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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098362
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】微粒子操作装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/12 20060101AFI20240716BHJP
   G01N 15/00 20240101ALN20240716BHJP
【FI】
B01J19/12 C
G01N15/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001829
(22)【出願日】2023-01-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年1月26日に第69回応用物理学会春季学術講演会のオンライン講演情報にて公開 https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022s/subject/22p-D315-1/advanced?eventCode=jsap2022s 令和4年2月25日に第69回応用物理学会春季学術講演会の講演予稿集にて公開 https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022s/subject/22p-D315-1/advanced?eventCode=jsap2022s 令和4年3月22日に第69回応用物理学会春季学術講演会にて発表 令和4年11月15日にPhysical Review Appliedに掲載された学術論文にて公開 https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.18.054041 令和4年11月16日に学校法人トヨタ学園豊田工業大学のウェブサイトにて公開 https://www.toyota-ti.ac.jp/news/checktti/002043.html
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「超短赤外パルス光源を用いた顕微イメージング装置の開発と生命科学への応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】藤 貴夫
【テーマコード(参考)】
4G075
【Fターム(参考)】
4G075AA27
4G075AA61
4G075AA63
4G075BB05
4G075CA34
4G075DA02
4G075DA18
4G075EA06
4G075EB33
4G075EB34
4G075EB35
(57)【要約】
【課題】本明細書では、比較的容易な構成によって、十分な輻射力を得ることが可能な技術を提供する。
【解決手段】本明細書が開示する微粒子操作装置は、中赤外光を照射する照射装置と、微粒子が存在する被操作領域に隣接配置される操作面を有するとともに、照射装置から中赤外光が照射される光学素子と、を備える。光学素子の内部に入射した中赤外光が、操作面において全反射することで、操作面から微粒子に向けて中赤外光のエバネッセント波が浸出して、微粒子に輻射力が作用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子を変位させる微粒子操作装置であって、
中赤外光を照射する照射装置と、
前記微粒子が存在する被操作領域に隣接配置される操作面を有するとともに、前記照射装置から前記中赤外光が照射される光学素子と、
を備え、
前記光学素子の内部に入射した前記中赤外光が、前記操作面において全反射することで、前記操作面から前記微粒子に向けて前記中赤外光のエバネッセント波が浸出して、前記微粒子に輻射力が作用する、
微粒子操作装置。
【請求項2】
前記中赤外光の波長は、2.5μmから25μmの範囲内である、請求項1に記載の微粒子操作装置。
【請求項3】
前記光学素子は、プリズムであり、
前記プリズムは、前記照射装置から照射された前記中赤外光が前記光学素子の内部に入射する入射面と、前記操作面において全反射した後の前記中赤外光が前記光学素子の外部に出射する出射面と、をさらに有する、請求項1に記載の微粒子操作装置。
【請求項4】
前記光学素子の前記操作面は、前記被操作領域に対して鉛直下方に隣接配置される、請求項1に記載の微粒子操作装置。
【請求項5】
前記被操作領域は、液体で満たされている、請求項1に記載の微粒子操作装置。
【請求項6】
前記中赤外光は、前記微粒子における分子振動及び格子振動のうち少なくとも一方を励起する波長を含む、請求項1に記載の微粒子操作装置。
【請求項7】
前記中赤外光は、前記微粒子を構成する所定の分子の振動を励起する波長を含む、請求項1に記載の微粒子操作装置。
【請求項8】
前記中赤外光は、前記微粒子が有する所定の分子構造の振動を励起する波長を含む、請求項1に記載の微粒子操作装置。
【請求項9】
前記所定の分子構造は、所定の官能基、所定の単量体、及び所定の分子結合のうち少なくとも1つを含む、請求項8に記載の微粒子操作装置。
【請求項10】
前記照射装置は、前記中赤外光の波長を変化させる波長変化機構を備える、請求項1に記載の微粒子操作装置。
【請求項11】
前記微粒子の温度を変化させる温度変化装置をさらに備える、請求項1に記載の微粒子操作装置。
【請求項12】
前記被操作領域の圧力を変化させる圧力変化装置をさらに備える、請求項1に記載の微粒子操作装置。
【請求項13】
前記微粒子は、生体物質を含む、請求項1に記載の微粒子操作装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、微粒子操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、微粒子を変位させる微粒子操作装置が開示される。前記微粒子操作装置は、前記微粒子が存在する被操作領域に隣接配置されるグラフェンと、中赤外光を照射する照射装置と、を備える。前記微粒子操作装置では、前記グラフェンのプラズモン共鳴により、前記グラフェンの表面近傍において表面プラズモン波が生成されて、前記微粒子に輻射力が作用する、
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Puspita Paul, Peter Q. Liu, Dynamically Reconfigurable Bipolar Optical Gradient Force Induced by Mid-Infrared Graphene Plasmonic Tweezers for Sorting Dispersive Nanoscale Objects, Advanced Optical Materials 10, 2101744 (2022).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中赤外光は、近赤外光等と比較して波長が長い光であり、物質に吸収されやすい。中赤外光は、物質の分子振動や格子振動に共鳴するため吸収される。このため、中赤外光を被操作領域に直接照射すると、中赤外光が、被操作領域中に存在する物質(例えば水)に吸収されるおそれがある。結果として、被操作領域中に存在する物質が加熱され、微粒子に作用する輻射力が不十分となることがある。そこで、非特許文献1の微粒子操作装置では、グラフェンのプラズモン共鳴を利用して生成した表面プラズモン波が、微粒子に輻射力を作用させる。この構成によれば、被操作領域への表面プラズモン波の侵入長が短いことから、中赤外光が被操作領域中に存在する物質に吸収されることが抑制され、十分な輻射力が得られる。
【0005】
ただし、非特許文献1の微粒子操作装置は、実験ではなく、理論シミュレーションに基づくものである。これを実現するためには、グラフェンを秩序良くナノレベルで配列することや、グラフェンの電荷キャリア密度を制御することが必要となる。このため、非特許文献1の構成によって十分な輻射力を得ることは容易ではない。本明細書では、比較的容易な構成によって、十分な輻射力を得ることが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する微粒子操作装置は、中赤外光を照射する照射装置と、前記微粒子が存在する被操作領域に隣接配置される操作面を有するとともに、前記照射装置から前記中赤外光が照射される光学素子と、を備える。前記光学素子の内部に入射した前記中赤外光が、前記操作面において全反射することで、前記操作面から前記微粒子に向けて前記中赤外光のエバネッセント波が浸出して、前記微粒子に輻射力が作用する。
【0007】
上記の構成によれば、光学素子の操作面から浸出したエバネッセント波が、微粒子に輻射力を作用させる。被操作領域へのエバネッセント波の侵入長が短いことから、中赤外光が被操作領域中に存在する物質に吸収されることが抑制されるので、十分な輻射力が得られる。また、エバネッセント波は比較的容易な手段によって生成可能であるため、上記の微粒子操作装置は比較的容易な構成となっている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1に係る微粒子操作装置2を模式的に示す図である。
図2】シリカ微粒子Sの透過特性及びポリスチレン微粒子Pの透過特性を示すグラフである。
図3】実施例1の撮像装置12によって取得された連続画像を用いて、シリカ微粒子Sの時間変位を示す図である。
図4】実施例1の撮像装置12によって取得された連続画像を用いて、ポリスチレン微粒子Pの時間変位を示す図である。
図5】実施例2に係る微粒子操作装置102を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記中赤外光の波長は、2.5μmから25μmの範囲内であってもよい。
【0010】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記光学素子は、プリズムであってもよい。前記プリズムは、前記照射装置から照射された前記中赤外光が前記光学素子の内部に入射する入射面と、前記操作面において全反射した後の前記中赤外光が前記光学素子の外部に出射する出射面と、をさらに有してもよい。
【0011】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記光学素子の前記操作面は、前記被操作領域に対して鉛直下方に隣接配置されてもよい。
【0012】
操作面から浸出したエバネッセント波は、操作面から離れるにつれて指数関数的に減衰していく。このため、微粒子が操作面から離れた位置にあると、エバネッセント波の輻射力によって微粒子を変位させる(即ち操作する)ことが困難になり得る。上記の構成によれば、操作面が、被操作領域に対して鉛直下方に隣接配置される。通常、被操作領域内の微粒子は、重力に従って鉛直下方に移動していく。従って、微粒子が操作面の近傍に集められるので、エバネッセント波の輻射力によって微粒子を操作することが容易になる。
【0013】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記被操作領域は、液体で満たされてもよい。
【0014】
例えば被操作領域が気体で満たされる場合、微粒子が比較的自由に動くので、微粒子の取り扱いが困難になるおそれがある。上記の構成によれば、被操作領域が液体で満たされる。これにより、微粒子の動きが比較的拘束されるので、微粒子の取り扱いが容易になる。
【0015】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記中赤外光は、前記微粒子における分子振動及び格子振動のうち少なくとも一方を励起する波長を含んでもよい。
【0016】
微粒子の分子振動及び/又は格子振動が励起されると、微粒子における光の吸収量が増加すること等により、微粒子に作用する輻射力が増加することが分かっている。上記の構成によれば、微粒子に輻射力を作用させる過程において、特定の微粒子の分子振動及び/又は格子振動を励起することができるので、当該微粒子に作用する輻射力を増加させることができる。従って、特定の微粒子の変位量を増加することができる。また、この技術を応用することにより、特定の微粒子を選別することができる。
【0017】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記中赤外光は、前記微粒子を構成する所定の分子の振動を励起する波長を含んでもよい。
【0018】
分子の振動が励起されると、微粒子における光の吸収量が増加すること等により、微粒子に作用する輻射力が増加することが分かっている。上記の構成によれば、微粒子に輻射力を作用させる過程において、所定の分子の振動を励起することができるので、当該分子を有する微粒子に作用する輻射力を増加させることができる。従って、所定の分子を有する微粒子の変位量を増加することができる。また、この技術を応用することにより、所定の分子を有する微粒子を選別することができる。
【0019】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記中赤外光は、前記微粒子が有する所定の分子構造の振動を励起する波長を含んでもよい。
【0020】
分子構造の振動が励起されると、微粒子における光の吸収量が増加すること等により、微粒子に作用する輻射力が増加することが分かっている。上記の構成によれば、微粒子に輻射力を作用させる過程において、所定の分子構造の振動を励起することができるので、当該分子構造を有する微粒子に作用する輻射力を増加させることができる。従って、所定の分子構造を有する微粒子の変位量を増加することができる。また、この技術を応用することにより、所定の分子構造を有する微粒子を選別することができる。
【0021】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記所定の分子構造は、所定の官能基、所定の単量体、及び所定の分子結合のうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0022】
上記の構成によれば、所定の官能基、所定の単量体、及び/又は所定の分子結合を有する微粒子の変位量を増加することができる。また、この技術を応用することにより、所定の官能基、所定の単量体、及び/又は所定の分子結合を有する微粒子を選別することができる。
【0023】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記照射装置は、前記中赤外光の波長を変化させる波長変化機構を備えてもよい。
【0024】
上記の構成によれば、中赤外光の波長を変化させることができる。これにより、例えば被操作領域中で振動を励起させる微粒子(又は、分子、分子構造、格子構造)を適宜変更することができる。さらに、選別対象とする微粒子を適宜変更することができる。
【0025】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記微粒子操作装置は、前記微粒子の温度を変化させる温度変化装置をさらに備えてもよい。
【0026】
上記の構成によれば、微粒子の温度に依存する要素(例えば、分子、分子構造、及び格子構造の振動準位)を変化させることができる。
【0027】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記微粒子操作装置は、前記被操作領域の圧力を変化させる圧力変化装置をさらに備えてもよい。
【0028】
上記の構成によれば、被操作領域の圧力に依存する要素(例えば、分子、分子構造、及び格子構造の振動準位)を変化させることができる。
【0029】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記微粒子は、生体物質を含んでもよい。
【0030】
近年、生体物質(例えば、DNA、タンパク質)を低侵襲に操作して検査を行う検査技術(例えば、リキッドバイオプシー)が注目されている。このような技術において近赤外光を用いる場合、近赤外光の波長が短い(即ちエネルギーが大きい)ことに起因して、生体物質を損傷させるおそれがある。上記の構成によれば、比較的波長が長い(即ちエネルギーが小さい)中赤外光が用いられるため、生体物質を損傷させることを抑制できる。
【0031】
なお、本明細書でいう「波長」とは、特に記載しない限り、「光が大気中を伝播する場合の波長」を意味する。このため本明細書では、「光が大気中とは異なる媒質中を伝播する場合の波長」については、特に記載しない限り不問とする。
【0032】
(実施例1;微粒子操作装置2)
図1に示すように、微粒子操作装置2は、試料保持部4と、照射装置6と、導光部8と、吸光部10と、撮像装置12と、照明装置14と、制御装置16と、を備える。
【0033】
試料保持部4は、プリズム18と、カバー部材20と、を備える。プリズム18は、図示しない台座によって位置が固定されている。カバー部材20は、プリズム18の上部を覆うように配置される。カバー部材20には、例えばガラスが用いられる。本実施例では、プリズム18とカバー部材20の間に規定される領域を「被操作領域D」とも呼ぶ。
【0034】
本実施例の被操作領域Dには、試料Xが封入される。試料Xは、シリカ微粒子Sとポリスチレン微粒子Pがそれぞれ懸濁された水溶液である。ここでいうシリカ微粒子Sとは、SiO2の分子結晶のことである。シリカ微粒子Sの粒径は、約5.5μmである。ポリスチレン微粒子Pの粒径は、約5.7μmである。
【0035】
プリズム18には、例えばZnSeが用いられる。プリズム18は、第1面22と、第2面24と、第3面26と、第4面28とを備える。第1面22は、水平方向に広がっているとともに、被操作領域Dに面している。第2面24は、第1面22に接続しているとともに、導光部8の集光レンズ36に向けられている。第3面26は、第1面22に接続しているとともに、吸光部10に向けられている。第4面28は、第2面24と第3面26の間を接続するとともに、照明装置14に向けられている。
【0036】
照射装置6は、中赤外光Mを照射する。本実施例の照射装置6は、QCL(量子カスケードレーザ)装置である。図示しないが、照射装置6は、光源となるQCL素子と、QCL素子の発光波長を変化させる機構(例えば、外部共振器)と、を備える。照射装置6が照射する中赤外光Mの波長は、当該機構によって適宜調節可能である。照射装置6が照射可能な中赤外光Mの波長域は、少なくとも2.5μmから25μmの波長域を包含する。
【0037】
導光部8は、コリメートレンズ30と、ビームエキスパンダ32と、ミラー34と、集光レンズ36と、を備える。導光部8は、照射装置6から照射された中赤外光Mを導いて、プリズム18の第2面24へと入射させる。導光部8は、第2面24に対する中赤外光Mの入射角度と、中赤外光Mの光束と、を調節するために設けられる。
【0038】
第2面24を介してプリズム18の内部へ入射した中赤外光Mは、その後、第1面22へと入射する。本実施例では、第1面22に対する中赤外光Mの入射角度は、第1面22における臨界角を上回るように調節されている。このため、プリズム18の内部を伝播する中赤外光Mは、第1面22において全反射する。第1面22において全反射した後の中赤外光Mは、第3面26を介してプリズム18の外部へと出射していく。
【0039】
吸光部10は、中赤外光Mを吸収可能なブロック38を備える。ブロック38は、第3面26を介してプリズム18の外部へと出射された中赤外光Mを吸収する。これにより、第3面26を介してプリズム18の外部へと出射された中赤外光Mが、その後に何らかの経路を辿って再度プリズム18へと入射することを抑制できる。
【0040】
撮像装置12は、試料保持部4の鉛直上方に配置される。撮像装置12は、カバー部材20の上方から、被操作領域Dの様子を撮像する。図示しないが、撮像装置12は、様々な波長領域に対応したカメラ(例えば、可視光カメラ、赤外線カメラ)を備える。
【0041】
照明装置14は、試料保持部4の鉛直下方に配置される。照明装置14は、プリズム18の下方から光を照射する。これにより、照明装置14は、撮像装置12において鮮明な画像を取得することを補助できる。照明装置14は、例えばハロゲンランプである。
【0042】
制御装置16は、照射装置6と、撮像装置12と、照明装置14と、を含む電装部品に対して電気的に接続される。制御装置16は、ROM、RAM等から構成されており、所定のプログラムが記憶されたメモリ(図示せず)を備える。制御装置16は、所定のプログラムに従って、各電装部品の動作を制御する。なお、制御装置16及び各電装備品は、図示しない電源から供給される電力によって動作する。
【0043】
(微粒子操作装置2の動作原理)
プリズム18の内部を伝播する中赤外光Mが第1面22において全反射すると、当該中赤外光Mに基づくエバネッセント波EWが、第1面22を介して被操作領域Dへと浸出する。エバネッセント波EWは、第1面22に直交する波面を有しており、第1面22と平行に進行する。このエバネッセント波EWが、シリカ微粒子S及びポリスチレン微粒子Pに輻射力を作用させる。
【0044】
(微粒子操作装置2によるシリカ微粒子Sの選択的操作)
図2から、シリカ微粒子Sにおける光の吸収量は、9.3μmの波長において極大となることが分かる。これより、9.3μmの波長を有する光は、シリカ微粒子Sの格子振動(具体的には、シリカ微粒子Sが有するシロキサン結合の振動)を励起することが分かる。一方、ポリスチレン微粒子Pにおける光の吸収量は、9.3μm付近の波長帯において、ほぼ一定であることが分かる。これより、9.3μmの波長を有する光は、ポリスチレン微粒子Pの分子振動を励起しないことが分かる。
【0045】
図1の例では、照射装置6が照射する中赤外光Mの波長は、9.3μmに調節される。従って、シリカ微粒子Sの格子振動が励起され、ポリスチレン微粒子Pの分子振動が励起されないので、シリカ微粒子Sに作用する輻射力が、ポリスチレン微粒子Pに作用する輻射力と比べて大幅に増加する。これにより、シリカ微粒子Sは、ポリスチレン微粒子Pと比較して大幅に変位する。シリカ微粒子S及びポリスチレン微粒子Pが実際に変位する様子は、図3図4に示される。
【0046】
図3に示すように、照射装置6(図1参照)によって中赤外光Mが照射されると、被操作領域D中のシリカ微粒子Sは、約3μm/sの変位速度で変位していく。図4に示すように、照射装置6(図1参照)によって中赤外光Mが照射されると、被操作領域D中のポリスチレン微粒子Pは、約0.3μm/sの変位速度で変位していく。
【0047】
図3図4から分かるように、微粒子操作装置2は、シリカ微粒子Sを、ポリスチレン微粒子Pと比較して約10倍のスケールで変位させることが可能である。即ち、微粒子操作装置2は、シリカ微粒子Sを選択的に変位させることができる。
【0048】
なお本実施例では、試料X中の水溶液に対して、NaClを溶解させてもよい。即ち、水溶液に、Naイオン及びClイオンを添加してもよい。これらのイオンは、シリカ微粒子S(又はポリスチレン微粒子P)の表面電荷を中和するとともに、プリズム18の表面電荷を中和する。これにより、シリカ微粒子S(又はポリスチレン微粒子P)とプリズム18の間に働く静電気力(即ち反発力)が緩和されるので、シリカ微粒子S(又はポリスチレン微粒子P)とプリズム18の間の距離をより小さくすることができる。結果として、プリズム18から浸出したエバネッセント波EWの輻射力がシリカ微粒子S(又はポリスチレン微粒子P)に対してより強く作用するので、シリカ微粒子S(又はポリスチレン微粒子P)の変位速度がより大きくなる。
【0049】
(実施例2;微粒子操作装置102)
図5に示すように、微粒子操作装置102は、実施例1の微粒子操作装置2(図1参照)と略同様の構成を備える。本実施例では、微粒子操作装置2と共通する構成については同一の符号を付すとともに、その説明を省略する。
【0050】
本実施例の被操作領域Dには、試料Yが封入される。試料Yは、任意の被験者から採取された血液である。血液には、様々な生体物質(例えば、DNA、タンパク質)が含まれる。図5の例では、血液中の生体物質のうち、本実施例の操作対象ともいえるバイオマーカーBMのみを図示している。ここでいうバイオマーカーBMとは、生体情報を計る指標となる物質を指す。
【0051】
微粒子操作装置102は、温度変化装置104と、圧力変化装置106と、をさらに備える。温度変化装置104は、例えば、電熱線やペルチェ素子である。温度変化装置104は、被操作領域Dの温度を変化させることができる。圧力変化装置106は、例えば、被操作領域Dの容積を増減させる機構や、被操作領域Dに試料Y又は空気を加圧して送り込む機構である。圧力変化装置106は、被操作領域Dの圧力を変化させることができる。なお、温度変化装置104及び圧力変化装置106の動作は、それぞれ制御装置16によって制御される。
【0052】
例えば、温度変化装置104及び圧力変化装置106は、人間の体内環境を再現するように、被操作領域D内の温度及び圧力を調節する。これにより、温度又は圧力の変化によって被操作領域D内の生体物質が変質してしまうことを抑制できる。
【0053】
(微粒子操作装置102によるバイオマーカーBMの選択的操作)
本実施例では、バイオマーカーBMの分子振動が励起されるように、照射装置6が照射する中赤外光Mの波長が調節される。例えばバイオマーカーBMがタンパク質である場合、当該タンパク質が有するペプチド結合の振動が励起されるように、中赤外光Mの波長が調節される。あるいは、バイオマーカーBMが特定の塩基配列(即ち遺伝情報)を含むDNAである場合、当該塩基配列の振動が励起されるように、中赤外光Mの波長が調節される。
【0054】
微粒子操作装置102は、バイオマーカーBMの分子振動を励起することにより、バイオマーカーBMに作用する輻射力を増加させる。これにより、微粒子操作装置102は、バイオマーカーBMを選択的に変位させることができる。
【0055】
(変形例)
試料保持部4の態様は、適宜変更されてもよい。例えば、試料保持部4は、プレパラートであってもよい。あるいは、試料保持部4は、液槽であってもよい。また、試料保持部4の上部は、大気に開放されていてもよい。
【0056】
照射装置6が照射可能な中赤外光Mの波長域は、2.5μmを下回る波長域や、25μmを上回る波長域を包含してもよい。
【0057】
被操作領域Dは、液体で満たされていなくてもよい。例えば、被操作領域Dの少なくとも一部は、気体で満たされていてもよい。あるいは、被操作領域D内は、真空とされてもよい。
【0058】
被操作領域Dは、水溶液以外の液体で満たされてもよい。例えば、被操作領域Dは、有機溶媒で満たされてもよい。
【0059】
試料X中のシリカ微粒子S及び/又はポリスチレン微粒子Pの粒径は、適宜変更されてもよい。例えば、シリカ微粒子S及び/又はポリスチレン微粒子Pの粒径は、1.0μm程度であってもよい。あるいは、シリカ微粒子S及び/又はポリスチレン微粒子Pの粒径は、1.0μm未満であってもよい。
【0060】
試料X中のシリカ微粒子Sは、約5.5μmの粒径を有するシリコーンレジンの微粒子に置き換えられてもよい。あるいは、試料X中のシリカ微粒子Sは、約5.5μmの粒径を有するTPM(正式には3-(trimethoxysilyl)propyl methacrylateと呼ばれる。)の微粒子に置き換えられてもよい。シリコーンレジン及びTPMは、いずれもシリカ微粒子Sと同様にシロキサン結合を有する。このため、微粒子操作装置2は、シリコーンレジン(又はTPM)を選択的に変位させることができる。
【0061】
プリズム18には、ZnSe以外(例えば、プリズム18には、ダイヤモンド、シリコン、CaF2、ゲルマニウム)が用いられてもよい。
【0062】
プリズム18は、第1面22が水平方向に対して傾斜するように配置されてもよい。
【0063】
微粒子操作装置102は、温度変化装置104及び圧力変化装置106のうち少なくとも一方を備えていなくてもよい。
【0064】
微粒子操作装置2は、シリカ微粒子Sの格子振動を励起する代わりに、ポリスチレン微粒子Pの分子振動(具体的には、ポリスチレン微粒子Pが有するスチレンの振動)を励起してもよい。これにより、微粒子操作装置2は、ポリスチレン微粒子Pを選択的に変位させてもよい。
【0065】
微粒子操作装置2(又は微粒子操作装置102)は、試料X(又は試料Y)以外の試料に適用されてもよい。例えば、微粒子操作装置2(又は微粒子操作装置102)は、複数の有機化合物が含まれる試料に適用されてもよい。この場合、所定の官能基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基)の振動が励起されるように、照射装置6が照射する中赤外光Mの波長が調節されてもよい。これにより、微粒子操作装置2(又は微粒子操作装置102)は、所定の官能基を有する有機化合物を選択的に変位させてもよい。
【0066】
本明細書又は図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書又は図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0067】
2、102 :微粒子操作装置
4 :試料保持部
6 :照射装置
8 :導光部
10 :吸光部
12 :撮像装置
14 :照明装置
16 :制御装置
18 :プリズム
20 :カバー部材
22 :第1面
24 :第2面
26 :第3面
28 :第4面
30 :コリメートレンズ
32 :ビームエキスパンダ
34 :ミラー
36 :集光レンズ
38 :ブロック
104 :温度変化装置
106 :圧力変化装置
BM :バイオマーカー
D :被操作領域
EW :エバネッセント波
M :中赤外光
P :ポリスチレン微粒子
S :シリカ微粒子
X、Y :試料
図1
図2
図3
図4
図5