(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098446
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】ジューシー感の評価方法及び評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/02 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
G01N33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001992
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】殘華 久美子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慶一
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、加工食品のおいしさの要素の一つであるジューシー感について、製品ごとの大きさや形が異なっても比較評価でき、かつ人による官能評価結果とより相関の高い精度の良い加工食品のジューシー感の評価方法を提供することである。
【解決手段】上記の課題を解決するための本発明の加工食品のジューシー感評価方法は、加工食品を遠心分離により液分を分離する遠心分離ステップを備えることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工食品を遠心分離により液分を溶出分離する遠心分離ステップを備えることを特徴とする、加工食品のジューシー感評価方法。
【請求項2】
前記遠心分離ステップにおける遠心加速度は、3000×g以下であることを特徴とする、請求項1に記載の加工食品のジューシー感評価方法。
【請求項3】
前記遠心分離ステップは、20℃以上60℃以下の温度下で液分を溶出分離することを特徴とする、請求項1又は2に記載のジューシー感評価方法。
【請求項4】
前記遠心分離ステップの前に、加工食品の内部からサンプル断片を切り出す細断ステップ、を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の加工食品のジューシー感評価方法。
【請求項5】
加工食品を収容する収容部と、
前記収容部に遠心力を加える遠心力発生部と、を備えることを特徴とする、加工食品のジューシー感評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉加工製品をはじめとする加工食品のジューシー感の評価方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は特にハンバーグ等の加工食品を調理後に食するに際し、人が咀嚼時に感じる肉汁のジューシー感の官能評価を、ラボ実験で客観的に再現する評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加工食品の食味には、味、香り、外観、食感があるが、これに加えて、咀嚼した際に感じるジューシー感もおいしさの要素の一つである。ここでジューシー感とは、「咀嚼中に出て来る肉汁(水や脂)の量の多少」から感じる食味を意味する。
過去の文献に見られるジューシー感の評価方法は多くはないが、主に加工食品に荷重をかけて圧縮した際に絞り出される液体量を評価している。
【0003】
例えば、特許文献1は冷凍ハンバーグの製造法の特許だが、明細書内にジューシー感の機器による評価の記載がある。調理後のハンバーグの上下をカットした後に一定重量の紙で包み、600gの重しを載せ30分放置後までに紙に吸水したドリップの重量を測定して指標としている。
また、特許文献2は加工食品油脂組成物と加工食品の製造方法の特許だが、明細書内に機器によるジューシー感の評価の記載がある。調理後のハンバーグを半分にカットした後に質量を予め測定した紙タオルに乗せ、テクスチャーアナライザーを用いて、円盤状のプランジャーを押し込んだ際のハンバーグから流出した液体成分の質量を評価値としている。
この他非特許文献1では、厚さ20mmのハンバーグを焼成後に裏ごし器上に置き、製品の左右に厚さ5mmの平板状のアクリル棒を置き、その上から6kgの重石で1分間厚さ5mmまで圧縮して、流出した肉汁を採取して評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-176759号公報
【特許文献2】国際公開第2020/004058号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本調理科学会近畿支部 焼く分科会(奥山孝子、石村哲代、片寄眞木子、阪上愛子、中山玲子、樋上純子、福本タミ子、細見和子、安田直子、山本悦子、米田泰子、渡辺豊子)「過熱水蒸気オーブンを用いた時のハンバーグステーキ焼成温度の違いがジューシーさやおいしさに及ぼす影響」、日本調理科学会誌、2011年、Vol.44、No.6、p.400~406、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2及び非特許文献1に記載されるように、これまで主に製品を圧搾することによる脱液量を評価尺度として用いている例が多い。
一方、本発明者の知見によれば、上記のような圧搾脱液量による評価は、各社の加工食品を横並びに比較する際には、製品ごとの大きさや形、ソースの有無等の条件が異なるため、比較評価が難しい。また、重石による圧搾のために極端な差が流出量に現れたり、崩れやすいサンプルや薄い形状のサンプルには適用しにくい等の問題もあった。
このため、実際の人の咀嚼による官能評価結果とは必ずしも傾向が一致しない場合もあり、さらなる精度の良い一致度の高い評価方法の確立が望まれている。
【0007】
そこで、本発明の課題は、加工食品のおいしさの要素の一つであるジューシー感について、製品ごとの大きさや形が異なっても比較評価でき、かつ人による官能評価結果とより相関の高い精度の良い加工食品のジューシー感の評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、加工食品を遠心分離により液分を分離し溶出量を測定することで、より精度の良いジューシー感評価方法を提供することができることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下を特徴とする加工食品のジューシー感評価方法及び評価装置である。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の加工食品のジューシー感評価方法は、加工食品を遠心分離により液分を溶出分離する遠心分離ステップを備えることを特徴とする。
この評価方法によれば、官能評価時のジューシー感と相関の高い評価結果が得られる。
【0010】
また、上記課題を解決するための本発明のジューシー感評価方法の一実施態様としては、遠心分離ステップにおける遠心加速度は3000×g以下であることを特徴とする。
この評価方法によれば、人が咀嚼する口中での肉汁流出と近くなることで、さらに官能評価時のジューシー感と相関の高い評価結果が得られる。
【0011】
また、上記課題を解決するための本発明のジューシー感評価方法の一実施態様としては、遠心分離ステップを20℃以上60℃以下の温度下で実施して液分を分離することを特徴とする。
この評価方法を用いれば、融点20℃以上60℃以下の、咀嚼時の人の口腔内温度に近い油脂分が溶け出して肉汁量として測定できるため、咀嚼時に感じるジューシー感と相関の良い評価結果を得ることができる。
【0012】
また、本発明のジューシー感評価方法の一実施態様としては、遠心分離ステップの前に、加工食品の内部からサンプル断片10を切り出す細断ステップを備えることを特徴とする。
この特徴によれば、大きさ・厚さや形状が異なったり、表面のソースの種類や有無にかかわらず、加工食品を横並びに相対的な評価付けを可能とすることができる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明のジューシー感評価装置は、加工食品を収容する収容部と、収容部に遠心力を加える遠心力発生部とを備えることを特徴とする加工食品のジューシー感評価装置である。
この特徴によれば、官能評価時のジューシー感と相関の高い結果が得られる評価装置とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加工食品のおいしさの要素の一つであるジューシー感について、製品ごとの大きさや形が異なっても比較評価でき、かつ人による官能評価結果とより相関の高い精度の良い加工食品のジューシー感の評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施態様における、加工食品(ハンバーグ)の内部から測定用のサンプル断片10を切り出す細断ステップを示す概略図である。
【
図2】本発明の実施態様における、加工食品(ウインナー)の内部から測定用のサンプル断片10を切り出す細断ステップを示す概略図である。
【
図3】本発明の遠心分離ステップに用いる遠沈管21に、測定サンプル20を装填し、遠心分離を実施した状態を示す概略図である。
【
図4】本発明のジューシー感評価方法をハンバーグに適用し、遠心分離ステップにおける遠心加速度を検討した結果を示すグラフである。
【
図5】本発明のジューシー感評価方法をハンバーグに適用し、遠心分離ステップにおける温度を検討した結果を示すグラフである。
【
図6】本発明のジューシー感評価方法をウインナーに適用し、遠心分離ステップにおける遠心加速度を検討した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る加工食品のジューシー感評価方法の実施態様を詳細に説明する。ここで、本発明における「加工食品」の定義としては、咀嚼時にジューシーさを感じる食品であれば特に限定されない。例えば食肉加工食品、肉の一部または全部を大豆ミートのような植物原料などの代替原料に置き換えた肉様の加工食品、高野豆腐、油揚げ、等が挙げられる。ジューシーさが特に求められるという観点から、好ましくは食肉加工食品、肉様の加工食品である。なお、本発明におけるジューシー感評価装置は、本発明におけるジューシー感評価方法の説明に置き換えるものである。
また、実施態様に記載するジューシー感評価方法については、本発明に係るジューシー感評価方法及び評価装置を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明のジューシー感評価方法の実施態様は、以下のステップからなる。
(1)細断ステップ:加工食品の内部からサンプル断片10を切り出すステップ。
(2)遠心分離ステップ:上記サンプル断片10を適切にメンブレンフィルター等で包んだ後に、遠心分離機で遠心加速度を与えるステップ。
(3)「遠心溶出率」の算出:遠心分離前後のサンプル断片10の重量差から、遠心分離ステップにより溶出した液分を算出するもの。
【0018】
(1)[細断ステップ]
加工食品から、評価に用いるサンプル断片10を切り出し準備するステップである。
例えば、ジューシー感を重要視する典型的な加工食品であるハンバーグの場合、
図1に示すように、ハンバーグの水平断面11及び同垂直断面12に沿ってサンプル断片10を切り出すことができる。調理後のハンバーグの表面にソース等が掛かっている場合は、その影響を取り除くために軽く拭き取ったうえで、ハンバーグの内部からサンプル断片10を切り出す。
また、ウインナーの場合、
図2に示すように、両端を除くウインナーを垂直断面13に沿って4等分の輪切りにした後、ケーシングを含まないように四角く切り出し、直方体のサンプル断片を得ることができる。
サンプルの形状は、どのような形でもよいが、同一形状で複数のサンプルで評価を繰り返すためには、立方体、直方体等の一定に切り出せる形状が好ましい。また、大きさは、次の遠心分離ステップで用いる遠沈管21に入る大きさであればよいが、重量で通常0.5gから50g、好ましくは1g以上、20g以下が推奨される。0.5gより大きいと測定精度が向上する。また50gより小さければ内奥の肉汁まで出易くなり、また遠沈管21にも入り易く評価結果にバラつきを生じにくい。
【0019】
サンプル断片10を、精密ろ過用のメンブレンフィルターや目の詰まったガーゼ等でしっかりと包んで、測定サンプル20とする。これは、次の固体-液体分離のための遠心分離ステップの間に、液分のみを溶出させ、崩れた肉片等がフィルター外に漏れ出ないようにするためである。ガーゼの場合は、遠心加速度下で崩れた微小肉片を通さない目の細かさである必要がある。
遠心分離実施前に断片サンプル10の重量を測定して記録した後に、メンブレンフィルター等で包んで測定サンプル20とする。
【0020】
(2)[遠心分離ステップ]
図3に示すように、上記で準備した測定サンプル20を、遠沈管21の中にビーズ22を入れた上に置いて蓋23をする。
遠沈管21は遠心分離機で固体と液体を分離する際に用いる容器であり、プラスチック製でもガラス製でもよく、その容量は測定サンプル20の大きさによって適宜選択する。
ビーズは、液分のみが遠沈管21の下部に溜まるように、測定サンプルと分離するために内部に入れるものであり、プラスチック製でもガラス製でも良い。また、ビーズでなくとも、分離手段の目的に合っている他の物体を備えてもよい。
本発明に用いる遠心分離機は、科学研究用の通常の遠心分離機でよく、本発明では比較的低い加速度しか要しないので、数万×gまでの遠心加速度を掛けられる遠心分離機であればよい。但し、後述のようにサンプル温度一定で遠心分離を実施するためには、恒温装置付遠心分離機が好ましい。
【0021】
本発明で遠心分離を行う遠心加速度は特に限定はないが、例えば50×gから10000×gである。上限値として好ましくは5000×g以下であり、より好ましくは3000×g以下であり、更に好ましくは1000×g以下である。(ここで、「g」は重力加速度を単位として表す。)一般に、咀嚼時に崩れにくく液体が滲出しにくい製品には高い遠心加速度が必要になり、対象とする加工食品の種類にもよる。後述する実施例に示すように、例えばハンバーグでは遠心加速度が3000×g以下であると、遠心分離実施時に人が咀嚼する時の肉汁に近いものが溶出しているために、官能評価の結果との相関が高い。また、遠心加速度が50×g以上であれば溶出により製品間の評価結果に差が出易くなる。
また、例えばウインナーでは後述するように、10000×gの遠心加速度でも官能評価と相関する評価結果が得られた。さらに咀嚼時に崩れにくく液体の滲出しにくい加工食品では10000×g以上の遠心加速度が適用可となる。
【0022】
遠心分離を行う時間は、30秒から60分であり、好ましくは1分以上、30分以下である。時間が30秒以上であれば結果がバラつきにくい。時間が60分以内であれば試験の効率が良い。柔らかく崩れやすいハンバーグ等は1分から10分以内程度で評価を行うことが好ましい。また、サンプルと試験のバラつきを考慮し、複数のサンプルで繰り返し試験を行うことが好ましい。
【0023】
遠心分離実施時の温度としては、20℃以上60℃以下の雰囲気温度下で行うことが好ましい。さらに好ましくは25℃以上40℃以下である。これは、後述する実施例に示すように、雰囲気温度を咀嚼時の人の口腔内の温度に近い37℃付近とすることで、油脂分が溶け出して咀嚼時の肉汁量に近い状態で測定できるためである。
遠心分離実施後は、遠沈管21の下部には、溶出した液分24が見られる。液分に肉片が混じる場合は、遠心分離条件が強すぎるか、フィルターから肉片が出てしまったおそれがあるので、やり直しが必要である。
遠心分離後の測定サンプル20を遠沈管21から取り出して、包んでいたメンブレンフィルター又はガーゼから取り出したサンプル断片10の重量を測定して記録する。
【0024】
(3)[遠心溶出率の算出]
遠心分離実施前後のサンプル断片10の重量差から、下式で定義される「遠心溶出率(%)」を算出する。
遠心溶出率(%)=
(遠心分離前重量(g)―遠心分離後重量(g))÷遠心分離前重量(g)×100
複数サンプルで複数回の試験を行った場合は、全試験回数の平均値と標準偏差を算出して記録する。
【実施例0025】
次に本発明のジューシー感評価方法を用いた実施例と実験結果を以下に示す。
(1)[ハンバ-グ](実験1)
<官能評価>
4社の異なる市販のチルドハンバーグ製品A~D(高級系商品:ジューシー感強め)を、各商品推奨の調理方法及び条件に従って袋のままボイルした。調理後の4製品を40~50℃に保持した後、4名(甲~丁)の被験者に内容を分からないようにして実際に食し、官能評価としてのジューシー感の強弱を被験者毎に相対順位で評価付けし、集計した。
【0026】
【0027】
結果は、表1に示すように、若干のバラツキはあったが、被験者間における官能評価の尺度としてのジューシー感に関する順位の一致度は高かった。4名の順位の平均値から、1~4の総合順位を決定した。
【0028】
<細断ステップ>
調理後のハンバーグの表面にソースが掛かっている製品はソースを軽く拭き取ったうえで、4種のハンバーグの内部から、
図1に示すように、ハンバーグの水平断面11及び同垂直断面12に沿って、約1gの大きさとした4個の立方体のサンプル断片10を切り出し重量を測定して記録した。
【0029】
<遠心分離ステップ>
サンプル断片10を、遠心分離ステップで崩れて肉片が出ないようにメンブレンフィルターに包んで測定サンプル20とした。次に、
図3に示すように測定サンプル20を、遠沈管21の中にビーズ22を入れた上に置いて蓋23をした。その後、遠心分離機(トミー精工製、型式MX-305)を用いて、10分間遠心分離を実施した。各製品につき、n=4サンプルで繰り返し測定を実施した。遠心分離実施後は、遠沈管21の下部には、溶出した液分24が見られた。
【0030】
<遠心加速度の検討>
上記の実験を、遠心加速度200×g及び3300×gの2条件の下で実施した。
遠心分離後の測定サンプル20をメンブレンフィルターから取り出して重量を測定して記録し、遠心分離前後のサンプル断片10の重量差から、下式の定義に従って「遠心溶出率(%)」を算出した。各製品につき、n=4回の平均値と標準偏差σを求めた。
遠心溶出率(%)=
(遠心分離前重量(g)―遠心分離後重量(g))÷遠心分離前重量(g)×100
【0031】
結果は
図4に示すように、本発明の実施態様にある実施例である遠心加速度200×gでの遠心溶出率は約18~24%であった。4つの製品間における、遠心溶出率値の高低の傾向は以下となり、官能評価でジューシー感の強かったものは遠心溶出率の値も高く、官能評価の順位結果と傾向が一致した。
遠心溶出率(%)順位結果: 高 A>B>C>D 低
一方、遠心加速度を3300×gとした場合は、遠心溶出率の絶対値が約30~40%程度に増加するとともに、遠心溶出率の高低の順位は官能評価の順位結果と傾向が必ずしも相関しなかった。
遠心加速度3300×gでは、遠心分離実施後の遠沈管下部の液分に細かい肉片と思われるものが混じる傾向が見られ、咀嚼時に口中で感じる肉汁以上のものが溶出してしまっていた。
【0032】
さらに、本発明のジューシー感評価方法を用いた別の実施例を以下に示す。
(2)[ハンバ-グ](実験2)
<官能評価>
上記A~Dとは異なる2社の(廉価系商品:ジューシー感弱め)の市販のチルドハンバーグ製品E,Fの2種を、各商品推奨の調理方法及び条件に従って袋のままボイルした。調理後の2製品を40~50℃に保持した後、上記と同様に実際に食して官能評価としてのジューシー感の強弱を評価付けした。
その結果、官能評価のジューシー感の順位は以下の通りであった。
官能評価順位結果: 強 E>F 弱
【0033】
<細断ステップ>
調理後のハンバーグの表面にソースが掛かっている場合は軽く拭き取ったうえで、ハンバーグの内部から、
図1に示すように、ハンバーグの水平断面11及び同垂直断面12に沿って4個の立方体のサンプル断片10を切り出し、重量を記録した。
【0034】
<遠心分離ステップ>
サンプル断片10をメンブレンフィルターに包んで測定サンプル20とした。次に、
図3に示すように測定サンプル20を、遠沈管21の中にビーズ22を入れた上に置いて蓋23をした。その後、遠心分離機(佐久間製作所製、型式SL-IVDH)を用いて、遠心分離を10分間実施した。各製品につき、n=4サンプルで繰り返し測定を実施した。遠心分離実施後は、遠沈管21の下部には、溶出した液分24が見られた。
【0035】
<遠心分離時温度の検討>
上記の実験を、遠心分離実施中の10分間、遠沈管全体が温度=25℃と37℃で一定となるように、温度条件2水準下で実施した。(遠心加速度=200×g)
遠心分離後の測定サンプル20をメンブレンフィルターから取り出して重量を測定して記録し、遠心分離前後のサンプル断片10の重量差から、上記と同様に、「遠心溶出率(%)」を算出した。各製品につき、n=4回の平均値と標準偏差σを求めた。
【0036】
結果は
図5に示すように、温度=25℃、37℃の両条件ともに、2つの製品間における、遠心溶出率値の高低の傾向は以下となり、官能評価でジューシー感の強かったものは遠心溶出率の値も高く、官能評価の順位結果と傾向は一致した。
遠心溶出率(%)順位結果: 高 E>F 低
しかしながら、温度を37℃で遠心分離を実施した本発明の実施態様にある実施例の方が、より両者間の差が大きくなり、遠心溶出率の高低の順位の傾向がより明確になった。
温度を人の口腔内の温度に近い37℃とすることで、融点37℃までの油脂分が溶け出して肉汁量として測定できるため、より人の咀嚼時に感じるジューシー感の強弱に近い評価結果となったためと考えられる。
【0037】
さらに、本発明のジューシー感評価方法を用いた別の実施例を以下に示す。
(3)[ウインナー]
<官能評価>
2社の市販のウインナー(ジューシー感強め)の製品G,Hの2種を、各商品推奨の調理方法及び条件に従って袋のままボイルした。調理後の2製品を40~50℃に保持した後、実際に食して官能評価としてのジューシー感の強弱を評価付けした。
その結果、官能評価のジューシー感の順位は以下の通りであった。
官能評価順位結果: 強 G>H 弱
【0038】
<細断ステップ>
調理後のウインナーの内部から、
図2に示した通り、4個の直方体のサンプル断片10(約1g)を切り出し、重量を記録した。
【0039】
<遠心分離ステップ>
サンプル断片10をメンブレンフィルターに包んで測定サンプル20とした。次に、
図3に示すように測定サンプル20を、遠沈管21の中にビーズ22を入れた上に置いて蓋23をした。その後、遠心分離機(トミー精工製、型式MX-305)を用いて、遠心分離を3分間実施した。各製品につき、n=4サンプルで繰り返し測定を実施した。遠心分離実施後は、遠沈管21の下部には、溶出した液分24が見られた。
【0040】
<遠心加速度の検討>
上記の実験を、遠心加速度200×g、3000×g、10000×gの3条件の下で実施した。
遠心分離後の測定サンプル20をメンブレンフィルターから取り出して重量を測定して記録し、遠心分離前後のサンプル断片10の重量差から、上記と同様に、「遠心溶出率(%)」を算出した。各製品につき、n=4回の平均値と標準偏差σを求めた。
【0041】
結果は
図6に示すように、本発明の実施態様にある実施例である遠心加速度200×gでの遠心溶出率は約6~10%、遠心加速度3000×gでの遠心溶出率は約14~24%、遠心加速度10000×gでは約24~30%と、増加傾向であった。2つの製品間における、遠心溶出率値の高低の傾向は以下となり、3条件共に官能評価でジューシー感の強かったものは遠心溶出率の値も高く、官能評価の順位結果と傾向が一致した。
遠心溶出率(%)順位結果: 高 G>H 低
中でも、遠心加速度を3000×gとした場合は、両者の差が最も明確に表れ、官能評価の順位結果と相関が良かった。
遠心加速度10000×gになると、遠心加速度が強くなるために、両者の溶出率の差が縮小する傾向が見られた。
ウインナーはハンバーグよりも結着性が強く肉片が崩れにくいため、10000×gの条件下でも、その評価結果は官能評価と相関したと考えられる。
本発明の加工食品のジューシー感評価方法は、加工食品の開発・製造において消費者による食味評価の良い製品を達成するための客観的なラボ評価手法の一つとして有用であり、食肉加工製品はもとより、肉の一部または全部を例えば大豆ミートのような植物原料などの代替原料に置き換えた肉様の加工食品にも好適に利用可能である。