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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098343
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】腹水処理システム及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
A61M1/00 190
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001798
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】316010300
【氏名又は名称】株式会社KMC
(71)【出願人】
【識別番号】523010421
【氏名又は名称】日本総合医療技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】松崎 圭祐
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA20
4C077BB02
4C077DD07
4C077DD12
4C077EE04
4C077GG02
4C077GG12
4C077HH10
4C077HH13
4C077JJ08
4C077JJ16
4C077JJ27
4C077LL05
4C077PP07
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で効率よく腹水の濾過処理や洗浄処理を行うことができる腹水処理システムを提供する。
【解決手段】腹水処理システム1は、腹水中の特定の物質を選択的に除去する濾過器3と、濾過器3の腹水排出ポート33に濾過腹水移送路12を介して接続され、濾過器3で濾過された濾過腹水を濾過して濃縮する濃縮器4と、濾過腹水移送路12の途中に配置され、濾過腹水移送路12内の送液方向を切り替え可能に構成された送液ポンプ5と、濾過器3と送液ポンプ5との間における濾過腹水移送路12内の圧力を検出する圧力センサ6と、送液ポンプ5と濃縮器4との間において濾過腹水移送路12に洗浄液を供給する洗浄液供給部25と、送液ポンプ5の送液方向を切り替えることによって、濾過器3において腹水を濾過する濾過モードと、濾過器3を洗浄する洗浄モードとを切り替える制御部7とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹水中の特定の物質を選択的に除去する濾過器と、
前記濾過器の腹水排出ポートに濾過腹水移送路を介して接続され、前記濾過器で濾過された濾過腹水を濾過して濃縮する濃縮器と、
前記濾過腹水移送路の途中に配置され、前記濾過腹水移送路内の送液方向を切り替え可能に構成された送液ポンプと、
前記濾過器と前記送液ポンプとの間における前記濾過腹水移送路内の圧力を検出する圧力センサと、
前記送液ポンプと前記濃縮器との間において前記濾過腹水移送路に洗浄液を供給する洗浄液供給部と、
前記送液ポンプの送液方向を切り替えることによって、前記濾過器において腹水を濾過する濾過モードと、前記濾過器を洗浄する洗浄モードとを切り替える制御部とを備える、腹水処理システム。
【請求項2】
前記濾過モードにおいて、前記制御部が、前記送液ポンプの送液方向を、前記濾過器で濾過された濾過腹水を前記濃縮器へと導入する第1方向に制御するとともに、前記圧力センサの検出した前記濾過腹水移送路内の圧力が第1設定値となるように前記送液ポンプによる送液量を制御する、請求項1に記載の腹水処理システム。
【請求項3】
前記送液ポンプの送液量が第2設定値以下となった場合に、前記制御部が、前記送液ポンプの送液方向を前記第1方向とは反対の第2方向に切り替えることによって、前記濾過モードを前記洗浄モードに切り替え、前記洗浄液供給部から前記濾過腹水移送路に供給された洗浄液を前記濾過器に導入する、請求項2に記載の腹水処理システム。
【請求項4】
前記制御部が、前記洗浄モードにおいて、複数の洗浄モードを切り替え可能に構成されている、請求項3に記載の腹水処理システム。
【請求項5】
前記濾過器の腹水回収ポートが、濾過腹水回収路を介して、前記濃縮器に接続されており、
前記複数の洗浄モードが、前記濾過器内に滞留している濾過腹水を前記濾過器の腹水回収ポートから前記洗浄液とともに排出して前記濃縮器へと送給する第1洗浄モードを含む、請求項4に記載の腹水処理システム。
【請求項6】
前記濾過器の腹水導入ポートが、腹水導入路を介して、前記濾過器に供給する腹水が貯留された腹水貯留部に接続されており、
前記複数の洗浄モードが、前記濾過器内に滞留している濾過されていない腹水を前記腹水導入ポートから前記洗浄液とともに排出して前記腹水貯留部へと返送する第2洗浄モードを含む、請求項4に記載の腹水処理システム。
【請求項7】
前記濾過器の洗浄廃液排出ポートが、洗浄廃液回収路を介して、洗浄廃液回収部に接続されており、
前記複数の洗浄モードが、前記濾過器内の濾過膜に貼り付いた物質を前記洗浄液で押し流した洗浄廃液を前記洗浄廃液回収部へと送給する第3洗浄モードを含む、請求項4に記載の腹水処理システム。
【請求項8】
前記濾過器の腹水導入ポートが、腹水導入路を介して、前記濾過器に供給する腹水が貯留された腹水貯留部に接続されており、
前記洗浄廃液回収部が、前記腹水貯留部と前記濾過器との間において前記腹水導入路に接続されており、
前記第3洗浄モードにおいて、前記腹水導入ポートからも前記洗浄廃液が前記洗浄廃液回収部へと送給される、請求項7に記載の腹水処理システム。
【請求項9】
腹水中の特定の物質を選択的に除去する濾過器と、
前記濾過器の腹水排出ポートに濾過腹水移送路を介して接続され、前記濾過器で濾過された濾過腹水を濾過して濃縮する濃縮器と、
前記濾過腹水移送路の途中に配置され、前記濾過腹水移送路内の送液方向を切り替え可能に構成された送液ポンプと、
前記濾過器と前記送液ポンプとの間における前記濾過腹水移送路内の圧力を検出する圧力センサと、
前記送液ポンプと前記濃縮器との間において前記濾過腹水移送路に洗浄液を供給する洗浄液供給部と、を備える腹水処理システムの運転方法であって、
前記送液ポンプの送液方向を切り替えることによって、前記濾過器において腹水を濾過する濾過モードと、前記濾過器を洗浄する洗浄モードとを切り替える、腹水処理システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹水処理システム及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝硬変や癌等の患者に対して、腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy:CART)と呼ばれる治療が行われている。腹水濾過濃縮再静注法は、患者の体内から採取した腹水を濾過して腹水中に存在している細菌や癌細胞等の細胞成分を除去し、その濾過液を濃縮してアルブミンやグロブリンといった有用なタンパク質成分を有する濃縮液を回収し、回収した濃縮液を再び患者の体内(静脈内)に戻す治療法である。かかる治療法における腹水の濾過・濃縮処理には、中空糸膜等の濾過膜を有する濾過器・濃縮器が用いられており、例えば特許文献1には、腹水を貯留する貯留容器から腹水が濾過器に送られて濾過処理され、処理後の濾過液を濃縮器で濃縮処理し、処理後の濃縮液を回収容器に回収する腹水処理装置が開示されている。
【0003】
従来のシステムでは、腹水の濾過過程で濾過膜の表面にがん細胞や血球、フィブリン、粘液などの除去された物質が付着することにより、短時間で濾過膜の孔が閉塞される。そのため、例えば2、3L程度の腹水を処理しただけで濾過膜が閉塞する場合があり、大量の腹水を継続的に処理することが困難であるという問題があった。そのような問題を解決すべく、例えば特許文献2には、濾過器の洗浄液供給ポートに洗浄液供給器を接続し、洗浄液供給器から供給した洗浄液で濾過器の濾過膜を洗浄して、付着した物質を洗浄液とともに洗浄廃液排出ポートから排出する腹水処理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55-16674号公報
【特許文献2】特開2011-172797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2に開示されている腹水処理システムでは、濾過器で濾過された腹水が移送される濃縮器の下流側に、濃縮廃液を排出する廃液ポートと、濃縮器で濃縮処理された濃縮腹水を排出する回収ポートとが設けられており、廃液ポートには廃液吸引装置(病院施設に一般的に設置されている壁掛け式吸引器等)が廃液チューブを介して接続され、回収ポートには濃縮腹水を回収するための回収容器が回収チューブを介して接続されている。そして、腹水の濾過・濃縮処理を行う際は、廃液吸引装置を起動することにより腹水の貯留容器から濾過器を経て濃縮器へと至る腹水処理通路内が陰圧状態となり、この陰圧により、貯留容器内の腹水が濾過器で濾過処理され、次に、濾過腹水が濃縮器で濃縮処理されて、処理後の濃縮腹水が回収容器に回収されるようになっている。
【0006】
一方、濾過器の濾過膜を洗浄する際は、貯留容器から濾過器への連通するチューブの中途にある開放弁が閉じられて濾過器への腹水の供給が遮断されるとともに、濾過器から濃縮器へと濾過腹水を移送するための連通路が遮断器によって遮断される。そして、廃液吸引装置を一旦停止した上で、洗浄液供給器(シリンジ等)を使って洗浄液を濾過器へと送り込み、濾過器の濾過膜の外表面に付着した除去物質が洗浄液によって剥離され、洗浄廃液として濾過器の洗浄廃液排出ポートから排出されるようになっている。つまり、特許文献2に開示されている腹水処理システムでは、濾過器の膜洗浄を行うたびに廃液吸引装置を停止する必要があり、また、洗浄液供給器を用いて手動で濾過膜の洗浄を行う必要があるため、多量の腹水の濾過・濃縮処理には時間がかかり、手技者の労力負担が大きいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で効率よく腹水の濾過処理や洗浄処理を行うことができる腹水処理システムを提供することを目的とする。また、本発明は、簡易な構成で効率よく腹水の濾過処理や洗浄処理を行うことができる腹水処理システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第一に本発明は、腹水中の特定の物質を選択的に除去する濾過器と、前記濾過器の腹水排出ポートに濾過腹水移送路を介して接続され、前記濾過器で濾過された濾過腹水を濾過して濃縮する濃縮器と、前記濾過腹水移送路の途中に配置され、前記濾過腹水移送路内の送液方向を切り替え可能に構成された送液ポンプと、前記濾過器と前記送液ポンプとの間における前記濾過腹水移送路内の圧力を検出する圧力センサと、前記送液ポンプと前記濃縮器との間において前記濾過腹水移送路に洗浄液を供給する洗浄液供給部と、前記送液ポンプの送液方向を切り替えることによって、前記濾過器において腹水を濾過する濾過モードと、前記濾過器を洗浄する洗浄モードとを切り替える制御部とを備える、腹水処理システムを提供する(発明1)。
【0009】
かかる発明(発明1)によれば、圧力センサによって濾過腹水移送路内の送液状態を把握しながら濾過器において腹水の濾過処理を行うことができるとともに、ポンプの送液方向を切り替えるだけで、濾過器において腹水を濾過する濾過モードと、濾過器を洗浄する洗浄モードとを切り替えることができるので、簡易な構成で効率よく腹水の濾過処理や洗浄処理を行うことができる。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記濾過モードにおいて、前記制御部が、前記送液ポンプの送液方向を、前記濾過器で濾過された濾過腹水を前記濃縮器へと導入する第1方向に制御するとともに、前記圧力センサの検出した前記濾過腹水移送路内の圧力が第1設定値となるように前記送液ポンプによる送液量を制御することが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明2)においては、前記送液ポンプの送液量が第2設定値以下となった場合に、前記制御部が、前記送液ポンプの送液方向を前記第1方向とは反対の第2方向に切り替えることによって、前記濾過モードを前記洗浄モードに切り替え、前記洗浄液供給部から前記濾過腹水移送路に供給された洗浄液を前記濾過器に導入することが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明3)においては、前記制御部が、前記洗浄モードにおいて、複数の洗浄モードを切り替え可能に構成されていてもよい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明4)においては、前記濾過器の腹水回収ポートが、濾過腹水回収路を介して、前記濃縮器に接続されており、前記複数の洗浄モードが、前記濾過器内に滞留している濾過腹水を前記濾過器の腹水回収ポートから前記洗浄液とともに排出して前記濃縮器へと送給する第1洗浄モードを含んでいてもよいし(発明5)、前記濾過器の腹水導入ポートが、腹水導入路を介して、前記濾過器に供給する腹水が貯留された腹水貯留部に接続されており、前記複数の洗浄モードが、前記濾過器内に滞留している濾過されていない腹水を前記腹水導入ポートから前記洗浄液とともに排出して前記腹水貯留部へと返送する第2洗浄モードを含んでいてもよいし(発明6)、前記濾過器の洗浄廃液排出ポートが、洗浄廃液回収路を介して、洗浄廃液回収部に接続されており、前記複数の洗浄モードが、前記濾過器内の濾過膜に貼り付いた物質を前記洗浄液で押し流した洗浄廃液を前記洗浄廃液回収部へと送給する第3洗浄モードを含んでいてもよい(発明7)。
【0014】
上記発明(発明7)においては、前記濾過器の腹水導入ポートが、腹水導入路を介して、前記濾過器に供給する腹水が貯留された腹水貯留部に接続されており、前記洗浄廃液回収部が、前記腹水貯留部と前記濾過器との間において前記腹水導入路に接続されており、前記第3洗浄モードにおいて、前記腹水導入ポートからも前記洗浄廃液が前記洗浄廃液回収部へと送給されてもよい(発明8)。
【0015】
第二に本発明は、腹水中の特定の物質を選択的に除去する濾過器と、前記濾過器の腹水排出ポートに濾過腹水移送路を介して接続され、前記濾過器で濾過された濾過腹水を濾過して濃縮する濃縮器と、前記濾過腹水移送路の途中に配置され、前記濾過腹水移送路内の送液方向を切り替え可能に構成された送液ポンプと、前記濾過器と前記送液ポンプとの間における前記濾過腹水移送路内の圧力を検出する圧力センサと、前記送液ポンプと前記濃縮器との間において前記濾過腹水移送路に洗浄液を供給する洗浄液供給部と、を備える腹水処理システムの運転方法であって、前記送液ポンプの送液方向を切り替えることによって、前記濾過器において腹水を濾過する濾過モードと、前記濾過器を洗浄する洗浄モードとを切り替える、腹水処理システムの運転方法を提供する(発明9)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な構成で効率よく腹水の濾過処理や洗浄処理を行うことができる腹水処理システムを提供することができる。また、簡易な構成で効率よく腹水の濾過処理や洗浄処理を行うことができる腹水処理システムの運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る腹水処理システムを示す概略構成図である。
図2】同実施形態に係る腹水処理システムに用いられる濾過器の構造を示す断面図である。
図3】同実施形態に係る腹水処理システムに用いられる濃縮器の構造を示す断面図である。
図4】腹水処理システムの各モードにおける流路の状態を説明する図であり、(a)は濾過モード、(b)は第1洗浄モード、(c)は第2洗浄モード、(d)は第3洗浄モードにおける流路の状態を説明する図である。
図5】腹水処理システムの各モードにおけるバルブの開閉状態をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る腹水処理システム1を図面に基づいて説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態にのみ限定されるものではなく、記載された実施形態はあくまでも本発明の技術的特徴を説明するための例示にすぎない。また、各図面に示す形状や寸法はあくまでも本発明の内容の理解を容易にするために示したものであり、実際の形状や寸法を正しく反映したものではない。
【0019】
本明細書においては、「上流側」は、腹水処理システム1において処理されるために供給される腹水や濾過された腹水の流れにおける上流の側を、「下流側」は、腹水処理システム1において処理されるために供給される腹水や濾過された腹水の流れにおける下流の側を、それぞれ意味する。つまり、原則として、「上流側」とは、腹水処理システム1において、供給される腹水が貯留された腹水貯留バッグ21に近づく方向を、「下流側」は、供給される腹水を貯留された腹水貯留バッグ21から遠ざかる方向を、それぞれ意味していると考えることができる。なお、後述するように、腹水処理システム1を濾過モードで運転する時と洗浄モードで運転する時とで、送液方向が逆になる場所が存在するが、あくまでも濾過モードで運転する時の方向を基準として「上流側」及び「下流側」を定めるものとする。
【0020】
図1は、本実施形態に係る腹水処理システム1の概略構成を示す説明図である。腹水処理システム1は、患者の体内から採取した腹水A1を濾過して腹水中に存在している細菌や癌細胞等の細胞成分(有害物質)を除去し、その濾過した腹水(濾過腹水)A2を濃縮してアルブミンやグロブリンといった有用なタンパク質成分を有する濾過濃縮液A3を回収し、回収した濾過濃縮液A3を再び患者の体内に戻すためのシステムであり、主に、腹水A1中の特定の物質を選択的に除去する濾過器3と、濾過器3で濾過された濾過腹水A2を濾過して濃縮する濃縮器4と、送液ポンプ5と、圧力センサ6と、制御部7とを備える。濾過器3の上流側には、処理対象の腹水A1を貯留する腹水貯留部としての腹水貯留バッグ21が接続されており、濃縮器4の下流側には、処理済みの腹水(濾過濃縮液)A3を回収する濾過濃縮液回収バッグ22が接続されている。
【0021】
濾過器3は、濾過により、腹水A1中の特定の物質、例えば細菌やがん細胞などの有害物質を選択的に除去するための濾過部材を備えた装置である。濾過器3としては、腹水A1中の有用物質であるアルブミン、グロブリン等のタンパク質を通過させ、かつ、上記有害物質を捕捉することのできるものであればどのようなものを用いてもよいが、本実施形態においては、樹脂製の筒状の濾過器ハウジング35内に、濾過部材として最大孔径約0.2μmの中空糸膜36を複数束にして収容したものを用いている。濾過器3は、後に詳述するように、中空糸膜36を濾過部材とする外圧濾過式の濾過装置として構成されている。濾過器3の構造を図2に示す。
【0022】
濾過器3に用いる濾過部材としては、中空糸膜36のほかに平膜を用いることもできるが、単位体積あたりの膜面積をより大きく取ることができ、かつ表面に付着した除去物質の洗浄が容易にできるという観点から、多孔性の中空糸膜が好ましく用いられる。濾過器3に使用する中空糸膜36の素材には特に制限はないが、実用性のある強度および耐圧性を有し、滅菌が可能であるポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、エチレン―ビニルアルコール共重合体などが好ましく使用される。
【0023】
本実施形態における濾過器3は、濾過器3のハウジング35の周壁に、第1送液チューブ11を介して腹水貯留バッグ21に接続されている腹水導入ポート31と、第2送液チューブ12を介して洗浄廃液回収バッグ24に接続されている洗浄廃液排出ポート32とが設けられている。腹水導入ポート31及び洗浄廃液排出ポート32は、それぞれ、濾過器3のハウジング35の周壁の上流側部分および下流側部分にそれぞれ設けた、接続用突起に形成された貫通孔311及び貫通孔321からなる。腹水導入ポート31及び洗浄廃液排出ポート32の貫通孔311及び貫通孔321は、それぞれ、中空糸膜36の長手方向Xとほぼ直交する向きに延びるように形成されている。なお、第1送液チューブ11は腹水導入路を形成し、第2送液チューブ12は洗浄廃液回収路を形成するものである。また、洗浄廃液回収バッグ24は洗浄廃液回収部の一例である。
【0024】
腹水貯留バッグ21は、患者から採取した腹水A1を無菌的に貯留することができるものであって、患者から採取した腹水A1を変性させたり、これらの中に有害な物質が溶出したりしないもので、かつ、滅菌可能なものであればその材質および形状には制限はない。一般的に、塩化ビニル系やポリプロピレン、ポリエチレン等の軟質材質による輸液バッグで、3~4L程度の容量のものが好ましく使用される。
【0025】
洗浄廃液回収バッグ24は、洗浄廃液CW中のがん細胞を無菌的に貯留することができるものであって、洗浄廃液CW中に有害な物質が溶出せず、かつ、滅菌可能なものであればその材質および形状には制限はない。一般的に、塩化ビニル系やポリプロピレン、ポリエチレン等の軟質材質による輸液バッグで、3~4L程度の容量のものが好ましく使用される。なお、この洗浄廃液回収バッグ24にて回収された洗浄廃液CW中のがん細胞やリンパ球等は、樹状細胞ワクチン療法、抗がん剤感受性試験等のオーダーメイドがん治療であったり、分子標的薬の開発等の創薬やがん研究であったりに活用することができる。
【0026】
濾過器3の洗浄廃液排出ポート32側の端部には、図2に示すように、濾過器3において濾過された濾過腹水A2を排出する腹水排出ポート33が形成されている。腹水排出ポート33は、濾過器3のハウジング35に取り付けられた第1端部材371に設けた接続用突起に形成された、中空糸膜36の長手方向Xに平行に(長手方向Xに沿って)延びる貫通孔331からなる。同様に、濾過器3の腹水導入ポート31側の端部には、後述する洗浄モードで濾過器3の洗浄を行う際、濾過器3内に滞留している濾過済みの濾過腹水A2を排出して濃縮器4へと送給する腹水回収ポート34が形成されている。腹水回収ポート34は、濾過器3のハウジング35に取り付けられた第2端部材372に設けた接続用突起に形成された、中空糸膜36の長手方向Xに平行に(長手方向Xに沿って)延びる貫通孔341からなる。腹水排出ポート33は、濾過腹水移送路を形成する第3送液チューブ13を介して、濃縮器4へと接続されており、腹水回収ポート34は、濾過腹水回収路を形成する第4送液チューブ14を介して、こちらも濃縮器4へと接続されている。
【0027】
濾過器3のハウジング35内の、腹水排出ポート33と洗浄廃液排出ポート32との間の軸方向位置には、多数の中空糸膜36の一方の開放端部を固定かつ結束する円板状の第1固定部材381が設けられている。また、腹水回収ポート34と腹水導入ポート31との間の軸方向位置には、多数の中空糸膜36の他方の開放端部を固定かつ結束する円板状の第2固定部材382が設けられている。これら第1固定部材381及び第2固定部材382によって、濾過器3内に、第1固定部材381よりも腹水排出ポート33寄りの第1導入空間391、第1固定部材381及び第2固定部材382間の濾過空間39、及び第2固定部材382よりも腹水回収ポート34寄りの第2導入空間392が画定されている。濾過器3の中空糸膜36は両端が開口しており、その一端部が、濾過モードでは閉塞される腹水回収ポート34に第2導入空間392を介して連通しており、他端部が第1導入空間391を介して腹水排出ポート33に連通しているということになる。
【0028】
濃縮器4は、濾過器3の腹水排出ポート33に濾過腹水移送路としての第3送液チューブ13を介して接続されており、濾過器3で濾過された濾過腹水A2を濾過して濃縮するための装置である。濃縮器4は、濾過腹水A2から、有用物質であるアルブミン等を含まない水を廃液Wとして除去し、濾過腹水A2の有用物質濃度を高める。濃縮器4としては、分子量が6.6万程度であるアルブミンを含む濾過腹水A2から、水および水に溶解した電解質のみを分離して排出することのできるものであればどのようなものを用いてもよいが、本実施形態においては、樹脂製の筒状のハウジング44内に、濾過部材として分画分子量が約5000以下の中空糸膜45を収容したものを用いている。濃縮器4の構造を図3に示す。
【0029】
濃縮器4に用いる濾過部材としては、中空糸膜45のほかに平膜を用いることもできるが、目詰まりを起こしにくい多孔性の中空糸膜が好ましく用いられる。濃縮器4に使用する中空糸膜45の素材としては、実用性のある強度及び耐久性を有する濃縮膜を得ることができることから、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、エチレン―ビニルアルコール共重合体などが好ましく使用できる。
【0030】
濃縮器4の上流側の端部には、濾過器3において濾過された濾過腹水A2を濃縮器4へと導入する濾過腹水導入ポート41が形成されている。濾過腹水導入ポート41は、濃縮器4のハウジング44に取り付けられた第3端部材461に設けた接続用突起に形成された、中空糸膜45の長手方向Xに平行に(長手方向Xに沿って)延びる貫通孔411からなる。同様に、濃縮器4の下流側の端部には、導入された濾過腹水A2を濃縮器4で濾過して濃縮した濾過濃縮液A3を濃縮器4外部へと排出する濃縮液回収ポート42が形成されている。濃縮液回収ポート42は、濃縮器4のハウジング44に取り付けられた第4端部材462に設けた接続用突起に形成された、中空糸膜45の長手方向Xに平行に(長手方向Xに沿って)延びる貫通孔421からなる。濾過腹水導入ポート41には、濾過腹水移送路を形成する第3送液チューブ13を介して、濾過器3が接続されており、濃縮液回収ポート42は、第5送液チューブ15を介して、濾過濃縮液A3を回収する濾過濃縮液回収バッグ22に接続されている。また、濾過腹水導入ポート41には、濾過腹水回収路を形成する第4送液チューブ14を介しても、濾過器3が接続されている。
【0031】
濾過濃縮液回収バッグ22は、処理済みの濃縮腹水A3を無菌的に貯留することができるものであって、濃縮腹水A3を変性させたり、これらの中に有害な物質が溶出したりしないもので、かつ、滅菌可能なものであればその材質および形状には制限はない。一般的に、塩化ビニル系やポリプロピレン、ポリエチレン等の軟質材質による輸液バッグで、1~2L程度の容量のものが好ましく使用される。
【0032】
濃縮器4のハウジング44の周壁には、第6送液チューブ16を介して濃縮廃液回収バッグ23に接続されている廃液ポート43が設けられている。廃液ポート43は、濃縮器4のハウジング44の周壁の下流側部分に設けた、接続用突起に形成された貫通孔431からなる。廃液ポート43の貫通孔431は、中空糸膜45の長手方向Xとほぼ直交する向きに延びるように形成されている。
【0033】
濃縮器4のハウジング44内の濾過腹水導入ポート41側には、多数の中空糸膜45の一方の開放端部を固定かつ結束する円板状の第3固定部材471が設けられている。また、濃縮液回収ポート42と廃液ポート43との間の軸方向位置には、多数の中空糸膜45の他方の開放端部を固定かつ結束する円板状の第4固定部材472が設けられている。これら第3固定部材471及び第4固定部材472によって、濃縮器4内に、第3固定部材471よりも濾過腹水導入ポート41寄りの第3導入空間481、第3固定部材471及び第4固定部材472間の濾過空間48、及び第4固定部材472よりも濃縮液回収ポート42寄りの第4導入空間482が画定されている。
【0034】
濾過腹水移送路である第3送液チューブ13の途中には、第3送液チューブ13内の送液方向を切り替え可能に構成された送液ポンプ5が配置されている。送液ポンプ5は各種の医療用ポンプを用いることができ、例えば、中心部に複数個のローラが取り付けられた回転部51を有し、チューブを当該回転部51の周囲に這わすように取り付けられたチューブポンプ(ローラポンプ)を用いてもよい。このような送液ポンプ5を濾過腹水移送路である第3送液チューブ13の途中に配置することで、回転部51の回転方向を切り替えることにより、第3送液チューブ13内の送液方向を切り替えることができ、また、回転部51の回転数を制御することにより、第3送液チューブ13内の圧力を調整することができる。
【0035】
濾過腹水移送路である第3送液チューブ13においては、濾過器3と送液ポンプ5との間における第3送液チューブ13内の圧力を検出する圧力センサ6が設けられている。圧力センサ6としては、各種の公知のセンサを用いることができる。
【0036】
濾過腹水移送路である第3送液チューブ13の途中には、第7送液チューブを介して、洗浄液CLが貯留されている洗浄液供給バッグ25が接続されている。洗浄液供給バッグ25は、送液ポンプ5と濃縮器4との間において、濾過腹水移送路である第3送液チューブ13に洗浄液CLを供給する洗浄液供給部の一例である。洗浄液CLとしては、浸透圧によって細胞が破壊されない液体を使用することができ、例えば、生理食塩水が好ましく用いられる。洗浄液CLが送液ポンプ5によって濾過器3へと送給されることにより、濾過器3の洗浄を行うことができる。
【0037】
なお、腹水貯留バッグ21と濾過器3とを接続する第1送液チューブ11の途中から第8送液チューブ18が枝分かれしており、その先には洗浄廃液回収バッグ24が接続されている。すなわち、本実施形態においては、洗浄廃液回収バッグ24が濾過器3の腹水導入ポート31及び洗浄廃液排出ポートの両方に接続されていることになる。
【0038】
各送液チューブは、ポリ塩化ビニル等の材質で形成された軟質チューブであり、第1送液チューブ11の途中には第1バルブ81及び第2バルブ82が、第8送液チューブ18の途中には第3バルブ83が、第2送液チューブ12の途中には第4バルブ84が、第7送液チューブ17の途中には第5バルブ85が、第3送液チューブ13の途中には第6バルブ86が、第4送液チューブ14の途中には第7バルブ87が、それぞれ設けられている。このうち、第1バルブ81は、第1送液チューブ11の、第8送液チューブ18との枝分かれ位置と、腹水貯留バッグ21との間に設けられており、第2バルブ82は、第1送液チューブ11の、第8送液チューブ18との枝分かれ位置と、濾過器3との間に設けられている。また、第6バルブ86は、第3送液チューブ13の、第7送液チューブとの接続位置と、濃縮器4との間に設けられている。各バルブを閉じることにより、当該バルブの位置において、各送液チューブ内の流路が遮断される。本実施形態においては、後述する制御部7によって流路開閉弁である各バルブの開閉動作の制御ができるように構成されているが、各バルブの代わりに、それぞれの位置にチューブクランプ等の手動の遮断機構を設けてもよい。
【0039】
制御部7は、腹水処理システム1による腹水の濾過処理や濾過器3の洗浄処理を制御するものであり、効率よく腹水の濾過処理や洗浄処理を行うことができるように腹水処理システム1の運転を管理する。制御部7は、圧力センサ6によって検出された、濾過器3と送液ポンプ5との間における第3送液チューブ13内の圧力値を、圧力センサ6が受け取り、その値に基づいて送液ポンプ5や各バルブ(第1バルブ81、第2バルブ82、第3バルブ83、第4バルブ84、第5バルブ85、第6バルブ86、第7バルブ87)の動作を制御し、濾過器3において腹水A1を濾過する濾過モードと、濾過器3を洗浄する洗浄モードとを切り替えながら、腹水処理システム1の運転を行う。
【0040】
図4及び図5を参照しながら、腹水の濾過処理及び濾過器3の洗浄処理を行う腹水処理システム1の動作について説明する。本実施形態の腹水処理システム1では、制御部7が、送液ポンプ5の送液方向を切り替えることによって、濾過器3において腹水A1を濾過する濾過モードと、濾過器3を洗浄する洗浄モードとを切り替えることができるようになっている。図4は濾過モード及び洗浄モードそれぞれにおける腹水処理システム1の流路状態を示しており、図5は濾過モード及び洗浄モードそれぞれにおけるバルブの開閉状態を示している。
【0041】
まず、腹水処理システム1で腹水貯留バッグ21に貯留されている腹水A1を濾過する場合には、図4(a)に示すように、第3バルブ83、第4バルブ84、第5バルブ86及び第7バルブ87を閉じ、その他のバルブは開いた状態で、送液ポンプ5を第1方向、すなわち濾過器3で濾過された濾過腹水A2を濃縮器4へと導入する方向(図中においては時計回り方向)に回転させることで、腹水貯留バッグ21から第1送液チューブ11、濾過器3、第3送液チューブ13を経て送液ポンプ5に至るまでの流路内は陰圧状態となる。この陰圧により、腹水貯留バッグ21から第1送液チューブ11を介して腹水A1が濾過器3の腹水導入ポート31に送給され、濾過器3内に腹水A1が導入される。腹水A1は濾過器3の外腔から中空糸膜36の内部へと吸引され、その過程で、腹水A1中のがん細胞などの有害物質が、除去物質として中空糸膜36によって除去され、中空糸膜36の外表面に付着する。一方、濾過器3で濾過された有用物質であるアルブミン、グロブリン等を含む濾過腹水A2は、腹水排出ポート33から排出される。
【0042】
濾過器3から排出された濾過腹水A2は、第3送液チューブ13を介して送液ポンプ5に送給され、送液ポンプ5から濃縮器4へと送り出されて導入される。濃縮器4の内部では、濾過腹水A2が中空糸膜45の内側を通過する。このとき、濾過腹水A2の、アルブミン等の有用物質を含まない水の一部が、廃液Wとして廃液ポート43から排出される。濾過腹水A2の廃液Wが除かれた部分は、濾過濃縮液A3として、濃縮液回収ポート42から排出されて濾過濃縮液回収バッグ22に回収される。
【0043】
ここで、本実施形態においては、濾過モードにおいて、制御部7が、送液ポンプ5の送液方向を、濾過器3で濾過された濾過腹水A2を濃縮器4へと導入する第1方向に制御するとともに、圧力センサ6の検出した濾過腹水移送路(第3送液チューブ13)内の圧力が第1設定値となるように、送液ポンプ5による送液量を制御する。すなわち、制御部7は、第3送液チューブ13内の送液ポンプ5の上流側の圧力値(圧力センサ6によるセンサ値)が一定になるように、送液ポンプ5の回転部51の回転数を制御し、これによって送液ポンプ5による送液量を制御する。第1設定値は処理対象となる腹水の性状に応じて任意に決定することができるが、例えば、-100mmHg~-500mmHgの範囲で設定することができる。
【0044】
濾過モードで腹水処理システム1を運転していると、次第に濾過器3の中空糸膜36の外表面に除去物質が付着して閉塞していき、仮に送液ポンプ5の回転数を一定にしていれば、圧力センサ6の検出した濾過腹水移送路(第3送液チューブ13)内の圧力値が上昇していく。本実施形態の腹水処理システム1では、圧力値が一定になるように送液ポンプ5の回転数を制御するため、濾過器3の中空糸膜36の目詰まりが進行すると、徐々に送液ポンプ5の回転数が低下していくことになる。この送液ポンプ5の回転数の低下、すなわち送液ポンプ5の送液量の低下をトリガーとして、腹水処理システム1では、濾過モードから洗浄モードへの切り替えを自動的に行うことができるようにし、効率よく腹水の濾過処理や洗浄処理を行うことを実現する。具体的には、制御部7が、送液ポンプ5の送液量が第2設定値以下となった場合に、送液ポンプ5の送液方向を第1方向とは反対の第2方向(図中においては反時計回り方向)に切り替えることによって、濾過モードを洗浄モードに切り替え、第5バルブ85を開いて洗浄液供給バッグ25から濾過腹水移送路(第3送液チューブ13)に洗浄液CLを供給し、さらに送液ポンプ5によって濾過器3に導入する。第2設定値は処理対象となる腹水の性状や濾過器3の種類や性能等に応じて任意に決定することができるが、例えば、50ml/分~200ml/分の範囲で設定することができる。
【0045】
腹水処理システム1が濾過器3の洗浄を行う洗浄モードに切り替わった際には、図4(d)に示すように、第1バルブ81、第6バルブ86及び第7バルブ87を閉じ、その他のバルブは開いた状態で、送液ポンプ5を第2方向に回転させることで、濾過器3の腹水排出ポート33へと洗浄液CLが送り込まれ、第1導入空間391から中空糸膜36の内側に流入する。すなわち、腹水処理システム1の濾過器3の洗浄が行われる際には、濾過器3の腹水排出ポート33が、濾過器3の外部から濾過部材(中空糸膜36)に対して洗浄液が供給される洗浄液供給ポートとして機能することとなる。このとき、第4送液チューブ14が閉塞されているので(第7バルブ87が閉じられているので)、洗浄液CLは、送液ポンプ5によって付与された圧力により、中空糸膜36表面の孔を通って、中空糸膜36の内部から外部へ流出する。この洗浄液CLによって、除去物質が中空糸膜36の外表面から剥離し、洗浄液CLとともに、洗浄廃液排出ポート32から第2送液チューブ12を介して洗浄廃液回収バッグ24に、洗浄廃液CWとして流れて回収される。なお、この洗浄モードにおけるバルブの状態は、図5において「第3洗浄モード」の欄に示されている。
【0046】
さらに、濾過器3の腹水導入ポート31が、第1送液チューブ11及び第8送液チューブ8を介して、洗浄廃液回収バッグ24に接続されており、第1バルブ81が閉じられている一方で、第2バルブ82及び第3バルブ83が開いた状態になっているため、中空糸膜36の外表面から剥離した除去物質は、腹水導入ポート31からも洗浄廃液回収バッグ24に、洗浄廃液CWとして流れて回収される。このような構成にすることで、濾過器3の2つのポート(腹水導入ポート31及び洗浄廃液回収ポート32)から同時に洗浄廃液CWを洗浄廃液回収バッグ24に回収することができるので、洗浄モードにおける洗浄効果(洗浄スピード)を向上させることができる。
【0047】
ところで、腹水処理システム1が、濾過モードから洗浄モードに切り替わる際、濾過器3の内腔(中空糸膜36の内側)には、すでに濾過済みの濾過腹水A2が滞留した状態になっており、また、濾過器3の外腔(中空糸膜36の外側)には、これから濾過するはずであった腹水A1が滞留した状態になっている。この状態で、上述のように、図4(d)に示す状態、つまり、第1バルブ81、第6バルブ86及び第7バルブ87を閉じ、その他のバルブは開いた状態で、送液ポンプ5を第2方向に回転させる洗浄処理を開始すると、それらの滞留していた腹水A1及び濾過腹水A2を全て洗浄廃液CWとして廃棄することになってしまう。洗浄モードにおいて濾過器3の洗浄をする際に、濾過器3に滞留している濾過済みの濾過腹水A2や濾過前の腹水A1が洗浄廃液CWとして廃棄されてしまうことを防ぐべく、本実施形態においては、制御部7が、洗浄モードにおいて、複数の洗浄モードを切り替えることができるようになっている。
【0048】
具体的には、腹水処理システム1では、制御部7が、濾過器3内に滞留している濾過腹水A2を濾過器3の腹水回収ポート34から洗浄液CLとともに排出して濃縮器4へと送給する第1洗浄モード、濾過器3内に滞留している濾過されていない腹水A1を腹水導入ポート31から洗浄液CLとともに排出して腹水貯留バッグ21(腹水貯留部)へと返送する第2洗浄モード、濾過器3内の中空糸膜36に貼り付いた除去物質を洗浄液CLで押し流した洗浄廃液CWを洗浄廃液回収バッグ24(洗浄廃液回収部)へと送給する第3洗浄モードの3つの洗浄モードを切り替え可能に構成されている。
【0049】
第1洗浄モードでは、図4(b)に示すように、第2バルブ82、第4バルブ84及び第6バルブ86を閉じ、その他のバルブは開いた状態で、送液ポンプ5を第2方向に回転させることで、濾過器3の腹水排出ポート33へと洗浄液CLが送り込まれ、第1導入空間391から中空糸膜36の内側に流入する。このとき、第1送液チューブ11及び第2送液チューブ12が閉塞されているので(第2バルブ82及び第4バルブ84が閉じられているので)、洗浄液CLが、送液ポンプ5によって付与された圧力により、中空糸膜36の内側に滞留していた濾過腹水A2を第2導入空間392へと押し流し、腹水回収ポート34から第4送液チューブ14を介して濃縮器4の濾過腹水導入ポート41へと送給する。これによって洗浄モードに切り替えた際に濾過器3内に滞留している濾過腹水A2を廃棄することなく、有効に回収することができる。
【0050】
続いて、第2洗浄モードでは、図4(c)に示すように、第3バルブ83、第4バルブ84、第6バルブ86及び第7バルブ87を閉じ、その他のバルブは開いた状態で、送液ポンプ5を第2方向に回転させる。すると、第1洗浄モード同様に、濾過器3の腹水排出ポート33へと洗浄液CLが送り込まれ、第1導入空間391から中空糸膜36の内側に流入する。このとき、今度は第2送液チューブ12及び第4送液チューブ14が閉塞されているので(第4バルブ84及び第7バルブ87が閉じられているので)、洗浄液CLが、送液ポンプ5によって付与された圧力により、中空糸膜36の外側に滞留していた腹水A1を、腹水導入ポート31から第1送液チューブ11を介して腹水貯留バッグ21へと返送する。これによって洗浄モードに切り替えた際に濾過器3内に滞留している腹水A1を廃棄することなく、有効に回収することができる。
【0051】
第1洗浄モード及び第2洗浄モードにおいて、濾過器3に滞留している濾過済みの濾過腹水A2や濾過前の腹水A1を回収した後、図4(d)に示すように、第3洗浄モードに切り替えて、濾過器3の中空糸膜36の洗浄を行い、目詰まりを解消する。第3洗浄モードでは、第1バルブ81、第6バルブ86及び第7バルブ87を閉じ、その他のバルブは開いた状態で、送液ポンプ5を第2方向に回転させることで、濾過器3の腹水排出ポート33へと洗浄液CLが送り込まれ、中空糸膜36表面の洗浄を行う。詳細については洗浄モードの説明として説明済みであるため、ここでは説明を省略する。
【0052】
洗浄モードにおいて、第1洗浄モードから第2洗浄モード、第2洗浄モードから第3洗浄モードへの切り替えを行うタイミングは、例えば洗浄液CLの供給量に応じて制御することができる。例えば、第1洗浄モードにおいて、洗浄液CLが洗浄液供給バッグ25から100ml供給されたタイミングで、制御部7が洗浄モードを第2洗浄モードに切り替え、第2洗浄モードにおいて、洗浄液CLが洗浄液供給バッグ25から200mlあるいは300ml供給されたタイミングで、制御部7が洗浄モードを第3洗浄モードに切り替えてもよいし、それぞれの洗浄モードの洗浄時間に応じて切り替えるようにしてもよい。
【0053】
腹水処理システム1は、洗浄モードにおいて濾過器3の洗浄が終了した後、再び濾過モードに復帰することができる。洗浄モードから濾過モードへの復帰は、例えば手動で切り替えるように構成されていてもよいし、洗浄モードにおける洗浄液CLの供給量の上限値を予め設定しておき、当該上限値に達したところで自動的に洗浄モードを終了させて濾過モードに復帰するように構成されていてもよい。その際の供給量の上限値は、処理対象となる腹水の性状や濾過器3の種類や性能等に応じて任意に決定することができるが、例えば、500ml~1000mlの範囲で設定することができる。
【0054】
本実施形態に係る腹水処理システム1によれば、圧力センサ6によって濾過腹水移送路(第3送液チューブ13)内の送液状態を把握しながら濾過器3において腹水A1の濾過処理を行うことができるとともに、送液ポンプ5の送液方向を切り替えるだけで、濾過器3において腹水を濾過する濾過モードと、濾過器3を洗浄する洗浄モードとを切り替えることができるので、簡易な構成で効率よく腹水の濾過処理や洗浄処理を行うことができる。このような腹水処理システム1であれば、これまでの腹水処理システムとは異なり、濾過器3の膜洗浄を行うたびにシステムの運転を停止する必要もなく、また、洗浄液供給器を用いて手動で濾過膜の洗浄を行うのではなく、自動で送液ポンプによって濾過膜の洗浄を行うことも可能となるため、多量の腹水の濾過・濃縮処理にかかる時間を削減することが可能となる。さらに、複数の洗浄モードを切り替え可能に構成したことで、腹水の廃棄量を削減することができるとともに、濾過器3の洗浄効果をも高めることができる。
【0055】
以上、本発明に係る腹水処理システム及びその運転方法について図面に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、種々の変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 腹水処理システム
11 第1送液チューブ(腹水導入路)
12 第2送液チューブ(洗浄廃液回収路)
13 第3送液チューブ(濾過腹水移送路)
14 第4送液チューブ(濾過腹水回収路)
15 第5送液チューブ
16 第6送液チューブ
17 第7送液チューブ
18 第8送液チューブ(洗浄廃液回収路)
21 腹水貯留バッグ(腹水貯留部)
22 濾過濃縮液回収バッグ
23 濃縮廃液回収バッグ
24 洗浄廃液回収バッグ(洗浄廃液回収部)
25 洗浄液供給バッグ(洗浄液供給部)
3 濾過器
31 腹水導入ポート
32 洗浄廃液排出ポート
33 腹水排出ポート
34 腹水回収ポート
35 ハウジング
36 中空糸膜
371 第1端部材
372 第2端部材
381 第1固定部材
382 第2固定部材
39 濾過空間
391 第1導入空間
392 第2導入空間
4 濃縮器
41 濾過腹水導入ポート
42 濃縮液回収ポート
43 廃液ポート
44 ハウジング
45 中空糸膜
461 第3端部材
462 第4端部材
471 第3固定部材
472 第4固定部材
48 濃縮空間
481 第3導入空間
482 第4導入空間
5 送液ポンプ
6 圧力センサ
7 制御部
81 第1バルブ
82 第2バルブ
83 第3バルブ
84 第4バルブ
85 第5バルブ
86 第6バルブ
87 第7バルブ
図1
図2
図3
図4
図5