IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098282
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】グラフト共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 257/02 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
C08F257/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001689
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】副島 敬正
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AA17
4J026AA76
4J026BA30
4J026BB01
4J026DA02
4J026DA12
4J026DB02
4J026FA08
4J026FA09
4J026GA01
(57)【要約】
【課題】共重合モノマーとして、スチレン系モノマーとマクロモノマーとを用いて、改善した弾性率を有するグラフト共重合体を提供する。
【解決手段】スチレン系モノマー(a1)に由来する構成単位を含むスチレン系樹脂からなる幹ポリマー(A)と、アクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位を主として含む重合体からなる枝ポリマー(B)と、を含み、
前記アクリル酸エステル(b1)が、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸メチルからなる群より選択される1種以上を含み、
前記枝ポリマー(B)が、第1の末端と第2の末端とを有し、前記第2の末端で前記幹ポリマー(A)にグラフトしている、グラフト共重合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系モノマー(a1)に由来する構成単位を含むスチレン系樹脂からなる幹ポリマー(A)と、アクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位を主として含む重合体からなる枝ポリマー(B)と、を含み、
前記アクリル酸エステル(b1)が、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸メチルからなる群より選択される1種以上を含み、
前記枝ポリマー(B)が、第1の末端と第2の末端とを有し、前記第2の末端で前記幹ポリマー(A)にグラフトしている、グラフト共重合体。
【請求項2】
前記第1の末端も、前記幹ポリマー(A)にグラフトしている、請求項1に記載のグラフト共重合体。
【請求項3】
前記アクリル酸エステル(b1)が、アクリル酸2-メトキシエチルである、請求項1または2に記載のグラフト共重合体。
【請求項4】
前記枝ポリマー(B)の数平均分子量が、1000以上50000以下である、請求項1または2に記載のグラフト共重合体。
【請求項5】
前記枝ポリマー(B)の含有量が、前記幹ポリマー(A)100質量部に対して、0.2質量部以上10質量部以下である、請求項1または2に記載のグラフト共重合体。
【請求項6】
前記グラフト共重合体は、アクリロニトリルに由来する構成単位を含むか、または含まず、
前記グラフト共重合体がアクリロニトリルに由来する構成単位を含む場合、該アクリロニトリルに由来する構成単位の含有量が、前記グラフト共重合体中の全構成単位に対して、7モル%以下である、請求項1または2に記載のグラフト共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂を幹ポリマーとするグラフト共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレンの特性を改善するため、スチレンモノマーと、アクリロニトリル、ブタジエン等の他のモノマーとを共重合して得られるスチレン系樹脂が知られている。スチレン系樹脂の代表的なものとしては、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)等がある。
【0003】
また、ポリスチレンの特性を改善するための他の方法としては、グラフト化技術が知られている。グラフト化技術としては、主体となる樹脂の重合系において、重合性基を有する重合体であるマクロモノマーを共重合させる方法がある。例えば、特許文献1では、スチレン、アクリロニトリル、及び重合性基を有するポリアクリル酸ブチルからなるマクロモノマーとの共重合体が、スチレンとアクリロニトリルとの共重合体と比較して、破断伸びと衝撃強度が向上することが開示されている。また、特許文献2では、特許文献1に開示されたマクロモノマーを用いた共重合体と、発泡剤とを含む発泡性樹脂の発泡体が、圧縮強度を維持しつつ、耐割れ性が高いことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/106899号
【特許文献2】国際公開第2006/106653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者の検討によれば、燃焼時のシアンガスの発生を抑制するために、特許文献1に開示された方法において、アクリロニトリルを用いず、スチレンとマクロモノマーとを共重合した場合、共重合体の弾性率が低下してしまうという問題があることが分かった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、共重合モノマーとして、スチレン系モノマーとマクロモノマーとを用いて、改善した弾性率を有するグラフト共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特定のアクリル酸エステルから作製されたマクロモノマーを用いることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本開示の態様は、以下のグラフト共重合体に関する。
【0009】
[1] スチレン系モノマー(a1)に由来する構成単位を含むスチレン系樹脂からなる幹ポリマー(A)と、アクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位を主として含む重合体からなる枝ポリマー(B)と、を含み、
前記アクリル酸エステル(b1)が、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸メチルからなる群より選択される1種以上を含み、
前記枝ポリマー(B)が、第1の末端と第2の末端とを有し、前記第2の末端で前記幹ポリマー(A)にグラフトしている、グラフト共重合体。
[2] 前記第1の末端も、前記幹ポリマー(A)にグラフトしている、[1]に記載のグラフト共重合体。
[3] 前記アクリル酸エステル(b1)が、アクリル酸2-メトキシエチルである、[1]または[2]に記載のグラフト共重合体。
[4] 前記枝ポリマー(B)の数平均分子量が、1000以上50000以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のグラフト共重合体。
[5] 前記枝ポリマー(B)の含有量が、前記幹ポリマー(A)100質量部に対して、0.2質量部以上10質量部以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のグラフト共重合体。
[6] 前記グラフト共重合体は、アクリロニトリルに由来する構成単位を含むか、または含まず、
前記グラフト共重合体がアクリロニトリルに由来する構成単位を含む場合、該アクリロニトリルに由来する構成単位の含有量が、前記グラフト共重合体中の全構成単位に対して、7モル%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のグラフト共重合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のグラフト共重合体によれば、共重合モノマーとして、スチレン系モノマーとマクロモノマーとを用いて、改善した弾性率を有するグラフト共重合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪グラフト共重合体≫
本実施形態のグラフト共重合体は、スチレン系モノマー(a1)に由来する構成単位を含むスチレン系樹脂からなる幹ポリマー(A)と、後述するアクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位を主として含む重合体からなる枝ポリマー(B)と、を含み、上記枝ポリマー(B)が、後述する態様で、上記幹ポリマー(A)にグラフトしている。
【0012】
本実施形態のグラフト共重合体によれば、幹ポリマー(A)を与えるスチレン系モノマーと、枝ポリマー(B)を与えるマクロモノマーとを用いて、改善した弾性率を有するグラフト共重合体を提供することができる。
【0013】
なお、本明細書において、「弾性率」とは、グラフト共重合体の動的粘弾性測定を100℃及び140℃で実施して得られる貯蔵弾性率を意味する。
100℃での貯蔵弾性率は、グラフト共重合体のガラス転移温度付近の弾性率を表し、強度(硬さ)又は耐熱性の指標となる。以下では、100℃での貯蔵弾性率を、単に「Tg付近の弾性率」とも称する。
140℃での貯蔵弾性率は、グラフト共重合体のゴム状~流動領域の弾性率であって、高分子鎖同士の絡み合い度合いを示し、破断強度又は加工性の指標となる。以下では、140℃での貯蔵弾性率を、単に「流動領域の弾性率」とも称する。
また、100℃及び140℃での貯蔵弾性率を特に区別しない場合、単に「弾性率」とも称する。
【0014】
<枝ポリマー(B)>
(枝ポリマー(B)が幹ポリマー(A)にグラフトしている態様)
枝ポリマー(B)は、第1の末端と第2の末端とを有し、上記第2の末端で上記幹ポリマー(A)にグラフトしている。枝ポリマー(B)は、共重合モノマーとして、後述するマクロモノマーを共重合することにより形成される。
上記第1の末端は、枝ポリマー(B)の中で、上記幹ポリマー(A)から最も遠い位置に存在する。上記第1の末端は、上記幹ポリマー(A)にグラフトしていない自由端であってもよいし、上記幹ポリマー(A)にグラフトしていてもよい。すなわち、本実施形態のグラフト共重合体は、枝ポリマー(B)の片末端のみが幹ポリマー(A)にグラフトしている態様と、枝ポリマー(B)の両末端が幹ポリマー(A)にグラフトしている態様を包含する。
【0015】
(枝ポリマー(B)の片末端のみが幹ポリマー(A)にグラフトしている態様)
本態様のグラフト共重合体は、従来のマクロモノマーを用いて作製されたグラフト共重合体と比較して、改善した弾性率を有する。
【0016】
(枝ポリマー(B)の両末端が幹ポリマー(A)にグラフトしている態様)
本態様のグラフト共重合体は、従来のマクロモノマーを用いて作製されたグラフト共重合体と比較して、大きく改善した弾性率を有する。また、本態様のグラフト共重合体は、ポリスチレンと比較して、Tg付近の弾性率が同程度であり、また、破断強度の指標となる流動領域の弾性率が向上する。
枝ポリマー(B)の第1の末端が幹ポリマー(A)にグラフトしている本態様の場合、当該枝ポリマー(B)の第1の末端が、当該枝ポリマー(B)の第2の末端がグラフトしている当該幹ポリマー(A)にグラフトしている態様(以下、「第1の態様」という。)であってもよいし、当該枝ポリマー(B)の第1の末端が、当該枝ポリマー(B)の第2の末端がグラフトしている当該幹ポリマー(A)とは別の幹ポリマー(A)にグラフトしている態様(以下、「第2の態様」という。)であってもよい。両者のうち、高弾性率の観点から、第2の態様がより好ましい。
【0017】
(アクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位)
アクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位は、枝ポリマー(B)の主鎖を構成する。該構成単位を与えるアクリル酸エステル(b1)は、枝ポリマー(B)の主鎖を作製するために用いられるモノマーである。
アクリル酸エステル(b1)は、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸メチルからなる群より選択される1種以上を含む(以下、これらの成分を「特定のアクリル酸エステル」ともいう。)。特定のアクリル酸エステルのうち、高弾性率の観点から、アクリル酸2-メトキシエチルが好ましい。
【0018】
(他のモノマー(b2)に由来する他の構成単位)
枝ポリマー(B)は、本発明の効果を損なわない限り、アクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位以外の構成単位(以下、「他の構成単位」ともいう。)を含んでいてもよい。他の構成単位を与える他のモノマー(b2)としては、例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸(イソ)ステアリル等が挙げられる。
【0019】
枝ポリマー(B)の構成単位の数は、高弾性率の観点から、好ましくは10個以上400個以下であり、より好ましくは15個以上150個以下である。
【0020】
前述したように、枝ポリマー(B)は、アクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位を主として含む。枝ポリマー(B)中のアクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位の含有量は、枝ポリマー(B)中の全構成単位に対し、高弾性率の観点から、好ましくは60モル%以上100モル%以下であり、より好ましくは80モル%以上100モル%以下であり、さらに好ましくは90モル%以上100モル%以下である。
枝ポリマー(B)が前述した他の構成単位を含む場合、枝ポリマー(B)中のアクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位と、他のモノマー(b2)に由来する他の構成単位のモル含有量の比(b1/b2)は、好ましくは80/20以上98/2以下であり、より好ましくは90/10以上98/2以下である。
【0021】
枝ポリマー(B)の数平均分子量(Mn)は、高弾性率の観点から、好ましくは1000以上50000以下であり、より好ましくは2000以上25000以下である。枝ポリマー(B)は、分子量分布が狭い観点から、質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.1以上1.5以下であることが好ましい。
【0022】
<幹ポリマー(A)>
幹ポリマー(A)は、前述したように、スチレン系モノマー(a1)に由来する構成単位を含むスチレン系樹脂からなる。
【0023】
(スチレン系モノマー(a1)に由来する構成単位)
スチレン系モノマー(a1)に由来する構成単位は、幹ポリマー(A)の主鎖を構成する。スチレン系モノマー(a1)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩が挙げられる。これらの単量体は、単独もしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
スチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル/スチレン/アクリル酸エステル樹脂(ASA樹脂)、メチルメタクリレート/スチレン樹脂(MS樹脂)が挙げられる。これらのうち、高弾性率の観点から、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS樹脂)が好ましい。
【0025】
(他のモノマー(a2)に由来する他の構成単位)
幹ポリマー(A)は、本発明の効果を損なわない限り、スチレン系モノマー(a1)に由来する構成単位以外の構成単位(以下、「他の構成単位」ともいう。)を含んでいてもよい。他の構成単位を与える他のモノマー(a2)としては、例えば、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-メトキシエチル、メタクリル酸メチル等が挙げられる。
【0026】
幹ポリマー(A)中のスチレン系モノマー(a1)に由来する構成単位の含有量は、燃焼時のシアンガスの発生を抑制する観点から、幹ポリマー(A)中の全構成単位に対し、好ましくは80モル%以上100モル%以下であり、より好ましくは90モル%以上100モル%以下であり、さらに好ましくは95モル%以上100モル%以下である。
幹ポリマー(A)が前述した他のモノマー(a2)に由来する他の構成単位を含む場合、幹ポリマー(A)中のスチレン系モノマー(a1)に由来する構成単位と、他のモノマー(a2)に由来する他の構成単位のモル含有量の比(a1/a2)は、好ましくは90/10以上98/2以下であり、より好ましくは95/5以上98/2以下である。
【0027】
前述したように、グラフト共重合体は、幹ポリマー(A)中に、アクリロニトリルに由来する構成単位を含んでいてもよく、または含んでいなくてもよい。
グラフト共重合体がアクリロニトリルに由来する構成単位を含む場合、該アクリロニトリルに由来する構成単位の含有量は、燃焼時のシアンガスの発生を抑制する観点から、グラフト共重合体中の全構成単位に対して、7モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましい。
【0028】
幹ポリマー(A)の構成単位の数は、高弾性率の観点から、好ましくは100個以上5000個以下であり、より好ましくは500個以上2000個以下である。
【0029】
枝ポリマー(B)の含有量は、高弾性率の観点から、幹ポリマー(A)100質量部に対して、0.2質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1質量部以上9質量部以下であることがより好ましい。
【0030】
グラフト共重合体の質量平均分子量(Mw)は、高弾性率の観点から、好ましくは10000以上500000以下であり、より好ましくは15000以上300000以下である。
【0031】
<グラフト共重合体の製造方法>
グラフト共重合体は、例えば、上記幹ポリマー(A)を構成する構成単位を与えるスチレン系モノマー(a1)、及び必要に応じて他のモノマー(a2)、並びに、上記枝ポリマー(B)を与えるマクロモノマーを共重合させることによって製造することができる。
【0032】
マクロモノマーとは、重合体の末端に反応性官能基を有するオリゴマー分子を意味する。上記枝ポリマー(B)を与えるマクロモノマーは、上記アクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位、及び必要に応じて上記その他のモノマー(b2)に由来する他の構成単位を含む共重合体の末端に、反応性官能基として、例えば、アリル基、ビニルシリル基、ビニルエーテル基、ジシクロペンタジエニル基、及び下記一般式(1)で表される重合性の炭素-炭素二重結合を有する基からなる群から選ばれる重合性の炭素-炭素二重結合を有する基を、少なくとも1分子あたり1個有することが好ましい。該マクロモノマーは通常ラジカル重合によって製造することができる。特に、上記アクリル酸エステル(b1)や、必要に応じて上記その他のモノマー(b2)との反応性が良好なことから、上記マクロモノマーにおいて、反応性官能基は下記一般式(1)で表される重合性の炭素-炭素二重結合を有することが好ましい。
【0033】
CH=C(R)-C(O)O- (1)
一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1以上20以下の有機基を表す。Rの具体例としては、例えば、好ましくは-H、-CH、-CHCH、-(CHCH(nは2以上19以下の整数を表す)、-C、-CHOH、及び-CNからなる群から選ばれる基であり、より好ましくは-H、及び-CHからなる群から選ばれる基である。
【0034】
上記マクロモノマーの主鎖である、上記アクリル酸エステル(b1)に由来する構成単位、及び必要に応じて上記その他のモノマー(b2)に由来する他の構成単位を含む(共)重合体は、ラジカル重合によって製造される。ラジカル重合法は、重合開始剤としてアゾ系化合物、過酸化物等を使用して、特定の官能基を有するモノマーとビニル系モノマーとを単に共重合させる「一般的なラジカル重合法」と、末端等の制御された位置に特定の官能基を導入することが可能な「制御ラジカル重合法」に分類できる。
【0035】
「一般的なラジカル重合法」は、特定の官能基を有するモノマーは確率的にしか重合体中に導入されないので、官能化率の高い重合体を得ようとした場合には、このモノマーをかなり大量に使用する必要がある。またフリーラジカル重合であるため、分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0036】
「制御ラジカル重合法」は、更に、特定の官能基を有する連鎖移動剤を使用して重合を行うことにより末端に官能基を有するビニル系重合体が得られる「連鎖移動剤法」と、重合生長末端が停止反応等を起こさずに生長することによりほぼ設計どおりの分子量の重合体が得られる「リビングラジカル重合法」とに分類することができる。
【0037】
「連鎖移動剤法」は、官能化率の高い重合体を得ることが可能であるが、開始剤に対して特定の官能基を有する連鎖移動剤を必要とする。また上記の「一般的なラジカル重合法」と同様、フリーラジカル重合であるため分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0038】
これらの重合法とは異なり、「リビングラジカル重合法」は、本件出願人自身の発明に係る国際公開WO99/65963号公報に記載されるように、重合速度が大きく、ラジカル同士のカップリング等による停止反応が起こりやすいため制御の難しいとされるラジカル重合でありながら、停止反応が起こりにくく、分子量分布の狭い、例えば、質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.1~1.5程度の重合体が得られるとともに、モノマーと開始剤の仕込み比によって分子量は自由にコントロールすることができる。
【0039】
従って、「リビングラジカル重合法」は、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体を得ることができる上に、特定の官能基を有するモノマーを重合体のほぼ任意の位置に導入することができるため、より好ましい重合法である。
【0040】
「リビングラジカル重合法」の中でも、有機ハロゲン化物あるいはハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤、遷移金属錯体を触媒としてビニル系モノマーを重合する「原子移動ラジカル重合法」(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)は、上記の「リビングラジカル重合法」の特徴に加えて、官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を末端に有し、開始剤や触媒の設計の自由度が大きいことから、特定の官能基を有する上記マクロモノマーの製造方法としては更に好ましい。この原子移動ラジカル重合法としては例えばMatyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁等が挙げられる。
【0041】
上記マクロモノマーの製法として、これらのうちどの方法を使用するかは特に制約はないが、通常、制御ラジカル重合法が利用され、更に制御の容易さ等からリビングラジカル重合法が好ましく用いられ、特に原子移動ラジカル重合法が最も好ましい。
【0042】
グラフト共重合体用のマクロモノマーを原子移動ラジカル重合法により製造する場合、例えば、アクリル酸エステル(b1)の単独重合体、又はアクリル酸エステル(b1)と必要に応じてその他のモノマー(b2)とを用いたランダム共重合体を作製し、次いで、上記単独重合体又は共重合体の末端に、反応性官能基を導入することにより製造することができる。
【0043】
グラフト共重合体の製造方法としては、重合の簡便さ及び重合発熱の緩和の観点から、溶液重合が好ましい。
【0044】
<用途>
本発明のグラフト共重合体は、様々な成形法により、所望の形状に賦形することができる。その成形体は、衝撃強度が高い等の特性を有する。成形法は制限されないが、具体例としては、カレンダー成形、射出成型、溶融紡糸、ブロー成型、押出成形、熱成形、発泡成形、等が挙げられる。
本発明のグラフト共重合体の用途は、特に限定されないが、既存の熱可塑性樹脂と同等の用途に使用できる。好ましくは、射出成型品、シート、フィルム、中空成形体、パイプ、角棒、異形品、熱成形体、発泡体、繊維として利用される。
本発明のグラフト共重合体およびそのコンパウンドは、軟質のものから硬質のものまで存在しうる。
【実施例0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0046】
まず、各種測定方法及び評価方法を説明する。
(1)質量平均分子量及び数平均分子量
ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製の「HLC-8320GPC」)を用いて測定・算出した。
(2)貯蔵弾性率G’
動的粘弾性装置(TA Instruments社製の「ARES-G2」)を用いて、各実施例及び比較例で得られたグラフト共重合体について、100℃及び140℃で、角周波数1rad/sでの貯蔵弾性率G’を測定した。測定条件は以下のとおりである。
・モード:ねじりモード
・プレート径:8mmφ
・歪み:0.01%(25℃)
【0047】
[マクロモノマーの作製]
(製造例1)
反応容器に、アクリル酸2―メトキシエチル40質量部、メタノール(MeOH)12質量部、2,5-ジブロモアジピン酸エチル1.73質量部、及びトリエチルアミン0.05質量部を仕込み、仕込んだ原料を窒素雰囲気下40℃で攪拌した。続いて、臭化銅(II)(CuBr2)0.0107質量部をメタノール8質量部で溶解させ、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン(Me6TREN)0.0111質量部に加えた後、反応系に添加し、反応系中の原料を混合した。さらに、アスコルビン酸0.042質量部及びトリエチルアミン0.049質量部をメタノール8.4質量部で調整し、得られたアスコルビン酸溶液を反応系に滴下し、重合を開始とした。重合途中は、反応溶液の温度が40~60℃となるように、アスコルビン酸溶液の滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から40分後、反応容器内のモノマー消費率が50%(全モノマー消費率20%)に達した時に、アクリル酸2-メトキシエチル60質量部を90分かけて反応系に滴下添加した。その後も反応容器の温度が40℃~60℃となるようにアスコルビン酸溶液の反応系への滴下速度を調整しながら反応溶液の過熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から210分後、反応容器内のモノマー消費率が93%になり、アスコルビン酸の滴下を止めて反応終了とした。得られた反応物はトルエンで希釈し、活性アルミナカラムを通したのち、揮発分を減圧留去することにより、両末端Br基ポリマー1を得た。
【0048】
フラスコに、両末端Br基ポリマー1を100質量部仕込み、ジメチルアセトアミド100質量部で希釈し、そこへ、アクリル酸カリウム3.0質量部を加えて、70℃で3時間加熱攪拌を行った。その後、反応混合物よりジメチルアセトアミドを留去し、反応混合物をトルエンに溶解させ、活性アルミナカラムを通したのち、トルエンを留去することにより、両末端アクリロイル基マクロモノマー1を得た。得られた両末端アクリロイル基マクロモノマー1の数平均分子量は20000であり、分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)は1.2であった。
【0049】
(製造例2)
反応容器に、アクリル酸2-メトキシエチル40質量部、メタノール(MeOH)12質量部、2-ブロモ酪酸エチル3.33質量部、及びトリエチルアミン0.18質量部を仕込み、仕込んだ原料を窒素雰囲気下40℃で攪拌した。続いて、臭化銅(II)(CuBr2)0.0191質量部をメタノール8質量部で溶解させ、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン(Me6TREN)0.0197質量部に加えた後、反応系に添加し、反応系中の原料を混合した。さらに、アスコルビン酸0.015質量部及びトリエチルアミン0.017質量部をメタノール3.0質量部で調整し、得られたアスコルビン酸溶液を反応系に滴下し、重合を開始とした。重合途中は、反応溶液の温度が40~60℃となるように、アスコルビン酸溶液の滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から60分後、反応容器内のモノマー消費率が37%(全モノマー消費率15%)に達した時に、アクリル酸2―メトキシエチル60質量部を60分かけて反応系に滴下添加した。その後も反応容器の温度が40℃~60℃となるようにアスコルビン酸溶液の反応系への滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から310分後、反応容器内のモノマー消費率が95%になり、アスコルビン酸の滴下を止めて反応終了とした。得られた反応物はトルエンで希釈し、活性アルミナカラムを通したのち、揮発分を減圧留去することにより、片末端Br基ポリマー2を得た。
得られた片末端Br基ポリマー2は、製造例1と同様にして、Br基をアクリロイル基に変換し、片末端アクリロイル基マクロモノマー2を得た。得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー2の数平均分子量は6000であり、分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)は1.2であった。
【0050】
(製造例3)
反応容器に、アクリル酸ブチル40質量部、メタノール(MeOH)12質量部、2,5-ジブロモアジピン酸エチル1.73質量部、及びトリエチルアミン0.05質量部を仕込み、仕込んだ原料を窒素雰囲気下40℃で攪拌した。続いて、臭化銅(II)(CuBr2)0.0107質量部をメタノール8質量部で溶解させ、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン(Me6TREN)0.0111質量部に加えた後、反応系に添加し、反応系中の原料を混合した。さらに、アスコルビン酸0.042質量部及びトリエチルアミン0.049質量部をメタノール8.4質量部で調整し、得られたアスコルビン酸溶液を反応系に滴下し、重合を開始とした。重合途中は、反応溶液の温度が40~60℃となるように、アスコルビン酸溶液の滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から60分後、反応容器内のモノマー消費率が60%(全モノマー消費率24%)に達した時に、アクリル酸ブチル60質量部を90分かけて反応系に滴下添加した。その後も反応容器の温度が40℃~60℃となるようにアスコルビン酸溶液の反応系への滴下速度を調整しながら反応溶液の過熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から240分後、反応容器内のモノマー消費率が94%になり、アスコルビン酸の滴下を止めて反応終了とした。得られた反応物はトルエンで希釈し、活性アルミナカラムを通したのち、揮発分を減圧留去することにより、両末端Br基ポリマー3を得た。
得られた両末端Br基ポリマー3は、製造例1と同様にして、Br基をアクリロイル基に変換し、両末端アクリロイル基マクロモノマー3を得た。得られた両末端アクリロイル基マクロモノマー3の数平均分子量は20000であり、分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)は1.2であった。
【0051】
(製造例4)
反応容器に、アクリル酸ブチル40質量部、メタノール(MeOH)12質量部、2-ブロモ酪酸エチル3.33質量部、及びトリエチルアミン0.18質量部を仕込み、仕込んだ原料を窒素雰囲気下40℃で攪拌した。続いて、臭化銅(II)(CuBr2)0.0191質量部をメタノール8質量部で溶解させ、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン(Me6TREN)0.0197質量部に加えた後、反応系に添加し、反応系中の原料を混合した。さらに、アスコルビン酸0.015質量部及びトリエチルアミン0.017質量部をメタノール3.0質量部で調整し、得られたアスコルビン酸溶液を反応系に滴下し、重合を開始とした。重合途中は、反応溶液の温度が40~60℃となるように、アスコルビン酸溶液の滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から60分後、反応容器内のモノマー消費率が40%(全モノマー消費率16%)に達した時に、アクリル酸ブチル60質量部を60分かけて反応系に滴下添加した。その後も反応容器の温度が40℃~60℃となるようにアスコルビン酸溶液の反応系への滴下速度を調整しながら反応溶液の加熱及び攪拌を続けた。アスコルビン酸溶液の滴下開始から330分後、反応容器内のモノマー消費率が96%になり、アスコルビン酸の滴下を止めて反応終了とした。得られた反応物はトルエンで希釈し、活性アルミナカラムを通したのち、揮発分を減圧留去することにより、片末端Br基ポリマー4を得た。
得られた片末端Br基ポリマー4は、製造例1と同様にして、Br基をアクリロイル基に変換し、片末端アクリロイル基マクロモノマー4を得た。得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー4の数平均分子量は6000であり、分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)は1.2であった。
【0052】
[グラフト共重合体の作製]
(実施例1)
重合反応容器内に、スチレン100質量部、製造例1で得られた両末端アクリロイル基マクロモノマー1を5質量部、トルエンを50質量部、2,2‘-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.92質量部を仕込んだ後、15分間窒素雰囲気下で攪拌した。その後、重合反応容器を70℃に上昇させて重合を開始した。昇温開始から6時間後まで溶液重合を行った。得られた重合物を、熱風乾燥機にて60℃で3時間乾燥し、さらに真空乾燥機にて170℃で6時間乾燥して、グラフト共重合体1を得た。得られたグラフト共重合体1は、スチレンに由来する構成単位が94.7質量%、両末端マクロモノマーに由来する構成単位が5.3質量%で、質量平均分子量は約25200であった。
【0053】
(実施例2)
製造例1で得られた両末端アクリロイル基マクロモノマー1に代えて製造例2で得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー2を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてグラフト共重合体2を得た。得られたグラフト共重合体2は、スチレンに由来する構成単位が94.6質量%、両末端マクロモノマーに由来する構成単位が5.4質量%で、質量平均分子量は約29300であった。
【0054】
(比較例1)
両末端アクリロイル基マクロモノマー1を用いないこと以外は、実施例1と同様にして、スチレン重合体を得た。得られたスチレン重合体は、スチレンに由来する構成単位が100質量%、質量平均分子量は約22900であった。
【0055】
(比較例2)
製造例1で得られた両末端アクリロイル基マクロモノマー1に代えて製造例3で得られた両末端アクリロイル基マクロモノマー3を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてグラフト共重合体3を得た。得られたグラフト共重合体3は、スチレンに由来する構成単位が94.4質量%、両末端マクロモノマーに由来する構成単位が5.6質量%で、質量平均分子量は約26000であった。
【0056】
(比較例3)
製造例1で得られた両末端アクリロイル基マクロモノマー1に代えて製造例4で得られた片末端アクリロイル基マクロモノマー4を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてグラフト共重合体4を得た。得られたグラフト共重合体4は、スチレンに由来する構成単位が94.3質量%、両末端マクロモノマーに由来する構成単位が5.7質量%で、質量平均分子量は約24000であった。
【0057】
実施例1、2、及び比較例1、2、3で得られたグラフト共重合体の貯蔵弾性率を上述したとおりに測定し、その結果を下記表1に示した。なお、表1に記載された「MEA」はアクリル酸2-メトキシエチルを、「BA」はアクリル酸ブチルを意味する。
【0058】
【表1】
【0059】
表1の結果から分かるように、従来のアクリル酸ブチルを用いて作製したマクロモノマーを使用した比較例2、3のグラフト共重合体では、比較例1のポリスチレンに比べて、大きく貯蔵弾性率が低下した。一方、アクリル酸2-メトキシエチルを用いて作製した一官能のマクロモノマーを使用した実施例2においては、比較例2、3と比べて大きく貯蔵弾性率が向上した。さらに、アクリル酸2-メトキシエチルを用いて作製した二官能のマクロモノマーを用いた実施例1では、さらに貯蔵弾性率が向上し、100℃においては比較例1と同じ程度であるが、140℃での貯蔵弾性率が大きく向上した。
これらの実験結果から、アクリル酸ブチルよりも極性の高いアクリル酸2-メトキシエチルを使用することで、貯蔵弾性率の低下が抑制されることが分かった。さらに、二官能化にすることで、ポリスチレンのガラス転移温度付近の貯蔵弾性率が低下しないだけでなく、流動領域の貯蔵弾性率が向上したことから、ポリスチレンのガラス転移温度以下の実使用温度での強度を変えることなく、絡み合い構造を形成したことにより、破断強度向上の特性を付与できることが可能となった。