(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098370
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】地中レーダ探査方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/88 20060101AFI20240716BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20240716BHJP
G01S 13/30 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
G01S13/88 200
G01S13/28 210
G01S13/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001840
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榊原 淳一
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB10
5J070AC03
5J070AD02
5J070AE11
5J070AF02
5J070AH04
5J070AH31
5J070AK28
(57)【要約】
【課題】1回の送受信時間で、複数回送受信して重ね合わせたことに等しいノイズ低減効果を得て、探査深度を向上させる。
【解決手段】地中レーダ探査に際して、送信アンテナ38を用いて、互いに符号が異なる複数の疑似ランダム波40、40-1~40-5を同時に多重発信し、地中22で反射し伝搬して来た複数の疑似ランダム波40、40-1~40-5を受信アンテナ42で同時に受信測定し、受信信号を分離した後、重ね合わせて処理する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中レーダ探査に際して、
送信アンテナを用いて、互いに符号が異なる複数の疑似ランダム波を同時に多重発信し、
地中で反射し伝搬して来た複数の疑似ランダム波を受信アンテナで同時に受信測定し、
受信信号を分離した後、重ね合わせて処理することを特徴とする地中レーダ探査方法。
【請求項2】
探査対象の地中深度に合わせて多重発信する疑似ランダム波の数を調整することを特徴とする請求項1に記載の地中レーダ探査方法。
【請求項3】
探査対象の検出精度に合わせて多重発信する疑似ランダム波の数を調整することを特徴とする請求項1に記載の地中レーダ探査方法。
【請求項4】
前記疑似ランダム波の周波数を複数とすることを特徴とする請求項1に記載の地中レーダ探査方法。
【請求項5】
地中レーダ探査装置において、
送信アンテナ及び受信アンテナと、
該送信アンテナを用いて、互いに符号が異なる複数の疑似ランダム波を同時に多重発信する手段と、
地中で反射し伝搬して来た複数の疑似ランダム波を前記受信アンテナで同時に受信測定し、受信信号を分離した後、重ね合わせて処理する信号処理手段と、
を備えたことを特徴とする地中レーダ探査装置。
【請求項6】
探査対象の地中深度に合わせて多重発信する疑似ランダム波の数を調整する手段を備えたことを特徴とする請求項5に記載の地中レーダ探査装置。
【請求項7】
探査対象の検出精度に合わせて多重発信する疑似ランダム波の数を調整する手段を備えたことを特徴とする請求項5に記載の地中レーダ探査装置。
【請求項8】
前記疑似ランダム波の周波数を複数とする手段を備えたことを特徴とする請求項5に記載の地中レーダ探査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中レーダ探査方法及び装置に係り、特に、1回の送受信時間で、複数回送受信して重ね合わせたことに等しいノイズ低減効果が得られ、探査深度を向上させることが可能な地中レーダ探査方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都市部の水道や電設管の更新、既設ビルの建て替えなどにおいて、既設埋設管や既設基礎杭など障害物との干渉が大きな問題になっている。既設埋設管を破損するとライフラインにダメージを与える。又、既設基礎杭に新設の杭が当たると工事が出来ない。近年はビルの建て替えにおいて、既設の基礎杭等を撤去するのではなく、再利用することが重要で、既設基礎杭などの位置や深さの調査が重要になっている。
【0003】
そこで従来は、パルス波を送受信するパルス波地中レーダが行われている。これは、パルス状の電磁波を地中に伝搬させ、埋設物や地層境界からの反射波から対象物の有無や深度を調査する手法である。この手法は構成が単純、ボーリング穴が不要で簡単であり、データ処理が不要で、調査結果を現場で確認できる等の利点を有する一方、探査深度が2~3m程度と浅く(非特許文献1)、地下水があると探査深度は更に浅くなる。即ち、電磁波は、電導度が大きい物質内では減衰し、伝搬距離が短くなる。電磁波の反射は比誘電率の差が大きいほど大きくなるので、水が飽和していない不飽和地盤内にある鉄管の反射は強いが、水が飽和している飽和地盤内にある鉄管の反射は弱い。又、コンクリートと異なり地盤は不均一なので減衰が大きい。反射波の強度は反射面積に比例するので、反射面積の大きい埋設管などは探査しやすいが、反射面積の小さいコンクリートガラや転石は探査が難しい等の問題点を有する。
【0004】
探査深度を向上させるため、連続波の電磁波を照射する連続波レーダも提案されているが、埋設管の探査深度は5m程度が限界である(非特許文献1)。又、パルス波レーダに比べて精度が低い等の問題点を有していた。
【0005】
又、連続波レーダを改良したものとして、特許文献1には、複数種のチャープ(周波数変調)信号の送受信を行い、地表からの反射波による影響の低減を行う技術が記載され、又、特許文献2には、符号は同じで周波数がわずかに異なる2つの疑似ランダム波を用いることでノイズ低減を図り探査深度を向上する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-197489号公報
【特許文献2】特許第2512339号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】FM-CW地下レーダ装置による地下埋設物探査性能の向上、電力中央研究所報告、平成9年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、周波数変調信号を間隔をずらして複数回送受信する必要があり、時間がかかるという問題点を有する。又、特許文献2に記載の技術は、2つの信号しか同時に使用できないため、探査深度向上の効果が限定されるという制約があり実用化されていなかった。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、1回の送受信時間で、複数回送受信して重ね合わせたのと等しいノイズ低減効果を得て、探査深度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、地中レーダ探査に際して、送信アンテナを用いて、互いに符号が異なる複数の疑似ランダム波を同時に多重発信し、地中で反射し伝搬して来た複数の疑似ランダム波を受信アンテナで同時に受信測定し、受信信号を分離した後、重ね合わせて処理することにより、前記課題を解決するものである。
【0011】
本発明は、又、地中レーダ探査装置において、送信アンテナ及び受信アンテナと、該送信アンテナを用いて、互いに符号が異なる複数の疑似ランダム波を同時に多重発信する手段と、地中で反射し伝搬して来た複数の疑似ランダム波を前記受信アンテナで同時に受信測定し、受信信号を分離した後、重ね合わせて処理する信号処理手段と、を備えたことを特徴とする地中レーダ探査装置を提供するものである。
【0012】
ここで、探査対象の地中深度に合わせて多重発信する疑似ランダム波の数を調整することができる。
【0013】
又、探査対象の検出精度に合わせて多重発信する疑似ランダム波の数を調整することができる。
【0014】
又、前記疑似ランダム波の周波数を複数とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、互いに符号が異なる複数の疑似ランダム波を同時に送受信し、これを重ね合わせることで、1回の送受信時間で、複数回送受信して重ね合わせたことに等しいノイズ低減効果が得られ、探査深度を向上させることができる。送信タイミングをずらしたり、周波数を変えたりという手間が不要で、測定時間が短くなる。タイミングをずらして、僅かに異なる周波数の信号を送信するには、送信時間の制約、準備できる信号数の制約があるが、異なる符号の疑似ランダム波は100個以上と多数あるため、重ね合わせの効果は遥かに大きい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態により地中探査を行っている状態を示す断面図
【
図2】本発明の第1実施形態の全体構成を示すブロック図
【
図4】同じく互いに符号が異なる複数の疑似ランダム波の音波を使った実験例を示す図
【
図5】本発明の第2実施形態を用いて地中探査を行っている状態を示す断面図
【
図6】同じく本発明の第3実施形態を用いて地中探査を行っている状態を示す断面図
【
図7】同じく本発明の第4実施形態を用いて地中探査を行っている状態を示す断面図
【
図8】同じく異なる周波数の音波を使った実験例を示す図
【
図9】疑似ランダム波と周波数の組合せによる相関関数の計算結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0018】
本発明の第1実施形態は
図1に示す如く、測定者10が地面20の上を測定カート30を押しながら、地中22に互いに符号の異なる複数(
図1では3個)の疑似ランダム波40-1、40-2、40-3を同時に多重発信し、地中で反射し伝搬して来た複数の疑似ランダム波を同時に受信測定し、受信信号を分離した後、重ね合わせ処理するようにしたものである。
【0019】
本実施形態の信号処理回路の全体構成を
図2に示す。この信号処理回路は、符号が互いに重なる複数(
図2ではN個)の疑似ランダム波を発生させるための複数の疑似ランダム信号発生器32-1、32-2・・・、32-Nと、該疑似ランダム信号発生器32-1~32-Nの出力のデジタル信号をアナログ信号に変換するDA変換器34と、該DA変換器34の出力を増幅する増幅器36と、該増幅器36により増幅された信号を地中に送信する送信アンテナ38と、地中を伝搬してきた疑似ランダム信号1~Nが混在した信号を受信する受信アンテナ42と、該受信アンテナ42出力のアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器44と、該AD変換器44の出力を相関計算により復調して、パルス波1、2・・・Nに分離する復調器(相関計算器)兼信号分離演算器46と、該復調器(相関計算器)兼信号分離演算器46の出力を加算処理して、N回重ね合わせたパルス波を得る信号加算処理器48と、を備えている。
【0020】
各部信号波形の例を
図3に示す。送信アンテナ38から送信される信号は、
図3(A)に示す如く、疑似ランダム信号1~Nを同じタイミングで送信する。
【0021】
受信アンテナ42は、
図3(B)に示す如く、疑似ランダム信号1~Nが混在した状態で受信する。
【0022】
前記復調器兼信号分離演算器46で復調されたパルス波1~Nの例を
図3(C)に示す。
【0023】
これを前記信号加算処理器48でN回重ね合わせたパルス波を
図3(D)に示す。N回の重ね合わせにより、Nの1/2乗のノイズ低減効果がある。
【0024】
互いに符号が異なる複数(図では3個)の疑似ランダム波の音波を使った実験例を
図4に示す。
図4中には受信器2における受信波の例を示すが、同様にして相関演算により各発信器1、2、3からの信号を分離することができる。
【0025】
第1実施形態より深いところを見たい場合に好適な第2実施形態を
図5に示す。この第2実施形態では、疑似ランダム波の数を例えば40-1~40-5の5個に増やしている。
【0026】
第1実施形態より分解能(検出精度)を向上させたい場合に好適な第3実施形態を
図6に示す。
【0027】
この第3実施形態では、周波数による減衰の影響を考慮して、疑似ランダム波の数を40-1~40-5の5個に増やしている。
【0028】
次に本発明の第4実施形態を
図7に示す。既存の技術では周波数を変更するためには変更する回数だけ測定を行う必要があるが、この第4実施形態では、高い周波数の疑似ランダム波により小深度を高精度で、中深度は中程度の周波数により中精度で、大深度は周波数を低くして低精度で調査することにより、異なる周波数で複数回測定した結果を1回の測定で得ることができる。
【0029】
異なる周波数の具体例を
図8に示す。この場合も、相関演算により周波数が例えばA、B、Cと異なる信号を分離することができる。周波数としては、例えば小深度には500MHz、中深度には200MHz、大深度には100MHzを用いることができる。
【0030】
疑似ランダム波と周波数の組合せによる相関関数の計算結果を
図9に示す。最も良い組合せである
図9(A)に比べ、中程度の組合せの
図9(B)や最も悪い組合せの
図9(C)では、中央にあるパルス波以外のノイズが大きくなっている。従って、探査対象に応じて疑似ランダム波と周波数の好適な組合せを選定することが望ましい。
【0031】
なお前記実施形態では測定カートを測定者が移動させながら測定を行っていたが、測定を行う方法はこれに限定されず、例えばリヤカーや自動車に搭載して測定を行っても良い。
【符号の説明】
【0032】
10…測定者
20…地面
22…地中
30…測定カート
32-1~32-N…疑似ランダム信号発生器
38…送信アンテナ
40、40-1~40-5…疑似ランダム波
42…受信アンテナ
46…復調器(相関計算器)兼信号分離演算器
48…信号加算処理器