを特徴とする締付け固定用リング。
【請求項2】
前記偏心解消部は、前記リング本体の外周面の中心と前記内周面の中心が異なることで構成されている請求項1に記載の締付け固定用リング。
【請求項3】
前記偏心解消部は、前記リング本体を貫通する一又は複数の穴で構成されている請求項1又は2に記載の締付け固定用リング。
【請求項4】
前記偏心解消部は、前記リング本体の外周面の一部を前記外周面の中心側に後退させてなる後退部で構成されている請求項1又は2に記載の締付け固定用リング。
【請求項5】
前記偏心解消部は、前記ボルト穴に前記ボルトを取付けた状態の前記リング本体の重心に基づいて構成される請求項1又は2に記載の締付け固定用リング。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の締付け固定用リングと、前記締付け固定用リングの前記ボルト穴に取付けられる前記ボルトと、前記内輪と、前記内輪の内周に嵌合される前記シャフト部と、前記内輪に対して相対回転可能な外輪とを備えた軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締付け固定用リング、及びこのリングを備えた軸受ユニットに関し、特にボルト締めにより縮径可能な締付け固定用リングの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
機械要素の一つにセットカラーと呼ばれるリング状の部材がある。この部材は主に回転軸に取付けられて用いられるもので、軸受やプーリ等の軸方向位置を固定する役割を担っている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
一方で、この種のカラーは、玉軸受などの転がり軸受の内輪を軸に固定するのに用いられることもある。この場合、例えば軸受の内輪に軸方向への延長部を設けて、この延長部の外周にリング状のセットカラーを取付ける。そして、切れ目を挟んで向かい合うセットカラーの円周方向両端部に設けられたボルト穴にボルトを挿入して、当該ボルトを締める。これにより、セットカラーが縮径するので、セットカラーの内周に位置する内輪の軸方向延長部が軸に押し付けられ、内輪が軸に固定される(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-110370号公報
【特許文献2】特開2006-46505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したセットカラーによる軸受の固定構造は、リング状をなすカラー本体の縮径により内輪の軸方向延長部を外周から締付ける動作の関係上、止めねじ、アダプタ、偏心カラーなどによる固定構造と比べて、取付け時における軸受の中心とセットカラーの中心との間にずれが生じにくい利点がある。また、上述したセットカラーを用いた固定構造であれば、カラー本体の円周方向の一箇所に設けたボルト穴にボルトを通す(締める)だけで固定できるので、他の固定構造と比べて取付け工数が少なくて済む利点もある。
【0006】
その一方で、通常、この種の部材は、リング状をなすカラー本体のうち円周方向の一部に切れ目を入れた、いわゆるCリング形状をなし、切れ目を挟んで向かい合うカラー本体の一対の円周方向端部に跨ってボルト穴を設けた構造をなす。そのため、セットカラーの重心が、本来あるべきカラー本体の内周面の中心から半径方向でボルト穴を設けた側と反対の側に偏り易い。これでは、セットカラーを含めた回転体の重心が回転体の中心からずれることになるため、無視できないレベルの振れ回りが発生し、所要の回転性能を発揮できないおそれがある。
【0007】
以上の実情に鑑み、本発明により解決すべき技術課題は、ボルト締めにより縮径するセットカラーの重心の偏りを改善することで、このカラーにより軸受の内輪を固定した軸の振れ回りを抑制可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題の解決は、本発明に係る締付け固定用リングによって達成される。すなわち、このリングは、縮径動作により軸受の内輪の一部をその外周から締め付けることで内輪の一部をシャフト部に固定するための締付け固定用リングであって、円周方向の一部に切れ目が設けられ、切れ目を挟んで向かい合う一対の円周方向端部を有するリング本体と、一対の円周方向端部に跨って設けられたボルト穴とを備え、ボルト穴にボルトを通して締めることで、リング本体を縮径可能とする締付け固定用リングにおいて、リング本体の内周面の中心に対するリング本体の重心の偏心を解消するための偏心解消部をさらに備える点をもって特徴付けられる。
【0009】
上記構成に係る締付け固定用リングによれば、以下のような作用効果を享受し得る。すなわち、上記構成の締付け固定用リングを用いて軸受の内輪をシャフト部に固定する場合、内輪の一部となる軸方向の延長部の外周に締付け固定用リングを配置する。そして、切れ目を挟んで向かい合うリング本体の一対の円周方向端部にそれぞれ設けたボルト穴にボルトを通して締める。これにより、ボルト穴を有する一対の円周方向端部が互いに近づく向きにリング本体が変形するので、リング本体の内周面が縮径する。この結果、内輪の軸方向延長部がリング本体により半径方向内側に押圧されるので、例えば軸方向延長部を軸方向に延びる複数の爪部とすることで、当該複数の爪部が半径方向内側に変形し、シャフト部に押し付けられる。これにより、内輪がシャフト部に固定される。この際、リング本体の内周面は内輪の軸方向延長部に密着しているので、リング本体の内周面と内輪の内周面とで同心が図られている場合、締付け固定用リングの重心は、リング本体内周面の中心、すなわち内輪内周面の中心に一致した状態、又は非常に近い状態となる。よって、上述のように内輪が組付けられたシャフト部であれば回転時の振れ回りを可及的に防止して、優れた回転性能を発揮することが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る締付け固定用リングにおいて、偏心解消部は、リング本体の外周面の中心と内周面の中心が異なることで構成されてもよい。
【0011】
リング本体はリング状をなすことから、その径方向肉厚は内周面と外周面のサイズ、及び内周面と外周面との位置関係により決定される。外周面の中心と内周面の中心とが一致するように内周面に対する外周面の位置が決定される場合、リング本体の径方向肉厚は一定となる。そのため、上述のようにリング本体の外周面の中心を内周面の中心と異なる位置にして偏心解消部を構成することによって、リング本体の径方向肉厚に偏り(分布)が生じる。例えば外周面の中心をボルト穴に近づける向きにずらすことによって、全体としてボルト穴の側が相対的に厚肉となり、内周面の中心を挟んでボルト穴と反対の側が相対的に薄肉な肉厚分布が得られる。これにより、ボルト穴の側の領域におけるウェイト不足を厚肉にすることで補って、締付け固定用リングの重心をリング本体内周面の中心、ひいては内輪内周面の中心に一致させ、又は極力近づけることが可能となる。また、外周面の中心を内周面の中心と異なる位置にした形態とする場合であれば、外周面の仕上げ加工など既存の加工時に加工条件を調整するだけで済むので、工数の実質的な増加を避けて生産コストを維持することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る締付け固定用リングにおいて、偏心解消部は、リング本体を貫通する一又は複数の穴で構成されてもよい。
【0013】
このように、偏心解消部を、リング本体を貫通する一又は複数の穴で構成することによっても、リング本体のウェイトバランスを調整することができる。具体的には、ボルト穴の円周方向位置を考慮して、リング本体のうち内周面の中心を挟んでボルト穴と反対の側に例えば半径方向にリング本体を貫通する穴を設けることによって、リング本体の重心を内周面の中心に一致させ、又は極力近づけることが可能となる。よって、例えば生産開始後、リング本体のウェイトバランスを調整する必要が生じた場合には、上記貫通穴の穴開け加工を追加するだけで容易に締付け固定用リングの重心をリング本体内周面の中心、ひいては内輪内周面の中心に一致させることが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る締付け固定用リングにおいて、偏心解消部は、リング本体の外周面の一部を外周面の中心側に後退させてなる後退部で構成されてもよい。
【0015】
このように、リング本体の外周面の一部を外周面の中心側に後退させてなる後退部で偏心解消部を構成することによっても、リング本体のウェイトバランスを調整することができる。具体的には、主にボルト穴の円周方向位置を考慮して、例えばリング本体のうち内周面の中心を挟んでボルト穴と反対の側に外周面の後退部を設けることによって、リング本体の重心を内周面の中心に一致させ、又は近づけることが可能となる。また、この構成をとる場合においても、生産開始後、リング本体の外周面に対する所定の加工を追加するだけで容易に締付け固定用リングの重心をリング本体内周面の中心、ひいては内輪内周面の中心に一致させることが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る締付け固定用リングにおいて、偏心解消部は、ボルト穴にボルトを取付けた状態のリング本体の重心に基づいて構成されてもよい。
【0017】
リング本体は締付け固定用リングの大部分を占めることから、リング本体の重心を締付け固定リングの重心とみなして偏心解消部を設定してもよい。一方で、リング本体のボルト穴に取付けられるボルトの重量は少なからず締付け固定用リングの重心に影響を及ぼすとも考え得る。そのため、ボルトの重量を考慮する場合には、当該ボルトをリング本体のボルト穴に取付けた状態のリング本体の重心に基づいて偏心解消部を構成するのがよい。これによって、より正確に締付け固定用リングの重心を、リング本体内周面の中心、すなわち内輪内周面の中心に一致させることが可能となる、従って、回転時の振れ回りをより確実に防止して、さらに優れた回転性能を発揮することが可能となる。
【0018】
また、以上の説明に係る締付け固定用リングは、ボルト締めにより縮径するセットカラーの重心の偏りを改善することで、このカラーにより軸受の内輪を固定した軸の振れ回りを抑制可能とするものであるから、例えば上記構成の締付け固定用リングと、締付け固定用リングのボルト穴に取付けられるボルトと、内輪と、内輪の内周に嵌合されるシャフト部と、内輪に対して相対回転可能な外輪とを備えた軸受ユニットとして好適に提供可能である。
【発明の効果】
【0019】
以上より、本発明によれば、ボルト締めにより縮径するセットカラーの重心の偏りを改善することで、このカラーにより軸受の内輪を固定した軸の振れ回りを抑制できるので、回転精度の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一実施形態に係る締付け固定用リングを備えた軸受ユニットの中心線を含む仮想断面で切断して得た断面図である。
図2図1に示す軸受ユニットのA-A断面図である。
図3図1に示す締付け固定用リングの斜視図である。
図4図1に示す締付け固定用リングの正面図である。
図5】本発明の第二実施形態に係る締付け固定用リングの正面図である。
図6】本発明の第三実施形態に係る締付け固定用リングの正面図である。
図7】本発明の第四実施形態に係る締付け固定用リングの正面図である。
図8】本発明との比較に係る締付け固定用リングの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第一実施形態を図面に基づき説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る締付け固定用リングを備えた軸受ユニット1の断面図を示している。この軸受ユニット1は、内輪2と、外輪3と、転動体4と、シャフト部5と、締付け固定用リング6とを備える。
【0023】
本実施形態において軸受ユニット1は転がり軸受としての玉軸受を構成している。具体的には、内輪2と、内輪2の外周に配設された外輪3との間に複数の転動体4(ここではボール)が配設されており、これら複数の転動体4が内輪2及び外輪3に対して転動することにより、外輪3に対する内輪2の円滑な相対回転を可能としている。
【0024】
内輪2の内周にはシャフト部5が嵌合されており、後述する締付け固定用リング6により内輪2の軸方向延長部7を半径方向内側に押圧することで、内輪2がシャフト部5に固定されている。ここで、内輪2の軸方向延長部7は、全体として円筒状をなすと共に(図2を参照)、軸方向のスリット8を介して複数の爪部9に分割された構造をなしている。この場合、軸方向延長部7の外周に締付け固定用リング6を配設し、内輪2の内周にシャフト部5を挿入した状態で、締付け固定用リング6の縮径動作により軸方向延長部7をなす複数の爪部9を半径方向内側に押圧変形させる。これにより、複数の爪部9がシャフト部5の外周面に押し付けられた状態となるので、爪部9を介して内輪2がシャフト部5に固定され、内輪2とシャフト部5との一体回転が可能となる。
【0025】
図3は、本実施形態に係る締付け固定用リング6の斜視図、図4は、締付け固定用リング6の正面図をそれぞれ示している。図3及び図4に示すように、この締付け固定用リング6は、リング本体10と、ボルト穴11a,11bと、ボルト12とを備える。
【0026】
リング本体10の円周方向の一部には切れ目13が設けられており、この切れ目13を設けることにより、リング本体10のうち切れ目13を挟んで向かい合う位置に一対の円周方向端部14a,14bが形成される。この場合、一対の円周方向端部14a,14bを共通の仮想直線に沿って貫くようにボルト穴11a,11bが設けられている。よって、一方のボルト穴11bから他方のボルト穴11aに向けてボルト12を挿入し、所定の方向に回して締める。これにより、他方のボルト穴11aに設けられた雌ねじ部とボルト12の雄ねじ部(ともに図示は省略)との嵌め合い長さが増加し、この嵌め合い長さの増加に伴って、一対の円周方向端部14a,14bが接近する。この接近動作により、切れ目13の円周方向幅寸法を含むリング本体10の内周面10aの周長が減少するので、リング本体10が縮径する。
【0027】
本実施形態では、リング本体10の内周面10aの中心C1を挟んで切れ目13と反対の側に切り欠き部15が設けられており、この切り欠き部15によりリング本体10の縮径動作(変形)を促進可能としている。
【0028】
リング本体10には、リング本体10の内周面10aの中心C1に対するリング本体10の重心CGの偏心を解消するための偏心解消部16が設けられる。本実施形態では、リング本体10の外周面10bの中心C2が、内周面10aの中心C1と異なる位置に設定されており、いわばこの中心C1,C2間の位置ずれにより偏心解消部16が構成されている。本実施形態でいえば、所定の向きは、外周面10bの中心C2をボルト穴11a,11bもしくは切れ目13を設けること等によりリング本体10のうち相対的に軽量となった部位に近づける向きに設定される。また、中心C1,C2間のずれ量は、リング本体10の円周方向におけるウェイトバランスを考慮して適宜の大きさに設定される。この場合、リング本体10のうちボルト穴11a,11bの側が相対的に厚肉となり、内周面10aの中心C1を挟んでボルト穴11a,11bと反対の側(ここでは切り欠き部15の側)が相対的に薄肉な肉厚分布となる。
【0029】
ここで、偏心解消部16を設けていない締付け固定用リング106の場合、図8に示すように、締付け固定用リング106のリング本体110のウェイトバランスは、内周面110aの中心C11に対してボルト穴111a,111bの側が相対的に軽く、ボルト穴111a,111bと反対の側が相対的に重い分布をなす。そのため、締付け固定用リング106の重心CG1が、本来あるべきリング本体110の内周面110aの中心C11から半径方向でボルト穴111a,111bと反対の側に偏った状態となる。
【0030】
これに対して、本実施形態に係る締付け固定用リング6では、上述したように、リング本体10の内周面10aの中心C1に対するリング本体10の重心CGの偏心を解消するための偏心解消部16をさらに設けるようにした。上記構成の締付け固定用リング6を用いて軸受ユニット1の内輪2をシャフト部5に固定した状態では、リング本体10の内周面10aは内輪2の軸方向延長部7に密着し、軸方向延長部7はシャフト部5の外周面に密着している。そのため、リング本体10の内周面10aと内輪2の内周面、ここでは軸方向延長部7の内周面との間で同心が図られている場合、締付け固定用リング6の重心CGは、リング本体10の内周面10aの中心C1、すなわち内輪2の内周面の中心C3に一致した状態、又は非常に近い状態となる。よって、上述のように内輪2が組付けられたシャフト部5であれば回転時の振れ回りを可及的に防止して、優れた回転性能を発揮することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態では、リング本体10の外周面10bの中心C2を内周面10aの中心C1と異なる位置にして偏心解消部16を構成することによって、リング本体10の径方向肉厚に偏り(分布)を設けるようにした。この際、図4に示すように、外周面10bの中心C2をボルト穴11a,11bに近づける向きにずらすことによって、ボルト穴11a,11bの側が相対的に厚肉となり、内周面10aの中心C1を挟んでボルト穴11a,11bと反対の側(ここでは切り欠き部15の側)が相対的に薄肉なリング本体10の肉厚分布が得られる。これにより、ボルト穴11a,11bの側の領域におけるウェイト不足を厚肉にすることで補って、締付け固定用リング6の重心CGをリング本体10の内周面10aの中心C1、ひいては内輪2の内周面の中心C3に一致させ、又は極力近づけることが可能となる。また、外周面10bの中心C2を内周面10aの中心C1から所定の向きにずらした形態とする場合であれば、外周面10bの仕上げ加工など既存の加工時に加工条件を調整するだけで済むので、工数の実質的な増加を避けて生産コストを維持することが可能となる。
【0032】
以上、本発明の第一実施形態を説明したが、本発明に係る締付け固定用リング、及びこのリングを備えた軸受ユニットは上記例示の形態に限定されることなく、本発明の範囲内において任意の形態を採り得る。
【0033】
例えば偏心解消部16に関し、上記実施形態では、リング本体10の外周面10bの中心C2を内周面10aの中心C1と異なる位置にして偏心解消部16を構成した場合を例示したが、もちろんこれ以外の形態で偏心解消部16を構成することも可能である。
【0034】
図5はその一例(本発明の第二実施形態)に係る締付け固定用リング21の正面図を示している。図5に示すように、本実施形態に係る締付け固定用リング21では、偏心解消部16を、リング本体10を貫通する一又は複数の穴22で構成している。図5では、偏心解消部16として、リング本体10を厚み方向に貫通する複数の穴22が設けられた場合を例示している。
【0035】
この場合、穴22の円周方向位置、貫通方向、内径寸法、及び数は、ボルト穴11a,11bと切れ目13、及び切り欠き部15を考慮に加えたリング本体10のウェイトバランス、さらにいえばボルト穴11a,11bに取付けられたボルト12の状態(ボルト12の重量、重心位置、又はボルト12のウェイトバランス)を考慮に加えたリング本体10のウェイトバランスに基づいて、適宜に設定することが望ましい。図5に示す形態の場合、内周面10aの中心C1に対してボルト穴11a,11bと反対の側(図5の下側)で、かつボルト12のヘッド部12aと反対の側(図5の左側)に、リング本体10を厚み方向に貫通する複数の穴22が形成される。
【0036】
このように、偏心解消部16を、リング本体10を貫通する一又は複数の穴22で構成することによっても、リング本体10のウェイトバランスを調整して、リング本体10の重心CGを内周面10aの中心C1に一致させ、又は極力近づけることが可能となる。よって、例えば生産開始後、リング本体10のウェイトバランスを調整する必要が生じた場合には、穴22の穴開け加工を追加するだけで容易に締付け固定用リング21の重心CGをリング本体10の内周面10aの中心C1、ひいては内輪2の内周面の中心C3(図2を参照)に一致させることが可能となる。
【0037】
なお、上記実施形態では、リング本体10の外周面10bの中心C2を内周面10aの中心C1と異なる位置にする場合と、リング本体10に一又は複数の穴22を設ける場合の何れか一方で、偏心解消部16を構成した場合を例示したが、もちろんこれらを組み合わせてもよい。図6はその一例(本発明の第三実施形態)に係る締付け固定用リング31の正面図を示している。図6に示すように、本実施形態に係る締付け固定用リング31では、リング本体10の外周面10bの中心C2を内周面10aの中心C1と異なる位置にすると共に、リング本体10の所定位置に穴22を設けることによって、偏心解消部16を構成している。
【0038】
このように構成することによっても、リング本体10のウェイトバランスを調整して、リング本体10の重心CGを内周面10aの中心C1に一致させ、又は極力近づけることが可能となる。また、双方の手段を併用することによって、例えば中心C1,C2間のずれを意図的に設けようとした場合に、リング本体10の寸法上の制約がある場合(振れ回り時における回転体の最大外径寸法に制約がある場合など)、中心C1,C2間のずれ量を相対的に小さくし、穴22の総容積(穴22の内部空間であり、リング本体10に穴22を設けることにより生じた空間の総容積)を相対的に大きくすることで対応することが可能となる。あるいは、リング本体10に強度上の制約がある場合、穴22の総容積を相対的に小さくし、中心C1,C2間のずれ量を相対的に大きくすることで対応することが可能となる。よって、例えば生産開始後、リング本体10のウェイトバランスを調整する必要が生じた場合には、穴22の穴開け加工を追加するだけで容易に締付け固定用リング21の重心CGをリング本体10の内周面10aの中心C1、ひいては内輪2の内周面の中心C3(図2を参照)に一致させることが可能となる。
【0039】
また、偏心解消部16は、上述した中心C1,C2間の位置ずれと、穴22以外の構成をとることも可能である。図7はその一例(本発明の第四実施形態)に係る締付け固定用リング41の正面図を示している。図7に示すように、本実施形態に係る締付け固定用リング41では、リング本体10の外周面10bの一部を外周面10bの中心C2側に後退させることによって、偏心解消部16を構成している。
【0040】
この場合も、図5等に示す実施形態と同様、後退部42の円周方向位置及び後退量は、ボルト穴11a,11bと切れ目13、及び切り欠き部15を考慮に加えたリング本体10のウェイトバランス、さらにいえばボルト穴11a,11bに取付けられたボルト12の状態(ボルト12の重量、重心位置、又はボルト12のウェイトバランス)を考慮に加えたリング本体10のウェイトバランスに基づいて、適宜に設定することが望ましい。図7に示す形態の場合、内周面10aの中心C1に対してボルト穴11a,11bと反対の側(図7の下側)で、かつボルト12のヘッド部12aと反対の側(図7の左側)に、後退部42が形成されている。
【0041】
このように、リング本体10の外周面10bの一部を外周面10bの中心C2側に後退させてなる後退部42で偏心解消部16を構成することによっても、リング本体10のウェイトバランスを調整することができる。言い換えると、上述のようにリング本体10の円周方向の所定位置に後退部42を設けることで、リング本体10の重心CGを内周面10aの中心C1に一致させ、又は近づけることが可能となる。また、この構成をとる場合においても、生産開始後、リング本体10の外周面10bに対する所定の加工を追加するだけで容易に締付け固定用リング41の重心CGをリング本体10の内周面10aの中心C1、ひいては内輪2の内周面の中心C3に一致させることが可能となる。
【0042】
なお、後退部42の形態は原則として任意である。すなわち図7では、一つの平坦面42aで後退部42を構成した場合を例示しているが、複数の平坦面(図示は省略)で後退部42を構成してもよいし、一又は複数の曲面(図示は省略)で後退部42を構成してもよい。あるいは、平坦面と曲面の組み合わせ(図示は省略)で後退部42を構成してもよい。
【0043】
もちろん、上述した後退部42は、先に述べた中心C1,C2間の位置ずれ又は穴22と組み合わせて偏心解消部16を構成することも可能である。
【0044】
また、以上の説明では、内輪2の軸方向延長部7として、軸方向のスリット8を介して複数の爪部9に分割された構造をなすものを例示したが(図1及び図2を参照)、もちろん軸方向延長部7はこれには限られない。外周に締付け固定用リング6を排泄し、内輪2の内周にシャフト部5を挿入した状態で、締付け固定用リング6の縮径動作により軸方向延長部7を介して内輪2がシャフト部5に固定され得る限りにおいて、軸方向延長部7は任意の形態をとり得る。
【符号の説明】
【0045】
1 軸受ユニット
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 シャフト部
6,21,31,41,106 締付け固定用リング
7 軸方向延長部
8 スリット
9 爪部
10,110 リング本体
10a,110a 内周面
10b 外周面
11a,11b,111a,111b ボルト穴
12 ボルト
13 切れ目
14a,14b 円周方向端部
15 切り欠き部
16 偏心解消部
22 穴
42 後退部
42a 平坦面
C1,C11 中心(リング本体の内周面)
C2 中心(リング本体の外周面)
C3 中心(内輪の内周面)
CG,CG1 重心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8