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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098293
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240716BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240716BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240716BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240716BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 657D
H01L29/78 655D
H01L29/78 658F
H01L29/78 652T
H01L29/91 C
H01L29/91 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001704
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂根 宏樹
(57)【要約】
【課題】 バリア領域と接続部を有するスイッチング素子において、ゲート電位を上昇させるときの漏れ電流を抑制する。
【解決手段】 半導体装置であって、トレンチ内にゲート電極を有する。半導体基板が、前記ゲート絶縁膜に接する第1n型領域と、前記第1n型領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するp型の上部ボディ領域と、前記上部ボディ領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するn型のバリア領域と、前記バリア領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するp型の下部ボディ領域と、前記バリア領域と前記上部電極とを電気的に接続する接続部と、前記下部ボディ領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するn型のドリフト領域と、前記下部電極に接する第2n型領域を有する。前記ゲート絶縁膜の下側部分が、前記ゲート絶縁膜の上側部分よりも厚い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置であって、
上面にトレンチ(14)が設けられた半導体基板(12)と、
前記トレンチの内面を覆うゲート絶縁膜(16)と、
前記トレンチ内に配置されており、前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されたゲート電極(18)と、
前記半導体基板の前記上面に接する上部電極(22)と、
前記半導体基板の下面に接する下部電極(24)、
を有し、
前記半導体基板が、
前記上部電極に接しており、前記トレンチの側面で前記ゲート絶縁膜に接する第1n型領域(32)と、
前記第1n型領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するp型の上部ボディ領域(34)と、
前記上部ボディ領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するn型のバリア領域(36)と、
前記バリア領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接しており、前記バリア領域によって前記上部ボディ領域から分離されているp型の下部ボディ領域(38)と、
前記バリア領域と前記上部電極とを電気的に接続する接続部(40)と、
前記下部ボディ領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するn型のドリフト領域(42)と、
前記ドリフト領域よりも高いn型不純物濃度を有し、前記ドリフト領域の下側に配置されており、前記下部電極に接する第2n型領域(46、144)、
を有し、
前記ゲート絶縁膜のうちの前記下部ボディ領域に接する範囲内の部分である下側部分(16b)が、前記ゲート絶縁膜のうちの前記上部ボディ領域に接する範囲内の部分である上側部分(16a)よりも厚い、
半導体装置。
【請求項2】
前記ゲート絶縁膜が、前記上側部分から前記下側部分に向かうにしたがって厚さが増加する厚さ変化部(16c)を有しており、
前記厚さ変化部が、前記バリア領域に接する範囲内に配置されている、
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記下部ボディ領域のp型不純物濃度が、前記上部ボディ領域のp型不純物濃度よりも低い、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体基板が、前記ドリフト領域の下側に配置されており、前記下部電極に接するp型のコレクタ領域(44)を有する請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記接続部が、n型半導体により構成されており、前記上部電極にショットキー接触している、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記接続部と前記上部電極の間のショットキー障壁が0.7eV以下である、請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記上側部分が前記下側部分とは異なる材料によって構成されている、請求項1または2に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体装置に関する。
【0002】
特許文献1に開示の半導体装置は、IGBT(insulated gate bipolar transistor)とダイオードを有している。IGBT領域とダイオード領域に跨って、n型のドリフト領域が分布している。IGBT領域内では、ドリフト領域の上部にp型のボディ領域が設けられている。ボディ領域は、n型のバリア領域によって上部ボディ領域と下部ボディ領域に分離されている。バリア領域は、接続部(より具体的には、n型の接続領域)によって上部電極に電気的に接続されている。ダイオード領域内では、ドリフト領域の上部にp型のアノード領域が設けられており、ドリフト領域の下部にn型のカソード領域が設けられている。アノード領域は上部電極に接しており、カソード領域は下部電極に接している。ダイオードがオンすると、アノード領域からドリフト領域を介してカソード領域にホールが流れる。このとき、IGBT領域内のボディ領域からも、ドリフトを介してカソード領域にホールが流れる。このようにボディ領域からカソード領域にホールが注入されると、その後にダイオードが逆回復動作をするときに損失が生じやすい。特許文献1の半導体装置では、バリア領域と接続部を設けることで、ダイオードがオンしているときにIGBT領域内のボディ領域からドリフトへホールが流れることを抑制する。これによって、逆回復損失が抑制される。なお、特許文献1では、IGBTとダイオードを有する半導体装置においてバリア領域と接続部を設けているが、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field effect transistor)にバリア領域と接続部を設けることもできる。MOSFETにバリア領域と接続部を設けると、MOSFETのボディダイオードの逆回復動作時における損失を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO2015/029116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バリア領域と接続部を有するスイッチング素子では、ゲート電位を上昇させるときに、ゲート電位がゲート閾値に達していないにもかかわらず微小な漏れ電流が発生する場合がある。本明細書では、ゲート電位を上昇させるときの漏れ電流を抑制する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置は、半導体基板と、ゲート絶縁膜と、ゲート電極と、上部電極と、下部電極を有する。前記半導体基板の上面に、トレンチが設けられている。前記ゲート絶縁膜は、前記トレンチの内面を覆っている。前記ゲート電極は、前記トレンチ内に配置されており、前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されている。前記上部電極は、前記半導体基板の前記上面に接している。前記下部電極は、前記半導体基板の下面に接している。前記半導体基板が、第1n型領域と、上部ボディ領域と、バリア領域と、下部ボディ領域と、接続部と、ドリフト領域と、第2n型領域を有している。前記第1n型領域は、前記上部電極に接しており、前記トレンチの側面で前記ゲート絶縁膜に接している。前記上部ボディ領域は、前記第1n型領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するp型領域である。前記バリア領域は、前記上部ボディ領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するn型領域である。前記下部ボディ領域は、前記バリア領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接しており、前記バリア領域によって前記上部ボディ領域から分離されているp型領域である。前記接続部は、前記バリア領域と前記上部電極とを電気的に接続している。前記ドリフト領域は、前記下部ボディ領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するn型領域である。前記第2n型領域は、前記ドリフト領域よりも高いn型不純物濃度を有し、前記ドリフト領域の下側に配置されており、前記下部電極に接している。前記ゲート絶縁膜のうちの前記下部ボディ領域に接する範囲内の部分である下側部分が、前記ゲート絶縁膜のうちの前記上部ボディ領域に接する範囲内の部分である上側部分よりも厚い。
【0006】
なお、上記半導体装置は、IGBTとダイオードを備える半導体装置であってもよいし、MOSFETであってもよい。IGBTとダイオードを備える半導体装置においては、前記第1n型領域はIGBTのエミッタ領域であり、前記第2n型領域はダイオードのカソード領域である。MOSFETにおいては、前記第1n型領域はソース領域であり、前記第2n型領域はドレイン領域である。また、上記接続部は、バリア領域から上部電極まで伸びるn型の接続領域であってもよいし、バリア領域から上部電極まで伸びる導電性部材であってもよい。
【0007】
上述したように、バリア領域と接続部を有する従来のスイッチング素子では、ゲート電位を上昇させるときに漏れ電流が発生する。この漏れ電流は、下部ボディ領域に形成されるチャネルと接続部を介して流れていることが判明した。これに対し、本明細書が開示する半導体装置では、ゲート絶縁膜のうちの下部ボディ領域に接する範囲内の部分である下側部分が、ゲート絶縁膜のうちの上部ボディ領域に接する範囲内の部分である上側部分よりも厚い。この構成によれば、上部ボディ領域において下部ボディ領域に比べてチャネルが形成され易くなる。したがって、下部ボディ領域にチャネルが形成されるときに、上部ボディ領域のチャネルと下部ボディ領域のチャネルを通って電流が流れやすくなり、接続部と下部ボディ領域のチャネルを通って流れる漏れ電流を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の半導体装置10の断面図。
図2】実施例の半導体装置10のトレンチ周辺の拡大断面図。
図3】比較例の半導体装置のトレンチ周辺の拡大断面図。
図4】比較例の半導体装置の電流Icの立ち上がり特性を示すグラフ。
図5】バリア領域と接続部を有さないIGBTの正常品と異常品についての電流Icの立ち上がり特性を示すグラフ。
図6】ゲート絶縁膜の形成方法の説明図。
図7】変形例1の半導体装置のトレンチ周辺の拡大断面図。
図8】変形例2の半導体装置の断面図。
図9】変形例3の半導体装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記ゲート絶縁膜が、前記上側部分から前記下側部分に向かうにしたがって厚さが増加する厚さ変化部を有していてもよい。この場合、前記厚さ変化部が、前記バリア領域に接する範囲内に配置されていてもよい。
【0010】
厚さ変化部が上部ボディ領域や下部ボディ領域の範囲内に存在していると、半導体装置の量産時にゲート閾値のばらつきが大きくなる。上記のように、厚さ変化部がバリア領域に接する範囲内に配置されていると、ゲート閾値のばらつきを抑制できる。
【0011】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記下部ボディ領域のp型不純物濃度が、前記上部ボディ領域のp型不純物濃度よりも低くてもよい。
【0012】
半導体装置のオフ状態においてトレンチの周辺における電界集中を抑制するために、下部ボディ領域のp型不純物濃度を上部ボディ領域のp型不純物濃度よりも低くすることができる。この場合、下部ボディ領域にチャネルが形成され易くなり、漏れ電流の問題がより顕著に生じ易い。この場合であっても、上記のように、ゲート絶縁膜において下側部分を上側部分よりも厚くすることで、漏れ電流を抑制できる。
【0013】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記半導体基板が、前記ドリフト領域の下側に配置されており、前記下部電極に接するp型のコレクタ領域を有していてもよい。
【0014】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記接続部が、n型半導体により構成されており、前記上部電極にショットキー接触していてもよい。
【0015】
この構成によれば、ショットキー障壁によって漏れ電流をさらに抑制することができる。
【0016】
前記接続部と前記上部電極の間のショットキー障壁が0.7eV以下であってもよい。
【0017】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記上側部分が前記下側部分とは異なる材料によって構成されていてもよい。
【0018】
図1に示す実施例の半導体装置10は、シリコンにより構成された半導体基板12を有している。なお、半導体基板12は、他の半導体材料(例えば、SiC、GaN等)により構成されていてもよい。半導体基板12を上から見たときに、半導体基板12には、IGBT領域30とダイオード領域50が設けられている。IGBT領域30にIGBTが設けられており、ダイオード領域50にダイオードが設けられている。IGBT領域30とダイオード領域50は隣接している。半導体基板12の上面12aには、複数のトレンチ14が設けられている。各トレンチ14は、上面12aにおいて互いに平行に直線状に伸びている。各トレンチ14は、間隔を空けて配置されている。IGBT領域30とダイオード領域50のそれぞれに、複数のトレンチ14が設けられている。各トレンチ14の内面は、ゲート絶縁膜16によって覆われている。ゲート絶縁膜16は、酸化シリコンにより構成されている。IGBT領域30内の各トレンチ14内にゲート電極18が配置されている。各ゲート電極18は、ゲート絶縁膜16によって半導体基板12から絶縁されている。ダイオード領域50内の各トレンチ14内に電極19が配置されている。電極19は、ゲート電極18に接続されている電極であってもよいし、ゲート電極18から独立した電位を持つダミー電極であってもよい。電極19は、ゲート絶縁膜16によって半導体基板12から絶縁されている。ゲート電極18及び電極19の上面は、層間絶縁膜20によって覆われている。半導体基板12の上に、上部電極22が配置されている。上部電極22は、IGBT領域30内及びダイオード領域50内で半導体基板12の上面12aに接している。上部電極22は、層間絶縁膜20によってゲート電極18及び電極19から絶縁されている。半導体基板12の下に、下部電極24が配置されている。下部電極24は、IGBT領域30内及びダイオード領域50内で半導体基板12の下面12bに接している。
【0019】
半導体基板12には、複数のエミッタ領域32、上部ボディ領域34、バリア領域36、下部ボディ領域38、複数の接続領域40、ドリフト領域42、コレクタ領域44、及び、カソード領域46が設けられている。
【0020】
複数のエミッタ領域32は、n型領域であり、IGBT領域30内に配置されている。各エミッタ領域32は、2つのトレンチ14に挟まれた範囲(以下、トレンチ間範囲という)に配置されている。各エミッタ領域32は、半導体基板12の上面12aを含む位置に配置されており、上部電極22にオーミック接触している。各エミッタ領域32は、トレンチ14の側面の上端部においてゲート絶縁膜16に接している。なお、図1ではIGBT領域30にエミッタ領域32が配置されている一方でダイオード領域50にエミッタ領域32が配置されていないが、IGBT領域30とダイオード領域50の両方にエミッタ領域32が配置されていてもよい。
【0021】
上部ボディ領域34は、p型領域であり、IGBT領域30とダイオード領域50に跨って分布している。上部ボディ領域34は、複数のコンタクト領域34aと低濃度領域34bを有している。低濃度領域34bは、各コンタクト領域34aよりも低いp型不純物濃度を有している。各コンタクト領域34aは、トレンチ間範囲内に配置されている。各コンタクト領域34aは、半導体基板12の上面12aを含む位置に配置されており、上部電極22にオーミック接触している。低濃度領域34bは、トレンチ間範囲内に配置されている。低濃度領域34bは、コンタクト領域34aに対して下側から接している。低濃度領域34bは、コンタクト領域34aを介して上部電極22に電気的に接続されている。IGBT領域30内では、低濃度領域34bは、エミッタ領域32に対して下側から接している。低濃度領域34bは、各トレンチ14の側面においてゲート絶縁膜16に接している。IGBT領域30内では、低濃度領域34bは、エミッタ領域32の下側でゲート絶縁膜16に接している。
【0022】
バリア領域36は、n型領域であり、IGBT領域30とダイオード領域50に跨って分布している。バリア領域36は、トレンチ間範囲内に配置されている。バリア領域36は、低濃度領域34bの下側に配置されている。バリア領域36は、各トレンチ14の側面においてゲート絶縁膜16に接している。バリア領域36は、低濃度領域34bの下側でゲート絶縁膜16に接している。
【0023】
下部ボディ領域38は、p型領域であり、IGBT領域30とダイオード領域50に跨って分布している。下部ボディ領域38は、トレンチ間範囲内に配置されている。下部ボディ領域38は、バリア領域36の下側に配置されており、バリア領域36によって上部ボディ領域34から分離されている。下部ボディ領域38は、各トレンチ14の側面においてゲート絶縁膜16に接している。下部ボディ領域38は、バリア領域36の下側でゲート絶縁膜16に接している。下部ボディ領域38は、上部ボディ領域34の低濃度領域34bよりも低いp型不純物濃度を有している。
【0024】
複数の接続領域40は、n型領域である。IGBT領域30とダイオード領域50のそれぞれに、複数の接続領域40が配置されている。各接続領域40は、トレンチ間範囲内に配置されている。各接続領域40は、上部ボディ領域34を貫通してバリア領域36から上部電極22まで伸びている。各接続領域40は、上部電極22に対してショットキー接触している。各接続領域40と上部電極22との界面におけるショットキー障壁は0.7eV以下である。
【0025】
ドリフト領域42は、エミッタ領域32よりも低いn型不純物濃度を有しているn型領域である。ドリフト領域42は、IGBT領域30とダイオード領域50に跨って分布している。ドリフト領域42は、複数のトレンチ14の下部に跨って分布している。ドリフト領域42の上端は、各トレンチ間範囲内まで分布している。ドリフト領域42は、各トレンチ間範囲内において、下部ボディ領域38に対して下側から接している。ドリフト領域42は、各トレンチ14の側面及び底面においてゲート絶縁膜16に接している。ドリフト領域42は、下部ボディ領域38の下側でゲート絶縁膜16に接している。
【0026】
コレクタ領域44は、p型領域であり、IGBT領域30内に配置されている。コレクタ領域44は、ドリフト領域42に対して下側から接している。コレクタ領域44は、下部電極24にオーミック接触している。
【0027】
カソード領域46は、ドリフト領域42よりも高いn型不純物濃度を有するn型領域である。カソード領域46は、ダイオード領域50内に配置されている。カソード領域46は、ドリフト領域42に対して下側から接している。カソード領域46は、下部電極24にオーミック接触している。
【0028】
ダイオード領域50内では、上部ボディ領域34及び下部ボディ領域38がp型のアノード領域として機能する。ダイオード領域50内には、上部ボディ領域34、下部ボディ領域38、ドリフト領域42及びカソード領域46によって、PINダイオードが形成されている。IGBT領域30内には、エミッタ領域32、上部ボディ領域34、下部ボディ領域38、ドリフト領域42、コレクタ領域44、ゲート電極18及びゲート絶縁膜16によってIGBTが形成されている。
【0029】
図2は、トレンチ14の拡大断面図である。図2に示すように、トレンチ14の下部では、トレンチ14の上部よりも、ゲート絶縁膜16が厚い。ゲート絶縁膜16のうちの上部ボディ領域34に接する部分(以下、上側部分16aという)では、その全体においてゲート絶縁膜16が薄い。ゲート絶縁膜16の厚みは、バリア領域36に接する範囲内で段差状に増加する。ゲート絶縁膜16のうちの下部ボディ領域38に接する部分(以下、下側部分16bという)では、その全体においてゲート絶縁膜16が厚い。言い換えると、下側部分16bは、上側部分16aよりも厚い。
【0030】
次に、半導体装置10の動作について説明する。上部電極22に下部電極24よりも高い電位が印加されると、ダイオードがオンする。すなわち、カソード領域46からドリフト領域42、下部ボディ領域38及びバリア領域36を介して上部ボディ領域34へ電子が流れる。また、図1の矢印100に示すように、上部ボディ領域34からバリア領域36、下部ボディ領域38及びドリフト領域42を介してカソード領域46へホールが流れる。また、IGBT領域30とダイオード領域50の境界部では、図1の矢印102に示すように、IGBT領域30内の上部ボディ領域34からダイオード領域50内のカソード領域46へホールが流れる。実施例では、ボディ領域内にバリア領域36が設けられており、バリア領域36が接続領域40によって上部電極22に電気的に接続されているので、矢印100、102に示すようなホールの流れが抑制される。
【0031】
その後、上部電極22の電位が下部電極24の電位よりも低い電位まで引き下げられると、ホールと電子の流れが停止する。また、同時に、ドリフト領域42内に存在するホールが、下部ボディ領域38、バリア領域36及び上部ボディ領域34を介して上部電極22へ排出される。このようにホールが流れることで、ダイオードに瞬間的に逆電流(いわゆる、逆回復電流)が流れる。また、IGBT領域30とダイオード領域50の境界部では、図1の矢印102の逆向きに逆回復電流が流れる。上述したように、実施例では、オン状態においてドリフト領域42に流入するホールの流れが抑制される。したがって、ダイオードがオフするときに生じる逆回復電流が抑制される。したがって、逆回復電流による損失の発生が抑制される。また、IGBT領域30とダイオード領域50の境界部に流れる逆回復電流が抑制されるので、境界部周辺においてボディ領域の電位が安定する。これにより、半導体装置10の動作が安定する。
【0032】
上部電極22の電位が下部電極24の電位よりも低くなると、下部ボディ領域38とドリフト領域42の界面のpn接合からドリフト領域42と下部ボディ領域38に空乏層が広がる。ドリフト領域42のほぼ全体が空乏化される。また、上述したように、下部ボディ領域38のp型不純物濃度は上部ボディ領域34の低濃度領域34bのp型不純物濃度よりも低い。したがって、下部ボディ領域38のほぼ全体が空乏化される。このように下部ボディ領域38のほぼ全体が空乏化されることで、下部ボディ領域38内において局所的な電界集中が生じることが抑制される。したがって、半導体装置10は高い耐圧を有する。
【0033】
上部電極22の電位が下部電極24の電位よりも低い状態において、ゲート電極18の電位をゲート閾値以上の電位まで上昇させると、以下に説明するようにIGBTがオンする。すなわち、ゲート電極18の電位をゲート閾値以上の電位まで上昇させると、ゲート絶縁膜16近傍において低濃度領域34bと下部ボディ領域38にチャネルが形成される。低濃度領域34bに形成されたチャネルによってエミッタ領域32とバリア領域36が接続され、下部ボディ領域38に形成されたチャネルによってバリア領域36とドリフト領域42が接続される。すると、エミッタ領域32から、低濃度領域34bのチャネル、バリア領域36、下部ボディ領域38のチャネル及びドリフト領域42を介してコレクタ領域44へ電子が流れる。また、コレクタ領域44から、ドリフト領域42、下部ボディ領域38及びバリア領域36を介して上部ボディ領域34へホールが流れる。このようにして、IGBTがオンする。
【0034】
次に、IGBTがターンオンするときに生じる漏れ電流について、比較例と実施例とを比較しながら説明する。図3は、比較例の半導体装置のトレンチ14周辺の拡大断面図である。比較例の半導体層は、ゲート絶縁膜16の厚さが一定である点で実施例の半導体装置10と異なる。また、図4は、比較例の半導体装置において、上部電極22と下部電極24の間に定電圧(より詳細には、下部電極24が高電位となる定電圧)を印加した状態でゲート電極18の電位Vgeを増加させたときのコレクタ-エミッタ間の電流Icの変化を示している。なお、図4では、接続領域40と上部電極22の間のショットキー障壁が異なる各場合についての実験結果を示している。上述したように、下部ボディ領域38は上部ボディ領域34よりも低いp型不純物濃度を有している。また、比較例では、ゲート絶縁膜16の厚さが一定である。このため、比較例の半導体装置においてゲート電位Vgeを0Vから上昇させると、上部ボディ領域34よりも先に下部ボディ領域38にチャネルが形成される。このように下部ボディ領域38にチャネルが形成された状態では、図3の矢印110に示すように、上部電極22から接続領域40、バリア領域36及び下部ボディ領域38のチャネルを介してドリフト領域42へ電子が流れる。すなわち、矢印110に示す経路で漏れ電流が流れる。したがって、図4に示すように、ゲート電位Vgeがゲート閾値Vthよりも低い段階で、電流Icが流れ始める。その後、ゲート電位Vgeがゲート閾値Vthに達すると、上部ボディ領域34にチャネルが形成され、図3の矢印112に示す経路で電流が流れる。図4に示すように、ゲート電位Vgeがゲート閾値Vthを超えた領域では、ゲート電位Vgeの上昇に伴って電流Icが上昇する。以上に説明したように、比較例では、ゲート電位Vgeがゲート閾値Vthよりも低い領域においてIGBTに漏れ電流が流れるので、図4に示すように電流Icの立ち上がり特性のグラフが段差形状となる。なお、接続領域40と上部電極22の間のショットキー障壁が高いほど、漏れ電流が小さくなる。しかしながら、ショットキー障壁を高くする場合には、上部電極22の材料が限られる。例えば、上部電極22として埋め込み性の高いタングステンを利用する場合には、上部電極22と半導体基板12の界面にTi系のバリアメタルが設けられるが、この構成ではショットキー障壁を高くすることができない。また、ショットキー障壁を高くしたとしても、ある程度の漏れ電流は生じる。
【0035】
また、図5は、バリア領域36と接続領域40を有さないIGBTの電流Icの立ち上がり特性を示している。図5では、正常品と異常品の特性をそれぞれ示している。異常品は、トレンチの周辺に結晶欠陥が存在しているIGBTである。バリア領域36と接続領域40を有さない場合、正常品では、ゲート電位Vgeがゲート閾値Vthに達した段階で電流Icが流れ始める。また、異常品では、ゲート電位Vgeがゲート閾値Vthに達するよりも前に漏れ電流が流れるので、立ち上がり特性のグラフがコブ形状を有している。このとき生じる漏れ電流は、図4のショットキー障壁が0.7eVの場合に生じる漏れ電流と同程度である。このため、図3に示す比較例の構造においてショットキー障壁が0.7eV以下の場合には、結晶欠陥に起因して図5の異常品のような特性異常が生じていても、特性検査において特性異常を検出することができないという問題が生じる。
【0036】
次に、実施例の半導体装置の電流経路について説明する。上述したように、実施例では、ゲート絶縁膜16において、下側部分16bが上側部分16aよりも厚い。このため、ゲート電位Vgeを上昇させるときに、下部ボディ領域38に印加される電界が低濃度領域34bに印加される電界よりも小さい。したがって、実施例では、ゲート電位Vgeを0Vから上昇させると、下部ボディ領域38よりも先に上部ボディ領域34にチャネルが形成される。上部ボディ領域34に先にチャネルが形成されても、漏れ電流は生じない。その後、ゲート電位Vgeがゲート閾値Vthに達すると、下部ボディ領域38にチャネルが形成される。既に上部ボディ領域34にチャネルが形成されているので、電子は、図2の矢印120に示すように、エミッタ領域32から、低濃度領域34bのチャネル、バリア領域36、及び、下部ボディ領域38のチャネルを介してドリフト領域42へ流れる。このように、実施例の半導体装置10では、接続領域40とバリア領域36を介して流れる漏れ電流を抑制することができる。したがって、電流Icの立ち上がり特性のグラフが段差形状となることを防止できる。すなわち、図5の正常品と同様に、実施例の半導体装置10では、ゲート電位Vgeがゲート閾値Vthに達したときに電流Icが流れ始める特性を実現することができる。このため、ショットキー障壁が0.7eV以下の場合であっても、特性検査によって図5に示す異常品を検出することができる。
【0037】
以上に説明したように、実施例の半導体装置10によれば、バリア領域36と接続領域40を有するスイッチング素子において、ゲート電位を上昇させるときの漏れ電流を抑制できる。
【0038】
なお、下側部分16bが上側部分16aよりも厚いゲート絶縁膜16は、例えば、図6に示す方法によって形成することができる。まず、図6(a)に示すように、マスク90を介したエッチングによって上面12aにトレンチ14を形成する。次に、図6(b)に示すように、トレンチ14の内面を覆うようにSiNによって構成された保護膜92を形成する。次に、図6(c)に示すように、トレンチ14の底面を覆う保護膜92をエッチングにより除去する。ここでは、トレンチ14の側面に保護膜92を残存させる。次に、図6(d)に示すように、露出させたトレンチ14の底面をエッチングすることで、トレンチ14を深くする。次に、図6(e)に示すように、熱酸化によって、トレンチ14の下部(すなわち、保護膜92よりも下側の部分)にゲート絶縁膜16を形成する。次に、図6(f)に示すように、保護膜92を除去する。次に、図6(g)に示すように、熱酸化によってトレンチ14の内面全体にゲート絶縁膜16を形成する。トレンチ14の下部では、ゲート絶縁膜16の厚さが増加する。したがって、下側部分16bが上側部分16aよりも厚くなる。
【0039】
なお、上述した実施例では、ゲート絶縁膜16の厚さが段差状に変化していた。しかしながら、製造工程では、図7に示すように、上側部分16aから下側部分16bに向かうにしたがって徐々に厚さが増加する厚さ変化部16cが形成される場合がある。厚さ変化部16cが低濃度領域34bまたは下部ボディ領域38に接していると、半導体装置10の量産時にゲート閾値Vthのばらつき要因となる。図7に示すように、厚さ変化部16cがバリア領域36に接する範囲内に配置されていると、厚さ変化部16cが低濃度領域34bと下部ボディ領域38のいずれにも接しないので、ゲート閾値Vthのばらつきを抑制できる。
【0040】
また、上述した実施例では、IGBTとダイオードを有する半導体装置10について説明した。しかしながら、図8に示すように、MOSFETに本明細書に開示の技術を適用してもよい。図8に示すMOSFETの構造は、図1に示すIGBT領域30の構造においてp型のコレクタ領域44をn型のドレイン領域144に置き換えたものである。図8のMOSFETは、ダイオード領域50を有していてもいなくてもよい。図8のMOSFETの内部には、上部ボディ領域34、下部ボディ領域38、ドリフト領域42及びドレイン領域144によって、寄生的なPINダイオード(いわゆる、ボディダイオード)が形成されている。図8のMOSFETでは、バリア領域36と接続領域40によってボディダイオードの逆回復電流が抑制される。また、図8のMOSFETでは、下側部分16bが上側部分16aよりも厚いので、ゲート電位を上昇させるときにバリア領域36と接続領域40を介して流れる漏れ電流が抑制される。
【0041】
また、上述した実施例では、下部ボディ領域38のp型不純物濃度が低濃度領域34bのp型不純物濃度よりも低かった。しかしながら、下部ボディ領域38のp型不純物濃度が低濃度領域34bのp型不純物濃度と同じかそれより高くてもよい。このような構成でも、低濃度領域34bに下部ボディ領域38よりも先にチャネルが形成されて漏れ電流が流れる場合がある。このような場合に、下側部分16bを上側部分16aよりも厚くすれば、下部ボディ領域38において低濃度領域34bに対して相対的にチャネルが形成され難くなり、漏れ電流の発生を抑制できる。
【0042】
また、上述した実施例では、トレンチ14が上面12aにおいて平行に伸びていたが、トレンチ14は上面12aにおいてどのような態様で配置されていてもよい。例えば、上面12aにおいてトレンチ14が格子状に伸びていてもよい。
【0043】
また、上述した実施例では、n型の接続領域40によってバリア領域36が上部電極22に電気的に接続されていた。しかしながら、図9に示すように、接続領域40の代わりに、金属によって構成された接続部材40aが設けられていてもよい。接続部材40aは、バリア領域36を上部電極22に電気的に接続している。接続部材40aは、バリア領域36にショットキー接触している。
【0044】
また、上側部分16aと下側部分16bとが異なる材料によって構成されていてもよい。例えば、上側部分16aがSiOC、SiOF等のSiOよりも誘電率が低いグループから選択された1つによって構成されており、下側部分16bが上記グループから選択された別の1つによって構成されていてもよい。
【0045】
以下に、本明細書に開示の技術の構成を列記する。
(構成1)
半導体装置であって、
上面にトレンチが設けられた半導体基板と、
前記トレンチの内面を覆うゲート絶縁膜と、
前記トレンチ内に配置されており、前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されたゲート電極と、
前記半導体基板の前記上面に接する上部電極と、
前記半導体基板の下面に接する下部電極、
を有し、
前記半導体基板が、
前記上部電極に接しており、前記トレンチの側面で前記ゲート絶縁膜に接する第1n型領域と、
前記第1n型領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するp型の上部ボディ領域と、
前記上部ボディ領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するn型のバリア領域と、
前記バリア領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接しており、前記バリア領域によって前記上部ボディ領域から分離されているp型の下部ボディ領域と、
前記バリア領域と前記上部電極とを電気的に接続する接続部と、
前記下部ボディ領域の下側の前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するn型のドリフト領域と、
前記ドリフト領域よりも高いn型不純物濃度を有し、前記ドリフト領域の下側に配置されており、前記下部電極に接する第2n型領域、
を有し、
前記ゲート絶縁膜のうちの前記下部ボディ領域に接する範囲内の部分である下側部分が、前記ゲート絶縁膜のうちの前記上部ボディ領域に接する範囲内の部分である上側部分よりも厚い、
半導体装置。
(構成2)
前記ゲート絶縁膜が、前記上側部分から前記下側部分に向かうにしたがって厚さが増加する厚さ変化部を有しており、
前記厚さ変化部が、前記バリア領域に接する範囲内に配置されている、
構成1に記載の半導体装置。
(構成3)
前記下部ボディ領域のp型不純物濃度が、前記上部ボディ領域のp型不純物濃度よりも低い、構成1または2に記載の半導体装置。
(構成4)
前記半導体基板が、前記ドリフト領域の下側に配置されており、前記下部電極に接するp型のコレクタ領域を有する構成1~3のいずれか一項に記載の半導体装置。
(構成5)
前記接続部が、n型半導体により構成されており、前記上部電極にショットキー接触している、構成1~4のいずれか一項に記載の半導体装置。
(構成6)
前記接続部と前記上部電極の間のショットキー障壁が0.7eV以下である、構成5に記載の半導体装置。
(構成7)
前記上側部分が前記下側部分とは異なる材料によって構成されている、構成1~6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【0046】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0047】
12:半導体基板、14:トレンチ、16:ゲート絶縁膜、16a:上側部分、16b:下側部分、18:ゲート電極、34:上部ボディ領域、36:バリア領域、38:下部ボディ領域、40:接続領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9