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特開2024-98425構造体設計支援装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098425
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】構造体設計支援装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20240716BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240716BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F30/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001946
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】河内 毅
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA05
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】自動車の車体等の構造体における構造改善を要する部品を定量的に評価して選定するための構造体の変形形態の解析を極めて短時間で行い、解析処理に対する即答性の要請に応える。
【解決手段】自動車の車体等の構造体について固有値解析を行って固有ベクトルを算出し、構造体の解析対象部位ごとに、算出された固有ベクトルを用いて、剛性指標の板厚感度、剛性指標のヤング率感度、及び板厚感度とヤング率感度との比である板曲げ変形度を算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体の解析モデルについて、固有値解析を行って固有ベクトルを算出する固有値解析部と、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析モデルの解析対象部位における剛性指標の板厚感度を算出する板厚感度算出部と、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析対象部位における前記剛性指標のヤング率感度を算出するヤング率感度算出部と、
前記板厚感度と前記ヤング率感度との比である、前記解析対象部位における板曲げ変形度を算出する板曲げ変形度算出部と、
を含むことを特徴とする構造体設計支援装置。
【請求項2】
前記剛性指標は、一般化剛性であることを特徴とする請求項1に記載の構造体設計支援装置。
【請求項3】
前記剛性指標は、前記固有値解析部により算出された固有値であることを特徴とする請求項1に記載の構造体設計支援装置。
【請求項4】
前記解析モデルにおける全ての前記解析対象部位について、それぞれ前記板曲げ変形度を算出することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の構造体設計支援装置。
【請求項5】
前記固有ベクトルを算出するための前記構造体に関する数値解析データを記憶する記憶部を更に備えたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の構造体設計支援装置。
【請求項6】
前記固有ベクトルの固有振動モードは、前記構造体における0.1Hz以上2000Hz以下の間に生じる全ての固有振動モードのうちの1種、又は前記全ての固有振動モードから選ばれた複数種の重ね合わせであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の構造体設計支援装置。
【請求項7】
構造体の解析モデルについて、固有値解析を行って固有ベクトルを算出する第1ステップと、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析モデルの解析対象部位における剛性指標の板厚感度を算出する第2ステップと、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析対象部位における前記剛性指標のヤング率感度を算出する第3ステップと、
前記板厚感度と前記ヤング率感度との比である、前記解析対象部位における板曲げ変形度を算出する第4ステップと、
を含むことを特徴とする構造体設計支援方法。
【請求項8】
前記剛性指標は、一般化剛性であることを特徴とする請求項7に記載の構造体設計支援方法。
【請求項9】
前記剛性指標は、前記第1ステップで算出された固有値であることを特徴とする請求項7に記載の構造体設計支援方法。
【請求項10】
前記解析モデルにおける全ての前記解析対象部位について、前記第2ステップ、前記第3ステップ、及び前記第4ステップをそれぞれ実行することを特徴とする請求項7~9のいずれか1項に記載の構造体設計支援方法。
【請求項11】
前記第1ステップは、所定の記憶部に記憶された、前記固有ベクトルを算出するための前記構造体に関する数値解析データを用いることを特徴とする請求項7~9のいずれか1項に記載の構造体設計支援方法。
【請求項12】
前記固有ベクトルの固有振動モードは、前記構造体における0.1Hz以上2000Hz以下の間に生じる全ての固有振動モードのうちの1種、又は前記全ての固有振動モードから選ばれた複数種の重ね合わせであることを特徴とする請求項7~9のいずれか1項に記載の構造体設計支援方法。
【請求項13】
構造体の解析モデルについて、固有値解析を行って固有ベクトルを算出する第1ステップと、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析モデルの解析対象部位における剛性指標の板厚感度を算出する第2ステップと、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析対象部位における前記剛性指標のヤング率感度を算出する第3ステップと、
前記板厚感度と前記ヤング率感度との比である、前記解析対象部位における板曲げ変形度を算出する第4ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする構造体設計支援プログラム。
【請求項14】
前記剛性指標は、一般化剛性であることを特徴とする請求項13に記載の構造体設計支援プログラム。
【請求項15】
前記剛性指標は、前記第1ステップで算出された固有値であることを特徴とする請求項13に記載の構造体設計支援プログラム。
【請求項16】
前記解析モデルにおける全ての前記解析対象部位について、前記第2ステップ、前記第3ステップ、及び前記第4ステップをそれぞれ実行することを特徴とする請求項13~15のいずれか1項に記載の構造体設計支援プログラム。
【請求項17】
前記第1ステップは、所定の記憶部に記憶された、前記固有ベクトルを算出するための前記構造体に関する数値解析データを用いることを特徴とする請求項13~15のいずれか1項に記載の構造体設計支援プログラム。
【請求項18】
前記固有ベクトルの固有振動モードは、前記構造体における0.1Hz以上2000Hz以下の間に生じる全ての固有振動モードのうちの1種、又は前記全ての固有振動モードから選ばれた複数種の重ね合わせであることを特徴とする請求項13~15のいずれか1項に記載の構造体設計支援プログラム。
【請求項19】
請求項13に記載の構造体設計支援プログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体設計支援装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、特に自動車分野において、車体の軽量化が求められている。その一般的な対策として、車体部品の板厚を減少させる手法が採られている。しかしながら、板厚の減少は同時に、車体の剛性や固有振動数の低減化に伴う振動・騒音特性の悪化を招く。これを部品構造改善によって抑制する必要があり、構造改善を要する部品を効率良く抽出するための技術が案出されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-152894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の手法によれば、車体等の構造体を構成する部品や部位の変形形態を定量的に評価して構造改善を要する部品を選定することができる。しかしながら、特許文献1の手法では、自動車車体のような大規模構造体を構成する部品や部位の変形形態の解析に数日~数週間程度の長時間を要し、即答性の要請に応えることは困難である。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、自動車の車体等の構造体における構造改善を要する部品を定量的に評価して選定するための構造体の変形形態の解析を極めて短時間で行い、解析処理に対する即答性の要請に応えることができる構造体設計支援装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、鋭意検討の結果、以下に示す発明の諸様態に想到した。本発明の要旨は、以下の通りである。
【0007】
[1]
構造体の解析モデルについて、固有値解析を行って固有ベクトルを算出する固有値解析部と、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析モデルの解析対象部位における剛性指標の板厚感度を算出する板厚感度算出部と、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析対象部位における前記剛性指標のヤング率感度を算出するヤング率感度算出部と、
前記板厚感度と前記ヤング率感度との比である、前記解析対象部位における板曲げ変形度を算出する板曲げ変形度算出部と、
を含むことを特徴とする構造体設計支援装置。
【0008】
[2]
前記剛性指標は、一般化剛性であることを特徴とする[1]に記載の構造体設計支援装置。
【0009】
[3]
前記剛性指標は、前記固有値解析部により算出された固有値であることを特徴とする[1]に記載の構造体設計支援装置。
【0010】
[4]
前記解析モデルにおける全ての前記解析対象部位について、それぞれ前記板曲げ変形度を算出することを特徴とする[1]~[3]のいずれか1項に記載の構造体設計支援装置。
【0011】
[5]
前記固有ベクトルを算出するための前記構造体に関する数値解析データを記憶する記憶部を更に備えたことを特徴とする[1]~[4]のいずれか1項に記載の構造体設計支援装置。
【0012】
[6]
前記固有ベクトルの固有振動モードは、前記構造体における0.1Hz以上2000Hz以下の間に生じる全ての固有振動モードのうちの1種、又は前記全ての固有振動モードから選ばれた複数種の重ね合わせであることを特徴とする[1]~[5]のいずれか1項に記載の構造体設計支援装置。
【0013】
[7]
構造体の解析モデルについて、固有値解析を行って固有ベクトルを算出する第1ステップと、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析モデルの解析対象部位における剛性指標の板厚感度を算出する第2ステップと、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析対象部位における前記剛性指標のヤング率感度を算出する第3ステップと、
前記板厚感度と前記ヤング率感度との比である、前記解析対象部位における板曲げ変形度を算出する第4ステップと、
を含むことを特徴とする構造体設計支援方法。
【0014】
[8]
前記剛性指標は、一般化剛性であることを特徴とする[7]に記載の構造体設計支援方法。
【0015】
[9]
前記剛性指標は、前記第1ステップで算出された固有値であることを特徴とする[7]に記載の構造体設計支援方法。
【0016】
[10]
前記解析モデルにおける全ての前記解析対象部位について、前記第2ステップ、前記第3ステップ、及び前記第4ステップをそれぞれ実行することを特徴とする[7]~[9]のいずれか1項に記載の構造体設計支援方法。
【0017】
[11]
前記第1ステップは、所定の記憶部に記憶された、前記固有ベクトルを算出するための前記構造体に関する数値解析データを用いることを特徴とする[7]~[10]のいずれか1項に記載の構造体設計支援方法。
【0018】
[12]
前記固有ベクトルの固有振動モードは、前記構造体における0.1Hz以上2000Hz以下の間に生じる全ての固有振動モードのうちの1種、又は前記全ての固有振動モードから選ばれた複数種の重ね合わせであることを特徴とする[7]~[11]のいずれか1項に記載の構造体設計支援方法。
【0019】
[13]
構造体の解析モデルについて、固有値解析を行って固有ベクトルを算出する第1ステップと、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析モデルの解析対象部位における剛性指標の板厚感度を算出する第2ステップと、
前記固有ベクトルを用いて、前記解析対象部位における前記剛性指標のヤング率感度を算出する第3ステップと、
前記板厚感度と前記ヤング率感度との比である、前記解析対象部位における板曲げ変形度を算出する第4ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする構造体設計支援プログラム。
【0020】
[14]
前記剛性指標は、一般化剛性であることを特徴とする[13]に記載の構造体設計支援プログラム。
【0021】
[15]
前記剛性指標は、前記第1ステップで算出された固有値であることを特徴とする[13]に記載の構造体設計支援プログラム。
【0022】
[16]
前記解析モデルにおける全ての前記解析対象部位について、前記第2ステップ、前記第3ステップ、及び前記第4ステップをそれぞれ実行することを特徴とする[13]~[15]のいずれか1項に記載の構造体設計支援プログラム。
【0023】
[17]
前記第1ステップは、所定の記憶部に記憶された、前記固有ベクトルを算出するための前記構造体に関する数値解析データを用いることを特徴とする[13]~[16]のいずれか1項に記載の構造体設計支援プログラム。
【0024】
[18]
前記固有ベクトルの固有振動モードは、前記構造体における0.1Hz以上2000Hz以下の間に生じる全ての固有振動モードのうちの1種、又は前記全ての固有振動モードから選ばれた複数種の重ね合わせであることを特徴とする[13]~[17]のいずれか1項に記載の構造体設計支援プログラム。
【0025】
[19]
[13]~[18]のいずれか1項に記載の構造体設計支援プログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、自動車の車体等の構造体における構造改善を要する部品を定量的に評価して選定するための構造体の変形形態の解析を極めて短時間で行い、解析処理に対する即答性の要請に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1の実施形態による構造体設計支援装置を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態による構造体設計支援方法を示すフロー図である。
図3】第1の実施形態による構造体設計支援方法の他の例を示すフロー図である。
図4】第1の実施形態による構造体設計支援方法の更に他の例を示すフロー図である。
図5】第2の実施形態による構造体設計支援装置を示すブロック図である。
図6】第2の実施形態による構造体設計支援方法を示すフロー図である。
図7】第2の実施形態による構造体設計支援方法の他の例を示すフロー図である。
図8】第2の実施形態による構造体設計支援方法の更に他の例を示すフロー図である。
図9】パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。
図10】本発明例及び比較例について、部品ごと(番号1~77)の評価点を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
-本発明の基本概念-
本発明では、自動車の車体等の構造体を設計する際に、構造体の変形形態を簡易的な数値で表し、構造体における構造改善を要する部品を定量的に評価して選定すべく、以下のような基本概念をその骨子とする。
【0029】
静荷重下における構造体、例えば薄板において、荷重入力を受けた際に生じる変形形態には、面内伸び、面内せん断、及び面外曲げの3種がある。これらのうち、面内の変形形態である面内伸びと面内せん断の剛性はヤング率Eと板厚tとの積に比例する。一方、面外の変形形態である面外曲げの剛性はヤング率Eと板厚tの3乗(t3)との積に比例する。構造体には、これらの変形形態が複合的に生じるため、構造体の解析対象部位i(iは1~N)における剛性Kiは、Ei,tiを用いて、以下のように表すことができる。biは、構造体の解析対象部位iにおける板曲げ変形度である部品b値として定義される。
【0030】
i∝Eii bi,1≦bi≦3
iが1となる場合、構造体の変形形態は100%の面内変形である。一方、biが3となる場合、構造体の変形形態は100%の面外変形である。即ち、biの値によって、構造体の変形形態を簡易的且つ定量的に評価することができる。
【0031】
構造体全体の剛性と解析対象部位iにおける剛性との関係に基づく考察より、biは解析対象部位iにおける板厚tiの感度Sti及びヤング率Eiの感度SEiを用いて、以下のように表すことができる。
【0032】
【数1】
【0033】
特許文献1の手法では、構造体の初期の固有振動数f0を得た後、構造体の一部位である解析対象部位の板厚、密度、及びヤング率を変化させた場合における構造体の固有振動数を算出する。具体的には、1回の解析処理において板厚、密度、及びヤング率を変化させて1種の固有振動数を得たり、2回の解析処理において板厚、密度、及びヤング率からそれぞれ2つを適宜選択して2種の固有振動数を得たりする。ここで、板厚、密度、及びヤング率は、構造体の質量を変化させない制限や、2回の解析処理について構造体の質量が同値となる制限下で変化させる。固有振動数をfとすると、Δf=f-f0を含む値が構造体の変形形態を定量的に表す指標であるとみなすことができる。
【0034】
特許文献1の場合、自動車の車体等の構造体の変形形態を評価するには、通常数日~数週間という長時間を要する。この手法では、固有振動数f0を得るための固有値解析に加えて、1種の固有振動数の算出(1回の固有値解析)又は2種の固有振動数の算出(2回の固有値解析)及び変形形態を計算するための処理からなる一連の解析処理を、構造体の解析対象部位の数だけ行う。即ち、解析対象部位の数をN(例えば100程度)とすると、2N+1回又は4N+1回の固有値解析が必要である。1回の固有値解析には数十分から数時間程度の時間を要することから、構造体の変形形態の評価には上記のような長時間が必要となる。
【0035】
本発明者は、特許文献1による構造体の変形形態の評価には、比較的長時間を要する固有値解析を繰り返し多数回行う必要があることに鑑み、構造体の全ての解析対象部位の解析処理を通じて固有値解析を1回行うのみで変形形態の評価を得る手法に想到した。以下、板厚感度及びヤング率感度を算出するための剛性指標の異なる2種の評価手法について説明する。
【0036】
[構造体の変形形態の評価手法1]
評価手法1では、剛性の度合いを示す指標(剛性指標)として一般化剛性を用いる。先ず固有値解析を行い、構造体の解析モデルにおける所定の固有振動モード(Mと表記する)に対応した固有ベクトル{φM}を算出する。評価手法1における固有値解析処理は、固有ベクトル{φM}を算出するための1回のみ行う。
【0037】
構造体の一部位である解析対象部位i(iは1~N)の板厚及びヤング率をti及びEi、全体剛性マトリクスを[K]とすると、算出された固有ベクトル{φM}を用いて、各固有振動モードにおける一般化剛性は、下記の(2)式で表される。
【0038】
【数2】
【0039】
評価手法1では、一般化剛性を板厚及びヤング率でそれぞれ偏微分して、各固有振動モードにおける一般化剛性の板厚感度及び一般化剛性のヤング率感度を算出する。固有ベクトル{φM}は殆ど板厚及びヤング率に依存しない値であると考えられることから、各固有振動モードにおける一般化剛性の板厚感度及び一般化剛性のヤング率感度は、以下の(3)式及び(4)式のようになる。
【0040】
【数3】
【0041】
【数4】
【0042】
各固有振動モードにおける解析対象部位iの部品b値であるbMiは、上記の一般化剛性の板厚感度及び一般化剛性のヤング率感度を用いて、静荷重下における部品b値と同様に、以下の(5)式のように定めることができる。
【0043】
【数5】
【0044】
このように評価手法1では、数値解析に長時間を要する固有値解析の処理を、構造体における全ての解析対象部位の解析処理を通じて1回行えばよく、固有値解析を数百回程度行うことを要する従来手法に比べて解析処理に要する時間が大幅に短縮され、計算コストの削減及び解析処理に対する即答性の要請に応えることができる。
【0045】
評価手法1では、(3)式及び(4)式において、板厚に関する剛性感度マトリクス[∂K/∂ti]及びヤング率に関する剛性感度マトリクス[∂K/∂Ei]は、行列成分のうち所定の解析対象部位iに対応した板厚ti又はEiと無関係なものは0であるため、行列成分の大部分(90%以上)が0となるスパース行列である。そのため、(3)式及び(4)式で示した一般化剛性の板厚感度及び一般化剛性のヤング率感度の算出に要する行列計算を極めて短時間で行うことができ、解析処理に要する時間の更なる短縮化に寄与する。
【0046】
また評価手法1では、従来手法のように数値解析処理における近似計算が不要であり、数値解析誤差が生じない。そのため、従来手法よりも高い解析精度を得ることができる。
【0047】
[構造体の変形形態の評価手法2]
評価手法2では、剛性指標として固有値を用いる。先ず固有値解析を行い、構造体の解析モデルにおける所定の固有振動モード(Mと表記する)に対応した固有ベクトル{φM}と、当該固有ベクトル{φM}に対応した固有値λMを算出する。評価手法2における固有値解析処理は、固有ベクトル{φM}及びこれに伴う固有値λMを算出するための1回のみ行う。
【0048】
構造体の一部位である解析対象部位i(iは1~N)の板厚及びヤング率をti及びEi、全体剛性マトリクスを[K]、質量マトリクスを[M]とする。各固有振動モードにおける固有値λMの板厚感度∂λM/∂titiρi=CONST及び固有値λMのヤング率感度∂λM/∂Eiは、算出された固有ベクトル{φM}及び固有値λM、板厚に関する剛性感度マトリクス及びヤング率に関する剛性感度マトリクス、並びに板厚に関する質量感度マトリクス及びヤング率に関する質量感度マトリクスを用いて、以下の(6)式及び(7)式のようになる。
【0049】
【数6】
【0050】
【数7】
【0051】
ここで、(6)式の板厚感度の計算においては、密度ρi及び板厚tiの変化しない条件を課す。また、(7)式のヤング率感度の計算においては、質量マトリクスに変化は生じない。従って(6)式及び(7)式は簡略化され、以下のようになる。
【0052】
【数8】
【0053】
【数9】
【0054】
各固有振動モードにおける解析対象部位iの部品b値であるbMiは、上記の固有値の板厚感度及び固有値のヤング率感度を用いて、以下の(10)式のように定めることができる。
【0055】
【数10】
【0056】
このように評価手法2では、数値解析に比較的長時間を要する固有値解析の処理を、構造体における全ての解析対象部位の解析処理を通じて1回行えばよく、固有値解析を数百回程度行うことを要する従来手法に比べて解析処理に要する時間が大幅に短縮され、計算コストの削減及び解析処理に対する即答性の要請に応えることができる。
【0057】
評価手法2では、(8)式及び(9)式において、板厚に関する剛性感度マトリクス[∂K/∂ti]及びヤング率に関する剛性感度マトリクス[∂K/∂Ei]は、行列成分のうち所定の解析対象部位iに対応した板厚ti又はEiと無関係なものは0であるため、行列成分の大部分(90%以上)が0となるスパース行列である。そのため、(8)式及び(9)式で示した固有値の板厚感度及び固有値のヤング率感度の算出に要する行列計算を極めて短時間で行うことができ、解析処理に要する時間の更なる短縮化に寄与する。
【0058】
また評価手法2では、従来手法のように数値解析処理における近似計算が不要であり、数値解析誤差が生じない。そのため、従来手法よりも高い解析精度を得ることができる。
【0059】
-本発明の諸実施形態-
以下の諸実施形態では、自動車の車体を評価対象の構造体とする。また、当該車体に含まれる部品、当該部品の少なくとも一部を含む所定部分、又は当該車体に含まれる複数の部品からなる部分を解析対象部位とする。以下の説明では、車体に含まれる前記部品又は部分を単に「部品」という場合がある。
【0060】
なお、本発明は、自動車の車体に限らず、全ての構造体に適用可能な技術である。例えば、エンジン等の機械部品、建築物そのものや柱等の建築物の一部に本発明の技術を適用可能であり、機械振動が加わり得る構造物への適用が特に好ましい。
【0061】
また、諸実施形態では、解析対象となる固有振動モードは、例えば、構造体における0.1Hz以上2000Hz以下の間に生じる全ての固有振動モードのうちの1種、又は前記全ての固有振動モードから選ばれた複数種の重ね合わせである。
【0062】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態は、上述した評価手法1を採用している。図1は本実施形態による構造体設計支援装置を示すブロック図、図2は本実施形態による構造体設計支援方法を示すフロー図である。
【0063】
(構造体設計支援装置)
本実施形態による構造体設計支援装置は、図1に示すように、第1算出部1、第2算出部2、出力部3、及び記憶部4を備えている。
記憶部4は、構造体(例えば自動車の車体)の少なくとも一部を構成する単一又は複数の部品の数値解析データを記憶する。数値解析データは、例えば、構造体を構成するN個の各解析対象部位、例えば各部品に付与された部品番号データ、車体の初期設計データである有限要素解析(FEM)データ、及び車体にかかる荷重データ(FEMデータの境界条件)等である。以下、各変数の添字i(1≦i≦N)は、構造体を構成するN個の各解析対象部位(各部品)に付与された部品番号を示す。
【0064】
第1算出部1は、固有値解析部を有している。固有値解析部は、記憶部4に格納された数値解析データに基づいて計算A1を行う。計算A1は、固有値解析による、構造体の解析モデルにおける所定の固有振動モード(Mと表記する)に対応した固有ベクトル{φM}の算出である。{φM}は、例えば有限要素法(Finite Element Method:FEM)解析における節点の変位量を成分とする行列で表される。本実施形態における固有値解析は、計算Aで固有ベクトル{φM}を算出するための1回のみ行う。
【0065】
第2算出部2は、板厚感度算出部、ヤング率感度算出部、及び板曲げ変形度算出部を有しており、板厚感度算出部で計算B1、ヤング率感度算出部で計算C1、及び板曲げ変形度算出部で計算D1を順次行う。計算B1は、解析対象部位i(iは1~N)について、計算A1で算出された固有ベクトル{φM}を用いた、上記した(3)式で表される固有振動モードMにおける一般化剛性の板厚感度の算出である。計算C1は、計算Aで算出された固有ベクトル{φM}を用いた、上記した(4)式で表される固有振動モードMにおける一般化剛性のヤング率感度の算出である。計算D1は、計算B1及び計算C1で算出された一般化剛性の板厚感度及びヤング率感度を用いた、固有振動モードMにおける解析対象部位iの部品b値の算出である。部品b値は、板曲げ変形度、即ち解析対象部位における変形形態の指標であり、上記した(5)式で表される値である。
【0066】
本実施形態では、第2算出部2による計算B1、計算C1、及び計算D1からなる一連の計算を、解析対象部位iごとに順次実行する。即ち、解析対象部位の全てについて部品b値を得るには、一連の計算をN回行うことになる。
【0067】
出力部3は、解析対象部位iごとの部品b値を出力する。出力部3から出力された部品b値の情報は、例えばモニター等の表示部に出力しても良いし、記憶部4等に記憶させても良い。
【0068】
なお、本実施形態では、第2算出部2において、板厚感度算出部による計算B1及びヤング率感度算出部による計算C1からなる一連の計算を、解析対象部位iごとにN回順次実行し、算出されたN組の板厚感度及びヤング率感度を記憶部4に記憶しておき、当該N組の板厚感度及びヤング率感度を用いて計算D1をN回行って解析対象部位の全てについての部品b値を得るようにしてもよい。
【0069】
また、第2算出部2において、板厚感度算出部による計算B1を解析対象部位iごとにN回実行して算出されたN個の板厚感度を記憶部4に記憶しておき、ヤング率感度算出部による計算C1を解析対象部位iごとにN回実行して算出されたN個のヤング率感度を記憶部4に記憶しておき、当該N個の板厚感度及びN個のヤング率感度を用いて計算D1をN回行って解析対象部位の全てについての部品b値を得るようにしてもよい。
【0070】
(構造体設計支援方法)
本実施形態による構造体設計支援方法では、図2に示すように、先ず、初期設計データを元に作成されるFEMデータ(初期FEMデータ)において、構造体である例えば自動車の車体を構成する各解析対象部位(各部品又はいくつかの部品を一体としたもの)に順次番号を付与する(ステップ1)。
【0071】
続いて、第1算出部1は、計算A1として、初期FEMデータを用いた固有値解析により、構造体における所定の固有振動モードMに対応した固有ベクトル{φM}を算出する(ステップ2)。
【0072】
続いて、第2算出部2は、計算B1として、解析対象部位i(iは1~N)について、計算A1で算出された固有ベクトル{φM}を用いた、上記した(3)式で表される固有振動モードMにおける一般化剛性の板厚感度を算出する(ステップ3)。
続いて、第2算出部2は、計算C1として、計算A1で算出された固有ベクトル{φM}を用いて、上記した(4)式で表される固有振動モードMにおける一般化剛性のヤング率感度を算出する(ステップ4)。
続いて、第2算出部2は、計算D1として、計算B1及び計算C1で算出された一般化剛性の板厚感度及びヤング率感度を用いて、上記した(7)式で表される固有振動モードMにおける解析対象部位iの板曲げ変形度である部品b値を算出する(ステップ5)。この部品b値が解析対象部位iにおける構造体の固有振動モードMに関する板曲げ変形度となる。
【0073】
本実施形態では、ステップ1,2を実行した後、解析対象部位i=1~Nの夫々について、ステップ3~5からなる一連のステップを順次実行する。これにより、構造体における解析対象部位全体について、それぞれ部品b値を得ることができる。固有振動モードMが複数ある場合には、固有振動モードMごとに、ステップ1,2に引き続き、解析対象部位i=1~Nの夫々について、ステップ3~5からなる一連のステップを順次実行する。
【0074】
なお、本実施形態では、図3に示すように、ステップ1,2を実行した後、解析対象部位i=1~Nの夫々についてステップ3~4からなる一連のステップを順次実行し、算出されたN組の板厚感度及びヤング率感度を記憶部4に記憶しておき、当該N組の板厚感度及びヤング率感度を用いてステップ5をN回行って解析対象部位の全てについての部品b値を得るようにしてもよい。
【0075】
また、図4に示すように、ステップ1,2を実行した後、解析対象部位i=1~Nの夫々についてステップ3を実行して算出されたN個の板厚感度を記憶部4に記憶しておき、解析対象部位i=1~Nの夫々についてステップ4を実行して算出されたN個のヤング率感度を記憶部4に記憶しておき、当該N個の板厚感度及びN個のヤング率感度を用いてステップ5をN回行って解析対象部位の全てについての部品b値を得るようにしてもよい。
【0076】
複数の固有振動モードに着目する場合、それぞれの固有振動モードにおける構造体の解析対象部位iについて部品b値を求め、それらの加算平均値を評価点Viとして構造体の変形形態を定量的に評価しても良い。また、構造体の複数の固有振動モードに着目する場合、特定の固有振動モードにおける部品b値に重み付けをして足し合わせた数値を評価点Viとして構造体の変形形態を定量的に評価しても良い。例えば、X,Y,Zの3つの振動モードに着目する場合、それぞれの振動モードの部品b値biX,biY,biZを求め、それらに所定の係数を掛け、下記式によって評価点Viを求めても良い。
i=(xbiX+ybiY+zbiZ)/(x+y+z)
なお、上記の例では3つの固有振動モードに着目したが、着目する固有振動モードの数は特に限定されない。
【0077】
部品b値は、ある境界条件下における例えば自動車の車体の一部品の変形形態を表現するパラメータとして使用することができる。この部品b値に基づき、補剛する部品と板厚を減らす部品を容易に選定することができ、軽量化と剛性向上を同時に達成することが可能になる。特に、構造体が自動車の車体である場合、車体剛性と重量のパフォーマンスを評価する軽量化指数(車体重量をねじれ剛性と有効面積で除した値)を大幅に低減することが可能になる。例えば、部品b値に比例する倍率で板厚を増減させることで、簡便に軽量化指数を低減させる設計を行うことができる。
【0078】
また、上記のステップ1において、解析対象部位を部品毎に区分するのではなく、設計者が解析対象部位を自由に分割しても良い。例えば、自動車の車体で見ると、ルーフやサイドパネルなど、大きい部品を複数の領域に分割することで、より適した補剛箇所を抽出することが可能になる。更に、FEMデータの要素1つ1つを対象にすることで、構造体における変形形態の分布が明確になり、より細やかな設計が可能になる。
【0079】
本実施形態によれば、各部品、又は、各部位における構造体の変形形態を定量的に容易に知ることができる。しかも本実施形態では、比較的長時間を要する固有値解析の処理はステップ2のみであり、ステップ2を構造体における全ての解析対象部位の解析処理を通じて1回行えばよく、固有値解析を数百回程度行うことを要する従来手法に比べて解析処理に要する時間が大幅に短縮され、計算コストの削減及び解析処理に対する即答性の要請に応えることができる。具体的には、従来手法では構造体における全ての解析対象部位の解析処理には150時間~600時間程度の長時間を要する。これに対して本実施形態では、ステップ2の固有値解析は構造体全体を通じて1回だけ行えば良いことから、全ての解析対象部位の解析処理に要する時間は0.4時間(24分間)~6時間程度で済む。このように本実施形態によれば、解析処理に要する時間を従来手法の1/100~1/400程度に短縮することができる。
【0080】
[第2の実施形態]
以下、第2の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態は、上述した評価手法2を採用している。図5は本実施形態による構造体設計支援装置を示すブロック図、図6は本実施形態による構造体設計支援方法を示すフロー図である。
【0081】
(構造体設計支援装置)
本実施形態による構造体設計支援装置は、図5に示すように、第1算出部11、第2算出部12、出力部13、及び記憶部14を備えている。
記憶部14は、構造体(例えば自動車の車体)の少なくとも一部を構成する単一又は複数の部品の数値解析データを記憶する。数値解析データは、例えば、構造体を構成するN個の各解析対象部位、例えば各部品に付与された部品番号データ、車体の初期設計データであるFEMデータ、及び車体にかかる荷重データ(FEMデータの境界条件)等である。以下、各変数の添字i(1≦i≦N)は、構造体を構成するN個の各解析対象部位(各部品)に付与された部品番号を示す。
【0082】
第1算出部11は、固有値解析部を有している。固有値解析部は、記憶部14に格納された数値解析データに基づいて計算A2を行う。計算A2は、固有値解析による、構造体における所定の固有振動モード(Mと表記する)に対応した固有ベクトル{φM}及び当該固有ベクトルに対応した固有値λMの算出である。{φM}は、例えばFEM解析における節点の変位量を成分とする行列で表される。本実施形態における固有値解析は、計算A2で固有ベクトル{φM}及び固有値λMを算出するための1回のみ行う。
【0083】
第2算出部12は、板厚感度算出部、ヤング率感度算出部、及び板曲げ変形度算出部を有しており、板厚感度算出部で計算B2、ヤング率感度算出部で計算C2、及び板曲げ変形度算出部で計算D2を順次行う。計算B2は、解析対象部位i(iは1~N)について、計算A2で算出された固有ベクトル{φM}及び固有値λMを用いた、上記した(8)式で表される固有振動モードMにおける固有値λMの板厚感度の算出である。計算C2は、計算A2で算出された固有ベクトル{φM}を用いた、上記した(9)式で表される固有振動モードMにおける固有値λMのヤング率感度の算出である。計算D2は、計算B2及び計算C2で算出された固有値λMの板厚感度及びヤング率感度を用いた、固有振動モードMにおける解析対象部位iの部品b値の算出である。部品b値は、板曲げ変形度、即ち解析対象部位における変形形態の指標であり、上記した(10)式で表される値である。
【0084】
本実施形態では、第2算出部12による計算B2、計算C2、及び計算D2からなる一連の計算を、解析対象部位iごとに順次実行する。即ち、解析対象部位の全てについて部品b値を得るには、一連の計算をN回行うことになる。
【0085】
出力部13は、解析対象部位iごとの部品b値を出力する。出力部13から出力された部品b値の情報は、例えばモニター等の表示部に出力しても良いし、記憶部14等に記憶させても良い。
【0086】
なお、本実施形態では、第2算出部12において、板厚感度算出部による計算B2及びヤング率感度算出部による計算C2からなる一連の計算を、解析対象部位iごとにN回順次実行し、算出されたN組の板厚感度及びヤング率感度を記憶部14に記憶しておき、当該N組の板厚感度及びヤング率感度を用いて計算D2をN回行って解析対象部位の全てについての部品b値を得るようにしてもよい。
【0087】
また、第2算出部12において、板厚感度算出部による計算B2を解析対象部位iごとにN回実行して算出されたN個の板厚感度を記憶部14に記憶しておき、ヤング率感度算出部による計算C2を解析対象部位iごとにN回実行して算出されたN個のヤング率感度を記憶部14に記憶しておき、当該N個の板厚感度及びN個のヤング率感度を用いて計算D2をN回行って解析対象部位の全てについての部品b値を得るようにしてもよい。
【0088】
(構造体設計支援方法)
本実施形態による構造体設計支援方法では、図6に示すように、先ず、初期設計データを元に作成されるFEMデータ(初期FEMデータ)において、構造体である例えば自動車の車体を構成する各解析対象部位(各部品又はいくつかの部品を一体としたもの)に順次番号を付与する(ステップ11)。
【0089】
続いて、第1算出部11は、計算A2として、初期FEMデータを用いた固有値解析により、構造体における所定の固有振動モードMに対応した固有ベクトル{φM}及び当該固有ベクトルに対応した固有値λMを算出する(ステップ12)。
【0090】
続いて、第2算出部12は、計算B2として、解析対象部位i(iは1~N)について、計算Aで算出された固有ベクトル{φM}及び固有値λMを用いた、上記した(6)式で表される固有振動モードMにおける固有値λMの板厚感度を算出する(ステップ13)。
続いて、第2算出部12は、計算C2として、計算A2で算出された固有ベクトル{φM}及び固有値λMを用いて、上記した(7)式で表される固有振動モードMにおける固有値λMのヤング率感度を算出する(ステップ14)。
続いて、第2算出部12は、計算D2として、計算B2及び計算C2で算出された固有値λMの板厚感度及びヤング率感度を用いて、上記した(10)式で表される固有振動モードMにおける解析対象部位iの板曲げ変形度である部品b値を算出する(ステップ15)。この部品b値が解析対象部位iにおける構造体の固有振動モードMに関する板曲げ変形度となる。
【0091】
本実施形態では、ステップ11,12を実行した後、解析対象部位i=1~Nの夫々について、ステップ13~15からなる一連のステップを順次実行する。これにより、構造体における解析対象部位全体について、それぞれ部品b値を得ることができる。固有振動モードMが複数ある場合には、固有振動モードMごとに、ステップ11,12に引き続き、解析対象部位i=1~Nの夫々について、ステップ13~15からなる一連のステップを順次実行する。
【0092】
なお、本実施形態では、図7に示すように、ステップ11,12を実行した後、解析対象部位i=1~Nの夫々についてステップ13~14からなる一連のステップを順次実行し、算出されたN組の板厚感度及びヤング率感度を記憶部14に記憶しておき、当該N組の板厚感度及びヤング率感度を用いてステップ15をN回行って解析対象部位の全てについての部品b値を得るようにしてもよい。
【0093】
また、図8に示すように、ステップ11,12を実行した後、解析対象部位i=1~Nの夫々についてステップ13を実行して算出されたN個の板厚感度を記憶部14に記憶しておき、解析対象部位i=1~Nの夫々についてステップ14を実行して算出されたN個のヤング率感度を記憶部14に記憶しておき、当該N個の板厚感度及びN個のヤング率感度を用いてステップ15をN回行って解析対象部位の全てについての部品b値を得るようにしてもよい。
【0094】
複数の固有振動モードに着目する場合、それぞれの固有振動モードにおける構造体の解析対象部位iについて部品b値を求め、それらの加算平均値を評価点Viとして構造体の変形形態を定量的に評価しても良い。また、構造体の複数の固有振動モードに着目する場合、特定の固有振動モードにおける部品b値に重み付けをして足し合わせた数値を評価点Viとして構造体の変形形態を定量的に評価しても良い。例えば、X,Y,Zの3つの振動モードに着目する場合、それぞれの振動モードの部品b値biX,biY,biZを求め、それらに所定の係数を掛け、下記式によって評価点Viを求めても良い。
i=(xbiX+ybiY+zbiZ)/(x+y+z)
なお、上記の例では3つの固有振動モードに着目したが、着目する固有振動モードの数は特に限定されない。
【0095】
部品b値は、ある境界条件下における例えば自動車の車体の一部品の変形形態を表現するパラメータとして使用することができる。この部品b値に基づき、補剛する部品と板厚を減らす部品を容易に選定することができ、軽量化と剛性向上を同時に達成することが可能になる。特に、構造体が自動車の車体である場合、車体剛性と重量のパフォーマンスを評価する軽量化指数(車体重量をねじれ剛性と有効面積で除した値)を大幅に低減することが可能になる。例えば、部品b値に比例する倍率で板厚を増減させることで、簡便に軽量化指数を低減させる設計を行うことができる。
【0096】
また、上記のステップ11において、解析対象部位を部品毎に区分するのではなく、設計者が解析対象部位を自由に分割しても良い。例えば、自動車の車体で見ると、ルーフやサイドパネルなど、大きい部品を複数の領域に分割することで、より適した補剛箇所を抽出することが可能になる。更に、FEMデータの要素1つ1つを対象にすることで、構造体における変形形態の分布が明確になり、より細やかな設計が可能になる。
【0097】
本実施形態によれば、各部品、又は、各部位における構造体の変形形態を定量的に容易に知ることができる。しかも本実施形態では、比較的長時間を要する固有値解析の処理はステップ12のみであり、ステップ12を構造体における全ての解析対象部位の解析処理を通じて1回行えばよく、固有値解析を数百回程度行うことを要する従来手法に比べて解析処理に要する時間が大幅に短縮され、計算コストの削減及び解析処理に対する即答性の要請に応えることができる。具体的には、従来手法では構造体における全ての解析対象部位の解析処理には150時間~600時間程度の長時間を要する。これに対して本実施形態では、ステップ12の固有値解析は構造体全体を通じて1回だけ行えば良いことから、全ての解析対象部位の解析処理に要する時間は0.4時間(24分間)~6時間程度で済む。このように本実施形態によれば、解析処理に要する時間を従来手法の1/100~1/400程度に短縮することができる。
【0098】
本実施形態では、例えばステップ13,14において、例えばMSC Nastran等の構造解析ソフトウェアを用いて、固有値λMの板厚感度∂λM/∂ti及び固有値λMのヤング率感度∂λM/∂Eiを解析対象部位i(iは1~N)について計算し、計算結果を記憶部14に記憶しておき、全ての解析対象部位iについて板厚感度及びヤング率感度を得た後に、解析対象部位iごとの部品b値を算出するようにしてもよい。汎用ソルバーの感度解析を用いることにより、ステップ13,14におけるマトリクス計算のために記憶部14にアクセスする回数が削減され、更なる計算時間の短縮化が期待できる。
【0099】
(他の実施形態)
上述した第1の実施形態による構造体設計支援装置の構成要素である図1に示した第1算出部1、第2算出部2、及び出力部3、並びに上述した第2の実施形態による構造体設計支援装置の構成要素である図5に示した第1算出部11、第2算出部12、及び出力部13は、専用のハードウェアにより実現されるものであっても良い。また、第1算出部1(又は11)、第2算出部2(又は12)、及び出力部3(又は13)は、メモリ及びCPU(中央演算装置)により構成され、第1算出部1(又は11)、第2算出部2(又は12)、及び出力部3(又は13)の諸機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであっても良い。
【0100】
図1に示した記憶部4及び図5に示した記憶部14は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリや、CD-ROM等の読み出しのみが可能な記憶媒体、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成されるものであっても良い。
【0101】
また、第1算出部1(又は11)、第2算出部2(又は12)、及び出力部3(又は13)の諸機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、第1算出部1(又は11)、第2算出部2(又は12)、及び出力部3(又は13)の各処理を実行しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0102】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものでも良い。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものを含むものでも良い。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、更に前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0103】
一具体例として、本実施形態に示した構造体設計支援装置は、図9に示すようなコンピュータ機能100を有し、そのCPU101により本実施形態における動作が実施される。
コンピュータ機能100は、図9に示すように、CPU101と、ROM102と、RAM103とを備える。また、操作部(CONS)109のコントローラ(CONSC)105と、CRTやLCD等の表示部としてのディスプレイ(DISP)110のディスプレイコントローラ(DISPC)106とを備える。更に、ハードディスク(HD)111、及びフレキシブルディスク等の記憶デバイス(STD)112のコントローラ(DCONT)107と、ネットワークインタフェースカード(NIC)108とを備える。それら機能部101,102,103,105,106,107,108は、システムバス104を介して互いに通信可能に接続された構成としている。
【0104】
CPU101は、ROM102又はHD111に記憶されたソフトウェア、又はSTD112より供給されるソフトウェアを実行することで、システムバス104に接続された各構成部を総括的に制御する。即ち、CPU101は、上述したような動作を行うための処理プログラム(構造体設計支援プログラム)を、ROM102、HD111、又はSTD112から読み出して実行することで、本実施形態における動作を実現するための制御を行う。RAM103は、CPU101の主メモリ又はワークエリア等として機能する。
【0105】
CONSC105は、CONS109からの指示入力を制御する。DISPC105は、DISP110の表示を制御する。DCONT107は、ブートプログラム、種々のアプリケーション、ユーザファイル、ネットワーク管理プログラム、及び本実施形態における上記の処理プログラム等を記憶するHD111及びSTD112とのアクセスを制御する。NIC108はネットワーク113上の他の装置と双方向にデータをやりとりする。
なお、通常のコンピュータ端末装置を用いる代わりに、構造体設計支援装置に特化された所定の計算機等を用いても良い。
【0106】
-実施例-
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では、上述した第2の実施形態の実施結果を本発明例、従来手法である特開2021-152894号公報の実施結果を本発明例の比較例とする。
【0107】
本発明例では、第2の実施形態の評価手法2を適用した構造体設計支援方法(ステップ11~15:固有値解析は、車体の解析対象部位全体を通じてステップ12の1回のみ行われる。)を実施した。比較例では、従来手法である特開2021-152894号公報の評価手法(固有値解析は、当初の1回及び解析対象部位ごとに2回行われる。)を実施した。本発明例及び比較例を実施するにあたり、構造解析ソフトウェアとしてMSC Nastranを使用した。
【0108】
本実施例における自動車の車体モデルは、500点の部品データ、各部品を接合するスポット溶接データ、及びボルト締結データから作成されている。本実施例では、本発明例のステップ11及び比較例の同様のステップにおいて、これら500点の部品データのうち77組の部品(解析対象部位)について番号1~77を割り振って初期FEMデータを作成した。なお、車体において左右に存在する同等の部品は一組として扱った。
【0109】
本発明例では、ステップ12において、MSC Nastranを用いて固有値解析を行い、各固有振動モードMにおける車体の固有ベクトル{φM}及び固有値λMを得た。本発明例では、固有振動モードMとして、代表的な固有振動モードである1節ねじり振動モードに着目して実施した。
【0110】
そして、番号1の部品について、ステップ13では固有値λMの板厚感度∂λM/∂t1t1ρ1=CONSTを、ステップ14では固有値λMのヤング率感度∂λM/∂E1を算出し、ステップ15において両者の比を計算して部品b値(∂λM/∂t1t1ρ1=CONST)/(∂λM/∂E1)を得た。同様に、番号2~77の各部品について、部品b値(∂λM/∂t2t2ρ2=CONST)/(∂λM/∂E2)~(∂λM/∂t77t77ρ77=CONST)/(∂λM/∂E77)を順次算出した。
【0111】
比較例では、先ず自動車の車体について固有値解析により初期の固有振動数を得た。そして、部品ごと(番号1~77)について、当該部品の板厚及び密度を変えた固有値解析、及び当該部品のヤング率を変えた固有値解析、これらの固有振動数を用いた諸計算を行って各部品b値を得た。
【0112】
図10に、本発明例及び比較例について、各部品(番号1~77)の評価点を示す。本発明例と比較例との評価点の差異は1%以内であり、本発明例では、比較例と同等の結果が得られたことが確認された。車体の全部品(77組)の解析に要した時間は、比較例では232時間、本発明例では0.8時間であった。即ち本発明例では、解析時間が比較例の1/290に短縮(比較例の99.6%減)された。
【0113】
以上説明したように、本発明例によれば、自動車車体の変形形態について比較例と同等に正確性に優れた定量的評価を、比較例の1/290という極めて短時間で得ることが可能であり、解析処理に対する即答性の要請を確実に満たすことが確認された。
【符号の説明】
【0114】
1,11 第1算出部
2,12 第2算出部
3,13 出力部
4,14 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10