(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098433
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】紙製緩衝材及び紙製緩衝資材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 81/03 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
B65D81/03 100A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001961
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000133157
【氏名又は名称】株式会社TANAX
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 陽介
【テーマコード(参考)】
3E066
【Fターム(参考)】
3E066AA22
3E066BA02
3E066CA03
3E066CB04
3E066KA08
(57)【要約】
【課題】長時間に亘ってクッション性を維持することができ、なお且つ容易にリサイクル可能な紙製緩衝資材を提供する。
【解決手段】1枚の紙の一方の面に糊剤の水溶液又は水分散液を塗布して乾燥させた後に当該紙を切断することによって、前記糊剤で被覆された第1シート材及び第2シート材を作成する工程(S1~S7)と、前記第1シート材の前記糊剤で被覆された面の、前記気体充填部の周縁に相当する領域であって、該気体充填部に気体を導入するための気体導入口となる部分以外の領域に水を塗布する工程(S8)と、前記第1シート材の前記水を塗布した面と、前記第2シート材の前記糊剤で被覆された面とを互いに対向させた状態で、該第1シート材と該第2シート材とを重ね合わせることにより、前記水に溶解又は分散した前記糊剤によって該第1シート材と該第2シート材とを互いに接合する工程(S9)とを有する紙製緩衝資材の製造方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に重ね合わされた、いずれも紙製の第1シート材と第2シート材を含み、該第1シート材と該第2シート材とで形成された袋状の気体充填部に気体を充填した上で緩衝材として使用される紙製緩衝資材の製造方法であって、
1枚の紙の一方の面に糊剤の水溶液又は水分散液を塗布して乾燥させた後に当該紙を切断するか、2枚の紙の各々の一方の面に前記糊剤の水溶液又は水分散液を塗布して乾燥させることによって、前記糊剤で被覆された前記第1シート材及び前記第2シート材を作成するシート材作成工程と、
前記第1シート材の前記糊剤で被覆された面の、前記気体充填部の周縁に相当する領域であって、該気体充填部に気体を導入するための気体導入口となる部分以外の領域に水を塗布する水塗布工程と、
前記第1シート材の前記水を塗布した面と、前記第2シート材の前記糊剤で被覆された面とを互いに対向させた状態で、該第1シート材と該第2シート材とを重ね合わせることにより、前記水に溶解又は分散した前記糊剤によって該第1シート材と該第2シート材とを互いに接合するシート材接合工程と、
を有する紙製緩衝資材の製造方法。
【請求項2】
前記気体充填部が、互いに連通した複数のセルに区画されており、
前記水塗布工程において、更に、前記複数のセル同士の境界に相当する領域であり且つ隣接する前記セル同士を互いに連通させる連通部となる部分以外の領域である境界領域に水を塗布するものである、
請求項1に記載の紙製緩衝資材の製造方法。
【請求項3】
前記水塗布工程において、前記境界領域と同一形状の穴を有する平板状の型を、前記第1シート材の前記糊剤で被覆された面に当て、その上から前記水の塗布を行うことによって前記境界領域に前記水を塗布する、
請求項2に記載の紙製緩衝資材の製造方法。
【請求項4】
前記糊剤がポリビニルアルコールである、
請求項1に記載の紙製緩衝資材の製造方法。
【請求項5】
前記シート材作成工程において、前記糊剤の水溶液又は水分散液の塗布及び乾燥を、前記一方の面に対して複数回繰り返して行う、
請求項1に記載の紙製緩衝資材の製造方法。
【請求項6】
前記シート材接合工程において、前記第1シート材と前記第2シート材とを重ね合わせた後、加熱圧着する、
請求項1に記載の紙製緩衝資材の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の方法で製造された紙製緩衝資材の前記気体導入口から前記気体充填部に気体を導入する工程と、
前記気体導入口を封止する工程と、
を有する紙製緩衝材の製造方法。
【請求項8】
透気度が300秒以上である第1シート材及び第2シート材で形成された袋状の気体充填部を有し、
前記第1シート材及び第2シート材が、それぞれ少なくとも一方の面に糊剤の水溶液又は水分散液が塗布された紙である紙製緩衝資材。
【請求項9】
前記気体充填部に気体を充填した状態において、JIS Z 0212に準拠した圧縮試験における最大荷重が700N以上である請求項8に記載の紙製緩衝資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の搬送時等に用いられる緩衝材及び該緩衝材を構成する緩衝資材に関する。
【背景技術】
【0002】
搬送時等における物品の破損を防ぐ目的で、該物品を収容する容器(段ボール箱など)と当該物品との間に介在させる緩衝材として、エアークッション等とよばれる空気封入型の緩衝材が広く用いられている。このような空気封入型の緩衝材は、通常、2枚のポリエチレンシートを相互に接合することによって得られた平坦な緩衝資材の内部に、空気を充填することによって作成される。また、近年では環境負荷低減のため、前記のような空気封入型の緩衝材を紙で製造することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】"PaperWave Bio Air Cushion (100% biodegradable) _Consumables FLOETER Onlineshop",[online],[令和4年12月27日検索],インターネット<URL:https://www.floeter.com/en/consumables/paperwave-bio-air-cushion-100-biodegradable/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空気封入型の緩衝材を紙のみで作成した場合、紙を構成する繊維の隙間から空気が抜けてしまい、長時間に亘って十分なクッション性(緩衝性)を維持することが困難である。そこで、空気封入型の緩衝材を構成する紙に、生分解性フィルムを接着剤で貼り付けて成るものも開発されている(非特許文献1を参照)。ただし、このような紙と生分解性フィルムを貼り合わせて成る空気封入型緩衝材は、土に埋めることで土壌中の微生物に分解させることができるものの、リサイクルする場合には、紙とプラスチックを分別する必要があり、手間が掛かるという問題があった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、長時間に亘ってクッション性を維持することができ、なお且つ容易にリサイクル可能な紙製緩衝材、又は該紙製緩衝材を構成する紙製緩衝資材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る紙製緩衝資材の製造方法は、
厚さ方向に重ね合わされた、いずれも紙製の第1シート材と第2シート材を含み、該第1シート材と該第2シート材とで形成された袋状の気体充填部に気体を充填した上で緩衝材として使用される紙製緩衝資材の製造方法であって、
1枚の紙の一方の面に糊剤の水溶液又は水分散液を塗布して乾燥させた後に当該紙を切断するか、2枚の紙の各々の一方の面に前記糊剤の水溶液又は水分散液を塗布して乾燥させることによって、前記糊剤で被覆された前記第1シート材及び前記第2シート材を作成するシート材作成工程と、
前記第1シート材の前記糊剤で被覆された面の、前記気体充填部の周縁に相当する領域であって、該気体充填部に気体を導入するための気体導入口となる部分以外の領域に水を塗布する水塗布工程と、
前記第1シート材の前記水を塗布した面と、前記第2シート材の前記糊剤で被覆された面とを互いに対向させた状態で、該第1シート材と該第2シート材とを重ね合わせることにより、前記水に溶解又は分散した前記糊剤によって該第1シート材と該第2シート材とを互いに接合するシート材接合工程と、
を有するものである。
【0007】
また、上記課題を解決するためになされた本発明に係る紙製緩衝材の製造方法は、
上記の方法で製造された紙製緩衝資材の前記気体導入口から前記気体充填部に気体を導入する工程と、
前記気体導入口を封止する工程と、
を有するものである。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明に係る紙製緩衝資材の製造方法又は紙製緩衝材の製造方法によれば、長時間に亘ってクッション性を維持することができ、なお且つ容易にリサイクル可能な紙製緩衝材、又は該紙製緩衝材を構成する紙製緩衝資材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る紙製緩衝資材の斜視図。
【
図2】上記紙製緩衝資材に気体を充填することによって得られる紙製緩衝材の断面図。
【
図3】本実施形態に係る紙製緩衝資材及び紙製緩衝材の製造工程を示すフローチャート。
【
図4】本実施形態に係る紙製緩衝資材の別の構成例を示す平面図。
【
図5】本実施形態に係る紙製緩衝資材の更に別の構成例を示す平面図。
【
図6】本実施形態に係る紙製緩衝資材のまた更に別の構成例を示す平面図。
【
図7】
図5に示す紙製緩衝資材の製造時に使用される型の平面図。
【
図8】
図6に示す紙製緩衝資材の製造時に使用される型の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明を行う。
図1は本実施形態に係る紙製緩衝資材の斜視図であり、
図2は前記紙製緩衝資材に気体を充填することによって得られる紙製緩衝材の断面図である。
【0011】
本実施形態に係る紙製緩衝資材は、重ね合わされた2枚のシート材を含み、該2枚のシート材によって形成された袋状の気体充填部15を備えている。前記2枚のシート材は、同一の形状及び構成を有しており、気体充填部15の外周において相互に接着されている。ここでは、便宜上、
図1中で下側に位置するシート材を第1シート材11とよび、上側に位置するシート材を第2シート材12とよぶが、以下の説明において、第1シート材11と第2シート材12は相互に入れ替え可能である。また、
図1では第1シート材11及び第2シート材12を矩形とした例を示しているが、第1シート材11及び第2シート材12の形状はこれに限定されるものではない。
【0012】
第1シート材11及び第2シート材12は、それぞれ紙21から成るシートであって、対向する面の全域が水溶性又は水分散性の糊剤22で被覆されている(
図2を参照)。第1シート材11及び第2シート材12を構成する紙21としては、例えばクラフト紙(晒クラフト紙又は未晒クラフト紙)を好適に用いることができるが、そのほか、板紙、段ボール原紙、上質紙、コーテッド紙、又は再生紙等、いかなるものを用いてもよい。なお、第1シート材11及び第2シート材12を構成する紙21の坪量は特に限定されるものではないが、例えば、30g/m
2以上のものを用いることが望ましい。また、糊剤22としては、水に溶解又は分散させた状態で紙に塗布可能であって、前記水の蒸発によって硬化すると共に、硬化後に水に触れることによって溶解して接着性を発揮し得るもの(いわゆる再湿糊)であれば、例えば、澱粉、変性澱粉、デンプンのり、膠、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルピロリドンなどいかなるものを用いてもよいが、特に、ポリビニルアルコールを好適に用いることができる。
【0013】
図1では、本実施形態に係る紙製緩衝資材のうち、気体充填部15の外周であって、第1シート材11と第2シート材12が相互に接着されている領域(以下、外周接着部13とよぶ)を網掛けで示している。
図1に示すように、第1シート材11と第2シート材12の外周の一部には互いに接着されていない領域が設けられており、この部分が、紙製緩衝資材に気体を充填するための気体導入口14となっている。前記接着は、第1シート材11及び第2シート材12の外周接着部13に相当する領域において、両者を被覆している糊剤22を水に溶解又は分散させた後、乾燥させることによって達成される。
【0014】
以下、本実施形態に係る紙製緩衝資材及び緩衝材の製造方法について、
図3のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0015】
まず、長尺状の紙を用意し、その一方の面に、前記糊剤の水溶液又は水分散液(以下、糊剤液とよぶ)を塗布する(ステップS1)。前記糊剤液の塗布はいかなる方法で行ってもよく、例えば、スポンジローラ又は刷毛などを用いて塗布する方法、又は糊剤液をスプレーする方法などを用いることができる。
【0016】
その後、前記糊剤液を乾燥させて糊剤を硬化させ(ステップS2)、その上から再び糊剤液を塗布して乾燥させる(ステップS3、S4)。更に、前記同様の糊剤液の塗布及び乾燥を再度行い(ステップS5、S6)、合計3回の糊剤液の塗布及び乾燥が完了した時点で、前記紙を予め定められた寸法に切断する(ステップS7)。以上により、本実施形態における第1シート材11及び第2シート材12が作成される。
【0017】
なお、ここでは、糊剤液の塗布及び乾燥を、合計3回行うものとしたが、糊剤液の塗布及び乾燥を行う回数は2回としてもよく、4回以上としてもよい。また、ここでは一枚の紙に対して糊剤液の塗布及び乾燥を複数回行い、その後に紙を切断することによって第1シート材11及び第2シート材12を得るものとしたが、これに代えて、予め所望の寸法に切断した紙のそれぞれに糊剤液の塗布及び乾燥を複数回行うことによって、第1シート材11及び第2シート材12を得るようにしてもよい。
【0018】
次に、第1シート材11の、糊剤液が塗布された面(以下、糊付面とよぶ)の外周部に少量の水を塗布する(ステップS8)。ただし、このとき、前記外周部のうち、気体導入口14となる部分には水を塗布しないようにする。水の塗布は、いかなる方法を用いて行ってもよく、例えば、スポンジローラ又は刷毛に水を付けて直接塗布する方法、所定形状にくりぬいた平板状の型(ステンシルプレート)を第1シート材11に当て、その上から水を塗布又はスプレーする方法、又は所定形状の凸部を備えたスタンプに水を付けて第1シート材11に押し当てる方法などを用いることができる。
【0019】
その後、糊付面同士を対向させるようにして第1シート材11と第2シート材12を重ねることにより、第1シート材11と第2シート材12を貼り合わせる(ステップS9)。このとき、第1シート材11と第2シート材12を重ね合わせた後に、両者を加熱圧着するようにしてもよい。これにより、両シート材を、短時間でより強固に接合させることができる。
【0020】
以上により、
図1に示すような本実施形態に係る紙製緩衝資材を得ることができる。この紙製緩衝資材は、平坦な状態で販売され、購入者が気体を充填して使用するものとしてもよいが、気体を充填した状態で緩衝材(すなわち
図2に示すような本実施形態に係る紙製緩衝材)として販売されるものとしてもよい。
【0021】
前記紙製緩衝資材に気体を充填する際には、所定のノズルを気体導入口14に差し込み、該ノズルの先端から気体を噴出させて第1シート材11と第2シート材12の間に導入する(ステップS10)。なお、紙製緩衝資材に充填される気体は、典型的には空気であるが、その他の気体(例えば窒素ガス)であってもよい。
【0022】
その後は、気体導入口14における第1シート材11又は第2シート材12の糊付面(すなわち外周部のうち第1シート材と第2シート材が接着されていない部分)に水を塗布した上で、第1シート材11と第2シート材12を圧接することにより、気体導入口14を封止する(ステップS11)。なお、気体導入口14の封止は、上記方法のほか、第1シート材11と第2シート材12を圧接した状態で加熱すること(すなわちヒートシール)によって行ってもよい。ただし、この場合は、糊剤22として熱可塑性を有するものを使用する必要がある。
【0023】
以上により、
図2に示すような本実施形態に係る紙製緩衝材を得ることができる。この紙製緩衝材のうち、気体が充填されている中空の部分が気体充填部15である。この紙製緩衝材は、例えば、段ボール箱等の容器に収容された物品が振動又は衝撃によって破損するのを防ぐ目的で、該物品と該容器の間に介在させて用いられる。
【0024】
本実施形態に係る紙製緩衝資材及び紙製緩衝材は、第1シート材11及び第2シート材12を構成する紙21が糊剤22で被覆されているため、紙21を構成する繊維間の空隙が糊剤22によって閉塞され、高い透気抵抗度(一定圧力差のもとで一定体積の空気が一定面積の紙を通過するのに要する秒数。慣例的には「透気度」とよばれる)を達成することができる。これにより、本実施形態に係る紙製緩衝材は、長期間に亘って気体を内部に封じ込めて十分な緩衝性能を発揮することができる。また、本実施形態に係る紙製緩衝資材及び紙製緩衝材は、第1シート材11及び第2シート材12がいずれも紙21から成り、なお且つ糊剤22が水溶性又は水分散性を有しているため、使用後は容易にリサイクルすることができる。
【0025】
なお、本実施形態に係る紙製緩衝資材及び紙製緩衝材は、
図4~
図6に示すように、気体充填部15が複数のセル16に区画されているものとしてもよい。なお、
図4~
図6では、第1シート材11と第2シート材12が相互に接着されている領域(すなわち外周接着部13と後述する境界部17)を網掛けで示している。この場合、各セル16への気体の導入を容易にするため、複数のセル16の各々が相互に連通している構成とすることが望ましい。なお、
図4~
図6は、いずれも複数のセル16を備えた紙製緩衝材を得るための紙製緩衝資材の平面図である。
【0026】
このような複数のセル16を備えた紙製緩衝資材及び紙製緩衝材も、
図3のフローチャートで示したものとほぼ同様の方法によって製造することができる。ただし、この場合、第1シート材11の糊付面に水を塗布する工程(ステップS8)では、第1シート材11の外周部だけでなく、隣接するセル16同士の境界部に相当する領域(以下、境界部17とよぶ)にも水を塗布するものとする。なお、その際、隣接するセル同士を互いに連通させる連通部18となる部分には水を塗布しないものとする。なお、境界部17への水の塗布も、上述した外周部への水の塗布と同様の方法で行うことができる。ただし、
図5又は
図6のような多数のセルを有する構成の紙製緩衝資材を製造する際には、境界部17への水の塗布は、
図7又は
図8に示すような、境界部17に相当する位置及び形状の穴31が多数設けられた平板状の型30(ステンシルプレート)を第1シート材11の糊付面に当て、その上から水を塗布又はスプレーすることによって、境界部17への水の塗布を行うことが望ましい。なお、
図7は、
図5に示す紙製緩衝資材の製造時に用いられる型の一例を示す平面図であり、
図8は、
図6に示す紙製緩衝資材の製造時に用いられる型の一例を示す平面図である。また、上記のような境界部17に加え、第1シート材11の外周部(すなわち外周接着部13に相当する領域)に水を塗布する際にもこのような平板状の型30を使用するようにしてもよい。その場合、前記外周部のうち気体導入口14に相当する部分は型30によって被覆され(したがって水が塗布されず)、前記外周部のうち気体導入口14以外の部分は型30によって被覆されない(したがって水が塗布される)ようにする。
【0027】
なお、
図4~
図6に示した複数のセル16の形状及び配置はあくまで例であり、セル16の形状及び配置はいかなるものとしてもよい。また、
図1、2及び
図4~6では、外周接着部13を第1シート材11及び第2シート材12の外周縁に設けるものとしたが、これに限らず、外周接着部13は第1シート材11及び第2シート材12の外周縁よりもやや内側に設けるようにしてもよい。
【0028】
(試験例1)
本発明者は、本発明に係る紙製緩衝資材及び紙製緩衝材の開発にあたって複数種類のシート材を用意し、各シート材の特性を評価する試験を行った。以下、この試験について説明する。
【0029】
シート材としては、クラフト紙(坪量50g/m2)、クラフト紙(坪量50g/m2)にポリビニルアルコール(PVA)から成る糊剤を塗布したもの(以下、PVA塗布クラフト紙とよぶ)、及びクラフト紙から成る紙テープに糊材を塗布して乾燥させて成るガムテープ(いわゆる水テープ)の原反(以下、ガムテープ原反とよぶ)を使用した。前記PVA塗布クラフト紙としては、前記クラフト紙にPVAを1回塗布したもの、2回塗布したもの、3回塗布したもの、及び4回塗布したものを用意した。また、前記ガムテープ原反としては、クラフト紙に化工デンプン、特殊デキストリン、及びポリアクリル系合成樹脂等から成る糊剤を塗布して成るガムテープ(坪量70g/m2又は60g/m2のもの)の原反(以下、ガムテープ原反Aとよぶ)、及びクラフト紙にデンプンを主成分とする糊剤を塗布して成るガムテープ(坪量60g/m2又は50g/m2のもの)の原反(以下、ガムテープ原反Bとよぶ)とを用意した。
【0030】
上記シート材の各々について、水分率、重量(坪量)、破裂強度、及び透気度(透気抵抗度)の測定を行った。また、ガムテープ原反については、更に厚みの測定も行った。水分率はJIS P 8127に従って測定し、坪量はJIS P8124に従って測定した。破裂強度はJIS P 8112に従って測定し、透気度はJIS P 8117に従って測定した。また、厚みはJIS P 8118に従って測定した。なお、破裂強度及び透気度については、各シート材の表裏両面について測定を行った。このとき、ガムテープ原反及びPVA塗布クラフト紙については、糊剤が塗布されている面を「表」とし、その逆側の面を「裏」とした。
【0031】
上記試験の結果を以下の表に示す。なお、表中の「測定不能」とは、通気性が高すぎるために透気度が測定できなかったことを示している。
【表1】
【0032】
表1に示す通り、PVA塗布クラフト紙では、PVAを塗布しないクラフト紙よりも破裂強度及び透気度(透気抵抗度)が向上しており、特に、PVAを2回以上塗布した場合に優れた透気抵抗性が得られることが確認された。また、PVAを塗布しないクラフト紙では、表面と裏面とで透気度に大きな差は見られなかったが、PVA塗布クラフト紙では、表面の方が高い透気度が達成された(すなわち表面側から裏面側に向かう方向の方が、逆方向よりも空気を通しにくかった)。更に、PVA塗布クラフト紙の方が、ガムテープ原反よりも、表面側の透気度が優れていた。
【0033】
(試験例2)
更に、本発明者は、下記の緩衝材A~Dを作成すると共に、下記の市販の緩衝材E、Fを用意し、それぞれについて圧縮試験(耐圧試験)を行った。なお、緩衝材A~Dは上記の
図3で示した方法で作成し、緩衝材A~Fの形状及び寸法はほぼ同一となるようにした。
緩衝材A:第1シート材及び第2シート材としてクラフト紙にPVAを4回塗布したものを使用したもの(作成日2022年6月21日)。
緩衝材B:第1シート材及び第2シート材としてクラフト紙にPVAを4回塗布したものを使用したもの(作成日2022年6月27日)。
緩衝材C:第1シート材及び第2シート材としてクラフト紙にPVAを3回塗布したものを使用したもの(作成日2022年6月21日)。
緩衝材D:第1シート材及び第2シート材としてクラフト紙にPVAを3回塗布したものを使用したもの(作成日2022年6月27日)。
緩衝材E:Floeter社製の空気封入型緩衝材「PaperWave-Bio」。
緩衝材F:Floeter社製の空気封入型緩衝材「AirWave-Bio」。
【0034】
上記6種類の緩衝材(ただしAとBの違い、及びCとDの違いは作成日のみ)を各5個ずつ使用して、JIS Z 0212に準拠した圧縮試験を行った結果を表2に示す。いずれも圧縮速度は95mm/minとした。なお、圧縮試験は上記全ての緩衝材について同日(2022年7月11日)に行った。
【表2】
【0035】
表2に示すように、クラフト紙にPVAを3回又は4回塗布して成る緩衝材(緩衝材A~D)では、いずれも市販の緩衝材(緩衝材E、F)よりも最大荷重の平均値が高くなっており、製造後20日程度が経過しても市販の緩衝材と同等以上の耐圧性能を得られることが確認できた。
【0036】
(試験例3)
更に、本発明者は、表3に示すように、PVAの塗布回数の異なる4種類のクラフト紙から成るシート材を使用し、それぞれ外周接着部の幅、又は第1シート材と第2シート材を接合する際の加熱圧着時間が異なる16種類の緩衝材を作成して、それぞれについて緩衝性試験を行った。なお、各緩衝材の形状は、
図1及び
図2で示したものと同様とした。緩衝性試験は、各緩衝材に500gの重しを載せ、高さ方向の外寸の変化を測定することにより行った。表中の◎は、緩衝材の高さ方向の寸法が重しを載せる前の高さから50%以下になる時間が72時間以上であったことを示し、〇は48時間以上72時間未満、△は24時間以上48時間未満、×は24時間未満であったことを示す。なお、各緩衝資材は外周接着部13を含めて横200mm、縦100mmのサイズとした。
【表3】
【0037】
表3に示す通り、PVAを塗布したクラフト紙を用いた緩衝材では、PVAを塗布しないクラフト紙を用いた緩衝材よりも緩衝性が向上しており、特に、PVAを2回以上塗布した場合に優れた緩衝性が得られることが確認された。
【0038】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0039】
(第1項)本発明の一態様に係る紙製緩衝資材の製造方法は、
厚さ方向に重ね合わされた、いずれも紙製の第1シート材と第2シート材を含み、該第1シート材と該第2シート材とで形成された袋状の気体充填部に気体を充填した上で緩衝材として使用される紙製緩衝資材の製造方法であって、
1枚の紙の一方の面に糊剤の水溶液又は水分散液を塗布して乾燥させた後に当該紙を切断するか、2枚の紙の各々の一方の面に前記糊剤の水溶液又は水分散液を塗布して乾燥させることによって、前記糊剤で被覆された前記第1シート材及び前記第2シート材を作成するシート材作成工程と、
前記第1シート材の前記糊剤で被覆された面の、前記気体充填部の周縁に相当する領域であって、該気体充填部に気体を導入するための気体導入口となる部分以外の領域に水を塗布する水塗布工程と、
前記第1シート材の前記水を塗布した面と、前記第2シート材の前記糊剤で被覆された面とを互いに対向させた状態で、該第1シート材と該第2シート材とを重ね合わせることにより、前記水に溶解又は分散した前記糊剤によって該第1シート材と該第2シート材とを互いに接合するシート材接合工程と、
を有するものである。
【0040】
(第2項)第2項に係る紙製緩衝資材の製造方法は、第1項に係る紙製緩衝資材の製造方法において、
前記気体充填部が、互いに連通した複数のセルに区画されており、
前記水塗布工程において、更に、前記複数のセル同士の境界に相当する領域であり且つ隣接する前記セル同士を互いに連通させる連通部となる部分以外の領域である境界領域に水を塗布するものである。
【0041】
(第3項)第3項に係る紙製緩衝資材の製造方法は、第2項に係る紙製緩衝資材の製造方法において、
前記水塗布工程において、前記境界領域と同一形状の穴を有する平板状の型を、前記第1シート材の前記糊剤で被覆された面に当て、その上から前記水の塗布を行うことによって前記境界領域に前記水を塗布するものである。
【0042】
(第4項)第4項に係る紙製緩衝資材の製造方法は、第1項~第3項のいずれか一項に係る紙製緩衝資材の製造方法において、
前記糊剤をポリビニルアルコールとしたものである。
【0043】
(第5項)第5項に係る紙製緩衝資材の製造方法は、第1項~第4項のいずれか一項に係る紙製緩衝資材の製造方法において
前記シート材作成工程において、前記糊剤の水溶液又は水分散液の塗布及び乾燥を、前記一方の面に対して複数回繰り返して行うものである。
【0044】
(第6項)第6項に係る紙製緩衝資材の製造方法は、第1項~第5項のいずれか一項に係る紙製緩衝資材の製造方法において
前記シート材接合工程において、前記第1シート材と前記第2シート材とを重ね合わせた後、加熱圧着するものである。
【0045】
(第7項)第7項に係る紙製緩衝材の製造方法は、
第1項~第6項のいずれか一項に係る紙製緩衝資材の製造方法によって製造された紙製緩衝資材の前記気体導入口から前記気体充填部に気体を導入する工程と、
前記気体導入口を封止する工程と、
を有するものである。
【0046】
(第8項)第8項に係る紙製緩衝資材は、
透気度が300秒以上である第1シート材及び第2シート材で形成された袋状の気体充填部を有し、
前記第1シート材及び第2シート材が、それぞれ少なくとも一方の面に糊剤の水溶液又は水分散液が塗布された紙から成るものである。
【0047】
(第9項)第9項に係る紙製緩衝資材は、第8項に係る紙製緩衝資材において、
前記気体充填部に気体を充填した状態において、JIS Z 0212に準拠した圧縮試験における最大荷重が700N以上であるものである。
【符号の説明】
【0048】
11…第1シート材
12…第2シート材
13…外周接着部
14…気体導入口
15…気体充填部
16…セル
17…境界部
18…連通部
21…紙
22…糊剤
30…型
31…穴