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特開2024-98439セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098439
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/11 20060101AFI20240716BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240716BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240716BHJP
   A61K 8/365 20060101ALI20240716BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240716BHJP
   C08K 5/04 20060101ALI20240716BHJP
   C08K 5/053 20060101ALN20240716BHJP
   C08K 5/098 20060101ALN20240716BHJP
【FI】
C08J3/11 CEP
A61K8/73
A61K8/34
A61K8/365
C08L1/02
C08K5/04
C08K5/053
C08K5/098
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001973
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】岸口 悟
(72)【発明者】
【氏名】小徳 宏宣
【テーマコード(参考)】
4C083
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC301
4C083AC302
4C083AD261
4C083AD262
4F070AA02
4F070AC12
4F070AC36
4F070AC38
4F070AC42
4F070AE27
4F070AE28
4F070CA01
4F070CA07
4F070CB05
4F070CB12
4F070DA33
4F070DB03
4J002AB011
4J002EC056
4J002EG056
4J002FD206
4J002HA08
(57)【要約】
【課題】セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散時における省エネルギー化を図るとともに、有機溶媒に対する分散性が良好な再分散液を得ることができるセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法は、セルロースナノファイバー含有乾燥体と有機溶媒とを混合する工程を備え、上記セルロースナノファイバー含有乾燥体がセルロースナノファイバーの水分散液を乾燥させたものであり、上記有機溶媒が2価アルコール又は1価アルコールであり、上記混合工程において、上記有機溶媒に対して上記セルロースナノファイバー含有乾燥体が段階的に添加され、第1段階の添加後における上記有機溶媒に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度(質量%)が、最終段階の添加後における濃度(質量%)の45%以上65%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバー含有乾燥体と有機溶媒とを混合する工程を備え、
上記セルロースナノファイバー含有乾燥体が、水中でパルプ繊維を微細化することにより得られるセルロースナノファイバーの水分散液を乾燥させたものであり、
上記セルロースナノファイバーの水分散液がグリセリン、ヒドロキシ酸塩又はこれらの組み合わせを含有し、
上記有機溶媒が2価アルコール又は1価アルコールであり、
上記混合工程において、上記有機溶媒に対して上記セルロースナノファイバー含有乾燥体が段階的に添加され、第1段階の添加後における上記有機溶媒に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度(質量%)が、最終段階の添加後における濃度(質量%)の45%以上65%以下であるセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法。
【請求項2】
上記混合工程における上記有機溶媒に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の添加回数が3回以上7回以下である請求項1に記載のセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法。
【請求項3】
上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液におけるセルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度が1質量%以上15質量%以下である請求項1又は請求項2に記載のセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法。
【請求項4】
上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液における上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度(質量%)に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の25℃におけるB型粘度(mPa・s)の比が300(mPa・s/質量%)以上400(mPa・s/質量%)以下である請求項1又は請求項2に記載のセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物質をナノメートルレベルまで微細化し、物質が持つ従来の性状とは異なる新たな物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。化学処理、粉砕処理等によりセルロース系原料であるパルプから製造されるセルロースナノファイバーは、強度、弾性、熱安定性等に優れているため、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂及びゴムの配合用充填剤等としての工業上の用途や、口紅、粉末化粧料、乳化化粧料等の化粧品の配合剤の用途などに用いられている。また、セルロースナノファイバーは、水系分散性に優れているため、化粧品、塗料等の粘度の保持剤、水分保持剤などの多くの用途における利用が期待されている。
【0003】
セルロースナノファイバーは、通常、水分散状態のパルプ等を微細化することにより得られる。従って、得られるセルロースナノファイバーは水に分散された状態であり、このようなセルロースナノファイバーの水分散液は、運送の際に多大なエネルギーが必要となる。また、水分を含むセルロースナノファイバーは、樹脂との溶融混錬の際に水蒸気爆発を誘発し得る。そのため、事業化を踏まえると、セルロースナノファイバーの水分散液を乾燥させることが重要となる。しかし、セルロースナノファイバーを乾燥させると、セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー同士の水素結合により強く凝集する。このため、乾燥したセルロースナノファイバーを水に再び分散させたとき、乾燥前の分散状態にまで十分分散させることができず、分散性に優れるセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液が得られにくいという不都合を有する。
【0004】
このセルロースナノファイバーの分散媒に対する再分散性を向上させるための技術として、セルロースナノファイバーとグリセリン等の再分散剤とを混合してゲル状体を得る工程、及びこのゲル状体と有機性の液体とアルキルイミダゾリン系化合物等の再分散剤とを混合して、セルロースナノファイバーを再分散させる工程を含むセルロースナノファイバー分散液の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-118521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術においては、セルロースナノファイバーを十分に乾燥させることなくゲル状体にする。このようなセルロースナノファイバーは、乾燥に時間がかかる、経済的でないなどといった不利な点を有する。さらに、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散時における省エネルギー化も求められている。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散時における省エネルギー化を図るとともに、有機溶媒に対する分散性が良好な再分散液を得ることができるセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法は、セルロースナノファイバー含有乾燥体と有機溶媒とを混合する工程を備え、上記セルロースナノファイバー含有乾燥体が、水中でパルプ繊維を微細化することにより得られるセルロースナノファイバーの水分散液を乾燥させたものであり、上記セルロースナノファイバーの水分散液がグリセリン、ヒドロキシ酸塩又はこれらの組み合わせを含有し、上記有機溶媒が2価アルコール又は1価アルコールであり、上記混合工程において、上記有機溶媒に対して上記セルロースナノファイバー含有乾燥体が段階的に添加され、第1段階の添加後における上記有機溶媒に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度(質量%)が、最終段階の添加後における濃度(質量%)の45%以上65%以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散時における省エネルギー化を図るとともに、有機溶媒に対する分散性が良好な再分散液を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係るセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法は、セルロースナノファイバー含有乾燥体と有機溶媒とを混合する工程を備え、上記セルロースナノファイバー含有乾燥体が、水中でパルプ繊維を微細化することにより得られるセルロースナノファイバーの水分散液を乾燥させたものであり、上記セルロースナノファイバーの水分散液がグリセリン、ヒドロキシ酸塩又はこれらの組み合わせを含有し、上記有機溶媒が2価アルコール又は1価アルコールであり、上記混合工程において、上記有機溶媒に対して上記セルロースナノファイバー含有乾燥体が段階的に添加され、第1段階の添加後における上記有機溶媒に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度(質量%)が、最終段階の添加後における濃度(質量%)の45%以上65%以下である。
【0011】
当該製造方法によれば、混合工程において、有機溶媒に対してセルロースナノファイバー含有乾燥体が段階的に添加され、第1段階で最終段階の添加後における有機溶媒に対する濃度(質量%)の45%以上65%以下の範囲の濃度になるようにセルロースナノファイバー含有乾燥体が添加されることで、第1段階で有機溶媒に溶解したセルロースナノファイバー含有乾燥体が潤滑剤として作用し、第2段階以降に添加されるセルロースナノファイバー含有乾燥体における有機溶媒への溶解を促進する。さらに、有機溶媒が比較的粘度が低い2価アルコール又は1価アルコールであることで、有機溶媒に対する分散性がより良好な再分散液を得ることができる。これにより、得られたセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散性が良好になり、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散時におけるエネルギーの低減を図ることができる。
また、乾燥工程前のセルロースナノファイバーの水分散液が再分散剤としてグリセリン、ヒドロキシ酸塩又はこれらの組み合わせを含むことで、得られる乾燥体の再分散性を高めることができる。従って、当該製造方法によれば、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散時における省エネルギー化を図るとともに、有機溶媒に対する分散性が良好な再分散液を得ることができる。
【0012】
上記混合工程における上記有機溶媒に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の添加回数が3回以上7回以下であることが好ましい。上記混合工程における上記有機溶媒に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の添加回数が3回以上7回以下であることで、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散を効率よく向上できる。
【0013】
上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液における上記セルロースナノファイバーの含有乾燥体の濃度が1質量%以上15質量%以下であることが好ましい。このように、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液における上記セルロースナノファイバーの含有乾燥体の濃度が上記範囲であることで、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の粘性を比較的低くすることができ、再分散液が良好な取扱性を有するとともに製造効率も良好にできる。
【0014】
上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液における上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度(質量%)に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の25℃におけるB型粘度(mPa・s)の比が300(mPa・s/質量%)以上400(mPa・s/質量%)以下であることが好ましい。上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の25℃におけるB型粘度の比が300(mPa・s/質量%)以上400(mPa・s/質量%)以下であることで、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の粘性を比較的低くすることができ、再分散液が良好な取扱性を有するとともに製造効率も良好にできる。
【0015】
[本発明の実施形態の詳細]
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法>
当該セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法は、セルロースナノファイバー含有乾燥体と有機溶媒とを混合する工程を備える。また、上記セルロースナノファイバー含有乾燥体は、水中でパルプ繊維を微細化することにより得られるセルロースナノファイバーの水分散液を乾燥させたものである。
【0017】
[セルロースナノファイバーの水分散液]
セルロースナノファイバーの水分散液は、水中でパルプ繊維を微細化すること(微細化工程)により得ることができる。
【0018】
微細化工程ではパルプ繊維を水中に分散した状態で微細化する。パルプ繊維を水中に分散した状態で微細化することで、微細化工程でのエネルギーを低減できる。このように、水分散状態のパルプ繊維に微細化処理を施すことにより、水分散状態のセルロールナノファイバーを得る。セルロースナノファイバーとは、植物原料であるパルプ(パルプ繊維)を解繊して得られる微細なセルロース繊維をいい、一般的に繊維径がナノサイズ(1nm以上1000nm以下)のセルロース微細繊維を含むセルロース繊維をいう。
【0019】
セルロースナノファイバーの原料となるパルプとしては、例えば
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)等の広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等の針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ;
ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の機械パルプ;
茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ;
古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
パルプとしては、これらの中で、乾燥が容易となる観点などから、化学パルプが好ましく、広葉樹クラフトパルプ(LKP)がより好ましい。このようなパルプは、不純物が少ないという利点もある。
【0021】
その他の植物原料としては、リンターパルプ、麻、バガス、ケナフ、エスパルト草、竹、籾殻、わら等から得られるパルプなどが挙げられる。また、パルプの原料となる木材、麻、バガス、ケナフ、エスパルト草、竹、籾殻、わら等を直接植物原料として用いることもできる。以下、パルプを植物原料として用いた場合のセルロースナノファイバーの製造方法を説明するが、パルプ以外の植物原料の場合も、同様の方法でセルロースナノファイバーを得ることができる。
【0022】
微細化工程におけるパルプ繊維の微細化処理方法としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば水分散状態のパルプを機械的処理による解繊に付してよく、酵素処理、酸処理等の化学的処理による解繊に付してもよいが、機械的処理により解繊することが好ましい。パルプを機械的処理により解繊することで、セルロースナノファイバーをより容易かつ確実に得ることができ、また、得られる乾燥体の分散性をより高めることができ、変色の少ない乾燥体を得ることもできる。
【0023】
機械的処理による解繊方法としては、例えば石臼型粉砕機等を用いるグラインダー法、パルプ繊維を水に分散させて高圧下で対向衝突させる水中対向衝突法、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーター等を用いて機械的に微細化する方法などが挙げられる。
【0024】
微細化方法としては、これらの中でセルロースナノファイバーをより容易かつ確実に得ることができる観点から、石臼式磨砕機、高圧ホモジナイザー及びボールミルを用いる方法が好ましい。
【0025】
例えば高圧ホモジナイザーは、細孔から高圧でスラリー等を吐出する分散機として用いられるものであり、例えば10MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力でスラリーを吐出できる能力を有するホモジナイザーをいう。パルプ繊維に対して高圧ホモジナイザーで処理することで、パルプ繊維同士の衝突、マイクロキャビテーションなどが作用し、解繊が効果的に生じる。これにより、微細化工程の処理回数を低減(短縮化)でき、セルロース鎖へ過剰な負荷をかけることなく、分子量の低下が抑制されたセルロースナノファイバーを効果的に製造することができる。
【0026】
なお、パルプは解繊の前に予備叩解に付してもよい。予備叩解(機械的前処理)は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。具体的な方法の例としては、段階的に解繊を進めることが好ましい。特に、未叩解の原料パルプをダブルリファイナー、シングルリファイナー、ナイヤガラビーター等のいわゆる粘状叩解設備にて予めろ水度(カナディアンフリーネス)を出発原料の30%以下まで予備叩解処理した後、高圧ホモジナイザーにてセルロースナノファイバーが得られるまで解繊処理することが好ましい。
【0027】
また、パルプには、解繊の前に化学的な前処理を施してもよい。この化学的な前処理としては、硫酸等の酸や、酵素などを用いた加水分解処理などを挙げることができる。このように化学的な前処理を施すことで、機械的又は化学的な解繊処理により、効率的にセルロースナノファイバーを得ることができる。
【0028】
セルロースナノファイバーの保水度としては、例えば250%以上500%以下であることが好ましい。保水度が上記下限未満の場合は、十分に微細化されたセルロースナノファイバーとなっていない場合がある。一方、保水度が上記上限を超える場合は、得られるセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散性が低下するおそれがある。セルロースナノファイバーの保水度(%)はJAPAN TAPPI No.26に準拠して測定される。
【0029】
セルロースナノファイバーは、水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において単一のピークを有することが好ましい。このように、一つのピークを有するセルロースナノファイバーは、十分な微細化が進行しており、セルロースナノファイバーとしての良好な物性を発揮することができる。また、このピークとなるセルロースナノファイバーの粒径(最頻値)としては、例えば5μm以上25μm以下が好ましい。セルロースナノファイバーが上記サイズであることで、セルロースナノファイバー特有の諸特性をより良好に発揮することができる。「擬似粒度分布曲線」とは、粒度分布測定装置(例えば株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を用いて測定される体積基準粒度分布を示す曲線を意味する。
【0030】
微細化工程により得られるセルロースナノファイバーの水分散液における固形分濃度としては特に限定されないが、下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。一方、この上限としては、5質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。固形分濃度が上記下限未満の場合は、乾燥効率が低下する傾向にある。一方、固形分濃度が上記上限を超える場合は、セルロースナノファイバーの水分散液の調製が困難になる場合がある。
【0031】
上記セルロースナノファイバーの水分散液は、再分散剤として、グリセリン、ヒドロキシ酸塩又はこれらの組み合わせを含む。本出願における「再分散剤」とは、セルロースナノファイバー繊維間に介在することで、脱水乾燥後のセルロースナノファイバー含有乾燥体のセルロースナノファイバー間の水素結合を阻害し、かつ有機溶媒に溶解した際、静電的反発よってセルロースナノファイバーの再分散性を向上させる効果を有する化合物をいう。グリセリン、ヒドロキシ酸塩又はこれらの組み合わせは、微細化工程後セルロースナノファイバーの水分散液に添加される。このように、乾燥工程前のセルロースナノファイバーの水分散液にグリセリン、ヒドロキシ酸塩又はこれらの組み合わせを添加することで、得られる乾燥体の再分散性を高めることができる。
【0032】
ヒドロキシ酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、その他銅塩や、アンモニウム塩等を挙げることができる。これらの中でもアルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。このようなヒドロキシ酸塩を用いることで、水中での静電気的作用による分散性能をより好適に発揮することができる。ヒドロキシ酸は、ヒドロキシカルボン酸、オキシ酸等とも称され、ヒドロキシ基(-OH)を有するカルボン酸をいう。ヒドロキシ酸としては、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸等の脂肪族ヒドロキシ酸、サリチル酸、バニリン酸、没食子酸等の芳香族ヒドロキシ酸等を挙げることができる。ヒドロキシ酸塩としては、得られる乾燥体が良好な分散性を発揮することができる点から、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、リンゴ酸の塩が好ましく、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸の塩がより好ましく、クエン酸塩がさらに好ましく、クエン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0033】
再分散剤が有するヒドロキシ基の個数としては、1個以上3個以下が好ましく、1個がより好ましい。再分散剤が有するカルボキシ基の個数としては、2個以上4個以下が好ましく、3個がより好ましい。再分散剤が上記範囲の個数のヒドロキシ基及びカルボキシ基を有することにより、セルロースナノファイバー表面への付着性及び水分散状態での反発性を良好に発揮することができ、セルロースナノファイバー乾燥体の再分散性を高めることができる。このように、当該セルロースナノファイバー含有乾燥体分散液の製造方法によれば、分散性の高いセルロースナノファイバー含有乾燥体を用いるため、セルロースナノファイバー含有乾燥体の分散性に優れるセルロースナノファイバーが高濃度である分散液を容易に得ることができる。
【0034】
上記セルロースナノファイバーの水分散液に含まれる再分散剤としては、ヒドロキシ酸塩及びグリセリンが好ましく、クエン酸ナトリウム及びグリセリンがより好ましい。なお、グリセリンを用いた場合、着色が抑えられた乾燥体を効果的に得ることができる。
【0035】
上記セルロースナノファイバー、水及び再分散剤を含むセルロースナノファイバーの水分散液を得るための各成分の混合方法としては特に限定されないが、セルロースナノファイバーと水とのセルロースナノファイバーの水分散液と、上記再分散剤の水溶液とを混合することが好ましい。セルロースナノファイバーの水分散液と、上記再分散剤の水溶液とを混合させることにより、セルロースナノファイバーと上記再分散剤とを均一的に混合させることができる。なお、混合後、必要に応じて公知の攪拌機等を用いて、セルロースナノファイバーの水分散液を撹拌することが好ましい。
【0036】
上記セルロースナノファイバーの水分散液における上記再分散剤の含有量は特に限定されないが、セルロースナノファイバー100質量部に対する下限としては、0.1質量部が好ましく、1質量部がより好ましく、10質量部がさらに好ましく、30質量部が特に好ましい。一方、この上限としては、200質量部が好ましく、100質量部がより好ましい。上記再分散剤の含有量が上記下限未満の場合、再分散剤を用いたことによる十分な再分散性向上効果が表れない場合がある。逆に、上記再分散剤の含有量が上記上限を超える場合、再分散剤の使用量が増加し、コスト高となるおそれがある。
【0037】
上記セルロースナノファイバーの水分散液は、水と、セルロースナノファイバーと、再分散剤としてのグリセリン、ヒドロキシ酸塩又はこれらの組み合わせとを含むが、本願発明の効果を阻害しない限り、上記以外の他の成分をさらに含有していてもよい。但し、上記セルロースナノファイバーの水分散液における他の成分の含有量としては、10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0038】
[セルロースナノファイバー含有乾燥体]
セルロースナノファイバー含有乾燥体は、上記セルロースナノファイバーの水分散液を乾燥させること(乾燥工程)により得ることができる。上記セルロースナノファイバーの水分散液は、上述した通り、水中でパルプ繊維を微細化することにより得られる。
【0039】
乾燥工程においては、上記微細化工程後に得られるセルロースナノファイバーの水分散液を乾燥させる。これにより、セルロースナノファイバー含有乾燥体を得ることができる。このような乾燥工程において、セルロースナノファイバーの表面に、再分散剤が析出し、各セルロースナノファイバーが再分散剤に被覆された状態のセルロースナノファイバー含有乾燥体を得ることができると推察される。このようにして得られたセルロースナノファイバー含有乾燥体は、各セルロースナノファイバー間の水素結合が再分散剤により阻害され、高い再分散性を発揮することができる。
【0040】
上記セルロースナノファイバーの水分散液の乾燥方法としては特に限定されず、自然乾燥、ダブルドラムドライヤー等による加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の公知の方法により行うことができる。なお、噴霧乾燥により、再分散性に特に優れる粒子状のセルロースナノファイバー含有乾燥体を得ることができる。
【0041】
乾燥工程における乾燥温度の下限としては、80℃が好ましく、90℃がより好ましい。一方、この上限としては、160℃が好ましく、120℃がより好ましい。乾燥温度が上記下限未満の場合は、十分に乾燥されたセルロースナノファイバー含有乾燥体を得ることが困難になるおそれがある。一方、乾燥温度が上記上限を超える場合は、セルロースナノファイバーが熱により変色するおそれがある。
【0042】
乾燥工程における乾燥時間としては乾燥温度等によって異なるが、例えば1時間以上24時間以下とすることができる。
【0043】
このような各工程を経て得られるセルロースナノファイバー乾燥体は、良好な再分散性を有する。上記セルロースナノファイバー乾燥体は、通常、粉末状又はフレーク状とすることができる。
【0044】
上記セルロースナノファイバー乾燥体の水分率(水の含有率)としては、例えば50質量%未満であり、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、3質量%以下が特に好ましいい。水分率が上記上限以下であることにより、運送等におけるエネルギー消費を低減でき、取扱性や保管性等も向上する。また、樹脂との溶融混錬の際の水蒸気爆発の危険性を低減することができる。なお、上記セルロースナノファイバー乾燥体の水分率の下限としては、実質的に0質量%であってよいが、0.1質量%でもよく、1質量%でもよい。「水分率」は、JIS-P-8127(2010年)に準拠して測定される水分率をいう。
【0045】
[混合工程]
混合工程では、上記セルロースナノファイバー含有乾燥体と有機溶媒とを混合する。上記セルロースナノファイバー含有乾燥体と有機溶媒とを混合することにより、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液を得ることができる。すなわち当該セルロースナノファイバー含有乾燥体分散液の製造方法においては、セルロースナノファイバー含有乾燥体を有機溶媒に再分散させる。
【0046】
(有機溶媒)
有機溶媒は2価アルコール又は1価アルコールである。有機溶媒が比較的粘度が低い2価アルコール又は1価アルコールであることで、有機溶媒に対する分散性がより良好な再分散液を得ることができる。上記有機溶媒の25℃における粘度の範囲としては、例えば1mPa・s以上1,000mPa・s以下が好ましい。
【0047】
〈2価アルコール〉
2価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール)、2-イソプロピル-1,4-ブタンジオール、3-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジメチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、3,5-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパンジオール、ポリエーテルジオール(ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0048】
〈1価アルコール〉
1価アルコールとしては、例えばイソプロピルアルコール、2-プロパノール、エタノールが挙げられる。
【0049】
以下、混合工程の手順を具体的に詳説する。この混合工程において、上記有機溶媒に対して上記セルロースナノファイバー含有乾燥体が段階的に添加される。そして、第1段階の添加後における上記有機溶媒に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度(質量%)が、最終段階の添加後における濃度(質量%)の45%以上65%以下である。このように、第1段階で最終段階の添加後における有機溶媒に対する濃度(質量%)の45%以上65%以下の範囲の濃度になるようにセルロースナノファイバー含有乾燥体が添加されることで、第1段階で有機溶媒に溶解したセルロースナノファイバー含有乾燥体が潤滑剤として作用し、第2段階以降に添加されるセルロースナノファイバー含有乾燥体における有機溶媒への溶解を促進する。
【0050】
混合工程における有機溶媒に対するセルロースナノファイバー含有乾燥体の添加回数としては、例えば3回以上7回以下であることが好ましい。混合工程における上記有機溶媒に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の添加回数が3回以上7回以下であることで、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散を効率よく向上できる。また、第2段階以降最終段階までの添加後における濃度は、特に限定されず各段階でのセルロースナノファイバー含有乾燥体の添加量や各段階の時間間隔を適宜調整することが可能である。例えば一定の比率でセルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度を高めなくてもよく、一定の時間間隔でセルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度を高めなくてもよい。
【0051】
セルロースナノファイバー含有乾燥体と有機溶媒との混合に際しては、撹拌することが好ましい。再分散における撹拌方法としては特に限定されず、上記微細化工程と同様の方法を用いることができる。
【0052】
例えばセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の撹拌に高圧ホモジナイザーを用いる場合における圧力の範囲としては、例えば10Mpa以上250Mpa以下が好ましい。高圧ホモジナイザーの圧力の範囲を上記範囲とすることで、セルロースナノファイバー含有乾燥体のセルロース鎖へ過剰な負荷をかけることなく、セルロースナノファイバー含有乾燥体の分散性が良好なセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液を効率的に製造することができる。
【0053】
得られるセルロースナノファイバー含有乾燥体分散液における上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度としては特に限定されないが、下限としては、例えば1質量%であってもよく、2質量%であってもよい。一方、この上限としては、例えば15質量%であってもよく、13質量%であってもよい。セルロースナノファイバー含有乾燥体分散液におけるセルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度が上記範囲であることで、セルロースナノファイバー含有乾燥体の分散液の粘性を比較的低くすることができ、水分散液(スラリー)とした際の良好な取扱性を有するとともに製造効率も良好にできる。
【0054】
上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液における上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度(質量%)に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の25℃におけるB型粘度(mPa・s)の比の下限としては、300(mPa・s/質量%)が好ましく、310(mPa・s/質量%)がより好ましい。一方、上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の25℃におけるB型粘度の比の上限としては、400(mPa・s/質量%)が好ましく、380(mPa・s/質量%)がより好ましく、370(mPa・s/質量%)がさらに好ましい。上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度に対する上記セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の25℃におけるB型粘度の比が上記範囲であることで、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の粘性を比較的低くすることができ、水分散液(スラリー)とした際の良好な取扱性を有するとともに製造効率も良好にできる。
【0055】
得られるセルロースナノファイバー含有乾燥体分散液におけるpHとしては特に限定されないが、pHの下限としては、例えば5が好ましく、6がより好ましい。一方、pHの上限としては、例えば10が好ましく、8がより好ましい。セルロースナノファイバー含有乾燥体分散液におけるpHが上記範囲であることで塩類の発泡作用が促進され、より再分散性を向上させることができる。
【0056】
<その他の実施形態>
本発明のセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法は、上記実施の形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0057】
上記実施形態においては、微細化工程により得られたセルロースナノファイバーの水分散液を乾燥させていたが、微細化工程により得られたセルロースナノファイバーの水分散液を濃縮した後に乾燥工程に供してもよい。
【実施例0058】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1、比較例1及び参考例1]
(1)セルロースナノファイバー乾燥体の製造
原料パルプ(LBKP:広葉樹晒クラフトパルプ)に対し、予備叩解としてリファイナー処理し、次に高圧ホモジナイザーで解繊(微細化)処理し、濃度3.1質量%のセルロースナノファイバー(CNF)の水分散液を得た。なお、リファイナー処理及び高圧ホモジナイザー処理は、いずれも複数回の循環処理を行った。得られたセルロースナノファイバーの分散液に含まれるセルロースナノファイバーは、レーザー回折を用いた粒度分布測定の疑似粒度分布において1つのピークを有し(最頻値15.2μm)、保水度は343%であった。また、得られたセルロースナノファイバーの平均繊維径は、25.7nmであった。
【0060】
上記セルロースナノファイバーの平均繊維径は、以下の手順で測定した。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%のセルロースナノファイバーの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換した。その後、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とした。この試料について、30000倍の倍率で走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)の画像による観察を行った。具体的には、観察画像に二本の対角線を引いた後に対角線の交点を通過する直線を任意に三本引き、さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の棒を目視で計測した。そして、計測値のメジアン径を平均繊維径とした。
【0061】
次に、水70gと、クエン酸ナトリウム30gとを混合し、マグネットスターラーを用い60分間600rpmで撹拌し、クエン酸ナトリウム水溶液を得た。
【0062】
得られた濃度3.1質量%のセルロースナノファイバーの水分散液5,000gと、濃度30質量%のクエン酸ナトリウム水溶液83gと、水1,167gとを混合し、マグネットスターラーを用い60分間1,200rpmで撹拌し、セルロースナノファイバーの水分散液を得た。得られたセルロースナノファイバーの水分散液におけるセルロースナノファイバー(CNF)とクエン酸ナトリウムとの混合比(質量比)は100:20、CNFの含有量は約2.0質量%となった。このセルロースナノファイバーの水分散液をダブルドラムドライヤー(ジョンソンボイラー社製「ジョンミルダーJM-T型」)にて、ドラム回転数3rpm、ドラム表面温度135℃で乾燥させ、セルロースナノファイバー乾燥体を得た。得られたセルロースナノファイバー乾燥体の水分率は、6.5質量%であった。
【0063】
(2)セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造
得られたセルロースナノファイバー含有乾燥体214gをポリエーテルジオール(住化コベストロウレタン社製「ポリオールCS-703PET21-JPCBP048」)2300gに添加した。次に、高圧ホモジナイザーを用い、圧力150MPaの条件で3パスの処理を行い、表1に記載の通り、実施例1のセルロースナノファイバー含有乾燥体(濃度8.0質量%)の1回目の再分散液を得た。さらに、セルロースナノファイバー含有乾燥体75gを1回目の再分散液に添加し、高圧ホモジナイザーで圧力150MPaの条件で3パスの処理を行い、セルロースナノファイバー含有乾燥体(濃度10.5質量%)の2回目の再分散液を得た。さらに、セルロースナノファイバー含有乾燥体79gを2回目の再分散液に添加し、高圧ホモジナイザーで圧力150MPaの条件で3パスの処理を行い、セルロースナノファイバー含有乾燥体(濃度13.0質量%)の3回目の再分散液を得た(合計150MPa、9パス)。
【0064】
[比較例1]
実施例1と同じセルロースナノファイバー含有乾燥体368gを実施例1と同じポリエーテルジオールに添加した。次に、高圧ホモジナイザーを用いて圧力150MPa、9パスの処理を行い、比較例1のセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液(濃度13.0質量%)を得た。
【0065】
[参考例1]
高圧ホモジナイザーの圧力を180MPaとした以外は、比較例1と同じ手順で参考例1のセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液(濃度13.0質量%)を作成した。
【0066】
実施例1、比較例1及び参考例1の再分散液のpHは9.4~9.6であった。
【0067】
[実施例2]
(1)セルロースナノファイバー乾燥体の製造
初めに実施例1と同様に、セルロースナノファイバーの水分散液(濃度3.1質量%)を得た。一方、水70gと、グリセリン30gとを混合し、マグネットスターラーを用い60分間600rpmで撹拌し、グリセリン水溶液(濃度30質量%)を得た。得られたセルロースナノファイバーの水分散液5000gと、グリセリン水溶液250g、水1000gとを混合したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、セルロースナノファイバー乾燥体を得た。得られたセルロースナノファイバー乾燥体の水分率は、12.1質量%であった。
【0068】
(2)セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造
得られた各セルロースナノファイバー含有乾燥体17gをイソプロピルアルコール(林純薬工業株式会社製イソプロピルアルコール 784)に添加し、次に、高圧ホモジナイザーを用い、圧力200MPaの条件で2パスの処理を行い、表1に記載の通り、実施例2のセルロースナノファイバー含有乾燥体(濃度2.0質量%)の1回目の再分散液を得た。さらに、セルロースナノファイバー含有乾燥体9gを1回目の再分散液に添加し、高圧ホモジナイザーで圧力200MPaの条件で2パスの処理を行い、セルロースナノファイバー含有乾燥体(濃度3.0質量%)の2回目の再分散液を得た。さらに、セルロースナノファイバー含有乾燥体9gを2回目の再分散液に添加し、高圧ホモジナイザーで圧力200MPaの条件で1パスの処理を行い、セルロースナノファイバー含有乾燥体(濃度4.0質量%)の3回目の再分散液を得た(合計200MPa、5パス)。
【0069】
[比較例2]
実施例2と同じセルロースナノファイバー含有乾燥体35gをイソプロピルアルコール784gに添加した。次に、高圧ホモジナイザーを用いて圧力200MPa、5パスの処理を行い、比較例2のセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液(濃度4.0質量%)を得た。
【0070】
実施例2及び比較例2の再分散液のpHは8.2~8.4であった。
【0071】
<評価>
得られたセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液について下記の方法にて評価した。実施例及び比較例の各種物性は、以下の評価方法に準じて測定した。
【0072】
(セルロースナノファイバーの擬似粒度分布曲線)
ISO-13320(2009)に準拠して、粒度分布測定装置(セイシン企業社製「レーザー回折・散乱式粒度分布測定器」)を用いて体積基準粒度分布を示す曲線を測定し、ピークの数を数えた。
【0073】
(セルロースナノファイバーの保水度)
セルロースナノファイバーの保水度(%)は、JAPAN TAPPI No.26:2000に準拠して測定した。
【0074】
(セルロースナノファイバー乾燥体の水分率)
「水分率」は、JIS-P-8127(2010年)に準拠して測定した。
【0075】
(セルロースナノファイバー含有乾燥体の分散性評価:B型粘度)
得られた再分散液におけるセルロースナノファイバー含有乾燥体の分散状態の指標として、セルロースナノファイバー含有乾燥体分散液の25℃、6rpmにおけるB型粘度(mPa・s)を測定した。B型粘度は、JIS-Z8803:2011の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した。なお、セルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度が4.0質量%の場合はB型粘度1000mPa・s以上において、また、濃度が13.0質量%の場合はB型粘度4000mPa・s以上において十分に再分散した状態といえる。
【0076】
(再分散液の安定性評価)
得られた再分散液を48時間静置した後、セルロースナノファイバー含有乾燥体の沈殿の有無により、再分散液の安定性を測定した。以下の3段階の基準に基づいて、再分散液の安定性を評価した。評価がAの場合を合格とする。
A:48時間静置後、全く沈殿が見られなかった。
B:48時間静置後、表面に0~2mmの上澄み液が見られた。
C:48時間静置後、2mm以上の沈殿が見られた。
【0077】
上記測定結果及び評価結果について、表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示すように、セルロースナノファイバー含有乾燥体の最終濃度が13.0質量%である実施例1及び比較例1を比較すると、混合工程においてセルロースナノファイバー含有乾燥体が段階的に添加され、第1段階の添加後における有機溶媒に対するセルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度が、最終段階の添加後における濃度の45%以上65%以下である実施例1は、比較例1よりも分散液のB型粘度が高く、48時間静置した後の沈殿も見られなかった。このことから、実施例1は比較例1よりもセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散性及び再分散液の安定性が良好であることがわかる。さらに、実施例1及び参考例1を比較すると、実施例1は参考例1よりもホモジナイザーの圧力が低いにもかかわらず、参考例1と同等のセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散性が得られており、再分散時におけるエネルギーが低減されていた。
また、セルロースナノファイバー含有乾燥体の最終濃度が4.0質量%である実施例2及び比較例2を比較すると、セルロースナノファイバー含有乾燥体が段階的に添加され、第1段階の添加後における有機溶媒に対するセルロースナノファイバー含有乾燥体の濃度が、最終段階の添加後における濃度の45%以上65%以下である実施例2は、比較例2よりも分散液のB型粘度が高く、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散性が良好であることがわかる。
【0080】
以上の結果、当該セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液は、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散時におけるエネルギーを低減でき、分散性が良好な再分散液を得ることができることがわかる。
【0081】
本発明のセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造方法は、セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散時における省エネルギー化を図るとともに、有機溶媒に対する分散性が良好な再分散液を得ることができる。従って、当該製造方法により得られるセルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液は、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂及びゴムの配合用充填剤、化粧品の配合剤、塗料の粘度保持剤等の従来のセルロースナノファイバーの使用用途に好適に用いることができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0068
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0068】
(2)セルロースナノファイバー含有乾燥体の再分散液の製造
得られた各セルロースナノファイバー含有乾燥体17gをイソプロピルアルコール(林純薬工業株式会社製イソプロピルアルコール)784gに添加し、次に、高圧ホモジナイザーを用い、圧力200MPaの条件で2パスの処理を行い、表1に記載の通り、実施例2のセルロースナノファイバー含有乾燥体(濃度2.0質量%)の1回目の再分散液を得た。さらに、セルロースナノファイバー含有乾燥体9gを1回目の再分散液に添加し、高圧ホモジナイザーで圧力200MPaの条件で2パスの処理を行い、セルロースナノファイバー含有乾燥体(濃度3.0質量%)の2回目の再分散液を得た。さらに、セルロースナノファイバー含有乾燥体9gを2回目の再分散液に添加し、高圧ホモジナイザーで圧力200MPaの条件で1パスの処理を行い、セルロースナノファイバー含有乾燥体(濃度4.0質量%)の3回目の再分散液を得た(合計200MPa、5パス)。