(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098355
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】異常判定装置及び異常判定方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/386 20170101AFI20240716BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20240716BHJP
B29C 64/124 20170101ALI20240716BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240716BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240716BHJP
【FI】
B29C64/386
B33Y50/00
B29C64/124
B33Y10/00
B33Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001819
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】小島 和哉
(72)【発明者】
【氏名】浅野 憲啓
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA44
4F213AB16
4F213AP12
4F213AQ01
4F213AR07
4F213AR12
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL67
4F213WL85
4F213WL96
(57)【要約】
【課題】2次元形状の硬化層の積層異常を判定できる技術を提供する。
【解決手段】造形エリアにおいてセラミックス粒子と光硬化樹脂とを含む原料の膜をブレードで成膜することと、造形エリアにおいて膜に光を照射して2次元形状の硬化層を形成することとを繰り返して、3次元形状の造形物を形成する付加製造装置に使用される異常判定装置であって、画像センサによって撮像された画像に基づいて異常判定を行うコントローラを備え、コントローラは、画像センサによって撮像された膜の画像を取得し、取得された膜の画像に基づいて、膜に発生するブレードの移動方向に沿って延びる線として膜に現れる線状異常箇所を検出し、線状異常箇所を検出したことに応じて積層異常が発生したと判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形エリアにおいてセラミックス粒子と光硬化樹脂とを含む原料の膜をブレードで成膜することと、前記造形エリアにおいて前記膜に光を照射して2次元形状の硬化層を形成することとを繰り返して、3次元形状の造形物を形成する付加製造装置に使用される異常判定装置であって、
画像センサによって撮像された画像に基づいて異常判定を行うコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記画像センサによって撮像された前記膜の前記画像を取得し、
取得された前記膜の前記画像に基づいて、前記ブレードの移動方向に沿って延びる線として前記膜に現れる線状異常箇所を検出し、
前記線状異常箇所を検出したことに応じて積層異常が発生したと判定する、
異常判定装置。
【請求項2】
作業者へ報知する報知装置をさらに備え、
前記コントローラは、前記積層異常が発生したことを前記報知装置に報知させる、請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
記憶装置をさらに備え、
前記コントローラは、
前記積層異常が発生したと判定したことに応じて、前記画像センサによって撮像された前記画像を前記記憶装置に記憶し、
取得された前記膜の前記画像に基づいて、前記線状異常箇所の位置及び大きさを検出し、
検出された前記線状異常箇所の前記位置及び前記大きさを前記記憶装置に記憶する、請求項1又は2に記載の異常判定装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
取得された前記膜の前記画像に基づいて、前記線状異常箇所の位置及び大きさを検出し、
層ごとの断面形状のデータを含む前記造形物のデータを取得し、
取得された前記データと、検出された前記線状異常箇所の前記位置及び前記大きさとに基づいて、前記線状異常箇所をマーキングさせた前記造形物の外観を表示装置に表示させる、請求項1又は2に記載の異常判定装置。
【請求項5】
記憶装置をさらに備え、
前記コントローラは、
前記膜に発生する点で現れる点状異常箇所を検出し、取得された前記膜の前記画像に基づいて、前記線状異常箇所の位置及び大きさ、並びに前記点状異常箇所の位置及び大きさを検出し、
検出された前記線状異常箇所の前記位置及び前記大きさ、並びに前記点状異常箇所の前記位置及び前記大きさを前記記憶装置に記憶させ、
前記線状異常箇所と前記点状異常箇所とは前記大きさ及び前記移動方向に基づいて分別される、請求項1又は2に記載の異常判定装置。
【請求項6】
前記記憶装置は、前記造形物の形成後の外観検査結果のデータと、前記積層異常が発生したか否かのデータとをさらに記憶する、請求項5に記載の異常判定装置。
【請求項7】
造形エリアにおいてセラミックス粒子と光硬化樹脂とを含む原料の膜をブレードで成膜することと、前記造形エリアにおいて前記膜に光を照射して2次元形状の硬化層を形成することとを繰り返して、3次元形状の造形物を形成する付加製造装置に適用される異常判定方法であって、
画像センサによって撮像された前記膜の画像を取得するステップと、
取得された前記膜の前記画像に基づいて、前記ブレードの移動方向に沿って延びる線として前記膜に現れる線状異常箇所を検出するステップと、
前記線状異常箇所を検出したことに応じて積層異常が発生したと判定するステップと、
を含む、異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常判定装置及び異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、3次元形状の造形物を形成する付加製造装置を開示する。この装置は、3次元のモデルに基づいて層を印刷する。この装置は、印刷された層を撮像し、撮像された画像と規定のパターンとを比較し、不一致の場合には是正処理を取る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、付加製造装置として、造形エリアにおいて光硬化樹脂を含む原料の膜をブレードで成膜することと、造形エリアにおいて膜に光を照射して2次元形状の硬化層を形成することとを繰り返して、3次元形状の造形物を形成する手法を採用する装置が知られている。
【0005】
上記手法を採用する装置において、特許文献1記載の画像に基づいた異常判定を採用した場合、2次元形状の硬化層の形成異常を判定することはできるものの、2次元形状の硬化層の積層異常を判定することは困難である。本開示は、2次元形状の硬化層の積層異常を判定する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る異常判定装置は、付加製造装置に使用される異常判定装置である。付加製造装置は、造形エリアにおいてセラミックス粒子と光硬化樹脂とを含む原料の膜をブレードで成膜することと、造形エリアにおいて膜に光を照射して2次元形状の硬化層を形成することとを繰り返して、3次元形状の造形物を形成する。異常判定装置は、画像センサによって撮像された画像に基づいて異常判定を行うコントローラを備える。コントローラは、画像センサによって撮像された膜の画像を取得し、取得された膜の画像に基づいて、ブレードの移動方向に沿って延びる線として膜に現れる線状異常箇所を検出し、線状異常箇所を検出したことに応じて積層異常が発生したと判定する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、2次元形状の硬化層の積層異常を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る異常判定装置が用いられる付加製造装置の概要図である。
【
図2】
図2は、積層異常が発生するプロセスを説明する模式図である。
【
図3】
図3は、原料の膜に発生するスジを説明する模式図である。
【
図5】
図5は、異常判定方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の概要]
最初に、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0010】
(条項1) 本開示の一側面に係る異常判定装置は、付加製造装置に使用される異常判定装置である。付加製造装置は、造形エリアにおいてセラミックス粒子と光硬化樹脂とを含む原料の膜をブレードで成膜することと、造形エリアにおいて膜に光を照射して2次元形状の硬化層を形成することとを繰り返して、3次元形状の造形物を形成する。異常判定装置は、画像センサによって撮像された画像に基づいて異常判定を行うコントローラを備える。コントローラは、画像センサによって撮像された膜の画像を取得し、取得された膜の画像に基づいて、ブレードの移動方向に沿って延びる線として膜に現れる線状異常箇所を検出し、線状異常箇所を検出したことに応じて積層異常が発生したと判定する。
【0011】
条項1に係る異常判定装置においては、画像センサによって撮像された膜の画像が取得され、取得された膜の画像に基づいて、膜に発生するブレードの移動方向に沿って延びる線状異常箇所が検出される。ブレードの移動方向に沿って延びる線として膜に現れる線状異常箇所は、ブレードが2次元形状の硬化層又は硬化層の一部を引っかけて引きずることにより形成される。
【0012】
ブレードが2次元形状の硬化層又は硬化層の一部を引きずる場合、2次元形状の硬化層の位置が設計値からずれてしまうため、以降に形成される硬化層は、引きずられた硬化層と接続することができず、積層異常が発生する。条項1に係る異常判定装置は、ブレードの移動方向に沿って延びる線として膜に現れる線状異常箇所を検出することで、2次元形状の硬化層の積層異常を判定できる。
【0013】
(条項2) 条項1に記載の異常判定装置は、作業者へ報知する報知装置をさらに備え、コントローラは、積層異常が発生したことを報知装置に報知させてもよい。条項2に記載の異常判定装置は、積層異常が発生したことを報知装置によって作業者へ報知できる。
【0014】
(条項3) 条項1又は2に記載の異常判定装置は記憶装置をさらに備え、コントローラは、積層異常が発生したと判定したことに応じて、画像センサによって撮像された画像を記憶装置に記憶し、取得された膜の画像に基づいて、線状異常箇所の位置及び大きさを検出し、検出された線状異常箇所の位置及び大きさを記憶装置に記憶してもよい。条項3に記載の異常判定装置は、積層異常が発生したと判定された画像を事後的に検証するデータを収集できる。
【0015】
(条項4) 条項1~3の何れか一項に記載の異常判定装置において、コントローラは、取得された膜の画像に基づいて、線状異常箇所の位置及び大きさを検出し、一層ごとの断面形状のデータを含む造形物のデータを取得し、取得されたデータと、検出された線状異常箇所の位置及び大きさとに基づいて、線状異常箇所をマーキングさせた造形物の外観を表示装置に表示させてもよい。条項4に記載の異常判定装置は、線状異常箇所を視認可能な態様で表示装置に表示させることができる。
【0016】
(条項5) 条項1又は2に記載の異常判定装置は記憶装置をさらに備え、コントローラは、膜に発生する点で現れる点状異常箇所を検出し、取得された膜の画像に基づいて、線状異常箇所の位置及び大きさ、並びに点状異常箇所の位置及び大きさを検出し、検出された線状異常箇所の位置及び大きさ、並びに点状異常箇所の位置及び大きさを記憶装置に記憶させ、線状異常箇所と点状異常箇所とは大きさ及び移動方向に基づいて分別されてもよい。線状異常箇所と点状異常箇所とが区別可能に記憶されるため、条項5に記載の異常判定装置は、例えば、線状異常箇所の検出閾値、又は、造形物もしくはサポート部材の設計値を検証するためのデータを収集できる。
【0017】
(条項6) 条項5に記載の異常判定装置において、記憶装置は、造形物の形成後の外観検査結果のデータと、積層異常が発生したか否かのデータと、をさらに記憶してもよい。条項6に記載の異常判定装置は、積層異常が発生したと判定された外観検査結果を事後的に検証するために収集できる。
【0018】
(条項7) 本開示の他の側面に係る異常判定方法は、付加製造装置に適用される。付加製造装置は、造形エリアにおいてセラミックス粒子と光硬化樹脂とを含む原料の膜をブレードで成膜することと、造形エリアにおいて膜に光を照射して2次元形状の硬化層を形成することとを繰り返して、3次元形状の造形物を形成する。異常判定方法は、ブレードによって膜が成膜される度に、画像センサによって撮像された膜の画像を取得するステップと、取得された膜の画像に基づいて、ブレードの移動方向に沿って延びる線として膜に現れる線状異常箇所を検出するステップと、線状異常箇所を検出したことに応じて積層異常が発生したと判定するステップとを含む。
【0019】
条項7に係る異常判定方法は、条項1に係る異常判定装置と同一の効果を奏する。
【0020】
[本開示の実施形態の例示]
図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略される。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。「上」「下」「左」「右」の語は、図示する状態に基づくものであり、便宜的なものである。
【0021】
[付加製造装置の一例]
図1は、実施形態に係る異常判定装置が用いられる付加製造装置の概要図である。図中のX方向(第1方向)及びY方向(第2方向)が水平方向であり、Z方向が垂直方向である。以下ではZ方向を上下方向ともいう。
【0022】
付加製造装置1は、3次元形状の造形物を形成する。付加製造装置1は、例えば3次元のCADデータに基づいて造形物を形成する。3次元のCADデータは、一層ごとの断面形状のデータを含む。付加製造装置1は、断面形状のデータに基づいて造形物の断面を一層ずつ形成する。
【0023】
付加製造装置1は、例えば液相光重合法によって造形物を形成する。付加製造装置1は、光硬化樹脂とセラミックス粒子とを含む原料に光を照射することによって層を形成する。原料とは、造形物の材料である。原料は、光硬化樹脂とセラミックス粒子とを含むスラリー状の混合物である。原料は、粉体であってもよい。付加製造装置1は、一例として、液体の原料を貯留する浴槽を用いない液相光重合法によって造形物を形成する。
【0024】
光硬化樹脂とは、光を吸収して固体に変化する合成有機材料である。光硬化樹脂は、一例として、紫外線硬化樹脂であり、紫外線が照射されると硬化する。原料は、光硬化樹脂及びセラミックス粒子の他に、金属、及びその他の樹脂を含んでもよい。
【0025】
セラミックス粒子は、一例として機械材料、電気材料、及び熱的材料として採用されるファインセラミックスからなる粒子であってもよい。ファインセラミックスは、例えば、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化アルミニウムなどで構成される。
【0026】
図1に示されるように、付加製造装置1は、層形成部2、ステージ機構3、原料供給部4、画像センサ60、及び装置コントローラ10を備える。層形成部2は、一例として、光学ユニット20、光反射部材21,23、及び回転駆動部22,24を備える。光学ユニット20は、例えば光源20a及び光学部材20bを備え、光を出射する。光の一例は、紫外線レーザLである。以下では紫外線レーザLを用いて造形する例が示されるが、光は紫外線レーザLに限定されない。
【0027】
光反射部材21,23は、例えばカルバノミラーであり、光学ユニット20から出射された紫外線レーザLの光路を変更する。光反射部材21,23は、回転駆動部22,24により、所定の回転軸を中心として回転動作をする。光反射部材21,23が回転制御されることにより、層形成部2は、層形成高さ位置において、水平方向の所定位置に対して紫外線レーザLを照射することができる。
【0028】
層形成高さ位置とは、紫外線レーザLが照射される高さ位置として予め定められた高さである。紫外線レーザLが照射された場合、原料に含まれる紫外線硬化樹脂が硬化するため、紫外線レーザLが照射された部分のみが層として形成される。層形成部2は、CADデータに基づく断面形状を再現するように紫外線レーザLを照射して、造形物の断面を一層分形成する。
【0029】
ステージ機構3は、基台31を有する。基台31は、層形成部2に対して相対的に上下動する。一例として、ステージ機構3は、駆動部32を備える。駆動部32は、基台31に接続され、基台31を上下動させる。駆動部32は、例えば電動シリンダである。一例として、駆動部32は、一層分の高さ単位で基台31を下降させる。基台31の上面は、造形エリア31Aとして機能し、造形エリア31Aにおいて造形物が形成される。
【0030】
原料供給部4は、ステージ機構3の基台31上に原料を供給する。原料供給部4は、原料タンク40、原料準備部41、及び、ブレード42を備える。原料タンク40は、原料を内部に貯留する。原料準備部41は、原料タンク40の底部を上方向に駆動させて、原料タンク40の上面に形成された開口に一層分の原料50を供給する。原料準備部41は、例えば電動シリンダである。ブレード42は、板状部材であり、一軸方向(Y軸方向)に移動可能に構成される。ブレード42は、原料タンク40から基台31へ移動することによって、原料タンク40上の一層分の原料50を基台31上に供給し、原料の膜33を成膜する。
【0031】
付加製造装置1は、造形エリア31Aを撮像する画像センサ60を備える。画像センサ60は、造形エリア31Aの平面を捉えるように配置されてもよいし、造形エリア31Aを斜め上から見下ろすように配置されてもよい。画像センサ60は、複数台設けられてもよいし、一台設けられてもよい。画像センサ60は、ブレード42の動作に応じて原料の膜33を撮像する。例えば、画像センサ60は、装置コントローラ10の制御信号に基づいて、造形エリア31Aに原料の膜33が成膜される度に、膜33を撮像する。
【0032】
装置コントローラ10は、付加製造装置1の全体を制御するハードウェアである。装置コントローラ10は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算装置、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置、及び通信装置等を有する汎用コンピュータで構成される。
【0033】
装置コントローラ10は、層形成部2、ステージ機構3、原料供給部4、及び画像センサ60と通信可能に接続される。装置コントローラ10は、層形成部2、ステージ機構3、原料供給部4、及び画像センサ60へ制御信号を出力し、層形成部2、ステージ機構3、原料供給部4、及び画像センサ60を制御する。装置コントローラ10は、タッチパネルなどの操作盤(図示せず)に接続されており、操作盤によって受け付けられた作業員のコマンド操作に応じて、層形成部2、ステージ機構3、原料供給部4、及び画像センサ60を動作させる。装置コントローラ10は、装置コントローラ10の記憶装置に記憶された3次元のCADデータに基づいて層形成部2、ステージ機構3、原料供給部4、及び画像センサ60を動作させてもよい。
【0034】
装置コントローラ10は、異常判定装置100と通信可能に接続される。異常判定装置100は、装置コントローラ10から取得された情報に基づいて造形処理の異常を判定する装置である。異常判定装置100は、コントローラ11、記憶装置12、及び報知装置13を備える。コントローラ11は、例えばCPU等の演算装置、ROM、RAM、HDD等の記憶装置、及び通信装置等を有する汎用コンピュータで構成される。
【0035】
コントローラ11は、画像センサ60によって撮像された画像に基づいて異常判定を行う。異常判定は、2次元形状の硬化層が適切に積層されていないことを積層異常と判定する処理である。異常判定の詳細については後述する。
【0036】
コントローラ11は、記憶装置12及び報知装置13に接続され得る。記憶装置12は、HDD等の記憶装置であり、報知装置13は、ディスプレイなどの表示装置、及び/又はスピーカなどの音出力装置である。コントローラ11は、装置コントローラ10から取得された画像等の情報、及び、取得された情報に基づく判定結果等を記憶装置12に格納する。コントローラ11は、報知装置13を制御して、作業員等に情報を報知させる。なお、異常判定装置100のコントローラ11は、装置コントローラ10と同一のハードウェアで構成されてもよい。つまり、一つのコントローラが、装置コントローラ10及びコントローラ11の両方の機能を発揮してもよい。
【0037】
[付加製造方法]
次に、付加製造装置1による造形物の形成について概説する。装置コントローラ10は、基台31上に造形物を形成させる。付加製造装置1の層形成部2に対して、基台31を相対的に上下動させることにより、基台31上に造形物を形成させる。まず、装置コントローラ10は、原料供給部4に、基台31上へ一層分の原料を供給させる。ブレード42は、基台31に原料の膜33を成膜する。
【0038】
続いて、装置コントローラ10は、層形成部2に、紫外線レーザLを照射させる。層形成部2は、原料の膜33に対して、CADデータに基づいて紫外線レーザLを照射する。紫外線レーザLが照射された原料に含まれる紫外線硬化樹脂は硬化する。これにより、造形物の硬化層が形成される。
【0039】
続いて、装置コントローラ10は、基台31の高さを駆動部32に調整させる。駆動部32は、基台31の上面が層形成高さ位置となるように、基台31の高さを調整する。具体的には、駆動部32は、基台31を一層分の高さだけ下降させる。
【0040】
続いて、装置コントローラ10は、原料供給部4に、基台31上へ一層分の原料を供給させる。ブレード42は、基台31に原料の膜33を成膜する。これにより、既に形成された硬化層が原料の膜33に埋もれた状態となる。層形成部2は、原料の膜33に対して、CADデータに基づいて紫外線を照射する。紫外線が照射された原料は硬化する。装置コントローラ10は、このような硬化層の形成を繰り返し、層を形成して一層ずつ積み上げる。これにより、造形物が積層される。造形物は、図示しない焼成装置へと搬送され、焼成される。以上のようにして、造形物が形成される。
【0041】
[積層異常]
図2は、積層異常が発生するプロセスを説明する模式図である。
図2の(A)に示されるように、積層異常が発生していない場合には、膜33と、膜33が硬化した硬化層33aが積層された状態となる。各膜33における硬化層33aは、一体的に連結されている。
【0042】
ここで、
図2の(B)に示されるように、ブレード42が次の膜33を成膜する際に、例えば成膜時のストレス又は造形物への干渉が原因となって、ブレード42が下方の硬化層33aに突き当たることがある(図中のH参照)。ブレード42が硬化層33aに突き当たった場合、硬化層33aが破損し、又は、造形物が転倒するおそれがある。
【0043】
図2の(C)に示されるように、硬化層33aが破損し、又は、造形物が転倒した場合、次回以降形成される硬化層33cは、下方の硬化層33bと接続されていないため、積層異常が発生している。下方の硬化層33bと次回以降形成される硬化層33cとのリンク切れによって、次回以降形成される硬化層33cは全て不良となる。
【0044】
硬化層33aが破損し、又は、造形物が転倒する場合、原料の膜33にブレード42の移動方向に沿って延びる線状異常箇所が形成される。線状異常箇所はスジ(溝)である。
図3は、原料の膜に発生するスジを説明する模式図である。
【0045】
図3の(A)は、造形エリア31Aを平面視した図、
図3の(B)は、
図3の(A)の側面図であり、基台及び造形物のみ断面図で示している。
図3の(A)及び(B)において、原料の膜33のうち、現在作成中の膜33(33g)をグレーで示している。
図3の(A)及び(B)に示されるように、ブレード42が成膜のために移動するときに、硬化層33bの破片33dが存在する場合、ブレード42は破片33dを引きずることになる。この場合、ブレード42の移動方向に沿ったスジ33e(線状異常箇所の一例)が形成される。ブレード42が、転倒した造形物そのものを引きずる場合も、同様のスジ33eが形成される。
【0046】
異常判定装置100のコントローラ11は、上述したスジ33eを画像で認識して積層異常を判定する。コントローラ11は、画像センサ60によって撮像された膜33の画像を装置コントローラ10から取得する。装置コントローラ10は、ブレード42による膜33の成膜直後に、画像センサ60を動作させて画像を取得してもよい。
【0047】
そして、コントローラ11は、取得された膜33の画像に基づいて、膜33に発生するブレード42の移動方向に沿って延びるスジ33eを検出する。コントローラ11は、例えばパターンマッチング技術、特徴量検出技術などに基づいて、スジ33eの位置及び大きさを検出する。コントローラ11は、学習済みのスジ33eの特徴(移動方向に延びる溝、溝幅一定)に基づいた画像認識により、スジ33eを検出してもよい。コントローラ11は、ブレード42の移動方向に延びる溝が所定値(所定の長さ)以上である場合に線状異常箇所であると判定してもよい。所定値は、一例として5cmである。コントローラ11は、スジ33eを検出したことに応じて積層異常が発生したと判定する。
【0048】
コントローラ11は、積層異常が発生したと判定したことに応じて、画像センサ60によって撮像された画像を記憶装置12に記憶してもよい。記憶装置12に画像が記憶されることにより、積層異常が発生した画像を事後的に検証するデータが収集される。
【0049】
なお、コントローラ11は、膜33のスジ33eの位置(座標位置)及び大きさを検出し、記憶装置12に記憶してもよい。記憶装置12に膜33のスジ33eの情報が記憶されることにより、積層異常が発生したと判定された膜33の画像を事後的に検証するデータが収集される。
【0050】
コントローラ11は、積層異常が発生したことを報知装置13によって作業者へ報知してもよい。報知装置13による報知によって、積層異常が発生したことを作業者へ報知できる。作業者は、造形物が完成する前に作成中止を判断できるので、材料及び時間のロスが低減される。
【0051】
コントローラ11は、膜33の線状異常箇所をマーキングさせた造形物の外観を報知装置13である表示装置に表示させてもよい。
図4は、線状異常箇所の提示例である。
図4は、表示装置の画面Gを示す。コントローラ11は、一層ごとの断面形状のデータを含む造形物のCADデータを取得し、CADデータに基づいて画面Gに造形物90を表示する。コントローラ11は、取得された膜33の画像に基づいて、スジ33eの位置及び大きさを検出する。
【0052】
コントローラ11は、検出されたスジ33eの位置及び大きさに基づいて、スジ33eに対応する箇所をマーキングする。
図4に示されるように、画面Gにおいて、四角のマーク91によってスジ33eに対応する箇所がマーキングされる。マーキングの手法は、四角のマーク91に限定されない。マーク91は、四角以外の形状であってもよいし、マーク91は任意の色で強調され得る。マーク91によって、異常判定装置100は、線状異常箇所を視認可能な態様で表示装置に表示させることができる。
【0053】
[異常判定方法]
図5は、異常判定方法の一例を示すフローチャートである。
図5に示されるフローチャートは、装置コントローラ10、及び異常判定装置100のコントローラ11によって実行される。
【0054】
装置コントローラ10は、原料供給部4を動作させて、一層分の原料50を準備する(ステップS10)。原料供給部4の原料準備部41は、原料タンク40の底部を上方向に駆動させて、原料タンク40の上面に形成された開口に一層分の原料50を供給する。
【0055】
次に、装置コントローラ10は、原料供給部4を動作させて、原料の膜33を成膜する(ステップS12)。原料供給部4のブレード42は、一層分の原料50を基台31上に供給し、原料の膜33を成膜する。
【0056】
次に、装置コントローラ10は、画像センサ60を動作させて、膜33を撮像する(ステップS14)。画像センサ60は、膜33を画角に収めた画像を出力する。
【0057】
次に、異常判定装置100のコントローラ11は、ステップS14で得られた画像を取得し、画像認識を行い、線状異常箇所の有無を判定する。コントローラ11は、膜33にスジ33eが形成されている場合には、線状異常箇所があると判定する(ステップS16:YES)。
【0058】
線状異常箇所があると判定された場合(ステップS16:YES)、コントローラ11は、積層異常が発生した場合に行う異常時処理を実行する(ステップS18)。異常時処理は、作業者への報知、積層異常が発生したと判定した根拠となる画像の記録、造形物を作成する際にステップS14で得られる全ての画像の記録、
図5に示されるフローチャートの中止などが含まれ、状況に応じて適宜選択される。
【0059】
線状異常箇所がないと判定された場合(ステップS16:NO)、及び、ステップS18において
図5に示されるフローチャートの中止が行われなかった場合には、装置コントローラ10は、層形成部2を動作させて紫外線レーザLを照射し、膜33に硬化層33aを形成する(ステップS20)。
【0060】
続いて、装置コントローラ10は、ステージ機構3の駆動部32を動作させて、ステージ機構3の基台31を一層分、下降させる(ステップS22)。
【0061】
続いて、装置コントローラ10は、終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS24)。終了条件は、例えば、基台31が最低位置まで下降し、下降する余地が無い場合に満たされる。あるいは、終了条件は、設定された積層数を処理した場合に満たされる。あるいは、終了条件は、装置コントローラ10が作業者から終了命令を受け付けた場合に満たされる。
【0062】
終了条件が満たされていない場合(ステップS24:NO)、装置コントローラ10は、ステップS10から処理を開始する。装置コントローラ10及び異常判定装置100のコントローラ11は、終了条件が満たされるまで、ステップS10~ステップS24を繰り返し実行する。終了条件が満たされた場合(ステップS24:YES)、
図5に示されるフローチャートが終了する。
【0063】
図5に示されるフローチャートが実行されることにより、一層ごとに積層異常が発生しているか否かが判定され、積層異常が発生した場合には、異常時処理が実行される。
【0064】
[実施形態のまとめ]
異常判定装置100においては、画像センサ60によって撮像された膜33の画像が取得され、取得された膜33の画像に基づいて、膜33に発生するブレード42の移動方向に沿って延びるスジ33eが検出される。スジ33eは、ブレード42が2次元形状の硬化層33a又は硬化層33aの一部を引っかけて引きずることにより形成される。
【0065】
ブレード42が2次元形状の硬化層33a又は硬化層33aの一部を引きずる場合、2次元形状の硬化層33aの位置が設計値からずれてしまうため、以降に形成される硬化層33a(
図2の(C)の硬化層33c)は、引きずられた硬化層33a(
図2の(C)の硬化層33b)と接続することができず、積層異常が発生する。異常判定装置100は、膜33に発生するブレード42の移動方向に沿って延びるスジ33eを検出することで、2次元形状の硬化層33aの積層異常を判定できる。付加製造装置1においては、造形物が原料に埋もれた状態で形成されていく。このため、造形物の作成途中において層間のリンク切れが発生しても作業員が目視で確認することは困難であり、造形完了後に原料から取り出して不具合の有無を確認する必要がある。これに対して、異常判定装置100は、積層異常が発生したことを、造形物の作成中に判定できる。これにより、材料及び時間のロスが低減される。
【0066】
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、上述した例示的実施形態に限定されることなく、様々な省略、置換、及び変更がなされてもよい。
【0067】
例えば、異常判定装置100は、スジ33e以外の異常箇所を検出してもよい。例えば、異常判定装置100は、画像センサ60の画像に基づいて、
図3の(A)に示されるように、膜33の傷33f(点状異常箇所の一例)を検出してもよい。膜33の傷33fとスジ33eとは、ブレード42の移動方向に沿って延びるか否かで識別可能である。膜33の傷33fを検出することにより、異常判定装置100は、積層異常は発生していないものの製品不良が発生する可能性があることを作業者に報知できる。
【0068】
異常判定装置100のコントローラ11は、膜33に発生するスジ33e又は溝のうち、線状異常箇所であると判定されなかったスジ又は溝を、点状異常箇所として判定してもよい。コントローラ11は、点状異常箇所の位置(座標位置)及び大きさを検出し、記憶装置12に記憶してもよい。これにより、後工程(例えば外観検査工程)において積層異常が判明し、かつ、点状異常箇所は検出されているものの線状異常箇所が検出されていない場合には、線状異常箇所を検出する閾値が修正され得る。例えば、コントローラ11は、ブレード42の移動方向に延び、かつ、大きさ5cm以上の溝を線状異常箇所として検出していた場合、閾値を例えば4 cmに変更する。これにより、積層異常の検出精度が向上する。あるいは、記憶された点状異常箇所の位置及び大きさに基づいて、次回造形する造形物の大きさ又は形状の設計値が変更されてもよい。あるいは、記憶された点状異常箇所の位置及び大きさに基づいて、次回造形する造形物のサポート部材の大きさ又は形状の設計値が変更されてもよい。
【0069】
コントローラ11は、造形物の形成後の外観検査結果のデータと、積層異常が発生したか否かのデータとをさらに記憶してもよい。外観検査結果のデータとは、例えば造形物を撮像した画像、又は、検査の良否データなどである。これにより、コントローラ11は、積層異常を事後的に検証可能なデータを収集できる。
【0070】
また、異常判定装置100は、
図4の画面Gに表示される造形物90を、CADデータに基づいて表示したが、付加製造装置1にて作成され洗浄工程にて洗浄された造形物90を撮像した画像を、
図4の画面Gに表示させてもよい。造形物90は、作成後にスキャンされることなく、内部の線状異常箇所がマーキングされて表示され得る。
【0071】
異常判定装置100は、実施形態において説明された付加製造装置1に限定されず、ブレードを用いて原料を引き延ばすあらゆる付加製造装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1…付加製造装置、2…層形成部、10…装置コントローラ、11…コントローラ、60…画像センサ、100…異常判定装置。