(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000984
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】消火材用組成物及び消火材
(51)【国際特許分類】
A62D 1/06 20060101AFI20231226BHJP
A62C 35/10 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A62D1/06
A62C35/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098728
(22)【出願日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2022099880
(32)【優先日】2022-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】本庄 悠朔
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
(72)【発明者】
【氏名】椎根 康晴
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳也
【テーマコード(参考)】
2E189
2E191
【Fターム(参考)】
2E189BA07
2E191AA01
2E191AB11
2E191AB22
2E191AB51
2E191AC08
(57)【要約】
【課題】性状安定性に優れる消火材を得ることができる消火材用組成物及び当該消火材用組成物から形成される消火材を提供する。
【解決手段】本発明に係る消火材用組成物は、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、酸無水物基を有する化合物と、を含む。本発明に係る消火材は、上記消火材用組成物から形成されたものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、
酸無水物基を有する化合物と、
を含む、消火材用組成物。
【請求項2】
バインダ樹脂を更に含む、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項3】
前記バインダ樹脂の質量を100質量部とすると、前記化合物を10~250質量部含む、請求項2に記載の消火材用組成物。
【請求項4】
消火材用組成物の全量を基準として、前記消火剤を70~97質量%含む、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項5】
前記酸無水物基がカルボン酸無水物基である、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項6】
前記化合物がアルコキシシリル基を更に有する、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項7】
前記化合物がシランカップリング剤である、請求項6に記載の消火材用組成物。
【請求項8】
前記塩がカリウム塩である、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項9】
液状媒体を更に含む、請求項1に記載の消火材用組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の消火材用組成物から形成される消火材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火材用組成物及び消火材に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼によりエアロゾルを発生する消火剤組成物をバインダと混合し、これをシート状に成形した自己消火性成形品が知られている(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/047762号
【特許文献2】特許第6443882号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に記載の消火剤組成物は硝酸カリウム、硝酸ナトリウムなどの塩を含む。これらの塩は潮解性を有するため、自己消火性成形品の性状を長期に亘り安定的に維持することに関し改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、性状安定性に優れる消火材を得ることができる消火材用組成物を提供する。本発明はまた、当該組成物から形成される消火材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る消火材用組成物は、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、酸無水物基を有する化合物と、を含む。上記消火材用組成物は、バインダ樹脂及び/又は液状媒体を更に含んでいてもよい。
【0007】
本発明者らは、潮解性に起因する課題の解決手段としてシランカップリング剤に着目した。すなわち、シランカップリング剤の有機官能基部と消火剤組成物中に含まれているバインダ樹脂との反応によって膜密度を向上させ、潮解性を有する塩と水との接触を抑えることにより、上記課題が解決できるものと考えた。そこで、本発明者らは、消火剤組成物中に、特定のシランカップリング剤を加えたところ、期待どおり性状安定性に優れる消火材が得られた。しかし、その後の検討により、使用したシランカップリング剤が酸無水物基を有しており、酸無水物基が消火材の性状安定性に主に寄与していたことが明らかになった。上記のとおり、消火材用組成物が酸無水物基を有する化合物を含むことで、塩の潮解を抑制でき、消火材用組成物の優れた性状安定性を実現できる。
【0008】
上記消火材用組成物は、上記バインダ樹脂の質量を100質量部とすると、上記化合物を10~250質量部含んでいてもよい。上記化合物の含有量が上記範囲内であることで、塩の潮解をより高度に抑制でき、消火材用組成物の優れた性状安定性をより高度に実現できる。
【0009】
上記消火材用組成物は、消火性能の観点から、消火材用組成物の全量を基準として、上記消火剤を70~97質量%含んでいてもよい。上記塩は、カリウム塩であってよい。上記酸無水物基は、カルボン酸無水物基であってもよい。上記化合物は、アルコキシシリル基を更に有していてもよい。上記化合物は、シランカップリング剤であってもよい。
【0010】
本発明の一側面に係る消火材は、上記消火材用組成物から形成されるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、性状安定性に優れる消火材を得ることのできる消火材用組成物を提供することができる。また、本発明によれば、当該組成物から形成される消火材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<消火材用組成物>
消火材用組成物は、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、酸無水物基を有する化合物と、を含む。消火材用組成物は、更にバインダ樹脂及び/又は液状媒体を含んでいてもよい。
【0014】
(消火剤)
消火剤は、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩と、酸化剤とを含む。潮解性を有する有機塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち、有機塩としてはカリウム塩を用いることが好ましい。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸カリウム(クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム)、酒石酸カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。なかでも、燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、酢酸カリウム又はクエン酸カリウムを用いることが好ましい。
【0015】
潮解性を有する無機塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。これらのうち、無機塩としてはカリウム塩を用いることが好ましい。無機カリウム塩としては、四硼酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二カリウム等が挙げられる。
【0016】
有機塩及び無機塩は、それぞれ単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0017】
有機塩及び無機塩は粒状であってよい。有機塩及び無機塩の平均粒子径D50は1μm以上100μm以下であってもよく、また3μm以上40μm以下であってもよい。平均粒子径D50が上記下限以上であることで系中で分散し易く、また平均粒子径D50が上記上限以下であることで、塗液としたときの安定性が向上して塗工面の平滑性が向上する傾向がある。平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により算出することができる。
【0018】
酸化剤としては、塩素酸カリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、塩基性硝酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、三酸化モリブデンが挙げられる。なかでも、塩素酸カリウムを用いることが好ましい。
【0019】
消火材用組成物に含まれる消火剤の含有量は、消火材用組成物の全量を基準として、70~97質量%であってよく、85~92質量%であってもよい。消火剤の含有量が上記上限以下であることで、塩の潮解を抑制し易くかつ消火材用組成物の塗工適性が高まり製膜がし易く、また消火剤の含有量が上記下限以上であることで、十分な消火性能を発揮し易い。
【0020】
(酸無水物基を有する化合物)
消火材用組成物は、酸無水物基を有する化合物を含むことで成形品の性状を長期に亘り安定的に維持することができる。この理由は定かではないが、酸無水物基が水と反応することができるため、バリアフィルムを通過して侵入してきた水をトラップすることで成形品に含まれる塩の潮解を防いでいるものと推測される。また酸無水物基を有する化合物が塩の表面を修飾することで疎水性が向上し、水との接触を抑えているものと推測される。
【0021】
酸無水物基を有する化合物としては、オキソ酸2分子が脱水縮合することにより構成される酸無水物基を分子中に1以上有する化合物であれば特に制限されない。酸無水物基を構成するオキソ酸としては、例えば、カルボン酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。これらのうち、酸無水物基を構成するオキソ酸は、カルボン酸であることが好ましい。カルボン酸無水物基を有する化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物の単体、又は、無水マレイン酸等の不飽和結合を有するカルボン酸無水物をモノマーとした共重合体等が挙げられる。
【0022】
酸無水物基を有する化合物は、分子中にアルコキシシリル基を更に有していてもよい。消火材用組成物中に含まれる酸無水物基を有する化合物が、分子中にアルコキシシリル基を更に有することで成形品の性状を長期に亘りより安定的に維持することができる。この理由は定かではないが、アルコキシシランが加水分解された後、自己反応が生じてシロキサンが形成されることにより、耐水性が向上すると共に膜密度が向上し、潮解性を有する塩と水との接触を抑えられているものと推測される。分子中に酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物としては、例えば、シランカップリング剤を用いてもよい。なお、酸無水物基を有する化合物として用いられるシランカップリング剤は、消火材用組成物中においてバインダ樹脂と同様の機能を有していてもよい。
【0023】
消火材用組成物に含まれる酸無水物基を有する化合物の含有量は、消火材用組成物に含まれるバインダ樹脂の質量を100質量部として、10~250質量部であってもよく、50~200質量部であってもよい。酸無水物基を有する化合物の含有量が上記上限以下であることで、消火材用組成物の塗工適性が高まり製膜がし易いのみならず、膜のひび割れも抑制でき、また酸無水物基を有する化合物の含有量が上記下限以上であることで、塩の潮解を抑制し易くかつ十分な消火性能を発現し易い。
【0024】
(バインダ樹脂)
バインダ樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンコム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのうち、塗工適性の観点から、ポリウレタン樹脂又はポリビニルアルコール樹脂を使用することが好ましい。なお、バインダ樹脂には、硬化剤成分が含まれていてよい。
【0025】
バインダ樹脂の重量平均分子量は、10000以上であってもよく、20000以上であってもよく、また150000以下であってもよく、100000以下であってもよい。重量平均分子量が上記下限以上であることで、樹脂の疎水性を確保し易く、また重量平均分子量が上記上限以下であることで、適度な樹脂柔軟性を確保し易く、耐屈曲性や塗工適性が向上し易い。重量平均分子量は、GPC法により算出することができる。
【0026】
バインダ樹脂のガラス転移温度は、55℃以上であってもよく、80℃以上であってもよく、また110℃以下であってもよく、100℃以下であってもよい。ガラス転移温度が上記下限以上であることで、結晶性が大きくなるために樹脂の疎水性を確保し易く、またガラス転移温度が上記上限以下であることで、塗工適性が向上し易い。ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いた熱分析により測定することができる。
【0027】
バインダ樹脂の20℃における粘度は、500mPa・s以上であってもよく、1000mPa・s以上であってもよく、また10000mPa・s以下であってもよく、6000mPa・s以下であってもよい。粘度は、B型回転粘度計により測定することができる。
【0028】
消火材用組成物に含まれるバインダ樹脂の含有量は、消火材用組成物の全量を基準として、2~30質量%であってよく、4~15質量%であってもよい。バインダ樹脂の含有量が上記上限以下であることで、乾燥後塗膜の表面平滑性が向上し易く(塗膜のひび割れや気泡発生を抑制し易く)、またバインダ樹脂の含有量が上記下限以上であることで、消火材用組成物を塗布する際のロールtоロール塗工適性が向上し易く、基材密着性及び塗膜の断裁加工適性が向上し易い。
【0029】
(液状媒体)
液状媒体としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、水溶性の溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類;N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類等が挙げられる。潮解性を有する塩と共に用いられる観点から、液状媒体はアルコール系溶媒であってもよく、具体的にはエタノール及びイソプロピルアルコールの混合溶媒であってもよい。
【0030】
液状媒体の量は、消火材用組成物の使用方法に応じて適宜に調整すればよいが、消火材用組成物の全量を基準として40~95質量%とすることができる。液状媒体を含む消火材用組成物を、消火用塗液ということができる。
【0031】
(その他の成分)
消火材用組成物には、上述した以外にその他の成分が配合されてもよい。その他の成分としては、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材、流動性付与剤、防湿剤、分散剤、UV吸収剤、触媒等が挙げられる。これらの他の成分は、塩、酸無水物基を有する化合物、バインダ樹脂、又は、液状媒体の種類等により適宜選択することができる。消火材用組成物に含まれるその他の成分の含有量は、消火材用組成物の全量を基準として、例えば10質量%以下である。
【0032】
<消火材>
消火材は、消火材用組成物から形成することができる。消火材の形成方法(製造方法)を以下に例示する。
【0033】
消火材は、対象物の被処理面上に消火材形成用塗液を塗布し、これを乾燥することにより、対象物上に形成することができる。対象物の素材としては金属、樹脂、木材、セラミックス、ガラス等が挙げられ、対象物は非多孔性であっても多孔性であってもよい。
【0034】
塗布はウェットコーティング法にて行うことができる。ウェットコーティング法としては、グラビアコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコート法、スピンコート法、スポンジロール法、ダイコート法、刷毛による塗装等が挙げられる。
【0035】
消火用塗液の粘度は、例えばグラビアコーティング法であれば、1~2000mPa・sとすることが好ましく、コンマコーティング法であれば500~100000mPa・sとすることが好ましく、スプレーコーティング法であれば0.1~4000mPa・sとすることが好ましい。塗液粘度が所望の範囲になるよう、上記液状媒体の量を適宜に調整すればよい。粘度は共軸二重円筒回転粘度計により測定することができる。
【0036】
対象物が多孔性である場合は、消火用塗液は対象物内に浸入することができる。その場合、消火材は、対象物を消火用塗液に含浸させ、これを乾燥することにより、対象物上に形成してもよい。
【0037】
消火材は、消火材用組成物を成形することで得ることもできる。消火材の形状はその用途に応じて選択すればよく、消火材は粒状消火材、板状消火材、柱状消火材等であってもよい。
【0038】
本発明は、以下の事項に関する。
[1]潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、
酸無水物基を有する化合物と、
を含む、消火材用組成物。
[2]バインダ樹脂を更に含む、請求項[1]に記載の消火材用組成物。
[3]前記バインダ樹脂の質量を100質量部とすると、前記化合物を10~250質量部含む、[2]に記載の消火材用組成物。
[4]消火材用組成物の全量を基準として、前記消火剤を70~97質量%含む、[1]~[3]のいずれか一つに記載の消火材用組成物。
[5]前記酸無水物基がカルボン酸無水物基である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の消火材用組成物。
[6]前記化合物がアルコキシシリル基を更に有する、[1]~[5]のいずれか一つに記載の消火材用組成物。
[7]前記化合物がシランカップリング剤である、[6]に記載の消火材用組成物。
[8]前記塩がカリウム塩である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の消火材用組成物。
[9]液状媒体を更に含む、[1]~[8]のいずれか一つに記載の消火材用組成物。
[10][1]~[9]のいずれか一つに記載の消火材用組成物から形成される消火材。
【実施例0039】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<消火材の形成>
(実施例1)
以下の成分を混合し、消火材用組成物を調製した。
消火剤:クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物(87質量部)
バインダ樹脂:エーテル系ウレタン樹脂(6質量部)
酸無水物基を有する化合物:シランカップリング剤(3質量部)
液状媒体:エタノール(87質量部)
液状媒体:イソプロピルアルコール(14質量部)
クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物は、メノウ乳鉢ですり潰したのち、800番手のメッシュでフィルタリングすることで粒子径D50=8~12μmに調整した。シランカップリング剤として、X-12-1287A(商品名、信越化学工業(株)製)を使用した。このシランカップリング剤は、酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する。
【0041】
アプリケーター(ギャップ450μm)を用いて、得られた消火材用組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:E7002、東洋紡社製、厚み50μm)上に塗布し、75℃のオーブンにて7分間乾燥させた。これにより、PETフィルム上に厚さ200μmの消火材が形成された積層体を得た。
【0042】
(実施例2)
シランカップリング剤の量を6質量部としたこと以外は実施例1と同様にして消火材用組成物を調製し、上記積層体を得た。
【0043】
(実施例3)
シランカップリング剤の量を12質量部としたこと以外は実施例1と同様にして消火材用組成物を調製し、上記積層体を得た。
【0044】
(実施例4)
以下の成分を混合し、消火材用組成物を調製した。
消火剤:クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物(87質量部)
バインダ樹脂:ポリビニルブチラール樹脂(6質量部)
酸無水物基を有する化合物:シランカップリング剤(6質量部)
液状媒体:エタノール(130質量部)
液状媒体:イソプロピルアルコール(5質量部)
クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物は、メノウ乳鉢ですり潰したのち、800番手のメッシュでフィルタリングすることで粒子径D50=8~12μmに調整した。シランカップリング剤として、X-12-1287A(商品名、信越化学工業(株)製)を使用した。このシランカップリング剤は、酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する。
【0045】
アプリケーター(ギャップ750μm)を用いて、得られた消火材用組成物をPETフィルム上に塗布し、75℃のオーブンにて7分間乾燥させた。これにより、PETフィルム上に厚さ200μmの消火材が形成された積層体を得た。
【0046】
(実施例5)
以下の成分を混合し、消火材用組成物を調製した。
消火剤:クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物(87質量部)
バインダ樹脂:エーテル系ウレタン樹脂(5質量部)
酸無水物基を有する化合物:ポリメチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー(8質量部)
液状媒体:エタノール(87質量部)
液状媒体:イソプロピルアルコール(14質量部)
クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物は、メノウ乳鉢ですり潰したのち、800番手のメッシュでフィルタリングすることで粒子径D50=8~12μmに調整した。酸無水物基を有する化合物として、Gantrez AN-119(アシュランド・ジャパン(株)製)を使用した。この化合物は、ポリメチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマーであり、ポリマー骨格中に酸無水物基を有するがアルコキシシリル基を有しない。
アプリケーター(ギャップ450μm)を用いて、得られた消火材用組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、75℃のオーブンにて7分間乾燥させた。これにより、PETフィルム上に厚さ200μmの消火材が形成された積層体を得た。
【0047】
(比較例1)
以下の成分を混合し、消火材用組成物を調製した。
消火剤:クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物(87質量部)
バインダ樹脂:エーテル系ウレタン樹脂(5質量部)
酸無水物基を有する化合物:なし
液状媒体:エタノール(87質量部)
液状媒体:イソプロピルアルコール(14質量部)
その他の成分:シランカップリング剤(8質量部)
クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物は、メノウ乳鉢ですり潰したのち、800番手のメッシュでフィルタリングすることで粒子径D50=8~12μmに調整した。シランカップリング剤として、X-12-1281A(商品名、信越化学工業(株)製)を使用した。このシランカップリング剤は、アルコキシシリル基を有するが酸無水物基を有しない。
アプリケーター(ギャップ450μm)を用いて、得られた消火材用組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、75℃のオーブンにて7分間乾燥させた。これにより、PETフィルム上に厚さ200μmの消火材が形成された積層体を得た。
【0048】
(比較例2)
以下の成分を混合し、消火材用組成物を調製した。
消火剤:クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物(87質量部)
バインダ樹脂:エーテル系ウレタン樹脂(13質量部)
酸無水物基を有する化合物:なし
液状媒体:エタノール(87質量部)
液状媒体:イソプロピルアルコール(14質量部)
クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物は、メノウ乳鉢ですり潰したのち、800番手のメッシュでフィルタリングすることで粒子径D50=8~12μmに調整した。
アプリケーター(ギャップ500μm)を用いて、得られた消火材用組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、75℃のオーブンにて7分間乾燥させた。これにより、PETフィルム上に厚さ200μmの消火材が形成された積層体を得た。
【0049】
<積層体の封入>
シーラント層(L-LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)樹脂、厚さ30μm)及び基材層(シリカ蒸着膜を有するPET樹脂、厚さ12μm)を備えるバリアフィルムを準備した。バリアフィルムの水蒸気透過率は0.2~0.6g/m2/day(40℃/90%RH条件下)であった。このバリアフィルムを2枚用いて、上記PETフィルム及び消火材の積層体を覆い、バリアフィルムの4辺をヒートシールすることで積層体を封入した。ヒートシール条件は140℃、2秒間とした。これを評価サンプルとした。
【0050】
<性状安定性評価>
得られた評価サンプルの全光線透過率を、ヘイズメーター(BYK社製 BYK-Gardner Haze-Guard Plus)を用いて、JIS K 7361-1に準拠した方法で測定した。測定は恒温恒湿槽(85℃/85%RH条件下)に投入する前(試験前)と、投入して136時間経過後(試験後)に行った。バリアフィルムの全光線透過率は95%であった。測定は測定箇所を変えて3回行い、下記式に従い試験前後での各箇所での全光線透過率の変化量を算出した。変化量の平均値を表1及び2に示す。消火材による吸湿(潮解)が生じた場合には透明度が上がるため、この変化量を確認することで性状安定性を評価した。
変化量Δ=試験後測定値-試験前測定値
【0051】
【0052】