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特開2024-98378コメ由来アルコール蒸留残渣液、該コメ由来アルコール蒸留残渣液を含む混合液、該混合液を含む米アルコール含有混合液、及びそれらを含む化粧品原料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098378
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】コメ由来アルコール蒸留残渣液、該コメ由来アルコール蒸留残渣液を含む混合液、該混合液を含む米アルコール含有混合液、及びそれらを含む化粧品原料
(51)【国際特許分類】
   C12F 3/10 20060101AFI20240716BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20240716BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240716BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20240716BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240716BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20240716BHJP
   C12G 3/022 20190101ALI20240716BHJP
   C12P 1/00 20060101ALN20240716BHJP
   C12P 1/02 20060101ALN20240716BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20240716BHJP
【FI】
C12F3/10
A61K8/9794
A61Q19/00
A61K36/899
A61P17/00
A61P17/16
C12G3/022
C12P1/00 A
C12P1/02 Z
C12N9/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001856
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】510096094
【氏名又は名称】株式会社ファーメンステーション
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100195796
【弁理士】
【氏名又は名称】塩尻 一尋
(72)【発明者】
【氏名】杉本 利和
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B115
4B128
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050KK04
4B050KK06
4B050LL05
4B064AF01
4B064CA05
4B064CB07
4B064CD19
4B064DA16
4B115AG02
4B115AG04
4B115AG07
4B128AC06
4B128AC14
4B128AG01
4B128AP14
4B128AS10
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC101
4C083AC102
4C083AC122
4C083CC04
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE11
4C083KK01
4C088AB74
4C088AC04
4C088CA25
4C088MA02
4C088MA63
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA89
(57)【要約】
【課題】コメを含む原料から発酵技術によりエタノールを製造した後の残渣物に新たな用途を見出すとともに、新規の機能性成分組成を有する化粧品原料、医薬品原料、食品原料及びサプリメント原料を提供すること。
【解決手段】コメを含む混合物を調製する工程、
前記混合物を発酵してエタノールを含む発酵物を得る工程、
前記発酵物を蒸留して、エタノールを含む蒸留物画分と1%未満のエタノールを含む蒸留残渣を含む画分とを得る工程、及び
前記蒸留残渣を含む画分をろ過して、ろ液を得る工程
を含む方法によって得られる、
コメ由来アルコール蒸留残渣液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コメを含む混合物を調製する工程、
前記混合物を発酵してエタノールを含む発酵物を得る工程、
前記発酵物を蒸留して、エタノールを含む蒸留物画分と1%未満のエタノールを含む蒸留残渣を含む画分とを得る工程、及び
前記蒸留残渣を含む画分をろ過して、ろ液を得る工程
を含む方法によって得られる、
コメ由来アルコール蒸留残渣液。
【請求項2】
前記発酵物を得る工程は、10℃以上50℃未満の温度で行われ、好ましくは、20℃以上40℃未満の温度で行われる、請求項1に記載のコメ由来アルコール蒸留残渣液。
【請求項3】
前記発酵物を得る工程は、20日未満であり、好ましくは8日以下であり、より好ましくは5日以下であり、さらに好ましくは3日以下である、請求項1に記載のコメ由来アルコール蒸留残渣液。
【請求項4】
前記蒸留が減圧蒸留である、請求項1に記載のコメ由来アルコール蒸留残渣液。
【請求項5】
前記蒸留が、1kPaから50kPaの圧力で行われ、より好ましくは5kPaから40kPaの圧力で行われる、請求項1に記載のコメ由来アルコール蒸留残渣液。
【請求項6】
前記蒸留が、中性条件下で行われる、請求項1に記載のコメ由来アルコール蒸留残渣液。
【請求項7】
前記蒸留が、pH7未満で行われる、好ましくはpH3.0から6.5の範囲で行われる、好ましくはpH4.0から6.0の範囲で行われる、より好ましくはpH4.5から5.5の範囲で行われる、請求項1のコメ由来アルコール蒸留残渣液。
【請求項8】
前記蒸留が、pH7超で行われる、好ましくはpH7.5から11.0の範囲で行われる、好ましくは、pH8.0から10.0の範囲で行われる、より好ましくはpH8.5から9.5の範囲で行われる、請求項1のコメ由来アルコール蒸留残渣液。
【請求項9】
(1)請求項1に記載のコメ由来アルコール蒸留残渣液と、
(2)コメ糖化液と
を含む、混合液であって、
前記コメ糖化液が、
コメを含む混合物を調製する工程、
前記混合物を糖化してコメ糖化液を含む糖化物を得る工程、及び
前記糖化物をろ過して、ろ液を得る工程、
を含む方法によって得られる、混合液。
【請求項10】
前記糖化物を得る工程が、糖化酵素を用いて行われる、請求項9に記載の混合液。
【請求項11】
前記糖化物を得る工程が、麹を用いて行われる、請求項9に記載の混合液。
【請求項12】
前記糖化物を得る工程の前において、前記糖化物を得る工程と同時に、又は、前記糖化物を得る工程の後において、さらにフィチン酸分解酵素が使用される、請求項10または11に記載の混合液。
【請求項13】
前記糖化物を得る工程の前において、前記糖化物を得る工程と同時に、又は、前記糖化物を得る工程の後において、さらにフェルラ酸エステラーゼが使用される、請求項10または11に記載の混合液。
【請求項14】
請求項9に記載の混合液と、米アルコールとを含む、米アルコール含有混合液。
【請求項15】
請求項1に記載のコメ由来アルコール蒸留残渣液、請求項9に記載の混合液、または請求項14に記載の米アルコール含有混合液を含む、化粧品原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コメ由来アルコール蒸留残渣液、該コメ由来アルコール蒸留残渣液を含む混合液、該混合液を含む米アルコール含有混合液、及びそれらを含む化粧品原料に関する。
【背景技術】
【0002】
米などの穀物を原料としてエタノールを製造する方法は、日本酒などの酒類を製造する方法として使用されている。例えば、玄米を精米してから蒸米し、酵素類、麹や酵母を加えて発酵させることによって製造したもろみを濾すことにより、日本酒は製造されている。このような発酵によるエタノールを含む日本酒等の製造方法については、一般的によく知られており、例えば特許第5096603号公報には、麹歩合と掛米の精米歩合を特定の割合とすることにより、アミノ酸、糖分及び有機酸を多く含む日本酒の原酒を製造する方法が記載されている。
【0003】
また、もろみを蒸留することにより、高濃度のエタノールを得ることも可能である。この場合には、蒸留により得られたエタノールを主成分として含む蒸留物と、アルコールをほとんど含まないその残渣物とが生成される。エタノールを主成分として含む蒸留物は、醸造アルコールの一種として、飲料原料や化粧品原料として用いられている。一方、生成した残渣物については、飼料として利用されることはあったものの、それ以外の用途ではこれまであまり利用されていなかった。
【0004】
しかしながら、このような蒸留残渣物には、一般的に酒粕として知られる日本酒製造工程における副産物(清酒粕)と同様に、種々のアミノ酸、ペプチド及びタンパク質が豊富に含まれることが予想され、化粧品、医薬品、又は機能性食品等の原料としての有用性が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5096603号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、コメを主原料とした発酵によるエタノール製造工程において生成する蒸留残渣物から得られるアルコール蒸留残渣液、及び、該アルコール蒸留残渣液とコメ糖化液及び/又は米アルコールを組み合わせた新規化粧品原料に関する。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来は、コメから発酵技術を利用してエタノールを製造する際、蒸留後の残渣物は飼料として利用されるか、又は利用されることなく廃棄されていた。このような蒸留残渣物には、清酒粕と同様に、種々の機能性成分に富むことが期待される。本発明は、コメを含む原料から発酵技術によりエタノールを製造した後の残渣物に、新たな用途を見出した。
【0008】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、コメを含む混合物から発酵技術によりエタノールを製造する際の副産物である、エタノール蒸留後の残渣物から、種々の有効成分を含む混合物を抽出することに成功した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
コメを含む混合物を調製する工程、
前記混合物を発酵してエタノールを含む発酵物を得る工程、
前記発酵物を蒸留して、エタノールを含む蒸留物画分と1%未満のエタノールを含む蒸留残渣を含む画分とを得る工程、及び
前記蒸留残渣を含む画分をろ過して、ろ液を得る工程
を含む方法によって得られる、
コメ由来アルコール蒸留残渣液に関する。
【0010】
本発明のコメ由来アルコール蒸留残渣液は、化粧品原料、医薬品原料、食品原料又はサプリメント原料として使用することができる。
【0011】
本発明において発酵物を得る工程は、10℃以上50℃未満の温度で行われ、好ましくは20℃以上40℃未満の温度で行われてよい。
【0012】
前記発酵物を得る工程は、20日未満であり、8日以下であってよく、好ましくは5日以下であり、より好ましくは3日以下であってよい。
【0013】
前記蒸留は、減圧蒸留であってよい。
【0014】
前記蒸留が、1kPaから50kPaの圧力で行われ、より好ましくは5kPaから40kPaの圧力で行われてよい。
【0015】
前記蒸留が、中性条件下で行われてよい。
【0016】
前記蒸留は、pH7未満で行われてよく、好ましくはpH3.0から6.5の範囲で行われてよく、好ましくはpH4.0から6.0の範囲で行われてよく、より好ましくはpH4.5から5.5の範囲で行われてよい。また、前記蒸留は、pH7超で行われてよく、好ましくはpH7.5から11.0の範囲で行われてよく、好ましくはpH8.0から10.0の範囲で行われてよく、より好ましくはpH8.5から9.5の範囲で行われてよい。
【0017】
本発明はまた、
(1)コメ由来アルコール蒸留残渣液と、
(2)コメ糖化液と
を含む、混合液であって、
前記コメ糖化液が、
コメを含む混合物を調製する工程、
前記混合物を糖化してコメ糖化液を含む糖化物を得る工程、及び
前記糖化物をろ過して、ろ液を得る工程、
を含む方法によって得られる、混合液に関する。
【0018】
前記混合液は、化粧品原料、医薬品原料、食品原料又はサプリメント原料として使用することができる。
【0019】
前記糖化物を得る工程は、糖化酵素を用いて行われてもよい。
【0020】
前記糖化物を得る工程は、麹を用いて行われてもよい。
【0021】
前記糖化物を得る工程の前において、前記糖化物を得る工程と同時に、又は、前記糖化物を得る工程の後において、さらにフィチン酸分解酵素が使用されてもよい。
【0022】
前記糖化物を得る工程の前において、前記糖化物を得る工程と同時に、又は、前記糖化物を得る工程の後において、さらにフェルラ酸エステラーゼが使用されてもよい。
【0023】
本発明はまた、
(1)前記コメ由来アルコール蒸留残渣液と、
(2)前記コメ糖化液と
(3)米アルコールと
を含む、米アルコール含有混合液に関する。
【0024】
前記米アルコール含有混合液は、化粧品原料、医薬品原料、食品原料又はサプリメント原料として使用することができる。
【0025】
本発明による米アルコール含有液は、コメ発酵液の医薬部外品原料規格に適合しうる。医薬部外品原料規格2021によれば、コメ発酵液は、イネ Oryza sativa の胚乳から得られるコメをアルコール発酵させて得られる液である。コメ発酵液は、定量するとき、全糖として 2.6~4.8w/v%、アルコール分として 11~22vol%を含むと定義される。
【0026】
本発明によるコメ由来アルコール蒸留残渣液を含む化粧品原料は、コメ発酵液の医薬部外品原料規格に適合しつつ、アミノ酸組成やアルコール組成、香気成分の点で従来のコメ発酵液とは異なる、新規の成分組成を有する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、コメを含む混合物を用いることによって、有用な化粧品原料、医薬品原料、食品原料又はサプリメント原料を製造する方法を提供することができる。
【0028】
また、本発明は、従来のエタノール製造方法ではあまり有効活用されていなかった蒸留残渣物を利用することによって、化粧品原料、医薬品原料、食品原料又はサプリメント原料を提供することが可能である。従って、従来のエタノール製造方法において排出される廃棄物を削減することができるとともに、エタノールと同時に化粧品原料、医薬品原料、食品原料又はサプリメント原料を製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のコメ由来アルコール蒸留残渣液は、
コメを含む混合物を調製する工程、
前記混合物を発酵してエタノールを含む発酵物を得る工程、
前記発酵物を蒸留して、エタノールを含む蒸留物画分と1%未満のエタノールを含む蒸留残渣を含む画分とを得る工程、及び
前記蒸留残渣を含む画分をろ過して、ろ液を得る工程
を含む方法によって得られる。
【0030】
本明細書において「コメ」とは、籾、玄米又は精米を表す。一実施形態において、「コメ」とは、玄米である。一実施形態において、「コメ」は丸米、砕米又は米粉である。
【0031】
本明細書において「コメを含む混合物」とは、コメと、麹、酵母及び酵素剤からなる群から選択される1以上とを含む。
【0032】
一実施形態において、前記コメを含む混合物を調製する工程は、コメを破砕する工程を含む。本明細書における「破砕」は、コメを含む混合物を細かな粉体とすることができるものであれば特に限定されない。一実施形態において、本発明における「破砕」とは発熱を抑え時間をかけて粉砕するミルタイプの破砕である。
【0033】
一実施形態において、前記コメを含む混合物を調製する工程は、蒸米工程を含む。
【0034】
一実施形態において、前記発酵物を得る工程は、麹、酵母及び酵素剤からなる群から選択される1以上を添加することによって行われる。
【0035】
本発明の方法は、コメを含む混合物を発酵して発酵物を得る工程を含む。本明細書において「発酵」とは、原材料に含まれるデンプン等をアルコールに変化させる工程を表す。具体的には、コメを含む混合物に水を加え、さらに、麹、酵素剤又はこれらの組み合わせを加えることによってデンプンを糖に分解し、酵母を加えることによって糖からアルコールに変化させる工程を表す。コメを含む混合物を発酵して発酵物を得る工程において、酵素剤、麹又はこれらの組み合わせと酵母は同時に加えることもでき、別々に加えることもできる。酵素剤、麹又はこれらの組み合わせと酵母とを同時に加える場合、デンプンの糖化とアルコールへの変化は同一容器中で同時に進行することができる。
【0036】
本発明で使用する酵素剤としては、糖化で一般的に使用される酵素剤を使用することができ、例えばグルコアミラーゼ、α-アミラーゼ又はセルラーゼであってもよい。
【0037】
本発明で使用する酵素剤は、コメを含む混合物1kgあたり0.5gから10gの量で加えることが好ましく、1gから5gの量で加えることがより好ましい。
【0038】
本発明で使用する麹としては、糖化で一般的に使用される麹を使用することができる。一実施形態において、本発明で使用する麹は、アスペルギルス属に属する麹菌であることが好ましく、黄麹菌(Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae)だけでなく、黒麹菌(Aspergillus luchuensis)又は白麹菌(Aspergillus kawachii)を使用することもできる。他の実施形態において、本発明で使用する麹は、モナスカス属に属する麹菌であることが好ましく、紅麹菌(Monascus purpureusまたはMonascus pilosus)を使用することもできる。
【0039】
本発明の方法で使用される麹は、コメを含む混合物1kgあたり100gから500gの量で加えることが好ましく、150gから300gの量で加えることがより好ましい。
【0040】
本発明で使用する酵母は、酵素剤、麹又はこれらの組み合わせにより分解された糖をアルコールに変化させるものであれば特に限定されることなく使用することができる。例えば出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を使用することができる。
【0041】
本発明の方法で使用される酵母は、コメを含む混合物1kgあたり1mlから100mlの量で加えることが好ましく、10mlから50mlの量で加えることがより好ましい。
【0042】
本発明のコメを含む混合物を発酵して発酵物を得る工程において、コメを含む混合物にその他の添加物を加えることもできる。
【0043】
前記発酵物を得る工程は、特に限定されないが、10℃以上50℃未満の温度で行われてもよく、20℃以上45℃未満の温度で行われることが好ましく、25℃以上35℃未満の温度で行われることが特に好ましい。
【0044】
一実施形態において、前記発酵物を得る工程は、特に限定されないが、20日未満であってよく、8日以下であってよく、好ましくは5日以下であってよく、好ましくは3日以下であってよい。発酵時間を短縮することにより、望ましくない菌の増殖を抑制することができる。
【0045】
本発明における蒸留工程は、常圧、又は減圧で行われる。一実施形態において、蒸留工程は、発酵物の蒸留は大気圧よりも低い圧力で行われる減圧蒸留であることが好ましい。
【0046】
減圧蒸留工程は、大気圧よりも低い圧力であれば特に限定されないが、1kPaから50kPaの圧力で行われ、5kPaから40kPaの圧力で行われることが好ましく、10kPaから30kPaの圧力で行われることが特に好ましい。
【0047】
前記蒸留工程は、酸性条件下、中性条件下又はアルカリ性条件下で行われてよい。
【0048】
一実施形態において、本発明の発酵物の蒸留は20℃以上80℃以下で行われ、好ましくは、40℃以上70℃以下で行われる。一実施形態において、本発明の発酵物の蒸留は60℃で行われる。
【0049】
一実施形態において、蒸留工程はpH6.5超から7.5未満の範囲で行われる。
【0050】
一実施形態において、蒸留工程はpH7未満で行われ、好ましくはpH3.0から6.5の範囲で行われ、より好ましくはpH4.0から6.0の範囲で行われ、さらにより好ましくはpH4.5から5.5の範囲で行われる。
【0051】
一実施形態において、蒸留工程はpH7超で行われ、好ましくはpH7.5から11.0の範囲で行われ、好ましくはpH8.0から10.0の範囲で行われ、より好ましくはpH8.5から9.5の範囲で行われる。
【0052】
一実施形態において、蒸留工程の前に発酵物にpH調整剤が添加される。使用できるpH調整剤は、食品添加物グレードの酸性化合物や塩基性化合物を使用することができる。酸性化合物としては、乳酸、リン酸、りんご酸、無水亜硫酸、酒石酸などを使用することもできる。塩基性化合物としては、炭酸カルシウム、アンモニウムなどを使用することもできる。
【0053】
一実施形態において、蒸留は、少なくとも4時間、少なくとも8時間、少なくとも16時間、少なくとも24時間、少なくとも32時間、又は、最長約40時間行われる。本発明においては、蒸留を延長することにより、発酵物から蒸留残渣へ抽出されるアミノ酸や香気成分などの各種成分の抽出効率を高めることが可能となり得る。
【0054】
本発明においては、蒸留時間の変化により、本発明のコメ由来アルコール蒸留残渣液に含まれる成分の組成が変化し得る。得られた蒸留残渣液の成分組成の変化は、蒸留残渣液の着色度やメイラード反応によって生じる化合物、例えば、フラン類やフラノン類、ピラン類などの含量を測定することにより、評価することができる。具体的には、メイラード反応によって生じる化合物として、フラン、フルフラール、ピロール、ピリジン、ピロン、フラノン等の含量を測定することにより、得られた蒸留残渣液の成分組成の変化を評価することができる。
【0055】
一実施形態において、本発明のコメ由来アルコール蒸留残渣液は、アミノ酸を含む。本発明のコメ由来アルコール蒸留残渣液に含まれるアミノ酸は、任意のアミノ酸であってよく、好ましくは、必須アミノ酸である。
【0056】
一実施形態において、本発明のコメ由来アルコール蒸留残渣液に含まれるアミノ酸含量は、0mg/l超~100g/lであってよい。
【0057】
一実施形態において、本発明のコメ由来アルコール蒸留残渣液は、フルフラールを含む。本発明のコメ由来アルコール蒸留残渣液に含まれるフルフラール含量は、0mg/l超~10g/lであってよい。フルフラール含量は、例えばGC/MSによって測定することができる。
【0058】
一実施形態において、本発明のコメ由来アルコール蒸留残渣液は、0.001~0.050の着色度を有する。着色度は、例えば430nmの波長の光を当てた場合の吸光度として測定することができ、厚さ10mmあたりの吸光度として表すことができる。
【0059】
本明細書において「蒸留残渣」とは、コメを含む混合物を発酵工程に供することによって得られた発酵物から、蒸留によってエタノール分が除かれた状態のものという。従って、本明細書における蒸留残渣は、エタノール分の含有量が極めて低い。本発明における蒸留残渣は、1%未満のエタノール分を含み、好ましくは0.2から0.7%の範囲のエタノール分を含む。
【0060】
一実施形態において、蒸留残渣を含む画分をろ過する工程は、一般ろ過、精密ろ過、又は限外ろ過などの任意の方法によって行われる。一実施形態において、蒸留残渣を含む画分をろ過する工程は、一般ろ過である。
【0061】
一実施形態において、残渣物を抽出して抽出物を得る工程をさらに含んでもよい。抽出は残渣物を圧搾する方法、溶剤を使用して抽出する方法、及び超臨界二酸化炭素を使用して抽出する方法などを使用することができる。
【0062】
本発明のコメ由来アルコール蒸留残渣液は、アミノ酸組成、香気成分の点で従来の化粧品原料、食品原料又はサプリメント原料とは異なる、新規の成分組成を有する。この新規成分組成は、コメ由来アルコール蒸留残渣液の調製工程において抽出された成分によるものと理解される。
【0063】
一実施形態において、本発明は、
(1)前記アルコール蒸留残渣液と、
(2)コメ糖化液と
を含む、混合液であり、
前記コメ糖化液は、
コメを含む混合物を調製する工程、
前記混合物を糖化してコメ糖化液を含む糖化物を得る工程、及び
前記糖化物をろ過して、ろ液を得る工程、
を含む方法によって得られる。
【0064】
前記混合物を糖化してコメ糖化液を含む糖化物を得る工程は、特に限定されないが、麹、又は酵素剤を添加する工程を含む。麹及び酵素剤については、先に定義したとおりである。
【0065】
前記糖化物を得る工程においては、さらなる酵素類が併用されてよい。
【0066】
一実施形態において、前記糖化物を得る工程においては、フィチン酸分解酵素及びフェルラ酸エステラーゼから選択される一以上が使用されてもよい。
【0067】
一実施形態において、本発明は、
(1)前記コメ由来アルコール蒸留残渣液と、
(2)前記コメ糖化液と
(3)米アルコールと
を含む、米アルコール含有混合液に関する。
【0068】
本発明の米アルコール含有混合液は、コメ発酵液の医薬部外品原料規格に適合しうる原料であり、同時に、アミノ酸組成やアルコール組成、香気成分の点で従来のコメ発酵液とは異なる、新規の成分組成を有する。この新規成分組成は、コメ由来アルコール蒸留残渣液の調製工程において抽出された成分によるものと理解される。
【0069】
本発明は、化粧品原料、食品原料又はサプリメント原料を製造することができるものであるが、同時にエタノールを製造することもできる。すなわち、本発明における方法によれば、化粧品原料、食品原料又はサプリメント原料と同時にエタノールを製造することができるため、化粧品、食品又はサプリメントに有用な複数の成分を同時に製造することができて効率的であるとともに、廃棄物の削減の観点からも好ましい。
【0070】
本発明の方法によって製造された化粧品原料は、他の化粧品有効成分等と混合することができ、これにより化粧品を製造することができる。
【0071】
本発明の方法によって製造された食品原料は、他の食材等と混合することができ、これにより食品を製造することができる。
【0072】
本発明の方法によって製造されたサプリメント原料は、他のサプリメント成分等と混合することができ、これによりサプリメントを製造することができる。
【実施例0073】
[比較例1]
【0074】
(コメ発酵液の調製)
玄米200gを家庭用蒸し器で15分間蒸した後、放冷した。蒸した玄米に水500ml、糖化酵素製剤コクゲン(天野エンザイム製)0.2g、醸造用乳酸0.5mlを混合し、内容量2Lのガラス製容器に入れた。当該混合物に蒸留酒用乾燥酵母0.1gを接種して、アルコール発酵もろみを調製した。発酵温度30°Cにて1週間発酵させた後、当該アルコール発酵もろみをろ過して、コメ発酵液を得た。コメ発酵液のアルコール濃度をアルコメイト(理研計器製)にて測定したところ、アルコール濃度は14.2 vol%であった。また、コメ発酵液のBrix糖度を密度比重計で測定したところ、Brix 3.3%であった。
[実施例1]
【0075】
(コメ蒸留残渣液の調製)
玄米200gを家庭用蒸し器で15分間蒸した後、放冷した。蒸した玄米に水500ml、糖化酵素製剤コクゲン(天野エンザイム製)0.2g、醸造用乳酸0.5mlを混合し、内容量2Lのガラス製容器に入れた。当該混合物に蒸留酒用乾燥酵母0.1gを接種して、アルコール発酵もろみを調製した。発酵温度30°Cにて1週間発酵させた後、当該アルコール発酵もろみを小型エバポレーター(東京理化器械製)にて品温60°Cにて減圧蒸留し、アルコール画分と蒸留残渣画分を得た。蒸留残渣画分を、ろ紙(アドバンテックNo.2)にてろ過し、清澄なコメ蒸留残渣ろ液を得た。コメ蒸留残渣ろ液のアルコール濃度をアルコメイト(理研計器製)にて測定したところ、アルコール濃度は0.5 vol%であった。また、コメ蒸留残渣ろ液のBrix糖度を密度比重計(アントンパール製)にて測定したところ、Brix 7.8%であった。
[実施例2]
【0076】
(コメ糖化液の調製)
玄米200gを家庭用蒸し器で15分間蒸した後、放冷した。蒸した玄米に水200ml、糖化酵素製剤コクゲン(天野エンザイム製)0.2gを混合し、内容量1Lのガラス製容器に入れた。当該混合物を入れたガラス容器を水温50°Cに保温された水槽に設置し、スリーワンモーターを用いて攪拌しながら、18時間糖化反応を行うことでコメ糖化液を得た。得られたコメ糖化液をろ紙(アドバンテックNo.2)にてろ過し、清澄なコメ糖化ろ液を得た。コメ糖化ろ液のアルコール濃度をアルコメイト(理研計器製)にて測定したところ、アルコールは検出されなかった。また、コメ糖化ろ液のBrix糖度を密度比重計(アントンパール製)にて測定したところ、Brix 23.9%であった。
【0077】
(米アルコール含有液の調製)
実施例1のコメ蒸留残渣ろ液70gと前記コメ糖化液15g、及びコメ由来95%アルコール(ファーメンステーション製)15gを混合し、米アルコール含有液を調製した。米アルコール含有液のアルコール濃度をアルコメイト(理研計器製)にて測定したところ、アルコール濃度は14.3 vol%であった。また、米アルコール含有液のBrix糖度を密度比重計(アントンパール製)にて測定したところ、Brix 3.6%であった。
[実施例3]
【0078】
(米アルコール含有液配合化粧水モデル液の調製)
実施例2で製造した米アルコール含有液10gと1,3-ブチレングリコール(BG)10gを混合し、米アルコール含有液BGエキス液を製造した。当該米アルコール含有液BGエキス液20gと精製水80gを混合し、米アルコール含有液配合化粧水モデル液を調製した。同様に、比較例1で製造したコメ発酵液を用いてコメ発酵液配合化粧水モデル液を調製した。
[実施例4]
【0079】
(米アルコール含有液の官能評価)
アルコール専門パネル5名により、実施例2で製造した米アルコール含有液の官能評価を行った。対照として比較例1で製造したコメ発酵液との比較を行った。その結果、本発明品は、コメ発酵液に比べて、米を強く想起させる甘い香気や香ばしい香気を多く有しており、非常に良好な品質であった。
[実施例5]
【0080】
(米アルコール含有液配合化粧水モデル液の官能評価)
肌試験専門パネル4名により、米アルコール含有液配合化粧水モデル液のにおいとなじみ、なじんだ後の保湿の持続性(30分後)について官能評価を行った。比較対照として、コメ発酵液配合化粧水モデル液の官能評価も行った。その結果、においに関して、米アルコール含有液配合化粧水モデル液は、コメ発酵液配合化粧水モデル液に比べて、ごくわずかに特徴的な甘いにおいを有しており、好ましいという評価結果であった。また、塗布後の肌なじみが非常に良いという評価を得た。
【0081】
実施例4及び5の官能評価試験結果から、本発明の米アルコール含有液は、比較例1のコメ発酵液とは異なる成分組成を有することが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、従来のエタノール製造方法ではあまり有効活用されていなかった蒸留残渣物を利用することによって、化粧品原料、医薬品原料、食品原料又はサプリメント原料を提供することが可能であるため、有用である。