(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098305
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】重金属の不溶化方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/25 20220101AFI20240716BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
B09B3/25 ZAB
C02F11/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001724
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 太志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 薫
【テーマコード(参考)】
4D004
4D059
【Fターム(参考)】
4D004AA31
4D004AB03
4D004CA34
4D004CA45
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA10
4D059AA09
4D059AA11
4D059BE37
4D059BJ00
4D059CB27
4D059DA03
4D059EB11
(57)【要約】
【課題】貯留液に混じった重金属の不溶化処理の省力化を図ることである。
【解決手段】貯留液に混じった重金属の不溶化方法であって、前記貯留液に、不溶化材を含むスラリーを添加する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留液に混じった重金属の不溶化方法であって、
前記貯留液に、不溶化材を含むスラリーを添加することを特徴とする重金属の不溶化方法。
【請求項2】
請求項1に記載の重金属の不溶化方法であって、
前記貯留液が、工事終了後の余剰な安定液であり、
前記スラリーを、工事敷地内に設置された安定液プラント設備を構成する複数の液槽のうちの少なくとも1つに投下することを特徴とする重金属の不溶化方法。
【請求項3】
請求項1に記載の重金属の不溶化方法であって、
前記重金属が砒素であり、前記スラリーが石灰系不溶化材を含むことを特徴とする重金属の不溶化方法。
【請求項4】
請求項3に記載の重金属の不溶化方法において、
前記スラリーと前記貯留液の混合量に対して、前記石灰系不溶化材が1重量%以上5重量%以下含まれることを特徴とする重金属の不溶化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削を伴う工事などで使用された重金属の不溶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
杭や連続地中壁などを構築する工事では孔壁や掘削溝壁の安定、掘削土砂の運搬分離、コンクリートとの置換を目的として、水(作液水)、ベントナイト、ポリマー、分散剤等からなる安定液が使用される。安定液は、例えば特許文献1で示すように、工事現場の敷地内に設置された安定液プラント設備で、製造・供給・循環・回収・調整などが集中的に処理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、安定液プラント設備で処理される安定液は、工事の過程で繰り返し使用されるごとに機能の劣化を生じる。最終的に品質管理値を満たさない安定液は、安定液プラント設備内に用意された廃棄槽に一時貯留したのち、廃棄となる。また、工事終了後に余剰となった安定液プラント設備内の安定液も、同様に廃棄となる。
【0005】
安定液を廃棄する際には、pHや浮遊物質量(SS)などが下水道放流基準に適合するよう様々な処理を行うが、重金属が混じっている場合にはさらに、不溶化処理を実施する必要が生じる。ところが、安定液プラント設備内の余剰な安定液を不溶化処理する技術が確立されておらず、多大な手間を要していた。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、貯留液に混じった重金属の不溶化処理の省力化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため本発明の重金属の不溶化方法は、貯留液に混じった重金属の不溶化方法であって、前記貯留液に、不溶化材を含むスラリーを添加することを特徴とする。
【0008】
本発明の重金属の不溶化方法は、前記貯留液が、工事終了後の余剰な安定液であり、前記スラリーを、工事敷地内に設置された安定液プラント設備を構成する複数の液槽のうちの少なくとも1つに投下することを特徴とする。
【0009】
本発明の重金属の不溶化方法は、前記重金属が砒素であり、前記スラリーが石灰系不溶化材を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の重金属の不溶化方法は、前記スラリーと前記貯留液の混合量に対して、前記石灰系不溶化材が1重量%以上5重量%以下含まれることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、不溶化材を含むスラリーを採用するから、従来工法で不溶化材を含む粉体を添加する場合に必要であった攪拌混合作業を省略できる。つまり、重金属が混じった貯留液に不溶化材を含むスラリーを投下するのみで重金属を不溶化でき、不溶化処理の省力化を実現できる。
【0012】
また、重金属の混じった貯留液が工事終了後の余剰な安定液である場合、不溶化材を含むスラリーによる不溶化処理は、安定液プラント設備に設けたいずれの液槽でも実施できる。
【0013】
したがって、余剰な安定液を処理するために、工事終了時まで攪拌設備を備える安定液の作液槽を残置しておく必要がない。これにより、工事の進捗に対応させて順次安定液プラント設備を解体し、最終的に残った液槽で不溶化処理を実施できるため、工事全体の作業効率を向上できるとともに工期短縮に寄与できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、不溶化材を含むスラリーを採用することで、貯留液に混じった重金属の不溶化処理を省力化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態における杭打設工事の進捗と安定液プラント設備から循環供給される安定液の流れを示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における杭打設工事終了後の安定液プラント設備で不溶化処理を実施する様子を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における安定液に混じった重金属を不溶化する手順を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における不溶化材を含むスラリーによる不溶化処理の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、貯留液に混じった重金属を不溶化する方法に関するものである。貯留液は何ら限定されるものではないが、本実施の形態では、現場打ちコンクリート杭を構築する工事現場で使用する安定液を事例に挙げ、その詳細を
図1~
図4を参照しつつ説明する。
【0017】
≪≪安定液・安定液プラント設備≫≫
図1で示すように、現場打ちコンクリート杭の工事現場にはその施設内に、安定液Bの製造・供給・循環・回収・調整・廃棄などを集中的に処理する安定液プラント設備100が設けられている。
【0018】
この安定液プラント設備100で製造した安定液Bは、現場打ちコンクリート杭を構築する際、一般には次のように使用される。安定液Bの使用事例を安定液プラント設備100の一事例とともに説明する。
【0019】
≪掘削・一次スライム処理:掘削孔51≫
まず、掘削予定地点50の地盤を、削孔機を利用して削孔しつつ安定液B1を供給し、安定液B1が満たされた掘削孔51を構築する。次に、削孔完了後に所定時間静置して、安定液B1中に浮遊する土砂分を沈殿させたのち、掘削孔51の孔底に堆積したスライムを除去する、いわゆる一次スライム処理を行う。
【0020】
上記の作業中、安定液B1は掘削孔51内で土砂混じり安定液B2となるため、安定液プラント設備100に回収し、土砂分離装置20で土砂を分離する。まず、土砂混じり安定液B2は、安定液プラント設備100でマッドスクリーン21を介して、受水槽22に貯留される。
【0021】
こののち、サイクロン23を経由して土砂が分離される。土砂が取り除かれたのちに循環槽28に一旦貯留され、機能回復した安定液B1となって、掘削孔51に循環供給される。取り除かれた土砂は、残土槽25に貯留される。
【0022】
≪二次スライム処理:掘削孔52≫
一次スライム処理が終了したのちの掘削孔52では、鉄筋かごを建て込む直前に、いわゆる二次スライム処理を行う。二次スライムは、掘削孔52を満たす安定液B1中に浮遊していた沈降の遅い土砂分が孔底に堆積したものであり、二次スライム処理では、この堆積物を除去する。
【0023】
二次スライム処理中、掘削孔52を満たす安定液B1は安定液プラント設備100に回収される。回収された安定液B1は、安定液プラント設備100で回収槽26に貯留されたのち、遠心分離機27を経由してケーキが分離される。
【0024】
ケーキが取り除かれたのち、循環槽28もしくは良液槽24に一旦貯留される。良液槽24では、作液プラント10で作液された安定液の新液B3が混合されて良液B4となり、この良液B4が掘削孔52に供給される。
【0025】
なお、作液プラント10では、原料タンク11に格納されている安定液材料と清水槽12に貯留されている水とが作液槽13で混合攪拌され、安定液の新液B3が作液される。このため、作液槽13には、エジェクトミキサやフリクトミキサなどの混合攪拌機器が設けられている。この作液槽13で作液された新液B3が、良液槽24に供給される。
【0026】
≪コンクリート打設:掘削孔53≫
良液B4で満たされるとともに鉄筋かごが建て込まれたのちの掘削孔53では、水中コンクリートが打設されるとともに、良液B4が回収される。安定液プラント設備100で回収された良液B4は、その状態によって廃液槽30、回収槽26、もしくは良液槽24のいずれかに貯留される。
【0027】
掘削予定地点50の各地点で上記の作業が順次行われて、現場打ちのコンクリート杭54が構築される。杭工事が進捗し、安定液Bの循環供給は安定液プラント設備100に設けた各液槽の貯留分で賄うことができ、新液B3の作液が不用と判断された時点で、作液プラント10の解体作業が開始される。
【0028】
すると、掘削予定地点50の各地点で現場打ちコンクリート杭Pが構築されて、杭工事が終了した際には
図2で示すように、余剰な安定液Bが、良液槽24、循環槽28、回収槽26、廃液槽30などの液槽に貯留された状態となる。
【0029】
この余剰安定液は、産業廃棄物となるが、下水道放流基準に適合した水質を得るための処理を行うことで、下水道に放流することができる場合がある。この下水道に放流するための処理の一つとして、不溶化処理を実施する。次に、不溶化処理の手順を説明する。
【0030】
≪≪重金属の不溶化処理≫≫
安定液プラント設備100に設けた回収槽26に貯留する余剰な安定液B1を、不溶化処理する場合を事例に挙げ、その処理方法を以下に説明する。
【0031】
図3で示すように、回収槽26には、掘削孔52から回収した安定液B1が貯留している。この安定液B1は、地山の微細な砂分とともに地山に存在していた砒素が混じった状態となっている。
【0032】
この砒素を不溶化する手順は、回収槽26に石灰系スラリー40を投下するのみであり、攪拌混合作業などは不要である。石灰系スラリー40は、石灰系不溶化材41と水を42とを混合攪拌して製造したものであり、市場で一般に流通されているいずれの石灰系スラリー40も採用できる。
【0033】
石灰系スラリー40は、20wt%濃度~40wt%濃度程度、より好ましくは25wt%濃度~30wt%濃度に調整されたものが好ましい。またタンクローリーTなどに積載された荷姿で工事現場に搬入可能なものが好ましい。
【0034】
こうすると、
図2で示すように、タンクローリーで石灰系スラリー40を工事現場へ搬入し、そのまま液槽に投下できる。これにより、余剰な安定液Bに混じった砒素を不溶化処理できる。
【0035】
さらに、不溶化処理と前後して、その他の下水道放流基準に適合した水質を得るための処理を行えば、安定液を下水道に放流することも可能となる。なお、
図2では、循環槽28、回収槽26、廃液槽30に石灰系スラリー40を投下し、不溶化処理を実施する場合を事例に挙げている。
【0036】
また、石灰系スラリー40の添加量は、石灰系スラリー40と回収槽26に貯留する安定液B1の混合量に対して、石灰系不溶化材41が1重量%以上5重量%以下含まれるよう調整するとよい。
【0037】
≪≪実験結果≫≫
図4に、石灰系不溶化材41に消石灰を採用し、安定液Bに混じった砒素を不溶化処理する実験を実施した結果を示す。
【0038】
図4を見ると、石灰系不溶化材41を添加する前の安定液Bには、砒素が0.061ppm含まれている。しかし、石灰系不溶化材41が1重量%以上含まれるよう調整すると、砒素が0.002ppmまで低下できる様子がわかる。
【0039】
砒素が混じった水を排水処理する場合、水質汚濁防止法によって「砒素及びその化合物 0.1mg As/L」と定められている。ppm≒mg/Lであるから、砒素0.002ppmは、この基準を十分下回っているといえる。
【0040】
上記のとおり、重金属の不溶化方法によれば、従来より実施されている石灰系不溶化材41を含む粉体を添加する場合に必要であった攪拌混合作業を省略でき、不溶化処理の省力化を実現できる。
【0041】
また、工事終了後の余剰な安定液Bを、安定液プラント設備100に設けたいずれの液槽でも実施できる。したがって、余剰な安定液Bを処理するために、工事終了時まで攪拌設備を備える作液槽13を残置しておく必要がない。これにより、工事の進捗に対応させて順次安定液プラント設備100を解体し、最終的に残った液槽で不溶化処理を実施できるため、工事全体の作業効率を向上できるとともに工期短縮に寄与できる。
【0042】
本発明の重金属の不溶化方法は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0043】
例えば、本実施の形態では、石灰系不溶化材41として消石灰を事例に挙げたが、砒素の不溶化処理に効果のある材料であれば、消石灰を含む混合物などを採用することもできる。
【0044】
また、重金属の一例として砒素を例示したが、他の重金属を不溶化する場合には、適宜対応する材料を不溶化材として採用し、スラリーを作成してもよい。
【符号の説明】
【0045】
100 安定液プラント設備
10 作液プラント
11 原料タンク
12 清水槽
13 作液槽
20 土砂分離装置
21 マッドスクリーン
22 受水槽
23 サイクロン
24 良液槽
25 残土槽
26 回収槽
27 遠心分離機
28 循環槽
30 廃液槽
40 石灰系スラリー
41 石灰系不溶化材
42 水
50 掘削予定地点
51 掘削孔(削孔・一次スライム処理)
52 掘削孔(二次スライム処理)
53 掘削孔(コンクリート打設)
54 コンクリート杭
B 安定液
B1 安定液
B2 土砂混じり安定液
B3 新液
B4 良液