(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009841
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240116BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20240116BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B3/30
C23C14/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023169714
(22)【出願日】2023-09-29
(62)【分割の表示】P 2022573371の分割
【原出願日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2021130171
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】鴉田 泰介
(57)【要約】 (修正有)
【課題】他の層との密着性に優れる導電層を備え、透明性に優れる積層体を提供する。
【解決手段】積層体(1)は、下地層(3)と、下地層(3)の厚み方向の一方面(31)に隣接する結晶性の透明導電層(4)とを備える。透明導電層(4)の厚み方向の一方面(41)は、高さが3nm以上である第1隆起(42)を備える。下地層(3)の一方面(31)は、高さが3nm以上である第2隆起を備えてもよい。第1隆起(42)は、厚み方向に投影したときに、第2隆起に重ならない隆起を少なくとも1つ備える。透明導電層(4)は、アルゴンより原子番号の大きい希ガスを含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地層と、前記下地層の厚み方向の一方面に隣接する結晶性の透明導電層とを備える積層体であって、
前記透明導電層の厚み方向の一方面は、高さが3nm以上である第1隆起を備え、
前記下地層の一方面は、高さが3nm以上である第2隆起を備えてもよく、
前記第1隆起は、厚み方向に投影したときに前記第2隆起に重ならない隆起を少なくとも1つ備え、
前記透明導電層は、アルゴンより原子番号の大きい希ガスを含有する、積層体。
【請求項2】
前記下地層は、樹脂を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記透明導電層の一方面に至る端縁を有する粒界を含み、
前記第1隆起が隆起する隆起開始点が、端縁またはその近傍に位置する、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
厚み方向において、前記下地層に対する前記透明導電層の反対側に配置される基材層をさらに備え、
前記基材層は、樹脂を含む、請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
厚み方向において、前記下地層に対する前記透明導電層の反対側に配置される基材層をさらに備え、
前記基材層は、樹脂を含む、請求項3に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
下地層と、下地層に隣接する結晶質の透明導電層とを備える積層体が知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。特許文献1に記載の積層体では、透明導電性層の厚み方向の一方面は、第1隆起を有する。下地層の厚み方向の一方面は、第2隆起を有する。下地層の第2隆起は、厚み方向に投影したときに、透明導電性層の第1隆起に重なる。
【0003】
特許文献1の積層体の製造において、粒子を含む樹脂組成物の塗布により、下地層に、粒子の形状に対応する第2隆起を形成する。また、下地層の厚み方向の一方面に薄膜形成して、上記した第2隆起に追従する第1隆起を、透明導電層に形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
透明導電層は、非晶質の透明導電層を加熱によって、結晶質とされる。しかし、特許文献1の積層体では、上記した第2隆起に起因して、非晶質の透明導電層の結晶化において、結晶の配向が揃いにくく、つまり、結晶の成長が阻害され、そのため、結晶化した透明導電層の透明性が低い。そのため、上記した透明導電層を備える積層体の透明性が低いという不具合がある。
【0006】
一方、透明導電層の厚み方向の一方面に、他の層が配置されるときに、透明導電性層と上記した層との密着性も求められる。他の層は、例えば、コーティング層を含む。
【0007】
本発明は、他の層との密着性に優れる透明導電層を備え、透明性に優れる積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(1)は、下地層と、前記下地層の厚み方向の一方面に隣接する結晶性の透明導電層とを備える積層体であって、前記透明導電層の厚み方向の一方面は、高さが3nm以上である第1隆起を備え、前記下地層の一方面は、高さが3nm以上である第2隆起を備えてもよく、前記第2隆起は、厚み方向に投影したときに、前記第1隆起に重ならず、前記透明導電層は、アルゴンより原子番号の大きい希ガスを含有する、積層体を含む。
【0009】
本発明(2)は、前記下地層は、樹脂を含む、(1)に記載の積層体を含む。
【0010】
本発明(3)は、前記透明導電層の一方面に至る端縁を有する粒界を含み、前記第1隆起が隆起する隆起開始点が、端縁またはその近傍に位置する、(1)または(2)に記載の積層体を含む。
【0011】
本発明(4)は、厚み方向において、前記下地層に対する前記透明導電層の反対側に配置される基材層をさらに備え、前記基材層は、樹脂を含む、(1)から(3)のいずれか一項に記載の積層体を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層体は、他の層との密着性に優れる透明導電層を備え、透明性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の積層体の一実施形態の断面図である。
【
図6】第1工程の反応性スパッタリングにおいて、酸素導入量と、比抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.積層体の一実施形態
本発明の積層体の一実施形態を、
図1を参照して説明する。
【0015】
積層体1は、面方向に延びる。面方向は、厚み方向に直交する。積層体1は、例えば、平面視略矩形状を有する。平面視とは、厚み方向に視ることを言う。詳しくは、積層体1は、シート形状を有する。シートは、フィルムを含む。なお、シートおよびフィルムは、峻別されない。
【0016】
本実施形態では、積層体1は、基材層2と、下地層3と、透明導電層4とを厚み方向の一方側に向かって順に備える。具体的には、積層体1は、基材層2と、基材層2の厚み方向の一方面21に配置される下地層3と、下地層3の厚み方向の一方面31に配置される透明導電層4とを備える。厚み方向に隣り合う2つの層は、隣接する。
【0017】
1.1 基材層2
基材層2は、厚み方向において、下地層3に対して透明導電層4の反対側に配置される。基材層2は、シート形状を有する。基材層2は、好ましくは、透明である。
【0018】
基材層2の材料としては、例えば、樹脂、セラミックス、および、金属が挙げられる。樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、および、ノルボルネン樹脂が挙げられる。樹脂として、好ましくは、透明性および機械強度の観点から、ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、および、ポリエチレンナフタレートが挙げられ、好ましくは、PETが挙げられる。
【0019】
セラミックスとしては、例えば、ガラスが挙げられる。金属としては、例えば、銀、錫、クロム、および、ジルコニウムが挙げられる。
【0020】
基材層2の材料として、好ましくは、樹脂が挙げられる。言い換えれば、基材層2は、好ましくは、樹脂を含む。基材層2が樹脂を含めば、下地層3が樹脂を含む本実施形態(後述)において、基材層2の線膨張係数を下地層3の線膨張係数に近づける(合わせる)ことができ、そのため、基材30(後述)および積層体1の熱収縮率を小さくできる。
【0021】
基材層2の厚みは、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上であり、また、例えば、500μm以下、好ましくは、200μm以下、より好ましくは、100μm以下である。
【0022】
基材層2の厚み方向の一方面21は、高さが3nm以上である第3隆起を有してもよい。第3隆起の高さは、後の第1隆起42の高さと同様にして求められる。上記した第3隆起の平面視における位置および数は、限定されない。
【0023】
基材層2の全光線透過率は、例えば、75%以上、好ましくは、85%以上、より好ましくは、90%以上である。基材層2の全光線透過率の上限は、限定されず、例えば、100%以下である。基材層2の全光線透過率は、JIS K 7375-2008に基づいて求められる。
【0024】
1.2 下地層3
下地層3は、基材層2の厚み方向の一方側に隣接する。具体的には、下地層3は、基材層2の厚み方向の一方面21に接触する。下地層3は、好ましくは、透明である。下地層3としては、例えば、光学調整層、および、ハードコート層が挙げられる。下地層3は、単層または複層である。
【0025】
なお、基材層2と下地層3とを基材30と称呼することができる。つまり、基材30は、基材層2と下地層3とを厚み方向の一方側に向かって順に備える。基材30は、好ましくは、透明である。そのため、基材30は、透明基材と称呼することができる。
【0026】
下地層3は、樹脂を含み、例えば、粒子をさらに含んでもよい。
【0027】
樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、および、シリコーン樹脂が挙げられる。
【0028】
粒子としては、例えば、無機粒子、および、有機粒子が挙げられる。無機粒子としては、例えば、金属酸化物粒子、および、炭酸塩粒子が挙げられる。金属酸化物粒子としては、例えば、シリカ粒子、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、および、酸化スズが挙げられる。炭酸塩粒子としては、例えば、炭酸カルシウム粒子が挙げられる。有機粒子としては、例えば、架橋アクリル粒子が挙げられる。粒子のメジアン径は、例えば、1nm以上、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、10nm以上であり、また、例えば、100nm以下、好ましくは、40nm以下である。
【0029】
下地層3は、好ましくは、粒子を含まず、樹脂を含む。なお、樹脂の原料が硬化性樹脂であれば、下地層3は、硬化膜である。
【0030】
本実施形態では、下地層3の厚み方向の一方面31は、高さが3nm以上である第2隆起32(
図2参照)を備えない。言い換えれば、下地層3の厚み方向の一方面31は、平坦面である。
なお、平坦面では、高さが3nm未満の隆起の存在が許容される。
【0031】
本実施形態では、下地層3の厚み方向の一方面31が上記した第2隆起32(
図2参照)を備えないので、次に説明する透明導電層4における結晶の配向がうまく揃い、そのため、透明導電層4の全光線透過率を高くできる。
【0032】
下地層3の厚みは、例えば、5nm以上、好ましくは、10nm以上、より好ましくは、30nm以上であり、また、例えば、10,000nm以下、好ましくは、5,000nm以下である。
【0033】
下地層3の全光線透過率は、例えば、75%以上、好ましくは、85%以上、より好ましくは、90%以上である。下地層3の全光線透過率の上限は、限定されず、例えば、100%以下である。下地層3の全光線透過率は、JIS K 7375-2008に基づいて求められる。
【0034】
基材30における面方向は、基材30を加熱した後、熱収縮する方向を含む。加熱温度は基材30の耐熱性に応じて選択できる。基材30を160℃で、1時間加熱した後の熱収縮率が例えば、0.01%以上、好ましくは、0.05%以上であり、また、例えば、2%以下、好ましくは、1.0%以下、より好ましくは、0.5%以下である方向を基材30における面方向が含む。基材30の熱収縮率が上記した下限以上、上限以下であれば、透明導電層4のクラックを抑制しつつ、後述する第1隆起42を作成できる。
【0035】
1.3 透明導電層4
透明導電層4は、下地層3の厚み方向の一方側に隣接する。具体的には、透明導電層4は、下地層3の厚み方向の一方面31に接触する。透明導電層4は、積層体1における厚み方向の一方面を形成する。透明導電層4は、面方向に延びるシート形状を有する。本実施形態では、透明導電層4は、単一の層である。
【0036】
透明導電層4の厚み方向の一方面41は、高さが3nm以上である第1隆起42を備える。透明導電層4は、好ましくは、高さが4nm以上、さらに好ましくは、高さが5nm以上、より好ましくは、高さが7nm以上、さらに好ましくは、高さが10nm以上、とくに好ましくは、高さが15nm以上、また、例えば、高さが50nm以下、好ましくは、高さが30nm以下、より好ましくは、高さが20nm以下である第1隆起42を含む。透明導電層4は、上記下限以上、上記上限以下の高さの第1隆起42を備えることで、後述の他の層5との密着性に優れる。第1隆起42は、単数または複数であり、好ましくは、密着性の向上を図る観点から、複数である。
【0037】
なお、本実施形態において、上記から、第2隆起32(
図2参照)の単位長さ当たりの数は、0である。そのため、第1隆起42の単位長さ当たりの数は、第2隆起32(
図2参照)の単位長さ当たりの数よりも多い。第1隆起42の単位長さ当たりの数が、第2隆起32(
図2参照)の単位長さ当たりの数よりも多いと、透明導電層4の厚み方向の一方面41の密着力が確実に向上されるとともに、透明導電層4の全光線透過率を確実に高くできる。
【0038】
具体的には、第1隆起42の単位長さ当たりの数は、例えば、1個/μm以上、好ましくは、2個/μm以上、より好ましくは、3個/μm以上、さらに好ましくは、4個/μm以上、とりわけ好ましくは、5個/μm以上、最も好ましくは、8個/μm以上であり、また、例えば、50個/μm以下、好ましくは、30個/μm以下、より好ましくは、20個/μm以下である。
【0039】
第1隆起42の単位長さ当たりの数は、後の実施例で説明される通り、透明導電層4の断面をTEMで観察することによって、カウントされる。
【0040】
第1隆起42の高さの平均は、例えば、3nm以上、好ましくは、4nm以上、より好ましくは、5nm以上、さらに好ましくは、6nm以上、とりわけ好ましくは、7nm以上、最も好ましくは、8nm以上であり、また、例えば、40nm以下、好ましくは、20nm以下、より好ましくは、15nm以下、さらに好ましくは、10nm以下である。第1隆起42の高さの平均は、後の実施例で説明される。透明導電層4は、第1隆起42の高さの平均が上記した下限以上、上限以下である第1隆起42を備えることで、後述の他の層5との密着性に優れる。
【0041】
本実施形態では、透明導電層4の厚み方向の一方面41は、例えば、平坦部43をさらに備える。平坦部43は、隆起開始部431の外側に配置される。隆起開始部431は、平坦部43から第1隆起42が隆起を開始する部分である。
【0042】
第1隆起42の高さは、断面視において、最も厚み方向の一方側に位置する一端部432から、2つの隆起開始部431を結ぶ線分に対して厚み方向に沿って垂下させて垂下点を得たときの、上記した一端部432から垂下点までの長さである。第1隆起42の高さは、例えば、TEM写真の観察(断面観察)によって、求められる。
【0043】
また、透明導電層4は、結晶質である。好ましくは、透明導電層4は、非晶質な領域を含まない。好ましくは、透明導電層4は、結晶質な領域のみからなる。
【0044】
なお、透明導電層4が結晶質か非晶質かは、例えば、以下の試験によって、判別される。透明導電層4を、5質量%の塩酸水溶液に15分間浸漬した後、水洗および乾燥し、透明導電層4の一方面41において15mm程度の間の二端子間抵抗を測定し、二端子間抵抗が10kΩ以下であれば、透明導電層4が結晶質であり、上記した二端子間抵抗が10kΩ超過であれば、透明導電層4が非晶質である。
【0045】
透明導電層4は、結晶質であるので、透明導電層4の全光線透過率を高くできる。
【0046】
透明導電層4は、粒界44を備える。粒界44は、透明導電層4の厚み方向の一方面41に至る一端縁441を含む。
【0047】
なお、上記した粒界44は、2つの一端縁441のそれぞれから厚み方向の他方側に進み、厚み方向の中間部において、それらが連結されている。
【0048】
また、粒界44は、上記した一端縁441から厚み方向の他方側に向かい、透明導電層4の厚み方向の他方面、すなわち、下地層3の厚み方向の一方面31に至る他端縁442をさらに含んでもよい。
【0049】
好ましくは、粒界44は、他端縁442を含まず、一の粒界44が、2つの一端縁441を含む。この構成によれば、透明導電層4の一方面41は、第1隆起42を形成し易くなる。
【0050】
そして、上記した隆起開始部431は、例えば、上記した一端縁441に位置し、および/または、上記した一端縁441の近傍に位置する。
【0051】
具体的には、
図1の左側部分に位置する第1隆起42Aにおける2つの隆起開始部431Aのそれぞれは、上記した一端縁441に位置する。図示しないが、上記した第1隆起42Aに対応する一端縁441は、例えば、平面視で無端形状であって、平面視において、上記した一端縁441に沿って、上記した第1隆起42Aの隆起開始部431Aが存在する。
【0052】
また、
図1の右側部分に位置する第1隆起42Bにおける2つの隆起開始部431Bのうち、左側の隆起開始部431Bは、一端縁441および他端縁442を含む粒界44における一端縁441の近傍に位置する。近傍は、例えば、2つの距離が15nm以内、好ましくは、10nm以内である。残りの隆起開始部431Bは、一端縁441に位置する。
【0053】
隆起開始部431が、粒界44の一端縁441および/または近傍に位置すれば、上記した第1隆起42は、透明導電層4における一方面41に確実に多数形成される。そのため、透明導電層4の一方面41の密着性が優れる。
【0054】
透明導電層4の材料としては、例えば、金属酸化物が挙げられる。金属酸化物は、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Nb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む。具体的には、透明導電層4の材料としては、好ましくは、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)、インジウムガリウム複合酸化物(IGO)、インジウムスズ複合酸化物(ITO)、および、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)が挙げられ、好ましくは、全光線透過率を高くする観点から、インジウムスズ複合酸化物(ITO)が挙げられる。
【0055】
なお、インジウムスズ複合酸化物における酸化スズ(SnO2)の含有量は、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、3質量%以上、より好ましくは、6質量%以上であり、また、例えば、50質量%未満、好ましくは、25質量%以下、より好ましくは、15質量%以下である。
【0056】
そして、透明導電層4は、アルゴンより原子番号が大きい希ガスを含有する。好ましくは、透明導電層4は、アルゴンより原子番号が大きい希ガスを含有し、アルゴンを含有しない。
【0057】
後述する第1工程において、スパッタリングガスがアルゴンを含有する場合には、得られる透明導電層4にアルゴンが、多量に取り込まれる。対して、スパッタリングガスがアルゴンより原子番号が大きい希ガスを含有し、アルゴンを含有しない本実施形態では、透明導電層4は、スパッタリングガスの多量の取り込みが抑制される。そのため、透明導電層4の結晶性が高まり、その結果、透明導電層4の全光線透過率が十分に高くなる。さらには、上記した透明導電層4の結晶性の向上に伴い、透明導電層4の比抵抗(後述)が低くなる。
【0058】
具体的には、透明導電層4の材料は、アルゴンより原子番号が大きい希ガスを含有する金属酸化物である。つまり、金属酸化物にアルゴンより原子番号が大きい希ガスが混入した組成物が、透明導電層4の材料である。
【0059】
アルゴンより原子番号が大きい希ガスとしては、例えば、クリプトン、キセノン、および、ラドンが挙げられる。これらは、単独または併用できる。アルゴンより原子番号が大きい希ガスとして、好ましくは、クリプトン、および、キセノンが挙げられ、より好ましくは、低価格と優れた電気伝導性とを得る観点から、クリプトン(Kr)が挙げられる。
【0060】
アルゴンより原子番号が大きい希ガスの同定方法は、限定されない。例えば、ラザフォード後方散乱分析(Rutherford Backscattering Spectrometry)、二次イオン質量分析法、レーザー共鳴イオン化質量分析法、および/または、蛍光X線分析により、透明導電層4におけるアルゴンより原子番号が大きい希ガスが同定される。
【0061】
透明導電層4におけるアルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有割合は、例えば、0.0001atom%以上であり、好ましくは、0.001atom%以上であり、また、例えば、1.0atom%以下、より好ましくは、0.7atom%以下、さらに好ましくは、0.5atom%以下、ことさらに好ましくは、0.3atom%以下、とくに好ましくは、0.2atom%以下、もっとも好ましくは、0.15atom%以下である。透明導電層4におけるアルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有割合が、上記範囲であれば、透明導電層4の全光線透過率を高くできる。
【0062】
透明導電層4の厚みは、例えば、15nm以上、好ましくは、35nm以上、より好ましくは、50nm以上、さらに好ましくは、75nm以上、ことさらに好ましくは、100nm以上、とりわけ好ましくは、120nm以上である。透明導電層4の厚みは、例えば、500nm以下、好ましくは、300nm以下、より好ましくは、200nm以下である。透明導電層4の厚みは、例えば、TEM写真の観察(断面観察)によって測定される。
【0063】
透明導電層4の全光線透過率は、例えば、75%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上、さらに好ましくは、90%以上である。透明導電層4の全光線透過率の上限は、限定されず、例えば、100%以下である。透明導電層4の全光線透過率は、JIS K 7375-2008に基づいて求められる。
【0064】
透明導電層4の厚み方向の一方面41の比抵抗は、例えば、5.0×10-4Ω・cm以下、好ましくは、3×10-4Ω・cm以下、より好ましくは、2.5×10-4Ω・cm以下、さらに好ましくは、2.3×10-4Ω・cm以下、ことさらに好ましくは、2.0×10-4Ω・cm以下、とくに好ましくは、1.8×10-4Ω・cm以下、最も好ましくは、1.5×10-4Ω・cm以下であり、また、例えば、0.1×10-4Ω・cm以上、好ましくは、0.5×10-4Ω・cm以上、より好ましくは、1.0×10-4Ω・cm以上、さらに好ましくは、1.01×10-4Ω・cm以上、ことさらに好ましくは、1.05×10-4Ω・cm以上、とくに好ましくは、1.10×10-4Ω・cm以上である。比抵抗は、四端子法により測定される。
【0065】
次に、積層体1を製造する方法を説明する。この方法では、各層のそれぞれをロール-トゥ-ロール法で配置する。
【0066】
まず、長尺の基材層2を準備する。
【0067】
次いで、上記した樹脂を含む樹脂組成物を、基材層2の一方面21に塗布する。その後、樹脂組成物が硬化性樹脂を含む場合には、硬化性樹脂を、熱または紫外線照射によって、硬化させる。これによって、樹脂を含む下地層3を形成する。これによって、基材層2と下地層3とを厚み方向の一方側に向かって順に備える基材30を調製する。なお、本実施形態では、樹脂組成物が樹脂を含む一方、粒子を含まないので、下地層3の厚み方向の一方面31に上記した第2隆起32(
図2参照)が形成されない。
【0068】
なお、例えば、160℃で、1時間加熱したときの基材30の長尺方向(MD方向)の熱収縮率に限定はなく、例えば、0.1%以上、好ましくは、0.2%以上であり、また、例えば、2.0%以下、好ましくは、1.0%以下である。160℃で、1時間加熱したときの基材30の幅方向(長尺方向および厚み方向に直交する方向)(TD方向)の熱収縮率に限定はなく、例えば、-0.2%以上、好ましくは、0.00%以上、より好ましくは、0.01%以上、さらに好ましくは、0.05%以上であり、また、例えば、1.0%以下、好ましくは、0.5%以下である。
【0069】
基材30の熱収縮率は、下記式により求められる。
基材30の熱収縮率(%)=100×[加熱前の基材30の長さ-加熱後の基材30の長さ]/加熱前の基材30の長さ
【0070】
その後、透明導電層4を、下地層3の厚み方向の一方面31に形成する。透明導電層4を形成する方法は、例えば、第1工程と、第2工程とを備える。
【0071】
第1工程では、非晶質の透明導電層40を下地層3の厚み方向の一方面31に形成する。例えば、スパッタリング、好ましくは、反応性スパッタリングによって、非晶質の透明導電層40を下地層3の厚み方向の一方面31に形成する。
【0072】
スパッタリングでは、スパッタリング装置が用いられる。スパッタリング装置は、成膜ロールを備える。成膜ロールは、冷却装置を備える。冷却装置は、成膜ロールを冷却可能である。成膜ロールは、下地層3(を含む基材30)を冷却可能である。
【0073】
スパッタリング(好ましくは、反応性スパッタリング)では、上記した金属酸化物(の焼結体)がターゲットとして用いられる。成膜ロールの表面温度は、スパッタリングにおける成膜温度に相当する。成膜温度は、例えば、10.0℃以下、好ましくは、0.0℃以下、より好ましくは、-2.5℃以下、さらに好ましくは、-5.0℃以下、さらに好ましくは、-7.0℃以下であり、また、例えば、-50℃以上、好ましくは、-20℃以上、さらに好ましくは、-10℃以上である。
【0074】
成膜ロールの表面温度が上記した上限以下であれば、下地層3(を含む基材30)を十分に冷却でき、そのため、粒界44が、他端縁442を含まず、一の粒界44が、2つの一端縁441を含む透明導電層4を得られる。従って、透明導電層4の一方面41に第1隆起42を確実に形成することができる。
【0075】
スパッタリングガスとしては、アルゴンより原子番号が大きい希ガスが挙げられる。アルゴンより原子番号が大きい希ガスとしては、例えば、クリプトン、キセノン、および、ラドンが挙げられ、好ましくは、クリプトン(Kr)が挙げられる。スパッタリングガスは、好ましくは、アルゴンを含有しない。スパッタリングガスは、反応性ガスと混合されてもよい。反応性ガスとしては、例えば、酸素が挙げられる。スパッタリングガスおよび反応性ガスの合計導入量に対する反応性ガスの導入量の割合は、例えば、0.1流量%以上、好ましくは、0.5流量%以上であり、また、例えば、5流量%以下、好ましくは、3流量%以下である。
【0076】
第1工程で形成される非晶質の透明導電層40は、第1隆起42を備えていなくもよく、また、第1隆起42をすでに備えていてもよい。
【0077】
第2工程では、非晶質の透明導電層40を結晶化させて、結晶質の透明導電層4を形成する。具体的には、第2工程では、非晶質の透明導電層40を加熱する。
【0078】
加熱温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、110℃以上、より好ましくは、さらに好ましくは、130℃以上、とりわけ好ましくは、150℃以上であり、また、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下、より好ましくは、175℃以下、さらに好ましくは、170℃以下である。加熱時間は、例えば、1分間以上、好ましくは、3分間以上、より好ましくは、5分間以上であり、また、例えば、5時間以下、好ましくは、3時間以下、より好ましくは、2時間以下である。加熱は、例えば、大気雰囲気下で、実施される。
【0079】
これによって、基材層2と、下地層3と、透明導電層4とを厚み方向の一方側に向かって順に備える積層体1が製造される。
【0080】
なお、例えば、160℃で、1時間加熱したときの積層体1の長尺方向(MD方向)の熱収縮率に限定はなく、例えば、0.1%以上、好ましくは、0.2%以上であり、また、例えば、2.0%以下、好ましくは、1.0%以下である。160℃で、1時間加熱したときの積層体1の幅方向(長尺方向および厚み方向に直交する方向)(TD方向)の熱収縮率に限定はなく、例えば、-0.2%以上、好ましくは、0.00%以上、より好ましくは、0.01%以上、さらに好ましくは、0.05%以上であり、また、例えば、1.0%以下、好ましくは、0.5%以下である。
【0081】
積層体1は、MD方向およびTD方向のそれぞれの熱収縮率が上記した下限以上であれば、透明導電層4の一方面41に第1隆起42を確実に形成できる。
【0082】
積層体1の熱収縮率は、下記式により求められる。
積層体1の熱収縮率(%)=100×[加熱前の積層体1の長さ-加熱後の積層体1の長さ]/加熱前の積層体1の長さ
【0083】
積層体1の全光線透過率は、例えば、75%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上、好ましくは、86%以上、より好ましくは、87%以上であり、また、例えば、100%以下である。積層体1の全光線透過率の上限は、限定されない。積層体1の全光線透過率は、ヘーズメーターを用いて測定される。
【0084】
その後、必要により、積層体1の厚み方向の一方面、すなわち、透明導電層4の厚み方向の一方面41に、他の層5を配置する。例えば、コーティングによってコーティング層51を形成する。他の層51は、例えば、調光機能コート層や金属ペースト層などを含む。他の層5は、透明導電層4の厚み方向の一方面41に隣接する。他の層5は、具体的には、例えば、調光機能層(PDLCやPNLC、SPDなどの電圧駆動型調光コーティングやエレクトロクロクロミック(EC)等の電流駆動型調光コーティング)や銀、銅、チタンなどを含む金属ペーストなどの機能部材である。
【0085】
2. 積層体1の用途
積層体1は、例えば、物品に用いられる。具体的には、積層体1は、光学用積層体であって、上記した物品としては、光学用の物品が挙げられる。詳しくは、物品としては、例えば、タッチセンサ、電磁波シールド、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、光透過性アンテナ部材、光透過性ヒータ部材、画像表示装置、および、照明が挙げられる。
【0086】
3. 一実施形態の作用効果
積層体1では、下地層3は、第2隆起32(
図2参照)を備えない。そのため、結晶質の透明導電層4は、結晶の配向がきちんと揃うことができる。そのため、透明導電層4の全光線透過率を高くできる。従って、積層体1は、上記した透明導電層4を備えるので、全光線透過率が高い。
【0087】
また、透明導電層4の厚み方向の一方面41は、第1隆起42を備える。そのため、透明導電層4は、第1隆起42に基づくアンカー効果によって、他の層5との密着性に優れる。
【0088】
4. 変形例
以下の各変形例において、上記した一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、各変形例は、特記する以外、一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態および変形例を適宜組み合わせることができる。
【0089】
図2に示すように、変形例の積層体1では、下地層3の厚み方向の一方面31は、高さが3nm以上である第2隆起32を備える。つまり、本発明の積層体では、下地層の厚み方向の一方面は、高さが3nm以上である第2隆起を備えてもよいが、かかる第2隆起は、厚み方向に投影したときに、第1隆起に重ならない。
【0090】
変形例の積層体1では、上記した第2隆起32は、厚み方向に投影したときに、透明導電層4の第1隆起42に重ならない。
【0091】
第1隆起42の単位長さ当たりの数は、例えば、第2隆起32の単位長さの数よりも多い。第1隆起42の単位長さ当たりの数は、第2隆起32の単位長さの数よりも多いと、透明導電層4の厚み方向の一方面41の密着力が確実に向上されるとともに、透明導電層4の全光線透過率を確実に高くできる。
【0092】
具体的には、第2隆起32の単位長さ当たりの数は、例えば、25個/μm以下、好ましくは、20個/μm以下、より好ましくは、10個/μm以下、さらに好ましくは、5個/μm以下であり、また、例えば、0個/μm、また、1個/μm以上である。
【0093】
第1隆起42の単位長さ当たりの数に対する第2隆起32の単位長さ当たりの数の比は、例えば、0.9以下、好ましくは、0.5以下、より好ましくは、0.3以下、さらに好ましくは、0.2以下、とりわけ好ましくは、0.1以下である。第1隆起42の単位長さ当たりの数に対する第2隆起32の単位長さ当たりの数の比は、例えば、0.0001以上である。
【0094】
第1隆起42の単位長さ当たりの数から第2隆起32の単位長さ当たりの数を差し引いた値は、例えば、1個/μm以上、好ましくは、2個/μm以上、より好ましくは、5個/μm以上、さらに好ましくは、7個/μm以上、とりわけ好ましくは、10個/μm以上である。第1隆起42の単位長さ当たりの数から第2隆起32の単位長さ当たりの数を差し引いた値は、例えば、30個/μm以下である。
【0095】
下地層3に上記した第2隆起32を備える方法は、特に限定されない。
【0096】
例えば、
図7に示すように、第2隆起32が、厚み方向に投影したときに、透明導電層4の第1隆起42に重なると、第1隆起42の結晶化において、透明導電層4において第2隆起32に隣接する厚み方向の他方面およびその近傍において、結晶の配向が揃いにくく、つまり、結晶の成長が阻害され、そのため、透明導電層4の全光線透過率が低くなる。
【0097】
しかし、この変形例の積層体1では、
図2に示すように、第2隆起32は、厚み方向に投影したときに、透明導電層4の第1隆起42に重ならないので、上記した課題を生じず、透明導電層4の全光線透過率を高くでき、ひいては、積層体1の全光線透過率を高くできる。
【0098】
一実施形態および変形例のうち、好ましくは、一実施形態である。一実施形態であれば、
図1に示すように、下地層3の一方面31が第2隆起32を備えないので、透明導電層4における上記した結晶の配向性をより一層整えることができる。そのため、透明導電層4の全光線透過率を高くでき、ひいては、積層体1の全光線透過率を高くできる。
【0099】
図3に示すように、積層体1は、基材層2を備えず、下地層3と、透明導電層4とを備える。つまり、この変形例では、積層体1は、下地層3と、透明導電層4とのみを備える。
【0100】
変形例では、下地層3は、樹脂を含まず、無機物からなる。無機物は、例えば、金属材料、および、セラミックス材料が挙げられる。金属材料としては、例えば、銀、錫、クロム、および、ジルコニウムが挙げられる。セラミックス材料としては、例えば、ガラスが挙げられる。上記した変形例の下地層3、および、一実施形態の下地層3のうち、好ましくは、一実施形態の下地層3である。一実施形態の下地層3は、樹脂を含むことから、熱収縮率が高くなり、上記した下地層3および透明導電層4を備える積層体1には、圧縮応力が印加される。その結果、粒界44が、他端縁442を含まず、一の粒界44が、2つの一端縁441を含む透明導電層4を得られ、第1隆起42を好適に作ることができ、その結果、全光線透過率を高くできる。
【実施例0101】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0102】
実施例1
長尺のPETフィルム(厚み50μm,東レ社製)からなる基材層2の厚み方向の一方面21に、紫外線硬化性樹脂を塗布して塗膜を形成した。紫外線硬化性樹脂組成物は、アクリル樹脂を含有する。次に、紫外線照射によって当該塗膜を硬化させて下地層3を形成した。下地層3の厚みは、2μmであった。これによって、基材層2と、下地層3とを厚み方向に順に備える基材30を作製した。
【0103】
次に、非晶質の透明導電層40を、反応性スパッタリング法により、下地層3の厚み方向の一方面31に形成した(第1工程)。反応性スパッタリング法では、DCマグネトロンスパッタリング装置を用いた。
【0104】
本実施例におけるスパッタリングの条件は、次のとおりである。ターゲットとして、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体を用いた。焼結体における酸化スズ濃度は10質量%であった。DC電源を用いて、ターゲットに対して電圧を印加した。ターゲット上の水平磁場強度は90mTとした。成膜温度は-8℃とした。成膜温度は、成膜ロールの表面温度であって、基材30の温度と同一である。また、DCマグネトロンスパッタリング装置における成膜室内の到達真空度が0.6×10
-4Paに至るまで成膜室内を真空排気した後、成膜室内に、スパッタリングガスとしてのKrと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、成膜室内の気圧を0.2Paとした。成膜室に導入されるKrおよび酸素の合計導入量に対する酸素導入量の割合は約2.6流量%である。酸素導入量は、
図6に示すように、比抵抗-酸素導入量曲線の領域R内であって、非晶質の透明導電層40の比抵抗が6.3×10
-4Ω・cmになるように調整した。
図6に示す比抵抗-酸素導入量曲線は、酸素導入量以外の条件は上記と同じ条件で非晶質の透明導電層40を反応性スパッタリング法で形成した場合の、非晶質の透明導電層40の比抵抗の酸素導入量依存性を、予め調べて作成した。
【0105】
次に、非晶質の透明導電層40を、熱風オーブン内での加熱によって結晶化させた(第2工程)。加熱温度は160℃とし、加熱時間は1時間とした。結晶質の透明導電層4の厚みは、145nmであった。
【0106】
これによって、基材層2と、下地層3と、結晶質の透明導電層4とを厚み方向の一方面に順に備える積層体1を製造した(
図1参照)。
【0107】
比較例1
実施例1と同様にして、積層体1を製造した。但し、スパッタリングガスからKrからArに変更し、成膜室内の気圧を0.2Paから0.4Paに変更し、成膜室に導入されるArおよび酸素の合計導入量に対する酸素導入量の割合を約1.6流量%に変更した。
【0108】
比較例2
比較例1と同様にして、積層体1を製造した。但し、アクリル樹脂と、メジアン径が20nmであるシリカ粒子とを備える紫外線硬化性樹脂組成物を用いた(
図7参照)。
【0109】
<評価>
各実施例および各比較例の透明導電層4について、下記の項目を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0110】
[第1隆起42および第2隆起32の断面観察と、第1隆起42の数のカウント]
【0111】
FIBマイクロサンプリング法により、各実施例および各比較例の積層体を断面調整した後、それぞれの下地層3および透明導電層4の断面をFE-TEM観察を実施し、第1隆起42および第2隆起32のそれぞれの存在を確認した。また、透明導電層4の厚み方向の一方面41における長さ1μmの中に存在する第1隆起42の数を数えた。なお、観察倍率は、第1隆起42および第2隆起32の存在の有無および高さを観察できるように、設定した。
【0112】
装置および測定条件は以下のとおりである。
FIB装置; Hitachi製 FB2200、 加速電圧: 10kV
FE-TEM 装置; JEOL製 JEM-2800、加速電圧: 200kV
【0113】
その結果、実施例1および比較例1では、いずれも、第1隆起42が観察されたが、第2隆起32は観察されなかった。
【0114】
実施例1における第1隆起42の高さのうち、最も高い隆起の高さは、18nmであった。なお、任意の第1隆起42を10個選択して求めた、第1隆起42の平均の高さは、8nmであった。つまり、第1隆起42の平均の高さは、任意の10個の第1隆起42の高さの平均として求めた。実施例1のTEM写真の画像処理図を
図4に示す。また、
図4において粒界44を破線で描画した図を
図5に示す。
【0115】
比較例1における第1隆起42のうち、最も高い隆起の高さは、15nmであった。なお、任意の第1隆起42を10個選択して求めた、第1隆起42の平均の高さは、7nmであった。つまり、第1隆起42の平均の高さは、任意の10個の第1隆起42の高さの平均として求めた。
【0116】
併せて、実施例1、比較例1の第1隆起42の単位長さ当たりの第1隆起42の数を、TEM画像(断面観察)でカウントした。その結果、実施例1で、10個/μm、比較例2で、7個/μmであった。
【0117】
比較例2では、第1隆起42および第2隆起32のいずれも、観察された(
図7参照)。なお、比較例2における第1隆起42および第2隆起32のそれぞれの高さは、11nmであった。
【0118】
[透明導電層4におけるKr原子の確認]
実施例1における透明導電層4がKr原子を含有することは、次のようにして確認した。まず、走査型蛍光X線分析装置(商品名「ZSX PrimusIV」,リガク社製)を使用して、下記の測定条件にて蛍光X線分析測定を5回繰り返し、各走査角度の平均値を算出し、X線スペクトルを作成した。そして、作成されたX線スペクトルにおいて、走査角度28.2°近傍にピークが出ていることを確認することにより、透明導電層4にKr原子が含有されることを確認した。
【0119】
<測定条件>
スペクトル;Kr-KA
測定径:30mm
雰囲気:真空
ターゲット:Rh
管電圧:50kV
管電流:60mA
1次フィルタ:Ni40
走査角度(deg):27.0~29.5
ステップ(deg):0.020
速度(deg/分):0.75
アッテネータ:1/1
スリット:S2
分光結晶:LiF(200)
検出器:SC
PHA:100~300
【0120】
また、比較例1、比較例2における透明導電層4がKr原子を含有しないことを、X線スペクトルにおいて、走査角度28.2°近傍にピークが出ていないことを確認することにより、確認した。
【0121】
[透明導電層4におけるArの確認]
ラザフォード後方散乱分光法(RBS)により、比較例1、比較例2のそれぞれの透明導電層4がArを含有することを、次のようにして確認した。より詳細には、In+Sn(ラザフォード後方散乱分光法では、InとSnを分離しての測定が困難であるため、2元素の合算として評価した)、O、Arの4元素を検出元素として測定を行い、透明導電層におけるArの存在を確認した。使用装置および測定条件は、下記のとおりである。
【0122】
<使用装置>
Pelletron 3SDH(National Electrostatics Corporation製)
【0123】
<測定条件>
入射イオン:4He++
入射エネルギー:2300keV
入射角:0deg
散乱角:160deg
試料電流:6nA
ビーム径:2mmφ
面内回転:無
照射量:75μC
【0124】
また、実施例1の積層体1の透明導電層4にArが含有されていないことを、比較例1および比較例2と同様に、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)により確認した。
【0125】
[積層体の透過率]
各実施例および各比較例の積層体1の全光線透過率を、ヘーズメーター(スガ試験機社製、装置名「HGM-2DP)を用いて、測定した。
【0126】
[基材30および積層体1の熱収縮率]
実施例1の基材30を160℃、1時間加熱した後の熱収縮率を測定した。その結果、基材30のMD方向の熱収縮率は、0.5%であり、積層体1のTD方向の0.1%であった。
【0127】
実施例1の積層体1を160℃、1時間加熱した後の熱収縮率を測定した。その結果、積層体1のMD方向の熱収縮率は、0.4%であり、積層体1のTD方向の0.2%であった。
【0128】
【0129】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記請求の範囲に含まれる。