(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098337
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】ガラス樹脂積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 17/10 20060101AFI20240716BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20240716BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
B32B17/10
B32B7/12
C03C27/12 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001785
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑原 耕治
(72)【発明者】
【氏名】森 弘樹
【テーマコード(参考)】
4F100
4G061
【Fターム(参考)】
4F100AG00
4F100AG00A
4F100AK01C
4F100AK01E
4F100AK45
4F100AK45C
4F100AK45E
4F100AK52
4F100AK52C
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA31B
4F100BA31C
4F100CB00
4F100CB00B
4F100CB00D
4F100EJ64
4F100EJ64C
4F100GB31
4F100JK06
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4G061AA02
4G061BA01
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB19
4G061CD02
4G061CD18
4G061DA22
(57)【要約】
【課題】樹脂板とガラス板との間での剥離が生じ難く、信頼性に優れる、ガラス樹脂積層体を提供する。
【解決手段】樹脂板2と、樹脂板2の少なくとも一方側の主面2a上に接着剤層3を介して積層されている、ガラス板5とを備える、ガラス樹脂積層体1であって、樹脂板2と接着剤層3との界面7における樹脂板2側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、Si原子の含有量が、1原子%以上、10原子%以下である、ガラス樹脂積層体1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂板と、前記樹脂板の少なくとも一方側の主面上に接着剤層を介して積層されている、ガラス板とを備える、ガラス樹脂積層体であって、
前記樹脂板と前記接着剤層との界面における前記樹脂板側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、Si原子の含有量が、1原子%以上、10原子%以下である、ガラス樹脂積層体。
【請求項2】
前記樹脂板と前記接着剤層との界面における前記樹脂板側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、O原子の含有量が、15原子%以上、40原子%以下である、請求項1に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項3】
前記樹脂板と前記接着剤層との界面における前記樹脂板側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、C原子の含有量が、40原子%以上、80原子%以下である、請求項1又は2に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項4】
前記X線光電子分光法により測定する部分が、前記樹脂板の前記界面と、該界面から1μmの深さの部分との間の部分である表層部である、請求項1又は2に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項5】
前記樹脂板が、ポリカーボネートにより構成されている、請求項1又は2に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項6】
前記ガラス板の厚みが、10μm以上、700μm以下である、請求項1又は2に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項7】
前記樹脂板の両側の主面上に、前記接着剤層を介して前記ガラス板が積層されている、請求項1又は2に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項8】
樹脂板と、前記樹脂板の少なくとも一方側の主面上に接着剤層を介して積層されている、ガラス板とを備える、ガラス樹脂積層体の製造方法であって、
樹脂板の少なくとも一方側の主面に、シリコーンローラー掛けを行う工程と、
前記シリコーンローラー掛け後の前記樹脂板の主面に、接着剤を介してガラス板を貼り合わせる工程と、
を備える、ガラス樹脂積層体の製造方法。
【請求項9】
前記シリコーンローラー掛け後の前記樹脂板の主面に、表面改質処理を施す工程と、
前記表面改質処理後の前記樹脂板の主面に、接着剤を介してガラス板を貼り合わせる工程と、
を備える、請求項8に記載のガラス樹脂積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂板とガラス板とが接着剤層を介して積層されてなる、ガラス樹脂積層体及び該ガラス樹脂積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス樹脂積層体は、ガラスに由来する高硬度、高耐久性、高気密性、ガスバリア性、及び高級感等の諸特性と、樹脂に由来する軽量性及び高耐衝撃性等の諸特性とを兼ね備えていることから、種々の用途で広く用いられている。このようなガラス樹脂積層体として、下記の特許文献1には、ポリカーボネート等の樹脂材料により構成される樹脂板とガラス板とが接着剤層を介して積層されてなる、ガラス樹脂積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ガラス樹脂積層体は、駅のホームドア、サイネージカバー、あるいは飛行機や電車の窓などへの使用も検討されており、ガラス樹脂積層体の使用される用途は、益々多岐に亘っている。そのため、ガラス樹脂積層体には、性能面での向上も期待されている。
【0005】
特に、ガラス樹脂積層体では、ポリカーボネート等の樹脂材料からなる樹脂板に、ガラス板のような異なる素材が貼り合わされていることから、両者の間の密着性がなお十分ではない場合がある。そのため、樹脂板とガラス板とがより強固に接着され、樹脂板とガラス板との間での剥離がより生じ難い、ガラス樹脂積層体が求められている。
【0006】
本発明の目的は、樹脂板とガラス板との間での剥離が生じ難く、信頼性に優れる、ガラス樹脂積層体及び該ガラス樹脂積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するガラス樹脂積層体及び該ガラス樹脂積層体の製造方法の各態様について説明する。
【0008】
本発明の態様1に係るガラス樹脂積層体は、樹脂板と、前記樹脂板の少なくとも一方側の主面上に接着剤層を介して積層されている、ガラス板とを備える、ガラス樹脂積層体であって、前記樹脂板と前記接着剤層との界面における前記樹脂板側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、Si原子の含有量が、1原子%以上、10原子%以下であることを特徴としている。
【0009】
態様2のガラス樹脂積層体では、態様1において、前記樹脂板と前記接着剤層との界面における前記樹脂板側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、O原子の含有量が、15原子%以上、40原子%以下であることが好ましい。
【0010】
態様3のガラス樹脂積層体では、態様1又は態様2において、前記樹脂板と前記接着剤層との界面における前記樹脂板側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、C原子の含有量が、40原子%以上、80原子%以下であることが好ましい。
【0011】
態様4のガラス樹脂積層体では、態様1から態様3のいずれか一つの態様において、前記X線光電子分光法により測定する部分が、前記樹脂板の前記界面と、該界面から1μmの深さの部分との間の部分である表層部であることが好ましい。
【0012】
態様5のガラス樹脂積層体では、態様1から態様4のいずれか一つの態様において、前記樹脂板が、ポリカーボネートにより構成されていることが好ましい。
【0013】
態様6のガラス樹脂積層体では、態様1から態様5のいずれか一つの態様において、前記ガラス板の厚みが、10μm以上、700μm以下であることが好ましい。
【0014】
態様7のガラス樹脂積層体では、態様1から態様6のいずれか一つの態様において、前記樹脂板の両側の主面上に、前記接着剤層を介して前記ガラス板が積層されていることが好ましい。
【0015】
本発明の態様8に係るガラス樹脂積層体の製造方法は、樹脂板と、前記樹脂板の少なくとも一方側の主面上に接着剤層を介して積層されている、ガラス板とを備える、ガラス樹脂積層体の製造方法であって、樹脂板の少なくとも一方側の主面に、シリコーンローラー掛けを行う工程と、前記シリコーンローラー掛け後の前記樹脂板の主面に、接着剤を介してガラス板を貼り合わせる工程とを備えることを特徴としている。
【0016】
態様9のガラス樹脂積層体の製造方法では、態様8において、前記シリコーンローラー掛け後の前記樹脂板の主面に、表面改質処理を施す工程と、前記表面改質処理後の前記樹脂板の主面に、接着剤を介してガラス板を貼り合わせる工程とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂板とガラス板との間での剥離が生じ難く、信頼性に優れる、ガラス樹脂積層体及び該ガラス樹脂積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るガラス樹脂積層体を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るガラス樹脂積層体の変形例を示す模式的断面図である。
【
図3】
図3(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係るガラス樹脂積層体の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0020】
(ガラス樹脂積層体)
図1は、本発明の一実施形態に係るガラス樹脂積層体を示す模式的断面図である。
【0021】
図1に示すように、ガラス樹脂積層体1は、樹脂板2、第1の接着剤層3、第1のガラス板5、第2の接着剤層4、及び第2のガラス板6を備える。
【0022】
樹脂板2は、対をなす第1の主面2a及び第2の主面2bを有し、第2の主面2bは第1の主面2aの反対側に位置する。樹脂板2の第1の主面2a上に、第1の接着剤層3を介して、第1のガラス板5が積層されている。また、樹脂板2の第2の主面2b上に、第2の接着剤層4を介して、第2のガラス板6が積層されている。
【0023】
本実施形態においては、樹脂板2と第1の接着剤層3との第1の界面7における樹脂板2側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、Si原子の含有量が、1原子%以上、10原子%以下である。これにより、樹脂板2と第1のガラス板5とを強固に接着させることができるので、樹脂板2と第1のガラス板5との間での剥離が生じ難い。よって、本実施形態のガラス樹脂積層体1は、信頼性に優れている。
【0024】
本発明においては、樹脂板2と第1の接着剤層3との第1の界面7における樹脂板2側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、Si原子の含有量が、1原子%以上、好ましくは2原子%以上であり、より好ましくは3.5原子%以上であり、10原子%以下、好ましくは9原子%以下であり、より好ましくは7原子%以下である。Si原子の含有量が上述した範囲内にある場合、樹脂板2と第1のガラス板5とをより一層強固に接着させることができ、樹脂板2と第1のガラス板5との間での剥離をより一層生じ難くすることができる。
【0025】
樹脂板2と第1の接着剤層3との第1の界面7における樹脂板2側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、O原子の含有量が、好ましくは15原子%以上、より好ましくは20原子%以上、さらに好ましくは25原子%以上であり、好ましくは40原子%以下、より好ましくは38原子%以下、さらに好ましくは36原子%以下である。O原子の含有量が上述した範囲内にある場合、樹脂板2と第1のガラス板5とをより一層強固に接着させることができ、樹脂板2と第1のガラス板5との間での剥離をより一層生じ難くすることができる。
【0026】
樹脂板2と第1の接着剤層3との第1の界面7における樹脂板2側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、C原子の含有量が、好ましくは40原子%以上、より好ましくは45原子%以上、さらに好ましくは50原子%以上であり、好ましくは80原子%以下、より好ましくは70原子%以下、さらに好ましくは65原子%以下である。C原子の含有量が上述した範囲内にある場合、樹脂板2と第1のガラス板5とをより一層強固に接着させることができ、樹脂板2と第1のガラス板5との間での剥離をより一層生じ難くすることができる。
【0027】
また、樹脂板2と第1の接着剤層3との第1の界面7における樹脂板2側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、N原子の含有量は、例えば、0.3原子%以上、3原子%以下とすることができる。もっとも、N原子は含まれていなくてもよい。
【0028】
なお、X線光電子分光法による測定に際し、樹脂板2と第1の接着剤層3との第1の界面7における樹脂板2側の部分とは、樹脂板2の第1の界面7と、界面7から1μmの深さの部分との間の部分(樹脂板2の第1の主面2aの表層部2c)のことをいうものとする。なお、この範囲内において、少なくとも1点が上記の含有量の範囲内であればよい。
【0029】
また、X線光電子分光法(XPS)による測定は、例えば、光電子分光装置(アルバック・ファイ社製、品番「Quantera SXM」)を用いて行うことができる。測定条件は、励起X線:AlKα線、X線径:200μm、光電子検出角度(試料表面に対する検出器の傾き):45度とすることができる。
【0030】
本発明においては、樹脂板2と第2の接着剤層4との第2の界面8における樹脂板2側の部分においても、第1の界面7における樹脂板2側の部分と同様の構成とされていることが好ましい。
【0031】
具体的には、樹脂板2と第2の接着剤層4との第2の界面8における樹脂板2側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、Si原子の含有量が、好ましくは1原子%以上、より好ましくは2原子%以上、さらに好ましくは3.5原子%以上であり、好ましくは10原子%以下、より好ましくは9原子%以下、さらに好ましくは7原子%以下である。Si原子の含有量が上述した範囲内にある場合、樹脂板2と第2のガラス板6とをより一層強固に接着させることができ、樹脂板2と第2のガラス板6との間での剥離をより一層生じ難くすることができる。これにより、ガラス樹脂積層体1の信頼性をより一層高めることができる。
【0032】
樹脂板2と第2の接着剤層4との第2の界面8における樹脂板2側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、O原子の含有量が、好ましくは15原子%以上、より好ましくは20原子%以上、さらに好ましくは25原子%以上であり、好ましくは40原子%以下、より好ましくは38原子%以下、さらに好ましくは36原子%以下である。O原子の含有量が上述した範囲内にある場合、樹脂板2と第2のガラス板6とをより一層強固に接着させることができ、樹脂板2と第2のガラス板6との間での剥離をより一層生じ難くすることができる。
【0033】
樹脂板2と第2の接着剤層4との第2の界面8における樹脂板2側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、C原子の含有量が、好ましくは40原子%以上、より好ましくは45原子%以上、さらに好ましくは50原子%以上であり、好ましくは80原子%以下、より好ましくは70原子%以下、さらに好ましくは65原子%以下である。C原子の含有量が上述した範囲内にある場合、樹脂板2と第2のガラス板6とをより一層強固に接着させることができ、樹脂板2と第2のガラス板6との間での剥離をより一層生じ難くすることができる。
【0034】
また、樹脂板2と第2の接着剤層4との第2の界面8における樹脂板2側の部分をX線光電子分光法により測定したときに、N原子の含有量は、例えば、0.3原子%以上、3原子%以下とすることができる。もっとも、N原子は含まれていなくてもよい。
【0035】
なお、X線光電子分光法による測定に際し、樹脂板2と第2の接着剤層4との第2の界面8における樹脂板2側の部分とは、樹脂板2の第2の界面8と、界面8から1μmの深さの部分との間の部分(樹脂板2の第2の主面2bの表層部2d)のことをいうものとする。なお、この範囲内において、少なくとも1点が上記の含有量の範囲内であればよい。
【0036】
以下において、第1の接着剤層3及び第2の接着剤層4を総称して、接着剤層3,4とし、第1のガラス板5及び第2のガラス板6を総称して、ガラス板5,6とする場合があるものとする。また、表層部2c及び表層部2dを総称して、表層部2c,2dとし、第1の主面2a及び第2の主面2bを総称して、主面2a,2bとする場合があるものとする。
【0037】
本発明において、樹脂板2の材料は、特に限定されず、例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンナフタレート、ポリオレフィン等が挙げられる。なかでも、透明性や耐衝撃性をより一層高める観点から、樹脂板2の材料は、ポリカーボネートであることが好ましい。これらの樹脂板2の材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0038】
樹脂板2の表層部2c,2dは、それぞれ、ジメチルポリシロキサンを含んでいてもよい。この場合、樹脂板2とガラス板5,6との間での剥離をより一層生じ難くすることができる。あるいは、樹脂板2の表層部2c,2dは、それぞれ、ジメチルポリシロキサン由来のSiの酸化物を含んでいてもよい。この場合、樹脂板2とガラス板5,6との間での剥離をさらに一層生じ難くすることができる。
【0039】
樹脂板2の厚みは、特に限定されず、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上であり、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。樹脂板2の厚みが上述した範囲内である場合、ガラス樹脂積層体1の耐衝撃性をより一層高めることができる。
【0040】
接着剤層3,4の材料は、特に限定されず、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、アクリル系粘着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤、紫外線硬化性アクリル系接着剤、紫外線硬化性エポキシ系接着剤、熱硬化性エポキシ系接着剤、熱硬化性メラミン系接着剤、熱硬化性フェノール系接着剤等が挙げられる。なかでも、接着剤層3,4の材料は、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)であることが好ましい。
【0041】
接着剤層3,4の厚みは、特に限定されず、それぞれ、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。
【0042】
ガラス板5,6の材料としては、ケイ酸塩ガラス、シリカガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、無アルカリガラス、等が挙げられる。これらのガラス板5,6の材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。また、ガラス板5,6は、風冷強化や、化学強化されたガラスであってもよい。
【0043】
ガラス板5,6は、例えば、オーバーフローダウンドロー法、ロールアウト法、スロットダウンドロー法、リドロー法等により成形することができ、オーバーフローダウンドロー法によって成形されることが好ましい。
【0044】
ガラス板5,6の厚みは、特に限定されないが、それぞれ、樹脂板2の厚みより薄いことが好ましい。ガラス板5,6の厚みは、それぞれ、好ましくは10μm以上、より好ましくは100μm以上であり、好ましくは700μm以下、より好ましくは600μm以下である。ガラス板5,6の厚みは、それぞれ、特に好ましくは、300μm以上、500μm以下である。ガラス板5,6の厚みが上述した範囲内にある場合、ガラス樹脂積層体1の硬度やガスバリア性をより一層高めることができる。
【0045】
なお、本発明においては、上記実施形態で示すように、樹脂板2の両側の主面2a,2b上に、接着剤層3,4を介してガラス板5,6が積層されていることが好ましい。もっとも、本発明においては、
図2に変形例で示すガラス樹脂積層体1Aのように、樹脂板2の片面(第1の主面2a)上のみに第1の接着剤層3を介して第1のガラス板5が積層されていてもよい。すなわち、樹脂板2の第2の主面2b上には、第2の接着剤層4及び第2のガラス板6が積層されていなくてもよい。この場合においても、樹脂板2と第1のガラス板5との間での剥離を生じ難くすることができ、ガラス樹脂積層体1Aの信頼性を高めることができる。
【0046】
以下、ガラス樹脂積層体の製造方法の一例について説明する。
【0047】
(ガラス樹脂積層体の製造方法)
図3(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係るガラス樹脂積層体の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【0048】
ガラス樹脂積層体1の製造方法では、まず、上述した樹脂板2及びガラス板5,6を用意する。
【0049】
次に、
図3(a)に示すように、樹脂板2の一方側の主面にシリコーンローラー掛けを行う。シリコーンローラー10としては、例えば、低硬度シリコーンゴム系ローラー(オーディオテクニカ社製、HC-730SF)を用いることができる。シリコーンローラー掛けは、例えば、シリコーンローラー10に対して1g以上、100g以下の荷重を加えながら転がすことで行うことができる。シリコーンローラー掛けは少なくとも片道行えばよいが、繰り返し往復させて行ってもよい。また、シリコーンローラー掛けは、樹脂板2の一方側の主面の少なくとも一部に行えばよいが、樹脂板2の一方側の主面の全面に行ってもよい。
【0050】
次に、
図3(b)に示すように、大気圧プラズマ装置11を用い、シリコーンローラー掛け後の樹脂板2の一方側の主面に大気雰囲気下でプラズマを照射することにより、表面改質処理を施す。表面改質処理としての大気圧プラズマ処理は、例えば、N
2+CDA(クリーンドライエア)混合ガスを励起させることでオゾンを発生させ、そのオゾンガスで表面改質を行うことで行われる。大気圧プラズマ処理は少なくとも片道行なえばよいが、繰り返し往復させて行ってもよい。また、大気圧プラズマ処理は、シリコーンローラー掛け後の樹脂板2の一方側の主面の少なくとも一部に行えばよいが、シリコーンローラー掛け後の樹脂板2の一方側の主面の全面に行ってもよい。なお、ガラス樹脂積層体1の製造方法において、大気圧プラズマ処理工程は省略してもよい。また、大気圧プラズマ処理以外の表面改質処理として、例えば、熱処理、イオンプレーティング処理、スパッタリング処理等も適用可能である。
【0051】
次に、シリコーンローラー掛け後、必要に応じて大気圧プラズマ処理を施した樹脂板2の第1の主面2aに、上述した接着剤を介して第1のガラス板5を貼り合わせる。それによって、
図3(c)に示すように、樹脂板2の第1の主面2a上に、第1の接着剤層3を介して第1のガラス板5を積層させる。
【0052】
同様にして、樹脂板2の他方側の主面にもシリコーンローラー掛けを行い、必要に応じて大気圧プラズマ処理を施し、上述した接着剤を介して第2のガラス板6を貼り合わせる。それによって、
図3(d)に示すように、樹脂板2の第2の主面2b上に、第2の接着剤層4を介して第2のガラス板6を積層させる。以上のようにして、ガラス樹脂積層体1を得ることができる。
【0053】
本実施形態の製造方法では、樹脂板2の両側の主面にシリコーンローラー掛けを行った後、接着剤を介してガラス板5,6を積層させるので、樹脂板2の第1の主面2aと第1のガラス板5との接着性や、樹脂板2の第2の主面2bと第2のガラス板6との接着性を高めることができる。
【0054】
この理由については、シリコーンローラー掛けを行うことにより、樹脂板2の両側の主面に、それぞれ、ジメチルポリシロキサンを含み、Si原子の含有量が、1原子%以上、10原子%以下である、表層部2c,2dが形成され、この表層部2c,2dにより接着剤層3,4との密着性が高められるためであると考えられる。
【0055】
また、樹脂板2の両側の主面に大気圧プラズマ処理を施した場合、樹脂板2の第1の主面2aと第1のガラス板5との接着性や、樹脂板2の第2の主面2bと第2のガラス板6との接着性をさらに一層高めることができる。
【0056】
この理由については、シリコーンローラー掛け後のジメチルポリシロキサンを含む表層部2c,2dに大気圧プラズマ処理を施すことにより、ジメチルポリシロキサン由来のSiの酸化物が形成され、それによって接着剤層3,4との密着性がさらに一層高められるためであると考えられる。
【0057】
なお、シリコーンローラー掛け以外にも、ジメチルポリシロキサン溶液を塗布する方法も考えられるが、この場合、塗布量が多くなると、Si原子の含有量が10原子%を簡単に超える。そのため、シリコーンローラー掛けが特に好ましい。
【0058】
なお、本実施形態の製造方法では、樹脂板2の両側の主面にシリコーンローラー掛けを行ったが、樹脂板2の少なくとも一方の主面にシリコーンローラー掛けを行えばよい。もっとも、得られるガラス樹脂積層体1の信頼性をより一層高める観点からは、樹脂板2の両側の主面にシリコーンローラー掛けを行うことが好ましい。また、シリコーンローラー掛けを行った主面に大気圧プラズマ処理を施してもよく、施さなくてもよい。得られるガラス樹脂積層体1の信頼性をさらに一層高める観点からは、シリコーンローラー掛けを行った主面に大気圧プラズマ処理を施すことが好ましい。
【実施例0059】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0060】
(実施例1)
まず、樹脂板としてポリカーボネート板(住友ベークライト社製、品番「ECK100UU」、厚み3mm)を用意した。次に、用意した樹脂板の一方側の主面に、シリコーンローラー(オーディオテクニカ社製、品番「HC-730SF」)を用いて、シリコーンローラー掛けを行った。なお、シリコーンローラー掛けは、特に荷重は加えず、ローラー部を転がすことにより実行した。
【0061】
次に、シリコーンローラー掛け後の樹脂板の主面に、中間膜(東ソー・ニッケミ社製、品番「メルセンG7060」、膜厚400μm)を介してガラス板(日本電気硝子社製、品番「OA-11」、厚み0.5mm)を貼り合わせ、減圧下で高温加熱(150℃)を行うことでガラス樹脂積層体を得た。なお、樹脂板の接着剤層との界面から5nmの深さの表層部を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS、ION-TOF社製、TOF.SIMS 5)により分析したところ、ジメチルポリシロキサンが検出された。
【0062】
(実施例2)
実施例1におけるシリコーンローラー掛け後の樹脂板の主面に、大気圧プラズマ装置を用いて、大気圧プラズマ処理を施した。なお、大気圧プラズマ処理は、N2+CDAガスを用いて行った。
【0063】
次に、大気圧プラズマ処理後の樹脂板の主面に、実施例1における中間膜を介して実施例1におけるガラス板を貼り合わせ、ガラス樹脂積層体を得た。なお、樹脂板の接着剤層との界面から5nmの深さの表層部を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS、ION-TOF社製、TOF.SIMS 5)により分析したところ、ジメチルポリシロキサン由来のSiの酸化物が検出された。
【0064】
(比較例1)
樹脂板の一方側の主面に、シリコーンローラー掛けを行わずに、実施例1における中間膜を介して実施例1におけるガラス板を貼り合わせ、ガラス樹脂積層体を得た。
【0065】
[評価]
実施例1,2及び比較例1で得られたガラス樹脂積層体について以下の評価を行った。
【0066】
(XPS)
実施例1,2及び比較例1で得られたガラス樹脂積層体において、樹脂板の接着剤層との界面から5nmの深さの表層部をX線光電子分光法(XPS)により測定し、C原子、N原子、O原子、及びSi原子の含有量をそれぞれ求めた。X線光電子分光法による測定に際しては、光電子分光装置(アルバック・ファイ社製、品番「Quantera SXM」)を用いた。測定条件は、励起X線:AlKα線、X線径:200μm、光電子検出角度(試料表面に対する検出器の傾き):45度とした。また、データ処理に際しては、得られたスペクトルについて、スムージング(9-point smoothing)を行い、C1sメインピークを284.6eVへ合わせて横軸補正をした。C原子の含有量は、Binding Energy:280eV~300eVに現れるC1sスペクトルのピーク面積から求めた。N原子の含有量は、Binding Energy:395eV~415eVに現れるN1sスペクトルのピーク面積から求めた。O原子の含有量は、Binding Energy:525eV~550eVに現れるO1sスペクトルのピーク面積から求めた。また、Si原子の含有量は、Binding Energy:90eV~120eVに現れるSi2pスペクトルのピーク面積から求めた。
【0067】
(剥離強度)
剥離強度は、JIS K 6854-2(1999年)に準拠して180°剥離接着強さを測定することにより得た。具体的には、実施例1及び2では、シリコンローラー掛け後、大気圧プラズマ処理後の樹脂板に中間膜を介してPETフィルムを貼りつけ、比較例1では、樹脂板に中間膜を介してPETフィルムを貼りつけ、その後PETフィルムを引っ張って剥離強度を測定した。
【0068】
【0069】
表1に示すように、実施例1及び実施例2のガラス樹脂積層体では、樹脂板と接着剤層との界面における樹脂板側の部分におけるSi原子の含有量が、1原子%以上、10原子%以下であったのに対し、比較例1では、Si原子の含有量が、0.2原子%であった。また、実施例1及び実施例2のガラス樹脂積層体では、比較例1のガラス樹脂積層体と比較して、樹脂板とガラス板との間での剥離が生じ難かった。